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特開2024-73210放射冷却フィルム及び放射冷却フィルムの作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073210
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】放射冷却フィルム及び放射冷却フィルムの作成方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240522BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20240522BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240522BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/08 A
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184304
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大杉 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
【テーマコード(参考)】
2H042
2H148
4F100
【Fターム(参考)】
2H042DA04
2H042DB04
2H148AA01
2H148AA05
2H148AA18
2H148AA25
4F100AB24C
4F100AB31C
4F100AH02A
4F100AK01A
4F100AK03B
4F100AK04E
4F100AK07E
4F100AK15A
4F100AK15E
4F100AK18E
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AK42B
4F100AK42E
4F100AK57E
4F100AK74E
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA04A
4F100CA23E
4F100CB00E
4F100EH46D
4F100EH66C
4F100EJ65C
4F100JD11A
4F100JN06C
4F100JN06E
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】ガルバニック腐食の発生を適切に抑制できる放射冷却フィルムを提供する。
【解決手段】放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Aと、当該赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる銀または銀合金で構成された光反射層Bと、光反射層Bにおける赤外放射層Aに隣接する側に位置する隣接側保護層Duと、光反射層Bにおける赤外放射層Aから離れる側に位置する離間側保護層Dsとを備えるフィルム体Fとして構成され、赤外放射層Aが、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されている赤外放射用樹脂材料層Jであり、フィルム体Fの裏面部に、離間側保護層Dsに向う水分移動を防止する防水用樹脂材料層Gが備えられ、防水用樹脂材料層Gが、フィルムとして形成され、防水用樹脂材料層Gが、離間側保護層Dsに接着剤又は粘着剤にて接続されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる銀または銀合金で構成された光反射層と、前記光反射層における前記赤外放射層に隣接する側に位置する隣接側保護層と、前記光反射層における前記赤外放射層から離れる側に位置する離間側保護層とを備えるフィルム体として構成され、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されている赤外放射用樹脂材料層である放射冷却フィルムであって、
前記フィルム体の裏面部に、前記離間側保護層に向う水分移動を防止する防水用樹脂材料層が備えられ、
フィルム状に形成された前記防水用樹脂材料層が、前記離間側保護層に接着剤又は粘着剤にて接続されている放射冷却フィルム。
【請求項2】
前記防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料が、アクリル樹脂、ABS樹脂、PET、PVC、PE、PPS、PP、PTFEのいずれかである請求項1に記載の放射冷却フィルム。
【請求項3】
前記防水用樹脂材料層の厚さが10μm以上、125μm以下である請求項2に記載の放射冷却フィルム。
【請求項4】
前記防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料が、PETであり、その厚さが6μm以上、30μm以下である請求項1に記載の放射冷却フィルム。
【請求項5】
前記防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料に、光反射用のフィラーが混入されている請求項1に記載の放射冷却フィルム。
【請求項6】
前記離間側保護層を形成する樹脂材料が、アクリル樹脂である請求項1に記載の放射冷却フィルム。
【請求項7】
前記防水用樹脂材料層と前記離間側保護層との間に防水用追加層を備えている請求項1に記載の放射冷却フィルム。
【請求項8】
前記赤外放射用樹脂材料層を形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂であり、
前記可塑剤が、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類及びリン酸エステル類からなる群より選択される1つ以上の化合物からなる請求項1に記載の放射冷却フィルム。
【請求項9】
前記隣接側保護層が、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に、又は、PETにて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成されている請求項1に記載の放射冷却フィルム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の放射冷却フィルムの作成方法であって、
前記隣接側保護層を基材として、前記隣接側保護層に又は前記隣接側保護層に積層したアンカー層に、銀または銀合金を蒸着して前記光反射層を形成し、前記光反射層における前記赤外放射層から離れる側の面に樹脂材料を塗工して前記離間側保護層を形成した積層体を形成し、
前記積層体における前記離間側保護層に、フィルム状に形成された前記防水用樹脂材料層を接着剤又は粘着剤にて接続する放射冷却フィルムの作成方法。
【請求項11】
前記積層体における前記隣接側保護層と、フィルム状に形成した前記赤外放射用樹脂材料層とを、接着剤又は粘着剤にて接続する請求項10に記載の放射冷却フィルムの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる銀または銀合金で構成された光反射層と、前記光反射層における前記赤外放射層に隣接する側に位置する隣接側保護層と、前記光反射層における前記赤外放射層から離れる側に位置する離間側保護層とを備えるフィルム体として構成され、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されている赤外放射用樹脂材料層である放射冷却フィルム及び放射冷却フィルムの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射冷却とは、物質が周囲に赤外線などの電磁波を放射することでその温度が下がる現象のことを言う。この現象を利用すれば、たとえば、電気などのエネルギーを消費せずに冷却対象を冷やす放射冷却フィルムを構成することができる。
【0003】
放射冷却フィルムにおいては、赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放射するから、銀又は銀合金にて構成される光反射層が太陽光を十分に反射することにより、昼間の日射環境下においても冷却対象を冷やすことができる。
また、光反射層における赤外放射層に隣接する側に位置させる隣接側保護層と、光反射層における赤外放射層から離れる側に位置させる離間側保護層を備えさせることにより、銀及び銀合金が水分により変色すること等を抑制して、光反射層の光反射を適切に行わせることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
つまり、光反射層が、赤外放射層及び隣接側保護層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)を反射して放射面から放射させて、赤外放射層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)が冷却対象に対して投射されて、冷却対象が加温されることを回避することにより、昼間の日射環境下においても冷却対象を冷やすことができる。
尚、光反射層は、赤外放射層を透過した光に加えて、赤外放射層から光反射層の存在側に放射される光を赤外放射層に向けて反射する作用も奏することになるが、以下の説明においては、光反射層を設ける目的が赤外放射層を透過した光(紫外光、可視光、赤外光)を反射することにあるとして説明する。
【0005】
ちなみに、特許文献1においては、隣接側保護層及び離間側保護層を形成する材料として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、酸化膜(SiO、Al)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/195743号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射冷却フィルムの使用例として、例えば、自動車の外面やコンテナの外面等、金属製(例えば、鉄、鉄合金、鋼板、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、ジュラルミン等)の板状体の外面に接着剤や粘着剤にて貼付(装着)して使用する場合や、金属製の板状体に対して熱ラミネートにより装着して使用される場合がある。
このような場合には、放射冷却フィルムにおける最も裏面側に位置する層、例えば、離間側保護層が金属製の板状体に対する接続に用いられることになる。つまり、離間側保護層を金属製の板状体の外面に接着剤や粘着剤にて接続(貼付)し、離間側保護層を金属製の板状体に熱ラミネートすることになる。
【0008】
離間側保護層は、放射冷却フィルムの裏面部から光反射層に向けて水分が侵入することを抑制する防水性を発揮することになるが、離間側保護層の防水性が不十分であると、ガルバニック腐食により、金属製の板状体を形成する金属材が強度低下を起こす虞や、放射冷却フィルムがさび成分の析出により着色し、太陽光を吸収するようになって放射冷却性能が低下する虞があり、改善が望まれるものであった。
【0009】
説明を加えると、例えば、樹脂材料を光反射層に塗工して離間側保護層を形成する場合には、ピンホールができやすいほか、樹脂構造中に多数の欠陥が形成されやすく、吸水や透水がしやすくなる等、離間側保護層に十分な防水性を備えさせることができなくなる場合がある。このような場合には、電解質(雨水や海水)が光反射層の銀や銀合金まで到達しやすくなる。
尚、離間側保護層を形成する樹脂材料としてアクリル樹脂を用いると、アクリル樹脂には銀のさび止めといった添加剤が入っており、添加物とのなじみの良さからも、離間側保護層をアクリル樹脂にて形成することが望まれることが多い。
【0010】
