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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073265
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】解析装置、および解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 13/04 20060101AFI20240522BHJP
   A63B 43/00 20060101ALI20240522BHJP
   A63B 69/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
G01P13/04 C
A63B43/00 E
A63B69/00 505B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184373
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖仙
(72)【発明者】
【氏名】角 淳之介
(72)【発明者】
【氏名】島名 孝次
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 悠人
【テーマコード(参考)】
2F034
【Fターム(参考)】
2F034AA20
2F034EA01
(57)【要約】
【課題】遷移期におけるボールのスピン軸を精度よく算出することにより、定常期におけるスピン軸を精度よく算出することが可能な解析装置を提供する。
【解決手段】解析装置は、3軸地磁気データに基づいて、定常期における、ボールに固定された第1座標系のボールのスピンベクトルを算出する第1スピンベクトル算出部と、3軸地磁気データおよび3軸加速度データに基づいて、第1座標系のボールの瞬時スピンベクトルを時系列で算出する瞬時スピンベクトル算出部と、瞬時スピンベクトルを用いて、第1座標系から絶対空間に固定された第2座標系への座標変換行列を算出する座標変換部と、第2座標系の加速度ベクトルに基づいて、第2座標系のボールの放出方向を算出する方向算出部と、第2座標系における放出方向および重力方向に対する定常期のボールのスピンベクトルを算出する第2スピンベクトル算出部とを備える。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者により放出されるボールに内蔵されたセンサにより検出される時系列の3軸加速度データおよび3軸地磁気データを取得する取得部と、
前記3軸地磁気データに基づいて、前記ボールが放出された後の定常期における、前記ボールに固定された第1座標系の前記ボールのスピンベクトルを算出する第1スピンベクトル算出部と、
前記3軸地磁気データおよび前記3軸加速度データに基づいて、前記第1座標系の前記ボールの瞬時スピンベクトルを時系列で算出する瞬時スピンベクトル算出部と、
前記時系列の瞬時スピンベクトルを用いて、前記第1座標系から絶対空間に固定された第2座標系への座標変換行列を算出する座標変換部とを備え、
前記座標変換部は、前記座標変換行列を用いて、前記3軸地磁気データに基づく前記第1座標系の地磁気ベクトルを前記第2座標系の地磁気ベクトルに座標変換し、前記3軸加速度データに基づく前記第1座標系の加速度ベクトルを前記第2座標系の加速度ベクトルに座標変換し、前記定常期における前記第1座標系の前記ボールのスピンベクトルを前記第2座標系の前記ボールのスピンベクトルに座標変換し、
前記第2座標系の前記加速度ベクトルに基づいて、前記第2座標系の前記ボールの放出方向を算出する方向算出部と、
前記第2座標系の前記地磁気ベクトルと、前記第2座標系の前記ボールの放出方向と、前記定常期における前記第2座標系の前記ボールのスピンベクトルとに基づいて、前記第2座標系における前記放出方向および重力方向に対する前記定常期の前記ボールのスピンベクトルを算出する第2スピンベクトル算出部とをさらに備える、解析装置。
【請求項2】
前記瞬時スピンベクトル算出部は、
前記第1座標系の瞬時地磁気ベクトルに基づいて、前記第1座標系の前記瞬時スピンベクトルの地磁気回り成分に直交する直交成分を算出し、
前記直交成分と、前記瞬時地磁気ベクトルと、前記第1座標系の瞬時加速度ベクトルとに基づいて、前記地磁気回り成分を算出し、
前記地磁気回り成分と前記直交成分とに基づいて、前記瞬時スピンベクトルを算出する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記直交成分は、前記瞬時地磁気ベクトルと、前記瞬時地磁気ベクトルの時間微分との外積により算出される、請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記瞬時スピンベクトル算出部は、
前記直交成分と、前記瞬時地磁気ベクトルと、前記第1座標系の瞬時加速度ベクトルとを用いて前記地磁気回り成分の差分方程式を生成し、
前記差分方程式を解くことにより、前記地磁気回り成分を算出する、請求項2または3に記載の解析装置。
【請求項5】
前記3軸地磁気データは、オフセット補正されている、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項6】
時系列の前記3軸加速度データおよび前記3軸地磁気データは、スプライン補間により内挿される、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項7】
前記3軸加速度データに基づいて、前記被験者により投球動作が行なわれたか否かを判定する判定部をさらに備え、
前記判定部は、
前記3軸加速度データに基づいて前記ボールが放出された第1時刻と、前記ボールが捕球された第2時刻とを算出し、
前記第1時刻と前記第2時刻とに基づいて、前記ボールの飛翔時間を算出し、
前記飛翔時間が第1閾値以上かつ第2閾値未満である場合に、前記被験者により通常の投球動作が行なわれたと判定する、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項8】
被験者により放出されるボールに内蔵されたセンサにより検出される時系列の3軸加速度データおよび3軸地磁気データを取得するステップと、
前記3軸地磁気データに基づいて、前記ボールが放出された後の定常期における、前記ボールに固定された第1座標系の前記ボールのスピンベクトルを算出するステップと、
前記3軸地磁気データおよび前記3軸加速度データに基づいて、前記第1座標系の前記ボールの瞬時スピンベクトルを時系列で算出するステップと、
前記時系列の瞬時スピンベクトルを用いて、前記第1座標系から絶対空間に固定された第2座標系への座標変換行列を算出するステップと、
前記座標変換行列を用いて、前記3軸地磁気データに基づく前記第1座標系の地磁気ベクトルを前記第2座標系の地磁気ベクトルに座標変換し、前記3軸加速度データに基づく前記第1座標系の加速度ベクトルを前記第2座標系の加速度ベクトルに座標変換し、前記定常期における前記第1座標系の前記ボールのスピンベクトルを前記第2座標系の前記ボールのスピンベクトルに座標変換するステップと、
前記第2座標系の前記加速度ベクトルに基づいて、前記第2座標系の前記ボールの放出方向を算出するステップと、
