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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073235
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240522BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240522BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20240522BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20240522BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20240522BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240522BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240522BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
G11B5/84 A
G11B5/73
G11B5/82
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184336
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】向井 祐人
【テーマコード(参考)】
3C158
5D006
5D112
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB01
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA18
3C158EA01
3C158EB01
3C158ED10
3C158ED23
3C158ED26
5D006CB07
5D006DA03
5D006FA05
5D112AA02
5D112AA24
5D112BA06
5D112BA09
5D112BD06
5D112GA14
5F057AA05
5F057AA14
5F057AA28
5F057BA30
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA17
5F057EA22
5F057EA29
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】一態様において、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減できる保存安定性に優れた研磨液組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)と、酸(成分B)と、酸化剤(成分C)と、置換基のない炭化水素基を少なくとも1つ有する第4級ホスホニウム塩(成分D)と、水系媒体と、を含有する、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子(成分A)と、酸(成分B)と、酸化剤(成分C)と、置換基のない炭化水素基を少なくとも1つ有する第4級ホスホニウム塩(成分D)と、水系媒体と、を含有する、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項2】
pHが1以上3以下である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
成分Dの炭化水素基は、アルキル基、アリール基又はアラルキル基である、請求項1又は2に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
成分Dの合計炭素数は10以上である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する研磨工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研磨液組成物、並びにこれを用いた基板の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。高記録密度化するために、単位記録面積を縮小し、弱くなった磁気信号の検出感度を向上するため、磁気ヘッドの浮上高さをより低くするための技術開発が進められている。磁気ディスク基板には、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、表面粗さ、うねり、端面ダレ(ロールオフ)の低減に代表される平滑性・平坦性の向上とスクラッチ、突起、ピット等の低減に代表される欠陥低減に対する要求が厳しくなっている。
【0003】
磁気ディスク基板以外の基板においても、研磨速度や平坦性を向上できる研磨液が開発されている。
例えば、特許文献1には、ポリシリコンを含むストッパと、絶縁材料(例えば酸化ケイ素)を含む部材とを有する基体の研磨に用いられるCMP(化学機械研磨)用研磨液であって、金属酸化物を含む砥粒と、リン原子に結合する炭素数2以上の炭化水素基を有する第4級ホスホニウムカチオンと、液状媒体と、を含有する研磨液が提案されている。
特許文献2には、コバルトを含む被研磨面の研磨に用いられるCMP用研磨剤であって、砥粒と、第4級ホスホニウム塩と、水と、を含有し、pHが4.0を超える研磨剤が提案されている。
特許文献3には、層間絶縁膜とバリア膜と導電性物質を有する基板の、導電性物質を研磨してバリア膜を露出させる第1研磨工程後、バリア膜を研磨して層間絶縁膜を露出させる第2研磨工程で用いられるCMP用研磨液であって、特定の第4級ホスホニウム塩化合物と、負電荷を有する砥粒と、酸化金属溶解剤と、酸化剤と、を含有する研磨液が提案されている。
特許文献4には、タングステン含有表面を処理するための化学機械研磨組成物であって、液体キャリアと、特定のシリカ研磨剤粒子と、特定のカチオン性界面活性剤とを含む研磨液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/142292号
【特許文献2】国際公開第2022/107217号
【特許文献3】特開2013-120885号公報
【特許文献4】特表2019-501517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、基板表面のスクラッチをいっそう低減できる研磨液組成物の開発が求められている。また、一般的に、研磨速度とスクラッチとはトレードオフの関係にあり、一方が改善すれば一方が悪化するという問題がある。
【0006】