銀はイオン化傾向がすべての金属の中で、金と白金に続いて3番目に小さいことから、一般的な金属と電解質を介して接続すると、相手の金属を腐食させるガルバニック腐食が発生し、その際、水素が発生し膨れが生じたり着色したりする。
つまり、離間側保護層に十分な防水性を備えさせることができなくなって、電解質(雨水や海水)が光反射層の銀や銀合金まで到達すると、光反射層の銀又は銀合金と金属製の板状体を形成する金属材とを電解質が接続し、金属製の板状体形成する金属材を腐食させるガルバニック腐食を促進することになる。
【0011】
ちなみに、金属製の板状体を形成する金属材としては、金、白金、銀が使用されることがないため、上述の如く、ガルバニック腐食が発生することになる。
そして、ガルバニック腐食により金属製の板状体を形成する金属材が腐食することにより、金属製の板状体が強度低下を起こし、放射冷却フィルムが放射冷却性能の低下を起こす虞があった。
【0012】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、離間側保護層に向う水分移動を適切に防止できる放射冷却フィルムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の放射冷却フィルムは、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる銀または銀合金で構成された光反射層と、前記光反射層における前記赤外放射層に隣接する側に位置する隣接側保護層と、前記光反射層における前記赤外放射層から離れる側に位置する離間側保護層とを備えるフィルム体として構成され、
前記赤外放射層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されている赤外放射用樹脂材料層であるものであって、その特徴構成は、
前記フィルム体の裏面部に、前記離間側保護層に向う水分移動を防止する防水用樹脂材料層が備えられ、
フィルム状に形成された前記防水用樹脂材料層が、前記離間側保護層に接着剤又は粘着剤にて接続されている点にある。
【0014】
先ず、昼間の日射環境下においても冷却対象を冷やすことができる点について説明を加える。
すなわち、フィルム体における赤外放射層の放射面から入射する太陽光は、赤外放射用樹脂材料層及び隣接側保護層を透過した後、赤外放射用樹脂材料層の放射面の存在側とは反対側にある光反射層で反射され、放射面から系外へ逃がされる。
なお、本明細書の記載において、単に光と称する場合、当該光の概念には紫外光(紫外線)、可視光、赤外光を含む。これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μmの電磁波)の電磁波を含む。
【0015】
また、フィルム体への伝熱(入熱)は、赤外放射層としての赤外放射用樹脂材料層で赤外線に変換されて、放射面から系外へ逃がされる。
このように、フィルム体は、フィルム体へ照射される太陽光を反射し、また、フィルム体への伝熱(例えば、大気からの伝熱や、フィルム体が冷却する冷却対象からの伝熱)を赤外光として系外へ放射することができる。
【0016】
そして、赤外放射用樹脂材料層が、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整されているから、光反射層にて太陽光を適切に反射させるようにしながら、昼間の日射環境下においても、冷却機能を発揮することができる。
【0017】
光反射層にて太陽光を適切に反射できる点について説明を加えると、銀または銀合金である光反射層には、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である反射率特性を備えさせることができ、太陽光を適切に反射させることができる。
つまり、太陽光スペクトルは波長0.295μmから4μmにかけて存在し、そして、波長が0.4μmから大きくなるにつれて強度が大きくなり、特に波長0.5μmから波長2.5μmにかけての強度が大きい。
銀又は銀合金にて構成される光反射層は、波長0.4μmから0.5μmにかけて90%以上の反射率を示し、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である反射特性を備えさせることができるため、光反射層が太陽光エネルギーを5%程度以下しか吸収しなくなる。
【0018】
その結果、夏場の南中時に、光反射層が吸収する太陽光エネルギーを50W/m程度以下とすることができるため、赤外放射用樹脂材料層による放射冷却を良好に行うことができる。
尚、本明細書では、太陽光について、断りのない場合、スペクトルはAM1.5Gの規格とする。
以上の通り、昼間の日射環境下においても、冷却対象を放射冷却作用により冷却できることになる。
【0019】
そして、本発明の放射冷却フィルムの特徴構成によれば、フィルム体の裏面部に、離間側保護層に向う水分移動を防止する防水用樹脂材料層が備えられているから、離間側保護層に十分な防水性を備えさせることができない場合であっても、防水用樹脂材料層が離間側保護層に向う水分移動を防止するため、フィルム体を金属製の板状体に装着した場合において、電解質(雨水や海水)が光反射層の銀や銀合金まで到達することを適切に防止できる。
【0020】
つまり、防水用樹脂材料層を、フィルム状(フィルム)として形成することにより、ピンホール等の水分移動経路となる欠陥を備えない形態に形成して、防水用樹脂材料層に適切な防水性を備えさせることができる。
そして、適切な防水性を備えた防水用樹脂材料層(フィルム)を、離間側保護層に接着剤又は粘着剤にて接続(貼付)することにより、水分が離間側保護層に移動することを適切に抑制できる。その結果、フィルム体を金属製の板状体に装着した場合において、電解質(雨水や海水)が光反射層の銀や銀合金まで到達することを一層適切に防止して、ガルバニック腐食の発生を一層適切に抑制できる。
【0021】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの特徴構成によれば、離間側保護層に向う水分移動を適切に防止できる。
【0022】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料が、アクリル樹脂、ABS樹脂、PET、PVC、PE、PPS、PP、PTFEのいずれかである点にある。
【0023】
すなわち、防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料としては、吸水率がアクリル樹脂以下の樹脂であれば、水分が離間側保護層に移動することを適切に抑制できることになる。
アクリル樹脂、ABS樹脂、PET(エチレンテレフタラート樹脂)、PVC(塩化ビニル樹脂)、PE(ポリエチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PP(ポリプロピレン)、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)は、吸水率がアクリル樹脂以下であるから、水分が離間側保護層に移動することを適切に抑制できることになる。
【0024】
しかも、アクリル樹脂、ABS樹脂、PET、PVC、PE、PPS、PP、PTFEは、接着剤又は粘着剤にて離間側保護層に剥離し難い状態で接続(貼付)でき、使い勝手の向上を図ることができる。
【0025】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、水分が離間側保護層に移動することを適切に抑制でき、しかも、使い勝手の向上を図ることができる。
【0026】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記防水用樹脂材料層の厚さが10μm以上、125μm以下である点にある。
【0027】
すなわち、防水用樹脂材料層(フィルム)の厚さを10μm以上にすることにより、防水用樹脂材料層(フィルム)に適切な防水性を備えさせることができる。
また、防水用樹脂材料層(フィルム)の厚さを125μm以下にすることにより、防水用樹脂材料層(フィルム)の柔軟性を損なわないようにすることができ、また、防水用樹脂材料層(フィルム)の総発熱量を8MJ/m以下に抑えることができる。
【0028】
なお、8MJ/mとは、不燃認定を取得するうえで超えてはならない発熱量の上限である。これ以上発熱量が増えると建築基準法上では外壁等に施工できなくなる。
ちなみに、本発明の放射冷却フィルムのフィルム体の総発熱量は、防水用樹脂材料層のない状態では約4MJ/m程度である。そして、例えば、防水用樹脂材料層としてのPETは、厚さが125μmの場合には3.8MJ/mであるので、防水用樹脂材料層を離間側保護層に接続するウレタン系の接着剤を加味した際には、125μmの厚さが8MJ/mを超えないギリギリの厚さとなる。
【0029】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、防水用樹脂材料層に適切な防水性及び柔軟性を備えさせることができ、しかも、フィルム体の発熱量を不燃認定を取得するうえで超えてはならない上限以下にすることができる。
【0030】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料が、PETであり、その厚さが6μm以上、30μm以下である点にある。
【0031】
すなわち、PET(エチレンテレフタラート樹脂)は、厚さが6μm以上、30μm以下の薄い厚さでも適切な防水性を備えさせることができ、しかも、接着剤又は粘着剤にて離間側保護層に良好に接続(貼付)できる等、使い勝手が特に良好な樹脂であり、防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料として良好に使用できる。
ちなみに、フィルム体は、防水用樹脂材料層を金属製の板状体の外面に接着剤や粘着剤にて接続することより、金属製の板状体の外面に装着する形態で使用される場合がある。このような場合において、防水用樹脂材料層を形成するPETの厚さが6μm以上であると、フィルム体を金属製の板状体の外面から剥がす際に、PETの引張強度を粘着剤の剥離強度(180度剥離強度)よりも大きくすることができるものとなり、フィルム体を金属製の板状体の外面から良好に剥がすことができる。
【0032】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、防水用樹脂材料層を良好に形成できる。
【0033】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料に、光反射用のフィラーが混入されている点にある。
【0034】
すなわち、防水用樹脂材料層を形成する樹脂材料に、光反射用のフィラーが混入されているから、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断して亀裂が入る等により、光反射層が適切に光を反射できない状態になったときに、防水用樹脂材料層が光反射層を通過した光を反射することになるため、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断した際にも、意匠性の低下を抑制できる。
【0035】
つまり、フィルム体を装着する際等において、光反射層の銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、光反射層の割れた箇所を通過した光が防水用樹脂材料層のフィラーにて反射されることになり、フィルム体を放射面側から見たときに、フィルム体の全体を一様の状態にすることができる。このため、光反射層の銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、意匠性の低下を抑制することができる。
また、光反射層の割れた箇所を通過した光を防水用樹脂材料層のフィラーにて反射できるため、光反射層の銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、フィルム体の放射冷却性能の低下を抑制できる。
