(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073172
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】会計上のリスク評価支援システム、会計上のリスク評価支援方法及び会計上のリスク評価支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/12 20230101AFI20240522BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240522BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20240522BHJP
【FI】
G06Q40/12
G06T7/00 350B
G06T7/60 150Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184242
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】503093062
【氏名又は名称】有限責任あずさ監査法人
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】峯崎 大介
(72)【発明者】
【氏名】宇宿 哲平
【テーマコード(参考)】
5L040
5L055
5L096
【Fターム(参考)】
5L040BB63
5L055BB63
5L096AA06
5L096BA05
5L096EA03
5L096EA39
5L096EA43
5L096FA52
5L096FA59
5L096FA62
5L096FA69
5L096GA30
5L096GA34
5L096JA03
(57)【要約】
【課題】現場に行かなくても会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価することができるようになる会計上のリスク評価支援システムを提供する。
【解決手段】会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援システム1である。
そして、地理的情報として指定された位置情報が含まれる写真画像を取得する画像取得部31と、写真画像から位置情報に基づいて該当物画像を抽出する画像抽出部32と、該当物画像を画像認識させることで地理的情報に関する不動産指標を推定する不動産指標推定部33と、不動産指標と財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力する関係性出力部34とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援システムであって、
前記地理的情報として指定された位置情報が含まれる写真画像を取得する画像取得部と、
前記写真画像から前記位置情報に基づいて該当物画像を抽出する画像抽出部と、
前記該当物画像を画像認識させることで前記地理的情報に関する不動産指標を推定する不動産指標推定部と、
前記不動産指標と前記財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力する関係性出力部とを備えたことを特徴とする会計上のリスク評価支援システム。
【請求項2】
前記不動産指標は、建物の規模に関する評価となる建物度であることを特徴とする請求項1に記載の会計上のリスク評価支援システム。
【請求項3】
前記画像抽出部では、前記該当物画像を抽出する際に地図画像を利用するとともに、
前記地図画像は、建物とそれ以外とを2値化によって区別したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の会計上のリスク評価支援システム。
【請求項4】
2値化された前記地図画像から建物を検出し、検出された建物の中で最も前記位置情報に近い建物を該当建物として検出し、前記該当建物が含まれる領域に基づいて前記該当物画像を抽出することを特徴とする請求項3に記載の会計上のリスク評価支援システム。
【請求項5】
前記不動産指標推定部では、機械学習された学習済みモデルによって画像認識を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の会計上のリスク評価支援システム。
【請求項6】
会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援方法であって、
前記地理的情報として指定された位置情報が含まれる写真画像を取得するステップと、
前記写真画像から前記位置情報に基づいて該当物画像を抽出するステップと、
前記該当物画像から前記地理的情報に関する不動産指標を推定するステップと、
前記不動産指標と前記財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力するステップとを備えたことを特徴とする会計上のリスク評価支援方法。
【請求項7】
会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援プログラムであって、
前記地理的情報として指定された位置情報が含まれる写真画像を取得する手順と、
前記写真画像から前記位置情報に基づいて該当物画像を抽出する手順と、
前記該当物画像を画像認識させることで前記地理的情報に関する不動産指標を推定する手順と、
