(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073082
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240522BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184087
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真大
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FA22
3J027FB01
3J027FB21
3J027FB32
3J027GA01
3J027GB03
3J027GC08
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE11
3J027GE14
3J030BA01
3J030BC01
3J030BC02
(57)【要約】
【課題】樹脂歯車の低コスト化を図りつつ、樹脂歯車の耐久性への影響を抑えることのできる歯車装置を提供する。
【解決手段】第1樹脂材料により構成される樹脂歯車50A、50Bと、第2樹脂材料により構成され、樹脂歯車50A、50Bに連結される被連結部材52A、52Bと、を備える歯車装置であって、第1樹脂材料は、第1母材樹脂に第1強化繊維が充填された繊維強化樹脂であり、第2樹脂材料は、第2母材樹脂に第2強化繊維が充填された繊維強化樹脂であり、第2樹脂材料における第2強化繊維の繊維含有率は、第1樹脂材料における第1強化繊維の繊維含有率よりも大きい歯車装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂材料により構成される樹脂歯車と、
第2樹脂材料により構成され、前記樹脂歯車に連結される被連結部材と、を備える歯車装置であって、
前記第1樹脂材料は、第1母材樹脂に第1強化繊維が充填された繊維強化樹脂であり、
前記第2樹脂材料は、第2母材樹脂に第2強化繊維が充填された繊維強化樹脂であり、
前記第2樹脂材料における前記第2強化繊維の繊維含有率は、前記第1樹脂材料における前記第1強化繊維の繊維含有率よりも大きい歯車装置。
【請求項2】
前記第1強化繊維は、前記第2強化繊維よりも熱伝導率が大きい請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記第1母材樹脂と前記第2母材樹脂は互いに材質が異なる請求項1に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記第2母材樹脂は、前記第1母材樹脂よりもガラス転移点が低い請求項3に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記第1母材樹脂は、前記第2母材樹脂よりもヤング率が低い請求項3に記載の歯車装置。
【請求項6】
前記樹脂歯車と前記被連結部材はボルトにより締結される請求項1に記載の歯車装置。
【請求項7】
前記被連結部材は、軸受を支持する軸受ハウジングである請求項1に記載の歯車装置。
【請求項8】
前記軸受ハウジングは、回転軸受を支持する回転軸受ハウジングと、主軸受を支持する主軸受ハウジングとを含む請求項7に記載の歯車装置。
【請求項9】
前記被連結部材は、共通の前記樹脂歯車に連結される複数の被連結部材を含み、
前記複数の被連結部材のそれぞれにおける前記第2強化繊維の繊維含有率は、前記複数の被連結部材に共通の前記樹脂歯車における前記第1強化繊維の繊維含有率よりも大きい請求項1に記載の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車装置は、その用途によっては軽量化を要請される場合がある。この要請に応えるため、特許文献1は、樹脂材料により構成される樹脂歯車と、樹脂歯車に連結され樹脂材料により構成される被連結部材(特許文献1では軸受ハウジング)とを備える歯車装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、樹脂歯車の低コスト化を図りつつ、樹脂歯車の耐久性への影響を抑えるための新たなアイデアを見出した。