【0036】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、光反射層を構成する銀又は銀合金が破断しても意匠性の低下を抑制でき、しかも、光反射作用を適切に維持して放射冷却性の低下を抑制できる。
【0037】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記離間側保護層を形成する樹脂材料が、アクリル樹脂である点にある。
【0038】
すなわち、離間側保護層を形成する樹脂材料が、アクリル樹脂であるから、例えば、光反射層に塗工された場合には、上述の如く、防水性が低下する虞があるものの、アクリル樹脂は吸水率が低いため、フィルム体における赤外放射層の存在する側とは反対側の裏面側から水分等が侵入して光反射層に到達することを、防水用樹脂材料層との共働により回避して、光反射層の劣化を抑制するのに有効である。
尚、アクリル樹脂は、ウレタン系やアクリル系といった一般的な接着剤との相性が良いため、離間側保護層と銀又は銀合金にて構成される光反射層とを接着剤を介して良好に一体化することに有効である。
【0039】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、光反射層の劣化を適切に抑制できる。
【0040】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記防水用樹脂材料層と前記離間側保護層との間に防水用追加層を備えている点にある。
【0041】
すなわち、防水用樹脂材料層における離間側保護層に隣接する側の面に防水用追加層が備えられているから、フィルム体における赤外放射層の存在する側とは反対側の裏面側から侵入した水分等が離間側保護層に到達することを、防水用樹脂材料層と防水用追加層との共働により、適切に回避できる。
【0042】
ちなみに、防水用追加層は形成する材料としては、各種の有機材料や各種の無機材料を用いることができる。
【0043】
要するに、放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、フィルム体における赤外放射層の存在する側とは反対側の裏面側から侵入した水分等が離間側保護層に到達することを一層適切に回避できる。
【0044】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記赤外放射用樹脂材料層を形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂であり、
前記可塑剤が、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類及びリン酸エステル類からなる群より選択される1つ以上の化合物からなる点にある。
【0045】
すなわち、塩化ビニル系樹脂は、大気の窓領域において十分な熱輻射が得られるものであり、その結果、日射環境下でも屋外で適切に放射冷却できる。つまり、塩化ビニル系樹脂は、その熱輻射特性が大気の窓領域において大きな熱輻射が得られるフッ素樹脂やシリコーンゴムと同等であり、これら樹脂よりもかなり安価であるから、直射日光下で周囲温度よりも温度が低下するフィルム体(放射冷却フィルム)を安価に構成するのに有効である。
【0046】
また、塩化ビニル系樹脂は、難燃性であり且つ生分解され難いものであるから、屋外で長期間使用する放射冷却フィルムの赤外放射用樹脂材料層を形成する樹脂材料として好適である。
尚、本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの単独重合体及び塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの共重合体であり、その製造方法は、従来公知の重合方法で行われるものであり、以下同様である。
【0047】
また、塩化ビニル系樹脂に可塑剤が混入されているから、銀又は銀合金で構成される光反射層が伸性を備えることに加えて、赤外放射用樹脂材料層が十分な伸性(伸び易さ)を備えることになる結果、放射冷却フィルムが十分な伸性(伸び易さ)を備えるものとなり、フィルム体を伸ばしながら貼り付け対象に貼り付ける等、施工性の向上を図ることができる。
【0048】
ちなみに、塩化ビニル系樹脂は、可塑剤を入れることにより軟質となることで、他物が接触しても他物に合わせて柔軟に形状を変化させることによって傷つくことを回避するため、長期に亘って美麗な状態に維持できる。ちなみに、薄膜状のフッ素樹脂は、硬質性であるから、他物の接触により柔軟に形状を変化させることができず傷がつき易く、美麗な状態を維持し難いものである。
【0049】
また、塩化ビニル系樹脂に可塑剤を入れることにより、傷がついても80℃以上に加熱することで変形し表面傷を無くし平滑化することができ、つまりは傷を自己修復することができる。フッ素樹脂やシリコーンゴムにこの特性はない。軟質な塩化ビニル系樹脂のこの特性によって綺麗な状態を長期間維持することができる。このことは長期にわたる放射冷却性能の維持につながる。
このように、可塑剤を入れることにより、フィルム体(放射冷却フィルム)の耐久性が向上する。
【0050】
そして、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類及びリン酸エステル類からなる群より選択される1つ以上の化合物であるから、可塑剤が太陽光に含まれている紫外線(波長295nmから400nmの紫外光)を吸収し難いものとなるため、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂の耐候性を適切に向上できる。
【0051】
つまり、塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤が紫外線を吸収すると、可塑剤の加水分解が進む結果、塩化ビニル系樹脂が脱塩素等を生じて着色(茶色)し、しかも、機械強度の低下を生じる虞があるが、可塑剤が太陽光に含まれている紫外線を吸収し難いものとなるため、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂の耐候性を一層向上できるのである。
【0052】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、低廉化を図りながら十分な柔軟性を持たせることができ、しかも、耐候性を向上できる放射冷却フィルムを提供できる。
【0053】
本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成は、前記隣接側保護層が、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に、又は、PETにて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成されている点にある。
【0054】
すなわち、隣接側保護層が、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に、又は、PET(エチレンテレフタラート樹脂)にて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成されているから、昼間の日射環境下においても、光反射層の銀または銀合金が変色することを的確に抑制できるため、光反射層にて太陽光を適切に反射させるようにしながら、昼間の日射環境下においても、冷却機能を的確に発揮させることができる。
【0055】
つまり、隣接側保護層が存在しない場合には、赤外放射用樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することや、赤外放射用樹脂材料層を透過する水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することにより、光反射層の銀または銀合金が短期間で変色して、光反射機能を適切に発揮しない状態になる虞があるが、ポリオレフィン系樹脂又はエチレンテレフタラート樹脂にて形成された隣接側保護層の存在により、光反射層の銀または銀合金が短期間で変色することを抑制できる。
【0056】
隣接側保護層にて光反射層の銀または銀合金の変色を抑制することについて説明を加える。
隣接側保護層が、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、ポリオレフィン系樹脂は、波長0.295μmから0.4μmの紫外線の波長域の全域において紫外線の光吸収率が10%以下である合成樹脂であるから、隣接側保護層が紫外線の吸収により劣化し難いものとなる。
【0057】
そして、隣接側保護層を形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが、300nm以上であるから、赤外放射用樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、赤外放射用樹脂材料層を透過する水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を良好に発揮することになり、光反射層を形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
【0058】
つまり、ポリオレフィン系樹脂にて形成される隣接側保護層は、紫外線の吸収により、光反射層から離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが300nm以上であるから、形成したラジカルが光反射層に到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、紫外線の吸収が低いことにより劣化の進み具合は遅いものであるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
【0059】
隣接側保護層が、エチレンテレフタラート樹脂(PET)にて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、エチレンテレフタラート樹脂は、ポリオレフィン系樹脂よりも、波長0.295μmから0.4μmの紫外線の波長域において紫外線の光吸収率が高い樹脂材料であるが、厚さが17μm以上であるから、赤外放射用樹脂材料層にて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、赤外放射用樹脂材料層を透過する水分が光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を長期に亘って良好に発揮することになり、隣接側保護層を形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
【0060】
つまり、エチレンテレフタラート樹脂にて形成される隣接側保護層は、紫外線の吸収により、光反射層から離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが17μm以上であるから、形成したラジカルが光反射層に到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、厚さが17μm以上であるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
【0061】
また、ポリオレフィン系樹脂及びエチレンテレフタラート樹脂にて隣接側保護層を形成する場合において、その厚さの上限を定められているから、隣接側保護層が放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを極力回避できる。つまり、隣接側保護層は、厚さが厚くなるほど放射冷却に寄与しない断熱性を奏することになるから、光反射層を保護する機能を発揮させながらも、放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを極力回避するために、厚さの上限が定められることになる。
