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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073226
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】電磁弁制御装置および作業車
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/435 20100101AFI20240522BHJP
【FI】
F16H61/435
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184325
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 竜馬
【テーマコード(参考)】
3J053
【Fターム(参考)】
3J053AA01
3J053AB01
3J053EA02
3J053EA03
3J053EA05
(57)【要約】
【課題】エンジンの始動直後においても電磁弁を精度良く制御することを目的とする。
【解決手段】駆動部4から出力される動力を変速する静油圧式無段変速装置28から出力される動力を、ギヤミッション31で駆動部4から出力される動力と合成すると共に変速して出力する際に、電磁弁(52A,52B)によって静油圧式無段変速装置28の斜板の角度を制御する電磁弁制御装置であって、目標電流値92に応じた電磁弁(52A,52B)に対する制御信号を、環境係数95を用いたフィードバック制御により生成する制御信号生成部88と、駆動部4の始動時から所定の時間が経過するまでの学習期間に環境係数95を決定する係数決定部86と、学習期間に電磁弁(52A,52B)およびギヤミッション31の動作を制限する動作制限部89とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部から出力される動力を変速する静油圧式無段変速装置から出力される動力を、ギヤミッションで前記駆動部から出力される動力と合成すると共に変速して出力する際に、電磁弁によって前記静油圧式無段変速装置の斜板の角度を制御する電磁弁制御装置であって、
目標電流値に応じた前記電磁弁に対する制御信号を、環境係数を用いたフィードバック制御により生成する制御信号生成部と、
前記駆動部の始動時から所定の時間が経過するまでの学習期間に前記環境係数を決定する係数決定部と、
前記学習期間に前記電磁弁および前記ギヤミッションの動作を制限する動作制限部とを備える電磁弁制御装置。
【請求項2】
前記制御信号はパルス信号であり、
前記係数決定部は、前記目標電流値と前記パルス信号のデューティー比とを可変させた際に、前記目標電流値と前記制御信号の現在電流値との差が所定の値以下となる前記環境係数を求める請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項3】
前記制御信号はパルス信号であり、
前記係数決定部は、前記目標電流値、前記パルス信号のデューティー比、および前記制御信号の現在電流値が入力されると前記環境係数が出力されるように機械学習された学習済みモデルに、前記目標電流値、前記デューティー比、および前記現在電流値を入力することにより前記環境係数を求める請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項4】
前記ギヤミッションは複数のクラッチを用いて動力を変速し、
前記係数決定部は、前記駆動部が動作し、かつ、前記クラッチの全てが出力停止状態である際に前記環境係数を決定する請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項5】
前記静油圧式無段変速装置および前記ギヤミッションは外部操作に応じて動作し、
前記動作制限部は、前記学習期間に前記外部操作の受け付けを停止させる請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項6】
前記係数決定部は、前記学習期間の経過後にも前記環境係数の決定を継続し、前記環境係数を更新する請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項7】
前記電磁弁は、前記斜板を正回転方向に回動させる第1電磁弁と、前記斜板を逆回転方向に回動させる第2電磁弁とを有する請求項1に記載の電磁弁制御装置。
【請求項8】
前記フィードバック制御は、前記環境係数としてFF項を用いたPWM方式のPI制御である請求項1から7のいずれか一項に記載の電磁弁制御装置。
【請求項9】
駆動部と、
前記駆動部から出力される動力を変速して出力する静油圧式無段変速装置と、
前記駆動部から出力される動力と前記静油圧式無段変速装置から出力される動力とを合成すると共に、合成された動力を変速して出力するギヤミッションと、
前記静油圧式無段変速装置の斜板を制御する電磁弁と、
環境係数を用いたフィードバック制御により前記電磁弁を制御する制御信号生成部と、
前記駆動部の始動時から所定の時間が経過するまでの学習期間に前記環境係数を決定する係数決定部と、
前記学習期間に前記電磁弁および前記ギヤミッションの動作を制限する動作制限部とを備え、
前記ギヤミッションから出力される動力により走行する作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁を介して静油圧式無段変速装置を制御する電磁弁制御装置、および、電磁弁制御装置により静油圧式無段変速装置を制御する作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示される作業車(トラクタ)は、静油圧式の無段変速装置(無段変速部)と、遊星変速装置(複合遊星伝動部、変速出力部)と、前後進切換装置と、変速操作具(変速レバー)と、前後進切換具(前後進レバー)とを備える。無段変速装置は、エンジンから出力された動力が入力され、入力された動力を変速して出力する。遊星変速装置は、エンジンから出力された動力および無段変速装置から出力された動力を合成して合成動力として出力する。また、遊星変速装置は、無段変速装置が変速されることによって出力する合成動力を変速する。前後進切換装置は、遊星変速装置から出力された合成動力を前進動力に切換えて走行装置(前車輪、後車輪)に向けて出力する前進伝動状態と、遊星変速装置からの合成動力を後進動力に切換えて走行装置に向けて出力する後進伝動状態とに切り換える。変速操作具は、無段変速装置を変速操作することにより車速を操作する。前後進切換具は前後進切換装置を切り換え操作する。
