(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073295
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】フルオレン化合物ならびにその製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
C07C 65/26 20060101AFI20240522BHJP
C07C 51/08 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C07C65/26 CSP
C07C51/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184413
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】安田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】鞍谷 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB48
4H006AB90
4H006AB92
4H006AC46
4H006BB14
4H006BB31
4H006BE10
4H006BE60
4H006BJ30
4H006BJ50
4H006BP60
4H006BS30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い耐熱性(または安定性)を示し、かつ高屈折率な化合物(またはその塩)、およびその化合物を原料(反応成分)とする樹脂、ならびにそれらの製造方法および用途を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物またはその塩を調製する。
[式中、R
1は置換基を示し、k1は0~8の整数を示し、Z
1aおよびZ
1bは独立して置換または未置換の縮合多環式アレーン環を示し、A
1aおよびA
1bは独立してアルキレン基を示し、m1aおよびm1bは独立して0以上の整数を示し、Z
2aおよびZ
2bは独立して置換または未置換のアレーン環を示し、R
2aおよびR
2bは独立してヒドロキシル基、基[-OR
h2](式中、R
h2は炭化水素基を示す)またはハロゲン原子を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物またはその塩。
【化1】
[式中、R
1は置換基を示し、k1は0~8の整数を示し、
Z
1aおよびZ
1bは独立して置換または未置換の縮合多環式アレーン環を示し、
A
1aおよびA
1bは独立してアルキレン基を示し、m1aおよびm1bは独立して0以上の整数を示し、
Z
2aおよびZ
2bは独立して置換または未置換のアレーン環を示し、
R
2aおよびR
2bは独立してヒドロキシル基、基[-OR
h2](式中、R
h2は炭化水素基を示す)またはハロゲン原子を示す。]
【請求項2】
前記式(1)において、R1がハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORh1](式中、Rh1は炭化水素基を示す)、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基であり、k1が0~4の整数であり、
Z1aおよびZ1bの縮合多環式アレーン環が独立してC10-14縮合多環式アレーン環であり、
m1aおよびm1bが0であり、
Z2aおよびZ2bのアレーン環が独立してC6-12アレーン環である請求項1記載の化合物またはその塩。
【請求項3】
温度25℃、波長589nmにおける屈折率nDが、1.65以上であり、
10%重量減少温度が、200℃以上である請求項1または2記載の化合物またはその塩。
【請求項4】
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチルおよびN-メチル-2-ピロリドンから選択された少なくとも一種の溶媒に、温度25℃において、濃度20質量%以上で溶解可能である請求項1または2記載の化合物またはその塩。
【請求項5】
結晶の形態である請求項1または2記載の化合物またはその塩。
【請求項6】
下記式(2)で表される化合物を加水分解または加溶媒分解する分解工程を含む、請求項1または2記載の化合物またはその塩の製造方法。
【化2】
[式中、R
1、k1、Z
1aおよびZ
1b、A
1aおよびA
1b、m1aおよびm1b、ならびにZ
2aおよびZ
2bは、前記式(1)に同じ。]
【請求項7】
請求項1記載の化合物またはその塩と、溶媒とを含む液状組成物。
【請求項8】
請求項1記載の化合物またはその塩、および溶媒の総量に対する請求項1記載の化合物またはその塩の濃度が、20質量%以上である請求項7記載の液状組成物。
【請求項9】
請求項1または2記載の化合物またはその塩を含むレジスト材料。
【請求項10】
請求項1記載の化合物またはその塩を原料とする樹脂。
【請求項11】
請求項1記載の化合物またはその塩、および/または請求項10記載の樹脂を含む成形体。
【請求項12】
光学部材である請求項11記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(またはその塩)およびその誘導体ならびにその製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物は、屈折率や耐熱性などに優れており、樹脂原料などとして有効に利用されている。9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物としては、例えば、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するポリカルボン酸などが知られているが、近年の急速な技術革新に伴って、耐熱性や屈折率のさらなる向上が要求されている。
【0003】
特開2009-256332号公報(特許文献1)および特開2009-256333号公報(特許文献2)には、耐熱性などの特性に優れ、樹脂原料などとして使用可能な新規なフルオレン骨格を有するポリカルボン酸について記載されている。
【0004】
また、特開2005-082564号公報(特許文献3)、特開2006-219440号公報(特許文献4)および特開2009-073738号公報(特許文献5)には、9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリカルボン酸について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-256332号公報
【特許文献2】特開2009-256333号公報
【特許文献3】特開2005-082564号公報
【特許文献4】特開2006-219440号公報
【特許文献5】特開2009-073738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の実施例1では、9,9-ビスナフチルフルオレン骨格を有するポリカルボン酸として、下記構造を有する9,9-ビス[6-(カルボキシメトキシ)-2-ナフチル]フルオレンを調製したことが記載されている。
【0007】
【0008】
しかし、屈折率や耐熱性、溶解性などの具体的な特性は何ら評価されていない。特許文献1に記載のポリカルボン酸では、柔軟な化学構造であるメチレン基などの脂肪族炭化水素基を介してカルボキシル基が結合しているため、屈折率や耐熱性を十分に向上できないことが予想される。
【0009】
また、特許文献2の実施例2では、9,9-ビスナフチルフルオレン骨格を有するポリカルボン酸として、下記構造を有する9,9-ビス[6-(4-カルボキシフェニルメトキシ)-2-ナフチル]フルオレンを調製したことが記載されている。
【0010】
【0011】
しかし、この文献においても屈折率や耐熱性、溶解性などの具体的な特性は何ら評価されていない。特許文献2に記載のポリカルボン酸では、剛直な化学構造であるフェニレン基(ベンゼン環)などの芳香族炭化水素基を介してカルボキシル基が結合しており、比較的高い屈折率や耐熱性が期待されるものの、前記芳香族炭化水素基に隣接してメチレン基などの柔軟な脂肪族炭化水素基が結合するため、屈折率や耐熱性を十分に向上できないと推測される。
【0012】
なお、特許文献2の式(1)では、前記脂肪族炭化水素基を介することなく、前記芳香族炭化水素基が直接結合する態様(式(1)のR3が直接結合である態様)であってもよいことが記載されているが、何ら具体的な言及はなく、実施例でも、脂肪族炭化水素基としてのメチレン基を介する化合物しか調製されていない。
【0013】
一方、特許文献3~5では、下記化合物などが具体的に調製されている。
【0014】
【0015】
しかし、これらの文献においても屈折率や耐熱性、溶解性などの具体的な特性は何ら評価されておらず、9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有するポリカルボン酸であるため、9,9-ビスナフチルフルオレン骨格を有するポリカルボン酸に比べて、屈折率や耐熱性が低いと考えられる。
【0016】
また、化学構造中に芳香族骨格(ベンゼン環骨格)が増えると、その剛直な構造に起因して、通常、アルキレン基などの脂肪族基(脂肪族骨格)に比べて耐熱性や屈折率の向上が期待される一方で、溶解性は大きく低下することが多い。すなわち、耐熱性や屈折率の向上と、溶解性の向上とは、一般的にトレードオフの関係にあり、これらをバランスよく充足するのは困難である。溶解性が低すぎると、例えば、所望の化合物の原料(反応成分)として利用する際などに、反応を十分に進行できなくなったり、液状組成物として塗布する用途などに利用し難くなったりして、用途が制限されるおそれがある。
【0017】
従って、本発明の目的は、高い耐熱性(または安定性)を示し、かつ高屈折率な化合物(またはその塩)、およびその化合物(またはその塩)を原料(反応成分)とする樹脂、ならびにそれらの製造方法および用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の構造を有する化合物(またはその塩)が高い耐熱性および屈折率を示すことを見いだし、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明は、下記態様などを包含していてもよい。
【0020】
態様[1]:下記式(1)で表される化合物またはその塩。
【0021】
【0022】
[式中、R1は置換基を示し、k1は0~8の整数を示し、
Z1aおよびZ1bは独立して置換または未置換の縮合多環式アレーン環を示し、
A1aおよびA1bは独立してアルキレン基を示し、m1aおよびm1bは独立して0以上の整数を示し、
Z2aおよびZ2bは独立して置換または未置換のアレーン環を示し、
R2aおよびR2bは独立してヒドロキシル基、基[-ORh2](式中、Rh2は炭化水素基を示す)またはハロゲン原子を示す]。
【0023】
態様[2]:前記式(1)において、R1がハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORh1](式中、Rh1は炭化水素基を示す)、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基であり、k1が0~4の整数であり、
Z1aおよびZ1bの縮合多環式アレーン環が独立してC10-14縮合多環式アレーン環であり、
m1aおよびm1bが0であり、
Z2aおよびZ2bのアレーン環が独立してC6-12アレーン環である態様[1]記載の化合物またはその塩。
【0024】
態様[3]:温度25℃、波長589nmにおける屈折率nDが、1.65以上であり、
10%重量減少温度が、200℃以上である態様[1]または[2]記載の化合物またはその塩。
【0025】