【0062】
要するに、本発明の放射冷却フィルムの更なる特徴構成によれば、光反射層の銀または銀合金が短期間で変色することを抑制しながら放射冷却機能を良好に発揮する放射冷却フィルムを提供することができる。
【0063】
本発明の放射冷却フィルムの作成方法は、上記した放射フィルムの作成方法であって、その特徴構成は、前記隣接側保護層を基材として、前記隣接側保護層に又は前記隣接側保護層に積層したアンカー層に、銀または銀合金を蒸着して前記光反射層を形成し、前記光反射層における前記赤外放射層から離れる側の面に樹脂材料を塗工して前記離間側保護層を形成した積層体を形成し、
前記積層体における前記離間側保護層に、フィルム状に形成された前記防水用樹脂材料層を接着剤又は粘着剤にて接続する点にある。
【0064】
すなわち、隣接側保護層、光反射層、離間側保護層を積層した積層体を作成するにあたり、隣接側保護層を基材として、隣接側保護層に、銀または銀合金を蒸着して光反射層を形成し、光反射層における赤外放射層から離れる側の面に樹脂材料を塗工して離間側保護層を形成するものであるから、隣接側保護層を基材として利用しながら、隣接側保護層、光反射層、離間側保護層を積層した積層体を良好に作成できる。
【0065】
また、隣接側保護層、光反射層、アンカー層、離間側保護層を積層した積層体を作成する場合には、隣接側保護層を基材として、隣接側保護層に、アンカー層を形成する樹脂材料を蒸着等により積層(形成)し、そのアンカー層に、銀または銀合金を蒸着して光反射層を形成し、光反射層における赤外放射層から離れる側の面に樹脂材料を塗工して離間側保護層を形成するものであるから、隣接側保護層を基材として利用しながら、隣接側保護層、アンカー層、光反射層、離間側保護層を積層した積層体を良好に作成できる。
【0066】
そして、積層体における離間側保護層に、フィルム状に形成された防水用樹脂材料層を接着剤又は粘着剤にて接続する。
したがって、積層体を良好に作成できるから、フィルム体の製作を良好に行うことができる。
【0067】
要するに、放射冷却フィルムの作成方法の特徴構成によれば、フィルム体の製作を良好に行うことができる。
【0068】
本発明の放射冷却フィルムの作成方法の更なる特徴構成は、前記積層体と別途フィルム状に形成した前記赤外放射用樹脂材料層とを、接着剤又は粘着剤にて接続する点にある。
【0069】
すなわち、積層体と別途フィルム状に形成した前記赤外放射用樹脂材料層とを、接着剤又は粘着剤にて接続することにより、フィルム体の製作を良好に行うことができる。
【0070】
要するに、放射冷却フィルムの作成方法の更なる特徴構成によれば、フィルム体の製作を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】放射冷却フィルムの基本構成を説明する図である。
図2】樹脂材料の光吸収率と波長との関係を示す図である。
図3】塩化ビニル樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
図4】塩化ビニリデン樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
図5】銀をベースにした光反射層の光反射率スペクトルを示す図である。
図6】放射冷却フィルムの具体構成を示す図である。
図7】放射冷却フィルムの作成手順を示す図である。
図8】ポリエチレンの光透過率と波長との関係を示す図である。
図9】ポリエチレンの輻射率スペクトルを示す図である。
図10】塩化ビニル樹脂に混入した可塑剤の試験結果を示す図である。
図11】赤外放射用樹脂材料層にフィラーを混入させた構成を説明する図である。
図12】赤外放射用樹脂材料層の表裏を凹凸状にした構成を説明する図である。
図13】放射冷却フィルムの別の構成を示す図である。
図14】放射冷却フィルムの更なる別の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔放射冷却フィルムの基本構成〕
図1に示すように、放射冷却フィルムCPは、放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Aと、当該赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる銀又は銀合金で構成された光反射層Bと、光反射層Bにおける赤外放射層Aに隣接する側に位置させる隣接側保護層Duと、光反射層Bにおける赤外放射層Aから離れる側に位置させる離間側保護層Dsとを積層状態に備えるフィルム体Fとして構成されている。
離間側保護層Dsは、隣接側保護層Duに蒸着された光反射層Bに樹脂材料(本実施形態ではアクリル樹脂)を塗工して形成されるものであって、その詳細は後述する。
そして、フィルム体Fの裏面部に、離間側保護層Dsに向かう水分移動を防止する防水用樹脂材料層Gが備えられている。
【0073】
防水用樹脂材料層Gは、フィルム状(フィルム)に形成され、当該防水用樹脂材料層Gが、離間側保護層Dsに接着剤又は粘着剤にて接続されている。つまり、防水用樹脂材料層Gが、離間側保護層Dsに対して、ウレタン系又はアクリル系の接着剤又は粘着剤にて形成される接続層Sにて接続されている。
ちなみに、防水用樹脂材料層Gは、冷却対象物Eに接続する接続用樹脂材料層としても機能することになる。
【0074】
光反射層Bは、赤外放射層A及び隣接側保護層Duを透過した太陽光等の光Lを反射するものである。そして、その反射特性が、波長0.4μmから0.5μmの反射率が90%以上、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上である。
太陽光スペクトルは、波長0.295μm(295nm)から4μm(4000nm)にかけて存在し、波長0.4μm(400nm)から大きくなるにつれ強度が大きくなり、特に波長0.5μm(500nm)から波長1.8μm(1800nm)にかけての強度が大きい。
【0075】
尚、本実施形態において、光Lとは、紫外光(紫外線)、可視光、赤外光を含むものであり、これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μm)の電磁波を含む。本書では、紫外光(紫外線)の波長域が、295nm(0.295μm)以上で、400nm(0.4μm)以下の範囲であるとする。
【0076】
光反射層Bが、波長0.4μmから0.5μmにかけて90%以上の反射特性を示し、波長0.5μmより長波の反射率が96%以上の反射特性を示すことにより、放射冷却フィルムCPが光反射層Bで吸収する太陽光エネルギーを5%以下に抑えることができ、すなわち夏場の南中時に吸収する太陽光エネルギーを50W程度とすることができる。
【0077】
赤外放射層Aは、吸収した太陽光エネルギーよりも大きな熱輻射エネルギーを波長8μmから波長14μmの帯域で放つ厚みに調整された赤外放射用樹脂材料層(以下、樹脂材料層と略記する)Jとして構成されるものである。
樹脂材料層Jの詳細は後述するが、本実施形態では、樹脂材料層Jを形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂である。つまり、樹脂材料層Jを形成する樹脂材料が、可塑剤が混入された塩化ビニル樹脂、又は、可塑剤が混入された塩化ビニリデン樹脂である。可塑剤が混入された塩化ビニル系樹脂は、伸性(伸び易さ)が優れている。
【0078】
本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの単独重合体及び塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの共重合体であり、その製造方法は、従来公知の重合方法で行われるものである。
【0079】
従って、放射冷却フィルムCPは、放射冷却フィルムCPに入射した光Lのうちの一部の光を、赤外放射層Aの放射面Hにて反射し、放射冷却フィルムCPに入射した光Lのうちで樹脂材料層J及び隣接側保護層Duを透過した光(太陽光等)を、光反射層Bにて反射して、放射面Hから外部へ逃がすように構成されている。
【0080】
そして、光反射層Bにおける樹脂材料層Jの存在側とは反対側に位置する冷却対象物Eからの放射冷却フィルムCPへの入熱(例えば、冷却対象物Eからの熱伝導による入熱)を、樹脂材料層Jによって赤外光IRに変換して放射することにより、冷却対象物Eを冷却するように構成されている。
【0081】
つまり、放射冷却フィルムCPは、当該放射冷却フィルムCPへ照射される光Lを反射し、また、当該放射冷却フィルムCPへの伝熱(例えば、大気からの伝熱や冷却対象物Eからの伝熱)を赤外光IRとして外部に放射するように構成されている。
また、樹脂材料層J、隣接側保護層Du、光反射層B、離間側保護層Ds及び防水用樹脂材料層Gが柔軟性を備えることによって、放射冷却フィルムCPが柔軟性を備えるように構成されている。
【0082】
加えて、放射冷却フィルムCPは、赤外光IRを樹脂材料層Jの光反射層Bと接する面とは反対側の放射面Hから放射する放射冷却方法を実施するために用いられることになり、具体的には、放射面Hを空に向け、当該空に向けた放射面Hから赤外光IR放射する放射冷却方法を実施することになる。
【0083】
〔樹脂材料層の概要〕
樹脂材料層(赤外放射用樹脂材料層)Jを形成する樹脂材料(塩化ビニル系樹脂)は、厚みによって光吸収率や輻射率(光放射率)が変化する。そのため、太陽光をできるだけ吸収せず、いわゆる大気の窓の波長帯域(波長8μmから波長14μmの帯域)において大きな熱輻射を発するように樹脂材料層Jの厚みを調整する必要がある。
【0084】
具体的には、太陽光の光吸収率の観点で、樹脂材料層Jの厚みを、波長0.4μmから0.5μmの光吸収率の波長平均が13%以下であり、波長0.5μmから波長0.8μmの光吸収率の波長平均が4%以下であり、波長0.8μmから波長1.5μmまでの光吸収率の波長平均が1%以内であり、波長1.5μmから2.5μmまでの光吸収率の波長平均が40%以下であり、波長2.5μmから4μmまでの光吸収率の波長平均が100%以下である状態の厚みに調整する必要がある。
このような吸収率分布の場合、太陽光の光吸収率は10%以下となり、エネルギーで言うと100W以下となる。
【0085】
後述の如く、樹脂材料の光吸収率は樹脂材料の膜厚を厚くすると増加する。樹脂材料を厚膜にすると、大気の窓の輻射率はほぼ1となり、その際に宇宙に放出する熱輻射は125W/mから160W/mとなる。隣接側保護層Du及び光反射層Bでの太陽光吸収は50W/m以下である。樹脂材料層J、隣接側保護層Du及び光反射層Bにおける太陽光吸収の和が150W/m以下であり、大気の状態がよければ冷却が進む。樹脂材料層Jを形成する樹脂材料は、以上のように太陽光スペクトルのピーク値付近の光吸収率が小さなものを用いるのが良い。
【0086】
また、樹脂材料層Jの厚みは、赤外放射(熱輻射)の観点では、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均が40%以上となる状態の厚みに調整する必要がある。
隣接側保護層Du及び光反射層Bで吸収される50W/m程度の太陽光の熱エネルギーを、樹脂材料層Jの熱輻射より樹脂材料層Jから宇宙に放出させるには、それ以上の熱輻射を樹脂材料層Jが出す必要がある。
例えば、外気温が30℃のとき、8μmから14μmの大気の窓の熱輻射の最大は200W/mである(輻射率1として計算)。この値が得られるのは、高山など、空気の薄いよく乾燥した環境の快晴時である。低地などでは大気の厚みが高山よりも厚くなるので、大気の窓の波長帯域は狭くなり、透過率は低下する。ちなみに、このことを「大気の窓が狭くなる」と呼ぶ。
【0087】
