(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073460
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位でのノックインを有する微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240522BHJP
C12N 15/60 20060101ALI20240522BHJP
C12P 7/16 20060101ALI20240522BHJP
C12P 7/04 20060101ALI20240522BHJP
C12P 7/28 20060101ALI20240522BHJP
C12P 7/18 20060101ALI20240522BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20240522BHJP
C12P 7/26 20060101ALI20240522BHJP
C12P 7/42 20060101ALI20240522BHJP
C12P 7/6409 20220101ALI20240522BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20240522BHJP
C12P 5/02 20060101ALI20240522BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/60
C12P7/16
C12P7/04
C12P7/28
C12P7/18
C12P7/40
C12P7/26
C12P7/42
C12P7/6409
C12P7/64
C12P5/02
C12N9/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024024964
(22)【出願日】2024-02-21
(62)【分割の表示】P 2022574102の分割
【原出願日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】63/035,739
(32)【優先日】2020-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518403425
【氏名又は名称】ランザテク,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】リァン,チン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC33
4B064CA02
4B064CA19
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA09
4B065CA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ガス状基質からの天然及び非天然生産物の生産のための、改善された安定性を有する遺伝子操作された微生物を提供する。
【解決手段】アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位でのDNAのノックインを含む、遺伝子操作された微生物が提供される。1つ以上の天然又は非天然酵素をコードするDNAとのアセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子の置き換えは、発酵安定性並びにガス状基質からの天然及び非天然生産物の生産の増加を含む、ある特定の利点を与える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位でのDNAのノックインを含む、遺伝
子操作された微生物。
【請求項2】
前記DNAが、前記アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子のコード領域を置き換
える、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記DNAが、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータを置き換えない、請求
項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記微生物が、2,3-ブタンジオールを生産しない、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
前記DNAが、1つ以上の酵素をコードする、請求項1に記載の微生物。
【請求項6】
1つ以上の酵素が、前記微生物に対して非天然である、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
1つ以上の酵素が、前記微生物に対して天然である、請求項1に記載の微生物。
【請求項8】
1つ以上の酵素が、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータの制御下にある、
請求項1に記載の微生物。
【請求項9】
前記DNAが、プロモータを含む、請求項1に記載の微生物。
【請求項10】
前記1つ以上の酵素が、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータ及び少なくと
も1つの他のプロモータの両方の制御下にある、請求項5に記載の微生物。
【請求項11】
1つ以上の酵素が、チオラーゼ、CoAトランスフェラーゼ、及びアセトアセテートデ
カルボキシラーゼ又はアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される
デカルボキシラーゼを含む、請求項1に記載の微生物。
【請求項12】
前記微生物が、アセトン及びイソプロパノールのうちの1つ以上を生産する、請求項1
1に記載の微生物。
【請求項13】
前記微生物が、一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子に破壊的変異を更に含む
、請求項11に記載の微生物。
【請求項14】
前記1つ以上の酵素が、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエ
チルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネ
ート、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1
-プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生産物、3
-ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若し
くは2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、1,3-ヘキサンジオー
ル、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミ
ルアルコール、又はモノエチレングリコールの生産を可能にする、請求項5に記載の微生
物。
【請求項15】
前記微生物が、C1固定微生物である、請求項1に記載の微生物。
【請求項16】
前記微生物が、Wood-Ljungdahl微生物である、請求項1に記載の微生物
。
【請求項17】
前記微生物が、細菌である、請求項1に記載の微生物。
【請求項18】
前記微生物が、Acetobacterium、Alkalibaculum、Bla
utia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacte
rium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、及びTher
moanaerobacterから選択される属のメンバーである、請求項1に記載の微
生物。
【請求項19】
ガス状基質の存在下で請求項1に記載の微生物を培養することを含む、生産物を生産す
る方法。
【請求項20】
前記ガス状基質が、CO、CO2、及び/又はH2を含むC1炭素源を含む、請求項1
9に記載の方法。
【請求項21】
前記ガス状基質が、合成ガス又は産業廃棄物ガスを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記生産物が、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケト
ン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、テ
ルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパ
ノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生産物、3-ヒドロ
キシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは2-
ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-
メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルアルコ
ール、又はモノエチレングリコールである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年6月6日に出願された米国仮特許出願第63/035,739号
の利益を主張し、この全体は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
(政府の権利)
本開示は、米国エネルギー省によって授与された援助協定賞第DE-EE000756
6号の下、政府支援によって行われた。政府は、本開示においてある特定の権利を有する
。
【0003】
(発明の分野)
本出願は、一般に、遺伝子操作された微生物、並びに二酸化炭素(CO2)、一酸化炭
素(CO)、及び/又は水素(H2)を含む基質からの生産物の発酵生産のためのそれら
の微生物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
差し迫った気候変動の緩和は、石炭及び石油のような化石燃料の燃焼を通じて生産され
るものなど、温室ガス(greenhouse gas、GHG)の排出量の劇的な低減を必要とする。
燃料及び化学物質の持続可能な資源は、現在、化石炭素への我々の依存性に著しく取り替
