(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007332
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】伝動ベルト用ゴム組成物、伝動ベルトおよび伝動ベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16G 1/08 20060101AFI20240110BHJP
B29B 7/06 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F16G1/08 C
B29B7/06
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088786
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022104906
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023016797
(32)【優先日】2023-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】松本 英之
(72)【発明者】
【氏名】三木 淳史
【テーマコード(参考)】
4F201
【Fターム(参考)】
4F201AA45
4F201AB18
4F201AB25
4F201AG01
4F201AR12
4F201BA01
4F201BC01
4F201BC12
4F201BD05
4F201BK01
4F201BK13
4F201BK26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】伝動ベルトに用いた際に耐摩耗性、省燃費性、耐亀裂性を同時に高めることができるゴム組成物を提供する。
【解決手段】伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成するために用いられるゴム組成物として、クロロプレンゴムと短繊維と接着性改善剤とカーボンブラックとを組み合わせる。前記短繊維はアラミド短繊維を含む。前記クロロプレンゴム100質量部に対して、前記短繊維の割合は15~38質量部であり、前記アラミド短繊維の割合は5~28質量部であり、前記接着性改善剤の割合は0.1~3.2質量部であり、かつ前記カーボンブラックの割合は30~70質量部である。前記ゴム組成物は、さらに脂肪族ポリアミド短繊維を含んでいてもよい。前記脂肪族ポリアミド短繊維の割合は、前記クロロプレンゴム100質量部に対して25質量部以下であってもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動ベルトの圧縮ゴム層に用いられるゴム組成物であって、
前記ゴム組成物が、クロロプレンゴム、短繊維、接着性改善剤およびカーボンブラックを含み、
前記短繊維がアラミド短繊維を含み、
前記クロロプレンゴム100質量部に対して、前記短繊維の割合が15~38質量部であり、前記アラミド短繊維の割合が5~28質量部であり、前記接着性改善剤の割合が0.1~3.2質量部であり、かつ前記カーボンブラックの割合が30~70質量部である、ゴム組成物。
【請求項2】
前記短繊維がさらに脂肪族ポリアミド短繊維を含み、
前記脂肪族ポリアミド短繊維の割合が、前記クロロプレンゴム100質量部に対して25質量部以下である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ポリアミド短繊維の平均繊維長が1.5mm以上である請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記カーボンブラックがソフトカーボンを含む請求項1~3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記接着性改善剤が、フェノール樹脂および/またはアミノ樹脂を含む請求項1~4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のゴム組成物を含む圧縮ゴム層を含む伝動ベルト。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のゴム組成物を混練し、圧縮ゴム層を形成するための未架橋ゴムシートを製造する混練工程を含む、伝動ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速ベルトなどの伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成できるゴム組成物ならびにこのゴム組成物で形成された圧縮ゴム層を備えた伝動ベルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置等の動力伝達機構に用いる伝動ベルトは、動力の伝達の形態から摩擦伝動ベルトとかみ合い伝動ベルトとに大別される。摩擦伝動ベルトとしては、Vベルト、Vリブドベルト、平ベルトなどが知られ、かみ合い伝動ベルトとしては歯付ベルトが知られている。
【0003】
Vベルトには、その一例として摩擦伝動面(V字状側面)が露出したゴム層であるローエッジタイプのベルト(ローエッジVベルト)が存在する。ローエッジタイプのベルトには、コグを設けないローエッジVベルトの他、ベルトの内周面のみにコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルトや、ベルトの内周面および外周面の両方にコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルト(ローエッジダブルコグドVベルト)というコグ付きVベルトがある。
【0004】
これらのVベルト(特にローエッジコグドVベルト)の用途として、ベルト式無段変速機が挙げられる。ベルト式無段変速機30は、
図1Aおよび
図1Bに示すように、駆動プーリ31と従動プーリ32にVベルト1を巻き掛けて、変速比を無段階で変化させる装置である。各プーリ31,32は、軸方向への移動が規制または固定された固定シーブ31aまたは32aと、軸方向に移動可能な可動シーブ31bまたは32bとを有する。各プーリ31,32は、これらの固定シーブ31aまたは32aと可動シーブ31bまたは32bとで形成されるV溝の幅を連続的に変更できる構造を有している。前記Vベルト1は、幅方向の両端面が各プーリ31,32のV溝の対向面と傾斜が合致するテーパ面を有し、変更されたV溝の幅に応じて、プーリ半径方向の任意の位置に嵌まり込む。例えば、駆動プーリ31のV溝の幅を狭く、従動プーリ32のV溝の幅を広くすることにより、
図1Aに示す状態から
図1Bに示す状態に変更すると、Vベルト1は、駆動プーリ31側ではプーリ半径方向の外周側へ、従動プーリ32側ではプーリ半径方向の内周側へ移動する。そして、各プーリ31,32への巻き掛け半径が連続的に変化して、変速比を無段階で変化できる。
【0005】
このような用途で用いるVベルト(変速ベルト)は、駆動プーリと従動プーリとの二軸間の巻き掛け回転走行だけでなく、プーリ半径方向への移動、巻き掛け半径の連続的変化により繰り返される屈曲動作などに耐用すべく、特異的な設計がなされている。
【0006】
例えば、特開2004-3609号公報(特許文献1)には、圧縮ゴム層を形成するゴム配合物が、クロロプレンゴムを100質量部、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール短繊維を1~40質量部、カーボンブラックを10~60質量部、加硫促進剤としてのN-N’-m-フェニレンジマレイミドを0.5~10質量部含む伝動ベルトが開示されている。そして、N-N’-m-フェニレンジマレイミドの含有量が0.5質量部未満の場合には、架橋密度が小さくなり耐摩耗性の改善効果が小さく、当該含有量が10質量部を超えると加硫ゴムの伸びの低下が著しく、耐屈曲性が低下することが記載されている。
【0007】
特開2012-241831号公報(特許文献2)には、圧縮ゴム層が脂肪酸アマイドと短繊維とを含む伝動ベルトが開示されている。そして、脂肪酸アマイドは、短繊維の分散性および配向性を向上させるとともに、ゴム成分と短繊維との密着性を改善すること、および圧縮ゴム層の表面に析出し、ゴム層表面の摩擦係数を低下させ、伝達効率を向上させることが記載されている。
【0008】
特開2014-209026号公報(特許文献3)には、圧縮ゴム層がクロロプレンゴム、短繊維、ポリオレフィン樹脂を含む伝動用ベルトが開示されている。そして、通常、省燃費性を向上させるためには、短繊維を過度に添加することにより摩擦係数を低下させるが、ゴム成分と短繊維の界面に亀裂が入り易く、耐久性が損なわれる虞があるのに対して、ポリオレフィン樹脂を添加すると圧縮ゴム層の摩擦係数を低下してベルトの耐摩耗性を向上できると記載されている。
【0009】
これらの文献に開示されるように、Vベルトの圧縮ゴム層に短繊維を添加して摩擦係数を低下させることにより、耐摩耗性および省燃費性を向上させる技術は公知技術である。特許文献1~3では、短繊維とN-N’-m-フェニレンジマレイミド、脂肪酸アマイド、ポリオレフィン樹脂などとを組み合わせることを特徴としているが、その他の手法として、短繊維の種類に着目した改善も試みられている。
【0010】
例えば、特開平4-366045号公報(特許文献4)には、アラミド短繊維の一部をナイロン繊維で置換した伝動ベルトが開示されている。そして、弾性率はアラミド繊維で主として高める一方、ナイロン繊維により摩擦係数の安定化が図られると記載されている。
【0011】
特開2010-151209号公報(特許文献5)には、圧縮ゴム層において短繊維および潤滑剤を配合することによって摩擦係数を特定の範囲とした伝動ベルトが開示されている。また、短繊維はフィブリル化しないメタ系アラミド繊維であってもよいと記載されている。そして、従来技術ではパラ系アラミド繊維等のフィブリル化する短繊維が用いられていたのに対して、メタ系アラミド短繊維などのフィブリル化しない短繊維を用いることにより、フィブリル化する短繊維を用いる場合よりも少量の添加量で所定の摩擦係数を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-3609号公報
