(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073273
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】電解質ゲル用硬化性組成物、電解質ゲル、蓄電池および電子デバイス
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20240522BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20240522BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240522BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240522BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240522BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240522BHJP
C08F 290/04 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C08L101/02
C08J3/24 Z CEY
C08L33/04
C08K5/14
C08K5/17
H01M10/0565
C08F290/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184383
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】玉井 仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀典
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J127
5H029
【Fターム(参考)】
4F070AA32
4F070AC43
4F070AC46
4F070AC50
4F070AC56
4F070AE08
4F070AE30
4F070GA05
4F070GA06
4F070GA10
4J002AA051
4J002BG041
4J002EH079
4J002EK057
4J002EL109
4J002EN078
4J002EV266
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002FD209
4J002GQ00
4J127AA03
4J127BB031
4J127BB041
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC051
4J127BD061
4J127BD291
4J127CB151
4J127CC091
4J127DA20
4J127DA23
4J127EA05
4J127FA35
5H029AJ11
5H029AJ14
5H029AM16
5H029CJ11
(57)【要約】
【課題】硬化前の一液での貯蔵安定性および硬化後の柔軟性に優れる電解質ゲル用硬化性組成物およびその利用を実現する。
【解決手段】本開示の電解質ゲル用硬化性組成物は、(A)成分:架橋性官能基を有するビニル系重合体と、(B)成分:酸化剤と、(C)成分:還元剤と、(D)成分:電解物質とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:架橋性官能基を有するビニル系重合体と、(B)成分:酸化剤と、(C)成分:還元剤と、(D)成分:電解物質とを含む、電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項2】
前記(A)成分の架橋性官能基が、ラジカル架橋性官能基、エポキシ基および加水分解性シリル基からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の主鎖が(メタ)アクリル系重合体である、請求項1に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が有機過酸化物である、請求項1に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項5】
前記(C)成分が有機アミンである、請求項1に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項6】
前記(D)成分がフッ素原子含有陰イオンとリチウム陽イオンとの電子対化合物である、請求項1に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項7】
(E)成分:溶剤をさらに含む、請求項1に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項8】
前記(E)成分として、環式カーボネート、非環式カーボネート、脂肪族エステル、脂環式エーテル、脂肪族二官能化エーテル、ラクトン、ジニトリル、少なくとも1個のカルボン酸エステル基およびエーテル基を含有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項7に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項9】
(F)成分:ラジカル反応性の単量体をさらに含む、請求項1に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の電解質ゲル用硬化性組成物を硬化してなる、電解質ゲル。
【請求項11】
請求項10に記載の電解質ゲルを備える、蓄電池。
【請求項12】
請求項10に記載の電解質ゲルを備える、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質ゲル用硬化性組成物、電解質ゲル、蓄電池および電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池、例えばリチウムイオン蓄電池は、とりわけその高いエネルギー密度または比エネルギーおよび低い自己放電等の性能を生かして、数多くの用途でエネルギー貯蔵器として適用が進んでいる。例えばリチウムイオン蓄電池は既に、自動車におけるバッテリー(とりわけ電気自動車におけるエネルギー貯蔵器)、ノートパソコンおよびスマートフォン等のIОT関連機器における蓄電池、ならびに家庭用および産業用の定置式貯蔵器における蓄電池としても用いられている。
