(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073098
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ケラチン繊維の液体暴露装置及びケラチン繊維の損傷評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240522BHJP
G01N 23/2251 20180101ALI20240522BHJP
G01N 33/36 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N23/2251
G01N33/36 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184111
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 藍
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛之
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一成
【テーマコード(参考)】
2G001
2G045
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001CA03
2G001HA13
2G001KA03
2G001LA01
2G001RA10
2G045AA40
2G045CB16
2G045DA36
2G045FA16
2G045JA01
(57)【要約】
【課題】ケラチン繊維を良好に暴露することができるケラチン繊維の液体暴露装置を提供する。
【解決手段】ケラチン繊維の液体暴露装置1は、ケラチン繊維Kを配置する配置部10と、液体を貯留する貯留部70と、貯留部70に貯留した液体を所定の流量で配置部10に連続的に供給する液体搬送部80と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチン繊維を配置する配置部と、
液体を貯留する貯留部と、
前記貯留部に貯留した前記液体を所定の流量で前記配置部に連続的に供給する液体搬送部と、
を備えているケラチン繊維の液体暴露装置。
【請求項2】
前記配置部は、上端に開口部を形成した試験容器を有しており、
前記試験容器は、
前記ケラチン繊維を出し入れ自在に収容し、
前記液体搬送部から供給される前記液体が流入し、流入した前記液体が前記開口部から溢れ出る請求項1に記載のケラチン繊維の液体暴露装置。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか一項に記載のケラチン繊維の液体暴露装置を利用して前記液体に暴露した前記ケラチン繊維の表面に対して白色干渉顕微鏡を用いて解析した少なくともRzjis値及びRdq値のいずれか一方に基づいて評価するケラチン繊維の損傷評価方法。
【請求項4】
前記白色干渉顕微鏡の測定領域を長辺及び短辺の夫々が10μmから100μmである領域に設定して前記ケラチン繊維を評価する請求項3に記載のケラチン繊維の損傷評価方法。
【請求項5】
請求項1及び2のいずれか一項に記載のケラチン繊維の液体暴露装置を利用して前記液体に暴露した前記ケラチン繊維の表面に対して原子間力顕微鏡(AFM)を用いて評価するケラチン繊維の損傷評価方法。
【請求項6】
前記原子間力顕微鏡(AFM)の測定領域を長辺及び短辺の夫々が0.5μmから20μmである領域に設定して前記ケラチン繊維を評価する請求項5に記載のケラチン繊維の損傷評価方法。
【請求項7】
請求項1及び2のいずれか一項に記載のケラチン繊維の液体暴露装置を利用して前記液体に暴露した前記ケラチン繊維の表面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて観察して評価するケラチン繊維の損傷評価方法。
【請求項8】
同一のケラチン繊維を液体に暴露する前後において、非侵襲的に白色干渉顕微鏡及び原子間力顕微鏡(AFM)の少なくともいずれか一方を用いて、表面の粗さを示すパラメータを解析し、前記液体に暴露する前後の前記パラメータを比較することにより損傷度合いを評価するケラチン繊維の損傷評価方法。
【請求項9】
請求項8に記載のケラチン繊維の損傷評価方法によって損傷度合いを評価した前記ケラチン繊維に対して電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて表面の粗さを観察して評価するケラチン繊維の損傷評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ケラチン繊維の液体暴露装置及びケラチン繊維の損傷評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪や羊毛等のケラチン繊維は、その大部分がケラチンタンパク質で構成されている。中でも毛髪は、最外層にキューティクル、その内側にケラチン繊維の大部分を占めるコルテックス、中心部にメデュラと呼ばれる三層構造を有しており、キューティクルは毛髪の表面でうろこ状に重なり合って並んでいる。キューティクルは、残留塩素を含んだ水道水のシャワーを使い続けると、剥がれたり、化学的に変化したり、物理的に形状が変化したりすることが知られている。
【0003】
キューティクルが損傷した毛髪は、手触りの悪さ、パサつき、ゴワつき、引っ掛かり等のトラブルを起こし、質感や見た目の魅力が低下する。毛髪の損傷の経時的な進行を把握することは、毛髪の質感、見た目の魅力を保つために、毛髪の適切なケア方法を提案したり、損傷の進行を防いだりする観点から重要である。
【0004】