【特許文献2】特開2012-241831号公報
【特許文献3】特開2014-209026号公報
【特許文献4】特開平4-366045号公報
【特許文献5】特開2010-151209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1~3のように、Vベルトの圧縮ゴム層に短繊維を添加して摩擦係数を低下させる場合、短繊維の量を多くすると、耐亀裂性は低下する傾向にあり、耐摩耗性、省燃費性、耐亀裂性を同時に高めるのは困難であった。
【0014】
一方、特許文献4~5に開示される構成を有するベルトでも、耐摩耗性、省燃費性、耐亀裂性の向上に一定の効果を示すものの、それでもなお求められるレベルには十分とは言えなかった。特に、変速ベルトが用いられる自動二輪車、四輪バギー、スノーモービル、およびハーベスターをはじめとする農業用機械などでは高馬力化が進んでおり、従来技術ではこれらの特性を十分に満足するゴム組成物を提供するのが困難となってきている。
【0015】
そこで、本発明の目的は、伝動ベルトに用いた際に耐摩耗性、省燃費性、耐亀裂性を同時に高めることができるゴム組成物を提供すること、および耐摩耗性、省燃費性、耐亀裂性を同時に高めた伝動ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、前記課題を達成するため、クロロプレンゴムと、アラミド短繊維を含む短繊維と、接着性改善剤と、カーボンブラックとを、特定の割合で組み合わせて伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成することにより、伝動ベルトの耐摩耗性、省燃費性、耐亀裂性を同時に高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の態様[1]としてのゴム組成物は、
伝動ベルトの圧縮ゴム層に用いられるゴム組成物であって、
クロロプレンゴム、短繊維、接着性改善剤およびカーボンブラックを含み、
前記短繊維がアラミド短繊維を含み、
前記クロロプレンゴム100質量部に対して、前記短繊維の割合が15~38質量部であり、前記アラミド短繊維の割合が5~28質量部であり、前記接着性改善剤の割合が0.10~3.20質量部であり、かつ前記カーボンブラックの割合が30~70質量部である。
【0018】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]において、前記短繊維がさらに脂肪族ポリアミド短繊維を含み、前記脂肪族ポリアミド短繊維の割合が、前記クロロプレンゴム100質量部に対して25質量部以下である態様である。
【0019】
本発明の態様[3]は、前記態様[2]において、前記脂肪族ポリアミド短繊維の平均繊維長が1.5mm以上である態様である。
【0020】
本発明の態様[4]は、前記態様[1]~[3]のいずれかの態様において、前記カーボンブラックがソフトカーボンを含む態様である。
【0021】
本発明の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記接着性改善剤が、フェノール樹脂および/またはアミノ樹脂を含む態様である。
【0022】
本発明には、態様[6]として、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様のゴム組成物を含む圧縮ゴム層を含む伝動ベルトも含まれる。
【0023】
本発明には、態様[7]として、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様のゴム組成物を混練し、圧縮ゴム層を形成するための未架橋ゴムシートを製造する混練工程を含む、伝動ベルトの製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物として、クロロプレンゴムと、アラミド短繊維を含む短繊維と、接着性改善剤と、カーボンブラックとを、特定の割合で組み合わせているため、伝動ベルトの耐摩耗性、省燃費性、耐亀裂性を同時に高めることができる。特に、従来の技術常識とは異なり、接着性改善剤の粘着性により作業性が低下することなく、高い生産性でゴム組成物を調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】
図1Aは、ベルト式無段変速機の変速機構を説明するための概略図である。
【
図1B】
図1Bは、ベルト式無段変速機の変速機構を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の伝動ベルトの一例を示す概略断面斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2の伝動ベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施例での曲げ応力の測定方法を説明するための概略図である。
【
図5】
図5は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの伝動効率試験のレイアウトを示す。
【
図6】
図6は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの摩耗耐久試験のレイアウトを示す。
【
図7】
図7は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの亀裂耐久試験のレイアウトを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と短繊維との接着性を向上させることに着目して、圧縮ゴム層用のゴム組成物に接着性改善剤を配合することを特徴とする。
【0027】
なお、伝動ベルトにおいて、短繊維を伝動ベルトの幅方向と平行に埋設することにより、省燃費性を維持しつつ耐摩耗性を高めることは公知技術とみなすことができ、耐摩耗性と省燃費性とを両立させるには、ゴム自体はあまり硬くせずに短繊維の量を多くする方法がある。しかし、短繊維の量を多くすると、耐亀裂性は低下する傾向にあり、このような傾向は、ゴム成分と短繊維との接着性が低いことが原因と考えられる。これに対して、ゴム成分と短繊維との接着性を向上させるためには、接着性改善剤を接着ゴムに添加することは汎用されているが、ゴム組成物を練る段階で粘着し易くなって操作性が低下することもあり、通常、圧縮ゴム層には接着性改善剤は添加されない。
【0028】
また、耐摩耗性を向上するために、カーボンブラックなどの補強剤、架橋剤、架橋促進剤、共架橋剤などを多く配合してゴム自体の硬度を高める方法もあるが、屈曲性が低下して省燃費性は低下する。
【0029】
これに対して、本発明では、短繊維により耐摩耗性と省燃費性とを向上させつつ、接着性改善剤を組み合わせることで耐亀裂性も維持することが基本的な設計思想である。
【0030】
[クロロプレンゴム]
本発明のゴム組成物は、耐摩耗性、耐熱性、耐寒性、耐候性などのバランスがよく、短繊維との接着性にも優れる点から、必須のゴム成分としてクロロプレンゴムを含む。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプであってもよく、非硫黄変性タイプであってもよい。
【0031】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分は、クロロプレンゴムに加えて、さらに他のゴムを含んでいてもよい。他のゴム成分としては、クロロプレンゴム以外のジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)など]、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0032】
他のゴム成分の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0033】
クロロプレンゴムの割合は、ゴム成分中50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%(すなわち、クロロプレンゴム単独)である。また、クロロプレンゴムの割合は、本発明のゴム組成物中30質量%以上であってもよく、好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%、より好ましくは42~52質量%、最も好ましくは44~48質量%である。
【0034】
[短繊維]
本発明のゴム組成物では、圧縮ゴム層の耐摩耗性を向上し、かつ摩擦係数を低減するために、短繊維を必須成分として含む。特に、短繊維をベルト幅方向に配向させて圧縮ゴム層中に埋設させると、プーリからの押圧に対する伝動ベルトの圧縮変形を抑制できるため、省燃費性を維持しつつ耐摩耗性を向上できる。短繊維をベルト幅方向に配向させる方法としては、例えば、ロールによって圧延する方法などが挙げられる。
【0035】
(アラミド短繊維)
短繊維は、伝動ベルトの耐摩耗性を向上させるために、アラミド短繊維を必須繊維として含む。
【0036】
アラミド短繊維を構成するアラミド繊維は、パラ系アラミド繊維であってもよく、メタ系アラミド繊維であってもよい。
【0037】
パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)の「トワロン(登録商標)」、東レ・デュポン(株)の「ケブラー(登録商標)」など)、ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体繊維(例えば、帝人(株)の「テクノーラ(登録商標)」など)などが挙げられる。
【0038】
メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)の「コーネックス(登録商標)」など)などが挙げられる。
【0039】
これらのアラミド繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、圧縮ゴム層の摩擦係数を低減する効果が大きく、省燃費性を向上できる点から、メタ系アラミド繊維が好ましい。特に、短繊維としてアラミド短繊維のみを用いる場合、伝達効率を向上でき、省燃費性を向上できる点から、メタ系アラミド繊維を用いるのが好ましい。アラミド短繊維を他の短繊維と組み合わせる場合、耐屈曲疲労性および耐亀裂性を向上でき、省燃費性とのバランスにも優れる点から、アラミド短繊維としてパラ系アラミド短繊維が好ましく、パラ系アラミド短繊維と、後述する脂肪族ポリアミド短繊維とを組み合わせるのが特に好ましい。