【0003】
リチウムイオン蓄電池は電解質を内包しており、この電解質は、2つの異なる電極、アノードおよびカソードの内部または間に配置されている。この場合、化学的エネルギーから電気的エネルギーへの変換により、電気化学に基づくエネルギーが蓄電池に貯蔵される。
【0004】
特許文献1には、特定の式で表示される化合物と、リチウム塩を含む非水系有機溶媒とを含む組成物を重合して製造される、高分子電解質が開示されている。特許文献1の実施例には、ジメチルアミノエチルメタクリレート等を用いてゲル状電解質製造用組成物を製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術は、硬化前の組成物の一液での貯蔵安定性および硬化後の柔軟性の観点から改善の余地があった。
【0007】
本発明の一態様は、硬化前の一液での貯蔵安定性および硬化後の柔軟性に優れる電解質ゲル用硬化性組成物およびその利用を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電解質ゲル用硬化性組成物は、(A)成分:架橋性官能基を有するビニル系重合体と、(B)成分:酸化剤と、(C)成分:還元剤と、(D)成分:電解物質とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、硬化前の一液での貯蔵安定性および硬化後の柔軟性に優れる電解質ゲル用硬化性組成物およびその利用を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0011】
〔1.電解質ゲル用硬化性組成物〕
本発明の一態様に係る電解質ゲル用硬化性組成物は、(A)成分:架橋性官能基を有するビニル系重合体と、(B)成分:酸化剤と、(C)成分:還元剤と、(D)成分:電解物質とを含む。本明細書において、電解質ゲル用硬化性組成物とは、電解質ゲルを得るための硬化性組成物を意味する。以下では、電解質ゲル用硬化性組成物を単に硬化性組成物とも称する。当該硬化性組成物を硬化させることにより、電解質ゲルを得ることができる。本明細書において、「硬化」とは「ゲル化」を意味する。
【0012】
特許文献1のようにアクリル系モノマーを主成分として含む組成物を重合させて硬化物を得る場合、反応点が多いため、得られる硬化物は固く、柔軟性に劣る。硬化物をリチウムイオン蓄電池などに組み込む電解質ゲルとして利用する場合、硬化物が柔軟性を有していれば衝撃に強いため好ましい。このような観点から従来技術には改善の余地があった。これに対し、前記硬化性組成物は、架橋性官能基を有するビニル系重合体である(A)成分を含む。そのため、反応点の数を制御することができ、得られる硬化物はゴム状で柔軟性を有する。
【0013】
また、通常、(A)成分は(B)成分の存在下であれば常温で硬化する。しかしながら、(B)成分の存在下であってもさらに(D)成分が存在する場合、硬化性組成物は十分に硬化しない。一方、(A)成分、(B)成分および(C)成分を含み、(D)成分を含有しない硬化性組成物は、常温或いは低温での加熱により硬化が可能であるものの、常温で硬化してしまうため貯蔵安定性に劣る。これに対し、(A)成分、(B)成分に加えて(C)成分および(D)成分を含有する系では各成分を混合しても常温での貯蔵安定性に優れることが見出された。また、(C)成分および(D)成分を用いることにより、低温加熱硬化と貯蔵安定性を両立可能であることが新たに見出された。
【0014】
前記硬化性組成物は、低温加熱で速硬化可能である。そのため、リチウムイオン蓄電池の製造工程において電池材料に前記硬化性組成物を組み込んで硬化させる場合にも高温での加熱は不要である。このことから、前記硬化性組成物をリチウムイオン蓄電池に適用してもリチウムイオン蓄電池の充放電性能に影響を与えない。そして、前記硬化性組成物は、硬化反応前は液状であることから、従来の液状の電解質を使用するリチウムイオン蓄電池と同様の工程で製造可能である。また、前記硬化性組成物が常温で安定であることから、事前に大量に作製、保存が可能であり、適宜電池の生産に使用できる。さらには、通常の酸化ラジカル反応で得られる硬化物(電解質ゲル)は酸素阻害によりゲル表面が硬化し難い課題があったが、前記硬化性組成物ではその点も改善可能であることを併せて見出した。
【0015】
[(A)成分:架橋性官能基を有するビニル系重合体]
前記硬化性組成物は、(A)成分として架橋性官能基を有するビニル系重合体を含む。ビニル系重合体の主鎖を構成するビニル系モノマーとしては特に限定されず、各種のものを用いることができる。
【0016】
ビニル系モノマーとして具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸およびその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等を挙げることができる。
【0017】
これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を表す。
【0018】
前記ビニル系重合体の主鎖は、生成物の低温での柔軟性、粘度、伸びなどの物性に優れる点から、(メタ)アクリル系重合体であることが好ましい。即ち前記ビニル系重合体の主鎖は、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを主として重合して製造されるものであることが好ましく、アクリル酸エステル系モノマーを主として重合して製造されるものであることがさらに好ましい。ここで「主として」とは、前記ビニル系重合体を構成するモノマー単位のうち、50モル%以上が(メタ)アクリル酸エステル系モノマーであることを意味し、好ましくは70モル%以上が(メタ)アクリル酸エステル系モノマーである。
【0019】