特許文献1は、ケラチン繊維の損傷評価方法を開示している。このケラチン繊維の損傷評価方法は、ラマン分光光度計を用いたラマンスペクトルの解析により、ケラチン繊維内部の一辺が1μmである正方領域の微細領域における損傷度を定量的に測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたケラチン繊維の損傷評価方法は、ケラチン繊維内部の微細領域における損傷度を評価するものであり、広い領域での損傷度の評価については着目されておらず、キューティクル全体を捉えて解析することが難しい。また、ケラチン繊維の損傷の経時的な進行を把握するために、ケラチン繊維の液体暴露装置の開発が望まれている。
【0007】
本開示は、ケラチン繊維の損傷評価において、微細な領域だけではなく、広い領域での評価が可能なケラチン繊維の損傷評価方法、及び同一のケラチン繊維を用いて経時的なケラチン繊維の損傷を把握するためにケラチン繊維を良好に暴露することができるケラチン繊維の液体暴露装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のケラチン繊維の液体暴露装置は、ケラチン繊維を配置する配置部と、液体を貯留する貯留部と、前記貯留部に貯留した前記液体を所定の流量で前記配置部に連続的に供給する液体搬送部と、を備えている。
【0009】
本開示において、ケラチン繊維とは、毛髪、羊毛、羽毛等の動物由来の天然繊維、及び、これら天然繊維との混紡繊維が含まれる。混紡繊維としては、特に限定されないが、天然繊維、半合成繊維、合成繊維のいずれでもよい。例えば、絹、亜麻、綿、リンネル、リオセル、ラミー、レーヨン、テンセル、トリアセテート、アクリル、ナイロン、ポリエステル等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1のケラチン繊維の液体暴露装置を示す概略図である。
【
図2】浄水と残留塩素水の夫々に暴露する前の毛髪と、暴露期間6月の毛髪を示す白色干渉顕微鏡画像である。
【
図3】暴露期間とRzjis値との関係を示すグラフである。
【
図4】暴露期間とΔRzjis値との関係を示すグラフである。
【
図5】暴露期間とRdq値との関係を示すグラフである。
【
図6】暴露期間とΔRdq値との関係を示すグラフである。
【
図7】暴露期間とRa値との関係を示すグラフである。
【
図8】暴露期間とΔRa値との関係を示すグラフである。
【
図9】暴露期間とRq値との関係を示すグラフである。
【
図10】暴露期間とΔRq値との関係を示すグラフである。
【
図11】暴露期間とSdq値との関係を示すグラフである。
【
図12】暴露期間とΔSdq値との関係を示すグラフである。
【
図13】暴露期間とSdr値との関係を示すグラフである。
【
図14】暴露期間とΔSdr値との関係を示すグラフである。
【
図15】暴露期間とSmr2値との関係を示すグラフである。
【
図16】暴露期間とΔSmr2値との関係を示すグラフである。
【
図17】暴露期間とSa値との関係を示すグラフである。
【
図18】暴露期間とΔSa値との関係を示すグラフである。
【
図19】暴露期間とSq値との関係を示すグラフである。
【
図20】暴露期間とΔSq値との関係を示すグラフである。
【
図21】浄水と残留塩素水の夫々に暴露する前の毛髪と、暴露期間6月の毛髪を示す測定領域20μm角のAFM画像である。
【
図22】浄水と残留塩素水の夫々に暴露する前の毛髪と、暴露期間6月の毛髪を示す測定領域5μm角のAFM画像である。
【
図23】浄水と残留塩素水の夫々に暴露する前の毛髪と、暴露期間6月の毛髪を示すFE-SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のケラチン繊維の液体暴露装置を具体化した実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
<実施形態1>
実施形態1のケラチン繊維の液体暴露装置1は、
図1に示すように、ケラチン繊維Kを配置する配置部10、液体を貯留する貯留部70、及び貯留部70に貯留した液体を配置部10へ搬送する液体搬送部80を備えている。
【0013】
配置部10は、試験容器20、試験容器20を支持する第一支持部材30、3本の管部材40、各管部材40を支持する第二支持部材50、及びトレイ60を有している。試験容器20は、一方の端部が閉鎖し、他方の端部が開口した細長い円筒形状である。試験容器20は、閉鎖した一端部側を下側にして第一支持部材30に支持される。試験容器20は、第一支持部材30に支持された状態において、他端部側を上端にし、上端に開口部21を形成している。
【0014】
第一支持部材30は、トレイ60上に配置される。第一支持部材30は、第一天板31、及び一対の第一側板33を有している。第一天板31は、第一支持部材30をトレイ60上に配置した状態の上方から見た平面視において、横長矩形状の平板である。第一天板31は、中央部に第一貫通孔31Hが形成されている。第一貫通孔31Hは、第一天板31を厚み方向に貫通している。第一貫通孔31Hは円形状である。第一貫通孔31Hの内径は、円筒形状の試験容器20の外径よりも僅かに大きい。
【0015】
各第一側板33は、第一天板31の平行に延びる一対の短辺を形成する両端縁の夫々から下方に延びている。各第一側板33は、第一支持部材30をトレイ60上に配置した状態において、上下方向に長い縦長矩形状の平板である。各第一側板33の長辺の長さは等しい。第一支持部材30は、各第一側板33の下端面をトレイ60の底部61の上面に接触させてトレイ60上に配置される。第一天板31は、第一支持部材30をトレイ60上に配置した状態において、略水平方向に広がっている。
【0016】
試験容器20は、トレイ60上に配置した第一支持部材30の第一天板31に形成された第一貫通孔31Hに上方から挿入される。試験容器20は、下端をトレイ60の底部61の上面に接触し、外周面の上部を第一貫通孔31Hの内周面に接触し、第一支持部材30に支持される。
【0017】
