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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073037
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240522BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20240522BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240522BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
E04H9/02 331A
F16F15/04 P
F16F15/04 A
F16F15/02 M
F16F7/08
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184018
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】牛坂 伸也
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139CA02
2E139CA21
2E139CB19
2E139CC02
3J048AA03
3J048AA07
3J048AD16
3J048BA08
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA13
3J066AA01
3J066AA26
3J066CA05
3J066CB06
3J066DB06
(57)【要約】
【課題】並列に配置される積層ゴム支承の積層ゴムにクリープ変形が生じても、すべり支承に荷重が集中することを防止できる。
【解決手段】積層ゴム支承14と、すべり支承2と、が並列に配置され、すべり支承2は、下部すべり面211と、上部すべり面221と、下部すべり面211と上部すべり面221との間に配置されるすべり支承体23と、を有し、すべり支承体23は、下部すべり面211に沿って摺動する下部すべり材3と、上部すべり面221に沿って摺動する上部すべり材4と、下部すべり材3および上部すべり材4の両方を支持するすべり材支持部5と、を有し、下部すべり面211と下部すべり材3との摩擦係数と、上部すべり面221と上部すべり材4との摩擦係数と、は異なる値に設定され、すべり材支持部5の鉛直クリープ変形量は、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上になるように設定されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と上部構造体との間の免震層に積層ゴム支承と、すべり支承と、が並列に配置され、
前記すべり支承は、
前記下部構造体の上面に設けられた下部すべり面と、
前記上部構造体の下面に設けられた上部すべり面と、
前記下部すべり面と前記上部すべり面との間に配置されるすべり支承体と、を有し、
前記すべり支承体は、
前記下部すべり面に沿って摺動する下部すべり材と、
前記上部すべり面に沿って摺動する上部すべり材と、
前記下部すべり材と前記上部すべり材との間に配置され、前記下部すべり材および前記上部すべり材の両方を支持するすべり材支持部と、を有し、
前記下部すべり面と前記下部すべり材との摩擦係数と、前記上部すべり面と前記上部すべり材との摩擦係数と、は異なる値に設定され、
前記すべり材支持部の鉛直クリープ変形量は、前記積層ゴム支承の積層ゴムの鉛直クリープ変形量の20%以上になるように設定されている免震構造。
【請求項2】
前記すべり材支持部は、剛体である支承ブロックと、積層ゴムとが直列に配置され、
前記すべり材支持部の積層ゴムの鉛直クリープ変形量は、前記積層ゴム支承の積層ゴムの鉛直クリープ変形量の20%以上になるように設定されている請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記上部すべり面と前記上部すべり材との摩擦係数は、前記下部すべり面と前記下部すべり材との摩擦係数よりも小さい値に設定されている請求項1または2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記上部すべり面および前記下部すべり面のうち、前記上部すべり材および前記下部すべり材のいずれかとの摩擦係数が小さい方のすべり面が設けられる前記上部構造体および前記下部構造体のいずれか一方の構造体に固定され、前記一方の構造体と前記すべり支承体との水平方向の相対変位量を規制するストッパを更に有する請求項1または2に記載の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
