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特開2024-73306ホーンユニット、超音波ホーン、および、ジグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073306
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ホーンユニット、超音波ホーン、および、ジグ
(51)【国際特許分類】
   B06B 1/02 20060101AFI20240522BHJP
   H01L 21/607 20060101ALI20240522BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B06B1/02 K
H01L21/607 C
H01L21/60 301G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184431
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 光昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄平
(72)【発明者】
【氏名】内田 洋平
【テーマコード(参考)】
5D107
5F044
【Fターム(参考)】
5D107AA12
5D107BB01
5D107CC01
5D107FF03
5D107FF07
5F044BB01
5F044BB03
(57)【要約】
【課題】超音波ホーンに螺合されたネジを用いることなく、キャピラリを脱着可能な超音波ホーンを提供する。
【解決手段】ホーンユニットは、超音波ホーン10と、ジグ50と、を備え、前記超音波ホーン10は、キャピラリ100が取り付けられる挿入孔20と、前記挿入孔20に繋がるスリット孔22と、第一側面16に形成されたピン孔26と、上面12および底面14それぞれから立脚する一対の係止壁28と、を備え、前記ジグ50は、ジグ本体52と、前記超音波ホーン10を厚み方向に挟む一対の係止ピン56と、前記係止ピン56が前記係止壁28に係止した状態で前記ピン孔26に進入可能な押圧ピン60と、を備えており、前記係止ピン56が前記係止壁28に係合された状態で、前記押圧ピン60で前記スリット孔22の内壁24aを押圧することで、前記挿入孔20を拡大させる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリが脱着される超音波ホーンと、前記キャピラリの脱着を補助するジグと、を備え、
前記超音波ホーンは、
前記超音波ホーンの先端において厚み方向に貫通し、前記キャピラリが取り付けられる挿入孔と、
前記超音波ホーンの軸方向に長尺で、前記挿入孔に繋がるスリット孔と、
前記超音波ホーンの第一側面から前記スリット孔に向けて貫通するピン孔と、
前記超音波ホーンの前記厚み方向両端面それぞれに設けられる一対の係止壁と、
を備え、前記ジグは、
ジグ本体と、
前記ジグ本体に対して固定されて、前記超音波ホーンを厚み方向に挟む一対の係止ピンであって、前記超音波ホーンの幅方向において一対の前記係止壁と係合する一対の係止ピンと、
前記ジグ本体に対して進退可能であり、前記係止ピンが前記係止壁に係止した状態で前記ピン孔に進入可能な押圧ピンと、
を備えており、前記係止ピンが前記係止壁に係合された状態で、前記押圧ピンを進出させて前記押圧ピンで前記スリット孔の壁を押圧することで、前記挿入孔を拡大させる、
ことを特徴とするホーンユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のホーンユニットであって、
前記ジグは、さらに、前記ジグ本体に螺合されるとともに前記押圧ピンに機械的に接続された進退用ボルトを備えており、
前記進退用ボルトを回すことで前記押圧ピンが進退する、
ことを特徴とするホーンユニット。
【請求項3】
請求項1に記載のホーンユニットであって、
前記係止壁は、前記超音波ホーンの軸方向に勾配を有する滑り台状であり、
前記ジグを前記超音波ホーンに対して前記超音波ホーンの軸方向に移動させることで、前記係止ピンと前記係止壁とを互いに係合または係合解除できる、
ことを特徴とするホーンユニット。
【請求項4】
請求項1に記載のホーンユニットであって、