3本の管部材40は、先細りの細長い管である。各管部材40は、径が小さい側を下側にして第二支持部材50に支持される。各管部材40は、径が大きい上端開口からケラチン繊維Kを一本ずつ挿入する。各管部材40は、径が小さい下端開口からケラチン繊維Kを所定の長さ下方に露出させてケラチン繊維Kを保持する。
【0018】
第二支持部材50は、トレイ60上に配置される。第二支持部材50は、第二天板51、及び一対の第二側板53を有している。第二天板51は、第二支持部材50をトレイ60上に配置した状態の上方から見た平面視において、横長矩形状の平板である。第二天板51の長辺は第一天板31の長辺よりも長い。第二天板51は、中央部に1個の第二貫通孔(図示せず)と、3個の第三貫通孔51Hが形成されている。第二貫通孔及び各第三貫通孔51Hは、第二天板51を厚み方向に貫通している。第二貫通孔及び各第三貫通孔51Hは円形状である。第二貫通孔の内径は、後述する液体搬送部80の流出管87の最大外径よりも小さい。各第三貫通孔51Hの内径は、各管部材40の最大外径よりも小さい。
【0019】
各第二側板53は、第二天板51の平行に延びる一対の短辺を形成する両端縁の夫々から下方に延びている。各第二側板53は、第二支持部材50をトレイ60上に配置した状態において、上下方向に長い縦長矩形状の平板である。各第二側板53の長辺の長さは等しい。各第二側板53の長辺は、各第一側板33の長辺よりも長い。第二支持部材50は、各第二側板53の下端面をトレイ60の底部61の上面に接触させてトレイ60上に配置される。第二天板51は、第二支持部材50をトレイ60上に配置した状態において、略水平方向に広がっている。第二支持部材50は、トレイ60上に配置した第一支持部材30を各第二側板53の間であり、第一天板31よりも下方に位置するようにトレイ60上に配置される。
【0020】
後述する液体搬送部80の流出管87は、トレイ60上に配置した第二支持部材50の第二天板51に形成された第二貫通孔に上方から挿入される。流出管87は、外周面の中間部を第二貫通孔の内周面に接触して第二支持部材50に吊り下げられた状態になり、第二支持部材50に支持される。第二支持部材50に支持された流出管87の中間部よりも下方部分は、第一支持部材30に支持された試験容器20内に挿入される。流出管87の下端開口は、試験容器20内の下部に達した状態になる。
【0021】
各第三貫通孔51Hは第二貫通孔の周縁に沿って並んでいる。各管部材40は、トレイ60上に配置した第二支持部材50の第二天板51に形成された各第三貫通孔51Hの夫々に上方から挿入される。各管部材40は、外周面の中間部を各第三貫通孔51Hの内周面に接触して第二支持部材50に吊り下がられた状態になり、第二支持部材50に支持される。第二支持部材50に支持された各管部材40の中間部よりも下方部分は、第一支持部材30に支持された試験容器20内に挿入される。各管部材40の下端開口は、試験容器20内に達した状態になる。各管部材40の下端開口から下方の露出した各ケラチン繊維Kは、夫々が離れた状態で試験容器20内に吊り下げられた状態に配置される。各ケラチン繊維Kは、各管部材40に保持され、離れた状態で試験容器20内に吊り下げられているため、試験容器20から流れ出たり、試験容器20内で絡まったりせずに、試験容器20内に流入する液体に良好に曝される。
【0022】
各管部材40は、第二支持部材50に形成された各第三貫通孔51Hから上方に抜き出すことができる。各管部材40を第二支持部材50に形成された各第三貫通孔51Hから上方に抜き出すと、各管部材40に保持されたケラチン繊維Kを試験容器20内から取り出すことができる。このように、各管部材40に保持されたケラチン繊維Kは試験容器20に出し入れ自在に収容される。
【0023】
トレイ60は、平板状の底部61と、底部61の外周縁に上方に立ち上がる周壁部63を有している。底部61は外周縁に近い部分に排水口61Hが形成されている。底部61の上面は、排水口61Hに向けて僅かに下方に傾斜している。排水口61Hは排水管65が接続されている。
【0024】
貯留部70は、液体を貯留する貯留容器71、及び貯留容器71に貯留した液体を所定の温度に保つ保温器75を有している。貯留容器71は、容器本体72、及び蓋部材73を具備している。容器本体72は、上端部に開口部が形成されている。蓋部材73は、容器本体72の上端部に形成された開口部に着脱自在である。蓋部材73は、後述する液体搬送部80の上流側チューブ81に接続される流入管74を有している。流入管74は、蓋部材73を貫通している。蓋部材73より上方に突出した流入管74の上部は、後述する液体搬送部80の上流側チューブ81の下流端部に接続される。流入管74は、蓋部材73より下方に延びており、下端開口は容器本体72の底面近傍に達している。
【0025】
液体搬送部80は、上流側チューブ81、ポンプ83、下流側チューブ85、及び流出管87を有している。上流側チューブ81、及び下流側チューブ85は、柔軟性を有している。上流側チューブ81、及び下流側チューブ85は、気体透過性の低い熱可塑性エラストマーチューブである。上流側チューブ81は、貯留部70の流入管74の下流端部とポンプ83とを連結している。ポンプ83は、液体の搬送流量を設定することができる。下流側チューブ85は、ポンプ83と流出管87の上流端部とを連結している。流出管87は、先細りの細長い管である。流出管87は、上流端部の径が下流端部の経よりも大きい。流出管87の上流端部は、下流側チューブ85の下流端部内に挿入され、接続されている。液体搬送部80は、ポンプ83を駆動すると、設定した流量の液体を貯留容器71から吸い上げ、上流側チューブ81、ポンプ83、下流側チューブ85、及び流出管87の順に通過した液体を試験容器20内の下部から流入させる。上流側チューブ81、及び下流側チューブ85は、通過する液体の温度の急激な低下を防ぐために、アルミ箔等の保温効果のある材質によって周囲を覆ってもよい。
【0026】