【0003】
このような構成の作業車(トラクタ)において、車速は合成動力の回転速度(回転数)、つまり、エンジン回転数と出力軸の回転数の比(ギヤ比)によって定まる。合成動力の回転速度は、遊星変速装置の変速レンジと、無段変速装置から出力する動力(斜板角)によって定まる。変速レンジは、遊星変速装置のクラッチの操作により決定される。無段変速装置の斜板角は、中立位置を挟んで、一方側に最大に傾斜した状態(-MAX)と他方側に最大に傾斜した状態(+MAX)との間を往復して傾転される。つまり、無段変速装置は、正回転と逆回転とを交互に繰り返す。そして、変速レンジが変速される毎に、斜板角の傾転方向が切り替わって正回転と逆回転とが切り替わることにより、合成動力の回転速度が徐々に変化していく。
【0004】
無段変速装置の斜板角は油圧シリンダから供給される操作油によって制御される。油圧シリンダは2つの電磁弁によって制御される。電磁弁は制御信号の電流値によって制御される。制御信号は、パルス幅変調(PWM:Pulese Width Modulation)された信号のデューティー比として制御される。
【0005】
電磁弁はコイルの内部抵抗等に製造ばらつきがあり、制御信号の目標電流値に対して実際に電磁弁に入力される電流値(現在電流値)がばらつき、電磁弁毎で動作がばらつく場合がある。また、周囲温度等の環境や電流の印加によって作業中にコイルの内部抵抗等が変化する場合もある。
【0006】
そのため、目標電流値に対する現在電流値が、FF項(環境係数)を用いたPWM方式のPI制御により制御され、走行中にFF項が学習機能により最適化されて更新される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-95058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一旦走行を停止する(エンジンをオフにする)と、次回の走行開始時に環境が変化している可能性を考慮してFF項が初期化される。そのため、走行開始時にはFF項が周囲の環境に合致しないおそれがあり、適切なPI制御を行うことができず、精度良く電磁弁を制御することができない場合があった。
【0009】
本発明は、エンジンの始動直後においても電磁弁を精度良く制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る電磁弁制御装置は、駆動部から出力される動力を変速する静油圧式無段変速装置から出力される動力を、ギヤミッションで前記駆動部から出力される動力と合成すると共に変速して出力する際に、電磁弁によって前記静油圧式無段変速装置の斜板の角度を制御する電磁弁制御装置であって、目標電流値に応じた前記電磁弁に対する制御信号を、環境係数を用いたフィードバック制御により生成する制御信号生成部と、前記駆動部の始動時から所定の時間が経過するまでの学習期間に前記環境係数を決定する係数決定部と、前記学習期間に前記電磁弁および前記ギヤミッションの動作を制限する動作制限部とを備える。
【0011】
また、本発明の一実施形態に係る作業車は、駆動部と、前記駆動部から出力される動力を変速して出力する静油圧式無段変速装置と、前記駆動部から出力される動力と前記静油圧式無段変速装置から出力される動力とを合成すると共に、合成された動力を変速して出力するギヤミッションと、前記静油圧式無段変速装置の斜板を制御する電磁弁と、環境係数を用いたフィードバック制御により前記電磁弁を制御する制御信号生成部と、前記駆動部の始動時から所定の時間が経過するまでの学習期間に前記環境係数を決定する係数決定部と、前記学習期間に前記電磁弁および前記ギヤミッションの動作を制限する動作制限部とを備え、前記ギヤミッションから出力される動力により走行する。
【0012】
電磁弁に対する制御信号を、環境係数を用いたフィードバック制御により生成する電磁弁制御装置では、環境の状態の変化により制御信号の精度が低下することを抑制するために、走行中に環境係数を更新する。しかしながら、駆動部を始動させた直後では、環境係数が最適化されておらず、環境係数を適切な値に更新するまでの走行(作業走行)の初期段階には、精度良く制御信号を生成し、電磁弁を精度良く制御することが困難である。
【0013】
上記構成によると、駆動部が始動されてから学習期間に初期係数学習を行い、環境の状態に応じた環境係数を求めることができる。そのため、学習期間の経過後における走行(作業走行)の開始時においても、環境の状態に応じた環境係数を用いて制御信号を生成することができる。その結果、学習期間の経過後における走行(作業走行)の開始時においても、精度良く制御信号を生成し、電磁弁を精度良く制御することができる。
【0014】
また、前記制御信号はパルス信号であり、前記係数決定部は、前記目標電流値と前記パルス信号のデューティー比とを可変させた際に、前記目標電流値と前記制御信号の現在電流値との差が所定の値以下となる前記環境係数を求めてもよい。
【0015】
このような構成により、目標電流値に応じた制御信号を生成できる環境係数を精度良く求めることができる。
【0016】
また、前記制御信号はパルス信号であり、前記係数決定部は、前記目標電流値、前記パルス信号のデューティー比、および前記制御信号の現在電流値が入力されると前記環境係数が出力されるように機械学習された学習済みモデルに、前記目標電流値、前記デューティー比、および前記現在電流値を入力することにより前記環境係数を求めてもよい。
【0017】
このような構成により、より容易かつ精度良く環境係数を求めることができる。
【0018】
また、前記ギヤミッションは複数のクラッチを用いて動力を変速し、前記係数決定部は、前記駆動部が動作し、かつ、前記クラッチの全てが出力停止状態である際に前記環境係数を決定してもよい。
【0019】
このような構成により、ギヤミッションが安定した状態から環境係数を求めることができるため、早期かつ精度良くに環境係数を決定することができる。
【0020】