わるには不十分であるが、ガス発酵が、CO、CO2、及び/又はH2などのそのような
ガスの生物学的固定のための代替的なプラットフォームとして、持続可能な燃料及び化学
物質に最近出現している。特に、ガス発酵技術は、ガス化炭素質物質(例えば、都市固形
廃棄物又は農業廃棄物)又は産業廃棄物ガス(例えば、製鋼所又は油精製所から)を含む
広範囲の原材料を利用して、エタノール、ジェット燃料、及び様々な他の製品を生産する
ことができる。ガス発酵単独で、原油使用の30%に取り替わり、世界的なCO2を10
%低減することができるが、任意の破壊的技術と同様に、この可能性が完全に達成される
前に多くの技術的課題を克服する必要がある。
【0005】
特に、ガス状基質からの天然及び非天然生産物の生産のための、改善された安定性を有
する追加の微生物が依然として必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】破壊されたアセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(ΔbudA)及び破壊された一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(ΔsecAdh)を有する微生物の発酵を示すグラフのセットである。上のパネルは、代謝産物生産(エタノール及びアセテート)を示す。下のパネルは、ガス消費及び生産(CO、CO-
2、及びH
2)を示す。
【
図2】プラスミド上のアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)の発現を有するΔbudAΔsecAdh微生物の発酵を示すグラフのセットである。アセトン経路は、P
ferプロモータの制御下にある。上のパネルは、代謝産物生産(エタノール、アセテート、及びアセトン)を示す。下のパネルは、ガス消費及び生産(CO、CO-
2、及びH
2)を示す。
【
図3】アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(budA)座位でのアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)のノックインを有するΔsecAdh微生物の発酵を示すグラフのセットである。アセトン経路は、P-
budAプロモータ及びP
ferプロモータの制御下にある。上のパネルは、代謝産物生産(エタノール、アセテート、アセトンアセトン)を示す。下のパネルは、ガス消費及び生産(CO、CO-
2、及びH
2)を示す。
【
図4】二官能性アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ(adhE1+adhE2)遺伝子座位でのアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)、及び官能性一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)遺伝子のノックインを有する微生物の発酵を示すグラフのセットである。一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)は、この株がアセトンではなくイソプロパノールを生産するように、アセトンをイソプロパノールに変換する。アセトン経路は、P-
adhE1/E2プロモータ及びP
fe
rプロモータの制御下にある。上のパネルは、代謝産物生産(エタノール、アセテート、アセトン、及びイソプロパノール)を示す。下のパネルは、ガス消費及び生産(CO、CO-
2、及びH
2)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
アセトラクテートデカルボキシラーゼは、2,3-ブタンジオール(2,3-BDO)
の形成のための重要なステップであり(Kopke,Appl Env Microbi
ol,80:3394-3405,2014)、この酵素をノックアウトすることは2,
3-BDO産生を止めることが実証されている(国際公開第2013/115659号)
。アセトンなどの他の異種生産物に向かって流動を導くために、アセトラクテートデカル
ボキシラーゼのノックアウトにより、それらの異種生産物の生産が増加するであろうと予
想される。
【0008】
しかしながら、本発明者らは、これが必ずしもそうではないことを見出した。特に、本
発明者らは、アセトラクテートデカルボキシラーゼ座位での異種生産物の生産に関与する
遺伝子のノックインが、安定した発酵及び高い生産物力価を達成するために重要であるこ
とを発見した。
【0009】
アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位でのDNAのノックインを含む遺伝子
操作された微生物が提供される。一実施形態では、DNAは、アセトラクテートデカルボ
キシラーゼ遺伝子のコード領域を、その全体で、又は部分的のいずれかで置き換える。一
実施形態では、DNAは、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータを置き換えな
い。
【0010】
一実施形態では、アセトラクテートデカルボキシラーゼは、EC4.1.1.5、すな
わち(S)-2-ヒドロキシ-2-メチル-3-オキソブタノエート←→(R)-2-ア
セトイン+CO2によって定義される活性を有する。一実施形態では、アセトラクテート
デカルボキシラーゼは、budAである。一実施形態では、budAは、配列番号3を含
む。
【0011】
ノックインが実施された後、微生物は、典型的には、微生物がアセトラクテートデカル
ボキシラーゼを発現し、2,3-ブタンジオールなどの生産物を生産しないように、官能
性アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子を有しない。
【0012】
一実施形態では、ノックインされたDNAは、1つ以上の酵素をコードする。一実施形
態では、これらの酵素は、微生物に対して非天然であり、すなわち、微生物中に天然に存
在しない。一実施形態では、これらの酵素は、微生物に対して天然であり、すなわち微生
物中に天然に存在し、単に酵素の別のコピーを微生物のゲノムに加える。
【0013】
一実施形態では、ノックインされたDNAによってコードされた酵素は、アセトラクテ
ートデカルボキシラーゼプロモータ、例えば、PbudAの制御下にある。一実施形態で
は、DNAは、Pferプロモータなどのプロモータを含む。一実施形態では、酵素は、
アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータ及び少なくとも1つの他のプロモータの
両方の制御下にある。一実施形態では、酵素は、両方のPbudA及びPferの制御下
にある。
【0014】
一実施形態では、アセトン経路は、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位で
ノックインされる。アセトン経路は、チオラーゼ、CoAトランスフェラーゼ、及びデカ
ルボキシラーゼを含み得る。一実施形態では、デカルボキシラーゼは、アセトアセテート
デカルボキシラーゼ又はアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼである。例え
ば、アセトン経路は、thlA、ctfAB、及びadc又はthlA、ctfAB、及
びkivdを含み得る。存在する場合、secAdhなどの一級-二級アルコールデヒド
ロゲナーゼは、アセトンをイソプロパノールに変換する。この酵素をコードする遺伝子に
おける破壊的変異(例えば、ノックアウト変異)の導入は、アセトンの生産をもたらし、
一方、この酵素の発現は、イソプロパノールの生産をもたらすであろう。したがって、宿
主微生物の遺伝的背景に応じて、アセトン経路の導入は、アセトン又はイソプロパノール
のいずれかの生産をもたらすであろう。アセトン及びイソプロパノールを生産するための
微生物の操作は、国際公開第2012/115527号に記載されている。一級-二級ア
ルコールデヒドロゲナーゼ活性をノックアウトするための微生物の操作は、国際公開第2
015/085015号に記載されている。
【0015】
一実施形態では、微生物は、アセトン経路を含み、微生物がアセトンを生産するように
、一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子における破壊的変異も含む。一実施形態
では、微生物は、アセトン経路を含み、微生物がイソプロパノールを生産するように、官
能的一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼも含む。
【0016】
実際、ノックインされたDNAは、本質的に任意の酵素又は酵素経路をコードし得る。
例えば、ノックインされたDNAによってコードされた酵素は、1-ブタノール、ブチレ
ート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノー
ル、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノ
ール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノ
ール、コリスマート由来の生産物、3-ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール
、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、
アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1
-オール、イソバレレート、イソアミルアルコール、又はモノエチレングリコールの生産
を可能にし得る。
【0017】
一実施形態では、微生物は、C1固定微生物である。一実施形態では、微生物は、Wo
od-Ljungdahl微生物である。一実施形態では、微生物は、細菌である。一実
施形態では、微生物は、Acetobacterium、Alkalibaculum、
Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Euba
cterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、及びT
hermoanaerobacterから選択される属のメンバーである。
【0018】
