(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073055
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】移動体位置推定装置及び移動体位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/48 20100101AFI20240522BHJP
G01S 13/50 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G01S19/48
G01S13/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184047
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】飯島 一貴
【テーマコード(参考)】
5J062
5J070
【Fターム(参考)】
5J062BB01
5J062CC07
5J062CC17
5J062FF01
5J062FF02
5J070AC06
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】本開示は、移動体の現在位置を推定するためのデッドレコニング技術において、車輪速パルス発生装置を搭載する大規模な工事を必要とすることなく、高精度に移動体の現在位置を推定することを目的とする。
【解決手段】本開示は、移動体に搭載され移動体の速度を計測するレーダ装置5から、移動体の速度の情報及びレーダ装置5の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度の情報を取得し、移動体に搭載され移動体の速度を計測する衛星測位装置6から、移動体の速度の情報を取得する移動体データ取得部81と、レーダ装置5の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が高いときに、レーダ装置5が計測した移動体の速度を選択し、レーダ装置5の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が低いときに、衛星測位装置6が計測した移動体の速度を選択する速度選択部82と、を備える移動体位置推定装置8である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され前記移動体の速度を計測するレーダ装置から、前記移動体の速度の情報及び前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度の情報を取得し、前記移動体に搭載され前記移動体の速度を計測する衛星測位装置から、前記移動体の速度の情報を取得し、前記移動体に搭載され前記移動体の角速度を計測する角速度センサから、前記移動体の角速度の情報を取得する移動体データ取得部と、
前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が第1所定値より高いときに、前記レーダ装置が計測した前記移動体の速度を選択し、前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が前記第1所定値より低いときに、前記衛星測位装置が計測した前記移動体の速度を選択する速度選択部と、
前記速度選択部が選択した前記移動体の速度の時間積分値と、前記角速度センサが計測した前記移動体の角速度の時間積分値と、前記移動体の初期位置と、に基づいて、前記移動体の現在位置を推定する位置推定部と、
を備えることを特徴とする移動体位置推定装置。
【請求項2】
前記移動体データ取得部は、前記衛星測位装置から、前記移動体の速度の情報に加えて前記衛星測位装置の計測信頼度の情報を取得し、前記移動体に搭載され前記移動体の加速度を計測する加速度センサから、前記移動体の加速度の情報を取得し、
前記速度選択部は、前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が前記第1所定値より低いとともに、前記衛星測位装置の計測信頼度が第2所定値より高いときに、前記衛星測位装置が計測した前記移動体の速度を選択し、前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が前記第1所定値より低いとともに、前記衛星測位装置の計測信頼度が前記第2所定値より低いときに、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択する
ことを特徴とする、請求項1に記載の移動体位置推定装置。
【請求項3】
前記速度選択部は、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択するにあたり、前記レーダ装置又は前記衛星測位装置の計測信頼度が直近に前記第1所定値又は前記第2所定値より高かったときに選択した前記移動体の速度に対して、前記レーダ装置及び前記衛星測位装置の計測信頼度が直後に前記第1所定値及び前記第2所定値より低くなってから時間積分した前記移動体の加速度を加算する