特に好ましいアクリル酸エステルモノマーとしては、アクリル酸アルキルエステルモノマーが挙げられ、具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-メトキシブチルが挙げられる。これらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合、更にはブロック共重合させても構わない。
【0020】
前記ビニル系重合体の分子量分布、即ち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、特に限定されないが、好ましくは1.8未満であり、より好ましくは1.7以下であり、さらに好ましくは1.6以下であり、よりさらに好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは1.4以下であり、最も好ましくは1.3以下である。分子量分布が大きすぎると同一架橋点間分子量における粘度が増大し、取り扱いが困難になる傾向にある。本明細書において、GPC測定は、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0021】
前記ビニル系重合体の数平均分子量は特に制限はないが、GPCで測定した場合に、500~1,000,000の範囲が好ましく、1,000~100,000がより好ましく、5,000~80,000がさらに好ましく、8,000~50,000がなおさら好ましい。分子量が低くなりすぎると、低粘度で取扱いが容易になるが、得られる硬化物の伸びが不十分である、および/または柔軟性に劣る傾向がある。一方、分子量が高くなりすぎると、取扱いが困難になる傾向がある。
【0022】
得られる硬化物の柔軟性の観点から、硬化性組成物100重量%中の(A)成分の含有量の下限は、50重量%以上であることが好ましく、55重量%以上であることがより好ましい。硬化性組成物100重量%中の(A)成分の含有量の上限は、100重量%未満であり、イオン伝導度の観点から、80重量%以下であることが好ましい。
【0023】
<ビニル系重合体の合成法>
前記ビニル系重合体は、種々の重合法により得ることができる。重合法は特に限定されないが、モノマーの汎用性、制御の容易性等の点からラジカル重合法が好ましく、ラジカル重合法の中でも制御ラジカル重合法がより好ましい。この制御ラジカル重合法は「連鎖移動剤法」と「リビングラジカル重合法」とに分類することができる。得られるビニル系重合体の分子量および分子量分布の制御が容易であるリビングラジカル重合法がさらに好ましく、原料の入手性、重合体末端への官能基導入の容易さから原子移動ラジカル重合法が特に好ましい。これら各重合法については、例えば、特開2005-232419号公報および特開2006-291073号公報などの記載を参照できる。
【0024】
<架橋性官能基>
前記ビニル系重合体が有する架橋性官能基としては特に限定されないが、貯蔵安定性および架橋後の硬化物の特性に優れる点で、ラジカル架橋性官能基、エポキシ基および加水分解性シリル基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
前記硬化性組成物を硬化させてなる硬化物にゴム的な性質が特に要求される場合には、ゴム弾性に大きな影響を与える架橋点間分子量が大きくとれるため、架橋性官能基の少なくとも1個は分子鎖の末端にあることが好ましい。より好ましくは、前記ビニル系重合体は、全ての架橋性官能基を分子鎖末端に有する。
【0026】
(ラジカル架橋性官能基)
ラジカル架橋性官能基としては特に限定されないが、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。前記ビニル系重合体の架橋性官能基がラジカル架橋性官能基である場合、前記ビニル系重合体が分子中に有するラジカル架橋性官能基の数の下限は、1分子当たり平均して1.0個以上であることが好ましく、1.2個以上であることがより好ましく、1.4個以上であることがさらに好ましい。ラジカル架橋性官能基の数の上限は、1分子当たり平均して2個以下であることが好ましい。ラジカル架橋性官能基の数が上記の範囲内であれば、触媒および開始剤により、ビニル系重合体同士が充分に架橋され、充分な強度の硬化物が得られる。
【0027】
一実施形態において、(メタ)アクリロイル基とは、下記一般式(1)で表される構造をしている。
-OC(O)C(R5)=CH2 (1)
一般式(1)中、R5は、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基である。炭化水素基は、任意で、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群より選択される1種類以上のヘテロ原子により置換されていてもよい。R5の具体例としては、H、CH3、CH2CH3、(CH2)nCH3(nは2~19の整数)、C6H5、CH2OH、CN等が挙げられる。(A)成分の反応性の観点からは、R5は、HまたはCH3が好ましい。
【0028】
重合体に(メタ)アクリロイル基を導入する方法としては、例えば、特許第5536383号公報の段落[0081]~[0090]に記載の方法が挙げられる。
【0029】
(エポキシ基)
一実施形態において、エポキシ基としては特に限定されないが、グリシジル基、グリシジルエーテル基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、オキセタン基、アミノグリシジル基、フェノキシグリシジル基等が挙げられる。(A)成分の架橋性官能基がエポキシ基である場合、(A)成分が分子中に有するエポキシ基の数の下限は、1分子当たり平均して1.0個以上であることが好ましく、1.4個以上であることがより好ましく、2.0個以上であることがさらに好ましい。エポキシ基の数の上限は、1分子当たり平均して4.0個以下であることが好ましい。
【0030】
(加水分解性シリル基)
一実施形態において、加水分解性シリル基としては、一般式(2)で表される基が挙げられる。
-[Si(R1)2-b(Y)bO]m-Si(R2)3-a(Y)a (2)