そこで、本開示は、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減できる研磨液組成物、並びにこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法及び基板の研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)と、酸(成分B)と、酸化剤(成分C)と、置換基のない炭化水素基を少なくとも1つ有する第4級ホスホニウム塩(成分D)と、水系媒体と、を含有する、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の研磨組成物によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減できるという効果が奏されうる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、シリカ粒子、酸、酸化剤、特定の第4級ホスホニウム塩及び水系媒体を含有する研磨液組成物を用いると、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減できるという知見に基づく。
【0012】
すなわち、本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)と、酸(成分B)と、酸化剤(成分C)と、置換基のない炭化水素基を少なくとも1つ有する第4級ホスホニウム塩(成分D)と、水系媒体と、を含有する、磁気ディスク基板用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
【0013】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
置換基のない炭化水素基を少なくとも1つ有する第4級ホスホニウム塩(成分D)が、被研磨基板(例えば、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板)表面へ吸着することで、基板表面に疎水性を付与する。そして、基板表面への疎水性の付与によって過剰な化学反応を抑制することでスクラッチ数及び点欠陥数(LPD)を減少させるものと推察される。基板表面への疎水性の付与という点において、第4級ホスホニウム塩が水酸基のような親水性置換基を有する場合はその抑制能の低下が発生するために効果が減弱されるものと考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
本開示において、基板表面のスクラッチは、例えば、光学式欠陥検査装置により検出可能であり、スクラッチ数として定量評価できる。スクラッチ数は、具体的には実施例に記載した方法で評価できる。
【0015】
[シリカ粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物は、シリカ粒子(以下「成分A」ともいう)を含有する。成分Aとしては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、粉砕シリカ、それらを表面修飾したシリカ等が挙げられるが、コロイダルシリカが好ましい。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0016】
成分Aの平均二次粒子径は、研磨速度向上の観点から、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましく、70nm以下が更に好ましく、40nm以下が更に好ましい。より具体的には、成分Aの平均二次粒子径は、1nm以上500nm以下が好ましく、1nm以上300nm以下がより好ましく、1nm以上100nm以下が更に好ましく、5nm以上70nm以下が更に好ましく、10nm以上40nm以下が更に好ましい。本開示において、「シリカ粒子の平均二次粒子径」とは、動的光散乱法により測定される値であり、例えば、動的光散乱法において検出角90°で測定される散乱強度分布に基づく平均二次粒子径とすることができる。シリカ粒子の平均二次粒子径は、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。
【0017】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上の観点から、SiO2換算で、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、SiO2換算で、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、SiO2換算で、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、3質量%以上10質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上のシリカ粒子からなる場合、成分Aの含有量は、それらの合計含有量をいう。
【0018】
[酸(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、酸(以下、「成分B」ともいう)を含有する。本開示において、酸の使用は、酸又はその塩の使用を含む。成分Bは1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0019】
成分Bとしては、例えば、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸;有機リン酸、有機ホスホン酸、カルボン酸等の有機酸;等が挙げられる。中でも、研磨速度の確保及びスクラッチ低減の観点から、無機酸及び有機ホスホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、硫酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、リン酸が更に好ましい。有機ホスホン酸としては、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、HEDPがより好ましい。これらの酸の塩としては、例えば、上記の酸と、金属、アンモニア及びアルキルアミンから選ばれる少なくとも1種との塩が挙げられる。上記金属としては、周期表の1~11族に属する金属が挙げられる。
【0020】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度の確保及びスクラッチ低減の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上4質量%以下がより好ましく、1質量%以上3質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0021】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量と成分Bの含有量との質量比A/Bは、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、0.2以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、10以下が好ましく、7以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の質量比A/Bは、0.2以上10以下が好ましく、0.5以上7以下がより好ましく、1以上4以下が更に好ましい。