また、前記静油圧式無段変速装置および前記ギヤミッションは外部操作に応じて動作し、前記動作制限部は、前記学習期間に前記外部操作の受け付けを停止させてもよい。
【0021】
このような構成により、目標電流値に影響を与えることなく、精度良くに環境係数を決定することができる。
【0022】
また、前記係数決定部は、前記学習期間の経過後にも前記環境係数の決定を継続し、前記環境係数を更新してもよい。
【0023】
このような構成により、走行(作業走行)中にも環境の状態に応じた環境係数を用いて制御信号を生成することができ、精度良く制御信号を生成し、電磁弁を精度良く制御することができる。
【0024】
また、前記電磁弁は、前記斜板を正回転方向に回動させる第1電磁弁と、前記斜板を逆回転方向に回動させる第2電磁弁とを有してもよい。
【0025】
このような構成により、電磁弁の構成にかかわらず、精度良く制御信号を生成し、電磁弁を精度良く制御することができる。
【0026】
また、前記フィードバック制御は、前記環境係数としてFF項を用いたPWM方式のPI制御であってもよい。
【0027】
このような構成により、精度良く制御信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】トラクタの構成例を示す側面図である。
図2】動力伝達装置の構成例を示す模式図である。
図3】遊星変速部の構成例を示す模式図である。
図4】無段変速装置および無段変速装置の操作構造を例示する油圧回路図である。
図5】変速制御手段による車速変速を説明する図である。
図6】電磁弁を制御する構成を例示する図である。
図7】PI制御の構成例を説明する図である。
図8】初期係数を学習するフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の作業車の一例であるトラクタについて図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、トラクタに関し、図1に示される矢印Fの方向を「車体前側」、図1に示される矢印Bの方向を「車体後側」、図1に示される矢印Uの方向を「車体上側」、図1に示される矢印Dの方向を「車体下側」、図1の紙面表側の方向を「車体左側」、図1の紙面裏側の方向を「車体右側」とする。
【0030】
〔トラクタの全体〕
図1に示されるように、トラクタは、左右一対の操向操作可能かつ駆動可能な前車輪1(走行装置)、および左右一対の駆動可能な後車輪2(走行装置)によって支持される走行車体3を備える。走行車体3の前部に、エンジン4(駆動部)を備える原動部5が設けられる。走行車体3の後部に、操縦者が搭乗して運転操作を行う運転部6、ロータリ耕耘装置等の作業装置を昇降操作可能に連結するリンク機構7が設けられる。運転部6には、運転座席8、前車輪1を操向操作するステアリングホイール9、搭乗空間を覆うキャビン10が設けられる。走行車体3の車体フレーム11は、エンジン4、エンジン4の後部に前部が連結されたミッションケース12、エンジン4の下部に連結された前輪支持フレーム13等によって構成される。ミッションケース12の後部に、リンク機構7によって連結された作業装置にエンジン4からの動力を取り出して伝達する動力取出し軸14が設けられている。
【0031】
〔走行用の動力伝達装置〕
図2に示されるように、トラクタは、走行用の動力伝達装置15を備える。動力伝達装置15は、エンジン4からの動力を前車輪1および後車輪2に伝達する。動力伝達装置15は、エンジン4からの動力を変速して後輪差動機構16および前輪差動機構17に伝達するトランスミッション18を備える。トランスミッション18は、ミッションケース12に収容される。
【0032】
図2に示されるように、トランスミッション18には、入力軸20と、主変速部21と、前後進切換装置23と、ギヤ機構24と、前輪伝動部25とが設けられる。入力軸20は、ミッションケース12の前部に設けられ、エンジン4の出力軸4aの動力が伝達される。主変速部21は、入力軸20の動力が入力され、入力された動力を変速して出力する。前後進切換装置23は主変速部21の出力が入力され、主変速部21から出力される動力の回転方向を前進方向または後進方向に切り替える。ギヤ機構24は、前後進切換装置23の出力を後輪差動機構16の入力軸16aに伝達する。前輪伝動部25は、前後進切換装置23の出力が入力され、入力された動力を変速して前輪差動機構17に出力する。
【0033】
〔主変速部〕
図2に示されるように、主変速部21は、入力軸20の動力が入力される無段変速装置28と、入力軸20の動力および無段変速装置28の出力が入力される遊星変速装置31(ギヤミッション)とを備えている。
【0034】
無段変速装置28は、静油圧式の無段変速装置(静油圧式無段変速装置(HST:Hydro Static Transmission))であり、可変容量形の油圧ポンプPと油圧モータMとを備える。無段変速装置28は、油圧ポンプPの斜板角が変更されることにより、斜板角に応じて、入力軸20から入力される動力を正転動力または逆転動力に変速する。さらに、無段変速装置28は、斜板角に応じて、正転動力または逆転動力の回転速度(回転数)を無段階に変速してモータ軸28bから出力する。図2に示されるように、油圧ポンプPは、入力軸20に前端部が連結された回転軸26、および回転軸26の後端部に連結された第1ギヤ機構27を介して入力軸20にポンプ軸28aが連結される。油圧モータMは、油圧ポンプPから供給される圧油に応じた動力をモータ軸28bに出力する。
【0035】
遊星変速装置31は、図2に示されるように、遊星変速部31Aと出力部31Bとを備える。遊星変速部31Aは、入力軸20の動力および無段変速装置28の出力が入力される。出力部31Bは、遊星変速部31Aの出力を4段階の速度レンジに段階分けして出力する。図2,3に示されるように、遊星変速部31Aには、第1遊星変速部32と第2遊星変速部33とが設けられる、第1遊星変速部32は、第1太陽ギヤ32a、第1太陽ギヤ32aに噛み合う第1遊星ギヤ32b、第1遊星ギヤ32bに噛み合う内歯を備える第1リングギヤ32cを有する。第2遊星変速部33は、第1遊星変速部32よりも後側に設けられる。第2遊星変速部33は、第2太陽ギヤ33a、第2太陽ギヤ33aに噛み合う第2遊星ギヤ33b、第2遊星ギヤ33bに噛み合う内歯を備える第2リングギヤ33c、第2遊星ギヤ33bを支持する第2キャリヤ33dを有する。