【0005】
本開示の目的の1つは、樹脂歯車の低コスト化を図りつつ、樹脂歯車の耐久性への影響を抑えることのできる歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の歯車装置は、第1樹脂材料により構成される樹脂歯車と、第1樹脂材料とは異なる第2樹脂材料により構成され、前記樹脂歯車に連結される被連結部材と、を備える歯車装置であって、前記第1樹脂材料は、第1母材樹脂に第1強化繊維が充填されており、前記第2樹脂材料は、第2母材樹脂に第2強化繊維が充填されており、前記第2樹脂材料における前記第2強化繊維の繊維含有率は、前記第1樹脂材料における前記第1強化繊維の繊維含有率よりも大きい。
【発明の効果】
【0007】
本開示の歯車装置によれば、樹脂歯車の低コスト化を図りつつ、樹脂歯車の耐久性への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の歯車装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を実施するための実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
まず、実施形態の歯車装置を想到するに至った背景から説明する。樹脂歯車を用いる場合、高温時に樹脂歯車の樹脂部分が低剛性化することで、樹脂歯車の耐久性の低下を招く。この対策として、樹脂歯車を繊維強化樹脂により構成し、強化繊維により高温時の剛性を確保する場合がある。繊維強化樹脂を用いる場合、強化繊維は一般的には高コストであるため、その使用量の削減による低コスト化が要請される。これを実現するため、仮に、樹脂歯車と被連結部材の双方を繊維強化樹脂により構成し、双方の強化繊維の繊維含有率(後述する)を同じ大きさのまま単純に低下させると、高温時の低剛性化により耐久性を損ない兼ねないという問題がある。
【0011】
ここで、樹脂歯車における第1強化繊維の繊維含有率Vf1と被連結部材における第2強化繊維の繊維含有率Vf2を想定する。本願発明者は、前述の問題への対策として、樹脂歯車の繊維含有率Vf1を被連結部材の繊維含有率Vf2よりも小さくすることが有効であるとの新たな着想を得た。これにより、樹脂歯車の繊維含有率Vf1を被連結部材の繊維含有率Vf2と同じにする場合と比べ、第1強化繊維の使用量の削減により樹脂歯車の低コスト化を図ることができるようになる。特に、樹脂歯車は、通常、歯車装置の他の構成部材と比べて部品コストが高い傾向にある。このような樹脂歯車の低コスト化を図ることで、歯車装置全体のコストを効率的に下げることができる。
【0012】
また、被連結部材の繊維含有率Vf2を樹脂歯車の繊維含有率Vf1と同じにする場合(双方の繊維含有率を同じ大きさのまま単純に低下させる場合)と比べ、被連結部材そのものの高温時の剛性を確保できるようになる。このように高温時の剛性を確保した被連結部材に樹脂歯車を連結することで、樹脂歯車と被連結部材を組み合わせた系全体の高温時の剛性を確保できるようになる。ひいては、樹脂歯車の低コスト化のために第1強化繊維の使用量を削減したとしても、樹脂歯車と被連結部材を組み合わせた系全体により高温時の剛性を確保することで、耐久性への影響を抑えることができるようになる。以下、以上の背景のもとでなされた実施形態の歯車装置を説明する。
【0013】
図1を参照する。歯車装置10は、被駆動機械の一部として被駆動機械に組み込まれる。被駆動機械は、例えば、産業機械(工作機械、建設機械等)、ロボット(産業用ロボット、サービスロボット等)、輸送機器(コンベア、車両等)等の各種機械である。
【0014】
本実施形態では、歯車装置10として、筒型の撓み噛合い式歯車装置10を例に説明する。この歯車装置10は、起振体12と、起振体12により撓み変形する撓み歯車14と、撓み歯車14と噛み合う噛合歯車16A、16Bと、起振体12と撓み歯車14との間に配置される起振体軸受18と、撓み歯車14の軸方向移動を規制する規制部材20と、を備える。この他に、歯車装置10は、ケーシング22と、軸受26A~26Cと、軸受26A~26Cを支持する軸受ハウジング28A~28Cと、を備える。以下、説明の便宜から、噛合歯車16A、16Bの軸方向一側(
