(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073212
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】溶鉱炉出銑孔閉塞用マッド材
(51)【国際特許分類】
C21B 7/12 20060101AFI20240522BHJP
C04B 35/66 20060101ALI20240522BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C21B7/12 307
C04B35/66
C04B35/622 040
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184308
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠雅
(57)【要約】
【課題】耐食性と開孔性に優れる溶鉱炉出銑孔閉塞用マッド材を提供すること。
【解決手段】使用後アルミナショットブラスト粉を含むことを特徴とする溶鉱炉出銑孔閉塞用マッド材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用後アルミナショットブラスト粉を含むことを特徴とする溶鉱炉出銑孔閉塞用マッド材。
【請求項2】
前記使用後アルミナショットブラスト粉を2質量%以上50質量%以下で含む、請求項1に記載の溶鉱炉出銑孔閉塞用マッド材。
【請求項3】
前記使用後アルミナショットブラスト粉の最大粒径が、3mm以下である請求項1又は2に記載の溶鉱炉出銑孔閉塞用マッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鉱炉出銑孔閉塞用マッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鉱炉出銑孔閉塞用マッド材とは、溶鉱炉の出銑孔を充填・閉塞するために用いられる粘土状の材料である。鉄の製造における製銑工程では、出銑孔をマッド材で閉塞した溶鉱炉内で鉄鉱石を溶かして銑鉄を生成し、その後、マッド材を壊して出銑孔を開口することによって銑鉄が取り出される。
【0003】
溶鉱炉の出銑孔を閉塞するための従来のマッド材は、例えば以下の特許文献1や特許文献2などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-119754号公報
【特許文献2】特開平11-029366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、アルミナ質原料を30~50重量%、シリカ質原料を2~5重量%、炭化珪素を15~25重量%、炭素質原料を5~10重量%、窒化物を15~30重量%、金属粉末を5~15重量%で構成された耐火骨材100%に対し、結合材の液状タールを外掛けで10~17重量%添加した溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材、が開示されている。
【0006】
特許文献2には、仮焼アルミナを含むアルミナ質原料30~50重量%、シリカ質原料2~5重量%、炭化珪素15~25重量%、炭素質原料5~10重量%、窒化物15~30重量%、及び金属粉末5~15重量%よりなり、かつ粒径1mmを超えるものが5重量%以下、粒径0.075mm未満のもの(但し、粒径2μm以下の仮焼アルミナを除く。)が60~70重量%、粒径2μm以下の仮焼アルミナが5~15重量%、残部が粒径1~0.075mmのもので構成された粒度構成を有する耐火骨材100重量%に対し、結合材の液状タールを外掛けで10~17重量%添加した溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材、が開示されている。
【0007】
特許文献1に開示される溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材は、強度および耐食性の向上が期待でき、かつ開孔性が良いとされているが、強度が高すぎて開孔に時間がかかる場合がある。
【0008】
特許文献2に開示される溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材は、細かい原料を多量に使用する粒度構成に特徴があり、アルミナ成分を多量に使用することで耐溶銑性、耐スラグ性に優れるが、高強度、緻密化組織であるため開孔が困難である。
【0009】
