(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073347
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】セラミック層付きクランクシャフトの処理技術
(51)【国際特許分類】
F16C 3/08 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
F16C3/08
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068506
(22)【出願日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】202211461667.2
(32)【優先日】2022-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523149204
【氏名又は名称】天潤工業技術股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523149215
【氏名又は名称】山東天潤衆成増材制造有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】徐 承飛
(72)【発明者】
【氏名】郭 永明
(72)【発明者】
【氏名】倪 培相
(72)【発明者】
【氏名】周 揚帆
(72)【発明者】
【氏名】邵 詩波
【テーマコード(参考)】
3J033
【Fターム(参考)】
3J033AA02
3J033AB03
3J033AB05
3J033AC01
3J033BA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】クランクシャフト表面の摩擦係数を下げ、表面の耐摩耗性を向上させ、スクラッチや焼き付きを減少させ、クランクシャフトの寿命を延長させる。
【解決手段】吹付前にジャーナル1吹付部の両側にそれぞれ位置する2つの研削部とに分割するステップであって、ジャーナル研削部10の表面は吹付部11の表面よりも高く、ジャーナル研削部の表面は完成品の表面よりも高く、吹付前のフィレット2表面は完成品の表面よりも高く、ジャーナル吹付部の寸法は径方向に完成品の寸法よりも小さいステップと、ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付け、セラミックコーティング層を吹き付けたジャーナルとフィレット表面とを、セラミックコーティング層とフィレット層表面とがシームレスに接合されるまで研削した後、研磨してクランクシャフト完成品を得るステップと、を含むセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック層付きクランクシャフトの処理技術であって、
吹付前のクランクシャフトのジャーナルを、ジャーナル吹付部と、前記ジャーナル吹付部の両側にそれぞれ位置する2つのジャーナル研削部とに分割するステップであって、前記ジャーナル研削部の表面は前記ジャーナル吹付部の表面よりも高く、前記ジャーナル研削部の表面はクランクシャフト完成品のジャーナル表面よりも高く、吹付前のクランクシャフトのフィレット表面はクランクシャフト完成品のフィレット表面よりも高く、前記ジャーナル吹付部の寸法はジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法よりも小さいステップと、
前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付け、セラミックコーティング層を吹き付けたクランクシャフトのジャーナル表面とフィレット表面とを、セラミックコーティング層表面とフィレット表面とがシームレスに接合されるまで研削し、研磨してクランクシャフト完成品を得るステップと、を含むことを特徴とするセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項2】
前記吹付前のクランクシャフトのフィレット表面は、クランクシャフト完成品のフィレット表面よりも0.1mm~0.15mm高く、前記ジャーナル吹付部の寸法は、ジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法よりも0.1mm~0.15mm小さいことを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項3】
前記ジャーナル研削部のジャーナル径方向に垂直な幅が1mm~2mmであることを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項4】
前記吹付前のクランクシャフトのフィレット表面と前記ジャーナル研削部の表面とがシームレスに接合されており、前記ジャーナル研削部とジャーナル吹付部との接合部が円弧状であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項5】
