IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シーダーズ−サイナイ メディカル センターの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073529
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】パーキンソン病におけるPKC経路
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240522BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/365 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/395 20060101ALI20240522BHJP
   A61K 31/235 20060101ALI20240522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/16
A61K31/22
A61K31/365
A61K31/122
A61K31/407
A61K31/395
A61K31/235
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038025
(22)【出願日】2024-03-12
(62)【分割の表示】P 2020560894の分割
【原出願日】2019-04-05
(31)【優先権主張番号】62/664,888
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/664,827
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/664,942
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/755,365
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/816,795
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】514135801
【氏名又は名称】シーダーズ-サイナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ラペール アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ユジェール ヌール
(72)【発明者】
【氏名】スヴェンセン クライヴ エヌ.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZC191
4C084ZC192
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086BC57
4C086CA03
4C086CB14
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZC19
4C086ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB24
4C206DB02
4C206DB03
4C206DB16
4C206DB17
4C206DB53
4C206DB56
4C206KA01
4C206KA03
4C206KA08
4C206KA17
4C206KA18
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZC19
4C206ZC41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】パーキンソン病の新しい治療手段を提供する。
【解決手段】DAG、DAGラクトン、ホルボール、インゲノール、インドラクタム、ベンゾラクタム、ブリオスタチン、及びカルホスチンなどのPKC活性化因子を含む医薬組成物を対象に投与する。前記治療上有効な薬剤が、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の活性を調節することで、パーキンソン病の進行を逆転または遅延させる。
【選択図】図23
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療方法であって、
治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより前記対象を治療することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記治療上有効な薬剤が小分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記小分子が、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PKC活性化因子が、DAG、DAGラクトン、ホルボール、インゲノール、インドラクタム、ベンゾラクタム、ブリオスタチン、及びカルホスチンを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記PKC活性化因子、その類似体及び誘導体が、インゲノール誘導体を含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記インゲノール誘導体がインゲノール-3-アンゲレートを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記PKC活性化因子、その類似体及び誘導体が、PKCアゴニストを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記治療上有効な薬剤が、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の活性を調節することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記治療上有効な薬剤が、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の発現を調節することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
発現の調節が転写産物発現レベルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
発現の調節がタンパク質発現レベルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
タンパク質発現レベルがα-シヌクレインタンパク質の減少を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