更に、ガス状基質の存在下で微生物を培養することを含む、生産物を生産する方法が提
供される。一実施形態では、ガス状基質は、CO、CO2、及び/又はH2を含むC1炭
素源を含む。一実施形態では、ガス状基質は、合成ガス又は産業廃棄物ガスを含む。一実
施形態では、生産物は、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチ
ルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネー
ト、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-
プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生産物、3-
ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しく
は2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール
、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミル
アルコール、又はモノエチレングリコールである。
【0019】
定義及び背景
別段の定めがない限り、本明細書全体で使用される以下の用語は、以下のように定義さ
れる。
【0020】
「発酵」という用語は、基質中の化学変化を引き起こす代謝プロセスとして解釈される
べきである。例えば、発酵プロセスは、1つ以上の基質を受け取り、1つ以上の微生物の
利用を通じて1つ以上の生産物を生産する。「発酵」、「ガス発酵」などの用語は、ガス
化によって生産される合成ガスなどの1つ以上の基質を受け取り、1つ以上のC1固定微
生物の利用を通じて1つ以上の生産物を生産するプロセスとして解釈されるべきである。
好ましくは、発酵プロセスは、1つ以上のバイオリアクターの使用を含む。発酵プロセス
は、「バッチ」又は「連続」のいずれかとして説明され得る。「バッチ発酵」は、バイオ
リアクターが微生物とともに、原料、すなわち炭素源で満たされ、発酵が完了するまで生
産物がバイオリアクター内に留まる発酵プロセスを説明するために使用される。「バッチ
」プロセスでは、発酵が完了した後、生産物が抽出され、バイオリアクターは、次の「バ
ッチ」が始まる前に洗浄される。「連続発酵」は、発酵プロセスがより長期間にわたって
延長され、発酵中に生成物及び/又は代謝産物が抽出される発酵プロセスを説明するため
に使用される。好ましくは、発酵プロセスは、連続的である。
【0021】
微生物に関して使用されるとき、「非自然発生」という用語は、微生物が、言及される
種の野生型株を含む言及される種の自然発生株において見られない少なくとも1つの遺伝
子修飾を有することを意味することが意図される。非自然発生微生物は、典型的には、実
験室又は研究施設で開発される。
【0022】
「遺伝子修飾」、「遺伝子改変」、又は「遺伝子操作」という用語は、微生物のゲノム
又は核酸の人の手による操作を広く指す。同様に、「遺伝子修飾された」、「遺伝子改変
された」、又は「遺伝子操作された」という用語は、そのような遺伝子修飾、遺伝子改変
、又は遺伝子操作を含む微生物を指す。これらの用語は、実験室で生成された微生物と自
然発生の微生物を区別するために使用され得る。遺伝子修飾の方法は、例えば、異種遺伝
子発現、遺伝子又はプロモータの挿入又は欠失、核酸変異、改変遺伝子発現又は不活性化
、酵素工学、指向性進化、知識ベース設計、ランダム変異導入法、遺伝子シャフリング、
及びコドン最適化を含む。
【0023】
例えば、Clostridiaなどの微生物の代謝工学は、エタノールなどの天然の代
謝産物以外の多くの重要な燃料及び化学分子を生産する能力を大いに拡大することができ
る。しかしながら、最近までClostridiaは、遺伝的に扱いにくいとみなされた
ため、一般に、広範な代謝工学努力は立ち入られなかった。近年、Clostridia
については、ゲノム操作のためのいくつかの異なる方法が開発され、これには、イントロ
ンベースの方法(Kuehne,Strain Eng:Methods and Pr
otocols,389-407,2011)、対立遺伝子交換方法(ACE)(Hea
p,Nucl Acids Res,40:e59,2012;Ng,PLoS One
,8:e56051,2013)、トリプルクロス(Liew,Frontiers M
icrobiol,7:694,2016)、I-SceIを介して媒介される方法(Z
hang,Journal Microbiol Methods,108:49-60
,2015)、MazF(Al-Hinai,Appl Environ Microb
iol,78:8112-8121,2012)、又はその他(Argyros,App
l Environ Microbiol,77:8288-8294,2011)、C
re-Lox(Ueki,mBio,5:e01636-01614,2014)、及び
CRISPR/Cas9(Nagaraju,Biotechnol Biofuels
,9:219,2016)が含まれる。しかしながら、少数以上の遺伝的変化を繰り返し
導入することは、遅い、骨の折れるサイクル時間、及び種にわたるこれらの遺伝学的技術
の導入性に対する制限により、依然として非常に困難である。更に、我々は、C1取り込
み、変換、及び生産物合成に向かう炭素/エネルギー/レドックスブローを最大にするで
あろう修飾を確実に予測するのに、ClostridiaにおけるC1代謝をまだ十分に
理解していない。したがって、Clostridiaにおける標的経路の導入は、単調で
退屈な、時間がかかるプロセスのままである。
【0024】
「組換え」は、核酸、タンパク質、又は微生物が、遺伝子修飾、操作、又は組換えの生
成物であることを示す。一般に、「組換え」という用語は、微生物の2つ以上の異なる株
又は種など、複数の源に由来する遺伝物質を含有するか、又はそれによってコードされる
核酸、タンパク質、又は微生物を指す。
【0025】
「野生型」は、変異体又はバリアント形態とは区別されるように天然に存在する、生物
、株、遺伝子、又は特性の典型的な形態を指す。
【0026】
「内在性」は、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物に存在又は発現される核
酸又はタンパク質を指す。例えば、内在性遺伝子は、本開示の微生物が由来する野生型又
は親微生物に天然に存在する遺伝子である。一実施形態では、内在性遺伝子の発現は、外
来性プロモータなどの外来性調節エレメントによって制御され得る。
【0027】
「外来性」は、本開示の微生物の外側に起源がある核酸又はタンパク質を指す。例えば
、外来性遺伝子又は酵素は、人工的又は組換え的に作成され、本開示の微生物に導入され
るか、又はそこに発現され得る。外来性遺伝子又は酵素はまた、異種微生物から単離され
、本開示の微生物に導入されるか、又はそこに発現され得る。外来性核酸は、本開示の微
生物のゲノムに組み入れるように、又は本開示の微生物、例えばプラスミドにおける染色
体外の状態で留まるように適合され得る。
【0028】
「異種」は、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物に存在しない核酸又はタン
パク質を指す。例えば、異種遺伝子又は酵素は、異なる株又は種に由来し、本開示の微生
物に導入されるか、又は発現され得る。異種遺伝子又は酵素は、異なる株又は種で生じる
形態で、本開示の微生物に導入されるか、又はそこに発現され得る。代替的に、異種遺伝
子又は酵素は、いくつかの方法で、例えば、本開示の微生物における発現のためにそれを
コドン最適化することによって、又は機能を変化させるように、例えば酵素活性の方向を
逆転させるように、若しくは基質特異性を変化させるように、それを操作することによっ
て修飾され得る。
【0029】
「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、及び「
オリゴヌクレオチド」という用語は、互換的に使用される。それらは、任意の長さのポリ
マー形態のヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチドのいずれ
か、又はそれらの類似体を指す。ポリヌクレオチドは、任意の3次元構造を有し得て、既
知又は未知の任意の機能を果たし得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である
:遺伝子又は遺伝子断片のコード領域又は非コード領域、連鎖解析から定義される座位(
複数可)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(messenger RNA、mRNA)
、トランスファーRNA、リボソームRNA、短干渉RNA(short interfering RNA、
siRNA)、短ヘアピンRNA(short-hairpin RNA、shRNA)、マイクロRNA
(micro-RNA、miRNA)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝鎖
ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列
の単離されたRNA、核酸プローブ、及びプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌ
クレオチド又はヌクレオチド類似体などの1つ以上の修飾されたヌクレオチドを含み得る
。存在する場合、ヌクレオチド構造の修飾は、ポリマーの組織化の前又は後に付与され得
る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素によって割り込まれ得る。ポリヌク
レオチドは、重合の後、例えば標識構成要素との共役により、更に修飾され得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがDNA鋳型から(例えば
、mRNA若しくは他のRNA転写物へ)転写されるプロセス、及び/又は転写されたm
RNAが、続いて、ペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質へ翻訳されるプロセス
を指す。転写物及びコードされたポリペプチドは、集合的に「遺伝子産物」と称され得る
。
【0031】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、任意の長さのア