前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付ける前に、吹付前のクランクシャフトに、ジャーナル焼入れ、ジャーナル給油穴保護、及びジャーナル表面のテクスチャリング処理を含む前処理を施すことを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項6】
前記セラミックコーティング層のジャーナル径方向の厚さが0.05mm~0.2mmであることを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項7】
前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付けるステップは、具体的には、
前記ジャーナル吹付部の表面に、ジャーナル径方向の厚さが0.05~0.10mmである金属粘着下地層を吹き付け、
前記ジャーナル吹付部の表面に均一で緻密なセラミックコーティング層を吹き付け、吹付熱源温度を2000℃~3500℃とし、前記ジャーナル吹付部の表面温度を80℃~150℃とすることを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項8】
前記セラミックコーティング層を吹き付ける際の吹き付け距離が50mm~380mmであることを特徴とする請求項7に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項9】
前記研削後のジャーナルの寸法は、ジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法より0.004mm~0.006mm大きいことを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項10】
前記クランクシャフト完成品のジャーナル表面の粗さが0.1μm~0.4μmであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトの技術分野、特にセラミック層付きクランクシャフトの処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトはエンジンにおいて最も重要な部品の1つであり、クランクシャフトの信頼性はマシン全体の安定性に繋がる。近年、ユーロ6排出基準、国家6排出基準の実施に伴い、エンジンは軽量化、省エネ化、高速化が進み、エンジンの爆発圧力は絶えず増大し、最大爆発圧力はすでに国家5排出基準における160~180barから国家6排出基準における200~260barに上昇し、その結果として、クランクシャフトがスクラッチを受けて故障するリスクは絶えず増加している。国家6排出基準の実施以来、4・6気筒エンジンのクランクシャフトのスクラッチの発生割合が明らかに増加し、スクラッチによる故障が全故障割合の30%以上を占め、エンジンの信頼性に影響を及ぼす主な要素となっている。その主な故障のメカニズムとしては、エンジンの爆発圧力が増加し、クランクシャフトのジャーナルの実際の受圧が大きくなり、流体潤滑油膜が壊れやすくなり、クランクシャフトと軸受ブッシュとの摩擦対偶が境界潤滑状態になり、摩擦対偶の局所金属微小凸体同士が直接接触し、深刻な摩耗が発生し、潤滑故障が発生する。そのため、如何にクランクシャフトの表面摩擦係数を下げ、クランクシャフトのスクラッチや焼き付きを減らすかはクランクシャフトの信頼性を高める緊急な課題となっている。
【0003】
現在、従来のクランクシャフト表面処理手段は主に表面高周波焼入れと表面窒化の2種類がある。しかし、どちらも表面硬度を上げることでジャーナルと軸受ブッシュとの摩擦対偶の硬度差を大きくしたものであり、材料自体の摩擦係数を変えることはなく、クランクシャフト表面の耐摩擦性を根本的に変えることはなかった。そのため、従来のクランクシャフトの表面処理技術は、より高い排出基準のエンジンの要求に対応できなくなっており、クランクシャフト表面の摩擦係数を下げ、クランクシャフトの寿命を延ばし、スクラッチや焼き付きを減らし、エンジン全体の信頼性を高める新技術や新方法を早急に研究する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このために、本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術の欠点を克服し、クランクシャフト表面の摩擦係数を下げ、クランクシャフト表面の耐摩耗性を向上させ、スクラッチや焼き付き故障を減らし、クランクシャフトの寿命を延長することができるセラミック層付きクランクシャフトの処理技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の技術的課題を解決するために、本発明は、
