(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073063
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】車両用シートのシートバック
(51)【国際特許分類】
B60N 2/64 20060101AFI20240522BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240522BHJP
B60N 2/68 20060101ALI20240522BHJP
B60N 2/427 20060101ALI20240522BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B60N2/64
B60R21/207
B60N2/68
B60N2/427
B68G7/05 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184058
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉賀 謙祐
(72)【発明者】
【氏名】治根田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】上林 貴
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅史
【テーマコード(参考)】
3B087
3D054
【Fターム(参考)】
3B087CD05
3B087DB02
3D054AA01
3D054AA07
3D054AA21
3D054DD13
3D054FF01
(57)【要約】
【課題】エアバッグ及びインフレータを収納するクッション部材の収納部内において第1力布及び第2力布の端部どうしを接合する接合部材に、インフレータが発生する熱を及び難くする。
【解決手段】収納部40が形成されたクッション部材20の内部に設けられたサイドフレーム54と、クッション部材の表面を覆う表皮材76と、収納部に折り畳まれた状態で収納されるエアバッグ74と、収納部に設けられたインフレータ64と、一端部92Aが開裂部に接続された第1力布92と、一端部96Aが開裂部に接続され且つ他端部96Bが第1力布の他端部92Bに接続された第2力布96と、収納部において第1力布及び第2力布の他端部どうしを接合する接合部材98と、を備え、インフレータの軸線64Xに沿って見たときに、サイドフレームの前端部58がインフレータより前方に位置し且つ接合部材がサイドフレームの前端部より前方に位置する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側部に中空の収納部が形成されたクッション部材と、
前記クッション部材の内部に設けられたシートバックフレームの側部をなすサイドフレームと、
前記クッション部材の表面を覆う表皮材と、
前記収納部に折り畳まれた状態で収納されるエアバッグと、
前記サイドフレームに固定された状態で前記収納部に設けられ、前記エアバッグが前記表皮材の一部に形成された開裂部を開裂させながら前記表皮材の外側に膨張するように前記エアバッグにガスを供給可能な筒状のインフレータと、
一端部が前記開裂部に接続された第1力布と、
一端部が前記開裂部に接続され且つ他端部が前記第1力布の他端部に接続された、前記第1力布との間に前記エアバッグ及び前記インフレータを収納する収納空間を形成する第2力布と、
前記収納部において前記第1力布及び前記第2力布の前記他端部どうしを接合する接合部材と、
を備え、
前記インフレータの軸線に沿って見たときに、前記サイドフレームの前端部が前記インフレータより前方に位置し、且つ、前記接合部材が前記サイドフレームの前記前端部より前方に位置する車両用シートのシートバック。
【請求項2】
前記収納部の前記シートバックの幅方向内側の端面である内側端面と、前記第1力布及び前記第2力布の前記他端部とが対向する請求項1に記載の車両用シートのシートバック。
【請求項3】
前記インフレータの前記軸線に沿って見たときに、前記収納部の前端面が前記サイドフレームの前記前端部より前方に位置し、
前記収納部の前記前端面と前記内側端面とが接続する部位と、前記第1力布及び前記第2力布の前記他端部とが対向する請求項2に記載の車両用シートのシートバック。
【請求項4】
前記第1力布及び前記第2力布の前記一端部が、第1縫製糸によって前記開裂部に縫い付けられ、