態様[4]:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチルおよびN-メチル-2-ピロリドンから選択された少なくとも一種の溶媒に、温度25℃において、濃度20質量%以上で溶解可能である態様[1]~[3]のいずれかに記載の化合物またはその塩。
【0026】
態様[5]:結晶の形態である態様[1]~[4]のいずれかに記載の化合物またはその塩。
【0027】
態様[6]:下記式(2)で表される化合物を加水分解または加溶媒分解する分解工程(加水分解工程または加溶媒分解工程)を含む、態様[1]~[5]のいずれかに記載の化合物またはその塩の製造方法。
【0028】
【0029】
[式中、R1、k1、Z1aおよびZ1b、A1aおよびA1b、m1aおよびm1b、ならびにZ2aおよびZ2bは、前記式(1)に同じ]。
【0030】
態様[7]:態様[1]~[5]のいずれかに記載の前記式(1)で表される化合物またはその塩と、溶媒とを含む液状組成物。
【0031】
態様[8]:前記式(1)で表される化合物またはその塩、および溶媒の総量に対する前記式(1)で表される化合物またはその塩の濃度が、20質量%以上である態様[7]記載の液状組成物。
【0032】
態様[9]:態様[1]~[5]のいずれかに記載の前記式(1)で表される化合物またはその塩を含むレジスト材料。
【0033】
態様[10]:態様[1]~[5]のいずれかに記載の前記式(1)で表される化合物またはその塩を原料とする樹脂。
【0034】
態様[11]:態様[1]~[5]のいずれかに記載の前記式(1)で表される化合物またはその塩、および/または態様[10]記載の樹脂を含む成形体。
【0035】
態様[12]:光学部材である態様[11]記載の成形体。
【0036】
なお、本発明では、以下の従たる目的を達成(または課題を解決)してもよい。
【0037】
すなわち、本発明の他の目的は、耐熱性(または安定性)および屈折率が高く、かつ溶媒に対する溶解性にも優れた化合物(またはその塩)、およびその化合物(またはその塩)を原料とする樹脂、ならびにそれらの製造方法および用途を提供することにある。
【0038】
また、本発明のさらに他の目的は、保存安定性に優れた液状組成物(または溶液)を調製可能な化合物(またはその塩)、およびその化合物(またはその塩)を原料とする樹脂、ならびにそれらの製造方法および用途を提供することにある。
【0039】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「C1アルキル基」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール基」で示す。
【発明の効果】
【0040】
本発明の化合物(またはその塩)は、高い耐熱性(または安定性)を示し、かつ高屈折率である。また、本発明の化合物(またはその塩)は、高い耐熱性(または安定性)および屈折率のみならず、溶媒に対して高い溶解性を示すこともできる。さらに、本発明の化合物(またはその塩)は、保存安定性に優れた液状組成物(または溶液)を調製することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
[式(1)で表される化合物(またはその塩)]
本発明は、下記式(1)で表される化合物(ジカルボン酸化合物)またはその塩およびその誘導体を包含する。なお、本明細書および特許請求の範囲において、式(1)で表される化合物を、単に、「化合物(1)」という場合がある。
【0042】
【0043】
[式中、R1は置換基を示し、k1は0~8の整数を示し、
Z1aおよびZ1bは独立して置換または未置換の縮合多環式アレーン環を示し、
A1aおよびA1bは独立してアルキレン基を示し、m1aおよびm1bは独立して0以上の整数を示し、
Z2aおよびZ2bは独立して置換または未置換のアレーン環を示し、
R2aおよびR2bは独立してヒドロキシル基、基[-ORh2](式中、Rh2は炭化水素基を示す)またはハロゲン原子を示す]。
【0044】
前記式(1)において、R1で表される置換基としては、反応に不活性な非反応性基(または非重合性基)であってもよく、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORh1](式中、Rh1は炭化水素基を示す)、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)などが挙げられる。
【0045】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0046】
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。
【0047】
アルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などのC1-10アルキル基が挙げられ、好ましくはC1-6アルキル基、さらに好ましくはC1-4アルキル基である。
【0048】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
【0049】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0050】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0051】
前記基[-ORh1]において、炭化水素基Rh1としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの上記炭化水素基と同様の基などが挙げられる。前記基[-ORh1]としては、例えば、前記炭化水素基Rh1の例示に対応する基などが挙げられ、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられる。アルコキシ基(直鎖状または分岐鎖状アルコキシ基)としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1-10アルコキシ基が挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基が挙げられる。
【0052】
アシル基としては、C1-12アシル基などが挙げられ、例えば、アセチル基などのC1-6アルキル-カルボニル基などが挙げられる。
【0053】
モノまたはジ置換アミノ基としては、例えば、モノまたはジアルキルアミノ基、モノまたはビス(アルキルカルボニル)アミノ基などが挙げられる。モノまたはジアルキルアミノ基としては、例えば、モノまたはジメチルアミノ基などのモノまたはジC1-4アルキルアミノ基が挙げられる。モノまたはビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、モノまたはジアセチルアミノ基などのモノまたはビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基が挙げられる。
【0054】
これらの基のうち、代表的なR1としては、ハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORh1]、シアノ基などが挙げられ、好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アリール基などの炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基などの基[-ORh1]が挙げられる。
【0055】
置換数k1は、例えば0~6程度の整数であってもよく、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数、0または1であり、特に0が好ましい。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環における基R1の各置換数(1~4位における置換数と、5~8位における置換数と)は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0056】
なお、基R1の置換数k1が複数(2以上)である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、一方のベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は、同一または異なっていてもよく;また、双方のベンゼン環にそれぞれ置換する基R1の種類は異なっていてもよいが、同一が好ましい。なお、基R1の結合位置(置換位置)は、フルオレン環の1~8位であれば特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられ、2,7位が好ましい。
【0057】
Z1aおよびZ1bは独立して、置換または未置換の縮合多環式アレーン環(置換基を有していてもよいアレーン環)を示し、前記縮合多環式アレーン環(縮合多環式芳香族炭化水素環)としては、例えば、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン環などの縮合二ないし四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては、例えば、ナフタレン環、インデン環などの縮合二環式C10-16アレーン環などが挙げられる。縮合三環式アレーン環としては、例えば、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合三環式C14-20アレーン環などが挙げられる。
【0058】
Z1aおよびZ1bにおける好ましい縮合多環式アレーン環としては、縮合多環式C10-18アレーン環、さらに好ましくは縮合多環式C10-14アレーン環、特に好ましくはナフタレン環である。
【0059】
Z1aおよびZ1bにおける縮合多環式アレーン環の種類は、互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0060】
Z1aおよびZ1bの縮合多環式アレーン環において、フルオレン環の9位、および基[-O-(A1aO)m1a-Z2a-C(=O)-R2a],[-O-(A1bO)m1b-Z2b-C(=O)-R2b]との置換位置(結合位置)は特に制限されないが、フルオレン環の9位との結合位置に対して、例えば、隣接していない離れた置換位置、好ましくは最も離れた置換位置に基[-O-(A1aO)m1a-Z2a-C(=O)-R2a],[-O-(A1bO)m1b-Z2b-C(=O)-R2b]が置換(結合)するのが好ましい。具体的には、Z1a,Z1bがナフタレン環の場合、例えば、フルオレン環の9位との結合位置としてのナフタレン環の1位または2位(1-ナフチル基または2-ナフチル基)に対して、5~8位に、好ましくは5位または6位に(1,5位または2,6位の位置関係で)、さらに好ましくは6位に(2,6位の位置関係で)基[-O-(A1aO)m1a-Z2a-C(=O)-R2a],[-O-(A1bO)m1b-Z2b-C(=O)-R2b]が置換(結合)するのが好ましい。
【0061】
Z1aおよびZ1bにおいて、前記縮合多環式アレーン環は、未置換の縮合多環式アレーン環、すなわち、フルオレン環の9位、および基[-O-(A1aO)m1a-Z2a-C(=O)-R2a],[-O-(A1bO)m1b-Z2b-C(=O)-R2b]との置換位置(結合位置)以外の位置に置換基(以下、基[-RZ1]ともいう)を有しない縮合多環式アレーン環であってもよく、1または複数の置換基(基[-RZ1])を有する縮合多環式アレーン環であってもよい。このような置換基[-RZ1]としては、反応に不活性な非反応性基(または非重合性基)であってもよく、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORhZ1](式中、RhZ1は炭化水素基を示す)、基[-SRhZ1](式中、RhZ1は炭化水素基を示す)、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)などが挙げられる。
【0062】
