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特開2024-7329高炉の操業方法および高炉内吹き込み用微粉炭
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007329
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】高炉の操業方法および高炉内吹き込み用微粉炭
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240111BHJP
   C21B 7/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C21B5/00 319
C21B7/00 308
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087687
(22)【出願日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2022108447
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩永 大熙
(72)【発明者】
【氏名】照井 光輝
【テーマコード(参考)】
4K012
4K015
【Fターム(参考)】
4K012BE01
4K012BE04
4K015AD01
4K015AD10
(57)【要約】
【課題】予め搬送性が改善された微粉炭を高炉内に吹き込むことで、配管の閉塞を防止して、コークス比が高くなるのを抑制することができる高炉の操業方法と高炉内吹き込み用微粉炭を提案すること。
【解決手段】高炉の炉内に羽口からの送風に合わせて微粉炭を吹き込む高炉の操業方法において、炉内に吹き込むその微粉炭をまず、内部に電場を形成してなるサイクロンに供給し、そのサイクロンで電圧を印加する処理を行い、かつ該サイクロンの排出口に設置した電位測定器にて該微粉炭の飽和帯電量を測定することによって搬送性を評価した上で、高炉の羽口から炉内に吹き込むこと。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の炉内に羽口からの送風に合わせて微粉炭を吹き込む高炉の操業方法において、
炉内に吹き込むその微粉炭をまず、内部に電場を形成してなるサイクロンに供給し、そのサイクロンで電圧を印加する処理を行い、かつ該サイクロンの排出口に設置した電位測定器にて該微粉炭の飽和帯電量を測定することによって搬送性を評価した上で、高炉の羽口から炉内に吹き込むことを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
吹き込みに好適な搬送性を示す前記微粉炭は、前記サイクロンの排出口に設置した電位測定器にて測定したときの飽和帯電量が400nC/g以下を示すものであることを特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
前記微粉炭は、乾燥処理されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の高炉の操業方法。
【請求項4】
前記微粉炭の乾燥処理は、100℃以上の温度に加熱して行うことを特徴とする請求項3に記載の高炉の操業方法。
【請求項5】
内部に電場を形成してなるサイクロン内にて電圧を印加する処理が施されたものであって、該サイクロンの排出口に設置した電位測定器にて測定したときの飽和帯電量が400nC/g以下を示すものであることを特徴とする高炉内吹き込み用微粉炭。
【請求項6】
前記微粉炭は、乾燥処理されたものであることを特徴とする請求項5に記載の高炉内吹き込み用微粉炭。
【請求項7】
前記微粉炭は、100℃以上の温度で乾燥処理されたものであることを特徴とする請求項6に記載の高炉内吹き込み用微粉炭。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の羽口から炉内への微粉炭吹き込みに際し、その微粉炭として搬送性を改善したものを用いる高炉の操業方法および高炉内吹き込み用微粉炭に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガス排出量の増加による地球温暖化が問題となっており、製鉄業においてもCOの排出量を抑制することが重要な課題となっている。このため、最近の高炉操業では、低還元材比(低RAR:Reduction Agent Rate)操業、即ち、銑鉄を1t製造するときの、羽口から吹き込む還元材(微粉炭)と炉頂から装入されるコークスとの合計量が少ない操業が推奨されている。
【0003】