前記第1力布及び前記第2力布の前記他端部が、前記第1縫製糸より強度が高い第2縫製糸によって互いに縫い付けられた請求項1又は請求項2に記載の車両用シートのシートバック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのシートバックに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には車両用シートが開示されている。この車両用シートのシートバックは、一方の側面に収納部(凹部)が形成されたクッション部材と、収納部に折り畳まれた状態で収納されるエアバッグと、収納部に設けられたインフレータと、を備える。さらにシートバックは、クッション部材の表面を覆い且つ開裂部が形成された表皮材を備える。さらに表皮材の開裂部には、第1力布及び第2力布の一端部が接続されている。
【0003】
この車両用シートが搭載された車両に衝突が発生することに起因してインフレータがガスを発生すると、このガスが供給されたエアバッグが、開裂部を開裂させながら表皮材の外側に膨張する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで第1力布及び第2力布の他端部を収納部内に位置させ、第1力布及び第2力布の他端部を縫製糸で縫い付ける場合を想定する。この場合は、ガス発生時にインフレータが発生する熱によって縫製糸が大きな影響を受けるおそれがある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、エアバッグ及びインフレータを収納するクッション部材の収納部内において第1力布及び第2力布の端部どうしを接合する接合部材に、インフレータが発生する熱の影響が及び難くすることが可能な車両用シートのシートバックを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明に係る車両用シートのシートバックは、側部に中空の収納部が形成されたクッション部材と、前記クッション部材の内部に設けられたシートバックフレームの側部をなすサイドフレームと、前記クッション部材の表面を覆う表皮材と、前記収納部に折り畳まれた状態で収納されるエアバッグと、前記サイドフレームに固定された状態で前記収納部に設けられ、前記エアバッグが前記表皮材の一部に形成された開裂部を開裂させながら前記表皮材の外側に膨張するように前記エアバッグにガスを供給可能な筒状のインフレータと、一端部が前記開裂部に接続された第1力布と、一端部が前記開裂部に接続され且つ他端部が前記第1力布の他端部に接続された、前記第1力布との間に前記エアバッグ及び前記インフレータを収納する収納空間を形成する第2力布と、前記収納部において前記第1力布及び前記第2力布の前記他端部どうしを接合する接合部材と、を備え、前記インフレータの軸線に沿って見たときに、前記サイドフレームの前端部が前記インフレータより前方に位置し、且つ、前記接合部材が前記サイドフレームの前記前端部より前方に位置する。
【0008】
請求項1のシートバックをインフレータの軸線に沿って見たときに、サイドフレームの前端部がインフレータより前方に位置し、且つ、第1力布及び第2力布の他端部どうしを接合する接合部材がサイドフレームの前端部より前方に位置する。即ち、インフレータと接合部材の前後方向の距離はある程度の長さである。そのため、クッション部材の収納部にある接合部材に、ガス発生時にインフレータが発生する熱の影響が及び難い。
【0009】
請求項2に記載の発明に係る車両用シートのシートバックは、請求項1に記載の車両用シートのシートバックにおいて、前記収納部の前記シートバックの幅方向内側の端面である内側端面と、前記第1力布及び前記第2力布の前記他端部とが対向する。
【0010】
仮に収納部のシートバックの幅方向外側の端部に第1力布及び第2力布の他端部が位置する場合は、第1力布及び第2力布の他端部が表皮材の内面を押し、当該他端部によって押された表皮材の一部が表皮材の外側に盛り上がるおそれがある。しかし請求項2のシートバックでは、収納部の内側端面と第1力布及び第2力布の他端部とが対向する。そのため、第1力布及び第2力布の他端部によって、表皮材の一部が外周側に盛り上がるおそれはない。
【0011】
請求項3に記載の発明に係る車両用シートのシートバックは、請求項2に記載の車両用シートのシートバックにおいて、前記インフレータの前記軸線に沿って見たときに、前記収納部の前端面が前記サイドフレームの前記前端部より前方に位置し、前記収納部の前記前端面と前記内側端面とが接続する部位と、前記第1力布及び前記第2力布の前記他端部とが対向する。
【0012】
請求項3のシートバックでは、収納部の前端面と内側端面とが接続する部位と、第1力布及び第2力布の他端部とが対向する。そのため、インフレータと接合部材の前後方向の距離が長い。そのため、クッション部材の収納部にある接合部材に、インフレータが発生する熱の影響がより及び難くなる。