前記係止壁を除いた前記超音波ホーンの厚みを基準厚み、前記係止壁の最突出点を含む前記超音波ホーンの厚みを突出厚みとした場合、
前記一対の係止ピンの対向距離は、前記基準厚みより大きく、前記突出厚みより小さい、
ことを特徴とするホーンユニット。
【請求項5】
請求項1に記載のホーンユニットであって、
前記係止壁は、平面視において、前記超音波ホーンの軸方向に延びる直線部と、前記直線部の一端から前記超音波ホーンの幅方向内側に延びる当接部と、を有する略L字状、または、略J字状であり、
前記当接部は、前記超音波ホーンの幅方向において前記押圧ピンが前記ピン孔に対向したとき、前記係止ピンが前記当接部に当接または近接する位置に設けられている、
ことを特徴とするホーンユニット。
【請求項6】
請求項1に記載のホーンユニットであって、
前記超音波ホーンは、さらに、前記係止壁と左右対称に配置されたダミー壁を有する、ことを特徴とするホーンユニット。
【請求項7】
請求項1に記載のホーンユニットであって、
前記超音波ホーンは、さらに、第一側面と反対側の第二側面から前記スリット孔まで貫通するダミー孔を有する、ことを特徴とするホーンユニット。
【請求項8】
超音波ホーンであって、
前記超音波ホーンの先端において厚み方向に貫通し、キャピラリが取り付けられる挿入孔と、
前記超音波ホーンの軸方向に長尺で、前記挿入孔に繋がるスリット孔と、
前記超音波ホーンの第一側面から前記スリット孔まで貫通するピン孔と、
前記超音波ホーンの前記厚み方向両端面それぞれに設けられる一対の係止壁と、
を備えることを特徴とする超音波ホーン。
【請求項9】
超音波ホーンからのキャピラリの脱着を補助するジグであって、
ジグ本体と、
前記ジグ本体に対して固定されて、前記超音波ホーンを厚み方向に挟む一対の係止ピンと、
前記ジグ本体に対して進退可能であり、前記係止ピンが前記超音波ホーンを挟んだ状態で前記超音波ホーンの側面に形成されたピン孔に進入可能な押圧ピンと、
を備えることを特徴とするジグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、キャピラリを交換可能な超音波ホーンと、当該交換を補助するジグ、および、これら超音波ホーンおよび治具を有するホーンユニットを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電極同士をワイヤで電気的に接続するワイヤボンディング装置が広く知られている。かかるワイヤボンディング装置は、ワイヤが挿通されるキャピラリと、当該キャピラリを保持するとともに当該キャピラリに超音波振動を伝達する超音波ホーンと、を有する。こうしたワイヤボンディング装置では、超音波ホーンに取り付けるキャピラリを適宜、交換する。
【0003】
キャピラリの交換を可能にするために、特許文献1では、超音波ホーンに、キャピラリが挿通される貫通孔と、当該貫通孔に繋がるスリットと、スリットと交差して超音波ホーンに螺合されるネジと、を設けている。特許文献1において、ネジを緩めると、貫通孔が拡大し、キャピラリの脱着が可能となる。また、ネジを締めると、貫通孔が小さくなり、キャピラリの貫通孔からの脱落が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4282214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超音波ホーンには、当然ながら、超音波振動が付与される。そのため、特許文献1のように、超音波ホーンに直接ネジを螺合する形態の場合、超音波振動に起因して、ネジが緩み、キャピラリが意に反して脱落するおそれがあった。また、超音波ホーンに直接ネジを螺合する場合、当該ネジに起因して、超音波振動の乱れが生じるおそれもあった。
【0006】
そこで、本明細書では、超音波ホーンに螺合されたネジを用いることなく、キャピラリを脱着可能な超音波ホーン、当該脱着を補助するジグ、および、これら超音波ホーンおよび治具を含むホーンユニットを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示するホーンユニットは、キャピラリが脱着される超音波ホーンと、前記キャピラリの脱着を補助するジグと、を備え、前記超音波ホーンは、前記超音波ホーンの先端において厚み方向に貫通し、前記キャピラリが取り付けられる挿入孔と、前記超音波ホーンの軸方向に長尺で、前記挿入孔に繋がるスリット孔と、前記超音波ホーンの第一側面から前記