式中、R1、R2は、いずれも炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基、または(R’)3SiO-(R’は炭素数1~20の1価の炭化水素基であって、3個のR’は同一であってもよく、異なっていてもよい)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、R1またはR2が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは水酸基または加水分解性基を示し、Yが2個以上存在するときそれらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0、1、2、または3を、また、bは0、1、または2を示す。mは0~19の整数である。ただし、a+mb≧1であることを満足するものとする。
【0031】
加水分解性基としては、例えば、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などの一般に使用されている基が挙げられる。これらのうちでは、アルコキシ基、アミド基、アミノオキシ基が好ましく、加水分解性がマイルドで取り扱い易いという点から、アルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基の中では炭素数の少ない方が反応性は高い。すなわち、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基・・・の順に反応性が低くなり、これらは目的および用途に応じて選択できる。
【0032】
加水分解性基または水酸基は、1個のケイ素原子に1~3個の範囲で結合することができ、(a+Σb)は1~5個の範囲が好ましい。加水分解性基または水酸基が加水分解性シリル基中に2個以上結合する場合には、それらは同じであってもよいし、異なってもよい。加水分解性シリル基を形成するケイ素原子は1個以上であるが、シロキサン結合などにより連結されたケイ素原子の場合には、20個以下であることが好ましい。特に、一般式(3)で表される加水分解性シリル基が、入手が容易である点で好ましい。
-Si(R2)3-a(Y)a (3)
(式中、R2およびYは前記と同じ、aは1~3の整数)
なお、特に限定はされないが、硬化性および硬化物の物性が良好であることからaは2以上が好ましい。
【0033】
このような加水分解性シリル基を有するビニル系重合体は、ケイ素原子1つあたり2つの加水分解性基が結合してなる加水分解性シリル基を有する重合体が用いられることが多い。しかし、低温で使用する場合等、特に非常に速い硬化速度を必要とする場合、その硬化速度は充分ではなく、また硬化後の柔軟性を出したい場合には、架橋密度を低下させる必要があり、そのため架橋密度が充分でないためにべたつき(表面タック)が生じる場合がある。その際には、aが3のもの(例えばトリメトキシ官能基)を用いることが好ましい。
【0034】
また、aが3のもの(例えばトリメトキシ官能基)は2のもの(例えばジメトキシ官能基)よりも硬化が速いが、貯蔵安定性および力学物性(伸び等)に関しては2のものの方が優れている場合がある。硬化性と物性バランスをとるために、2のもの(例えばジメトキシ官能基)と3のもの(例えばトリメトキシ官能基)を併用してもよい。
【0035】
例えば、Yが同一の場合、aが多いほどYの反応性が高くなるため、Yとaを種々選択することにより硬化性および硬化物の機械物性等を制御することが可能であり、目的および用途に応じて選択できる。また、aが1のものは鎖延長剤として加水分解性シリル基を有する重合体、具体的にはポリシロキサン系、ポリオキシプロピレン系、ポリイソブチレン系からなる少なくとも1種の重合体と混合して使用できる。硬化前に低粘度、硬化後に高い破断時伸び性、低ブリード性、表面低汚染性を有する組成物とすることが可能である。
【0036】
(A)成分の加水分解性シリル基の数は、特に限定されないが、組成物の硬化性、および硬化物の物性の観点から、分子中に平均して1個以上有することが好ましく、より好ましくは1.1個以上4.0以下、さらに好ましくは1.2個以上3.5個以下である。
【0037】
ビニル系重合体への加水分解性シリル基の導入方法としては、公知の方法を利用することができる。例えば、特開2007-302749号公報の段落[0083]~[0117]に記載の方法が挙げられる。加水分解性シリル基を分子鎖末端に有するビニル系重合体、中でも(メタ)アクリル系重合体を製造する方法は、特公平3-14068号公報、特公平4-55444号公報、特開平6-211922号公報等に開示されている。
【0038】
(その他の樹脂)
(A)成分は単独または複数のいずれでも使用可能であるが、他の樹脂を併用しても差し支えない。
【0039】
[(B)成分:酸化剤]
前記硬化性組成物は、(B)成分として酸化剤を含む。(B)成分として特に限定はなく、通常の酸化剤が使用可能である。特に硬化性、貯蔵安定性の観点から、(B)成分が有機過酸化物であることが好ましい。
【0040】
有機過酸化物として具体的には、ヒドロペルオキシド類、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシカルボン酸類、ペルオキシエステル類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシカーボネート類、ケトンペルオキシド類、およびペルオキシケタール類等が挙げられる。硬化性、貯蔵安定性の観点で、ペルオキシエステル類、ペルオキシカーボネート類、ケトンペルオキシド類およびペルオキシケタール類が好ましく、ペルオキシエステル類、ペルオキシカーボネート類が特に好ましい。例えばペルオキシエステル類としては、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-へキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0041】
硬化性、貯蔵安定性の観点から、硬化性組成物中の(B)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、好ましくは0.1~20重量部であり、より好ましくは0.5~15重量部であり、さらに好ましくは1~10重量部である。
【0042】
[(C)成分:還元剤]