【0022】
[酸化剤(成分C)]
本開示の研磨液組成物は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、酸化剤(以下、「成分C」ともいう)を含有する。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0023】
成分Cとしては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、例えば、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、研磨速度の更なる向上の観点、被研磨基板の表面に金属イオンが付着しない観点及び入手容易性の観点から、過酸化水素がより好ましい。
【0024】
本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、4質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、0.01質量%以上4質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せである場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0025】
[第4級ホスホニウム塩(成分D)]
本開示の研磨液組成物は、置換基のない炭化水素基を少なくとも1つ有する第4級ホスホニウム塩(以下、「成分D」ともいう)を含有する。前記炭素水素基とは、リン原子に結合する基、すなわち、リン原子の置換基を指す。また、前記「置換基がない」における置換基は、水素及び/又は炭素のみで構成される基を含まない。成分Dは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
前記炭化水素基の1つの基における炭素数は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、1以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上が更に好ましく、そして、シリカの凝集抑制の観点から、12以下が好ましく、6以下がより好ましい。
前記炭化水素基としては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、アルキル基、アリール基又はアラルキル基が好ましく、アルキル基又はアリール基がより好ましい。前記アルキル基は、研磨速度向上、スクラッチ低減及びシリカの凝集抑制の観点から、炭素数1以上12以下のアルキル基が好ましく、炭素数4以上7以下のアルキル基がより好ましく、炭素数4以上6以下のアルキル基が更に好ましく、例えば、ブチル基等が挙げられる。前記アリール基としては、研磨速度向上、スクラッチ低減及びシリカの凝集抑制の観点から、炭素数6以上12以下のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基等が挙げられる。前記アラルキル基としては、研磨速度向上、スクラッチ低減及びシリカの凝集抑制の観点から、炭素数7以上12以下のアラルキル基が好ましく、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
前記第4級ホスホニウム塩における対イオンとしては、特に制限されないが、例えば、塩化物イオン(Cl-)、水酸化物イオン(OH-)等が挙げられる。
【0026】
成分Dの合計炭素数としては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、10以上が好ましく、13以上がより好ましく、15以上が更に好ましく、そして、シリカの凝集抑制の観点から、25以下が好ましく、24以下がより好ましく、16以下が更に好ましい。より具体的には、成分Dの合計炭素数は、10以上25以下が好ましく、13以上24以下がより好ましい。
【0027】
成分Dは、一又は複数の実施形態において、下記式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
上記式(I)中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に、置換基のない炭化水素基を示し、X-は陰イオンを示す。
上記式(I)において、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に、研磨速度向上、スクラッチ低減及びシリカの凝集抑制の観点から、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基が好ましく、炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数7以上12以下のアラルキル基がより好ましく、炭素数1以上12以下のアルキル基、又は炭素数6以上12以下のアリール基が更に好ましく、炭素数4以上6以下のアルキル基、又は炭素数6のアリール基(フェニル基)が更に好ましい。
1、R2、R3及びR4のうちの少なくとも3つは、研磨速度向上、スクラッチ低減及びシリカの凝集抑制の観点から、同じ基であることが好ましい。
-は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、Cl-(塩化物イオン)又はOH-(水酸化物イオン)が好ましい。
【0028】
成分Dの分子量は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、250以上が好ましく、280以上がより好ましく、300以上が更に好ましく、そして、シリカの凝集抑制の観点からは特に限定はないが、450以下が好ましい。
【0029】
成分Dとしては、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上、スクラッチ低減及びシリカの凝集抑制の観点から、テトラブチルホスホニウム塩、テトラフェニルホスホニウム塩、及びトリフェニルベンジルホスホニウム塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0030】
本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、そして、シリカの凝集抑制の観点から、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、0.02質量%以上0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。成分Dが2種以上の組合せである場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量である。