前記第2座標系の前記地磁気ベクトルと、前記第2座標系の前記ボールの放出方向と、前記定常期における前記第2座標系の前記ボールのスピンベクトルとに基づいて、前記第2座標系における前記放出方向および重力方向に対する前記定常期の前記ボールのスピンベクトルを算出するステップとを含む、解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析装置、および解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ボールに内蔵されたセンサからの情報を用いることで、回転速度、回転軸の方向等のパラメータを計測する手法が知られている。例えば、特開2017-90433号公報(特許文献1)には、ボール回転方向検出システムが開示されている。ボール回転方向検出システムは、ボールに固定された磁気センサと、加速度センサと、移動方角を記憶する方角記憶部と、地磁気の伏角を記憶する伏角記憶部と、演算部とを有する。演算部は、地磁気ベクトルと加速度ベクトルと移動方角と伏角と、地磁気ベクトルまたは加速度ベクトルの時間変化とを基に、進行方向および重力方向に対するボールの回転軸の向きおよび回転方向を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-90433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被験者(例えば、ピッチャー)が相手方(例えば、キャッチャー)に投球を行なう場合、ボールが加速する加速期(例えば、静止状態からボールの並進速度が増大する期間)、遷移期(例えば、ボールの並進速度がほぼ最大で,急激にボールのスピンの大きさと方向が変化する期間)、ボールリリース後の定常期を経てボールがキャッチャーに近づいていく。遷移期においては並進加速度のピークが出現し,ボールのスピン量およびスピン軸が急激に変化する。ここで、定常期におけるスピン軸を精度よく算出するためには、定常期の前の期間である、スピン軸が急激に変化する遷移期において、スピン軸がどのように変化しているのかを精度よく算出する必要がある。特許文献1では、当該課題に対する解決手段を何ら教示または示唆していない。
【0005】
本開示のある局面における目的は、遷移期におけるボールのスピン軸を精度よく算出することにより、定常期におけるスピン軸を精度よく算出することが可能な解析装置、および解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある実施の形態に従う解析装置は、被験者により放出されるボールに内蔵されたセンサにより検出される時系列の3軸加速度データおよび3軸地磁気データを取得する取得部と、3軸地磁気データに基づいて、ボールが放出された後の定常期における、ボールに固定された第1座標系のボールのスピンベクトルを算出する第1スピンベクトル算出部と、3軸地磁気データおよび3軸加速度データに基づいて、第1座標系のボールの瞬時スピンベクトルを時系列で算出する瞬時スピンベクトル算出部と、時系列の瞬時スピンベクトルを用いて、第1座標系から絶対空間に固定された第2座標系への座標変換行列を算出する座標変換部とを備える。座標変換部は、座標変換行列を用いて、3軸地磁気データに基づく第1座標系の地磁気ベクトルを第2座標系の地磁気ベクトルに座標変換し、3軸加速度データに基づく第1座標系の加速度ベクトルを第2座標系の加速度ベクトルに座標変換し、定常期における第1座標系のボールのスピンベクトルを第2座標系のボールのスピンベクトルに座標変換する。解析装置は、第2座標系の加速度ベクトルに基づいて、第2座標系のボールの放出方向を算出する方向算出部と、第2座標系の地磁気ベクトルと、第2座標系のボールの放出方向と、定常期における第2座標系のボールのスピンベクトルとに基づいて、第2座標系における放出方向および重力方向に対する定常期のボールのスピンベクトルを算出する第2スピンベクトル算出部とをさらに備える。
【0007】
他の実施の形態に従う解析方法は、被験者により放出されるボールに内蔵されたセンサにより検出される時系列の3軸加速度データおよび3軸地磁気データを取得するステップと、3軸地磁気データに基づいて、ボールが放出された後の定常期における、ボールに固定された第1座標系のボールのスピンベクトルを算出するステップと、3軸地磁気データおよび3軸加速度データに基づいて、第1座標系のボールの瞬時スピンベクトルを時系列で算出するステップと、時系列の瞬時スピンベクトルを用いて、第1座標系から絶対空間に固定された第2座標系への座標変換行列を算出するステップと、座標変換行列を用いて、3軸地磁気データに基づく第1座標系の地磁気ベクトルを第2座標系の地磁気ベクトルに座標変換し、3軸加速度データに基づく第1座標系の加速度ベクトルを第2座標系の加速度ベクトルに座標変換し、定常期における第1座標系のボールのスピンベクトルを第2座標系のボールのスピンベクトルに座標変換するステップと、第2座標系の加速度ベクトルに基づいて、第2座標系のボールの放出方向を算出するステップと、第2座標系の地磁気ベクトルと、第2座標系のボールの放出方向と、定常期における第2座標系のボールのスピンベクトルとに基づいて、第2座標系における放出方向および重力方向に対する定常期のボールのスピンベクトルを算出するステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、遷移期におけるボールのスピン軸を精度よく算出することにより、定常期におけるスピン軸を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】解析装置の全体構成を説明するための図である。
図2】端末装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】センサ機器のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】解析装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
図5】加速度の時間変化を示す図である。
図6】地磁気データの微分値の時間変化を示す図である。
図7】対象区間の設定方式を説明するための図である。
図8】定常期におけるスピン軸の計算原理を説明するための図である。
図9】地磁気ベクトルの分布を説明するための図である。
図10】近似直線の関係式を説明するための図である。
図11】瞬時スピンベクトルと、地磁気回り成分および直交成分との関係を説明するための図である。
図12】慣性モーメント、位置ベクトルおよび作用力の関係を示す図である。
図13】スピン軸の向きを説明するための図である。
図14】最終座標系でのスピンベクトルを説明するための図である。
図15】ユーザインターフェイス画面を示す図である。
図16】センサ機器20の機能構成例を示すブロック図である。
図17】グラブ叩き動作の判定方式を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0011】
<全体構成>
図1は、解析装置1000の全体構成を説明するための図である。図1を参照して、解析装置1000は、投手である被験者5が放出する(例えば、投げた)野球用のボール2の回転軸(以下、「スピン軸」とも称する。)を解析するための装置である。
【0012】
解析装置1000は、端末装置10と、センサ機器20が内蔵されたボール2とを含む。本実施の形態では、センサ機器20は、ボール2のスピン軸を解析する機能を有し、端末装置10は、センサ機器20による解析結果を表示する機能を有する。
【0013】
端末装置10は、スマートフォンで構成される。ただし、端末装置10は、種類を問わず任意の装置として実現できる。例えば、端末装置10は、ラップトップPC(personal Computer)、タブレット端末、デスクトップPC等であってもよい。
【0014】
端末装置10は、無線通信方式によりセンサ機器20と通信する。例えば、無線通信方式としては、BLE(Bluetooth(登録商標) low energy)が採用される。ただし、端末装置10は、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(local area network)等のその他の無線通信方式を採用してもよい。
【0015】
センサ機器20は、ボール2に固定された座標系(以下、「ボール座標系」とも称する。)における加速度および磁場(磁束密度)を検出する。具体的には、センサ機器20は、加速度センサと、地磁気センサとを含む。加速度センサは、互いに直交する3つの軸(x軸,y軸,z軸)方向の加速度を示す時系列の加速度データ(例えば、加速度ベクトル)を検出する。地磁気センサは、互いに直交する3つの軸方向の磁場(磁束密度)を示す時系列の地磁気データ(例えば、地磁気ベクトル)を検出する。地磁気センサには、例えば、MR(Magnet resistive)素子、MI(Magnet impedance)素子、ホール素子等が用いられる。