ミノ酸のポリマーを指すために本明細書で互換的に使用される。ポリマーは、直鎖であっ
ても分岐鎖であってもよく、修飾アミノ酸を含んでいてもよく、非アミノ酸によって割り
込まれていてもよい。この用語はまた、修飾されたアミノ酸ポリマーを包含し、例えば、
ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、又は標識成分と
の共役などの任意の他の操作がある。本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用
語は、グリシン、D又はL光学異性体の両方、並びにアミノ酸類似体及びペプチド模倣体
を含む天然及び/又は非天然若しくは合成アミノ酸を含む。
【0032】
「酵素活性」又は単に「活性」は、広範には、酵素の活性、酵素の量、又は反応を触媒
するための酵素の可用性を含むがこれらに限定されない、酵素的な活性を指す。したがっ
て、酵素活性を「増加させること」は、酵素の活性を増大させること、酵素の量を増加さ
せること、又は反応を触媒するための酵素の可用性を増加させることを含む。同様に、酵
素活性を「低下させること」は、酵素の活性を低下させること、酵素の量を低下させるこ
と、又は反応を触媒するための酵素の可用性を低下させることを含む。
【0033】
「変異した」は、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物と比較して、本開示の
微生物において修飾されている核酸又はタンパク質を指す。一実施形態では、変異は、酵
素をコードする遺伝子中の欠失、挿入、又は置換であってもよい。別の実施形態では、変
異は、酵素中の1つ以上のアミノ酸の欠失、挿入、又は置換であってもよい。
【0034】
具体的には、「破壊的変異」は、遺伝子又は酵素の発現又は活性を低減又は排除(すな
わち「破壊する」)する変異である。破壊的変異は、遺伝子又は酵素を、部分的に不活性
化し得るか、完全に不活性化し得るか、又は欠失し得る。破壊的変異は、酵素によって生
成される生成物の生合成を低減、防止、又は阻害する任意の変異であり得る。破壊的変異
は、ノックアウト(knockout、KO)変異であり得る。破壊はまた、遺伝子、タンパク質
、又は酵素の発現又は活性を低減するが、完全に排除しないノックダウン(knockdown、
KD)変異でもあり得る。KOは、生産物の収率を高めるのに一般的に有効であるが、特
に非増殖結合生産物について、利益を上回る増殖欠陥又は遺伝的不安定性の不利益をもた
らす場合がある。破壊的変異は、例えば、酵素をコードする遺伝子における変異、酵素を
コードする遺伝子の発現に関与する遺伝子調節エレメントにおける変異、酵素の活性を低
下又は阻害するタンパク質を生成する核酸の導入、又は酵素の発現を阻害する核酸(例え
ば、アンチセンスRNA、siRNA、CRISPR)若しくはタンパク質の導入を含み
得る。破壊的変異は、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して導入されてもよい。
【0035】
破壊的変異の導入は、本開示の微生物が由来する親微生物と比較して、標的生産物を生
産しないか、又は生産物を実質的に生産しないか、又は標的生産物の量を減少させる、本
開示の微生物をもたらす。例えば、本開示の微生物は、標的生産物を生産しないか、又は
親微生物よりも、少なくとも約1%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、5
0%、60%、70%、80%、90%、若しくは95%少ない標的生産物を生産し得る
。例えば、本開示の微生物は、約0.001、0.01、0.10、0.30、0.50
、又は1.0g/L未満の生産物を生産し得る。
【0036】
「ノックイン」は、遺伝子座位におけるDNAの置換又は遺伝子座位における新しいD
NAの挿入を伴う遺伝子操作方法を指す。多くの場合、ノックインは、遺伝子を1つ以上
の異なる遺伝子と置き換えるであろう。例えば、アセトラクテートデカルボキシラーゼ(
budA)遺伝子は、1つ以上の異なる遺伝子と、全体的又は部分的に置き換えられ得る
。一実施形態では、遺伝子のコード領域のみが置き換えられる。一実施形態では、任意の
プロモータ領域を含む、遺伝子のオペロン全体が置き換えられる。
【0037】
「コドン最適化」は、特定の株又は種における核酸の最適化又は改善された翻訳のため
の、遺伝子などの核酸の変異を指す。コドンの最適化により、より速い翻訳速度、又はよ
り高い翻訳の精度を生じることができる。好ましい実施形態では、本開示の遺伝子は、C
lostridium、特にClostridium autoethanogenum
、Clostridium ljungdahlii、又はClostridium r
agsdaleiでの発現のためにコドン最適化される。更に好ましい実施形態では、本
開示の遺伝子は、DSMZ受託番号DSM23693で寄託されている、Clostri
dium autoethanogenum LZ1561での発現のためにコドン最適
化される。
【0038】
「過剰発現した」は、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物と比較して、本開
示の微生物における核酸又はタンパク質の発現の増加を指す。過剰発現は、遺伝子コピー
数、遺伝子転写速度、遺伝子翻訳速度、又は酵素分解速度の変更を含む、当該技術分野に
おいて既知の任意の手段によって達成することができる。
【0039】
「バリアント」という用語は、核酸及びタンパク質の配列が、従来技術分野において開
示されるか又は本明細書に例示される参照核酸及びタンパク質の配列などの、参照核酸及
びタンパク質の配列から変化する、核酸及びタンパク質を含む。本開示は、参照核酸又は
タンパク質と実質的に同じ機能を実行するバリアント核酸又はタンパク質を使用して実践
され得る。例えば、バリアントタンパク質は、参照タンパク質と実質的に同じ機能を実行
するか、又は実質的に同じ反応を触媒する場合がある。バリアント遺伝子は、参照遺伝子
と同じ、又は実質的に同じタンパク質をコードしてもよい。バリアントプロモータは、参
照プロモータと実質的に同じ、1つ以上の遺伝子の発現を促進するための能力を有しても
よい。
【0040】
そのような核酸又はタンパク質は、本明細書では「機能的に同等のバリアント」と称さ
れ得る。例として、核酸の機能的に同等のバリアントには、対立遺伝子バリアント、遺伝
子の断片、変異した遺伝子、多型などが含まれ得る。他の微生物からの相同遺伝子も、機
能的に同等なバリアントの例である。これらとしては、Clostridium ace
tobutylicum、Clostridium beijerinckii、又はC
lostridium ljungdahliiなどの種の相同遺伝子が挙げられ、それ
らの詳細は、Genbank又はNCBIなどのウェブサイトで公開されており入手可能
である。機能的に同等なバリアントとしてはまた、特定の微生物のコドン最適化の結果と
して配列が変化している核酸が挙げられる。核酸の機能的に同等なバリアントは、好まし
くは、参照核酸と少なくとも約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約9
8%、又はそれを超える核酸配列同一性(相同性パーセント)を有する。タンパク質の機
能的に同等なバリアントは、好ましくは、参照タンパク質と少なくとも約70%、約80
%、約85%、約90%、約95%、約98%、又はそれを超えるアミノ酸同一性(相同
性パーセント)を有する。バリアントの核酸又はタンパク質の機能的同等性は、当該技術
分野において既知の任意の方法を使用して評価することができる。
【0041】
核酸は、当該技術分野において既知の任意の方法を使用して、本開示の微生物に送達さ
れ得る。例えば、核酸は、裸の核酸として送達されてもよく、リポソームなどの1つ以上
の薬剤とともに配合されてもよい。核酸は、必要に応じて、DNA、RNA、cDNA、
又はそれらの組み合わせであってもよい。ある特定の実施形態では、制限阻害剤を使用し
てもよい。追加のベクターには、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、コスミド
、及び人工染色体が含まれ得る。好ましい実施形態では、核酸は、プラスミドを使用して
本開示の微生物に送達される。例として、形質転換(形質導入又はトランスフェクション
を含む)は、エレクトロポレーション、超音波処理、ポリエチレングリコール媒介形質転
換、化学的又は自然のコンピテンス、プロトプラスト形質転換、プロファージ誘発、又は
共役によって達成され得る。活性制限酵素系を有するある特定の実施形態では、核酸を微
生物に導入する前に核酸をメチル化する必要があり得る。
【0042】
更に、核酸は、特定の核酸の発現を増加又は別の方法で制御するために、プロモータな
どの調節エレメントを含むように設計されてもよい。プロモータは、構成的プロモータ又
は誘導性プロモータであり得る。理想的には、プロモータは、Wood-Ljungda
hl経路プロモータ、ピルベート、フェレドキシンオキシドレダクターゼプロモータ、R
nf複合体オペロンプロモータ、ATPシンターゼオペロンプロモータ、又はホスホトラ
ンスアセチラーゼ/アセテートキナーゼオペロンプロモータである。
【0043】
「微生物」は、顕微鏡生物、特に細菌、古細菌、ウイルス、又は真菌である。本開示の
微生物は、典型的には細菌である。本明細書で使用される場合、「微生物」の引用は、「
細菌」を網羅するものと解釈されるべきである。
【0044】
「親微生物」は、本開示の微生物を生成するために使用される微生物である。親微生物
は、自然発生型の微生物(すなわち、野生型微生物)又は以前に修飾されたことのある微
生物(すなわち、変異体又は組換え微生物)であり得る。本開示の微生物は、親微生物に
おいて発現又は過剰発現されなかった1つ以上の酵素を発現又は過剰発現するように修飾
され得る。同様に、本開示の微生物は、親微生物によって含有されなかった1つ以上の遺
伝子を含有するように修飾され得る。本開示の微生物は、親微生物において発現されたよ
り少ない量の1つ以上の酵素を発現しないように、又は発現するようにも修飾され得る。
一実施形態では、親微生物は、Clostridium autoethanogenu
m、Clostridium ljungdahlii、又はClostridium
ragsdaleiである。好ましい実施形態では、親微生物は、Inhoffenst
