(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073330
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】一体発泡シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240522BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184481
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田畑 毅
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AB02
4F206AD08
4F206AH27
4F206AM23
4F206JA04
4F206JB12
4F206JL09
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】柔軟な部材で形成された表皮を型の内部に装填した状態で布や皮革の内部に発泡原料を注入して発泡させ発泡体を形成する場合においても適用可能な一体発泡シミュレーション方法を提供する。
【解決手段】型の内部に設置した柔軟な部材で形成された表皮の内部に注入口から発泡原料を供給して表皮の内部に発泡体を充填させることにより一体発泡成形品を形成する工程をシミュレーションする一体発泡シミュレーション方法において、型の内部の形状を固定境界条件として設定し、表皮の内部への発泡体の充填の状態に応じて形状が変化する表皮の材料特性値を設定し、固定境界条件と材料特性値に基づき、表皮を型の内部へセットした際の表皮の形状から表皮の内部への発泡体を充填させることで表皮を材料特性値および固定境界条件に基づいて一体発泡成形品を形成することをシミュレーションするようにした。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型の内部に設置した柔軟な部材で形成された表皮の内部に注入口から発泡原料を供給して前記表皮の前記内部に発泡体を充填させることにより一体発泡成形品を形成する工程をシミュレーションする方法であって、
前記型の前記内部の形状を固定境界条件として設定し、
前記表皮の前記内部への前記発泡体の充填の状態に応じて形状が変化する前記表皮の材料特性値を設定し、
前記固定境界条件と前記材料特性値に基づき、前記表皮を前記型の前記内部へセットした際の前記表皮の形状から前記表皮の前記内部への前記発泡体を充填させることで前記表皮を前記材料特性値および前記固定境界条件に基づいて一体発泡成形品を形成することをシミュレーションする
ことを特徴とする一体発泡シミュレーション方法。
【請求項2】
請求項1に記載の一体発泡シミュレーション方法であって、
前記固定境界条件と前記材料特性値に基づいて前記表皮を前記型の前記内部へセットした際の前記表皮の形状を算出することを特徴とする一体発泡シミュレーション方法。
【請求項3】
請求項1に記載の一体発泡シミュレーション方法であって、
前記表皮の前記内部には構造物が装着されており、前記設定した前記表皮の前記材料特性値に基づいて、前記表皮の前記内部への前記発泡体の充填の状態に応じて前記表皮と前記構造物との間隔が変化することを特徴とする一体発泡シミュレーション方法。
【請求項4】
請求項1に記載の一体発泡シミュレーション方法であって、
前記表皮の前記材料特性値として、前記表皮の単位面積当たりの重さと前記表皮の伸び率と前記表皮の伸びの限界を入力することを特徴とする一体発泡シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一体発泡シミュレーションに係るものである。
【背景技術】
【0002】
射出成型法において型の内部における材料の流動解析を行う方法ついては、例えば特許文献1に記載されているような、射出成形品の形状を複数の微小要素に分割したシェルメッシュを用いて、流体の流動過程を数値解析する射出成形の流動解析方法において、微小要素ごとに、肉厚差と流体の速度とで表される関数を含む粘度式を演算処理して、流体の流れ解析を行う方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用のヘッドレストやアームレストなどは、内部に金属製のパイプなどで形成された構造物が装着された布や皮革(人工皮革)などで形成した表皮を型の内部に装填した状態でこの表皮の内部に発泡原料を注入し、発泡原料を発泡させて表皮の内部に充填させることで、内部に装着した構造物と一体で形成される。
【0005】
この場合、表皮を形成する布や皮革は柔軟な材料で形成されているので、型の内部に装填した状態においては、表皮は型に密着せずに変形して保持される。