【0040】
アラミド短繊維の平均繊維径は例えば2μm以上であり、好ましくは2~100μm、さらに好ましくは3~50μm、より好ましくは7~40μm、最も好ましくは10~30μmである。アラミド短繊維の平均繊維径が小さすぎると、圧縮ゴム層表面の摩擦係数を十分に低減できない虞がある。
【0041】
アラミド短繊維の平均繊維長は、例えば1~20mm、好ましくは1.3~15mm、さらに好ましくは1.5~10mm、より好ましくは2~5mm、最も好ましくは2.5~4mmである。アラミド短繊維の平均繊維長が短すぎると、列理方向の力学特性(例えばモジュラスなど)を十分に高めることができず、耐屈曲疲労性および耐亀裂性が低下する虞がある。逆にアラミド短繊維の平均繊維長が長すぎると、ゴム組成物中のアラミド短繊維の分散不良が生じ、表面の摩擦係数を十分に低減できず、伝達効率が低下する虞がある。
【0042】
なお、本願において、アラミド短繊維の平均繊維径および平均繊維長は、例えば、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡などの電子顕微鏡で撮影したアラミド短繊維の写真を画像解析して、適当なサンプル数(例えば50サンプル)の繊維径および繊維長の算術平均として算出することができる。
【0043】
アラミド短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向と略平行に配向して圧縮ゴム層中に埋設されてもよい。
【0044】
なお、本願において、ベルト幅方向と「略平行」とは、ベルト幅方向に対する角度が、例えば10°以内、好ましくは8°以内、さらに好ましくは5°以内、より好ましくは3°以内、最も好ましくは1°以内(例えば0~1°、特に略0°)であることを意味する。
【0045】
ゴム組成物中のアラミド短繊維の分散性や接着性の観点から、アラミド短繊維には接着処理または表面処理をしてもよい。
【0046】
アラミド短繊維の接着処理では、種々の接着処理液、例えば、フェノール類とホルマリンとの初期縮合物(ノボラックまたはレゾール型フェノール樹脂のプレポリマーなど)を含む処理液、ゴム成分またはラテックスを含む処理液、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、シランカップリング剤、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)を含む処理液などで処理することができる。好ましい接着処理では、アラミド短繊維は、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、特に少なくともレゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL)液で処理する。このような処理液は組み合わせて使用してもよく、例えば、アラミド短繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。
【0047】
なお、本願において、ゴム組成物に配合する短繊維(他の短繊維も含む)において、予め短繊維の表面を接着処理する接着性化合物は、後述するゴム組成物に配合される接着性改善剤の範疇には含まない。そのため、短繊維の表面を接着処理した接着性化合物の質量は、短繊維の質量(短繊維の一部の質量)とみなす。
【0048】
このような処理液、特にRFL液で処理すると、アラミド短繊維とクロロプレンゴムとを強く接着できる。RFL液は、レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物と、ラテックスとの混合物である。レゾルシンとホルムアルデヒドとのモル比は、ゴム成分と短繊維との接着性を向上できる範囲であればよく、前者/後者は、例えば1/0.3~1/3、好ましくは1/0.4~1/2、さらに好ましくは1/0.5~1/1.5、より好ましくは1/0.6~1/1、最も好ましくは1/0.6~1/0.8である。
【0049】
ラテックスの種類は、特に限定されず、ジエン系ゴム(スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体、クロロプレンゴム、ブタジエンゴムなど)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムが好ましく、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体が特に好ましい。
【0050】
レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物の割合は、ラテックスのゴム成分100質量部に対して、例えば10~100質量部、好ましくは12~50質量部、さらに好ましくは15~30質量部である。なお、RFL液の全固形分濃度は、5~40質量%の範囲で調整できる。
【0051】
アラミド短繊維に対する接着成分(固形分)の付着率[{(接着処理後のアラミド短繊維の質量-接着処理前のアラミド短繊維の質量)/(接着処理後のアラミド短繊維の質量)}×100]は、例えば1~25質量%、好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは2.5~15質量%、より好ましくは3~10質量%、最も好ましくは4~8質量%である。接着成分の付着率が少なすぎると、アラミド短繊維のゴム組成物中の分散性や、アラミド短繊維とゴム組成物との接着性が不十分である。逆に接着成分の付着率が多すぎると、接着成分がアラミド短繊維同士を強固に固着し、却って分散性が低下する虞がある。
【0052】
アラミド短繊維の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して、例えば5~28質量部、好ましくは10~25質量部、さらに好ましくは12~20質量部、より好ましくは13~18質量部である。アラミド短繊維の割合が少なすぎると、耐摩耗性が低下する虞がある。逆にアラミド短繊維の割合が多すぎると、摩擦係数を低減する効果が小さく、伝達効率が低下する虞がある。
【0053】
(脂肪族ポリアミド短繊維)
短繊維は、さらに脂肪族ポリアミド短繊維(ナイロン短繊維)を含んでもよい。必須繊維であるアラミド短繊維は、耐摩耗性を高めるために有効であるが、耐摩耗性と省燃費性とを高度に両立させる点から、脂肪族ポリアミド短繊維と組み合わせるのが好ましい。一方、高度な耐摩耗性が要求される場合は、短繊維としてアラミド短繊維のみを用いてもよい。
【0054】
脂肪族ポリアミド短繊維を構成する脂肪族ポリアミド繊維としては、例えば、ポリアミド46繊維、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド610繊維、ポリアミド612繊維、ポリアミド11繊維、ポリアミド12繊維などが挙げられる。
【0055】
これらの脂肪族ポリアミド繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維などのC4-8アルキレン鎖を有するナイロン繊維が好ましい。
【0056】
脂肪族ポリアミド短繊維の平均繊維径は、例えば2μm以上であり、好ましくは2~100μm、さらに好ましくは3~50μm、より好ましくは7~40μm、最も好ましくは10~30μmである。脂肪族ポリアミド短繊維の平均繊維径が小さすぎると、圧縮ゴム層表面の摩擦係数を十分に低減できない虞がある。
【0057】
脂肪族ポリアミド短繊維の平均繊維長は、1mm以上(例えば1~20mm)であってもよく、耐屈曲疲労性や耐亀裂性を向上できる点から、1.5mm以上(特に2mm以上)が好ましく、さらに好ましくは1.5~10mm、より好ましくは2~5mm、最も好ましくは2.5~4mmである。
【0058】
なお、本願において、脂肪族ポリアミド短繊維の平均繊維径および平均繊維長は、例えば、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡などの電子顕微鏡で撮影した脂肪族ポリアミド短繊維の写真を画像解析して、適当なサンプル数(例えば50サンプル)の繊維径および繊維長の算術平均として算出することができる。
【0059】
脂肪族ポリアミド短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向と略平行に配向して圧縮ゴム層中に埋設されていてもよい。
【0060】
ゴム組成物中の脂肪族ポリアミド短繊維の分散性や接着性の観点から、脂肪族ポリアミド短繊維には接着処理または表面処理をしてもよい。接着処理としては、好ましい態様も含めて、アラミド短繊維の接着処理として例示された接着処理から選択できる。脂肪族ポリアミド短繊維の接着処理は、アラミド短繊維の接着処理と異なっていてもよいが、簡便性などの点から、同一の接着処理であるのが好ましい。
【0061】
脂肪族ポリアミド短繊維の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して25質量部以下(例えば0~25質量部)であってもよく、好ましくは5~25質量部、さらに好ましくは10~20質量部、より好ましくは12~18質量部である。脂肪族ポリアミド短繊維の割合は、アラミド短繊維100質量部に対して1000質量部以下、好ましくは600質量部以下、さらに好ましくは300質量部以下であってもよく、例えば5~600質量部(例えば20~500質量部)、好ましくは10~200質量部(例えば20~100質量部)、さらに好ましくは30~100質量部、より好ましくは50~80質量部、最も好ましくは60~70質量部である。脂肪族ポリアミド短繊維の割合が少なすぎると、省燃費性および耐亀裂性が低下する虞がある。脂肪族ポリアミド短繊維の割合が多すぎると、耐摩耗性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0062】
(他の短繊維および短繊維総量の割合)
