(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073332
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】掘削攪拌装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184486
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】518444831
【氏名又は名称】株式会社刃
(74)【代理人】
【識別番号】100146798
【弁理士】
【氏名又は名称】川畑 孝二
(72)【発明者】
【氏名】西野 康宏
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AB03
2D040BB01
2D040BD05
2D040CB03
2D040EA18
2D040EB01
(57)【要約】
【課題】掘削攪拌装置において従来よりも掘削・攪拌効率を向上させる。
【解決手段】上下方向に延びる軸線を回転中心として回転可能な軸体と、前記軸体における下端側の領域から上下方向と交差する第1平面に沿ってそれぞれ反対方向に延びる一対の掘削翼と、前記軸体において前記掘削翼よりも上方の領域から前記第1平面に沿ってそれぞれ放射状に延びる複数の共回り防止翼と、前記軸体において前記共回り防止翼よりも上方の領域から前記第1平面に沿ってそれぞれ放射状に延びる複数の攪拌翼と、を備え、前記掘削翼、前記共回り防止翼および前記攪拌翼は、軸線周りに回転する前記掘削翼の先端で描かれる仮想円の直径Aに対し、上下方向に沿った前記掘削翼と前記共回り防止翼との間隔h1および前記共回り防止翼と前記攪拌翼との間隔h2の合計値が、0.2~0.35(=A/(h1+h2))の範囲から選択された値となる位置関係となっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる軸線を回転中心として回転可能な軸体と、
前記軸体における下端側の領域から上下方向と交差する第1平面に沿ってそれぞれ反対方向に延びる一対の掘削翼と、
前記軸体において前記掘削翼よりも上方の領域から前記第1平面に沿ってそれぞれ放射状に延びる複数の共回り防止翼と、
前記軸体において前記共回り防止翼よりも上方の領域から前記第1平面に沿ってそれぞれ放射状に延びる複数の攪拌翼と、を備え、
前記掘削翼、前記共回り防止翼および前記攪拌翼は、軸線周りに回転する前記掘削翼の先端で描かれる仮想円の直径Aに対し、上下方向に沿った前記掘削翼と前記共回り防止翼との間隔h1および前記共回り防止翼と前記攪拌翼との間隔h2の合計値(h1+h2)が、0.2~0.35(=A/(h1+h2))の範囲から選択された値となる位置関係となっている、
掘削攪拌装置。
【請求項2】
前記掘削翼、前記共回り防止翼および前記攪拌翼は、前記仮想円の直径Aに対し、前記間隔h1および前記間隔h2の合計値が、0.2~0.3の範囲から選択された値となる位置関係となっている、
請求項1に記載の掘削攪拌装置。
【請求項3】
前記掘削翼および前記攪拌翼の前記軸体の軸線を中心とする直径は、それぞれ所定のしきい値未満で近似しており、
前記間隔h1および前記間隔h2は、それぞれ所定のしきい値未満で近似している、
請求項1または請求項2に記載の掘削攪拌装置。
【請求項4】
前記掘削翼においてその延びる方向に間隔を空けた領域それぞれから下方へ突出する複数の爪部、を備え、
前記爪部は、前記掘削翼の延びる方向に所定の厚さを有する板状の部材で形成され、隣接する前記爪部との間に、その厚さより広く、かつ、前記掘削翼と前記共回り防止翼との間隔および前記共回り防止翼と前記攪拌翼との間隔それぞれよりも狭い間隔が空けられている、
請求項1に記載の掘削攪拌装置。
【請求項5】
一方の前記掘削翼に設けられた前記爪部は、前記掘削翼の延びる方向と交差する第2平面に投影した場合に、下方ほど前記軸線から左右いずれか一方に離れる向きで傾斜して突出しており、
他方の前記掘削翼に設けられた前記爪部は、前記第2平面に投影した場合に、下方ほど前記軸線から左右いずれか他方に離れる向きで傾斜して突出しており、