置換基[-RZ1]におけるハロゲン原子、アシル基、置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)としては、例えば、R1として例示したハロゲン原子、アシル基、置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)とそれぞれ同様のものが例示できる。
【0063】
置換基[-RZ1]における炭化水素基としては、例えば、R1において炭化水素基として例示したアルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。
【0064】
基[-ORhZ1]、基[-SRhZ1]において、炭化水素基RhZ1としては、例えば、R1において炭化水素基として例示したアルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。基[-ORhZ1]、基[-SRhZ1]において、炭化水素基RhZ1の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0065】
基[-ORhZ1]としては、例えば、R1において基[-ORh1]として例示したアルコキシ基(直鎖状または分岐鎖状アルコキシ基)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。
【0066】
基[-SRhZ1]としては、例えば、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基などが挙げられる。アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキルチオ基が挙げられる。シクロアルキルチオ基としては、例えば、シクロヘキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基が挙げられる。アリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基(チオフェノキシ基)などのC6-10アリールチオ基が挙げられる。アラルキルチオ基としては、例えば、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基が挙げられる。
【0067】
代表的な置換基[-RZ1]としては、ハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORhZ1]、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられ;好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基、アルコキシ基などの基[-ORhZ1]が挙げられ;さらに好ましくはメチル基などのC1-6アルキル基、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基、フェニル基などのC6-14アリール基、メトキシ基などのC1-4アルコキシ基が挙げられる。置換基[-RZ1]のなかでもアルキル基などの炭化水素基が好ましく、特に、メチル基などのC1-4アルキル基が好ましい。
【0068】
Z1a,Z1bの各縮合多環式アレーン環における置換基[-RZ1]の数(置換数)は、縮合多環式アレーン環の種類に応じて、それぞれ、例えば0~6程度の整数、好ましくは以下段階的に、0~3の整数、0~2の整数、0または1、0である。Z1aにおける置換数と、Z1bにおける置換数とは、互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。Z1aにおける置換数が2以上である場合、2以上の置換基[-RZ1]の種類は、互いに同一または異なっていてもよく;Z1bにおける置換数が2以上である場合、2以上の置換基[-RZ1]の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、Z1aにおける置換基[-RZ1]の種類と、Z1bにおける置換基[-RZ1]の種類とは、互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0069】
A1a、A1bで表されるアルキレン基(直鎖状または分岐鎖状アルキレン基)としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2-6アルキレン基などが挙げられ、好ましくはC2-4アルキレン基、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などのC2-3アルキレン基、特にエチレン基が好ましい。
【0070】
アルキレンオキシ基[-(A1aO)-]、[-(A1bO)-]の繰り返し数(付加モル数)m1a,m1bは、それぞれ0以上であればよく、例えば0~15程度の整数から選択してもよく、屈折率、耐熱性および生産性を向上し易い点から、好ましくは以下段階的に、0~10の整数、0~8の整数、0~6の整数、0~4の整数、0~2の整数、0または1であり、特に0が好ましい。
【0071】
なお、「繰り返し数(付加モル数)」m1a,m1bは、平均値(算術平均値、相加平均値)、すなわち、前記化合物(1)の集合体(分子集合体)としての平均付加モル数であってもよく、例えば0~15程度の範囲から選択してもよく、屈折率、耐熱性および生産性を向上し易い点から、好ましくは以下段階的に、0~10、0~8、0~6、0~4、0~2、0~1であり、特に0が好ましい。
【0072】
また、m1a,m1bは、互いに同一または異なっていてもよい。m1aが2以上の場合、2以上のアルキレンオキシ基[-(A1aO)-]の種類は互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましく;m1bが2以上の場合、2以上のアルキレンオキシ基[-(A1bO)-]の種類は互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。なお、A1aおよびA1bの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0073】
Z2aおよびZ2bは独立して置換または未置換のアレーン環(置換基を有していてもよいアレーン環)を示し、前記アレーン環(芳香族炭化水素環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環としては、例えば、縮合多環式アレーン環(縮合多環式芳香族炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが挙げられる。
【0074】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、Z1aおよびZ1bとして例示した縮合多環式アレーン環と同様の環などが例示できる。好ましい縮合多環式アレーン環は、ナフタレン環などの縮合多環式C10-14アレーン環である。
【0075】
環集合アレーン環としては、例えば、ビフェニル環、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などのビアレーン環;テルフェニル環などのテルアレーン環などが挙げられる。好ましい環集合アレーン環は、ビフェニル環などのC12-18ビアレーン環である。
【0076】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「環集合アレーン環」とは、2つ以上の環系(アレーン環系)が一重結合(単結合)か二重結合で直結し、環を直結する結合の数が環系の数より1つだけ少ないものを意味し、例えば、上述のように、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などは縮合多環式アレーン環骨格を有していても環集合アレーン環に分類され、ナフタレン環(非環集合アレーン環)などの「縮合多環式アレーン環」と明確に区別される。
【0077】
Z2aおよびZ2bにおける好ましいアレーン環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-14アレーン環、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環であり、特に好ましくはベンゼン環である。
【0078】
Z2aおよびZ2bにおけるアレーン環の種類は、互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0079】
Z2aおよびZ2bのアレーン環において、基[-O-(A1aO)m1a-],[-O-(A1bO)m1b-]および基[-C(=O)-R2a],[-C(=O)-R2b]との置換位置(結合位置)は特に制限されない。好ましくは、基[-O-(A1aO)m1a-],[-O-(A1bO)m1b-]との結合位置に対して、隣接していない離れた置換位置、なかでも最も離れた置換位置に基[-C(=O)-R2a],[-C(=O)-R2b]が置換(結合)するのが好ましい。具体的には、Z2a,Z2bがベンゼン環の場合、基[-O-(A1aO)m1a-],[-O-(A1bO)m1b-]との結合位置としてのベンゼン環の1位(またはフェニル基)に対して、例えば、2位、3位または4位、好ましくは3位または4位、さらに好ましくは4位に基[-C(=O)-R2a],[-C(=O)-R2b]が置換(結合)するのが好ましい。
【0080】
Z2aおよびZ2bにおいて、前記アレーン環は、未置換のアレーン環、すなわち、基[-O-(A1aO)m1a-],[-O-(A1bO)m1b-]および基[-C(=O)-R2a],[-C(=O)-R2b]との置換位置(結合位置)以外の位置に置換基(以下、基[-RZ2]ともいう)を有しないアレーン環であってもよく、1または複数の置換基(基[-RZ2])を有するアレーン環であってもよい。このような置換基[-RZ2]としては、反応に不活性な非反応性基(または非重合性基)であってもよく、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORhZ2](式中、RhZ2は炭化水素基を示す)、基[-SRhZ2](式中、RhZ2は炭化水素基を示す)、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)などが挙げられる。
【0081】
置換基[-RZ2]におけるハロゲン原子、アシル基、置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)としては、例えば、R1として例示したハロゲン原子、アシル基、置換アミノ基(モノまたはジ置換アミノ基)とそれぞれ同様のものが例示できる。
【0082】
置換基[-RZ2]における炭化水素基としては、例えば、R1において炭化水素基として例示したアルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。なお、置換基[-RZ2]としての炭化水素基は、アリール基を除く炭化水素基であってもよい。
【0083】
基[-ORhZ2]、基[-SRhZ2]において、炭化水素基RhZ2としては、例えば、R1において炭化水素基として例示したアルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。基[-ORhZ2]、基[-SRhZ2]において、炭化水素基RhZ2の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0084】
基[-ORhZ2]としては、例えば、R1において基[-ORh1]として例示したアルコキシ基(直鎖状または分岐鎖状アルコキシ基)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。
【0085】
基[-SRhZ2]としては、例えば、基[-RZ1]において基[-SRhZ1]として例示したアルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。
【0086】