なお、高炉は、一般に主として炉頂から装入されるコークスと、羽口から吹き込まれる微粉炭とを還元材として使用している。この高炉の操業において、低還元材比操業および炭酸ガス排出量の抑制を達成するには、その1つの方法として、操業トラブルがなるべく無いという条件下で、羽口に微粉炭を吹き込むことにより、コークス比を低減する方策が有効であると考えられている。
【0004】
一般に、微粉炭は、配管を使って気流搬送され、最終的に羽口を通じて高炉内に吹き込まれるが、この際、微粉炭の銘柄や粒度などの違いによって微粉炭の搬送性が大きく変化する。その結果、気流搬送中に配管内に微粉炭が付着し、その配管が閉塞し、高炉内の通気性の悪化や温度の低下をもたらしてコークス比が増加する場合があった。このような微粉炭の搬送性の問題を解決するため、従来から種々の方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、高炉の炉内への微粉炭の吹き込み方法として、微粉炭製造装置によって製造された微粉炭を搬送経路から取り出して粒度分布測定装置で周期的に測定する粒度分布測定工程と、該粒度分布測定工程で測定された測定値と目標値との偏差を用いて前記微粉炭製造装置における石炭粉砕力を調整する粉砕力調整工程とを有し、粒度分布測定工程は、標準試料の測定値の標準偏差が1%以内である粒度分布測定装置を用いる方法が開示されており、微粉炭のうち-44μmの粒度の質量割合と、-74μmの粒度の質量割合とを基準にして微粉炭の粒度分布を測定し、その微粉炭の粒度分布が「45%≦-44μm割合(%)≦50%、60%≦-74μm割合(%)」になるように粉砕された微粉炭を吹き込む方法を提案している。
【0006】
また、特許文献2では、微粉炭の気流輸送方法に関し、粒度以外の指標として、微粉炭の粒子間付着力に着目し、Rumpfの式に基づいて算出された粒子間付着力の値が3.26×10-7N以下の微粉炭を高炉の炉内へ吹き込む方法を提案している。
【0007】
また、特許文献3では、微粉炭を上部セルと下部セルから構成されるセルに装入し、該セルを4.0MPaの圧力で60秒間圧縮して微粉炭粉体層を作製し、次いで、前記下部セルを固定したまま、前記上部セルと前記微粉炭粉体層とを上方向に、0.1mm/secの速度で引張り、分断し、その際に要した引張破断強度が50kPa以下である微粉炭を高炉内に吹き込む方法を提案している。
【0008】
また、特許文献4では、石炭中に存在する27Alまたは29Siの核磁気共鳴スペクトルを測定し、その測定結果に基づいて石炭中に存在するAlとSiを主成分とする無機鉱物の化学形態を分類し、その分類に基づいて上記石炭(微粉炭)の搬送性を評価する方法を提案している。
【0009】
また、特許文献5では、冶金炉又は焼結炉の吹き込み口から吹き込む微粉炭の搬送性を向上させるべく、微粉炭に水に可溶な無機塩からなる微粉炭搬送性向上剤を添加する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013-43998号公報
【特許文献2】特開2016-113664号公報
【特許文献3】特開2019-59985号公報
【特許文献4】特開2005-207817号公報
【特許文献5】特開平09-256015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された方法では、石炭の銘柄に関わらず微粉炭の粒度分布が「45%≦-44μm割合(%)≦50%、60%≦-74μm割合(%)」となるように調整して、高炉につながる配管の閉塞防止を試みている。しかしながら、実際の操業においては、粒度分布の調整を行ったとしても、図6に示すように、石炭の銘柄によって配管の閉塞頻度が高いものが存在し、閉塞本数が却って増加するという問題があった。
【0012】
また、特許文献2に開示された方法では、Rumpfの式に基づく粒子間付着力の値によって使用する石炭の銘柄を選択しているが、配管の閉塞時には、微粉炭が粉体層となって配管に付着するので、微粉炭の粒度が変化した場合や微粉炭の粉体層の空隙率が変化した場合には、微粉炭の粉体層の引張破断強度が変化して配管が閉塞するという問題があった。また、実際の操業においては、粒子間付着力の低い銘柄を選択しても、図7に示すように配管の閉塞頻度の高いものが存在していた。
【0013】
また、特許文献3に開示された方法では、40MPaの圧力で60秒間圧縮して作成された微粉炭の粉体層を引張り、分断し、その際に要した引張破断強度の値で使用する石炭の銘柄を選択しているが、実際の操業では、微粉炭は配管中を流動しているため、上記のように静止した粉体層の引張破断強度から微粉炭の搬送性を評価することに問題があった。
【0014】