試験容器20内に流入した液体は、試験容器20内を液体が満たした状態になると、試験容器20の上端に形成された開口部21から溢れ出る。このように、ポンプ83を駆動した状態において、試験容器20内の液体は、下方から上方に向けて滞留することなく流動した状態を維持する。このため、この液体暴露装置1は、試験容器20内のケラチン繊維Kを流動する液体に良好に曝すことができる。試験容器20の開口部21から溢れ出た液体は、トレイ60の底部61の上面を流れて、排水口61Hから排水管65に排水される。
【0027】
<毛髪の残留塩素水及び浄水の暴露試験及び観察>
試験者は、残留塩素を含む水道水のシャワーによって毛髪の損傷が経時的に変化することを把握するために、このケラチン繊維の液体暴露装置1を利用して、毛髪を残留塩素濃度1ppmの残留塩素水(以下、単に「残留塩素水」という。)に所定時間暴露し、同一の毛髪における損傷の経時的変化を観察した。比較例として、試験者は、このケラチン繊維の液体暴露装置1を利用して、毛髪を浄水に所定時間暴露し、同一の毛髪における損傷の経時的変化を観察した。
【0028】
<暴露試験について>
試験者は、残留塩素水と浄水とを別々に貯留容器71に貯留し、液体暴露装置1を利用して、毛髪の残留塩素水及び浄水の夫々について暴露試験を行った。残留塩素水は、水道水を浄水カートリッジ(LIXIL社製JF-43)によってろ過し、水道水に含まれる残留塩素を除去して原水とし、次亜塩素酸ナトリウムを添加して、一般的な水道水の残留塩素濃度と略等しい残留塩素濃度1ppmに調整したものである。ポケット残留塩素計(HACH社製ポケット残留塩素計HACH2470)を用いて残留塩素濃度を測定した。残留塩素濃度が0.02から2ppmの場合、液体原液の残留塩素濃度をジエチルパラフェニレンジアミン法(DPD法)により測定できる。浄水は、残留塩素水の原水と同じ水道水を浄水カートリッジ(LIXIL社製JF-43)によってろ過し、水道水に含まれる残留塩素を除去したものであり、残留塩素濃度は0.05ppm未満である。
【0029】
貯留容器71に貯留した残留塩素水及び浄水の水温は、一般的なシャワーの水温を想定し、保温器75によって40℃に維持した。残留塩素水及び浄水の水温は、10℃から60℃であればよく、20℃から50℃が好ましい。液体搬送部80のポンプ83の搬送流量は、一般的なシャワーの水勢等を想定し、7.5mL/minに設定した。この搬送流量によって残留塩素水及び浄水を搬送すると、残留塩素水及び浄水の残留塩素濃度は、試験容器20に流入する前と試験容器20から流出した後との差を可能な限り小さくすることができる。
【0030】
一般的な人の1日のシャワーの時間等を想定し、一般的な人が1日に浴びるシャワーにおいて毛髪が水道水に曝される時間と、液体暴露装置1において毛髪を暴露する5分間とは、同等であると仮定した。つまり、1日のシャワーによる毛髪の損傷と、液体暴露装置1を利用して、5分間、暴露した場合の毛髪の損傷とは、同等であると仮定した。
【0031】
以降の説明において、1月を30日とし、暴露期間1月の毛髪は、液体暴露装置1を利用して毛髪を残留塩素水及び浄水の夫々に150分間、暴露した毛髪である。同様に、暴露期間3月、6月、12月の毛髪は、液体暴露装置1を利用して毛髪を残留水及び浄水の夫々に450分間、900分間、1800分間、暴露した毛髪である。
【0032】
<毛髪の表面粗さ観察について>
液体暴露装置1は、試験容器20内に配置した毛髪を各暴露期間の経過時に取り出して観察することができ、観察した毛髪を試験容器20内に再配置して、毛髪を残留塩素水及び浄水の夫々に暴露することができる。このように、この液体暴露装置1は、同一の毛髪の観察と暴露を繰り返して行うことができるため、同一の毛髪における損傷の経時的変化を観察することができる。この際、微細な領域及び広い領域を組み合わせて観察することができる。
【0033】
微細な領域の観察における測定範囲は、キューティクル1枚あたりにおける表面状態を観察することのできる範囲であれば、特に限定されないが、0.5~10μmであることがより好ましい。測定範囲が0.5μm未満の場合、観察範囲が限定的となり、測定部位ごとの差が大きくなる可能性がある。10μmを超える場合、キューティクルごとの段差を捉えてしまい、キューティクル1枚あたりの表面粗さを算出することが難しくなるおそれがある。
【0034】
広い領域の観察における測定範囲は、キューティクルの重なりによって生じる段差を観察することのできる範囲であれば、特に限定されないが、測定範囲のキューティクルの枚数が3~15枚となることがより好ましい。3枚未満となる場合、キューティクルの個体差による影響が大きくなり、段差の経時的な変化の傾向が捉えにくくなるおそれがあり、15枚を超える場合、低倍率となるため詳細な観察ができない可能性がある。
【0035】
<白色干渉顕微鏡による観察>
観察者は、液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水の夫々に暴露した毛髪の表面を非侵襲的に白色干渉顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス社製ナノ3D光干渉計測システムVS1800)によって110倍対物レンズを使用して、観察した。測定領域は、一辺が50μmである正方形領域である。暴露期間は、0月、1月、3月、6月、及び12月である。暴露期間0月の毛髪は、液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水に暴露する前の毛髪である。
【0036】
毛髪の表面は、
図2に示すように、複数枚のうろこ状のキューティクルが重なり合って並んでおり、段差が生じている。
図2において、上段の白色干渉顕微鏡画像は、浄水及び残留塩素水に暴露する前の毛髪の画像である。
図2において、下段の左側の白色干渉顕微鏡画像は、液体暴露装置1を利用して、浄水に暴露した暴露期間6月の毛髪の画像である。下段の右側の白色干渉顕微鏡画像は、液体暴露装置1を利用して、残留塩素水に暴露した暴露期間6月の毛髪の画像である。上下に並んだ白色干渉顕微鏡画像は、同一の毛髪の画像である。