吹付前のクランクシャフトのジャーナルを、ジャーナル吹付部と、前記ジャーナル吹付部の両側にそれぞれ位置する2つのジャーナル研削部とに分割するステップであって、前記ジャーナル研削部の表面は前記ジャーナル吹付部の表面よりも高く、前記ジャーナル研削部の表面はクランクシャフト完成品のジャーナル表面よりも高く、吹付前のクランクシャフトのフィレット表面はクランクシャフト完成品のフィレット表面よりも高く、前記ジャーナル吹付部の寸法はジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法よりも小さいステップと、
前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付け、セラミックコーティング層を吹き付けたクランクシャフトのジャーナル表面とフィレット表面とを、セラミックコーティング層表面とフィレット表面とがシームレスに接合されるまで研削し、研磨してクランクシャフト完成品を得るステップと、を含むセラミック層付きクランクシャフトの処理技術を提供する。
【0006】
好ましくは、前記吹付前のクランクシャフトのフィレット表面は、クランクシャフト完成品のフィレット表面よりも0.1mm~0.15mm高く、前記ジャーナル吹付部の寸法は、ジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法よりも0.1mm~0.15mm小さい。
【0007】
好ましくは、前記ジャーナル研削部のジャーナル径方向に垂直な幅が1mm~2mmである。
【0008】
好ましくは、前記吹付前のクランクシャフトのフィレット表面と前記ジャーナル研削部の表面とがシームレスに接合されており、前記ジャーナル研削部とジャーナル吹付部との接合部が円弧状である。
【0009】
好ましくは、前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付ける前に、吹付前のクランクシャフトに、ジャーナル焼入れ、ジャーナル給油穴保護、及びジャーナル表面のテクスチャリング処理を含む前処理を施す。
【0010】
好ましくは、前記セラミックコーティング層のジャーナル径方向の厚さが0.05mm~0.2mmである。
【0011】
好ましくは、前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付けるステップは、具体的には、
前記ジャーナル吹付部の表面に、ジャーナル径方向の厚さが0.05~0.10mmである金属粘着下地層を吹き付け、
前記ジャーナル吹付部の表面に均一で緻密なセラミックコーティング層を吹き付け、吹付熱源温度を2000℃~3500℃とし、前記ジャーナル吹付部の表面温度を80℃~150℃とする。
【0012】
好ましくは、前記セラミックコーティング層を吹き付ける際の吹き付け距離が50mm~380mmである。
【0013】
好ましくは、前記研削後のジャーナルの寸法は、ジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法より0.004mm~0.006mm大きい。
【0014】
好ましくは、前記クランクシャフト完成品のジャーナル表面の粗さが0.1μm~0.4μmである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記の技術的解決手段は、従来技術と比較して以下の利点を有する。
本発明は、ジャーナル表面にジャーナル吹付部とジャーナル研削部を設け、ジャーナル吹付部の表面に一定の厚さのセラミックコーティング層を吹き付け、その後、ジャーナル表面を研削して研磨して、クランクシャフト完成品の設計寸法にするものであり、セラミックコーティング層を吹き付けることによってクランクシャフトの耐摩耗性を大幅に向上させ、クランクシャフト表面の摩擦係数を下げ、クランクシャフトの寿命を延ばし、スクラッチや焼き付きの確率を大幅に減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の内容をより容易かつ明確に理解するために、以下では、本発明の具体的な実施例にしたがって、図面を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【
図2】本発明の吹付前のクランクシャフトの概略図である。
【
図4】本発明の吹付後のクランクシャフト完成品の概略図である。
【
図6】本発明の実施例における吹付前のクランクシャフトのジャーナル表面の概略図である。
【
図7】本発明の実施例におけるセラミックコーティング層を吹き付けたクランクシャフトのジャーナル表面の概略図である。
【
図8】本発明の実施例におけるセラミックコーティング層を吹き付けた6気筒クランクシャフト完成品である。
【
図9】本発明の実施例における摩擦摩耗試験片である。
【
図10】本発明の実施例における試験2における、セラミックコーティング層を吹き付けていない試験片のジャーナルの中央部の試験結果図である。
【
図11】本発明の実施例における試験2における、セラミックコーティング層を吹き付けた試験片のジャーナルの中央部の試験結果図である。
