(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073050
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】アルミニウム合金板の製造方法、アルミニウム合金熱間圧延板およびアルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
C22F 1/04 20060101AFI20240522BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20240522BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240522BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20240522BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C22F1/04 C
C22C21/06
C22C21/00 L
C22F1/047
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 630A
C22F1/00 673
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184041
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】澤谷 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 祥平
(57)【要約】
【課題】冷間圧延時に中間焼鈍を行うことなく、耳の発生が抑制され、高い0.2%耐力および優れたDI成形性を有し、且つ製缶後に高い缶体強度を有するアルミニウム合金板を製造することができるアルミニウム合金板の製造方法、前記アルミニウム合金板、および前記アルミニウム合金板を製造できるアルミニウム合金熱間圧延板の提供。
【解決手段】冷間圧延工程では、中間焼鈍を行わず、熱間仕上げ圧延工程では、最終直前パスにおける平均ひずみ速度および出側温度を制御し、且つ、最終パスにおける平均ひずみ速度および出側温度を制御する、アルミニウム合金板の製造方法を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造を行うことでスラブを得る鋳造工程と、
560℃以上、融点以下の温度域にて4時間以上保持する均質化処理を行う均質化工程と、
520~560℃の温度域にて1時間以上保持する均熱処理を行う均熱工程と、
板厚が15~40mmとなるように熱間粗圧延を行う熱間粗圧延工程と、
板厚が2.0~4.0mmとなるように熱間仕上げ圧延を行う熱間仕上げ圧延工程と、
板厚が0.20~1.00mmとなるように冷間圧延を行う冷間圧延工程と、を順に備え、
前記冷間圧延工程では、中間焼鈍を行わず、
前記熱間仕上げ圧延工程では、
最終直前パスにおいて、平均ひずみ速度を10~25/sとし、出側温度を300~380℃の温度域とし、
最終パスにおいて、平均ひずみ速度を50~160/sとし、出側温度を310~380℃の温度域と
することを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項2】
前記冷間圧延工程後に、100~210℃の温度域にて2~10時間保持する最終焼鈍を行うことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項3】
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなり、
板厚が2.0~4.0mmであり、
ND-RD断面についてEBSD測定したとき、局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値が2.0°以下であり、Cube方位を有する領域の面積率が10~25%であることを特徴とするアルミニウム合金熱間圧延板。
【請求項4】
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなり、
板厚が0.20~1.00mmであり、
Cube方位密度が0.9以上であり、
Cu方位密度が12.5以下であり、
圧延方向の0.2%耐力が220~340MPaであり、
210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化割合が15%以下であることを特徴とするアルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板の製造方法、アルミニウム合金熱間圧延板およびアルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラル実現のため、アルミニウム缶の製造においてもCO2排出量を削減する必要がある。製造工程の一部を省略することで、1缶あたりの製造に要するエネルギー消費量を抑えることができる。また、単位時間あたりの生産量が向上するため、製造コストを抑えることができる。アルミニウム缶の製造に用いられるアルミニウム合金板の製造では、一般的に、冷間圧延工程においては、複数回の圧延の途中に中間焼鈍が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と;鋳塊を均質化処理する均質化処理工程と;均質化処理した鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と;熱間圧延板の一次冷間圧延工程と;一次冷間圧延板を焼鈍する中間焼鈍工程と;中間焼鈍板の二次冷間圧延工程と;を備えたDR缶ボディ用アルミニウム合金板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、中間焼鈍は、アルミニウムを再結晶させることを目的とした高温域での熱処理であるため、エネルギー消費量が高い。この中間焼鈍を省略することができれば、カーボンニュートラル実現に大きく貢献することができる。