【0016】
センサ機器20は、検出したセンサデータ(例えば、時系列の加速度データおよび地磁気データ)に基づいて、所定の解析処理を実行して、ボール2のスピン軸およびスピン量(すなわち、スピンベクトル)を算出する。端末装置10は、スピン軸およびスピン量等をセンサ機器20から受信して、それらをディスプレイに表示する。
【0017】
<ハードウェア構成>
(端末装置10)
図2は、端末装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。図2を参照して、端末装置10は、主たる構成要素として、プロセッサ(Central Processing Unit)102と、メモリ104と、タッチパネル106と、ディスプレイ110と、無線通信部112と、通信アンテナ113と、メモリインターフェイス(I/F)114と、スピーカ116と、マイク118と、通信インターフェイス(I/F)120とを含む。また、記録媒体115は、外部の記憶媒体である。
【0018】
プロセッサ102は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、端末装置10の各部の動作を制御する。プロセッサ102は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)あるいはMPU(Multi Processing Unit)といった演算処理部である。メモリ104は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、フラッシュメモリなどによって実現される。メモリ104は、プロセッサ102によって実行されるプログラム、またはプロセッサ102によって用いられるデータなどを記憶する。
【0019】
タッチパネル106は、表示部としての機能を有するディスプレイ110上に設けられている。無線通信部112は、通信アンテナ113を介して移動体通信網に接続し無線通信のための信号を送受信する。
【0020】
メモリインターフェイス(I/F)114は、外部の記録媒体115からデータを読み出す。プロセッサ102は、メモリインターフェイス114を介して外部の記録媒体115に格納されているデータを読み出して、当該データをメモリ104に格納する。プロセッサ102は、メモリ104からデータを読み出して、メモリインターフェイス114を介して当該データを外部の記録媒体115に格納する。記録媒体115としては、USB(Universal Serial Bus)メモリ、ハードディスクなどの不揮発的にプログラムを格納する媒体が挙げられる。
【0021】
スピーカ116は、プロセッサ102からの命令に基づいて音声を出力する。マイク118は、端末装置10に対する発話を受け付ける。通信インターフェイス(I/F)120は、例えば、端末装置10とセンサ機器20との間でデータを送受信するための通信インターフェイスである。通信方式としては、例えば、BLE、無線LANなどによる無線通信である。
【0022】
(センサ機器20)
図3は、センサ機器20のハードウェア構成を示すブロック図である。図3を参照して、センサ機器20は、主たる構成要素として、各種処理を実行するためのプロセッサ202と、プロセッサ202によって実行されるプログラム、データなどを格納するためのメモリ204と、加速度センサ205と、地磁気センサ206と、端末装置10と通信するための通信インターフェイス(I/F)210と、センサ機器20の各種構成要素に電力を供給する蓄電池212とを含む。
【0023】
<動作例>
図4は、解析装置1000の動作例を説明するためのフローチャートである。典型的には、図4に示す各ステップのうち、端末装置10によるステップは、プロセッサ102により実現され、センサ機器20によるステップは、プロセッサ202により実現される。ここでは、解析装置1000が、被験者5により投じられたボール2に内蔵されたセンサにより検出されたセンサデータを解析して、各種情報を表示するまでの流れを説明する。
【0024】
センサ機器20(プロセッサ202)は、加速度センサ205により検出された時系列の3軸方向の加速度データ(以下「3軸加速度データ」とも称する。)と、地磁気センサ206により検出された時系列の3軸方向の地磁気データ(以下「3軸地磁気データ」とも称する。)とを取得する(ステップS10)。取得される3軸加速度データおよび3軸地磁気データは、ボール座標系におけるデータである。
【0025】
センサ機器20は、時系列の3軸加速度データおよび3軸地磁気データをスプライン補間により内挿する(ステップS12)。理想的には一定のサンプリング間隔(例えば、2ms)で3軸加速度データおよび3軸地磁気データが取得されるはずだが、通信の不具合等によりデータが欠落する場合がある。ステップS12の処理は、この欠落データをスプライン補間により内挿する処理である。
【0026】
続いて、センサ機器20は、3軸加速度データに基づいて、被験者5がボール2を放出した(リリース)した基準時刻tを算出する(ステップS14)。例えば、センサ機器20は、3軸加速度データ(a,a,a)のうちの最大加速度(絶対値)が現れる時刻を基準時刻tとして算出する。
【0027】
図5は、加速度の時間変化を示す図である。図5の横軸は時間、縦軸はボールの加速度を示している。図5を参照して、センサ機器20は、加速度が最大になる時刻を基準時刻tとして設定する。センサ機器20は、基準時刻tをメモリ204に記憶する。
【0028】
なお、3軸加速度データにおいては、高周波ノイズの影響を低減するために3軸の加速度データの移動平均が用いられてもよい。この場合、時刻tの3軸加速度データ(a’x.t,a’y.t,a’z.t)は、次の式(1)のように表される。以下では、説明の容易化のため、移動平均を用いる場合であっても単に、3軸加速度データ(a,a,a)と称する。
【0029】
【数1】
【0030】
再び、図4を参照して、センサ機器20は、3軸地磁気データに基づいて、投球動作の開始時刻tを算出する(ステップS16)。例えば、センサ機器20は、t<tとなる所定区間(例えば、t-100ms<t<t)の3軸地磁気データ(M,M,M)の微分値を計算し、その絶対値の極小値が現れる時刻を投球動作の開始時刻tとして算出する。
【0031】
図6は、地磁気データの微分値の時間変化を示す図である。図6の横軸は時間、縦軸は地磁気データの微分値を示している。図6を参照して、センサ機器20は、地磁気データの微分値が極小である時刻を投球動作の開始時刻tとして設定する。センサ機器20は、開始時刻tをメモリ204に記憶する。
【0032】
なお、高周波ノイズの影響を避けるために、3軸地磁気データ(M,M,M)の微分値は、5点移動2次式近似を用いて次の式(2)のように計算されてもよい。
【0033】
【数2】
【0034】
再び、図4を参照して、センサ機器20は、3軸地磁気データに基づいて、定常期における、投球方向および重力方向に対するスピンベクトル(スピン軸の向きおよびスピン量)を算出する対象区間Txを設定する(ステップS18)。
【0035】
図7は、対象区間Txの設定方式を説明するための図である。図7の波形は、あるチャンネルの時系列の地磁気データを示している。ここでは、センサ機器20は、地磁気データMを利用して、差分の符号が反転するタイミング(すなわち、ゼロクロス時刻)を判定する。好ましくは、3軸地磁気データのうち、振幅が最大(すなわち、最大値と最小値との差が最大)の地磁気データが用いられる。最初の状態をk=0として、k≧4になるまで以下の式(3)に従う処理を実行する。具体的には、時刻(t+Δt)の地磁気データMx.t+Δtと時刻(t-Δt)の地磁気データMx.t-Δtとの差分と、地磁気データMx.tと時刻(t-2Δt)の地磁気データMx.t-2Δtとの差分との積が負である場合、kがインクリメントされる。なお、Δtはサンプリング間隔を示している。
【0036】
【数3】
【0037】
センサ機器20は、t≦t<tを満たす時刻tの区間を対象区間Txに設定する。