【
図12】本発明の実施例における試験2における、セラミックコーティング層を吹き付けていない試験片の上下軸受ブッシュの試験結果図である。
【
図13】本発明の実施例における試験2における、セラミックコーティング層を吹き付けた試験片の上下軸受ブッシュの試験結果図である。
【
図14】本発明の実施例における試験3における、セラミックコーティング層を吹き付けていない試験片のジャーナルの中央部の試験結果図である。
【
図15】本発明の実施例における試験3における、セラミックコーティング層を吹き付けた試験片のジャーナルの中央部の試験結果図である。
【
図16】本発明の実施例における試験3における、セラミックコーティング層を吹き付けていない試験片の上下軸受ブッシュの試験結果図である。
【
図17】本発明の実施例における試験3における、セラミックコーティング層を吹き付けた試験片の上下軸受ブッシュの試験結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面及び特定の実施例を参照して、当業者が本発明をよりよく理解し、実施することができるように、本発明をさらに説明するが、例示的な実施例は本発明を限定するものではない。
【0018】
なお、本発明の説明において、用語「中心」、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」、「頂」、「底」、「内」、「外」などによって示される方位又は位置関係は、図面に示される方位又は位置関係に基づいており、本発明の説明を容易にし、説明を簡略化することのみを目的とするものであって、特定の方位を有したり、特定の方位で構成され、動作したりしなければならないことを指示又は示唆するものではなく、本発明を限定するものと理解することはできない。また、「第1」、「第2」という用語は説明の目的にのみ使用され、相対的重要性を指示又は示唆し、又は示された技術的特徴の数を暗黙的に示すとは解されない。したがって、「第2」、「第1」に限定される特徴は、明示的又は暗黙的に1つ又は複数の当該特徴を含むことができる。本発明の説明において、「複数」とは、別段の明示的かつ具体的な限定がない限り、2つ以上を意味する。
【0019】
本発明では、別段の明示的な規定及び限定がない限り、「取り付ける」、「連結」、「接続」、「固定」などの用語は広義に理解すべきであり、例えば、固定的な接続、取り外し可能な接続、又は一体的な接続であってもよく、機械的接続、電気的接続、通信であってもよく、直接連結、中間媒体を介して間接的連結、2つの要素内部の連通又は2つの要素の相互作用関係であってもよい。当業者であれば、本発明における上記の用語の具体的な意味は、具体的な状況に応じて理解することができる。
【0020】
別段の明示的な規定及び限定がない限り、第1特徴が第2特徴の「上」又は「下」にあるとは、第1特徴が第2特徴に直接接触するか、又は第1特徴が第2特徴に中間媒体を介して間接的に接触することであってもよい。さらに、「含む」という用語は、排他的でない包含をカバーすることを意図しており、例えば、一連のステップ又はユニットを含むプロセス、方法、システム、製品又は装置は、リストされたステップ又はユニットに限定されるものではなく、必要に応じて、リストされていないステップ又はユニットをさらに含むか、又は、これらのプロセス、方法、製品又は装置に固有の他のステップ又はユニットをさらに含んでもよい。
【0021】
図1のフローチャートに示されるように、本発明は、以下のステップを含むセラミック層付きクランクシャフトの処理技術を開示する。
【0022】
ステップ1:
図2~5に示すように、
図2及び
図3の破線はクランクシャフト完成品の表面13(すなわち、クランクシャフト完成品のジャーナル表面6とクランクシャフト完成品のフィレット表面8が位置する面)を示し、
図2~5の実線は吹付前のクランクシャフトの表面(すなわち、ジャーナル吹付前表面5が位置する面)を示し、
図4及び
図5の斜線はセラミックコーティング層9を示している。吹付前のクランクシャフトの構造を設計する。クランクシャフト完成品の寸法を、元のエンジンのクランクシャフトの設計寸法として定義し、吹付前のクランクシャフトのジャーナル1を、両側のジャーナルとフィレット接点3との間の幅と軸受ブッシュの実際の負荷面の幅との間の幅を有するジャーナル吹付部11と、前記ジャーナル吹付部11の両側にそれぞれ位置する2つのジャーナル研削部10とに分割する。前記ジャーナル研削部10の表面は前記ジャーナル吹付部11の表面よりも高く、前記ジャーナル研削部10の表面はクランクシャフト完成品のジャーナル表面6よりも高く、吹付前のクランクシャフトのフィレット2表面とは前記ジャーナル研削部10の表面はシームレスに接合されており、吹付前のクランクシャフトのフィレット2表面はクランクシャフト完成品のフィレット表面8よりも高く、前記ジャーナル吹付部11の寸法はジャーナル1径方向にクランクシャフト完成品のジャーナル1の寸法よりもが小さい。
