(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073190
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】γ-アミノ酪酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/60 20060101AFI20240522BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20240522BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20240522BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240522BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240522BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240522BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240522BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C12N15/60
C12P13/00
C12N9/88
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184273
(22)【出願日】2022-11-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名:Journal of Bioscience and Bioengineering,Vol.134(5),424-431,2022 発行日:令和4年9月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 友樹
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050CC03
4B050DD02
4B050FF01
4B050FF14E
4B050KK13
4B050LL01
4B050LL02
4B050LL05
4B064AE01
4B064CA21
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA30Y
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】グルタミン酸デカルボキシラーゼを用いて、効率的にL-グルタミン酸からGABAを製造する。
【解決手段】Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼをL-グルタミン酸と反応させ、γ-アミノ酪酸を生成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼをL-グルタミン酸と反応させる工程を含む、γ-アミノ酪酸の製造方法。
【請求項2】
Lactiplantibacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼをL-グルタミン酸と反応させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼの至適pHが3.5~5.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼの至適温度が40~65℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼとL-グルタミン酸とを、pH3.5~5.5の条件下で接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼとL-グルタミン酸とを、40~65℃の条件下で接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼとL-グルタミン酸とを、ピリドキサール5’-リン酸濃度が0.2mM未満の条件下で接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼがGadB2である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列が、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記グルタミン酸デカルボキシラーゼが4量体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記L-グルタミン酸が、野菜又は果実に由来するものを含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、グルタミン酸デカルボキシラーゼ。
【請求項13】
4量体である、請求項12に記載のグルタミン酸デカルボキシラーゼ。
【請求項14】
グルタミン酸デカルボキシラーゼをコードする核酸であって、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、核酸。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸を含む、形質転換体。
【請求項16】
請求項14に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項17】
Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼを用いて、L-グルタミン酸からγ-アミノ酪酸を生成する工程を含む、γ-アミノ酪酸を含む組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸を製造する方法、及びγ-アミノ酪酸を含む組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ-アミノ酪酸(GABA)は、生物界に広く分布する非タンパク質アミノ酸で、高等動物においては、抗高血圧作用、抗不安作用、精神安定作用、利尿作用、抗糖尿作用など様々な重要な生理機能を有することが報告されている(非特許文献1~4)。近年、GABAを含むサプリメントや飲料などの健康食品が多く製造されている(非特許文献5~6)。