スリット孔に向けて貫通するピン孔と、前記超音波ホーンの前記厚み方向両端面それぞれに設けられる一対の係止壁と、を備え、前記ジグは、ジグ本体と、前記ジグ本体に対して固定されて、前記超音波ホーンを厚み方向に挟む一対の係止ピンであって、前記超音波ホーンの幅方向において一対の前記係止壁と係合する一対の係止ピンと、前記ジグ本体に対して進退可能であり、前記係止ピンが前記係止壁に係止した状態で前記ピン孔に進入可能な押圧ピンと、を備えており、前記係止ピンが前記係止壁に係合された状態で、前記押圧ピンを進出させて前記押圧ピンで前記スリット孔の壁を押圧することで、前記挿入孔を拡大させる、ことを特徴とする。
【0008】
この場合、前記ジグは、さらに、前記ジグ本体に螺合されるとともに前記押圧ピンに機械的に接続された進退用ボルトを備えており、前記進退用ボルトを回すことで前記押圧ピンが進退してもよい。
【0009】
また、前記係止壁は、前記超音波ホーンの軸方向に勾配を有する滑り台状であり、前記ジグを前記超音波ホーンに対して前記超音波ホーンの軸方向に移動させることで、前記係止ピンと前記係止壁とを互いに係合または係合解除できてもよい。
【0010】
また、前記係止壁を除いた前記超音波ホーンの厚みを基準厚み、前記係止壁の最突出点を含む前記超音波ホーンの厚みを突出厚みとした場合、前記一対の係止ピンの対向距離は、前記基準厚みより大きく、前記突出厚みより小さくてもよい。
【0011】
また、前記係止壁は、平面視において、前記超音波ホーンの軸方向に延びる直線部と、前記直線部の一端から前記超音波ホーンの幅方向内側に延びる当接部と、を有する略L字状、または、略J字状であり、前記当接部は、前記超音波ホーンの幅方向において前記押圧ピンが前記ピン孔に対向したとき、前記係止ピンが前記当接部に当接または近接する位置に設けられていてもよい。
【0012】
また、前記超音波ホーンは、さらに、前記係止壁と左右対称に配置されたダミー壁を有してもよい。
【0013】
また、前記超音波ホーンは、さらに、第一側面と反対側の第二側面から前記スリット孔まで貫通するダミー孔を有してもよい。
【0014】
本明細書で開示する超音波ホーンは、前記超音波ホーンの先端において厚み方向に貫通し、キャピラリが取り付けられる挿入孔と、前記超音波ホーンの軸方向に長尺で、前記挿入孔に繋がるスリット孔と、前記超音波ホーンの第一側面から前記スリット孔まで貫通するピン孔と、前記超音波ホーンの前記厚み方向両端面それぞれに設けられる一対の係止壁と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本明細書で開示するジグは、超音波ホーンからのキャピラリの脱着を補助するジグであって、ジグ本体と、前記ジグ本体に対して固定されて、前記超音波ホーンを厚み方向に挟む一対の係止ピンと、前記ジグ本体に対して進退可能であり、前記係止ピンが前記超音波ホーンを挟んだ状態で前記超音波ホーンの側面に形成されたピン孔に進入可能な押圧ピンと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で開示する技術によれば、超音波ホーンに螺合されたネジを用いることなく、キャピラリを脱着可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】超音波ホーンの斜視図である。
図1B】超音波ホーンを下側から見た斜視図である。
図2】超音波ホーンの側面図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4】ジグの斜視図である。
図5】ジグの断面図である。
図6】キャピラリの交換作業の様子を示す斜視図である。
図7】キャピラリの交換作業の他の様子を示す斜視図である。
図8】キャピラリの交換作業の他の様子を示す斜視図である。
図9図8の状態における超音波ホーンおよびジグの断面図である。
図10】第一の比較例の超音波ホーンの断面図である。
図11】第二の比較例の超音波ホーンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して超音波ホーン10およびジグ50を含むホーンユニットの構成について説明する。はじめに、超音波ホーン10について図1図3を参照して説明する。図1Aおよび図1Bは、超音波ホーン10の斜視図であり、図2は、超音波ホーン10の側面図である。さらに、図3は、図2におけるA-A断面図である。なお、以下で参照する各図面において、X,Y,Zは、それぞれ、超音波ホーン10の幅方向、軸方向、および厚み方向を示している。