再び、図4を参照して、センサ機器20は、定常期におけるボールのスピン軸を算出する(ステップS20)。
【0038】
図8は、定常期におけるスピン軸の計算原理を説明するための図である。図8を参照して、ボール2が一定の回転数ω(すなわち、スピン量ω)を有する場合、絶対空間に固定された定数ベクトルr(例えば、地磁気ベクトル)は、ボール2に固定された座標系(すなわち、ボール座標系)においては、それ自体(定数ベクトルr)を母線とする円錐を描く。また、定数ベクトルrの先端は、ボール座標系上ではスピン軸に垂直な平面Q上で円を描く。地磁気センサのオフセット誤差がある場合でも、平面Qは水平移動するがその向きは変わらない。平面Qに垂直なスピン軸の方向余弦を(lω,mω,nω)、平面Qと原点O(すなわち、ボール2の中心)との距離をhとすると、3軸地磁気データを用いて、以下の式(4)が成立する。
【0039】
【数4】
【0040】
ここで、本明細書では、キャレット付き記号に関し、たとえば記号が“h”である場合に、表記の都合上、以下の式(5)のように表現する。
【0041】
【数5】
【0042】
すなわち、記号hの上にキャレットを付したものと、同じ記号hの横にキャレットを付したものとは、同一の変数を示す。キャレットを上に付した記号は数式中で使用され、キャレットを横に付した記号は文章中で使用される。
【0043】
センサ機器20は、式(6)を用いて最小二乗法の式(7)を解くことにより、式(8)および式(9)に示すように、ボール座標系におけるスピン軸の方向余弦(lω,mω,nω)および距離hを算出する。式(7)は、式(4)の右辺と左辺との差の二乗和を極小にするための条件である。
【0044】
【数6】
【0045】
上記の処理により、センサ機器20は、ボール座標系におけるスピン軸の方向(すなわち、方向余弦)を算出する。なお、スピン量ωを用いると、ボール座標系におけるスピンベクトルωspinは(ωlω,ωmω,ωnω)となる。
【0046】
再び、図4を参照して、センサ機器20は、地磁気センサ206のオフセット処理を実行する(ステップS22)。地磁気センサ206は、その特性によりオフセット量が加算された値が観測される場合が多い。そのため、地磁気センサ206の3軸地磁気データを補正することによりオフセット量を除去する。オフセット処理の方法の詳細については後述する。
【0047】
センサ機器20は、地磁気ベクトルを平面Qへ投影することにより、スピン量ωを算出する(ステップS24)。スピン量ωの算出方式の詳細については後述する。
【0048】
センサ機器20は、3軸地磁気データおよび3軸加速度データに基づいて、ボール座標系のボール2の瞬時スピンベクトルを時系列で算出する(ステップS26)。瞬時スピンベクトルは、時々刻々の(例えば、時刻tにおける)スピンベクトルωを示す。瞬時スピンベクトルの算出方式の詳細については後述する。
【0049】
センサ機器20は、3軸地磁気データに基づくボール座標系の地磁気ベクトル、3軸加速度データに基づくボール座標系の加速度ベクトル、およびステップS20で算出したボール座標系のスピンベクトルωspinを、ボール座標系から絶対空間に固定されたグローバル座標系(すなわち、絶対座標系)に変換する座標変換処理を実行する(ステップS28)。具体的には、センサ機器20は、時系列の瞬時スピンベクトルを用いて、ボール座標系から絶対座標系への座標変換行列を算出し、座標変換行列を用いて上記座標変換処理を実行する。座標変換処理の詳細については後述する。
【0050】
センサ機器20は、時刻tから基準時刻tに観測されたグローバル座標系の加速度ベクトルに基づいて、ボール2が放出される(投じられる)方向(以下、「投球方向」とも称する)を算出する。(ステップS30)。グローバル座標系の投球方向の算出方式の詳細については後述する。
【0051】
センサ機器20は、絶対座標系の地磁気ベクトルと、絶対座標系の投球方向と、絶対座標系のスピンベクトルωspinとに基づいて、絶対座標系における投球方向および重力方向に対する、定常期のボール2のスピンベクトルを算出する(ステップS32)。例えば、センサ機器20は、投球方向をx軸とし、重力方向をy軸とし、x軸およびy軸に直交する方向をz軸とする座標系における定常期のスピンベクトルを算出する。当該スピンベクトルの算出方式の詳細については後述する。
【0052】
端末装置10(プロセッサ102)は、センサ機器20により算出されたスピン量、スピン軸等の各種情報を受信して、ディスプレイ110に各種情報を表示する(ステップS34)。
【0053】
<地磁気センサのオフセット処理>
図4のステップS22における地磁気センサのオフセット処理方式の詳細について説明する。
【0054】
地磁気データのオフセット量を補正するため、センサ機器20は、地磁気ベクトルの先端の平面Qへの投影を計算する(図8参照)。具体的には、時刻tにおける地磁気ベクトルを用いて方向余弦(l^,m^,n^)を式(10)のように定義し、式(11)および式(12)を用いて方向余弦(l,m,n)を求め、式(13)を用いて方向余弦(l,m,n)を定義する。
【0055】
【数7】
【0056】
式(11)は、方向余弦(l^,m^,n^)が、ボール座標系におけるスピン軸の方向余弦(lω,mω,nω)と方向余弦(l^,m^,n^)との外積で表されることを示している。式(13)は、方向余弦(l,m,n)が、方向余弦(l,m,n)と方向余弦(lω,mω,nω)との外積で表されることを示している。したがって、方向余弦(l,m,n)および方向余弦(l,m,n)は、それぞれボール座標系におけるスピン軸の方向余弦(lω,mω,nω)と直交することが理解される。そして、(u,v)を式(14)のように定義する。
【0057】
【数8】
【0058】
式(15)により、中心(u,v)および半径rの近似円を求める。式(15)は式(16)のように変形できるため、式(17)に示す連立方程式を生成することができる。なお、Nは、対象区間Txのサンプリング数である。
【0059】
【数9】
【0060】
上記の連立方程式を解くことにより近似円のパラメータ(すなわち、u,v,r)を算出できる。近似円のパラメータにより回転平面上での補正量は定まるが奥行き方向(スピン軸方向)の補正量は定まらない。奥行き方向の補正量を定めるために、回転平面への投影(u,v)に加えて奥行き方向の距離dも同時に算出する。(u,v,d)を式(18)のように定義すると、地磁気ベクトルは長さが不変であるため、地磁気ベクトルの先端は式(19)で表わされる球面上に分布する。
【0061】
【数10】
【0062】
式(19)で表わされる関係は、図9のように示される。図9は、地磁気ベクトルの分布を説明するための図である。点線のu軸、v軸、d軸は、オフセット誤差なしの座標軸を示している。実線のu軸、v軸、d軸は、オフセット誤差ありの座標軸を示している。座標(u,v,d)は、半径Rの球体の中心Oの座標である。
【0063】
図9に示す近似球面を求めることにより、奥行き方向の補正量dを求めることができる。上記の式(19)を変形すると以下の式(20)が得られる。式(20)より、奥行き方向の補正量dを求めるためには、近似直線を求めればよいことが理解される。補正量dがゼロであれば近似直線は水平線となり、ゼロでなければ勾配を持つことになる。近似直線は、以下の式(21)に示す連立方程式を解くことにより得られる。Nは全区間のサンプリングデータ点数を示している。
【0064】
【数11】
【0065】
図10は、近似直線の関係式を説明するための図である。図10を参照して、図10の横軸はd、縦軸は“(u-u+(v-v+d”で示されている。この場合、近似直線は、図10のように示される。
【0066】
これにより、全ての補正量(すなわち、u,v,d)が定まるため、式(22)によりオフセット量の補正後の地磁気ベクトル(3軸地磁気データ)が得られる。
【0067】
【数12】
【0068】
なお、図4のステップS22以降の処理においては、オフセット補正後の地磁気ベクトル(3軸地磁気データ)が用いられるとする。
【0069】
<スピン量の算出方式>