【0003】
GABAは、食品では玄米等や一部の野菜や果実等に含まれているが、含有量は微量であり、通常の摂取量では、上記生理機能を奏するのに十分な量は得られない。GABAは、L-グルタミン酸から、乳酸菌等の微生物に含まれるグルタミン酸デカルボキシラーゼを介した不可逆的α-脱炭酸によって生成することができることから、食品産業においては、乳酸菌等による発酵によってGABAを高濃度化する手法がとられてきた(特許文献1~3、非特許文献7)。グルタミン酸を多く含む発酵原料として、トマト果実やその処理物(トマト加工品等)が用いられている。しかし、発酵食品は、GABAのみでなく、副生成物として、乳酸、酢酸等の有機酸やジアセチル等の香気成分が生成されることから、食品産業への応用には香味面で制約があった。
【0004】
微生物から精製されたグルタミン酸デカルボキシラーゼを用いて、L-グルタミン酸からGABAを生成できることが知られるが、現在のところ、精製された酵素として食品製造の現場で実用化されたものは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-060990号公報
【特許文献2】特開2007-289008号公報
【特許文献3】特開2020-058309号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Pouliot-Mathieu, K., et al., PharmaNutrition, Vol. 1, pp. 141-148 (2013)
【非特許文献2】Parkash, J. and Kaur, G., Brain Res. Bull., Vol. 74, pp. 317-328 (2007)
【非特許文献3】Dongoh, H., et al., J. Microbiol. Biotechnol., Vol. 17, pp. 1661-1669 (2007)
【非特許文献4】Wong, C. G. T., et al., Ann. Neurol., Vol. 54, pp. 3-12 (2003)
【非特許文献5】Jeng, K. C., J. Agric. Food Chem., Vol. 55, pp. 8787-8792 (2007)
【非特許文献6】Chiu, T. H., et al., Soc. Chem. Ind., Vol. 93, pp. 859-866 (2012)
【非特許文献7】Nakatani Y., et al., Microbiol. Resour, Ann. 8, 29 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼを用いて、効率的にL-グルタミン酸からγ-アミノ酪酸を製造する方法、及び、該方法を用いて組成物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下を包含する。
(1)Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼをL-グルタミン酸と反応させる工程を含む、γ-アミノ酪酸の製造方法。
(2)Lactiplantibacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼをL-グルタミン酸と反応させる工程を含む、(1)に記載の方法。
(3)前記グルタミン酸デカルボキシラーゼの至適pHが3.5~5.5である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記グルタミン酸デカルボキシラーゼの至適温度が40~65℃である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記グルタミン酸デカルボキシラーゼとL-グルタミン酸とを、pH3.5~5.5の条件下で接触させる、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記グルタミン酸デカルボキシラーゼとL-グルタミン酸とを、40~65℃の条件下で接触させる、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記グルタミン酸デカルボキシラーゼとL-グルタミン酸とを、ピリドキサール5’-リン酸濃度が0.2mM未満の条件下で接触させる、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記グルタミン酸デカルボキシラーゼがGadB2である、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記グルタミン酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列が、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、(8)に記載の方法。
(10)前記グルタミン酸デカルボキシラーゼが4量体である、(9)に記載の方法。
(11)前記L-グルタミン酸が、野菜又は果実に由来するものを含有する、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、グルタミン酸デカルボキシラーゼ。
(13)4量体である、(12)に記載のグルタミン酸デカルボキシラーゼ。
(14)グルタミン酸デカルボキシラーゼをコードする核酸であって、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、核酸。
(15)(14)に記載の核酸を含む、形質転換体。
(16)(14)に記載の核酸を含む、発現ベクター。
(17)Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼを用いて、L-グルタミン酸からγ-アミノ酪酸を生成する工程を含む、γ-アミノ酪酸を含む組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、グルタミン酸デカルボキシラーゼを用いて、効率的にL-グルタミン酸からγ-アミノ酪酸を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】精製した組換えGADのSDS-PAGEの結果を示す写真である。クーマシーブルーで染色した電気泳動後の12%(w/v)SDS-PAGEゲルを示す。Mのレーンは、タンパク質分子量マーカー、1のレーンは、精製した組換えGadB