図1の紙面右側)を入力側といい、軸方向他側(
図1の紙面左側)を反入力側という。
【0015】
歯車装置10は、外部の駆動源30(第1外部部材)から回転が入力される入力部材と、外部の被駆動部材32(第2外部部材)に回転を出力する出力部材と、外部の被固定部材34(第3外部部材)に固定される固定部材とを、備える。ここでは入力部材が起振体12を含む起振体軸24、出力部材が軸受ハウジング28B、固定部材がケーシング22である例を説明する。駆動源30は、例えば、モータであるが、この他にもギヤモータ、エンジン等でもよい。被駆動部材32及び被固定部材34は、例えば、被駆動機械の一部となる。出力部材は、ボルト、リベット等の連結部材(不図示)を用いて被駆動部材32に連結される。固定部材は、ボルト、リベット等の連結部材を用いて被固定部材34に連結される。
【0016】
図2を参照する。起振体12は、起振体軸24の一部となる。起振体軸24は、歯車装置10の運転時に回転する回転軸40の一例となる。ここでの回転軸40は外部から回転が入力される入力部材となる例を示すが、外部に回転を出力する出力部材となってもよい。起振体軸24は、起振体12の他に、起振体12の軸方向両側に設けられる軸部24aを備える。起振体軸24の中央部には軸方向に貫通するホロー部24bが形成される。起振体12の軸方向に直交する断面において、起振体12の外周部の形状は楕円状をなし、軸部24aの外周部の形状は円状をなす。ここでの「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0017】
撓み歯車14は、起振体12の回転に追従して撓み変形する可撓性を有する筒状部材である。撓み歯車14及び噛合歯車16A、16Bの一方は外歯歯車となり、他方は内歯歯車となる。ここでは撓み歯車14が外歯歯車であり、噛合歯車16A、16Bが内歯歯車となる例を説明する。
【0018】
噛合歯車16A、16Bは、起振体12の回転に追従して撓み変形しない程度の剛性を持つ。噛合歯車16A、16Bは、入力側に配置される入力側噛合歯車16Aと、反入力側に配置される反入力側噛合歯車16Bとを含む。入力側噛合歯車16Aは、撓み歯車14の入力側部分の歯(外歯)と噛み合う。反入力側噛合歯車16Bは、撓み歯車14の反入力側部分の歯(内歯)と噛み合う。入力側噛合歯車16Aは、撓み歯車14の歯数(例えば、100)とは異なる歯数(例えば、102)を持ち、反入力側噛合歯車16Bは、撓み歯車14の外歯数と同数の内歯数を持つ。
【0019】
ケーシング22は、歯車装置10の外周部の少なくとも一部を構成する。本実施形態のケーシング22は、入力側噛合歯車16Aが兼ねているケーシング部材22aと、ケーシング部材22aに連結される主軸受ハウジング28Cとを備える。入力側噛合歯車16Aが兼ねるケーシング部材22aは被固定部材34に接触している。
【0020】
軸受26A~26Cは、回転軸40を支持する回転軸受26A、26Bと、ケーシング22の径方向内側に配置される内側部材(ここでは反入力側噛合歯車16B)とケーシング22との間に配置される主軸受26Cとを含む。回転軸受26A、26Bは、入力側に配置される入力側回転軸受26Aと、反入力側に配置される反入力側回転軸受26Bとを含む。回転軸受26A、26Bには、撓み歯車14等の歯車と回転軸40との間に配置される歯車軸受(ここでは起振体軸受18)は含まれない。回転軸受26A、26Bは玉軸受を例に示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受等の各種軸受でもよい。主軸受26Cは玉軸受を例に示すが、その具体例は特に限定されず、ローラ軸受、クロスローラ軸受、アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等の各種軸受でもよい。なお、主軸受26Cは、歯車装置10の出力部材を支持する軸受であり、回転軸受26A、26Bが配置される部材よりも相対回転速度が小さい部材間に配置される軸受である。
【0021】
