(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073228
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】作業車用無段変速動力伝達装置及び作業車
(51)【国際特許分類】
F16H 61/462 20100101AFI20240522BHJP
F16H 61/42 20100101ALI20240522BHJP
【FI】
F16H61/462
F16H61/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184327
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 竜馬
【テーマコード(参考)】
3J053
【Fターム(参考)】
3J053AA01
3J053AB02
3J053AB12
3J053AB32
3J053AB50
3J053EA07
(57)【要約】
【課題】作業負荷等に起因して、遊星変速装置における元変速段から次変速段への切替時に生じる切替ショックを抑制する無段変速動力伝達技術の提供。
【解決手段】作業車用無段変速動力伝達装置は、変速操作指令に基づいて、静油圧式無段変速装置28の変速比と遊星変速装置31の変速段とを制御する変速制御ユニット50を備える。変速制御ユニット50は、静油圧式無段変速装置28のギヤ比を調節する制御信号を生成する無段変速制御部52と、遊星クラッチ機構32の変速段を変更するためのクラッチ制御信号を生成する遊星クラッチ制御部53と、走行装置1、2に伝達される動力の走行速度と圧力検出部97による静油圧式無段変速装置28の検出油圧とに基づいて、遊星クラッチ制御部53による変速段の切替タイミングを変更する切替タイミング変更部55とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからのエンジン動力を走行装置に伝達する作業車用無段変速動力伝達装置であって、
前記エンジン動力を入力して無段変速動力を出力する静油圧式無段変速装置と、
前記エンジン動力と前記無段変速動力とを入力して遊星動力を出力する遊星変速装置と、
前記静油圧式無段変速装置における閉回路の油圧を検出する圧力検出部と、
前記遊星変速装置の変速段を選択する遊星クラッチ機構と、
変速操作指令に基づいて、前記静油圧式無段変速装置と前記遊星クラッチ機構とを制御する変速制御ユニットとを備え、
前記変速制御ユニットは、
前記静油圧式無段変速装置の変速比を調節する制御信号を生成する無段変速制御部と、
前記遊星変速装置の変速段を変更するためのクラッチ制御信号を生成する遊星クラッチ制御部と、
前記走行装置に伝達される動力の走行速度と前記圧力検出部による検出油圧とに基づいて、前記遊星クラッチ制御部による変速段の切替タイミングを変更する切替タイミング変更部と、
を備える作業車用無段変速動力伝達装置。
【請求項2】
前記切替タイミング変更部は、前記切替タイミングに一方側からの変化時と他方側からの変化時とで閾値が異なる閾値特性を与え、元変速段から次変速段から切り替えた直後に再び前記元変速段に移行することを抑制する請求項1に記載の作業車用無段変速動力伝達装置。
【請求項3】
前記切替タイミング変更部は、少なくとも前記検出油圧から前記切替タイミングを導出する切替タイミングテーブルを備えている請求項1に記載の作業車用無段変速動力伝達装置。
【請求項4】
前記切替タイミングテーブルは、前記検出油圧と、前記閉回路の油温と、前記遊星変速装置の現状の変速段とから前記切替タイミングを導出する請求項3に記載の作業車用無段変速動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の作業車用無段変速動力伝達装置を備えた作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからのエンジン動力を走行装置に伝達する作業車用無段変速動力伝達装置、及び当該作業車用無段変速動力伝達装置を備えた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
走行装置を構成する前車輪及び後車輪にエンジンの動力を伝達する走行伝動装置が特許文献1に開示されている。この走行伝動装置では、エンジンからの動力がHSTと称せられる静油圧式無段変速装置の油圧ポンプと遊星変速装置とに分岐され、静油圧式無段変速装置の油圧モータ軸からの無段変速出力と、エンジンからの動力とが遊星変速装置に入力され、遊星変速装置からの出力が走行装置に伝達される。遊星変速装置は、遊星クラッチ機構によって切り替えられる複数の変速段を有する。HST斜板の傾動操作による車速制御において、利用されている変速段での車速範囲が超えると、元変速段から次変速段への切替が行われる。元変速段から次変速段への切替点は設計的に決定された固定値であり、予め設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1による無段変速動力伝達装置では、元変速段での車速値が固定値に達すると次変速段に切り替えられるが、作業負荷等に基づくHST閉回路の内圧変化によりHSTの容積効率が変化すると、固定値で次変速段に切り替えると、当初に予定されている速度値が現出されずに、大きな切替ショックが生じる。