ことを特徴とする、請求項2に記載の移動体位置推定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の移動体位置推定装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを、コンピュータに実行させるための移動体位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体の現在位置を推定するためのデッドレコニング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の現在位置を推定するためのデッドレコニング技術が、特許文献1~3等に開示されている。デッドレコニング技術は、衛星測位装置が受信可能であるときに、衛星測位装置が計測した衛星測位位置に基づいて、移動体の現在位置を推定し、衛星測位装置が受信不能であるときに、車輪速パルス発生装置及び加速度/角速度センサを用いて、移動体の現在位置を推定する。
【0003】
従来技術の移動体位置推定システムの構成を
図1に示す。従来技術の移動体位置推定処理の手順を
図2に示す。従来技術の移動体位置推定システムL1は、衛星測位装置1、車輪速パルス発生装置2、加速度/角速度センサ3及び移動体位置推定装置4を備える。従来技術の移動体位置推定装置4は、移動体データ取得部41及び位置推定部42を備える。
【0004】
移動体データ取得部41は、(1)移動体に搭載され移動体の位置を計測する衛星測位装置1から、移動体の位置の情報及び衛星測位装置1の計測信頼度(測位位置の精度の目安値)の情報を取得し、(2)移動体に搭載され車軸の回転数に基づくパルス信号を発生させる車輪速パルス発生装置2から、移動体の速度の情報を取得し、(3)移動体に搭載され移動体の加速度及び角速度を計測する加速度/角速度センサ3から、移動体の加速度及び角速度の情報を取得する(ステップS1)。なお、加速度/角速度センサ3は、別個センサでもよく一体センサでもよい。
【0005】
位置推定部42は、衛星測位装置1の計測信頼度が所定値より高いときに(ステップS2、YES)、衛星測位装置1が計測した衛星測位位置に基づいて、移動体の現在位置を推定する(ステップS3)。位置推定部42は、衛星測位装置1の計測信頼度が所定値より低いときに(ステップS2、NO)、車輪速パルス発生装置2が出力した車軸の回転数に基づくパルス信号と、加速度/角速度センサ3が計測した移動体の加速度及び角速度と、に基づいて、移動体の現在位置を推定する(ステップS4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5036462号公報
【特許文献2】特許第6201762号公報
【特許文献3】特許第6215915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、車輪速パルス発生装置2は、車軸の回転数に基づくパルス信号を出力し、加速度/角速度センサ3は、オフセット成分を含む移動体の加速度を計測する。一般に加速度/角速度センサ3が計測する加速度を時間積分することによって得られる移動体の速度の情報は、前述のオフセット成分による積分誤差を含み、時間経過に伴い誤差は増加することが知られている。一方、パルス信号から得られる速度は、算出の過程に積分を含まないため、時間経過に伴って誤差が増加することはない。そのため、パルス信号から得られる速度の情報の方が、加速度を時間積分した速度よりも一般に精度が良い。位置推定部42は、移動体の速度と、加速度/角速度センサ3が計測する角速度に基づいて移動体の現在位置を推定するが、前述の積分誤差の有無により車輪速パルス発生装置2が出力した車軸の回転数に基づくパルス信号から得られる移動体の速度の情報を用いる方が、加速度/角速度センサ3が計測した移動体の加速度を時間積分することによって得られる移動体の速度の情報を用いるよりも、高精度に移動体の現在位置を推定することが可能である。
【0008】
しかし、列車、農業機械及び建設機械等の移動体では、車輪速パルス発生装置2が搭載されていないことがあり、そのような車両に車輪速パルス発生装置2を搭載する為には、車両に応じて車軸駆動部分等へアクセスするような大規模な工事が必要である。また車輪速パルス発生装置2が搭載されている場合であっても、車輪の空転等によって正確な速度を計測できない場合がある。
【0009】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、移動体の現在位置を推定するためのデッドレコニング技術において、車輪速パルス発生装置を搭載する大規模な工事を必要とすることなく、高精度に移動体の現在位置を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、車輪速パルス発生装置による速度情報の取得に代えて、レーダ装置により速度情報を取得する。ここで、レーダ装置は、車輪速パルス発生装置と比べて、大規模な工事を必要とせず容易に設置が可能であり、照射波と反射波との間のドップラーシフトを計測することで速度情報を取得することができる。またレーダ装置は反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度も計算する。