クランクシャフト完成品のジャーナル1と軸受ブッシュとの間のクリアランスは通常0.06mm程度であり、クランクシャフトによっては、本実施例では、前記吹付前のクランクシャフトのフィレット2表面はクランクシャフト完成品のフィレット表面8よりも0.1mm~0.15mm高く、すなわち、
図3のフィレット研削前表面7とクランクシャフト完成品のフィレット表面8との間の距離が0.1mm~0.15mmである。前記ジャーナル吹付部11の寸法は、ジャーナル1の径方向にクランクシャフト完成品の寸法よりも0.1mm~0.15mm小さい。ジャーナル研削部10の前記ジャーナル1の径方向に垂直な幅は1mm~2mmであり、両側の2つのジャーナル研削部10の幅の合計は2mm~4mmである。前記ジャーナル研削部とジャーナル吹付部との接合部12は円弧状である。接合部が円弧状をもって遷移することにより、クランクシャフトの強度を確保することができる。クランクシャフト完成品のジャーナルセラミックコーティング層9とフィレット2との結合部の良好な接合を確保するために、吹付前にフィレット2に一定の加工代を残し、吹付完了後にフィレット2とジャーナル1のセラミックコーティング層を共に研削し、完成品としての寸法にする。
【0023】
ステップ2:吹付前のクランクシャフトに、ジャーナル1の焼入れ、ジャーナル1の給油穴保護、及びジャーナル1表面のテクスチャリング処理を含む吹付前の前処理を施す。
ステップ2-1:クランクシャフトの焼入れ及び前加工工程は通常の生産プロセスであり、これ以上言及しない。
ステップ2-2:吹付前に、クランクシャフトのジャーナル1の給油穴を保護する。すべてのスピンドル及びコンロッドのジャーナル1の給油穴や給油穴面取りは吹き付けからの保護領域であり、保護領域の境界は給油穴面取りの外側輪郭とジャーナル1の表面との結合部である。
ステップ2-3:ジャーナル1の表面をテクスチャリングする。吹付を行う前に、ジャーナル吹付部11の表面に砂粒を用いたブラスト処理を施すことにより、表面をテクスチャリングして吹付層とジャーナル1との結合力を高め、テクスチャリング後の表面粗さをRa5μm~Ra10μmとする。
【0024】
ステップ3:セラミックコーティング層9を吹き付ける。前処理後、前記ジャーナル吹付部11の表面にセラミックコーティング層9を吹き付け、ジャーナル1のジャーナル吹付部11の表面のみを吹き付け、フィレット2その他の部位は吹き付けない。
ステップ3-1:前記ジャーナル吹付部11の表面に、セラミックとクランクシャフト基体との間の結合力を高める金属粘着下地層を、ジャーナル1の径方向に0.05~0.10mmの厚さで吹き付ける。金属粘着下地層は、Co、Ni、又はCr、Al、Yを添加した合金材料である。
ステップ3-2:前記ジャーナル吹付部11の表面に均一で緻密なセラミックコーティング層9を吹き付け、吹付熱源温度を2000℃~3500℃、前記ジャーナル吹付部11の表面温度を80℃~150℃、セラミックコーティング層9のジャーナル1径方向の厚さを0.05mm~0.2mmとする。
セラミックコーティング層9を吹き付ける際に、吹き付け距離は吹き付け材料や吹き付けプロセスに応じて50mm~380mmの間で調整する。本実施例では、吹付前のクランクジャーナル1の写真を
図6に、吹付後のクランクジャーナル1の写真を
図7に示す。本実施例では、セラミックをクランクシャフトの表面に吹き付け、材料成分と吹き付けプロセスを調整することにより、セラミック表面の空隙率を5%~7%に安定化させる。本実施例では、セラミック材料は、アルミナ(Al
2O
3)を主体とするセラミック材料であってもよく、Y2O3で安定化されたZrO
2等であってもよい。
【0025】
ステップ4:研削して研磨してクランクシャフト完成品を得る。
ステップ4-1:セラミックコーティング層9を吹き付けたクランクシャフトのジャーナル1表面、クランクアーム4表面及びフィレット2表面を、セラミックコーティング層9表面とフィレット2表面とがシームレスに接合されるまで同一の研削盤で研削し、研削後のジャーナル1寸法はジャーナル1径方向にクランクシャフト完成品のジャーナル1の寸法よりも0.004mm~0.006mm、本実施例では0.005mm大きく、研削工具にCBN砥石が使用された。吹付後のクランクシャフトのジャーナルとフィレットの表面は同時に研削され、ジャーナルセラミックコーティング層と吹き付けられていない金属表面はシームレスに接合され、これにより、クランクシャフトのジャーナルとフィレット部分の表面との遷移が滑らかになることを確保する。
ステップ4-2:表面を研磨してクランクシャフト完成品を得る。クランクシャフトのジャーナル1及びフィレット2を、自動研磨機でダイヤモンドベルトを用いて研磨し、研磨後のクランクシャフトのジャーナル1及びフィレット2の寸法を完成品の寸法にし、前記クランクシャフト完成品のジャーナル1の表面粗さはRa0.1μm~Ra0.4μmである。
【0026】