前記硬化性組成物は、(C)成分として還元剤を含む。(C)成分としては、特に限定はなく通常の還元剤が使用可能である。還元剤の具体例としては、スルフィン酸、有機アミン、遷移金属塩等が挙げられる。有機アミンとしては、例えば、パラトルイジン(p-メチルアニリン);アゾイソブチル酸ジニトリル等のアゾ化合物;ビス-(トリルスルホンメチル)アミン、ビス-(トリルスルホンメチル)エチルアミンおよびビス-(トリルスルホンメチル)-ベンジルアミン等のα-アミノスルホン;ジイソプロピル-p-トルイジン、ジメチルアニリンおよびジメチル-p-トルイジン等の第3級アミン;アミン-アルデヒド縮合生成物、例えばアニリンまたはブチルアミン等の第1級のアミンとブチルアルデヒド等の脂肪族アルデヒドとの縮合生成物;2-メルカプトベンズイミダゾール、メチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素およびエチレンチオ尿素等のチオ尿素誘導体等が挙げられる。遷移金属塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅およびバナジルアセチルアセトネート等が挙げられる。これらの中では、反応性の点で、有機アミン、遷移金属塩が好ましく、パラトルイジン、バナジルアセチルアセトネートがより好ましい。特に硬化性、貯蔵安定性、イオン伝導度への影響の観点から、(C)成分が有機アミンであることが好ましい。
【0043】
硬化性、貯蔵安定性、イオン伝導度への影響の観点から、硬化性組成物中の(C)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、好ましくは0.01~20重量部であり、より好ましくは0.05~10重量部であり、さらに好ましくは0.1~5重量部である。
【0044】
[(D)成分:電解物質]
前記硬化性組成物は、(D)成分として電解物質を含む。(D)成分としては、特に限定はなく通常の電解物質が使用可能である。(D)成分は、フッ素原子含有陰イオンとリチウム陽イオンとの電子対化合物であってもよい。フッ素原子含有陰イオンとリチウム陽イオンとの電子対化合物については特に限定はないが、その具体例としてはヘキサフルオロリン酸リチウム、LiPF3(CF2CF3)3、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム、(フルオロスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムが挙げられる。中でも、安定性とイオン伝導度の点でヘキサフルオロリン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムが好ましい。他に(D)成分としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、N-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、メチルトリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等も使用できる。
【0045】
硬化性組成物の粘度、イオン伝導度の観点から、硬化性組成物中の(D)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、好ましくは1~100重量部であり、より好ましくは5~80重量部であり、さらに好ましくは10~70重量部である。
【0046】
[(E)成分:溶剤]
前記硬化性組成物は、(E)成分として溶剤をさらに含んでいてもよい。(E)成分は特に限定されず、前記硬化性組成物は、(E)成分として、環式カーボネート、非環式カーボネート、脂肪族エステル、脂環式エーテル、脂肪族二官能化エーテル、ラクトン、ジニトリル、少なくとも1個のカルボン酸エステル基およびエーテル基を含有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含んでいてもよい。
【0047】
環式カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0048】
非環式カーボネートとしては、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルカーボネートおよびメチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネート等が挙げられる。
【0049】
脂肪族エステルとしては、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート(EA)およびブチルアセテート等が挙げられる。電解質溶解性、イオン伝導度の観点からは、プロピルホルメート、エチルアセテートまたはこれらの化合物の混合物が好ましい。
【0050】
脂環式エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0051】
脂肪族二官能化エーテルとしては、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、メトキシプロピルエーテル、メトキシイソプロピルエーテル、エトキシプロピルエーテル、メトキシイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メトキシt-ブチルエーテル、エトキシt-ブチルエーテル等が挙げられる。
【0052】
ラクトンとしては、β-プロピオンラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-ヘキサラクトン、γ-ヘプタラクトン、γ-オクタラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0053】