【0037】
これら白色干渉顕微鏡画像から残留塩素水に暴露した暴露期間6月の毛髪は、暴露期間0月の同一の毛髪に比べて、キューティクルの変形が大きく、キューティクルの重なりによって生じる毛髪表面の段差が小さくなっていることがわかる。一方、浄水に暴露した暴露期間6月の毛髪は、暴露期間0月の同一の毛髪に比べて、キューティクルの変形が少ないことがわかる。このように、一般的な水道水の残留塩素濃度と略等しい残留塩素濃度に調整した残留塩素水によって、毛髪は損傷することがわかる。
【0038】
<線粗さパラメータの検討>
液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水の夫々に暴露した毛髪を、複数の暴露期間ごとに、非侵襲的に白色干渉顕微鏡を用いて、線粗さパラメータを解析した。解析した線粗さパラメータは、十点平均粗さRzjis(単位:μm)、二乗平均平方根傾斜Rdq、算術平均高さRa(単位:μm)、二乗平均平方根高さRq(単位:μm)、突出部高さRvk(単位:μm)、及び平均傾斜角θa(単位:deg(度))である。解析した結果を表1に示す。十点平均粗さRzjis(単位:μm)、二乗平均平方根傾斜Rdq、算術平均高さRa(単位:μm)、二乗平均平方根高さRq(単位:μm)、及び平均傾斜角θa(単位:deg(度))で表される線粗さパラメータは、JIS B 0601において規定されている。突出部高さRvk(単位:μm)で表される線粗さパラメータはJIS B 0671において規定されている。これら線粗さパラメータは表面の粗さを示すパラメータである。
【0039】
【0040】
十点平均粗さRzjis、及び二乗平均平方根傾斜Rdqは、
図3及び
図5に示すように、残留塩素水に暴露した毛髪に対して、暴露期間が長くなるとともに値が減少する傾向である。このように、十点平均粗さRzjis値の変化、及び二乗平均平方根傾斜Rdq値の変化は、毛髪を残留塩素水に暴露することによって、経時的に毛髪表面の段差が小さくなり、毛髪の損傷が進行している損傷度合いを示していると考えられる。一方、これらパラメータは、浄水に暴露した毛髪に対して、暴露期間の長さと値の増減との関係性が明確でない。この結果は、毛髪を浄水に暴露しても、毛髪の損傷は少ないことを示していると考えられる。
【0041】
算術平均粗さRa、及び二乗平均平方根高さRqは、
図7及び
図9に示すように、残留塩素水及び浄水のいずれに暴露した毛髪に対しても、暴露期間の長さと値の増減の関係性が明確でない。この結果から、これらパラメータは、毛髪の損傷の進行を示すことができないと考えられる。
【0042】
突出部高さRvk、及び平均傾斜角θaは、十点平均粗さRzjis、及び二乗平均平方根傾斜Rdqに比べて、毛髪の損傷の進行を示していないが、算術平均粗さRa、及び二乗平均平方根高さRqに比べて、毛髪の損傷の進行を示していると考えられる。
【0043】
暴露期間0月、1月、3月、6月、12月の夫々の各線粗さパラメータ(Rzjis、Rdq、Ra、Rq、Rvk、及びθa)の値に対して、暴露期間0月のこれらパラメータの値との差ΔRzjis(単位:μm)、ΔRdq、ΔRa(単位:μm)、ΔRq(単位:μm)、ΔRvk(単位:μm)、及びΔθa(単位:deg(度))を算出した。算出結果を表2に示す。これらパラメータも表面の粗さを示すパラメータである。
【0044】
【0045】
ΔRzjis、及びΔRdqは、
図4及び
図6に示すように、残留塩素水に暴露した毛髪に対して、負の値であり、暴露期間が長くなるとともに値が減少する傾向である。このように、ΔRzjis値の変化、及びΔRdq値の変化は、毛髪を残留塩素水に暴露することによって、経時的に毛髪表面の段差が小さくなり、毛髪の損傷が進行している損傷度合いを示していると考えられる。一方、これらパラメータは、浄水に暴露した毛髪に対して、暴露期間の長さと値の増減との関係性が明確でない。この結果は、毛髪を浄水に暴露しても、毛髪の損傷は少ないことを示していると考えられる。
【0046】
ΔRa、及びΔRqは、
図8及び
図10に示すように、残留塩素水及び浄水のいずれに暴露した毛髪に対しても、暴露期間の長さと値の増減の関係性が明確でない。この結果から、ΔRa、及びΔRqは、毛髪の損傷の進行を示すことができないと考えられる。
【0047】
ΔRvk、及びΔθaは、ΔRzjis、及びΔRdqに比べて、毛髪の損傷の進行を示していないが、ΔRa、及びΔRqに比べて、毛髪の損傷の進行を示していると考えられる。
【0048】
<面粗さパラメータの検討>
液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水の夫々に暴露した毛髪を、複数の暴露期間ごとに白色干渉顕微鏡を用いて、非侵襲的に面粗さパラメータを解析した。解析した面粗さパラメータは、二乗平均平方根勾配Sdq、展開界面面積率Sdr(単位:%)、コア部の負荷面積率Smr2(単位:%)、算術平均高さSa(単位:μm)、二乗平均平方根高さSq(単位:μm)、山の頂点密度Spd(単位:1/mm2)、コア部のレベル差Sk(単位:μm)、谷底の5点平均深さS5v(単位:μm)、十点平均高さS10z(単位:μm)、及びコア部の空間体積Vvc(ml/m2)である。解析した結果を表3に示す。これら面粗さパラメータは、ISO25178に規定されている。これら面粗さパラメータは表面の粗さを示すパラメータである。
【0049】
【0050】
二乗平均平方根勾配Sdq、展開界面面積率Sdr、及びコア部の負荷面積率Smr2は、
図11、
図13、及び
