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  • 特開-粉体の成分定量方法 図1
  • 特開-粉体の成分定量方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007319
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】粉体の成分定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2202 20180101AFI20240111BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20240111BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
G01N23/2202
G01N23/223
G01N1/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072913
(22)【出願日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2022108177
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 令
(72)【発明者】
【氏名】山口 東洋司
(72)【発明者】
【氏名】篠田 万里子
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001FA02
2G001KA01
2G001LA02
2G001MA04
2G001NA13
2G001NA17
2G001RA01
2G001RA10
2G001RA20
2G052AA04
2G052AB01
2G052AC24
2G052AD32
2G052AD52
2G052FD11
2G052GA19
(57)【要約】
【課題】粉体の成分を迅速に定量できる粉体の成分定量方法を提供する。
【解決手段】粉体の成分定量方法であって、粉体に水を添加して、粉体の水分含有量を10質量%以上20質量%以下にするバインダー混合ステップと、バインダー混合ステップで水が添加された粉体を成型する成型ステップと、成型ステップで成型された成型体の成分を蛍光X線分析装置で定量する測定ステップと、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体に水を添加して、前記粉体の水分含有量を10質量%以上20質量%以下にするバインダー混合ステップと、
前記バインダー混合ステップで水が添加された粉体を成型する成型ステップと、
前記成型ステップで成型された成型体の成分を蛍光X線分析装置で定量する測定ステップと、
を有する、粉体の成分定量方法。
【請求項2】
前記バインダー混合ステップではでんぷんを添加して、前記粉体のでんぷん含有量を10質量%以上20質量%以下にする、請求項1に記載の粉体の成分定量方法。
【請求項3】
前記成型ステップの成型圧力は600kgf/cm以上である、請求項1又は請求項2に記載の粉体の成分定量方法。
【請求項4】
前記測定ステップにおける測定中の雰囲気は空気である、請求項1又は請求項2に記載の粉体の成分定量方法。
【請求項5】
前記測定ステップにおける測定中の雰囲気は空気である、請求項3に記載の粉体の成分定量方法。
【請求項6】
前記粉体は高炉ダストである、請求項1又は請求項2に記載の粉体の成分定量方法。
【請求項7】
前記粉体は高炉ダストである、請求項3に記載の粉体の成分定量方法。
【請求項8】
前記粉体は高炉ダストである、請求項4に記載の粉体の成分定量方法。
【請求項9】
前記粉体は高炉ダストである、請求項5に記載の粉体の成分定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迅速な粉体の成分定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼試料における亜鉛の分析については、JIS G 1257:2013に規定される原子吸光法や、JIS G 1256:2013に規定される蛍光X線分析法などがある。また、酸化亜鉛の分析についてはJIS K 1410:2006に規定されており、更なる精度向上を目指した提案や、亜鉛めっき浴中の酸化亜鉛を定量する方法などが提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57-80558号公報
【特許文献2】特開2012-237742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらは主として塊状あるいは板状の鋼や、高濃度の亜鉛溶液の分析などを目的としており、粉体のまま当該粉体に含まれる亜鉛の定量に適用できる方法ではない。一般的に、鉄鋼分野における粉体中の亜鉛の定量は、粉体を溶解させたのちICP(誘導結合プラズマ)発光分光法や原子吸光法などにより分析する方法(湿式法)で行われている。