また、放射冷却フィルムCPを実際に使用する環境は多湿であることもあり、その場合においても大気の窓は狭くなる。低地で利用する際の大気の窓域で発生する熱輻射は、状態の良いときで30℃において160W/mと見積もられる(輻射率1として計算)。また、日本ではよくあることであるが空に靄があるときや、スモッグが存在する場合、大気の窓はさらに狭くなり、宇宙への放射は125W/m程度となる。
かかる事情を鑑みて、波長8μmから14μmの輻射率の波長平均は40%以上(大気の窓帯での熱輻射強度が50W/m)ないと中緯度帯の低地で用いることができない。
【0088】
したがって、上記事項を鑑みた光学的規定の範囲になるように樹脂材料層Jの厚みを調整すると、太陽光の光吸収による入熱よりも大気の窓における出熱の方が大きくなり、日射環境下でも屋外で放射冷却により外気より低温とすることができるようになる。
本実施形態においては、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層Jの厚みが、100μm以下で10μm以上である。好ましくは、100μm以下で50μm以上である。
【0089】
〔樹脂材料の詳細〕
キルヒホッフの法則により、輻射率(ε)と光吸収率(A)は等しい。光吸収率は吸収係数(α)から下記の式(1)(以下、光吸収率関係式と呼ぶことがある)にて求めることができる。
A=1-exp(-αt)---(1)尚、tは膜厚である。
つまり、樹脂材料層Jの膜厚を調整すると、吸収係数の大きな波長帯域で大きな熱輻射が得られる。屋外で放射冷却する場合、大気の窓の波長帯域である波長8μmから14μmにおいて吸収係数の大きな材料を用いるとよい。
また、太陽光の吸収を抑制するために波長0.3μmから4μm、特に0.4μmから2.5μmの範囲で吸収係数を持たない、或いは小さな材料を用いるとよい。吸収係数と吸収率の関係式からわかるように、光吸収率(輻射率)は樹脂材料の膜厚によって変化する。
【0090】
日射環境下での放射冷却によって周囲の大気より温度を下げるためには、大気の窓の波長帯域において大きな吸収係数をもち、太陽光の波長帯域では吸収係数を殆ど持たない材料を選ぶと、膜厚の調整によって太陽光は殆ど吸収しないが、大気の窓の熱輻射を多く出す、つまりは太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
【0091】
太陽光スペクトルは波長0.295μmより長波しか存在しない。なお、紫外線の定義は波長0.4μmよりも短波長側の範囲、可視光線の定義は波長0.4μmから0.8μmの範囲、近赤外線の定義は波長0.8μmから3μmの範囲、中赤外線の定義は3μmから8μmの範囲、遠赤外線の定義は波長8μmよりも長波の範囲とする。
【0092】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関して、アルケンの炭素と塩素の結合エネルギーは3.28eVであり、その波長は0.378μmであるので、太陽光のうちの紫外線を多く吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
厚さ100μmの塩化ビニル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図2に示すが、波長0.38μmよりも短波長側で光吸収が大きくなる。
厚さ100μmの塩化ビニリデン樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図2に示すが、波長0.4μmよりも短波長側で若干の吸収率スペクトルの増加がみられる。
【0093】
図3に、炭素-塩素結合をもつ塩化ビニル樹脂(PVC)の大気の窓における輻射率を示す。また、図4に、炭素-塩素結合をもつ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)の大気の窓における輻射率を示す。
炭素-塩素結合に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。塩化ビニリデン樹脂についても同様である。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから14μmの範囲において43%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0094】
樹脂材料層Jの大気の窓の熱輻射は樹脂材料の表面近傍で発生する。
図3に示す如く、塩化ビニル樹脂の場合は100μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、塩化ビニル樹脂の場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μm以内の部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
図4に示す如く、塩化ビニリデン樹脂は、塩化ビニル樹脂と同様であることが分かる。
【0095】
以上のように、樹脂材料表面から発生する大気の窓領域の熱輻射は、表面からの深さが概ね100μm以内の部分で生じており、それ以上に樹脂の厚みが増していくと、熱輻射に寄与しない樹脂材料によって、放射冷却フィルムCPの放射冷却した冷熱が断熱されることになる。
理想的に太陽光を全く吸収しない樹脂材料層Jを光反射層Bの上に作製することを考える。この場合には、太陽光は放射冷却フィルムCPの光反射層Bでのみ吸収されることになる。
樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であり、この熱伝導性を考慮して計算すると、樹脂材料層Jの厚みが20mmを超えると、冷却面(光反射層Bにおける樹脂材料層Jの存在側とは反対側の面)の温度が上昇する。
【0096】
太陽光をまったく吸収しない理想的な樹脂材料が存在したとしても、樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であるので、20mmを超えると光反射層Bが日射を受けて加熱されてしまい、光反射層側に設置された冷却対象物Eは加熱される。つまり、放射冷却フィルムCPの樹脂材料の厚みは20mm以下にする必要がある。
【0097】
〔樹脂材料層の厚みについて〕
放射冷却フィルムCPの実用の観点では、樹脂材料層(赤外樹脂材料層)Jの厚みは薄い方がよい。樹脂材料の熱伝導率は、金属やガラスなどよりも一般に低い。冷却対象物Eを効果的に冷却するには、樹脂材料層Jの膜厚は必要最低限であるのがよい。樹脂材料層Jの膜厚を厚くするほどに大気の窓の熱輻射は大きくなり、ある膜厚を超えると大気の窓における熱輻射エネルギーは飽和する。
【0098】
飽和する膜厚は樹脂材料にもよるが、炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、厚みが100μmであっても飽和しており、厚さ50μmでも大気の窓領域において十分な熱輻射が得られる。樹脂材料の厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにすると断熱性が小さくなり冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。炭素-塩素結合の場合には、100μm以下の厚さであれば、冷却対象物Eを効果的に冷却することができる。
【0099】
薄くする効用は断熱性を下げて冷熱を伝えやすくすること以外にもある。それは、炭素-塩素結合を含む樹脂が呈する、近赤外域でのCH、CH、CH由来の近赤外域の光吸収の抑制である。薄くすると、これらによる太陽光吸収を小さくすることができるので、放射冷却フィルムCPの冷却能力が高まることになる。
以上の観点から、炭素-塩素結合を含む樹脂である塩化ビニル系樹脂の場合、50μm以下の厚さにすることにより効果的に日照下において放射冷却効果を出すことができる。
【0100】
〔光反射層の詳細〕
光反射層Bに上述の反射率特性を持たせるためには、放射面Hの存在側(樹脂材料層Jの存在側)の反射材料は銀または銀合金である必要がある。
図5に示す通り、銀をベースとして光反射層Bを構成すれば、光反射層Bに求められる反射率が得られる。
【0101】
銀または銀合金のみで太陽光を前述の反射率特性を持たせた状態で反射する場合、厚さが50nm以上必要である。
但し、光反射層Bに柔軟性を備えさせるためには、厚さを100μm以下にする必要がある。これ以上厚いと曲げにくくなる。
ちなみに、「銀合金」としては、銀に、銅、パラジウム、金、亜鉛、スズ、マグネシウム、ニッケル、チタンのいずれかを、例えば、0.4質量%から4.5質量%程度添加した合金を用いることができる。具体例としては、銀に銅とパラジウムを添加して作成した銀合金である「APC-TR(フルヤ金属製)」を用いることができる。
【0102】
銀および銀合金は雨や湿度に弱くそれらから保護をする必要があり、また、その変色を抑制する必要がある。そのために、銀や銀合金に隣接させる形態で、銀を保護する隣接側保護層Du及び離間側保護層Dsが必要である。
隣接側保護層Du及び離間側保護層Dsの詳細は、後述する。
【0103】
〔可塑剤の詳細〕
樹脂材料層Jを形成する塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤は、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸エステル類からなる群より選択される1つ以上の化合物からなる。
そして、可塑剤が、塩化ビニル樹脂の100重量部に対して、1重量部以上で、100重量部以下の範囲で混入されている。
【0104】
可塑剤の脂肪族二塩基酸エステルが、アジピン酸エステル類、アジピン酸エステル共重合体類、アゼライン酸エステル類、アゼライン酸エステル共重合体類、セバシン酸エステル類、セバシン酸エステル共重合体類、コハク酸エステル類、コハク酸エステル共重合体類を単独でもしくは複数組み合わせて構成されていてもよい。
【0105】
可塑剤の脂肪族二塩基酸エステルが、脂肪族二塩基酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものであるとよい。
可塑剤のフタル酸エステルが、フタル酸と飽和脂肪族アルコール2分子とがエステル結合したものであるとよい。
可塑剤のリン酸エステルが、リン酸トリエステル、又は、芳香族リン酸エステルであるとよい。
【0106】
<フタル酸エステル類の詳細>
フタル酸エステル類を列挙すると、次の通りである。
フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP)、イソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOIP)等。
【0107】
<脂肪族二塩基酸エステル類の詳細>
脂肪族二塩基酸エステル類を列挙すると、次の通りである。
アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、アゼライン酸ビス-2-エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)、コハク酸ジエチル(DESU)等。
また、アジピン酸等の2塩基酸とジオール(二官能アルコール、あるいはグリコール)との共重合(ポリエステル化)によって合成された分子量400~4000の脂肪族ポリエステル。
【0108】
<リン酸トリエステル>
リン酸トリエステルを列挙すると、次の通りである。
トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリブチルホスフェート(TBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP))。
【0109】
<芳香族リン酸エステル>
芳香族リン酸エステルを列挙すると、次の通りである。
トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレシルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート。