前記不動産指標と前記財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力する手順とをコンピュータに実行させることを特徴とする会計上のリスク評価支援プログラム。
【請求項8】
会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援システムであって、
前記地理的情報として指定された位置情報が含まれる地図画像を取得する画像取得部と、
前記地図画像から前記位置情報に基づいて該当物画像を抽出する画像抽出部と、
前記該当物画像において特定された建物の建物面積と前記該当物画像の周辺エリアの建物数とを不動産指標として算出する不動産指標推定部と、
前記不動産指標と前記財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力する関係性出力部とを備えたことを特徴とする会計上のリスク評価支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援システム、会計上のリスク評価支援方法及び会計上のリスク評価支援プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部監査や外部監査などの会計監査業務においては、財務諸表などの会計書類に記載された内容に対して、架空取引など不正な取引が存在していないかなどの分析を行い、チェックをすることが行われる(特許文献1,2など参照)。
【0003】
一方において、監査業務においては、実際に現場に赴き、現物を確認し、現実を把握するという三現主義の重要性も言われている。例えば、会計書類に記載された会社の建物の所在地などの地理的情報が、売上などの財務に関する情報と比較して適正であるかなどの確認が、三現主義に基づいて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7052135号公報
【特許文献2】特開2019-179531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、確認のために実際に現場に赴くには、移動にかかる時間や費用が必要になるだけでなく、監査対象となる会社や担当者の都合などもあり、簡単に実施できないこともある。また、三現主義を効果的に実行するために、事前に不正取引に関する感触などをつかんでおくことも望ましい。
【0006】
そこで本発明は、現場に行かなくても会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価することができるようになる会計上のリスク評価支援システム、会計上のリスク評価支援方法及び会計上のリスク評価支援プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の会計上のリスク評価支援システムは、会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援システムであって、前記地理的情報として指定された位置情報が含まれる写真画像を取得する画像取得部と、前記写真画像から前記位置情報に基づいて該当物画像を抽出する画像抽出部と、前記該当物画像を画像認識させることで前記地理的情報に関する不動産指標を推定する不動産指標推定部と、前記不動産指標と前記財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力する関係性出力部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、会計上のリスク評価支援方法の発明は、会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援方法であって、前記地理的情報として指定された位置情報が含まれる写真画像を取得するステップと、前記写真画像から前記位置情報に基づいて該当物画像を抽出するステップと、前記該当物画像から前記地理的情報に関する不動産指標を推定するステップと、前記不動産指標と前記財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力するステップとを備えたことを特徴とする。
【0009】
さらに、会計上のリスク評価支援プログラムの発明は、会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援プログラムであって、前記地理的情報として指定された位置情報が含まれる写真画像を取得する手順と、前記写真画像から前記位置情報に基づいて該当物画像を抽出する手順と、前記該当物画像を画像認識させることで前記地理的情報に関する不動産指標を推定する手順と、前記不動産指標と前記財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力する手順とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0010】
