(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007351
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】炭素素材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20240110BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C01B32/05
B01D61/02 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092982
(22)【出願日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2022107064
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】318008886
【氏名又は名称】ジカンテクノ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518148294
【氏名又は名称】木下 貴博
(74)【代理人】
【識別番号】100167690
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 直
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴博
【テーマコード(参考)】
4D006
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA01
4D006JA57Z
4D006KA01
4D006KA33
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4G146AA01
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4G146BC36A
4G146BC37A
4G146BC37B
4G146CA16
4G146DA07
4G146DA48
4G146DA50
(57)【要約】
【課題】本発明は、ナノカーボンの素材である炭素素材の大量生産に適した製造方法を提供し、高純度な炭素素材や機能性を持った炭素素材を提供することにある。
【解決手段】植物性原料をアルカリ性の水溶液に浸し、ケイ素成分を水溶液中に抽出し、植物性原料からケイ素成分を除いて、植物性原料をアルカリ性の雰囲気にする水溶性浸透処理工程(S2)と、水溶性浸透処理工程の後に植物性原料の水溶液の水分を取り除いて(S3、S4)pHが9以上のアルカリ性の雰囲気の状態の植物性原料を無酸素の状態で且つ900℃以上の温度にて2時間以上燃焼する炭化工程(S5)と、炭化処理後の炭化物をアルカリ性の雰囲気から中性へ移行する中和処理によって炭素素材を得る中和工程(S6)と、を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性原料をアルカリ性の水溶液に浸し、ケイ素成分を水溶液中に抽出し、植物性原料からケイ素成分を除いて、植物性原料をアルカリ性の雰囲気にする水溶性浸透処理工程と、
前記植物性原料を容器に収納し、回転式の脱水装置によって回転をし、前記植物性原料に含まれる水分を脱水する脱水工程と、
前記水溶性浸透処理工程の後に植物性原料の水溶液の水分を取り除いてpHが9以上のアルカリ性の雰囲気の状態の植物性原料を無酸素の状態で且つ900℃以上の温度にて2時間以上燃焼する炭化工程と、
炭化処理後の炭化物をアルカリ性の雰囲気から中性へ移行する中和処理によって炭素素材を得る中和工程と、を含むことを特徴とする炭素素材の製造方法。
【請求項2】
前記脱水装置の回転する回転数は、300rpmから3000rpmであることを特徴とする請求項1に記載の炭素素材の製造方法。
【請求項3】
前記中和工程は、アルカリを含んだ水分を逆浸透膜に通過させて中和をする逆浸透膜工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の炭素素材の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法によって得られた炭素素材であって、水蒸気吸着測定法により測定され、BET式による比表面積が、炭素素材が、800m2/gから2000m2/gであることを特徴とする炭素素材。
【請求項5】
水蒸気吸着測定法により測定され、BET式による比表面積が、炭素素材が、1000m2/gから1800m2/gであり、0.1wt%から5wt%のケイ酸成分を含んだことを特徴とする請求項4に記載の炭素素材。