【0011】
そして、レーダ装置が取得した速度、衛星測位装置が取得した速度及び加速度を時間積分した速度は、一般にこの順序で精度が良い。そこで、レーダ装置が取得した速度、衛星測位装置が取得した速度及び加速度を時間積分した速度を、この順序で優先的に用いて、移動体の現在位置を推定する。
【0012】
ただし、レーダ装置、衛星測位装置及び加速度センサは、移動体の外部環境の悪影響を受けて速度精度が劣化する場合があることを考慮する必要がある。そこで、レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が低いときに、衛星測位装置を用いて、移動体の現在位置を推定する。さらに、衛星測位装置の計測信頼度も低いときに、加速度センサを用いて、移動体の現在位置を推定する。
【0013】
具体的には、本開示は、移動体に搭載され前記移動体の速度を計測するレーダ装置から、前記移動体の速度の情報及び前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度の情報を取得し、前記移動体に搭載され前記移動体の速度を計測する衛星測位装置から、前記移動体の速度の情報を取得し、前記移動体に搭載され前記移動体の角速度を計測する角速度センサから、前記移動体の角速度の情報を取得する移動体データ取得部と、前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が第1所定値より高いときに、前記レーダ装置が計測した前記移動体の速度を選択し、前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が前記第1所定値より低いときに、前記衛星測位装置が計測した前記移動体の速度を選択する速度選択部と、前記速度選択部が選択した前記移動体の速度の時間積分値と、前記角速度センサが計測した前記移動体の角速度の時間積分値と、前記移動体の初期位置と、に基づいて、前記移動体の現在位置を推定する位置推定部と、を備えることを特徴とする移動体位置推定装置である。
【0014】
この構成によれば、車輪速パルス発生装置を搭載する大規模な工事を必要とすることなく、高精度に移動体の現在位置を推定することができる。
【0015】
そして、移動体の速度の計測精度を考慮して、レーダ装置が計測した速度及び衛星測位装置が計測した速度を、この順序で優先的に用いて、移動体の現在位置を推定することができる。さらに、移動体の外部環境による速度精度の劣化を考慮して、レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が低いときに、衛星測位装置が計測した速度を用いて、移動体の現在位置を推定することができる。
【0016】
また、本開示は、前記移動体データ取得部は、前記衛星測位装置から、前記移動体の速度の情報に加えて前記衛星測位装置の計測信頼度の情報を取得し、前記移動体に搭載され前記移動体の加速度を計測する加速度センサから、前記移動体の加速度の情報を取得し、前記速度選択部は、前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が前記第1所定値より低いとともに、前記衛星測位装置の計測信頼度が第2所定値より高いときに、前記衛星測位装置が計測した前記移動体の速度を選択し、前記レーダ装置の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が前記第1所定値より低いとともに、前記衛星測位装置の計測信頼度が前記第2所定値より低いときに、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択することを特徴とする移動体位置推定装置である。
【0017】
この構成によれば、移動体の速度及び加速度の計測精度を考慮して、衛星測位装置が計測した速度及び加速度を時間積分した速度を、この順序で優先的に用いて、移動体の現在位置を推定することができる。さらに、移動体の外部環境による速度精度の劣化を考慮して、衛星測位装置の計測信頼度も低いときに、加速度を時間積分した速度を用いて、移動体の現在位置を推定することができる。
【0018】
また、本開示は、前記速度選択部は、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択するにあたり、前記レーダ装置又は前記衛星測位装置の計測信頼度が直近に前記第1所定値又は前記第2所定値より高かったときに選択した前記移動体の速度に対して、前記レーダ装置及び前記衛星測位装置の計測信頼度が直後に前記第1所定値及び前記第2所定値より低くなってから時間積分した前記移動体の加速度を加算することを特徴とする移動体位置推定装置である。