一方の前記掘削翼は、前記第2平面に投影した場合に、その表裏面を前記軸線が貫き、かつ、前記軸線に対して左右いずれか他方から一方に向けて傾斜するように配置された板状の部材であり、この部材の前記軸線に対する傾斜角が前記爪部よりも大きくなっており、
他方の前記掘削翼は、前記第2平面に投影した場合に、その表裏面を前記軸線が貫き、かつ、前記軸線に対して左右いずれか一方から他方に向けて傾斜するように配置された板状の部材であり、この部材の前記軸線に対する傾斜角が前記爪部よりも大きくなっている、
請求項4に記載の掘削攪拌装置。
【請求項6】
前記軸体の下端から前記掘削翼よりも下方にまで延びる板状の部材であって、その表裏面が前記掘削翼の延びる方向および上下方向のなす第3平面に沿って拡がる向きで配置された掘削刃、を備え、
前記掘削刃は、前記掘削翼の延びる方向に隣接する前記爪部との間に、前記爪部同士の間隔未満となる間隔が空けられている、
請求項5に記載の掘削攪拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中に柱状改良杭を形成する掘削攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物の基礎部分となる柱状改良杭を地盤中に形成する際には掘削撹拌装置が用いられている。この掘削攪拌装置は、上下に延びる軸体と、軸体の下端側に設けられた掘削翼と、軸体において掘削翼より上方に設けられた共回り防止翼および攪拌翼と、を備えたものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の装置では、掘削翼の爪部に掘削された被掘削物が、軸体の回転に伴って上方へ搬送されていく過程で、軸体に沿って配置された構要素それぞれからの影響を受けるため、最終的に形成される柱状改良杭としての品質を安定させることが難しいという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、掘削攪拌装置において従来よりも柱状改良杭の品質を安定させるための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明の第1局面は、上下方向に延びる軸線を回転中心として回転可能な軸体と、前記軸体における下端側の領域から上下方向と交差する第1平面に沿ってそれぞれ反対方向に延びる一対の掘削翼と、前記軸体において前記掘削翼よりも上方の領域から前記第1平面に沿ってそれぞれ放射状に延びる複数の共回り防止翼と、前記軸体において前記共回り防止翼よりも上方の領域から前記第1平面に沿ってそれぞれ放射状に延びる複数の攪拌翼と、を備え、前記掘削翼、前記共回り防止翼および前記攪拌翼は、軸線周りに回転する前記掘削翼の先端で描かれる仮想円の直径Aに対し、上下方向に沿った前記掘削翼と前記共回り防止翼との間隔h1および前記共回り防止翼と前記攪拌翼との間隔h2の合計値(h1+h2)が、0.2~0.35(=A/(h1+h2))の範囲から選択された値となる位置関係となっている、掘削攪拌装置である。
【0007】
また、この局面は以下に示す第2局面のようにしてもよい。
第2局面において、前記掘削翼、前記共回り防止翼および前記攪拌翼は、前記仮想円の直径Aに対し、前記間隔h1および前記間隔h2の合計値が、0.2~0.3の範囲から選択された値となる位置関係となっている。
【0008】
また、上記各局面は以下に示す第3局面のようにしてもよい。
第3局面において、前記掘削翼および前記攪拌翼の前記軸体の軸線を中心とする直径は、それぞれ所定のしきい値未満で近似しており、前記間隔h1および前記間隔h2は、それぞれ所定のしきい値未満で近似している。
【0009】
従前、地盤中に柱状改良杭を形成する掘削攪拌装置では、地中に形成すべき柱状改良杭のサイズなどに応じて、軸体の長さおよび各構成要素の直径(具体的には、軸線周りに回転する構成要素の先端で描かれる仮想円の直径)を異ならせたものが用いられており、その直径が大きいものほど各構成要素における上下方向の間隔も広い。
【0010】
ここでは、各構成要素における上下方向の間隔が、各構成要素の直径と無関係に設定されていることになるが、その直径に応じて被掘削物の量も増加することから、攪拌翼による被掘削物の攪拌等が妨げられ、柱状改良体の品質にバラつきを生じさせる結果、各構成要素の間隔と直径との関係が柱状改良体の品質に影響を及ぼしている可能性がある。