【0019】
超音波ホーン10は、ワイヤボンディング装置に取り付けられて使用される。超音波ホーン10の先端近傍には、キャピラリ100(図6参照)が取り付けられる。キャピラリ100には、ワイヤ(図示せず)が挿通される。また、超音波ホーン10の基端には、超音波振動子(図示せず)が埋め込まれている。超音波振動子が駆動されると、超音波振動が、超音波ホーン10を介して、キャピラリ100およびワイヤに伝達される。
【0020】
超音波ホーン10の先端近傍には、キャピラリ100が挿入される挿入孔20が形成されている。挿入孔20は、超音波ホーン10を厚み方向に貫通する孔である。挿入孔20の内径は、無負荷状態では、キャピラリ100の外径より僅かに小さい。したがって、挿入孔20にキャピラリ100を挿入すると、挿入孔20の内周面は、キャピラリ100に密着する。そして、これにより、キャピラリ100の挿入孔20からの脱落が防止される。
【0021】
超音波ホーン10には、キャピラリ100の脱着のために、さらに、スリット孔22と、ピン孔26と、係止壁28と、ダミー壁34と、が設けられている。スリット孔22は、挿入孔20に繋がる長孔である。このスリット孔22は、Y方向(すなわち超音波ホーン10の軸方向)に長尺であり、超音波ホーン10を厚み方向に貫通する孔である。本例では、図1A図1Bに示すように、スリット孔22は、超音波ホーン10のX方向中心に位置しており、挿入孔20を横断している。図3に示すように、スリット孔22を形成することで、超音波ホーン10の内部には、X方向(すなわち幅方向)に互いに対向する一対の内壁24a,24bが形成される。
【0022】
ピン孔26は、超音波ホーン10の第一側面16から幅方向に延びる横穴である。このピン孔26は、図3に示すように、第一側面16からスリット孔22まで貫通している。また、ピン孔26は、挿入孔20と干渉しないように、挿入孔20より基端側(すなわち超音波振動子に近い側)に形成されている。
【0023】
係止壁28は、超音波ホーン10の厚み方向両端面、すなわち、上面12および底面14のうち、スリット孔22より第一側面16に近い位置から立脚する立壁である。図1Aに示すように、上面12の係止壁28は、当該上面12に形成された係止リブ29の側面である。底面14の係止壁28は、図1Bに示すように、当該底面14に形成された係止穴33の内周面である。各係止壁28は、平面視において、Y方向に伸びる直線部28aと、直線部28aの末端からX方向内側に延びる当接部28bと、を有する略L字状、または、略J字状である。このうち、直線部28aは、基端側から先端側に近づくにつれて、換言すれば、当接部28bに近づくにつれて、徐々に高くなる滑り台状となっている。
【0024】
ダミー壁34は、スリット孔22を挟んで係止壁28に対して左右対称に形成された立壁である。したがって、ダミー壁34も、直線部34aと当接部34bと、を有している。本例において、上面12のダミー壁34は、係止リブ29と対称のダミーリブ35の側面である。底面14のダミー壁34は、係止穴33の内周面である。かかるダミー壁34を設けることで、超音波ホーン10の対称性が高くなり、超音波振動を安定してキャピラリ100に伝達できる。
【0025】
なお、図1Aから明らかな通り、係止リブ29およびダミーリブ35の末端は、平面視で、挿入孔20と一部重複している。この場合、下側からダミー孔36に挿入されたキャピラリ100は、係止リブ29およびダミーリブ35の底面に当接することになる。そして、これにより、キャピラリ100がY方向に位置決めされる。換言すれば、係止リブ29およびダミーリブ35は、キャピラリ100のY方向位置を規定するストッパとしても機能する。
【0026】
次に、ジグ50について、図4および図5を参照して説明する。図4は、ジグ50の斜視図であり、図5は、ジグ50の断面図である。このジグ50は、超音波ホーン10からキャピラリ100を脱着させる際に使用されるジグである。
【0027】
ジグ50は、ジグ本体52と、一対の挟持壁54と、一対の係止ピン56と、押圧ピン60と、進退用ボルト64と、を有している。ジグ本体52は、略ブロック状部材である。図5に示す通り、ジグ本体52には、X方向に貫通するネジ孔62が形成されている。ネジ孔62には、進退用ボルト64が螺合されている。