【0005】
本発明の目的は、作業負荷等に起因して、遊星変速装置における元変速段から次変速段への切替時に生じる切替ショックを抑制する無段変速動力伝達技術の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による作業車用無段変速動力伝達装置はエンジンからのエンジン動力を走行装置に伝達する装置であり、
前記エンジン動力を入力して無段変速動力を出力する静油圧式無段変速装置と、前記エンジン動力と前記無段変速動力とを入力して遊星動力を出力する遊星変速装置と、前記静油圧式無段変速装置における閉回路の油圧を検出する圧力検出部と、前記遊星変速装置の変速段を選択する遊星クラッチ機構と、変速操作指令に基づいて、前記静油圧式無段変速装置と前記遊星クラッチ機構とを制御する変速制御ユニットとを備え、
前記変速制御ユニットは、
前記静油圧式無段変速装置の変速比を調節する制御信号を生成する無段変速制御部と前記遊星変速装置の変速段を変更するためのクラッチ制御信号を生成する遊星クラッチ制御部と、前記走行装置に伝達される動力の走行速度と前記圧力検出部による検出油圧とに基づいて、前記遊星クラッチ制御部による変速段の切替タイミングを変更する切替タイミング変更部とを備える。
【0007】
この構成によれば、遊星クラッチ機構において、元変速段から次変速段に切り替えられる切替タイミングが、固定値ではなくて、走行装置に伝達される動力の走行速度と静油圧式無段変速装置における閉回路の検出油圧とに基づいて、リアルタイムに決定される。つまり、その都度の変速環境に基づいて変速段の切替が行われるので、遊星変速装置における固定値での元変速段から次変速段への切替時における、作業負荷等に起因する切替ショックが抑制される。
【0008】
走行速度(走行装置に送られる動力の速度)と検出油圧とに基づいて決定された切替タイミングが変速段を切り替える切替点として用いられる。しかしながら、この切換点の近傍で、静油圧式無段変速装置の出力がふらつくと、結果的に走行速度がふらつき、遊星クラッチ機構のクラッチ切替が繰り返されるという不都合が生じる。この不都合を抑制するためには、切替タイミングに閾値を与え、多少の走行速度のふらつきで、遊星クラッチ機構のクラッチ切替が行われないようにするとよい。特に、一方側からの変化時と他方側からの変化時とで閾値が異なる閾値特性、つまり一方の変化方向に対して第一の閾値が用いられ、他方の変化方向に対して第二の閾値が用いられる閾値特性が、切替タイミングに用いられると好都合である。このことから、本発明では、前記切替タイミング変更部は、前記切替タイミングに一方側からの変化時と他方側からの変化時とで閾値が異なる閾値特性を与え、元変速段から次変速段から切り替えた直後に再び前記元変速段に移行することを抑制するように構成されている。
【0009】
本発明では、前記切替タイミング変更部は、少なくとも前記検出油圧から前記切替タイミングを導出する切替タイミングテーブルを備えている。切替タイミングテーブルが、シフトアップ環境やシフトダウン環境別の種々の変速条件によって規定される種々の切替タイミング導出式に基づいてされる場合、その複数の切替タイミング導出式から、最適な切替タイミング導出式(切替タイミングテーブル)を選択することで、理想的な切替点が得られる。
【0010】
例えば、静油圧式無段変速装置における出力のふらつきは、閉回路の油温、閉回路における高圧側と低圧側との差圧であるHST有効圧である検出油圧、さらにはエンジン回転数等によって、生じる。このことから、本発明では、前記切替タイミングテーブルは、前記検出油圧と、前記閉回路の油温と、前記遊星変速装置の現状の変速段とから前記切替タイミングを導出するように構成されている。このような切替タイミングテーブルは、実機での実験や、シミュレータによるシミュレーション結果などを参照して、作成される。
【0011】
本願は、上述した作業車用無段変速動力伝達装置を備えた作業車も、発明の対象としている。そのような作業車は、上述した作業車用無段変速動力伝達装置の作用及び効果を備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】変速制御ユニットにおける入出力機器を示すブロック図である。
【
図5】無段変速動力伝達装置の制御機能ブロック図である。
【
図6】無段変速装置および無段変速装置の操作構造を示す油圧回路図である。
【
図7】変速制御ユニットにおける車速変速の説明図である。
【
図8】クラッチ切替過程を示すダイヤグラムである。
【
図9】クラッチ切替過程を示すダイヤグラムである。
【
図10】クラッチ切替過程を示すダイヤグラムである。
【
図11】クラッチ切替過程を示すダイヤグラムである。
【
図12】切替タイミングテーブルのベースとなる複数の切替タイミング導出式を示すグラフ群を示す図であり。
【