また、特許文献4に開示された方法では、微粉炭中に存在する27Alまたは29Siの核磁気共鳴スペクトルを測定し、その測定結果から微粉炭の搬送性を評価しているが、核磁気共鳴スペクトル装置は、非常に高価かつ繊細な設備であるため、高炉の炉内の状況に応じて、使用銘柄や吹き込み量が変更される実機の操業に利用するのが困難である。また、この方法では、アルミニウムとケイ素を主成分とする無機鉱物の化学形態までが定量的に実施されるものの、最終的な搬送性の評価はその存在比に応じて定性的になされるため、一般性の高い方法とは言い難いという問題がある。
【0015】
また、特許文献5に開示された方法は、微粉炭の摩擦帯電量の低減によって搬送性の向上が期待される一方で、添加された無機塩が、高炉炉下部の粉率上昇に伴う通気性の悪化により、高炉の安定操業の妨害因子として作用する可能性がある。また、これらの無機塩が溶融することにより、炉内に滞留する溶融スラグの総量が増加し、炉下部のガスパスの狭小化に伴う通気性の悪化も懸念される。これらの問題は、炉内でガスパスとして作用するコークスの使用量を増やすことで対応することができるが、溶銑コストの悪化に繋がる。また、無機塩の昇温と溶融に必要な熱量分、高炉において還元材比を増やす必要があり、高炉からのCO排出量の増加が懸念される。従って、本方法は、微粉炭の搬送性向上によって得られる効果以上に、高炉本体でのデメリットが多いという問題がある。
【0016】
本発明は、前記各従来技術が抱えている問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、予め搬送性が改善された微粉炭を高炉内に吹き込むことで、配管の閉塞を防止して、コークス比が高くなるのを抑制することができる高炉の操業方法と高炉内吹き込み用微粉炭を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題を解決するため鋭意検討した結果、発明者らは、微粉炭の高炉への搬送過程において、該微粉炭の静電気力が搬送配管への付着や閉塞を引き起こす原因となっていることに着目し、該微粉炭の飽和帯電量によって搬送性を評価できることを知見し、本発明を開発するに至った。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは、以下の通りである。
すなわち、本発明は、高炉の炉内に羽口からの送風に合わせて微粉炭を吹き込む高炉の操業方法において、炉内に吹き込むその微粉炭をまず、内部に電場を形成してなるサイクロンに供給し、そのサイクロンで電圧を印加する処理を行い、かつ該サイクロンの排出口に設置した電位測定器にて該微粉炭の飽和帯電量を測定することによって搬送性を評価した上で、高炉の羽口から炉内に吹き込むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の高炉の操業方法においては、
(1)吹き込みに好適な搬送性を示す前記微粉炭は、前記サイクロンの排出口に設置した電位測定器にて測定したときの飽和帯電量が400nC/g以下を示すものであること、
(2)前記微粉炭は、乾燥処理されたものであること、
(3)前記微粉炭の乾燥処理は、100℃以上の温度に加熱して行うこと、
が好ましい。
【0020】
また、本発明は、内部に電場を形成してなるサイクロン内にて電圧を印加する処理が施されたものであって、該サイクロンの排出口に設置した電位測定器にて測定したときの飽和帯電量が400nC/g以下を示すものであることを特徴とする高炉内吹き込み用微粉炭である。
【0021】
なお、本発明の高炉内吹き込み用微粉炭においては、
(1)前記微粉炭は、乾燥処理されたものであること、
(2)前記微粉炭は、100℃以上の温度で乾燥処理されたものであること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、予め搬送性を評価してなる微粉炭を高炉の羽口から炉内に吹き込むことで、該微粉炭自身の特性に起因する配管の閉塞を抑制しながら高炉の操業を行うことができるようになる。そのため、高炉内の通気性の悪化および温度の低下を抑制することができるようになり、コークス比の増加等を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の高炉の操業方法を実施するための高炉とその付帯設備を示す模式図である。
図2】微粉炭の飽和帯電量の測定方法を説明する模式図である。
図3】サイクロンの内部電極に印加した電圧と微粉炭Aの帯電量との関係を示すグラフである。
図4】実機の微粉炭搬送ラインにおける、微粉炭の臨界搬送距離を推定するための実験方法を示す模式図である。
図5】微粉炭の飽和帯電量と、該微粉炭を実機に使用した際の搬送配管の閉塞本数(1日平均)との関係を示すグラフである。