【0019】
この構成によれば、加速度センサを用いて、オフセット成分を含む移動体の加速度を計測したとしても、移動体の加速度の積分区間を限定することにより、初期時刻からのオフセット成分を全て重畳させることがなく、移動体の速度に対する積分誤差の影響を最小限にすることができる。
【0020】
また、本開示は、以上に記載の移動体位置推定装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを、コンピュータに実行させるための移動体位置推定プログラムである。
【0021】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本開示は、移動体の現在位置を推定するためのデッドレコニング技術において、車輪速パルス発生装置を搭載する大規模な工事を必要とすることなく、高精度に移動体の現在位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来技術の移動体位置推定システムの構成を示す図である。
【
図2】従来技術の移動体位置推定処理の手順を示す図である。
【
図3】本開示の移動体位置推定システムの構成を示す図である。
【
図4】本開示の移動体位置推定処理の手順を示す図である。
【
図5】本開示のレーダ装置で取得した速度又は衛星測位装置で取得した速度の選択処理の具体例を示す図である。
【
図6】本開示の衛星測位装置で取得した速度又は加速度積分値の選択処理の具体例を示す図である。
【
図7】本開示の加速度積分値の算出処理の具体例を示す図である。
【
図8】本開示の移動体位置推定システムの実験例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0025】
(本開示の移動体位置推定システムの構成)
本開示の移動体位置推定システムの構成を
図3に示す。本開示の移動体位置推定処理の手順を
図4に示す。本開示の移動体位置推定システムL2は、レーダ装置5、衛星測位装置6、加速度/角速度センサ7及び移動体位置推定装置8を備える。本開示の移動体位置推定装置8は、移動体データ取得部81、速度選択部82及び位置推定部83を備える。
【0026】
移動体は、列車、農機、建機又は自動車等であるが、これに限らない。レーダ装置5は、移動体位置推定装置8の外部に接続される、レーダ装置等である。衛星測位装置6は、移動体位置推定装置8の外部に接続される、GNSS受信機等である。加速度/角速度センサ7は、移動体位置推定装置8に内蔵される、慣性センサ等である。なお、加速度/角速度センサ7は、別個センサでもよく一体センサでもよい。移動体位置推定装置8は、
図4に示した移動体位置推定プログラムをコンピュータにインストールし実現することができる。
【0027】
つまり、車輪速パルス発生装置2に代えて、レーダ装置5を用いる。ここで、レーダ装置5は、車輪速パルス発生装置2と比べて、大規模な工事を必要とせず容易に設置が可能であり、照射波と反射波との間のドップラーシフトを計測することで速度情報を取得することができる。
【0028】
そして、レーダ装置5、衛星測位装置6及び加速度/角速度センサ7は、一般にこの順序で高精度に移動体の速度及び加速度を計測することができる。そこで、レーダ装置5が計測した速度、衛星測位装置6が計測した速度及び加速度/角速度センサ7が計測した加速度を時間積分した速度を、この順序で優先的に用いて、移動体の現在位置を推定する。
【0029】
ただし、レーダ装置5、衛星測位装置6及び加速度/角速度センサ7は、移動体の外部環境の悪影響を受けて速度精度が劣化する場合があることを考慮する必要がある。そこで、レーダ装置5の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が低いときに、衛星測位装置6を用いて、移動体の現在位置を推定する。さらに、衛星測位装置6の計測信頼度も低いときに、加速度/角速度センサ7を用いて、移動体の現在位置を推定する。以下に、本開示の移動体位置推定処理の手順を具体的に説明する。
【0030】
(本開示のレーダ装置で取得した速度又は衛星測位装置で取得した速度の選択処理)
本開示のレーダ装置で取得した速度又は衛星測位装置で取得した速度の選択処理について、構成及びフローを
図3、4に示し、具体例を
図5に示す。移動体データ取得部81は、移動体に搭載され移動体の速度V
Rを計測するレーダ装置5から、移動体の速度V
Rの情報及びレーダ装置5の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度の情報を取得し、移動体に搭載され移動体の速度V
Gを計測する衛星測位装置6から、移動体の速度V
Gの情報を取得し、移動体に搭載され移動体の角速度ωを計測する加速度/角速度センサ7から、移動体の角速度ωの情報を取得する(ステップS5)。
【0031】