【0011】
この点補足すると、各構成要素は、軸体の回転に従動して掘削翼および攪拌翼が回転する一方で、共回り防止翼が回転しないよう地中に固定されているため、被掘削物が上方へ搬送される過程で共回り防止翼の周辺で滞留しやすくなっており、さらに、各構成要素の直径に応じて被掘削物そのものの量が増えることで被掘削物も滞留しやすくなる。このような滞留分の発生は、攪拌翼による被掘削物の攪拌等を妨げ、柱状改良体の品質にバラつきを生じさせる要因となりうる。
【0012】
このような被掘削物の滞留による影響を抑えるには、上下方向に沿った各構成要素の間隔を最適化することが有効な選択肢である。とはいえ、各構成要素の間隔は、それぞれを狭くすることによって、掘削翼と共回り防止翼との間および共回り防止翼と攪拌翼との間で被掘削物が摺りつぶされるなどの作用で滞留しにくくなるものの、構成要素間に被掘削物が詰まりやすくなるなど掘削効率への悪影響もある。そのため、各構成要素の間隔は、単純にこれを狭めればよいというものではなく、各構成要素の直径との関係で、どの構成要素同士の間隔をどの程度とすべきか多くの選択肢がある。
【0013】
本願出願人は、このような問題意識から、上下方向に沿った各構成要素の間隔に着目して創意工夫を施した結果、被掘削物の滞留による影響を抑えることのできる構成として、上記局面に想到している。よって、上記各局面であれば、各構成要素の直径に拘わらず、被掘削物の滞留による影響を抑えて柱状改良体の品質を安定させることができる。
【0014】
また、上記各局面は以下に示す第4局面のようにしてもよい。第4局面においては、前記掘削翼においてその延びる方向に間隔を空けた領域それぞれから下方へ突出する複数の爪部、を備え、前記爪部は、前記掘削翼の延びる方向に所定の厚さを有する板状の部材で形成され、隣接する前記爪部との間に、その厚さより広く、かつ、前記掘削翼と前記共回り防止翼との間隔および前記共回り防止翼と前記攪拌翼との間隔それぞれよりも狭い間隔が空けられている。
【0015】
この局面の掘削攪拌装置では、隣接する爪部の間に、爪部の厚さより広く、かつ、掘削翼と共回り防止翼との間隔および共回り防止翼と攪拌翼との間隔それぞれよりも狭い間隔が空けられていることによって、被掘削物が爪部の間に挟まりにくくすることができ、これによって掘削・攪拌効率を高めることができる。このような爪部の位置関係は、本願出願人が上述した創意工夫の過程で見出したものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本開示の掘削攪拌装置を示す正面図および左側面図
【
図3】本開示の掘削攪拌装置において拡大した要部を示す正面図
【
図4】別の実施形態における掘削攪拌装置を示す正面図および左側面図(1)
【
図5】別の実施形態における掘削攪拌装置を示す正面図および左側面図(2)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(1)全体構成
【0018】
掘削攪拌装置1は、建築物の基礎部分となる柱状改良杭を地盤中に形成する際に用いるものであり、
図1、
図2に示すように、上下方向に延びる軸体10と、軸体10における下端側の領域から延びる一対の掘削翼20と、掘削翼20からそれぞれ下方へ突出する複数の爪部30と、軸体10において掘削翼20よりも上方の領域からそれぞれ放射状に延びる複数の共回り防止翼40と、軸体10において共回り防止翼40よりも上方の領域からそれぞれ放射状に延びる複数の攪拌翼50と、軸体10の下端から延びる板状の掘削刃60と、を備える。
【0019】
軸体10は、上下方向に延びる軸線11を回転中心として回転可能な部材である。この軸体10は、上下方向に延びる内部空間を有し、上端側において内部空間と導通してセメントミルクなどの固化材を内部空間に導入する導入口13と、下端側において内部空間と導通して固化材を外部へと排出する排出口15と、を備えている。
【0020】