タンパク質発現レベルがTHタンパク質の増加を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記治療上有効な薬剤が、リソソームタンパク質分解を促進することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記治療上有効な薬剤が、電気的活動の同期バーストを改善することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記治療上有効な薬剤が、ステッピング(stepping)、回転非対称性(rotational asymmetry)、及びキネジア(kinesia)のうちの1つ以上を改善することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
パーキンソン病の進行を逆転または遅延させる方法であって、
治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより前記対象におけるパーキンソン病の進行を逆転または遅延させることを含む、前記方法。
【請求項18】
前記治療上有効な薬剤が、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記PKC活性化因子、その類似体及び誘導体が、インゲノール-3-アンゲレートを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記治療上有効な薬剤が、α-シヌクレインタンパク質レベルを低下させることができる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記治療上有効な薬剤が、リソソームタンパク質分解の促進を減少させることができる、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記治療上有効な薬剤が、黒質の変性を逆転または遅延させることができる、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記治療上有効な薬剤が、ドーパミンレベルを維持または促進することができる、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援の研究に関する声明文
本発明は、National Institutes of Healthから授与されたNS105703のもと、政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
パーキンソン病に関連するものを含む中脳ニューロンの生成に関連する方法及び組成物が本明細書に記載されている。
【背景技術】
【0003】
背景
パーキンソン病(PD)は、二番目に多く診断される神経変性疾患であり、現在の老齢人口の間で相当な経済的負担となっている。PDにおける古典的に関連付けられる病理は、黒質緻密部におけるドーパミン作動性ニューロン(DaN)の進行性の消失、ならびにレビー小体及びレビー神経突起として知られる細胞質内封入体の存在を特徴とする。これらの封入体は、主にタンパク質α-シヌクレインで構成される。α-シヌクレインをコードする遺伝子(SNCA)の変異または三重化は、これらの特定の家族性PD症例の原因である。その本来の状態では、α-シヌクレインは、ヒトの脳全体のニューロンのシナプス前終末に見られ、小胞輸送、神経伝達物質の放出及び再取り込みにおいて機能を果たす。
【0004】
α-シヌクレインなどの多くの遺伝子及びタンパク質がPDに関連付けられているが、患者から生きたニューロンを抽出できないこと、及び効果的なPDモデルがないことから、疾患の開始及び進行に関する未解決の問題が残っている。患者由来の細胞をiPSCに再プログラミングすることで、疾患の進行及び病理学的表現型を分子レベルで観察することができる。興味深いことに、より大きな非家族性(孤発性)集団に関する以前のiPSC研究において、対照個体に由来するものと比較した場合、明白な違いが示されていない。このため、パーキンソン病の病理を裏打ちする複雑な生物学的背景を表すiPSC疾患モデルが、当該技術分野において強く必要とされている。
【0005】
パーキンソン病をモデル化及び治療するための組成物及び方法が本明細書に記載されている。重要なことに、中脳ニューロンの生成、発達を忠実に反映した様式での底板誘導により、神経変性につながる細胞キューを特定することができ、これには、iPSCモデルでまだ十分に活用されていない孤発性PD症例の背後にある複雑な病因が含まれる。そのようなモデルを確立したところ、本発明者らは、本明細書において、PKCによって一部媒介されるものとして、α-シヌクレイン及びリソソーム分解機能障害のこれまで未知であった役割を特定した。アゴニストによるPKCのターゲティングによって測定可能な結果が改善され、これにより、パーキンソン病の新しい治療手段が提案された。
[本発明1001]
治療方法であって、
治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより前記対象を治療することを含む、前記方法。
[本発明1002]
前記治療上有効な薬剤が小分子を含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記小分子が、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記PKC活性化因子が、DAG、DAGラクトン、ホルボール、インゲノール、インドラクタム、ベンゾラクタム、ブリオスタチン、及びカルホスチンを含む、本発明1003の方法。
[本発明1005]
前記PKC活性化因子、その類似体及び誘導体が、インゲノール誘導体を含む、本発明1003の方法。
[本発明1006]
前記インゲノール誘導体がインゲノール-3-アンゲレートを含む、本発明1005の方法。
[本発明1007]
前記PKC活性化因子、その類似体及び誘導体が、PKCアゴニストを含む、本発明1003の方法。
[本発明1008]
前記治療上有効な薬剤が、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の活性を調節することができる、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記治療上有効な薬剤が、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の発現を調節することができる、本発明1001の方法。
[本発明1010]
発現の調節が転写産物発現レベルを含む、本発明1009の方法。
[本発明1011]
発現の調節がタンパク質発現レベルを含む、本発明1009の方法。
[本発明1012]
タンパク質発現レベルがα-シヌクレインタンパク質の減少を含む、本発明1011の方法。
[本発明1013]
タンパク質発現レベルがTHタンパク質の増加を含む、本発明1011の方法。
[本発明1014]