免震建物を構成する支承材やダンパー部材には装置としての限界変形があり、告示で決められたいわゆるLv2地震動に対して性能保証変形以下、また、案件に応じて設定する余裕度検討用としてLv2の1.5倍程度地震に対し限界変形以下、または免震クリアランス以下となるように設計することが一般的である。一方、2016年の熊本地震のように近年では、Lv2の1.5倍を超える極大地震が観測されており、設計想定を超える外力が作用して、これらの限界変形を超えてしまう可能性もゼロではない。実際に、熊本地震の西原村で観測された波形の変位応答スペクトル(h=0.30)は、一般的な免震周期5秒付近では応答変位が100cmを超えている。
そうしたことから、重要度に応じて高い耐震性が求められる建物においては、想定を超える地震動に対しても免震層を健全に保つことができるよう、100cmを超える大変形に対応できる支承材のニーズがある。
【0003】
一方、よく用いられる支承材の一つに、下面にすべり材が設けられ、下方の下部構造体に設けられたすべり板に沿って摺動するすべり支承がある。このようなすべり支承の限界変形はおよそ±100cmとなっている。これはすべり板の運搬上の制約から決まっているもので、限界変形±100cmを超えるすべり板の製造は可能であってもこれ以上の大きさはトラックの積載サイズを超えてしまい、製作工場から建設現場へと運搬して設置することが事実上、不可能であった。
【0004】
これに対し、上面と下面の両方にすべり材が設けられ、下方の下部構造体および上方の上部構造体それぞれに設けられたすべり板に沿って摺動するすべり支承がある(例えば、特許文献1、2参照)。このようなすべり支承は、上記の下面のみにすべり材が設けられたすべり支承と比べて、すべり板の大きさを変えずに、変形性能を増大させることができる。このため、トラックに積載可能なサイズのすべり板を用いて100cmを超える応答変位に対応できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-33830号公報
【特許文献2】特開2021-32388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上面と下面の両方にすべり材が設けられたすべり支承と、積層ゴム支承と並列に配置する免震構造の場合、積層ゴム支承の積層ゴムには鉛直クリープ変形が生じるが、すべり支承は鉛直クリープ変形しないため、積層ゴム支承とすべり支承とに高低差が生じる虞がある。これにより、すべり支承に荷重が集中して、上部構造体に大きな応力が生じることになる。
【0007】
本発明は、並列に配置される積層ゴム支承の積層ゴムにクリープ変形が生じても、すべり支承に荷重が集中することを防止できる免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る免震構造は、下部構造体と上部構造体との間の免震層に積層ゴム支承と、すべり支承と、が並列に配置され、前記すべり支承は、前記下部構造体の上面に設けられた下部すべり面と、前記上部構造体の下面に設けられた上部すべり面と、前記下部すべり面と前記上部すべり面との間に配置されるすべり支承体と、を有し、前記すべり支承体は、前記下部すべり面に沿って摺動する下部すべり材と、前記上部すべり面に沿って摺動する上部すべり材と、前記下部すべり材と前記上部すべり材との間に配置され、前記下部すべり材および前記上部すべり材の両方を支持するすべり材支持部と、を有し、前記下部すべり面と前記下部すべり材との摩擦係数と、前記上部すべり面と前記上部すべり材との摩擦係数と、は異なる値に設定され、前記すべり材支持部の鉛直クリープ変形量は、前記積層ゴム支承の積層ゴムの鉛直クリープ変形量の20%以上になるように設定されている。
【0009】
積層ゴム支承の積層ゴムに鉛直クリープ変形が生じた際に、すべり支承が鉛直クリープ変形しないと、すべり支承に荷重が集中して、上部構造体に大きな応力が生じることになる。本発明に係る免震構造では、すべり支承のすべり材支持部が積層ゴム支承の積層ゴムの鉛直クリープ変形量の20%以上鉛直クリープ変形するように設定されている。これにより、鉛直クリープ変形量によるすべり支承と積層ゴム支承との高低差を小さくできるため、すべり支承に荷重が集中することを防止できる。
【0010】