【0036】
図2に示されるように、第1太陽ギヤ32aと無段変速装置28のモータ軸28bとにわたって第2ギヤ機構30が設けられ、無段変速装置28の出力が第2ギヤ機構30を介して第1太陽ギヤ32aに入力される。第1リングギヤ32cと入力軸20とにわたって第3ギヤ機構29が設けられ、入力軸20の動力が第3ギヤ機構29を介して第1リングギヤ32cに入力される。図2,3に示されるように、第1遊星変速部32に、第1遊星ギヤ32bと噛み合う連動ギヤ32dが設けられ、連動ギヤ32dと第2遊星ギヤ33bとが連結部材33eによって連動連結される。第1遊星変速部32と第2遊星変速部33とは、いわゆる複合遊星変速部を構成する。
【0037】
図2,3に示されるように、出力部31Bは、3重軸構造の第1入力軸34a、第2入力軸34bおよび第3入力軸34cと、第1入力軸34a等と平行に位置する出力軸35とを備える。第1入力軸34aは第2リングギヤ33cに連結され、第2入力軸34bは第2キャリヤ33dに連結され、第3入力軸34cは第2太陽ギヤ33aに連結される。第1入力軸34aは第1レンジギヤ機構36aに連結され、第1レンジギヤ機構36aと出力軸35とにわたって第1クラッチCL1が設けられる。第3入力軸34cに第2レンジギヤ機構36bが連結され、第2レンジギヤ機構36bと出力軸35とにわたって第2クラッチCL2が設けられる。第2入力軸34bに第3レンジギヤ機構36cが連結され、第3レンジギヤ機構36cと出力軸35とにわたって第3クラッチCL3が設けられる。第3入力軸34cに第4レンジギヤ機構36dが連結され、第4レンジギヤ機構36dと出力軸35とにわたって第4クラッチCL4が設けられる。
【0038】
主変速部21においては、エンジン4から出力された動力は、入力軸20、回転軸26、および第1ギヤ機構27を介して無段変速装置28の油圧ポンプPに入力される。油圧ポンプPに入力された動力は、無段変速装置28によって正転動力または逆転動力としてモータ軸28bから出力される。出力される正転動力の回転速度(回転数)または逆転動力の回転速度(回転数)は、無段変速装置28によって無段階に変速される。無段変速装置28の出力が第2ギヤ機構30を介して第1遊星変速部32の第1太陽ギヤ32aに入力され、エンジン4から出力された動力が入力軸20および第3ギヤ機構29を介して第1遊星変速部32の第1リングギヤ32cに入力さる。第1リングギヤ32cに入力された無段変速装置28から出力された動力とエンジン4から出力された動力とが遊星変速部31Aの第1遊星変速部32と第2遊星変速部33とによって合成され、合成動力が第2遊星変速部33から出力部31Bに伝達されて出力軸35から出力される。
【0039】
主変速部21においては、第1クラッチCL1が入りにされた状態になると、遊星変速部31Aによって合成される合成動力が、出力部31Bの第1レンジギヤ機構36aおよび第1クラッチCL1によって1速レンジの動力に変速される。変速された1速レンジの動力は、第2リングギヤ33cから出力部31Bの第1入力軸34aに伝達される。さらに、この状態で、無段変速装置28が変速操作されることにより、1速レンジの動力は、無段階に変速されて出力軸35から出力される。
【0040】
第2クラッチCL2が入りにされた状態になると、遊星変速部31Aによって合成される合成動力が、出力部31Bの第2レンジギヤ機構36bおよび第2クラッチCL2によって2速レンジの動力に変速される。変速された2速レンジの動力は、第2太陽ギヤ33aから出力部31Bの第3入力軸34cに伝達される。さらに、この状態で、無段変速装置28が変速操作されることにより、2速レンジの動力は、無段階に変速されて出力軸35から出力される。
【0041】
第3クラッチCL3が入りにされた状態になると、遊星変速部31Aによって合成される合成動力が、出力部31Bの第3レンジギヤ機構36cおよび第3クラッチCL3によって3速レンジの動力に変速される。変速された3速レンジの動力は、第2キャリヤ33dから出力部31Bの第2入力軸34bに伝達される。さらに、この状態で、無段変速装置28が変速操作されることにより、3速レンジの動力は、無段階に変速されて出力軸35から出力される。
【0042】
第4クラッチCL4が入りにされた状態になると、遊星変速部31Aによって合成される合成動力が、出力部31Bの第4レンジギヤ機構36dおよび第4クラッチCL4によって4速レンジの動力に変速される。変速された4速レンジの動力は、第2太陽ギヤ33aから出力部31Bの第3入力軸34cに伝達される。さらに、この状態で、無段変速装置28が変速操作されることにより、4速レンジの動力は、無段階に変速されて出力軸35から出力される。
【0043】
〔前後進切換装置〕
図2に示されるように、前後進切換装置23は、入力軸23aと、出力軸23bと、前進ギヤ連動機構23cと、後進ギヤ連動機構23dとを備える。入力軸23aは遊星変速装置31の出力軸35に連結される。出力軸23bは入力軸23aと平行に設けられる。入力軸23aに、前進クラッチCLFおよび後進クラッチCLRが設けられる。前進ギヤ連動機構23cは前進クラッチCLFと出力軸23bとにわたって設けられる。後進ギヤ連動機構23dは後進クラッチCLRと出力軸23bとにわたって設けられる。
【0044】
前進クラッチCLFは、入りに操作されると、入力軸23aと前進ギヤ連動機構23cとを連結し、入力軸23aの動力が前進ギヤ連動機構23cを介して出力軸23bに伝達されるように前進伝動状態を現出する。後進クラッチCLRは、入りに操作されると、入力軸23aと後進ギヤ連動機構23dとを連結し、入力軸23aの動力が後進ギヤ連動機構23dを介して出力軸23bに伝達されるように後進伝動状態を現出する。
【0045】
前後進切換装置23においては、入力軸23aに遊星変速装置31の出力が入力され、前進クラッチCLFが入りに操作されることにより、入力軸23aの動力が前進クラッチCLFおよび前進ギヤ連動機構23cによって前進動力に変換されて出力軸23bに伝達される。後進クラッチCLRが入りに操作されることにより、入力軸23aの動力が後進クラッチCLRおよび後進ギヤ連動機構23dによって後進動力に変換されて出力軸23bに伝達される。出力軸23bの前進動力および後進動力は、ギヤ機構24によって後輪差動機構16および前輪伝動部25に伝達される。