前記治療上有効な薬剤が、リソソームタンパク質分解を促進することができる、本発明1001の方法。
[本発明1015]
前記治療上有効な薬剤が、電気的活動の同期バーストを改善することができる、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記治療上有効な薬剤が、ステッピング(stepping)、回転非対称性(rotational asymmetry)、及びキネジア(kinesia)のうちの1つ以上を改善することができる、本発明1001の方法。
[本発明1017]
パーキンソン病の進行を逆転または遅延させる方法であって、
治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより前記対象におけるパーキンソン病の進行を逆転または遅延させることを含む、前記方法。
[本発明1018]
前記治療上有効な薬剤が、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む、本発明1016の方法。
[本発明1019]
前記PKC活性化因子、その類似体及び誘導体が、インゲノール-3-アンゲレートを含む、本発明1018の方法。
[本発明1020]
前記治療上有効な薬剤が、α-シヌクレインタンパク質レベルを低下させることができる、本発明1017の方法。
[本発明1021]
前記治療上有効な薬剤が、リソソームタンパク質分解の促進を減少させることができる、本発明1017の方法。
[本発明1022]
前記治療上有効な薬剤が、黒質の変性を逆転または遅延させることができる、本発明1017の方法。
[本発明1023]
前記治療上有効な薬剤が、ドーパミンレベルを維持または促進することができる、本発明1017の方法。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】PD患者データ。
図2-1】分化スキーム(a)。THの発現及び形態を示す代表的な画像(b)。分化効率を示すフローサイトメトリーデータであり、各点は、独立した分化の3つの別個のウェルの平均を表す(c)。
図2-2】総ドーパミン含有量のHPLC検出(d)。株ごとに分化効率で正規化したドーパミン含有量のHPLC検出(e)。30日齢のDaNにおけるbACT(ハウスキーピング)及びシヌクレインの発現を示すウエスタンブロット(f)。各点は別個の分化からのバンドであり、色はipsc株を示し、データは各分化について02i対照で正規化した、複数のウエスタンブロットからの相対強度(g)。30日齢のDaNにおけるqPCRによるSNCA発現(h)。
図3-1】RNA-Seq及びプロテオミクスの組み合わせからの重複した転写物及びタンパク質の複合検出(a)。一致するトランスクリプトームデータ及びプロテオミクスデータのPCAプロット(b)。PDにおいて上方調節されたPC1成分のGSEA分析(c)。
図3-2】PDにおいて下方調節されたPC1成分のGSEA分析(d)。
図4-1】シクロヘキシミドによる阻害下でのシヌクレイン分解を示す代表的なウエスタンブロット(a)。02i対照及び190iPD細胞からの3つの別個の分化のウエスタンブロットの平均強度であり、時間=0のシヌクレイン(b)、シナプトフィジン(c)、及びTH(d)に対する変化倍率として提示する。
図4-2】24時間のMG132プロテアソーム阻害剤下でのシヌクレイン分解を示すウエスタンブロット(e)。PD DaNにおけるLAMP1タンパク質の減少を示すウエスタンブロット(f)。GCase活性であり、各点は、単一の分化からの3つの別個のウェルの平均である。データは、各分化について02i対照で正規化し、変化倍率として表した(g)。D30 DaN溶解物からの酸化ドーパミンのNIRF検出(h)。
図5-1】PD株におけるリソソームアゴニストによる処理及びp-PKCaの上昇。指定の化合物で72時間処理したd30 DaNのウエスタンブロット及び相対バンド定量化(a)。d30 DaNにおけるp-PKCaのベースラインレベル(b)。
図5-2】複数のPD株及び対照株からの、PEPで処理した30日目のDaN(c)。PEP処理のタイムコースおよびシヌクレインレベル(d)。
図5-3】SNCA(e)およびTH(f)の遺伝子発現のPEP処理のタイムコース。
図5-4】追加の対照株及びPD株におけるシヌクレイン及びp-PKCaの上昇の確認(g)。
図6a】4段階のタイムコース(a)および成熟(b)を含む分化プロトコル。
図6b図6aの続きを示す。
図7】研究ワークフロー。
図8】パーキンソン病動物モデルのモデルは、古典的なパーキンソン病の表現型を再現することができない。主要なモデルには、A53T、SNCA三重化、LRRK2 G2019Sが含まれる。iPSCモデルは患者特異的な遺伝的性質を獲得する。
図9】早期発症型PD分布。
図10】患者株の概要。末梢血細胞からの非組み込み型エピソーム再プログラミングから株を生成した。患者は、PDの早期発症を呈し、家族歴がなく、NeuroXアレイ及びWGSは、原因となる単一遺伝子PD変異がないことを確認した。
図11】mDAニューロン培養物への分化。D30中脳ドーパミン作動性ニューロン(mDA)培養物は、約20%のTH+細胞を含み、ドーパミンを産生し、K及びNaチャネルで自発的活動を呈し、電流注入時に一連のAPを発する。
図12】EOSPD mDA培養物におけるα-シヌクレインの蓄積。ウエスタンブロット及びELISAによる、EOSPD mDA培養物におけるα-シヌクレインレベルの増加。
図13】EOSPD mDA培養物のOMICS分析の組み合わせ。SWATHプロテオーム解析とRNA-Seqトランスクリプトミクスの組み合わせ。
図14】EOSPD mDA培養物では、α-シヌクレインの分解が損なわれている。α-シヌクレイン(α-syn)、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びシナプトフィジン(Synp)タンパク質レベルを、48時間のシクロヘキシミド処理にわたってアッセイした。
図15】α-シヌクレインはプロテアソームでは分解されない。D30 mDA培養物をプロテアソーム阻害剤MG132で24時間処理した。P53は典型的にプロテアソーム手段によって分解された。
図16】EOSPD mDA培養物では、リソソーム経路が損なわれている。リソソーム関連膜タンパク質1(LAMP1)。GCase-リソソーム加水分解酵素。
図17】p-PKCaは、EOSPD mDA培養物において高い。PKCaリン酸化Thr-638は、アゴニストによるタンパク質の脱リン酸化及び不活性化の速度を制御する。活性の増強は他の神経変性疾患(アルツハイマー病)と関連している。
図18】PEP005はEOSPD表現型を調節する。
図19】PEP005はインビボでα-シヌクレインレベルを低下させる。野生型C57/BL6マウスはJackson Labsから購入した。片側線条体注射(L)。処置の3日後にα-シヌクレインレベルをアッセイした。