図13】一方側からの変化時と他方側からの変化時とで閾値が異なる閾値特性を示す領域を含むクラッチ切替過程を示すダイヤグラム。
【
図14】一方側からの変化時と他方側からの変化時とで閾値が異なる閾値特性を特定する数値を示す数値表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一例である実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、トラクタ(「作業車」の一例)の走行車体に関し、
図1に示される矢印Fの方向を「車体前側」、
図1に示される矢印Bの方向を「車体後側」、
図1に示される矢印Uの方向を「車体上側」、
図1に示される矢印Dの方向を「車体下側」、
図1の紙面表側の方向を「車体左側」、
図1の紙面裏側の方向を「車体右側」とする。
【0014】
〔トラクタの全体〕
図1に、トラクタが示されている。このトラクタは、左右一対の操向操作可能、かつ駆動可能な前車輪1(走行装置)、左右一対の駆動可能な後車輪2(走行装置)によって支持される走行車体3を備えている。走行車体3の前部に、エンジン4を備える原動部5が設けられている。走行車体3の後部に、操縦者が搭乗して運転操作を行う運転部6、ロータリ耕耘装置等の作業装置を昇降操作可能に連結するリンク機構7が設けられている。運転部6には、運転座席8、前車輪1を操向操作するステアリングホィール9、搭乗空間を覆うキャビン10が備えられている。走行車体3の車体フレーム11は、エンジン4、エンジン4の後部に前部が連結されたミッションケース12、エンジン4の下部に連結された前輪支持フレーム13などによって構成されている。ミッションケース12の後部に、リンク機構7によって連結された作業装置にエンジン4からの動力を取り出して伝達する動力取出し軸14が設けられている。
【0015】
〔走行用の動力伝達装置〕
図2に示されるように、エンジン4からの動力(エンジン動力)を前車輪1および後車輪2に伝達する走行用の動力伝達装置15は、エンジン4からの動力を変速して後輪差動機構16および前輪差動機構17に伝達するトランスミッション18を備えている。トランスミッション18は、ミッションケース12に収容されている。
【0016】
図2に示されるように、トランスミッション18には、ミッションケース12の前部に設けられ、エンジン4の出力軸4aの動力が伝達される入力軸20と、入力軸20の動力が入力され、入力された動力を変速して出力する主変速部21と、主変速部21の出力が入力される前後進切換装置23と、前後進切換装置23の出力を後輪差動機構16の入力軸16aに伝達するギヤ機構24と、前後進切換装置23の出力が入力され、入力された動力を変速して前輪差動機構17に出力する前輪伝動部25と、が備えられている。
【0017】
〔主変速部〕
図2に示されるように、主変速部21は、入力軸20の動力が入力される静油圧式無段変速装置28と、入力軸20の動力および無段変速装置28の出力が入力される遊星変速装置31と、遊星変速装置31の変速段を選択する遊星クラッチ機構37とを備えている。
【0018】
静油圧式無段変速装置28は、
図2に示されるように、入力軸20の後端部に連結された回転軸26の後端部に連結された第1ギヤ機構27を介して、入力軸20と連結されている無段変速入力軸としてのポンプ軸28aが連結された可変容量形の油圧ポンプPと、油圧ポンプPからの圧油によって駆動される油圧モータMとを備え、油圧ポンプPの斜板角が変更されることにより、入力軸20からの動力を正転動力または逆転動力に変更し、かつ正転動力および逆転動力の回転速度を無段階に変速する。静油圧式無段変速装置28は、所定の変速比(所定の斜板角)で、無段変速出力軸としてのモータ軸28bから動力を出力し、HST(Hydraulic Static Transmission)と称せられる。以後、静油圧式無段変速装置28は、単に無段変速装置28と略称される。
【0019】
遊星変速装置31は入力軸20の動力および無段変速装置28の出力が入力される遊星変速部31Aを有する。遊星クラッチ機構37は、遊星変速装置31の出力部31Bとして機能し、遊星変速部31Aの出力を4段階の速度レンジに段階分けして出力する。
【0020】
図2,3に示されるように、遊星変速部31Aには、第1太陽ギヤ32a、第1太陽ギヤ32aに噛み合う第1遊星ギヤ32b、第1遊星ギヤ32bに噛み合う内歯が備えられた第1リングギヤ32cを有する第1遊星変速部32が備えられている。遊星変速部31Aには、第1遊星変速部32よりも後側に設けられ、第2太陽ギヤ33a、第2太陽ギヤ33aに噛み合う第2遊星ギヤ33b、第2遊星ギヤ33bに噛み合う内歯が備えられた第2リングギヤ33c、第2遊星ギヤ33bを支持する第2キャリヤ33dを有する第2遊星変速部33が備えられている。
【0021】
図2に示されるように、第1太陽ギヤ32aと無段変速装置28のモータ軸28bとにわたって第2ギヤ機構30が設けられ、無段変速装置28の出力が第2ギヤ機構30を介して第1太陽ギヤ32aに入力される。第1リングギヤ32cと入力軸20とにわたって第3ギヤ機構29が設けられ、入力軸20の動力が第3ギヤ機構29を介して第1リングギヤ32cに入力される。