【請求項6】
前記粉砕工程で得られた前記植物性原料を水洗いする洗浄工程と、
前記洗浄工程の後に前記植物性原料を容器に収納し、回転式の脱水装置によって回転をし、前記植物性原料に含まれる水分を脱水する脱水工程と、
前記植物性原料を焼成する焼成工程と、
を含むことを特徴とする炭素素材の製造方法。
【請求項7】
前記脱水装置の回転する回転数は、300rpmから3000rpmであることを特徴とする請求項6に記載の炭素素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性原料を植物性原料として、短時間により多くの炭素素材を製造する方法及びその製造方法により得られた炭素素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からナノカーボンを製造する方法には、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)等がある。その中でも量産化される方法として知られているのは化学気相成長法(CVD法)の一種であるスーパーグローズ法により、単層のカーボンナノチューブが量産化されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、有機物処理材料を熱分解してタール混入熱分解液を回収する熱分解液回収手段と、回収したタール混入熱分解液からタール分を除去する熱分解液タール分除去手段と、タール分を除去した熱分解液からナノカーボンを生成するナノカーボン生成手段とを有し、有機物処理材料からナノカーボンを製造することを特徴とするナノカーボン製造装置の発明が挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献2には、中心部に貫通孔を有した仕切り板により仕切られた還元雰囲気の熱分解室及びナノカーボン生成室を有する回転ドラムと、ナノカーボン生成室内に配置されたナノカーボン生成板と、回転ドラムの外周部に配置された電気ヒータと、熱分解室にバイオマス原料又は廃棄物を供給する原料供給手段と、ナノカーボン生成板に生成されたナノカーボンを掻き取る掻取り手段とを具備し、熱分解室でバイオマス原料又は廃棄物を熱分解し、炭化水素を含んだ熱分解ガスをナノカーボン生成室へ送り、このナノカーボン生成室内でナノカーボン生成板と熱分解ガスを還元雰囲気で接触させてナノカーボン生成板にナノカーボンを生成して成長させることを特徴とするナノカーボン製造装置の発明が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献3には、カーボンナノホーンを含む焼結体の製造方法であって、 流体中のアーク放電又はコロナ放電により製造されたカーボンナノホーンを含む予備成形体を、1000℃以上の温度に加熱し加圧して焼結する焼結工程、を備える製造方法の発明が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-242180号公報
【特許文献2】特開2010-042935号公報
【特許文献3】国際公開WO2013/058382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3のように化石由来の原料から炭素素材を製造する方法があるが、二酸化炭素低減の観点から、特許文献1及び2は、化石由来の原料を使用せずに、バイオマス材料を使用して炭素素材を得ることが可能である。
バイオマス材料は、グラファイトや炭化水素ガスに比較して低コストであり、安価に原料を調達することも可能である。
【0008】
また、アルカリ処理によって炭化物を賦活しナノレベルの孔を形成する方法がよく知られているが、強アルカリと共に炭化物を高温により処理する場合には、製造装置の金属が溶けて製造装置が高コストとなるという問題がある。また、従来の製造方法では、炭素素材における導電性の付与が十分ではないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、炭素材料を大量に製造する方法、その製造方法によって製造される炭素素材及び導電性の高く、また純度の高いい炭素素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
植物性原料をアルカリ性の水溶液に浸し、ケイ素成分を水溶液中に抽出し、植物性原料からケイ素成分を除いて、植物性原料をアルカリ性の雰囲気にする水溶性浸透処理工程と、
前記植物性原料を容器に収納し、回転式の脱水装置によって回転をし、前記植物性原料に含まれる水分を脱水する脱水工程と、