図4のステップS24におけるスピン量の算出方式の詳細について説明する。
【0070】
一定のスピン量ωでボール2が回転している段階では、絶対空間に固定されたベクトルでは、ボール座標系において、スピン軸の方向余弦(lω,mω,nω)周りに一定のサンプリング間隔Δtにおける角変位Δθが生じる。地磁気データのオフセット量計算のために用いた回転平面へ投影された地磁気ベクトル(u,v)を用いて、角変位Δθを計算できる。具合的には、式(23)を用いてオフセット補正を行なう。以降の処理の(u,v)はオフセット補正後のデータである。また、(c,s)を式(24)のように定義すれば、式(25)が成立する。式(25)に基づくと、式(26)の関係が導出される。
【0071】
【数13】
【0072】
対象区間Tx全体において式(26)の関係を用いて、式(27)で定義される(C,S)を算出する。スピンが安定している状態では、理論的には式(25)および式(26)における(c,s)および「(u +v 1/2」は一定値となるが、ノイズによる変動を考慮する必要がある。そのため、式(27)では、対象区間Tx全体にわたって式(26)の右辺を加算して(C,S)を求めている。式(27)において算出された(C,S)を用いて、式(28)では、大きさが“1”になる単位ベクトルとしての(c,s)が算出される。算出された(c,s)を用いてΔθは式(29)で示される。よって、スピン量ωは式(30)のように求められる。
【0073】
【数14】
【0074】
<瞬時スピンベクトルの算出方式>
図4のステップS26における瞬時スピンベクトルの算出方式の詳細について説明する。
【0075】
ボールをリリースする前の投球動作時においてはボールはスピン軸を変化させながら回転する。ボールがリリースされた後、ボールはスピン軸を一定に保ちながら回転運動を続ける。ジャイロセンサを用いると、この一連の角運動の変化を追うことが可能であるが、ジャイロセンサのダイナミックレンジの制約等により高速回転時にはその角運動を追うことが不可能になる。本実施の形態では、この問題を解決するために地磁気の時間変化を利用する。以下、地磁気ベクトルは大きさが“1”の単位ベクトルであると仮定する。
【0076】
時刻tにおけるスピンベクトル(角速度ベクトル)ωを、地磁気周り成分(ベクトル)ωM.tと、地磁気周り成分に直交する直交成分(ベクトル)ωD.tとに分離する。ωは、ある瞬間のスピンベクトルであるため、“瞬時スピンベクトル”とも称される。
【0077】
図11は、瞬時スピンベクトルと、地磁気回り成分および直交成分との関係を説明するための図である。図11を参照して、瞬時スピンベクトルω、地磁気回り成分ωM.t、および直交成分ωD.tの関係は、以下の式(31)で示される。時刻tの地磁気方向の単位ベクトル(地磁気ベクトル)をMとすると、地磁気回り成分ωM.tは、以下の式(32)で表わされる。以降の数式においては、式(32)のように、ベクトルは太字で表記され、ベクトルの大きさは細字で表記されるものとする。そのため、数式においては、ベクトルωの大きさ|ω|は、単に細字の“ω”で表記される(例えば、式(32)では、太字のベクトルωM.tの大きさは細字のωM.tで表記されている。)
次に、式(31)および式(32)から式(33)が得られる。地磁気ベクトルの時間微分M・は式(34)で表わされる。また、直交成分ωD.tは、地磁気ベクトルMと時間微分M・との外積で表わされるため、式(35)の関係が得られる。なお、「M・」はMの文字の上に点を付した文字を意味する。これは以下の他の文字についても同様である。
【0078】
【数15】
【0079】
次に、角速度の時間微分ベクトル“ω・”はボールの中心から作用点に向かう位置ベクトルrと作用点における作用力ベクトルfとの外積に比例する。ボールの質量をm、慣性モーメントをI、時刻tにおけるボールの加速度ベクトルをaとすると、これらの関係は、式(36)のように表される。
【0080】
【数16】
【0081】
図12は、慣性モーメント、位置ベクトルおよび作用力の関係を示す図である。図12を参照して、時間微分ベクトル“ω・”は、位置ベクトルrと作用力ベクトルfで形成される平面に垂直な軸上に発生する。すなわち、時間微分ベクトル“ω・”と作用力ベクトルfとの内積は0である。そのため、以下の式(37)の関係式が得られる。さらに、式(33)に示す角速度の定義を考慮すれば、式(37)は式(38)と表わすことができる。式(38)に示す微分方程式を差分方程式で近似すると、以下の式(39)が得られる。Δtはサンプリング間隔を示している。
【0082】
【数17】
【0083】
ここで、A、B、Cを以下の式(40)のように定義すると、式(41)のような地磁気回り成分ωM.tの差分方程式を得ることができる。ここで、B≠0の場合には、式(41)の差分方程式を解くことで地磁気回り成分ωM.tの前後の変化を得ることができる。これにより、各時刻tの地磁気回り成分ωM.tが得られる。一方、B=0の場合には、式(42)のように地磁気回り成分ωM.tを決定できるものの、前後の地磁気回り成分ωM.tの前後の変化を得ることができない(すなわち、各時刻tの地磁気回り成分ωM.tが得られない)。
【0084】
【数18】
【0085】
したがって、以下の2つのいずれかの方法により地磁気回り成分ωM.tを求める。
1つ目の方法は、関数近似により地磁気回り成分ωM.tを求める方法である。まず、時刻t前後で地磁気回り成分が式(43)のように変化すると仮定する。式(41)の差分方程式と近似誤差εとを用いると式(44)が得られる。式(43)の関係を用いると式(44)は式(45)のように書き表すことができる。
【0086】
【数19】
【0087】
ここで、“2N+1”を関数近似の点数として誤差評価関数を式(46)のように定めると、この誤差評価関数を極小化する条件は式(47)のように表される。したがって、式(48)に示す連立方程式を得ることができる。
【0088】
【数20】
【0089】
連立方程式を解くことにより、ωt0およびΔωが得られる。したがって、式(43)から各時刻tの地磁気回り成分ωM.tを求めることができる。
【0090】
2つ目の方法は、収束計算により地磁気回り成分ωM.tを求める方法である。
修正前の時刻tの地磁気周り成分ωM.tが修正により式(49)のように修正されるとする。この場合、修正後の差分方程式の誤差ε'は式(50)のように表される。式(50)から明らかなように、この修正は時刻t前後の時刻の誤差にも影響を与える。具体的には、式(51)が成立する。
【0091】
【数21】
【0092】
ここで、修正前の時刻tの差分方程式の誤差をεとすると、εは式(52)で表される。したがって、修正後の時刻t前後の誤差について式(53)が成立する。
【0093】
【数22】
【0094】
ここで、Eを以下の式(54)のように定義すると、Eを極小化する条件は以下の式(55)で表わされる。したがって、以下の式(56)が成立しなければならないため、式(56)より修正量δωM.tは、以下の式(57)で表わされる。
【0095】
【数23】
【0096】
ただし、0≦t≦Tとすると、Δt≦t≦T-Δtの範囲でのみεは成立する。そのため、δωM.0、δωM.Δt、δωM.T-Δt、δωM.Tは、それぞれ、以下の式(58)、式(59)、式(60)および式(61)とする必要がある。
【0097】
【数24】
【0098】
以上より、各時刻tの修正量δωM.tを求めることができるが、これをそのまま利用して地磁気回り成分ωM.tを修正すると修正値が発散する可能性がある。そこで、減数係数η(ただし、0<η<1)を用いて、以下の式(62)のように、地磁気回り成分ωM.tの修正を実行する。
【0099】
【数25】
【0100】
修正後のω'M.tを次の繰り返しにおける修正前のωM.tとみなして収束計算を繰り返す。例えば、実際の計算ではη=0.7とすると発散が抑えられ、5回程度の繰り返しで計算が収束し始め、10回程度繰り返せば十分な精度が得られる。なお、ωM.tの初期値はすべて0とすればよい。
【0101】