軸受ハウジング28A~28Cは、回転軸受26A、26Bを支持する回転軸受ハウジング28A、28Bと、主軸受26Cを支持する前述の主軸受ハウジング28Cとを含む。回転軸受ハウジング28A、28Bは、入力側回転軸受26Aを支持する入力側回転軸受ハウジング28Aと、反入力側回転軸受26Bを支持する反入力側回転軸受ハウジング28Bとを含む。本実施形態の回転軸受26A、26Bは、回転軸40を構成する起振体軸24の軸部24aと回転軸受ハウジング28A、28Bとの間に配置される。
【0022】
本実施形態の歯車装置10の動作を説明する。起振体12が回転すると、起振体12の形状に合わせた楕円状をなすように撓み歯車14が撓み変形する。このように撓み歯車14が撓み変形すると、撓み歯車14と噛合歯車16A、16Bの噛合位置が起振体12の回転方向に変化する。このとき、異なる歯数を持つ撓み歯車14と入力側噛合歯車16Aの噛合位置が一周する毎に、これらの噛み合う歯が周方向にずれていく。この結果、これらのうちの一方(本実施形態では撓み歯車14)が自転し、その自転成分が出力回転として出力部材により取り出される。本実施形態において、撓み歯車14と反入力側噛合歯車16Bは、互いに同じ歯数を持つため同期し、撓み歯車14の自転成分は、撓み歯車14と同期する反入力側噛合歯車16Bを通して、出力部材としての反入力側回転軸受ハウジング28Bにより取り出される。このとき、入力部材(起振体12)に入力された入力回転に対して、撓み歯車14と入力側噛合歯車16Aの歯数差に応じた変速比で変速(ここでは減速)された出力回転が出力部材により取り出される。
【0023】
ここで、歯車装置10は、樹脂歯車50A、50Bと、樹脂歯車50A、50Bに連結される被連結部材52A、52Bと、を備える。本実施形態の樹脂歯車50A、50Bは、入力側噛合歯車16Aである第1樹脂歯車50Aと、反入力側噛合歯車16Bである第2樹脂歯車50Bとを含む。本実施形態の被連結部材52A、52Bは、第1樹脂歯車50Aに連結される複数の第1被連結部材52Aと、第2樹脂歯車50Bに連結される第2被連結部材52Bとを含む。本実施形態において、複数の第1被連結部材52Aは入力側回転軸受ハウジング28Aと主軸受ハウジング28Cであり、第2被連結部材52Bは反入力側回転軸受ハウジング28Bである。
【0024】
被連結部材52A、52Bは、連結部材B1、B2により樹脂歯車50A、50Bに連結される。本実施形態の連結部材B1、B2はボルトであるが、その具体例は特に限定されず、リベット等の各種連結手段を用いてもよい。ボルトを用いる場合、樹脂歯車50A、50Bと被連結部材52A、52Bは、そのボルトにより締結される。複数の第1被連結部材52Aのそれぞれは個別の第1連結部材B1(
図1も参照)により共通の第1樹脂歯車50Aに連結される。第2被連結部材52Bは、第2連結部材B2(
図1参照)により第2樹脂歯車50Bに連結される。
【0025】
樹脂歯車50A、50Bは、第1樹脂材料により構成される。樹脂歯車50A、50Bに連結される被連結部材52A、52Bは、その樹脂歯車50A、50Bの第1樹脂材料とは異なる第2樹脂材料により構成される。第1被連結部材52Aは、第1樹脂歯車50Aの第1樹脂材料とは異なる第2樹脂材料により構成され、第2被連結部材52Bは、第2樹脂歯車50Bの第1樹脂材料とは異なる第2樹脂材料により構成されるということである。第1樹脂材料は、第1母材樹脂に第1強化繊維が充填された繊維強化樹脂である。第2樹脂材料は、第2母材樹脂に第2強化繊維が充填された繊維強化樹脂である。樹脂歯車50A、50B及び被連結部材52A、52Bを樹脂材料にすることで軽量化を図りつつ、強化繊維を充填することで高温時の高剛性化を図ることができる。
【0026】
本実施形態において第1母材樹脂と第2母材樹脂とは互いに材質が異なっている。詳しくは、第2母材樹脂は、第1母材樹脂よりもガラス転移点(Tg)が低くなる。ここでのガラス転移点(ガラス転移温度)とは、樹脂の耐熱性の指標となる温度(℃)であり、樹脂のガラス状態とゴム状態との境界となる値をいう。このガラス転移点は、例えば、JIS K7121に準拠した示差走査熱量測定により測定される。
【0027】