前記水溶性浸透処理工程の後に植物性原料の水溶液の水分を取り除いてpHが9以上のアルカリ性の雰囲気の状態の植物性原料を無酸素の状態で且つ900℃以上の温度にて2時間以上燃焼する炭化工程と、
炭化処理後の炭化物をアルカリ性の雰囲気から中性へ移行する中和処理によって炭素素材を得る中和工程と、を含むことを特徴とす。
【発明の効果】
【0011】
以上の特徴により、本発明は、多量の炭素素材を安価に且つ短時間で効率よく製造することが可能であって、純度が高く導電性の良いい炭素素材の製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の製造工程を示すプロセスフローを示す図である。
【
図2】実施形態の製造装方法で得られた炭素素材のラマンスペクトルである。
【
図3】実施形態の炭化処理を行った植物性原料を炭化した際の走査透過電子顕微鏡により透過して現した写真である。
【
図5】実施形態の中和処理に使用する別例の装置の概念図である。
【
図6】実施形態の製造装方法で得られた様々な植物性原料を炭素化した炭素素材のラマンスペクトルである。
【
図7】実施形態の製造工程を示すプロセスフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる炭素素材の製造方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【0014】
<バイオマス材料>
実施例1から実施例2により炭素素材を製造する植物性原料について説明する。本発明は、食物の残渣や廃棄される植物性原料を使用して最終生成物である炭素素材を製造する。植物性原料は、植物や木材等を使用するが、特に植物を収穫した際の残渣等の廃棄される植物性原料を、炭素素材を製造する原料として使用すれば安価に、原料を入手することが可能である。
【表1】
【0015】
表1は、植物性原料の成分表である。表1は、最も左に示す原料を構成する成分の割合を以下右に百分率で示している。例えば、稲わらは、炭素(C)が37.4%、窒素(N)が0.53%、リン(P)が0.06%、リン酸(P2O5)が0.14%、カリウム(K)が1.75%、カリ(K2O)が2.11%、カルシウム(Ca)が0.05%、マグネシウム(Mg)が0.19%及びナトリウム(Na)が0.11%となっている。
【0016】
ここで、植物由来のケイ素含有の多孔質の植物性原料は、低温(300℃以上且つ1000℃以下)にて炭化しても実質的な変化がなく、ケイ素を除去することで細孔の配列を維持できる。植物性原料は、細胞が軸に沿って規則正しく配列し、細胞壁にケイ酸が沈積して肥厚している構造のものが多くある。
【0017】
そして、ケイ化細胞列の間には圧縮された狭い細胞列があり、炭素化後ケイ素等を除去することにより高い比表面積を有する炭素材料を得ることが可能である。上述したようにケイ酸が13%以上且つ35%以下と多くケイ酸が含まれるものが適している。ケイ酸が多過ぎても得られる炭素素材が少なくなるため、20%程度の範囲の植物性原料が良い。
【0018】
炭素が多く含まれる植物性原料の例として表1に示しているが、稲わらの他に、小麦わら、大麦わら、小麦殻、大麦殻、カカオ殻、カカオポッド、米ぬか、籾殻、そばわら、大豆つる、サツマイモのつる、カブの葉、ニンジンの葉、トウモロコシの稈、サトウキビ梢頭部、ヤシ粕、ピーナッツ殻、みかんの皮、コーヒー殻、レッド杉のおがくず、カラ松の樹皮及び銀杏の落ち葉がある。その他、残渣ではなく植物そのものを使用しても良く。
【0019】
例えば、竹は、繊維素がセルロース、ヘミセルロース、リグニンで構成され、ミネラルが鉄、マグネシウム、カルシウム、マンガン、銅、ニッケル等から構成されているため。 また、竹の葉には焼成すると、シラノール基(Si-OH)が抽出され、焼成の過程でSiO4となって抽出される。
【0020】
【0021】
表2、3は、本発明にて、上述した表1の植物性原料である植物性原料9のうち、炭素材料を製造する方法で最も適している植物性原料の成分組成表である。表2は、原料を構成する成分の割合を百分率で示している。例えば、水分が8%~10%、灰分が10%~18%、脂質が0.1%~0.5%、リグニンが18%~25%、ヘミセルロースが16%~20%、セルロースが30%~35%及びその他が5%~10%である。このように、シリカ灰19となる主な成分は、リグニン、ヘミセルロース、セルロースである。
【0022】