rabe 7B,D-38124 Braunschweig,Germanyに所在す
るDeutsche Sammlung von Mikroorganismen u
nd Zellkulturen GmbH(DSMZ)に、ブダペスト条約の条項下で
、2010年6月7日に寄託され、受託番号DSM23693を付与された、Clost
ridium autoethanogenum LZ1561である。この株は、国際
公開第2012/015317号として公開されている国際特許出願第NZ2011/0
00144号に記載されている。
【0045】
「から誘導される」という用語は、新しい核酸、タンパク質、又は微生物を生成するよ
うに、核酸、タンパク質、又は微生物が異なる(例えば、親又は野生型)核酸、タンパク
質、又は微生物から修飾又は適合されることを示す。そのような修飾又は適合は、典型的
には、核酸又は遺伝子の挿入、欠失、変異、又は置換を含む。一般に、本開示の微生物は
、親微生物に由来する。一実施形態では、本発明の親微生物は、Clostridium
autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii
、又はClostridium ragsdaleiに由来する。好ましい実施形態では
、本開示の微生物は、DSMZ受託番号DSM23693の下で寄託される、Clost
ridium autoethanogenum LZ1561に由来する。
【0046】
本開示の微生物は、官能的特性に基づいて更に分類され得る。例えば、本開示の微生物
は、C1固定微生物、嫌気性生物、アセトゲン、エタノロゲン、カルボキシド栄養生物(
carboxydotroph)、及び/又はメタン資化性菌(methanotroph)であり得るか、又はそれ
らに由来し得る。表1は、微生物の代表的なリストを提供し、微生物の機能特性を特定す
る。
【0047】
【0048】
「Wood-Ljungdahl」は、例えば、Ragsdale,Biochim
Biophys Acta,1784:1873-1898,2008に記載される炭素
固定のWood-Ljungdahl経路を指す。「Wood-Ljungdahl微生
物」は、予想通り、Wood-Ljungdahl経路を含む微生物を指す。一般に、本
開示の微生物は、天然のWood-Ljungdahl経路を含有する。本明細書におい
て、ウッド-ユングダール経路は、天然の未修飾のウッド-ユングダール経路であり得る
か、あるいはCO、CO2、及び/又はH2をアセチル-CoAに変換するように依然と
して機能する限り、ある程度の遺伝子修飾(例えば、過剰発現、異種発現、ノックアウト
など)を有するウッド-ユングダール経路であり得る。
【0049】
「C1」は、1炭素分子、例えば、CO、CO2、CH4、又はCH3OHを指す。「
C1酸素化物」は、少なくとも1つの酸素原子も含む1炭素分子、例えば、CO、CO2
、又はCH3OHを指す。「C1炭素源」は、本開示の微生物のための部分的又は唯一の
炭素源として機能する1つの炭素分子を指す。例えば、C1炭素源は、CO、CO2、C
H4、CH3OH、又はCH2O2のうちの1つ以上を含み得る。好ましくは、C1炭素
源は、CO及びCO2のうちの1方又は両方を含む。「C1固定微生物」は、C1炭素源
から1つ以上の生産物を生産する能力を有する微生物である。典型的には、本開示の微生
物は、C1固定細菌である。好ましい実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定され
るC1固定微生物に由来する。
【0050】
「嫌気性生物」は、増殖のために酸素を必要としない微生物である。嫌気性生物は、酸
素が特定の閾値を超えて存在する場合、負の反応を示し得るか、又は死滅し得る。しかし
ながら、いくつかの嫌気性生物は、低レベルの酸素(例えば、0.000001~5%の
酸素)を許容可能である。典型的には、本開示の微生物は、嫌気性生物である。好ましい
実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定される嫌気性生物に由来する。
【0051】
「アセトゲン」は、エネルギー節約のため、並びにアセテートなどのアセチル-CoA
及びアセチル-CoA由来の生産物の合成のためのその主要機構としてWood-Lju
ngdahl経路を使用する、偏性嫌気性細菌である(Ragsdale,Biochi
m Biophys Acta,1784:1873-1898,2008)。特に、ア
セトゲンは、Wood-Ljungdahl経路を、(1)CO2からのアセチル-Co
Aの還元合成のための機構、(2)末端電子受容、エネルギー節約プロセス、(3)細胞
炭素の合成におけるCO2の固定(同化)のための機構として使用する(Drake,A
cetogenic Prokaryotes,In:The Prokaryotes
,3rd edition,p.354,New York,NY,2006)。全ての
自然発生するアセトゲンは、C1固定、嫌気性、独立栄養性、及び非メタン資化性である
。典型的には、本開示の微生物は、アセトゲンである。好ましい実施形態では、本開示の
微生物は、表1で特定されるアセトゲンに由来する。
【0052】
「エタノロゲン」は、エタノールを生成する、又は生成することが可能である微生物で
ある。典型的には、本開示の微生物はエタノロゲンである。好ましい実施形態では、本開
示の微生物は、表1で特定されるエタノロゲンに由来する。
【0053】
「独立栄養生物」は、有機炭素の不在下でも増殖することが可能な微生物である。代わ
りに、独立栄養生物は、CO及び/又はCO2などの無機炭素源を使用する。典型的には
、本開示の微生物は、独立栄養生物である。好ましい実施形態では、本開示の微生物は、
表1で特定される独立栄養生物に由来する。
【0054】
「カルボキシド栄養生物」は、炭素及びエネルギーの唯一の供給源としてCOを利用す
ることが可能な微生物である。典型的には、本開示の微生物は、カルボキシド栄養生物で
ある。好ましい実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定されるカルボキシド栄養生
物に由来する。
【0055】
「メタン資化性菌」は、炭素とエネルギーの唯一の供給源としてメタンを利用すること
が可能な微生物である。特定の実施形態では、本開示の微生物は、メタン資化性菌である
か、又はメタン資化性菌に由来する。他の実施形態では、本開示の微生物は、メタン資化
性菌ではないか、又はメタン資化性菌に由来しない。
【0056】
より広くは、本開示の微生物は、表1で特定される任意の属又は種に由来し得る。例え
ば、微生物は、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blau
tia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacter
ium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、及びTherm
oanaerobacterからなる群から選択される属のメンバーであり得る。特に、
微生物は、Acetobacterium woodii、Alkalibaculum
bacchii、Blautia producta、Butyribacteriu
m methylotrophicum、Clostridium aceticum、
Clostridium autoethanogenum、Clostridium
carboxidivorans、Clostridium coskatii、Clo
stridium drakei、Clostridium formicoaceti
cum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium
magnum、Clostridium ragsdalei、Clostridium
scatologenes、Eubacterium limosum、Moorel
la thermautotrophica、Moorella thermoacet
ica、Oxobacter pfennigii、Sporomusa ovata、
Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroi
des、及びThermoanaerobacter kivuiからなる群から選択さ
れる親細菌に由来し得る。
【0057】
好ましい実施形態では、本開示の微生物は、Clostridium autoeth
anogenum種、Clostridium ljungdahlii種、及びClo
stridium ragsdalei種を含むClostridiaのクラスターに由
来する。これらの種は、Abrini,Arch Microbiol,161:345
-351,1994(Clostridium autoethanogenum)、T
anner,Int J System Bacteriol,43:232-236,
1993(Clostridium ljungdahlii)、及びHuhnke,国
際公開第2008/028055号(Clostridium ragsdalei)に
よって最初に報告され、特徴付けられた。
【0058】
これらの3つの種は、多くの類似点を有する。特に、これらの種は全て、C1固定、嫌
気性、アセトゲン性、エタノロゲン性、及びカルボキシド栄養性のClostridiu
m属メンバーである。これらの種は、同様の遺伝子型及び表現型並びにエネルギー節約及
び発酵代謝のモードを有する。更に、これらの種は、99%を超えて同一である16S
rRNA DNAを有するクロストリジウムrRNA相同性群I内に群生し、約22~3
0mol%のDNA G+C含有量を有し、グラム陽性であり、同様の形態及びサイズを
有し(0.5~0.7×3~5μmの対数成長細胞)、中温性であり(30~37℃で最
適に成長する)、約4~7.5の同様のpH範囲を有し(約5.5~6の最適pHを有す
る)、シトクロムを欠いており、Rnf複合体を介してエネルギーを節約する。また、カ
ルボン酸のそれらの対応するアルコールへの還元が、これらの種において示されている(
Perez,Biotechnol Bioeng,110:1066-1077,20
12)。重要なことに、これらの種は全て、COを含有するガスで強い独立栄養増殖も示
し、主な発酵生産物としてエタノール及びアセテート(又は酢酸)も生産し、ある特定の
条件下で少量の2,3-ブタンジオール及び乳酸も生産する。