図6】(a)は微粉炭の粒度分布(~44μm(mass%))と配管の閉塞本数(1日平均)との関係を示すグラフであり、(b)は微粉炭の粒度分布(~74μm(mass%))と配管の閉塞本数(1日平均)との関係を示すグラフである。
図7】微粉炭の粒子間付着力と配管の閉塞本数(1日平均)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る高炉の操業方法を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る高炉の操業方法を実施するために用いられる高炉と、その付帯設備を示す模式図であり、図1を用いて微粉炭を高炉の炉内に羽口から吹き込む方法について説明する。
【0025】
ヤードにストックされている石炭1は、石炭ホッパー2に貯留されたのち、フィーダー3によって微粉炭製造装置4に切り出される。微粉炭製造装置4では、石炭1が粉砕され、乾燥されたのち、所定の粒度の微粉炭5に調整される。
【0026】
このようにして調整された微粉炭5は、主管6を通してバグフィルタ7へ気流搬送される。バグフィルタ7で捕集された微粉炭5は、コールビン8に貯留され、その後、吹込みタンク9へ輸送される。吹込みタンク9に輸送された微粉炭5は、気流搬送により分配器10に供給され、さらに分配器10から複数の枝管11およびブローパイプ12を経て高炉13の下部に配設されている各羽口14に分配される。なお、微粉炭5は、熱風炉15から各羽口14につながるブローパイプ12に供給される熱風中に噴射され、その熱風と共に羽口14から高炉13内に吹き込まれる。このようにして高炉13の操業が行われる。
【0027】
微粉炭5は、上述したように、いくつかの配管系、即ちパイプ、バルブ、ホルダー等や吹込み装置等を経て羽口14から高炉13内に吹き込まれる。このように高炉13内に多量の微粉炭5を吹き込むとき、その微粉炭5の一部が配管系等の内部に付着し、付着した微粉炭5の粉体層が成長して配管が閉塞する場合があり、正常な高炉操業を継続することができなくなる。そのため、高炉13の炉内への微粉炭5の吹き込みに当たっては、微粉炭5がその配管系に付着したり、閉塞が発生したりすることなく、スムーズに流れるようにすること(搬送性の向上)が強く求められる。
【0028】
微粉炭5が各配管内に付着する原因としては、微粉炭5と配管の間に何らかの付着力が作用する必要があり、その付着力を形態別に分類すると、ファンデルワールス力、液架橋力、静電気力の存在が考えられる。
【0029】
まず、前記ファンデルワールス力は、原子、イオン、分子の間に働く分子間力であり、その起源は分子内の電子分布の非定常的な偏りに由来する電気双極子同士の分散力にある。その作用力は等方向性で原子間距離の7乗に反比例するため、微粉炭5と配管が接触していない状態ではその力は極めて小さいものとなる。しかし、このファンデルワールス力は、配管系等に付着した微粉炭5による粉体層の生成過程にあっては有意に作用する可能性があるものの、配管系等への微粉炭5の付着の根本的な原因になるものではないと考えられる。
【0030】
次に、前記液架橋力は、気相中に液体が存在し、その液体が粒子間に保持される場合に粒子同士に働く引力であり、物理的には凹凸の曲面を有する液架橋内の表面張力として説明できる。この液架橋力は、架橋の形状や粒子の表面粗さ、吸着水性状、吸着水中の不純物濃度によって変化するものの、付着力として有意に働くのは相対湿度が60%以上の環境下であるとされている。これに対し、高炉13の羽口14につながるブローパイプ12内は、微粉炭5の搬送環境が温度約100℃、搬送気流20m/s程度であり、相対湿度は極めて低位である。従って、この液架橋力は、配管系等への微粉炭5の付着の原因になるものではないと考えられる。
【0031】
一方、前記静電気力は、帯電粒子間に働く力であり、その値はそれぞれの電荷の積に比例するとともに、電荷間距離の2乗に反比例する。前記ファンデルワールス力が粒子間距離の7乗に反比例するのに対して、静電気力は距離の2乗に反比例する力であるため、配管と粒子が接触していない状態であったとしても接触に有意な力が作用する可能性は高い。また、高炉13の羽口14につながるブローパイプ12は、通常、アースされているため、静電気力は作用しないと考えられるが、実際には帯電していない物体と帯電している粒子の間にも電気影像力と呼ばれる静電気力が働くことが知られている。これは、帯電していない物体内の自由電子が、帯電粒子の電荷に引き寄せられることで生じる引力である。従って、微粉炭5の、高炉13への搬送過程において、静電気力が微粉炭5の付着の原因になっている可能性が極めて高いと考えられる。
【0032】