【0006】
冷間圧延時の中間焼鈍を省略すると、熱間圧延工程以降にアルミニウムを再結晶させる工程が無いために冷間圧延率が増加することで、圧延集合組織と呼ばれるCu方位やS方位が増加する。圧延集合組織が増加すると、アルミニウム缶の製缶時に、圧延方向に対して45°方向に耳が形成されやすくなる。ここで、耳とは、アルミニウム合金板に対して深絞り加工、しごき加工した際にアルミニウム缶の上縁に形成される、山谷状に変化した部分のことをいう。圧延方向に対して45°方向に耳が過剰に形成されると、製缶ラインでの搬送時に耳がひっかかり、それを解消する必要が生じるため、生産性が低下してしまう。しごき加工時に高い耳があると、ボディメーカー(DI缶を成形するための成形機)と缶とが接触し、耳が欠けることで異物が混入してしまう恐れがある。あるいは、異物が缶壁に巻き込まれてピンホールが発生する恐れがある。また、しごき加工後のトリミング工程で耳が完全に除去できないと不良缶となり、歩留まり低下に繋がる。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、冷間圧延時に中間焼鈍を行うことなく、耳の発生が抑制されたアルミニウム合金板を製造することができるアルミニウム合金板の製造方法を提供することを目的とする。また、飲料缶に適用されるアルミニウム合金板に一般的に要求される特性である、高い0.2%耐力および優れたDI成形性を有し、且つ製缶後に高い缶体強度を有するアルミニウム合金板を製造することができるアルミニウム合金板の製造方法を提供することを目的とする。
更に、上述のアルミニウム合金板を提供すること、および上述のアルミニウム合金板を製造できるアルミニウム合金熱間圧延板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造を行うことでスラブを得る鋳造工程と、
560℃以上、融点以下の温度域にて4時間以上保持する均質化処理を行う均質化工程と、
520~560℃の温度域にて1時間以上保持する均熱処理を行う均熱工程と、
板厚が15~40mmとなるように熱間粗圧延を行う熱間粗圧延工程と、
板厚が2.0~4.0mmとなるように熱間仕上げ圧延を行う熱間仕上げ圧延工程と、
板厚が0.20~1.00mmとなるように冷間圧延を行う冷間圧延工程と、を順に備え、
前記冷間圧延工程では、中間焼鈍を行わず、
前記熱間仕上げ圧延工程では、
最終直前パスにおいて、平均ひずみ速度を10~25/sとし、出側温度を300~380℃の温度域とし、
最終パスにおいて、平均ひずみ速度を50~160/sとし、出側温度を310~380℃の温度域とする。
(2)上記(1)に記載のアルミニウム合金板の製造方法では、前記冷間圧延工程後に、100~210℃の温度域にて2~10時間保持する最終焼鈍を行ってもよい。
(3)本発明の別の態様に係るアルミニウム合金熱間圧延板は、
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなり、
板厚が2.0~4.0mmであり、
ND-RD断面についてEBSD測定したとき、局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値が2.0°以下であり、Cube方位を有する領域の面積率が10~25%である。
(4)本発明の別の態様に係るアルミニウム合金板は、
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなり、
板厚が0.20~1.00mmであり、
Cube方位密度が0.9以上であり、
Cu方位密度が12.5以下であり、
圧延方向の0.2%耐力が220~340MPaであり、
210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化割合が15%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る上記態様により、冷間圧延時に中間焼鈍を行うことなく、耳の発生が抑制され、高い0.2%耐力および優れたDI成形性を有し、且つ製缶後に高い缶体強度を有するアルミニウム合金板を製造することができるアルミニウム合金板の製造方法を提供することができる。
また、上述のアルミニウム合金板、およびこのアルミニウム合金板を製造できるアルミニウム合金熱間圧延板を提供することができる。
上記態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、冷間圧延時の中間焼鈍を省略し、熱間仕上げ圧延工程において集合組織の制御を行うため、更なる省エネルギー化、省工程化に寄与する。また、上記態様に係るアルミニウム合金板は、高い0.2%耐力および優れたDI成形性を有し、且つ製缶後に高い缶体強度を有するため、飲料缶を製造するためのアルミニウム合金板として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ロール半径rと平均ひずみ速度εとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、圧延方向に対して0°方向および90°方向に耳を形成させることで、圧延方向に対して45°方向に形成される耳(以下、45°方向耳と記載する場合がある)を抑制することができることを知見した。
【0012】
