(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073516
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】pH選択性を有する条件的活性型タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
C07K16/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024036509
(22)【出願日】2024-03-11
(62)【分割の表示】P 2021509752の分割
【原出願日】2019-08-20
(31)【優先権主張番号】62/720,570
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520478172
【氏名又は名称】バイオアトラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ショート ジェイ エム
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045DA76
4H045HA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを製造する方法。
【解決手段】(i)親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有する変異体ポリペプチドを製造するために、変異を親ポリペプチド中に導入することによって、親ポリペプチドを進化させる工程、(ii)変異体ポリペプチドを、正常生理条件下で変異体ポリペプチドの活性を測定する正常生理条件下での第1のアッセイ、および異常条件下で変異体ポリペプチドの活性を測定する異常条件下での第2のアッセイに供する工程であって、正常生理条件および異常条件下は同じ条件下であるが異なった値を有する、工程、および(iii)第1のアッセイにおける同じ活性と比較して、第2のアッセイにおいて、増加した活性を示す変異体ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを選択する工程、を含む方法。条件的活性型ポリペプチドおよび用途も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを製造する方法であって、
(i)親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有する1つ以上の変異体ポリペプチドを製造するために、1つ以上の変異を親ポリペプチド中に導入することによって、親ポリペプチドを進化させる工程;
(ii)1つ以上の変異体ポリペプチドを、正常生理条件下で1つ以上の変異体ポリペプチドの活性を測定するために正常生理条件下での第1のアッセイ、および異常条件下で1つ以上の変異体ポリペプチドの活性を測定するために異常条件下での第2のアッセイに供する工程であって、正常生理条件および異常条件下は同じ条件であるが異なった値を有する、工程、および
(iii)第1のアッセイにおける同じ活性と比較して第2のアッセイにおいて増加した活性を示す1以上の変異体ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを選択する工程
を含む方法。
【請求項2】
条件的活性型ポリペプチドが、親ポリペプチドのpIよりも低いpIを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
条件的活性型ポリペプチドは、pIが7.4を下回るか、またはpIが7.3を下回るか、またはpIが7.2を下回るか、またはpIが7.1を下回るか、またはpIが7.0を下回る、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
1つ以上の変異が、親ポリペプチド中に置換されるアミノ酸のpIよりも高いpIを有する親ポリペプチド中のアミノ酸の残基に対するアミノ酸の残基の少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
1つ以上の変異が、前記置換の2、3、4、5、6、7、8、9、または10個を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1つ以上の変異が、親ポリペプチドのpIよりも低いpIを有するアミノ酸の残基の少なくとも1つの挿入を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1つ以上の変異が、前記挿入の2、3、4、または5個を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の変異が、親ポリペプチドのpIよりも高いpIを有するアミノ酸の残基の少なくとも1つの欠失を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
1つ以上の変異が、前記欠失の2、3、4、または5個を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1つ以上の変異が、変異体ポリペプチドの表面上に露出した位置に位置する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
進化工程が、変異体ポリペプチドへの1つ以上の追加の変異の導入を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
変異体ポリペプチドの少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%が、親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有することを確認するた工程をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(ii)の前に親ポリペプチドのpIよりも大きいpIを有する変異体ポリペプチドを廃棄する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
条件的活性型ポリペプチドのpIを測定する工程をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
条件的活性型ポリペプチドのpIが、親ポリペプチドのpIよりも、少なくとも0.1、または少なくとも0.2、または少なくとも0.3、または少なくとも0.4、または少なくとも0.5、または少なくとも0.6、または少なくとも0.8、または少なくとも1.0、または少なくとも1.2、または少なくとも1.4、または少なくとも1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも2.5、または少なくとも3.0、または少なくとも3.5、または少なくとも4.0、または少なくとも5.0単位低い、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
親ポリペプチドが、抗体、酵素、ホルモン、増殖因子、サイトカイン、調節タンパク質、機能性ペプチド、バイオシミラー、免疫調節薬、受容体、およびリガンドから選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
親ポリペプチドが、全長抗体、一本鎖抗体、抗体断片、重鎖、軽鎖、Fab、およびFcドメインから選択される抗体である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
親ポリペプチドが治療用抗体または治療用に開発されている抗体候補である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
親ポリペプチドがIgG抗体である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
1つ以上の変異が、IgG抗体の可変領域にある、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1つ以上の変異が、IgG抗体の定常領域にある、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
1つ以上の変異が、IgG抗体の1つ以上の相補性決定領域にある、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
条件が、pH、温度、浸透圧、オスモル濃度、酸化ストレス、および電解質濃度から選択される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
条件がpHである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
第1のアッセイのpHが7.2超から7.6未満であり、第2のアッセイのpHが7.2未満または7.6を超える、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
第1のアッセイにおける同じ活性に対する第2のアッセイにおける条件的活性型ポリペプチドの活性の比率が、少なくとも1.3、または1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも3.0、または少なくとも4.0、または少なくとも6.0、または少なくとも8.0、または少なくとも10.0、または少なくとも20.0、または少なくとも40.0、または少なくとも60.0、または少なくとも100.0である、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
第1のアッセイおよび第2のアッセイの両方が、分子量が900a.m.u.未満、500a.m.u.未満、200a.m.u.未満、または100a.m.u.未満の分子またはイオンの存在下で実施される、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
分子またはイオンが、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、二硫化物、硫化水素、アンモニウム、リン酸二水素およびその任意の組合せから選択され、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
分子またはイオンが、約3mM~約200mM、約5mM~約150mM、約5mM~約100mM、約10mM~約100mM、約20mM~約100mM、約25mM~約100mM、約30mM~約100mM、約35mM~約100mM、約40mM~約100mM、または約50mM~約100mMの範囲にある濃度を有する重炭酸イオンである、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
分子またはイオンが、1mM~100mM、2nM~500nM、3nM~200nM、5nM~100nMの範囲の濃度を有する二硫化物イオンである、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
分子またはイオンが、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、二硫化ナトリウム、または二硫化カリウムから選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
生理条件が正常生理pHであり、異常条件が正常生理pHとは異なった異常pHであり、分子またはイオンが正常生理pHと異常pHとの間にpKaを有する、請求項27-31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
分子またはイオンのpKaが、異常pHから最大0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.8、または1.0、2.0単位まで離れている、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
pIを有する親ポリペプチドに由来する条件的活性型ポリペプチドであって、前記条件的活性型ポリペプチドが
(a)親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有し、および
(b)正常生理条件での第1のアッセイにおける同じ活性に対する異常条件での第2のアッセイにおける活性の比率が少なくとも1.3であり、ここで、条件的活性型ポリペプチドの活性は、分子量が900a.m.u未満の少なくとも1つの分子またはイオンの存在下で測定される、条件的活性型ポリペプチド。
【請求項35】
分子量が500a.m.u未満、200a.m.u未満、または100a.m.u未満である、請求項34に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項36】
第1のアッセイにおける同じ活性に対する異常条件での第2のアッセイにおける活性の正常生理条件の比率が、少なくとも1.5、少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも3.0、または少なくとも4.0、または少なくとも6.0、または少なくとも8.0、または少なくとも10.0、または少なくとも20.0、または少なくとも40.0、または少なくとも60.0、または少なくとも100.0である、請求項34~35のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項37】
条件的活性型ポリペプチドのpIが、親ポリペプチドのpIよりも、少なくとも0.1、または少なくとも0.2、または少なくとも0.3、または少なくとも0.4、または少なくとも0.5、または少なくとも0.6、または少なくとも0.8、または少なくとも1.0、または少なくとも1.2、または少なくとも1.4、または少なくとも1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも2.5、または少なくとも3.0、または少なくとも3.5、または少なくとも4.0、または少なくとも5.0単位だけ低い、請求項34~36のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項38】
条件的活性型ポリペプチドが、抗体、酵素、ホルモン、増殖因子、サイトカイン、調節タンパク質、機能性ペプチド、バイオシミラー、免疫調節薬、受容体、およびリガンドから選択される、請求項34~37のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項39】
条件的活性型ポリペプチドが、全長抗体、一本鎖抗体、抗体断片、重鎖、軽鎖、Fab、およびFcドメインから選択される抗体である、請求項34~37のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項40】
抗体がIgG抗体である、請求項39に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項41】
条件がpH、温度、浸透圧、オスモル濃度、酸化ストレス、および電解質濃度から選択される、請求項34~40のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項42】
正常生理条件が7.2超から7.6未満の範囲のpHであり、異常条件が5.5超から7.2未満の範囲のpHである、請求項34~40のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項43】
分子またはイオンが、正常生理pHと異常pHとの間にpKaを有する、請求項42に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項44】
分子またはイオンのpKaが、異常pHから最大0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.8、または1.0、2.0単位離れている、請求項43に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項45】
分子またはイオンが、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、二硫化物、硫化水素、アンモニウム、リン酸二水素およびそれらの任意の組合せから選択される、請求項34~44のいずれか一項記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項46】
分子またはイオンが、約3mMから約200mM、約5mMから約150mM、約5mMから約100mM、約10mMから約100mM、約20mMから約100mM、約25mMから約100mM、約30mMから約100mM、約35mMから約100mM、約40mMから約100mM、または約50mMから約100mMの範囲の濃度を有する重炭酸イオンである、請求項34~44のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項47】
分子またはイオンが、1mM~100mM、2nM~500nM、3nM~200nM、5nM~100nMの範囲の濃度を有する二硫化物イオンである、請求項34~44のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項48】
分子またはイオンが、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、二硫化ナトリウム、または二硫化カリウムから選択される、請求項34~44のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチド。
【請求項49】
請求項34~48のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチドの有効量と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項50】
固形腫瘍、炎症性関節、または脳疾患または脳障害の治療のための請求項34~48のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチドの使用。
【請求項51】
請求項34~48のいずれか一項に記載の条件的活性型ポリペプチドを治療を必要とする患者に投与する工程を含む、固形腫瘍、炎症性関節、または脳疾患もしくは脳障害の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、条件的活性を有するポリペプチドを提供する分野に関する。具体的には、本開示は、pH依存的活性を有する条件的活性型ポリペプチドおよび親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、特に酵素又は抗体を様々な条件において活性又は安定であるように種々の特性に関して進化させる方法について記載している文献は多数ある。例えば、酵素を高温で安定であるように進化させることが行われている。高温で酵素活性が向上する状況では、その向上の実質的な部分は、一般にQ10法則(酵素の場合には10℃の上昇につき代謝回転が二倍になると推定される)によって説明されるより高い速度論的活性によるものであり得る。
【0003】
加えて、その正常な動作条件でタンパク質を不安定化させる、ひいては正常な動作条件でタンパク質活性を低下させる天然の突然変異が存在する。例えば、より低温で活性であるが、しかし典型的にはその由来である野生型タンパク質と比較して低いレベルで活性である公知の温度突然変異体がある。
【0004】
親ポリペプチドがその通常の動作条件では不活性又は事実上不活性(50%、30%、又は10%未満の活性及び特に1%の活性)であるが、異常条件では同等の又はより良好なその活性を維持するように進化させるためには、不安定化させる突然変異が、その不安定効果を打ち消すことのない、活性を増加させる突然変異と共存することが必要であり得る。不安定化させる突然変異は、Q10などの標準法則によって予測される効果を上回ってポリペプチドの活性を低下させるであろうことが予想され、従って、例えばその正常な動作条件下では活性が低い又は不活性である一方で、異常条件では効率的に機能するポリペプチドを進化させることが可能になると、条件的活性型ポリペプチドが作り出される。
【0005】
条件的活性型のポリペプチド、例えば、ある条件では活性が低いかまたは事実上不活性であり、且つ別の条件では活性であるポリペプチドを生成することが望ましい。また、ある種の環境で活性化されるかまたは不活性化される、或いは時間の経過に伴い活性されるかまたは不活性化されるポリペプチドを生成することも望ましい。温度以外にも、条件的活性のためにポリペプチドを進化させたり改良したりできる他の条件としては、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化ストレス、電解質濃度などがある。進化させる際には、ポリペプチドの活性に加え、化学的抵抗性、及びタンパク質分解抵抗性を含めた他の特性を改良することが望ましい場合も多い。
【0006】
さらに、ポリペプチドの等電点(pI)がポリペプチド(t1/2)の半減期と逆相関することが観察されている。Momany et al., ”Relationship between in vivo degradative rates and isoelectric points of proteins,” PNAS, vol., 73, pp. 3093-3097, 1976を参照されたい。血漿中の抗体の半減期はその等電点値と正の相関を示しているので、これは特に抗体に当てはまる。特に、pI値が高い抗体は、pI値が低い抗体と比較して、全身クリアランスが速いだけでなく、バイオアベイラビリティも低い。抗体のpIが1~2単位減少すると、血漿クリアランスの減少(すなわち、半減期が長くなる)と相関することが示されている。See Ryman, CPT Pharmacometrics Syst.Pharmacol., vol.6, pp. 576-588, 2017を参照されたい。
【0007】
ポリペプチドのpIを変化させる戦略が記載されている。例えば、米国特許第9,908,932号は、pIを約5.45から約6.55の間に有する7つのタンパク質サブ集団を有する組換えタンパク質の等電点プロファイルをシフトさせる方法を開示している。この方法は、(a)組換えタンパク質をコードする核酸を含む哺乳動物細胞を、生産バイオリアクター中で、生成物を産生するのに十分な条件下で、第1の期間培養すること;および(b)製品の等電点プロファイルをより酸性のプロファイルにシフトさせるのに十分な条件下で、少なくとも6時間からなる第2の期間、生成物をインキュベートすることの工程を含む。等電点をシフトした生成物は、7つのタンパク質亜集団の第4および第5の最も酸性のタンパク質亜集団の量の増加、および7つのタンパク質亜集団の第1および第2の最も塩基性タンパク質亜集団の量の減少を示す。
【0008】
米国特許第9,605,061号は、重鎖定常ドメインおよび軽鎖定常ドメインの一方または両方から選択される定常ドメイン中の非ネイティブのアミノ酸による置換を含む少なくとも6個のアミノ酸変異を導入することによって抗体のpIを修飾する方法を開示している。置換アミノ酸は、変異体抗体のpIが親抗体のpIに対して少なくとも0.5log低下するように、ネイティブのアミノ酸よりも低いpIを有する。
【0009】
US2009/0324589は、可変領域の残基を含む抗体の表面に露出した残基の修飾を介して、抗体の表面電荷を制御することにより、血中のIgG抗体の半減期を増加させる方法を開示している。この方法は、(a)親ポリペプチドの表面上に露出している少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷を変化させるためにFcRn結合ドメインを含む親ポリペプチドをコードする核酸を改変すること;(b)変異体ポリペプチドを発現するために改変された核酸を発現するために宿主細胞を培養すること;および(c)宿主細胞培養物からFcRn結合ドメインを含む発現された変異体ポリペプチドを回収すること、の工程を含む。
【0010】
特定の環境および/または特定の条件下でより高い活性および/または選択性を有し、好ましくは血漿中での半減期が増加した条件的活性型ポリペプチドが依然として必要とされている。半減期が増加している条件的活性型ポリペプチドもまた、腫瘍微小環境などの異常条件が存在する場所で優先的に作用するだけでなく、その半減期が増加しているために、作用の延長または全体的な活性期間の延長をもたらす。さらに、これらの条件的活性型ポリペプチドは、正常生理条件が存在する正常の組織/臓器に対して生じる有害な副作用がより少ない可能性がある。副作用を減らす可能性があるため、より長期の治療、またはより高用量の治療が可能となり、その条件的活性型ポリペプチドはより高い有効性につながる。
【0011】
国際公開第2010/104821号パンフレット及び国際公開第2011/009058号パンフレットは、条件的活性型タンパク質を進化させてスクリーニングする方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
1つの態様において、開示は、(i)親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有する1つ以上の変異体ポリペプチドを製造するために、1つ以上の変異を親ポリペプチド中に導入することによって、親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを進化させる工程、(ii)1つ以上の変異体ポリペプチドを、正常生理条件下で1つ以上の変異体ポリペプチドの活性を測定する正常生理条件下での第1のアッセイ、および異常条件下で1つ以上の変異体ポリペプチドの活性を測定する異常条件下での第2のアッセイに供する工程であって、正常生理条件および異常条件下は同じ条件下であるが異なった値を有する、工程、および(iii)第1のアッセイにおける同じ活性と比較して、第2のアッセイにおいて、増加した活性を示す1以上の変異体ポリペプチドからを選択する工程を含む、親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを製造する方法に関するものである。
【0013】
前述の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドが、親ポリペプチドのpIよりも低いpIを有していてもよい。
【0014】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、条件的活性型ポリペプチドは、pIが7.4を下回るか、またはpIが7.3を下回るか、またはpIが7.2を下回るか、またはpIが7.1を下回るかまたはpIが7.0を下回ることができる。
【0015】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1つ以上の変異が、親ポリペプチド中に置換されるアミノ酸のpIよりも高いpIを有する親ポリペプチド中のアミノ酸の残基に対するアミノ酸の残基の少なくとも1つのアミノ酸置換を含み得る。
【0016】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1つ以上の変異が、前記置換の2、3、4、5、6、7、8、9、または10個を含むことができる。
【0017】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1つ以上の変異が、親ポリペプチドのpIよりも低いpIを有するアミノ酸の残基の少なくとも1つの挿入を含むことができる。
【0018】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1つ以上の変異が、前記挿入の2、3、4、または5個を含むことができる。
【0019】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1つ以上の変異が、親ポリペプチドのpIよりも高いpIを有するアミノ酸の残基の少なくとも1つの欠失を含むことができる。