【0110】
<適正な可塑剤の評価について>
塩化ビニル系樹脂用の可塑剤には、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸トリエステル類、芳香族リン酸エステル類、トリメリット酸エステル類、エポキシ化脂肪酸エステル類がある。これら可塑剤類から下記化合物を選定し、塩化ビニル100重量部に対し各種可塑剤を43重量部混ぜて、キセノンウエザー試験により評価した。
なお、塩化ビニル樹脂には、トリアジン系の紫外線吸収剤とヒンダードアミン系の光安定剤を塩化ビニル100重量部あたりそれぞれ0.5重量部ずつ混錬した。
【0111】
フタル酸エステルの代表として、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)。
脂肪族二塩基酸エステルの代表として、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ブタンジオール共重合体(平均分子量1000程度)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)。
リン酸トリエステルの代表として、トリブチルホスフェート(TBP)。
芳香族リン酸エステルの代表として、トリクレシルホスフェート(TCP)。
トリメリット酸エステルの代表として、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(TOTM)。
エポキシ化脂肪酸エステルの代表として、エポキシ化大豆油。
【0112】
耐久試験はキセノンウエザー試験を1920時間(実暴露4年に相当)実施した結果をもって耐久性の優劣判断を行った。尚、紫外線換算で487時間が1年に相当する。
キセノンウエザー試験の条件は以下の通りである。
紫外線強度180W/m(波長295-400nm)。
〈散水なし条件〉BPT89℃、湿度50%、1時間42分。
〈散水あり条件〉槽内温度38℃、湿度90%、18分。
【0113】
1920時間の試験結果を図10に示す。
上記実験の結果、トリメリット酸エステル(TOTM)、及び、エポキシ化脂肪酸エステル(エポキシ化大豆油)を可塑剤として用いると耐久性が著しく下がることが明らかとなった。なお、エポキシ化脂肪酸は1120時間で茶変し試験継続できなくなったので同図に載せていない。
【0114】
これに対して、フタル酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸トリエステル系、芳香族リン酸エステル系を用いると4年程度耐久することが分かった。つまり、塩化ビニル樹脂に混入する可塑剤として、フタル酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸トリエステル系、芳香族リン酸エステル系を用いると、4年程度経過しても、放射冷却フィルムCPの反射率は低下しないが、塩化ビニル樹脂に混入する可塑剤として、トリメリット酸エステル系、エポキシ化脂肪酸エステルを用いると、放射冷却フィルムCPの反射率が、4年程度経過する途中から、大きく低下することが分かった。
【0115】
以上の試験結果より、塩化ビニル樹脂の可塑剤としては、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸トリエステル類、芳香族リン酸エステル類の耐久が優れており、トリメリット酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステルは耐久性がないことがわかる。
そして、炭素-塩素結合をもつ塩化ビニリデン樹脂も同様である。
【0116】
〔赤外放射用樹脂材料層に混入する可塑剤の考察〕
以下、樹脂材料層(赤外放射用樹脂材料層)Jを形成する塩化ビニル系樹脂に混入する可塑剤について考察する。
塩化ビニル系樹脂の太陽光による劣化は、可塑剤の紫外線による劣化が大きく関与している。
通常屋外で長期使用される塩化ビニル系樹脂(可塑剤が混入されている)は、着色や添加剤によって太陽光に含まれる紫外線から守られている。例えば黒等の色に着色され、紫外線の影響を受けづらい状態となっていることが多い。一方、放射冷却フィルムCPの場合、放射冷却性能を得るために太陽光の吸収を最小限に抑える必要がある。そのため可塑剤を守るための添加物や染料・顔料を十分に入れることができない。
【0117】
放射冷却フィルムCPは、例えば、図6に例示する如く、塩化ビニル系樹脂にて形成される樹脂材料層Jの下に積層体用接続層N、隣接側保護層Duがあり、その下に銀を備えた光反射層Bがある。この光反射層Bの影響で樹脂材料層Jは太陽光の影響を更に受けやすくなる。つまり、放射冷却フィルムCPに一度入射した太陽光は、光反射層Bで反射されることにより、樹脂材料層Jを2度透過する。つまり、太陽光の劣化への影響が通常の約2倍となる。
【0118】
また、銀を備えた光反射層Bの上に形成された樹脂材料層Jと、銀と比較すると反射率が低いアルミや鉄、セラミクス上に形成された樹脂材料層Jとを比較すると、銀を備えた光反射層Bの上に形成された樹脂材料層Jを備える放射冷却フィルムCPは太陽光の影響をより多く受けるということである。
これらのことは、銀を備えた光反射層Bの上に樹脂材料層Jを備える放射冷却フィルムCPの塩化ビニル系樹脂は、一般用途の塩化ビニル系樹脂よりも太陽光に含まれる紫外線に敏感であることを示唆している。
【0119】
エステル系可塑剤の紫外線による劣化は、主に紫外線エネルギーを可塑剤が吸収することによって生じる。
紫外線吸収は、主に可塑剤のエステル結合の結合エネルギーを超える電子遷移が生じることによって生じる。紫外線による活性エネルギーの付与と水分子により、塩化ビニル系樹脂に混入された可塑剤の加水分解が進む。
可塑剤の結合が切れると、切れた結合が周囲の塩化ビニル系樹脂を攻撃し、脱塩酸等生じて着色する。また、このことにより機械強度も低下する。
塩化ビニル系樹脂が着色すると、太陽光を放射冷却フィルムCPが吸収するために日中では冷却できなくなる。
【0120】
故に、図10の実験結果で示した通り、他用途では直射日光に晒される屋外用途で用いられる可塑剤(トリメリット酸エステル、エポキシ化脂肪酸エステル)を、放射冷却フィルムCPでは用いることができず、放射冷却フィルムCPの可塑剤として、フタル酸エステル類、脂肪族二塩基酸エステル類、リン酸トリエステル類、芳香族リン酸エステル類を用いることができる。
【0121】
〔その他の添加剤について〕
樹脂材料層Jを形成する塩化ビニル系樹脂に、難燃剤、安定剤、安定化助剤、充てん剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤が入っていてもよい。
<難燃剤>
難燃剤としては、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機系化合物、クレジルジフェニルホスフェート、トリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェート等のリン系化合物、塩素化パラフィン等のハロゲン系化合物等が例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する難燃剤の配合量は0.1~20重量部程度である。
【0122】
<安定剤>
安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸化合物、ジメチルスズビス-2-エチルヘキシルチオグリコレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズビスブチルマレエート、ジブチルスズジラウレート等の有機錫系化合物、アンチモンメルカプタイド化合物等が例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する安定剤の配合量は0.1~20重量部程度である。
【0123】
<安定化助剤>
安定化助剤としは、トリフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリデシルフォスファイト等のホスファイト系化合物、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のベータジケトン化合物、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等のポリオール化合物、過塩素酸バリウム塩、過塩素酸ナトリウム塩等の過塩素酸塩化合物、ハイドロタルサイト化合物、ゼオライトなどが例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する安定化助剤の配合量は0.1~20重量部程度である。
【0124】
<充填剤>
充填剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、珪藻土、フェライト、などの金属酸化物、ガラス、炭素、金属などの繊維及び粉末、ガラス球、グラファイト、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウムなどが例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する充填剤の配合量は1~100重量部程度である。
【0125】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート]メタン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンなどのフェノール系化合物、アルキルジスルフィド、チオジプロピオン酸エステル、ベンゾチアゾールなどの硫黄系化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン酸系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛などの有機金属系化合物などが例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する酸化防止剤の配合量は0.2~20重量部程度である。
【0126】
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルフェニルサリシレートなどのサリシレート系化合物、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-ジオクチルアミノメチルベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系化合物の他、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物などが例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する紫外線吸収剤の配合量は0.1~10重量部程度である。
【0127】
<光安定剤>
光安定剤としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート(混合物)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジル)エステル及び1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールと高級脂肪酸のエステル混合物、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重縮合物、ポリ[{(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル){(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}}、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N'-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、N,N',N'',N'''-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン等のヒンダードアミン系が例示される。又、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する光安定剤の配合量は0.1~10重量部程度である。