表3は、代表の籾殻を表2に示す植物性原料である植物性原料9の無機質の化学成分である。表2に示す植物性原料である植物性原料9は、セルロース等の有機質が80wt%であり、無機質は20wt%である。表3の無機質の化学成分は、SiO2が92.14wt%、Al2O3が0.04wt%、CaOが0.48wt%、Fe2O3が0.03wt%、K2Oが3.2wt%、MgOが0.16wt%、MnOが0.18wt%、Na2Oが0.09wt%となっている。表2に示す植物性原料である植物性原料9は、無機質にシリカ(SiO2)が多く含まれている。
【0023】
(炭素素材の製造方法)
<実施例1>
図1に炭素素材を製造する製造方法に関するメインフローを示す。本実施例ではグラフェン化させる炭素素材10を製造する方法についてS1からS6のフローに基づいて説明する。
【0024】
先ず、上述した植物性原料9を粉砕機により粉砕するが、後述するスリットや孔や網状の脱水容器15に保持して脱水処理を行うため、微粉末になり過ぎない程度に粉砕を行う炭素原粉砕処理を行う(S1)。炭素原粉砕処理(S1)は、次の工程の際にアルカリ溶液が染みこみやすい程度の粉砕で良い。尚、S1の工程は、特に最初に処理を行う必要はなく、最後に粉砕を行う方法であっても良い。
【0025】
次に、粉砕した植物性原料9を、アルカリ性の水溶液20によって水温60℃以上に1時間から10時間反応させる水溶液浸透処理(S2)を行う。4時間程度反応させる工程を設けることが最も生産効率が良い。
【0026】
尚、本工程(S2)は、水溶液20に1週間程度の間、常温で植物性原料9を浸しておく方法であっても良い。この場合には、水溶液20のpHを調整し、pH9前後の弱アルカリ性の水溶液20を使用することも可能である。
【0027】
水溶液20中のアルカリの濃度は、10~50%wt濃度の水溶液20にし、この水溶液中20にて植物性原料9を反応させることにより、植物性原料9に含まれるシリカ成分の除去を主に行い、水溶液20中にシリカ成分を抽出する。
【0028】
これにより、有機出成分の濃度を高め、最終製品である炭素素材10の炭素の割合を高めている。アルカリ性の濃度は、30%wtが最も良く、pHが9から14程度である。pH13の水酸化カリウムによって生成した水溶液20が最も良い。植物性原料9の投入量は、水に溶かす前の水酸化カリウムに対して、80%wtmから200%wtの範囲が最も良い。
【0029】
アルカリ性の材料としては、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリがあるが、最も良いのは、植物性原料9に含まれるもカリウムと同じくする成分であるpH13の水酸化カリウムを使用すると、炭素素材10のグラフェン化をするのに有効である。
【0030】
図3は、アルカリ処理を行わずに300℃から500℃にて炭化処理をした際の走査透過電子顕微鏡により透過して現した写真である。元素分布を確認するとAl(アルミニュウム)は、微粒子状に点在している。またK(カリウム)は、大きな粒子として存在している。
【0031】
そのため、カリウムやアルミニュウムを除去することによって炭素の純度を向上させ、電気伝導度の向上にも繋がる。特に、アルミニュウムはアルカリに溶けやすく高温度で炭化させればより除去が可能である。またカリウムもアルカリに溶け込みやすく同じ水酸化カリウムを使用するとより良い。
【0032】
そのため、アルカリ性の材料としては、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリがあるが、最も良いのは、植物性原料9に含まれるもカリウムと同じくする成分であるpH13の水酸化カリウムを使用すると、炭素素材10のグラフェン化をするのに有効である。
【0033】
次に、アルカリ性を帯びた植物性原料9は、水溶液20の水分を除く脱水処理(S3)を行う、中和の処理を施すことなく、また水洗いをせずにアルカリ性の雰囲気を残した状態にする(S3)。この工程にて水分を除くことができるので、炭化する際の水分の蒸発による装置又はるつぼ等の容器へのアルカリ水分によるダメージを極力少なくすることが可能である。
【0034】
脱水処理(S3)は、水溶液浸透処理(S2)をした植物性原料9を、網目、スリット、及び孔の何れか又は組み合わせた構造が設けられている金属や布やプラスチックの脱水容器15に収用し、洗濯のように遠心による脱水機にかけて脱水を行う。脱水容器15は、遠心によって水分が外に出る容器であればよく、特に袋状、箱状、筒状等であっても良い。
【0035】
また脱水の他の方法としては、袋状の脱水容器15に植物性原料9を入れ、その袋を絞り器によって絞って水分を取り除く方法であっても良い。
【0036】
洗濯機に代表される回転式の脱水装置にて遠心によって脱水を行う(S3)。脱水時の回転数は、300から3000rpmが良く、最も良いのは、500rpmから1500rpmが最も良い。この遠心によって植物の細胞の破壊の促進と植物性原料9に含まれるシリカ等の不純物の排出の促進をすることが可能である。