図20】EOSPDバイオマーカーは複数のiPSC株を正しく識別する。この系でスクリーニングされた11個のiPSC株のうち10個は、5個のEOSPDのうち4個について正しく識別される。成人発症型PD株はEOSPD表現型を示さない。
図21】PEP005はTH発現を増加させる。
図22】DAチップ:ドーパミン作動性ニューロン|内皮細胞の共培養。チップシステムは、再現性のあるTH発現をモデル化するパーキンソン病の中脳DAニューロンを含むように適合させた。薬物試験用の血液脳関門成分。
図23】追加のホルボールエステル化合物。PEP005、プロストラチン、及びPMAはすべて、異なる植物種に由来するホルボールエステルである。化学構造が非常に類似している。3つのホルボールエステル化合物はすべて、本発明者らのモデルシステムにおけるインビトロ試験で、シヌクレイン、pPKCa、及びTHレベルに同様の影響を及ぼす。
図24】EOSPD由来のiPSCは、α-シヌクレインを蓄積する中脳ドーパミン作動性(mDA)ニューロン培養物に分化することができる。(a)mDA培養物の分化図。(b)mDA培養物の代表的な画像は、THの発現及び形態を示す。(c)フローサイトメトリーによって分化効率を定量化し、各点は独立した分化の3つの別個のウェルの平均を表し、株ごとに少なくとも3回繰り返した。*は、テューキーの多重比較検定を用いた一元配置分散分析(F4.07、DF23)による有意性(p<0.05)を示す。(d)株ごとの分化効率で正規化したドーパミン総含有量のHPLC検出。(e)30日目(d30)のmDAニューロンにおける自発的活動のギャップのない記録。(f)d30 mDAニューロンの電圧クランプ記録。(g)d30 mDAニューロンの注入電流の記録。(h)d30 mDA培養物におけるqPCRによるSNCA発現。(i)α-シヌクレイン産生及びハウスキーピング対照としてのβ-アクチンについてのd30 mDA培養物のウエスタンブロット。(j)複数のウエスタンブロットからの相対強度であり、各点は別個の分化からのバンド強度を表し、強度は対照株の平均に対するものである。(k)α-シヌクレインELISAであり、各点は別個の分化からの3つのウェルの平均を表し、3つの独立した分化が表される。グラフの色は異なるiPSC株を示す。*は、ウェルチの補正を用いたt検定による対照からの有意性p<0.0001を示す(j、k)。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
図25】mDA培養物からのRNAシーケンス分析及びプロテオミクス分析の組み合わせ。(a)30日目の一致するmDAからの全トランスクリプトームデータセット及びCVでフィルタリングしたプロテオミクスデータセットのPCAプロット。色は細胞株を示す。薄青色=02i対照、濃青色=WP3i対照、紫色=00i対照、オレンジ色=194iPD、ピンク色=200iPD、及び赤色=190iPD。同じ色は、異なる培養ウェルからの生物学的複製を示す。(b)mRNA-Seqデータ及びプロテオミクスデータの両方からのPC1に沿って上方調節及び下方調節された一致する遺伝子セット成分のGSEA分析。偽発見率(FDR)によって計算した有意性によって、経路をランク付けした。GSEAゼロ値を1E-5に設定した。(c)GSEAタームのプロテオミクス分析からの濃縮プロットは、PC1において有意に上方調節及び下方調節された。赤色は正の重み付けスコアを示し、青色は負の重み付けスコアを示す。PC1遺伝子はx軸に沿って遺伝子の重み付けで順序付け、黒色の線はGSEAタームに含まれる遺伝子を示す。(d)差次的に下方調節されたタンパク質KEGG経路の文字列分析。(e)KEGGリソソーム経路に含まれる有意に下方調節された遺伝子あたりの検出されたタンパク質強度値の平均値。エラーバーは標準誤差(SEM)を表す。
図26】リソソームによるα-シヌクレインの分解は、EOSPD mDA培養物において特異的に損なわれている。(a)シクロヘキシミドによる阻害下でのチロシンヒドロキシラーゼ(TH)、シナプトフィジン(Synp)、及びα-シヌクレイン(α-Syn)の分解を示す代表的なウエスタンブロット。(b)02i対照及び190iPD細胞からの3つの別個の分化のウエスタンブロットの平均強度であり、時間=0に対する変化倍率として提示する。*は、シダックの多重比較検定を用いた一元配置分散分析(F15.6、DF23)による同じ時点での対照細胞に対する有意性(p<0.005)を示す。(c)24時間のMG132プロテアソーム阻害剤下でのα-シヌクレイン分解を示すウエスタンブロット。未処理細胞と比べたMG132処理後のP53(d)及びα-シヌクレイン(e)バンド強度の定量化、*は、ウェルチの修正を用いたt検定による未処理細胞に対する有意性p<0.05を示す。(f)EOSPD及び対照mDA培養物におけるLAMP1タンパク質を示すウエスタンブロット。(g)対照細胞に対するLAMP1バンド強度の定量化。各点は、別個の分化及びウエスタンブロットを表し、*は、ウェルチの修正を用いたt検定による対照細胞に対する有意性p<0.005を示す。(h)GCase活性であり、各点は、単一の分化からの3つの別個のウェルの平均である。データは、各分化について対照細胞で正規化し、変化倍率として表した。*は、ウェルチの修正を用いたt検定による未処理細胞に対する有意性p<0.05を示す。30日目(i)及び60日目(j)のmDA培養溶解物からの酸化ドーパミンのNIRF検出。対照細胞と比べたドットブロット及びシグナル強度を提示する。*は、ウェルチの修正を用いたt検定による対照細胞に対する有意性p<0.005を示す。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
図27】EOSPD mDA培養物をPKCアゴニストで処理すると、細胞内α-シヌクレインが減少する。(a)指定の化合物で72時間処理していない(UT)または処理した30日目(d30)のmDA培養物のウエスタンブロット、及び(b)相対バンド定量化。PEP005で72時間処理したd30 mDA培養物のフローサイトメトリー分析、(c)同じ株の未処理mDA培養物と比べた陽性細胞のTH強度の中央値、*は、ウェルチの修正を用いたt検定による未処理からの有意性(p<0.05)を示す、及び(d)TH+ニューロンへの分化効率。(e)d30 mDA培養物におけるp-PKCαのベースラインレベル。(f)対照細胞に対するp-PKCαバンド強度の定量化。各点は、別個の分化及びウエスタンブロットを表し、*は、ウェルチの修正を用いたt検定による対照細胞に対する有意性p<0.005を示す。(g)複数のEOSPD及び対照株からのPEP005で処理したd30 mDA培養物のウエスタンブロット。(h)同じ株の未処理細胞と比べた、PEP005あり及びなしのα-シヌクレインバンド強度の定量化。同じ株の未処理細胞と比べた、PEP005あり及びなしの(i)p-PKCα及び(j)LAMP1のバンド強度。*は、対応のあるt検定による未処理細胞に対する有意性p<0.005を示す(h、i、j)。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