【0128】
〔隣接側保護層の詳細〕
隣接側保護層Duは、厚さが300nm以上で、40μm以下のポリオレフィン系樹脂、又は、厚さが17μm以上で、40μm以下のエチレンテレフタラート樹脂である。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン及びポリプロピレンがある。
【0129】
図2に、ポリエチレン、塩化ビニリデン樹脂、エチレンテレフタラート樹脂、塩化ビニル樹脂の紫外線の吸収率を示す。
また、図8に、隣接側保護層Duを形成する合成樹脂として好適なポリエチレンの光透過率を示す。
【0130】
放射冷却フィルムCPは、夜間のみならず、日射環境下にても放射冷却作用を発揮するものであるから、光反射層Bが光反射機能を発揮する状態を維持するには、隣接側保護層Duにて光反射層Bを保護することにより、日射環境下で光反射層Bの銀が変色しないようにする必要がある。
【0131】
隣接側保護層Duが、ポリオレフィン系樹脂にて厚さが300nm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、ポリオレフィン系樹脂は、波長0.3μmから0.4μmの紫外線の波長域の全域において紫外線の光吸収率が10%以下である合成樹脂であるから、隣接側保護層Duが紫外線の吸収により劣化し難いものとなる。
【0132】
そして、隣接側保護層Duを形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが、300nm以上であるから、樹脂材料層Jにて発生したラジカルが光反射層を形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層Jを透過する水分が光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を良好に発揮することになり、光反射層Bを形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
【0133】
ちなみに、ポリオレフィン系樹脂にて形成される隣接側保護層Duは、紫外線の吸収により、光反射層Bから離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが300nm以上であるから、形成したラジカルが光反射層に到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、紫外線の吸収が低いことにより劣化の進み具合は遅いものであるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
【0134】
隣接側保護層Duが、エチレンテレフタラート樹脂にて厚さが17μm以上で、40μm以下の形態に形成される場合には、エチレンテレフタラート樹脂は、ポリオレフィン系樹脂よりも、波長0.3μmから0.4μmの紫外線の波長域において紫外線の光吸収率が高い合成樹脂であるが、厚さが17μm以上であるから、樹脂材料層Jにて発生したラジカルが光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断し、また、樹脂材料層Jを透過する水分が光反射層Bを形成する銀又は銀合金に到達することを遮断する等の遮断機能を長期に亘って良好に発揮することになり、光反射層Bを形成する銀又は銀合金の変色を抑制できることになる。
【0135】
つまり、エチレンテレフタラート樹脂にて形成される保護層は、紫外線の吸収により、光反射層Bから離れる表面側にラジカルを形成しながら劣化することになるが、厚さが17μm以上であるから、形成したラジカルが光反射層Bに到達することはなく、また、ラジカルを形成しながら劣化するにしても、厚さが17μm以上であるから、上述の遮断機能を長期に亘って発揮することになる。
【0136】
説明を加えると、エチレンテレフタラート樹脂(PET)の劣化は紫外線によってエチレングリコールとテレフタル酸のエステル結合が開裂しラジカルが形成されることに起因する。この劣化は、エチレンテレフタラート樹脂(PET)における紫外線が照射される面の表面から順に進行する。
【0137】
例えば、大阪における強さの紫外線がエチレンテレフタラート樹脂(PET)に照射されると、1日あたり、照射される面より順に約9nmのエチレンテレフタラート樹脂(PET)のエステル結合が開裂していく。エチレンテレフタラート樹脂(PET)は十分に重合しているので、開裂した表面のエチレンテレフタラート樹脂(PET)が光反射層Bの銀(銀合金)を攻撃することはないが、エチレンテレフタラート樹脂(PET)の開裂端が光反射層Bの銀(銀合金)まで到達すると、銀(銀合金)が変色する。
【0138】
従って、屋外で使用するうえで、隣接側保護層Duを1年以上耐久させるためには、9nm/日と365日とを積算して、約3μmの厚さが必要となる。隣接側保護層Duのエチレンテレフタラート樹脂(PET)を3年以上耐久させるためには、厚さが10μm以上必要である。5年以上耐久させるためには、厚さが17μm以上必要である。
【0139】
尚、ポリオレフィン系樹脂及びエチレンテレフタラート樹脂にて隣接側保護層Duを形成する場合において、その厚さの上限を定める理由は、隣接側保護層Duが放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを回避するためである。つまり、隣接側保護層Duは、厚さが厚くなるほど放射冷却に寄与しない断熱性を奏することになるから、光反射層Bを保護する機能を発揮させながらも、放射冷却に寄与しない断熱性を奏することを回避するために、厚さの上限が定められることになる。
【0140】
ちなみに、図6に示すように、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとの間に、両者を接続(接続)する積層体用接続層Nが位置する場合には、積層体用接続層Nからもラジカルが発生することになるが、隣接側保護層Duを形成するポリオレフィン系樹脂の厚さが300nm以上であり、隣接側保護層Duを形成するエチレンテレフタラート樹脂の厚さが17μm以上であれば、積層体用接続層Nにて発生したラジカルが光反射層Bに到達することを、長期に亘って抑制できる。
【0141】
尚、上述の如く、隣接側保護層Duが厚くなると、光反射層Bの銀(銀合金)の着色を防ぐうえでのデメリットは生じないが、放射冷却するうえでの問題が発生する。つまり、厚くすると放射冷却材料の断熱性を上げることになる。
例えば、隣接側保護層Duを形成する合成樹脂として優れている主成分がポリエチレンの樹脂は、図9に示すように、大気の窓における輻射率が小さいため、厚く形成しても放射冷却に寄与しない。それどころか、厚くすると放射冷却材料の断熱性を上げることになる。次に、厚くなると主鎖の振動に由来する近赤外域の吸収が増加し、太陽光吸収が増える効果が増加する。
これら要因により、隣接側保護層Duが厚いことは、放射冷却にとって不利である。このような観点から、ポリオレフィン系樹脂にて形成される隣接側保護層Duの厚さは、5μm以下であることが好ましく、さらには、1μm以下であることが一層好ましい。
【0142】
〔離間側保護層の詳細〕
離間側保護層Dsは、アクリル樹脂である。詳しくは、離間側保護層Dsを形成する樹脂材料が、厚さが100nm以上で、2μm以下のアクリル樹脂である。
アクリル樹脂は、ウレタン系やアクリル系といった一般的な接着剤との相性が良いため、離間側保護層と銀又は銀合金にて構成される光反射層Bとを接着剤を介して良好に一体化できる。
【0143】
〔放射冷却フィルムの具体構成〕
放射冷却フィルムCP(フィルム体F)の具体構成は、図6に示す如く、接側保護層Du、光反射層B及び離間側保護層Dsからなる積層体Pを形成し、樹脂材料層(赤外放射用樹脂材料層)Jと、積層体Pにおける隣接側保護層Duとを積層体用接続層Nにて接続し、防水用樹脂材料層Gと、積層体Pにおける離間側保護層Dsとを接続層Sにて接続する構成である。
【0144】
積層体用接続層Nは、接着剤又は粘着剤にて、樹脂材料層(赤外放射用樹脂材料層)Jと隣接側保護層Duとを接続する層である。接着剤又は粘着剤としては、ウレタン系又はアクリル系の接着剤又は粘着剤が、太陽光に対して高い透明性を持つので望ましい。
積層体用接続層Nの厚さは、5μm以上、30μm以下である。
接続層Sは、接着剤又は粘着剤にて、離間側保護層Dsと防水用樹脂材料層Gとを接続する層である。接着剤又は粘着剤としては、ウレタン系又はアクリル系の接着剤又は粘着剤を用いることができ、接着剤の場合の厚さが例えば8μm程度であり、粘着剤の場合の厚さが例えば30μm程度である。
【0145】
〔具体構成の放射冷却フィルムの作成手順〕
図6にて示す具体構成の放射冷却フィルムCP(フィルム体F)を作製する手順の一例を図7に示す。
先ず、隣接側保護層Duを基板として機能するようにフィルム状に作成する。
また、樹脂材料層J、及び、防水用樹脂材料層Gをフィルム状に別途作成する。
【0146】
次に、隣接側保護層Duを基板として用いながら、この隣接側保護層Duの上に、銀又は銀合金を蒸着して光反射層Bを作成し、光反射層Bにおける赤外放射層Aから離れる側の面(隣接側保護層Duとは反対側の面)に、離間側保護層Dsを形成する樹脂材料(アクリル樹脂)塗工して離間側保護層Dsを形成した積層体Pを形成する。つまり、離間側保護層Dsが塗工により形成されることになる。
【0147】
その後、フィルム状に作製された樹脂材料層Jと積層体Pにおける隣接側保護層Duとを積層体用接続層Nにて接続する。
また、積層体Pの離間側保護層Dsとフィルム状に作製された防水用樹脂材料層Gとを接続層Sにて接続する。
【0148】
フィルム状の放射冷却フィルムCPは、自動車の外周、倉庫や建屋の外壁、ヘルメットの外周にラッピングすることにより、放射冷却を発揮させる等、既設の物体に後付けして、容易に放射冷却能力を発揮させることができる。
その他、フィルム状の放射冷却フィルムCPを装着する対象としては、各種のテント類の外面、電気機器等を収納するボックスの外面、物品搬送用コンテナの外面、牛乳を貯留する牛乳タンクの外面、牛乳タンクローリーの牛乳貯留部の外面等、冷却が必要な諸々のものを対象とすることができる。
【0149】
〔防水用樹脂材料層の詳細〕
防水用樹脂材料層Gを形成する樹脂材料は、吸水率がアクリル樹脂以下の樹脂を用いるのが望ましい。具体的には、アクリル樹脂、ABS樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)、POM(ポリアセタール樹脂)、PC(ポリカーボネート)、ユニレート(登録商標)、エポキシガラス、PET(エチレンテレフタラート樹脂)、PBT(ポリブチレンテレフタラート)、PVC(塩化ビニル樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PE(ポリエチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、UHMW-PE(超高分子ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)を挙げることができる。
【0150】
これらの樹脂材料のうちで、特に、アクリル樹脂、ABS樹脂、PET(エチレンテレフタラート樹脂)、PVC(塩化ビニル樹脂)、PE(ポリエチレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PP(ポリプロピレン)、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)が使い勝手がよい。