以上のように、従来の溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材は、耐溶銑性と耐スラグ性に優れる一方で、組織が強固となって開孔性に劣るという問題を抱えている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材の特徴は、使用後アルミナショットブラスト粉を含む点にある。
【0011】
本発明に係る溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材においては、前記使用後アルミナショットブラスト粉を2質量%以上50質量%以下含むと好適である。
【0012】
本発明に係る溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材においては、前記使用後アルミナショットブラスト粉の最大粒径が、3mm以下であると好適である。
【発明の効果】
【0013】
鉄工や非鉄金属の産業分野では、酸化アルミニウムの研削材(研磨剤)を吹き付け、製品の表面粗さを整えたり、錆や汚れの除去を行ったり等、アルミナショット(アルミナブラスト)加工が行われている。この加工に使用した後のアルミナが使用後アルミナショットブラスト粉である。
【0014】
本発明者らが、開孔性に優れるマッド材について検討したところ、アルミナショット施工後に発生する使用後アルミナショットブラスト粉をマッド材に適用することによって、従来のマッド材の耐食性を備えつつ開孔性に優れるマッド材が得られるという知見が得られた。
【0015】
また、使用後アルミナショットブラスト粉は、例えば、大規模な鉄鋼製品の製造業では毎月数百トンの規模で排出されて廃棄されるため、使用後アルミナショットブラスト粉をリサイクル原料としてマッド材に使用することで、廃棄物の量を大幅に削減することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材は、公知の耐火性骨材と、使用後アルミナショットブラスト粉とを含んで構成される。
【0017】
本発明における使用後アルミナショットブラスト粉とは、鋼鉄素材等でできた加工対象物の表面に粒状のアルミナを投射することによって、バリ取り、表面研磨、精密研削などの加工処理を行った後に生じる、ショットブラスト屑を意味するものである。尚、本発明の作用効果を奏するメカニズムは完全には明らかではないが、アルミナ表面に付着した金属粉が寄与しているものと推察される。
【0018】
本発明における使用後アルミナショットブラスト粉が例えばFeを含む場合における好ましいFe含有量、そして好ましいAl2O3含有量、粒度、及び粒形について以下に詳述する。
【0019】
<Fe含有量>
使用後アルミナショットブラスト粉中のFeの含有量は2~25質量%であることが好ましく、より好ましくは5~20質量%である。尚、Fe含有量については、臭素メタノール法等を用いて測定することができる。出銑時のマッド材は1400℃以上にさらされることになるが、使用後アルミナショットブラスト粉にFe成分が含まれると、Fe成分が、マッド材中に含まれる窒化珪素と炭素との反応触媒として機能して、SiCと窒素ガスが生成される以下の反応を促進すると考えられる。
反応式:3Fe+Si3N4+2C→Fe3Si+2SiC+2N2(反応温度域:約1400℃)
【0020】
マッド材のマトリックス部分でSiCボンドの生成が促進されることでマッド材の耐食性が向上すると同時に、発生した窒素ガスがマッド材を多孔質にすることにより開孔性が向上する。従って、使用後アルミナショットブラスト粉がFe成分を含むことによって、耐食性と開孔性とに優れるマッド材が得られ易くなる。
【0021】
<Al2O3含有量>
使用後アルミナショットブラスト粉中のAl2O3の含有量は70~98質量%であることが好ましく、より好ましくは80~95質量%である。尚、Al2O3の含有量については、日本工業規格JIS R 2216の規定によるガラスビードを用いる蛍光X線分析法等によって測定することができる。使用後アルミナショットブラスト粉に含まれるAl2O3成分は、マッド材の耐溶銑性と耐スラグ性を向上させる。
【0022】
<粒度>
使用後アルミナショットブラスト粉の最大粒径としては、特に限定されるものではないが、好ましくは3mm以下、より好ましくは1mm以下、さらにより好ましくは、0.075mm以下である。使用後アルミナショットブラスト粉と窒化ケイ素、鉄及びカーボンとの反応性は、使用後アルミナショットブラスト粉の最大粒径が3mm以下であると、マッド材中によく分散するため好ましい。この時の粒径は、JIS Z 8801-1のふるいによってふるい分けしたものである。
【0023】