【0046】
後輪差動機構16においては、前後進切換装置23から伝達された前進動力あるいは後進動力が左右の出力軸16bから左右の後車輪2に伝達される。左の出力軸16bの動力は、遊星減速機構37を介して左の後車輪2に伝達される。左の出力軸16bに操向ブレーキ38が設けられている。図示されないが、右の出力軸16bから右の後車輪2への伝動系には、左の後車輪2への伝動系と同様に、遊星減速機構37および操向ブレーキ38が設けられている。左右の操向ブレーキ38の制動状態に応じて走行車体3(図1参照)を容易に旋回させることができる。
【0047】
〔前輪伝動部〕
図2に示されるように、前輪伝動部25は、ギヤ機構24の出力軸24aに連結された入力軸25a、および、入力軸25aと平行に位置する出力軸25bを備える。入力軸25aに、等速クラッチCLT、および、等速クラッチCLTよりも後側に位置する増速クラッチCLHが設けられる。等速クラッチCLTと出力軸25bとにわたり、等速ギヤ機構40が設けられる。増速クラッチCLHと出力軸25bとにわたり、増速ギヤ機構41が設けられる。ギヤ機構24の出力軸24aに駐車ブレーキ39が設けられる。
【0048】
前輪伝動部25においては、等速クラッチCLTが入りに操作されると、入力軸25aの動力が等速クラッチCLTおよび等速ギヤ機構40によって出力軸25bに伝達される。そして、等速ギヤ機構40によって等速伝動状態が現出され、前車輪1の周速度が後車輪2の周速度と同じになる状態で前車輪1を駆動する動力が出力軸25bから出力される。増速クラッチCLHが入りに操作されると、入力軸25aの動力が増速クラッチCLHおよび増速ギヤ機構41によって出力軸25bに伝達される。そして、増速ギヤ機構41によって前輪増速伝動状態が現出され、前車輪1の周速度が後車輪2の周速度よりも高速になる状態で前車輪1を駆動する動力が出力軸25bから出力される。出力軸25bからの出力は、出力軸25bと前輪差動機構17の入力軸17aとを連結する回転軸42を介して前輪差動機構17に入力される。
【0049】
走行車体3(図1参照)は、等速クラッチCLTが入りにされると、左右の前車輪1の平均周速度が左右の後車輪2の平均周速度と同じになる状態で前車輪1および後車輪2が駆動される四輪駆動状態になり、増速クラッチCLHが入りにされると、左右の前車輪1の平均周速度が左右の後車輪2の平均周速度よりも高速になる状態で前車輪1および後車輪2が駆動される四輪駆動状態になる。これにより、増速クラッチCLHが入りにされた場合、等速クラッチCLTが入り状態にされた場合の旋回半径よりも小さい旋回半径で走行車体3を旋回走行させることができる。
【0050】
〔油圧回路〕
無段変速装置28は、図4に例示されるような油圧回路により制御される。油圧回路は、油圧シリンダ50、電磁操作弁によって構成される変速操作弁52、および油圧ポンプ54を備える。無段変速装置28は、油圧ポンプPの斜板49(ポンプ斜板)の角度(斜板角)が変更(傾転)されることにより制御され、油圧ポンプPの斜板角に応じた動力を油圧モータMから出力する。油圧ポンプPの斜板49は、油圧ポンプ54から油圧シリンダ50を介して供給される操作油の油量および油圧(操作油圧)によって制御され、油圧シリンダ50から供給(排出)される操作油は変速操作弁52によって制御される。
【0051】
図4に示されるように、油圧シリンダ50は油圧ポンプPの斜板49に連結される。油圧シリンダ50は、油室50Aと油室50Bとの2つの油室を備える。変速操作弁52は操作油路51を介して油圧シリンダ50と接続され、油圧シリンダ50を制御して、油圧ポンプPに操作油を排出させる。油圧ポンプ54は、給油路53を介して変速操作弁52と接続される。変速操作弁52は電磁操作弁によって構成され、電磁操作部52aに入力される制御信号のデューティー比97(電流値 図6参照)によって制御される。また、無段変速装置28の油圧ポンプPと油圧モータMとを接続する駆動油路55に緊急用リリーフ弁56が接続される。
【0052】
このような油圧回路において、変速操作弁52は、切り換え操作されることにより、油圧ポンプ54から供給される操作油を油圧シリンダ50の2つの油室のうちのいずれかから排出させる。変速操作弁52は、第1電磁弁52Aと第2電磁弁52Bとを備える。第1電磁弁52Aは、油圧シリンダ50の油室50Aから操作油を排出させることにより、中立位置より正回転側の油圧ポンプPの斜板49を傾転させる。第2電磁弁52Bは、油圧シリンダ50の油室50Bから操作油を排出させることにより、中立位置より逆回転側の油圧ポンプPの斜板49を傾転させる。このように、無段変速装置28は、斜板49の中立位置を境として変速操作弁52の第1電磁弁52Aと第2電磁弁52Bとが切り換え操作されることにより、斜板49が変速操作弁52の操作位置に対応する傾斜角に傾動操作されて変速操作される。
【0053】
〔車速の変速〕
次に、図2を参照しながら図5を用いて、主変速部21により車速を変速する構成について説明する。図5の縦軸は、算出ギヤ比G(現在ギヤ比)、および入力軸16aの回転速度V(車速に対応)を示す。算出ギヤ比Gは、入力軸20の回転数に対する入力軸16aの回転数の比である。図5の横軸は、無段変速装置28の変速状態を示し、[N]は、中立状態を示し、[-MAX]は、最高速の逆転動力を出力する変速状態(逆回転における最大斜板角)を示す。[+MAX]は、最高速の正転動力を出力する変速状態(正回転における最大斜板角)を示す。[G1]、[G2]、[G3]、[G4]は、あらかじめ設定された設定ギヤ比である。
【0054】
第1クラッチCL1が入りにされた状態で無段変速装置28が[-MAX]から[+MAX]に向けて変速されるに伴い、回転速度Vが1速レンジで零速度[0]から無段階に増速する。算出ギヤ比Gが[G1]になると、変速制御手段48が第1クラッチCL1を切りに切り換え、第2クラッチCL2を入りに切り換える。第2クラッチCL2が入りの状態で無段変速装置28が[+MAX]から[-MAX]に向けて変速されるに伴い、回転速度Vが2速レンジで無段階に増速する。算出ギヤ比Gが[G2]になると、変速制御手段48が第2クラッチCL2を切りに切り換え、第3クラッチCL3を入りに切り換える。第3クラッチCL3の入り状態で無段変速装置28が[-MAX]から[+MAX]に向けて変速操作されると、回転速度Vが3速レンジで無段階に増速する。算出ギヤ比Gが[G3]になると、変速制御手段48が第3クラッチCL3を切りに切り換え、第4クラッチCL4を入りに切り換える。第4クラッチCL4の入り状態で無段変速装置28が[+MAX]から[-MAX]に向けて変速されるに伴い回転速度Vが4速レンジで無段階に増速する。