図28】PKC経路効果の確認。(a)30日目における追加の対照及びEOSPD mDA培養物のウエスタンブロット及び定量化。(b)02i対照で正規化したすべてのmDA培養物からの平均α-シヌクレイン及びp-PKCα発現。(c)正規化されたα-シヌクレイン(赤色)、LAMP1(青色)、p-PKCα(オレンジ色)のROC曲線プロット。(d)追加のPKCアゴニストによるmDA培養物の処理及びバンド強度の定量化。(e)172iPD mDA培養物におけるPEP005及びプロストラチンの用量応答曲線。(e)215ngのPEP005で3日間処理したマウス線条体におけるα-シヌクレインの免疫組織化学染色。(f)PEP005の用量に応答した注射側(L)/反対側(R)として提示されているマウス線条体におけるα-シヌクレインのウエスタンブロット定量化。n=9匹のVHC、4匹の2.15ng、3匹の21.5ng、及び9匹の215ng。*は、テューキーの多重比較検定を用いた一元配置分散分析(F3.96、DF24)による有意性(p<0.05)を示す。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
図29】ホルボールエステル化合物のEOSPDバイオマーカー及び疑われる活性の概略図である。
図30】EOSPD患者及び対照の臨床概要。
図31】独立したRNA-Seqデータについての上位20個の顕著な上方調節及び下方調節されたGSEA結果。
図32】EOSPD iPSCの生成。(a)EOSPD患者からの未分化iPSCにおけるSSEA4(緑色)及びOCT-4免疫染色。(b)EOSPD患者のiPSCからの正常な核型。
図33】mDA培養物の追加の特性。(a)6個のiPSC株からの30日目(d30)のmDA培養物におけるドーパミン作動性ニューロン遺伝子の発現。データは、対照株における平均発現に対するものである。(b)d30 mDA培養溶解物中の総ドーパミンのHPLC検出。*は、テューキー多重比較検定を用いた一元配置分散分析(F67.7、DF17)による、他のすべての株からの有意性(p<0.05)を示す。(c)37℃で15分間インキュベートした後の、aCSF中の放出されたドーパミンのHPLC検出。*は、テューキー多重比較検定を用いた一元配置分散分析(F31.6、DF17)による、他のすべての株からの有意性(p<0.05)を示す。(。(d)分化21日目の02i対照mDAニューロンからの自発的活動のMEA記録。(e)分化30日目の対照及びEOSPDのmDAニューロンのMEA記録。(f)30日目のニューロンごとの平均ソートスパイク。点は4つのウェルの平均を表し、色はiPSC株を示す。(g)対照及びEOSPDのiPSCにおけるα-シヌクレインのウエスタンブロット。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
図34】トランスクリプトーム及びプロテオーム解析の組み合わせ。(a)トランスクリプトームデータ及び(b)プロテオミクスデータのピアソン相関プロット。(c)検出されたすべてのタンパク質のPCAプロット。(d)一致するRNA-Seq転写産物のPCAプロット。(e)一致するタンパク質のPCAプロット。
図35】PEP005処理の追加の特性評価。(a)PEP005処理あり及びなしの200iPD d30 mDA培養物におけるTH及びα-シヌクレインを示す免疫細胞化学。(b)複数のEOSPD及び対照株からのPEP005で処理した30日目のmDAニューロン。(c)同じ株からの未処理の細胞と比べたLC3I/II及びα-シヌクレインのバンド強度の定量化。(d)EOSPD及び対照mDAニューロンにおけるPEP005処理のタイムコース。(e)EOSPD及び対照のmDAニューロンにおけるα-シヌクレイン、p-PKCα、及びCC3のバンド強度の定量化。(f)SNCA及び(g)THの発現を示す、PEP005のタイムコースにわたる対になった試料のqPCR。(h)d30 mDAニューロン培養物中の総PKCαのウエスタンブロット及び定量化。ウェルチの修正を用いたt検定により、有意ではない(p>0.05)。(i)p-PKCαを示す未分化iPSCのウエスタンブロット。エラーバーは標準偏差(SD)を表す。
図36】PEP005及び関連分子の用量応答及びインシリコ分析。(a)mDA培養物中で試験したPEP005に類似したホルボールエステルの構造。(b)様々なPEP005用量に応答したα-シヌクレイン及びp-PKCαのウエスタンブロット。(c)EOSPD及び対照両方のmDA培養物における様々なプロストラチン(PRO)用量に応答したα-シヌクレイン及びp-PKCαのウエスタンブロット。(d)PKCα上のPEP005結合部位及び追加のタンパク質上の類似の親和性部位の予測モデリング。(e)類似性を示すために重ね合わせた、PKCα、PKCδ、及びRas上のPEP005結合部位の3Dモデル。
図37】ブリオスタチン1はPKCアゴニスト(PEP005と同じクラスの薬物)であるが、化学構造が明確に異なる。ブリオストラチンによるD30 mDAニューロンの処理により、PEPとしてのリン酸化PKCaの減少が生じるが、シヌクレインへの影響は不明瞭である。Go6976はPKCアゴニストであり、PEPとは逆の影響があるはずである。ブリオストラチンでのD30 mDAニューロンの処理により、pPKCaまたはシヌクレインレベルが影響を受けるようには見えなかった。
図38】インビトロでのPEP005の影響の持続時間。
【発明の概要】
【0007】
治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより対象を治療することを含む、治療方法が、本明細書に記載されている。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は小分子を含む。他の実施形態では、小分子は、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む。他の実施形態では、PKC活性化因子は、DAG、DAGラクトン、ホルボール、インゲノール、インドラクタム、ベンゾラクタム、ブリオスタチン、及びカルホスチンを含む。他の実施形態では、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体は、インゲノール誘導体を含む。他の実施形態では、インゲノール誘導体は、インゲノール-3-アンゲレートを含む。他の実施形態では、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体は、PKCアゴニストを含む。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の活性を調節することができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の発現を調節することができる。他の実施形態では、発現の調節は、転写産物発現レベルを含む。他の実施形態では、発現の調節は、タンパク質発現レベルを含む。他の実施形態では、タンパク質発現レベルは、α-シヌクレインタンパク質の減少を含む。他の実施形態では、タンパク質発現レベルは、THタンパク質の増加を含む。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、リソソームタンパク質分解を促進することができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、電気的活動の同期バーストを改善することができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、ステッピング(stepping)、回転非対称性(rotational asymmetry)、及びキネジア(kinesia)のうちの1つ以上を改善することができる。