【0013】
請求項4に記載の発明に係る車両用シートのシートバックは、請求項1又は請求項2に記載の車両用シートのシートバックにおいて、前記第1力布及び前記第2力布の前記一端部が、第1縫製糸によって前記開裂部に縫い付けられ、前記第1力布及び前記第2力布の前記他端部が、前記第1縫製糸より強度が高い第2縫製糸によって互いに縫い付けられた。
【0014】
請求項4のシートバックでは、第1力布及び第2力布の一端部が第1縫製糸によって開裂部に縫い付けられ、且つ、第1力布及び第2力布の他端部が、第1縫製糸より強度が高い第2縫製糸によって互いに縫い付けられる。そのため、第2縫製糸の強度が第1縫製糸の強度以下の場合と比べて、インフレータが発生する熱の影響によって第2縫製糸が損傷し難い。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明に係る車両用シートのシートバックによれば、エアバッグ及びインフレータを収納するクッション部材の収納部内において第1力布及び第2力布の端部どうしを接合する接合部材に、インフレータが発生する熱の影響が及び難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るシートバックを備える車両用シートの斜視図である。
【
図2】表皮材、クッション部材及びインフレータの後方から見た分解斜視図である。
【
図3】表皮材の前面中央構成部及び前面側部構成部、並びに、第1力布及び第2力布の接合部の断面図である。
【
図4】クッション部材及びシートバックフレームの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態に係る車両用シート10(以下、シート10と称する)について説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FRは車両前方向を示し、矢印UPは車両上方向を示し、矢印LHは車両左右方向(車両幅方向)の左側を示す。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示す。
【0018】
図1に示されたシート10は、車両の車室の床面100に設けられている。シート10は、シートクッション11と、シートクッション11の後端部に下端部が回転可能に接続されたシートバック15と、ヘッドレスト99と、を備える。床面100に設置されたスライドレール(図示省略)によってシートクッション11が支持されている。
【0019】
シートバック15は、クッション部材20、シートバックフレーム50、インフレータ64、エアバッグ74、表皮材76、第1力布92及び第2力布96を備える。
【0020】
図2、
図4及び
図5に示されたクッション部材20は、例えばポリウレタンフォームにより構成されている。クッション部材20は、本体部22及び背面部24を有する。背面部24はクッション部材20の後部を構成し、本体部22はクッション部材20の背面部24以外の部位を構成する。背面部24は、上部構成部26と、上部構成部26の左右両端部から下方に延びる左右一対の側部構成部28と、を有する。
図4及び
図5に示されたように、本体部22の後面と背面部24との間に背面視略U字形のフレーム収納空間30が形成されている。フレーム収納空間30は、上部構成部26と本体部22の後面との間に形成された上部空間32と、左側の側部構成部28の右半部と本体部22の後面との間に形成された左側部空間34と、右側の側部構成部28の左半部と本体部22の後面との間に形成された右側部空間36と、を備える。さらに左側部空間34及び右側部空間36の下端部は、左右の側部構成部28の下端面において開口している。
【0021】
クッション部材20は左右一対の側部38を有する。左側の側部38は本体部22の左側部、上部構成部26の左端部及び左側の側部構成部28によって構成され、右側の側部38は本体部22の右側部、上部構成部26の右端部及び右側の側部構成部28によって構成されている。さらに左右の側部38の前部は、クッション部材20の前面の中央部よりも前方に突出する膨出部39によって構成されている(
図5参照)。左側の側部38の側面(表面)には上下方向に延びる中空の凹部(収納部)40が形成されている。凹部40の側面形状は略長方形である。さらに
図5に示されたように、凹部40の水平面で切断したときの断面形状は略長方形である。凹部40の車両幅方向内側の端面である内側端面42と、凹部40の前端面44とが交わる部位が角部46である。角部46の右側面は内側端面42の前端部によって構成されている。さらに凹部40の後部が左側部空間34の一部と連通している。
【0022】