【0031】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量と成分Dの含有量との質量比A/Dは、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、特に制限は無く、10以上が好ましく、そして、同様の観点から、150以下が好ましく、50以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の質量比A/Dは、10以上150以下が好ましく、10以上50以下がより好ましく、10以上30以下が更に好ましい。
【0032】
[水系媒体]
本開示の研磨液組成物に含まれる水系媒体としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等の水、又は、水と溶媒との混合溶媒等が挙げられる。上記溶媒としては、水と混合可能な溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)が挙げられる。水系媒体が、水と溶媒との混合溶媒の場合、混合媒体全体に対する水の割合は、本開示の効果が妨げられない範囲であれば特に限定されなくてもよく、経済性の観点から、例えば、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%が更に好ましい。被研磨基板の表面清浄性の観点から、水系媒体としては、イオン交換水及び超純水が好ましい。本開示の研磨液組成物中の水系媒体の含有量は、成分A、成分B、成分C、成分D及び必要に応じて配合される後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0033】
[複素環芳香族化合物(成分E)]
本開示の研磨液組成物は、スクラッチの更なる低減の観点から、複素環芳香族化合物(その塩も含む)(以下、「成分E」ともいう)をさらに含有してもよい。成分Eは1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0034】
成分Eとしては、スクラッチの更なる低減の観点から、複素環内に窒素原子を2個以上含む複素環芳香族化合物であることが好ましく、複素環内に窒素原子を3個以上有することがより好ましく、3個以上9個以下が更に好ましく、3個以上5個以下が更に好ましく、3又は4個が更に好ましい。
【0035】
成分Eとしては、一又は複数の実施形態において、1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、5-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、1H-テトラゾール、5-アミノテトラゾール、1H-ベンゾトリアゾール(BTA)、1H-トリルトリアゾール、2-アミノベンゾトリアゾール、3-アミノベンゾトリアゾール、及びこれらのアルキル置換体若しくはアミン置換体から選ばれる少なくとも1種が好ましい。前記アルキル置換体のアルキル基としては、例えば、炭素数1~4の低級アルキル基が挙げられ、一又は複数の実施形態において、メチル基、エチル基が挙げられる。前記アミン置換体としては、一又は複数の実施形態において、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチレン)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチレン)アミノメチル]トリルトリアゾールが挙げられる。
【0036】
本開示の研磨液組成物が成分Eを含有する場合、本開示の研磨液組成物中の成分Eの含有量は、スクラッチの更なる低減の観点から、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましく、そして、研磨速度低下抑制の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.2質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Eの含有量は、スクラッチの更なる低減及び研磨速度低下抑制の観点から、0.005質量%以上10質量%以下が好ましく、0.01質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上1質量%以下が更に好ましく、0.02質量%以上0.2質量%以下が更に好ましい。成分Eが2種以上の組合せである場合、成分Eの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0037】
[脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物(成分F)]
本開示の研磨液組成物は、スクラッチの更なる低減の観点から、脂肪族アミン化合物及び脂環式アミン化合物から選ばれる少なくとも1種(以下、「成分F」ともいう)をさらに含有してもよい。スクラッチの更なる低減の観点から、成分Fの分子内の窒素原子数又はアミノ基若しくはイミノ基の併せた数は、2個以上4個以下が好ましい。成分Fは1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0038】
前記脂肪族アミン化合物としては、一又は複数の実施形態において、スクラッチの更なる低減の観点から、エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、N-アミノエチルイソプロパノールアミン、及びN-アミノエチル-N-メチルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、N-アミノエチルエタノールアミン、N-アミノエチルイソプロパノールアミン、及びN-アミノエチル-N-メチルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、N-アミノエチルエタノールアミン(AEA)が更に好ましい。
【0039】
前記脂環式アミン化合物としては、一又は複数の実施形態において、スクラッチの更なる低減の観点から、ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、1-アミノ-4-メチルピペラジン、N-メチルピペラジン、及びヒドロキシエチルピペラジン(HEP)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ヒドロキシエチルピペラジン(HEP)がより好ましい。
【0040】