上記の2つの方法のいずれかにより地磁気回り成分ωM.tを求めることができれば、式(63)のように、各時刻tの瞬時スピンベクトルωを定めることができる。式(63)で求められる瞬時スピンベクトルωは、ボールに対する空間の瞬時スピンベクトルである。そのため、空間に対するボールの瞬時スピンベクトルωs.tはそれを反転させたベクトルとなり、式(64)で表わされる。
【0102】
【数26】
【0103】
これにより、ボールに固定された座標系(すなわち、ボール座標系)の各時刻tにおける瞬時スピンベクトルωが得られる。
<座標変換処理>
図4のステップS28における座標変換処理の詳細について説明する。
【0104】
ボール座標系(ここでは、「ローカル座標系」とも称する。)における各ベクトル(例えば、スピンベクトル、地磁気ベクトル、加速度ベクトル)を、絶対空間に固定された絶対座標系(ここでは、「グローバル座標系」とも称する。)に変換することを考える。
【0105】
基準時刻tにおけるローカル座標系とグローバル座標系とが同一であると仮定すれば、空間に固定した任意のベクトル(例えば、地磁気ベクトル)xのローカル座標系からグローバル座標系への座標変換行列をRとすると式(65)が成立する。ベクトルxの任意の時刻(例えば、t=kΔt)におけるローカル座標系でのベクトルをxとし,ベクトルxのグローバル座標系への座標変換行列をRとすると式(66)が成立する。ただし、kは0以上の整数である。
【0106】
【数27】
【0107】
時刻kΔtからΔt後の時刻(すなわち、t=(k+1)Δt)におけるベクトルxのローカル座標系での値がxk+1として得られたとする。xとxk+1との関係が式(67)のようになっていれば式(68)が成立するため、座標変換行列Rk+1は式(69)で表わされる。
【0108】
【数28】
【0109】
ΔR -1は、ローカル座標系におけるボールに対する空間の回転の瞬時スピンベクトルωから算出することができる。ある瞬間のローカル座標系におけるスピンベクトルω(すなわち、瞬時スピンベクトルω)は上記のように算出されている。
【0110】
まず、式(70)に示すように、スピンベクトルωをローカル座標系からグローバル座標系に座標変換する。また、スピンベクトルωの大きさ、スピンベクトルωの方向余弦、および単位時間(Δt)当たりにボールに対して空間がスピン軸周りに回転する角度を示す回転角θは、それぞれ、式(71)、式(72)および式(73)のように定める。この場合、ΔR -1は、ロドリゲスの回転公式により式(74)のように表される。
【0111】
【数29】
【0112】
ΔR -1を用いて、スピンベクトルω、地磁気ベクトルMおよび加速度ベクトルaをローカル座標系からグローバル座標系へ逐次変換できる。具体的には、以下の手順により座標変換処理が行なわれる。
【0113】
まず、k=0として、座標変換行列Rを式(75)に示すように定める。次に、座標変換行列R(初期値はR)を用いて、式(76)に示すように、スピンベクトルωをローカル座標系からグローバル座標系に座標変換する。続いて、座標変換行列Rを用いて、式(77)に示すように地磁気ベクトルMをローカル座標系からグローバル座標系に座標変換し、式(78)に示すように加速度ベクトルaをローカル座標系からグローバル座標系に座標変換する。続いて、グローバル座標系に座標変換したスピンベクトルωを用いて、式(70)~式(74)で説明したように、ΔR -1を算出する。次に、式(79)に示すように、座標変換行列Rk+1を算出する。
【0114】
【数30】
【0115】
そして、k=k+1として、上記手順を再度実行する。これにより、グローバル座標系に座標変換されたスピンベクトルωk+1、地磁気ベクトルMk+1、加速度ベクトルak+1が得られる。
【0116】
上記手順を繰り返すことにより、グローバル座標系における各時刻tのスピンベクトルω、地磁気ベクトルM、加速度ベクトルaが得られる。
【0117】
ここで、定常期(例えば、時刻t以降の期間)においては、ボール座標系(ローカル座標系)のスピンベクトルωspinは変化しない。したがって、定常期では座標変換行列Rはスピンベクトル周りに回転を生じさせる変換行列となるため、グローバル座標系においてもスピンベクトルωspinは一定の値を取り続ける。実際には、式(76)で得られるグローバル座標系に変換されたスピンベクトルωspinの時刻t~時刻tにおける平均値を、グローバル座標系における定常期のスピンベクトルとする。なお、このスピンベクトルの大きさは、数値計算誤差の影響を考慮すると、図4のステップS20で算出した値を採用することが望ましい。
【0118】
なお、上記の手順による座標変換処理では計測ノイズに由来する誤差が発生する場合がある。そのための回転補正を各ステップで実行することが望ましい。回転補正は、回転軸周りの補正および回転平面からズレの補正の2段階で実行される。
【0119】
まず、回転軸回りの補正について説明する。任意の時刻tのスピンベクトルをω、地磁気ベクトルをM、目標地磁気ベクトル(例えば、前のコマの地磁気ベクトル)をMとする。スピンベクトルωの単位ベクトルeω(回転軸ベクトルeω)は以下の式(80)で表わされる。単位ベクトルeωと、目標地磁気ベクトルに対する現在の地磁気ベクトルのスピン軸に垂直な平面上での相対角Δθとを用いると、式(81)が成立する。
【0120】
【数31】
【0121】
相対角Δθおよび単位ベクトルeωが定まれば座標変換行列が定まるため、地磁気ベクトルMを回転補正することができる。
【0122】
次に、回転平面からのズレの補正について説明する。上記の回転軸周りの補正によりスピン軸に垂直な平面状で2つの地磁気ベクトルは重なるが、奥行き方向のズレが残る。このズレの補正は、目標地磁気ベクトルに対する補正後の地磁気ベクトルの相対角をΔθとすると、以下の式(82)が成立する。この補正が必要な回転軸ベクトルeは、以下の式(83)で表わされる。
【0123】
【数32】
【0124】
相対角Δθおよび単位ベクトルeが定まれば座標変換行列が定まるため、地磁気ベクトルMを回転補正することができる。
【0125】
<投球方向の算出>
図4のステップS30における投球方向の算出方式の詳細について説明する。
【0126】
上記の座標変換処理によりグローバル座標系に座標変換された加速度ベクトルaを用いて、投球方向を算出する。
【0127】
まず、台形公式を用いた数値積分により速度ベクトルvを算出する。時刻tの速度ベクトル(v,v,v)は以下の式(84)で表わされる。この場合、時刻(t+Δt)の速度ベクトル(v,v,v)は以下の式(85)で表わされる。そして、t=tにおける速度ベクトルvt0の方向を投球方向と定める。すなわち、投球方向を表わす単位ベクトルepitchは、以下の式(86)で表わされる。
【0128】
【数33】
【0129】
<最終座標系でのスピンベクトルの算出>
図4のステップS32におけるスピンベクトルの算出方式の詳細について説明する。上記までの処理で、グローバル座標系における投球方向およびスピン軸の方向(スピンベクトル)は定まったが、重力方向が不明である。
【0130】
ここで、投球方向をx軸とし、投球軸(投球方向)とスピン軸とを含む平面に垂直な軸をy軸とし、x軸およびy軸に垂直な右手系の軸をz軸とした座標系を考える。上記の座標変換処理によりグローバル座標系に座標変換された地磁気ベクトルMのt=tにおける地磁気ベクトルMt0の成分を式(87)で表わす。また、地磁気ベクトルMt0の単位ベクトルe(すなわち、方向余弦(l,m,n))を以下の式(88)で表わす。地磁気は、一定の伏角θinclinationを有する(例えば、東京、大阪では約49度)ため、y軸が正しく鉛直上向きを向いている場合には式(89)が成立する。
【0131】
【数34】
【0132】
式(89)が成立しない場合には、単位ベクトルeをx軸(投球方向)周りに回転させることにより正しい単位ベクトルeM.correctに変換する。単位ベクトルeM.correctを以下の式(90)で表わすと、伏角に関する制約条件より以下の式(91)が成立する必要がある。
【0133】
【数35】
【0134】
補正回転角をθとして、(c,s)を式(92)のように定義すれば、式(93)が成立する。式(93)から式(94)が導出されるため、式(94)から(c,s)は式(95)のように表される。