【0006】
この状態で表皮の内部に発泡原料を注入し発泡させて発泡体を充填させると、柔軟な表皮は発泡した材料(発泡体)に押しのけられながら膨らみ、型に密着するまで変形する。
【0007】
このような柔軟な部材で形成された表皮の内部に発泡原料を注入して発泡体を形成する工程について流動解析を行う場合、特許文献1に記載されているような固定境界を前提とした解析方法では、実際の樹脂材料の注入工程における布や皮革の変形が反映されず、流動解析の精度が低くなってしまう場合が発生する。このような流動解析に基づいて製造された型を用いて表皮の内部に発泡原料を注入して発泡体を形成した場合、表皮と発泡体との間に空洞(void)が形成されてしまい不良となり、型を作り直さなければならないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、柔軟な部材で形成された表皮を型の内部に装填した状態で表皮の内部に発泡原料を注入して発泡させ発泡体を形成する場合においても適用可能な一体発泡シミュレーション方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明では、型の内部に設置した柔軟な部材で形成された表皮の内部に注入口から発泡原料を供給して表皮の内部に発泡体を充填させることにより一体発泡成形品を形成する工程をシミュレーションする一体発泡シミュレーション方法において、型の内部の形状を固定境界条件として設定し、表皮の内部への発泡体の充填の状態に応じて形状が変化する表皮の材料特性値を設定し、固定境界条件と材料特性値に基づき、表皮を型の内部へセットした際の表皮の形状から表皮の内部への発泡体を充填させることで表皮を材料特性値および固定境界条件に基づいて一体発泡成形品を形成することをシミュレーションするようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、実際の樹脂材料の注入工程における布や皮革の材料特性値に応じた変形を反映させることで流動解析の精度を高くすることができるようにしたことにより、型の作り直しを低減することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】車両用のヘッドレストの外観を示す斜視図である。
【
図3】ヘッドレストの表皮の内部に発泡材量を充填して発泡体を形成するために用いる型の斜視図である。
【
図4】ヘッドレストを内部にセットした状態における型の断面図である。
【
図5】ヘッドレストの発泡材量を充填した状態において、ヘッドレストの表皮と型との間に空洞が生じてしまった状態を示す型の断面図である。
【
図6】姿勢を変えたヘッドレストを内部にセットした状態における型の断面図である。
【
図7】ヘッドレストの発泡材量を充填した状態において、ヘッドレストの表皮と型との間に隙間が発生していない状態を示す型の断面図である。
【
図8】本発明の実施例に基づく流動解析の手順を示すフロー図である。
【
図9】本発明の実施例に基づく流動解析方法を用いてヘッドレストを製造する手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、内部に構造物が装着された表皮部材を型に装着した状態で表皮部材の内部に発泡原料を注入し発泡体を成形する工程をシミュレーションする方法において、内部に構造物が装着された表皮部材を柔軟材料として境界条件を設定するようにしたことで、実際の発泡原料の注入工程における表皮部材の変形を反映させることを可能にして、一体発泡シミュレーションにおける流動解析の精度を高くすることができ、より現実の注入工程に近い解析を行うことを可能にした。その結果、表皮部材と内部の発泡体との間に空洞を発生させないような型構造を一体発泡シミュレーションにより求めることができ、型の作り直しを低減させたものである。
【0013】
以下に本発明の実施例を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例0014】
本発明の実施例として、車両用のヘッドレストに本発明を適用した場合について、図を用いて説明する。
【0015】
図1は車両用のヘッドレスト10の外観を示す斜視図、
図2は
図1のA-A断面図である。ヘッドレスト10は、布又は皮革(人工皮革)などの比較的柔軟な材料を縫製して形成されて外部を覆う表皮(トリムカバー)11と、表皮11の内部に充填された発泡体(例えば、ウレタン)12,ヘッドレスト10を図示していない車両の座席のシートバックに取り付けて固定するための金属製のパイプで形成されたステー13を備えている。14は、表皮11の内部に発泡体12の材料となる発泡原料を充填させるための注入口である。
【0016】