また、別の会計上のリスク評価支援システムの発明は、会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するための会計上のリスク評価支援システムであって、前記地理的情報として指定された位置情報が含まれる地図画像を取得する画像取得部と、前記地図画像から前記位置情報に基づいて該当物画像を抽出する画像抽出部と、前記該当物画像において特定された建物の建物面積と前記該当物画像の周辺エリアの建物数とを不動産指標として算出する不動産指標推定部と、前記不動産指標と前記財務に関する情報となる財務指標との関係性を出力する関係性出力部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の会計上のリスク評価支援システム、会計上のリスク評価支援方法及び会計上のリスク評価支援プログラムは、地理的情報として指定された位置情報が含まれる写真画像を取得し、その写真画像から抽出された該当物画像から、そこに存在するのがどのような建物なのかなどの不動産指標を推定する。そして、その不動産指標と売上などの財務指標との関係性を出力する。
【0012】
このため、会社の所在地や保有地などの現場に行かなくても、会社の地理的情報が売上などと比較して適正であるかなどの関係性を、効率的に評価することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態の会計上のリスク評価支援システムの構成を説明するブロック図である。
【
図2】本実施の形態の会計上のリスク評価支援方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図3】地図画像を説明する図であって、(a)は取得された地図画像の一例の説明図、(b)は2値化処理された地図画像の一例の説明図である。
【
図4】地図画像から該当建物を特定する処理を説明する図であって、(a)は距離に基づいて該当建物を特定する処理の説明図、(b)は特定された該当建物の一例の説明図である。
【
図5】写真画像を説明する図であって、(a)は取得された航空画像の一例の説明図、(b)は該当物画像が特定された一例の説明図である。
【
図6】画像認識の分類結果とそれに対応するフラグについて例示した説明図である。
【
図7】小建物度の算出方法の例示であって、(a)は検知対象と検知対象外との割合で小建物度を算出した一例の説明図、(b)は重み付けをした一例の説明図である。
【
図8】売上高と小建物度との関係性を出力した一例を示した説明図である。
【
図9】該当物画像の類似度ランクを利用して不動産指標を推定する一例の説明図である。
【
図10】実施例1の会計上のリスク評価支援システムの処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図11】周辺エリアの画像を説明する図であって、(a)は建物数の算出の一例を示した説明図、(b)は該当建物の一例の説明図である。
【
図12】周辺エリアの建物数と該当建物の建物面積とフラグとの関係を例示した説明図である。
【
図13】周辺エリアの建物数と該当建物の建物面積との関係から不正取引の判定をする関係性マトリックスを例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の会計上のリスク評価支援システム1の構成を説明するブロック図である。また、
図2は、本実施の形態の会計上のリスク評価支援方法の処理の流れを説明するフローチャートである。
【0015】
本実施の形態の会計上のリスク評価支援システム1は、内部監査や外部監査などの会計監査の監査対象となる会社の地理的情報と財務に関する情報との関係性を評価するためのシステムである。
【0016】
ここで、地理的情報とは、会社の所在地や保有地に建つ建物の種別や、駐車場や更地や森などの建物以外のものなどに関する情報をいう。一方、財務に関する情報には、監査対象となる会社の会計書類に記載された売上高や総資本や資産などの財務指標が該当する。
【0017】
本実施の形態の会計上のリスク評価支援システム1では、
図1に示すように、入力装置2などから入力されたデータに基づいて演算処理部3で処理を行い、表示装置5などに判定結果などを表示させる。
【0018】
会計上のリスク評価支援システム1の演算処理部3は、航空写真などの写真画像や地図画像などを取得する画像取得部31と、写真画像から対象となる該当物画像を抽出する画像抽出部32と、該当物画像の不動産指標を推定する不動産指標推定部33と、不動産指標と財務指標との関係性を出力する関係性出力部34とによって、主に構成される。
【0019】
各種データの入力を行うための入力装置2は、パーソナルコンピュータ(PC)、ノートパソコン、タブレット端末、ウェアラブル端末、スマートフォンなどに接続又は装備されたデータ入力手段である。入力装置2には、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タッチパッド、スキャナ、音声入力用のマイクなどが該当する。また、カメラを入力装置2として使用することもできる。
【0020】
一方、表示装置5には、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro- Luminescence)ディスプレイ、プリンタなどが使用できる。
【0021】
さらに、記憶部4は、演算処理部3における処理によって生成されたデータや演算処理に必要なデータを記録させる記憶媒体で、ハードディスク、ソリッドステートドライブ(SSD)、フラッシュメモリ(SDメモリーカードなど)、磁気ディスク、光ディスクなどが該当する。また、ネットワークで接続されるサーバなどの外部のオンラインストレージ(クラウドストレージ)を、記憶部4として使用することもできる。