一対の掘削翼20は、軸体10における下端側の領域から、上下方向と交差する第1平面に沿って同じ長さでそれぞれ反対方向に延びている。こうして掘削翼20は、軸体10の軸線11を中心として軸体10に従動することにより、その長さに応じた直径Aの仮想円(掘削翼20の先端で描かれる円)をなすように回転する(
図3参照)。
【0021】
ここで、一方(
図2の左側面図における紙面手前)の掘削翼20は、掘削翼20の延びる方向と交差する第2平面(
図2の左側面図参照)に投影した場合に、その表裏面を軸線11が貫き、かつ、軸線11に対して左右いずれか他方から一方に向けて傾斜(具体的には軸線11を中心として右から左へ向けて下方に傾斜)するように配置された板状の部材であり、ここに複数の爪部30が設けられている。
【0022】
また、他方(
図2の左側面図における紙面奥)の掘削翼20は、第2平面に投影した場合に、その表裏面を軸線11が貫き、かつ、軸線11に対して左右いずれか一方から他方に向けて傾斜(具体的には軸線11を中心として左から右へ向けて下方に傾斜)するように配置された板状の部材であり、ここに複数の爪部30が設けられている。
【0023】
爪部30は、掘削翼20においてその延びる方向に間隔を空けた領域(本実施形態では3つの領域)それぞれから下方へ突出している。この爪部30は、
図3に示すように、掘削翼20の延びる方向に所定の厚さtを有する板状の部材で形成され、隣接する爪部30との間に、その厚さtより広く、かつ、上下方向に沿った掘削翼20と共回り防止翼40との間隔h1および共回り防止翼40と攪拌翼50との間隔h2それぞれよりも狭い間隔w1(t<w1<h1,h2)が空けられている。本実施形態では、この範囲で規定される値として、爪部30の厚さtが50mm、間隔h1およびh2が120mm、爪部30同士の間隔w1が105mmとなっている。
【0024】
ここで、一方の掘削翼20に設けられた爪部30は、掘削翼20の延びる方向と交差する第2平面に投影した場合に、下方ほど軸線11から左右いずれか一方(具体的には左)に離れる向きで傾斜して突出している。この爪部30それぞれは、対応する掘削翼20よりも軸線11に対する傾斜角が小さくなっている。つまり、掘削翼20をなす板状の部材における軸線11に対する傾斜角は、この部材に設けられた爪部30よりも大きい。
【0025】
また、他方の掘削翼20に設けられた爪部30は、第2平面に投影した場合に、下方ほど軸線11から左右いずれか他方(具体的には右)に離れる向きで傾斜して突出している。この爪部30それぞれも、同様に、対応する掘削翼20よりも軸線11に対する傾斜角が小さくなっている。
【0026】
共回り防止翼40は、軸体10において掘削翼20よりも上方の領域から第1平面に沿ってそれぞれ放射状に延びる。本実施形態では、軸体10から第1平面に沿って同じ長さでそれぞれ反対方向に延びる2つが設けられている。
【0027】
これら共回り防止翼40は、それぞれが軸体10における掘削翼20よりも上方の領域を包囲する筒状体41に対し、上下方向に立てた向きで延びる板状の部材である。この筒状体41は、軸線11を中心として軸体10と独立して回転可能に取り付けられているのに対し、その上下が軸体10より大径のリング部材43で挟まれており軸体10と独立しての上下移動が規制されている。
【0028】
また、共回り防止翼40は、筒状体41から延びる本体部45を備えている。
【0029】
攪拌翼50は、軸体10において共回り防止翼40よりも上方の領域から、第1平面に沿って同じ長さでそれぞれ放射状に延びる。この攪拌翼50は、第1平面に沿ってそれぞれ掘削翼20と交差する方向に延びる対のものと、掘削翼20と同じ方向に延びる対のものとがあり、各対のものが上下方向の異なる位置に設けられている。
【0030】
本実施形態では、掘削翼20と同じ方向に延びる対のものが軸体10の上端側に配置され、この対と共回り防止翼40との間に、掘削翼20と交差する方向に延びる対のものが配置されている。
【0031】
これら攪拌翼50はいずれも軸体10の軸線11を中心として軸体10に従動することにより、その長さに応じた直径Aの仮想円(攪拌翼50の先端で描かれる円)をなすように回転する(
図3参照)。この直径Aは、掘削翼20における直径Aと所定のしきい値未満で近似する。本実施形態において、掘削翼20および攪拌翼50の直径Aそれぞれは、誤差範囲内の同一値となっている。