第1母材樹脂、第2母材樹脂のそれぞれは、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、Tg:143℃~160℃)、反芳香族ポリアミド(Tg:90℃~135℃)、ポリアミド6(PA6、Tg:50℃程度)、ポリアミド66(PA66、Tg:50℃程度)、ポリエチレンテレフタレート(PET、Tg:70℃程度)、ポリ塩化ビニル(PVC、Tg:80℃程度)、ポリスチレン(PS、Tg:100℃程度)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA、Tg:70℃程度)、ポリフェニレンサルファイド(PPS、Tg:88℃程度)、ポリエチレン(PE、Tg:-125℃)、ポリプロピレン(PP、Tg:0℃)、ポリアセタール(POM、Tg:-50℃)等から選択される樹脂により構成してもよい。ここでは、樹脂のグレード、組成等により違いのあるガラス転移点Tgについて、その範囲を挙げている。例えば、第2母材樹脂はPPSであり、第1母材樹脂はPEEKである。ここで挙げた樹脂は一例に過ぎず、第2母材樹脂のガラス転移点を第1母材樹脂よりも低くすることができれば、各種樹脂を第1母材樹脂、第2母材樹脂に採用してもよい。
【0028】
なお、本実施形態の第1母材樹脂は、第2母材樹脂よりもヤング率(MPa)が高くなる。前述した樹脂のうちの一部の樹脂のヤング率(MPa)は、例えば、PEEK:3500~22300、PPS:3300、PA6:2600、PS:2300~3300、PE:1070~1090、PP:1100~1600等となる。
【0029】
第1強化繊維と第2強化繊維は互いに材質が異なっている。詳しくは、第1強化繊維は、第2強化繊維よりも熱伝導率(W/(m・K))が大きくなる。これを実現するうえで、例えば、第1強化繊維は炭素繊維等により構成され、第2強化繊維はガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維等により構成される。熱伝導率は、例えば、炭素繊維の場合は10以上、ガラス繊維の場合は1程度、アラミド繊維の場合は0.1~1程度となる。
【0030】
第2樹脂材料における第2強化繊維の繊維含有率Vf2は、第1樹脂材料における第1強化繊維の繊維含有率Vf1よりも大きくしている。ここでの繊維含有率とは、言及している樹脂材料の全体積に対する強化繊維の体積の割合(体積%)をいう。例えば、第1樹脂材料の全体積に対する第1強化繊維の体積の割合が第1樹脂材料における第1強化繊維の繊維含有率Vf1となる。この繊維含有率は、例えば、JIS K7075に準拠した燃焼法により測定されてもよい。繊維含有率Vf2は、例えば、繊維含有率Vf1よりも10%以上大きくなる。ここで説明する繊維含有率Vf1、Vf2の高低関係は、互いに連結される樹脂歯車50A、50Bと被連結部材52A、52Bの間で満たされていればよく、互いに連結されていない部材間で満たされる必要はない。例えば、ここで説明した繊維含有率Vf1、Vf2の高低関係は、互いに連結される第1樹脂歯車50Aと第1被連結部材52Aの間で満たされていればよく、第1樹脂歯車50Aと第2被連結部材52Bとの間では満たされる必要はない。
【0031】
本実施形態の樹脂歯車50A、50Bは、第1母材樹脂としてのPEEKに第1強化繊維として炭素繊維を含有させたものであり、繊維含有率Vf1は30%である。また、被連結部材52A、52Bは、第2母材樹脂としてのPPSに第2強化繊維としてガラス繊維を含有させたものであり、繊維含有率Vf2は60%である。ここで、繊維含有率Vf1および繊維含有率Vf2は、母材樹脂の種類、含有させる強化繊維の種類、歯車装置10の用途において要求される強度や耐久性に応じて、繊維含有率Vf2が繊維含有率Vf1よりも大きくなる条件で適宜選択される。繊維含有率Vf1は10~40%が好ましく、より幅広い用途に適用可能とするためには20~30%がより好ましい。また、繊維含有率Vf2は、40~70%が好ましく、より幅広い用途に適用可能とするためには50~70%がより好ましく、製造の容易性を考慮すると50~60%がさらに好ましい。
【0032】