【0005】
このような分析方法を用いて亜鉛の定量を行うには、粉体をアルカリ融解、酸溶解させたのちICPあるは原子吸光といった手順が必要で、非常に煩雑なものとなる。分析機器も繊細な操作が要求されるので、分析を専門としない作業者らがこれらの分析機器を維持管理するのは困難が伴う。従って、多くの分析は分析業者に委託することになるが、分析結果が得られるまでに2週間程度の時間が必要であり、分析結果を得てから次の方針を考察したい研究開発などにおいてはこの分析時間がしばしば開発速度の律速になっていた。本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、粉体の成分を迅速に定量できる粉体の成分定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]粉体に水を添加して、前記粉体の水分含有量を10質量%以上20質量%以下にするバインダー混合ステップと、前記バインダー混合ステップで水が添加された粉体を成型する成型ステップと、前記成型ステップで成型された成型体の成分を蛍光X線分析装置で定量する測定ステップと、を有する、粉体の成分定量方法。
[2]前記バインダー混合ステップではでんぷんを添加して、前記粉体のでんぷん含有量を10質量%以上20質量%以下にする、[1]に記載の粉体の成分定量方法。
[3]前記成型ステップの成型圧力は600kgf/cm以上である、[1]又は[2]に記載の粉体の成分定量方法。
[4]前記測定ステップにおける測定中の雰囲気は空気である、[1]から[3]のいずれかに記載の粉体の成分定量方法。
[5]前記粉体は高炉ダストである、[1]から[4]のいずれかに記載の粉体の成分定量方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る粉体の成分定量方法の実施により粉体の成分を、従来の粉体の成分定量方法よりも迅速に定量できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、17種のうちの5種の粉体の粒度分布を示すグラフである。
図2図2は、測定No.4の蛍光X線の強度とダスト中の亜鉛濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を発明の実施形態を通じて具体的に説明する。本実施形態に係る粉体の成分定量方法は、粉体に水を添加するバインダー混合ステップと、当該粉体を成型する成型ステップと、成型ステップで成型された成型体の成分を蛍光X線分析装置で定量する測定ステップと、を有する。また、本実施形態に係る粉体の成分定量方法で成分を定量する粉体は、例えば、高炉ダストである。
【0010】
<バインダー混合ステップ>
まず、バインダー混合ステップについて説明する。蛍光X線装置の測定に適した成型体を得るためには、粉体に水を添加するバインダー混合ステップを実施して、粉体の水分含有量を10質量%以上20質量%以下にする必要がある。粉体の水分含有量が10質量%より少ないと、成型体が脆くなり、簡単に欠けたり、割れたりして測定に適さなくなる。成型体が測定に適した強度を有するために粉体の水分含有量を10質量%以上にする必要がある。一方、粉体の水分含有量が20質量%よりも多くなると、成型体の残渣が分析装置内に付着し易くなって分析結果のばらつきが大きくなり、成分の定量精度が低下する。従って、粉体の水分含有量は20質量%以下とする。なお、粉体の水分含有量は12質量%以上18質量%以下であることがより好ましい。
【0011】
バインダー混合ステップでは、粉体にさらにでんぷんを添加して、粉体のでんぷん含有量を10質量%以上20質量%以下にすることが好ましい。粉体にでんぷんを適量添加することで、成型体内の粒子間の空隙が減り、照射された蛍光X線の粒子間での乱反射が減少する。これにより、粉体の成分定量精度が向上する。一方、粉体のでんぷんの含有量が10質量%未満になると、粉体とでんぷんとが均一に混合されなくなり、逆に粉体の成分定量精度が低下する。また、粉体のでんぷんの含有量が20質量%を超えると、でんぷん由来の不純物量が増加してしまい、粉体の成分定量精度が低下する。
【0012】
<成型ステップ>
次に、成型ステップについて説明する。一般に、粉体は広い粒度分布を有し、同じような粉体であっても1桁以上粒度が異なることが多い。そのため、粉体をそのまま蛍光X線装置に供した場合、粉体の測定面が平滑にならないために分析結果が大きくばらつき、粉体の成分定量精度が低下する。このため、本実施形態に係る粉体の成分定量方法では、プレス機などを用いて粉体を成型する成型ステップを実施して、粒度の異なる粉体であっても平滑な表面を有する成型体とする。この結果、粒度の異なる粉体を用いる場合であっても蛍光X線装置の測定による分析結果のばらつきが小さくなり、粉体の成分定量精度が向上する。また、成型ステップにおける成型圧力は600kgf/cm以上であることが好ましく、800kgf/cm以上であることがさらに好ましい。一方、成型圧力が1000kgf/cmよりも高くなると、圧解放時に粒子間の圧縮空気が膨張し成型体に欠けや割れが生じ易くなる。このため、成型圧力は1000kgf/cm以下であることが好ましい。