【0055】
〔変速制御〕
図1図2を参照しながら図6を用いて、変速制御を行う構成について説明する。
【0056】
無段変速装置28の変速操作を行うための変速操作具として、例えば変速ペダル45が運転部6に設けられる。変速ペダル45の操作位置はポテンショメータ46によって検出される。本実施形態では、ポテンショメータ46を採用しているが、ポテンショメータ46に替え、検出スイッチを利用したもの等各種の操作位置検出機構の採用が可能である。
【0057】
変速操作は、変速ペダル45の操作位置に応じて、制御部80(電磁弁制御装置)によって制御される。制御部80は、CPUやECU等のプロセッサを搭載する。制御部80は、第1電磁弁52Aまたは第2電磁弁52Bを介して無段変速装置28と連係される。また、制御部80は、遊星変速装置31(ギヤミッション)の第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3および第4クラッチCL4のそれぞれに連係される。制御部80は、変速ペダル45が操作されると、ポテンショメータ46よる検出情報を基に変速操作が行われたことを検出して無段変速装置28を変速操作する。こまた、制御部80は、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3および第4クラッチCL4の切り換え操作を制御する。
【0058】
〔制御信号の制御〕
次に、図4を参照しながら図6図7を用いて第1電磁弁52Aおよび第2電磁弁52Bを制御する制御信号について説明する。
【0059】
無段変速装置28の油圧ポンプPの斜板49は油圧シリンダ50から供給される操作油により制御され、油圧シリンダ50は第1電磁弁52Aおよび第2電磁弁52Bによって制御される。第1電磁弁52Aおよび第2電磁弁52Bは、電磁操作部52aに入力される制御信号によって制御される。制御信号はパルス幅変調(PWM)されたパルス信号のデューティー比97として表される。
【0060】
制御部80は、変速ペダル45の操作位置に応じて制御信号を生成する。具体的には、制御部80は、ポテンショメータ46によって検出される変速ペダル45の操作位置に応じて設定される目標電流値92に応じて制御信号を生成する。
【0061】
制御部80は、電流検出部52Cおよび電流検出部52Dと連携される。電流検出部52Cは、第1電磁弁52Aに入力される電流(制御信号)の電流値を測定し、制御部80に送信する。電流検出部52Dは、第2電磁弁52Bに入力される電流(制御信号)の電流値を測定し、制御部80に送信する。
【0062】
制御部80は電磁弁制御装置として機能し、無段変速装置28を変速操作の一環として、第1電磁弁52Aまたは第2電磁弁52Bに送信する電流値(制御信号)を決定し、第1電磁弁52Aまたは第2電磁弁52Bに出力する。
【0063】
制御部80は、データ通信部81、現在電流値取得部82、デューティー取得部83、係数決定部86、制御信号生成部88、記憶部90を備える。
【0064】
記憶部90は、各種の情報を記憶する。
【0065】
データ通信部81は、ポテンショメータ46、電流検出部52C、および電流検出部52D等とデータ通信可能な状態で接続されて必要な情報を受信する。また、データ通信部81は、第1電磁弁52A、第2電磁弁52B、および遊星変速装置31(ギヤミッション)等に制御信号を送信する。
【0066】
制御部80は、データ通信部81を介して、ポテンショメータ46から変速ペダル45の操作位置を取得する。そして、制御部80は、操作位置に応じた第1電磁弁52Aまたは第2電磁弁52Bに与える目標電流値92を算出し、記憶部90に格納する。
【0067】
現在電流値取得部82は、データ通信部81を介して、第1電磁弁52Aおよび第2電磁弁52Bに入力されている実際の電流値である現在電流値93を取得し、記憶部90に格納する。
【0068】
制御信号生成部88は、目標電流値92に応じた制御信号を経時的に生成し、第1電磁弁52Aまたは第2電磁弁52Bに送信する。この際、適切な制御信号(電流値)が第1電磁弁52Aまたは第2電磁弁52B(以下、合わせて単に電磁弁とも称す)に入力され、変速操作具の操作に対応する動作を電磁弁が行うように、電磁弁の制御中に、制御信号に対してFF項を用いたフィードバック制御が行われる。
【0069】
フィードバック制御は、例えば、PWM方式のPI制御であり、電磁弁に適切な電流値が入力されるように、目標電流値92に対して、FF項を用いてフィードフォワード制御すると共にフィードバック制御を行う。FF項は環境係数95であり、周囲温度等の環境の状態が総合的に加味される係数である。これにより、周囲の環境によってコイルの内部抵抗等が変化し、電磁弁に入力される電流値がばらつくことが抑制され、電磁弁の動作のばらつきが抑制される。
【0070】
具体的には、図7に示されるように、走行中(エンジン稼働中)には、第1電磁弁52Aおよび第2電磁弁52Bのうちの制御信号が入力されている電磁弁に入力されている電流値である現在電流値93が検出される。
【0071】
目標電流値92が生成されると、目標電流値92に対して、現在電流値93を用いて比例処理および積分処理が行われる。また、目標電流値92に対してFF処理が行われる。そして、比例処理、積分処理およびFF処理が行われた目標電流値92に対して、パルス幅変調(PWM)が行われ、目標電流値92に対応するデューティー比97の制御信号が生成される。
【0072】
ここで、FF項は環境係数95であり、環境係数95は周囲環境に応じて常に変化する。そのため、FF項は、走行中(エンジン稼働中)に継続的に学習されて更新される。学習は、デューティー取得部83と係数決定部86と制御信号生成部88とにより行われる。
【0073】
デューティー取得部83は、第1電磁弁52Aまたは第2電磁弁52Bに入力される制御信号のデューティー比97を取得する。デューティー比97は、パルス信号である制御信号の1サイクルにおけるHi期間またはLow期間の割合である。