図2,3に示されるように、第1遊星変速部32に、第1遊星ギヤ32bと噛み合う連動ギヤ32dが設けられ、連動ギヤ32dと第2遊星ギヤ33bとが連結部材33eによって連動連結されている。第1遊星変速部32と第2遊星変速部33とは、いわゆる複合遊星変速部を構成している。
【0022】
図2,3に示されるように、遊星クラッチ機構37は、3重軸構造の第1入力軸34a、第2入力軸34bおよび第3入力軸34cと、第1入力軸34aなどと平行に位置する出力軸35を備えている。第1入力軸34aは、第2リングギヤ33cに連結され、第2入力軸34bは、第2キャリヤ33dに連結され、第3入力軸34cは、第2太陽ギヤ33aに連結されている。第1入力軸34aに第1レンジギヤ機構36aが連結され、第1レンジギヤ機構36aと出力軸35とにわたって第1クラッチCL1が設けられている。第3入力軸34cに第2レンジギヤ機構36bが連結され、第2レンジギヤ機構36bと出力軸35とにわたって第2クラッチCL2が設けられている。第2入力軸34bに第3レンジギヤ機構36cが連結され、第3レンジギヤ機構36cと出力軸35とにわたって第3クラッチCL3が設けられている。第3入力軸34cに第4レンジギヤ機構36dが連結され、第4レンジギヤ機構36dと出力軸35とにわたって第4クラッチCL4が設けられている。
【0023】
主変速部21においては、エンジン4からの動力が入力軸20、回転軸26および第1ギヤ機構27を介して油圧ポンプPに入力されて無段変速装置28によって正転動力と逆転動力とに変速してモータ軸28bから出力され、かつ、出力される正転動力および逆転動力の回転数が無段階に変速される。無段変速装置28の出力が第2ギヤ機構30を介して第1遊星変速部32の第1太陽ギヤ32aに入力され、エンジン4からの動力が入力軸20および第3ギヤ機構29を介して第1遊星変速部32の第1リングギヤ32cに入力され、入力された無段変速装置28からの動力とエンジン4からの動力とが遊星変速部31Aの第1遊星変速部32と第2遊星変速部33とによって合成され、合成動力が第2遊星変速部33から出力部31Bに伝達されて出力軸35から出力される。
【0024】
主変速部21においては、第1クラッチCL1が入りにされた状態で無段変速装置28が変速操作されると、遊星変速部31Aによって合成される合成動力が第2リングギヤ33cから出力部31Bの第1入力軸34aに伝達される。出力部31Bにおける第1レンジギヤ機構36a及び第1クラッチCL1を通じて、1速レンジにおける無段変速動力が出力軸35から出力される。
【0025】
第2クラッチCL2が入りにされた状態で無段変速装置28が変速操作されると、遊星変速部31Aによって合成される合成動力が第2太陽ギヤ33aから出力部31Bの第3入力軸34cに伝達される。出力部31Bにおける第2レンジギヤ機構36b及び第2クラッチCL2を通じて2速レンジにおける無段変速動力が出力軸35から出力される。
【0026】
第3クラッチCL3が入りにされた状態で無段変速装置28が変速操作されると、遊星変速部31Aによって合成される合成動力が第2キャリヤ33dから出力部31Bの第2入力軸34bに伝達される。出力部31Bにおける第3レンジギヤ機構36c及び第3クラッチCL3を通じて3速レンジにおける無段変速動力が出力軸35から出力される。
【0027】
第4クラッチCL4が入りにされた状態で無段変速装置28が変速操作されると、遊星変速部31Aによって合成される合成動力が第2太陽ギヤ33aから出力部31Bの第3入力軸34cに伝達される。出力部31Bにおける第4レンジギヤ機構36d及び第4クラッチCL4を通じて4速レンジにおける無段変速動力が出力軸35から出力される。
【0028】
〔前後進切換装置〕
図2に示されるように、前後進切換装置23は、遊星変速装置31の出力軸35に連結された入力軸23aと、入力軸23aと平行に設けられた出力軸23bと、を備えている。入力軸23aに、前進クラッチCLFおよび後進クラッチCLRが設けられている。前進クラッチCLFと出力軸23bとにわたって前進ギヤ連動機構23cが設けられ、後進クラッチCLRと出力軸23bとにわたって後進ギヤ連動機構23dが設けられている。
【0029】
前進クラッチCLFは、入りに操作されると、入力軸23aと前進ギヤ連動機構23cとを連結し、入力軸23aの動力が前進ギヤ連動機構23cを介して出力軸23bに伝達されるように前進伝動状態を現出する。後進クラッチCLRは、入りに操作されると、入力軸23aと後進ギヤ連動機構23dとを連結し、入力軸23aの動力が後進ギヤ連動機構23dを介して出力軸23bに伝達されるように後進伝動状態を現出する。
【0030】
前後進切換装置23においては、入力軸23aに遊星変速装置31の出力が入力され、前進クラッチCLFが入りに操作されることにより、入力軸23aの動力が前進クラッチCLFおよび前進ギヤ連動機構23cによって前進動力に変換されて出力軸23bに伝達される。後進クラッチCLRが入りに操作されることにより、入力軸23aの動力が後進クラッチCLRおよび後進ギヤ連動機構23dによって後進動力に変換されて出力軸23bに伝達される。出力軸23bの前進動力および後進動力は、ギヤ機構24によって後輪差動機構16および前輪伝動部25に伝達される。