図15に示すように、残留塩素水に暴露した毛髪に対して、暴露期間が長くなるとともに値が減少する傾向である。このように、二乗平均平方根勾配Sdq値の変化、展開界面面積率Sdr値の変化、及びコア部の負荷面積率Smr2値の変化は、毛髪を残留塩素水に暴露することによって、経時的に毛髪表面の段差が小さくなり、毛髪の損傷が進行している損傷度合いを示していると考えられる。一方、二乗平均平方根勾配Sdq、及び展開界面面積率Sdrは、浄水に暴露した毛髪に対して、暴露期間が長くなるとともに値が減少する傾向を示しているが、その変化は残留塩素水に暴露した毛髪に対する値の変化よりも小さい。この結果は、毛髪を浄水に暴露しても、残留塩素水に暴露した場合に比べ、毛髪の損傷は少ないことを示していると考えられる。コア部の負荷面積率Smr2は、浄水に暴露した毛髪に対して、暴露期間が長くなっても値がほとんど変化しない。この結果は、毛髪を浄水に暴露しても、毛髪の損傷は少ないことを示していると考えられる。
【0051】
算術平均高さSa、二乗平均平方根高さSqは、
図17及び
図19に示すように、残留塩素水及び浄水のいずれに暴露した毛髪に対しても、暴露期間が変化しても値の変化がわずかである。この結果から、これらパラメータは、毛髪の損傷の進行を示すことができないと考えられる。
【0052】
山の頂点密度Spd、コア部のレベル差Sk、谷底の5点平均深さS5v、十点平均高さS10z、及びコア部の空間体積Vvcは、二乗平均平方根勾配Sdq、展開界面面積率Sdr、及びコア部の負荷面積率Smr2に比べて、毛髪の損傷の進行を示していないが、算術平均高さSa、及び二乗平均平方根高さSq比べて、毛髪の損傷の進行を示していると考えられる。
【0053】
暴露期間0月、1月、3月、6月、12月の夫々の各面粗さパラメータ(Sdq、Sdr、Smr2、Sa、Sq、Spd、Sk、S5v、S10z、及びVvc)の値に対して、暴露期間0月のこれらパラメータの値との差ΔSdq、ΔSdr(単位:%)、ΔSmr2(単位:%)、ΔSa(単位:μm)、ΔSq(単位:μm)、ΔSpd(単位:1/mm2)、ΔSk(単位:μm)、ΔS5v(単位:μm)、ΔS10z(単位:μm)、及びΔVvc(ml/m2)を算出した。算出結果を表4に示す。これらパラメータも表面の粗さを示すパラメータである。
【0054】
【0055】
ΔSdq、ΔSdr、及びΔSmr2は、
図12、
図14、及び
図16に示すように、残留塩素水に暴露した毛髪に対して、負の値であり、暴露期間が長くなるとともに値が減少する傾向である。このように、ΔSdq値の変化、ΔSdr値の変化、及びΔSmr2値の変化は、毛髪を残留塩素水に暴露することによって、経時的に毛髪表面の段差が小さくなり、毛髪の損傷が進行している損傷度合いを示していると考えられる。一方、ΔSdq、及びΔSdrは、浄水に暴露した毛髪に対して、暴露期間が長くなるとともに値が減少する傾向を示しているが、その変化は残留塩素水に暴露した毛髪に対する値の変化よりも小さい。この結果は、毛髪を浄水に暴露しても、残留塩素水に暴露した場合に比べ、毛髪の損傷は少ないことを示していると考えられる。ΔSmr2は、浄水に暴露した毛髪に対して、正の値であり、暴露期間が長くなっても値がほとんど変化しない。この結果は、毛髪を浄水に暴露しても、毛髪の損傷は少ないことを示していると考えられる。
【0056】
ΔSa、及びΔSqは、
図18及び
図20に示すように、残留塩素水及び浄水のいずれに暴露した毛髪に対しても、暴露期間が変化しても値の変化がわずかである。この結果から、これらパラメータは、毛髪の損傷の進行を示すことができないと考えられる。
【0057】
ΔSpd、ΔSk、ΔS5v、ΔS10z、及びΔVvcは、ΔSdq、ΔSdr、及びΔSmr2に比べて、毛髪の損傷の進行を示していないが、ΔSa、及びΔSq比べて、毛髪の損傷の進行を示していると考えられる。
【0058】
<原子間力顕微鏡(AFM)による観察>
観察者は、液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水の夫々に暴露した毛髪に対して、暴露期間0月、及び6月の毛髪の表面を非侵襲的にAFM(ブルカージャパン株式会社製原子間力顕微鏡 Dimension ICON)によって大気中QNMモードで観察した。測定領域は、一辺が20μmである正方形領域(以下、20μm角という。)、及び一辺が5μmである正方形領域(以下、5μm角という。)の2種類である。測定領域20μm角のAFM画像は、複数枚のキューティクルが重なった状態を示すものである。測定領域5μm角のAFM画像は、1枚のキューティクルの表面を示すものである。暴露期間0月の毛髪は、液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水に暴露する前の毛髪である。
【0059】
図21における各画像は測定領域20μm角のAFM画像である。
図21において、上段のAFM画像は、浄水及び残留塩素水に暴露する前の毛髪の画像である。
図21において、下段の左側のAFM画像は、液体暴露装置1を利用して、浄水に暴露した暴露期間6月の毛髪の画像である。下段の右側のAFM画像は、液体暴露装置1を利用して、残留塩素水に暴露した暴露期間6月の毛髪の画像である。上下に並んだAFM画像は、同一の毛髪の画像である。
【0060】
これら測定領域20μm角のAFM画像から残留塩素水に暴露した暴露期間6月の毛髪は、暴露期間0月の同一の毛髪に比べて、キューティクル1枚当たりの表面が粗くなることがわかる。一方、浄水に暴露した暴露期間6月の毛髪は、暴露期間0月の同一の毛髪に比べて、キューティクル1枚当たりの表面がなめらかであることがわかる。このように、一般的な水道水の残留塩素濃度と略等しい残留塩素濃度に調整した残留塩素水によって、毛髪は損傷することがわかる。
【0061】
図22における各画像は測定領域5μm角のAFM画像である。
図22において、上段のAFM画像は、浄水及び残留塩素水に暴露する前の毛髪の画像である。
図22において、下段の左側のAFM画像は、液体暴露装置1を利用して、浄水に暴露した暴露期間6月の毛髪の画像である。下段の右側のAFM画像は、液体暴露装置1を利用して、残留塩素水に暴露した暴露期間6月の毛髪の画像である。上下に並んだAFM画像は、同一の毛髪の画像である。