【0074】
係数決定部86は、走行中(エンジン稼働中)に、制御信号生成部88が生成した制御信号の現在電流値93と目標電流値92とを比較し、制御信号が目標電流値92に対応する信号に近くなるように環境係数95を学習して更新する。
【0075】
具体的には、まず、走行中(エンジン稼働中)に、制御信号生成部88は、ある環境係数95(FF項)を用いて目標電流値92に対応する制御信号を生成する。係数決定部86は、この制御信号の現在電流値93と目標電流値92との差を電流偏差94として求め、記憶部90に格納する。係数決定部86は、この際の環境係数95を記憶部90に格納する。
【0076】
制御信号生成部88は、次に制御信号を生成する際には、環境係数95(FF項)を変更して制御信号を生成し、電流偏差94を求める。係数決定部86は、この電流偏差94と記憶部90に格納された電流偏差94とを比較する。そして、係数決定部86は、この電流偏差94と記憶部90に格納された電流偏差94より小さい場合、記憶部90に格納された環境係数95および電流偏差94を、変更された環境係数95および求められた電流偏差94に置き換える。この電流偏差94が記憶部90に格納された電流偏差94以上の場合は、次に制御信号を生成する際には、最初の環境係数95(FF項)を逆向きに変更する。
【0077】
このような処理を繰り返すことにより、係数決定部86は、目標電流値92に対応する制御信号が生成されるように、環境係数95を学習し、更新していく。
【0078】
そのため、走行中(エンジン稼働中)に、環境の状態に応じた値に環境係数95が維持され続ける。その結果、製造ばらつきや環境によって内部抵抗等が変化したとしても、制御信号(電流値)を精度良く生成することができ、電磁弁を精度良く制御することができる。
【0079】
〔初期係数学習〕
このように、走行中(エンジン稼働中)は常に環境係数95を最適化させるため、制御信号(電流値)を精度良く生成することができ、電磁弁を精度良く制御することができる。しかしながら、エンジン4の始動時には、環境の状態が、これ以前に走行していた際の状態から変化している可能性があり、環境係数95も必ずしも適切でない。
【0080】
そこで、エンジン4の始動時には、走行または作業を開始する際に、あらかじめ環境の状態に適した環境係数95を求める初期係数学習を行うことが適切である。初期係数学習は、エンジン4の始動時から所定の時間が経過するまでの学習期間に行われる。学習期間は、例えば、0.6秒である。
【0081】
以下、図2を参照しながら、図6図8を用いて、初期係数学習について説明する。
【0082】
初期係数学習を行うために、制御部80は、状態取得部84と動作制限部89とをさらに備える。
【0083】
状態取得部84は、エンジン4や遊星変速装置31等のトラクタにおける各種の状態を、データ通信部81を介して経時的に取得する。
【0084】
動作制限部89は、初期係数学習中に第1電磁弁52A、第2電磁弁52B、および遊星変速装置31等の動作を制限する。
【0085】
制御部80は、状態取得部84がエンジン4から取得した情報により、停止していたエンジン4が始動したことを検知する(図8のステップ#1)。
【0086】
エンジン4が始動されると(図8のステップ#1 Yes)、エンジン4や遊星変速装置31等のトラクタの各機能に対して初期設定が行われる。そして、制御部80は、初期設定が正常に終了するまで、状態取得部84が取得した情報に基づいて正常に終了したか否かを判定する(図8のステップ#2)。
【0087】
初期設定が正常に終了すると(図8のステップ#2 Yes)、制御部80は、状態取得部84が取得した情報に基づいて、トランスミッション18が正常な状態で停止していることを確認する。具体的には、制御部80は、トランスミッション18が備える各種のクラッチが出力を停止していることを確認する。例えば、制御部80は、遊星変速装置31に設けられる、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第4クラッチCL4が出力を停止(出力停止状態)しているか否かを判定する(図8のステップ#3)。これらのクラッチが停止していない場合(図8のステップ#3 No)、制御部80は、初期係数学習を行わず、エンジン4の再始動等を促す。なお、この際、制御部80は、前進クラッチCLFおよび後進クラッチCLRが出力を停止していることを確認してもよく、さらに、動力伝達装置15が正常に動作する状態であることを確認してもよい。
【0088】
クラッチが出力を停止している場合(図8のステップ#3 Yes)、初期係数学習処理が開始される(図8のステップ#4)。
【0089】
初期係数学習が行われる際には、まず、動作制限部89は、学習期間中に、第1電磁弁52A、第2電磁弁52B、および遊星変速装置31等の動作を制限し、動力伝達装置15が外部から操作できないようにする(図8のステップ#5)。例えば、動作制限部89は、変速ペダル45等の外部からの外部操作を受け付ける操作具に対する外部操作の受け付けを停止させる。
【0090】
次に、初期係数学習として、精度の良い環境係数95を求めるために、係数決定部86は、目標電流値92として所定の学習電流96に対応する制御信号を第1電磁弁52Aおよび第2電磁弁52Bに個別に印加する(図8のステップ#6)。学習電流96は、あらかじめ定められた1つの電流値であってもよいし、複数の電流値であってもよい。あるいは、係数決定部86は、学習電流96として所定の範囲の電流値を連続的に変化させながら、対応する制御信号を第1電磁弁52Aおよび第2電磁弁52Bに個別に印加してもよい。制御信号は、制御信号生成部88によって、あらかじめ定められた初期的な環境係数95を用いてPI制御を行うと共にPWM処理を行って生成される。
【0091】
次に、現在電流値取得部82は、目標電流値92として学習電流96に対応する制御信号が印加された際に第1電磁弁52Aまたは第2電磁弁52Bに流れる現在電流値93を取得する。
【0092】
この際、係数決定部86は、環境係数95の学習を行うために、学習電流96に対応する制御信号が印加されている際に、環境係数95を所定の範囲で変化させる。そして、係数決定部86は、各環境係数95を用いて生成された制御信号が印加された際の現在電流値93と目標電流値92である学習電流96の電流値との差である電流偏差94を求める(図8のステップ#7)。