ジニトリルとしては、アジポニトリル、3,5-ジオキサ-ヘプタンジニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ビス(2-シアノエチル)-モノフォーマル、ビス(2-シアノエチル)-ジフォーマル、ビス(2-シアノエチル)-トリフォーマル、エチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、ビス(2-(2-シアノエトキシ)エチル)エーテル、4,7,10,13-テトラオキサヘキサデカンジニトリル、4,7,10,13,16-ペンタオキサノナデカン-1,14-ジニトリル、3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサエイコサンジニトリル、4,10-ジオキサ-ウンデカンジニトリル、1,10-ジシアノ-3,8-ジオキサデカン、4,10-ジオキサ-トリデカンジニトリル、6,9-ジオキサ-テトラデカンジニトリル等が挙げられる。
【0054】
少なくとも1個のカルボン酸エステル基およびエーテル基を含有する化合物としては、メトキシ-エチルアセテート、エトキシ-エチルアセテートおよび2-(2-エトキシエトキシ)-エチルアセテート等が挙げられる。
【0055】
(E)成分としては以下の脂肪族エーテルも使用できる。脂肪族エーテルとして特に限定はないが、具体例としてはジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0056】
(E)成分として使用可能なその他の溶剤としては、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、アニソール、N-メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0057】
[(F)成分:ラジカル反応性の単量体]
前記硬化性組成物は、粘度調整、硬化物の力学物性の調整、電解質との相溶性等の観点から、(F)成分としてラジカル反応性の単量体をさらに含んでいてもよい。(F)成分には特に限定はないが、その具体例としては(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸およびその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、アミノ系モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリルモルフォリン、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール、(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル=(メタ)アクリレート、ビニルエチレンカーボネートおよびポリエチレングリコール-モノアクリレート等が挙げられる。硬化性組成物の粘度、電解質に対する溶解性等の点で、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート(即ち(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル)、アクリルモルフォリン、アリルアルコール、(2-オキソ-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル=(メタ)アクリレート、ビニルエチレンカーボネートが好ましい。
【0058】
硬化性組成物の粘度、硬化性、硬化物の柔軟性の観点から、硬化性組成物中の(F)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、好ましくは1~100重量部であり、より好ましくは2~80重量部であり、さらに好ましくは3~70重量部である。
【0059】
[その他の成分]
前記硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、(F)成分以外に、その他の成分を含有してもよい。その他の成分は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。以下、その他の成分の例について説明する。
【0060】
<レベリング剤>
前記硬化性組成物は、硬化した際の表面凹凸の調整のために、レベリング剤を含んでいてもよい。レベリング剤としては、例えばフッ素系、シリコーン系、アクリル系、エーテル系、またはエステル系のレベリング剤が挙げられる。
【0061】
<消泡剤>
前記硬化性組成物は、気泡の発生を防止する目的で、消泡剤を含んでいてもよい。好ましい例としては、アクリル系、シリコーン系、またはフッ素系の消泡剤が挙げられる。
【0062】
<希釈剤>
前記硬化性組成物は、希釈剤を含んでいてもよい。希釈剤としては、非反応性希釈剤および反応性希釈剤が挙げられる。前記硬化性組成物中の成分と希釈剤との反応を効果的に抑制する観点からは、非反応性希釈剤が好ましい。
【0063】
希釈剤には特に限定はなく、200℃以下で乾燥できるものが好ましい。このような希釈剤としては、例えば、セルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、ピロリドン、ビニルピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0064】
<接着性付与剤>
前記硬化性組成物は、基材への接着性を向上させるために、接着性付与剤を含んでいてもよい。接着性付与剤としては、架橋性シリル基含有化合物、極性基を有するビニル系単量体が好ましく、更にはシランカップリング剤、酸性基含有ビニル系単量体が好ましい。
【0065】
シランカップリング剤としては、例えば、分子中に、炭素原子および水素原子以外の原子を有する官能基と、架橋性シリル基と、を併せ持つシランカップリング剤を用いることができる。炭素原子および水素原子以外の原子を有する官能基としては、エポキシ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、カルバメート基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、ハロゲノ基、(メタ)アクリル基等が挙げられる。
【0066】
<充填剤>
前記硬化性組成物は、一定の強度を担保するために、充填剤を含んでいてもよい。充填剤としては、特に限定されず、フュームドシリカ以外のシリカ(例えば、結晶性シリカ、溶融シリカ、含水ケイ酸)、ドロマイト、カーボンブラック、酸化チタン、または活性亜鉛華等が、少量で充填率を改善できる観点から、好ましい。特に、これら充填剤で強度の高い硬化物を得たい場合には、主に、結晶性シリカ、溶融シリカ、含水ケイ酸、カーボンブラック、または活性亜鉛華等から選ばれる少なくとも1種の充填剤を用いることが好ましい。