本発明は、吹付後のクランクシャフト完成品のジャーナルに一定の厚さのセラミックコーティング層が存在するが、フィレットが依然として金属基体であることを確保し、クランクシャフトのジャーナルの耐摩擦・摩耗性を向上させ、かつクランクシャフトの強度を損なうことがない。
【0027】
本発明は、ジャーナル表面にジャーナル吹付部とジャーナル研削部を設け、ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を一定の厚さで吹き付けた後、ジャーナル表面を研削して研磨してクランクシャフト完成品の設計寸法にするものであり、セラミックコーティング層を吹き付けることによりクランクシャフト表面の耐摩耗性を大幅に向上させ、クランクシャフト表面の摩擦係数を下げる。セラミック層付きクランクシャフトの表面セラミック層はクランクシャフトと軸受ブッシュとの間の摩擦係数を著しく下げ、セラミック層の高い空隙率はジャーナル表面の潤滑性を強化し、それによって、クランクシャフトのスクラッチや焼き付きの確率を大幅に低下させ、寿命を明らかに延ばす。セラミックコーティング層によってクランクシャフトと軸受ブッシュの摩擦学的特性を改善する主なメカニズムには、次のようなものがある。
(1)接触材料のタイプを変更して、クランクシャフトのジャーナルと軸受ブッシュとの摩擦対偶は元の金属-金属ペアからセラミック-金属ペアに変換され、これによって、金属相溶性による摩擦対偶の粘着力を大幅に低減させ、摩擦係数を下げ、粘着摩損のリスクを低減することができる。
(2)セラミック材料は高い空隙率を持ち、ミクロ構造上に油を貯蔵する機能を持ち、摩擦対偶が境界潤滑状態にあるとき、材料の空隙内に残った潤滑油が押し出されて溢れ、表面の潤滑性能を著しく高めることができる。
(3)セラミック材料の表面は研磨された後に鏡面状態になり、粗さは伝統的な金属表面より明らかに減少し、摩擦対偶の局所金属微小凸体が直接接触するリスクを減少させる。
(4)セラミック材料の危害が小さく、摩損の過程でセラミック材料が一旦クランクシャフトの基体の表面から離れて、極めて容易に粉砕されて粉末状になり、これによって、表面材料の脱落による3体研磨材の摩耗を回避して、摩擦表面の汚染が小さい。
【0028】
本発明の有益な効果をさらに説明するために、本実施例では、
図8に示すような6気筒エンジンのクランクシャフトを研究対象とし、本発明によって得られた表面にセラミックコーティング層を施した摩擦摩耗試験片と、従来製造されているセラミックコーティング層を施していない試験片を用いて回転摩擦試験を実施し、使用した試験片の写真を
図9に示す。本発明により得られた表面にセラミックコーティング層を施した摩擦摩耗試験片と、従来製造されているセラミックコーティング層を施していない試験片とを、それぞれ表1に示す3種類の試験環境下で回転摩擦試験を行い、得られた試験結果を表2に示す。
【0029】
【0030】
【0031】
図10~
図17においては、ジャーナルの穴はクランクシャフトのジャーナルの潤滑給油穴であり、クランクシャフト自身が持っているものである。試験1の試験結果の差は明らかではなかったので、試験2を続けた。
図10~
図13からわかるように、同じ試験条件では、本発明のセラミックコーティング層を施したクランクシャフトを用いると、ジャーナル、上下軸受ブッシュの摩耗は大幅に改善されている。試験3では、
図14~
図17から分かるように、本発明のセラミックコーティング層を施したクランクシャフトを用いると、ジャーナルの摩耗も顕著に改善され、上下軸受ブッシュにスクラッチが発生したが、セラミックコーティング層を施していないクランクシャフトに比べて発生する摩擦熱が非常に小さいため、軸受ブッシュとキャップとの焼け付きが発生せず、耐摩耗性もさらに改善された。
【0032】
表2から総合的に見ると、セラミックコーティング層を吹き付けた場合、超圧力負荷時、セラミックコーティング層のあるクランクシャフトのジャーナルの摩耗はセラミックコーティング層のないクランクシャフトより明らかに良いことがわかった。ジャーナルと軸受ブッシュとに接触摩擦が発生したときに、セラミックコーティング層のあるクランクシャフトの摩擦による熱はセラミックコーティング層のないクランクシャフトより明らかに少なく、セラミックコーティング層のあるクランクシャフトでは、ジャーナルと軸受ブッシュとの噛み合いがない。また、本発明の処理技術は先進的であり、プロセスは実行可能である。そのため、試験により、セラミックコーティング層を施したクランクシャフトのスクラッチや焼き付きの確率が大幅に低下し、本発明により得られたセラミックコーティング層を施したクランクシャフトの機能は信頼性があり、本発明の有益な効果が証明された。
【0033】
上記の実施例は、本発明を十分に説明するために挙げられた好適な実施例に過ぎず、本発明の特許範囲はこれに限定されない。本発明に基づいて当業者が行った同等の代替又は変形は、本発明の特許範囲内にある。本発明の特許範囲は特許請求の範囲に準ずる。
【符号の説明】
【0034】
1 ジャーナル
2 フィレット