【0022】
演算処理部3は、ハードウェアとしては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-processing unit)、GPU(Graphics Processing Unit)などによって構成され、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などのメモリを備えている。
【0023】
演算処理部3は、コンピュータにインストールされたアプリケーションによって各種機能を実行させることができる。また、インターネットなどのネットワークを介して接続されたサーバなどに、演算処理部3の一部又は全部を実行させることもできる。ネットワークは、インターネット、WAN(Wide Area Network)、有線LAN(Local Area Network)、無線LAN(Wi-Fi)、プロバイダ装置、無線基地局、専用回線などの一部又は全部によって構成される。
【0024】
演算処理部3の画像取得部31では、地理的情報として指定された位置情報が含まれる画像を取得する。ここで、「地理的情報として指定された位置情報」とは、会社の所在地や保有地などの住所や緯度経度情報などが該当する。会社の支店、営業所、工場、子会社などの住所等を位置情報にすることもできる。
【0025】
位置情報に基づいて取得する画像としては、例えば地図画像などの地図情報が挙げられる。
図3は、画像取得部31で取得した地図画像を説明する図であって、
図3(a)は取得された地図画像の一例を示している。
図3(a)は、国土地理院の「地理院タイル(登録商標)、https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html」の電子国土基本図のデータソースに、緯度経度情報を入力して得られた電子地形図を利用している。地図画像の取得時には、作成年月日などの作成時期に関する情報も取得する。
【0026】
そして、
図3(b)は、
図3(a)の電子地形図を2値化処理した地図画像を示している。2値化処理は、電子地形図上の建物と建物以外とを区別することで、建物の検出精度を向上させるために行う処理である。ここでは、建物を示すグレー色(RGB(205,205,205)-RGB(215,215,215))以外の領域を、黒塗りにする2値化処理を行った。
【0027】
また、画像取得部31によって位置情報に基づいて取得する画像には、航空画像などの写真画像も該当する(
図5(a)参照)。写真画像は、位置情報に該当する場所を上空から撮影した写真などの画像であって、航空写真、ドローンによる撮影写真、衛星画像などが該当する。なお、
図5(a)は、国土地理院の地理院タイルの全国最新写真のデータソースに、緯度経度情報を入力して得られた航空写真を利用している。また、写真画像の取得時には、撮影年月日などの撮影時期に関する情報も取得する。
【0028】
画像抽出部32では、画像取得部31で取得した写真画像から、位置情報に基づいて該当物画像を抽出する。すなわち、画像取得部31で取得した写真画像は、指定した位置情報に建つ建物だけでなく、その周辺のエリアも撮影されているので、画像認識を行う範囲の画像のみを抽出する必要がある。
【0029】
例えば地理院タイルでは、地図の表示倍率を「ズームレベル」という概念を使って区分しており、指定したズームレベルに応じて、様々な縮尺の長方形の画像データを得ることができる。
【0030】
このため、取得した写真画像から、監査対象となる会社の位置情報に関連した建物の画像のみを該当物画像として抽出する処理を、画像抽出部32によって行う。なお、後述するように、抽出された該当物画像によって、位置情報で特定された位置に存在するものの建物の種別や更地などの建物以外であるかなどを判別することになるが、以下では説明を分かりやすくするために、基本的には該当物画像には建物が写っているものとする。
【0031】
写真画像から該当物画像を抽出する処理は、写真画像に対して直接、画像認識させることで行うこともできるが、本実施の形態の画像抽出部32では、該当物画像を抽出するために、地図画像を利用する。
【0032】
利用する地図画像は、上述したように、建物が判別しやすくなるように、2値化処理が施されている(
図3(b)参照)。2値化された画像中の白(グレー)の部分又は黒の部分の輪郭のデータは、公知のプログラミングによって作成された物体検出装置(例えば、OpenCVライブラリ内のfindContours関数など)によって取得することができる。そこで、この2値化処理された地図画像から、位置情報に関連した建物を該当建物として特定する。
【0033】
図4は、2値化処理された地図画像である2値化画像MAから該当建物MBを特定する処理を説明する図である。ここでは、ユークリッド距離などに基づいて、取得された2値化画像MAの中から該当建物MBを特定する。
【0034】
図4(a)は、距離に基づいて該当建物MBを特定する処理を説明するための図である。
2値化画像MAの中に存在する建物については、検出された建物のすべてにおいて建物の中心が求められる。
図4(a)では、図を見やすくするために、2つの建物の建物中心B1,B2のみを丸印で表示している。
【0035】
一方、長方形の2値化画像MAには、地図中心M1(星印)が存在する。この地図中心M1は、入力された位置情報を代表する位置であり、この地図中心M1に最も近い建物が、監査対象となる会社の建物と言える。