本発明者らは、中間焼鈍を行わずに、アルミニウム合金板における集合組織を制御するためには、熱間圧延後における集合組織を制御することが重要であると考えた。圧延方向に対して0°方向および90°方向に耳を形成させるためには、集合組織におけるCube方位を制御することが重要である。Cube方位は再結晶集合組織であるため、中間焼鈍を行わずにCube方位を制御するためには、熱間圧延において集合組織を制御すること、すなわちアルミニウム合金熱間圧延板における集合組織を制御することが重要である。45°方向耳は圧延集合組織に起因するものであるため、熱間圧延後に圧延集合組織が形成されていると、45°方向耳が形成される要因となる。そのため、アルミニウム合金熱間圧延板における圧延集合組織を少なくすることが重要である。
【0013】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例に係るアルミニウム合金板の製造方法、アルミニウム合金熱間圧延板およびアルミニウム合金板について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係るアルミニウム合金板の製造方法は、
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造を行うことでスラブを得る鋳造工程と、
560℃以上、融点以下の温度域にて4時間以上保持する均質化処理を行う均質化工程と、
520~560℃の温度域にて1時間以上保持する均熱処理を行う均熱工程と、
板厚が15~40mmとなるように熱間粗圧延を行う熱間粗圧延工程と、
板厚が2.0~4.0mmとなるように熱間仕上げ圧延を行う熱間仕上げ圧延工程と、
板厚が0.20~1.00mmとなるように冷間圧延を行う冷間圧延工程と、を順に備え、
前記冷間圧延工程では、中間焼鈍を行わず、
前記熱間仕上げ圧延工程では、
最終直前パスにおいて、平均ひずみ速度を10~25/sとし、出側温度を300~380℃の温度域とし、
最終パスにおいて、平均ひずみ速度を50~160/sとし、出側温度を310~380℃の温度域とし、
任意で、前記冷間圧延工程後に、100~210℃の温度域にて2~10時間保持する最終焼鈍を行う最終焼鈍工程を更に備える。
以下、各工程について説明する。
【0015】
鋳造工程
鋳造工程では、所望の化学組成を有するアルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造を行うことでスラブを得る。以下、化学組成について詳細に説明する。
なお、以下に「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」または「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。以下の説明において、化学組成に関する%は特に指定しない限り質量%である。
【0016】
Si:0.20~0.35%
Siは、Mgと結合してMg2Siを析出させることで、アルミニウム合金板の耐力を向上させる。Si含有量が0.20%未満であると、Mg2Siの析出量が少なくなり、製缶後の缶体強度が低下する。そのため、Si含有量は0.20%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.25%以上である。
一方、Si含有量が0.35%超であると、耐力が過剰に向上して成形性が劣化する。そのため、Si含有量は0.35%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.32%以下である。
【0017】
Fe:0.35~0.55%
Feは、AlおよびMnと結合してAl-Mn-Fe系金属間化合物を形成することで、アルミニウム合金板の耐力を向上させる作用、およびしごき加工時のダイクリーニング効果による金型への焼き付きを防止する作用を有する。Fe含有量が0.35%未満であると、Al-Mn-Fe系金属間化合物量が少なくなり、アルミニウム合金板の耐力が低下し、製缶後の缶体強度が低下する。また、しごき加工時に金型への焼き付きが発生する。そのため、Fe含有量は0.35%以上とする。Fe含有量は、好ましくは0.40%以上である。
一方、Fe含有量が0.55%超であると、アルミニウム合金板の耐力が過剰に向上し、また伸びが劣化することで成形性が劣化する。更に、アルミニウム合金板の耐食性が劣化する。そのため、Fe含有量は0.55%以下とする。Fe含有量は、好ましくは0.50%以下である。
【0018】
Cu:0.15~0.48%
Cuは、固溶強化によりアルミニウム合金板の耐力を向上させる。Cu含有量が0.15%未満では、Cuの固溶量が少なくなり、アルミニウム合金板において、製缶後の缶体強度が低下する。そのため、Cu含有量は0.15%以上とする。Cu含有量は、好ましくは0.20%以上である。
一方、Cu含有量が0.48%超であると、アルミニウム合金板の耐力が過剰に向上して成形性が劣化する。また、アルミニウム合金板の耐食性が劣化する。そのため、Cu含有量は0.48%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.40%以下である。
【0019】
Mn:0.80~1.15%
Mnは、AlおよびFeと結合してAl-Mn-Fe系金属間化合物を形成し、またAl、FeおよびSiと結合してAl-Mn-Fe-Si系金属間化合物を形成し、マトリクス中に分散することで、分散強化に寄与する。これにより、アルミニウム合金板の耐食性を劣化させずに、耐力を向上させる。Mn含有量が0.80%未満であると、上記金属間化合物量が減少し、アルミニウム合金板において、製缶後の缶体強度が低下する。そのため、Mn含有量は0.80%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.90%以上である。