【0032】
また、各対をなす攪拌翼50は、その表裏面を軸線11が貫き、軸線11を中心にそれぞれ左右反対に傾斜する向きで配置されている。
【0033】
掘削刃60は、軸体10の下端から掘削翼20よりも下方にまで延びる板状の部材であって、その表裏面が、掘削翼20の延びる方向および上下方向のなす第3平面に沿って拡がる向きで配置されている。この掘削刃60は、第3平面に投影した場合に、下方ほど軸線11に近づく刃形状になっており、その刃先が上下方向に沿った爪部30の先端と同じ位置または爪部30よりも下方にまで到達している。
【0034】
また、掘削刃60は、掘削翼20の延びる方向に隣接する爪部30との間に、爪部30同士の間隔w1未満となる間隔w2(w2<w1)が空けられている。
【0035】
このような構成の掘削攪拌装置1において、各構成要素は、上下方向に沿った掘削翼20と共回り防止翼40との間隔h1、および、共回り防止翼40と攪拌翼50(具体的には共回り防止翼40に近接する側の攪拌翼50)との間隔h2が、所定のしきい値未満で近似するように配置されている。本実施形態において、各構成要素は、両者の間隔が誤差範囲内の同一値(h1≒h2)となるよう配置されている。
【0036】
また、各構成要素(掘削翼20、共回り防止翼40および攪拌翼50)は、軸線11周りに回転する掘削翼20の先端で描かれる仮想円の直径Aに対し、上下方向に沿った掘削翼20と共回り防止翼40との間隔h1および共回り防止翼40と攪拌翼50との間隔h2の合計値(h1+h2)が、0.2~0.35(=A/(h1+h2))の範囲から選択された値となる位置関係となっている。より望ましくは、掘削翼20の直径Aに対し、間隔h1および間隔h2の合計値(h1+h2)が、0.2~0.3))の範囲となる位置関係となっているとよい。
【0037】
本実施形態では、掘削翼20および攪拌翼50の直径Aを900mm、上下方向の間隔h1、h2の合計を220mm、共回り防止翼40の幅h3を100mmとすることで、上記範囲に収まるようにしている((h1+h2)/A=220/900=0.244)。
【0038】
(2)変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0039】
例えば、上記実施形態では、掘削翼20それぞれに3つの爪部30が設けられている構成を例示した。しかし、掘削翼20に設けられる爪部30の数は、
図4、
図5に示すように、掘削翼20のサイズに応じて2つまたは4つ以上設けたものとしてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、爪部30の厚さtが50mm、間隔h1およびh2が120mm、爪部30間の間隔w1が105mmとなっている構成を例示した。しかし、これらパラメータは、隣接する爪部30同士の間に、爪部30の厚さtより広く、かつ、間隔h1および間隔h2それぞれよりも狭い間隔w1(t<w1<h1,h2)が空けられたものであれば上記に限定されない。
【0041】
(3)作用,効果
従前、地盤中に柱状改良杭を形成する掘削攪拌装置では、地中に形成すべき柱状改良杭のサイズなどに応じて、軸体の長さおよび各構成要素の直径(具体的には、軸線11周りに回転する構成要素の先端で描かれる仮想円の直径)を異ならせたものが用いられており、その直径が大きいものほど各構成要素における上下方向の間隔も広い。
【0042】
ここでは、各構成要素における上下方向の間隔が、各構成要素の直径と無関係に設定されていることになるが、その直径に応じて被掘削物の量も増加することから、攪拌翼による被掘削物の攪拌等が妨げられ、柱状改良体の品質にバラつきを生じさせる結果、各構成要素の間隔と直径との関係が柱状改良体の品質に影響を及ぼしている可能性がある。
【0043】
この点補足すると、各構成要素は、軸体の回転に従動して掘削翼および攪拌翼が回転する一方で、共回り防止翼が回転しないよう地中に固定されているため、被掘削物が上方へ搬送される過程で共回り防止翼の周辺で滞留しやすくなっており、さらに、各構成要素の直径に応じて被掘削物そのものの量が増えることで被掘削物も滞留しやすくなる。このような滞留分の発生は、攪拌翼による被掘削物の攪拌等を妨げ、柱状改良体の品質にバラつきを生じさせる要因となりうる。