【0036】
そこで、2値化画像MAの中で検出された建物の建物中心(B1,B2,・・・)と、地図中心M1との2点間の直線距離(ユークリッド距離)をそれぞれ算出して、最も距離が近い建物中心B1の建物を、該当建物MBとして特定する。
図4(b)には、特定された該当建物MBを長方形の領域で囲んで示している。
【0037】
このようにして地図画像に基づいて特定された該当建物MBの領域を、写真画像に重ね合わせることによって、写真画像の中から、該当建物MBに相当する該当物画像を抽出する。
図5は、説明に使用する写真画像として航空画像PAを例示した説明図である。
【0038】
地図画像と同様に、航空画像PAについても、監査対象となる会社の緯度経度情報などの位置情報を入力することで、
図5(a)に示すような、該当建物MBが含まれる航空画像PAを取得することができる。
【0039】
地図画像と航空画像PAとを重ね合わせる際には、必要に応じて倍率の調整やひずみの補正などを行う。そして、航空画像PA上において、2値化画像MAで特定した該当建物MBの領域の近辺に写る建物を、該当物画像PBとして特定する。
図5(b)は、航空画像PAの中で、該当物画像PBが特定された状態を示している。
【0040】
ここで、該当物画像PBの大きさは、2値化画像MAで特定した該当建物MBの領域と同じ大きさにする必要はなく、航空画像PAに写る建物の全体が入る大きさに該当物画像PBの領域を設定する。なお、該当物画像PBが、更地など建物以外である場合は、該当建物MBの領域と同じ大きさのままでもよい。
【0041】
該当物画像PBによって切り出された建物の画像は、画像認識によって、どういった種別の建物であるかを推定させることになる。すなわち、不動産指標推定部33によって、該当物画像PBに写っている建物の種別を推定する。
【0042】
不動産指標推定部33では、写真画像に写る建物とその種別を示すフラグがセットになった教師データを使って機械学習を行い、その学習済みモデルを使って、該当物画像PBに写る建物の種別を推定させることができる。例えば航空画像から様々な種別の建物や森や駐車場などの画像を取り出し、それに基づいて機械学習を重ねることで、認識精度の高い学習済みモデルを作成することができる。
【0043】
また、公知の画像認識ツール(例えばPlacesデータセット(http://places2.csail.mit.edu/)など)を利用して、該当物画像PBに写る建物の種別を推定させることもできる。
【0044】
図6は、画像認識の分類結果とそれに対応するフラグについて例示した説明図である。例えば、該当物画像PBに対して、一軒家、森林、更地、工事現場、公園、病院、オフィスビル、市役所、飛行場、消防署、警察署、研究所、工場などの名称を、分類結果として付けることができる。
【0045】
ここで、財務に関する情報との関係性を評価する際に、検知対象とすべきものと、検知対象外としてよいものとが存在する。例えば、建物が一軒家で小さい建物であるといった建物の種別や、更地であるといった情報は、架空取引などの不正取引の検知などにおいては重要な情報になりうる。これに対して、建物が病院であるか市役所であるかといった区別は、不動産指標を推定する際には必要がない。そこで、分類結果名称に対して、「検知対象」又は「検知対象外」といったフラグを付ける。
【0046】
本実施の形態の不動産指標推定部33では、地理的情報に関する指標として不動産指標を適用する。不動産指標とは、該当物画像PBに写る建物などの評価を指標として示すものである。例えば、建物に関する評価を建物度として表すこととし、建物の小ささを評価する指標として、「小建物度」という指標を適用する。
【0047】
図7は、小建物度の算出方法を説明するための図である。
図7(a)に示した算出方法では、該当物画像PBを画像認識させた結果、類似度ランクが高い上位の5分類が表に列記されている。
【0048】
このように該当物画像PBに該当する可能性があると列記された分類の中で、フラグが「検知対象」となっているのは、一軒家のみで、その該当する確率は7.21%となっている。そこで、フラグが「検知対象」となっている確率の合計の上位5ランクの全確率に対する割合を、小建物度(建物度)として算出する。
7.21/(7.21+5.30+4.43+4.21+3.95)=28.73%
この小建物度は、該当物画像PBが小建物である可能性を数値化したものと言える。
【0049】
一方、
図7(b)には、該当確率に重み付けを行う算出方法を例示した。重み付けは、類似度ランクに基づいて行い、各該当確率を類似度ランクで割った値を、重み付け確率とする。
7.21/1=7.21 ,5.30/2=2.65 ,4.43/3=1.48 ,4.21/4=1.05 ,3.95/5=0.79
(7.21+1.48)/(7.21+2.65+1.48+1.05+0.79)=65.91
【0050】
このようにして算出された不動産指標を示す小建物度は、関係性出力部34によって、売上高などの財務指標との関係性が分かるようにして出力される。
図8は、売上高と小建物度との関係性を出力した一例を示した説明図である。
【0051】
一軒家などの小建物である可能性が高い小建物度が高い場合は、監査対象となる会社の売上高も少ないことが一般的である。しかしながら、会社の位置情報に基づいて抽出された該当物画像PBから算出された小建物度の値が大きい、すなわち会社の所在地に一軒家が建っているにも関わらず、計上されている売上高が大きければ、架空取引など何らかの不正取引が疑われる。