図3に、表皮11の内部に発泡材量を充填して発泡体12を形成するために用いる型20を示す。型20は、金属または樹脂で形成された上型21、下型22,前型23を備えている。上型21には、ヘッドレスト10を横向きにした状態(
図1に示した状態)でヘッドレスト10の上側の形状に対応する上型形状211が形成されている。下型22には、ヘッドレスト10を横向きにした状態でヘッドレスト10の下側の形状に対応する下型形状221が形成されている。前型23はヘッドレスト10の下部に対応し、ステー13が通る1対の溝231と表皮11の内部に発泡原料を充填するためのパイプ孔232が形成されている。
【0017】
ヘッドレスト10は、
図4に示すように表皮11にステー13を装着した状態で上型21と下型22との間にセットされ、パイプ孔232を通して注入口14から表皮11の内部にノズル30が挿入されるこの状態では、比較的柔軟な材料で形成された表皮11は重力で垂れ込んで、表皮11と上型形状211、下型形状221との間に隙間41,42が発生している。
【0018】
表皮11を上型21に形成された上型形状211と下型22に形成された下型形状221との間にセットした状態で、図示していない供給手段から供給された発泡原料120を注入口14に挿入したノズル30から表皮11の内部に供給する。表皮11の内部に供給された発泡原料は発泡して発泡体12を形成し、重力で垂れ込んだ状態の柔軟な表皮11は発泡体12に押されて膨らみ、上型形状211及び下型形状221と表皮11の間に存在していた空気は型20の外部に排出される。発泡体12は表皮11の内部で発砲しながら膨らんで、表皮11は型20の上型形状211、下型形状221に密着するまで変形するが、このとき、表皮11の内部に残っている空気は発泡体12に押されて、表皮11に形成された注入口14とノズル30との間の隙間からノズル30とパイプ孔232との隙間を通って外部に排出される。表皮11の内部で膨らんだ発泡体12は徐々に温度が低下して、表皮11を膨らませた形状を保持した状態で固化する。
【0019】
しかし、型20に形成された上型形状211、下型形状221の傾き(型20の内部におけるヘッドレスト10の姿勢(傾き)に相当)が適正でないと、表皮11の内部で発泡した発泡体12が表皮11を上型形状211及び下型形状221に沿って膨らませたときに、表皮11の内部の空気を表皮11に形成された注入口14とノズル30との間の隙間から完全に外に逃がすことができずに表皮11の内部に残ってしまったり、発泡体12の温度が低下して収縮することにより、表皮11と発泡体12との間に
図5に示すような空洞(void)121が発生してしまう場合が生じる。このような場合、ヘッドレスト10は不良品となってしまう。
【0020】
この場合、型20を作り直して空洞121が形成されるのを回避しなければならず、型20を再製作するための工程と費用が増加するとともに、ヘッドレスト10の良品を作成するまでの時間がかかってしまうという課題が発生する。
【0021】
ここで、表皮11の内部に金属製のパイプで形成された剛体のステー13が装着された状態で発泡原料120を供給して表皮11の内部に発泡体12を発泡させると、発泡体12に押されて柔軟な材料で形成された表皮11が膨らむ。その結果、ステー13と表皮11の間隔が変化するために発泡体12の流動抵抗が変化して、表皮11の内部における発泡体12の流れが変わってしまう。
【0022】
このような柔軟な部材で形成された表皮11の内部に発泡原料120を注入して発泡体12を形成する工程について流動解析を行う場合、特許文献1に記載されているような固定境界を前提とした解析方法では、実際の発泡原料120の注入工程における比較的柔軟な材料で形成された表皮11の変形(伸び)によるステー13との間の発泡体12の流路の断面形状の変化が反映されず、流動解析の精度が低くなってしまう。
【0023】
すなわち、実際の発泡原料の注入工程では、発泡原料の注入により表皮11が膨らむ方向に押し出されて、ステー13とその近傍の表皮11との間隔が拡大して発泡体12の流入の抵抗(流動抵抗)が減少し、表皮11の内部における発泡体12の拡散 (流れ)の速さが変化するが、固定境界を前提とした解析方法では、この流れの変化を反映させることができない。その結果、
図5で説明したように、表皮11の内部の空気が表皮11に形成された注入口14とノズル30との間の隙間から完全に外部に排出されずに残ってしまい、表皮11と発泡体12との間での空洞121の発生を防止することができず、不良品が発生してしまう可能性がある。
【0024】
これに対して、本実施例では、表皮11を柔軟部材として扱い、発泡原料が注入されて発泡体12が形成されていく状態に応じて、表皮11が外側に押し出されて伸びながら境界が変化する柔軟な境界条件を設定するようにした。すなわち、ステー13とその近傍の表皮11との間隔を発泡体12の形成状態に応じて変化させ、より実際の発泡原料の注入工程に近い流動解析のシミュレーションを行えるようにした。