1、2のレーンは精製した組換えGadB
2である。
【
図2】GADの酵素活性とpHとの関係を示すグラフである。塗りつぶしたマーカーはGadB
1、塗りつぶされていないマーカーはGadB
2の酵素活性を示す。pH2.5はグリシン-HCl緩衝液(■:GadB
1、□:GadB
2)、pH3.0~3.5は、クエン酸ナトリウム緩衝液(▲:GadB
1、△:GadB
2)、pH4.0~5.5は酢酸ナトリウム緩衝液(●:GadB
1、〇:GadB
2)、pH6.0~6.5はリン酸カリウム緩衝液(菱形)を使用した。測定はn=3で行い、平均値を算出した。図中のエラーバーは標準偏差を示す。
【
図3】GADの酵素活性と温度の関係を示すグラフである。●は、GadB
1、〇はGadB
2の酵素活性を示す。GadB
1は、0.2mM PLPを含む200mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)中で、50mMのMSGと反応させた。GadB
2は、0.2mM PLPを含む200mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)中で、50mMのMSGと反応させた。測定はn=3で行い、平均値を算出した。図中のエラーバーは標準偏差を示す。
【
図4】GADの酵素活性とPLP濃度の関係を示すグラフである。●は、GadB
1、〇はGadB
2の酵素活性を示す。GadB
1は、200mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)中で、50mMのMSGと反応させた。GadB
2は、200mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)中で、50mMのMSGと反応させた。測定はn=3で行い、平均値を算出した。図中のエラーバーは標準偏差を示す。
【
図5】KB1253株由来のGadB
1及びGadB
2、並びに既報のGadB
1及びGadB
2のアミノ酸配列のアラインメントである。図中、「*」は、アミノ酸残基が一致する位置、「:」は強い関連性のあるアミノ酸残基の位置、「.」は弱い関連性のあるアミノ酸残基の位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「L-グルタミン酸」の用語は、L-グルタミン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)を包含するものとする。他の化合物で塩が存在し得る化合物についても、当該化合物名の表記は、特に説明のない限り、その塩を包含するものとする。本明細書において、「A~B」(A、Bはともに数値)の表記は、特に説明のない限り、「A以上B以下」を示すものとする。本明細書において「%」の表記は、特に説明のない限り重量%を示すものとする。
【0012】
本明細書において、「組成物」とは、2以上の成分を含む混合物を指し、より具体的には、飲食品、サプリメント、医薬品、飼料、又はこれらの原材料等として用いられる混合物を指す。特に、ヒトに経口摂取される飲食品又は飲食品原材料を指す。
【0013】
本明細書において、「実質的にXを添加しない」、「実質的にXが存在しない」、「実質的にXを含まない」等の記載は、X(成分)が意図的に添加された状態は除外するものの、原材料等に含まれる不純物として、Xが意図せず微量に含まれる状態は除外しないことを意味する。
【0014】
1.γ-アミノ酪酸の製造方法
本発明の第1の実施形態は、γ-アミノ酪酸(GABA)の製造方法であって、Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)をL-グルタミン酸(L-Glu)と反応させる工程を含む、ことを特徴とする。上記特徴を有することにより、本実施形態の方法は、低pH、高温状態での製造が可能であることから、腐敗等のリスクを低減した状態で効率よくGABAを製造することが可能である。本実施形態の方法で製造されるGABAは、摂取した哺乳動物(特にヒト)の健康増進に寄与することが期待される成分であり、飲食品、健康食品、サプリメント、医薬品、飼料等に幅広く利用可能である。
【0015】
1-1 グルタミン酸デカルボキシラーゼの由来細菌
Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌は、以前はいずれもLactobacillus属と称されてきた細菌であり、発酵食品の製造や、様々な動物種に対するプロバイオティクスとして広く利用されている乳酸菌である。2020年に、Lactobacillus属に分類されていた全ての菌種(261菌種)の基準株のゲノムデータを用いたゲノムレベルで属分類の再評価が行われた結果、旧Lactobacillus属は、合計25属に再分類された(Zheng J. et al., Int. J. Syst. Evol. Microbiol., Vol. 70, No. 4, pp. 2782-2858 (2020))。上記9属は、その中でも特に主要な菌種を含む属として知られる。
【0016】
1-2 グルタミン酸デカルボキシラーゼ
本明細書において、「グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)」とは、グルタミン酸を脱炭酸する酵素を指す。より具体的には、GADは、グルタミン酸をGABAと二酸化炭素に分解する酵素である。GADは、ほぼすべての微生物に存在が確認されている酵素である。例えば、大腸菌には、GADA及びGADBの2つのアイソフォームが存在することが知られ、また、6量体のサブユニット構成を有することが知られている。
【0017】
本実施形態の方法で使用されるGADは、「1-1 グルタミン酸デカルボキシラーゼの由来細菌」の項に記載した9属(以下、「Lactiplantibacillus属等」とも称する)のいずれかの菌種の細菌に由来するGADである。GADは、Lactiplantibacillus属等においても、GadB1及びGadB2の2つのアイソフォームが存在することが知られ、それぞれ主に2量体を形成することが知られている。Lactiplantibacillus属等のGADの2つのアイソフォームは、大腸菌等のGADと比較して、いずれも至適pHが低く、かつ、高温に耐性を有する傾向を有する。好ましくは、前記GADは、Lactiplantibacillus属細菌に由来するGADである。ここでいう、特定の細菌に由来するGADは、当該細菌を培養して菌体から直接精製されたGADや、分離分画等により粗精製された粗酵素であってもよいが、組換えGADであってもよい。