【0052】
そこで、
図8に示すように、売上高を横軸にし、小建物度を縦軸にした2つの関係性を表すグラフに、該当物画像PBから算出された小建物度をプロットすることで、不正取引の可能性を判定することができるようになる。
【0053】
例えば、
図8の破線で囲まれた範囲にプロットされた場合は、不正取引である可能性が高いと判断できる。不正取引の可能性が高いという出力がされた場合は、最新の衛星画像などで、現状を確認することもできる。
【0054】
こうした不正取引の判定は、別の方法によっても行うことができる。
図9は、該当物画像PBの類似度ランクを利用して不動産指標を推定する一例の説明図である。上述したように、該当物画像PBを画像認識させた場合、該当する可能性の高い分類から順に、類似度ランクが付けられる。
【0055】
ここで、類似度ランクの上位に、架空取引が疑われるような分類が1つでも含まれていれば、その取引を別途チェックする必要がある。例えば、会社の所在地が「更地」の可能性があると表示されれば、架空取引の可能性があると判定させることができる。
【0056】
また、マンションを不動産資産として計上しているにも関わらず、該当物画像PBを画像認識させた結果の類似度ランクの上位(例えば上位5ランク)にマンションが登場しない場合は、不動産資産ではなく別のものを偽っている可能性があるので、その取引を別途、チェックする必要がある。
【0057】
このように、小建物度といった数値化した不動産指標を算出しない場合であっても、類似度ランクという不動産指標を出力することでも、財務指標との関係性から、再チェックすべき取引であるか否かの判定をさせることができる。
【0058】
以下、本実施の形態の会計上のリスク評価支援方法の処理の流れについて、
図2に示したフローチャートを参照しながら説明する。
以下では、上述した会計上のリスク評価支援システム1を構成する会計上のリスク評価支援プログラムが、コンピュータにインストールされている場合を例に説明する。
【0059】
すなわちインストールされたプログラム(アプリケーション)によって、指定された位置情報が含まれる写真画像を取得する手順と、写真画像から位置情報に基づいて該当物画像を抽出する手順と、該当物画像を画像認識させることで不動産指標を推定する手順と、不動産指標と財務指標との関係性を出力する手順とをコンピュータに実行させることになる。
【0060】
まずステップS1では、コンピュータに接続された表示装置5に表示された入力画面に従って、監査対象となる会社の位置情報を入力する。位置情報としては、住所や緯度経度情報などを入力する。
【0061】
位置情報を入力すると、国土地理院の「地理院タイル」などから、該当するエリアの地図画像と写真画像を取得することができる(ステップS2)。そこで、ステップS3では、取得した地図画像に対して、建物を示す色(グレー色)以外を黒色に置き換える2値化処理を施す(
図3(b)参照)。
【0062】
続いてステップS4では、2値化処理された地図画像である2値化画像MA(
図4(a))において建物を検出させるとともに、検出された建物の中心を建物中心(B1,B2,・・・)として算出させる。そして、建物中心(B1,B2,・・・)と2値化画像MAの地図中心M1との距離が最も近い建物中心B1の建物を、該当建物MBとして検出する。
【0063】
この検出された該当建物MBの領域は、ステップS2で取得された写真画像である航空画像PAに重ねられ、
図5(b)に示すように、該当建物MBの位置において航空画像PAに写る建物の全体が入るように調整が行われた後に、該当物画像PBとして抽出される(ステップS5)。
【0064】
そして、ステップS6では、抽出された該当物画像PBを画像認識させ、例えば
図7(a)に示すように、類似度ランクが上位から5番目までの該当する確率を算出する。各類似度ランクの分類結果の名称に対しては、それぞれ検知対象とするか否かのフラグが付けられており、そのフラグに基づいて、(検知対象の確率の合計)/(類似度ランク1から類似度ランク5までの確率の合計)という演算することで、不動産指標となる小建物度を算出する。
【0065】
続くステップS7では、ステップS6で算出された小建物度と、監査対象となる会社の売上高(財務指標)とに基づいて、
図8に示すような関係性を表すグラフへのプロットを行う。ここで行われたプロットの結果、売上高は高いのに小建物度も高いという範囲にプロットがされた場合は、不正取引の可能性があるという判定がされる。
【0066】
次に、本実施の形態の会計上のリスク評価支援システム1、会計上のリスク評価支援方法及び会計上のリスク評価支援プログラムの作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の会計上のリスク評価支援システム1、会計上のリスク評価支援方法及び会計上のリスク評価支援プログラムは、会社の所在地など地理的情報として指定された位置情報が含まれる航空画像PAを取得し、その航空画像PAから抽出された該当物画像PBから、建物の種別などを推定して、小建物度などの不動産指標を算出する。そして、その不動産指標と売上高などの財務指標との関係性を出力する。
【0067】
このため、会社の所在地や保有地などの現場に行かなくても、会社の地理的情報が売上などと比較して適正であるか、架空取引などの不正取引の可能性がないかなどの関係性を評価することができるようになる。