本開示の研磨液組成物が成分Fを含有する場合、本開示の研磨液組成物中の成分Fの含有量は、スクラッチの更なる低減の観点から、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましく、そして、研磨速度低下抑制の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Fの含有量は、スクラッチの更なる低減及び研磨速度低下抑制の観点から、0.005質量%以上10質量%以下が好ましく、0.01質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上1質量%以下が更に好ましくは、0.02質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。成分Fが2種以上の組合せである場合、成分Fの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0041】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、必要に応じてさらにその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、高分子化合物、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、界面活性剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0042】
[研磨液組成物のpH]
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が更に好ましく、pH2未満が更に好ましく、そして、同様の観点から、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、1以上が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物のpHは、0.5以上5以下が好ましく、0.8以上4以下がより好ましく、1以上3以下が更に好ましく、1以上2未満が更に好ましい。pHは、上述した酸(成分B)や公知のpH調整剤等を用いて調整することができる。本開示において、上記pHは、25℃における研磨液組成物のpHであり、pHメータを用いて測定でき、例えば、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値とすることができる。
【0043】
[研磨液組成物の製造方法]
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A、成分B、成分C、成分D及び水系媒体と、さらに所望により任意成分(成分E、成分F及びその他の成分)とを公知の方法で配合することにより製造できる。すなわち、本開示は、その他の態様において、少なくとも成分A、成分B、成分C、成分D及び水系媒体を配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分C、成分D及び水系媒体、並びに必要に応じて任意成分(成分E、成分F及びその他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。成分Aは、濃縮されたスラリーの状態で混合されてもよいし、水等で希釈してから混合されてもよい。成分Aが複数種類のシリカ粒子からなる場合、複数種類のシリカ粒子は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Bが複数種類の酸からなる場合、複数種類の酸は同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Cが複数種類の酸化剤からなる場合、複数種類の酸化剤は同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Dが複数種類の第4級ホスホニウム塩からなる場合、複数種類の第4級ホスホニウム塩は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0044】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における前記各成分の含有量をいう。
本開示の研磨液組成物は、その保存安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造及び輸送コストを更に低くできる点で好ましい。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に、必要に応じて前述の水系媒体で適宜希釈して使用すればよい。希釈倍率は、希釈した後に上述した各成分の含有量(使用時)を確保できれば特に限定されるものではなく、例えば、10~100倍とすることができる。
【0045】
[研磨液キット]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を製造するためのキット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。
本開示の研磨液キットとしては、例えば、成分A及び水系媒体を含むシリカ分散液と、成分B、成分C及び成分Dを含む添加剤水溶液と、を相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水系媒体を用いて希釈される、研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。前記シリカ分散液に含まれる水系媒体は、研磨液組成物の調製に使用する水の全量でもよいし、一部でもよい。前記添加剤水溶液には、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の一部が含まれていてもよい。前記シリカ分散液及び前記添加剤水溶液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分(成分E、成分F及びその他の成分)が含まれていてもよい。本開示の研磨液キットによれば、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減可能な研磨液組成物を得ることができる。
【0046】
[被研磨基板]
被研磨基板は、一又は複数の実施形態において、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である。一又は複数の実施形態において、被研磨基板の表面を本開示の研磨液組成物を用いて研磨する工程の後、スパッタ等でその基板表面に磁性層を形成する工程を行うことにより磁気ディスク基板を製造できる。
【0047】
本開示において好適に使用される被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅等の金属及びこれらの金属を主成分とする合金を含有する被研磨基板に好適である。被研磨基板としては、例えば、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板や、結晶化ガラス、強化ガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス等のガラス基板がより適しており、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板が更に適している。本開示において「Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板」とは、アルミニウム合金基材の表面を研削後、無電解Ni-Pメッキ処理したものをいう。