【0018】
組換えGADは、特に限定されないが、例えば、宿主細胞に目的のGADをコードする遺伝子を導入して形質転換させた形質転換体を使用して生成することができる。宿主は、特に限定されず、通常遺伝子導入の宿主として使用されるものをいずれも使用できるが、特に大腸菌を好適に使用できる。遺伝子導入の手法は、既知の手法をいずれも使用でき、例えば、目的の遺伝子を組み込んだ発現ベクター(例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなど)を導入する方法、ゲノム編集を用いる方法等から適宜選択することができる。大腸菌を宿主とする場合に多用される手法として、プラスミドベクターを導入する手法を好適に用いることができる。
【0019】
宿主として利用可能な大腸菌は多数市販されており、例えば、BL21株、REL606株、W3110株、DH10B株、BW25113株、DH5α株、MG1655株、JM109株、RV308株等が知られるが、いずれを使用してもよい。これらの大腸菌株は、通常、遺伝子導入に適したコンピテント細胞の状態で市販される。プラスミドベクターは、転写プロモーター、転写ターミネーター、選択マーカーを含むものが好ましく、また、生成したタンパク質を分離するためのタグ(例えば、ヒスチジンタグ)がコードされていることが好ましい。さらに、必要があれば、エンハンサーなどのシスエレメント、オペレーター、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。プラスミドベクターとしては、例えば、pET、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pSC101、pBR322、pHSG298、pVC18、pVC19、pTrc99A、pMal-c2、pGEX2T、pTV118N、pTV119N、pTRP等を好適に使用できる。プラスミドベクターを大腸菌に導入する手法としては、ケミカルトランスフォーメーション法、エレクトロポレーション法等が知られるが、使用する大腸菌株及び導入するプラスミドベクターのサイズや性質に応じて適宜選択することができる。
【0020】
発現ベクターを組み込んだ大腸菌をLB培地等で培養した後、菌体破砕、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過等の通常のタンパク質精製手法を経ることで、目的のタンパク質である組換えGADを得ることができる。
【0021】
本実施形態において、使用されるGADは、その至適pH、すなわち、高い酵素活性を示すpHが、3.5~5.5、特に4.0~5.0であることが好ましい。また、使用されるGADは、その至適温度、すなわち、高い酵素活性を示す温度が、40~65℃、特に45~60℃であることが好ましい。
【0022】
本発明者は、ナスの漬物からLactiplantibacillus plantarum KB1253株を分離した。Lactiplantibacillus plantarum KB1253株は、平成30年10月3日に独立行政法人製品評価技術基 盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に国内寄託がなされ、寄託番号NITE P-002790が付与されている。表1に、KB1253株のgadB1遺伝子(配列番号1)及びgadB2遺伝子(配列番号2)の塩基配列を示す。また、表2にGadB1(配列番号3)及びGadB2(配列番号4)のアミノ酸配列を示す。
【0023】
【0024】
【0025】
本発明者は、KB1253株から、GadB1及びGadB2の遺伝子(gadB1及びgadB2)をクローニングし、そこから生成した組換えGADについて、その物性及び酵素活性を各条件で評価した。その結果、組換えGadB1及びGadB2のいずれも、他のLactiplantibacillus属等と同様に、低pH、高温で高い酵素活性を有することを見出した。これに加え、本発明者は、生成した前記GadB2が4量体を形成すること、及び実質的にピリドキサール5’-リン酸(PLP)の存在しない条件下で酵素活性を奏し得ることを見出した。
【0026】
GADは、活性中心にPLPを有するビタミンB6酵素であるが、L-Gluを基質として、α位のカルボキシ基を脱炭酸する反応を触媒する。しかし、形質転換等を経て生成したGADは、必ずしも活性中心にPLPが存在しないことから、酵素活性を維持するために基質とともにPLPを外添することを要する。これは、組換えGADを使用するGABAの製造において、製造コストを増加させる要因となっていた。
【0027】
本実施形態の方法において、GADとしてLactiplantibacillus属等のGadB2を使用することが好ましい。より具体的には、GADのアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。あるいは、GADのアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。また、本実施形態の方法において、GADは、4量体を形成することが好ましい。
【0028】
GADとしてLactiplantibacillus属等のGadB2を使用することで、実質的にPLPを添加することなく、L-GluからGABAを製造することが可能となる。したがって、本実施形態の方法は、GADとL-GluをPLP濃度が0.2mM未満、特に0.1mM未満の条件下で接触させることが好ましい。これにより、PLPによる製造コストの増加を生じることなく、効率よくL-GluからGABAを製造することが可能となる。
【0029】
1-3 製造方法の各工程
本実施形態のGABAの製造方法の一態様は、以下の工程を備える。
(1)L-Gluを含む緩衝液を調製する工程;
(2)(1)の緩衝液にGADを添加する工程;
(3)(2)の緩衝液中でL-GluとGADを反応させる工程;及び
(4)(3)の緩衝液からGABAを精製する工程。
以下、工程ごとに、上記態様を説明する。
【0030】