以上の歯車装置10の効果を説明する。被連結部材52A、52Bの繊維含有率Vf2は、樹脂歯車50A、50Bの繊維含有率Vf1よりも大きくなる。よって、前述の通り、樹脂歯車50A、50Bの低コスト化のために第1強化繊維の使用量を削減したとしても、樹脂歯車50A、50Bと被連結部材52A、52Bを組み合わせた系全体により高温時の剛性を確保することで、耐久性への影響を抑えることができる。
【0033】
第1強化繊維は、第2強化繊維よりも熱伝導率が大きくなる。これにより、第1強化繊維の熱伝導率を第2強化繊維の熱伝導率よりも小さくする場合と比べ、第1強化繊維を通した熱伝導を促進できる。これにより、樹脂歯車50A、50Bを含む歯車対(ここでは樹脂歯車50A、50Bと撓み歯車14)の噛み合いにより歯車対に生じた熱を外部に逃がす抜熱性を高めることができる。このように抜熱性を高めることで歯車対の温度を低下させることができ、高温化による樹脂歯車50A、50Bの低剛性化を抑制でき、樹脂歯車50A、50Bの耐久性への影響を更に抑えることができる。このとき、歯車対で生じた熱は、例えば、樹脂歯車50A、50B→被固定部材34(外部部材)の順で熱伝導により外部に逃がしたり、樹脂歯車50A、50Bの周囲の外部空間への放熱により外部に逃がすことができる。
【0034】
このように第1強化繊維の熱伝導率が高くなるほど、強化繊維が更に高コストとなり易い。本実施形態によれば、前述のように、被連結部材52A、52Bの繊維含有率Vf2を樹脂歯車50A、50Bの繊維含有率Vf1よりも大きくしている。よって、樹脂歯車50A、50Bの繊維含有率Vf1を被連結部材52A、52Bの繊維含有率Vf2と同じにする場合と比べ、高コストになり易い第1強化繊維の使用量を効果的に削減でき、樹脂歯車50A、50Bの効果的な低コスト化を図ることができる。
【0035】
第2母材樹脂は、第1母材樹脂よりもガラス転移点が低くなる。よって、第2母材樹脂のガラス転移点を第1母材樹脂よりも高くする場合と比べ、第2母材樹脂に使用できる安価な素材の選択肢を広げることができる。ひいては、安価な素材を選択することで、歯車装置10の低コスト化を図ることができる。また、本実施形態においては、樹脂歯車50A、50Bと被連結部材52A、52Bを組み合わせた系全体により高温時の剛性を確保する発想である。このため、第1母材樹脂に安価な素材を選択することで、歯車装置10の低コスト化を図ることができる。つまり、樹脂歯車に使用される樹脂には、通常、耐久性を考慮してガラス転移点の高いPEEKが使用される。しかし、本実施形態によれば、樹脂歯車50A、50Bに使用される母材樹脂として、PEEKよりもガラス転移点の低い、具体的にはガラス転移点が140度未満の安価な樹脂を使用できる。
【0036】
樹脂歯車50A、50Bと被連結部材52A、52Bはボルトにより締結される。よって、ボルトの締結力によって、樹脂歯車50A、50Bと被連結部材52A、52Bを組み合わせた系全体を更に高剛性化することができる。
【0037】
複数の第1被連結部材52Aそれぞれの繊維含有率Vf2は、複数の第1被連結部材52Aが連結される共通の第1樹脂歯車50Aの繊維含有率Vf1よりも大きくなる。これにより、複数の第1被連結部材52Aそれぞれの繊維含有率Vf2を第1樹脂歯車50Aの繊維含有率Vf1と同じにする場合と比べ、複数の第1被連結部材52Aそれぞれの高温時の剛性を確保することができる。よって、第1樹脂歯車50Aと複数の第1被連結部材52Aとを組み合わせた系全体により高温時の更なる剛性を確保できる。ひいては、第1樹脂歯車50Aの低コスト化のために第1強化繊維の使用量を削減したとしても、耐久性への影響を更に抑えることができる。
【0038】
なお、複数の樹脂歯車50A、50Bのそれぞれは、組成及び繊維含有率の全てが同じ第1樹脂材料により構成されてもよいし、そのうちの少なくとも一つが異なる第1樹脂材料により構成されてもよい。複数の被連結部材52A、52Bのそれぞれは、組成及び繊維含有率の全てが同じ第2樹脂材料により構成されてもよいし、そのうちの少なくとも一つが異なる第2樹脂材料により構成されてもよい。
【0039】