一方、Mn含有量が1.15%超であると、アルミニウム合金板の耐力が過剰に向上し、成形性が劣化する。そのため、Mn含有量は1.15%以下とする。Mn含有量は、好ましくは1.05%以下である。
【0020】
Mg:0.60~1.60%
Mgは、固溶強化により、またMg2Siを析出させることで、アルミニウム合金板の耐力を向上させる作用、および加工硬化性を向上させる作用を有する。Mg含有量が0.60%未満であると、固溶量やMg2Si量が少なくなり、加工硬化性が劣化することで、製缶後の缶体強度が低下する。そのため、Mg含有量は0.60%以上とする。Mg含有量は、好ましくは0.80%以上である。
一方、Mg含有量が1.60%超であると、アルミニウム合金板の耐力が過剰に向上し、また伸びが低下することで成形性が劣化する。更に、加工硬化性が過剰に向上することでしごき加工時に胴切れが発生し易くなる。そのため、Mg含有量は1.60%以下とする。Mg含有量は、好ましくは1.50%以下である。
【0021】
化学組成の残部は、Alおよび不純物からなる。本実施形態において不純物とは、材料の溶解時に混入する不純物のことをいい、本実施形態に係るアルミニウム合金板の特性を阻害しない範囲で含有されるものをいう。不純物としては、例えば、Cr、Zn、Ti、Zrなどが挙げられる。これらの不純物は、それぞれ0.005%以下、合計で0.015%以下の含有量であれば、本実施形態に係るアルミニウム合金板の特性を阻害しない。
【0022】
均質化工程
均質化工程では、560℃以上、融点以下の温度域にて4時間以上保持する均質化処理を行う。均質化工程における均質化温度(均質化処理時の加熱温度)を制御することで、アルミニウム合金熱間圧延板における集合組織、およびMg2Siの析出状態を制御することができる。均質化温度が560℃未満であると、十分に均質化することができず、微細析出物が増加する。これにより、アルミニウム合金熱間圧延板においてCube方位を有する領域の面積率が低下し、また局所方位差の平均値が増加する。その結果、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、均質化温度は560℃以上とする。
一方、均質化温度が融点超であると、スラブが再溶解してしまう。そのため、均質化温度は融点以下とする。
【0023】
なお、ここでいう融点とは、スラブ(アルミニウム合金)の融点のことであり、スラブの化学組成を熱力学計算ソフトJMatPro(Sente Software社製)に入力し、温度-固液相分率曲線を作図し、液相の割合が5×10-4%以下となる温度を計算することで求めることができる。
【0024】
均質化工程における均質化時間(均質化温度での保持時間)を制御することで、スラブの均質性および生産性を制御することができる。均質化時間が4時間未満であると、アルミニウム合金熱間圧延板における金属組織が不均一なものとなり、所望の集合組織を得ることができない。そのため、均質化時間は4時間以上とする。
一方、均質化時間が長時間になりすぎると生産性が低下してしまうため、均質化時間は20時間以下としてもよい。
【0025】
均熱工程
均熱工程では、520~560℃の温度域にて1時間以上保持する均熱処理を行う。均熱工程における均熱温度(均熱処理時の加熱温度)を制御することで、熱間圧延時の温度を制御することができる。均熱温度が520℃未満であると、熱間圧延を低温で行うこととなり、アルミニウム合金熱間圧延板において所望の集合組織を得ることができない。そのため、均熱温度は520℃以上とする。
一方、均熱温度が560℃超であると、熱間圧延を高温で行うこととなり、熱間圧延時に析出物が形成されやすくなる。これにより、アルミニウム合金熱間圧延板においてCube方位を有する領域の面積率が低下する。その結果、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、均熱温度は560℃以下とする。
【0026】
均熱工程における均熱時間(均熱温度での保持時間)を制御することで、熱間圧延時の温度を制御することができる。均熱時間が1時間未満であると、熱間圧延前のスラブの温度が不均一となり、熱間圧延を行うための温度が不足する、または過剰に温度が上昇してしまう。そのため、均熱時間は1時間以上とする。
一方、均熱時間が長時間になりすぎると生産性が低下するため、均熱時間は5時間以下としてもよい。
【0027】
熱間粗圧延工程
熱間粗圧延工程では、スラブに対して熱間粗圧延を行うことで、板厚が15~40mmである中間板を得る。ここでいう中間板とは、熱間粗圧延後且つ熱間仕上げ圧延前の板のことである。上述の板厚を有する中間板が得ることができれば、熱間粗圧延の方法は特に限定されない。
【0028】
熱間仕上げ圧延工程
熱間仕上げ圧延工程では、中間板に対して、板厚が2.0~4.0mmとなるように熱間仕上げ圧延を行う。この熱間仕上げ圧延を行うことで、アルミニウム合金熱間圧延板を得ることができる。
【0029】
熱間仕上げ圧延は、シングルリバース方式の熱間仕上げ圧延機を用いてもよく、タンデム式の熱間仕上げ圧延機を用いてもよい。シングルリバース方式の熱間仕上げ圧延機を用いた熱間仕上げ圧延では、中間板を一方の方向に通板させ、その後逆の方向に通板させることを繰り返すことで熱間仕上げ圧延が行われる。タンデム式の熱間仕上げ圧延機を用いた熱間仕上げ圧延では、中間板を一方向のみに通板させ、連続して配置された複数の圧延機により熱間仕上げ圧延が行われる。
【0030】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金熱間圧延板の板厚を制御することで、熱間圧延性及びDI成形後の耳形状を制御することができる。アルミニウム合金熱間圧延板の板厚が2.0mm未満であると、アルミニウム合金熱間圧延板を巻き取る際にロール表面へ凝着する恐れがある。また、アルミニウム合金熱間圧延板のプロフィール制御が困難となる。そのため、アルミニウム合金熱間圧延板の板厚が2.0mm以上となるように熱間仕上げ圧延を行う。また、アルミニウム合金熱間圧延板の板厚が2.5mm以上となるように熱間仕上げ圧延を行うことが好ましい。