【0031】
後輪差動機構16においては、前後進切換装置23から伝達された前進動力あるいは後進動力が左右の出力軸16bから左右の後車輪2に伝達される。左の出力軸16bの動力は、遊星減速機構38Bを介して左の後車輪2に伝達される。左の出力軸16bに操向ブレーキ38Aが設けられている。図示されないが、右の出力軸16bから右の後車輪2への伝動系には、左の後車輪2への伝動系と同様に、遊星減速機構38Bおよび操向ブレーキ38Aが設けられている。
【0032】
〔前輪伝動部〕
図2に示されるように、前輪伝動部25は、ギヤ機構24の出力軸24aに連結された入力軸25a、および、入力軸25aと平行に位置する出力軸25bを備えている。入力軸25aに、等速クラッチCLT、および、等速クラッチCLTよりも後側に位置する増速クラッチCLHが設けられている。等速クラッチCLTと出力軸25bとにわたり、等速ギヤ機構40が設けられている。増速クラッチCLHと出力軸25bとにわたり、増速ギヤ機構41が設けられている。ギヤ機構24の出力軸24aに駐車ブレーキ39が設けられている。
【0033】
前輪伝動部25においては、等速クラッチCLTが入りに操作されると、入力軸25aの動力が等速クラッチCLTおよび等速ギヤ機構40によって出力軸25bに伝達され、かつ等速ギヤ機構40によって等速伝動状態が現出され、前車輪1の周速度が後車輪2の周速度と同じになる状態で前車輪1を駆動する動力が出力軸25bから出力される。増速クラッチCLHが入りに操作されると、入力軸25aの動力が増速クラッチCLHおよび増速ギヤ機構41によって出力軸25bに伝達され、かつ増速ギヤ機構41によって前輪増速伝動状態が現出され、前車輪1の周速度が後車輪2の周速度よりも高速になる状態で前車輪1を駆動する動力が出力軸25bから出力される。出力軸25bからの出力は、出力軸25bと前輪差動機構17の入力軸17aとを連結する回転軸42を介して前輪差動機構17に入力される。
【0034】
走行車体3は、等速クラッチCLTが入りにされると、左右の前車輪1の平均周速度が左右の後車輪2の平均周速度と同じになる状態で前車輪1および後車輪2が駆動される四輪駆動状態になり、増速クラッチCLHが入りにされると、左右の前車輪1の平均周速度が左右の後車輪2の平均周速度よりも高速になる状態で前車輪1および後車輪2が駆動される四輪駆動状態になる。これにより、増速クラッチCLHが入りにされた場合、等速クラッチCLTが入り状態にされた場合の旋回半径よりも小さい旋回半径で走行車体3を旋回走行させることができる。
【0035】
〔回転検出器群について〕
エンジン4の出力動力の回転数であるエンジン回転数と、無段変速動力(無段変速装置28の出力)の回転数である無段変速回転数と、遊星動力(遊星変速装置31の出力)の回転数である遊星回転数と、前進動力(前後進切換装置23の出力)または後進動力(前後進切換装置23の出力)の回転数である走行回転数とを検出する回転検出器群70が動力伝達装置15に設けられている。回転検出器群70は複数適所に配置された回転検出器からなり、エンジン回転数を検出するエンジン回転検出器、無段変速回転数を検出する無段変速回転検出器、遊星回転数を検出す主遊星回転検出器、走行回転数を検出する走行回転検出器などが含まれている。
【0036】
〔変速制御ユニットについて〕
この無段変速動力伝達装置における変速制御は、
図4と
図5とに示す変速制御ユニット50によって行われる。運転者による変速操作は、変速操作具45として運転部6に設けられている変速ペダル46と前後進レバー47とを用いて行われる。変速ペダル46と前後進レバー47との操作量は、変速操作指令として、変速制御ユニット50に入力される。回転検出器群70からの検出信号(回転数)も変速制御ユニット50に入力される。変速制御ユニット50は、無段変速装置28,遊星クラッチ機構37、前後進切換装置23などの動作を油圧制御するための制御信号を生成する。
【0037】
無段変速装置28の油圧回路は
図6に示されている。無段変速装置28の油圧ポンプPの斜板Pspに油圧シリンダ90が連結され、油圧シリンダ90に操作油路91を介して変速操作弁92が接続されている。変速操作弁92に給油路93を介して油圧ポンプ94が接続されている。変速操作弁92のポート切替により、油圧ポンプ94によって供給される作動油が油圧シリンダ90の2つの油室のうちの一方あるいは他方に入り、油圧シリンダ90が作動し、油圧シリンダ90に対する作動油の供給停止により、油圧シリンダ90に位置が保持される。無段変速装置28は、変速操作弁92のポート切替を通じて、斜板Pspを正転方向あるいは逆転方向に傾動する。この傾動により、無段変速装置28の変速が現出される。具体的には、変速操作弁92は電磁操作弁によって構成され、変速操作弁92のソレノイド92aの動作が変速制御ユニット50によって制御される。無段変速装置28の油圧ポンプPと油圧モータMとを接続する閉回路95に緊急用リリーフ弁96が接続されている。さらに、この閉回路95を構成する第1駆動油路と第2駆動回路とに、閉回路95の油圧を検出する圧力検出部としての圧力センサ97が設けられている。第1駆動油路と第2駆動回路との間に生じる差圧は、HST有効圧と称せられ、圧力センサ97の検出値から求められる。