また、本発明に係る免震構造では、前記すべり材支持部は、剛体である支承ブロックと、積層ゴムとが直列に配置され、前記すべり材支持部の積層ゴムの鉛直クリープ変形量は、前記積層ゴム支承の積層ゴムの鉛直クリープ変形量の20%以上になるように設定されていてもよい。
【0011】
このような構成とすることにより、鉛直クリープ変形量によるすべり支承と積層ゴム支承との高低差を小さくできるため、すべり支承に荷重が集中することを防止できる。
また、すべり支承に弾性変形に対する追従性をもたせることができるため、地震荷重が所定値以下の地震、例えば、Lv2以下の地震の水平動に対しても積層ゴムがせん断変形することによって免震効果(周期伸長効果)を持たせることができる。
【0012】
また、本発明に係る免震構造では、前記上部すべり面と前記上部すべり材との摩擦係数は、前記下部すべり面と前記下部すべり材との摩擦係数よりも小さい値に設定されていてもよい。
【0013】
このような構成とすることにより、地震荷重が所定値以下の地震、例えば、Lv2以下の地震の場合は、摩擦係数の小さい上部すべり面と上部すべり材とが摺動するため、上部構造体への加速度伝達を抑制できる。地震荷重が所定値を超える地震、例えば、Lv2を超える地震の場合は摩擦係数が大きい下部すべり面と下部すべり材とが摺動するため、免震層の変形を抑制できる。
【0014】
また、本発明に係る免震構造では、前記上部すべり面および前記下部すべり面のうち、前記上部すべり材および前記下部すべり材のいずれかとの摩擦係数が小さい方のすべり面が設けられる前記上部構造体および前記下部構造体のいずれか一方の構造体に固定され、前記一方の構造体と前記すべり支承体との水平方向の相対変位量を規制するストッパを更に有していてもよい。
【0015】
このような構成とすることにより、地震荷重が所定値以下の地震の場合は、摩擦係数が小さい方のすべり面とすべり材とが摺動し、地震荷重が所定値を超える地震の場合は、摩擦係数の大きい方のすべり面とすべり材とが摺動する。ストッパが設けられていることにより、地震荷重が所定値を超える地震の場合に摩擦係数が小さい方のすべり面とすべり材とが大きく相対変位し、すべり支承体がすべり面から外れることを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、並列に配置される積層ゴム支承の積層ゴムにクリープ変形が生じても、すべり支承に荷重が集中することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態による免震構造を示す図である。
図2】第1実施形態のすべり支承の正面図である。
図3】支承ブロックが円柱状の場合の図2のA-A線断面図である。
図4】支承ブロックが円柱状の場合の図2のB-B線断面図である。
図5】支承ブロックが角柱状の場合の図2のA-A線断面図である。
図6】支承ブロックが角柱状の場合の図2のB-B線断面図である。
図7】支承ブロックの一例を示す断面図である。
図8】ストッパに緩衝材が設けられたすべり支承の正面図である。
図9】支承ブロックが円柱状の場合の図8のC-C線断面図である。
図10】支承ブロックが円柱状の場合のすべり支承体の緩衝材が設けられたすべり支承を示す図である。
図11】支承ブロックが角柱状の場合の図8のC-C線断面図である。
図12】支承ブロックが角柱状の場合のすべり支承体の緩衝材が設けられたすべり支承を示す図である。
図13】すべり支承の荷重変形関係の模式図である。
図14】通常時から上部構造体とすべり支承体とが500mm相対変位した状態を示す図である。
図15図14から下部構造体とすべり支承体とが1000mm相対変位した状態を示す図である。
図16図15から上部構造体とすべり支承体とが反対方向に1000mm相対変位した状態を示す図である。
図17図16から下部構造体とすべり支承体とが反対方向に500mm相対変位した状態を示す図である。
図18図17から下部構造体とすべり支承体とが反対方向に500mm相対変位した状態を示す図である。
図19】第2実施形態のすべり支承の正面図である。
図20】地震波が告示神戸NSLv1の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフである。
図21】地震波が告示神戸NSLv1の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフである。
図22】地震波が告示神戸NSLv2の2倍の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフである。
図23】地震波が熊本地震西原村観測波の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフである。