一方、アルミニウム合金熱間圧延板の板厚が4.0mm超であると、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、アルミニウム合金熱間圧延板の板厚が4.0mm以下となるように熱間仕上げ圧延を行う。また、アルミニウム合金熱間圧延板の板厚が3.5mm以下となるように熱間仕上げ圧延を行うことが好ましい。
【0031】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金熱間圧延板の板厚は、複数回の圧延が行われる熱間仕上げ圧延における各圧下率を調整することで制御することができる。
【0032】
熱間仕上げ圧延工程において、最終直前パスにおける平均ひずみ速度を制御することで、アルミニウム合金熱間圧延板におけるCube方位を有する領域の面積率および局所方位差の平均値を制御することができる。最終直前パスにおいて、平均ひずみ速度が10/s未満であると、生産性が低下する。そのため、最終直前パスにおける平均ひずみ速度は10/s以上とする。
一方、最終直前パスにおいて、平均ひずみ速度が25/s超であると、アルミニウム合金熱間圧延板においてCube方位を有する領域の面積率が低下し、また局所方位差の平均値が増加する。その結果、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、最終直前パスにおける平均ひずみ速度は25/s以下とする。
【0033】
なお、ここでいう最終直前パスとは、最終パスから1パス前のパスのことをいい、例えば、1、2、3…10パスによる熱間仕上げ圧延を行う場合には、9パス目のことをいう。
【0034】
ここで、平均ひずみ速度について説明する。
従来では、熱間圧延の圧延条件の制御においては、主に圧延速度および圧延率(板厚変化)の2つの因子を制御していた。本発明者らは、従来の制御方法における2つの因子に加えて、ロール半径の影響を含めた平均ひずみ速度を用いて圧延条件を制御することが好ましいことを知見した。本実施形態では、平均ひずみ速度εの算出には以下の式(1)および(2)を用いる。ここで下記式(1)および(2)において、t0は入側板厚、t1は出側板厚、sは圧延速度、rはロール半径、aはかみ込み角を示す。
【0035】
【0036】
【0037】
ロール半径rと平均ひずみ速度εとの関係を
図1に示す。
図1に示すように、ロール半径rを変化させると平均ひずみ速度も変化することから、ロール半径rはアルミニウム合金熱間圧延板の集合組織にも影響を与えることが推察できる。
【0038】
熱間仕上げ圧延工程において、最終直前パスにおける出側温度を制御することで、アルミニウム合金熱間圧延板におけるCube方位を有する領域の面積率および局所方位差の平均値を制御することができる。最終直前パスにおける出側温度が300℃未満であると、最終パスにおける出側温度を後述のように好ましく制御することができない。そのため、最終直前パスにおける出側温度は300℃以上とする。
一方、最終直前パスにおける出側温度が380℃超であると、アルミニウム合金熱間圧延板において局所方位差の平均値が増加する。その結果、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、最終直前パスにおける出側温度は380℃以下とする。
【0039】
熱間仕上げ圧延工程において、最終パスにおける平均ひずみ速度を制御することで、アルミニウム合金熱間圧延板におけるCube方位を有する領域の面積率および局所方位差の平均値を制御することができる。最終パスにおける平均ひずみ速度が50/s未満であると、アルミニウム合金熱間圧延板においてCube方位を有する領域の面積率が低下する。その結果、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、最終パスにおける平均ひずみ速度は50/s以上とする。
一方、最終パスにおける平均ひずみ速度が160/s超であると、ロールヒート発生により生産性が低下する。また、アルミニウム合金熱間圧延板のプロフィール制御が困難となる。そのため、最終パスにおける平均ひずみ速度は160/s以下とする。
なお、平均ひずみ速度は上述の式(1)および(2)により求めることができる。
【0040】
熱間仕上げ圧延工程において、最終パスにおける出側温度を制御することで、アルミニウム合金熱間圧延板におけるCube方位を有する領域の面積率および局所方位差の平均値を制御することができる。最終パスにおける出側温度が310℃未満であると、アルミニウム合金熱間圧延板において局所方位差の平均値が増加する。その結果、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、最終パスにおける出側温度は310℃以上とする。好ましくは340℃以上である。
一方、最終パスにおける出側温度が380℃超であると、アルミニウム合金熱間圧延板においてCube方位を有する領域の面積率が低下する。その結果、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。また、ロールヒート発生により生産性が低下する。そのため、最終パスにおける出側温度は380℃以下とする。
【0041】
冷間圧延工程