【0008】
治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより対象におけるパーキンソン病の進行を逆転または遅延させることを含む、パーキンソン病の進行を逆転または遅延させる方法が、本明細書に記載されている。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む。他の実施形態では、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体は、インゲノール-3-アンゲレートを含む。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、α-シヌクレインタンパク質レベルを低下させることができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、リソソームタンパク質分解の促進を減少させることができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、黒質の変性を逆転または遅延させることができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、ドーパミンレベルを維持または促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
本明細書で引用されるすべての参考文献は、完全に記載されているのと同じように、全体が参照により組み込まれる。別途定義されない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3rd ed.,Revised,J.Wiley & Sons(New York,NY 2006)、及びSambrook and Russel,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 4th ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor,NY 2012)は、本出願で使用されている用語の多くに対する一般的なガイドを当業者に提供する。
【0010】
当業者であれば、本発明の実施に使用することができる、本明細書に記載されているものと同様または同等である多くの方法及び材料を認識するであろう。実際に、本発明は、記載されている方法及び材料に決して限定されるものではない。
【0011】
パーキンソン病(PD)は、振戦及び運動を開始できないことを特徴とする最も一般的な神経変性疾患の1つである。核となる病理には、黒質ドーパミンニューロンの進行性の消失、ならびにレビー小体及びレビー神経突起として知られる細胞質封入体の存在が伴う。これらの封入体は、大部分が、異常に凝集したα-シヌクレインタンパク質から構成される。本来の状態のα-シヌクレインは、脳全体のニューロンのシナプス前終末に局在し、小胞輸送、ならびに神経伝達物質の放出及び再取り込みにおいて機能を果たす。α-シヌクレイン遺伝子(SNCA)の変異または三重化は、PDを引き起こすことが知られており、このタンパク質が疾患の開始及び進行に重要であることを示唆している。
【0012】
患者からの生きたドーパミンニューロンの利用不能性及び動物モデルの制限により、疾患の研究及び効果的な創薬が阻まれる。患者由来の細胞を人工多能性幹細胞(iPSC)に再プログラミングし、その後ドーパミンニューロンに分化させることで、PDのヒト組織特異的モデルがもたらされる。再プログラミングプロセス中に、細胞へのエピジェネティックな変化の大部分が完全に消去される。iPSCから生成された新しいニューロンは未熟であるが、それでも患者の遺伝的性質を反映する。この未熟性は、成人発症疾患をモデル化するためには弱点となる可能性があるものの、細胞に存在するあらゆる疾患特異的表現型が、必ず患者の遺伝的組成から生じるものであり、疾患過程の非常に初期の段階を表すという点で、強みでもある。
【0013】
iPSCベースのモデリングを使用して、PDの発端及び進行におけるα-シヌクレインの役割を解明するための大々的な努力がなされてきた。いくつかの研究では、SNCAの三重化ならびにLRRK2及びGBA1遺伝子の変異を含む単一遺伝子変異を有するPD患者に由来するiPSCが用いられている。このような単一遺伝子変異を有するiPSC由来のドーパミン作動性ニューロン培養物は、表現型の異常を示し、α-シヌクレインの蓄積を実証するが、これらの遺伝性症例は全PD患者の10%未満である。しかしながら、より高頻度に見られる孤発性PD集団を使用するiPSCモデルは、対照細胞と比較した場合、α-シヌクレインの蓄積を示さない。
【0014】
PD患者の10パーセントは、50歳より前に症状が発症する早期発症型とされる26。これらの早期発症患者のうちの80%超は孤発性と呼ばれ、家族歴または既知のPD変異を伴わない。本発明者らは、脊髄性筋萎縮症などの早期発症疾患でこれまでに見られているように、疾患症状の早期発症がiPSCモデルにおいてより深刻な表現型をもたらし得ると推論した。
【0015】
説明したように、患者由来の細胞をiPSCに再プログラミングすると、疾患の進行及び病理学的表現型を分子レベルで観察することができる。ドナーと遺伝的に同一であるiPSCは、インビボで臨床像に関係することが分かっている遺伝的背景を保有する、インビトロでのパーキンソン病の組織特異的モデルを提供するDaNに分化させることができる。近年、同様のiPSCモデリング技法を使用してPDの始まり及び進行におけるα-シヌクレインの役割を解明するために、多大な努力が払われている。いくつかの研究では、SNCAの三重化ならびにLRRK2及びGBA1遺伝子の変異を含む単一遺伝子変異を有するPD患者に由来するiPSCが用いられている。これらのiPSC株に由来するDAニューロンは、いくらかの表現型異常を示し、α-シヌクレインの蓄積を実証するが、家族性単一遺伝子変異はPD患者のごく少数にしか存在せず、これらの症例の病態生理は容易にはPD集団全体と関連しない。興味深いことに、より大きな非家族性(孤発性)集団に関する以前のiPSC研究において、対照個体に由来するものと比較した場合、明白な違いが示されていない。