Z2a,Z2bの各アレーン環における置換基[-RZ2]の数(置換数)は、アレーン環の種類に応じて、それぞれ、例えば0~6程度の整数、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数、0または1、0である。Z2aにおける置換数と、Z2bにおける置換数とは、互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。Z2aにおける置換数が2以上である場合、2以上の置換基[-RZ2]の種類は、互いに同一または異なっていてもよく;Z2bにおける置換数が2以上である場合、2以上の置換基[-RZ2]の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、Z2aにおける置換基[-RZ2]の種類と、Z2bにおける置換基[-RZ2]の種類とは、互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0087】
R2aおよびR2bは、ヒドロキシル基、基[-ORh2](式中、Rh2は炭化水素基を示す)またはハロゲン原子のいずれであってもよい。
【0088】
基[-ORh2]における炭化水素基Rh2としては、例えば、R1において炭化水素基として例示したアルキル基(直鎖状または分岐鎖状アルキル基)、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。好ましい炭化水素基Rh2はアルキル基であり、なかでも低級アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、t-ブチル基などのC1-4アルキル基がさらに好ましい。
【0089】
基[-ORh2]としては、例えば、R1において基[-ORh1]として例示したアルコキシ基(直鎖状または分岐鎖状アルコキシ基)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基とそれぞれ同様の基などが挙げられる。好ましい基[-ORh2]としては、前記好ましい炭化水素基Rh2に対応し、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、t-ブトキシ基などのC1-4アルコキシ基がさらに好ましい。
【0090】
R2aおよびR2bにおけるハロゲン原子としては、例えば、R1として例示したハロゲン原子と同様のものが例示でき、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0091】
なお、R2aおよび/またはR2bがヒドロキシル基である場合、前記化合物(1)は塩の形態(カルボン酸塩の形態)であってもよい。塩の形態としては、カルボキシル基との塩を形成可能な金属または化合物との塩であればよく、例えば、金属塩、アンモニウム塩(NH4
+)、アミン塩などのオニウム塩などが挙げられる。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。アミン塩としては、例えば、ジメチルアミン塩(ジメチルアンモニウム塩)、トリメチルアミン塩(トリメチルアンモニウム塩)、トリエチルアミン塩(トリエチルアンモニウム塩)などのモノないしテトラアルキルアミン塩(モノないしテトラアルキルアンモニウム塩)、ピリジン塩(ピリジニウム塩)などが挙げられる。
【0092】
また、R2aおよび/またはR2bがヒドロキシル基である場合、前記化合物(1)はカルボン酸から誘導されるアミド誘導体の形態であってもよく、例えば、未置換のアミド(カルボン酸アミド)、モノまたはジ置換アミド、具体的にはモノまたはジアルキルアミドなどの形態であってもよい。
【0093】
好ましいR2aおよびR2bは、ヒドロキシル基または基[-ORh2]であり、さらに好ましくはヒドロキシル基である。R2aおよびR2bの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0094】
なお、化合物(1)が、置換または未置換のアミノ基を有する場合、例えば、有機酸、無機酸などの酸との塩を形成してもよい。
【0095】
前記式(1)で表される代表的な化合物(またはその塩)としては、
R1が、ハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORh1]、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基であり、k1が0~4の整数であり、
Z1aおよびZ1bのアレーン環が独立して、C10-14縮合多環式アレーン環であり、
Z1aおよびZ1bの置換基[-RZ1]が独立して、ハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORhZ1]、基[-SRhZ1]、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基であり、置換基[-RZ1]の数が独立して0~3の整数であり、
m1aおよびm1bが0であり、
Z2aおよびZ2bのアレーン環が独立してベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環であり、
Z2aおよびZ2bの置換基[-RZ2]が独立して、ハロゲン原子、炭化水素基、基[-ORhZ2]、基[-SRhZ2]、アシル基、ニトロ基、シアノ基または置換アミノ基であり、置換基[-RZ2]の数が独立して0~3の整数である化合物(またはその塩)が挙げられ;
好ましくは、
R1が、炭化水素基、またはアルコキシ基などの基[-ORh1]、特にアルキル基、アリール基などの炭化水素基であり、k1が0~2の整数であり、
Z1aおよびZ1bのアレーン環がナフタレン環であり、
Z1aおよびZ1bの置換基[-RZ1]が独立して、炭化水素基、またはアルコキシ基などの基[-ORhZ1]、特にアルキル基、アリール基などの炭化水素基であり、置換基[-RZ1]の数が独立して0~2の整数であり、
m1aおよびm1bが0であり、
Z2aおよびZ2bのアレーン環が独立してベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環であり、
Z2aおよびZ2bの置換基[-RZ2]が独立して、炭化水素基、またはアルコキシ基などの基[-ORhZ2]、特にアルキル基、アリール基などの炭化水素基であり、置換基[-RZ2]の数が独立して0~2の整数である化合物(またはその塩)が挙げられ;
さらに好ましくは、
R1が、C1-4アルキル基などのアルキル基またはC6-12アリール基などのアリール基であり、k1が0~2の整数であり、
Z1aおよびZ1bのアレーン環がナフタレン環であり、
Z1aおよびZ1bの置換基[-RZ1]が独立して、C1-4アルキル基などのアルキル基であり、置換基[-RZ1]の数が独立して0または1であり、
m1aおよびm1bが0であり、
Z2aおよびZ2bのアレーン環が独立してベンゼン環であり、
Z2aおよびZ2bの置換基[-RZ2]が独立して、C1-4アルキル基などのアルキル基であり、置換基[-RZ2]の数が独立して0または1であり、
R2aおよびR2bが独立して、ヒドロキシル基または基[-ORh2]、特にヒドロキシル基である化合物(またはその塩)が挙げられる。
【0096】
前記式(1)で表される具体的な化合物(またはその塩)としては、例えば、9,9-ビス(カルボキシアリールオキシ-縮合多環式アリール)フルオレン、およびこれらの誘導体、例えば、アルキルエステルなどのエステル、酸クロリドなどの酸ハライド、金属塩などの塩などが挙げられる。前記化合物(1)としては、例えば、9,9-ビス[6-(4-カルボキシフェニルオキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-カルボキシフェニルオキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(4-カルボキシフェニルオキシ)-1-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC6-12アリールオキシ-C10-14縮合多環式アリール)フルオレン、好ましくは以下段階的に、9,9-ビス(カルボキシC6-10アリールオキシ-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシフェニルオキシ-ナフチル)フルオレン、およびこれらの誘導体、例えば、アルキルエステルなどのエステル、酸クロリドなどの酸ハライド、金属塩などの塩などが挙げられる。
【0097】
(式(1)で表される化合物の特性)
化合物(1)(またはその塩)は結晶の形態であってもよい。
【0098】
化合物(1)(またはその塩)は高屈折率であり、その屈折率nDは、温度25℃、波長589nmにおいて、例えば1.65程度以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、1.66~1.71、1.67~1.705、1.675~1.7、1.68~1.695、1.685~1.69である。
【0099】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、屈折率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0100】
また、化合物(1)(またはその塩)は耐熱性に優れており、1%重量減少温度は、例えば80~200℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、100~180℃、120~170℃、130~160℃、135~155℃、140~150℃である。5%重量減少温度は、例えば100℃以上、具体的には130~200℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、140~190℃、150~180℃、160~170℃である。10%重量減少温度は、例えば200℃以上、具体的には250~400℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、280~370℃、300~360℃、310~350℃、320~340℃、325~335℃である。
【0101】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、重量減少温度は、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件下で測定した温度であり、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0102】
化合物(1)(またはその塩)は、溶剤(溶媒)に対する溶解性に優れ、高耐熱性および高屈折率と、溶解性とをバランスよく充足できる。化合物(1)(またはその塩)は、比較的容易に溶液(または液状組成物)を形成できるため、本発明は、化合物(1)(またはその塩)と溶剤(溶媒)とを含む溶液(または液状組成物)を包含する。
【0103】
このような溶液(または液状組成物)を形成するための溶剤(溶媒)としては、例えば、炭化水素類、具体的には、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;エーテル類、具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル類、アニソールなどの芳香族エーテル類など;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;ケトン類、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、2-ヘプタノンなどの鎖状ケトン類、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどの環状ケトン類など;エステル類、具体的には、酢酸エチルなどの酢酸エステル類、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル類、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類など;エーテルエステル類、具体的には、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などのアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、3-エトキシプロピオン酸エチルなどのアルコキシカルボン酸エステル類など;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられる。