工程(1)として、L-Gluを緩衝液に溶解して、L-Gluを含む緩衝液を調製する。緩衝液としては、設定するpHに適した緩衝液を適宜選択することができる。本実施形態において、緩衝液は、pH3.5~5.5、特にpH4.0~5.0とすることが好ましい。この場合、調製する緩衝液は、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液等とすることができる。
【0031】
基質となるL-Gluの濃度は、0.1~100mM、特に5~50mM、さらに10~35mMとすることが好ましい。
【0032】
好ましくは、緩衝液中のPLP濃度は、0.2mM未満、特に0.1mM未満である。最も好ましくは、緩衝液はPLPを含まない、あるいはPLPを実質的に含まない。
【0033】
工程(2)として、工程(1)で調製した緩衝液にGADを添加する。GADは、「1-2 グルタミン酸デカルボキシラーゼ」の項に記載したGADをいずれも使用することができる。特に、配列番号4又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子を用いて生成された組換えGadB2を好適に使用できる。
【0034】
GADの添加量は、特に限定されないが、例えば、0.01~10U/mL、特に0.1~1U/mLとすることができる。ここで、1U(ユニット)は、1分間で1μmolのL-Gluを消費する酵素活性量を指す。
【0035】
工程(3)として、L-GluとGADとを接触させ、反応させる。反応時の温度は、40~65℃、特に45~60℃とすることが好ましい。
【0036】
工程(4)として、生成した緩衝液中のGABAを精製する。精製手段は特に限定されないが、例えば、微生物の菌体等の固形成分が除去された培養液をイオン交換樹脂に通塔してアミノ酸を樹脂に吸着させた後、該アミノ酸を溶出する手法を用いることができる。
【0037】
本実施形態の方法の工程は、L-Gluと特定のGADとを接触させる工程を含んでいれば、必ずしも上記(1)~(4)の工程に限定することを意図しない。例えば、工程(1)に記載のL-Gluを添加した緩衝液に代えて、L-Gluを多く含む飲食品等の組成物(例えば、トマト果汁等)を使用してもよい。また、反応時の温度は、必ずしも高温とする必要はなく、例えば、室温としてもよい。
【0038】
2.L-グルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換する方法
本発明の第2の実施形態は、L-GluをGABAに変換する方法であって、Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼを用いることを特徴とする。
【0039】
本実施形態において使用されるGADは、具体的には、「1-2 グルタミン酸デカルボキシラーゼ」の項に記載したGADを使用することができる。特に、配列番号4又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子を用いて生成された組換えGadB2を好適に使用できる。より具体的には、GADは、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。あるいは、GADは、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。
【0040】
本実施形態の方法の一態様は、以下の工程を備える。
(1)L-Gluを含む緩衝液を調製する工程;
(2)(1)の緩衝液にGADを添加する工程;及び
(3)(2)の緩衝液中でL-GluとGADを反応させる工程。
以下、工程ごとに、上記態様を説明する。
【0041】
工程(1)として、L-Gluを緩衝液に溶解して、L-Gluを含む緩衝液を調製する。緩衝液としては、設定するpHに適した緩衝液を適宜選択することができる。本実施形態において、緩衝液は、pH3.5~5.5、特にpH4.0~5.0とすることが好ましい。
【0042】
基質となるL-Gluの濃度は、0.1~100mM、特に5~50mM、さらに10~35mMとすることが好ましい。
【0043】
好ましくは、緩衝液中のPLP濃度は、0.2mM未満、特に0.1mM未満である。最も好ましくは、緩衝液はPLPを含まない、あるいはPLPを実質的に含まない。
【0044】
工程(2)として、工程(1)で調製した緩衝液にGADを添加する。GADの添加量は、特に限定されないが、例えば、0.01~10U/mL、特に0.1~1U/mLとすることができる。
【0045】
工程(3)として、L-GluとGADとを接触させ、反応させる。反応時の温度は、40~65℃、特に45~60℃とすることが好ましい。
【0046】
本実施形態の方法の工程は、L-Gluと特定のGADとを接触させる工程を含んでいれば、必ずしも上記(1)~(3)の工程に限定することを意図するものではなく、必要に応じて条件を適宜変更することが可能である。例えば、工程(1)に記載のL-Gluを添加した緩衝液に代えて、L-Gluを多く含む飲食品等の組成物(例えば、トマト果汁等)を使用してもよい。また、反応時の温度は、必ずしも高温とする必要はなく、例えば、室温としてもよい。
【0047】
3.グルタミン酸デカルボキシラーゼ
本実施形態の第3の実施形態は、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)である。
【0048】
本実施形態のGADは、より具体的には、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。あるいは、本実施形態のGADは、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。また、本実施形態のGADは、4量体を形成することが好ましい。
【0049】
本実施形態のGADは、上記の特徴を有することにより、PLP濃度の低い条件下、より好ましくは実質的にPLPが存在しない条件下で、L-GluをGABAに変換することが可能である、という利点を有する。
【0050】
4.核酸
本発明の第4の実施形態は、グルタミン酸デカルボキシラーゼをコードする核酸であって、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、核酸である。より具体的には、本実施形態の核酸は、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むことが好ましい。あるいは、本実施形態の核酸は、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなることが好ましい。