【0037】
次に、同様に乾燥装置や陰干しにより水溶液20の水分を除く乾燥処理(S4)を行う。中和の処理を施すことなく、また水洗いをせずにアルカリ性の雰囲気を残した状態にする(S4)。この工程にて水分を除くことができるので、炭化する際の水分の蒸発による装置又はるつぼ等の容器へのアルカリ水分によるダメージを極力少なくすることが可能である。尚、アルカリ水分を除去すれば良いので、上述の脱水工程(S3)で水分を除去できれば、乾燥工程(S4)は必ずしも設ける必要はなく、あればより良い。
【0038】
次に、窒素やアルゴンガス等のガスを流し又はカーボンフェルト等で密閉し、酸素を含まない状態で、燃焼温度1100℃を5時間維持した状態でアルカリ雰囲気の植物性原料9を炭化する炭化処理を行う(S5)。
【0039】
炭化工程(S5)は、温度が高いほどグラフェン化及び黒鉛化が進み、燃焼温度1000℃から2200℃附近が最も良く、上記温度を2時間から10時間の炭化時間に維持できれば良い。
【0040】
また、製造装置には植物性原料9を収納する金属を使用する場合が多いが、アルカリ性に耐えるようにするためにアルミナ等の溶射やアルミナの素材により植物性原料9を収容する収納容器を使用する等、アルカリの耐性に耐えるようなロータリーキルン式の炭化装置又は誘導加熱炉、電気炉等を使用すると良い。
【0041】
従来のように、固形のアルカリ性の材料と植物性原料9を反応させて賦活処理する工程に比べ、S3の状態での植物性原料9は、金属への直接的なアルカリによる腐食を起こしにくくするため製造装置の耐久性を向上することが可能である。
【0042】
そして、最後に炭化処理(S5)が終わった炭素素材10を水また塩酸、硫酸及びクエン酸等の酸性水溶液に晒して中和処理(S6)を行い、更に残ったシリカ等を除去する(S6)。また、その後乾燥し、真空保管等を行えば、炭素素材10の電気伝導度等の物性を保持した状態で出荷をすることが可能である。
【0043】
中和処理(S6)は、純度を向上するために純水等の水のみを使用した洗浄による中和が望ましい。酸等による中和も良いが、酸を洗い流す必要もあり、シリカ等の固形物の除去も必要であるため、コスト的にも水を使用する中和処理(S6)が最も良い。
【0044】
その際、
図4に示すように容器50に純水51を入れ、袋状の水分子しか通さない浸透膜52に炭素素材10と純水を入れ、両端53を純水の中に沈めると、炭素素材10を含んだ不純物が入っている水溶液から圧力のバランスが働きアルカリ成分を含んだ水分は膜を通って純水51へ流れる。このように、浸透膜52を使用することによって早く処理が可能となる。
【0045】
また、
図5を参照し別例の中和処理(S6)について説明する。炭素素材10と純水を入れた浴槽64からポンプ61にて押し上げてチューブ状の逆浸透膜67を複数備えたチューブ62に、炭素素材10を含んだ水溶液(L1)を通す。
【0046】
チューブ62からはアルカリ成分が入った水溶液(L2)を回収容器63に回収し、炭素素材10を含んだ水溶液(L3)を浴槽64に戻す。浴槽64には、回収容器63に回収した量の純水を補充する。このように、循環することによって徐々にアルカリ分を含んだ水溶液は中和する。
【0047】
実施例2に本実施形態の植物性原料9の内の籾殻を使用し、炭素素材10を製造する方法について説明する。
【0048】
植物性原料9を粉砕するが、微粒子化は粉砕工程(S21)の工程で行われるので、この工程では水への浸漬の際に内部に染み込ませる程度の粉砕で良く、また脱水工程を経るのでスリットや孔の目をすり抜けない大きさであれば良い。粉砕後の大きさは5mmから10mm程度であれば最も良い。ここで、粉砕方法は、ミル、ミキサー、グラインダー等が挙げられる。また特に粉砕工程はなくても良く、洗浄する際に水等が原料に浸透すれば良い。
【0049】
次に、粉砕した植物性原料9を、水洗いを行う(S22)。例えば、純水に籾殻を浸す。1日程度籾殻を浸漬した後、石や泥等を洗い流す。液温は常温から80℃迄の温度が良い。水洗い(S22)は注水した後に攪拌し洗浄を行っても良い。また、少しずつ注水しながら攪拌する洗浄を行っても良い。
【0050】
次に、水洗浄した植物性原料9を上述した脱水容器15に入れ、洗濯機に代表される回転式の脱水装置にて脱水を行う(S23)。脱水時の回転数は、300から3000rpmが良く、最も良いのは、500rpmから1500rpmが最も良い。
【0051】
脱水により、水分と一緒に不純物が排出される。そして、そのまま乾燥工程を経ることなく次の焼成工程に遷ることが可能である。この回転による脱水工程によって植物性原料の組織の分解も促進されて特に乾燥工程を得ることなく、次の工程に進めることが確認された。そのため工程の削減により製造時間の短縮を行うことが可能となった。