<粒形>
使用後アルミナショットブラスト粉の粒形状は丸みを帯びている方が好ましく、例えば円摩度で示すと、平均0.3以上が好ましく、より好ましくは平均0.5以上である。使用後アルミナショットブラスト粉粒子をKrumbeinの円摩度印象図と各粒子を1つずつ照合することにより円摩度平均値を算出することができる。円摩度が平均0.3以上であると、混練時において原料同士の摩擦を低減することで流動性を高めるボールベアリング効果を発揮しやすく、マッド材に必要な可塑性を得るためのバインダー添加量を低減することができる。バインダー添加量が減量されたマッド材の組織では、原料同士の距離が近くなり使用後アルミナショットブラスト粉と窒化ケイ素鉄、カーボンの反応性が高まる。
【0024】
本発明の溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材においては、使用後アルミナショットブラスト粉を2~50質量%含むと好適である。
【0025】
本発明の溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材に適用可能な耐火性骨材としては、例えば、アルミナ質原料、アルミナ・シリカ質原料、粘土質原料およびシリカ質原料から選択される1種または2種以上の酸化物耐火原料、炭素質原料、炭化珪素質原料、窒化珪素質原料などが挙げられる。これらの原料から1種のみを選んでも良いし、または2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0026】
尚、酸化物耐火原料の配合量は5質量%以上85質量%以下であることが望ましく、より好ましくは30質量%以上75質量%以下の範囲である。配合量が85質量%を超えると、耐食性が低下し、5質量%未満では、気孔率が高くなりすぎる傾向にある。なお、上記の酸化物耐火原料としては、例えば、焼結アルミナ、電融アルミナ、バン土頁岩、ボーキサイト、シャモット質原料、ろう石、ムライト、アンダリューサイト、シリカフュームなどが使用できる。
【0027】
耐火性骨材を構成する炭素質原料としては、例えば、黒鉛、土状黒鉛、石炭コークス、石油コークス及びこれらのコークスの粉末、黒鉛電極屑、カーボンブラック、石炭ピッチ、石油ピッチなどが挙げられる。炭素質原料はスラグの浸透抑制並びに過焼結抑制を目的に添加されるものであり、その配合量は、好ましくは3質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは4質量%以上16質量%以下の範囲である。炭素質原料の配合量が3質量%未満である場合、焼結過多となるために好ましくなく、一方、20質量%を超えると、強度が低下するため好ましくない。
【0028】
耐火性骨材を構成する炭化珪素質原料として、例えば、アチソン法で製造した炭化珪素質原料や、シリカを還元炭化した炭化珪素原料などが使用できる。炭化珪素質原料は、スラグに対する耐食性向上を目的として添加され、その配合量は好ましくは5質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上30質量%以下の範囲内である。炭化珪素質原料の配合量は5質量%以上50質量%以下であることが望ましい。配合量が5質量%未満では耐食性向上の寄与が少なく、50質量%を超えると焼結後の強度が低下する。
【0029】
必要に応じて、耐食性を向上するために窒化珪素質原料を配合しても良い。そのような窒化珪素質原料としては、例えば、シリカを還元窒化して得た窒化珪素、金属珪素を直接窒化した窒化珪素、フェロシリコンを直接窒化した窒化珪素鉄などが挙げられる。その配合量は、好ましくは3質量%以上45質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下の範囲内である。窒化珪素質原料の配合量は、3質量%以上45質量%以下であることが望ましい。3質量%未満では、耐食性向上に対する十分な効果が得られ難く、一方、45質量%を超えると、窒化珪素質原料はマッド材の原料の中ではやや高価であり、マッド材のコストに見合った添加効果が得られ難い。
【0030】
必要に応じて、1種または2種以上の金属粉を添加しても良い。金属粉としては、例えば、金属アルミニウム、金属珪素及び金属アルミニウム・珪素合金などが挙げられる。
【0031】
必要に応じて、有機バインダーとして、マッド材用のコールタールやフェノールレジンなどを使用しても良い。有機バインダーの添加量はマッド材の利用状況や求められる性能に応じて適宜調整することが可能である。
【0032】