【0104】
これらの溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの溶媒のうち、グリコールエーテル類、ケトン類、エステル類、エーテルエステル類、アミド類が好ましく;さらに好ましくはアルキレングリコール(モノまたはジ)アルキルエーテルなどのグリコールエーテル類、鎖状ケトン類、環状ケトン類などのケトン類、乳酸エステル類などのエステル類、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートなどのエーテルエステル類、アミド類であり;なかでも、PGMEなどのC2-4アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテル、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのC4-8環状ケトン類、乳酸エチルなどの乳酸C1-4アルキルエステル、PGMEAなどのC2-4アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテルアセテート、NMPなどの環状アミド類が好ましく;特に、PGMEなどのC2-3アルキレングリコールモノC1-3アルキルエーテルが好ましい。
【0105】
また、環状ケトン類、具体的にはシクロヘキサノンなどのC6-8環状ケトン類や、アルキレングリコール(モノまたはジ)アルキルエーテルなどのグリコールエーテル類、具体的にはPGMEなどのC2-4アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテルアセテートなどを含む溶液(液状組成物)では、比較的高濃度であっても析出が生じ難く、保存安定性が高いようである。
【0106】
化合物(1)(またはその塩)と溶媒とを含む組成物(溶液または液状組成物)において、化合物(1)(またはその塩)の割合(または濃度)は、前記化合物(1)(またはその塩)および溶媒の総量に対して、例えば1~80質量%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上である。また、前記化合物(1)の割合は、化合物(1)および溶媒の総量に対して、例えば75質量%以下であってもよく、35質量%以下であってもよい。これらの化合物(1)(またはその塩)の割合[化合物(1)(またはその塩)および溶媒の総量に対する割合]は、前記組成物(溶液または液状組成物)全体に対する割合であってもよい。これらの化合物(1)(またはその塩)の割合は、常温(25℃程度)における割合であってもよく、50℃程度における割合であってもよい。なお、化合物(1)(またはその塩)と溶媒とを含む組成物(溶液または液状組成物)は、例えば、溶液重合するための反応溶液などとしてもよい。
【0107】
好ましい化合物(1)(またはその塩)は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチルおよびN-メチル-2-ピロリドンから選択された少なくとも一種の溶媒に、温度25℃において、例えば10質量%程度以上、好ましくは以下段階的に、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上の濃度で溶解可能である。
【0108】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、化合物(1)(またはその塩)の溶剤溶解性[液状組成物における化合物(1)(またはその塩)の割合または濃度]は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0109】
(式(1)で表される化合物(またはその塩)の製造方法)
前記化合物(1)(またはその塩)の製造方法は特に制限されず、例えば、下記方法などで調製してもよい。
【0110】
(分解工程)
化合物(1)(またはその塩)は、下記式(2)で表される化合物(2)を加水分解または加溶媒分解する分解工程(加水分解工程、加溶媒分解工程または第2の反応工程)を経て調製してもよい。
【0111】
【0112】
[式中、R1、k1、Z1aおよびZ1b、A1aおよびA1b、m1aおよびm1b、Z2aおよびZ2bは、それぞれ好ましい態様も含めて前記式(1)に同じ]。
【0113】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、式(2)で表される化合物を、単に、「化合物(2)」という場合がある。
【0114】
代表的な化合物(2)は、代表的な化合物(1)に対応する化合物などが挙げられ、例えば、例えば、9,9-ビス(シアノアリールオキシ-縮合多環式アリール)フルオレン、などが挙げられ、具体的には、9,9-ビス[6-(4-シアノフェニルオキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-シアノフェニルオキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(4-シアノフェニルオキシ)-1-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(シアノC6-12アリールオキシ-C10-14縮合多環式アリール)フルオレン、好ましくは以下段階的に、9,9-ビス(シアノC6-10アリールオキシ-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(シアノフェニルオキシ-ナフチル)フルオレンが挙げられる。
【0115】
化合物(2)の製造方法は特に制限されず、例えば、後述するエーテル化工程(または第1の反応工程)により製造してもよい。
【0116】
加水分解または加溶媒分解反応は、慣用の方法であればよく、例えば、酸の存在下で反応させてもよく、塩基の存在下で反応させてもよく、酸化剤の存在下で反応させてもよく、加水分解酵素の存在下で反応させてもよいが、塩基(塩基性化合物)の存在下で反応させるのが好ましい。
【0117】
加水分解または加溶媒分解反応に用いる塩基性化合物(塩基性触媒、塩基触媒)としては、例えば、無機塩基、有機塩基などが挙げられる。
【0118】
無機塩基としては、例えば、金属水酸化物、金属水素化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩などが挙げられる。
【0119】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。
【0120】
金属水素化物としては、例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物などが挙げられる。
【0121】
金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩などが挙げられる。
【0122】
金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩などが挙げられる。
【0123】
また、有機塩基としては、例えば、アミン類、カルボン酸金属塩、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩などが挙げられる。
【0124】
アミン類としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミンなどが挙げられる。
【0125】
脂肪族アミンとしては、例えば、脂肪族第3級アミンなどの第1ないし3級脂肪族アミン、具体的には、トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn-プロピルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミン、トリシクロヘキシルアミンなどのトリシクロアルキルアミン、メチルジシクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0126】
芳香族アミンとしては、第1ないし3級芳香族アミン、例えば、N,N-ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミンなどが挙げられる。
【0127】
複素環式アミンとしては、例えば、第1ないし3級複素環式アミン、具体的には、ピコリン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1-メチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ-7-センなどの複素環式第3級アミン、ピペリジンなどの複素環式第2級アミンなどが挙げられる。
【0128】
カルボン酸金属塩としては、例えば、酢酸ナトリウムなどの酢酸アルカリ金属塩、酢酸カルシウムなどの酢酸アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0129】
第4級アンモニウム塩としては、塩化テトラエチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムハライド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムハライドなどが挙げられる。
【0130】
第4級ホスホニウム塩としては、例えば、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウムなどが挙げられる。
【0131】
これらの塩基性化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの塩基性化合物のうち、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などの無機塩基が好ましく、さらに好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、特に水酸化カリウムが好ましい。
【0132】
加水分解または加溶媒分解反応における前記塩基性化合物の割合は、化合物(2)のシアノ基[または化合物(2)の調製のために後述のエーテル化工程で用いた化合物(4)のヒドロキシル基]1モルに対して、例えば0.1~10モル、好ましくは以下段階的に、1~5モル、1.5~3モル、1.8~2.5モルである。
【0133】
また、加水分解または加溶媒分解反応は、水および/またはアルコール性溶媒(ヒドロキシル基を有する溶媒)中で行うのが好ましい。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、反応温度を高く調整し易く、反応を効率的に進行できる点でアルコール性溶媒が好ましい。
【0134】
アルコール性溶媒としては、例えば、(ポリ)アルキレングリコール、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、グリセリンなどが挙げられる。
【0135】
(ポリ)アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのモノないしテトラC2-4アルキレングリコール、好ましくはモノないしトリC2-3アルキレングリコールである。
【0136】