【0059】
しかしながら、これら3つの種は、いくつかの違いも有する。これらの種は、ウサギの
腸からのClostridium autoethanogenum、養鶏場の廃棄物か
らのClostridium ljungdahlii、及び淡水堆積物からのClos
tridium ragsdaleiの、異なる源から単離された。これらの種は、様々
な糖(例えば、ラムノース、アラビノース)、酸(例えば、グルコン酸、クエン酸)、ア
ミノ酸(例えば、アルギニン、ヒスチジン)、及び他の基質(例えば、べタイン、ブタノ
ール)の利用において異なる。更に、これらの種は、特定のビタミン(例えば、チアミン
、ビオチン)に対する栄養要求性において異なる。これらの種は、Wood-Ljung
dahl経路遺伝子及びタンパク質の核酸及びアミノ酸配列に違いを有するが、これらの
遺伝子及びタンパク質の一般的な組織及び数は、全ての種で同じであることがわかってい
る(Kopke,Curr Opin Biotechnol,22:320-325,
2011)。
【0060】
したがって、要約すると、Clostridium autoethanogenum
、Clostridium ljungdahlii、又はClostridium r
agsdaleiの特徴の多くは、その種に特有ではなく、むしろC1固定、嫌気性、ア
セトゲン性、エタノロゲン性、及びカルボキシド栄養性のClostridium属のメ
ンバーのこのクラスターの一般的な特徴である。しかしながら、これらの種は、実際は、
全く異なるため、これらの種のうちの1つの遺伝子修飾又は操作は、これらの種のうちの
別のものにおいては同一の効果がない場合がある。例えば、増殖、性能、又は生成物生成
における違いが観察され得る。
【0061】
本開示の微生物は、Clostridium autoethanogenum、Cl
ostridium ljungdahlii、又はClostridium rags
daleiの分離株又は変異体にも由来し得る。Clostridium autoet
hanogenumの分離株及び変異体としては、JA1-1(DSM10061)(A
brini,Arch Microbiol,161:345-351,1994)、L
Z1560(DSM19630)(国際公開第2009/064200号)、及びLZ1
561(DSM23693)(国際公開第2012/015317号)が挙げられる。C
lostridium ljungdahliiの分離株及び変異体としては、ATCC
49587(Tanner,Int J Syst Bacteriol,43:232
-236,1993)、PETCT(DSM13528、ATCC55383)、ERI
-2(ATCC55380)(米国特許第5,593,886号)、C-01(ATCC
55988)(米国特許第6,368,819号)、O-52(ATCC55989)(
米国特許第6,368,819号)、及びOTA-1(Tirado-Acevedo,
Production of bioethanol from synthesis
gas using Clostridium ljungdahlii,PhD th
esis,North Carolina State University,201
0)が挙げられる。Clostridium ragsdaleiの分離株及び変異体と
しては、PI 1(ATCC BAA-622、ATCC PTA-7826)(国際公
開第2008/028055号)が挙げられる。
【0062】
「基質」は、本開示の微生物のための炭素及び/又はエネルギー源を指す。一般に、基
質は、ガス状であり、C1炭素源、例えば、CO、CO2、及び/又はCH4を含む。好
ましくは、基質は、CO又はCO+CO2のC1炭素源を含む。基質は、H2、N2、又
は電子などの他の非炭素構成要素を更に含み得る。
【0063】
基質は、概して、約1、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、
90、又は100mol%のCOなどの少なくともいくらかの量のCOを含む。基質は、
約20~80、30~70、又は40~60mol%のCOなど、ある範囲のCOを含み
得る。好ましくは、基質は、約40~70mol%のCO(例えば、製鋼所又は高炉ガス
)、約20~30mol%のCO(例えば、塩基性酸素高炉ガス)、又は約15~45m
ol%のCO(例えば、合成ガス)を含む。いくつかの実施形態では、基質は、約1~1
0又は1~20mol%のCOなどの比較的低い量のCOを含み得る。本開示の微生物は
、典型的には、基質中のCOの少なくとも一部分を生産物に変換する。いくつかの実施形
態では、基質は、COを含まないか、又は実質的に含まない(1モル%未満)。
【0064】
基質は、いくらかの量のH2を含み得る。例えば、基質は、約1、2、5、10、15
、20、又は30mol%のH2を含み得る。いくつかの実施形態では、基質は、約60
、70、80、又は90mol%のH2などの比較的多量のH2を含み得る。更なる実施
形態では、基質は、H2を含まないか、又は実質的に含まない(1モル%未満)。
【0065】
基質は、いくらかの量のCO2を含み得る。例えば、基質は、約1~80又は1~30
mol%のCO2を含み得る。いくつかの実施形態では、基質は、約20、15、10、
又は5mol%未満のCO2を含み得る。別の実施形態では、基質は、CO2を含まない
か、又は実質的に含まない(1モル%未満)。
【0066】
基質は典型的にはガス状であるが、基質はまた、代替的な形態で提供されてもよい。例
えば、基質は、マイクロバブル分散物発生装置を使用して、CO含有ガスで飽和した液体
中に溶解されてもよい。更なる例として、基質は、固体支持体上に吸着されてもよい。
【0067】
基質及び/又はC1炭素源は、自動車の排出ガス又はバイオマスガス化からなど、産業
プロセスの副産物として得られる、又は何らかの他の源からの廃ガスであってもよい。特
定の実施形態では、産業プロセスは、製鋼所製造などの鉄金属生成物製造、非鉄金属生成
物製造、石油精製、石炭ガス化、電力生成、カーボンブラック生成、アンモニア生成、メ
タノール生成、及びコークス製造からなる群から選択される。これらの実施形態では、基
質及び/又はC1炭素源は、任意の簡便な方法を使用して、それが大気中に放出される前
に産業プロセスから捕捉されてもよい。
【0068】
基質及び/又はC1炭素源は、石炭若しくは精錬残渣のガス化、バイオマス若しくはリ
グノセルロース物質のガス化、又は天然ガスの改質によって得られる合成ガスなど、合成
ガスであってもよい。別の実施形態では、合成ガスは、都市固形廃棄物又は産業固形廃棄
物のガス化から得てもよい。
【0069】
基質の組成は、反応の効率及び/又は費用に著しい影響を及ぼし得る。例えば、酸素(
O2)の存在は、嫌気性発酵プロセスの効率を低減させ得る。基質の組成に応じて、基質
を処理、スクラブ、又は濾過して、毒素、望ましくない成分、又はちり粒子などのいかな
る望ましくない不純物も除去すること、及び/又は所望の成分の濃度を増加させることが
望ましくあり得る。
【0070】
特定の実施形態では、発酵は、糖、デンプン、リグニン、セルロース、又はヘミセルロ
ースなどの炭水化物基質の不在下で実施される。
【0071】
本開示の微生物は、1つ以上の生産物を生産するようにガス流とともに培養され得る。
例えば、本開示の微生物は、エタノール(国際公開第2007/117157号)、アセ
テート(国際公開第2007/117157号)、1-ブタノール(国際公開第2008
/115080号、国際公開第2012/053905号、及び国際公開第2017/0
66498号)、ブチレート(国際公開第2008/115080号)、2,3-ブタン
ジオール(国際公開第2009/151342号及び国際公開第2016/094334
号)、ラクテート(国際公開第2011/112103号)、ブテン(国際公開第201
2/024522号)、ブタジエン(国際公開第2012/024522号)、メチルエ
チルケトン(2-ブタノン)(国際公開第2012/024522号及び国際公開第20
13/185123号)、エチレン(国際公開第2012/026833号)、アセトン
(国際公開第2012/115527号)、イソプロパノール(国際公開第2012/1
15527号)、脂質(国際公開第2013/036147号)、3-ヒドロキシプロピ
オネート(3-HP)(国際公開第2013/180581号)、イソプレンを含むテル
ペン(国際公開第2013/180584号)、脂肪酸(国際公開第2013/1915
67号)、2-ブタノール(国際公開第2013/185123号)、1,2-プロパン
ジオール(国際公開第2014/0369152号)、1-プロパノール(国際公開第2
017/066498号)、1-ヘキサノール(国際公開第2017/066498号)
、1-オクタノール(国際公開第2017/066498号)、コリスマート由来の生産
物(国際公開第2016/191625号)、3-ヒドロキシブチレート(国際公開第2
017/066498号)、1,3-ブタンジオール(国際公開第2017/06649
8号)、2-ヒドロキシイソブチレート又は2-ヒドロキシイソブチル酸(国際公開第2
017/066498号)、イソブチレン(国際公開第2017/066498号)、ア
ジピン酸(国際公開第2017/066498号)、1,3-ヘキサンジオール(国際公
開第2017/066498号)、3-メチル-2-ブタノール(国際公開第2017/
066498号)、2-ブテン-1-オール(国際公開第2017/066498号)、
イソバレレート(国際公開第2017/066498号)、イソアミルアルコール(国際
公開第2017/066498号)、及びモノエチレングリコール(国際公開第2019
/126400号)を生産することがきるか、又はこれらを生産するように操作すること
ができる。特定の実施形態では、微生物バイオマス自体が生成物とみなされ得る。これら
の生産物は、更に変換されて、ディーゼル、ジェット燃料、及び/又はガソリンのうちの
少なくとも1つの成分を生産し得る。加えて、微生物バイオマスは更に処理されて、単細
胞タンパク質(single cell protein、SCP)を生成し得る。
【0072】
「天然生成物」は、遺伝子修飾されていない微生物によって生成される生成物である。
例えば、エタノール、アセテート、及び2,3-ブタンジオールは、Clostridi
um autoethanogenum、Clostridium ljungdahl
ii、及びClostridium ragsdaleiの天然生産物である。「非天然