【0051】
より好ましくは、本実施形態の核酸は、配列番号2で示される塩基配列又は配列番号2と70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上若しくは95%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む。
【0052】
本実施形態の核酸は、大腸菌等の宿主細胞に導入されることにより、GADを生成することが可能な核酸である。生成されるGADは、低pH、高温で酵素活性を有する、実質的にPLPが存在しない条件下でL-GluをGABAに変換できる等の利点を有する。
【0053】
5.形質転換体
本発明の第5の実施形態は、「4.核酸」の項に記載の核酸を含む、形質転換体である。形質転換体は、具体的には、前記核酸を導入した宿主細胞を指す。
【0054】
宿主細胞は、通常、遺伝子導入に使用される細胞であれば特に限定されないが、特に大腸菌を使用することが好ましい。宿主として利用可能な大腸菌は多数市販されており、例えば、BL21株、REL606株、W3110株、DH10B株、BW25113株、DH5α株、MG1655株、JM109株、RV308株等が知られるが、いずれを使用してもよい。これらの大腸菌株は、通常、遺伝子導入に適したコンピテント細胞の状態で市販される。
【0055】
形質転換体の形成には、宿主細胞に目的の遺伝子を導入することを要する。遺伝子導入の手法は、既知の手法をいずれも使用でき、例えば、目的の遺伝子を組み込んだ発現ベクター(例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなど)を導入する方法、ゲノム編集を用いる方法等から適宜選択することができる。大腸菌を宿主とする場合に多用される手法として、プラスミドベクターを導入する手法をとることができる。
【0056】
6.発現ベクター
本発明の第6の実施形態は、「4.核酸」の項に記載の核酸を含む、発現ベクターである。発現ベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター等の既知のベクターのいずれを使用してもよいが、大腸菌等を宿主として目的の遺伝子を発現させる場合は、特にプラスミドベクターを好適に使用できる。
【0057】
プラスミドベクターは、転写プロモーター、転写ターミネーター、選択マーカーを含むものが好ましく、また、生成したタンパク質を分離するためのタグ(例えば、ヒスチジンタグ)がコードされていることが好ましい。さらに、必要があれば、エンハンサーなどのシスエレメント、オペレーター、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。プラスミドベクターとしては、例えば、pET、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pSC101、pBR322、pHSG298、pVC18、pVC19、pTrc99A、pMal-c2、pGEX2T、pTV118N、pTV119N、pTRP等を好適に使用できる。プラスミドベクターを大腸菌に導入する手法としては、ケミカルトランスフォーメーション法、エレクトロポレーション法等が知られるが、使用する大腸菌株及び導入するプラスミドベクターのサイズや性質に応じて適宜選択することができる。
【0058】
7.組成物の製造方法
本発明の第7の実施形態は、γ-アミノ酪酸を含む組成物の製造方法であって、Lactiplantibacillus属、Lactobacillus属、Lacticaseibacillus属、Latilactobacillus属、Ligilactobacillus属、Limosilactobacillus属、Levilactobacillus属、Fructilactobacillus属又はApilactobacillus属細菌由来のグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)を用いて、L-グルタミン酸(L-Glu)からγ-アミノ酪酸(GABA)を生成する工程を含む、ことを特徴とする。本実施形態の方法で製造される組成物は、GABAを含有し、食品等としてヒトが経口摂取した場合、その健康増進効果が期待される組成物である。
【0059】
本実施形態において使用されるGADは、具体的には、「1-2 グルタミン酸デカルボキシラーゼ」の項に記載したGADを使用することができる。特に、配列番号4又は配列番号4と75%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む遺伝子を用いて生成された組換えGadB2を好適に使用できる。より具体的には、GADは、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。あるいは、GADは、配列番号4で示されるアミノ酸配列又は配列番号4と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなることが好ましい。
【0060】
本実施形態の方法の一態様は、以下の工程を備える。
(1)L-Gluを含む組成物を調製する工程;
(2)(1)の組成物にGADを添加する工程;及び
(3)(2)の組成物でL-GluとGADを反応させる工程。
以下、工程ごとに、上記態様を説明する。
【0061】
工程(1)として、L-Gluを含む組成物を調製する。当該組成物は、L-Gluを多く含み、かつ、酸性(pH3.5~5.5、特にpH4.0~5.0)のものを使用できる。例えば、トマト果汁などの野菜汁や果汁を好適に使用できるが、これに限定されるものではない。野菜汁や果汁は、pHが低く、かつ、飲食品は加熱による殺菌が必要であるため、本実施形態の方法は、前記GADを用いることで、加熱殺菌とGABA生成を同時に行うことも可能であり、効率よくGABAを豊富に含む飲食品や飲食品用原材料を製造することが可能である。当該観点から、前記L-Gluは、野菜又は果実に由来するものを含有してもよい。あるいは、前記L-Gluは、実質的に全てが野菜又は果実に由来するものであってもよい。L-Gluは、精製されたものを組成物に添加してもよい。また、pHはpH調整剤で適した範囲に調整してもよい。組成物中のL-Gluの濃度は、0.1~100mM、特に5~50mM、さらに10~35mMとすることが好ましい。
【0062】