以上を踏まえて、本発明では、微粉炭5の高炉13への搬送過程における静電気力に着目し、高炉13の羽口14から炉内に吹き込む微粉炭5の飽和帯電量によって搬送性を評価することが有効であるとの結論に達した。
【0033】
そこで、高炉の炉内に吹き込まれる微粉炭5の飽和帯電量についての検討を行った。
図2は、微粉炭5の飽和帯電量を測定する方法を示す模式図である。なお、本発明において微粉炭5の飽和帯電量とは、電圧を印加したサイクロン19の内部に搬送気流18とともに微粉炭5を流入させ、該微粉炭5を、サイクロン19の排出部に設置したファラデーゲージ23にて捕集し、ファラデーゲージ23に接続したエレクトロメーター24にて測定される帯電量の最大値(nC/g)である。なお、サイクロン19に印加する電圧は、微粉炭5が少なくとも飽和帯電量となる電圧であり、好ましくは-1~1kVの範囲である。
【0034】
サイクロン19は、図2に示すように、外部電極20と内部電極21を有し、その内部電極21には、高電圧発生装置22によって電圧が印加される。これにより、サイクロン19の内部に電場が形成され、微粉炭5が、その電場を通過することで帯電されることになる。
【0035】
以下に説明する実施形態では、評価用の微粉炭として、微粉炭A、B、C、D、E、F、Gを準備した。各微粉炭A~Gは、それぞれ調和平均粒径が15~20μmになるように粒度調整した。なお、調和平均粒径は、レーザー回折散乱法による湿式の粒度分布測定装置を用いて微粉炭A~Gの粒度分布を測定し、各粒径における体積割合(体積%)と下記式(1)を用いて算出した。
Dp=Σn/Σ(n/d)・・・(1)
但し、上記式(1)において、Dpは調和平均粒径(μm)であり、dは微粉炭の粒径(μm)であり、nは体積割合(体積%)である。
【0036】
実施に当たっては、各微粉炭A~Gを、サイクロン19の内部に流入させ、該サイクロン19に形成された電場内を通過させることで帯電させ、飽和帯電量を測定した。なお、測定は、サイクロン19の内部電極21に印加する電圧を0.2kV刻みで変更し、帯電量が飽和するまで測定を行った。
【0037】
前記サイクロン19への印加電圧と微粉炭5の帯電量との関係について、微粉炭Aを一例として図3に基づき説明する。この図3に示すように、微粉炭Aの帯電量は、印加電圧に対しておおよそ奇関数の関係を有していることが分かる。また、印加電圧が0kVのときの帯電量が、若干正の値に振れていることから、微粉炭Aはプラスの電荷を帯びやすい傾向にあることも分かった。そして、微粉炭Aの帯電量は、印加電圧の絶対値が約0.5kV以上になったときにおおよそ一定値に収束している。これらの結果から、微粉炭Aは、絶対値0.5kV以上の電圧を印加したサイクロン19の内部において、飽和帯電量に達するまで帯電していたことが判明した。なお、印加電圧がプラスの場合とマイナスの場合で飽和帯電量に若干の差があるが、絶対値として最大の方を飽和帯電量とした。また、微粉炭B~Gについても、サイクロン19の内部において、印加電圧が-1~1kVの範囲で印加すれば、飽和帯電量に達するまで帯電することが判明した。下記の表1は、微粉炭A~Gの飽和帯電量を示すものである。
【0038】
【表1】
【0039】
次に、実機の搬送ラインにおける各微粉炭A~Gの帯電量を推測するため、実機の搬送ラインを模擬した試験系において、各微粉炭A~Gの帯電量の測定試験を行った。
図4は、実機での微粉炭A~Gの帯電量を推測するための試験系の模式図である。試験に供された微粉炭A~Gをそれぞれ、まずファラデーゲージ25に装入し、エレクトロメーター26にてその初期帯電量を測定した。微粉炭A~Gは、初期帯電量を測定した後、圧縮空気29(実機に合わせて温度100℃、20m/sとした。)に同伴させて、長さ1mの配管30内を通過させた。なお、配管30には、直径34mmのステンレス配管を用いた。なお、微粉炭A~Gは、配管30の通過中、粒子同士や配管30内壁との摩擦などによって帯電していく様子が確認された。
【0040】
次に、微粉炭A~Gを配管30の排出口に設置されたファラデーゲージ31に捕集し、ファラデーゲージ31に接続したエレクトロメーター32によって帯電量を測定した。エレクトロメーター26で測定した微粉炭A~Gの初期帯電量と、エレクトロメーター32で測定した配管30通過後の微粉炭A~Gの帯電量との差から、配管30を通過した微粉炭A~Gの単位搬送距離当たりの帯電量(nC/g・m)を求めた。
【0041】
次に、図4で示した試験系にて測定された微粉炭A~Gの単位搬送距離当たりの帯電量(nC/g・m)と、図2で測定された微粉炭A~Gの飽和帯電量(nC/g)とから、飽和帯電量に達するまでの微粉炭A~Gの臨界搬送距離(m)を推定した。
【0042】