短繊維は、さらにアラミド短繊維およびナイロン短繊維以外の他の短繊維を含んでいてもよい。他の短繊維としては、例えば、ポリオレフィン系短繊維(ポリエチレン短繊維、ポリプロピレン短繊維など)、ポリアルキレンアリレート系短繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)短繊維などのポリC2-4アルキレンC6-14アリレート系短繊維など]、ビニロン短繊維、ポリビニルアルコール系短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)短繊維などの合成短繊維;綿、麻、羊毛などの天然短繊維;炭素短繊維などの無機短繊維などが挙げられる。これら他の短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0063】
他の短繊維の割合は、アラミド短繊維100質量部に対して50質量部以下であってもよく、好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。短繊維は、他の短繊維を実質的に含まなくてもよい。すなわち、短繊維は、アラミド短繊維のみからなる短繊維であってもよく、アラミド短繊維および脂肪族ポリアミド短繊維のみからなる短繊維であってもよい。
【0064】
短繊維の割合(短繊維の総量の割合)は、クロロプレンゴム100質量部に対して15~38質量部であり、好ましくは20~35質量部、さらに好ましくは20~30質量部である。短繊維の総量の割合が少なすぎると、耐摩耗性が低下するとともに、摩擦係数を十分に低減できないため、省燃費性が向上しない虞がある。一方、短繊維の総量の割合が多すぎると、耐亀裂性が低下する虞がある。
【0065】
[接着性改善剤]
本発明のゴム組成物は、接着性改善剤を含む。本発明のゴム組成物では、前記クロロプレンゴムおよび前記短繊維に対して、接着性改善剤を配合することにより、耐摩耗性と省燃費性とを向上させつつ、耐亀裂性を向上できる。特に、短繊維および接着性改善剤の割合を調整することにより、高い生産性でゴム組成物を調製できる。
【0066】
接着性改善剤としては、接着ゴム層の接着性改善剤として利用される慣用の接着性改善剤を利用できる。慣用の接着性改善剤としては、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などが挙げられる。これらの接着性改善剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、耐亀裂性を向上できる点から、フェノール樹脂および/またはアミノ樹脂が好ましい。
【0067】
なお、本願において「Aおよび/またはB」とは、「AおよびBの少なくとも一つ」を意味する。
【0068】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂(フェノール系樹脂)は、フェノール類にアルデヒド類が縮合した単位を含む共縮合物であってもよい。
【0069】
フェノール類としては、例えば、フェノール、アルキルフェノール(例えば、クレゾールなど)などの芳香族モノオール;カテコール、レゾルシノール(レゾルシン)、ハイドロキノン、ピロガロールなどの芳香族ポリオール;3-アミノフェノール、4-アミノフェノールなどのアミノフェノールなどが挙げられる。これらのフェノール類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0070】
これらのフェノール類のうち、フェノール、クレゾールなどの芳香族モノオール;レゾルシノールなどの芳香族ポリオールが好ましく、フェノール、クレゾールおよびレゾルシノールからなる群より選択された少なくとも一種が特に好ましい。
【0071】
フェノール樹脂は、ホルムアルデヒドに縮合する化合物として、フェノール類以外に、アミノ基を有する化合物(アミノ基含有化合物)を含んでいてもよい。アミノ基含有化合物としては、例えば、メラミン、尿素、グアナミン(ホルモグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなど)、アニリンなどが挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、メラミンなどのアミノ基含有環状化合物が好ましい。
【0072】
アミノ基含有化合物の割合は、フェノール類100質量部に対して100質量部以下(例えば1~100質量部)であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0073】
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド;フェニルアセトアルデヒドなどの芳香族アルデヒド;トリオキサン、パラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒドの縮合体などが挙げられる。
【0074】
これらのアルデヒド類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのアルデヒド類のうち、ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒドが特に好ましい。ホルムアルデヒドは、通常、ホルマリンとして用いられる。
【0075】
フェノール類およびアミノ基含有化合物の合計量と、アルデヒド類との割合としては、前者/後者(モル比)は、例えば1/0.5~1/5、好ましくは1/0.6~1/4、さらに好ましくは1/0.7~1/3である。
【0076】
フェノール樹脂は、例えば、水および塩基触媒(水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;アンモニアなど)の存在下、レゾルシノールを含むフェノール類とアルデヒド類とを反応させることにより得られる反応生成物(例えば、初期縮合物またはプレポリマー)であってもよい。フェノール樹脂は、フェノール-ホルムアルデヒド共縮合物、クレゾール-ホルムアルデヒド共縮合物、レゾルシノール-ホルムアルデヒド共縮合物、レゾルシノール-フェノール-ホルムアルデヒド共縮合物、レゾルシノール-クレゾール-ホルムアルデヒド共縮合物、レゾルシノール-メラミン-ホルムアルデヒド共縮合物が好ましく、フェノール-ホルムアルデヒド共縮合物、クレゾール-ホルムアルデヒド共縮合物、レゾルシノール-ホルムアルデヒド共縮合物が特に好ましい。フェノール-ホルムアルデヒド共縮合物は、ノボラック系フェノール樹脂であってもよい。
【0077】
(アミノ樹脂)
アミノ樹脂は、アミノ基含有化合物とアルデヒド類との共縮合物であってもよい。アミノ樹脂は、中性またはアルカリ性条件下で、アミノ基含有化合物とアルデヒド類とを反応させることにより得られる反応生成物(例えば、初期縮合物またはプレポリマー)であってもよい。
【0078】
アミノ基含有化合物としては、例えば、メラミン、尿素、グアナミン(ホルモグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなど)、アニリンなどが挙げられる。
【0079】
アルデヒド類としては、フェノール樹脂の項でアルデヒド類として例示されたアルデヒド類などが挙げられる。前記アルデヒド類のうち、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0080】
アミノ基含有化合物とアルデヒド類との割合としては、前者/後者(モル比)は、例えば1/1~1/10、好ましくは1/3~1/8、さらに好ましくは1/5~1/7である。
【0081】
アミノ樹脂としては、慣用のアミノ樹脂、例えば、メラミン樹脂、ユリア樹脂(尿素樹脂)、グアナミン樹脂、アニリン樹脂などであってもよい。これらのうち、メラミン樹脂、尿素樹脂(メチロール尿素など)、グアナミン樹脂(メチロールベンゾグアナミンなど)が好ましく、メラミン樹脂が特に好ましい。
【0082】
メラミン樹脂としては、例えば、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどのモノないしヘキサメチロールメラミンなどが汎用され、テトラないしヘキサメチロールメラミン(特に、ヘキサメチロールメラミン)が好ましい。メラミン樹脂(特に、テトラ乃至ヘキサメチロールメラミン)は、取り扱い性などの点から、アルキル基(例えば、メチル、エチル、n-ブチル、イソブチルなどのC1-4アルキル基など)でエーテル化されていてもよい。エーテル化されたアルキルエーテルメラミン樹脂としては、例えば、モノないしヘキサC1-4アルコキシメチルメラミンなどが汎用され、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサ-n-ブトキシメチルメラミン、ヘキサイソブトキシメチルメラミンなどのヘキサC1-4アルコキシメチルメラミンが好ましく利用される。また、メラミン樹脂は、メラミンとともに、他のアミノ基含有化合物、例えば、尿素、グアナミン(ホルモグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなど)、アニリンなどと併用してもよい。他のアミノ基含有化合物の割合は、メラミン1モルに対して0.3モル以下(特に0.1モル以下)であってもよい。
【0083】
(接着性改善剤の割合)
本発明のゴム組成物における接着性改善剤(第1の接着性改善剤)の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して0.10~3.20質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.2~3.1質量部、好ましくは0.25~3質量部、さらに好ましくは0.3~2.5質量部、より好ましくは0.5~2質量部、最も好ましくは0.8~1.5質量部である。接着性改善剤の割合が少なすぎると、耐亀裂性が低下する虞がある。逆に接着性改善剤の割合が多すぎると、練り工程(混練工程)に粘着が発生し、生産性が低下する虞がある。
【0084】
[カーボンブラック]
本発明のゴム組成物は、耐摩耗性を向上させるために、さらに所定量のカーボンブラックを含む。本発明では、前記短繊維と前記接着性改善剤との組み合わせにより、耐摩耗性を向上できるため、カーボンブラックを多量に配合することなく、耐摩耗性を向上できる。そのため、屈曲性も向上できる。
【0085】