移動体データ取得部81は、移動体に搭載され移動体の速度VGを計測する衛星測位装置6から、衛星測位装置6の計測信頼度の情報も取得し、移動体に搭載され移動体の加速度aを計測する加速度/角速度センサ7から、移動体の加速度aの情報も取得する(ステップS5)。衛星測位装置6の計測信頼度の情報及び移動体の加速度aの情報は、(本開示のレーダ装置で取得した速度又は衛星測位装置で取得した速度の選択処理)において使用されず、(本開示の衛星測位速度又は加速度積分値の選択処理)において使用される。
【0032】
速度選択部82は、レーダ装置5の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が第1所定値より高いときに(ステップS6、YES)、レーダ装置5が計測した移動体の速度VRを、現在速度Vtとして選択する(ステップS7)。速度選択部82は、レーダ装置5の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が第1所定値より低いときに(ステップS6、NO)、衛星測位装置6が計測した移動体の速度VGを、現在速度Vtとして暫定的に選択する(ステップS9)。ステップS8については、後述する。
【0033】
位置推定部83は、速度選択部82が選択した移動体の速度(初期速度V0~現在速度Vt)の時間積分値と、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の角速度ωの時間積分値と、移動体の初期位置(衛星測位装置6が初期段階で計測可能)と、に基づいて、移動体の現在位置を推定する(ステップS11)。
【0034】
図5の上欄では、レーダ装置5は、車両Vの先頭に搭載され、路面Rの反射物に対して、レーダを照射したうえで、反射波を十分な強度で受信することができる。そこで、レーダ装置5は、反射波の受信電力及び/又はSN比に基づいて、計測信頼度のフラグを「OK」に設定する(ステップS6、YES)。すると、速度選択部82は、レーダ装置5が計測した高精度な移動体の速度V
Rを、現在速度V
tとして選択する(ステップS7)。
【0035】
図5の下欄では、レーダ装置5は、車両Vの先頭に搭載され、路面Rの反射物に対して、レーダを照射するものの、積雪Pによる路面Rの反射物の遮蔽のため、反射波を十分な強度で受信することができない。そこで、レーダ装置5は、反射波の受信電力及び/又はSN比に基づいて、計測信頼度のフラグを「NG」に設定する(ステップS6、NO)。すると、速度選択部82は、衛星測位装置6が計測した中精度な移動体の速度V
Gを、現在速度V
tとして選択する(ステップS9)。
【0036】
よって、車輪速パルス発生装置2を搭載する大規模な工事を必要とすることなく、高精度に移動体の現在位置を推定することができる。そして、移動体の速度の計測精度を考慮して、レーダ装置5及び衛星測位装置6を、この順序で優先的に用いて、移動体の現在位置を推定することができる。さらに、移動体の外部環境の悪影響による速度精度の劣化を考慮して、レーダ装置5の反射波の受信電力及び/又はSN比に基づく計測信頼度が低いときに、衛星測位装置6を用いて、移動体の現在位置を推定することができる。
【0037】
(本開示の衛星測位速度又は加速度積分値の選択処理)
本開示の衛星測位速度又は加速度積分値の選択処理について、構成及びフローを
図3、4に示し、具体例を
図6に示す。移動体データ取得部81は、(本開示のレーダ装置で取得した速度又は衛星測位装置で取得した速度の選択処理)において説明したように、衛星測位装置6から、移動体の速度V
Gの情報に加えて衛星測位装置6の計測信頼度の情報をすでに取得しており、加速度/角速度センサ7から、移動体の角速度ωの情報に加えて移動体の加速度aの情報をすでに取得している(ステップS5)。
【0038】
速度選択部82は、レーダ装置5の計測信頼度が第1所定値より低いとともに(ステップS6、NO)、衛星測位装置6の計測信頼度が第2所定値より高いときに(ステップS8、YES)、衛星測位装置6が計測した移動体の速度VGを、現在速度Vtとして選択する(ステップS9)。速度選択部82は、レーダ装置5の計測信頼度が第1所定値より低いとともに(ステップS6、NO)、衛星測位装置6の計測信頼度が第2所定値より低いときに(ステップS8、NO)、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の加速度aの時間積分値を、現在速度Vtとして選択する(ステップS10)。
【0039】
位置推定部83は、速度選択部82が選択した移動体の速度(初期速度V0~現在速度Vt)の時間積分値と、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の角速度ωの時間積分値と、移動体の初期位置(衛星測位装置6が初期段階で計測可能)と、に基づいて、移動体の現在位置を推定する(ステップS11)。
【0040】
図6の左上欄では、衛星測位装置6のアンテナは、車両Vのルーフトップに設置され、山岳M内のトンネルに遮られず、4基以上の測位衛星Sから、衛星信号を受信することができる。そこで、衛星測位装置6は、捕捉可能な衛星数が多いことに基づいて、計測信頼度のフラグを「OK」に設定する(ステップS8、YES)。すると、速度選択部82は、衛星測位装置6が計測した中精度な移動体の速度V