冷間圧延工程では、アルミニウム合金熱間圧延板に対して冷間圧延を行うことで、板厚が0.20~1.00mmであるアルミニウム合金板を得る。冷間圧延後のアルミニウム合金板の板厚を制御することで、DI成形性およびDI成形後の耳形状を制御することができる。冷間圧延後のアルミニウム合金板の板厚が0.20mm未満であると、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。また、アルミニウム缶成形後の缶体強度が不足する。そのため、冷間圧延後のアルミニウム合金板の板厚が0.20mm以上となるように冷間圧延を行う。
一方、冷間圧延後のアルミニウム合金板の板厚が1.00mm超であると、DI成形時のしごき率増加により胴切れが発生し易くなる。その結果、歩留まりが低下する。そのため、冷間圧延後のアルミニウム合金板の板厚が1.00mm以下となるように冷間圧延を行う。
【0042】
冷間圧延後のアルミニウム合金板の板厚は、複数回の圧延が行われる冷間圧延における各圧下率を調整することで制御することができる。
【0043】
本実施形態に係るアルミニウム合金板の製造方法では、冷間圧延工程において、中間焼鈍を行わない。そのため、エネルギー消費量を抑え、カーボンニュートラル実現に大きく貢献することができる。
ここでいう中間焼鈍とは、複数回の圧延が行われる冷間圧延において、圧延と圧延との間に所定の温度域まで加熱し、当該温度域にて保持する熱処理のことをいう。
【0044】
本実施形態に係るアルミニウム合金板の製造方法では、任意で、冷間圧延工程後のアルミニウム合金板に対して、100~210℃の温度域にて2~10時間保持する最終焼鈍を更に備えてもよい。最終焼鈍を行う場合、焼鈍温度を100~210℃の温度域とし、且つ焼鈍時間を2~10時間とすることで、アルミニウム合金板において伸びが向上し、DI成形性を改善することができる。また、アルミニウム合金板において缶体強度を高めることができる。
【0045】
次に、本実施形態に係るアルミニウム合金熱間圧延板について説明する。本実施形態に係るアルミニウム合金熱間圧延板は、アルミニウム合金板を製造する際の中間品のことをいい、具体的には熱間仕上げ圧延工程後且つ冷間圧延工程前の板のことをいう。
【0046】
本実施形態に係るアルミニウム合金熱間圧延板は、
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなり、
板厚が2.0~4.0mmであり、
ND-RD断面についてEBSD測定したとき、局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値が2.0°以下であり、Cube方位を有する領域の面積率が10~25%である。
以下、各規定について説明する。なお、化学組成についてはアルミニウム合金板の製造方法において説明した内容と同様のため、説明を省略する。
【0047】
板厚:2.0~4.0mm
アルミニウム合金熱間圧延板の板厚が2.0mm未満であると、アルミニウム合金熱間圧延板を巻き取る際にロール表面へ凝着する恐れがある。また、アルミニウム合金熱間圧延板のプロフィール制御が困難となる。そのため、アルミニウム合金熱間圧延板の板厚は2.0mm以上とする。好ましくは2.5mm以上である。
一方、アルミニウム合金熱間圧延板の板厚が4.0mm超であると、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、アルミニウム合金熱間圧延板の板厚は4.0mm以下とする。好ましくは3.5mm以下である。
【0048】
局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値:2.0°以下
局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値が低いことは、再結晶集合組織が発達していることを示す。再結晶集合組織が発達していないと、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そこで、本実施形態では、再結晶集合組織を十分に発達させる、すなわち局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値を2.0°以下に制御する。
【0049】
ND-RD断面についてEBSD測定したとき、局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値が2.0°超であると、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値は2.0°以下とする。好ましくは1.5°以下であり、より好ましくは1.2°以下である。
局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値の下限は特に限定しないが、0.5°以上または0.8°以上としてもよい。
【0050】
Cube方位を有する領域の面積率:10~25%
ND-RD断面についてEBSD測定したとき、Cube方位を有する領域の面積率が10%未満であると、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。そのため、Cube方位を有する領域の面積率は10%以上とする。好ましくは15%以上である。
一方、Cube方位を有する領域の面積率が25%超であると、アルミニウム合金板において、圧延方向に対して0°方向および90°方向に過剰に耳が形成される。そのため、Cube方位を有する領域の面積率は25%以下とする。好ましくは20%以下である。
【0051】
局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値およびCube方位を有する領域の面積率の測定方法について以下に説明する。