【0028】
進退用ボルト64の末端には、押圧ピン60が固着されている。押圧ピン60は、後に詳説する通り、超音波ホーン10のピン孔26に挿入され、内壁24aを押圧するピンである。この押圧ピン60は、進退用ボルト64の自転に伴い、X方向に進退可能となっている。換言すれば、押圧ピン60は、ジグ本体52の内部に完全に収容された収容位置と、ジグ本体52の一側面(以下「対向面53」と呼ぶ)から大きく突出した突出位置と、の間で進退可能となっている。図5は、押圧ピン60が、収容位置にある状態を示している。以下では、押圧ピン60を突出させる進退用ボルト64の自転方向を「締め付け方向」と呼び、押圧ピン60を後退させる進退用ボルト64の自転方向を「緩め方向」と呼ぶ。
【0029】
ジグ本体52の対向面53からは、さらに、一対の挟持壁54がX方向に突出している。一対の挟持壁54は、Z方向に間隔を開けて対向している。押圧ピン60が突出位置にある場合、当該押圧ピン60は、一対の挟持壁54の間に位置している。各挟持壁54には、係止ピン56が、固着されている。一対の係止ピン56は、挟持壁54から、互いに近づく方向に突出している。
【0030】
後に詳説する通り、この係止ピン56は、超音波ホーン10の係止壁28と、X方向に係合する。また、係止ピン56の末端面(すなわち他方の係止ピン56と向かい合う面)には、ジグ本体52から離れるに従って、挟持壁54からの突出量が小さくなるような傾斜面58が形成されている。
【0031】
ここで、一対の係止ピン56の対向距離LP(図5参照)は、超音波ホーン10の基準厚みLH1(図2参照)より大きく、超音波ホーン10の突出厚みLH2より小さい。なお、基準厚みLH1とは、係止壁28およびダミー壁34を除いた超音波ホーン10の厚みを指す。また、突出厚みLH2は、係止壁28の最突出点を含む超音波ホーン10の厚みを指す。また、以下では、係止壁28を含む超音波ホーン10の厚みが、対向距離LPと一致する軸方向位置を境界位置Yaと呼ぶ。
【0032】
次に、こうしたジグ50を利用したキャピラリ100の脱着の手順について図6図8を参照して説明する。超音波ホーン10からキャピラリ100を取り外す、あるいは、超音波ホーン10にキャピラリ100を取り付ける場合、挿入孔20を、キャピラリ100よりも大径になるように、拡大する必要がある。作業者は、挿入孔20を拡大するために、まず、図6に示すように、ジグ50を、超音波ホーン10の側方であって、第一側面16と対向する位置に配置する。また、このとき、係止ピン56が境界位置Yaより基端側に位置するように、作業者は、ジグ50のY方向位置を調整する。なお、図6に示す通り、このとき、押圧ピン60は、ジグ本体52の内部に完全に収容された収容位置にある。
【0033】
続いて、作業者は、ジグ本体52を、X方向、かつ、超音波ホーン10に近づく方向に動かし、ジグ本体52の対向面53を、第一側面16に接触または近接させる。図7は、この状態を示している。このとき、一対の係止ピン56は、超音波ホーン10を厚み方向に挟み込む。また、係止ピン56は、係止壁28より幅方向を内側に位置している。
【0034】
続いて、作業者は、ジグ本体52を、超音波ホーン10の軸方向先端側へ移動させる。このジグ本体52の先端側への移動は、係止ピン56が係止壁28の当接部28bに当接することで停止する。なお、係止ピン56が当接部28bに当接したとき、超音波ホーン10のピン孔26が、ジグ50の押圧ピン60にX方向に正対するように、各部の位置が予め調整されている。
【0035】
この状態になれば、作業者は、トルクドライバを用いて進退用ボルト64を締め付け方向に回転させ、押圧ピン60を、ピン孔26に進入させる。進退用ボルト64の締め付けを継続することで、押圧ピン60の突出量が増加する。そして、最終的には、図9に示すように、押圧ピン60が、スリット孔22の内壁24a(押圧ピン60と対向する内壁24a)に当接する。押圧ピン60が、さらに進出することで、内壁24aは、紙面左向きの力F1を受ける。
【0036】
また、このとき、係止ピン56は、係止壁28より幅方向を内側に位置しており、当該係止壁28と幅方向に係合している。そのため、内壁24aが紙面左向きの力F1を受ける時、内壁24bは、係止壁28を介して、係止ピン56から紙面右向きの力F2を受ける。そして、これにより、スリット孔22の幅、ひいては、スリット孔22に繋がる挿入孔20の内径が拡大される。