Gを、現在速度V
tとして選択する(ステップS9)。
【0041】
図6の中上欄では、衛星測位装置6のアンテナは、車両Vのルーフトップに設置され、幾何学的配置が十分にばらついている4基以上の測位衛星Sから、衛星信号を受信することができる。そこで、衛星測位装置6は、DOP(Dilution Of Precision、測位衛星Sの幾何学的配置による測位精度低下率、一般に値が小さいと測位精度が向上する)が小さいことに基づいて、計測信頼度のフラグを「OK」に設定する(ステップS8、YES)。すると、速度選択部82は、衛星測位装置6が計測した中精度な移動体の速度V
Gを、現在速度V
tとして選択する(ステップS9)。
【0042】
図6の右上欄では、衛星測位装置6のアンテナは、車両Vのルーフトップに設置され、近傍の遮蔽物C等に遮られず、4基以上の測位衛星Sから、十分な強度で衛星信号を受信することができる。そこで、衛星測位装置6は、精度指標の半径E(測位位置の精度を円半径で表し、半径が小さいほど位置精度が良い。)が小さいことに基づいて、計測信頼度のフラグを「OK」に設定する(ステップS8、YES)。すると、速度選択部82は、衛星測位装置6が計測した中精度な移動体の速度V
Gを、現在速度V
tとして選択する(ステップS9)。
【0043】
なお、
図6の左上欄、中上欄及び右上欄のうち、「全て」の条件を満たした場合に、衛星測位装置6の計測信頼度のフラグを「OK」に設定したうえで、衛星測位装置6が計測した中精度な移動体の速度V
Gを、現在速度V
tとして選択することが望ましい。
【0044】
図6の左下欄では、衛星測位装置6のアンテナは、車両Vのルーフトップに設置されてはいるものの、山岳M内のトンネルに遮られて、どの測位衛星Sからも、衛星信号を受信することができない。そこで、衛星測位装置6は、捕捉可能な衛星数が少ないことに基づいて、計測信頼度のフラグを「NG」に設定する(ステップS8、NO)。すると、速度選択部82は、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の加速度aの時間積分値を、現在速度V
tとして選択する(ステップS10)。
【0045】
図6の中下欄では、衛星測位装置6のアンテナは、車両Vのルーフトップに設置され、4基以上の測位衛星Sから衛星信号を受信できてはいるものの、測位衛星Sの幾何学的配置が十分にばらついていないため測位精度が劣化する。そこで、衛星測位装置6は、DOP(Dilution Of Precision、測位衛星Sの幾何学的配置による測位精度低下率、一般に値が小さいと測位精度が向上する)が大きいことに基づいて、計測信頼度のフラグを「NG」に設定する(ステップS8、NO)。すると、速度選択部82は、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の加速度aの時間積分値を、現在速度V
tとして選択する(ステップS10)。
【0046】
図6の右下欄では、衛星測位装置6のアンテナは、車両Vのルーフトップに設置されてはいるものの、近傍の遮蔽物C等に遮られて、測位衛星Sからマルチパス信号を受信することになり、測位精度が劣化する。そこで、衛星測位装置6は、精度指標の半径E(測位位置の精度を円半径で表し、半径が小さいほど位置精度が良い。)が大きいことに基づいて、計測信頼度のフラグを「NG」に設定する(ステップS8、NO)。すると、速度選択部82は、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の加速度aの時間積分値を、現在速度V
tとして選択する(ステップS10)。
【0047】
なお、
図6の左下欄、中下欄及び右下欄のうち、「いずれか」の条件を満たした場合に、衛星測位装置6の計測信頼度のフラグを「NG」に設定したうえで、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の加速度aの時間積分値を、現在速度V
tとして選択することが望ましい。
【0048】
よって、衛星測位装置6が計測した移動体の速度及びオフセット成分による誤差を含む移動体の加速度の計測精度を考慮して、衛星測位装置6及び加速度/角速度センサ7を、この順序で優先的に用いて、移動体の現在位置を推定することができる。さらに、移動体の外部環境による測位精度の劣化を考慮して、衛星測位装置6の計測信頼度も低いときに、加速度/角速度センサ7を用いて、移動体の現在位置を推定することができる。
【0049】
(本開示の加速度積分値の算出処理)
本開示の加速度積分値の算出処理について、構成及びフローを
図3、4に示し、具体例を
図7に示す。速度選択部82は、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の加速度aの時間積分値を、現在速度V
tとして選択するが(ステップS10)、ステップS10の方法として、以下の2種類の方法が考えられる。