カーボンブラックは、一般的に、平均一次粒子径、ヨウ素吸着量、窒素吸着比表面積などの違いにより、いくつかのグレードに分類されている。カーボンブラックの分類について、ASTMでは、ヨウ素吸着量に基づいて、N0**~N9**に分類されるが、配合したゴム製品の性能などをベースとした従来の分類(SAF、HAF、GPF等)も利用されている。平均一次粒子径の小さいN110(SAF)、N220(ISAF)、N330(HAF)などはハードカーボンと称され、平均一次粒子径の大きいN550(FEF)、N660(GPF)、N762(SRF)などはソフトカーボンと称されることもある。ヨウ素吸着量と平均一次粒子径には緊密な関係があり、平均一次粒子径が小さいほど、ヨウ素吸着量が大きくなる。東海カーボン(株)製のシースト(登録商標)シリーズを例にカーボンブラックを分類し、ヨウ素吸着量、平均一次粒子径をまとめると、表1のような関係となる。
【0086】
【0087】
本願では、ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックについて、原料で分類せずに、平均一次粒子径が40nm以上のカーボンブラックをソフトカーボンと称し、平均一次粒子径が40nm未満のカーボンブラックをハードカーボンと称する。
【0088】
なお、本願において、カーボンブラックの平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡などを用いて測定できる。
【0089】
ソフトカーボンの平均一次粒子径は、40nm以上であればよいが、ソフトカーボンの最大一次粒子径は、例えば300nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下であってもよい。ソフトカーボンの最大一次粒子径が大きすぎると、耐摩耗性の向上効果が発現しない虞がある。
【0090】
ソフトカーボンの平均一次粒子径は、例えば40~100nm、好ましくは41~80nm、さらに好ましくは42~60nm、より好ましくは43~50nmである。ソフトカーボンの平均一次粒子径が小さすぎると、省燃費性が低下する虞がある。逆にソフトカーボンの平均一次粒子径が大きすぎると、耐摩耗性の向上効果が発現しない虞がある。
【0091】
ソフトカーボンのヨウ素吸着量は60g/kg未満であってもよく、例えば10g/kg以上60g/kg未満、好ましくは20~58g/kg、さらに好ましくは30~55g/kg、より好ましくは40~50g/kgである。ヨウ素吸着量が多すぎると、省燃費性が低下する虞がある。
【0092】
なお、本願において、カーボンブラックのヨウ素吸着量は、ASTM D1510-17の標準試験法に準拠して測定できる。
【0093】
ハードカーボンの平均一次粒子径は、40nm未満であればよいが、ハードカーボンの最大一次粒子径は、例えば38nm以下、好ましくは35nm以下、さらに好ましくは30nm以下であってもよい。
【0094】
ハードカーボンの平均一次粒子径は、例えば10~35nm、好ましくは12~33nm、さらに好ましくは15~30nm、より好ましくは20~25nmである。
【0095】
ハードカーボンのヨウ素吸着量は60g/kg以上であってもよく、例えば60~150g/kg、好ましくは80~130g/kg、さらに好ましくは100~130g/kg、より好ましくは120~125g/kgである。
【0096】
本発明ではカーボンブラックは、摩擦係数やベルトを屈曲させた際の内部発熱が小さくなって、省燃費性を向上できる点から、ソフトカーボンを含むのが好ましい。カーボンブラック中のソフトカーボンの割合は10質量%以上であってもよく、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0097】
本発明のゴム組成物におけるカーボンブラック(第1のカーボンブラック)の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して30~70質量部であり、好ましくは35~65質量部、さらに好ましくは40~60質量部、より好ましくは45~55質量部である。カーボンブラックの割合が少なすぎると、ベルトの曲げ応力および耐摩耗性が低下する虞がある。一方、カーボンブラックの割合が多すぎると、伝動効率および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0098】
[添加剤]
ゴム組成物には、必要に応じて、他のフィラー(カーボンブラック以外のフィラー、例えば、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、亜鉛末などの金属粉、架橋剤(加硫剤)、共架橋剤(加硫助剤)、架橋促進剤(加硫促進剤)、架橋遅延剤(加硫遅延剤)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸などの脂肪酸、ステアリン酸金属塩などの脂肪酸金属塩、ステアリン酸アマイドなどの脂肪酸アマイド、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、滑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。
【0099】
亜鉛末などの金属粉の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して1~100質量部、好ましくは3~50質量部、さらに好ましくは5~30質量部、より好ましくは8~20質量部である。
【0100】
架橋剤としては、慣用の成分が使用でき、例えば、前記金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)、硫黄系架橋剤などが例示できる。硫黄系架橋剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)が好ましい。なお、金属酸化物は他の架橋剤(硫黄系架橋剤など)と組合せて使用してもよく、金属酸化物および/または硫黄系架橋剤は、単独でまたは架橋促進剤と組み合わせて使用してもよい。
【0101】
架橋剤の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して、例えば1~20質量部、好ましくは3~17質量部、さらに好ましくは5~15質量部、より好ましくは7~13質量部である。
【0102】
共架橋剤(架橋助剤またはco-agent)としては、公知の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2-ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなどの(メタ)アクリル酸多価金属塩]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート]、ビスマレイミド類(脂肪族ビスマレイミド、例えば、N,N’-1,2-エチレンジマレイミド、N,N’-ヘキサメチレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)シクロヘキサンなどのアルキレンビスマレイミド;アレーンビスマレイミドまたは芳香族ビスマレイミド、例えば、N,N’-m-フェニレンジマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンジマレイミド、4,4’-ジフェニルメタンジマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジフェニルエーテルジマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンジマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋助剤のうち、多官能(イソ)シアヌレート、多官能(メタ)アクリレート、ビスマレイミド類(N,N’-m-フェニレンジマレイミドなどのアレーンビスマレイミドまたは芳香族ビスマレイミド)が好ましく、ビスマレイミド類を用いる場合が多い。架橋助剤(例えば、ビスマレイミド類)の添加により架橋度を高め、粘着摩耗などを防止できる。
【0103】
ビスマレイミド類などの共架橋剤(架橋助剤)の割合は、固形分換算で、クロロプレンゴム100質量部に対して、例えば0.1~20質量部、好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~10質量部、より好ましくは3~8質量部である。
【0104】
架橋促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、チアゾ-ル系促進剤[例えば、2-メルカプトベンゾチアゾ-ル、2-メルカプトベンゾチアゾ-ルの亜鉛塩、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド(MBTS)、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドなど]、グアニジン類(ジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジンなど)、ウレア系またはチオウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類などが挙げられる。これらの架橋促進剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋促進剤のうち、TMTD、DPTT、MBTS、CBSなどが汎用される。
【0105】
架橋促進剤の割合は、固形分換算で、クロロプレンゴム100質量部に対して、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.2~5質量部、さらに好ましくは0.3~3質量部、より好ましくは0.4~2質量部、最も好ましくは0.5~1質量部である。
【0106】
軟化剤の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して、例えば1~30質量部、好ましくは2~20質量部、さらに好ましくは3~10質量部、より好ましくは4~8質量部である。また、加工剤または加工助剤の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して、例えば0~10質量部、好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは1~3質量部、より好ましくは1.5~2.5質量部である。