【0020】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1つ以上の変異が、前記欠失の2、3、4、または5個を含むことができる。
【0021】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1つ以上の変異が、変異体ポリペプチドの表面上に露出した位置に位置してもよい。
【0022】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、進化させる工程は、変異体ポリペプチドへの1つ以上の追加の変異の導入を含むことができる。
【0023】
前述の実施形態のいずれか1つは、変異体ポリペプチドの少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%が、親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有することを確認する工程をさらに含むことができる。
【0024】
前述の実施形態は、工程(ii)前に親ポリペプチドのpIよりも大きいpIを有する変異体ポリペプチドを廃棄する工程をさらに含むことができる。
【0025】
前述の実施形態のいずれか1つは、条件的活性型ポリペプチドのpIを測定する工程をさらに含むことができる。
【0026】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、条件的活性型ポリペプチドのpIが、親ポリペプチドのpIよりも、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.8、少なくとも1.0、少なくとも1.2、少なくとも1.4、少なくとも1.5、少なくとも1.7、少なくとも2.0、少なくとも2.5、少なくとも3.0、少なくとも3.5、少なくとも4.0、または少なくとも5.0単位低い可能性がある。
【0027】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、親ポリペプチドが、抗体、酵素、ホルモン、増殖因子、サイトカイン、調節タンパク質、機能性ペプチド、バイオシミラー、免疫調節薬、受容体、およびリガンドから選択され得る。
【0028】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、親ポリペプチドが、全長抗体、一本鎖抗体、抗体断片、重鎖、軽鎖、Fab、およびFcドメインから選択される抗体であってもよい。
【0029】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、親ポリペプチドが治療用抗体または治療用に開発されている抗体候補であり得る。
【0030】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、親ポリペプチドはIgG抗体であってもよい。
【0031】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1以上の変異は、IgG抗体の可変領域にあってもよい。
【0032】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1以上の変異は、IgG抗体の定常領域にあってもよい。
【0033】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、1以上の変異は、IgG抗体の1つ以上の相補性決定領域にあってもよい。
【0034】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、条件が、pH、温度、浸透圧、オスモル濃度、酸化ストレス、および電解質濃度から選択され得る。
【0035】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、条件がpHであってもよい。
【0036】
前述の実施形態では、第1のアッセイのpHが7.2超から7.6未満でよく、第2のアッセイのpHは7.2未満または7.6を超え得る。
【0037】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、第1のアッセイにおける同じ活性に対する第2のアッセイにおける条件的活性型ポリペプチドの活性の比率は、少なくとも1.3、1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも3.0、または少なくとも4.0、または少なくとも6.0、または少なくとも8.0、または少なくとも10.0、または少なくとも20.0、または少なくとも40.0、または少なくとも60.0、または少なくとも100.0であってよい。
【0038】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、第1のアッセイおよび第2のアッセイの両方が、分子量が900a.m.u.未満、500a.m.u.未満、200a.m.u.未満、または100a.m.u.未満の分子またはイオンの存在下で実施され得る。
【0039】
前述の実施形態では、分子またはイオンが、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、二硫化物、硫化水素、アンモニウム、リン酸二水素およびその任意の組合せから選択され得る。
【0040】
前述の実施形態において、分子またはイオンが、約3mM~約200mM、約5mM~約150mM、約5mM~約100mM、約10mM~約100mM、約20mM~約100mM、約25mM~約100mM、約30mM~約100mM、約35mM~約100mM、約40mM~約100mM、または約50mM~約100mMの範囲にある濃度を有する重炭酸イオンでよい。
【0041】
前述の実施形態では、分子またはイオンは、1mM~100mM、2nM~500nM、3nM~200nM、5nM~100nMの範囲の濃度を有する二硫化物イオンであってもよい。
【0042】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、分子またはイオンは、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、二硫化ナトリウム、または二硫化カリウムから選択され得る。
【0043】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、生理条件は正常生理pHであってもよく、異常条件は正常生理pHとは異なった異常pHであり、分子またはイオンが正常生理pHと異常pHとの間にpKaを有する。
【0044】
前述の実施形態では、分子またはイオンのpKaは、異常pHから0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.8、または1.0、2.0単位まで離れてもよい。
【0045】
第2の態様では、開示は、pIを有する親ポリペプチドに由来する条件的活性型ポリペプチドに関するものであり、前記条件的活性型ポリペプチドは、(a)親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有し、および(b)正常生理条件での第1のアッセイにおける同じ活性に対する異常条件での第2のアッセイにおける活性の比率が少なくとも1.3であり、ここで、条件的活性型ポリペプチドの活性は、分子量が900a.m.u未満の少なくとも1つの分子またはイオンの存在下で測定される。
【0046】
第2の態様では、分子量は500a.m.u.未満、200a.m.u.未満、または100a.m.u.未満であり得る。
【0047】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、正常生理条件での第1のアッセイにおける同じ活性に対する、異常条件での第2のアッセイにおける活性の比率は、少なくとも1.5、少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも3.0、または少なくとも4.0、または少なくとも6.0、または少なくとも8.0、または少なくとも10.0、または少なくとも20.0、または少なくとも40.0、または少なくとも60.0、または少なくとも100.0であってよい。
【0048】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、条件的活性型ポリペプチドのpIは、親ポリペプチドのpIよりも、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.8、少なくとも1.0、少なくとも1.2、少なくとも1.4、少なくとも1.5、少なくとも1.7、少なくとも2.0、少なくとも2.5、少なくとも3.0、少なくとも3.5、少なくとも4.0、または少なくとも5.0単位低い可能性がある。
【0049】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、条件的活性型ポリペプチドが、抗体、酵素、ホルモン、増殖因子、サイトカイン、調節タンパク質、機能性ペプチド、バイオシミラー、免疫調節薬、受容体、およびリガンドから選択され得る。
【0050】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、条件的活性型ポリペプチドが、全長抗体、一本鎖抗体、抗体断片、重鎖、軽鎖、Fab、およびFcドメインから選択される抗体であってもよい。
【0051】
前述の実施形態では、抗体がIgG抗体であってもよい。
【0052】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、条件が、pH、温度、浸透圧、オスモル濃度、酸化ストレス、および電解質濃度から選択され得る。
【0053】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、正常生理条件が、7.2超から7.6未満の範囲のpHであってよく、異常条件が、5.5が7.2未満の範囲にあるpHである。
【0054】
前述の実施形態において、分子またはイオンは、正常生理学的pHと異常pHとの間にpKaを有することができる。
【0055】
前述の実施形態では、分子またはイオンのpKaは、異常pHから0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.8、または1.0、2.0単位まで離れてもよい。
【0056】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、分子またはイオンは、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、二硫化物、硫化水素、アンモニウム、リン酸二水素およびそれらの任意の組合せから選択され得る。
【0057】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、分子またはイオンは、約3mM~約200mM、約5mM~約150mM、約5mM~約100mM、約10mM~約100mM、約20mM~約100mM、約25mM~約100mM、約30mM~約100mM、約35mM~約100mM、約40mM~約100mM、または約50mM~約100mMの範囲の濃度を有する重炭酸イオンであってよい。
【0058】
前述の実施形態のいずれか1つにおいて、分子またはイオンは、1mM~100mM、2nM~500nM、3nM~200nM、5nM~100nMの範囲の濃度を有する二硫化物イオンであってもよい。
【0059】
前の実施形態のいずれか1つにおいて、分子またはイオンが、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、二硫化ナトリウム、または二硫化カリウムから選択され得る。
【0060】
さらに別の態様では、開示は、条件的活性型ポリペプチドの有効量および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0061】
さらに別の態様では、開示は、固形腫瘍、炎症性関節、または脳疾患もしくは障害の治療のための条件的活性型ポリペプチドの使用に関する。
【0062】
さらに別の態様では、開示は、前記治療を必要とする患者に条件的活性型ポリペプチドを投与する工程を含む、固形腫瘍、炎症性関節、または脳疾患もしくは脳障害の治療方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】
図1は、デオキシヘモグロビンにおける塩橋の形成を示す図であり、ここでは3つのアミノ酸残基が2つの塩橋を形成し、これらの塩橋がデオキシヘモグロビンのT四次構造を安定化させるため、酸素に対する親和性の低下につながる。
【発明を実施するための形態】
【0064】
定義
本明細書に提供される例が容易に理解されるように、幾つかの高頻度で出現する方法及び/又は用語をここに定義するものとする。以下の用語の定義は米国特許第8,709,755B2号明細書から参照によってその全体が援用される:「薬剤」、「曖昧な塩基要件」、「アミノ酸」、「増幅」、「キメラ特性」、「コグネイト」、「比較ウィンドウ」、「保存的アミノ酸置換」、「~に対応する」、「分解上有効な」、「定義された配列フレームワーク」、「定義された配列カーネル」、「消化」、「方向性ライゲーション」、「DNAシャフリング」、「薬物」又は「薬物分子」、「有効量」、「エピトープ」、「酵素」、「進化」又は「進化する」、「断片」又は「誘導体」又は「類似体」、「全域単一アミノ酸置換」、「遺伝子」、「遺伝的不安定性」、「異種」、「同種」又は「同祖」、「産業上の利用」、「同一」又は「同一性」、「同一性範囲」、「単離された」、「単離核酸」、「リガンド」、「ライゲーション」、「リンカー」又は「スペーサー」、「微小環境」、「進化させる分子特性」、「突然変異」、「N,N,G/T」、「正常生理条件」又は「野生型動作条件」、「核酸分子」、「核酸分子」、「~をコードする核酸配列」又は「~のDNAコード配列」又は「~をコードするヌクレオチド配列」、「酵素(タンパク質)をコードする核酸」又は「酵素(タンパク質)をコードするDNA」又は「酵素(タンパク質)をコードするポリヌクレオチド」、「特異的核酸分子種」、「ワーキング核酸試料を核酸ライブラリにアセンブルする」、「核酸ライブラリ」、「構築物」、「オリゴヌクレオチド」(又は同義語として「オリゴ」)、「同種」、「作動可能に連結された」、「親ポリヌクレオチドセット」、「患者」又は「対象」、「生理条件」、「集団」、「プロフォーム」、「擬似ランダム」、「準反復単位」、「ランダムペプチドライブラリ」、「ランダムペプチド配列」、「受容体」、「組換え」酵素、「合成」酵素、「関連ポリヌクレオチド」、「減少的再集合」、「参照配列」、「反復インデックス(RI)」、「制限部位」、「選択可能なポリヌクレオチド」、「配列同一性」、「類似性」、「特異的に結合する」、「特異的ハイブリダイゼーション」、「特異的ポリヌクレオチド」、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」、「実質的に同一」、「実質的に純粋な酵素」、「実質的に純粋」、「処理する」、「可変セグメント」、及び「バリアント」。
【0065】
以下の用語の定義は、WO2017/078839より全面的に参照により援用する:「約」、「活性」、「抗体」、「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」または「ADCC」、「抗原」または「Ag」、「アンチセンスRNA」、「バイオシミラー」、「後続生物学的製剤」、「バイオシミラー抗体」、「癌」または「癌性」、「キメラ抗原受容体」または「CAR」または「CARs」、「サイトカイン」または「サイトカイン類」、「電解質」、「全長抗体」、「増殖因子」、「ホルモン」、「免疫調節剤」、「個体」または「対象」、「ライブラリ」、「リガンド」、「受容体」、「マイクロRNA」または「miRNA」、「多重特異性抗体」、「ナノ粒子」、「天然に存在する」、「組換え抗体」、「調節タンパク質」、「低分子干渉RNA」または「siRNA」、「治療用タンパク質」、「治療的有効量」、「腫瘍微小環境」、「野生型」。
【0066】
本明細書で使用する用語であるポリペプチドの「表面に露出したアミノ酸残基」とは、ポリペプチドのアミノ酸残基を意味し、ポリペプチドが液体(例えば、血液、ヒト血清、細胞質など)中に存在する場合、その側鎖の少なくとも一部が液体と接触している。ポリペプチドの表面に露出したアミノ酸残基は、X線結晶解析によって決定することができる。表面に露出している可能性のあるアミノ酸残基は、例えば、InsightII プログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗体の3次元モデルからの座標を用いて決定することもできる。そのような目的で利用可能な他のソフトウェアには、例えば、SYBYL Biopolymer Moduleソフトウェア(Tripos Associates)が含まれる。アルゴリズムがユーザ入力サイズパラメータを必要とする場合、計算に使用するプローブの「サイズ」を半径約1.4 Angstrom (Å)以下に設定することができる。例えば、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを用いて表面露出アミノ酸残基および領域を決定する方法は、Pacios (Pacios, Comput. Chem, vol. 18, pp. 377-386, 1994; J. Mol. Model., vol. 1, pp. 46-53, 1995)によって記載されている。
【0067】
用語「条件的活性型ポリペプチド」とは、少なくとも1つの条件下で親ポリペプチドよりも活性が高く(例えば、異常条件)、第2の条件下で親ポリペプチドよりも活性が低い(例えば、正常生理条件)親ポリペプチドのバリアントまたは変異体を指すか、または第2の条件下(例えば、正常生理条件)よりも少なくとも1つの条件下(例えば、異常条件)でより活性が高い親ポリペプチドのバリアントまたは変異体を指す。1つの実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、第2の異常条件のもとで、第1の正常生理条件のもとより少なくとも1.3、少なくとも1.5、少なくとも2.0、または少なくとも2.5、または少なくとも3.0、または少なくとも5.0、または少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも20、または少なくとも60、または少なくとも80、または少なくとも100倍多い活性を有する。この条件的活性型ポリペプチドは、1つ以上の選択された生体位置で活性を呈し、及び/又は生体の別の位置では活性の増加又は低下を呈し得る。例えば、ある態様では、条件的活性型ポリペプチドは体温では実質的に不活性であるが、それより低い温度活性である。条件的活性型ポリペプチドには、条件的活性型タンパク質、タンパク質断片、抗体、抗体断片、酵素、酵素断片、受容体および受容体の断片、サイトカインおよびその断片、ホルモンおよびその断片、リガンドおよびその断片、調節タンパク質およびその断片、増殖因子およびその断片、ならびにストレスタンパク質、円蓋関連タンパク質、ニューロンタンパク質、消化管タンパク質、増殖因子、ミトコンドリアタンパク質、細胞質タンパク質、動物タンパク質、構造タンパク質、植物タンパク質およびこれらのタンパク質のいずれかの断片を含むポリペプチドが含まれる。本明細書に記載される条件的活性型ポリペプチドの各々は、好ましくは条件的活性型生物学的ポリペプチドである。
【0068】
本明細書でポリペプチドについて使用される「血漿中半減期の増加」又は「血漿中半減期の延長」とは、ポリペプチドの血漿中滞留時間(血漿中半減期(t1/2))の増加又は血漿中クリアランス(CL)の低下をいう。これは、経時的な濃度曲線下面積(AUC)として表すことができる。
【0069】
本明細書で用いるポリペプチドの用語「等電点」または「pI」とは、ポリペプチドが正味の電荷をもたないpHを意味する。ポリペプチドのpIは、実験的に決定することができ、またはポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて計算することができる。例えば、pIは、当業者に公知のポリペプチドの等電点電気泳動によって決定することができる。pIの理論計算はポリペプチドのアミノ酸に基づくアミノ酸配列分析ソフト(GENETYXなど)を用いて決定できる。
【0070】
親ポリペプチドの用語「等電点バリアント」または「pIバリアント」とは、変異体ポリペプチドが由来した親ポリペプチドに比べてpIが減少した親ポリペプチドの変異体ポリペプチドを指し、変異体ポリペプチドは、pIがより高いアミノ酸の残基をpIがより低いアミノ酸の残基と置換するか、親ポリペプチドのpIよりも高いアミノ酸の残基を欠失させるか、または親ポリペプチドのpIよりも低いアミノ酸の残基を挿入するかのいずれかにより得られる。本発明は、条件的活性型pIバリアントならびに親ポリペプチドと同じpIを有する条件的活性型ポリペプチドの両方に及ぶ。
【0071】
用語「親ポリペプチド」及び「親タンパク質」は、本明細書で使用されるとき、本明細書に記載の方法を用いて条件的活性型ポリペプチドを作製するため進化させ得るポリペプチド又はタンパク質を指す。親ポリペプチドは、天然に存在しないタンパク質であり得る。例えば、治療用ポリペプチド若しくはタンパク質又は変異体若しくはバリアントのポリペプチドを親ポリペプチドとして使用し得る。親ポリペプチドの例としては、抗体、抗体断片、酵素、酵素断片、サイトカイン及びその断片、ホルモン及びその断片、リガンド及びその断片、受容体及びその断片、調節タンパク質及びその断片、並びに増殖因子及びその断片が挙げられる。
【0072】
用語「pH依存的」は、本明細書で使用されるとき、異なるpH値で異なる特性又は活性を有するポリペプチドを指す。
【0073】
用語「ポリペプチド」は、本明細書で使用されるとき、単量体がペプチド又はジスルフィド結合によって一緒につながったアミノ酸ポリマーを指す。ポリペプチドは、完全長の天然に存在するアミノ酸鎖又は断片、その変異体又はバリアント、例えば、結合相互作用において対象となるアミノ酸鎖の選択領域であり得る。ポリペプチドはまた、合成アミノ酸鎖、又は天然に存在するアミノ酸鎖若しくはその断片と合成アミノ酸鎖との組み合わせであってもよい。断片は、完全長タンパク質の一部であるアミノ酸配列を指し、典型的には約8~約500アミノ酸長、好ましくは約8~約300アミノ酸、より好ましくは約8~約200アミノ酸、さらにより好ましくは約10~約50又は100アミノ酸長である。加えて、天然に存在するアミノ酸以外のアミノ酸、例えば、β-アラニン、フェニルグリシン及びホモアルギニンが、ポリペプチドに含まれ得る。一般に見られる非遺伝子コードアミノ酸もまた、ポリペプチドに含まれ得る。アミノ酸は、D型光学異性体又はL型光学異性体のいずれかであり得る。特定の文脈での使用にはD型異性体が好ましく、以下に詳述する。加えて、他のペプチドミメティクスもまた、例えばポリペプチドのリンカー配列において有用である(Spatola,1983,Chemistry and Biochemistry of Amino Acids.Peptides and Proteins,Weinstein,ed.,Marcel Dekker,New York,p.267を参照)。一般に、用語「タンパク質」は、共有結合性又は非共有結合性の結合によって一体に保持された2個又は数個のポリペプチド鎖を含む構造を包含すること以外には、何ら用語「ポリペプチド」との大きな違いを伝えようと意図するものではない。
【0074】
用語「小分子」は、典型的には900a.m.u.未満、又はより好ましくは500a.m.u.未満又はより好ましくは200a.m.u.未満又はさらにより好ましくは100a.m.u.未満の分子量を有する分子を指す。同じ分子量の範囲がこれらのアッセイで使用されるイオンに適用される。本発明のアッセイ及び環境において、小分子又はイオンは多くの場合に、主としてアッセイ又は環境のpHに依存して、分子と分子の脱プロトン化イオンとの混合物として存在し得る。
【0075】
本開示は、親ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを生成する方法を提供する。この方法は、(i)親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有する1つ以上の変異体ポリペプチドを製造するために親ポリペプチドに1つ以上の変異を導入することによって親ポリペプチドを進化させる工程;(ii)1つ以上の変異体ポリペプチドを、正常生理条件下での1つ以上の変異体ポリペプチドの活性を測定するための正常生理条件下での第1のアッセイおよび異常条件下での1つ以上の変異体ポリペプチドの活性を測定するための異常条件下での第2のアッセイに供する工程、ここで、正常生理条件と異常条件は同じ条件であるが、異なる値を有する工程;および(iii)正常生理条件下での第1のアッセイにおける同活性と比較して異常条件下での第2のアッセイにおける増加した活性を示す1つ以上の変異体ポリペプチドから条件的活性型ポリペプチドを選択する工程を含む。
【0076】
A. ポリペプチドのpIに影響する変異
親ポリペプチドのpIと比較して、同じまたは減少したpIを有する条件的活性型ポリペプチドを生成するために、親ポリペプチドを突然変異させてもよい。好ましくは、条件的活性型ポリペプチドは、親ポリペプチドのpIと比較して減少したpIを有するであろう。代わりに、または同時に、条件的活性型ポリペプチドは、7.4未満、または7.3未満、または7.2未満、または7.1未満、または7.0未満のpIを有し得る。この条件的活性型ポリペプチドはpH選択性、すなわち、例えば、7.2超から7.6未満までの範囲にあり得る正常生理pHにおいてよりも活性が望まれるpHにおいてより高い活性をも示すであろう。
【0077】
アミノ酸残基置換、欠失、挿入およびそれらの組合せを含む任意の適当な突然変異誘発技術を使用することができる。アミノ酸残基置換は、親ポリペプチド中のネイティブのアミノ酸残基を、置換されたネイティブのアミノ酸残基のアミノ酸のpIよりも低いpIを有する別のアミノ酸の残基と置換する。アミノ酸のpIを表1に示す。この表は、ポリペプチドに位置するアミノ酸残基ではなく、個々の分子としてアミノ酸のpIを示しているが、ポリペプチドの一部分の場合のアミノ酸残基のpIの効果は、表1のアミノ酸のpIの傾向に従う。したがって、例えば、より高いpIを有するアミノ酸のネイティブ残基を、ネイティブのアミノ酸のより高いpIよりも低いpIを有するアミノ酸の残基で置き換えると、ポリペプチドのpIが低下する。実際には、親ポリペプチドのネイティブのアミノ酸残基は、ネイティブのアミノ酸のpIよりも低いpIを有する別のアミノ酸の残基で置換してもよい。例えば、ネイティブのアミノ酸残基が塩基性アミノ酸の残基である場合、ポリペプチドのpIを低下させるために、弱酸性アミノ酸の残基又は強酸性アミノ酸の残基で置換してもよい。別の例では、ネイティブのアミノ酸残基が弱酸性アミノ酸の残基である場合、強酸性アミノ酸の残基で置換されて、ポリペプチドのpIを下げてもよい。
【表1】
【0078】
いくつかの実施形態において、親ポリペプチドのpIに影響を及ぼすために、2つ以上のアミノ酸残基が親ポリペプチドに置換される。例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個以上のアミノ酸残基置換を親ポリペプチドに導入してもよい。いくつかの実施形態において、各置換は、より低いpIを有するアミノ酸の残基を、より高いpIを有するアミノ酸の残基で置換する。他の実施形態において、置換の一部のみが、より低いpIを有するアミノ酸の残基を、より高いpIを有するアミノ酸の残基で置換する。後者の場合、多重置換の総合的な影響は、親ポリペプチドのpIと同じpIを変異体ポリペプチドについて維持するか、または親ポリペプチドのpIよりも低いpIを変異体ポリペプチドについて提供するかのいずれかとなるように、置換の組合せが選択される。
【0079】
いくつかの実施形態において、pIに影響を及ぼすために使用されるアミノ酸残基置換は、保存的置換、非保存的置換、またはそれらの組合せであり得る。
【0080】