【0038】
図5に示すように、変速制御ユニット50には、変速制御部51と、回転数取得部61、操作量取得部62、圧力取得部63が備えられている。
【0039】
変速制御部51には、無段変速制御部52と、遊星クラッチ制御部53と、前後進クラッチ制御部54と、切替タイミング変更部55とが含まれている。無段変速制御部52は、無段変速装置28の斜板角を調整する制御信号を生成する。遊星クラッチ制御部53は、遊星クラッチ機構37の4つの油圧クラッチである、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第4クラッチCL4のON(接続)/OFF(遮断)を制御するクラッチ制御信号を生成する。前後進クラッチ制御部54は、前後進切換装置23の2つの油圧クラッチである、前進クラッチCLFおよび後進クラッチCLRのON(接続)/OFF(遮断)を制御するクラッチ制御信号を生成する。切替タイミング変更部55は、前車輪1や後車輪2に伝達される動力の速度(走行速度:走行回転数)、圧力センサ97によって検出される検出油圧(詳しくは、無段変速制御部52のHST有効圧)、などに基づいて、遊星クラッチ制御部53による変速段の切替タイミング(油圧クラッチの切替タイミング)を変更する。切替タイミング変更部55は、少なくとも検出油圧から切替タイミングを導出する切替タイミングテーブル55aを備えている
【0040】
回転数取得部61は、回転検出器群70からの検出信号を入力して、エンジン回転数、無段変速回転数、遊星回転数、走行回転数を演算して(ここでの回転数は速度と同等な意味を持っている)、変速制御部51に与える。操作量取得部62は、変速ペダル46や前後進レバー47などの変速操作具45からの操作信号を入力して、変速操作量に変換して、変速制御部51に与える。圧力取得部63は、圧力センサ97からの検出信号を入力して、無段変速制御部52における油圧の閉回路95を構成する第1駆動回路と第2駆動回路との油圧とそれらの差圧を演算して、変速制御部51に与える。
【0041】
図7は、変速制御部51による車速変速の説明図である。
図7の縦軸は、エンジン回転数と、車速に対応する走行装置への入力軸16aの回転数である走行回転数(走行速度:車速)との比(走行回転数/エンジン回転数)であるギヤ比:Gを示している。つまり、ギヤ比:Gは走行回転数に対応する数値である。また、縦軸は、入力軸16aの走行回転数(車速):Vも示している。
図7の横軸は、無段変速装置28の変速状態を示し、[N]は、中立状態を示し、[-MAX]は、最高速の逆転動力を出力する変速状態を示す。[+MAX]は、最高速の正転動力を出力する変速状態を示す。[-K]は、逆転側のクラッチ切換えのための変速状態〔[-MAX]の手前の変速状態〕を示し、[+K]は、正転側のクラッチ切換えのための変速状態〔[+MAX]の手前の変速状態〕を示す。[G1]、[G2]、[G3]、[G4]は、予め設定されたギヤ比:Gである。変速制御部51は、ギヤ比:Gと無段変速装置28の変速状態とに基づいて、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3および第4クラッチCL4を切り換え操作して入力軸16aの走行回転数:Vの変速制御を行う。
【0042】
すなわち、第1クラッチCL1が入りにされた状態で無段変速装置28が[-MAX]から[+MAX]に向けて変速されるに伴い、走行回転数:Vが1速レンジで零速度[0]から無段階に増速する。無段変速装置28が[+K]になり、ギヤ比:Gが[G1]になると、変速制御部51が第1クラッチCL1を切りに切換え、第2クラッチCL2を入りに切り換える。第2クラッチCL2が入りの状態で無段変速装置28が[-MAX]に向けて変速されるに伴い、走行回転数:Vが2速レンジで無段階に増速する。無段変速装置28が[-K]になり、ギヤ比:Gが[G2]になると、変速制御部51が第2クラッチCL2を切りに切換え、第3クラッチCL3を入りに切り換える。第3クラッチCL3の入り状態で無段変速装置28が[+MAX]に向けて変速操作されると、走行回転数:Vが3速レンジで無段階に増速する。無段変速装置28が[+K]になり、ギヤ比:Gが[G3]になると、変速制御部51が第3クラッチCL3を切りに切換え、第4クラッチCL4を入りに切り換える。第4クラッチCL4の入り状態で無段変速装置28が[-MAX]に向けて変速されるに伴い走行回転数:Vが4速レンジで無段階に増速する。
【0043】
〔遊星クラッチの切替タイミングについて〕
次に、遊星クラッチ制御部53と切替タイミング変更部55とによる、遊星クラッチ機構37の遊星クラッチの切替タイミング(変速段切替タイミング:変速段切替点)を、
図8から
図11を用いて説明する。なお、遊星クラッチ機構37は、4つの遊星クラッチを備えているが、