図24】地震波が告示神戸NSLv2の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフである。
図25】地震波が告示神戸NSLv2の2倍の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態による免震構造について、図1図18に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による免震構造1は、下部構造体11と上部構造体12との間の免震層13に積層ゴム支承14と、すべり支承2と、が並列に配置されている。積層ゴム支承14およびすべり支承2は、上部構造体12を下部構造体11に対して水平方向に変位可能に支持している。積層ゴム支承14は、積層ゴム141を備える公知の構造である。下部構造体11は、複数の下部免震基礎112と、下部免震基礎112どうしを連結する梁113と、を有する。上部構造体12は、上部免震基礎122と、上部免震基礎122どうしを連結する梁123と、を有する。積層ゴム支承14およびすべり支承2は、下部免震基礎112の上面111と上部免震基礎122の下面121との間に配置される。以下では、下部免震基礎112の上面111を下部構造体11の上面111と表記し、上部免震基礎122の下面121を上部構造体12の下面121と表記する。
【0019】
図2から図4に示すように、すべり支承2は、下部すべり板21と、上部すべり板22と、すべり支承体23と、ストッパ24と、を有する。
下部すべり板21は、板面が八角形の平板状である。下部すべり板21は、下部構造体11の上面111に設けられている。下部すべり板21の上面は、後述する下部すべり材が摺動する下部すべり面211である。下部すべり面211は、上方を向く水平面である。
上部すべり板22は、板面が八角形の平板状である。上部すべり板22は、上部構造体12の下面121に設けられている。上部すべり板22の下面は、後述する上部すべり材が摺動する上部すべり面221である。下部すべり面211は、下方を向く水平面である。
【0020】
すべり支承体23は、下部すべり板21および上部すべり板22に沿って水平方向に摺動する。すべり支承体23は、下部構造体11および上部構造体12と水平方向に相対変位可能である。すべり支承体23は、下部すべり材3と、上部すべり材4と、すべり材支持部5と、を有する。
すべり材支持部5は、ブロック状の支承ブロック51を有する。図3および図4に示すすべり支承2は、円柱状の支承ブロック51を有する。図5および図6に示すすべり支承2は、角柱状の支承ブロック51を有する。
支承ブロック51は、鉛直荷重によって全体的にクリープ変形する。支承ブロック51は、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上鉛直クリープ変形するように設定されている。本実施形態では、支承ブロック51は、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上100%以下の間で鉛直クリープ変形するように設定されている。
【0021】
支承ブロック51は、一例として、図7に示すように、上方に開口する鋼製の箱体511と、箱体511の内部に設置された積層ゴム512と、を有する形態であってもよい。
箱体511は、剛体である。箱体511は、底板511cと、底板511cの外縁部全体から上方に延びる側壁511aを有する。
積層ゴム512の上下には、それぞれ鋼板513,513が設けられている。鋼板513の平面視形状は、箱体511の開口の平面視形状と略同じ形状である。積層ゴム512は、上下の鋼板513,513の周囲に箱体511の側壁511aが配置されているため、箱体511との水平方向の相対変位が拘束されている。積層ゴム512は、箱体511の内部において上下方向に伸縮可能である。
積層ゴム512の下側の鋼板513は、箱体511の底板511cに固定されている。積層ゴム512が上下方向に伸縮すると積層ゴム512の上側の鋼板513が積層ゴム512の伸縮に合わせて上下方向に移動するように構成されている。
なお、支承ブロック51の形態は、上記の形態に限定されない。
【0022】
支承ブロック51が上記の形態の場合は、支承ブロック51の積層ゴム512が、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上鉛直クリープ変形するように設定されている。支承ブロック51の積層ゴム512が、鉛直クリープ変形すると、積層ゴム512の上側の鋼板513は、積層ゴム512の鉛直クリープ変形量と同じ長さ分、下方に移動する。