親ポリペプチドのpIを減少させるアミノ酸残基欠失は、親ポリペプチドのpIより高いpIを有するアミノ酸の残基を欠失させることを含む。例えば、親ポリペプチドのpIが約7.2の場合、親ポリペプチドから塩基性アミノ酸の任意の1つ以上の残基を欠失させると、親ポリペプチドのpIが減少することになる。いくつかの実施形態において、少なくとも2、3、4、5個またはそれ以上のアミノ酸残基が親ポリペプチドから欠失される。いくつかの実施形態において、各欠失は、親ポリペプチドのpIよりも低いpIを有するアミノ酸の残基を欠失する。他の実施形態において、欠失の一部のみが、親ポリペプチドのpIよりも高いpIを有するアミノ酸の残基を欠失する。後者の場合、欠失の組合せは、多重欠失の総合的な影響がポリペプチドのpIを維持または低下させることになるように選択される。
【0081】
親ポリペプチドのpIを低下させるアミノ酸残基挿入には、親ポリペプチドのpIより低いpIを有するアミノ酸の残基を挿入することが含まれる。例えば、親ポリペプチドのpIが約7.2の場合、親ポリペプチドへの弱酸性アミノ酸または強酸性アミノ酸の任意の1つ以上の残基の挿入は、親ポリペプチドのpIの減少をもたらすであろう。いくつかの実施形態において、少なくとも2、3、4、5個またはそれ以上のアミノ酸残基が親ポリペプチドに挿入される。いくつかの実施形態において、各挿入は、親ポリペプチドのpIよりも低いpIを有するアミノ酸の残基を挿入する。他の実施形態において、挿入の一部のみが、親ポリペプチドのpIよりも低いpIを有するアミノ酸の残基を挿入する。後者の場合、多重挿入の総合的な影響がポリペプチドのpIを維持または低下させるように挿入の組合せを選択する。
【0082】
いくつかの実施形態において、上記のアミノ酸残基置換、アミノ酸残基欠失、およびアミノ酸残基挿入のうちの2つ以上の組合せが、親ポリペプチドのpIを左右するために使用される。例えば、変異体ポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸残基置換および1つ以上のアミノ酸残基欠失を含み得る。別の実施形態では、変異体ポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸残基置換および1つ以上のアミノ酸残基挿入を有し得る。さらに別の例では、変異体ポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸残基欠失および1つ以上のアミノ酸残基挿入を有し得る。さらに別の例では、変異体ポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸残基置換、1つ以上のアミノ酸残基欠失、および1つ以上のアミノ酸残基挿入の全てを有し得る。いずれの場合も、挿入、置換および/または欠失のすべてまたは一部のみが、ポリペプチドのpIまたは置換されているアミノ酸のpIのいずれよりも低いpIを有するアミノ酸の残基を用いてもよい。それぞれの場合において、挿入、置換および/または欠失の組合せは、多重挿入、置換および/または欠失の総合的な影響がポリペプチドのpIを維持または低下させることになるように選択される。
【0083】
所望の変異体ポリペプチドは、親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有するであろう。いくつかの変異体ポリペプチドは、親ポリペプチドのpIと同じpIをもつであろう。他の変異体ポリペプチドは、親ポリペプチドのpIよりも少なくとも0.1、または少なくとも0.2、または少なくとも0.3、または少なくとも0.4、または少なくとも0.5、または少なくとも0.6、または少なくとも0.8、または少なくとも1.0、または少なくとも1.2、または少なくとも1.4、または少なくとも1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも2.5、または少なくとも3.0、または少なくとも3.5、または少なくとも4.0、または少なくとも5.0単位低いpIを有し得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、置換されているネイティブのアミノ酸残基、欠失されているアミノ酸残基、および/またはアミノ酸残基が挿入されている位置は、親ポリペプチドの表面上に露出している。露出したアミノ酸残基または位置の変異は、親ポリペプチドの3次元構造を破壊する可能性が低いことが理解される。
【0085】
アミノ酸残基置換、挿入および欠失は、例えば部位特異的突然変異誘発(Kunkel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488-492 (1985))またはオーバーラップ伸長PCRによって、親ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列上で行うことができる。親ポリペプチドが抗体である場合、変異は、抗体のアフィニティー成熟、または抗体重鎖または軽鎖の鎖シャフリング;またはファージディスプレイライブラリーを用いた抗原パニングに基づく選択(Smith et al., Methods Enzymol. 217:228-257 (1993))によっても達成され得る。これらの突然変異誘発法は、単独で、または適切な組合せで行うことができる。
【0086】
いくつかのさらなる実施形態において、親ポリペプチドのpIに対してpIを維持または減少させる変異に加えて、変異体ポリペプチドは、pIを維持または減少させるために導入された変異を有する位置以外の位置で追加の突然変異誘発を受けることもできる。追加の突然変異誘発は、例えば、包括的位置進化、包括的位置欠失、包括的位置挿入、またはその組合せなど、US2013/0116125に詳しく記載されている任意の公知の突然変異誘発法を用いることができる。
【0087】
例えば、親ポリペプチドは、親ポリペプチドのpIに対してpIを維持または減少させる1以上のアミノ酸残基置換を含むように変異させてもよい。例えば、変異したポリペプチドは、例えば、ポリペプチドのpIを低下させるためにすでに導入されている1つ以上の変異を有する位置以外の位置における包括的位置置換、包括的位置欠失および包括的位置挿入を含む包括的位置進化を受けることもできる。
【0088】
任意のポリペプチドのpIは、等電点電気泳動法ゲル電気泳動(例えば、キャピラリー等電点電気泳動法ゲル電気泳動)または他の方法(例えば、Righetti et al., Methods Biochem. Anal. 54:379-409, 2011; Friedman et al., Methods Enzymol. 463:515-540, 2009; Koshel et al., Proteomics 12:2918-2926, 2012; Sommer et al., Electrophoresis 30:742-757, 2009; Shimura et al., Electrophoresis 30:11-28, 2009に記載の方法を参照)によって測定され得る。さらに、Ribeiro J M. Sillero A., Computers in Biology & Medicine 20(4):235-42, 1990; Ribeiro J M. Sillero A., Computers in Biology & Medicine 21(3):131-41, 1991; and Sillero A. Ribeiro J M., Analytical Biochemistry 179(2):319-25, 1989に記載されている方法など、アミノ酸配列に基づいてポリペプチドのpIを推定又は計算できる方法がある。
【0089】
抗体、酵素、ホルモン、増殖因子、サイトカイン、調節タンパク質、機能性ペプチド、バイオシミラー、免疫調節剤、治療用タンパク質、受容体、およびリガンドを含む任意のタンパク質を、本発明の親ポリペプチドとして使用することができる。親ポリペプチドはまた、上記タンパク質のいずれかの断片であってもよい。例えば、親ポリペプチドは、組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、レニン、ヒアルロニダーゼ、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、サブスタンスP (SP)、ニューロペプチドY (NPY)、血管作動性腸管ペプチド(VTP)、バソプレシンまたはアンジオスタチンであってよい。例えば、親ポリペプチドは、ストレスタンパク質、円蓋関連タンパク質、ニューロンタンパク質、消化管タンパク質、増殖因子、ミトコンドリアタンパク質、サイトゾルタンパク質、動物タンパク質、構造タンパク質、植物タンパク質、またはこれらのいずれかのタンパク質の断片であり得る。
【0090】
1つの例示的な実施形態において、親ポリペプチドは抗体である。親抗体は、治療用抗体であってもよく、または治療的使用のために開発されている候補抗体であってもよい。親抗体の例には、非ホジキンリンパ腫の治療に承認されているキメラ抗CD20抗体であるリツキシマブ(リツキサン(登録商標)、IDEC/Genentech/Roche) (例えば米国特許第5,736,137号参照);Genmabによって現在開発されている抗CD20であるHuMax-CD20、米国特許第 5,500,362号に記載されている抗CD20抗体AME-133(Applied Molecular Evolution)、hA20(Immunomedics, Inc.)、HumaLYM(Intracel)、及びPRO70769(PCT/US2003/040426、表題「Immunoglobulin Variants and Uses Thereof」)が含まれる。EGFR (ErbB-1)、Her2/neu (ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)を含む、上皮増殖因子受容体ファミリーのメンバーを標的とする多数の抗体は、本発明のpIが生物工学的に改変された定常領域から利益を得ることができる。例えば、本発明のpIが生物工学的に改変された定常領域は、乳癌を治療するために承認されたヒト化抗Her2/neu抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)、ジェネンテック)(例えば米国特許第5,677,171号参照);ジェネンテックによって現在開発されているペルツズマブ(rhuMab-2C4、Omnitarg(登録商標));米国特許4,753,894に記載されている抗Her2抗体;セツキシマブ(Erbitux(登録商標)、Imclone) (米国特許第4,943,533号; PCT WO 96/40210)、さまざまな癌の臨床試験中のキメラ抗EGFR抗体;Abgenix-Immunex-Amgen社により現在開発中であるABX-EGF (U.S. Pat. No. 6,235,883);Genmab社により現在開発中のHuMax-EGF (米国特許第10/172,317号)、425、EMD55900およびEMD7200(Merck KGaA) (米国特許第5,558,864号; Murthy et al. 1987, Arch Biochem Biophys. 252(2):549-60; Rodeck et al., 1987, J Cell Biochem.35(4):315-20; Kettleborough et al., 1991, Protein Eng.4(7):773-83);ICR62 (Institute of Cancer Research) (PCT WO 95/20045; Modjtahedi et al., 1993, J. Cell Biophys. 1993, 22(1-3):129-46; Modjtahedi et al., 1993, Br J Cancer.1993, 67(2):247-53; Modjtahedi et al, 1996, Br J Cancer, 73(2):228-35; Modjtahedi et al, 2003, Int J Cancer, 105(2):273-80); TheraCIM hR3 (YM Biosciences, Canada and Centro de Immunologia Molecular, Cuba (U.S. Pat. No. 5,891,996; U.S. Pat. No. 6,506,883; Mateo et al, 1997, Immunotechnology, 3(1):71-81); mAb-806 (Ludwig Institute for Cancer Research, Memorial Sloan-Kettering) (Jungbluth et al. 2003, Proc Natl Acad Sci USA. 100(2):639-44); KSB-102 (KS Biomedix); MR1-1 (WAX, National Cancer Institute) (PCT WO 0162931A2); およびSC100 (Scancell) (PCT WO 01/88138)に実質的に類似した抗体に使用を見出すことができる。別の好ましい実施態様において、本発明のpIが生物工学的に改変された定常領域は、B細胞慢性リンパ球性白血病の治療のために現在承認されているヒト化モノクローナル抗体であるアレムツズマブ(Campath(登録商標)、Millenium)における使用を見出すことができる。本発明の生物工学的に改変された定常領域は、以下を含む他の臨床製品および候補物に実質的に類似している様々な抗体での使用を見出すことができるが、これらに限定されない: muromonab-CD3 (Orthoclone OKT3(登録商標))、Ortho Biotech/Johnson & Johnsonにより開発された抗CD3抗体;ibritumomab tiuxetan(Zevalin)(登録商標)IDEC/Schering AGによって開発された抗CD20抗体;gemtuzumab ozogamicin (Mylotarg(登録商標))、Celltech/Wyethによって開発された抗CD33 (p67タンパク質) 抗体;alefacept (Amevive(登録商標))、Biogenによって開発された抗LFA-3 Fc融合体;abciximab (ReoPro(登録商標))、Centocor/Lillyによって開発されたNovartisによって開発されたbasiliximab (Simulect(登録商標));MedImmuneによって開発されたpalivizumab (Synagis(登録商標));infliximab (Remicade(登録商標))、Centocorによって開発された抗TNFalpha 抗体;adalimumab (Humira(登録商標))、Abbottによって開発された抗TNFalpha 抗体;Humicade(商標)、Celltechによって開発された抗TNFalpha 抗体,;etanercept (Enbrel(登録商標))、Immunex/Amgenによって開発された抗TNFalpha Fc 融合体;ABX-CBL、Abgenixによって開発された抗CD147 抗体;ABX-IL8、Abgenixによって開発された抗IL8 抗体;ABX-MA1、Abgenixによって開発された抗MUC18 抗体;Pemtumomab (R1549、90Y-muHMFG1)、Antisomaによって開発中の抗MUC1;Therex (R1550)、Antisomaによって開発された抗MUC1 抗体;Antisomaによって開発されたAngioMab (AS1405);Antisomaによって開発されたHuBC-1;Antisomaによって開発されたThioplatin (AS1407);Antegren(登録商標) (natalizumab)、Biogenによって開発された抗alpha-4-beta-1 (VLA-4)およびalpha-4-beta-7 抗体;VLA-1 mAb、Biogenによって開発された抗VLA-1 インテグリン抗体;LTBR mAb、Biogenによって開発された抗リンホトキシンベータ受容体(LTBR) 抗体;CAT-152、Cambridge Antibody Technologyによって開発された抗TGF-132 抗体;J695、Cambridge Antibody TechnologyおよびAbbottによって開発された抗IL-12 抗体;CAT-192、Cambridge Antibody TechnologyおよびGenzymeによって開発された抗TGFβ1 抗体;CAT-213、Cambridge Antibody Technologyによって開発された抗Eotaxin1 抗体;LymphoStat-B(商標) 、Cambridge Antibody Technology および Human Genome Sciences Inc. によって開発された抗Blys 抗体;TRAIL-R1mAb、Cambridge Antibody Technology および Human Genome Sciences, Inc. によって開発された抗TRAIL-R1 抗体;Avastin(商標)(bevacizumab、rhuMAb-VEGF)、Genentechによって開発された抗VEGF 抗体;Genentechによって開発された抗HER 受容体ファミリー抗体;Anti-Tissue Factor (ATF)、Genentechによって開発された抗組織因子抗体;Xolair(商標)(Omalizumab)、Genentechによって開発された抗IgE 抗体;Raptiva(商標)(Efalizumab)、Genentech and Xomaによって開発された抗CD11a 抗体;Genentech および Millenium Pharmaceuticalsによって開発されたMLN-02 抗体 (formerly LDP-02);HuMax CD4、Genmabによって開発された抗CD4 抗体;HuMax-IL15、Genmab およびAmgenによって開発された 抗IL15 抗体;Genmab および Medarexによって開発されたHuMax-Inflam;HuMax-Cancer、Genmab および Medarex および Oxford GcoSciencesによって開発された抗Heparanase I 抗体;Genmab および Amgenによって開発されたHuMax-Lymphoma;Genmabによって開発,されたHuMax-TAC;IDEC-131、IDEC Pharmaceuticalsによって開発された抗CD40L 抗体;IDEC-151 (Clenoliximab)、IDEC Pharmaceuticalsによって開発された抗CD4 抗体;IDEC-114、IDEC Pharmaceuticalsによって開発された抗CD80 抗体;IDEC-152、IDEC Pharmaceuticalsによって開発された抗CD23;IDEC Pharmaceuticalsによって開発された抗マクロファージ遊走因子(MIF)抗体(複数);BEC2、Imcloneによって開発された抗イディオタイプ抗体;IMC-1C11、Imcloneによって開発された抗KDR 抗体;DC101、Imcloneによって開発された抗flk-1 抗体;Imcloneによって開発された抗VE カドヘリン抗体;CEA-Cide(商標)(labetuzumab)、Immunomedicsによって開発された抗癌胎児性抗原(CEA) 抗体;LymphoCide(商標)(Epratuzumab)、Immunomedicsによって開発された抗CD22抗体;Immunomedicsによって開発されたAFP-Cide;Immunomedicsによって開発されたMyelomaCide;Immunomedicsによって開発されたLkoCide;Immunomedicsによって開発されたProstaCide; MDX-010、Medarexによって開発された抗CTLA4 抗体;MDX-060、Medarexによって開発された抗CD30 抗体;Medarex によって開発されたMDX-070;Medarex によって開発されたMDX-018、Osidem(商標)(IDM-1)およびMedarexおよび Immuno-Designed Moleculesによって開発された抗Her2 抗体、HuMax(商標)-CD4、MedarexおよびGenmabによって開発された抗CD4 抗
体;HuMax-IL15、Medarex およびGenmabによって開発された抗IL15 抗体;CNTO 148、Medarex およびCentocor/J&Jによって開発された抗TNFα 抗体;CNTO 1275、Centocor/J&Jによって開発された抗サイトカイン抗体;MOR101 および MOR102、MorphoSysによって開発された抗細胞間接着分子-1 (ICAM-1) (CD54)抗体(複数); MOR201、MorphoSysによって開発された抗fibroblast growth factor receptor 3 (FGFR-3) 抗体;Nuvion(登録商標) (visilizumab)、Protein Design Labsによって開発された抗CD3 抗体;HuZAF(商標)、Protein Design Labsによって開発された抗ガンマインターフェロン抗体;Protein Design Labsによって開発された抗α5β1 インテグリン;Protein Design Labsによって開発された抗IL-12;ING-1、Xomaによって開発された抗Ep-CAM 抗体;MLN01、Xomaによって開発された抗Beta2インテグリン抗体;Seattle Geneticsによって開発されたpI-ADC 抗体;この段落で上に引用したすべての参考文献は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0091】
親抗体は、完全長抗体、抗体断片、一本鎖抗体、FabまたはFcドメインであり得る。親抗体はIgG抗体であり得る。いくつかの抗体アイソタイプのうち、IgG抗体は分子量が十分に大きいため、その主要代謝経路は腎排泄を介さない。IgGはFcRnを介してサルベージ経路を介して再利用されることが知られており、in vivo半減期が長い。IgG抗体は、内皮細胞において主に代謝経路を介して代謝されると想定されている(Heら、J. Immunol.、vol.160、pp.1029-1035、1998)。具体的には、IgG抗体が内皮細胞に非特異的に取り込まれると、IgG抗体はFcRnに結合することにより再利用される一方、FcRnに結合しないIgG抗体は分解されると考えられている。IgG抗体の血漿半減期は、例えば、WO2007/114319およびWO2009/041643に記載されるように、そのpIと逆相関する。
【0092】
IgG抗体の中で、親抗体は、高いエフェクター機能を含む種々の理由により、治療用抗体の共通のアイソタイプであるIgG1抗体であり得る。しかしながら、IgG1の重鎖定常領域は、IgG2のそれよりも高いpIを有する(8.10対7.31)。特定の位置の一部のIgG2アミノ酸残基をアミノ酸残基置換によりIgG1骨格に導入することにより、生じたIgG1のpIが低下し、さらに血漿中では親IgG1抗体よりも長い半減期を示す。例えば、IgG1は位置137でグリシンを有しており、IgG2は同じ位置でグルタミン酸(強酸性アミノ酸)を有している。IgG1の位置137のグリシンをグルタミン酸で置換すると、変異体IgG1抗体のpIが低下し、IgG1抗体の半減期が増大する。
【0093】
いくつかの実施形態において、親ポリペプチドのpIに対してpIを維持または減少させるために本明細書に記載されている一つ以上の変異または変異の組合せは、抗体重鎖、抗体軽鎖、または抗体重鎖と抗体軽鎖の両方に位置する。
B. 抗体の重鎖中の変異
【0094】
いくつかの実施形態において、ポリペプチドのpIを維持または減少させる目的で本明細書に記載されている変異または変異の組合せは、少なくともIgG抗体の重鎖のCH1領域においてなされる。これらの実施形態において、変異は、CH1領域の位置119、131、133、137、138、164、192、193、196、199、203、205、208、210、214、217および219における変異およびこれらの位置の変異の任意の組合せから独立して選択され得る。変異は、これらの17の位置のうちの1つ、またはこれらの17の位置の全ての考えられる組合せおよびサブ組合せにおいて、置換、欠失または挿入によって導入することができる。例えば、変異体抗体は、これら17の位置の1つ以上において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、または17個のCH1置換を有し得る。したがって、CH1領域にある任意の単一の変異または変異の組合せも可能である。さらに、CH1領域における1以上の変異は、任意に、1つ以上の他の変異との組合せ、またはCH2、CH3、ヒンジおよびLC領域のいずれかにおける変異の組み合わせてもよい。そのような場合には、CH1、CH2、CH3、ヒンジおよびLC領域における変異の組合せを選択して、親抗体のpIと比較して変異体抗体のpIを低下させることができる。
【0095】
重鎖のpIを減少させ得る有用な置換は、IgG抗体重鎖のCH1領域における位置121、124、129、132、134、126、152、155、157、159、101、161、162、165、176、177、178、190、191、194、195、197、212、216および218の1つ以上におけるアスパラギン酸またはグルタミン酸残基の置換を含む。
【0096】
抗体重鎖のCH1領域における特異的置換は、限定されるわけではないが、位置119における非ネイティブのグルタミン酸、位置131における非ネイティブのシステイン、位置133における非ネイティブのアルギニン、リジン又はグルタミン、位置137における非ネイティブのグルタミン酸、位置138における非ネイティブのセリン、位置164における非ネイティブのグルタミン酸、位置192における非ネイティブのアスパラギン、位置193における非ネイティブのフェニルアラニン、位置196における非ネイティブのリジン、位置199における非ネイティブのスレオニン、位置203における非ネイティブのアスパラギン酸、位置205における非ネイティブのグルタミン酸またはグルタミン、位置208における非ネイティブのアスパラギン酸、位置210における非ネイティブのグルタミン酸又はグルタミン、位置214における非ネイティブのスレオニン、位置217における非ネイティブのアルギニンおよび位置219における非ネイティブのシステイン、およびその任意の組合せを含む。
【0097】
いくつかの実施形態において、変異は、位置221、222、223、224、225、233、234、235および236を含む、抗体重鎖のヒンジ領域において作成される。具体的には、1、2、3、4または5の変異、および特に、1、2、3、4または5の置換を位置221-225で行うことができる。ここでも、考えられるすべての組合せが、単独で、あるいは他の領域の他の変異と組み合わせて意図される。
【0098】
抗体重鎖のヒンジ領域における特異的変異は、限定されるものではないが、位置221における欠失、位置222における非ネイティブのバリンまたはスレオニン、位置223における欠失、位置224における非ネイティブのグルタミン酸、位置225における欠失、位置235における欠失、位置236における欠失または非ネイティブのアラニンおよびその任意の組合せを含み得る。いくつかの場合において、抗体重鎖のヒンジ領域に1つ以上のこれらの変異のみが導入され、他の実施形態において、いずれかの組合せにおいて、これらの変異の1つ以上が、親抗体の他の領域における変異の1つ以上と結合される。
【0099】
いくつかの実施形態において、変異は、位置274、296、300、309、320、322、326、327、334および339を含む抗体の重鎖のCH2領域において作成することができる。具体的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の変異を、抗体の重鎖のCH2領域のこれら10の位置中の任意の組合せにおいて作成することができる。
【0100】