図8から
図11では、そのうちの2つのクラッチ、つまり第1クラッチCL1と第2クラッチCL2との間のクラッチ切替が示されている。なお、縦軸のギヤ比を示している数値は、(走行回転数/エンジン回転数)×10000である。横軸は、無段変速制御部52の油圧ポンプPの斜板Pspの傾斜度(斜板角度)である。
【0044】
図8は、第1クラッチCL1から第2クラッチCL2へのクラッチ切替の理想的な過程を示している。設計的に設定されているクラッチ切替点(設計切替点:固定点または設定点)は、ギヤ比(車速)が「G1」となる点である。無段変速装置28が無負荷状態であれば、設計切替点で、第1クラッチCL1から第2クラッチCL2へのクラッチ切替が行われると、第1クラッチCL1で実現する第1変速段から第2クラッチCL2で実現する第2変速段への移行において、ギヤ比(車速と考えてよい)が連続して増加するスムーズな変速が実現する。
【0045】
作業車の走行時に、無段変速装置28が無負荷状態となることはほとんどない。無段変速装置28に負荷がかかると、無段変速装置28の容積効率が変化する。このため、
図9で示すように、設計切替点にむけて加速操作すれば、ギヤ比(車速)が「G1」に達した時点でクラッチ切替が行われ、
図9の太い矢印で示すように、一旦ギヤ比が下がり、その後、加速が行われる。
図9において、「G1-α」は、ギヤ比が「G1」からある値:αだけ下がった値を示している。このことは、第1クラッチCL1で実現する第1変速段から第2クラッチCL2で実現する第2変速段の移行において、ギヤ比、つまり車速が不連続に変動することを意味し、違和感のある変速となる。
【0046】
この問題を抑制するために、切替タイミング変更部55は、無段変速制御部52のHST有効圧に基づいてクラッチ切替タイミング(演算切替点)を演算し、当該クラッチ切替タイミングで遊星クラッチ制御部53はクラッチ切替を行う。つまり、
図10で示すように、クラッチ切替の前後でギヤ比(車速)ができる限り一定となるような演算切替点でクラッチ切替を行うことで、クラッチの二重咬み合い期間によりギヤ比、つまり車速が「G1」に戻る期間が短くなり、実質的にスムーズな加速が実現する。
図10は、シフトアップ時の過程を示しているが、シフトダウン時も、クラッチ切替タイミング(演算切替点)でクラッチ切替を行うことで、
図11に示すようなクラッチ切替過程となり、実質的にスムーズな減速が実現する。
図10においても、「G1-α」は、ギヤ比が「G1」からある値:αだけ下がった値を示しており、
図11では、「G1+β」は、ギヤ比が「G1」からある値:βだけ上がった値を示している。
【0047】
〔切替タイミングテーブルについて〕
適切なクラッチ切替タイミングを演算するためには、入力パラメータとして、無段変速制御部52の油温とHST有効圧、エンジン回転数、元変速段と次変速段などが用いられる。これらを入力パラメータとして適切なクラッチ切替タイミングを導出するためのプログラム構造として、入力値としての入力パラメータに対して、出力値としてのクラッチ切替タイミングを割り当てるルックアップテーブルが好都合である。このルックアップテーブルが切替タイミングテーブル55aである。このような切替タイミングテーブル55aは、一例として、
図11に示すように、各入力パラメータの値を選択しながらシミュレーション等を行って生成されるHST有効圧とギヤ比との複数の関係式に基づいて作成することができる。
図12では、この関係式が一次式で示されているが、もちろん二次式やその他の多次元多項式で示されてもよい。
【0048】
切替タイミング変更部55は、クラッチ切替点付近で、クラッチ切替が頻繁に繰り返されることを回避するため、シフトアップ及びシフトダウンでの切替タイミングに一方側からの変化時と他方側からの変化時とで閾値が異なる閾値特性を与えている。つまり、この閾値特性では、ギヤ比(車速)が高い方から低い方への変化方向に対して第一の閾値が用いられ、ギヤ比(車速)が低い方から高い方への変化方向に対して第二の閾値を用いられ、これにより、いわゆるヒステリシスコンパレータのような制御挙動が得られる。このような閾値特性を用いたクラッチ切替過程の一例を、
図13と
図14とを用いて、以下に説明する。なお、
図13において、この閾値特性を示す領域は、四角形で囲まれている。
図13の例は、第1クラッチCL1(第1変速段)から第2クラッチCL2(第2変速段)へのシフトアップでの閾値特性を示しているが、シフトアップでの閾値特性も類似または同一でもよい。また、
図14におけるギヤ比(車速)を示す定数、α1、α2、α3、β1、β2、β3、γ1、γ2、γ3は、実験的、経験的、及び設計的に決定される。
【0049】
(1)第1変速段における、目標ギヤ比(目標車速)及び現ギヤ比(現車速)が「G1」よりかなり低い値(第1値)での走行中に、HST有効圧に基づいて演算された演算切替点が「G1」よりやや低い値(第1値より高い第2値)とする。
(2)操作量取得部62からの目標ギヤ比が、演算切替点を超える「G1」より高い値(第3値)となると、目標ギヤ比は第2値に設定され、第1クラッチCL1から第2クラッチCL2へのクラッチ切替が行われ、シフトアップした切替点として第2値が記録される。