【0135】
【数36】
【0136】
ここで、nM.correctには、2つの取り得る解がある。各々に対応する(c,s)を(c,s)および(c,s)として、それぞれを成分とした2つの回転行列R,Rを考える。回転行列Rは式(96)で表わされ、回転行列Rは式(97)で表わされる。2つの回転行列R,Rを用いて、上記の<座標変換処理>において、ローカル座標系からグローバル座標系に変換された定常期のスピンベクトルωspinを座標変換する。そして、回転行列Rを用いて座標変換したスピンベクトルωspinと参照スピンベクトルωrefとの一致度Cと、回転行列Rを用いて座標変換したスピンベクトルωspinと参照スピンベクトルωrefとの一致度Cとを評価する。すなわち、一致度C(k=1、2)は式(98)で表わされる。
【0137】
【数37】
【0138】
式(98)から理解されるように、一致度Cは-1~+1の値を取り、座標変換後のスピン軸が参照値と一致した場合に最大値(その最大は+1)を取る。参照スピンベクトルωrefには球種および左右投げ別の標準値が用いられる。一致度Cが大きくなる回転行列Rを採用して、スピンベクトルωspin、地磁気ベクトルM、投球方向ベクトルepitchを座標変換する。これにより、投球方向をx軸とし、重力方向をy軸とし、x軸およびy軸に直交する方向をz軸とする座標系における定常期のスピンベクトルωspinが算出される。すなわち、投球方向および重力方向に対する定常期のスピンベクトルが算出される。
【0139】
このようなスピンベクトルωspinからは、スピン量ωが式(99)で定められ、式(100)に示すような方向余弦(lspin,mspin,nspin)を用いると、方位角θazimuthおよび仰角θelevationが、それぞれ式(101)および式(102)で表わされる。
【0140】
【数38】
【0141】
図13は、スピン軸の向きを説明するための図である。図13(a)は、投球されたボールを真上から見た図である。図13(a)における紙面奥行き方向から紙面手前方向が鉛直上向きであり、紙面手前方向から紙面奥行き方向が重力方向(鉛直下向き)である。図13(b)は、紙面上方向が鉛直上向きであり、紙面下方向が重力方向である。図13(a)および図13(b)によると、投球方向および重力方向に対するスピン軸の向きを理解することができる。
【0142】
図14は、最終座標系でのスピンベクトルを説明するための図である。図14を参照して、投球方向がx軸、重力方向がy軸、x軸およびy軸に直交する方向がz軸とする座標系が示されている。また、上記の<座標変換処理>においてグローバル座標系に変換された定常期のスピンベクトルωspinおよび地磁気ベクトル(単位ベクトルe)が示されている。また、スピンベクトルωspinおよび地磁気ベクトルの関係を維持したまま、上記のように、地磁気ベクトルが指定の伏角θinclinationになるための2つの座標変換行列R,Rが求められる。
【0143】
座標変換行列Rを用いてスピンベクトルωspinおよび単位ベクトルeを座標変換すると、それぞれスピンベクトルRωspinおよびRが得られる。また、座標変換行列Rを用いてスピンベクトルωspinおよび単位ベクトルeを座標変換すると、それぞれスピンベクトルRωspinおよびRが得られる。ここで、図14の例では、スピンベクトルRωspinおよびRωspinのうち、参照スピンベクトルωrefに近いスピンベクトルはスピンベクトルRωspinである。そのため、回転行列Rを用いて座標変換したスピンベクトルRωspinが最終座標系でのスピンベクトルとなる。
【0144】
<各種情報の算出>
図4のステップS34において端末装置10で表示される各種情報について説明する。
【0145】
センサ機器20により算出されるスピン量ωおよびスピン軸の方向を示す情報(例えば、θazimuthおよび仰角θelevation)は、例えば、図15に示すように表示される。
【0146】
図15は、ユーザインターフェイス画面を示す図である。図15を参照して、端末装置10は、センサ機器20から受信したスピンに関する情報を含むユーザインターフェイス画面600をディスプレイ110に表示する。図15では、スピン量ω(例えば、1673.4rpm)と仰角θelevation(例えば、23°)の表示例が示されている。
【0147】
<機能構成>
図16は、センサ機器20の機能構成例を示すブロック図である。図16を参照して、センサ機器20は、取得部250と、第1スピンベクトル算出部252と、瞬時スピンベクトル算出部254と、座標変換部256と、方向算出部258と、第2スピンベクトル算出部260とを含む。これらは、基本的には、センサ機器20のプロセッサ202等によって実現される。なお、これらの機能構成の一部または全部は、ハードウェアで実現されていてもよい。
【0148】
取得部250は、被験者5により放出されるボール2に内蔵されたセンサにより検出される時系列の3軸加速度データおよび3軸地磁気データを取得する。取得部250は、3軸加速度データおよび3軸地磁気データをスプライン補間により内挿する。また、取得部250は、上記の<地磁気センサのオフセット処理>で説明した処理を実行して、取得した3軸地磁気データに対して、地磁気センサ206のオフセット量を除去するオフセット処理を施す。
【0149】
第1スピンベクトル算出部252は、3軸地磁気データに基づいて、ボール2が放出された後の定常期における、ボール2に固定された座標系(すなわち、ボール座標系あるいはローカル座標系)のボール2のスピンベクトルを算出する。具体的には、第1スピンベクトル算出部252は、上記の図4のステップS20で説明した処理を実行して、スピン軸の方向余弦(lω,mω,nω)および距離hを算出する。さらに、第1スピンベクトル算出部252は、上記の<スピン量の算出方式>で説明した処理を実行してスピン量ωを算出する。これにより、第1スピンベクトル算出部252は、定常期におけるボール座標系のスピンベクトルωspin(ωlω,ωmω,ωnω)を算出する。
【0150】
瞬時スピンベクトル算出部254は、3軸地磁気データおよび3軸加速度に基づいて、ボール座標系のボール2の瞬時スピンベクトルを時系列で算出する。
【0151】
具体的には、瞬時スピンベクトル算出部254は、ボール座標系の瞬時地磁気ベクトルに基づいて、ボール座標系の瞬時スピンベクトルの地磁気回り成分(例えば、地磁気回り成分ωM.t)に直交する直交成分(例えば、直交成分ωD.t)を算出する。直交成分は、瞬時地磁気ベクトルと、瞬時地磁気ベクトルの時間微分との外積により算出される。
【0152】
瞬時スピンベクトル算出部254は、直交成分と、瞬時地磁気ベクトルと、ボール座標系の瞬時加速度ベクトル(例えば、加速度ベクトルa)とに基づいて、地磁気回り成分を算出する。より具体的には、瞬時スピンベクトル算出部254は、直交成分と、瞬時地磁気ベクトルと、ボール座標系の瞬時加速度ベクトルとを用いて地磁気回り成分の差分方程式(例えば、式(41))を生成し、差分方程式を解くことにより、地磁気回り成分を算出する。そして、瞬時スピンベクトル算出部254は、地磁気回り成分と直交成分とに基づいて、瞬時スピンベクトルを算出する。
【0153】
より詳細には、瞬時スピンベクトル算出部254は、上記の<瞬時スピンベクトルの算出方式>で説明した処理を実行して、時刻tにおける瞬時スピンベクトルωを算出する。
【0154】
座標変換部256は、時系列の瞬時スピンベクトルを用いて、ボール座標系から絶対空間に固定された絶対座標系(グローバル座標系)への座標変換行列(例えば、座標変換行列Rk+1)を算出する。座標変換部256は、座標変換行列を用いて、3軸地磁気データに基づくボール座標系の地磁気ベクトルを絶対座標系の地磁気ベクトルに座標変換し、3軸加速度データに基づくボール座標系の加速度ベクトルを絶対座標系の加速度ベクトルに座標変換し、定常期におけるボール座標系のスピンベクトルωspinを絶対座標系のスピンベクトルωspinに座標変換する。より詳細には、座標変換部256は、上記の<座標変換処理>で説明した処理を実行する。