【0062】
これら測定領域5μm角のAFM画像から残留塩素水に暴露した暴露期間6月の毛髪は、暴露期間0月の同一の毛髪に比べて、キューティクルの表面がざらざらに変形していることがわかる。一方、浄水に暴露した暴露期間6月の毛髪は、暴露期間0月の同一の毛髪に比べて、キューティクルの表面の変形が少ないことがわかる。このように、一般的な水道水の残留塩素濃度と略等しい残留塩素濃度に調整した残留塩素水によって、毛髪は損傷することがわかる。
【0063】
<線粗さパラメータの検討>
液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水の夫々に暴露した毛髪を、暴露期間0月と6月の夫々において、非侵襲的にAFMを用いて、5μm角、及び20μm角の測定領域の夫々における線粗さパラメータを解析した。解析した線粗さパラメータは、算術平均高さRa(単位:nm)、二乗平均平方根高さRq(単位:nm)、最大高さRz(単位:nm)、最大山高さRp(単位:nm)、平均山高さRpm(単位:nm)、最大谷深さRv(単位:nm)、平均谷深さRvm(単位:nm)、及び十点平均粗さRzjis(単位:nm)である。解析した結果を表5に示す。算術平均高さRa(単位:nm)、二乗平均平方根高さRq(単位:nm)、最大高さRz(単位:nm)、最大山高さRp(単位:nm)、最大谷深さRv(単位:nm)、及び十点平均粗さRzjis(単位:nm)で表される線粗さパラメータは、JIS B 0601において規定されている。これら線粗さパラメータは表面の粗さを示すパラメータである。
【0064】
平均谷深さRvm(単位:nm)は、JIS B 0601に規定された、基準となる測定範囲面内のキューティクルの測定平均面からの最大谷深さRvの平均値のことである。平均山高さRpm(単位:nm)は、JIS B 0601に規定された最大山高さRpを用いたものであり、粗さ曲線から平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、基準長さを5等分に区切った区間において、各区間に含まれる最も高い山部の平均高さから頂までの高さをRpiとした際、この5つの区間におけるRpiの平均値のことである。平均谷深さRvm及び平均山高さRpmも表面の粗さを示すパラメータである。
【0065】
【0066】
20μm角の測定領域における算術平均高さRa、二乗平均平方根高さRq、最大高さRz、平均山高さRpm、及び十点平均粗さRzjisは、残留塩素水に暴露した毛髪に対して、暴露期間6月を経過すると値が減少する傾向である。このように、20μm角の測定領域における算術平均高さRa値の変化、二乗平均平方根高さRq値の変化、最大高さRz値の変化、平均山高さRpm値の変化、及び十点平均粗さRzjisの変化は、毛髪を残留塩素水に暴露することによって、経時的にキューティクルの表面がざらざらに変形し、毛髪表面の段差が小さくなり、毛髪の損傷が進行している損傷度合いを示していると考えられる。
【0067】
<面粗さパラメータの検討>
液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水の夫々に暴露した毛髪を、暴露期間0月と6月の夫々において、非侵襲的にAFMを用いて、5μm角、及び20μm角の測定領域の夫々における面粗さパラメータを解析した。解析した面粗さパラメータは、算術平均高さSa(単位:nm)、二乗平均平方根高さSq(単位:nm)、最大高さSz(単位:nm)、二乗平均平方根勾配Sdq、及び、頂上近傍における曲率の算術平均Ssc(単位:μm)である。解析した結果を表6に示す。算術平均高さSa(単位:nm)、二乗平均平方根高さSq(単位:nm)、最大高さSz(単位:nm)、二乗平均平方根勾配Sdqで表される面粗さパラメータは、ISO25178に規定されている。これら面粗さパラメータは表面の粗さを示すパラメータである。頂上近傍における曲率の算術平均Ssc(単位:μm)は、観察面内に存在する各凸部の最高点(頂点)の曲率の算術平均であり、表面の粗さを示すパラメータである。
【0068】
【0069】
20μm角の測定領域における算術平均高さSa、二乗平均平方根高さSq、及び最大高さSzは、残留塩素水に暴露した毛髪に対して、暴露期間6月が経過すると値が減少する傾向である。このように、20μm角の測定領域における算術平均高さSa、二乗平均平方根高さSq、及び最大高さSzは、毛髪を残留塩素水に暴露することによって、経時的にキューティクルの表面がざらざらに変形し、毛髪表面の段差が小さくなり、毛髪の損傷が進行している損傷度合いを示していると考えられる。一方、20μm角の測定領域における、二乗平均平方根勾配Sdq、及び、頂上近傍における曲率の算術平均Ssc(単位:μm)は、残留塩素水に暴露した毛髪に対して、暴露期間6月が経過すると値が増加する傾向である。
【0070】
<電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)による観察>
観察者は、液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水の夫々に暴露した毛髪に対して、暴露期間0月、及び6月の毛髪の表面をFE-SEM(日本電子株式会社製電界放出形走査電子顕微鏡JSM-IT800SHL)によって観察した。暴露期間0月の毛髪は、液体暴露装置1を利用して残留塩素水及び浄水に暴露する前の毛髪である。観察した毛髪は、上述したように、非侵襲的に白色干渉顕微鏡及びAFMの少なくともいずれか一方を用いて、表面の粗さを示すパラメータを解析したものと同一の毛髪である。
【0071】
図23において、上段のFE-SEM画像は、浄水及び残留塩素水に暴露する前の毛髪の画像である。