【0093】
学習期間が経過するまで、係数決定部86は、初期係数学習を行い(図8のステップ#8)、学習期間が経過すると(図8のステップ#8 Yes)、係数決定部86は学習電流96に対応する制御信号の印加を停止する(図8のステップ#9)。
【0094】
係数決定部86は、電流偏差94が所定の値以下となる環境係数95、または、学習期間中に電流偏差94が最小となった環境係数95を、学習期間が経過した後の走行中に制御信号を生成するために用いる環境係数95として決定し、記憶部90に格納する(図8のステップ#10)。この際、制御信号(パルス信号)のデューティー比97が考慮されることが好ましい。つまり、係数決定部86は、適切な範囲の制御信号(パルス信号)のデューティー比97が生成されている状態において、現在電流値93と目標電流値92との差(電流偏差94)に基づいて環境係数95を決定する。さらにこの際、係数決定部86は、目標電流値92として学習電流96と共に、デューティー比97を変化させて制御信号を生成し、この際の現在電流値93を用いて環境係数95を求めてもよい。
【0095】
その後、動作制限部89は、第1電磁弁52A、第2電磁弁52B、および遊星変速装置31等の動作の制限を解除し、走行(作業走行)が開始される。走行(作業走行)に際し、初期係数学習で決定された環境係数95を用いて制御信号の生成が開始され、走行に伴い、上述のように環境係数95の学習・更新が行われる。
【0096】
このように、エンジン4の始動時に、走行(作業走行)の開始に先立って初期係数学習を行うことにより、走行(作業走行)を行う際の環境の状態に対応した環境係数95を求めることができる。走行(作業走行)の開始時には、この環境係数95を用いて制御信号を生成することができるため、エンジン4の始動時においても、制御信号(電流値)を精度良く生成することができ、電磁弁を精度良く制御することができる。
【0097】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態において、初期係数学習および走行中の環境係数95の更新は、目標電流値92(学習電流96)に応じて、現在電流値93が目標電流値92に近くなる環境係数95を求めることによって行われてもよいが、学習済みモデル98を用いて環境係数95が求められてもよい。
【0098】
例えば、係数決定部86は、目標電流値92、制御信号(パルス信号)のデューティー比97、および現在電流値93が入力されると環境係数95が出力されるようにあらかじめ機械学習された学習済みモデル98を用いて環境係数95を求めてもよい。
【0099】
係数決定部86は、初期係数学習および走行中の少なくとも一方において、目標電流値92と、制御信号生成部88で生成された制御信号(パルス信号)のデューティー比97および現在電流値93とを導出用入力データ99として学習済みモデル98に入力することにより、学習済みモデル98から環境係数95を導出させる。
【0100】
これにより、より容易かつ精度良く、環境係数95を求めることができる。
【0101】
(2)上記各実施形態において、制御信号はパルス信号に限らず、任意の形式の信号であってもよい。
【0102】
(3)上記各実施形態において、油圧シリンダ50の油室50Aおよび油室50Bは、中立位置より正回転側の油圧ポンプPの斜板49を傾転させるための操作油を排出する油室と中立位置より逆回転側の油圧ポンプPの斜板49を傾転させるための操作油を排出する油室とされたが、斜板49を正回転側(正回転方向)に傾転させるための操作油を排出する油室と逆回転側(逆回転方向)に傾転させるための操作油を排出する油室とされてもよい。すなわち、第1電磁弁52Aは斜板49を正回転側に傾転させる制御を行い、第2電磁弁52Bは斜板49を逆回転側に傾転させる制御を行ってもよい。
【0103】
(4)上記各実施形態において、制御部80は上記のような機能ブロックから構成されるものに限定されず、任意の機能ブロックから構成されてもよい。例えば、制御部80の各機能ブロックはさらに細分化されても良く、逆に、各機能ブロックの一部または全部がまとめられてもよい。また、制御部80の機能は、上記機能ブロックに限らず、任意の機能ブロックが実行する方法により実現されてもよい。また、制御部80の機能の一部または全部は、ソフトウエアで構成されてもよい。ソフトウエアに係るプログラムは、記憶部90等の任意の記憶装置に記憶され、制御部80が備えるCPU等のプロセッサ、あるいは別に設けられたプロセッサにより実行される。
【0104】
(5)上記各実施形態において、遊星変速装置31は合成動力を4段階の速度レンジに段階分けするように構成されたが、遊星変速装置31は3段階以下あるいは5段階以上の速度レンジに段階分けされるものであってもよい。
【0105】
(6)上記各実施形態において、前車輪1および後車輪2を備えた例が示されたが、トラクタは、走行装置として、クローラ走行装置、あるいは、ミニクローラと車輪とを組み合わせたものが採用されてもよい。
【0106】
(7)上記各実施形態において、変速ペダル45を設けた例を示したが、これに限らず、トラクタは、変速レバーを変速操作具として採用したものであってもよい。
【0107】
(8)上記各実施形態において、電磁弁制御装置は、トラクタに限らず、農作業車等の各種の作業車に搭載することができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、無段変速装置に対する電磁弁を制御する電磁弁制御装置、および、電磁弁制御装置を備える作業車に適用することができる。
【符号の説明】
【0109】
4 エンジン(駆動部)
28 無段変速装置(静油圧式無段変速装置)
31 遊星変速装置(ギヤミッション)
49 斜板(ポンプ斜板)
52A 第1電磁弁(電磁弁)
52B 第2電磁弁(電磁弁)
86 係数決定部
88 制御信号生成部
89 動作制限部
92 目標電流値
93 現在電流値
95 環境係数
97 デューティー比
98 学習済みモデル
CL1 第1クラッチ
CL2 第2クラッチ
CL3 第3クラッチ
CL4 第4クラッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8