【0023】
下部すべり材3は、板面が円形の平板状である。下部すべり材3は、板面が水平面となる向きで支承ブロック51の下端部に取り付けられる。鉛直方向から見た平面視において、下部すべり材3は、支承ブロック51よりも小さい形状である。支承ブロック51が図7に示す形態の場合は、下部すべり材3は、箱体511の底板511cの下面511dに取り付けられる。
上部すべり材4は、板面が円形の平板状である。上部すべり材4は、板面が水平面となる向きで支承ブロック51の上端部に取り付けられる。平面視において、上部すべり材4は、支承ブロック51よりも小さい形状である。支承ブロック51が図7に示す形態の場合は、上述しているように、上部すべり材4は、積層ゴム512の上側の鋼板513の上面513aに取り付けられる。
下部すべり材3の板面の中心、上部すべり材4の板面の中心および支承ブロック51の平面形状の中心は、鉛直方向に重なっている。
すべり支承体23は、下部すべり材3の下面が下部すべり面211と接触し、上部すべり材4の上面が上部すべり面221と接触した状態で下部すべり板21と上部すべり板22との間に配置され、下部構造体11および上部構造体12に対して水平方向に変位する。
【0024】
支承ブロック51が図7に示す形態の場合は、上部すべり材4の上面は、支承ブロック51の箱体511の側壁511aの上端511bよりも上方に配置される。側壁511aの上端511bと上部すべり面221とは上下方向に離れ、接触しないように配置される。側壁511aの上端511bと上部すべり面221との間隔は、積層ゴム512が上記の設定された変形量分の鉛直クリープ変形をして、収縮した際に側壁511aの上端511bと上部すべり面221とが接触しないように設定されている。
【0025】
本実施形態では、上部すべり面221と上部すべり材4との摩擦係数μは、下部すべり面211と下部すべり材3との摩擦係数μよりも値が小さく設定されている。摩擦係数μおよび摩擦係数μは、Lv2以下の地震の場合に、すべり支承体23が上部すべり面221を摺動し、Lv2を超える地震の場合には、すべり支承体23が下部すべり面211も摺動するように設定されている。
上部すべり板22は、下部すべり板21よりも板面の面積が小さい。すなわち、上部すべり面221は、下部すべり面211よりも平面積が小さく設定されている。図2から図6には、地震が生じていない通常時のすべり支承2を示している。通常時では、上部すべり面221の中心、下部すべり面211の中心およびすべり支承体23の平面形状の中心は、鉛直方向に重なっている。
【0026】
ストッパ24は、地震時にすべり支承体23が上部すべり面221の側方まで移動することを防止するために設けられている。ストッパ24は、上部構造体12の下面121における上部すべり板22の周囲に設けられている。ストッパ24は、支承ブロック51が円柱状の場合は、上部すべり板22を囲む円に沿って設けられている。図3に示すように、支承ブロック51が円柱状の場合のストッパ24は、中空円柱状(円筒状)であってもよい。図5に示すように、ストッパ24は、支承ブロック51が角柱状の場合は、上部すべり板22を囲む四角形に沿って設けられている。支承ブロック51が角柱状の場合のストッパ24は、中空角柱状(角筒状)であってもよい。
【0027】
すべり支承体23は、地震時に上部構造体12と水平方向に相対変位し、上部すべり面221を摺動した際に、ストッパ24と衝突すると、ストッパ24よりも側方への変位が規制される。本実施形態では、Lv2までの地震が生じた際には、すべり支承体23が上部すべり面221を摺動し、Lv2を超える地震が生じた際には、すべり支承体23がストッパ24よりも側方への変位しないようにストッパ24の位置が設定されている。すべり支承体23は、ストッパ24と衝突しても変形しない材料で形成されている。
【0028】
図8および図9に示すように、ストッパ24にすべり支承体23と衝突した際の衝撃を和らげる緩衝材6が設けられていてもよい。また、図10に示すように、すべり支承体23にストッパ24と衝突した際の衝撃を和らげる緩衝材6が設けられていてもよい。図11には、支承ブロック51が角柱状の場合であり、ストッパ24にすべり支承体23と衝突した際の衝撃を和らげる緩衝材6が設けられている様子を示す。図12には、支承ブロック51が角柱状の場合であり、すべり支承体23にストッパ24と衝突した際の衝撃を和らげる緩衝材6が設けられている様子を示す。
【0029】