図4に示されたように、シートバック15の骨格部材である金属製のシートバックフレーム50は、左右方向に延びるアッパーフレーム52と、アッパーフレーム52の左右両端部から下方に延びる左右一対のサイドフレーム54と、を備える。アッパーフレーム52が上部空間32に挿入され、左側のサイドフレーム54が左側部空間34に挿入され、右側のサイドフレーム54が右側部空間36に挿入された状態で、シートバックフレーム50にクッション部材20が固定される。左右のサイドフレーム54の下端部は左右の側部構成部28の下端から下方に突出する。
【0023】
図5に示されたように左側のサイドフレーム54は、左側部空間34の左側の端面に接触する基部56と、左側部空間34の前端面に接触する前端部58と、左側部空間34の後端面に接触する後端部60と、を有する。さらに図示は省略されているが、基部56には上下一対の貫通孔が形成されている。なお、右側のサイドフレーム54は、貫通孔が形成されていない点を除いて、左側のサイドフレーム54と左右対称である。即ち、右側のサイドフレーム54は、右側部空間36の右側の端面に接触する基部56と、右側部空間36の前端面に接触する前端部58と、右側部空間36の後端面に接触する後端部60と、を有する。
【0024】
図2に示されたようにインフレータ64は、軸線64Xに沿って延びる筒状部材である。即ち、インフレータ64はシリンダータイプのインフレータである。インフレータ64の全長(上下長)は凹部40の全長(上下長)より短い。インフレータ64の上端部には噴射部66が設けられている。さらにインフレータ64の外周面(表面)の上下2か所には、金属製のスタッドボルト68の一端部がそれぞれ固定されている。さらに
図5に示されたエアバッグ74に形成された接続部(図示省略)が、インフレータ64の噴射部66に気密状態で接続される。
【0025】
図1及び
図2に示されたように表皮材76は、上部構成部78、前面中央構成部80、左右一対の前面側部構成部82、左右一対の側面構成部84及び背面構成部86を有する。表皮材76は可撓性を有する材料により構成される。例えば、表皮材76は本革又は合成皮革により構成される。上部構成部78の前縁部と前面中央構成部80の上縁部が縫製糸(図示省略)によって縫い付けられ、上部構成部78の左右両側縁部と左右の側面構成部84の上縁部が縫製糸(図示省略)によって縫い付けられ、上部構成部78の後縁部と背面構成部86の上縁部が縫製糸(図示省略)によって縫い付けられている。さらに右側の前面側部構成部82が前面中央構成部80の右側縁部及び右側の側面構成部84の前縁部に縫製糸(図示省略)によって縫い付けられている。さらに左側の前面側部構成部82が前面中央構成部80の左側縁部に縫製糸(図示省略)によって縫い付けられている。さらに左側の側面構成部84の後縁部及び背面構成部86の左側縁部には第1ファスナー88が設けられ、右側の側面構成部84の後縁部及び背面構成部86の右側縁部には第2ファスナー90が設けられている。
【0026】
図2、
図3及び
図5に示されたように、左側の前面側部構成部82の左側縁部と左側の側面構成部84の前縁部とが互いに接触している。さらに左側の前面側部構成部82の左側縁部と左側の側面構成部84の前縁部に、補強布である第1力布92及び第2力布96の一端部(前端部)92A、96Aが、後述する第1縫製糸94を用いて接合(接続)されている。第1力布92及び第2力布96の展開形状は共に略長方形である。第1力布92及び第2力布96の上下寸法は略同一であり、且つ、前面側部構成部82及び側面構成部84の上下寸法より短い。第1力布92及び第2力布96は、前面側部構成部82及び側面構成部84よりも伸びにくい材料によって構成されている。例えば、第1力布92及び第2力布96は樹脂シート又はポリエステル不織布によって構成される。
【0027】
図3に示されたように、左側の前面側部構成部82の左側縁部及び左側の側面構成部84の前縁部が後方に折り返されており、これらの左側縁部及び前縁部が互いに接触している。さらに左側の前面側部構成部82の左側縁部及び左側の側面構成部84の前縁部の上下方向の中央部に、第1力布92及び第2力布96の一端部92A、96Aが、その全長に渡って第1縫製糸94によって縫い付けられている。さらに左側の前面側部構成部82の左側縁部及び左側の側面構成部84の前縁部の中央部を除く部位同士が第1縫製糸94によって互いに縫い付けられている。
【0028】
図2に示されたように第1力布92には上下一対の貫通孔93が形成されている。
図5に示されたように第1力布92及び第2力布96の他端部(後端部)92B、96Bが、その全長に渡って第2縫製糸(接合部材)98によって互いに縫い付けられている。即ち、第1力布92及び第2力布96が、上下両端が開口した筒状体を構成する。この筒状体の内部に収納空間SPが構成される(