【0037】
なお、上述した通り、進退用ボルト64はトルクドライバで締め付けられている。そのため、進退用ボルト64に付与されるトルク、ひいては、押圧ピン60が、内壁24aを押圧するトルクは、基準トルク以下に抑えられている。結果として、超音波ホーン10に過大な力が付加されることが防止される。挿入孔20の内径が拡大されれば、作業者は、キャピラリ100を下側に引っ張って挿入孔20から取り外す、あるいは、新たなキャピラリ100を挿入孔20に下側から挿入する。キャピラリ100を挿入する場合は、キャピラリ100の上端が、係止リブ29およびダミーリブ35に当接する位置まで、キャピラリ100を押し上げる。キャピラリ100の上端が、係止リブ29およびダミーリブ35それぞれの底面に当接することで、キャピラリ100がY方向に位置決めされる。
【0038】
キャピラリ100の抜き差しが完了すれば、作業者は、上記と逆の手順で、挿入孔20の内径を元に戻す。すなわち、作業者は、進退用ボルト64を緩め方向に回転させ、押圧ピン60を収容位置に移動させる。続いて、作業者は、係止ピン56が、境界位置Yaより基端側に到達するまで、ジグ50を、基端側に移動させる。そして、最後に、ジグ50を、超音波ホーン10から離せば、作業は終了となる。
【0039】
以上の説明で明らかな通り、本例では、超音波ホーン10の側方からアクセスするジグ50を用いて、挿入孔20の径を変更している。かかる構成とする理由について、比較例と比較して説明する。
【0040】
図10は、第一の比較例の超音波ホーン10*の断面図である。この超音波ホーン10*も、キャピラリ100が挿通される挿入孔20と、挿入孔20に繋がるスリット孔22と、を有する。超音波ホーン10*は、さらに、スリット孔22に交差するネジ孔80と、当該ネジ孔80に螺合される調整ネジ82と、を有する。キャピラリ100を交換する場合、作業者は、調整ネジ82を緩めることで、挿入孔20の内径を拡大させる。キャピラリ100を挿入孔20に取り付けた後は、調整ネジ82を締め付けることで、キャピラリ100の脱落を防止する。
【0041】
こうした超音波ホーン10*によれば、比較的単純な構成でキャピラリ100を脱着できる。しかし、第一の比較例の場合、超音波ホーン10*に直接螺合した調整ネジ82の締め付け力で、キャピラリ100を保持している。この場合、超音波ホーン10*に付加される超音波振動により、調整ネジ82が緩み、キャピラリ100が意に反して脱落するおそれがあった。また、超音波ホーン10*に調整ネジ82が直接螺合しているため、超音波振動に乱れが生じやすい。
【0042】
一方、本例では、超音波ホーン10とは完全に別体であるジグ50を用いて挿入孔20の内径を変更している。そのため、超音波振動が生じた場合でも、キャピラリ100を安定して保持できる。また、超音波ホーン10に、ネジが螺合されていないため、超音波振動の乱れが生じにくい。特に、本例では、係止壁28に加え、当該係止壁28とミラー対称のダミー壁34を設けている。その結果、超音波ホーン10全体が、左右対称形状に近づき、超音波振動が安定して伝達できる。
【0043】
なお、本例では、ピン孔26を、第一側面16にのみ形成しているため、その分、超音波ホーン10の対称性が低下している。そこで、第一側面16の反対側にある第二側面18にも、ダミー孔を形成してもよい。ダミー孔36は、例えば、図2において二点鎖線で示すように、ピン孔26と同形であり、第二側面18のうちピン孔26に対してY方向にずれた位置に形成されてもよい。また、ダミー孔36は、第二側面18のうちピン孔26と同心位置に形成され、押圧ピン60より小径の孔でもよい。
【0044】
図11は、第二の比較例の超音波ホーン10#の断面図である。この超音波ホーン10#も、キャピラリ100が挿通される挿入孔20と、挿入孔20に繋がるスリット孔22と、を有する。超音波ホーン10#は、さらに、スリット孔22の途中に楕円形の交換用孔84を有する。キャピラリ100を交換する場合、作業者は、この交換用孔84に、押圧部材86を挿入する。押圧部材86は、交換用孔84より一回り小さい楕円形部材である。作業者は、この押圧部材86を、交換用孔84に挿入した状態で、Z軸回りに、90度回転させる。これにより、交換用孔84およびこれと繋がる挿入孔20が拡大され、キャピラリ100を挿入孔20に脱着できる。そして、キャピラリ100を挿入孔20に取り付けた後は、押圧部材86を交換用孔84から抜き取る。これにより、挿入孔20の径が元に戻り、キャピラリ100の脱落が防止される。