アルミニウム合金熱間圧延板からND-RD断面(圧延方向に平行な板厚断面)が観察できるようにサンプルを採取する。サンプルの観察面を機械研磨及び電解研磨、あるいはイオンミリング加工する。次に、観察面について電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM-7900F)とEBSD検出器(株式会社TSLソリューションズ製DIGIVIEW5)とで構成されたEBSD装置を用いて、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)測定を行うことで結晶方位情報を得る。測定条件は、倍率を200倍、測定領域を板厚全域×420μm以上とし、視野数を10以上とし、加速電圧を15kVとし、電流値を6~7nAとし、WD(Working Distance)を15mmとし、測定間隔を3.0μmとする。
【0052】
結晶方位情報に対し、EBSD解析装置に付属のOIM Software(株式会社TSLソリューションズ製)を用いることで、隣接する測定点の方位差を算出し、この方位差を局所方位差とみなす。局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値を算出することで、局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値を得る。
【0053】
また、結晶方位情報に対し、EBSD解析装置に付属のOIM Software(株式会社TSLソリューションズ製)を用いることで、Cube方位((100)<001>)およびCube方位から15°以内の角度差を持つ方位を有する領域の面積率を算出する。これにより、Cube方位を有する領域の面積率を得る。
【0054】
次に、本実施形態に係るアルミニウム合金板について説明する。本実施形態に係るアルミニウム合金板は、上述したアルミニウム合金熱間圧延板に対して冷間圧延、必要に応じて最終焼鈍を行った後の板のことをいう。本実施形態に係るアルミニウム合金板は、高い0.2%耐力および優れたDI成形性を有し、且つ製缶後に高い缶体強度を有するため、飲料缶を製造するためのアルミニウム合金板として好適である。
【0055】
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、
化学組成が、質量%で、
Si:0.20~0.35%、
Fe:0.35~0.55%、
Cu:0.15~0.48%、
Mn:0.80~1.15%、
Mg:0.60~1.60%を含み、
残部がAlおよび不純物からなり、
板厚が0.20~1.00mmであり、
Cube方位密度が0.9以上であり、
Cu方位密度が12.5以下であり、
圧延方向の0.2%耐力が220~340MPaであり、
210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化割合が15%以下である。
以下、各規定について説明する。なお、化学組成についてはアルミニウム合金板の製造方法において説明した内容と同様のため、説明を省略する。
【0056】
板厚:0.20~1.00mm
アルミニウム合金板の板厚が0.20mm未満であると、アルミニウム合金板において45°方向耳が過剰に形成される。また、アルミニウム缶成形後の缶体強度が不足する。そのため、アルミニウム合金板の板厚は0.20mm以上とする。
一方、アルミニウム合金板の板厚が1.00mm超であると、DI成形時のしごき率増加により胴切れが発生し易くなる。その結果、歩留まりが低下する。そのため、アルミニウム合金板の板厚は1.00mm以下とする。
【0057】
Cube方位密度:0.9以上
Cube方位密度が0.9未満であると、アルミニウム合金板において深絞り加工(DI加工)後に圧延方向に対して90°方向および270°方向の谷高さが低くなり、後述の耳率を適正範囲にすることができない。そのため、Cube方位密度は0.9以上とする。
Cube方位密度の上限は特に限定しないが、5.0以下としてもよい。
【0058】
Cu方位密度:12.5以下
Cu方位密度が12.5超であると、アルミニウム合金板において深絞り加工(DI加工)後に圧延方向に対して45°方向の山高さが高くなり、後述の耳率を適正範囲にすることができない。そのため、Cu方位密度は12.5以下とする。
Cu方位密度の下限は特に限定しないが、6.0以上としてもよい。
【0059】
Cube方位密度およびCu方位密度の測定方法について以下に説明する。
冷間圧延後または最終焼鈍後のアルミニウム合金板から板表面が測定面となるように直径40mmの円形サンプルを採取する。次に、測定面に対しX線回折装置(株式会社リガク製SmartLab)を用いて、Schultzの反射法(α=20°~90°、β=0°~360°)を行い、(220)、(200)、(111)の不完全極点図を取得する。不完全極点図から、結晶方位分布関数解析ソフトウェア(株式会社ノルム工学製StandardODF)を用い、展開次数22次の級数展開法により、結晶方位分布関数f(ψ1、φ、ψ2)を決定する。ψ1=0°、φ=0°、ψ2=0°の数値をCube方位密度とする。ψ1=90°、φ=30°、ψ2=45°の数値をCu方位密度とする。
【0060】
圧延方向の0.2%耐力:220~340MPa
圧延方向の0.2%耐力が220MPa未満であると、アルミニウム合金板においてDI成形性が劣化し、また缶体強度が低下する。そのため、圧延方向の0.2%耐力は220MPa以上とする。好ましくは250MPa以上である。
一方、圧延方向の0.2%耐力が340MPa超であると、アルミニウム合金板においてDI成形性が劣化する。そのため、圧延方向の0.2%耐力は340MPa以下とする。好ましくは320MPa以下である。
【0061】
圧延方向の0.2%耐力は引張試験を行うことで得る。JIS Z 2241:2011に準拠して、JIS5号試験片を作製し、引張軸をアルミニウム合金板の圧延方向とし、初期ひずみ速度を6.67×10-4/sとして、引張試験を行う。