【0016】
本明細書では、本発明者らは、早期発症型孤発性PD(EOSPD)患者のコホートからのiPSC株を生成する。本発明者らは、早期発症型孤発性の患者が、より侵攻性の疾患形態に影響し得る未知の遺伝的危険因子を有し得るため、これらの株が孤発性PDをよりよく理解するための有望な機会を示すと仮定した。本発明者らは、EOSPD患者株及び非罹患対照株のいずれかからの分化DaNを比較することにより、α-シヌクレインタンパク質の異常な蓄積が実際にPD患者コホートにおいて特異的に再現されることを示す。プロテオミクスアッセイ、全トランスクリプトームアッセイ、及び酵素活性アッセイを含むこれらの組織の分子的及び生理学的プロファイリングにより、分解経路の調節不全が見出され、EOSPD培養物における以前に報告されていないリン酸化PKC-αの上方調節が示唆される。最後に、この経路を標的とすることにより、本発明者らは、インビトロ及びインビボの両方での小分子PEP005による処理後のα-シヌクレイン蓄積の逆転を観察する。本明細書に記載のiPSCベースのモデルにより、PDに寄与する孤発性PDの遺伝的起源の証拠が得られ、可能性のある臨床診断及びEOSPD患者のための新しい治療標的の開発用のプラットフォームが得られる。
【0017】
ある量の血球を、再プログラミング因子をコードする1つ以上のベクターと接触させること;ある量の再プログラミング因子を血球内に送達すること;及び血球を再プログラミング培地で培養することを含む方法が本明細書に記載され、当該量の血球は、神経変性疾患に罹患しているヒト対象から得られ、さらに、再プログラミング因子の送達及び再プログラミング培地中での培養によって血球由来の人工多能性幹細胞(iPSC)が生成される。他の実施形態では、神経変性疾患はパーキンソン病(PD)である。他の実施形態では、神経変性疾患は早期発症型PDである。他の実施形態では、神経変性疾患は家族性PDである。他の実施形態では、iPSCは、さらに、星状細胞、ミクログリア、及び血管細胞のうちの1つ以上と流体連通して培養される。他の実施形態では、1つ以上のベクターはoriP/EBNA1ベクターである。他の実施形態では、本方法は、iPSCをニューロンに分化させることを含む。他の実施形態では、本方法は、iPSCを血管細胞に分化させることを含む。様々な実施形態において、血管細胞は脳微小血管内皮細胞(BMEC)である。他の実施形態では、本方法は、iPSCを星状細胞に分化させることを含む。他の実施形態では、本方法は、iPSCをミクログリアに分化させることを含む。他の実施形態では、本方法は、iPSCを、前脳、中脳、及び/または後脳のニューロンを含むニューロンに分化させることを含む。様々な実施形態では、ニューロンは、脊髄運動ニューロン、ドーパミン作動性ニューロン、またはコリン作動性ニューロンである。iPSC再プログラミングの詳細は、Barrett,R.et al.Reliable Generation of Induced Pluripotent Stem Cells from Human Lymphoblastoid Cell Lines.Stem Cells Transl Med.2014 Dec;3(12):1429-34、及び米国仮出願第62/653,697号、米国仮出願第62/755,282号、米国仮出願第62/816,785号、米国仮出願第62/664,888号、米国仮出願第62/664,827号、米国仮出願第62/816,795号、米国仮出願第62/664,942号、米国仮出願第62/755,365号に見出され、これらは参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0018】
治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより対象を治療することを含む、治療方法が、本明細書に記載されている。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は小分子を含む。他の実施形態では、小分子は、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む。他の実施形態では、PKC活性化因子は、DAG、DAGラクトン、ホルボール、インゲノール、インドラクタム、ベンゾラクタム、ブリオスタチン、及びカルホスチンを含む。他の実施形態では、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体は、インゲノール誘導体を含む。他の実施形態では、インゲノール誘導体は、インゲノール-3-アンゲレートを含む。他の実施形態では、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体は、PKCアゴニストを含む。他の実施形態では、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む小分子は、DAGシグナル伝達を調節することができる。他の実施形態では、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体は、例えば、当業者に知られている数あるアイソフォームの中でも、従来の、新規の、非定型のPKCアイソフォーム、例えば、PKC-アルファ、PKC-ベータ1/ベータ2、PKC-ガンマを含むPKCアイソフォームに特異的である。様々な実施形態において、治療上有効な薬剤は、0.1~1、1~5、5~10、10~25、25~50、または50ug/kg以上の用量で静脈内投与される。様々な実施形態において、治療上有効な薬剤は、5ug/kgの用量で静脈内投与される。様々な実施形態では、治療上有効な薬剤は、0.1~1、1~5、5~10、10~25、25~50、または50ug/kg以上の用量で直接脳注入を介して投与される。
【0019】
他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の活性を調節することができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、α-シヌクレイン、TFEB、ZKSCAN3、LAMP、GCase、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、及びドーパミンのうちの1つ以上の発現を調節することができる。他の実施形態では、発現の調節は、転写産物発現レベルを含む。他の実施形態では、発現の調節は、タンパク質発現レベルを含む。他の実施形態では、タンパク質発現レベルは、α-シヌクレインタンパク質の減少を含む。他の実施形態では、タンパク質発現レベルは、THタンパク質の増加を含む。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、リソソームタンパク質分解を促進することができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、電気的活動の同期バーストを改善することができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、ステッピング、回転非対称性、及びキネジアのうちの1つ以上を改善することができる。様々な実施形態において、パーキンソン病は、家族性、孤発性であり、さらに早期発症型孤発性パーキンソン病を含む。