【0048】
被研磨基板の形状としては、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状が挙げられる。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2~100mm程度であり、その厚さは例えば0.4~2mm程度である。
【0049】
[磁気ディスク基板の製造方法]
一般に、磁気ディスクは、研削工程を経た被研磨基板が、粗研磨工程、仕上げ研磨工程を経て研磨され、記録部形成工程にて磁気ディスク化されて製造される。本開示における研磨液組成物は、磁気ディスク基板の製造方法における、被研磨基板を研磨する研磨工程、好ましくは仕上げ研磨工程に使用されうる。すなわち、本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程(以下、「本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう)を含む、磁気ディスク基板の製造方法(以下、「本開示の基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の基板製造方法は、とりわけ、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法に適している。
【0050】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程である。また、本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は、その他の一又は複数の実施形態において、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する工程である。
【0051】
被研磨基板の研磨工程が多段階で行われる場合は、本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は2段階目以降に行われるのが好ましく、最終研磨工程又は仕上げ研磨工程で行われるのがより好ましい。その際、前工程の研磨材や研磨液組成物の混入を避けるために、それぞれ別の研磨機を使用してもよく、またそれぞれ別の研磨機を使用した場合では、研磨工程毎に被研磨基板を洗浄することが好ましい。さらに、使用した研磨液を再利用する循環研磨においても、本開示の研磨液組成物は使用できる。研磨機としては、特に限定されず、基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0052】
本開示で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、例えば、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができ、研磨速度の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
【0053】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨荷重は、研磨速度の確保の観点から、好ましくは5.9kPa以上、より好ましくは6.9kPa以上、更に好ましくは7.5kPa以上であり、そして、スクラッチ低減の観点から、20kPa以下が好ましく、より好ましくは18kPa以下、更に好ましくは16kPa以下である。本開示の製造方法において研磨荷重とは、研磨時に被研磨基板の研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。また、研磨荷重の調整は、定盤及び被研磨基板のうち少なくとも一方に空気圧や重りを負荷することにより行うことができる。
【0054】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程における本開示の研磨液組成物の供給速度は、スクラッチ低減の観点から、被研磨基板1cm2当たり、好ましくは0.05mL/分以上15mL/分以下であり、より好ましくは0.06mL/分以上10mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上1mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上0.5mL/分以下である。
【0055】
本開示の研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えばポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本開示の研磨液組成物となる。
【0056】
本開示の基板製造方法によれば、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減可能な本開示における研磨液組成物を用いることで、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できるという効果が奏されうる。
【0057】
[研磨方法]
本開示は、一態様として、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含む、基板の研磨方法(以下、「本開示の研磨方法」ともいう)に関する。本開示の研磨方法によれば、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減可能な本開示の研磨液組成物を用いることで、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できる。本開示の研磨方法における前記被研磨基板としては、上述のとおり、磁気ディスク基板の製造に使用されるものが挙げられ、なかでも、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造に用いる基板が好ましい。本開示の研磨方法における、研磨の方法及び条件は、上述した本開示の基板製造方法と同じ方法及び条件とすることができる。
【0058】
本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することは、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することであり、或いは、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨することである。
【実施例0059】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0060】
1.第4級ホスホニウム塩又は化合物(成分D又は非成分D)