3 ジャーナルとフィレット接点
4 クランクアーム
5 ジャーナル吹付前表面
6 クランクシャフト完成品のジャーナル表面
7 フィレット研削前表面
8 クランクシャフト完成品のフィレット表面
9 セラミックコーティング層
10 ジャーナル研削部
11 ジャーナル吹付部
12 ジャーナル研削部とジャーナル吹付部との接合部
13 クランクシャフト完成品の表面
【手続補正書】
【提出日】2024-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック層付きクランクシャフトの処理技術であって、
吹付前のクランクシャフトのジャーナルを、ジャーナル吹付部と、前記ジャーナル吹付部の両側にそれぞれ位置する2つのジャーナル研削部とに分割するステップであって、前記ジャーナル研削部の表面は前記ジャーナル吹付部の表面よりも高く、前記ジャーナル研削部の表面はクランクシャフト完成品のジャーナル表面よりも高く、吹付前のクランクシャフトのフィレット表面はクランクシャフト完成品のフィレット表面よりも高く、前記ジャーナル吹付部の寸法はジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法よりも小さいステップと、
前記ジャーナル吹付部の表面に、ジャーナル径方向の厚さが0.05~0.10mmである金属粘着下地層を吹き付け、前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付け、前記セラミックコーティング層の材料成分と吹付プロセスを調節することにより前記セラミックコーティング層の表面の空隙率を5%~7%に安定化させ、前記セラミックコーティング層を吹き付けたクランクシャフトのジャーナル表面とフィレット表面とを、セラミックコーティング層表面とフィレット表面とがシームレスに接合されるまで研削し、研磨してクランクシャフト完成品を得るステップと、を含むことを特徴とするセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項2】
前記吹付前のクランクシャフトのフィレット表面は、クランクシャフト完成品のフィレット表面よりも0.1mm~0.15mm高く、前記ジャーナル吹付部の寸法は、ジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法よりも0.1mm~0.15mm小さいことを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項3】
前記ジャーナル研削部のジャーナル径方向に垂直な幅が1mm~2mmであることを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項4】
前記吹付前のクランクシャフトのフィレット表面と前記ジャーナル研削部の表面とがシームレスに接合されており、前記ジャーナル研削部とジャーナル吹付部との接合部が円弧状であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項5】
前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付ける前に、吹付前のクランクシャフトに、ジャーナル焼入れ、ジャーナル給油穴保護、及びジャーナル表面のテクスチャリング処理を含む前処理を施すことを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項6】
前記セラミックコーティング層のジャーナル径方向の厚さが0.05mm~0.2mmであることを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項7】
前記ジャーナル吹付部の表面にセラミックコーティング層を吹き付けるステップは、具体的には、
前記ジャーナル吹付部の表面に均一で緻密なセラミックコーティング層を吹き付け、吹付熱源温度を2000℃~3500℃とし、前記ジャーナル吹付部の表面温度を80℃~150℃とすることを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項8】
前記セラミックコーティング層を吹き付ける際の吹き付け距離が50mm~380mmであることを特徴とする請求項7に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項9】
前記研削後のジャーナルの寸法は、ジャーナル径方向にクランクシャフト完成品のジャーナルの寸法より0.004mm~0.006mm大きいことを特徴とする請求項1に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。
【請求項10】
前記クランクシャフト完成品のジャーナル表面の粗さが0.1μm~0.4μmであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のセラミック層付きクランクシャフトの処理技術。