【0013】
<測定ステップ>
次に、測定ステップについて説明する。測定ステップでは、上記手順によって成型した成型体の成分を蛍光X線分析装置にて定量する。粉体に含まれる成分が亜鉛である場合、亜鉛は粉体中に偏在していることが予測されるため、コリメータ(視準器、ここでは、X線を照射する照射面の直径)をなるべく大きくとることが好ましい。一般的な蛍光X線分析装置では、直径10mm程度の照射面を取ることができる。測定中の雰囲気をヘリウムとして測定感度アップを目指してもよい。しかしながら、亜鉛のような成分の場合、測定中の雰囲気が空気でも十分な感度があるので、測定室のガス置換の手間を考慮すると、測定中の雰囲気を空気とすることが好ましい。
【0014】
このように、本実施形態に係る粉体の成分定量方法では、バインダー混合ステップ及び成型ステップを実施することで粉体を成型し、当該成型体の成分を蛍光X線分析装置にて定量するので、粉体の成分を迅速に定量できるようになる。バインダー混合ステップから測定ステップまでの一連の粉体の成分定量工程で要する時間は1時間程度であった。
【実施例0015】
以下、実施例を説明する。スラリー状の高炉湿ダストを乾燥させた17種の粉体を用いた。図1は、17種のうちの5種の粉体の粒度分布を示すグラフである。このように、粒度分布が異なる17種の粉体6gに対し、バインダー混合ステップを実施して、粉体に蒸留水を添加、混合して粉体の水分含有量を調整した。このバインダー混合ステップにおいて、一部条件では蒸留水にでんぷんを含有するでんぷん水を使用した。
【0016】
このバインダー混合ステップに次いで成型ステップを実施し、種々の成型圧力でプレス成型して成型体を作製した。この成型体を用いて測定ステップを実施し、蛍光X線分析装置を用いて成型体の亜鉛を定量測定した。コリメータは10mmとし、成型体におけるX線の照射位置を少しずつ変えて10点測定し、当該10点の測定値の標準偏差を算出した。なお、標準偏差は10点の蛍光X線強度平均を1として規格化した。
【0017】
また、17種の粉体に対して従来の成分測定方法を用いて亜鉛濃度を測定し、当該亜鉛濃度と各条件にて作製された成型体の蛍光X線強度との決定係数を算出した。図2は、測定No.4の蛍光X線の強度とダスト中の亜鉛濃度との関係を示すグラフである。図2に示すように、決定係数は、蛍光X線強度と亜鉛濃度との相関をプロットすることで算出した。この場合においても、亜鉛濃度は17種の粉体中最も低濃度の粉体の亜鉛濃度を1として規格化した。実施例のバインダー組成、成型ステップの成型圧力、標準偏差及び決定係数を下記表1に示す。
【0018】
表1において、測定結果を0~3の評価結果で示した。評価結果の値が高い方が、精度良く分析可能な測定手法であることを示している。標準偏差の値が0.03以上であり、決定係数が0.9未満である場合には、粉体の成分を定量する精度を有さない測定手法として評価結果の値を0とした。また、標準偏差の値が0.024以上0.03未満であり、決定係数が0.9以上0.92未満である場合には、粉体の成分を定量する精度を有する測定手法として評価結果の値を1とした。標準偏差の値が0.016以上0.024未満であり、決定係数が0.92以上0.94未満である場合には、粉体の成分を定量する高い精度を有する測定手法として評価結果の値を2とした。標準偏差の値が0.016未満であり、決定係数が0.94以上である場合には、粉体の成分を定量するさらに高い精度を有する測定手法として評価結果の値を3とした。
【0019】
【表1】
【0020】
表1に示すように、本実施形態に係る粉体の成分定量方法である発明例は、全て評価結果が1以上になり、粉体の成分を定量できる測定精度を有する測定手法であることが確認された。発明例のうち、さらに粉体のでんぷん含有量が10質量%以上20質量%以下であるNo.18~20、23~25は、評価結果が2以上になり、粉体の成分を高い精度で定量できる測定手法であることが確認された。発明例のうち、さらに成型圧力が600kgf/cm以上であるNo.23~25は、評価結果が3になり、粉体の成分をさらに高い精度で定量できる測定手法であることが確認された。
【0021】
また、本実施形態に係る粉体の成分定量方法は、1時間程度の時間で粉体サンプルの成分を定量できるので、分析業者に委託し、結果を得るまでに2週間程度の時間を要していた従来の方法よりも大幅に測定時間を短縮できる迅速な測定方法となることも確認された。なお、実施例では粉体に含まれる成分として亜鉛の例を用いて説明したが、成分は亜鉛に限らず、蛍光X線分析装置を用いて定量できる成分であれば本実施形態に係る粉体の成分定量方法を適用できる。
図1
図2