【0045】
ここで、超音波ホーン10#は、キャピラリ100の保持に、ネジの締め付け力を利用していないため、超音波振動が生じても、キャピラリ100を安定して保持できる。しかし、超音波ホーン10#の場合、キャピラリ100を脱着する際、押圧部材86を交換用孔84の内周面に沿って摺動させる必要がある。この場合、押圧部材86または交換用孔84またはその双方が摩耗して変形するおそれがあった。そして、これらが摩耗すると、挿入孔20を適切に拡径できず、キャピラリ100を適切に脱着できない。また、超音波ホーン10#が摩耗すると、超音波振動の伝達特性が変化する。そのため、超音波ホーン10#の場合、超音波ホーン10#の摩耗を防止するために、押圧部材86を、超音波ホーン10#よりも柔らかい素材で構成する必要があった。
【0046】
一方、本例の場合、押圧ピン60および係止ピン56は、内壁24aおよび係止壁28を押圧するが、これらに対して摺動しない。そのため、本例では、ジグ50および超音波ホーン10のいずれも、摩耗しにくい。また、万一、摩耗したとしても、その分、押圧ピン60の突き出し量を増やせば、挿入孔20を適切に拡径できる。なお、本例では、押圧ピン60による内壁24aの押圧力は、トルクドライバにより規制されている。そのため、ジグ50および超音波ホーン10の少なくとも一方が摩耗したとしても、常に、適切な力で挿入孔20を拡径できる。
【0047】
なお、上述した通り、本例では、摩耗が生じにくいため、超音波ホーン10およびジグ50それぞれの素材の硬度については、特に、限定されない。したがって、超音波ホーン10およびジグ50を、同一素材で構成してもよい。ただし、当然ながら、超音波ホーン10の摩耗をより確実に防止するために、超音波ホーン10を、ジグ50より硬い素材で構成してもよい。
【0048】
また、図11に示す超音波ホーン10#の場合、押圧部材86は、Y方向から超音波ホーン10#にアクセスする。この場合、押圧部材86がキャピラリ100等の他部材に干渉しやすい。一方、本例の超音波ホーン10の場合、ジグ50は、X方向(すなわち超音波ホーン10の側方)から超音波ホーン10にアクセスする。通常、超音波ホーン10の側方には、他部材はなく、広いスペースが存在する。そのため、本例の超音波ホーン10によれば、超音波ホーン10#に比べて、ジグ50を超音波ホーン10にアクセスしやすい。結果として、本例によれば、キャピラリ100の交換作業を容易に行えることができる。
【0049】
なお、これまで説明した構成は、一例であり、ジグ50の押圧ピン60がスリット孔22の内壁24aを押圧するとともに、ジグ50の係止ピン56が超音波ホーン10の係止壁28と幅方向に係合するのであれば、その他の構成は、変更されてもよい。例えば、本例では、進退用ボルト64を利用して、押圧ピン60を進退させている。しかし、押圧ピン60は、他の機構、例えば、カムやレバー、油圧シリンダ等を用いて進退してもよい。また、係止壁28や係止ピン56の形状も適宜、変更されてもよい。したがって、例えば、係止壁28は、当接部28bを有さない、直線形状でもよい。また、ダミー壁34やダミー孔36は無くてもよい。また、本例では、係止リブ29およびダミーリブ35を挿入孔20まで延ばし、これらをキャピラリ100のY方向位置を規定するストッパとして機能させている。しかし、当然ながら、係止リブ29およびダミーリブ35は、挿入孔20と干渉しない形状でもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 超音波ホーン、10* 第一の比較例の超音波ホーン、10# 第二の比較例の超音波ホーン、12 上面、14 底面、16 第一側面、18 第二側面、20 挿入孔、22 スリット孔、24a,24b 内壁、26 ピン孔、28 係止壁、28a,34a 直線部、28b,34b 当接部、29 係止リブ、33 係止穴、34 ダミー壁、35 ダミーリブ、36 ダミー孔、50 ジグ、52 ジグ本体、53 対向面、54 挟持壁、56 係止ピン、58 傾斜面、60 押圧ピン、62 ネジ孔、64 進退用ボルト、80 ネジ孔、82 調整ネジ、84 交換用孔、86 押圧部材、100 キャピラリ。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11