抗体重鎖のCH2領域における特異的置換は、位置274の非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置296の非ネイティブのフェニルアラニン、位置300の非ネイティブのフェニルアラニン、位置309の非ネイティブのバリン、位置320の非ネイティブのグルタミン酸、位置322の非ネイティブのグルタミン酸、位置326の非ネイティブのグルタミン酸、位置327の非ネイティブのグリシン、位置334の非ネイティブのグルタミン酸、位置339の非ネイティブのスレオニン、およびこれらの置換の任意の組合せ、さらに抗体の他の領域の1以上の他の変異との組合せを含み得るが、これらに限定されない。
【0101】
変異は、抗体重鎖のCH3領域の位置355、359、362、384、389、392、397、418、419、444および447の変異から独立して選択することができる。変異体抗体は、CH3領域内のこれらの位置に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11個の変異を任意の組合せで有していてもよい。さらに、本明細書中に記載されるように、CH3領域中の任意の1以上の変異を、抗体のCH2、CH1、ヒンジおよびLC領域中の1以上の他の変異と組み合わせることができる。
【0102】
抗体重鎖のCH3領域における特異的置換は、位置355の非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置384の非ネイティブのセリン、位置392の非ネイティブのアスパラギンまたはグルタミン酸、位置397の非ネイティブのメチオニン、位置419の非ネイティブのグルタミン酸、位置359の非ネイティブのグルタミン酸、位置362の非ネイティブグルタミン酸、位置389の非ネイティブのグルタミン酸、位置418の非ネイティブのグルタミン酸、位置444の非ネイティブのグルタミン酸、および位置447の非ネイティブのアスパラギン酸、ならびにこれらの置換の2つ以上の任意の組合せを含み得るが、これらに限定されない。
【0103】
したがって、以下の抗体重鎖の欠失または置換のすべての可能な組み合わせを行うことができ、各変異は任意選択で含まれるかまたは除外される:位置119の非ネイティブのグルタミン酸、位置131の非ネイティブのシステイン、位置133の非ネイティブのアルギニン、リジンまたはグルタミン、位置137の非ネイティブのグルタミン酸、位置138の非ネイティブのセリン、位置164の非ネイティブのグルタミン酸、位置192の非ネイティブのアスパラギン、位置193の非ネイティブのフェニルアラニン、位置196の非ネイティブのリジン、位置199での非ネイティブのスレオニン、位置203の非ネイティブのアスパラギン酸、位置205の非ネイティブのグルタミン酸またはグルタミン、位置208の非ネイティブのアスパラギン酸、位置210の非ネイティブのグルタミン酸またはグルタミン、位置214の非ネイティブのスレオニン、位置217の非ネイティブのアルギニンおよび位置219の非ネイティブのシステイン、位置221の欠失、位置222の非ネイティブのバリンまたはスレオニン、位置223の欠失、位置224の非ネイティブのグルタミン酸、位置225の欠失、位置235の欠失、位置221の欠失、位置222の非ネイティブのバリンまたはスレオニン、位置223の欠失、位置224の非ネイティブのグルタミン酸、位置225の欠失、位置235の欠失、位置274の非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置296の非ネイティブのフェニルアラニン、位置300の非ネイティブのフェニルアラニン、位置309の非ネイティブのバリン、位置320の非ネイティブのグルタミン酸、位置322の非ネイティブのグルタミン酸、位置326の非ネイティブのグルタミン酸、位置327の非ネイティブのグリシン、位置334の非ネイティブのグルタミン酸、位置339の非ネイティブのスレオニン、位置355の非ネイティブのグルタミン又はグルタミン酸、位置384の非ネイティブのセリン、位置392の非ネイティブのアスパラギン又はグルタミン酸、位置397の非ネイティブのメチオニン、位置419の非ネイティブのグルタミン酸、位置359の非ネイティブのグルタミン酸、位置362の非ネイティブのグルタミン酸、位置389の非ネイティブのグルタミン酸、位置418の非ネイティブのグルタミン酸、位置444の非ネイティブのグルタミン酸、および位置447の非ネイティブのアスパラギン酸。
【0104】
C.抗体軽鎖の変異
いくつかの実施形態において、変異は、IgG抗体の軽鎖にあることができる。変異は、軽鎖の位置126、145、152、156、169、199、202および207から独立に選択された位置に位置することができる。抗体は、任意の組合せにおいて、これらの位置で軽鎖中に1、2、3、4、5、6、7または8個の変異を有し得る。さらに、任意の単一または組合せの軽鎖変異を、上記の抗体の重鎖変異の任意の1つ以上と組み合わせることができる。
【0105】
抗体軽鎖における特異的置換としては、位置126における非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置145における非ネイティブのグルタミン、グルタミン酸またはスレオニン、位置152における非ネイティブのアスパラギン酸、位置156における非ネイティブのグルタミン酸、位置169における非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置199における非ネイティブグルタミン酸、位置202における非ネイティブのグルタミン酸および位置207における非ネイティブのグルタミン酸が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0106】
D.重鎖および軽鎖変異
いくつかの実施形態において、変異体抗体は、上述のように、重鎖および軽鎖の両方において変異を有し得る。いくつかの実施形態において、変異体抗体は、重鎖においてのみ変異を有し得、その場合、変異体抗体は親抗体の軽鎖を有するであろう。いくつかの実施形態において、変異体抗体は、軽鎖においてのみ変異を有し得、その場合、変異体抗体は親抗体の重鎖を有するであろう。
【0107】
したがって、抗体の重鎖および軽鎖における以下の変異の任意の可能な組み合わせを行うことができ、各変異は任意選択で含まれるかまたは除外される:a)重鎖:位置119の非ネイティブのグルタミン酸;位置131の非ネイティブのシステイン;位置133の非ネイティブのアルギニン、リジンまたはグルタミン;位置137の非ネイティブのグルタミン酸;位置138の非ネイティブのセリン;位置164の非ネイティブのグルタミン酸;位置192の非ネイティブのアスパラギン;位置193の非ネイティブのフェニルアラニン、位置196の非ネイティブのリジン、位置199の非ネイティブのスレオニン、位置203の非ネイティブのアスパラギン酸、位置205の非ネイティブのグルタミン酸またはグルタミン、位置208の非ネイティブのアスパラギン酸、位置210の非ネイティブのグルタミン酸またはグルタミン、位置214の非ネイティブのスレオニン、位置217の非ネイティブアルギニンおよび位置219の非ネイティブのシステイン、位置221の欠失、位置222の非ネイティブのバリンまたはスレオニン、位置223の欠失、位置224の非ネイティブのグルタミン酸、位置225の欠失、位置235の欠失、位置221の欠失、位置222の非ネイティブのバリンまたはスレオニン、位置223の欠失、位置224の非ネイティブのグルタミン酸、位置225の欠失、および位置235の欠失、位置274の非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置296の非ネイティブのフェニルアラニン、位置300の非ネイティブのフェニルアラニン、位置309の非ネイティブのバリン、位置320の非ネイティブのグルタミン酸、位置322の非ネイティブのグルタミン酸、位置326の非ネイティブのグルタミン酸、位置327の非ネイティブのグリシン、位置334の非ネイティブのグルタミン酸、位置339の非ネイティブのスレオニン、位置355の非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置384の非ネイティブのセリン、位置392の非ネイティブのアスパラギンまたはグルタミン酸、位置397の非ネイティブのメチオニン、位置419の非ネイティブのグルタミン酸、位置359の非ネイティブのグルタミン酸、位置362の非ネイティブのグルタミン酸、位置389の非ネイティブのグルタミン酸、位置418の非ネイティブのグルタミン酸、位置444の非ネイティブのグルタミン酸、および位置447の欠失または非ネイティブのアスパラギン酸。軽鎖:b)位置126の非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置145の非ネイティブのグルタミン、グルタミン酸またはスレオニン、位置152の非ネイティブのアスパラギン酸、位置156の非ネイティブのグルタミン酸、位置169の非ネイティブのグルタミンまたはグルタミン酸、位置199の非ネイティブのグルタミン酸、位置202の非ネイティブのグルタミン酸および位置207の非ネイティブのグルタミン酸。
E. 抗体の定常領域の変異
【0108】
いくつかの実施形態において、1以上の変異は、IgG抗体のような抗体の重鎖定常領域、軽鎖定常領域、またはその両方に位置してもよい。例えば、抗体の重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域に1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の変異が存在し得る。
【0109】
重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域の変異は、親抗体のpIと比較して、少なくとも0.2、0.4、0.6、08、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5または5.0単位だけ、親抗体のpIを低下させるのに充分である。
F. 親抗体の可変領域
【0110】
いくつかの実施形態において、1以上の変異は、IgG抗体のような抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域、またはその両方に位置する。1つの実施形態において、変異は、例えば、抗体の重鎖および/または軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3の1つ以上、および/またはフレームワーク領域(FR)、例えば、FR1、FR2、FR3、およびFR4の1つ以上に位置する。定常領域の変異が免疫原性の増大につながる可能性があるため、可変領域に変異を導入することは定常領域の変異に比べて有利であると考えられる。
【0111】
1つの例では、位置する変異は、抗原結合によってマスクされない可変領域内の位置にある。抗原結合によってマスクされない位置は、抗原結合抗体の表面に露出したままの位置である。あるいは、変異は、抗原結合を実質的に妨害しない位置で作られてもよい。
【0112】
CDRおよびFRを同定する方法は、公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al.; Nature, vol.342, p. 877, 1989)。FRにおける改変可能なアミノ酸残基には、非共有結合結合を経由して抗原に直接的に結合する残基(Amit et al., Science, 233:747-53, 1986)、CDR構造に何らかの効果または効果を与える残基(Chothia et al., J. Mol., J. Biol., 196:901-917, 1987)、および重鎖可変領域と軽鎖可変領域との相互作用に関係する残基物(出願公開EP 239400A1)が含まれる。
【0113】
上記の突然変異誘発法は、1つ以上の変異体ポリペプチドの集合を産生する。これらの変異体ポリペプチドは、親ポリペプチドのpIと同じかそれより低いpIを有する可能性がある。上述のさまざまな突然変異誘発法を用いて作製できる変異体ポリペプチドの中には、親ポリペプチドのpIと同じかそれ以上のpIをもつものがあるかもしれない。これは、例えば、包括的位置進化、包括的位置欠失、包括的位置挿入によって導入された追加の変異、またはその組合せによって引き起こされ、pIの維持または減少のために導入された変異の影響を克服しうる。このため、いくつかの実施形態において、本発明は、特定の変異体ポリペプチドまたは少なくとも変異体ポリペプチドの実質的部分が、親ポリペプチドのpIより低いpIを有することを確認する。これは、変異体ポリペプチドのかなりの部分が、親ポリペプチドのpIよりも低いpHを有する領域に集中していることを示す等電点ゲル電気泳動によって達成され得る。例えば、変異体ポリペプチドの少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%は、親ポリペプチドのpIより低いpIを有していてもよい。
【0114】
いくつかの実施形態において、本発明は、親ポリペプチドのpIと同一またはそれより高いpIを有する変異体ポリペプチドの一部またはすべてを除外するために、変異体ポリペプチドを任意に濾過する。これらの変異体ポリペプチドの濾過は、等電点電気泳動ゲル電気泳動によって達成することもでき、それによって、親ポリペプチドのpIよりも低いpHを有する領域に集束された変異体ポリペプチドを収集し、さらなる工程に使用することができる。親ポリペプチドのpIと同じかそれより高いpHを有する領域に焦点を合わせた変異体ポリペプチドは除外され得る。
G. 条件的活性型ポリペプチドのスクリーニング
【0115】
変異体ポリペプチドを条件活性についてスクリーニングする。このようにして、条件活性と親ポリペプチドよりも低いpIの両方を有するポリペプチドを同定することができる。これは、特に治療用抗体のような抗体についての、特徴の望ましい組合せである。
【0116】
条件的活性型ポリペプチドを選択するための変異体ポリペプチドを選別する方法は、WO 2017/078839に記載されている。条件的活性型ポリペプチドは、対応する正常生理条件で同じ変異体ポリペプチドの同じ活性と比較して、正常生理条件から逸脱した異常条件で増加した活性をスクリーニングすることによって、任意に
(a)同じ異常条件で親ポリペプチドの同じ活性と比較して、正常生理条件から逸脱した異常条件での活性の増加についてスクリーニングすること、
(b)同じ正常生理条件下で親ポリペプチドの同じ活性と比較して、正常生理条件下での活性の減についてスクリーニングすること、または
上記(a)および(b)の組合せによって、選択することができる。
【0117】
条件的活性型ポリペプチドは、選択性を有し得、すなわち、正常生理条件での活性に対する異常条件での活性の比が、少なくとも約1.3、少なくとも約1.5、または少なくとも約1.7、または少なくとも約2.0、または少なくとも約3.0、または少なくとも約4.0、または少なくとも約6.0、または少なくとも約8.0、または少なくとも約10.0、または少なくとも約20.0、または少なくとも約40.0、または少なくとも約60.0、または少なくとも約100.0である。
【0118】
異常条件および正常生理条件は、同じ条件の異なる値である。例えば、異常条件と正常生理条件は、2つの異なる温度、または2つの異なるpH値であってもよい。条件は、温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス、電解質濃度、並びに2つ以上のかかる条件の組み合わせから選択される。
【0119】
例えば、温度の正常生理条件は37.0℃の正常ヒト体温であってもよく、一方、温度の異常条件は37.0℃の温度と異なる温度、例えば正常生理的温度よりも1~2℃高いものであり得る腫瘍微小環境における温度であってもよい。別の例において、正常生理条件は7.2~7.8、又は7.2~7.6の範囲の正常ヒト生理的pH及び腫瘍微小環境ににみられ得るとき5.5~7.2、6~7、又は6.2~6.8の範囲などの異常pHであってもよい。
【0120】
正常生理条件下及び異常条件下の両方のアッセイとも、アッセイ媒体中で実施し得る。アッセイ媒体は、例えば緩衝液並びに他の成分を含有し得る溶液であり得る。アッセイ媒体に用いることのできる一般的な緩衝液としては、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、クレブス緩衝液などの重炭酸塩緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液、ハンクス緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液等が挙げられる。アッセイに好適な当業者に公知の他の緩衝液が用いられてもよい。これらの緩衝液は、血漿又はリンパ液など、ヒト又は動物の体液の組成の特性又は成分を模擬するために用いられ得る。
【0121】
本発明の方法において有用なアッセイ溶液は、無機化合物、イオン及び有機分子から選択される少なくとも1つの構成成分、好ましくはヒト又は動物などの哺乳類の体液中に一般に見出されるものを含有し得る。かかる構成成分の例としては、栄養構成成分及び代謝産物、並びに体液中に見出され得る任意の他の構成成分が挙げられる。本発明は、この構成成分が緩衝液系の一部であっても、又はそうでなくてもよいことを企図する。例えば、アッセイ溶液は、重炭酸塩を加えたPBS緩衝液であってもよく、ここで重炭酸塩はPBS緩衝液の一部ではない。或いは、重炭酸塩はクレブス緩衝液の一成分である。
【0122】
構成成分が両方のアッセイ溶液(第1及び第2の条件用の)に実質的に同じ濃度で存在し、一方、これらの2つのアッセイ溶液は、pH、温度、電解質濃度、又は浸透圧など、他の点で異なってもよい。従って、構成成分は、第1及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件の2つの条件間のそれぞれ違いでなく、むしろ定数として用いられる。
【0123】
一部の実施形態において、構成成分は両方のアッセイ溶液に、その構成成分の哺乳類、特にヒトにおける正常生理的濃度に近い又はそれと同じ濃度で存在する。
【0124】
無機化合物又はイオンは、ホウ酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二アンモニウム、硫酸マグネシウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、カルシウムキレート、銅キレート、鉄キレート、マンガンキレート及び亜鉛キレート、モリブデン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、二硫化ナトリウム、二硫化カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、硝酸カリウム、塩酸、二酸化炭素、硫酸、リン酸、炭酸、尿酸、塩化水素、尿素、リンイオン、硫酸イオン、塩化物イオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン及び銅イオンのうちの1つ以上から選択され得る。
【0125】
無機化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、2~7.0mg/dLの濃度範囲の尿酸、8.2~11.6mg/dLの濃度範囲のカルシウムイオン、355~381mg/dLの濃度範囲の塩化物イオン、0.028~0.210mg/dLの濃度範囲の鉄イオン、12.1~25.4mg/dLの濃度範囲のカリウムイオン、300~330mg/dLの濃度範囲のナトリウムイオン、15~30mMの濃度範囲の炭酸、約80μMのクエン酸イオン、0.05~2.6mMの範囲のヒスチジンイオン、0.3~1μMの範囲のヒスタミン、1~20μMの範囲のHAPTイオン(水素付加アデノシン三リン酸)、及び1~20μMの範囲のHADPイオンが挙げられる。
【0126】
一部の実施形態において、第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件、それぞれ、両方のアッセイ溶液中に存在するイオンは、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン(塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキシハロゲン化物イオン、硫酸イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、重硫酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、スルホン酸イオン、オキシハロゲン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、過硫酸イオン、モノ過硫酸イオン、ホウ酸イオン、アンモニウムイオン、又は有機イオン、例えばカルボン酸イオン、フェノラートイオン、スルホン酸イオン(硫酸メチルなどの有機硫酸塩)、バナジウム酸イオン、タングステン酸イオン、ホウ酸イオン、有機ボロン酸イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、酢酸イオン、五ホウ酸イオン、ヒスチジンイオン、及びフェノラートイオンから選択される。
【0127】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件、それぞれ、両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、例えば、ヒスチジン、アラニン、イソロイシン、アルギニン、ロイシン、アスパラギン、リジン、アスパラギン酸、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン、グルタミン、トリプトファン、グリシン、バリン、ピロリシン、プロリン、セレノシステイン、セリン、チロシンなどのアミノ酸及びこれらの混合物から選択され得る。
【0128】
アミノ酸の一部の正常生理的濃度の例としては、3.97±0.70mg/dLのアラニン、2.34±0.62mg/dLのアルギニン、3.41±1.39mg/dLのグルタミン酸、5.78±1.55mg/dLのグルタミン、1.77±0.26mg/dLのグリシン、1.42±0.18mg/dLのヒスチジン、1.60±0.31mg/dLのイソロイシン、1.91±0.34mg/dLのロイシン、2.95±0.42mg/dLのリジン、0.85±0.46mg/dLのメチオニン、1.38±0.32mg/dLのフェニルアラニン、2.02±6.45mg/dLのスレオニン、1.08±0.21mg/dLのトリプトファン、1.48±0.37mg/dLのチロシン及び2.83±0.34mg/dLのバリンが挙げられる。
【0129】
第1の条件及び第2の条件、又は正常生理条件及び異常条件、それぞれ、両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、クレアチン、クレアチニン、グアニジノ酢酸、尿酸、アラントイン、アデノシン、尿素、アンモニア及びコリンなどの非タンパク質窒素含有化合物から選択され得る。これらの化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、1.07±0.76mg/dLのクレアチン、0.9~1.65mg/dLのクレアチニン、0.26±0.24mg/dLのグアニジノ酢酸、4.0±2.9mg/dLの尿酸、0.3~0.6mg/dLのアラントイン、1.09±0.385mg/dLのアデノシン、尿素27.1±4.5mg/dL及び0.3~1.5mg/dLのコリンが挙げられる。
【0130】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、クエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、乳酸、ピルビン酸、α-ケトン酸、酢酸、及び揮発性脂肪酸などの有機酸から選択され得る。これらの有機酸の一部の正常生理的濃度の例としては、2.5±1.9mg/dLのクエン酸、0.8mg/dLのα-ケトグルタル酸、0.5mg/dLのコハク酸、0.46±0.24mg/dLのリンゴ酸、0.8~2.8mg/dLのアセト酢酸、0.5±0.3mg/dLのβ-ヒドロキシ酪酸、8~17mg/dLの乳酸、1.0±0.77mg/dLのピルビン酸、0.6~2.1mg/dLのa-ケトン酸、1.8mg/dLの揮発性脂肪酸が挙げられる。
【0131】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、グルコース、ペントース、ヘキソース、キシロース、リボース、マンノース及びガラクトースなどの糖類(炭水化物)、並びに、ラクトース、GlcNAcβ1-3Gal、Galα1-4Gal、Manα1-2Man、GalNAcβ1-3Gal及びO-、N-、C-、又はS-グリコシドを含めた二糖類から選択され得る。これらの糖類の一部の正常生理的濃度の例としては、83±4mg/dLのグルコース、102±73mg/dLの多糖類(ヘキソースとして)、77±63mg/dLのグルコサミン、0.4~1.4mg/dLのヘキスロン酸塩(グルクロン酸として)及び2.55±0.37mg/dLのペントースが挙げられる。
【0132】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、コレステロール、レシチン、セファリン、スフィンゴミエリン及び胆汁酸などの脂肪又はその誘導体から選択され得る。これらの化合物の一部の正常生理的濃度の例としては、40~70mg/dLの遊離コレステロール、100~200mg/dLのレシチン、0~30mg/dLのセファリン、10~30mg/dLのスフィンゴミエリン及び02.~0.3mg/dLの胆汁酸(コール酸として)が挙げられる。
【0133】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、フィブリノゲン、抗血友病グロブリン、免疫γ-グロブリン、免疫オイグロブリン、同種凝集素、β-偽グロブリン、糖タンパク質、リポタンパク質及びアルブミンなどのタンパク質から選択され得る。例えば、哺乳類血清アルブミンの正常生理的濃度は3.5~5.0g/dLである。一実施形態において、アルブミンはウシ血清アルブミンである。
【0134】
正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液中に存在する有機化合物は、ビタミンA、カロチン、ビタミンE、アスコルビン酸、チアミン、イノシトール、葉酸、ビオチン、パントテン酸、リボフラビンなどのビタミン類から選択され得る。これらのビタミン類の一部の正常生理的濃度の例としては、0.019~0.036mg/dLのビタミンA、0.90~1.59mg/dLのビタミンE、0.42~0.76mg/dLのイノシトール、0.00162~0.00195mg/dLの葉酸及びビオチン0.00095~0.00166mg/dLが挙げられる。
【0135】
アッセイ溶液中(正常生理条件下及び異常条件下の両方のアッセイ用)の無機化合物、イオン、又は有機分子の濃度は、ヒト又は動物血清中のその無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度の範囲内であり得る。しかしながら、生理的正常範囲外の濃度もまた用いられ得る。例えば、ヒト血清中におけるマグネシウムイオンの正常範囲は1.7~2.2mg/dL、及びカルシウムは8.5~10.2mg/dLである。アッセイ溶液中のマグネシウムイオン濃度は約0.17mg/dL~約11mg/dLであってもよい。アッセイ溶液中のカルシウムイオン濃度は約0.85mg/dL~約51mg/dLであってもよい。一般則として、アッセイ溶液中の無機化合物、イオン、又は有機分子の濃度は、ヒト血清中のその無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度の5%、又は10%、又は20%、又は30%、又は40%、又は50%、又は60%、又は70%、又は80%もの低さであるか、又はヒト血清中のその無機化合物、イオン、又は有機分子の正常生理的濃度の1.5倍、又は2倍、又は3倍、又は4倍又は5倍、又は7倍又は9倍又は10倍又はさらには20倍もの高さであってもよい。アッセイ溶液の種々の構成成分を、それぞれの正常生理的濃度と異なる濃度レベルで使用し得る。
【0136】