【実施例0068】
以下、前記した実施の形態の会計上のリスク評価支援システム1とは別の実施形態の会計上のリスク評価支援システムについて、
図10-
図13を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0069】
前記実施の形態で説明した会計上のリスク評価支援システム1では、写真画像から抽出された該当物画像PBを画像認識させることで不動産指標を推定したが、実施例1の会計上のリスク評価支援システムでは、地図画像のみから不動産指標を推定する。
【0070】
すなわち実施例1の会計上のリスク評価支援システムは、
図1を参照しながら説明すると、演算処理部3は、地図画像を取得する画像取得部31と、地図画像から対象となる該当物画像を抽出する画像抽出部32と、該当物画像の不動産指標を推定する不動産指標推定部33と、不動産指標と財務指標との関係性を出力する関係性出力部34とによって、主に構成される。
【0071】
そして、実施例1の不動産指標推定部33では、該当物画像において特定された建物の建物面積と、該当物画像の周辺エリアの建物数とを、不動産指標として算出する。
図10は、実施例1の会計上のリスク評価支援システムの処理の流れの中で、不動産指標を算出する処理以降を説明するフローチャートである。位置情報の入力から地図画像の2値化処理までは、
図1のステップS1からステップS3までと同様の処理になる。
【0072】
ここで、
図11は、位置情報に基づいて設定された周辺エリアの2値化画像となる周辺エリア画像TAを説明する図である。例えば、位置情報を地図画像の中心とする縦300m×横400m程度の範囲を、周辺エリアとして設定することができる。
【0073】
上述したように、建物以外を黒塗りして2値化した周辺エリア画像TAからは、建物を精度よく検出することができる。そこでステップS11では、
図11(a)に示すように、周辺エリア画像TAにおいて検出された建物BCの数(建物数)を算出する。
【0074】
続いてステップS12では、周辺エリア画像TAの地図中心に最も近い建物を該当建物MBとして特定する(
図11(b))。この該当建物MBとして特定された建物については、周辺エリア画像TA上の建物に相当する部分(グレー色の部分)のピクセル数を算出し、そのピクセル数に基づいて建物面積を求める。
【0075】
図12は、周辺エリア画像TAの建物数と該当建物MBの建物面積の算出例を示した説明図である。この表に示すように、周辺エリアの範囲が一定(この例では縦300m×横400m程度)であっても、建物数と建物面積との関係は、様々になることが分かる。そして、ここでは建物数と建物面積の両方が少ないケースに着目し、フラグ「1」を付けることとする。
【0076】
一方、
図13は、周辺エリアの建物数と該当建物の建物面積との関係から不正取引の判定をする際に利用できる関係性マトリックスの一例を示している。こうした関係性マトリックスは、監査する財務指標の規模や位置情報や建物の種別などによって変化するので、あくまで一例である。
【0077】
図13は、ある売上高(財務指標)の規模においては、建物面積が大きい場合は不正取引であるリスクは小さいが、建物面積が中規模(戸建て数個分程度)や小規模(戸建てサイズ)であった場合には、建物数が少ないほど不正取引であるリスクも大きくなる、という関係性を示している。例えば、森の中の一軒家が該当建物MBであるようなケースでは、周辺エリアの建物数が少なく、建物面積も小さくなる。このような場所を所在地としている会社の売上高が大きければ、架空取引など不正取引の存在が疑われることになる。
【0078】
そこで、ステップS13では、
図13に示したような関係性マトリックスに、ステップS11,S12で算出した建物数と建物面積とを当てはめる。そして、その結果から、ステップS14において、不正取引の可能性があるか否かを判定する。
【0079】
このように構成された実施例1の会計上のリスク評価支援システム、会計上のリスク評価支援方法及び会計上のリスク評価支援プログラムであれば、写真画像に基づいた画像認識を行わなくても、不動産指標と財務指標との関係性を出力して、不正取引の可能性などを判定することができる。
【0080】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【0081】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0082】
例えば、前記実施の形態及び実施例1では、地図画像を2値化処理する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、写真画像に対して建物と建物以外という2値化する処理を施して、それによって生成された2値化画像(
図4(a)、
図11(a))に対して、上述したような処理を適用することができる。
【0083】
また、前記実施の形態では、地図画像から該当建物MBを特定し、それに基づいて写真画像から該当物画像PBを抽出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、写真画像に対して建物と建物以外とを判別できるような機械学習をさせておき、取得した写真画像の画像中心に最も近い建物を該当建物として抽出させる、という処理にすることもできる。