【0067】
<可塑剤>
前記硬化性組成物は、粘度、スランプ性、または、硬化した場合の硬度、引張り強度、若しくは伸び等の機械特性の調整のために、可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジヘプチルフタレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル化合物;ビス(2-エチルヘキシル)-1,4-ベンゼンジカルボキシレート(例えば、EASTMAN168(EASTMAN CHEMICAL製))等のテレフタル酸エステル化合物;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(例えば、Hexamoll DINCH(BASF製))等の非フタル酸エステル化合物;アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、コハク酸ジイソデシル、アセチルクエン酸トリブチル等の脂肪族多価カルボン酸エステル化合物;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル等の不飽和脂肪酸エステル化合物;アルキルスルホン酸フェニルエステル(Mesamoll(LANXESS製));トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸エステル化合物;トリメリット酸エステル化合物;塩素化パラフィン;アルキルジフェニル、部分水添ターフェニル等の炭化水素系油;プロセスオイル;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ベンジル等のエポキシ可塑剤等が挙げられる。
【0068】
[硬化性組成物の製造方法]
前記硬化性組成物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば以下のように各成分を混練する方法が挙げられる。まず、(D)成分に(E)成分を混合および攪拌することで均一な電解質溶液を得た後、ビニル系重合体(A)成分を加え、さらに混合および攪拌する。次いで、(B)成分を添加して混合および攪拌後、最後に(C)成分を添加して混合および攪拌する。或いは(B)成分と(C)成分の混合順を逆にしてもよい。その後、(F)成分およびその他の成分を添加してもよい。
【0069】
混練に使用する装置としては、三本ロールミル、プラネタリーミキサー等の攪拌脱泡装置が挙げられる。上記装置は、単独でまたは複数種を組み合わせて使用することができる。
【0070】
なお、混練する場合、混練時の発熱により、本硬化性組成物の安定性が損なわれることがないよう、混練時の温度は、0℃以上70℃以下であることが好ましく、5℃以上60℃以下であることがより好ましく、10℃以上50℃以下であることがさらに好ましい。
【0071】
〔2.電解質ゲル〕
本発明の一実施形態に係る電解質ゲルは、上述の硬化性組成物を硬化してなる。即ち、電解質ゲルは、上述の(A)~(D)成分を含み、任意で(E)成分、(F)成分および/またはその他の成分を含んでいてもよい。当該電解質ゲルは、ゲル状電解質、高分子電解質、または電解層ゲルと称される場合もある。
【0072】
硬化性組成物を硬化させる方法には、光照射、加熱および湿分との接触が挙げられる。光照射による硬化には、光線および電子線が利用できる。光線および/または電子線の発生源の例としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、電子線照射装置、ハロゲンランプ、発光ダイオード、半導体レーザー、メタルハライドが挙げられる。光照射による硬化の際の温度は、0~150℃が好ましく、5~120℃がより好ましい。加熱による硬化の際の温度は、50~150℃が好ましく、70~100℃がより好ましい。湿分との接触による硬化の際の相対湿度は、5~95%が好ましく、10~80%がより好ましい。
【0073】
〔3.蓄電池および電子デバイス〕
本発明の一実施形態には、上述の電解質ゲルを備える蓄電池も含まれる。蓄電池は、正極と負極との間に電解質ゲルを備え得る。蓄電池は、正極と負極との間に電解質ゲルとは別にセパレータを備えていてもよく、備えていなくてもよい。このような蓄電池としては、リチウムイオン蓄電池、ニッケル水素電池、NAS電池等が挙げられる。
【0074】
また、本発明の一実施形態には、上述の電解質ゲルを備える電子デバイスも含まれる。このような電子デバイスとしては、調光パネル、色素増感型太陽電池、センサー、アクチュエーター、光電子デバイス等が挙げられる。
【0075】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0076】
本発明の一実施形態は、以下の構成を含んでいてもよい。
<1>(A)成分:架橋性官能基を有するビニル系重合体と、(B)成分:酸化剤と、(C)成分:還元剤と、(D)成分:電解物質とを含む、電解質ゲル用硬化性組成物。
<2>前記(A)成分の架橋性官能基が、ラジカル架橋性官能基、エポキシ基および加水分解性シリル基からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
<3>前記(A)成分の主鎖が(メタ)アクリル系重合体である、<1>または<2>に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
<4>前記(B)成分が有機過酸化物である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
<5>前記(C)成分が有機アミンである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
<6>前記(D)成分がフッ素原子含有陰イオンとリチウム陽イオンとの電子対化合物である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
<7>(E)成分:溶剤をさらに含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