正常生理条件下及び異常条件下でのアッセイを用いて変異体ポリペプチドの活性を計測する。アッセイ中、変異体ポリペプチド及びその結合パートナーの両方がアッセイ溶液中に存在する。変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の関係は、例えば、抗体-抗原、リガンド-受容体、酵素-基質、又はホルモン-受容体であり得る。変異体ポリペプチドがその活性を発現するには、変異体ポリペプチドがその結合パートナーと接触してそれに結合することが可能でなければならない。次には変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの結合後に変異体ポリペプチドのその結合パートナーに対する活性が発現し、それを計測する。
【0137】
一部の実施形態において、アッセイで用いられるイオンは、スクリーニングする変異体ポリペプチドとその結合パートナー、特に荷電アミノ酸残基を含むものとの間の架橋の形成において機能し得る。従ってイオンは、変異体ポリペプチド及びその結合パートナーの両方との水素結合及び/又はイオン結合による結合能を有し得る。これは、巨大分子(変異体ポリペプチド又はその結合パートナー)には到達し難いこともある部位にイオンが到達可能であることにより、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助し得る。場合によっては、アッセイ溶液中のイオンは、変異体ポリペプチド及びその結合パートナーが互いに結合する可能性を増加させ得る。さらに、イオンは、それに加えて又は代えて、大型分子(変異体ポリペプチド又はその結合パートナー)に結合することによって変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助し得る。この結合は、結合パートナーとの結合を促進する特定のコンホメーションに大型分子のコンホメーションを変化させ、及び/又は大型分子をそのようなコンホメーションに保持し得る。
【0138】
イオンが変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を、恐らくは変異体ポリペプチド及びその結合パートナーとのイオン結合の形成によって補助し得ることが観察されている。従って、イオンのない同じアッセイと比較してスクリーニングがはるかに効率的となり得るとともに、より多くのヒット(候補条件的活性型ポリペプチド)を同定することができる。好適なイオンは、マグネシウムイオン、硫酸イオン、重硫酸イオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、HAPTイオン、HADPイオン、重炭酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、過硫酸イオン、モノ過硫酸イオン、ホウ酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、ヒスチジンイオン、ヒスタミンイオン、及びアンモニウムイオンから選択され得る。
【0139】
イオンは、そのイオンのpKaに近いpHで変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するよう機能することが分かっている。かかるイオンは、好ましくは変異体ポリペプチドのサイズと比べて比較的小さい。
【0140】
一実施形態において、異常条件が正常生理条件下における正常生理的pHと異なるpHである場合、候補条件的活性型ポリペプチドのヒット数を増加させるのに好適なイオンは、アッセイで試験する異常pHに近いpKaを有するイオンから選択され得る。例えば、イオンのpKaは、異常pHから最大2pH単位離れていてもよく、異常pHから最大1pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.8pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.6pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.5pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.4pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.3pH単位離れていてもよく、異常pHから最大0.2pH単位離れていてもよく、又は異常pHから最大0.1pH単位離れていてもよい。
【0141】
本発明において有用なイオンの例示的pKa(このpKaは温度が異なるとごく僅かに変わり得る)は、以下のとおりである:アンモニウムイオンはpKaが約9.24であり、リン酸二水素はpKaが約7.2であり、酢酸はpKaが約4.76であり、ヒスチジンはpKaが約6.04であり、重炭酸イオンはpKaが約6.4であり、クエン酸塩はpKaが6.4であり、乳酸イオンはpKaが約3.86であり、ヒスタミンはpKaが約6.9であり、HATPはpKaが6.95であり(HATP3-⇔ATP4-+H+)、及びHADPはpKaが6.88である(HADP3-⇔ADP4-+H+)。
【0142】
一実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは二硫化物の存在下でアッセイ及び選択される。二硫化物はpKaが7.05である。一部の実施形態では、正常生理条件に相当するアッセイと異常生理条件に相当するアッセイとに異なる二硫化物濃度が用いられ得る。或いは、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ媒体は二硫化物濃度がほぼ同じで、また特定の条件の値が何らか異なるものであり、例えばこのアッセイは異なるpHで行われ得る。アッセイで用いられる二硫化物濃度は1mM~100mMであり得る。好ましくは、アッセイ媒体は、2~500nM、又は3~200nM、又は5~100nMの二硫化物濃度を有する。一部の態様において、二硫化物濃度は1mM~20mM、又は2mM~10mMであり得る。二硫化物の存在下で行われるアッセイは公知である。
【0143】
特定の実施形態において、異常条件のpH(即ち異常pH)が分かると、候補条件的活性型ポリペプチドのヒットを増加させるのに好適なイオンが、異常pHの又はそれに近いpKaを有するイオンから選択されてもよく、例えば、候補イオンは、異常pHから最大4pH単位離れた、異常pHから最大3pH単位離れた、異常pHから最大2pH単位離れた、異常pHから最大1pH単位離れた、異常pHから最大0.8pH単位離れた、異常pHから最大0.6pH単位離れた、異常pHから最大0.5pH単位離れた、異常pHから最大0.4pH単位離れた、異常pHから最大0.3pH単位離れた、異常pHから最大0.2pH単位離れた、又は異常pHから最大0.1pH単位離れたpKaを有し得る。
【0144】
前述のとおり、イオンは、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するのに、そのイオンのpKaの又はそれに近いpHで最も有効である。例えば、pH7.2~7.6のアッセイ溶液では、重炭酸イオン(pKaが約6.4である)は、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するのにあまり有効でないことが分かっている。アッセイ溶液のpHを6.7、さらには約6.0にまで低下させるに従い、重炭酸イオンは、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合の補助に次第に有効となる。結果として、pH6.0のアッセイであれば、pH7.2~7.6のアッセイと比較してより多くのヒットが同定され得る。同様に、ヒスチジンは、pH7.4では、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するのにあまり有効でない。アッセイ溶液のpHを6.7、さらには約6.0にまで低下させるに従い、ヒスチジンは変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合の補助に次第に有効となり、また、例えば約6.2~6.4の範囲のpHでは、より多くのヒットを同定することも可能になる。
【0145】
正常生理条件のアッセイ溶液のpH(即ち、正常生理的pH)と異常条件のアッセイ溶液のpH(即ち、異常pH)とが異なる場合、正常生理的pHと異常pHとのほぼ中点からほぼ異常pHに至る範囲のpKaを有するイオンが、スクリーニングする変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を大幅に補助し得ることが見出された。結果として、このスクリーニングアッセイは、異常条件で活性が高いヒット又は候補条件的ポリペプチドをより多く見付けるのに、はるかに効率的である。
【0146】
一部の実施形態では、pKaはさらには異常pHから少なくとも1pH単位離れていてもよい。異常pHが酸性pHである場合、好適なイオンのpKaは、(異常pH-1)から異常pHと正常生理的pHとの中点に至るまでの範囲であり得る。異常pHが塩基性pHである場合、好適なイオンのpKaは、(異常pH+1)から異常pHと正常生理的pHとの中点に至るまでの範囲であり得る。イオンは、本願に記載されるものから選択され得る。しかしながら、本願に明示的に記載されていないさらに多くのイオンもまた用いることができる。スクリーニングアッセイの異常pH及び正常生理的pHが選択されると、当業者は、本明細書に記載の指針を用いて、異常条件で高い活性を有するヒットをより多く同定する点でスクリーニングの効率を増加させるのに好適なpKaを有する任意のイオンを選択し得ることが理解される。
【0147】
例えば、ある例示的スクリーニングについて異常pHが8.4であり、正常生理的pHが7.4である場合、約7.9(中点)~9.4(即ち、8.4+1)の範囲のpKaを有する任意のイオンをスクリーニングに用い得る。この範囲のpKaを有する幾つかのイオンとしては、トリシン(pKa 8.05)、ヒドラジン(pKa 8.1)、ビシン(pKa 8.26)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(4-ブタンスルホン酸)(pKa 8.3)、N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(pKa 8.4)、タウリン(pKa 9.06)に由来するイオンが挙げられる。別の例では、ある例示的スクリーニングについて異常pHが6であり、正常生理的pHが7.4である場合、約5(即ち、6-1)~6.7(中点)の範囲のpKaを有する任意のイオンをスクリーニングに用い得る。この範囲のpKaを有する幾つかのイオンとしては、リンゴ酸塩(pKa 5.13)、ピリジン(pKa 5.23)、ピペラジン(pKa 5.33)、カコジル酸塩(pKa 6.27)、コハク酸塩(pKa 5.64)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(pKa 6.10)、クエン酸塩(pKa 6.4)、ヒスチジン(pKa 6.04)及びビス-トリス(6.46)に由来するイオンが挙げられる。当業者は、膨大な数の化学マニュアル及びテキストを参考にして、無機化学化合物及び有機化学化合物の両方を含め、その範囲内にあるpKaを有するイオンに変換し得る既知の化学化合物を同定することが可能であろう。好適なpKaを有する化学化合物の中では、より小さい分子量のものが好ましいこともある。
【0148】
従って、本発明では、予想外にも、最終的に同定される条件的活性型ポリペプチドの作製が正しいポリペプチド変異体の生成に依存するのみならず、アッセイ溶液中における好適なpKaのイオンの使用にも依存することが見出された。イオンは大規模ライブラリからの高活性の変異体の効率的な選択を促進し得るため、本発明では、変異体ポリペプチドの大規模ライブラリの(例えば、CPE及びCPSによる)生成に加えて、アッセイ溶液中に使用する好適なイオン(適切なpKaを有するもの)を見付けることに労力を注ぐべきであると考えられる。さらに、好適なイオンがない場合、スクリーニングの効率が低く、高活性の変異体が見付かる可能性が低下することが考えられる。結果的に、好適なイオンなしに同じ数の高活性の変異体を得るためには、複数回のスクリーニングラウンドが必要となり得る。
【0149】
アッセイ溶液中のイオンはアッセイ溶液の構成成分からインサイチューで形成されてもよく、又はアッセイ溶液に直接含められてもよい。例えば、空気からCO2をアッセイ溶液に溶解させて炭酸イオン及び重炭酸イオンを提供してもよい。別の例では、リン酸二水素ナトリウムをアッセイ溶液に添加してリン酸二水素イオンを提供してもよい。
【0150】
アッセイ溶液中におけるこの構成成分の濃度は(正常生理条件下のアッセイ及び異常条件下のアッセイの両方について)、ヒトなどの哺乳類の天然に存在する体液中で典型的に見られる同じ構成成分の濃度と同じ又は実質的に同じであってもよい。他の実施形態において、構成成分の濃度は、特に変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するように機能し得るイオンである構成成分の場合にはより高くてもよく、これは、かかるイオンの濃度が高いほど変異体ポリペプチド及びその結合パートナーとのイオン結合が形成され、事実上結合が促進されて、より多くのヒット又は候補条件的活性型ポリペプチドが見付かる可能性が高まり得ることが観察されているためである。
【0151】
一部の実施形態において、アッセイ溶液中のイオン濃度は、特に正常生理的濃度を超える濃度が用いられる場合に、アッセイを用いてより多くのヒットが見付かる可能性と正の相関があり得る。例えば、ヒト血清は約15~30mMの重炭酸イオン濃度を有する。一例において、アッセイ溶液中の重炭酸イオン濃度を3mMから10mM、20mM、30mM、50mM及び100mMに増加させたとき、重炭酸塩濃度が増加する毎にアッセイにおけるヒットの数もまた増加した。これを踏まえると、アッセイ溶液には、約3mM~約200mM、又は約5mM~約150mM又は約5mM~約100mM、又は約10mM~約100mM又は約20mM~約100mM又は約25mM~約100mM又は約30mM~約100mM又は約35mM~約100mM又は約40mM~約100mM又は約50mM~約100mMの範囲の重炭酸塩濃度を用いることができる。
【0152】
別の実施形態において、アッセイ溶液中のクエン酸塩濃度は、約30μM~約120μM、又は約40μM~約110μM、又は約50μM~約110μM、又は約60μM~約100μM、又は約μM~約90μM、又は約μMであり得る。
【0153】
一実施形態において、正常生理条件は7.2~7.6の範囲の正常生理的pHであり、異常条件は5.5~7.2、6~7、又は6.2~6.8の範囲の異常pHである。正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は正常生理的pH及び50mMの重炭酸イオンを有する。異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は異常pH及び50mMの重炭酸イオンを有する。重炭酸イオンのpKaは約6.4であるため、重炭酸イオンは、pH6.0~6.4、例えばpH6.0又は6.2の異常pHで変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助することができる。
【0154】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は7.2~7.6の範囲の正常生理的pHであり、及び異常条件は5.5~7.2、6~7、又は6.2~6.8の範囲の異常pHである。正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は正常生理的pH及び80μMのクエン酸イオンを有する。異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は異常pH及び80μMのクエン酸イオンを有する。クエン酸イオンはpKaが6.4であるため、クエン酸イオンは、pH6.0~6.4の異常条件のアッセイ溶液中で変異体ポリペプチドと結合パートナーとの間の結合を有効に補助することができる。従って、pH6.0~6.4の条件下でより高い結合活性を有し且つ7.2~7.8のpH条件下でより低い活性を有する候補条件的活性型ポリペプチドがより多く同定され得る。酢酸塩、ヒスチジン、重炭酸塩、HATP及びHADPを含めた他のイオンも同様に機能し、こうしたイオンを含有するアッセイ溶液によって、イオンのpKa前後のpHでより高い結合活性を有し且つイオンのpKaと異なるpH(例えば正常生理的pH)でより低い結合活性を有する変異体ポリペプチドを有効にスクリーニングすることが可能となる。
【0155】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は37℃の正常生理的温度であり、異常条件は38~39℃の異常温度(一部の腫瘍微小環境における温度)である。正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は正常生理的温度及び20mMの重炭酸イオンを有する。異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は異常温度及び20mMの重炭酸イオンを有する。
【0156】
さらに別の実施形態において、正常生理条件は正常ヒト血清中の電解質の特定の濃度であり、異常条件は、動物又はヒトにおいて異なる位置に存在し得るか又はヒト血清中の正常生理的電解質濃度を変化させる動物又はヒトの状態によって生じ得る異なる異常な濃度である同じ電解質の濃度である。
【0157】
変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーの間の結合にはまた、幾つもの他の方法で影響を与えることができる。典型的には、この影響は、アッセイ溶液に1つ以上の追加的な構成成分を含めることによって及ぼされ得る。これらの追加的な構成成分は、変異体ポリペプチド、結合パートナーのいずれか一方又は両方と相互作用するように設計され得る。加えて、これらの追加的な構成成分は、2つ以上の相互作用の組み合わせ並びに2つ以上のタイプの相互作用の組み合わせを用いて結合に影響を与え得る。
【0158】
一実施形態において、目的の結合相互作用は抗体と抗原との間である。この実施形態では、1つ以上の追加的な構成成分をアッセイ溶液に含めることにより、抗体、抗原又は両方に影響を及ぼし得る。このようにして、所望の結合相互作用を増強し得る。
【0159】
変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとイオン結合を形成して変異体ポリペプチドと結合パートナーとの間の結合を補助し得るイオンに加え、本発明はまた、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助するために利用し得る他の構成成分も含む。一実施形態では、変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーと水素結合を形成し得る分子を利用し得る。別の実施形態では、変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する分子を使用し得る。さらに別の実施形態では、変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有する分子が企図される。
【0160】
「水素結合」は、炭素、窒素、酸素、硫黄、塩素、又はフッ素などの電気陰性原子に共有結合的に結合した水素(水素結合供与体)と、窒素、酸素、硫黄、塩素、又はフッ素などの電子供与原子の非共有電子対(水素結合受容体)との間の比較的弱い非共有結合性の相互作用を指す。
【0161】
変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとの水素結合形成能を有する構成成分には、極性結合を伴う有機分子並びに無機分子が含まれる。変異体ポリペプチド及び/又は変異体ポリペプチドの結合パートナーは、典型的には、水素結合を形成し得るアミノ酸を含有する。好適なアミノ酸は、水素結合形成能を有する極性基を備えた側鎖を有する。好適なアミノ酸の非限定的な例としては、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、アルギニン(Arg)アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、リジン(Lys)、ヒスチジン(His)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、及びトリプトファン(Trp)が挙げられる。
【0162】
これらのアミノ酸は水素供与体及び水素受容体の両方として機能し得る。例えば、Ser、Thr、及びTyrに見られ得るような-OH基の酸素原子、Glu及びAspに見られ得るような-C=O基の酸素原子、Cys及びMetに見られ得るような-SH基又は-SC-の硫黄原子、Lys及びArgに見られ得るような-NH3
+基の窒素原子、並びにTrp、His及びArgに見られ得るような-NH-基の窒素原子は、全て水素受容体として機能し得る。また、このリスト中の基で水素原子を含むもの(例えば-OH、-SH、NH3
+及び-NH-)は水素供与体としても機能し得る。
【0163】
一部の実施形態では、変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーの骨格もまた、1つ以上の水素結合の形成に関与し得る。例えば、骨格は、ペプチド結合にあるように、-(C=O)-NH-の反復構造を有し得る。この構造の酸素及び窒素原子が水素受容体として機能し得る一方、水素原子が水素結合に関与し得る。
【0164】
水素結合に用いられ得る水素又は酸素原子が関わる少なくとも1つの極性結合を有する無機化合物としては、例えば、H2O、NH3、H2O2、ヒドラジン、炭酸塩、硫酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。アルコール類;フェノール類;チオール類;脂肪族アミン類、アミド類;エポキシド類、カルボン酸類;ケトン類、アルデヒド類、エーテル類、エステル類、有機塩化物、及び有機フッ素などの有機化合物。水素結合を形成し得る化合物は、例えば、“The Nature of the Chemical Bond,”Linus Pauling,Cornell University Press,1940,pages 284~334で考察されているものなど、化学文献において周知である。
【0165】
一部の実施形態において、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、1-ヘキサノール、2-オクタノール、l-デカノール、シクロヘキサノール、及び高級アルコール類;ジオール類、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、及びポリアルキレングリコール類を挙げることができる。好適なフェノール類としては、ヒドロキノン、レソルシノール、カテコール、フェノール、o-、m-、及びp-クレゾール、チモール、α及びβ-ナフトール、ピロガロール、グアヤコール、及びフロログルシノールが挙げられる。好適なチオール類としては、メタンチオール、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、ブタンチオール、tert-ブチルメルカプタン、ペンタンチオール類、ヘキサンチオール、チオフェノール、ジメルカプトコハク酸、2-メルカプトエタノール、及び2-メルカプトインドールが挙げられる。好適なアミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、アニリン、ジメチルアミン及びメチルエチルアミン、トリメチルアミン、アジリジン、ピペリジン、N-メチルピペリジン、ベンジジン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、o-、m-、及びp-トルイジン及びN-フェニルピペリジンが挙げられる。好適なアミド類としては、エタンアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド及びN-メチル-N-p-シアノエチルホルムアミドが挙げられる。エポキシド類としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、スチレンオキシド、エポキシドグリシドール、シクロヘキセンオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド又はエチルベンゼンヒドロペルオキシド、イソブチレンオキシド、及び1,2-エポキシオクタンを挙げることができる。カルボン酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、サリチル酸、安息香酸、酢酸、ラウリン酸、アジピン酸、乳酸、クエン酸、アクリル酸、グリシン、ヘキサヒドロ安息香酸、o-、m-、及びp-トルイル酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、及びパラアミノ安息香酸を挙げることができる。ケトン類としては、アセトン、3-プロパノン、ブタノン、ペンタノン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、エチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルtert-ブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、及びアセトフェノンを挙げることができる。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、イソブチルアルデヒド(sobutyraldehyde)、バレルアルデヒド、オクトアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、シクロヘキサノン、サリチルアルデヒド、及びフルフラールを挙げることができる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酪酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸メチルイソアミル、酢酸メトキシブチル、酢酸ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸アミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸アミル、アセト酢酸メチル、及びアセト酢酸エチルが挙げられる。本発明で用い得るエーテル類としては、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、及びジメトキシエタンが挙げられる。エーテル類は、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、及びジオキサンなど、環状であってもよい。
【0166】
有機塩化物としては、クロロホルム、ペンタクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、テトラクロロメタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、及び二塩化エチレンが挙げられる。有機フッ素としては、フルオロメタン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ジフルオロプロパン、トリフルオロプロパン、テトラフルオロプロパン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、及びヘプタフルオロプロパンを挙げることができる。
【0167】