(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルなどのモノないしテトラC2-4アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテル、好ましくはモノないしトリC2-3アルキレングリコールモノC1-3アルキルエーテルである。
【0137】
これらのアルコール性溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのアルコール性溶媒のうち、反応温度を高く調整し易く、反応を効率的に進行できる点から、エチレングリコールなどの(ポリ)アルキレングリコールが好ましい。
【0138】
加水分解または加溶媒分解反応における水および/またはアルコール性溶媒の総量の割合は、化合物(2)100質量部に対して、例えば10~3000質量部程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、100~2000質量部、500~1500質量部、800~1200質量部である。
【0139】
加水分解または加溶媒分解反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中または不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素ガス、ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよく、好ましくは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行う。加水分解または加溶媒分解反応は、減圧下、常圧下または加圧下で行ってもよい。
【0140】
加水分解または加溶媒分解反応の反応温度は、例えば20~200℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、50~180℃、100~170℃、120~160℃、130~150℃、135~145℃である。また、反応は、溶媒を還流させながら行ってもよい。反応時間は、例えば0.5~24時間程度であってもよく、好ましくは1~12時間である。
【0141】
反応終了後、必要により、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、中和、洗浄、抽出、ろ過、脱水、濃縮、乾燥、晶析、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0142】
例えば、得られた反応混合物に、水およびMIBKなどのケトン類を添加し、さらに塩酸などの酸を加えて酸性化して、60~80℃程度に加熱して得られた化合物(1)を前記ケトン類で抽出した後、必要に応じて加温しつつ水洗などで洗浄し、晶析または再沈殿により精製してもよい。晶析または再沈殿では、反応混合物をトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類に溶解し、貧溶媒としてのn-ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類と混合することで晶析または再沈殿してもよい。晶析または再沈殿は、常温下または冷却しながら行ってもよく、析出温度は、例えば-10℃~30℃、好ましくは-5℃~20℃、さらに好ましくは0~15℃、特に5~10℃である。
【0143】
本発明の製造方法で得られる化合物(1)の純度(LC純度)は、例えば80~100面積%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、85面積%以上、90面積%以上、95面積%以上である。
【0144】
本明細書および特許請求の範囲において、純度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0145】
また、化合物(1)の収率は、例えば80~100%程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、85%以上、90%以上である。
【0146】
(エーテル化工程)
なお、前記化合物(2)は、下記式(4)で表される化合物(4)と、下記式(3a)および(3b)で表される化合物(3a)(3b)とを反応させるエーテル化工程(または第1の反応工程)を経て調製してもよい。
【0147】
【0148】
[式中、R1、k1、Z1aおよびZ1b、A1aおよびA1b、m1aおよびm1b、Z2aおよびZ2bは、それぞれ好ましい態様も含めて前記式(1)に同じ]。
【0149】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、式(4)で表される化合物を、単に、「化合物(4)」という場合があり、同様に、式(3a)で表される化合物を「化合物(3a)」、式(3b)で表される化合物を「化合物(3b)」という場合がある。また、化合物(3a)および化合物(3b)を「化合物(3a)(3b)」という場合がある。
【0150】
化合物(4)としては、化合物(1)の好ましい態様に対応する化合物、例えば、m1aおよびm1bが0であるフェノール性水酸基を有する化合物、すなわち、9,9-ビス(ヒドロキシC10-14縮合多環式アリール)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ縮合多環式アリール)フルオレン類、具体的には、9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0151】
9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[6-ヒドロキシ-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-ヒドロキシ-1-ナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0152】
化合物(4)は、慣用の方法で調製してもよく、市販品を利用してもよい。
【0153】
化合物(3a)(3b)としては、化合物(1)の好ましい態様に対応する化合物、例えば、p-ニトロベンゾニトリル、o-ニトロベンゾニトリルなどのニトロベンゾニトリルなどが挙げられる。化合物(3a)と化合物(3b)とは、互いに同一の化学構造を有するのが好ましい。化合物(3a)(3b)は、市販品などを利用できる。
【0154】
化合物(4)と、化合物(3a)(3b)の合計量との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/2~1/10程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、1/2~1/5、1/2.05~1/3、1/2.05~1/2.5、1/2.1~1/2.3である。
【0155】
化合物(4)と化合物(3a)(3b)との反応は、通常、塩基性化合物(塩基性触媒、塩基触媒)の存在下で行ってもよい。塩基性化合物としては、例えば、前記分解工程で例示した塩基性化合物と同様のものなどが挙げられる。
【0156】
これらの塩基性化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうち、金属炭酸塩などの無機塩基が好ましく、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩がさらに好ましい。
【0157】
塩基性化合物の使用量は、反応に応じて調整してもよく、化合物(4)のヒドロキシル基1モルに対して、例えば0.1~10モル、好ましくは以下段階的に、1~5モル、1.5~3モル、1.8~2.5モルである。
【0158】
化合物(4)と化合物(3a)(3b)との反応は、溶媒の非存在下で行ってもよく、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、反応を阻害しない溶媒であれば限定されないが、例えば、非プロトン性極性溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、水などが挙げられる。これらの溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせてもよく、少なくとも非プロトン性極性溶媒を含むのが好ましい。
【0159】
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、アミド類、硫黄化合物などが挙げられる。
【0160】
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのN,N-ジC1-4アルキルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのN,N-ジC1-4アルキル-アセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。
【0161】
硫黄化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホン類、具体的には、スルホランなどの環状スルホンなどが挙げられる。
【0162】
尿素類(またはウレア類)としては、例えば、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMIまたはN,N’-ジメチルエチレン尿素)などの環状尿素類などが挙げられる。
【0163】
これらの非プロトン性極性溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの非プロトン性極性溶媒としては、DMFなどのアミド類が好ましい。
【0164】
溶媒の割合は、例えば、化合物(4)および化合物(3a)(3b)の総量100質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは100~500質量部、さらに好ましくは200~300質量部である。
【0165】
化合物(4)と化合物(3a)(3b)との反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中または不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素ガス、ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよく、好ましくは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行う。化合物(4)と化合物(3a)(3b)との反応は、減圧下、常圧下または加圧下で行ってもよい。
【0166】
化合物(4)と化合物(3a)(3b)との反応温度は、例えば50~200℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、80~150℃、100~140℃、110~130℃、115~125℃である。また、反応は、溶媒を還流させながら行ってもよい。反応時間は、例えば0.5~24時間程度であってもよく、好ましくは1~3時間である。
【0167】
反応終了後、必要により、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、中和、洗浄、抽出、ろ過、脱水、濃縮、乾燥、晶析、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0168】
なお、化合物(1)(またはその塩)の製造方法は、上記方法に制限されず、例えば、特開2005-82564号公報(特許文献3)に記載の方法に準じて、前記化合物(4)と、下記式で表される基[-Z2a-C(=O)-R2a],[-Z2b-C(=O)-R2b]に対応するフッ化物とを、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性溶媒中で、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物またはフッ化セシウム、フッ化カリウムなどの金属フッ化物の存在下で反応させる方法などであってもよい。