本実施形態のすべり支承2は、すべり支承体23に上下2組のすべり材(下部すべり材3および上部すべり材4)が設けられ、下部すべり面211および上部すべり面221の両方を摺動できるため、従来のすべり支承の限界変形を超える変形(具体的には最大で従来の2倍)を許容することができる。
【0030】
すべり支承2の作動原理と、荷重変形の関係について説明する。
以下では、ストッパ24は、図2に示す通常時のすべり支承体23の500mm側方に設けられている。すべり支承体23と上部すべり板22とは、通常時の状態から水平方向に放射状に500mm相対変位可能である。すべり支承体23と下部すべり板21とは、通常時の状態から水平方向に放射状に1000mm相対変位可能である。
図13に、すべり支承2の荷重変形関係の模式図を示す。通常時は、すべり支承2の変形および荷重がともに0である。
【0031】
Lv2以下の地震では、地震荷重がすべり支承体23と上部すべり板22との摩擦力を超えるとすべり支承体23と上部すべり板22とが水平方向に相対変位する。すなわち、すべり支承体23と上部構造体12とが水平方向に相対変位する。摩擦係数μが大きいすべり支承体23と下部すべり板21とは水平方向に相対変位しない。図14には、Lv2以下の地震で、すべり支承体23と上部すべり板22とが500mm相対変位し、ストッパ24と接触した状態を示す。この状態の下部構造体11と上部構造体12との相対変位量は、500mm、荷重はμ・Nである(図13参照)。
【0032】
Lv2を超える地震が生じ、すべり支承体23と下部すべり板21とが500mm相対変位し、ストッパ24と接触した状態からさらに同一方向に変形し、地震荷重がすべり支承体23と下部すべり板21との摩擦力を超えると、すべり支承体23と下部すべり板21とが水平方向に相対変位する。すなわち、すべり支承体23と下部構造体11とが水平方向に相対変位する。すべり支承体23と上部構造体12とは、すべり支承体23がストッパ24と接触しているため、ストッパ24側へ向かう変位が規制されている。図15には、すべり支承体23と下部すべり板21とが1000mm相対変位し、すべり支承体23と上部すべり板22との相対変位量と合わせて1500mm変形した状態を示す。この状態の下部構造体11と上部構造体12との相対変位量は、1500mm、荷重は、μ・Nである(図13参照)。
【0033】
上記とは、反対方向の荷重が作用すると、すべり支承体23がストッパ24と離れて上記とは反対方向に相対変位する。この方向には、接触していたストッパ24と対向するストッパ24と接触するまで1000mm相対変位が可能である。図16には、反対方向の荷重が作用してすべり支承体23とストッパ24とが反対方向に1000mm相対変位した状態を示す。この状態の下部構造体11と上部構造体12との相対変位量は、500mm、荷重は、-μ・Nである(図13参照)。
【0034】
さらに上記の反対方向の荷重が作用すると、すべり支承体23がストッパ24と接触しているため、すべり支承体23と下部すべり板21とが相対変位する。図17にすべり支承体23と下部すべり板21とが上記の反対方向に500mm相対変位した状態を示す。この状態の下部構造体11と上部構造体12との相対変位量は、0、荷重は、-μ・Nである(図13参照)。
【0035】
さらに上記の反対方向の荷重が作用し、すべり支承体23と下部すべり板21とが上記の反対方向に500mm相対変位した状態を図18に示す。この状態の下部構造体11と上部構造体12との相対変位量は、-500、荷重は、-μ・Nである(図13参照)。
【0036】
次に、第1実施形態による免震構造の作用・効果について説明する。
積層ゴム支承14の積層ゴム141に鉛直クリープ変形が生じた際に、すべり支承2が鉛直クリープ変形しないと、すべり支承2に荷重が集中して、上部構造体12に大きな応力が生じることになる。本実施形態による免震構造1では、すべり支承2のすべり材支持部5が積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上鉛直クリープ変形するように設定されている。これにより、鉛直クリープ変形量によるすべり支承2と積層ゴム支承14との高低差を小さくできるため、すべり支承2に荷重が集中することを防止できる。
【0037】
本実施形態による免震構造1では、上部すべり面221と上部すべり材4との摩擦係数μは、下部すべり面211と下部すべり材3との摩擦係数μよりも値が小さく設定されている。
このようにすることにより、地震荷重が所定値以下の地震、例えば、Lv2以下の地震の場合は、摩擦係数の小さい上部すべり面221と上部すべり材4とが摺動するため、上部構造体12への加速度伝達を抑制できる。地震荷重が所定値を超える地震、例えば、Lv2を超える地震の場合は摩擦係数が大きい下部すべり面211と下部すべり材3とが摺動するため、免震層13の変形を抑制できる。