【0025】
これにより、実際の発泡原料の注入工程における表皮11の内部における発泡体12の拡散(流れ)の速さの変化を反映させたシミュレーションを行うことが可能になり、発泡体12が表皮11の内部に充填されていくに従って表皮11の内部に残っている空気が表皮11に形成された注入口14とノズル30との間の隙間から確実に外部に逃げられるような表皮11の姿勢を求めることができるようになり、この表皮11の姿勢に対応する型20の上型形状211と下型形状221との形状をシミュレーションにより求めることが可能になった。
【0026】
すなわち、実際の発泡原料の注入工程における表皮11の内部における発泡体12の拡散(流れ)の速さの変化を反映させたシミュレーションを行うことを可能にしたことにより、型20の上型形状211と下型形状221との形状として、発泡体12が表皮11の内部に充填されていくに従って表皮11の内部の空気が表皮11に形成された注入口14とノズル30との間の隙間から確実に外部に逃げられるようにして、発泡体12と表皮11との間に空洞121が形成されるのを防止するのに適した形状をシミュレーションにより求めることを可能にした。
【0027】
流動解析のシミュレーションにおいて表皮11を柔軟部材として扱うためには、予め表皮11の材料特性を測定しておく必要がある。測定する表皮11の材料特性としては、密度(単位面積当たりの重さ)、伸び率(単位の引っ張り力に対する縦方向と横方向の伸び)などを測定する。
【0028】
流動解析に際しては、これらの測定して得られた材料特性値に加えて、伸びの限界(例えば、表皮11が皮革で形成されている場合は5%、布で形成されている場合は20%)も設定して、発泡体12と表皮11との間に空気が取り残された空洞121が形成されないような型20における上型形状211と下型形状221の形状(ヘッドレスト10の姿勢(傾き)に相当)を決定する。
【0029】
図6に、このようなシミュレーションにより求めた上型形状211-1が形成された上型21-1と下型形状221-1が形成された下型22-1及び前型23-1を示す。
【0030】
この型20を用いて、注入口14から表皮11の内部に挿入したノズル30から発泡原料を注入することにより、
図7に示すように、表皮11の内部に発泡体12を充填させて表皮11を上型形状211-1及び下型形状221-1の形状に倣わせた状態で、表皮11と発泡体12との間に空洞121が発生するのを防止することができるようになった。
【0031】
その結果、本実施例では、型20の作り直しを防止すること、または、型20を作り直す回数を減らすことができるようになった。
【0032】
図8に、本実施例に基づく、一体発泡シミュレーション方法の手順を示す。
まず、ステー13を含むヘッドレスト10の最終形状を、複数の微小要素に分割してメッシュセルを用いて設定することで、ヘッドレスト10の最終形状に対応する型の内部の形状を固定境界条件として設定する(S801)。
【0033】
次に、表皮の内部への発泡体の充填の状態に応じて形状が変化する表皮の材料特性値を設定するために、予め測定しておいた表皮11の材料特性と伸びの限界条件や、流動解析のための種々の条件(発泡材量の粘性、密度、比熱、熱伝導率、流動停止温度などを含む樹脂データ、発泡原料の射出時の温度、射出圧力、射出流速などの射出データ、型の熱伝導、比熱などを含む型データなど)を入力する。(S802)。
【0034】
次に、固定境界条件と材料特性値に基づいて表皮を型の内部へセットした際の表皮の形状を算出して、型20におけるヘッドレスト10の姿勢(型20に設定した基準面に対するヘッドレスト10の傾きに相当)を設定する(S803)。
【0035】
次に流動解析を実行して、表皮11を型20の内部へセットした際の表皮11の形状から表皮11の内部への発泡体12を充填させることによる表皮11の形状の変化を材料特性値および固定境界条件に基づいてシミュレーションして、表皮11の内部が発泡体12で充填された状態の一体発泡成形品の形状を求める。(S804)。
【0036】
次に、S804で求めた、表皮11の内部が発泡体12で充填された状態を評価して、表皮11と発泡体12との間に空気が取り残された空洞121が形成されていないかを確認する(S805)。
【0037】
表皮11と発泡体12との間に空気が取り残された空洞121が形成されている場合(S805でNo)は、型20におけるヘッドレスト10の姿勢を変更して(S806)、S804に戻って流動解析を再度実行して、表皮11の内部が発泡体12で充填された状態を求める。
【0038】