水素結合は結合の強度によって、強い、中程度の、又は弱い水素結合に分類することができる(Jeffrey,George A.;An introduction to hydrogen bonding,Oxford University Press,1997)。強い水素結合は、2.2~2.5Åの供与体-受容体距離及び14~40kcal/molの範囲のエネルギーを有する。中程度の水素結合は、2.5~3.2Åの供与体-受容体距離及び4~15kcal/molの範囲のエネルギーを有する。弱い水素結合は、3.2~4.0Åの供与体-受容体距離及び<4kcal/molの範囲のエネルギーを有する。水素結合の幾つかの例は、エネルギーレベルと共に、F-H・・・:F(38.6kcal/mol)、O-H・・・:N(6.9kcal/mol)、O-H・・・:O(5.0kcal/mol)、N-H・・・:N(3.1kcal/mol)及びN-H・・・:O(1.9kcal/mol)である。さらに詳しくは、Perrin et al.“Strong”hydrogen bonds in chemistry and biology,Annual Review of Physical Chemistry,vol.48,pages 511-544,1997;Guthrie,“Short strong hydrogen bonds:can they explain enzymic catalysis?”Chemistry & Biology March 1996,3:163-170を参照のこと。
【0168】
一部の実施形態において、本発明に用いられる構成成分は変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーと強い水素結合を形成することができる。これらの構成成分は、高い電気陰性度の原子を有する傾向がある。最も高い電気陰性度を有することが知られる原子は、順にF>O>Cl>Nである。従って、本発明は好ましくは、水素結合の形成において、フッ素、ヒドロキシル基又はカルボニル基を含む有機化合物を使用する。一実施形態では、強い水素結合を形成するため本発明において有機フッ素を使用し得る。
【0169】
別の実施形態において、変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する構成成分が利用される。かかる構成成分には、疎水基を有する有機化合物が含まれる。
【0170】
「疎水性相互作用」は、疎水性化合物又は化合物の疎水性領域と別の疎水性化合物又は他の化合物の疎水性領域との間の可逆的引力相互作用を指す。この種の相互作用については、“Hydrophobic Interactions,”A.Ben-Nairn(1980),Plenum Press,New Yorkに記載されている。
【0171】
疎水性材料は、その非極性の性質のため、水分子の反発力を受ける。水溶液中の比較的非極性の分子又は基が水よりむしろ他の非極性分子又は基と会合するとき、これは「疎水性相互作用」と呼ばれる。
【0172】
変異体ポリペプチド及びその結合パートナーは、典型的には、疎水性相互作用能を有するアミノ酸を含む。これらのアミノ酸は、典型的には、疎水性相互作用能を有する非極性基を有する少なくとも1つの側鎖を有することによって特徴付けられ得る。疎水性アミノ酸としては、例えば、アラニン(Ala)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、バリン(Val)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)、程度は小さいが、メチオニン(Met)、及びトリプトファン(Trp)が挙げられる。
【0173】
変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとの疎水性相互作用能を有する構成成分には、疎水性分子又は少なくとも1つの疎水性部分を含有する分子である有機化合物が含まれる。一部の実施形態において、これらの疎水性構成成分は、芳香族炭化水素、置換芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素、芳香族又は非芳香族複素環、シクロアルカン類、アルカン類、アルケン類、及びアルキン類から選択される炭化水素であり得る。疎水基には、芳香族基、アルキル、シクロアルキル、アルケニル及びアルキニル基が含まれ得る。用語「アルキル」、「アルケニル」及び「アルキニル」は、本明細書で使用されるとき、直鎖アルケニル/アルキニル基、分枝鎖アルケニル/アルキニル基、シクロアルケニル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルケニル/アルキニル基を含めた、1~30個の炭素原子を有する不飽和脂肪族基を指す。かかる炭化水素部分はまた、1つ以上の炭素原子上で置換されていてもよい。
【0174】
疎水性相互作用の強度は、互いに相互作用し得る利用可能な「疎水性物質」の量に基づくことが理解され得る。従って、疎水性相互作用は、例えば、疎水性相互作用に関わる分子中の疎水性部分の量及び/又は「疎水性」の性質を増加させることにより調整し得る。例えば、疎水性部分(その本来の形態では炭化水素鎖を含み得る)を修飾して、その炭素骨格の炭素の1つに疎水性側鎖を付加することによってその疎水性(その部分が関与する疎水性相互作用の強度を増加させる能力)を増加させることができる。好ましい実施形態において、これは、例えば様々なステロイド化合物及び/又はそれらの誘導体、例えばステロール系化合物、より詳細にはコレステロールを含めた様々な多環式化合物の付加を含み得る。一般に、側鎖は、直鎖、芳香族、脂肪族、環式、多環式、又は当業者によって企図されるとおりの他の任意の様々なタイプの疎水性側鎖であってよい。
【0175】
変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有するタイプの構成成分は、必ずしもというわけではないが、通常は、極性部分を有する化合物である。本明細書で使用されるとき、「ファンデルワールス相互作用」は、双極子間相互作用及び/又は量子動力学の結果としての隣接する原子、部分、分子の変動する極性の相互関係によって生じる原子間、部分間、分子間、及び表面間の引力を指す。
【0176】
本発明におけるファンデルワールス相互作用は、変異体ポリペプチド又は結合パートナーと構成成分との間の引力である。ファンデルワールス相互作用は3つの供給源から生じ得る。第一に、一部の分子/部分が、電気的には中性であっても、永久電気双極子であり得る。一部の分子/部分の構造における電子電荷分布の固定的な歪みのため、分子/部分の片側が常に幾らか正であり、反対側が幾らか負である。かかる永久双極子が互いに整列しようとする傾向により、正味の引力がもたらされる。これが2つの永久双極子の間の相互作用(ケーソム力)である。
【0177】
第二に、永久双極子である分子の存在は、他の隣接する極性又は非極性分子の電子電荷を一時的に歪ませ、それによってさらなる分極を誘起し得る。永久双極子が隣接する誘起双極子と相互作用することによって追加的な引力が生じる。これは永久双極子と対応する誘起双極子との間の相互作用であり、デバイ力と称され得る。第三に、関与する分子が永久双極子でないとしても(例えば有機液体ベンゼン)、分子における2つの瞬間的に誘起される双極子によって分子間に引き付ける力は存在する。これは2つの瞬間的に誘起される双極子間の相互作用であり、ロンドン分散力と称され得る。
【0178】
変異体ポリペプチド及び/又は結合パートナーには、ファンデルワールス相互作用能を有するアミノ酸が多数ある。これらのアミノ酸は、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)、ヒスチジン(His)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)を含め、極性側鎖を有し得る。これらのアミノ酸はまた、アラニン(Ala)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、バリン(Val)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)を含め、非極性基を有する側鎖も有し得る。
【0179】
変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーとのファンデルワールス相互作用能を有する構成成分には、アッセイ溶液に可溶性の極性又は非極性無機化合物が含まれる。アッセイ溶液は概して水溶液であり、従ってこれらの極性又は非極性無機化合物は、好ましくは水に可溶性である。ファンデルワールス相互作用に好ましい材料は、双極子間相互作用能を有するような極性のものである。例えばAlF3は極性Al-F結合を有し、水に可溶性である(20℃で約0.67g/100ml水)。HgCl2は極性Hg-Cl結合を有し、20℃で7.4g/100mlで水に可溶性である。PrCl2は極性Pr-Cl結合を有し、20℃で約1g/100mlで水に可溶性である。
【0180】
ファンデルワールス相互作用能を有する好適な極性化合物としては、アルコール類、チオール類、ケトン類、アミン類、アミド類、エステル類、エーテル類、及びアルデヒド類が挙げられる。これらの化合物の好適な例は、水素結合に関連して上記に記載している。ファンデルワールス相互作用能を有する好適な非極性化合物としては、芳香族炭化水素、置換芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素、芳香族又は非芳香族複素環、シクロアルカン類、アルカン類、アルケン類、アルキン類が挙げられる。
【0181】
水素結合構成成分、疎水性構成成分及びファンデルワールス構成成分を利用して、幾つもの方法で変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの結合に影響を与えることができる。一実施形態では、水素結合、疎水性相互作用及び/又はファンデルワールス相互作用によって変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間に架橋が形成され得る。かかる架橋は変異体ポリペプチドと結合パートナーとを互いに近接させて結合を促進し、及び/又は変異体ポリペプチド及び/又は結合パートナーを互いに対して結合を促進するような位置に置き得る。
【0182】
別の実施形態において、水素結合及び/又は疎水性相互作用は、例えば、結合可能性が増加する形でポリペプチド及び結合パートナーを互いに集合又は会合させることにより、変異体ポリペプチドがその結合パートナーに結合する可能性を増加させ得る。従って、これらの相互作用のうちの1つ以上を単独で又は組み合わせて用いることで、例えば、結合部位が互いのより近くに引き寄せられるようにするか、又は分子の非結合部分を互いに離して配置し、それによって結合部位を互いのより近くに位置させることにより、変異体ポリペプチド及び結合パートナーを互いにより近接して集合させ、又は変異体ポリペプチド及び結合パートナーを結合が促進される形で配置し得る。
【0183】
なおも別の実施形態において、水素結合及び/又は疎水性相互作用は変異体ポリペプチド及び/又はその結合パートナーのコンホメーションに影響を与えて、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの結合の一層の助けとなるコンホメーションをもたらし得る。具体的には、変異体ポリペプチド及び/又は結合パートナーのアミノ酸の1つ以上との結合又は相互作用により、変異体ポリペプチド又は結合パートナーにおける変異体ポリペプチド/結合パートナー結合反応に有利な1つ以上のコンホメーション変化が生じ得る。
【0184】
本発明は2つのアッセイペアを実施し、1つは、正常生理条件における変異体ポリペプチドの由来となった元の親ポリペプチドと比較したときの正常生理条件でのアッセイにおける変異体ポリペプチドの活性の低下を求めるものであり、及び第2のアッセイは、異常条件における変異体ポリペプチドの由来となった元の親ポリペプチドと比較したときの異常条件下でのアッセイにおける変異体ポリペプチドの活性の増加を求めるものである。WO2017/078839に記載されている実施例は、正常生理pHよりも、活性が望まれる異常pHでより活性であるよりも条件的活性型ポリペプチドを選択することを例示している。
【0185】
一実施形態では、変異体ポリペプチドは、正常生理条件でのアッセイおよび異常条件下でのアッセイに供される。条件的活性型ポリペプチドは、正常生理条件下でのアッセイにおける変異体ポリペプチドの同じ活性と比較して、異常条件下でのアッセイにおける活性の増加を有する変異体ポリペプチドから選択される。
【0186】
本発明のアッセイペアで用いられる条件は、温度、pH、浸透圧、重量オスモル濃度、酸化的ストレス、電解質濃度及びアッセイ溶液又は媒体の任意の他の構成成分の濃度から選択され得る。従って、アッセイ媒体の特定の構成成分は、アッセイの両方のペアにおいて実質的に同じ濃度で用いられ得る。そのような場合、構成成分は典型的には、血清、腫瘍微小環境、滑液環境、神経環境又は投与ポイントで直面し得るか、投与された治療が通過し得るか、若しくは治療ポイントで直面し得る任意の他の環境など、ヒト又は動物における特定の環境を模擬する目的で存在する。これらの環境を模擬する1つ以上の構成成分の選択の重要な一側面は、それによってアッセイペアを用いて実施される選択プロセスの結果が向上し得ることである。例えば、特定の環境を模擬することにより、選択過程において当該環境の特定の構成成分が変異体ポリペプチドに及ぼす様々な効果を評価することが可能となる。特定の環境の構成成分は、例えば、変異体ポリペプチドを変化させ、又はそれと結合し、変異体ポリペプチドの活性を阻害し、変異体ポリペプチドを不活性化するなどし得る。
【0187】
一部の実施形態において、アッセイ溶液の1つ以上の構成成分は、好ましくは、二硫化物、硫化水素、ヒスチジン、ヒスタミン、クエン酸塩、重炭酸塩、乳酸塩、及び酢酸塩などの小分子又はイオンである。一実施形態において、小分子又はイオン構成成分は、好ましくはアッセイ溶液中に約100μm~約100mM、又はより好ましくは約0.5~約50mM、又は約1~約10mMの濃度で存在する。
【0188】
アッセイ溶液中の構成成分の濃度は、ヒトなどの哺乳類の天然に存在する体液中に典型的に見られる同じ構成成分の濃度と同じ又は実質的に同じであってもよい。これは、体液中の構成成分の正常生理的濃度と称することができる。他の実施形態において、アッセイ溶液中の特定の構成成分の濃度は、ヒトなどの哺乳類の天然に存在する体液中に典型的に見られる同じ構成成分の濃度より低くてもよく、又はそれより高くてもよい。
【0189】
別の実施形態において、構成成分は、アッセイペアの各々で実質的に異なる濃度で存在し得る。そのような場合、正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液と異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液とを区別する条件であるのは構成成分の濃度であるため、構成成分の存在、非存在又は濃度が、アッセイされる条件となる。従って、本発明の方法のこの実施形態によって作製される条件的活性型ポリペプチドは、構成成分の濃度に少なくとも部分的に依存する活性に関して選択され得る。
【0190】
一部の実施形態において、構成成分はアッセイ溶液の一方のペアに存在し、しかしアッセイ溶液の他方のペアには全く存在しなくてもよい。例えば、異常条件のアッセイ溶液中の乳酸塩濃度が、腫瘍微小環境の乳酸塩濃度を模擬するレベルに設定されてもよい。乳酸塩は、正常生理条件のアッセイ溶液のペアには存在しなくてもよい。
【0191】
一実施形態において、正常生理条件は正常生理条件を代表する第1の乳酸塩濃度であり、異常条件は、体内の特定の位置に存在する異常条件を代表する第2の乳酸塩濃度である。
【0192】
別の例において、腫瘍微小環境に見られ得るようにグルコースが存在しないことを模擬するため、異常条件のアッセイ溶液中にグルコースが存在しなくてもよく、一方、正常生理条件のアッセイ溶液のペアにおいては、グルコースは血漿グルコース濃度を模擬するレベルに設定されてもよい。この特徴を用いると、条件的活性型ポリペプチドを輸送中には不活性又は最小限の活性で位置又は環境に優先的に送達し、異常条件のアッセイ溶液中の構成成分の濃度が存在する環境に到達したときに条件的活性型ポリペプチドを活性化させることができる。
【0193】
例えば、腫瘍微小環境は典型的には、ヒト血清と比較して低いグルコース濃度及び高い乳酸塩濃度の両方を有する。グルコースの正常生理的濃度は血清中で約2.5mM~約10mMの範囲である。他方で、腫瘍微小環境ではグルコース濃度は0.05mM~0.5mMの範囲で典型的には極めて低い。一実施形態において、正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は約2.5mM~約10mMの範囲のグルコース濃度を有し、異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は約0.05mM~約0.5mMの範囲のグルコース濃度を有する。このように作製された条件的活性型ポリペプチドは、低グルコース環境(腫瘍微小環境中)では高グルコース環境(正常組織又は血液中)よりも高い活性を有する。この条件的活性型ポリペプチドは腫瘍微小環境において機能性であるが、血流を通過中は低い活性を有し得る。
【0194】
血清中の乳酸塩の正常生理的濃度は約1mM~約2mMの範囲である。他方で、腫瘍微小環境では乳酸塩濃度は典型的には10mM~20mMの範囲である。一実施形態において、正常生理条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は約1mM~約2mMの範囲の乳酸塩濃度を有し、異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液は約10mM~約20mMの範囲の乳酸塩濃度を有する。このように作製された条件的活性型ポリペプチドは、高乳酸塩濃度環境(腫瘍微小環境中)では低乳酸塩環境(正常組織又は血液中)よりも高い活性を有する。従ってこの条件的活性型ポリペプチドは腫瘍微小環境において機能性であるが、血流を通過中は低い活性を有し得る。
【0195】
同様に、筋肉痛では乳酸塩の濃度が正常より高い(異常である)ことが知られている。従って、筋肉痛環境で活性となり得る変異体ポリペプチドを探すとき、異常条件のアッセイペアはより高い濃度の乳酸塩の存在下で実施して筋肉痛環境を模擬することができ、一方、正常生理条件のアッセイペアは、より低い濃度の乳酸塩で、又は乳酸塩の非存在下で実施することができる。このようにして、筋肉痛環境において乳酸塩濃度の増加に伴い活性が向上する変異体ポリペプチドを選択することができる。かかる条件的活性型ポリペプチドは、例えば抗炎症剤として有用であり得る。
【0196】
別の実施形態において、アッセイ溶液の両方のペアに2つ以上の構成成分を使用し得る。このタイプのアッセイでは、条件的活性型ポリペプチドは、上記に記載した2つのタイプのアッセイの両方の特徴を用いて選択し得る。或いは、2つ以上の構成成分を用いて条件的活性型ポリペプチドの選択性を増加させることができる。例えば、腫瘍微小環境に戻ると、異常条件のアッセイペアは、高乳酸塩濃度及び低グルコース濃度の両方を備えるアッセイ媒体で実施することができ、一方、対応する正常生理条件のアッセイペアは、比較的低い乳酸塩濃度及び比較的高いグルコース濃度の両方を備えるアッセイ媒体で実施することができる。
【0197】
本発明は、無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される各構成成分を単独で又は組み合わせで用いて、構成成分のある濃度において同じ構成成分の異なる濃度と比べて活性が高い条件的活性型ポリペプチドを選択し得ることを企図する。
【0198】
正常環境(正常生理条件)と異常環境(異常条件)とを区別する条件として1つ以上の代謝産物の異なる濃度に頼るアッセイは、血漿中よりも腫瘍微小環境中で活性が高い条件的活性型ポリペプチドの選択に特に好適となることができ、なぜなら腫瘍微小環境は典型的には、血漿中の同じ代謝産物の濃度と比較して異なる濃度を有する代謝産物を数多く有するためである。
【0199】
Kinoshita et al.,“Absolute Concentrations of Metabolites in Human Brain Tumors Using In Vitro Proton Magnetic Resonance Spectroscopy,”NMR IN BIOMEDICINE,vol.10,pp.2-12,1997は、正常脳及び脳腫瘍における代謝産物を比較した。このグループは、N-アセチルアスパラギン酸が正常脳では5000~6000μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では僅か300~400μM、星状細胞腫では1500~2000μM、及び未分化星状細胞腫では600~1500μMであることを発見した。さらに、イノシトールは正常脳では1500~2000μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2500~4000μM、星状細胞腫では2700~4500μM、及び未分化星状細胞腫では3800~5800μMである。ホスホリルエタノールアミンは正常脳では900~1200μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2000~2800μM、星状細胞腫では1170~1370μM、及び未分化星状細胞腫では1500~2500μMである。グリシンは正常脳では600~1100μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では4500~5500μM、星状細胞腫では750~1100μM、及び未分化星状細胞腫では1900~3500μMである。アラニンは正常脳では700~1150μMの濃度を有するが、この濃度は膠芽腫では2900~3600μM、星状細胞腫では800~1200μM、及び未分化星状細胞腫では300~700μMである。これらの代謝産物はまた、血中で異なる濃度を有することもあり、例えば、N-アセチルアスパラギン酸は血中で約85000μMの濃度を有し;イノシトールは血中で約21700μMの濃度を有し;グリシンは血中で約220~400μMの濃度を有し;アラニンは血中で約220~300μMの濃度を有する。
【0200】
従って、これらの代謝産物は、少なくともN-アセチルアスパラギン酸、イノシトール、グリシン及びアラニンを含め、脳腫瘍で活性であるが血中又は正常脳組織では活性でない条件的活性型ポリペプチドを選択するためアッセイ溶液中において異なる濃度で使用し得る。例えば、膠芽腫の腫瘍微小環境で活性であるが、血中又は正常脳組織では活性でないか又は少なくとも活性が低い条件的活性型ポリペプチドを選択するため、N-アセチルアスパラギン酸が85000μMの濃度のアッセイ溶液を正常生理条件下のアッセイペアに用いてもよく、N-アセチルアスパラギン酸が350μMの濃度のアッセイ溶液を異常条件下のアッセイペアに用いてもよい。
【0201】
Mayers et al.,“Elevated circulating branched chain amino acids are an early event in pancreatic adenocarcinoma development,”Nature Medicine,vol.20,pp.1193-1198,2014は、膵臓の患者の診断前血漿中における分枝鎖アミノ酸を含む種々の異なる代謝産物の濃度を調べた。膵腫瘍患者には、膵癌を有しないヒトの血中における同じ代謝産物の濃度と比べて血流中に異なる濃度で存在する幾つかの代謝産物があることが分かった。Mayersら(上掲)はまた、膵癌患者が正常対象と比較してその血漿中に分枝アミノ酸の有意な上昇を有することも見出した。高濃度で存在する分枝アミノ酸には、イソロイシン、ロイシン及びバリンが含まれる(Mayersら(上掲)の表1)。正常な健常ヒトと比べて膵癌患者の血漿中で有意に異なる濃度で存在するMayersら(上掲)の
図1に示される他の代謝産物がある。これらの代謝産物には、少なくともアセチルグリシン、グリシン、フェニルアラニン、チロシン、2-アミノアジピン酸、タウロデオキシコール酸塩/タウロケノデオキシコール酸塩、アコニット酸塩、イソクエン酸塩、乳酸塩、a-グリセロリン酸塩及び尿酸塩が含まれる。従って、特定の代謝産物が膵癌患者と正常な健常患者との血漿中において異なる濃度で存在するという知見に基づけば、膵癌の腫瘍微小環境もまたこれらの代謝産物に関して健常患者の膵臓微小環境に存在し得るものと異なる濃度を有するであろうことを予測し得る。
【0202】
従って、一実施形態において、これらの代謝産物の1つ以上が、正常生理条件のアッセイ溶液中に、健常人の血漿中におけるこれらの代謝産物の濃度(即ち、それらの代謝産物の正常生理的濃度)を近似する量で用いられ得る。例えば、健常人の血漿中における既知の正常生理的濃度は、イソロイシンについて約1.60±0.31mg/dL、ロイシンについて約1.91±0.34mg/dL、及びバリンについて約2.83±0.34mg/dLである。正常生理条件のアッセイ溶液は、これらの分枝アミノ酸の1つ以上のこれらの範囲内の正常生理的濃度を有し得る。異常条件のアッセイ溶液は、対応する分枝アミノ酸の健常人における正常生理的濃度よりも約5倍、又は約10倍、又は約20倍、又は約50倍、又は約70倍、又は約100倍、又は約150倍、又は約200倍、又は約500倍高い濃度の同じ分枝アミノ酸を有し得る。これは、Mayersら(上掲)によって見出された血漿中に見られるこれらの分枝アミノ酸のより高い濃度は腫瘍微小環境から生じて血流中で希釈されるため、Mayersら(上掲)の知見に基づけば膵腫瘍微小環境でこれらの分枝アミノ酸の濃度が有意に上昇していると予想され得ることを反映したものであり得る。同様に、異常条件下でのアッセイは、特定の代謝産物の濃度が正常な個体と比べて癌患者で有意に低かったとしても、膵癌患者の血中の他の代謝産物の濃度を反映するものであってよい。このようにして、スクリーニングが実際の環境を模擬し、それによって当該の特定の環境について最も高い活性の変異体が選択されることを確実にし得る。
【0203】
一部の他の実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は、膵癌患者の血漿中の濃度を模擬してこれらの患者の実際の血漿環境を模擬する濃度の1つ以上の分枝アミノ酸を含み得る。かかる実施形態において、異常条件のアッセイ溶液は、膵癌患者の血漿中における対応する分枝アミノ酸の濃度よりも約2倍、又は約3倍、又は約4倍、又は約5倍、又は約7倍、又は約8倍、又は約10倍、又は約15倍、又は約20倍、又は約50倍高い濃度の同じ分枝アミノ酸を有して、これらのより高い濃度が腫瘍微小環境で起こり、血流中の濃度が腫瘍微小環境の実際の濃度の希釈に相当するという事実を反映し得る。同様に、他の代謝産物もまた、正常生理条件と異常条件とのアッセイ溶液中で異なる濃度を有してもよく、血流に関して収集されたデータから予想される実際の違いを反映し得る。場合によっては、膵臓の患者の血流中に特定の代謝産物の欠損が認められることもあり、その場合、計測された血流中濃度を反映する濃度を正常生理条件のアッセイに用いることができ、さらに低い濃度を異常条件のアッセイに用いて、前記代謝産物が腫瘍微小環境で消費されるものと見込まれるという予想を考慮に入れることができる。このようにアッセイ溶液を用いて選択された条件的活性型ポリペプチドは、膵癌患者の血漿中と比べて膵癌微小環境で活性がより高いものとなり得る。
【0204】
一部の実施形態では、本発明に膵癌患者の血漿全体を使用し得る。例えば、一実施形態において、正常生理条件下及び異常条件下のアッセイの一方又は両方についてアッセイ溶液に膵癌患者の血漿の1つ以上の構成成分の模擬を用い得る。例示的実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、且つ30wt.%の膵癌患者の血漿が添加され、異常条件のアッセイ溶液は6.2~6.8の範囲のpHを有し、且つ30wt.%の膵癌患者の血漿が添加される。この実施形態において、膵癌患者の血漿は、(1)条件的活性型ポリペプチドがpH7.2~7.6の血中で活性化されないよう確実にすること、及び(2)また、条件的活性型ポリペプチドが膵癌患者の血中に見られるこの代謝産物組成の存在下であっても腫瘍微小環境でpH5.5~7.2、6~7、又は6.2~6.8によって活性化され得るよう確実にすることの両方のために存在する。これにより、治療が膵癌患者に合わせて調整されることになる。