樹脂歯車50A、50B、被連結部材52A、52B以外の部材の素材は特に限定されない。ここでは、起振体12(起振体軸24)、撓み歯車14、起振体軸受18、連結部材B1、B2等に関して、鋼、アルミニウム等の金属を用いた金属材料により構成する例を示すが、これらは樹脂材料により構成されてもよい。金属材料により構成する場合、金属を主成分としていればよく、その金属のみにより構成される場合のほか、その金属を主成分とする合金(合金鋼、アルミニウム合金等)により構成してもよい。ここでいう金属材料、樹脂材料により構成するうえで、言及している素材により主材が構成されていればよく、主材のみのより構成されてもよいし、主材(金属、樹脂)と他素材との複合材料(繊維強化樹脂、繊維強化金属)により構成されていてもよい。
【0040】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0041】
歯車装置10の具体的な種類は特に限定されず、例えば、単純遊星歯車装置、直交軸歯車装置、平行軸歯車装置、偏心揺動歯車装置等の各種歯車装置であってもよい。偏心揺動歯車装置の場合、外歯歯車又は内歯歯車の軸線上にクランク軸が配置されるセンタークランクタイプ、その軸線からオフセットした位置に複数のクランク軸が配置される振り分けタイプのいずれでもよい。撓み噛合い式歯車装置の場合、筒型の他に、カップ型、シルクハット型等でもよい。
【0042】
軸受ハウジング28Bに替えてケーシング22を出力部材とし、ケーシング22に替えて軸受ハウジング28A、28Bのいずれかを固定部材としてもよい。歯車装置10は、回転軸40が入力部材となる減速装置として機能する例を説明した。この他にも、歯車装置10は回転軸40が出力部材となる増速装置として機能してもよい。この場合、ケーシング22、軸受ハウジング28A、28B等が入力部材となればよい。
【0043】
樹脂歯車50A、50Bは、噛合歯車16A、16B(内歯歯車)を例に説明したが、その具体例は特に限定されない。樹脂歯車50A、50Bは、例えば、内歯歯車、外歯歯車、平歯車、傘歯車、ねじ歯車、はす歯歯車等のいずれでもよい。
【0044】
被連結部材52A、52Bは軸受ハウジング28A~28Cを例に説明したが、その具体例は特に限定されない。被連結部材52A、52Bは、例えば、歯車に対して軸方向に配置され軸受を支持しないカバー、キャリヤ等であってもよい。被連結部材52A、52Bが軸受ハウジング28A~28Cである場合、軸受ハウジング28A~28Cは、回転軸受ハウジング28A、28B及び主軸受ハウジング28Cのうちの一方のみであってもよいし、それ以外の軸受ハウジングであってもよい。
【0045】
第1樹脂材料と第2樹脂材料は繊維含有率が異なっていればよく、母材樹脂及び強化繊維それぞれの組成、材質の異同は問わない。例えば、第1強化繊維と第2強化繊維は同じ組成、材質であってもよい。また、第1母材樹脂と第2母材樹脂は同じ組成、材質であってもよい。例えば、第1強化繊維と第2強化繊維を同じ材質とし、第1母材樹脂と第2母材樹脂を異なる材質としてもよい。また、第1強化繊維と第2強化繊維を異なる材質とし、第1母材樹脂と第2母材樹脂を同じ材質としてもよい。第1強化繊維は、第2強化繊維よりも熱伝導率が小さくともよい。第2母材樹脂は、第1母材樹脂よりもガラス転移点が高くともよい。
【0046】
第1母材樹脂は、第2母材樹脂よりもヤング率を低くしてもよい。これにより、第2母材樹脂よりもヤング率を高くする場合と比べ、第1母材樹脂に使用できる安価な素材の選択肢を広げることができる。ひいては、安価な素材を選択することで、部品コストが高い傾向にある樹脂歯車50A、50Bの更なる低コスト化を図ることができる。これを実現するうえで、好ましくは、第1強化繊維のヤング率を第2強化繊維よりも高くしておき、樹脂歯車50A、50B全体の剛性を確保しておくとよい。なお、強化繊維のヤング率(GPa)は、例えば、炭素繊維:230~935、ガラス繊維:72~75、アラミド繊維:70~112となる。
【0047】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。
【符号の説明】
【0048】
10…歯車装置、40…回転軸、26A、26B…回転軸受、26C…主軸受、28A、28B…回転軸受ハウジング、28C…主軸受ハウジング、50A、50B…樹脂歯車、52A、52B…被連結部材。