また、離間側保護層Dsや接続層Sとのとの相性の観点で、アクリル樹脂、ABS樹脂、PET(エチレンテレフタラート樹脂)、PVC(塩化ビニル樹脂)がよい。
【0151】
防水用樹脂材料層Gの厚さは、10μm以上、125μm以下である。
すなわち、防水用樹脂材料層(フィルム)Gの厚さを10μm以上にすることにより、防水用樹脂材料層(フィルム)Gに適切な防水性を備えさせることができる。
また、防水用樹脂材料層(フィルム)Gの厚さを125μm以下にすることにより、防水用樹脂材料層(フィルム)Gの柔軟性を損なわないようにすることができ、また、防水用樹脂材料層(フィルム)Gの総発熱量を8MJ/m以下に抑えることができる。
【0152】
なお、8MJ/mとは、不燃認定を取得するうえで超えてはならない発熱量の上限である。これ以上発熱量が増えると建築基準法上では外壁等に施工できなくなる。
ちなみに、本発明の放射冷却フィルムのフィルム体Fの発熱量は、防水用樹脂材料層Gのない状態では約4MJ/m程度である。そして、例えば、防水用樹脂材料層Gを形成する樹脂材料としてのPETの発熱量は、厚さが125μmの場合に、3.8MJ/mであるので、防水用樹脂材料層Gを離間側保護層Dsに接着するウレタン系の接着剤の発熱量を加味した際には、8MJ/mを超えないギリギリの厚さが125μmである。
【0153】
さらに、防水用樹脂材料層Gを形成する樹脂材料としては、厚さが6μm以上、30μm以下であるPET(ポリエチレンテレフタラート)が特によい。
PETは、薄くても防水性が優れ、しかも、扱い易い。
ちなみに、フィルム体Fは、防水用樹脂材料層Gを冷却対象物Eの一例である金属製の板状体の外面に接着剤や粘着剤にて接続することより、金属製の板状体の外面に装着する形態で使用される場合がある。このような場合において、防水用樹脂材料層Gを形成するPETの厚さが6μm以上であると、フィルム体Fを金属製の板状体の外面から剥がす際に、PETの引張強度を粘着剤の剥離強度(180度剥離強度)よりも大きくすることができ、フィルム体Fを金属製の板状体の外面から良好に剥がすことができる。
つまり、防水用樹脂材料層Gを形成するPETの厚さが6μmであると、25mm幅の引張強度が約30Nとなり、これに対して、粘着剤の剥離強度(180度剥離強度)が約20N/25mmであるから、フィルム体Fを金属製の板状体の外面から良好に剥がすことができる。
【0154】
説明を加えると、フィルム体Fは、隣接側保護層Duと光反射層Bとの間や接続層Sと防水用樹脂材料層Gとの間で剥がれやすく、これらの箇所にて剥がれが発生したときには、金属製の板状体の外面から剥がすことになる等、フィルム体Fを金属製の板状体の外面から剥がすことがあるが、このような場合において、防水用樹脂材料層Gを金属製の板状体の外面に接続する粘着剤の層を金属製の板状体の外面に残すことなく剥がすようにしながら、フィルム体Fを金属製の板状体の外面から良好に剥がすことができる。
【0155】
さらに、防水用樹脂材料層Gを形成する樹脂材料に、光反射用のフィラー(図示せず)が混入されていてもよい。
混入するフィラーとしては、二酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)等を用いることができる。
【0156】
防水用樹脂材料層Gを形成する樹脂材料に、光反射用のフィラーが混入されていれば、光反射層Bを構成する銀又は銀合金が破断して亀裂が入る等により、光反射層Bが適切に光を反射できない状態になったときに、防水用樹脂材料層Gが光反射層Bを通過した光を反射することになるため、光反射層Bを構成する銀又は銀合金が破断した際にも、意匠性の低下や放射冷却性能の低下を抑制できる。
【0157】
つまり、フィルム体Fを装着する際等において、光反射層Bの銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、光反射層Bの割れた箇所を通過した光が防水用樹脂材料層Gにて反射されることになり、フィルム体Fを放射面側から見たときに、フィルム体Fの全体を一様の状態にすることができる。このため、光反射層Bの銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、意匠性の低下を抑制することができる。
また、光反射層Bの割れた箇所を通過した光を防水用樹脂材料層Gにて反射できるため、光反射層Bの銀又は銀合金が破断して亀裂が入ったとしても、フィルム体Fの放射冷却性能の低下を抑制できる。
【0158】
〔赤外放射層の別構成〕
図11に示すように、赤外放射層Aを構成する樹脂材料層(赤外放射用樹脂材料層)Jに、無機材料のフィラーMを混入させて、光散乱構成を備えさせるようにしてもよい。また、図12に示すように、赤外放射層Aを構成する樹脂材料層Jの表裏両面を凹凸状に形成して、光散乱構成を備えさせるようにしてもよい。
このように構成すれば、放射面Hを見たときに、放射面Hのギラツキを抑制できるものとなる。
【0159】
つまり、上記した樹脂材料層Jは、表裏両面が平坦で、フィラーMが混入しない構成であるが、このような構成の場合には、放射面Hが鏡面状となるため、放射面Hを見たときに、ギラツキを感じるものとなるが、光散乱構成を備えさせるとこのギラツキを抑制できる。
また、樹脂材料層JにフィラーMを混入させた場合において、隣接側保護層Du及び光反射層Bが存在すると、フィラーMを混入させた樹脂材料層Jのみの場合や光反射層Bのみの場合よりも、光反射率が向上する。
【0160】
フィラーMを形成する無機材料としては、二酸化ケイ素(SiO酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)等を好適に使用できる。尚、樹脂材料層JにフィラーMを混入すると、樹脂材料層Jの表裏両面が凹凸状になる。
また、樹脂材料層Jの表裏両面を凹凸状にするには、エンボス加工や表面に傷を付ける加工等を行うことにより行うことができる。
【0161】
ちなみに、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状になる場合には、図6で説明した構成と同様に、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとの間に積層体用接続層Nが位置するようにすることが望ましい。
つまり、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状であっても、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとの間に積層体用接続層Nが位置するから、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとを適切に接続することができる。
【0162】
尚、樹脂材料層Jの裏面が凹凸状になる場合において、例えば、プラズマ接続により、樹脂材料層Jと隣接側保護層Duとを直接的に接続するようにしてもよい。尚、プラズマ接続とは、樹脂材料層Jの接続面と隣接側保護層Duの接続面にプラズマの放射によりラジカルを形成し、そのラジカルにより接続する形態である。
【0163】
〔放射冷却フィルムの別の構成〕
放射冷却フィルムCPの別の構成は、図13に示す如く、隣接側保護層Duと光反射層Bとの間にアンカー層Uを備えさせる構成である。
アンカー層Uは、光反射層Bを形成する銀又銀合金を隣接側保護層Duに蒸着し易くするための層である。具体的には、ポリウレタンを用いて、厚さが0.1μm以上、2μm以下の層として形成される。
【0164】
ちなみに、アンカー層Uを備えさせる場合には、上述した作成手順において積層体Pを形成する際に、フィルム状に作成した隣接側保護層Duを基板として用いながら、この隣接側保護層Duの上に、ポリウレタンの蒸着等によりアンカー層Uを形成し、アンカー層Uの上に、銀又は銀合金を蒸着して光反射層Bを作成し、光反射層Bにおける赤外放射層Aから離れる側の面に、離間側保護層Dsを形成する樹脂材料(アクリル樹脂)を塗工して離間側保護層Dsを形成した積層体Pを形成することになる。
その他の手順は、上述した通りであるので、詳細を省略する。
【0165】
〔放射冷却フィルムの更なる別の構成〕
放射冷却フィルムCPの更なる別の構成は、図14に示す如く、防水用樹脂材料層Gと離間側保護層Dsとの間に防水用追加層Qを備える構成である。
この防水用追加層Qは、外部側から防水用樹脂材料層Gを通過して離間側保護層Dsに向う水分移動を防止する層である。つまり、離間側保護層Dsに向う水分移動が、防水用樹脂材料層Gと防水用追加層Qとの共働により防止されることになる。
このように、外部側から防水用樹脂材料層Gを通過して離間側保護層Dsに向う水分移動を適切に防止することにより、例えば、離間側保護層Dsを形成する樹脂材料が加水分解等により劣化をすることを適切に防止できる。
【0166】
防水用追加層Qは、1層として形成しても良いが、2層として、又は、2層よりも多い多層として形成してもよく、その厚さは、10nm以上、200μm以下であることが望ましい。
【0167】
防水用追加層Qを形成する材料としては、種々の無機材料や種々の有機材料を用いることができる。
無機材料としては、シリカ、アルミナ等の無機酸化物、ニッケル、ステンレス、チタン等の金属材料を用いることができる。
有機材料としては、ブチルゴム等のゴム材料、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル等の樹脂材料を用いることができる。
【0168】
防水用追加層Qの積層方法については、防水用樹脂材料層Gを基板として、蒸着(物理蒸着、電子ビーム、熱蒸着、真空蒸着)、メッキ、コーティング(塗工)、フィルムの挿入(接続)、転写等の方法を用いることができる。
【0169】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
(1)上記実施形態では、冷却対象物Eとして、放射冷却フィルムCPの裏面に密着される物体を例示したが、冷却対象物Eとしては、冷却対象空間等、各種の冷却対象を適用できる。
【0170】
(2)上記実施形態では、樹脂材料層Jの放射面Hをそのまま露出させる形態を例示したが、放射面Hを覆うハードコートを設ける形態で実施してもよい。
ハードコートとしては、UV硬化アクリル系、熱硬化アクリル系、UV硬化シリコーン系、熱硬化シリコーン系、有機無機ハイブリッド系、塩化ビニルが存在し、いずれを用いてもよい。添加材として有機系帯電防止剤を用いてもよい。
UV硬化アクリル系の中でもウレタンアクリレートは特によい。
【0171】
ハードコートの成膜方法としては、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などを用いることができる。
ハードコート(塗膜)の厚みは1~50μmであり、特に2~20μmが望ましい。
【0172】
(3)上記実施形態では、樹脂材料層(赤外放射用樹脂材料層)Jの樹脂材料として、塩化ビニル系樹脂を例示したが、その他の樹脂材料、例えば、炭素-フッ素結合、シロキサン結合、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エーテル結合、エステル結合、ベンゼン環のいずれかを1つ以上を有する樹脂材料を用いてもよい。
【0173】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0174】
A 赤外放射層
B 光反射層
CP 放射冷却フィルム
Du 隣接側保護層
Ds 離間側保護層
F フィルム体
G 防水用樹脂材料層
H 放射面
J 赤外放射用樹脂材料層
P 積層体
Q 防水用追加層
U アンカー層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14