【0205】
別の例示的実施形態において、正常生理条件のアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、且つ30wt.%の膵癌患者の血漿が添加され、異常条件のアッセイ溶液は5.5~7.2又は6.2~6.8の範囲のpHを有し、且つ膵癌患者の血漿は一切添加されない。
【0206】
上記で考察した幾つかのタイプのアッセイの各々において、無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される同じ構成成分を使用し得る。例えば、乳酸塩の場合、乳酸塩は、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液のペアにおいて実質的に同じ濃度で使用し得る。正常生理条件と異常条件とは、次には1つ以上の他の側面、例えば、温度、pH、別の構成成分の濃度等が異なることになる。異なる実施形態において、乳酸塩は正常生理条件と異常条件とを区別する因子の一つとして使用してもよく、それにより、乳酸塩が正常生理条件(非腫瘍微小環境)と比べて異常な腫瘍微小環境でより高い濃度であることを反映し得る。
【0207】
一部の実施形態において、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液に2つ以上の構成成分が実質的に同じ濃度で添加される。例えば、クエン酸塩及びウシ血清アルブミン(BSA)の両方がこれらのアッセイ溶液に添加される。両方のアッセイ溶液においてクエン酸塩濃度は約80μMであってもよく、BSA濃度は約10~20%であってもよい。より具体的には、正常生理条件下のアッセイペア用のアッセイ溶液は7.2~7.6の範囲のpHを有し、クエン酸塩が約80μMの濃度及びBSAが濃度約10~20%であってもよい。異常条件下のアッセイペア用のアッセイ溶液は6.2~6.8の範囲のpHを有し、クエン酸塩が約80μMの濃度及びBSAが濃度約10~20%であってもよい。
【0208】
一実施形態では、血清が正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液に実質的に同じ濃度で添加され得る。血清は多数の無機化合物、イオン、有機分子(ポリペプチドを含む)を有するため、アッセイ溶液は、これらの2つのアッセイ溶液間で実質的に同じ濃度で存在する無機化合物、イオン、有機分子から選択される構成成分を複数且つ多数有し得る。アッセイ溶液は、5~30vol.%、又は7~25vol.%、又は10~20vol.%、又は10~15vol.%の血清を有し得る。一部の他の実施形態では、正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液が血清を含まない。血清は、ヒト血清、ウシ血清、又は任意の他の哺乳類由来の血清であってもよい。一部の他の実施形態では、アッセイ溶液は血清を含まない。
【0209】
正常生理条件及び異常条件のアッセイ溶液は異なるpHを有し得る。かかるアッセイ溶液のpHは、重炭酸塩を使用して緩衝液中のCO2及びO2レベルを用いて調整し得る。
【0210】
一部の他の実施形態において、2つ以上の構成成分のうちの少なくとも一方が、正常生理条件と異常条件とのアッセイ溶液に異なる濃度で添加される。例えば、乳酸塩及びウシ血清アルブミン(BSA)の両方がアッセイ溶液に添加される。乳酸塩濃度は正常生理条件と異常条件とのアッセイ溶液間で異なり得る一方、BSAは両方のアッセイ溶液で同じ濃度を有し得る。乳酸塩は異常条件のアッセイ溶液で30~50mg/dLの範囲の濃度及び正常生理条件のアッセイ溶液で8~15mg/dLの範囲の濃度を有してもよい。他方で、BSAは、約10~20%など、両方のアッセイ溶液で同じ濃度を有する。これらのアッセイ溶液を用いることによってこのように選択された条件的活性型ポリペプチドは、BSAの存在下で8~15mg/dLの低乳酸塩濃度と比べて30~50mg/dLの高乳酸塩濃度でより高活性である。
【0211】
一部の実施形態において、アッセイ溶液は、活性が2つ以上の条件に依存する条件的活性型ポリペプチドを選択するように設計されてもよい。一例示的実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、pH及び乳酸塩の両方に依存する活性を有し得る。かかる条件的活性型ポリペプチドを選択するためのアッセイ溶液は、正常生理条件について、pHが7.2~7.6、乳酸塩が8~15mg/dLの範囲の濃度のアッセイ溶液であり得る。異常条件のアッセイ溶液は、pHが6.2~6.8、乳酸塩が30~50mg/dLの範囲の濃度であり得る。任意選択で正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液が、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助して、ひいては候補生物学的活性ポリペプチドのヒット数を増加させるイオンもまた含み得る。
【0212】
さらに別の例示的実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、pH、グルコース及び乳酸塩に依存する活性を有し得る。かかる条件的活性型ポリペプチドを選択するためのアッセイ溶液は、正常生理条件について、pHが7.2~7.6、グルコースが2.5~10mMの範囲の濃度、乳酸塩が8~15mg/dLの範囲の濃度のアッセイ溶液であり得る。異常条件のアッセイ溶液は、pHが6.2~6.8、グルコースが0.05~0.5mMの範囲の濃度、乳酸塩が30~50mg/dLの範囲の濃度であり得る。任意選択で正常生理条件及び異常条件の両方のアッセイ溶液が、変異体ポリペプチドとその結合パートナーとの間の結合を補助して、ひいてはpH6.2~6.8で結合パートナーに結合する候補生物学的活性ポリペプチドの数を増加させるイオンもまた含み得る。かかるアッセイ溶液を用いて選択された条件的活性型ポリペプチドは、pH7.2~7.6、グルコース濃度2.5~10mM及び乳酸塩濃度8~15mg/dLの環境と比べてpH6.2~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸塩濃度30~50mg/dLの環境でより高活性である。
【0213】
無機化合物、イオン、及び有機分子から選択される2つ以上の構成成分は、選択された条件的活性型ポリペプチドを送達することになる位置/部位(即ち、標的部位)の環境を模擬する異常条件のアッセイ溶液を作り出すためものである。一部の実施形態において、標的部位の環境にある少なくとも3つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも4つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも5つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよく、又は標的部位の環境にある少なくとも6つの構成成分がアッセイ溶液に添加されてもよい。
【0214】
一実施形態において、標的部位(条件的活性型ポリペプチドがより高活性となり得るところ)から採取された体液が異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液として直接使用されてもよい。例えば、対象、好ましくは治療を必要としている関節疾患を有する対象から滑液が採取されてもよい。採取された滑液は、任意選択で希釈され、条件的活性型ポリペプチドを選択するため異常条件のアッセイペアにおけるアッセイ溶液として用いられ得る。採取された滑液を、任意選択で希釈して、異常条件下のアッセイ用のアッセイ溶液、及び正常生理条件下のアッセイ用のヒト血漿を模擬するアッセイ溶液として用いることにより、選択される条件的活性型ポリペプチド(例えば、TNF-α)は関節において他の位置又は器官におけるよりも高活性となり得る。例えば、炎症関節(関節炎など)を有する対象はTNF-αで治療し得る。しかしながら、TNF-αは典型的には、他の組織及び器官に損傷を与える重度の副作用を有する。滑液では活性が高いが血中では活性でないか又は活性が低い条件的活性型TNF-αは、体の他の部分に対するTNF-αの副作用を低減し又は潜在的に取り除きながらもTNF-αの活性を関節に送達し得る。
【0215】
複数の条件に依存した活性を有する条件的活性型ポリペプチドの開発により、対象の体内の標的部位に対する条件的活性型ポリペプチドの選択性の向上がもたらされることになる。理想的には、条件のうちの一部のみが存在する他の位置では、条件的活性型ポリペプチドは活性でないか、又は少なくとも活性が大幅に低い。一実施形態において、pH6.2~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸塩濃度30~50mg/dLで活性な条件的活性型ポリペプチドは、腫瘍微小環境にはこれらの条件が全て存在するため、腫瘍微小環境に特異的に送達することができる。他の組織又は器官はこれらの条件のうちの1つ又は2つしか存在せず、3つ全ては有しないものであり得るため、この条件的活性型ポリペプチドを他の組織又は器官で完全に活性化させるには不十分である。例えば、運動後の筋肉は6.2~6.8の範囲の低pHを有し得る。しかしながら、それは別のアッセイ条件を有しないものであり得る。従って運動後の筋肉では条件的活性型ポリペプチドは活性でないか、又は少なくとも活性が低い。
【0216】
一部の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドの活性が、条件的活性型ポリペプチドの選択に用いた条件に本当に依存することを確認する工程が行われ得る。例えば、条件的活性型ポリペプチドは、3つの条件:pH6.2~6.8、グルコース濃度0.05~0.5mM及び乳酸塩濃度30~50mg/dLに依存するように選択される。選択された条件的活性型ポリペプチドは、次にこれらの3つの条件の各々で個別に、及び3つの条件のペアを含む環境で試験され、これらの試験条件又は環境で条件的活性型ポリペプチドが活性でない又は活性が低いことが確認され得る。
【0217】
一部の実施形態において、血清のある種の構成成分がアッセイ媒体から意図的に最小限に抑えられ、又は除外される。例えば、抗体のスクリーニング時、抗体と結合するか又は抗体を吸着する血清の構成成分をアッセイ媒体中では最小限に抑え、又はそこから除外することができる。かかる結合した抗体は偽陽性を生じ、それによって、条件的活性型ではない、むしろ種々の異なる条件下で単に血清中に存在する構成成分に結合するに過ぎない結合変異抗体が含まれることになり得る。従って、アッセイ中の変異体と潜在的に結合し得る構成成分が最小限に抑えられ又は除外されるようなアッセイ構成成分の慎重な選択を用いることにより、所望の結合パートナー以外のアッセイ中の構成成分に結合するために条件的活性に関して誤って陽性と同定され得る非機能性変異体の数を低減することができる。例えば、ヒト血清中の構成成分と結合する傾向のある変異体ポリペプチドをスクリーニングする一部の実施形態では、ヒト血清の構成成分に結合する変異体ポリペプチドによって生じる偽陽性の可能性を低減し又は排除するため、アッセイ溶液中にBSAを使用し得る。同じ目標を達成するため詳細な例において他の類似の置き換えもまた行うことができる。
【0218】
一部の実施形態において、アッセイ条件は、細胞膜の内側、細胞膜上又は細胞膜の外側など、細胞膜近傍の環境、又は関節の環境を模擬する。細胞膜環境におけるスクリーニング時の結合活性に影響を及ぼし得る幾つかの要因としては、受容体の発現、インターナリゼーション、抗体薬物複合体(ADC)力価等が挙げられる。
【0219】
アッセイのフォーマットは当業者に公知の任意の好適なアッセイであってよい。例としては、ELISA、酵素活性アッセイ、インビトロ(臓器等)での実組織スクリーニング、組織スライド、全動物、細胞株及び3Dシステムの使用が挙げられる。例えば、好適な細胞ベースのアッセイについては国際公開第2013/040445号パンフレットに記載されており、組織ベースのアッセイについては米国特許第7,993,271号明細書に記載されており、全動物ベースのスクリーニング方法については米国特許出願公開第2010/0263599号明細書に記載されており、3Dシステムベースのスクリーニング方法については米国特許出願公開第2011/0143960号明細書に記載されている。
【0220】
一部の実施形態において、進化工程により、上記で考察した条件的活性特性に加えて他の所望の特性を同時に有し得る変異体ポリペプチドを作製し得る。進化させ得る好適な他の所望の特性としては、結合活性、発現、ヒト化等を挙げることができる。従って、本発明を用いて、これらの他の所望の特性のうちの少なくとも1つ以上もまた向上した条件的活性型ポリペプチドを作製し得る。
【0221】
一部の実施形態において、選択された条件的活性型ポリペプチドは、例えば第2の進化工程において、本明細書に開示される突然変異誘発技法のうちの1つを用いてさらに変異させることができ、それにより結合活性、発現、ヒト化など、選択された条件的活性型ポリペプチドの別の特性を向上させ得る。この第2の進化工程の後、条件的活性及び向上させた特性の両方に関して変異体ポリペプチドをスクリーニングし得る。
【0222】
一部の実施形態において、親ポリペプチドを進化させて変異体ポリペプチドを作製した後、第1の条件的活性型ポリペプチドが選択され、これは異常条件下でのアッセイにおける正常生理条件での第1の活性と比較した第1の活性の増加、の両方を呈する。次に第1の条件的活性型ポリペプチドが1つ以上の追加的な進化、発現及び選択工程にさらに供され、(1)正常生理条件下でのアッセイにおける第2の活性と比較した異常条件下でのアッセイにおける第2の活性の増加を呈するか、又は(2)第1の条件的活性型ポリペプチド及び/又は親ポリペプチドと比較して、異常条件での第1の活性と正常生理条件での第1の活性とのより大きい比を呈する少なくとも第2の条件的活性型ポリペプチドが選択され得る。第2の条件的活性型ポリペプチドは正常生理条件下でのそれぞれの活性と比較して異常条件下でより高い第1の活性及び第2の活性の両方、並びに親ポリペプチドと比較して正常生理条件下でより低い第1の活性及び第2の活性の両方を有し得る。
【0223】
特定の実施形態において、本発明は、異常条件での活性と正常生理条件での活性との活性比が大きい(例えば、異常条件と正常生理条件との間での選択性がより大きい)条件的活性型ポリペプチドを作製することを目標とする。異常条件での活性と正常生理条件での活性との比、即ち選択性は、少なくとも約2:1、又は少なくとも約3:1、又は少なくとも約4:1、又は少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1、又は少なくとも約9:1、又は少なくとも約10:1、又は少なくとも約11:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約13:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約17:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約19:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約30:1、又は少なくとも約40:1、又は少なくとも約50:1、又は少なくとも約60:1、又は少なくとも約70:1、又は少なくとも約80:1、又は少なくとも約90:1、又は少なくとも約100:1であり得る。
【0224】
一実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは抗体であり、これは、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比が少なくとも約5:1、又は少なくとも約6:1、又は少なくとも約7:1、又は少なくとも約8:1、又は少なくとも約9:1、又は少なくとも約10:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約20:1、又は少なくとも約40:1、又は少なくとも約80:1であり得る。一実施形態において、条件的活性型ポリペプチドを用いて腫瘍部位が標的化され、ここで条件的活性型ポリペプチドは腫瘍部位(腫瘍微小環境中)で活性であり、且つ非腫瘍部位(正常生理条件)では活性が大幅に低いか又は不活性である。
【0225】
一実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、本明細書の他の部分に開示するものなど、別の薬剤とコンジュゲートされることが意図される抗体である。この条件的活性型抗体は、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比がより高いものであり得る。例えば、別の薬剤とコンジュゲートされる条件的活性型抗体は、異常条件での活性と正常生理条件での活性との比が少なくとも約10:1、又は少なくとも約11:1、又は少なくとも約12:1、又は少なくとも約13:1、又は少なくとも約14:1、又は少なくとも約15:1、又は少なくとも約16:1、又は少なくとも約17:1、又は少なくとも約18:1、又は少なくとも約19:1、又は少なくとも約20:1であり得る。これは、コンジュゲートする薬剤が例えば毒性又は放射性である場合に、かかるコンジュゲート薬剤は疾患又は治療部位(異常条件が存在するところ)に集中させることが望ましいため、特に重要であり得る。
【0226】
H. 条件的活性型ポリペプチドのpIの確認
いくつかの実施形態において、選択された条件的活性型ポリペプチドのpIは、上記のいずれかの技術を使用して、親ポリペプチドのpIよりも低いことが確認される。例えば、条件的活性型ポリペプチドのpIは、親ポリペプチドのpIより少なくとも0.1、または少なくとも0.2、または少なくとも0.3、または少なくとも0.4、または少なくとも0.5、または少なくとも0.6、または少なくとも0.8、または少なくとも1.0、または少なくとも1.2、または少なくとも1.4、または少なくとも1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも2.5、または少なくとも3.0、または少なくとも3.5、または少なくとも4.0、または少なくとも5.0単位低くてもよい。
【0227】
I. 条件的活性型ポリペプチド
別の態様では、本発明は、親ポリペプチドのpIよりも低いpIを有する条件的活性型ポリペプチドを提供する。条件的活性型ポリペプチドの活性は、対応する正常生理条件における同じ変異体ポリペプチドの同じ活性と比較して、正常生理条件から逸脱した異常条件で増大しており、また、場合によっては、
(a)同じ異常条件における親ポリペプチドの同じ活性と比較して、活性が正常生理条件から逸脱した異常条件で増加しているか、
(b)同じ正常生理条件における親ポリペプチドの同じ活性と比較して、活性が正常生理条件でで減少しているか、または
(c)上記(a)および(b)の組合せである。
【0228】
条件的活性型ポリペプチドは正常生理条件で可逆的または不可逆的に不活性化されるが、異常条件では活性である。ある実施形態では、これらの条件的活性型ポリペプチドは、正常生理条件で親ポリペプチドの同じ活性と同じかそれ以上の、異常条件での活性をもつこともある。
【0229】
条件的活性型ポリペプチドは、ホスト内で限られた期間にわたって活性である治療薬の開発にとって特に価値がある。このことは、治療の作用を延長すればホストにとって有害となるであろうが、望む治療を行うためには限られた活性を要する場合には特に価値がある。有益な適用の例としては、局所的治療または全身治療、ならびに 局部的治療が挙げられる。条件的活性型ポリペプチドの利点の1つは、有害な副作用を潜在的に減少させる能力により、より高い用量を治療用途に使用できることである。正常生理条件での不活性化は、有害な副作用を減らすために使用することができる。
【0230】
正常生理条件での不活性化は、ポリペプチドの投与量と不活性化速度の組合せによって決定できる。この条件に基づく不活性化は、比較的短期間に実質的なマイナスの副作用を引き起こす可能性のある酵素療法にとって特に重要である。
【0231】
また、条件的活性型ポリペプチドは、時間可逆的または不可逆的に活性化または不活性化されることもあれば、体内の特定の器官を含む体内の特定の微小環境に位置する場合にのみ活性化または不活性化されることもある。例示的な微小環境は、腫瘍、滑液、および膀胱または腎臓の微小環境を含み得るが、これらに限定されない。
【0232】
いくつかの実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは、本明細書に記載される1以上の標的抗原に対する抗体または抗体断片である。
【0233】
異常条件および正常生理条件は上記で議論したように、温度、pH、浸透圧、オスモル濃度、酸化ストレス、電解質濃度、ならびに2つ以上のこのような条件の組合せから選択される条件であり得る。ある実施形態では、その条件はpHであり、条件的活性型ポリペプチドはpH依存性である活性を有する。具体的には、条件的活性型ポリペプチドは、正常生理学的pHでの場合と比較して、異常pHでの活性が増加している。
【0234】
1つの態様において、本発明は、活性が望まれるpHの0.5、1、1.5、2、2.5、3または4単位の範囲内のpKaを有する種の存在下で、pH依存性活性を有する条件的活性型ポリペプチドに関する。別の態様において、本発明は、約4~約10、又は約4.5~約9.5又は約5~約9、又は約5.5~約8、又は約6.0~約7.0のpKaを有する種の存在下でpH依存的活性を有する条件的活性型ポリペプチドに関する。
【0235】
条件的活性型ポリペプチドの活性に大きい影響を有するアッセイ媒体中に存在する種は、少なくとも2つのイオン化状態:非荷電状又は低荷電状態と荷電又は高荷電状態とを有する種である傾向がある。そのため、特定のpHにおいて、その化学種が特定の活性のポリペプチドに与える結果の程度を決めるのに、条件的活性型ポリペプチドの活性に結果を与える化学種のpKaが役に立つことができる。
【0236】
別の態様において、本発明は、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、二硫化物、硫化水素、アンモニウム、リン酸二水素及びこれらの任意の組み合わせから選択される種の存在下でpH依存的活性を有する条件的活性型ポリペプチドに関する。いくつかの実施形態において、pH依存性条件的活性型ポリペプチドは、第1の異なるpHにおいてよりも第2のpHにおいてより高い活性を有し、両活性は、これらの種の存在下でのにおいてアッセイにおいて測定される。条件的活性型ポリペプチドのpH依存性を決定するには、ポリペプチドの同じ活性を同じアッセイ媒体中で2つの異なるpH値においてアッセイする。
【0237】
同じアッセイ媒体中の第1のpHでの同じ活性に対する第2のpHでの活性の比は、pH依存性条件的活性型ポリペプチドの選択性と呼ばれる。pH依存性条件的活性型ポリペプチドは、少なくとも約1.3、または少なくとも約1.5、または少なくとも約1.7、または少なくとも約2.0、または少なくとも約3.0、または少なくとも約4.0、または少なくとも約6.0、または少なくとも約8.0、または少なくとも約10.0、または少なくとも約20.0、または少なくとも約40.0、または少なくとも約60.0、または少なくとも約100.0の選択性を有する。
【0238】
しばしばpH依存性条件的活性型ポリペプチドは、条件的活性型ポリペプチドが由来する親ポリペプチドのアミノ酸残基に比べて、荷電アミノ酸残基の数(または割合)が増加していることが観察されている。3つの正電荷アミノ酸残基:リジン、アルギニン及びヒスチジン;及び2つの負電荷アミノ酸残基:アスパラギン酸及びグルタミン酸がある。いくつかの実施形態では、これらの荷電アミノ酸残基は、pH依存性条件的活性型ポリペプチドが由来する親ポリペプチドに比べて、pH依存性条件的活性型ポリペプチドで過剰に存在する。その結果、pH依存性条件的活性型ポリペプチドは、親ポリペプチドに比べて荷電アミノ酸残基が増加しているので、アッセイ媒体中の荷電種と相互作用する可能性が高い。これが、ひいては条件的活性型ポリペプチドの活性に影響する。
【0239】
また、pH依存的条件的活性型ポリペプチドが、典型的にはアッセイ媒体中の異なる種の存在下で異なる活性を有することも観察されている。少なくとも二つのイオン化状態、非荷電状又は低荷電状態と荷電又は高荷電状態をもつ種は、そのpKa値に依存して、特定のpHでより大きく解離し、それによって条件的活性型ポリペプチド中に存在する電荷をもつアミノ酸残基との相互作用の可能性を高めることができる。この特徴は、条件的活性型ポリペプチドの選択性および/またはpH依存性の活性を高めるために用いられる。
【0240】
条件的活性型ポリペプチド上の電荷の性質は、条件的活性型ポリペプチドの活性に影響を与えるのに好適な種の決定に用いられる一つの要因であり得る。一部の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは親ポリペプチドと比較してより多くの正電荷アミノ酸残基:リジン、アルギニン及びヒスチジンを有し得る。あるいは、条件的活性型ポリペプチドは、親ポリペプチドと比較してより多くの負電荷アミノ酸残基:アスパラギン酸とグルタミン酸を有し得る。このようにして、条件的活性型ポリペプチドは、その活性が望まれる環境に存在する特定の種との相互作用の所望のレベルを有するように、および/または減少した活性が望まれる環境に存在する特定の種との相互作用の所望のレベルを有するように選択することができる。
【0241】
pH依存性条件的活性型ポリペプチド上の荷電アミノ酸残基の位置も、条件的活性型ポリペプチドの活性に影響を及ぼす可能性がある。たとえば、荷電アミノ酸残基が条件的活性型ポリペプチドの結合部位に接近すると、ポリペプチドの結合活性が影響を受ける可能性がある。
【0242】
実施形態によっては、荷電した環境種と条件的活性型ポリペプチドとの相互作用によって、pH依存性条件的活性型ポリペプチドの活性が阻止されたり妨げられたりすることがある。例えば、荷電環境種と相互作用する荷電アミノ酸は、条件的活性型ポリペプチドの結合部位に対してアロステリック効果を示し得る。
【0243】
他の実施形態では、電荷環境種と条件的活性型ポリペプチドとの相互作用が、ポリペプチド上の異なった部分の間、とくに電荷部分や極性を部分の間に塩橋を形成することがある。塩橋の形成はポリペプチド構造を安定化することが知られている(Donald, et al., ”Salt Bridges: Geometrically Specific, Designable Interactions,” Proteins, 79(3): 898-915, 2011; Hendsch, et al., ”Do salt bridges stabilize proteins? A continuum electrostatic analysis,” Protein Science, 3:211-226, 1994)。塩橋は、通常は「ブリージング」と呼ばれる一定の微小な構造変異を受けるタンパク質構造を安定化または固定することができる(Parak, ”Proteins in action: the physics of structural fluctuations and conformational changes,” Curr Opin Struct Biol., 13(5):552-557, 2003)。タンパク質構造「ブリージング」は、構造のゆらぎによってタンパク質がそのパートナーを効率的に認識し結合できるようになる可能性があるため、タンパク質の機能とその結合に重要である(Karplus, et al., ”Molecular dynamics and protein functions,” PNAS, vol. 102, pp. 6679-6685, 2015)。塩橋を形成することによって、条件的活性型ポリペプチド上の結合部位、とくに結合ポケットがパートナーに近づきにくくなることがある。これはおそらく塩橋が相手が結合部位に接近するのを直接妨げたり、タンパク質構造の「ブリージング」を減らしたりするからであろう。結合部位から離れた塩橋をもっていても、塩橋のアロステリック効果によって結合部位の立体構造が変化して結合を阻害することがある。従って、塩橋が条件的活性型ポリペプチドの構造を安定化させた(固定した)後、ポリペプチドはそのパートナーとの結合の点で低活性になり、活性の低下がもたらされ得る。