【0062】
210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化率:15%以下
アルミニウム合金板に対し、210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化率が15%超であると、DI成型時の材料強度と、製缶工程におけるベーキング処理後の材料強度のバランスが悪くなり、DI成型性と缶体強度とを両立して高めることができない。そのため、210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化率は15%以下とする。
210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化率は0%としてもよい。
【0063】
210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力は、アルミニウム合金板を210℃に加熱し、当該温度にて10分間保持した後、上述の方法と同様の方法で引張試験を行うことで得る。熱処理後の0.2%耐力と、熱処理前の0.2%耐力とから、210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化率((|熱処理前の0.2%耐力-熱処理後の0.2%耐力|/熱処理前の0.2%耐力)×100%)を算出する。
【実施例0064】
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0065】
表1Aおよび表1Bに示す化学組成を有するアルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造を行うことでスラブを得た。得られたスラブに対し、表2Aおよび表2Bに示す条件により、表3Aおよび表3Bに示すアルミニウム合金熱間圧延板およびアルミニウム合金板を得た。なお、熱間仕上げ圧延では、シングルリバース方式の熱間仕上げ圧延機を用いた。
【0066】
得られたアルミニウム合金熱間圧延板について、上述の方法により、局所方位差が0~5°である局所方位差の平均値、およびCube方位を有する領域の面積率を求めた。
また、得られたアルミニウム合金板について、上述の方法により、Cube方位密度、圧延方向の0.2%耐力、および210℃にて10分間の熱処理をした時の0.2%耐力の変化率を求めた。更に、アルミニウム合金板について、以下の方法により、耳の発生有無、DI成形性、製缶後の缶体強度を評価した。
【0067】
耳率
アルミニウム合金板の耳の発生抑制の評価として、製缶時における耳率を測定した。
耳率は、エリクセン試験機を用いて、アルミニウム合金板を深絞り加工して得られたカップの側壁高さから計算した。加工条件はポンチ径:33mm(平頭ポンチ)、絞り比:1.75、しわ押さえ力:3kNとした。このカップの側壁高さをデジタルマイクロメーターで測定し、次式により耳率を算出した。
(山平均高さ-谷平均高さ)÷谷平均高さ×100=耳率(%)
なお、圧延方向に対して0°方向および180°方向の山の平均高さと、45°方向、135°方向、225°方向、315°方向の山の平均高さとをそれぞれ求め、いずれか高い方の平均高さを上記式の山平均高さとした。また、90°方向および270°方向の谷平均高さを求め、上式の谷平均高さとした。
【0068】
3つのサンプルについて耳率を測定し、その平均値を求めた。得られた耳率の平均値が2.5%未満であった場合を「○」とし、2.5~3.5%であった場合を「△」とし、3.5%超を「×」として評価した。評価が「○」または「△」であった場合を合格と判定し、「×」であった場合を不合格と判定した。
【0069】
DI成形性
DI成形性は、10000缶の連続製缶時に胴切れが全く発生しなかったものを「○」とし、1缶発生したものを「△」とし、2缶以上発生したものを「×」とした。評価が「○」または「△」であった場合を合格と判定し、「×」であった場合を不合格と判定した。
【0070】
製缶後の缶体強度
成形したアルミ缶(サンプル数=10)に軸方向の圧縮荷重を負荷し、アルミ缶が座屈したときの荷重を測定して、その平均値をコラム強度とした。このコラム強度は、1250N以上であるものを「○」とし、1250N未満1200N以上であるものを「△」とし、1200N未満であるものを「×」とした。評価が「○」または「△」であった場合を合格と判定し、「×」であった場合を不合格と判定した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
表3Aおよび表3Bに示すように、本発明例に係るアルミニウム合金板は、耳の発生が抑制され、高い0.2%耐力および優れたDI成形性を有し、且つ製缶後に高い缶体強度を有することが分かる。
一方、比較例に係るアルミニウム合金板は、いずれか1つ以上の特性が劣化していることが分かる。
本発明に係る上記態様により、冷間圧延時に中間焼鈍を行うことなく、耳の発生が抑制され、高い0.2%耐力および優れたDI成形性を有し、且つ製缶後に高い缶体強度を有するアルミニウム合金板を製造することができるアルミニウム合金板の製造方法を提供することができる。
また、上述のアルミニウム合金板、およびこのアルミニウム合金板を製造できるアルミニウム合金熱間圧延板を提供することができる。
上記態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、冷間圧延時の中間焼鈍を省略し、熱間仕上げ圧延工程において集合組織の制御を行うため、更なる省エネルギー化、省工程化に寄与する。上記態様に係るアルミニウム合金板は、高い0.2%耐力および優れたDI成形性を有し、且つ製缶後に高い缶体強度を有するため、飲料缶を製造するためのアルミニウム合金板として好適である。