【0107】
老化防止剤の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して、例えば0.5~15質量部、好ましくは1~13質量部、さらに好ましくは3~12質量部、より好ましくは5~10質量部である。
【0108】
[伝動ベルト]
本発明の伝動ベルトは、プーリと接触可能な圧縮ゴム層を有する伝動ベルトであれば、特に限定されず、芯体層(接着ゴム層)と、この芯体層の一方の面に形成された圧縮ゴム層と、前記芯体層の他方の面に形成された伸張ゴム層とを備えた伝動ベルトであってもよい。さらに、伝動ベルトのなかでも、耐摩耗性が要求される摩擦伝動ベルトが好ましい。
【0109】
摩擦伝動ベルトとしては、例えば、Vベルト[ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト(ローエッジVベルトの内周側にコグが形成されたローエッジコグドVベルト、ローエッジVベルトの内周側および外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルト)]、Vリブドベルトなどが挙げられる。これらのVベルトのうち、伝動面がV字状にまたはV角度で傾斜して形成されているVベルトまたはVリブドベルトが好ましい。耐摩耗性と省燃費性とを高度なレベルで両立させることが要求されるVベルト、例えば、ベルト式無段変速機に用いられるVベルト(例えば、ローエッジコグドVベルト)が特に好ましい。
【0110】
図2は、本発明の伝動ベルトの一例(ローエッジコグドVベルト)を示す概略断面斜視図であり、
図3は、
図2の伝動ベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【0111】
この例では、伝動ベルト1は、ベルト本体の内周面に、ベルトの長手方向(図中のA方向)に沿って所定の間隔をおいて形成された複数のコグ山部1aを有している。長手方向におけるこのコグ山部1aの断面形状は略半円状(湾曲状または波形状)に形成される。長手方向に対して直交する方向(幅方向または図中のB方向)における断面形状は、ベルト外周側から内周側(コグ山部1a側)に向かってベルト幅が小さくなる台形状に形成されている。すなわち、各コグ山部1aは、ベルト厚み方向において、コグ底部1bから長手方向(A方向)における断面形状が略半円状の形態で突出しており、突出した断面略半円状の突起が長手方向(A方向)に沿って連続している。
【0112】
伝動ベルト1は、積層構造を有しており、ベルト外周側から内周側(コグ山部1aが形成された側)に向かって、補強布2、伸張ゴム層3、芯体層4、圧縮ゴム層5、補強布(コグ山部1aおよびコグ底部1bを被覆する補強布)6が順次積層されている。すなわち、芯体層4を介して、伸張ゴム層3と圧縮ゴム層5とが積層され、伸張ゴム層3および圧縮ゴム層5にそれぞれ補強布2,6が積層されている。さらに、芯体層4内には、芯体4aが埋設されており、前記コグ部(コグ山部1aおよびコグ底部1b)は、コグ付き成形型により圧縮ゴム層5に形成されている。
【0113】
本発明の伝動ベルトは、圧縮ゴム層が本発明のゴム組成物(架橋ゴム組成物)で形成されていればよく、伸張ゴム層、芯体層、芯体および補強布は、特に限定されないが、以下に示す伸張ゴム層、芯体層、芯体および補強布であってもよい。
【0114】
(伸張ゴム層)
伸張ゴム層は、圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物で例示されたゴム成分、短繊維、接着性改良剤、カーボンブラックおよび添加剤から選択された成分を含むゴム組成物で形成できる。伸張ゴム層は、圧縮ゴム層と同一のゴム組成物で形成された層であってもよい。
【0115】
(芯体層)
芯体層は、芯体を含んでいればよく、芯体のみで形成された芯体層であってもよいが、層間の剥離を抑制し、ベルト耐久性を向上できる点から、芯体が埋設された架橋ゴム組成物で形成された芯体層(接着ゴム層)であるのが好ましい。接着ゴム層は、伸張ゴム層と圧縮ゴム層本体との間に介在して伸張ゴム層と圧縮ゴム層本体とを接着するとともに、接着ゴム層には芯体が埋設されていてもよい。
【0116】
(接着ゴム層)
接着ゴム層を形成するためのゴム組成物は、圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物と同様に、クロロプレンゴム、架橋剤(酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物など)、共架橋剤(N,N’-m-フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤など)、架橋促進剤(TMTD、DPTT、CBSなど)、カーボンブラック、軟化剤(ナフテン系オイルなどのオイル類、芳香族カルボン酸アルキルエステルなど)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤、接着性改善剤(レゾルシノール樹脂、アミノ樹脂など)、フィラー(シリカ、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。
【0117】
このゴム組成物において、架橋剤、共架橋剤、架橋促進剤、軟化剤、加工剤または加工助剤および老化防止剤の割合は、それぞれ、前記圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物と同様の範囲から選択できる。
【0118】
接着ゴム層を形成するためのゴム組成物中の接着性改善剤(第2の接着性改善剤)の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して、例えば0.5~10質量部、好ましくは1~9質量部、さらに好ましくは2~8質量部、より好ましくは3~7質量部、最も好ましくは4~6質量部である。
【0119】
接着ゴム層を形成するためのゴム組成物中のカーボンブラック(第2のカーボンブラック)の割合は、クロロプレンゴム100質量部に対して5質量部以上であってもよく、例えば5~100質量部、好ましくは10~100質量部、さらに好ましくは15~50質量部、より好ましくは20~40質量部である。
【0120】
(芯体)
芯体としては、特に限定されないが、通常、ベルト幅方向に所定間隔で配列した心線(撚りコード)を使用できる。心線は、ベルト長手方向に延びて配設され、ベルト長手方向に平行な複数本の心線が配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、ローエッジコグドVベルトのベルト長手方向に略平行に、所定のピッチで並列的に延びて螺旋状に配設されている。心線を螺旋状に配設する場合、ベルト長手方向に対する心線の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルト走行性の点から、0°に近いほど好ましい。また、心線のピッチは、0.5~3.0mmの範囲に設定されることが好ましく、0.8~2.0mmの範囲に設定されることがより好ましく、1.0~1.6mmの範囲に設定されることが最も好ましい。
【0121】
心線は、少なくともその一部が接着ゴム層と接していればよく、接着ゴム層が心線を埋設する形態、接着ゴム層と伸張ゴム層との間に心線を埋設する形態、接着ゴム層と圧縮ゴム層との間に心線を埋設する形態のいずれの形態であってもよい。これらのうち、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層が心線を埋設する形態が好ましい。
【0122】
心線を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維が例示できる。前記繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-4アルキレン-C8-12アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、アラミド繊維が好ましい。これらの繊維は、複数のフィラメントを含むマルチフィラメント糸の形態で使用されてもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば200~5000dtex(特に500~2000dtex)である。マルチフィラメント糸は、例えば100~5000本、好ましくは500~4000本、さらに好ましくは1000~3000本のフィラメントを含んでいてもよい。心線がポリエステル繊維で構成されている場合、マルチフィラメント糸は、例えば50~1500本、好ましくは100~1000本、さらに好ましくは300~500本のフィラメントを含んでいてもよい。
【0123】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線(撚りコード)の総繊度は、例えば3000~30000dtex、好ましくは4000~15000dtex、さらに好ましくは5000~8000dtexである。心線(撚りコード)は、例えば1000~15000本、好ましくは2000~10000本、さらに好ましくは5000~7000本のフィラメントを含んでいてもよい。心線がポリエステル繊維で構成されている場合、心線は、例えば500~12000本、好ましくは1000~5000本、さらに好ましくは2000~3000本のフィラメントを含んでいてもよい。心線の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば0.5~3mmであってもよく、好ましくは0.6~2mm、さらに好ましくは0.7~1.5mmである。
【0124】
心線は、クロロプレンゴムとの接着性を改善するため、短繊維と同様の方法で接着処理または表面処理されていてもよい。心線も短繊維と同様に、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
【0125】
(補強布)
圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層の表面には、補強布が積層されていてもよい。補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)を圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層の表面に積層することにより形成できる。必要であれば、補強布を前記接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクション処理や、前記接着ゴムと前記布材とを積層した後、圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0126】
(伝動ベルトの製造方法)
本発明の伝動ベルト(例えば、ローエッジコグドVベルト)の製造方法は、特に限定されず、各層の積層工程(ベルトスリーブの製造方法)に関しては、ベルトの種類に応じて、慣用の方法を利用できる。
【0127】
例えば、以下にローエッジコグドVベルトの代表的な製造方法について説明する。まず、補強布(下布)と圧縮ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)との積層体を、前記補強布を下側にして、前記コグ部(
図2に示すコグ山部1aおよびコグ底部1b)に対応する歯部と溝部とが交互に配された平坦なコグ付き成形型に接触させて設置する。そして、温度60~100℃(特に70~80℃)程度でプレス加圧することによりコグ部を型付けしたコグパッド(完全には架橋しておらず、半架橋状態にあるパッド)を作製する。そして、このコグパッドの両端を適所(特にコグ山部の頂部)から垂直に切断して必要な長さを得る。
【0128】
次に、前記コグ部に対応する歯部と溝部とを交互に配した内母型を、円筒状金型の外周に被せ、内母型の歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けて両端(特にコグ山部の頂部)で接合する。そして、このコグパッドの外周に第1の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未架橋ゴムシート)を積層した後、芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングする。そして、その外周に第2の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:未架橋ゴムシート)、伸張ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)、上布を順次に巻き付けて未架橋成形体を作製する。
【0129】
その後、未架橋成形体にジャケットを被せた状態で、公知の架橋装置(加硫缶など)に配置し、温度120~200℃(特に150~180℃)で架橋成形を行い、架橋ベルトスリーブを作製する。そして、カッターなどを用いて、V状に切断加工して無端状のローエッジコグドVベルトを得る。
【0130】
本発明の伝動ベルトの製造方法は、本発明のゴム組成物を混練し、圧縮ゴム層を形成するための未架橋ゴムシートを製造する混練工程を含むが、前記ゴム組成物が接着性改善剤を含むにも拘わらず、混練工程において、ゴム組成物が混練機に粘着することなく、円滑に未架橋ゴムシートを製造できる。
【実施例0131】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した使用材料の詳細、未架橋ゴムシートの作製方法、および各物性の測定方法または評価方法を以下に示す。
【0132】
[使用材料]
(ゴム成分)
クロロプレンゴム:デンカ(株)製「PM-40」
【0133】
(短繊維)
短繊維は、以下の短繊維を用いた。いずれの短繊維も、RFL液[レゾルシノール2.6質量部、37質量%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部の混合液]に、浸漬し、乾燥させる接着処理を施した。接着成分(固形分)の付着率は短繊維に対して6質量%に調整した。
【0134】
メタ系アラミド短繊維:帝人(株)製「コーネックス」、繊維長3mm
パラ系アラミド短繊維A:帝人(株)製「トワロン(登録商標)」、繊維長3mm
パラ系アラミド短繊維B:帝人(株)製「トワロン(登録商標)」、繊維長1mm
ナイロン66短繊維A:旭化成(株)製「レオナ」、繊維長3mm
ナイロン66短繊維B:旭化成(株)製「レオナ」、繊維長1mm
【0135】
(フィラー)
カーボンブラックFEF:東海カーボン(株)製「シーストSO」
カーボンブラックISAF:東海カーボン(株)製「シースト6」
シリカ:東ソー・シリカ(株)製「NipsilVN3」
【0136】
(添加剤)
亜鉛末:堺化学工業(株)製「M-11」
ナフテン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルNS-90S」
接着性改善剤A(レゾルシノール-ホルムアルデヒド共縮合物):Singh Plasticisers & Resins社製「POWERPLAST PP-1860」
接着性改善剤B(ヘキサメトキシメチルメラミン):Singh Plasticisers & Resins社製「POWERPLAST PP-1890S」
接着性改善剤C(クレゾール-ホルムアルデヒド共縮合物):田岡化学工業(株)製「スミカノール610」
接着性改善剤D(ノボラック系フェノール樹脂):住友ベークライト(株)製「スミライトレジンPR-12687」
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製「キョーワマグ150」
架橋促進剤MBTS(ジベンゾチアジルジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM」
架橋促進剤TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド): 大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
老化防止剤A(オクチルジフェニルアミン):精工化学(株)製「ノンフレックスOD-3」
老化防止剤B(4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン):精工化学(株)製「ノンフレックスDCD」
老化防止剤C(マイクロクリスタリンワックス):精工化学(株)製「サンタイトC」
軟化剤:(株)ADEKA製「アデカサイザーC-8」
ステアリン酸:日油(株)製「ビーズステアリン酸つばき」
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製「酸化亜鉛(JIS規格2種)」
共架橋剤(N,N’-m-フェニレンジマレイミド):大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
【0137】
(心線)
1100dtexのPET繊維束を2本合わせて撚り係数3.0で下撚りした下撚り糸を得た。当該下撚り糸を3本合わせ、撚り係数3.0で上撚りした総繊度6600dtexの諸撚りコードを心線として用いた。短繊維と同様の接着処理を心線に行った。
【0138】
(補強布)
10番手の綿糸を糸密度70本/50mmで平織りした帆布(目付け180g/m2)を得た。当該帆布に接着ゴム層用ゴム組成物をすり込んだ処理帆布(厚み約0.5mm、目付け約450g/m2)を補強布として用いた。ベルトの内周側、外周側のいずれに対しても同一の補強布を用いた。
【0139】
[練り工程における粘着の有無]
ゴム組成物を密閉式混練機(バンバリーミキサー)で練る際の、ゴム組成物の混練機への粘着の有無を評価した。ゴム組成物が混練機から自動的に排出された場合は粘着無し(良好)、混練機に貼り付いたゴム組成物を手鉤で剥がす必要があった場合は粘着有り(問題あり)と判断した。
【0140】
[摩擦係数]
ゴム組成物を温度160℃、圧力0.9MPaで20分間プレス加熱して、厚さ2mmの架橋ゴムシートを作製した。架橋ゴムシートから直径8mm×厚さ2mmの円板状試験片を採取し、ピンオンディスク摩擦係数測定装置を用いて摩擦力を測定し、摩擦係数を算出した。詳しくは、表面粗さRaが0.8μmである相手材(SUS304)により荷重2.192kgf/cm2で試験片を押し付けて、摩擦速度0~2.0m/秒で摩擦力を測定した。表3~5では、比較例1の摩擦係数を100とした際の相対値で表している。この値が小さい程、伝動ベルトの耐摩耗性や省燃費性が向上する傾向にある。
【0141】
[8%曲げ応力(短繊維直交方向)]
表3~5に示す組成を有する未架橋のゴム組成物を温度160℃、圧力0.9MPaで20分間プレス加熱して、架橋ゴム成形体(60mm×25mm×6.5mm厚み)を作製した。短繊維は架橋ゴム成形体の長手方向と平行に配向させた。
図4に示すように、この架橋ゴム成形体21を、20mmの間隔を空けて回転可能な一対のロール(直径6mm)22a,22b上に置いて支持し、架橋ゴム成形体の上面中央部において幅方向(短繊維の配向方向と直交する方向)に金属製の押さえ部材23を載せた。押さえ部材23の先端部は、直径10mmの半円状の形状を有しており、その先端部で架橋ゴム成形体21をスムーズに押圧可能である。また、押圧時には架橋ゴム成形体21の圧縮変形に伴って、架橋ゴム成形体21の下面とロール22a,22bとの間に摩擦力が作用するが、ロール22a,22bを回転可能とすることにより、摩擦による影響を小さくしている。押さえ部材23の先端部が架橋ゴム成形体21の上面に接触し、かつ押圧していない状態を初期位置とした。この状態から押さえ部材23を下方に100mm/分の速度で架橋ゴム成形体21の上面を押圧し、曲げ歪が8%となったときの応力を曲げ応力として測定した。測定温度は走行中のベルト温度を想定し、120℃とした。短繊維直交方向の8%曲げ応力が大きい程、ベルト走行中の座屈変形(ディッシング)に対する抵抗力が高く、耐摩耗性や省燃費性に優れると判断できる。6.3MPa以上を実用的な合格水準と判断した。
【0142】
[耐屈曲疲労性(デマチャ屈曲試験)]