【0038】
本実施形態による免震構造1では、上部すべり面221とすべり支承体23との水平方向の相対変位量を規制するストッパ24が設けられている。
このようにすることにより、地震荷重が所定値を超える地震の場合、例えば、Lv2を超える地震の場合に、上部すべり面221とすべり支承体23とが大きく相対変位し、すべり支承体23が上部すべり面221から外れることを防止できる。
Lv2を超える地震で、ストッパ24が作用するとすべり支承体23が移動し、逆方向のストッパ24とのクリアランスが減少するため、逆方向に振幅する際は初期位置よりも早い段階で、ストッパ24が作用し摩擦係数が高い下部すべり面211とすべり支承体23とが摺動する変形量が増えるため、変形抑制効果を高めることができる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、説明する。上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
図19に示すように、第2実施形態による免震構造1Bでは、すべり支承2Bのすべり支承体23Bのすべり材支持部5Bが、支承ブロック51Bと積層ゴム52とが上下方向に直列に配置されている。支承ブロック51Bの下に下部すべり材3が取り付けられ、積層ゴム52の上に上部すべり材4が取り付けられている。支承ブロック51Bは、鋼製、RCなどの剛体である。すべり材支持部5Bの積層ゴム52は、積層ゴム支承14の積層ゴム141(図1参照)の鉛直クリープ変形量の20%以上鉛直クリープ変形するように設定されている。本実施形態では、すべり材支持部5Bの積層ゴム52は、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上100%以下の間で鉛直クリープ変形するように設定されている。
【0040】
例えば、第2実施形態による免震構造1Bに鉛直クリープ変形量が60年でゴム総厚の約3%の積層ゴムを用いる場合、積層ゴム支承14の積層ゴム141のゴム層厚を200mmに設定すると、積層ゴム支承14の積層ゴム141には60年で6mmの鉛直クリープ変形が生じると想定される。すべり支承2Bの積層ゴム52のゴム総厚を40mmに設定すると、すべり支承2Bの積層ゴム52には60年で1.2mmの鉛直クリープ変形が生じると想定される。この場合、すべり材支持部5Bの積層ゴム52の鉛直クリープ変形量(1.2mm)は、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量(6mm)の20%に設定される。
【0041】
積層ゴム52には、例えば、天然ゴムや、高減衰ゴム、鉛プラグ入ゴムなどが用いられている。
第2実施形態のすべり支承2Bは、積層ゴム52が設けられていることによって、すべり支承2Bが滑り出す前に鉛直方向および水平方向に対して積層ゴム52の分の弾性変形を生じる。
【0042】
上記の第2実施形態による免震構造1Bでは、すべり材支持部5Bの積層ゴム52は、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上鉛直クリープ変形するように設定されている。これにより、第1実施形態と同様に、鉛直クリープ変形量によるすべり支承2Bと積層ゴム支承14との高低差を小さくできるため、すべり支承2Bに荷重が集中することを防止できる。
また、すべり支承2Bに弾性変形に対する追従性をもたせることができるため、地震荷重が所定値以下の地震、例えば、Lv2以下の地震の水平動に対しても積層ゴム52がせん断変形することによって免震効果(周期伸長効果)を持たせることができる。
すべり支承2Bに積層ゴム52が設けられていることによって、地震時の上下動に対しても積層ゴム52が変形するため、すべり支承2Bに応力が集中することを緩和できる。
【0043】
以下に、本実施形態のすべり支承2,2Bを用いた免震建物の地震応答シミュレーション解析結果を示す。
天然ゴム系積層ゴム(積層ゴム支承)とオイルダンパーに並列して本実施形態のすべり支承2,2Bを配置した解析モデルと、下部すべり板と下部すべり材のみの場合、または上部すべり板と上部すべり材のみの場合とを比較した。なお、解析モデルは、11質点系の免震周期が約4.5秒である。ここで、すべり支承2,2Bの下部すべり板21と下部すべり材3との摩擦係数μ=0.095とし、上部すべり板22と上部すべり材4との摩擦係数μ=0.011とした。