表2に、微粉炭A~Gについての単位搬送距離当たりの帯電量(nC/g・m)と、飽和帯電量に達するまでの臨界搬送距離(m)とを、飽和帯電量(nC/g)と共に示した。この表2に示す結果より、いずれの微粉炭A~Gも、搬送距離10m以下で飽和帯電量に達するものと推測された。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の結果より、実機における微粉炭の搬送ラインが数100m規模であることを鑑みると、実機の操業において、微粉炭は搬送ラインの初期位置(10m以内の位置)で飽和帯電量に達するものと推測される。そこで、この微粉炭の飽和帯電量を指標として、実機の搬送ライン内での、該微粉炭の静電気力による配管系等への付着の影響について検討することにした。
【0045】
上記検討結果に基づき、実機を用いて微粉炭の飽和帯電量と微粉炭の搬送性について検証を行った。微粉炭の飽和帯電量の、実機における影響を確認するため、表1および表2に示した微粉炭A~Gについてそれぞれ、これらを高炉内に吹き込んで操業を行い、配管の閉塞性と微粉炭の飽和帯電量との相関関係を調査した。
【0046】
使用した実機は、羽口34本、微粉炭の搬送配管68本を備える内容積4300mの高炉であり、塊コークス比280kg/t、小塊コークス比70kg/t、目標10000t/dayの銑鉄生産量で、微粉炭を200kg/tの原単位で吹き込む操業を5日間実施した。なお、微粉炭の搬送配管が閉塞した場合であっても、閉塞を解消させず、未閉塞の配管に通常より多くの微粉炭を搬送し、微粉炭比が一定となるように操業した。また、吹き込む微粉炭の粒度は、調和平均粒径が15~20μmになるように随時粉砕条件を調整した。
【0047】
図5に各微粉炭A~Gの飽和帯電量に対する、微粉炭の付着によって閉塞した搬送配管の1日平均の本数を示す。飽和帯電量が500nC/g以上であった微粉炭C、DおよびEを用いた場合には、1日平均の搬送配管の閉塞本数が7~10本であったのに対し、それ以外の、飽和帯電量が400nC/g以下であった微粉炭A、B、FおよびGを用いた場合には、1日平均の搬送配管の閉塞本数が1本以下と著しく減少した。
【0048】
これらの結果から、高炉の操業においては、炉内に吹き込む微粉炭として飽和帯電量が400nC/g以下の微粉炭を用いることにより、配管系等への微粉炭の付着を確実に抑制することができるようになり、高炉の操業中に微粉炭の付着によって閉塞する配管の数を少なくすることができることが確認された。
【0049】
したがって、高炉の操業にあたり、使用する高炉内への吹き込み用微粉炭の飽和帯電量を測定し、該飽和帯電量が400nC/g以下、好ましくは360nC/g以下の微粉炭を用いることで、微粉炭の搬送配管への付着が抑制され、高炉内の炉周方向のガス量や、温度の偏差の発生および炉内の通気性の悪化を抑制することができ、ひいては配管の閉塞によるコークス比の増加を抑制することができる。
【0050】
なお、本発明において前記微粉炭は、加熱して乾燥処理したものを用いることが好ましく、加熱処理を行うことにより、該微粉炭から揮発分が放出されるとともに、配管内に付着しても成長が抑制される(改質する)ので、配管の閉塞を効果的に抑制することができるようになる。
【0051】
また、微粉炭の乾燥処理のため、加熱温度は90℃以上、好ましくは100℃以上とすることが好ましい。微粉炭の乾燥処理を行うことにより、粒子表面の付着水分の蒸発による液架橋力の減少を期待することができ、配管詰まりを防止することができる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この実施形態は、本発明の開示の一部をなすものであり、本発明はこれらの説明および図面により限定されるものではない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、高炉への微粉炭の吹き込み方法のほか、微粉炭以外の同種の粉・粒体の搬送配管用の技術としても適用が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 石炭
2 石炭ホッパー
3 フィーダー
4 微粉炭製造装置
5 微粉炭
6 主管
7 バグフィルタ
8 コールビン
9 吹込みタンク
10 分配器
11 枝管
12 ブローパイプ
13 高炉
14 羽口
15 熱風炉
18 搬送気流
19 サイクロン
20 外部電極
21 内部電極
22 高電圧発生装置
23 ファラデーゲージ
24 エレクトロメーター
25 ファラデーゲージ
26 エレクトロメーター
29 圧縮空気
30 配管
31 ファラデーゲージ
32 エレクトロメーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7