図5参照)。第1縫製糸94及び第2縫製糸98の材質は同一であるが、第2縫製糸98は第1縫製糸94より太い。そのため、第2縫製糸98は第1縫製糸94より機械的強度が高く、且つ、耐熱性が高い。
【0029】
表皮材76(第1力布92、第2力布96)、インフレータ64及びエアバッグ74は、以下の手順によってクッション部材20に装着される。
【0030】
まず
図2に示されるように、クッション部材20から分離している表皮材76の第1ファスナー88及び第2ファスナー90を開いた状態にする。続いてクッション部材20の直前に位置させた表皮材76の前面中央構成部80及び前面側部構成部82をクッション部材20の前面に被せ、且つ、上部構成部78をクッション部材20の上面に被せる。さらにインフレータ64に固定された一対のスタッドボルト68が第1力布92の貫通孔93を貫通するように、インフレータ64及びエアバッグ74の一体物を第1力布92及び第2力布96の内部空間である収納空間SPに挿入する。
【0031】
次いで、左側の側面構成部84を左側からクッション部材20の左側の側部38に接近させて、インフレータ64、エアバッグ74、第1力布92及び第2力布96を有する一体物を凹部40に挿入する。さらにインフレータ64に固定された一対のスタッドボルト68をサイドフレーム54の一対の貫通孔に挿入し、且つ、
図5に示されたようにインフレータ64の外周面と基部56の左側面との間で第1力布92の一部を挟み込む。さらに各スタッドボルト68に螺合したナット70を基部56の右側面に圧接する。これによりインフレータ64が基部56に固定され、且つ、側面視において基部56及びインフレータ64が略平行になる。さらに
図5に示されたように、凹部40のほぼ全体がインフレータ64及びエアバッグ74によって埋められる。そのため第1力布92の一部が、凹部40の内側端面42及び後端面45並びに基部56の左側面に接触し、且つ、第2力布96の一部が凹部40の前端面44に接触する。さらに第1力布92の他端部92B、第2力布96の他端部96B及び第2縫製糸98が角部46に位置する。さらに第2力布96の凹部40より前方に位置する部位である流路形成部96Cが左側の側部構成部28の側面に接触し、第1力布92の前部である流路形成部92Cが流路形成部96Cと対向する。
【0032】
図5に示されたように軸線64Xに沿ってシートバック15の内部を見たとき、軸線64X方向のいずれの位置においても、インフレータ64の前端よりサイドフレーム54の前端部58が前方に位置する。さらに軸線64Xに沿ってシートバック15の内部を見たとき、軸線64X方向のいずれの位置においても、インフレータ64の後端から凹部40の後端面45までの距離LRより、インフレータ64の前端から前端部58の前面までの距離LF1の方が長い。さらに軸線64X方向のいずれの位置においても、インフレータ64の前端から凹部40の前端面44までの距離LF2の方が距離LF1より長い。
【0033】
最後に、左右の側面構成部84をクッション部材20の左右の側部38の側面にそれぞれ被せ(左側の側面構成部84については
図5参照)且つ背面構成部86をクッション部材20の背面に被せる。さらに第1ファスナー88及び第2ファスナー90を閉じる。これにより、
図1に示されたシートバック15が完成する。完成したシートバック15の上端部にはヘッドレスト99が装着される。さらに左右のサイドフレーム54の下端部が、シートクッション11の後端部に設けられたリクライング装置(図示省略)に接続される。これにより
図1に示されたシート10が完成する。
【0034】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0035】
例えばシート10が搭載された車両が他の物体に衝突するとインフレータ64が作動し、インフレータ64が高圧ガスを発生する。この高圧ガスが噴射部66からエアバッグ74の内部に供給されると、エアバッグ74が折り畳み状態を解除しながら膨張する。上述のように第1力布92及び第2力布96は、前面側部構成部82及び側面構成部84よりも伸び難い。そのため、このとき第1力布92及び第2力布96によってエアバッグ74の膨張方向が前方向に限定される。前方に向かって膨張したエアバッグ74は流路形成部92Cと流路形成部96Cとの間を通り抜ける。さらに前方へ膨張したエアバッグ74から第1力布92の一端部92A及び第2力布96の一端部96Aに大きな圧力が掛かる。そのため第1縫製糸94が破断し、前面側部構成部82の左側縁部と側面構成部84の右側縁部とが開裂する。エアバッグ74は、前面側部構成部82と側面構成部84との間に形成された開裂部(開口)を通って、シートバック15の前方に向かって膨張する。