測定方法は、JIS K6260:2017(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐屈曲亀裂性及び耐屈曲亀裂成長性の求め方(デマチャ式))に準じた。金型を用いてゴム組成物を架橋することにより、長さ140mm、幅25mm、厚さ6.3mm、長さ方向の中央部分に曲率半径2.38mmの半円形のくぼみを有する試験片(架橋ゴム成形体)を作製した。なお、短繊維はその長さ方向が試験片の長さ方向と平行となるように配向させた。試験方法は、試験片には切込みを入れずに繰返し屈曲変形を与えた際に所定の長さの亀裂が発生するまでの屈曲回数を測定する試験である屈曲亀裂発生試験を採用した。デマチャ式屈曲試験機のつかみ具間の最大距離は75mm、往復運動距離(ストローク)は57mm、往復運動の速度は毎分300回、測定温度(雰囲気温度)は120℃とした。屈曲回数が所定の回数に達した際につかみ具間の距離が65mmとなるように試験機を一時停止させ、亀裂の発生の有無と亀裂の長さ(試験片の幅方向の長さ)を確認した。亀裂の長さが3mmに達した時点で試験終了とした。表3~5では、比較例1の亀裂の長さが3mmに達した際の屈曲回数を100とした際の相対値で表している。この値が大きい程、耐屈曲疲労性(耐亀裂性)に優れていると判断できる。
【0143】
[伝動効率(動力伝達効率)]
伝動効率試験は、
図5に示すように、駆動軸に連結された直径φ95mmの駆動(Dr.)プーリと、従動軸に連結された直径φ110mmの従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行なった。駆動軸および従動軸はモータと連結されるとともに、トルク計とデジタルタコメータが装着されており、回転数とトルクを調節可能となっている。各プーリにローエッジコグドVベルトを掛架し、軸荷重300Nでベルトに張りを与えた。駆動プーリの回転数が約3,000rpm、トルクが2Nmとなるように調節し、その時の駆動軸と従動軸のトルクおよび回転数を測定した。測定温度(雰囲気温度)は25℃とした。
【0144】
以下の式に示す通り、駆動軸の動力P1は駆動軸のトルクT1と回転数ρ1の積として求められる。同様に、従動軸の動力P2は従動軸のトルクT2と回転数ρ2の積として求められる。伝動効率ηは従動軸の動力を駆動軸の動力で除して求められる。
【0145】
P1=T1×ρ1
P2=T2×ρ2
η=P2/P1=(T2×ρ2)/(T1×ρ1)
【0146】
なお、伝動効率の値は、伝動ロスがなければ1であり、伝動ロスがあればそのロス分だけ値が小さくなる。すなわち、伝動効率の値が1に近いほどベルトの伝動ロスが小さく、省燃費性に優れていることを表す。
【0147】
表3~5では、比較例1の伝動効率を100とした際の相対値で示しており、この値が90以上であれば省燃費性に優れる(実用的な合格水準)と判断した。
【0148】
[摩耗耐久試験(上幅変化)]
摩耗耐久試験は、
図6に示すように、直径60mmの駆動(Dr.)プーリと、直径145mmの従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行った。この2つのプーリにローエッジコグドVベルトを掛架し、軸荷重を1000N、駆動プーリの回転数を6500rpm、従動プーリの負荷を15N・mとし、60℃の雰囲気温度にてベルトを20時間走行させた。走行前後のベルトの上幅を測定し、上幅の変化量(摩耗減量)が0.4mm未満であれば耐摩耗性に優れる(実用的な合格水準)と判断した。
【0149】
[亀裂耐久試験(亀裂深さ)]
亀裂耐久試験は、
図7に示すように、直径115mmの駆動(Dr.)プーリと、直径95mmの従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行った。この2つのプーリにローエッジコグドVベルトを掛架し、軸荷重を500N、駆動プーリの回転数を9000rpm、従動プーリの負荷を10N・mとし、100℃の雰囲気温度にてベルトを96時間走行させた。走行後のベルトのコグ谷に発生した亀裂の深さ(ベルト厚み方向の長さ)を測定し、亀裂の深さが3mm未満であれば耐亀裂性に優れる(実用的な合格水準)と判断した。
【0150】
実施例1~20および比較例1~10
(ゴム層の形成)
表2(接着ゴム層)および表3~5(圧縮ゴム層および伸張ゴム層)のゴム組成物としては、それぞれ、バンバリーミキサーなどの公知の方法を用いてゴム練りを行い、得られた練りゴムをカレンダーロールに通して圧延ゴムシート(接着ゴム層用シート、圧縮ゴム層用シート、伸張ゴム層用シート)を作製した。
【0151】
(ベルトの製造)
補強布(下布)と、圧縮ゴム層用シート(未架橋ゴム)との積層体を、補強布を下にして、前記コグ部に対応する歯部と溝部とを交互に配した平坦なコグ付き型に設置した。当該積層体を75℃でプレス加圧することによってコグ部を型付けしたコグパッド(完全には架橋しておらず、半架橋状態にある)を作製した。次に、このコグパッドの両端をコグ山部の頂部から垂直に切断した。
【0152】
次に、前記コグ部に対応する歯部と溝部とを交互に配した内母型を、円筒状の金型に被せ、内母型の歯部と溝部に係合させて前記コグパッドを巻き付けてコグ山部の頂部でジョイントした。この巻き付けたコグパッドの外周に第1の接着ゴム層用シート(下接着ゴム、未架橋ゴム、前記接着ゴム層用シートと同じ)を積層した後、心線を螺旋状にスピニングし(心線ピッチ1.1mm)、この外周に第2の接着ゴム層用シート(上接着ゴム、前記接着ゴム層用シートと同じ)、伸張ゴム層用シート(未架橋ゴム)、上布を順次巻き付けて未架橋成形体を作製した。
【0153】
その後、未架橋成形体にジャケットを被せて金型を加硫缶に設置し、温度160℃、時間20分で架橋成形してベルトスリーブを得た。このベルトスリーブをカッターでベルト長手方向に所定幅でV状断面形状に切断した。そして、このベルトスリーブを、
図2に示す構造のベルト、すなわちベルト内周側にコグを有した変速ベルトであるローエッジコグドVベルト(サイズ:上幅23.5mm、厚み11.0mm、外周長850mm)に仕上げた。
【0154】
実施例および比較例で得られたベルトの評価結果を表3~5に示す。
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
比較例1および5は接着性改善剤を含まない例であるが、耐亀裂性が低かった。比較例2は接着性改善剤の量が多すぎるためか、練り工程で粘着が発生した。
【0160】
比較例3はパラ系アラミド短繊維の量が多い例であるが、摩擦係数が大きいために伝動効率が低く、耐亀裂性も低かった。
【0161】
比較例4は短繊維の総量が多い例であるが、耐亀裂性が低かった。比較例6は短繊維の総量が少ない例であるが、曲げ応力が小さく、耐摩耗性が低かった。
【0162】
比較例7はカーボンブラックの量が多すぎる例であるが、伝動効率および耐亀裂性が低かった。比較例8はカーボンブラックの量が少なすぎる例であるが、曲げ応力および耐摩耗性が低かった。比較例9は接着性改善剤の量が少なすぎる例であるが、耐亀裂性が低かった。比較例10はアラミド短繊維を含まない例であるが、曲げ応力が小さく、耐摩耗性が低かった。
【0163】
実施例1~3を比較すると、接着性改善剤の量が多い方が耐亀裂性は向上することが確認できる。
【0164】
実施例1と実施例4との比較より、ハードカーボン(ISAF)を用いると伝動効率が低くなるため、ソフトカーボン(FEF)が好ましいことが確認できる。
【0165】
実施例1と実施例5との比較より、アラミ・BR>H短繊維の量が多くなると、摩擦係数が大きくなり伝動効率と耐亀裂性が低下することが確認できる。
【0166】
実施例6はナイロン短繊維の量がアラミド短繊維の量よりも多い例であるが、伝動効率は高くなるが耐亀裂性は低くなることが確認できる。
【0167】
短繊維をパラ系アラミド短繊維のみとした実施例8においては、短繊維をメタ系アラミド短繊維のみとした実施例7よりも摩擦係数が高く、伝動効率が低下した。短繊維をアラミド短繊維のみとする場合は、メタ系アラミド短繊維を用いるのが好ましいと言える。
【0168】
実施例1と実施例10との比較より、ナイロン短繊維とアラミド短繊維とを併用する場合、メタ系アラミド短繊維を用いた方は伝達効率の向上効果が大きく、パラ系アラミド短繊維を用いた方は耐屈曲疲労性や耐亀裂性に優れる結果となった。
【0169】
実施例9はナイロン短繊維の繊維長が1mmと短い例であるが、ナイロン短繊維の繊維長が3mmの実施例1と比較して、耐屈曲疲労性と耐亀裂性が低下した。
【0170】
実施例1と実施例11との比較より、カーボンブラックの量が少なくなると、伝動効率および耐亀裂性が向上し、曲げ応力および耐摩耗性が低くなることが確認できる。
【0171】
実施例1と実施例12との比較より、カーボンブラックの量が多くなると、曲げ応力および耐摩耗性が向上し、耐屈曲疲労性、伝動効率および耐亀裂性が低くなることが確認できる。
【0172】
実施例13~15は、接着性改善剤の種類を変更した例であるが、いずれも実施例1と同等の結果であった。
【0173】
実施例16はパラ系アラミド短繊維の繊維長が1mmと短い例であるが、パラ系アラミド短繊維の繊維長が3mmの実施例1と比較して、耐屈曲疲労性および耐亀裂性が低下した。
【0174】
実施例17はアラミド短繊維の量を少なく、ナイロン短繊維の量を多くした例であるが、伝動効率は高くなるが耐亀裂性は低くなることが確認できる。
【0175】
実施例1、実施例6、実施例17~20の比較より、アラミド短繊維の量に対するナイロン短繊維の量の割合が多くなると、伝動効率は大きくなる一方で耐摩耗性および耐亀裂性は低下することが確認できる。また、アラミド短繊維の量に対するナイロン短繊維の量の割合が少なくなると、曲げ応力は大きくなり耐摩耗性は高くなる一方で伝動効率および耐亀裂性は低下することが確認できる。これらの実施例の中では、比較的高い伝動効率および耐摩耗性を保ちながら、耐亀裂性が最も高い実施例1がベストモードと考えられる。
本発明のゴム組成物は、各種の成形体に利用でき、特に、伝動ベルト、例えば、平ベルト;ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト、Vリブドベルトなどの摩擦伝動ベルトや、歯付ベルト、両面歯付ベルトなどの噛み合い伝動ベルトとして利用できる。特に、本発明のゴム組成物を伝動ベルトの圧縮ゴム層として利用すると、耐摩耗性、省燃費性、耐亀裂性を同時に高めることができる。そのため、本発明のゴム組成物は、高馬力化が進行している自動二輪車、四輪バギー、スノーモービル、農業用機械などで用いられる変速ベルトの圧縮ゴム層に有用である。