(3)クラッチ切替終了後、第2クラッチCL2から第1クラッチCL1へのシフトダウン切替点が、第3値より高い値である第4値と演算される。
(4)ここでの閾値特性領域(
図13の斜線で描かれた四角形)の上限値は、
図14の表に示されているように、「G1+α1」であり、目標ギヤ比は第3値であるので、シフトダウン演算切替点は先に記録した第2値で、上書きされる。
(5)この結果、目標ギヤ比が第3値、シフトダウン演算切替点が第3値より低い値である第2値であるので、シフトダウンは行われず、ギヤ比は第3値に保たれる。
(6)その後、目標ギヤ比が閾値特性領域の上限値「G1+α1」を超えた時点からは、(4)で述べたような第2値で上書き記録することは行わない。その結果、シフトダウン演算切替点が上限値「G1+α1」より低い第4値であれば、目標ギヤ比が第4値を下回った時点で、シフトダウンクラッチ切替が行われる。
(7)(4)の後、目標ギヤ比が閾値特性領域の上限値「G1+α1」を超えずに第2値より低い第5値に下がった場合、目標ギヤ比が上書きされた演算切替点である第2値を下回った時点で、シフトダウンが行われ、その際のギヤ比が記録される。
(8)次に、第1クラッチCL1から第2クラッチCL2へのクラッチ切替が終了した後、このシフトアップの切替点が第5値より低い第6値であったと仮定する。
(9)第1変速段と第2変速段との間の閾値特性領域(
図13の斜線で描かれた四角形)の下限値は、
図14の表に示されているように、「G1-α2」であり、そこで目標ギヤ比が「G1-α2」より高い値である第5値であれば、シフトアップ演算切替点は先に記録した第2値で、上書きされる。
(10)それ以降は、この閾値特性領域を離れるか、あるいは離れずに元変速段に戻っていくかによって、上書きをするかしないかが判断され、そのシフトアップ切替点またはシフトダウン切替点に基づいてクラッチ切替が行われる。
【0050】
上記の例は、シフトアップとシフトダウンが直ぐに元変速段に戻るようなクラッチ切替過程である。通常の加減速が行われる場合では、一定時間内に閾値特性領域を通過するため、確率的にこの閾値特性での制御挙動が維持されることは少ない。
【0051】
〔別実施の形態〕
(1)回転検出器群70を構成する回転検出器の種類や配置は、上述した実施形態での種類や配置に限定されない。実質的に同等な回転数を検出することができる全ての種類の回転検出器が利用可能であり、それらの配置も実質的に同等な回転数を検出することができる位置であれば自在である。
(2)変速制御ユニット50に含まれる制御機能部は、他の制御機能部と統合してもよいし、複数に分割されてもよい。また、特定の制御機能部は、変速制御ユニット50以外の制御ユニット(ECU)に構築されてもよい。
(3)上述した実施形態では、遊星変速装置31は、4段階の変速段に段階分けするように構成した例を示したが、3段階以下あるいは5段階以上の変速段に段階分けするものであってもよい。
【0052】
(4)上述した実施形態では、前車輪1および後車輪2を備えた例を示したが、走行装置としては、クローラ走行装置、あるいは、ミニクローラと車輪とを組み合わせたものを採用したものであってもよい。
【0053】
(5)上述した実施形態では、変速ペダル46を設けた例を示したが、これに限らず、変速レバーを変速操作具45として採用したものであってもよい。
【0054】
(6)上述した実施形態では、前後進レバー47を設けた例を示したが、これに限らず、前後進ペダルを変速操作具45として採用したものであってもよい。
【0055】
(7)検出油圧から遊星変速装置31の変速段を切り替える切替タイミングを導出する切替タイミングテーブル55aは、作業車による作業種別や運転者の特性に適合するように複数種類を用意し、任意選択可能にしてもよい。
【0056】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、無段変速装置と遊星変速装置とを備えた作業車用無段変速動力伝達装置及び当該作業車用無段変速動力伝達装置を備えた種々の作業車に適用できる。
に適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 :前車輪(走行装置)
2 :後車輪(走行装置)
4 :エンジン
16 :後輪差動機構
16a :入力軸
16b :出力軸
18 :トランスミッション
20 :入力軸
23 :前後進切換装置
28 :静油圧式無段変速装置(無段変速装置)
28a :ポンプ軸
28b :モータ軸
31 :遊星変速装置
31A :遊星変速部
31B :出力部
37 :遊星クラッチ機構
45 :変速操作具
46 :変速ペダル
47 :前後進レバー
50 :変速制御ユニット
51 :変速制御部
52 :無段変速制御部
53 :遊星クラッチ制御部
54 :前後進クラッチ制御部
55 :切替タイミング変更部
55a :切替タイミングテーブル
95 :閉回路
97 :圧力センサ
M :油圧モータ
P :油圧ポンプ
Psp :斜板