図23において、下段の左側のFE-SEM画像は、液体暴露装置1を利用して、浄水に暴露した暴露期間6月の毛髪の画像である。下段の右側のFE-SEM画像は、液体暴露装置1を利用して、残留塩素水に暴露した暴露期間6月の毛髪の画像である。上下に並んだFE-SEM画像は、同一の毛髪の画像である。
【0072】
これらFE-SEM画像から残留塩素水に暴露した暴露期間6月の毛髪は、暴露期間0月の同一の毛髪に比べて、キューティクルの重なりによって生じる毛髪表面の段差が小さくなり、キューティクル1枚当たりの表面が荒くなっていることがわかる。一方、浄水に暴露した暴露期間6月の毛髪は、暴露期間0月の同一の毛髪に比べて、キューティクルの重なりによって生じる毛髪表面の段差の変化は少なく、キューティクル1枚当たりの表面がなめらかであることがわかる。このように、一般的な水道水の残留塩素濃度と略等しい残留塩素濃度に調整した残留塩素水によって、毛髪は損傷することがわかる。
【0073】
以上説明したように、実施形態1のケラチン繊維の液体暴露装置1は、配置部10、貯留部70、液体搬送部80を備えている。配置部10は、ケラチン繊維Kを配置する。貯留部70は液体を貯留する。液体搬送部80は、貯留部70に貯留した液体を所定の流量で配置部10に連続的に供給する。このケラチン繊維の液体暴露装置1は、液体を連続的に配置部10に供給し、ケラチン繊維Kを液体に良好に暴露することができる。このため、このケラチン繊維の液体暴露装置1は、同一のケラチン繊維Kを用いて経時的なケラチン繊維Kの損傷を把握するために有用である。
【0074】
実施形態1のケラチン繊維の液体暴露装置1の配置部10は、上端に開口部21を形成した試験容器20を有している。試験容器20は、ケラチン繊維Kを出し入れ自在に収容する。試験容器20は、液体搬送部80から供給される液体が流入し、流入した液体が開口部21から溢れ出る。このケラチン繊維の液体暴露装置1は、ケラチン繊維Kを出し入れ自在に収容する試験容器20に液体が連続的に供給されるため、ケラチン繊維Kを液体に良好に曝すことができる。また、ケラチン繊維Kは、試験容器20に出し入れ自在を収容されるため、同一のケラチン繊維Kを用いて経時的なケラチン繊維Kの損傷を把握することができる。
【0075】
ケラチン繊維Kの損傷評価における白色干渉顕微鏡による評価において、測定領域を一辺が50μmである正方形領域に設定した。このため、このケラチン繊維の損傷評価方法は、複数枚のキューティクルが重なった状態が把握できる広い領域を評価することができる。
【0076】
ケラチン繊維Kの損傷評価におけるAFMによる評価において、測定領域を一辺が5μm、及び20μmである正方形領域に設定した。このため、このケラチン繊維の損傷評価方法は、キューティクルの表面の変形を評価したり、複数枚のキューティクルが重なった状態が把握できる広い領域を評価したりすることができる。
【0077】
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態1に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
(1)ケラチン繊維の液体暴露装置は試験容器を複数個は有していてもよい。
(2)試験容器は、液体が良好に流動し、流動する液体中にケラチン繊維を配置することができる形態であれば、円筒形状でなくても、他の形状であってもよい。
(3)管部材は試験容器に対して3本に限らず、2本以下、4本以上であってもよい。
(4)ポンプの搬送流量は、試験容器や流体搬送部を構成する他の部材等に応じて適宜設定すればよい。
(5)配置部、貯留部、及び液体搬送部を構成する各部材の形態は、適宜変更してもよい。
(6)液体暴露装置を利用して毛髪に対する水道に含まれる残留塩素の影響を観察する際の液体として、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いてもよい。この際、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度は、毛髪に経時的な損傷を与えられる濃度であることが好ましく、0.1ppmから20ppmであるとよい。ポケット残留塩素計(HACH社製ポケット残留塩素計HACH2470)を用いて残留塩素濃度を測定することができる。残留塩素濃度が0.02~2ppmの場合、液体原液の残留塩素濃度をDPD法により測定することができる。残留塩素濃度が2ppmを超える場合、超純水を用いて、希釈後の残留塩素濃度が0.05~2ppmとなるように液体を希釈したのち、希釈液体の残留塩素濃度をDPD法により測定することができる。
(7)液体暴露装置の液体は、液状に限らずゲル状等であってもよい。
(8)液体暴露装置は、残留塩素水や浄水に限らず、他の液体の暴露する目的に利用してもよい。この場合、液体暴露装置の液体として、次亜塩素酸ナトリウム以外の酸化剤、還元剤、界面活性剤、シリコーン油、シリコーン油以外の油性成分、アルコール類、pH調整剤、金属封鎖剤、紫外線吸収剤、皮膜形成樹脂、香料、酸化防止剤、防腐剤、保湿剤、清涼剤、増粘剤、ビタミン類、植物抽出物、タンパク質加水分解物、着色剤等を含有する液体が考えられ、これらは1種以上含有する液体であってもよい。
(9)液体暴露装置は、毛髪を液体に暴露することに限らず、他のケラチン繊維を液体に暴露する目的に利用してもよい。
(10)白色干渉顕微鏡の測定領域は、長辺及び短辺の夫々が10μmから100μmである領域であればよい。
(11)原子間力顕微鏡(AFM)の測定領域は、長辺及び短辺の夫々が0.5μmから20μmである領域であればよい。
(12)毛髪の表面粗さの観察は、原子間力顕微鏡、及び電子顕微鏡に限らず、レーザー顕微鏡、光学顕微鏡、電子顕微鏡、その他の顕微鏡を用いて観察してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…液体暴露装置、10…配置部、20…試験容器、21…開口部、70…貯留部、80…液体搬送部、K…ケラチン繊維