【0244】
塩橋によって安定化される構造をもつポリペプチドの1つとして、ヘモグロビンが知られている。構造的及び化学的研究から、ヘモグロビンの塩橋には少なくとも2組の化学基:ヒスチジンβ146及びα122(これらはpH7に近いpKa値を有する)のアミノ末端と側鎖が関与していることが明らかになっている。デオキシヘモグロビンでは、β146の末端カルボキシレート基が、他方のαβ二量体のαサブユニットにおけるリジン残基と塩橋を形成する。この相互作用によってヒスチジンβ146の側鎖が同じ鎖の負電荷アスパラギン酸94との塩橋に関与し得る位置に固定されるが、但しヒスチジン残基のイミダゾール基がプロトン化されていることが条件である(
図1)。高いpHでは、ヒスチジンβ146の側鎖はプロトン化されておらず、塩橋は形成されない。しかしながら、pHが下がるにつれヒスチジンβ146の側鎖がプロトン化されるようになり、ヒスチジンβ146とアスパラギン酸β94との間に塩橋が形成され、それによりデオキシヘモグロビンの四次構造を安定化し、活発に代謝している組織(pHがより低い)で酸素が放出される傾向が高まることにつながる。ヘモグロビンは酸素に対してpH依存的結合活性を示し、その結果として低pHで、塩橋の形成に起因して酸素に対する結合活性が低下する。他方で、高pHでは、これらの塩橋がないため酸素に対する結合活性は増加する。
【0245】
同様に、重炭酸イオンのようなイオンは、条件的活性型ポリペプチド中で塩橋を形成することによって、条件的活性型ポリペプチドのその相手への結合活性を減少させ得る。たとえば、重炭酸イオンのpKaより大きいpHでは、重炭酸イオンは負電荷になる。負電荷重炭酸イオンは、条件的活性型ポリペプチド上の正電荷部分または極性部分の間に塩橋を形成することがある。これらの塩橋は条件的活性型ポリペプチドとそのパートナーとの結合を阻止したり、減少させたりする。pHが6.4より低いと、重炭酸イオンはプロトン化されて中和される。非電荷重炭酸塩は塩橋を形成することができないので、このようにして条件的活性型ポリペプチドとそのパートナーとの結合には影響しないであろう。このシナリオでは、条件的活性型ポリペプチドは、6.4を超える高いpHでの結合活性よりも、重炭酸塩のpKaである6.4未満のpHでのパートナーとのより高い結合活性を有することができる。この例では、条件的活性型ポリペプチドは重炭酸イオンの存在下で条件的に活性であり、すなわちpH依存性の活性を示す。
【0246】
アッセイ媒体に重炭酸塩などの種が存在しないとき、条件的活性型ポリペプチドはその条件的活性を失い得る。これは、条件的活性型ポリペプチド上にこのポリペプチドの構造を安定化させる(固定する)塩橋がないことが原因である可能性が高い。したがって、重炭酸塩が存在しない場合、結合パートナーはどのpHでも条件的活性型ポリペプチド上の結合部位に近づくレベルが似ている可能性があり、それによってどのpHでも同様の活性が生じ、条件的活性が排除される。
【0247】
他の実施形態では、小分子やイオンと条件的活性型ポリペプチドとの相互作用によって、ポリペプチドの構造がその活性を変化させるような様式で変化する可能性がある。例えば、構造の変化は、結合部位に対する位置、立体障害または結合エネルギーを変化させることにより、条件的活性型ポリペプチドの結合親和性を改善し得る。このような場合には、活性が望まれるpHで条件的活性型ポリペプチドに結合する小分子やイオンを選択することが望ましい場合がある。
【0248】
塩橋(イオン結合)は、化合物およびイオンが条件的活性型ポリペプチドの活性に影響を及ぼすための最も強く最も一般的な方法であるが、このような化合物およびイオンと条件的活性型ポリペプチドとの間の他の相互作用も、条件的活性型ポリペプチドの構造を安定化または固定するために寄与し得ることを理解されたい。このような他の相互作用には、水素結合、疎水性相互作用、およびファンデルワールス相互作用が含まれる。
【0249】
一部の実施形態において、好適な化合物又はイオンを選択するため、条件的活性型ポリペプチドが、それを進化させる元になった親ポリペプチドと比較され、条件的活性型ポリペプチドがより高い割合の負電荷アミノ酸残基又は正電荷アミノ酸残基を有するかどうかが決定される。次いで、活性が所望されるpHおよび正常生理pHそれぞれにおける適当な荷電を有する化合物またはイオンを、その大きさおよびpKa値に基づいて選択して、条件的活性型ポリペプチドの活性に影響を及ぼすために使用することができる。例えば、条件的活性型ポリペプチドが親ポリペプチドよりも正荷電アミノ酸残基の比率が高い場合には、条件的活性型ポリペプチドと相互作用するために、典型的には、適当な小分子またはイオンは正常生理pHで負電荷をもち、活性が望まれるpHでは中性であるべきである。一方、条件的活性型ポリペプチドが親ポリペプチドよりも負電荷をもつアミノ酸残基の比率が高い場合には、適当な小分子またはイオンは、典型的には、条件的活性型ポリペプチドと相互作用するために正常生理pHで正電荷をもち、活性が望まれるpHでは中性であるべきである。
【0250】
他の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドの活性は、小分子又はイオンと条件的活性型ポリペプチドの結合パートナーである標的ポリペプチドとの相互作用によって制御される。この場合、目標が小分子又はイオンと標的ポリペプチドとの間に相互作用を作り出すことである点を除き、上記の考察と同じ原理を同様に適用可能である。標的ポリペプチドは、例えば、条件的に活性な抗体の抗原、または条件的に活性な受容体のリガンドであり得る。
【0251】
適当な小分子またはイオンは、活性が望まれるpHで非荷電又は低荷電状態から、正常生理学的pHで荷電又は高荷電状態に移行する任意の無機または有機化合物またはイオンであり得る。したがって、小分子またはイオンは、典型的には、活性が望まれるpHと正常生理pHとの間にpKaを有するべきである。例えば、重炭酸塩は6.4のpKaを有する。従って、pH7.4などでは、負電荷重炭酸塩が条件的活性型ポリペプチドの荷電アミノ酸残基に結合して活性を低下させ得る。他方で、pH6.0など、より低いpHでは、低荷電重炭酸塩は条件的活性型ポリペプチドに同じ分量で結合せず、条件的活性型ポリペプチドのより高い活性が可能となり得る。
【0252】
二硫化物はpKa7.05を有する。したがって、pH 7.4のような正常生理pHでは、より多くの負電荷二硫化物が条件的活性型ポリペプチドの正電荷アミノ酸残基に結合し、その活性を低下させ得る。他方で、pH6.2~6.8など、より低いpHでは、低荷電硫化水素/二硫化物は条件的活性型ポリペプチドに同じレベルで結合せず、そのため条件的活性型ポリペプチドのより高い活性が可能となる。
【0253】
活性が所望されるpHと正常生理pHとの間にpKaを有する小分子またはイオンが、本発明における使用のために好ましい。好ましい種は、二硫化物、硫化水素、ヒスチジン、ヒスタミン、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、及び乳酸塩から選択される。これらの小分子またはイオンはそれぞれpKaが6.2~7.0である。さらに、トリシン(pKa8.05)及びビシン(pKa8.26)などの他の小分子もまた使用し得る。他の好適な小分子またはイオンは、CRC Handbook of Chemistry and Physics, 96th Edition, by CRC press, 2015およびChemical Properties Handbook, McGraw-Hill Education, 1998などの教科書に、本出願の原理を用いて見出すことができる。
【0254】
アッセイ媒体または環境中の小分子またはイオンの濃度は、好ましくは、対象中の小分子またはイオンの生理的濃度またはその付近である。例えば、重炭酸塩のヒト血清中における生理的濃度は15~30mMの範囲にある。従って、アッセイ媒体中の重炭酸塩の濃度は10mM~40mM、又は15mM~30mM、又は20mM~25mM、又は約20mMであってもよい。アッセイ媒体中の二硫化物の濃度は3~500nM、又は5~200nM、又は10~100nM、又は10~50nMであってもよい。
【0255】
本発明では、条件的活性型ポリペプチドは、環境中における特定の種の正常生理的濃度が目的のpH範囲における条件的活性型ポリペプチドの活性に有意な効果を及ぼし得るような濃度で選択及び利用される。従って、多くの治療処置において、活性化からの条件的活性型ポリペプチドを最小にするかまたは防止しながら、血流を介して治療処置の送達を可能にするために、pH7.2~7.4付近の血中またはヒト血清中の条件的活性型ポリペプチドに対する低活性を有することが有利であろう。したがって、このような処置のためには、pH7.2~7.4以下のpKaを有する小分子またはイオンを選択することが、血流pHでの小分子のイオン化の充分な量を確保して条件的活性型ポリペプチドの活性に重大な影響を及ぼすために有利であろう。同時に、小分子またはイオンのpKaは、条件的活性型ポリペプチド上の遊離結合部位への小分子またはイオンのプロトン化による条件的活性型ポリペプチドの活性化を保証するために、条件的活性型ポリペプチドの活性が望まれるpH以上でなければならない。
【0256】
小分子またはイオンは、好ましくは、立体障害を最小化することによって標的ポリペプチドまたは条件的活性型ポリペプチド上の小ポケットに最大限接近することを保証するために、低分子量および/または比較的小さなコンホメーションを有する。このため、小分子またはイオンは、典型的には、900a.m.u.未満、またはより好ましくは500a.m.u.未満、またはより好ましくは200a.m.u.未満、またはさらにより好ましくは100a.m.u.未満の分子量を有する。例えば、硫化水素、二硫化物及び重炭酸塩は全て、以下の実施例13及び実施例14に示すとおり、標的ポリペプチド又は条件的活性型ポリペプチド上のポケットへの到達をもたらす低分子量及び小型構造を有する。
【0257】
小分子またはイオンは、実質的に同じ濃度、例えば重炭酸塩について約20μMで条件活性または環境を選択するために使用されるアッセイ中に存在してもよい。いくつかの実施形態では、小分子またはイオンは、異なる環境中に異なる濃度で存在してもよく、したがって、アッセイにおいてこれをシミュレートすることが望ましい場合がある。例えば、二硫化物は腫瘍微小環境中においてヒト血清中よりも高い濃度を有する。従って、第2のアッセイが酸性pH及びより高濃度の二硫化物の腫瘍微小環境をシミュレートし得る一方、第1のアッセイが中性又は弱塩基性pH及びより低濃度の二硫化物のヒト血清をシミュレートし得る。酸性pHは6.0~6.8の範囲であってもよく、一方、中性又は弱塩基性pHは約7.4であってもよい。ヒト血清をシミュレートする第1のアッセイのためのより低い濃度の二硫化物が10μM以下、または5μMであり得る一方で、腫瘍微小環境をシミュレートする第2のアッセイのためのより高い濃度の二硫化物は30μMであり得る。
【0258】
いくつかの実施形態では、例えば重炭酸塩とヒスチジンの組合せのように、2つ以上の異なった小分子および/またはイオンが存在する場合、条件的活性型ポリペプチドはpH依存性である。
【0259】
小分子やイオンが存在しないと、条件的活性型ポリペプチドはpH依存性を失うことがある。したがって、小分子またはイオンが存在しない場合、条件的活性型ポリペプチドは、活性が望まれる異常pHと正常生理pHとの間で同様の活性を有する可能性がある。
【0260】
ある実施形態では、活性が望まれる異常pHは酸性pHであり、正常生理pHは塩基性または中性のpHである。例えば、異常pHは、約5.5~7.2の範囲のpH、または約6.0~7.0のpH、または約6.2~6.8のpHであり得る。正常生理pHは、7.2超から7.6未満の範囲内のpHであり得る。酸性pHでより活性であり、塩基性または中性pHでより活性が低い条件的活性型ポリペプチドは、異常pHが約5.5~7.2、または約6.2~6.8の酸性である腫瘍微小環境を標的とすることができる。
【0261】
他の実施形態では、活性が望まれる異常なpHは塩基性pHであり、正常生理pHが酸性または中性pHである。例えば、pH依存性ポリペプチドがより活性である異常pHは、例えば、滑液におけるような、例えば、7.6~7.9の塩基性pHであり得る(Jebens et al., ”On the viscosity and pH of synovial fluid and pH of blood,” Journal of Bone and Joint Surgery, vol. 41 B, pp. 388-400, 1959を参照されたい)。正常生理pHは、条件的活性型ポリペプチドがより活性でない、7.2~7.6を超える血液のpHであり得る。これらの条件的活性型ポリペプチドは、関節疾患および関節炎を標的とするのに適していると考えられる。
【0262】
他の実施形態において、条件的活性型ポリペプチドは脳を標的化するように設計され得る。血液脳関門の両側にはpHの差があり、脳側のpHは血液やヒト血清のpHよりも約0.2pH単位低い。したがって、条件的活性型ポリペプチドがより活性化される脳内の異常pHは約7.0~7.2(脳内pH)であり得るが、正常生理pHは7.2超から7.6未満であり得る。
【0263】
条件的活性型ポリペプチドは、酵素、サイトカイン、受容体、特に細胞受容体、調節性ポリペプチド、可溶性ポリペプチド、抗体、又はホルモンであってもよい。
【0264】
条件的活性型ポリペプチドは親ポリペプチドの断片であってもよい。例えば、条件的活性型ポリペプチドは、抗体断片、一本鎖抗体、酵素断片、受容体断片、サイトカイン断片、又はホルモン断片であってもよい。抗体断片は抗体のFc断片であってもよい。
【0265】
Fc断片を、条件的活性型Fc断片を生成するための親ポリペプチドとして使用することができる。Fc断片の補体との結合を用いて抗体依存的細胞媒介性細胞傷害をもたらすことができる。異常pHは、腫瘍微小環境におけるpHのように、5.5~7.2または6.2~6.8の範囲の酸性であり得るが、一方、正常的生理pHは、7.2超から7.6未満の範囲である。異常pHは、典型的にpHが4.0付近にあるリソソームのpHとは異なる。さらに、リソソームは、Fc断片が任意の他のポリペプチドと同じく分解の標的となる場所である。リソソームには補体がなく、リソソームを介して細胞媒介性細胞傷害が生じることはない。
【0266】
条件的活性型ポリペプチドは、pH依存性活性を有する機能性ドメインの少なくとも1つ、好ましくは両方を有する2つの機能性ドメインを有し得る。これら2つの機能性ドメインは同時に進化させて、同じ変異体ポリペプチド中の両方の機能性ドメインを同定する方法で選択を行うことができる。あるいは、2つの機能性ドメインは独立に進化させて選択されることもある。この場合、2つの機能性ドメインを融合させてキメラポリペプチドとすることができる。
【0267】
1つの態様では、条件的活性型ポリペプチドは、タンパク質のような因子の存在下で、親ポリペプチドと比較して活性が望まれる異常pHでの活性の増加、および親ポリペプチドと比較して正常生理pHでの活性の減少を示す。タンパク質は、血中、ヒト血清中、または腫瘍微小環境、炎症領域、滑液、脳などの身体の微小環境中に存在するタンパク質であってよい。一つの好適なタンパク質はアルブミン、特にウシアルブミン又はヒトアルブミンなどの哺乳類アルブミンであり得る。
【0268】
1つの態様において、アルブミンのようなタンパク質は、条件的活性型ポリペプチドをスクリーニングおよび選択するために使用されるアッセイ溶液中に存在する。別の態様では、アルブミンのようなタンパク質を有するアッセイ溶液を使用して、同じまたは異なる条件下で選択された条件的活性型ポリペプチドの活性を試験することもできる。
J. 条件的活性型ポリペプチドの工学
【0269】
本発明の選択された条件的活性型ポリペプチドは、”Engineering of conditionally active polypeptides,” ”Engineering masked conditionally active polypeptide,” および ”Engineering of conditionally active antibodies”と題した節において、WO 2017/078839に記載されている方法のいずれかを用いてさらに改変することができる。 さらに、本発明の条件的活性型ポリペプチドおよび改変された条件的活性型ポリペプチドは、WO 2017/078839に記載されているように、腫瘍溶解性ウイルスであるウイルス粒子中に挿入することができる。
K. 条件的活性型ポリペプチドの製造
【0270】
選択された条件的活性型ポリペプチド及び本発明の改変された条件的活性型ポリペプチドは、 ”Production of the Conditionally Active polypeptides”と題する項のWO 2017/078839に記載された方法を用いて、治療用、予防薬用、診断用、研究用に産生することができる。
G. 医薬組成物
【0271】
条件的活性型ポリペプチド、又は改変された条件的活性型ポリペプチドを含む医薬組成物、並びにそのような医薬組成物の使用は、WO 2017/078839に記載されている。本発明は、条件的活性型ポリペプチドを含む医薬組成物、または、治療、予防および診断用途に使用され得るさらなる改変型の条件的活性型ポリペプチドを含む医薬組成物にまで及ぶ。
L. 条件的活性型ポリペプチドの用途
【0272】
本発明はまた、固形腫瘍、炎症関節、または脳疾患もしくは障害の治癒的または予防的治療のための条件的活性型ポリペプチドの使用を含む。
【0273】
また、本発明の範囲内に含まれるのは、本発明の条件的活性型ポリペプチドを前記治療を必要とする患者に投与することによる固形腫瘍、炎症性関節、または脳疾患または障害を治療する方法である。
【0274】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、文脈上特に明確に指示されない限り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」には複数形の参照が含まれることに留意しなければならない。さらに、用語「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」は、本明細書では同義的に用いられ得る。用語「~を含む(comprising)」、「~を含む(including)」、「~を有する(having)」、及び「~で構成される(constructed from)」も同義的に用いられ得る。
【0275】
特に指示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される、分子量、百分率、比、反応条件など、成分、特性の量を表す全ての数値は、全ての例において、用語「約」が存在するか否かに関わらず、用語「約」によって修飾されているものと理解されるべきである。従って、反する旨が示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲に示される数値パラメータは近似であり、本開示によって達成しようとする所望の特性に応じて変わり得る。最低限でも、且つ特許請求の範囲への均等論の適用を限定しようとすることなしに、各数値パラメータは、少なくとも、報告される有効桁の数字を踏まえて、且つ通常の丸め法を適用することによって解釈されなければならない。本開示の広い範囲を示す数値の範囲及びパラメータは近似であるにも関わらず、具体的な例に示される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、そのそれぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる特定の誤差を本質的に含む。
【0276】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータは、単独での使用、又は本明細書に開示される他のあらゆる成分、化合物、置換基又はパラメータの1つ以上と組み合わせた使用について開示されるものと解釈されるべきであることが理解されなければならない。
【0277】
また、本明細書に開示される各成分、化合物、置換基又はパラメータの各量/値又は量/値の範囲は、本明細書に開示される任意の他の1つ又は複数の成分、1つ又は複数の化合物、1つ又は複数の置換基又は1つ又は複数のパラメータについて開示される各量/値又は量/値の範囲との組み合わせでも開示されるものと解釈されるべきであること、従って、本明細書に開示される2つ以上の成分、化合物、置換基又はパラメータの量/値又は量/値の範囲の任意の組み合わせも本記載の目的上、互いに組み合わせて開示されることも理解されなければならない。
【0278】
さらに、本明細書に開示される範囲の各々は、同じ有効桁数を有する開示される範囲内にある具体的な各値の開示として解釈されるべきであることが理解される。従って、1~4の範囲は、値1、2、3及び4の明示的な開示と解釈されるべきである。さらに、本明細書に開示される各範囲の各下限は、同じ成分、化合物、置換基又はパラメータについての本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内にある具体的な各値と組み合わせて開示されるものと解釈されるべきであることが理解される。従って、この開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限又は各範囲内の具体的な各値と組み合わせることによるか、又は各範囲の各上限を各範囲内の具体的な各値と組み合わせることによって得られる全ての範囲の開示と解釈されるべきである。
【0279】
さらに、説明又は例に開示される成分、化合物、置換基又はパラメータの具体的な量/値は、範囲下限又は上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、従って本出願の他の場所に開示される同じ成分、化合物、置換基若しくはパラメータの任意の他の範囲下限若しくは上限、又は具体的な量/値との組み合わせで、成分、化合物、置換基又はパラメータの範囲を形成することができる。
【0280】
本明細書で言及される文献は全て、本明細書によって全体として、又はそれらが具体的に頼りとされた開示を提供する代わりに参照により援用される。本出願人らは、開示されるいかなる実施形態も公衆に提供する意図はなく、及び任意の開示される変形例又は代替例が字義的に特許請求の範囲に含まれないこともあり得る程度まで、それらは均等論の下で本明細書の一部と見なされる。
【0281】
しかしながら、前述の説明に本発明の数値的な特徴及び利点が本発明の構造及び機能の詳細と共に示されているとしても、本開示は例示的なものに過ぎず、詳細、特に要素の形状、サイズ及び配置の点で、添付の特許請求の範囲を表現している用語の広義の一般的な意味によって示される最大限の範囲まで本発明の原理の範囲内で変更形態をなし得ることが理解されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親抗体または抗体断片から条件的活性型抗体または抗体断片を製造する方法であって、
(i)親抗体または抗体断片のpIより低いpIを有する1つ以上の変異体抗体または抗体断片を製造するために、1つ以上の変異を親抗体または抗体断片中に導入することによって、親ポ抗体または抗体断片を進化させる工程;
(ii)親抗体または抗体断片のpIより低いpIを有する変異体抗体または抗体断片を測定して、親抗体または抗体断片のpIと同じかまたはそれよりも高いpIを有する変異体抗体または抗体断片を廃棄する工程;
(iii)pH7.2から7.6での第1のアッセイにおいて1つ以上の変異体抗体または抗体断片の活性を決定し、pH6から7での第2のアッセイにおいて1つ以上の変異体抗体または抗体断片の同じ活性を測定する工程;および
(iv)(a)第1のアッセイにおいて示す活性よりも、第2のアッセイにおいて、少なくとも1.3、または少なくとも1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0、または少なくとも3.0、または少なくとも4.0、または少なくとも6.0、または少なくとも8.0、または少なくとも10.0の比率で高い活性を示し、かつ(b)親抗体または抗体断片のpIよりも、少なくとも0.1、または少なくとも0.2、または少なくとも0.3、または少なくとも0.4、または少なくとも0.5、または少なくとも0.6、または少なくとも0.8、または少なくとも1.0、または少なくとも1.2、または少なくとも1.4、または少なくとも1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0単位低いpIを有する、1つ以上の変異体抗体または抗体断片から条件的活性型抗体または抗体断片を選択する工程
を含む方法。
【請求項2】
条件的活性型抗体または抗体断片は、pIが7.4を下回るか、またはpIが7.3を下回るか、またはpIが7.2を下回るか、またはpIが7.1を下回るか、またはpIが7.0を下回る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ以上の変異が、親抗体または抗体断片に置換されるアミノ酸のpIよりも高いpIを有する親抗体または抗体断片中のアミノ酸の残基に対する、アミノ酸の残基の1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸置換を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1つ以上の変異が、親抗体または抗体断片のpIよりも低いpIを有するアミノ酸の残基の1、2、3、4、または5個の挿入を含むか、または親抗体または抗体断片のpIよりも、少なくとも0.1、または少なくとも0.2、または少なくとも0.3、または少なくとも0.4、または少なくとも0.5、または少なくとも0.6、または少なくとも0.8、または少なくとも1.0、または少なくとも1.2、または少なくとも1.4、または少なくとも1.5、または少なくとも1.7、または少なくとも2.0単位低いpIを有するアミノ酸の残基の1、2、3、4、または5個の挿入を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
1つ以上の変異が、親抗体または抗体断片のpIよりも高いpIを有するアミノ酸の残基の1、2、3、4、または5個の欠失を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
1つ以上の変異が、変異体抗体または抗体断片の表面上に露出した位置に位置する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第1のアッセイおよび第2のアッセイの両方が、分子量が900a.m.u.未満、または500a.m.u.未満、または200a.m.u.未満、または100a.m.u.未満の1種以上の分子またはイオンの存在下で実施され、
1種以上の分子またはイオンが、ヒスチジン、ヒスタミン、水素付加アデノシン二リン酸、水素付加アデノシン三リン酸、クエン酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、二硫化物、硫化水素、アンモニウム、リン酸二水素およびその任意の組合せから選択されるか、または
1種以上の分子またはイオンが、3mM~200mM、または5mM~150mM、または5mM~100mM、または10mM~100mM、または20mM~100mM、または25mM~100mM、または30mM~100mM、または35mM~100mM、または40mM~100mM、または50mM~100mMの範囲にある濃度を有する重炭酸イオンであるか、または
1種以上の分子またはイオンが、1mM~100mM、または2nM~500nM、または3nM~200nM、または5nM~100nMの範囲の濃度を有する二硫化物イオンであるか、または
1種以上の分子またはイオンが、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、二硫化ナトリウム、または二硫化カリウムから選択される、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【外国語明細書】