【0169】
【0170】
[式中、Z2aおよびZ2b、R2aおよびR2bは、それぞれ好ましい態様も含めて前記式(1)に同じ]。
【0171】
生産性の観点からは、少なくとも前記分解工程(第2の反応工程)を含むのが好ましく、さらに好ましくは前記エーテル化工程(または第1の反応工程)で得られた化合物(2)を前記分解工程に供するのが好ましい。
【0172】
[レジスト材料]
本発明は、前記化合物(1)(またはその塩)を少なくとも含むレジスト材料(またはレジスト用組成物)を包含する。レジスト材料としては、例えば、ネガ型(硬化型)またはポジ型レジスト材料などであってもよい。ネガ型(硬化型)レジスト材料では、例えば、アルカリ可溶性樹脂の架橋剤などの形態などで利用でき、ポジ型レジスト材料では、例えば、R2aおよびR2bを分岐鎖状アルコキシ基などとして、光酸発生剤とともに用いる形態などで利用してもよい。これらの前記化合物(1)(またはその塩)以外の成分は、レジスト材料として利用される慣用の成分を利用できる。
【0173】
前記化合物(1)(またはその塩)が溶解性に優れているため、レジスト材料はさらに溶媒を含んでいてもよい(すなわち、レジスト材料は、前記液状組成物であってもよい)。溶媒としては、例えば、前記化合物(1)(またはその塩)の特性の項において、溶液(または液状組成物)を形成するための溶剤(溶媒)として例示したものと、好ましい態様を含めて同様の溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて含むこともできる。これらの溶媒のうち、アルキレングリコール(モノまたはジ)アルキルエーテルなどのグリコールエーテル類が好ましく、さらに好ましくはC2-4アルキレングリコールモノC1-4アルキルエーテル、特に、PGMEなどのC2-3アルキレングリコールモノC1-3アルキルエーテルが好ましい。
【0174】
レジスト材料は、必要により、添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、酸化防止剤、保存安定剤、紫外線吸収剤などの安定化剤、界面活性剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤などが挙げられる。
【0175】
レジスト材料は、慣用の方法で基材(または基板)に直接的または間接的に適用(コーティングまたは塗布)し、必要に応じて乾燥により溶媒を除去し、生成したコーティング膜を加熱またはベークすることにより、レジスト膜を形成できる。レジスト膜(またはコーティング膜)は硬化させてもよい。より具体的には、レジストパターンは、基板上に前記レジスト材料を適用して下層膜(またはコーティング膜)を形成し、この下層膜上に少なくとも1つのフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層に所定の波長のエネルギー線または放射線を所定のパターンで露光または照射し、現像することにより所定のレジストパターン(または回路パターン)を形成してもよい。
【0176】
前記基板(または基材)としては、公知の基板、例えば、シリコン、窒化ケイ素、窒化チタン、アルミニウムなどで形成された基板が挙げられる。基板は、基材(支持体)に被加工膜が積層された積層体であってもよい。前記基材(または基板)の表面にはレジスト膜との密着性を高めるための密着層を形成していてもよい。前記基材(または基板)へのレジスト材料の適用には、スピンコートなどの塗布法、スクリーン印刷などの印刷法が利用できる。
【0177】
なお、前記レジスト膜は、保護膜、例えば、レジスト下層膜であってもよく、前記エネルギー線または放射線を吸収する性質を有し、反射防止膜(レジスト反射防止膜)などとして機能してもよい。
【0178】
[樹脂]
本発明は、前記化合物(1)(またはその塩)またはその誘導体を原料(前駆体成分または中間体)または重合成分(またはモノマー成分)として少なくとも含む樹脂を包含する。
【0179】
本発明の樹脂は、硬化性樹脂(熱または光硬化性樹脂)であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
【0180】
硬化性樹脂(熱または光硬化性樹脂)としては、前記化合物(1)(またはその塩)を原料とする樹脂であればよく、例えば、エピハロヒドリンなどとの反応によるグリシジルエステル型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂(またはこのエポキシ樹脂を含む硬化性組成物の硬化物);ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどとの反応による(メタ)アクリル系樹脂(またはこの(メタ)アクリル系樹脂を含む硬化性組成物の硬化物);前記化合物(1)(またはその塩)と、ポリオール成分、ポリアミン成分および/またはポリイソシアネート成分などとの反応物(硬化物または三次元架橋物)などが挙げられる。
【0181】
熱可塑性樹脂としては、重合成分(モノマー成分)として少なくともジカルボン酸成分を含み、このジカルボン酸成分が少なくとも前記化合物(1)(またはその塩)を含んでいればよく、例えば、重合成分としてのジカルボン酸成分に加えて、さらに、ジオール成分を含むポリエステル系樹脂であってもよく、ジアミン成分などを含むポリアミド系樹脂であってもよい。
【0182】
前記ポリエステル系樹脂としては、主鎖中の連結基[重合反応により、互いに隣接する構成単位(重合成分由来の構成単位)を繋ぐ結合として形成される基(2価の基)]として、少なくともエステル結合を含む樹脂であればよく、連結基全体に対して、例えば30~100モル%、好ましくは以下段階的に、50モル%以上、70モル%以上、90モル%以上のエステル結合を含んでいればよい。なお、連結基としての前記エステル結合には、炭酸エステル結合も含まれる。代表的なポリエステル系樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0183】
これらの樹脂のうち、成形性や光学的特性などの観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、耐水性や寸法安定性の観点から、ポリエステル系樹脂がさらに好ましく、ポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0184】
[成形体]
本発明は、前記化合物(1)(またはその塩)もしくはその誘導体、および/または前記化合物(1)(またはその塩)もしくはその誘導体を原料とする樹脂(第1の樹脂)を少なくとも含む成形体も包含する。なお、成形体が、前記化合物(1)(またはその塩)またはその誘導体を含む場合、前記化合物(1)(またはその塩)またはその誘導体は第2の樹脂に対する樹脂添加剤として配合されていてもよい(前記化合物(1)(またはその塩)またはその誘導体と、第2の樹脂とを含む樹脂組成物の成形体であってもよい)。なお、第2の樹脂は、慣用の樹脂、例えば、(熱または光)硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などであってもよい。
【0185】
成形体は、慣用の添加剤を含んでいてもよく、前記添加剤としては、例えば、充填剤または補強剤、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、加水分解抑制剤、炭素材、安定剤、低応力化剤などが挙げられる。安定剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。低応力化剤としては、シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の合計割合は、前記樹脂100質量部に対して、例えば50質量部以下、好ましくは以下段階的に、30質量部以下、0~10質量部であり、0.1~5質量部程度であってもよい。
【0186】
成形体の製造方法は、特に制限されず、樹脂の種類などに応じて、慣用の成形方法であってもよい。例えば、第1および/または第2の樹脂が熱可塑性樹脂である場合、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して成形体を製造できる。
【0187】
また、成形体の形状は、特に限定されず、例えば、線状、繊維状、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、凹または凸レンズ状などのレンズ状、棒状、中空状(管状)などの三次元的構造などが挙げられる。
【0188】
成形体は、優れた光学的特性や耐熱性などをバランスよく備えているため、光学フィルム(光学シート)、光学レンズなどの光学部材として有効に利用できる。
【0189】
なお、フィルムは、前記樹脂を、慣用の成膜方法、例えば、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融押出法、カレンダー法などを用いて成膜(または成形)することにより製造できる。
【0190】
フィルムの平均厚みは、1~1000μm程度の範囲から用途に応じて選択でき、例えば1~200μm、好ましくは5~150μm、さらに好ましくは10~120μmである。
【0191】
フィルムは、未延伸または延伸フィルムであってもよく、延伸フィルムであっても低い複屈折を維持できる。なお、このような延伸フィルムは、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
【0192】
延伸倍率は、一軸延伸または二軸延伸において各方向にそれぞれ、例えば1.1~10倍、好ましくは1.2~8倍、さらに好ましくは1.5~6倍である。なお、二軸延伸の場合、等延伸、例えば、縦横両方向に1.5~5倍延伸であってもよく、偏延伸、例えば、縦方向に1.1~4倍、横方向に2~6倍延伸であってもよい。また、一軸延伸の場合、縦延伸、例えば、縦方向に2.5~8倍延伸であってもよく、横延伸、例えば、横方向に1.2~5倍延伸であってもよい。
【0193】
延伸フィルムの平均厚みは、例えば1~150μm、好ましくは3~120μm、さらに好ましくは5~100μmである。
【0194】
なお、このような延伸フィルムは、成膜後のフィルム(または未延伸フィルム)に、延伸処理を施すことにより得ることができる。延伸方法は、特に制限が無く、一軸延伸の場合、湿式延伸法または乾式延伸法のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、テンター法(フラット法)またはチューブ法のいずれであってもよいが、延伸厚みの均一性に優れるテンター法が好ましい。
【実施例0195】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価項目の詳細について示す。
【0196】
[評価方法]
(1H-NMR)
試料を、内部標準物質としてテトラメチルシランを用い、重クロロホルムなどの重溶媒に溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
【0197】
(LC純度)
HPLC(高性能または高速液体クロマトグラフ)装置として(株)島津製作所製「LC-2010A HT」、カラムとして東ソー(株)製「ODS-80TM」を用いて、試料をアセトニトリルに溶解して測定し、HPLC純度[面積%]を算出した。
【0198】
(屈折率)
屈折率は、屈折率計((株)アタゴ製「RX-7000i」)を用いて、温度25℃、波長589nm(D線)で測定した。なお、屈折率の算出は、試料をN-メチルー2-ピロリドン(NMP)に溶解して、濃度が異なる複数の溶液を調製し、得られた溶液の屈折率を測定することで作成した検量線(近似直線)において、濃度を100質量%に外挿して求めた。
【0199】
(重量減少温度)
熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA)(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「TG/DTA6200」)を使用して、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件下で30~520℃の温度範囲を測定し、試料の質量が1%、5%および10%減少したときの温度をそれぞれ求めた。
【0200】
(溶剤溶解性)
試料を所定の濃度となるよう溶剤(溶媒)に添加して、溶解性を確認し、以下の基準で評価した。
【0201】
◎…常温(25℃程度)で1時間以内に溶解した
○…常温(25℃程度)で1時間を超えて3時間以内に溶解した
△…常温(25℃程度)で3時間以内に溶解せず、50℃で1時間以内に溶解した
×…常温(25℃程度)で3時間以内に溶解せず、50℃で1時間以内に溶解しなかった。
【0202】
[実施例1]
【0203】
【0204】
反応容器に9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン(BNF) 18g(40mmol)とp-ニトロベンゾニトリル 12.4g(84mmol,2.1当量(eq))とN,N-ジメチルホルムアミド(DMF) 55gとを入れて、窒素雰囲気下にて攪拌した。そこへ炭酸カリウム22g(160mmol、4.0当量(eq))とDMF 18gとを加え、120℃まで昇温し攪拌した。120℃で還流させ、2時間後に原料(BNF)の消失を確認した後、70℃まで冷却し、DMF 20g、トルエン146g、イオン交換水210gを加え、攪拌して静置し、下層(水層)を除去した。さらにイオン交換水110gを加えて水洗した後、得られた有機層からロータリーエバポレーターで溶媒を除去しWet晶(湿結晶)を得た。
【0205】
窒素雰囲気下、得られたWet晶にエチレングリコール240g、水酸化カリウム(固形、純度85質量%) 10.6g(160mmol、4.0eq)を加え、140℃で6時間攪拌した。反応終了後、50℃に冷却して、イオン交換水280g、メチルイソブチルケトン(MIBK) 150gを加え、さらに35質量%塩酸33gを加えて酸性化させ、70℃に加温して水層を除去した。その後、イオン交換水280gを加えて水洗する操作を2回繰返した。得られた有機層をロータリーエバポレーターで濃縮し、トルエン50gを加え、60℃に加温して均一に攪拌した後、n-ヘプタン200gをゆっくりと滴下し、60℃から5℃まで冷却して析出した結晶をろ取した。ろ取した結晶を乾燥後、目的物である9,9-ビス[6-(4-カルボキシフェニルオキシ)-2-ナフチル]フルオレン(以下、BNFベンゼンカルボン酸ともいう)を収量27.5g(収率90%)、LC純度96面積%で得た。
【0206】
得られたBNFベンゼンカルボン酸の1H-NMRスペクトルの結果を以下に示す。なお、カルボキシル基のプロトン(H)は検出されなかった。
【0207】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.0(m,4H)、7.2-7.8(m,20H)、8.1(m,4H)。
【0208】
得られたBNFベンゼンカルボン酸の単体での屈折率nD(D線、25℃)は1.6884であり、高屈折であった。また、BNFベンゼンカルボン酸の1%重量減少温度は144℃、5%重量減少温度は163℃、10%重量減少温度は329℃であり、高い耐熱性を示した。
【0209】
BNFベンゼンカルボン酸の溶剤溶解性試験の結果を下記表に示す。なお、表中、「PGMEA」は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを意味し、「PGME」は、プロピレングリコールモノメチルエーテルを意味し、「NMP」はN-メチル-2-ピロリドンを意味する(以下同じ)。また、表中、「※」を付した溶液では、常温(25℃程度)で数日間保管したところ、析出が確認されたことを意味する(以下同じ)。
【0210】
【0211】
表1の結果から明らかなように、BNFベンゼンカルボン酸は、化学構造中に多くの芳香環骨格(ベンゼン環骨格)を含むにもかかわらず、意外にも溶剤溶解性に優れていた。例えば、PGMEA、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、PGME、乳酸エチルおよびNMPでは30質量%と高濃度であっても溶解可能であり、特に、PGMEA、シクロヘキサノン、PGME、乳酸エチルおよびNMPでは◎評価(室温で1時間以内に溶解)であった。なかでも、PGMEでは70質量%と極めて高濃度で溶解可能であった。このように、BNFベンゼンカルボン酸は有機溶媒に対する高い溶解性を示すため、高屈折率なネガ型レジスト材料として有効に利用できる。
【0212】
なお、表1中の溶剤溶解性の評価結果の横に「※」を付した溶液では、常温(25℃程度)で数日間保管したところ、析出が確認されたことから、シクロヘキサノン、PGMEまたはNMP中では、高濃度であっても比較的析出し難く、溶液(液状組成物)の保存安定性に優れていることも分かった。
【0213】
[参考例1]
【0214】
【0215】
窒素雰囲気下、1Lの反応容器に、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン(BNF) 22.5g(50mmol)と4-ブロモ酪酸エチル 25.4g(130mmol、2.6当量(eq))、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF) 140gを加え攪拌した。そこへ炭酸カリウム 34.6g(250mmol、5.0当量(eq))を加え80℃、2時間攪拌した。原料のBNFの消失を確認した後に、40℃程度に冷却し、メチルイソブチルケトン(MIBK) 168gを加えた。得られた混合物にイオン交換水280gを加えて水層を除去し、有機層を抽出(回収)する作業を2回繰り返した。
【0216】
得られた有機層に48質量%水酸化ナトリウム水溶液 10g(120mmol、2.4当量(eq))と水酸化カリウム(固形、純度85質量%) 15.2g(230mmol、4.6当量(eq))とを加え、大気雰囲気下、110℃で還流させ、12時間反応させた。反応終了後、テトラヒドロフラン(THF)およびMIBKを加えたのちに、15質量%塩酸 31.6g(130mmol)を加えてpH1に調整した後、析出した結晶をろ取した。得られた結晶をTHFおよびMIBKに溶解した。得られた溶液にイオン交換水を加えて水洗し、有機層を回収する作業を3回繰り返し、得られた有機層を濃縮して有機溶媒を除去した後、トルエン 45gを加えて加温溶解し、均一な溶液にした。得られた溶液を5~10℃に冷却したnーヘプタンの中にゆっくり滴下し、結晶化させて単離して、目的物である9,9-ビス[6-(3-カルボキシプロピルオキシ)-2-ナフチル]フルオレン(以下、BNFジブチルカルボン酸ともいう)を28.8g(収率93%、LC純度98面積%)を得た。
【0217】
得られたBNFジブチルカルボン酸の1H-NMRスペクトルの結果を以下に示す。
【0218】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=2.1(m,4H)、2.5-2.6(t,4H)、4.1(t,4H)、7.0(m,4H)、7.2-7.3(m,14H)、7.3-7.4(m,2H)。
【0219】
得られたBNFジブチルカルボン酸の単体での屈折率nD(D線、25℃)は1.6386であった。また、BNFジブチルカルボン酸の1%重量減少温度は109℃、5%重量減少温度は206℃、10%重量減少温度は307℃であった。そのため、参考例1(BNFジブチルカルボン酸)に比べて、実施例1(BNFベンゼンカルボン酸)の方が屈折率および耐熱性に優れていた。
【0220】
また、BNFジブチルカルボン酸の溶剤溶解性試験の結果を下記表に示す。
【0221】
【0222】
表1~2の結果から明らかなように、いずれの溶媒においても、参考例1(BNFジブチルカルボン酸)に比べて、実施例1(BNFベンゼンカルボン酸)の方が溶剤溶解性に優れていた。
【0223】
また、表2中の溶剤溶解性の評価結果の横に「※」を付した溶液では、常温(25℃程度)で数日間保管したところ、析出が確認された。シクロヘキサノンやPGMEなどの結果から、参考例1(BNFジブチルカルボン酸)に比べて、実施例1(BNFベンゼンカルボン酸)の方が溶液(液状組成物)の保存安定性にも優れていた。
【0224】
なお、参考例1のBNFジブチルカルボン酸は、実施例1のBNFベンゼンカルボン酸におけるフェニレン基(Z2aおよびZ2bのベンゼン環)をトリメチレン基に置き換えた化合物である。すなわち、実施例1(BNFベンゼンカルボン酸)の方が、芳香環骨格(ベンゼン環骨格)を多く含む剛直な化学構造であって、溶解性や保存安定性の低下(析出または結晶化し易くなること)が予想されるため、実施例1の評価結果は意外なものであった。
本発明のジカルボン酸またはその塩などの誘導体は、高い屈折率および耐熱性を示すため、樹脂原料や、屈折率向上剤、耐熱性向上剤、硬化剤などの添加剤(または樹脂添加剤)、レジスト材料などとして有効に利用できる。前記硬化剤としては、エポキシ樹脂に対する硬化剤などが挙げられる。また、レジスト材料としては、例えば、ネガ型(硬化型)またはポジ型レジスト材料などが挙げられ、例えば、ネガ型(硬化型)レジスト材料では、アルカリ可溶性樹脂の架橋剤などの形態などで利用でき、ポジ型レジスト材料では、R2aおよびR2bを分岐鎖状アルコキシ基などとして、光酸発生剤とともに用いる形態などで利用してもよい。 本発明の樹脂は、高い耐熱性を示すため、様々な用途で利用でき、例えば、コーティング剤またはコーティング膜、具体的には、塗料、インキ、電子機器や液晶部材などの保護膜など;接着剤、粘着剤;樹脂充填剤;電気・電子材料または電気・電子部品(電気・電子機器)、具体的には、帯電防止剤、キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、感熱記録材料、フォトクロミック材料、ホログラム記録材料、帯電防止トレイ、導電シート、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、カラーフィルタ、有機EL素子、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、センサ、EMIシールドフィルムなど;機械材料または機械部品(機器)、具体的には、自動車用材料または部品、航空・宇宙関連材料または部品、摺動部材などに利用してもよい。
代表的な光学部材としては、液晶用フィルム、有機EL用フィルムなどの光学フィルム(光学シート);メガネ用レンズ、カメラ用レンズなどの光学レンズ;プリズム、ホログラム、光ファイバーなどが挙げられる。
光学フィルムとしては、例えば、偏光フィルム、偏光フィルムを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性フィルム(ACF)、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層などが挙げられる。これらの光学フィルムは、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)、電子ペーパなどのディスプレイ用の光学フィルムとして有効に利用でき、具体的な機器または装置としては、テレビジョン;デスクトップ型PC、ノート型PCまたはタブレット型PCなどのパーソナル・コンピュータ(PC);スマートフォン、携帯電話;カー・ナビゲーションシステム;タッチパネルなどフラットパネルディスプレイ(FPD)を備えた機器または装置などが挙げられる。
光学レンズとしては、例えば、メガネ用レンズ、コンタクトレンズ、カメラ用レンズ、VTRズームレンズ、ピックアップレンズ、フレネルレンズ、太陽集光レンズ、対物レンズ、ロッドレンズアレイなどが挙げられる。
光学レンズが搭載される代表的な機器または装置としては、スマートフォン、携帯電話、デジタルカメラなどのカメラ機能を有する小型機器またはモバイル機器;ドライブレコーダー、バックカメラ(リアカメラ)などの車載用カメラなどが挙げられる。