組成物中には、PLPを実質的に添加しない、特に全く添加しないことが好ましい。PLP濃度は、0.2mM未満、特に0.1mM未満とすることが好ましい。上記組成物には、必要に応じて、食塩、甘味料、増粘安定剤、乳化剤、調味料等を添加してもよい。
【0063】
工程(2)として、工程(1)で調製した緩衝液にGADを添加する。GADの添加量は、特に限定されないが、例えば、0.01~10U/mL、特に0.1~1U/mLとすることができる。
【0064】
工程(3)として、L-GluとGADとを接触させ、反応させる。反応時の温度は、40~65℃、より好ましくは45~60℃、特に45~55℃とすることが好ましい。
【0065】
本実施形態の方法の工程は、L-Gluと特定のGADとを接触させる工程を含んでいれば、必ずしも上記(1)~(3)の工程に限定することを意図するものではなく、必要に応じて条件を適宜変更することが可能である。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[試験例1]GABA産生能の高い細菌L.plantarum KB1253株由来のgadB1遺伝子及びgadB2遺伝子のクローニング
ナスの漬物から分離されたL.plantarum KB1253(以下、単に「KB1253」とも称する)を、MRS寒天培地(Oxoid)を用いて、エアレーションなし、30℃の条件で培養した。
【0068】
DNeasy Blood and Tissue Kits(Qiagen)を用いて、KB1253の菌体からDNAを分離・精製した。精製されたDNAを鋳型として、KB1253由来のgadB1配列に基づく下記のプライマーセットを用いて、gadB1遺伝子を増幅した。
gadB1フォワードプライマー:gggcatatggcaatgttatacggta(配列番号5)
gadB1リバースプライマー:actgtcgacgtgtgtgaatc(配列番号6)
同様に、KB1253由来のgadB2に基づく下記のプライマーセットを用いてgadB2遺伝子を増幅した。
gadB2フォワードプライマー:gggcatatgacaaataacgatgaac(配列番号7)
gadB2リバースプライマー:gggctcgagttttgtcaccctat(配列番号8)
【0069】
20ngの鋳型DNA、10pmolの各プライマー、0.4mM dNTP(東洋紡株式会社)、および1.0UのKOD FX Neo DNAポリメラーゼ(東洋紡株式会社)を含むKOD FX Neo用PCR緩衝液(2倍希釈、東洋紡株式会社)50μL中でPCR反応を行った。94℃で2分間の初期変性された後、98℃10秒間、65℃30秒間、68℃1分間のサイクルを30サイクル実施してDNAを増幅させた。得られたPCR産物は、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen)を用いて精製した。gad遺伝子および発現ベクターpET-21a(+)(Novagen)を制限酵素で消化し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製した。精製したgadB1遺伝子及びgadB2遺伝子は、T4DNAリガーゼ(東洋紡株式会社)を用いて、それぞれプラスミドpET-21a(+)に連結させた後、大腸菌JM109に導入した。遺伝子導入した菌体をLB-アンピシリンプレート上に播種した後、コロニーを選択して、PCRで陽性クローンを同定した。プラスミドミニプレップキット(Qiagen)を用いて、陽性クローンから組換え発現ベクターを精製した。
【0070】
[試験例2]組換GadB1及びGadB2の生成
得られた組換え発現ベクターを大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、LB-アンピシリンプレートに播種した。コロニーを選択してPCRで陽性クローンをPCRで同定した。陽性クローンの大腸菌BL21(DE3)を、1mMイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地中で37℃で16時間培養して、組換え発現ベクターを発現させた。培養液を8000×gで20分間遠心分離して菌体を回収し、生理食塩水で2回洗浄した後、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)で再懸濁した。超音波発振器(Insinator201M、株式会社クボタ)を用いて菌体を破砕して、20000×g、10分間の遠心分離で残渣を除去した。発現した標的タンパク質を、Capturem(商標)His-Tagged Purification Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて精製した。タンパク質合成を、12%(w/v)アクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEで確認し、合成したタンパク質量は、ウシ血清アルブミンを基準としたBCAタンパク質アッセイ(Pierce)を用いて吸光度測定により確認した。
【0071】
[試験例3]組換えGadB1、GadB2の物性・酵素活性評価
得られた組換えGadB1及びGadB2の物性、酵素活性について、分子量、至適pH、至適温度、ピリドキサール5’-リン酸(PLP)濃度の影響を調査した。酵素活性の試験は全てn=3で行った。KB1253由来の上記組換えGadB1及びGadB2の物性及び酵素活性に加えて、既報のLactiplantibacillus属由来のGadB1、GadB2の物性及び酵素活性を表3に示す。
【0072】
[3-1]分子量
精製されたGadB1及びGadB2について、Superdex(商標)200Increase10/300GLカラム(GE Healthcare Life Sciences)を用いたHPLC(0.15M NaClを含有する20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)でロード)と、SDS-PAGEにより分子量を測定した。コンアルブミン(分子量75000)、オボアルブミン(分子量44000)、炭酸脱水酵素(分子量29000)、リボヌクレアーゼA(分子量13700)、およびシトクロムC(分子量12400)(いずれもGE Healthcare Life Sciences)を分子量標準として使用した。
【0073】
精製した組換えGadB
1及びGadB
2のSDS-PAGEの結果を