表1に示す第4級ホスホニウム塩又は化合物(D1~D9)には、以下のものを用いた。
D1:テトラブチルホスホニウムクロリド[分子量:294.88]
D2:テトラフェニルホスホニウムクロリド[分子量:374.84]
D3:トリフェニルベンジルホスホニウムクロリド[分子量:388.87]
D4:テトラブチルホスホニウムハイドロキサイド[分子量276.44]
D5:テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムスルファート[分子量:406.28]
D6:トリモルホリノホスフィン[分子量:289.316]
D7:トリスルホニルフェニルホスフィン-3,3',3''-トリスルホン酸三ナトリウム[分子量:568.41]
D8:トリフェニルホスフィン[分子量:262.29]
D9:ベンゾトリアゾール[分子量119.12]
【0061】
【表1】
【0062】
2.研磨液組成物の調製(実施例1~6、比較例1~6)
成分A(コロイダルシリカ)、成分B(リン酸)、成分C(過酸化水素)、成分D又は非成分D(表1に示すD1~D9)及び水を配合して撹拌することにより、表1に示す実施例1~6及び比較例1~6の研磨液組成物を調製した。各研磨液組成物中の各成分の含有量(質量%、有効量)は、表2に示すとおりである。水の含有量は、成分Aと成分Bと成分Cと成分D又は非成分Dとを除いた残余である。
【0063】
各研磨液組成物の調製において、成分B及び成分Cには以下のものを使用した。
(成分B)
リン酸[和光純薬工業社製、特級]
(成分C)
過酸化水素水[濃度35質量%、ADEKA社製]
【0064】
2.各パラメータの測定
[コロイダルシリカ(成分A)の平均二次粒子径]
研磨液組成物の調製に用いた成分A(コロイダルシリカ)と成分B(リン酸)とをイオン交換水に添加し、撹拌することにより、標準試料を作製した。標準試料中における成分A及び成分Bの含有量はそれぞれ、1質量%、2質量%とした。この標準試料を動的光散乱装置(大塚電子社製DLS-6500)により、同メーカーが添付した説明書に従って、200回積算した際の検出角90°におけるCumulant法によって得られる散乱強度分布の面積が全体の50%となる粒径を求め、コロイダルシリカの平均二次粒子径とした。結果を表2に示す。
【0065】
[pHの測定]
研磨液組成物のpHは、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて25℃にて測定し、電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値を採用した。結果を表2に示す。
【0066】
3.研磨方法
前記のように調製した実施例1~6及び比較例1~6の研磨液組成物を用いて、以下に示す研磨条件にて下記被研磨基板を研磨(仕上げ研磨)した。次いで、研磨速度及びスクラッチ数を測定した。その結果を表2に示す。
なお、比較例5ではシリカが凝集していたため、比較例5の研磨液組成物を用いた研磨は行っていない。
【0067】
[被研磨基板]
被研磨基板として、Ni-Pメッキされたアルミニウム合金基板を予めアルミナ研磨材を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。この被研磨基板は、厚さが0.6mm、外径が97mm、内径が25mmであり、AFM(Digital Instrument NanoScope IIIa Multi Mode AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nmであった。
【0068】
[研磨条件(仕上げ研磨条件)]
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:フジボウ社製スエードタイプ(発泡層:ポリウレタンエラストマー、厚さ0.9mm、平均開孔径10μm)
研磨液組成物供給量:100mL/分(被研磨基板1cm2あたりの供給速度:0.072mL/分)
下定盤回転数:25rpm
研磨荷重:13.0kPa
研磨時間:5分間
基板の枚数:10枚
【0069】
4.評価
[研磨速度の評価]
研磨前後の各基板1枚当たりの重さを計り(Sartorius社製、「BP-210S」)を用いて測定し、各基板の質量変化から質量減少量を求めた。全10枚の平均の質量減少量を研磨時間で割った値を研磨速度とし、下記式により算出した。研磨速度の測定結果を、比較例1を100とした相対値として表2に示す。
質量減少量(mg)={研磨前の質量(mg)- 研磨後の質量(mg)}
研磨速度(mg/分)=質量減少量(mg)/ 研磨時間(分)
【0070】
[スクラッチの評価]
測定機器:KLA ・テンコール社製、「Candela OSA7100」
評価:研磨試験機に投入した基板のうち、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10,000rpmにてレーザーを照射してスクラッチ数を測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのスクラッチ数を算出した。スクラッチ数の評価結果を、比較例1を100とした相対値として表2に示す。
【0071】
[保存安定性の評価]
調製した研磨液を室温にて60分静置したのち、析出物の有無を目視で確認した。下部に沈降物が確認された場合は析出物ありと判断し、表2において「×」と表記した。沈降物が確認されなかった場合は保存安定性に優れると判断し、表2において「○」と表記した。
【0072】
【表2】
【0073】
上記表2に示すとおり、実施例1~6の研磨液組成物は、比較例1~4、6の研磨液組成物に比べて、保存安定性に優れ、研磨速度を確保しつつ、スクラッチが低減していた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示によれば、例えば、高記録密度化に適した磁気ディスク基板を提供できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子(成分A)と、酸(成分B)と、酸化剤(成分C)と、置換基のない炭化水素基を少なくとも1つ有する第4級ホスホニウム塩(成分D)と、水系媒体と、を含有する、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項2】
pHが1以上3以下である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
成分Dの炭化水素基は、アルキル基、アリール基又はアラルキル基である、請求項に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
成分Dの合計炭素数は10以上である、請求項に記載の研磨液組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する研磨工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法。