【0155】
方向算出部258は、絶対座標系の加速度ベクトルに基づいて、絶対座標系のボール2の放出方向(投球方向)を算出する。具体的には、方向算出部258は、上記の<投球方向の算出>で説明した処理を実行して、投球方向ベクトル(例えば、単位ベクトルepitch)算出する。
【0156】
第2スピンベクトル算出部260は、絶対座標系の地磁気ベクトルと、絶対座標系のボール2の放出方向と、定常期における絶対座標系のボール2のスピンベクトルとに基づいて、絶対座標系における放出方向および重力方向に対する定常期のボール2のスピンベクトルを算出する。具体的には、第2スピンベクトル算出部260は、<最終座標系でのスピンベクトルの算出>で説明した処理を実行して、投球方向をx軸とし、重力方向をy軸とし、x軸およびy軸に直交する方向をz軸とする座標系における定常期のスピンベクトルωspinを算出する。詳細には、定常期のスピンベクトルωspinの向き(例えば、方位角θazimuthおよび仰角θelevation)を算出する。
【0157】
<利点>
本実施の形態によると、遷移期における瞬時スピンベクトルを精度よく算出し、瞬時スピンベクトルにより求められる座標変換行列を用いて、精度の高い座標変換が実行される。そのため、グローバル座標系における定常期のスピン軸を精度よく算出することが可能となる。
【0158】
<その他の実施の形態>
(1)上述した実施の形態において、センサ機器20は、グラブを叩く動作を判定する構成を有していてもよい。ここで、投手ごとに投球フォームが異なるが、一部の投手は腕を高速で回転させる主動作の前に、ボールでグラブを叩く動作(以下、「グラブ叩き動作」とも称する。)を行なってから投球動作を開始する。このようにグラブ叩き動作を行なう投手が、センサ機器20が内蔵されたボール2を投球する場合、グラブ叩き動作が実際の投球であるとみなして計測を行なってしまうという問題がある。そのため、グラブ叩き動作か否かを判定する方式について説明する。
【0159】
図17は、グラブ叩き動作の判定方式を説明するための図である。図17を参照して、センサ機器20は、3軸加速度データを取得する(ステップS102)。センサ機器20は、3軸加速度データの差分値が閾値を超えた時刻を、相手方がボール2を捕球したキャッチング時刻Tcに設定する(ステップS104)。差分値は、例えば、現在時刻の3軸加速度データ(例えば、3軸合成加速度)と、前の時刻(前のサンプリング時刻)の3軸合成加速度との差分である。
【0160】
センサ機器20は、キャッチング時刻Tcから遡って、3軸加速度データの差分値が閾値を超えた時刻(あるいは、3軸合成加速度が最大となった時刻)を、投手からボール2が放出されたリリース時刻Trに設定する(ステップS106)。センサ機器20は、キャッチング時刻Tcからリリース時刻Trを減じた値をボール2の飛翔時間Tf(すなわち、Tf=Tc-Tr)に設定する(ステップS108)。
【0161】
センサ機器20は、飛翔時間Tfが所定時間内(すなわち、Tmin<Tr<Tmax)であるか否かを判断する(ステップS110)。所定時間の最小値Tminおよび最大値Tmaxは、投手がボールを投げてから捕手が捕球するまでに通常要する時間に基づいて決定される。例えば、Tminは0.35秒であり、Tmaxは1.5秒である。
【0162】
飛翔時間Tfが所定時間内ではない場合(ステップS110においてNO)、センサ機器20は、ステップS102に戻る。この場合、センサ機器20は、グラブ叩き動作が行なわれたと判定する。飛翔時間Tfが所定時間内である場合(ステップS110においてYES)、センサ機器20は、通常の投球動作が実行されたと判定する(ステップS112)。
【0163】
ステップS102~ステップS112の処理は、例えば、図4の前処理として実行してもよい。具体的には、ステップS112において通常の投球動作が実行されたと判定された場合に、図4のステップS10の処理を開始してもよい。
【0164】
ここで、図17のステップS102の3軸加速度データを取得処理は、図4のステップS10のセンサデータ取得処理で代用でき、図17のステップS106は図4のステップS14(リリース時刻算出処理)で代用できる。
【0165】
そのため、センサ機器20は、図4のステップS10(センサデータの取得処理)、ステップS12(スプライン補間処理)、ステップS14(リリース時刻算出処理)を実行した後、図17のステップS104(キャッチング時刻Tcの設定処理)してもよい。さらに、センサ機器20は、ステップS14で算出したリリース時刻と、ステップS104で算出したキャッチング時刻とを用いてステップS108(飛翔時間Tfの設定処理)を実行し、ステップS110(飛翔時間Tfの判定処理)を実行してもよい。そして、センサ機器20は、グラブ叩き動作が実行されたと判定した場合には(ステップS110においてNO)、図4のステップS10に戻り、通常の投球動作が実行されたと判定した場合には(ステップS110においてYES、すなわち、ステップS112を実行)、図4のステップS16(投球開始時刻の算出処理)以降の処理を実行してもよい。
【0166】
上記より、センサ機器20は、機能構成として、3軸加速度データに基づいて、被験者により通常の投球動作(被験者から相手方にボールを投げる動作)が行なわれたか否かを判定する判定部を含む。判定部は、3軸加速度データに基づいてボール2が放出された第1時刻(リリース時刻)と、ボールが捕球された第2時刻(キャッチング時刻)とを算出する。判定部は、第1時刻と第2時刻とに基づいて、ボール2の飛翔時間を算出し、飛翔時間が第1閾値(例えば、Tmin)以上かつ第2閾値(例えば、Tmax)未満である場合に、被験者により通常の投球動作が行なわれたと判定する。
【0167】
(2)上述した実施の形態では、センサが内蔵されたボール2が野球用のボールである構成を例に挙げて説明したが、当該構成に限られない。例えば、ボール2がソフトボール用のボールであっても同様に適用可能である。
【0168】
(3)上述した実施の形態において、センサ機器20の一部の機能を、端末装置10が有する構成であってもよい。例えば、図16のセンサ機器20の機能を、端末装置10が有する構成であってもよい。この場合、端末装置10の取得部は、センサ機器20のセンサにより検出されたセンサデータ(例えば、加速度、地磁気等)を受信して上述した処理を実行する。他の機能構成については、図16で説明した機能構成と同様である。なお、センサ機器20の判定部を端末装置10が有している構成であってもよい。
【0169】
(4)コンピュータを機能させて、上述の実施の形態で説明したような制御を実行させるプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどの一時的でないコンピュータ読取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0170】
(5)上述の実施の形態として例示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。
【0171】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0172】
2 ボール、5 被験者、10 端末装置、20 センサ機器、102,202 プロセッサ、104,204 メモリ、106 タッチパネル、110 ディスプレイ、112 無線通信部、113 通信アンテナ、114 メモリインターフェイス、115 記録媒体、116 スピーカ、118 マイク、205 加速度センサ、206 地磁気センサ、212 蓄電池、250 取得部、252 第1スピンベクトル算出部、254 瞬時スピンベクトル算出部、256 座標変換部、258 方向算出部、260 第2スピンベクトル算出部、600 ユーザインターフェイス画面、1000 解析装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図12
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図17