図1に示す。SDS-PAGEの結果より、組換えGadB
1及びGadB
2の単量体の分子量が、それぞれ52100および55400であることが確認された。HPLCの結果、未変性の組換えGadB
1及びGadB
2の分子量は、それぞれ104700および219600であることが確認された(データ示さず)。これらの結果より、GadB
1が二量体、GadB
2が四量体であることが示唆された(表3)。
【0074】
[3-2]至適pH
50mMグルタミン酸一ナトリウム(MSG)、0.2mM PLP、および10μgの組換えグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)を含む緩衝液25μLを、各種pH条件(pH2.5~6.5)となるように調製し、50℃で15分間インキュベーションした。緩衝液は、200mMグリシン-HCl緩衝液(pH2.5)、200mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0~3.5)、200mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0~5.5)、又は200mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.0~6.5)とした。インキュベーション後、99.5%エタノールを添加することによって酵素反応を停止させ、残留L-Gluの量をL-グルタミン酸アッセイF-kit(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いて測定した。実験条件下で、1分間で1μmol L-Gluを消費する酵素の量をGAD活性の1Uとした。
【0075】
結果を
図2に示す。組換えGadB
1及びGadB
2の至適pHは、それぞれ4.0および4.5であり、既報のLactiplantibacillus属由来の組換えGADと比較して大きな差異は見られなかった(表3)。
【0076】
[3-3]至適温度
50mM MSG、0.2mM PLP、および10μg組換えGADを含む200mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.0(GadB1用)又は4.5(GadB2用))25μLを調製した。35℃~75℃の温度で15分間インキュベーションした後、99.5%エタノールを添加して酵素反応を停止させ、残留L-Gluの量を測定した。
【0077】
結果を
図3に示す。組換えGadB
1とGadB
2の至適温度はそれぞれ60℃と50℃であった。これらの温度は、既報のLactiplantibacillus属由来の組換えGADの至適温度(30~50℃、表3)と比較して高い値となった。
【0078】
[3-4]PLP濃度
50mM MSG、0~1mMのPLP及び10μg組換えGADを含む200mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0(GadB1用)又は4.5(GadB2用))を調製した。50℃~60℃で15分間インキュベーションした後、99.5%エタノールを添加して酵素反応を停止させ、残留L-Gluの量を測定した。
【0079】
結果を
図4に示す。GadB
1は、L-Gluの変換にPLPを必要とすることが示された。PLPのない条件では、GadB
1は、L-GluをGABAに変換することができないが、PLPを添加することで、活性が回復した。GadB
2は、PLPのない条件下でも41.2±3.4%のGABA変換率を示した。GadB
1、GadB
2共に、GAD活性はPLP濃度に応じて高くなり、約0.2mM PLPで最大の活性を示した。GadB
1とGadB
2のGABA変換率は、それぞれ61.4±4.8%、77.9±3.9%であった。
【0080】
[試験例4]Lactiplantibacillus属由来のGadB1及びGadB2のアミノ酸配列アラインメント
表3に、試験例1-2で取得したKB1253株由来のGadB1及びGadB2、並びに既報のLactiplantibacillus属由来のGadB1及びGadB2の分子量、至適pH、至適温度を示す。表中のLactiplantibacillus plantarum ATCC 14917は、Shin S., et al., J. Agric. Food Chem., Vol. 62, pp. 12186-12193 (2014)で既報の菌株である。Levilactobacillus brevis 877Gは、Seo M. J., et al., Food Sci. Biotechnol., Vol. 22, pp. 751-755 (2013)で既報の菌株である。Levilactobacillus brevis CGMCC 1306は、Fan E., et al., Ann. Microbiol., Vol. 62, pp. 689-698 (2012)で既報の菌株である。Lactiplantibacillus paracasei NFRI 7415は、Komatsuzaki N., et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., Vol. 72, pp. 278-285 (2008)で既報の菌株である。Levilactobacillus brevis IFO 12005は、Ueno Y., et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., Vol. 61, pp. 1168-1171 (1997)で既報の菌株である。Latilactobacillus sakei A156は、Sa H. D., et al., J. Microbiol. Biotechnol., Vol. 25, pp. 696-703 (2015)で既報の菌株である。Levilactobacillus zymae GU240は、Park J. Y., et al., H, Biotechnol. Lett., Vol. 36, pp. 1791-1799 (2014)で既報の菌株である。表3に示す既報の各GADのアミノ酸配列を表4に示す。
【0081】
図5に、表3に示す各菌株のGADのアミノ酸配列のアラインメントを示す。各菌株のGadB
1同士で83~100%、GadB
2同士で79~100%の高い配列同一性が示された。
【0082】
【0083】