一方、表皮11と発泡体12との間に空気が取り残された空洞121が形成されていないことが確認された場合(S805でYes)は流動解析を終了し、この解析の結果に基づいて型20を設計する。
【0039】
なお、S802で入力する表皮11の材料特性のデータとして、伸び率を、表皮の形状に応じて変えるように設定してもよい。すなわち、複数の表皮部材を縫合した個所や、折り曲げた形状の部分やそれらに近い部分の表皮11の伸び率を、平坦な部分の表皮11の伸び率と異なる値に(例えば、小さく)設定するようにしてもよい。このように、表皮11の伸び率を表皮の形状に応じて部分的に変えて設定することにより、より実際の発泡体12を充填する工程に近いシミュレーションを行うことができる。
【0040】
次に、このような流動解析方法を用いてヘッドレスト10を製造する方法について、
図9を用いて説明する。
【0041】
まず、
図8を用いて説明したような発泡体12の表皮11の内部における流動解析を実施してヘッドレスト10を形成するための型20の形状(
図6における上型形状211-1と下型形状221-1の形状、およびそれに伴う周辺部分の形状)を決定する(S901)。
【0042】
次に、S901で決定した形状の型20を作成し(S902)、この作成した型20を用いて表皮11の内部に発泡体12を充填させて、ヘッドレスト10を形成する(S903)。
【0043】
次に、この形成したヘッドレスト10を型20から取り出して、表皮11の内部に発泡体12が充填されていない空洞121が発生していないかをチェックする(S904)。
【0044】
表皮11の内部に発泡体12が充填されていない空洞121(
図5参照)が発生していない場合には(S904でYesの場合)、S902で作成した型20を良品と判定して型20の評価を終了し、この型20をヘッドレスト10の生産に用いる。
【0045】
一方、表皮11の内部に発泡体12が充填されていない空洞121が発生していた場合には(S904でNoの場合)、
図8で説明した流動解析におけるS802で入力した流動解析条件の一部を替えながら流動解析を繰り返し実行することにより、実際に発生した空洞121が再現するような流動解析条件を求める(S905)。
【0046】
次に、実際に発生した空洞121が再現するような流動解析条件が求められたら、この流動解析条件を用いてS803からS806までのステップを実行して、空洞121が発生しないような修正すべき型20の形状を求め(S906)、S902に進んでS906で決定した形状の型20を作成する。
【0047】
このように、
図8を用いて説明した流動解析を行って型20の形状を決定することにより、従来と比べて型20を作り直す回数をより少なくして空洞121が発生しないような型20の形状を求めることができる。
【0048】
以上に説明したように、本実施例では、型の内部に設置した柔軟な部材で形成された表皮の内部に注入口から発泡原料を供給して表皮の内部に発泡体を充填させることにより一体発泡成形品を形成する工程をシミュレーションする一体発泡シミュレーション方法において、型の内部の形状を固定境界条件として設定し、表皮の内部への発泡体の充填の状態に応じて形状が変化する表皮の材料特性値を設定し、固定境界条件と材料特性値に基づいて表皮を型の内部へセットした際の表皮の形状を算出し、表皮を型の内部へセットした際の表皮の形状から表皮の内部への発泡体を充填させることで表皮を材料特性値および固定境界条件に基づいて一体発泡成形品を形成することをシミュレーションするようにした。
【0049】
本実施例によれば、ヘッドレスト10の内部に発泡原料120を注入して表皮11の内部に発泡体12を充填させるシミュレーションにおいて、表皮11を柔軟な部材として発泡体12の充填の状態に応じて表皮11の形状が変化するように境界条件を設定したので、表皮11の内部における発泡体12の流動解析の精度を高くすることができるようになり、型の作り直しを低減することが可能になった。
【0050】
なお、上記した実施例は、本発明をヘッドレスト10の形成に適用した場合について説明したが、アームレストを形成する場合や、他の発泡体を充填させて形成する部材にも適用することができる。
【0051】
また、上記した実施例では、表皮11の内部に金属製のパイプで形成された剛体のステー13が装着された状態で発泡原料120を供給して表皮11の内部に発泡体12を発生させる場合について説明したが、表皮11の内部に剛体のステー13が装着されていなくてもよい。また、剛体のステー13に替えて柔軟な材料で形成された構造物が配置されていてもよい。
【0052】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、対象が必ずしも説明した構成に限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。