【0052】
従って、実施例1においても回転式の脱水を行えば、乾燥工程を得ることは必ずしも必要がないが、乾燥すれば機械への腐食等の影響は軽減される。
【0053】
次に、焼成工程(S24)は、植物性原料9を炉に入れ、炉内を無酸素の状態をアルゴンガスや窒素ガスを充填し、1100℃まで炉内温度を上昇し、1100℃の温度で1~10時間程度の一定時間温度を保持する。その後、植物性原料9の自然焼成によって全焼成時間を1日とする。これによって炭素材料10が生成される。
【0054】
また、水洗い(S22)の際に圧力釜等の容器に植物性原料9を収納し、水と共に2気圧から2.45気圧によって圧力をかけ、120℃から128℃の温度をかけることによって、植物性原料9の細胞壁が早く破壊され、不純物の除去や純度の向上につながる。
【0055】
次に、上記実施例1から2の処理にて製造された炭素素材10は、
図2にラマンスペクトルを示し、横軸を波長(波数(Raman shift(cm-1)))、縦軸を強度とするラマンスペクトルである。
【0056】
ラマンスペクトル法による波長のピークとなるGバンド(1582cm-1)附近のピーク値、Dバンド(1350cm-1)のピーク値及び2Dバンド(2685cm-1)附近のピーク値が観察されており、複数層のグラフェンが製造されている。
【0057】
燃焼温度1000℃から2200℃附近が最も良く、前記温度を2時間から10時間の炭化時間に維持した場合に、炭素素材10は、二重リング法及び四端子法による測定した粉体抵抗値が、1.0×10-3Ω・cmから3.8×10-2Ω・cmという範囲で製造された。
【0058】
尚、炭素素材10を導電性材料として使用する場合には、植物性原料9に含まれるケイ酸(SiO2)は0.1%wtから5%wt未満が最適である。
【0059】
また、炭素素材10を水蒸気吸着測定法により測定し、BET式による比表面積は、1792m2/gを示し、この幅は800m2/g~2000m2/gの幅がある。
何れも比表面積が大きくケイ素成分(Si)を取り除いた後の炭素素材10は、より比表面積が大きくなっている。そのため、炭素素材10は、吸着する作用が高くなっている。
【0060】
また、炭素素材10は、炭素の純度が95%から98%以上を示し、残りは酸素とケイ素とアルミニュウム等が検出されるがケイ酸(SiO2)は0.1%wtから5%wt未満である。
【0061】
上述した植物性原料9は、籾殻であるが、
図6(A)にカカオの殻を植物性原料9として使用し本製造方法によって得られたラマンスペクトルを示している。横軸を波長(波数(Raman shift(cm-1)))、縦軸を強度とするラマンスペクトルである。
【0062】
ラマンスペクトル法による波長のピークとなるGバンド(1582cm-1)附近のピーク値、Dバンド(1350cm-1)のピーク値及び2Dバンド(2685cm-1)附近のピーク値が観察され、複数層のグラフェンが製造可能であることが確認できている。
【0063】
図6(B)に植物性原料9であるそば殻を使用し本製造方法によって得られたラマンスペクトルを示している。横軸を波長(波数(Raman shift(cm-1)))、縦軸を強度とするラマンスペクトルである。
【0064】
ラマンスペクトル法による波長のピークとなるGバンド(1582cm-1)附近のピーク値、Dバンド(1350cm-1)のピーク値及び2Dバンド(2685cm-1)附近のピーク値が観察され、複数層のグラフェンが製造可能であることが確認できている。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の炭素素材の産業上の利用に関して、化粧品材料、電池材料、半導体、放熱材料、透明導電膜、フレシキブル薄膜、フィルター、軽量・高強度複合部材(ゴム等を含む)、トナー及びインク材料等に利用が可能である。
【符号の説明】
【0066】
9…植物性原料、10…炭素素材、15・・・脱水容器、S1…植物性原料粉砕処理、
50…容器、67…逆浸透膜、S2…水溶液浸透処理、S3…脱水処理、S4…乾燥処理、S5…炭化処理、S6…中和処理。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項6】
植物性原料を水洗いする洗浄工程と、
前記洗浄工程の後に前記植物性原料を容器に収納し、回転式の脱水装置によって回転をし、前記植物性原料に含まれる水分を脱水する脱水工程と、
前記植物性原料を焼成する焼成工程と、
を含むことを特徴とする炭素素材の製造方法。