【0036】
ところでインフレータ64がガスを発生するとき、インフレータ64が発した大量の熱が凹部40(収納空間SP)へ放出される。例えば、第2縫製糸98(他端部92B、96B)が
図5に仮想線で示した位置P1にある場合、インフレータ64から第2縫製糸98までの距離が短いので、第2縫製糸98に大量の熱が及ぶ。この場合は、エアバッグ74が開裂部(開口)を通ってシートバック15の前方へ膨張する前に、熱の影響により第2縫製糸98が破断するおそれがある。この場合は第1力布92及び第2力布96のエアバッグ74の膨張方向を限定する機能が低減されるので、エアバッグ74がシートバック15の前方に向かって膨張し難くなる。
【0037】
これに対して本実施形態のシートバック15では、インフレータ64の軸線64Xに沿ってシートバック15の内部を見たときに、軸線64X方向のいずれの位置においても、サイドフレーム54の前端部58の前端がインフレータ64の前端より前方に位置し、且つ、他端部92B、96Bを接合する接合部材である第2縫製糸98が前端部58の前端より前方に位置する。より詳細には、第2縫製糸98が角部46に位置する。即ち、インフレータ64の前端から第2縫製糸98までの距離が長い。そのため、インフレータ64が発生する熱の影響が第2縫製糸98に及び難い。従って、本実施形態では、インフレータ64が熱を発したときに、第1力布92及び第2力布96のエアバッグ74の膨張方向を限定する機能が低減されるおそれが小さい。そのため、エアバッグ74はシートバック15の前方に向かって円滑に膨張し易い。
【0038】
また、仮にクッション部材20の凹部40の左端部に他端部92B、96Bが位置する場合は、他端部92B、96Bが第1力布92を介して側面構成部84の内面に圧接し、他端部92B、96Bによって押された側面構成部84の一部が外側に盛り上がるおそれがある。しかし本実施形態では、凹部40の左端部から右側に離れた角部46に他端部92B、96Bが位置する。換言すると、他端部92B、96Bが凹部40の内側端面42の前端部と対向する。そのため、他端部92B、96Bに起因して、側面構成部84の一部が外側に盛り上がるおそれはない。
【0039】
さらに第2縫製糸98の機械的強度及び耐熱性が第1縫製糸94より高い。そのため、第2縫製糸98の機械的強度及び耐熱性が第1縫製糸94以下の場合と比べて、インフレータ64が発生する熱によって第2縫製糸98が損傷し難い。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0041】
例えば、インフレータ64の軸線64Xに沿ってシートバック15の内部を見たときに、軸線64X方向のいずれの位置においても、他端部92B、96B及び第2縫製糸98の位置が、前端部58より前方に位置するのであれば、角部46より後方に位置してもよい。
【0042】
また他端部92B、96B及び第2縫製糸98の位置が凹部40の右側縁部とは別の位置であってもよい。例えば、他端部92B、96B及び第2縫製糸98の位置が、内側端面42より左側であり且つ凹部40の前端面44と対向する位置であってもよい。
【0043】
他端部92B、96Bを第2縫製糸98とは別の接合部材によって接合してもよい。例えば、接合部材が、他端部92B及び他端部96Bを接着する接着剤であってもよい。また、他端部92B及び他端部96Bを熱溶着してもよい。
【0044】
右側の側部38の側面(表面)に凹部40が形成され、この凹部40にインフレータ64及びエアバッグ74が収納されてもよい。この場合、インフレータ64がガスを発生させると、膨張したエアバッグ74が右側の前面側部構成部82と側面構成部84との接合部を開裂させながらシートバック15の前方に膨張する。
【0045】
左側の側部38の内部に、左端部が閉塞された中空の収納部を凹部40の代わりに形成し、この収納部にインフレータ64及びエアバッグ74が収納されてもよい。また、右側の側部38の内部に、右端部が閉塞された中空の収納部を凹部40の代わりに形成し、この収納部にインフレータ64及びエアバッグ74が収納されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 車両用シート(シート)
15 シートバック
20 クッション部材
40 凹部(収納部)
42 内側端面
50 シートバックフレーム
54 サイドフレーム
58 前端部
64 インフレータ
64X 軸線
74 エアバッグ
76 表皮材
92 第1力布
92A 一端部
92B 他端部
94 第1縫製糸
96 第2力布
96A 一端部
96B 他端部
98 第2縫製糸(接合部材)
SP 収納空間