生成物」は、遺伝子組換えされた微生物によって生成されるが、遺伝子組換えされた微生
物が由来する遺伝子組換えされていない微生物によって生成されない生成物である。
【0073】
「選択性」は、微生物によって生成される全発酵生成物の生成に対する標的生成物の生
成の比率を指す。本開示の微生物は、ある特定の選択性で、又は最小の選択性で生産物を
生産するように操作され得る。一実施形態では、標的生産物は、本開示の微生物によって
生産される全発酵生産物の少なくとも約5%、10%、15%、20%、30%、50%
、又は75%を占める。一実施形態では、標的生産物は、本開示の微生物が少なくとも1
0%の標的生産物に対して選択性を有するように、本開示の微生物によって生産される全
発酵生産物の少なくとも10%を占める。別の実施形態では、標的生産物は、本開示の微
生物が少なくとも30%の標的生産物に対して選択性を有するように、本開示の微生物に
よって生産される全発酵生産物の少なくとも30%を占める。
【0074】
典型的には、培養は、バイオリアクター中で実施される。「バイオリアクター」という
用語は、連続撹拌槽反応器(continuous stirred tank reactor、CSTR)、固定化細
胞反応器(immobilized cell reactor、ICR)、トリクルベッド反応器(trickle bed
reactor、TBR)、気泡塔、ガスリフト発酵槽、静的ミキサ、又はガス-液体接触に適
した他の容器若しくは他のデバイスなどの1つ以上の容器、塔、又は配管配置からなる培
養/発酵デバイスを含む。いくつかの実施形態では、バイオリアクターは、第1の増殖反
応器及び第2の培養/発酵反応器を含み得る。基質は、これらの反応器のうちの1つ又は
両方に提供され得る。本明細書で使用する場合、「培養」及び「発酵」という用語は、同
じ意味で使用される。これらの用語は、培養/発酵プロセスの増殖期及び生成物生合成期
の両方を包含する。
【0075】
培養物は概して、微生物の増殖を可能にするのに十分な栄養素、ビタミン、及び/又は
無機物を含有する水性培地中で維持される。好ましくは、水性培地は、最小嫌気性微生物
増殖培地などの嫌気性微生物培地である。好適な培地は、当該技術分野において既知であ
る。
【0076】
培養/発酵は、望ましくは、標的生成物の生成に適切な条件下で実施されるべきである
。典型的には、培養/発酵は、嫌気性条件下で実施される。考慮すべき反応条件は、圧力
(又は分圧)、温度、ガス流速、液体流速、培地pH、培地酸化還元電位、撹拌速度(連
続撹拌槽反応器を使用する場合)、接種レベル、液相中のガスが制限的にならないことを
確実にするための最大ガス基質濃度、及び生成物阻害を回避するための最大生成物濃度を
含む。
【0077】
一実施形態は、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位でのDNAのノックイ
ンを含む遺伝子操作された微生物である。
【0078】
DNAが、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子のコード領域を置き換える、実
施形態の微生物。
【0079】
DNAが、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータを置き換えない、実施形態
の微生物。
【0080】
微生物が、2,3-ブタンジオールを生産しない、実施形態の微生物。
【0081】
DNAが、1つ以上の酵素をコードする、実施形態の微生物。
【0082】
1つ以上の酵素が、微生物に対して非天然である、実施形態の微生物。
【0083】
1つ以上の酵素が、微生物に対して天然である、実施形態の微生物。
【0084】
1つ以上の酵素が、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータの制御下にある、
実施形態の微生物。
【0085】
DNAが、プロモータを含む、実施形態の微生物。
【0086】
1つ以上の酵素が、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータ及び少なくとも1
つの他のプロモータの両方の制御下にある、実施形態の微生物。
【0087】
1つ以上の酵素が、チオラーゼ、CoAトランスフェラーゼ、及びアセトアセテートデ
カルボキシラーゼ又はアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される
デカルボキシラーゼを含む、実施形態の微生物。
【0088】
微生物が、アセトン及びイソプロパノールのうちの1つ以上を生産する、実施形態の微
生物。
【0089】
微生物が、一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子に破壊的変異を更に含む、実
施形態の微生物。
【0090】
1つ以上の酵素が、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチル
ケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート
、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プ
ロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生産物、3-ヒ
ドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは
2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、
3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルア
ルコール、又はモノエチレングリコールの生産を可能にする、実施形態の微生物。
【0091】
微生物が、C1固定微生物である、実施形態の微生物。
【0092】
微生物が、Wood-Ljungdahl微生物である、実施形態の微生物。
【0093】
微生物が、細菌である、実施形態の微生物。
【0094】
微生物が、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blaut
ia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacteri
um、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、及びThermo
anaerobacterから選択される属のメンバーである、実施形態の微生物。
【0095】
一実施形態が、ガス状基質の存在下で請求項1に記載の微生物を培養することを含む、
生産物を生産する方法である。
【0096】
ガス状基質が、CO、CO2、及びH2を含むC1炭素源を含む、実施形態の方法。
【0097】
ガス状基質が、合成ガス又は産業廃棄物ガスを含む、実施形態の方法。
【0098】
生産物が、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、
エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、テルペ
ン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノー
ル、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生産物、3-ヒドロキシ
ブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは2-ヒド
ロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-メチ
ル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルアルコール
、又はモノエチレングリコールである、実施形態の方法。
【実施例0099】
以下の実施例は、本開示を更に例示するが、当然のことながら、いかなる方法によって
もその範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0100】
(実施例1)
この実施例は、ΔbudAΔsecAdh微生物を説明する。
【0101】
アセトラクテートデカルボキシラーゼは、2,3-ブタンジオール(2,3-BDO)
(Kopke,Appl Env Microbiol,80:3394-3405,2
014)の形成のための重要なステップであり、この酵素をノックアウトすることは、2
,3-BDO産生を全滅させることが実証されている(国際公開第2013/11565
9号)。アセトンなどの他の異種生産物に向かって流動を導くために、それぞれのbud
A遺伝子は、生産を改善することが予測された。
【0102】
ΔbudAΔsecAdhを得るための、一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(s
ecAdh)遺伝子(ΔsecAdh)をすでに含有するC.autoethanoge
numの株におけるbudAのノックアウト(国際公開第2015/085015号)。
budAのノックアウトは、前述のように実施した(国際公開2013/115659号
)。
【0103】
単一コロニーを、単離し、新鮮な適切な選択プレートに再ストリークし、次いでダブル
クロスオーバーイベントについてスクリーニングした。正確なサイズのPCR産物を有し
た、確認されたダブルクロスオーバーイベントを再び再ストリークして、プラスミド損失
を確保した。正しいコロニーを液体培地に採取し、凍結ストックを調製した。遺伝子型を
全ゲノム配列決定によって確認し、表現型を増殖研究及び連続撹拌槽反応器(CSTR)
の実行を通じて確認した。
図1に示されるように、代謝産物生産及びガス消費/生産の振
動が観察された。
【0104】
(実施例2)
この実施例は、プラスミドからアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)を発現
するΔbudAΔsecAdh微生物を説明する。
【0105】
実施例1のΔbudAΔsecAdh微生物を更に修飾して、アセトン経路(thlA
、ctfAB、adc)を含有するプラスミドを導入した。この株は、同じ経路を伴い、
同じ増殖条件下であるが、budAのノックアウトを伴わない状態で、親ΔsecAdh