本発明に係る溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材は、少なくとも、上述の耐火性骨材と、使用後アルミナショットブラスト粉とを配合させたものを公知の混練装置や混練方法を用いて混練することによって製造することができる。そのような混練装置としては、特に限定されるものではないが、例えば、深井式のコナーミキサー、上回りミキサー、アイリッヒミキサーなどを使用することができる。
【0033】
本発明に係る溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材を使用して溶鉱炉の出銑孔を充填・閉塞する方法については、特に限定されるものではなく、通常実施される充填・閉塞方法を用いて良い。
【実施例0034】
本発明の溶鉱炉出銑口閉塞用マッド材の実施例としての使用後アルミナショットブラスト粉を配合したマッド材と、比較例としての使用後アルミナショットブラスト粉を配合していないマッド材を以下の表1に示す。
【表1】
【0035】
表1の実施例1~4のそれぞれは、ろう石、アルミナ、カーボン、炭化珪素、粘土、窒化珪素鉄を配合した耐火性骨材をベースとして使用後アルミナショットブラスト粉を配合し、有機バインダーとして無水タールを添加し、混練したマッド材である。比較例1及び2は、使用後アルミナショットブラスト粉を含まない配合のマッド材である。
【0036】
上記で得られたマッド材を40×40×160mmの金型に入れ、5.0MPaの圧力で成型し、乾燥機中にて300℃で12時間乾燥した。乾燥後、サンプルをコークスブリーズ中に埋没させた状態で、1500℃で3時間加熱したものを試験片とした。
【0037】
<曲げ強さ>
開孔性を評価するために曲げ試験を行った。曲げ試験は、試験片をJIS R 2553に準じて測定した。曲げ強さが10MPa以上の場合、強度が高く耐食性に優れるものの、強度が強すぎて開孔性は劣ると判断し、曲げ強さが10MPa未満の場合は、開孔性に優れると判断した。
【0038】
使用後アルミナショットブラスト粉を含む実施例1~4のマッド材は、使用後アルミナショットブラスト粉を含まない比較例1及び2のマッド材より、開孔性に優れている結果となった。
【0039】
次に、原料の粒度構成に着目して試験した実施例5~22、及び比較例3~5の配合と試験結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0040】
曲げ試験は表1と同様に実施した。耐食性については、以下のように、耐溶銑指数と耐スラグ指数に関する試験を行って評価した。
【0041】
<耐溶銑指数>
耐溶銑性の試験を行い、指数を算出して評価を行った。溶銑に対する耐食性は高周波誘導炉を用いたサンプル内張り試験にて評価した。型枠にマッド材を充填し、コークスブリーズ中に埋没させた状態で800℃で3時間加熱したものを試験片とした。各試験片をるつぼ形状に組み合わせ、るつぼ内部に侵食剤として銑鉄を20kg投入し、1550~1600℃で4時間保持して試験した。試験後のサンプルの溶損容積を測定し、指数を算出して評価した。比較品1の溶損容積を100とし、下記の式より各実施例及び比較例の指数を計算した。指数が小さいほど耐溶銑性に優れることを意味する。
耐溶銑性指数=(各試験片の溶損容積÷比較例1の溶損容積)×100
【0042】
<耐スラグ指数>
耐スラグ性の試験を行い、指数を算出して評価を行った。高炉スラグに対する耐食性を回転ドラム侵食試験法にて評価した。型枠にマッド材を充填し、コークスブリーズ中に埋没させた状態で800℃で3時間加熱したものを試験片とした。各試験片をドラム形状に組み合わせ、ドラム内部に侵食剤として高炉スラグを1kg投入し、1550~1600℃で4時間保持した。侵食剤は1時間毎に入れ替えて試験した。試験後のマッド材サンプルの溶損深さを測定し、指数を算出して評価した。比較品1を100とし、下記の式より各実施例及び比較例の指数を計算した。指数が小さいほど耐スラグ性に優れることを意味する。
耐スラグ性指数=(各試験片の溶損深さ÷比較例1の溶損深さ)×100
【0043】
実施例5~9は、使用後アルミナショットブラスト粉の粒径が1mmより大きいものを使用して配合量を変化させたものである。実施例10~14は、使用後アルミナショットブラスト粉の粒径が0.075mm~1mmのものを使用して配合量を変化させたものである。実施例15~22は、使用後アルミナショットブラスト粉の粒径が0.075mmより小さいものを使用して配合量を変化させたものである。
【0044】
表2に示されるとおり、実施例5~22のいずれも、耐食性に優れるとともに開孔性にも優れる結果となった。