【0050】
図7の上段では、速度選択部82は、レーダ装置5又は衛星測位装置6の計測信頼度が初期(時刻0)に第1所定値又は第2所定値より高かったときに選択した移動体の速度V
0(=V
R又はV
G)に対して、レーダ装置5及び衛星測位装置6の計測信頼度が現在(時刻t)に第1所定値及び第2所定値より低くなるときまでに取得した加速度aを時間積分(区間0~t)して得られた速度を加算する。具体的には、数式1の計算を実行する。
【数1】
【0051】
しかし、数式1の計算では、加速度/角速度センサ7を用いて、オフセット成分を含む移動体の加速度aを初期時刻0から全て計測するため、移動体の加速度aの積分区間を限定することができず、初期時刻0からのオフセット成分を全て重畳させることになり、移動体の速度に対する積分誤差の影響を強く受けてしまう。
【0052】
図7の下段では、速度選択部82は、レーダ装置5又は衛星測位装置6の計測信頼度が直近(時刻t-Δt)に第1所定値又は第2所定値より高かったときに選択した移動体の速度V
t-Δt(=V
R又はV
G)に対して、レーダ装置5及び衛星測位装置6の計測信頼度が直後(時刻t)に第1所定値及び第2所定値より低くなってから取得した加速度aを時間積分(区間t-Δt~t)して得られた速度を加算する。具体的には、数式2の計算を実行する。
【数2】
【0053】
よって、数式2の計算では、加速度/角速度センサ7を用いて、オフセット成分を含む移動体の加速度aを計測したとしても、移動体の加速度aの積分区間を限定することにより、初期時刻0からのオフセット成分を全て重畳させることがなく、移動体の速度に対する積分誤差の影響を最小限にすることができる。
【0054】
なお、移動体の停止時において、重力加速度のみが移動体に印加されていることに基づいて、加速度aのオフセット成分を推定し、加速度aからオフセット成分を除去したうえで積分してもよい。また、移動体の走行時において、レーダ装置5又は衛星測位装置6が計測した移動体の速度VR又はVGに基づいて、加速度aのオフセット成分を推定し、加速度aからオフセット成分を除去したうえで積分してもよい。
【0055】
(本開示の移動体位置推定システムの実験例)
本開示の移動体位置推定システムの実験例を
図8に示す。
図8の上段では、レーダ装置5は、車両Vの先頭に搭載され、路面Rの反射物に対して、レーダを照射したうえで、反射波を十分な強度で受信することができる。ただし、レーダ装置5は、
図5で前述したように、反射波を十分な強度で受信することができないこともある。よって、速度選択部82は、レーダ装置5が計測した高精度な移動体の速度V
Rを、現在速度V
tとして選択することができることもあるが(
図8の上段のグラフが繋がっている部分)、現在速度V
tとして選択することができないこともある(
図8の上段のグラフが途切れている部分)。
【0056】
図8の下段では、衛星測位装置6のアンテナは、車両Vのルーフトップに設置され、複数台の測位衛星Sから、衛星信号を十分な強度で受信することができ、衛星測位装置6が計測する測位情報の精度を向上させることができる。ただし、衛星測位装置6は、
図6で前述したように、衛星信号を十分な強度で受信することができないこともあり、衛星測位装置6が計測する測位情報の精度が劣化することもある。よって、速度選択部82は、衛星測位装置6が計測した中精度な移動体の速度V
Gを、現在速度V
tとして選択することができることもあるが、現在速度V
tとして選択することができないこともある。このように衛星測位装置6が計測した中精度な移動体の速度V
Gを選択できない場合には、速度選択部82は、
図5、6で前述した加速度/角速度センサ7が計測した移動体の加速度aの時間積分値(路面Rの反射物の有無や、衛星数によらず取得可能)を、現在速度V
tとして選択することもできる。
【0057】
よって、速度選択部82は、レーダ装置5が計測する移動体の速度VRが欠損しても、衛星測位装置6が計測した中精度な移動体の速度VGで補間してもよく、加速度/角速度センサ7が計測した移動体の加速度aの時間積分値で補間してもよい。つまり、位置推定部83は、状況に応じて選択された移動体の速度情報を用いることで欠損なく、リアルタイムに現在位置を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示の移動体位置推定装置及び移動体位置推定プログラムは、レーダの反射物となる物標を検出可能な環境であれば、移動体の現在位置を推定することができる。
【符号の説明】
【0059】
L1、L2:移動体位置推定システム
V:車両
R:路面
P:積雪
S:測位衛星
M:山岳
E:精度指標の半径
C:近傍の遮蔽物
1:衛星測位装置
2:車輪速パルス発生装置
3:加速度/角速度センサ
4:移動体位置推定装置
5:レーダ装置
6:衛星測位装置
7:加速度/角速度センサ
8:移動体位置推定装置
41:移動体データ取得部
42:位置推定部
81:移動体データ取得部
82:速度選択部
83:位置推定部