株よりも少ないアセトンを生産した。budAのノックアウトは、2,3-BDOからの
炭素流動を、アセトン及び/又はエタノールなどの他の代謝産物に再方向付けるであろう
と期待されるため、これは驚くべきことである。
【0106】
更に、この株は、十分に増殖しないか、又は50%のCO、10%のH2、30%のC
O2、残りN2のガス混合物を用いてCSTR中の安定したアセトン産生を実証した(図
2)。再び、振動パターンは、増殖中に観察された:生産のピーク及びトラフ、トラフと
の協調におけるCO及び水素の取り込み、並びにアセテート及びCO2生産のピーク。
【0107】
(実施例3)
この実施例は、アセトラクテートデカルボキシラーゼ(budA)遺伝子座位でのアセ
トン経路(thlA、ctfAB、adc)のノックインを有するΔsecAdh微生物
を説明する。
【0108】
budA座位でのアセトン経路ノックインのためのKI/KOプラスミドを、budA
KOプラスミドを骨格として使用して構築し、アセトン経路を、budA KOプラス
ミドの5’budA KO相同性アームと3’budA KO相同性アームとの間に挿入
した。アセトン経路は、Pferプロモータの制御下でthlA、ctfAB、及びad
cを含有した。完全なKI/KOプラスミドを、GeneArt Seamless C
loning and Assembly Kit(ThermoFisher Sci
entific)を使用して組み立てた。正しいKI/KOプラスミドをPCRスクリー
ニングし、配列決定によって確認した。
【0109】
KI変異体を得るプロセスは、budA KO株の構築で説明したものと同じであり、
budA座位で導入されたアセトン経路を有するΔbudAΔsecAdh株を得た。P
CRスクリーニングを実行し、正確なサイズのPCR産物を有するコロニーを増殖させ、
ゲノムDNAを単離し、遺伝子型を確認するために全ゲノムDNA配列決定に供した。
【0110】
株を、50%のCO、10%のH
2、30%のCO
2、残りN
2のガス混合物を用いて
CSTR中で増殖させた。株は十分に成長し、高レベルのアセトンを生産した(
図3)。
【0111】
(実施例4)
この比較例は、官能性一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)を有す
る微生物、及び二官能性アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ(adhE1+adh
E2)遺伝子座位でのアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)のノックインを説
明する。一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)は、この株がアセトン
ではなくイソプロパノールを生産するように、アセトンをイソプロパノールに変換する。
【0112】
アセトン経路を、上記のものと同様のステップで、adhE1+adhE2座位で挿入
した。相同性アームを、PCRを介して増幅し、遺伝子型を配列決定によって確認した。
【0113】
株は、CSTRでは不十分に成長し、イソプロパノール又はエタノールウェルを十分に
生産しなかった(
図4)。エタノール及びイソプロパノールのかなりの生産のために十分
な細胞バイオマスを有するのに、反応器内で約6日間かかった。発酵は、実験の2週間経
過にわたって安定ではなかった。したがって、adhE1+adhE2座位でのノックイ
ンは、budA遺伝子座でのノックインと同じ利益を与えない。
【0114】
(実施例5)
この実施例は、budA座位での他の遺伝子又は経路の組み入れについて説明する。
【0115】
Wood-Ljungdahl微生物は、1-ブタノール(国際公開第2008/11
5080号、国際公開第2012/053905号、及び国際公開第2017/0664
98号)、ブチレート(国際公開第2008/115080号)、ブタン(国際公開第2
012/024522号)、ブタジエン(国際公開第2012/024522号)、メチ
ルエチルケトン(2-ブタノン)(国際公開第2012/024522号及び国際公開第
2013/185123号)、エチレン(国際公開第2012/026833号)、アセ
トン(国際公開第2012/115527号)、イソプロパノール(国際公開第2012
/115527号)、脂質(国際公開第2013/036147号)、3-ヒドロキシプ
ロピオネート(3-HP)(国際公開第2013/180581号)、イソプレンを含む
テルペン(国際公開第2013/180584号)、脂肪酸(国際公開第2013/19
1567号)、2-ブタノール(国際公開第2013/185123号)、1,2-プロ
パンジオール(国際公開第2014/0369152号)、1-プロパノール(国際公開
第2017/066498号)、1-ヘキサノール(国際公開第2017/066498
号)、1-オクタノール(国際公開第2017/066498号)、コリスマート由来の
生産物(国際公開第2016/191625号)、3-ヒドロキシブチレート(国際公開
第2017/066498号)、1,3-ブタンジオール(国際公開第2017/066
498号)、2-ヒドロキシイソブチレート又は2-ヒドロキシイソブチル酸(国際公開
第2017/066498号)、イソブチレン(国際公開第2017/066498号)
、アジピン酸(国際公開第2017/066498号)、1,3-ヘキサンジオール(国
際公開第2017/066498号)、3-メチル-2-ブタノール(国際公開第201
7/066498号)、2-ブテン-1-オール(国際公開第2017/066498号
)、イソバレレート(国際公開第2017/066498号)、イソアミルアルコール(
国際公開第2017/066498号)、及びモノエチレングリコール(国際公開第20
19/126400号)を含む、様々な非天然生産物を生産するように、すでに操作され
ている。これらの遺伝子又は経路のうちのいずれも、budA座位でノックインされて、
改善された性能を有する株を得ることができる。
【0116】
一実施形態では、ノックインDNAは、例えば、thlA及びhbdを含む3-ヒドロ
キシブチレート経路をコードする。一実施形態では、ノックインDNAは、例えば、th
lA、ctfAB、及びhbdを含む代替的な3-ヒドロキシブチレート経路をコードす
る。一実施形態では、ノックインDNAは、例えば、thlA、hbd、bcd、及びe
tfABを含むブタノール経路をコードする。一実施形態では、ノックインDNAは、例
えば、thlA、HMGS、及びHMGRを含むメバロナートを含む。これらの経路は、
1つ以上のプロモータ、例えば、P-budA及び/又はPferの制御下にあり得る。
【0117】
本明細書に列挙される公表文献、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考
文献が、あたかも参照により組み込まれることが個々にかつ具体的に示され、その全体が
本明細書中に記載された場合と同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。本明
細書における任意の先行技術への言及は、その先行技術が任意の国の努力傾注分野におい
て共通の一般知識の一部をなすという認識ではなく、そのように解釈されるべきではない
。
【0118】
本開示を説明する文脈において(特に、以下の特許請求の範囲の文脈において)、用語
「a」及び「an」及び「the」並びに同様の指示語の使用は、本明細書に別段の指示
がない限り、又は文脈と明らかに相反することがない限り、単数及び複数の両方を包含す
ると解釈されるものとする。用語「備える(comprising)」、「有する」、「含む(incl
uding)」、及び「含有する(containing)」は、別段の断りのない限り、非限定的な用
語(すなわち、「を含むがこれらに限定されない」ことを意味する)と解釈されるものと
する。「から本質的になる」という用語は、組成物、プロセス、又は方法の範囲を、特定
の材料、又はステップ、又は組成物、プロセス若しくは方法の基本的及び新規の特性に実
質的に影響しないものに限定する。選択詞の使用(例えば、「又は」)は、選択詞のいず
れか1つ、両方、又はこれらの任意の組み合わせを意味すると理解されるべきである。本
明細書で使用される場合、「約」という用語は、別段の指示がない限り、指示された範囲
、値、又は構造の±20%を意味する。
【0119】
本明細書の値の範囲の記述は、本明細書に別段の指示がない限り、範囲内に入る各個々
の値を個々に言及する省略法としての役割を果たすことを単に意図し、各個々の値は、あ
たかも本明細書に個々に列挙されたかのように、本明細書中に組み込まれる。例えば、任
意の濃度範囲、パーセント範囲、比率範囲、整数範囲、サイズ範囲、又は厚さ範囲は、別
段の指示がない限り、列挙された範囲内の任意の整数の値、及び適切な場合、その分数(
整数の10分の1、及び100 分の1など)を含むと理解されるべきである。
【0120】
本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と別
段明らかに相反することがない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書に提供
されるありとあらゆる例又は例示的な言葉(例えば、「など」)の使用は、本発明をより
良く解明することを単に意図し、別段の主張がない限り、本発明の範囲を制限しない。本
明細書におけるいかなる言葉も、本開示の実践に不可欠な任意の請求されていない要素を
示すものと解釈されるべきではない。
【0121】
本開示の好ましい実施形態が本明細書に記載される。それらの好ましい実施形態の変化
形は、上記の説明を読むことによって当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者
が必要に応じてそのような変化形を採用することを予想し、本発明者らは、本開示が本明
細書に具体的に記載されるものとは別の方法で実践されることを意図する。したがって、
本開示は、適用法によって許可された通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載
される主題の全ての修正物及び同等物を含む。更に、その全ての考えられる変化形におけ
る上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と別段
明らかに相反することがない限り、本開示によって包含される。