【0044】
このような被掘削物の滞留による影響を抑えるには、上下方向に沿った各構成要素の間隔を最適化することが有効な選択肢である。とはいえ、各構成要素の間隔は、それぞれを狭くすることによって、掘削翼と共回り防止翼との間および共回り防止翼と攪拌翼との間で被掘削物が摺りつぶされるなどの作用で滞留しにくくなるものの、構成要素間に被掘削物が詰まりやすくなるなど掘削効率への悪影響もある。そのため、各構成要素の間隔は、単純にこれを狭めればよいというものではなく、各構成要素の直径との関係で、どの構成要素同士の間隔をどの程度とすべきか多くの選択肢がある。
【0045】
本願出願人は、このような問題意識から、上下方向に沿った各構成要素の間隔に着目して創意工夫を施している。具体的には、下記の表に示すように、掘削翼20および攪拌翼50の直径A、上下方向の間隔h1、h2を異ならせた掘削攪拌装置1につき、柱状改良杭の品質を確認した。その結果、掘削翼20、共回り防止翼40および攪拌翼50が、仮想円の直径Aに対し、間隔h1および間隔h2の合計値が0.2~0.34の範囲となる位置関係に収めた場合に、各構成要素の直径に拘わらず、柱状改良杭の品質がバラつきにくくなる可能性が見出された。
【0046】
【0047】
よって、上記実施形態の掘削攪拌装置1であれば、各構成要素の直径に拘わらず、被掘削物の滞留による影響を抑えて柱状改良体の品質を安定させることができる。
【0048】
また、上記実施形態の掘削攪拌装置1では、隣接する爪部30の間に、爪部30の厚さより広く、かつ、掘削翼20と共回り防止翼40との間隔h1および共回り防止翼40と攪拌翼50との間隔h2それぞれよりも狭い間隔が空けられていることによって、被掘削物が爪部30の間に挟まりにくくすることができ、これによって掘削・攪拌効率を高めることができる。このような爪部30の位置関係は、本願出願人が上述した創意工夫の過程で見出したものである。
【0049】
また、上記実施形態の掘削攪拌装置1では、爪部30が、隣接する爪部30同士の間に、その厚さより広く、かつ、掘削翼20と共回り防止翼40との間隔h1および共回り防止翼40と攪拌翼50との間隔h2それぞれよりも狭い間隔が空けられていることによって、被掘削物が爪部30の間に挟まりにくくすることができ、これによっても掘削・攪拌効率を高めることができる。このような爪部30の位置関係は、本願出願人が上述した創意工夫の過程で見出したものであり、被掘削物が爪部30の間に挟まることを防止するのに適したものである。
【0050】
また、上記実施形態では、掘削翼20の延びる方向と交差する平面視(第2平面)で、一方の掘削翼20に設けられた爪部30と他方の掘削翼20に設けられた爪部30とが、それぞれが反対方向に傾斜するように突出している。
【0051】
これにより、掘削攪拌装置1を爪部30の傾斜方向に向けて回転させれば、爪部30それぞれが第1平面に対して90度未満の鋭角な傾斜角で地盤を掘削するようになる。その結果、爪部30が軸体10に沿って下方へと真っすぐ延びている、つまり90度以上の角度となっている場合と比べ、地盤の掘削効率を高めつつ、回転に伴う爪部30の変形などを防止することもできる。
【0052】
また、上記実施形態では、掘削翼20の延びる方向と交差する平面視(第2平面)で、掘削翼20それぞれが反対方向に傾斜した状態となっている。これにより、掘削攪拌装置1を掘削翼20の傾斜方向に向けて回転させれば、爪部30に掘削されて掘削翼20の裏面に到達した被掘削物をこの裏面に沿って上方へ搬送させることができる。
【0053】
また、上記実施形態であれば、軸体10の下端に設けられた掘削刃60の刃先が爪部30よりも下方にまで到達しているため、この刃先を最初に地盤に到達させて掘削することによって、掘削攪拌装置1としての回転を安定させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…掘削攪拌装置、10…軸体、11…軸線、13…導入口、15…排出口、20…掘削翼、30…爪部、40…共回り防止翼、41…筒状体、43…リング部材、45…本体部、50…攪拌翼、60…掘削刃。