<8>前記(E)成分として、環式カーボネート、非環式カーボネート、脂肪族エステル、脂環式エーテル、脂肪族二官能化エーテル、ラクトン、ジニトリル、少なくとも1個のカルボン酸エステル基およびエーテル基を含有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、<7>に記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
<9>(F)成分:ラジカル反応性の単量体をさらに含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の電解質ゲル用硬化性組成物。
<10><1>~<9>のいずれか1つに記載の電解質ゲル用硬化性組成物を硬化してなる、電解質ゲル。
<11><10>に記載の電解質ゲルを備える、蓄電池。
<12><10>に記載の電解質ゲルを備える、電子デバイス。
【実施例0077】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下、特に断らない限り、「%」は「質量%」を指すものとする。
【0078】
〔評価方法〕
[一液での貯蔵安定性]
実施例または比較例に記載の手順により(E)成分、(D)成分、(A)成分および(B)成分を混合し、得られた混合物に(C)成分、(F)成分を添加した後、常温で静置した。(C)成分を添加してから2時間後の粘度(初期粘度)および1か月間常温保存後の粘度を、E型粘度計(東機産業製)を用いて測定した。硬化性組成物の反応が進行し、硬化しているために粘度が測定できない場合はゲル化と記載する。
【0079】
[低温加熱での硬化性]
実施例または比較例で得られた硬化性組成物を、150mm×100mm×厚み1mmサイズの型枠に流し込み、レベリングおよび脱泡後、80℃で40分間加熱することにより硬化するか否かを評価した。
【0080】
[硬化物の抵抗]
[低温加熱での硬化性]に記載の方法によりシート状硬化物を得た。当該シート状硬化物から試験片(Φ100×厚み12mmサイズ)を得た。R8340 ULTRA HIGH RESISTANCE METER(アドバンテスト製)を用いて、JIS K6911に準拠して、当該試験片の表面抵抗率および体積固有抵抗率を、23℃、55R.H.%条件下で測定した。
【0081】
[硬化物の柔軟性]
JIS K 7312に記載の硬さ試験により、荷重1kgにて硬化物のゴム硬度を測定した。
【0082】
〔リチウムイオン蓄電池用電解質ゲル〕
[実施例および比較例で使用した材料]
●(A)成分
・RC-110C(ラジカル架橋性官能基を有する:ラジカル硬化型テレケリックポリアクリレート、(株)カネカ製、数平均分子量16,000、分子量分布1.1)
●(B)成分
・パーブチルО(t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(純度97%)、日油(株)製)
●(C)成分
・パラトルイジン
●(D)成分
・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)
●(E)成分
・エチレンカーボネート(EC)/プロピレンカーボネート(PC)(重量比1/1)混合溶剤
●(F)成分
・4-ヒドロキシブチルアクリレート
・ビニルエチレンカーボネート
・ブレンマーAE-200(ポリエチレングリコール-モノアクリレート、日油(株)製)
[実施例1~4]
容器内で、表1に記載の配合量の(E)成分に(D)成分を混合し、薬匙で攪拌溶解させた。容器としては、ブレンド専用の容器(φ89×φ98×94mm、内容量470cc、ポリプロピレン製)を用いた。その後、容器に(A)成分および(B)成分を添加および混合し、薬匙で攪拌した。さらにこの容器内の成分を(C)成分とともに、混合専用の攪拌脱泡装置(あわとり練太郎ARV-310、シンキー(株)製)に投入した。投入した成分にせん断を掛けて攪拌および混合し、その後、脱泡を行って攪拌した。さらにこの攪拌脱泡装置に(F)成分を投入して脱泡および攪拌を行い、電解質ゲル用硬化性組成物を得た。実施例4では(E)成分を使用しなかった。
【0083】
[比較例1]
(C)成分を添加しないこと以外は実施例1と同様の方法で電解質ゲル用硬化性組成物を得た。
【0084】
[比較例2]
(D)成分を添加しないこと以外は実施例1と同様の方法で電解質ゲル用硬化性組成物を得た。
【0085】
[評価結果]
実施例および比較例の組成および評価結果を下記表1に示す。
【0086】
【0087】
(貯蔵安定性および硬化性の評価)
(C)成分を添加しなかった比較例1は、硬化しなかった。比較例2では、(C)成分添加後、硬化性組成物がゲル化したのに対して、実施例1~4では(C)成分を添加した1か月後でも増粘せず、安定であった。また、比較例2では、空気存在下、80℃で130分加熱硬化(硬化物の厚み=1cm)した場合には硬化物表層が硬化せず、表面からの厚み1mm程度は液状部分が残った。比較例2では、脱気条件にすることにより常温で硬化した。これに対して、実施例1~4では、表層の液状物は観察されず良好な硬化性を示した。
【0088】
(硬化物の抵抗)
(D)成分を含む実施例1~4では、表面抵抗率、体積固有抵抗率ともに低い値を示した。これに対し、(D)成分を含まない比較例2では、表面抵抗率、体積固有抵抗率ともに高い値を示した。
【0089】
(硬化物の柔軟性)
実施例1~4から得られる硬化物は、そのゴム硬度から、ゴム状であり柔軟性を有することが示された。
【0090】
(総評)
比較例1に示す通り、(C)成分を含まず、(A)成分、(B)成分および(D)成分を含有する硬化性組成物は十分に硬化しない。一方、比較例2に示す通り、(A)成分、(B)成分および(C)成分を含み、(D)成分を含有しない硬化性組成物は、各成分の混合後に常温で速硬化してしまう。これに対し、実施例1~4のように(A)成分、(B)成分に加えて(C)成分および(D)成分を含有する系では各成分を混合しても常温での貯蔵安定性に優れることが見出された。また、(C)成分および(D)成分を含有することにより、貯蔵安定性に加えて低温加熱(80℃)での速硬化(40分間)を両立する電解質ゲル用硬化性組成物を得られることも見出された。