【0044】
図20に、地震波が告示神戸NSLv1の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフを示す。図21に地震波が告示神戸NSLv2の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフを示す。図22に、地震波が告示神戸NSLv2の2倍の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフを示す。図23に地震波が熊本地震西原村観測波の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフを示す。すべり支承は、積層ゴム52を直列していない第1実施形態のすべり支承2である。
図20図23より、天然ゴム系積層ゴム(積層ゴム支承)とオイルダンパーに並列して本実施形態のすべり支承2(積層ゴム無し)を並列することによって、下部すべり板と下部すべり材(μ=0.095)のみの場合と比べLv2以下の地震に対して上部構造体の応答加速度を低減でき、上部すべり板と上部すべり材(μ=0.011)のみの場合と比べLv2を超える地震に対して免震層の変形を抑制できることがわかる。
また、図22より、すべり支承2を使用することによって、告示神戸Lv2×2倍に対して、上部すべり板と上部すべり材(μ=0.011)のみの場合と比べ免震層変形を696mmから564mmへと大幅に抑制できることがわかる。また、図23に示すように、西原村観測波に対して、すべり支承2の限界変形である1500mm以下まで許容しつつ、最大変形を抑制できることがわかる。
【0045】
図24および図25に、すべり支承が積層ゴム52を直列した第2実施形態のすべり支承2Bの場合のシミュレーション解析結果を示す。図24に地震波が告示神戸NSLv2の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフを示す。図25に地震波が告示神戸NSLv2の2倍の場合の免震層の荷重変形関係および最大応答加速度のグラフを示す。
図24より、天然ゴム系積層ゴム(積層ゴム支承)とオイルダンパーに並列して本実施形態のすべり支承2B(積層ゴムあり)を並列することによって、本実施形態のすべり支承2(積層ゴム無し)を並列した場合と比べて、Lv2地震以下での上部構造体の応答加速度を低減できることがわかる。一方、図22および図25より、Lv2を超える地震動に対しての変形抑制効果は変わらないことがわかる。
【0046】
以上、本発明による免震構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の第2実施形態では、すべり材支持部5Bの積層ゴム52は、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上鉛直クリープ変形するように設定されているが、すべり材支持部5B全体が、積層ゴム支承14の積層ゴム141の鉛直クリープ変形量の20%以上鉛直クリープ変形するように設定されていてもよい。例えば、支承ブロック51Bが剛体でなく、鉛直クリープ変形する部材であってもよい。
【0047】
上部すべり面221と上部すべり材4との摩擦係数μは、下部すべり面211と下部すべり材3との摩擦係数μよりも値が大きく設定されていてもよい。このような場合は、下部すべり面211とすべり支承体23との水平方向の相対変位量を規制するストッパ24を設けることが好ましい。
上部すべり面221とすべり支承体23との水平方向の相対変位量を規制するストッパ24が設けられていなくてもよい。
【0048】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable DevelopmentGoals:SDGs)」がある。
本実施形態に係る免震構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0049】
1,1B 免震構造
2,2B すべり支承
3 下部すべり材
4 上部すべり材
5,5B すべり材支持部
11 下部構造体
12 上部構造体
13 免震層
14 積層ゴム支承
23,23B すべり支承体
24 ストッパ
51,51B 支承ブロック
52 積層ゴム
141 積層ゴム
211 下部すべり面
221 上部すべり面
図1
図2
図3
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図5
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