【0020】
パーキンソン病を発症する可能性が高いと予後診断された対象に予防薬及び薬学的に許容される担体を投与し、それによりパーキンソン病を予防することを含む、パーキンソン病を予防する方法が本明細書に記載されている。治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより対象におけるパーキンソン病の進行を逆転または遅延させることを含む、パーキンソン病の進行を逆転または遅延させる方法が、本明細書に記載されている。他の実施形態では、予防上または治療上有効な薬剤は、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体を含む。他の実施形態では、PKC活性化因子、その類似体及び誘導体は、インゲノール-3-アンゲレートを含む。他の実施形態では、予防上または治療上有効な薬剤は、α-シヌクレインタンパク質レベルを低下させることができる。他の実施形態では、予防上または治療上有効な薬剤は、リソソームタンパク質分解の促進を減少させることができる。他の実施形態では、予防上または治療上有効な薬剤は、黒質の変性を逆転または遅延させることができる。他の実施形態では、治療上有効な薬剤は、ドーパミンレベルを維持または促進することができる。様々な実施形態において、パーキンソン病を発症する可能性が高いと予後診断されたまたはパーキンソン病に罹患している対象は、EIFG1、PARK2、LRRK2、GBA、SNCA、PINK1、PARK7、VSP35、ATP13A2の1つ以上の突然変異、またはSNCA遺伝子座の増殖を保有するヒト対象を含む。様々な実施形態において、パーキンソン病を発症する可能性が高いと予後診断されたまたはパーキンソン病に罹患している対象は、線条体におけるDATシグネチャが減少したヒト対象が含まれる。様々な実施形態において、パーキンソン病は、家族性、孤発性であり、さらに早期発症型孤発性パーキンソン病を含む。
【実施例0021】
実施例1
早期発症型孤発性パーキンソン病患者(EO-sPD)からのiPSCの生成
PDの家族歴が報告されていない30~39歳の早期発症型孤発性パーキンソン病患者3人を、iPSC産生のために選択した(図1)。NeuroXプラットフォームによる分析に基づくと、患者株において、EIFG1、PARK2、LRRK2、GBA、SNCA、PINK1、PARK7、VSP35、ATP13A2の単一遺伝子変異、またはSNCA遺伝子座の増幅は検出されなかった。3人の患者全員が、PDの診断と一致して、線条体のDAT(フェニルトロパン)シグネチャの減少を示した(図1)。比較のために、収集時に神経疾患のない正常な個体から3つの対照株を生成した。
【0022】
末梢血単核細胞(PBMC)を収集し、続いて非組み込み型エピソーム技法を使用してiPSCに再プログラムした(図1)。すべてのiPSC株は、核型が正常であり、標準的な多能性マーカーを発現した。
【0023】
実施例2
EOSPD iPSCからDANへの効率的な分化
PDの決定的な特徴は黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの特定の消失であるため、この細胞系譜に沿ってiPSCを分化させることは関心を引くものである。PD患者と対照患者の両方からのiPSC株を、表1、図2A及び図6に記載のプロトコルを使用してドーパミン作動性ニューロンに分化させた。
【0024】
端的には、iPSC株を、改変した二重SMAD阻害ベースの底板誘導プロトコルに供した。LDN/SB、続いてSHH/パルモルファミン/FGF8及びCHIR99021に曝露させ、その後、SBの除去及びレチノイン酸の追加を含めると、中脳FP及びDAニューロンの産生が支援される(図1dを参照)。AA、BDNF、GDNF、TGFβ3、及びdbcAMPを補充したNeurobasal/B27培地中でさらなる成熟を行った。
【0025】
(表1)分化プロトコル:培地
【0026】
30日目に、分化した細胞は、TH、Nurr1、及びGRIK2を含むドーパミンニューロンのマーカーを発現し、細胞の約15%がTHを発現した(補足図2a)(図2b、c)。フローサイトメトリーを使用してTH発現細胞の数を計数することにより、全体的な分化効率を6つの株すべてで比較した(図2c)。PD株のうちの2つは、対照で見られるものと同様の数のDAニューロンを示した。しかしながら、190iPD株の分化ではTH陽性ニューロンの産生が少なく、これらの細胞では、底板前駆マーカーであるFOXA2及びLMX1Aの発現はより少なかったが、成熟神経マーカーであるGRIK2及びNEFHの発現はより多かった。
【0027】
発達中のニューロンにおけるドーパミンのレベルがTH酵素によって変わるかどうかを判定するために、30日齢のDANを溶解し、ドーパミン産生についてHPLCで分析した。総ドーパミンの違いは株ごとに存在し、またもや190iPD株においてドーパミンの生成が少なく、WP3i対照株ではより多く生成された。しかしながら、TH発現ニューロンの数で正規化すると、すべての株が同等のレベルでドーパミンを生成した(図2d、e)。発達中のニューロンの電気生理学的機能及び可能性のある疾患シグネチャを決定するために、多電極アレイの記録を培養中に経時的に行った。分化の20日目に自発的活動が観察され、30日目までにPD細胞と対照細胞の両方が活動の同期バーストを生じた。すべての株にわたって活動を定量化すると、疾患DaN培養物と対照DaN培養物との間で同様のレベルの自発的スパイクが観察された。まとめると、これらのデータは、EOSPD患者由来のiPSCが、罹患していない患者株と同様の神経活動を保有する機能的なドーパミン作動性ニューロンに効率的に分化したことを示す。
【0028】
実施例3
α-シヌクレインはEOSPD DANにおいて特異的に蓄積する
あらゆる形態のパーキンソン病においてα-シヌクレインタンパク質がレビー小体内に異常蓄積し、SNCA遺伝子の二重化または三重化を通した蓄積によってPDが生じることが知られている。しかしながら、孤発性PDにおけるその正確な役割は依然として不明であり、これまでの研究では、成人発症型孤発性PDにおける一貫した違いは示されていない。早期発症型孤発性PD起源の培養物においてα-シヌクレインタンパク質が蓄積するかどうかを判定するために、6つの株を30日間分化させて、ウエスタンブロットにより可溶性α-シヌクレインについて調査した。
【0029】
驚くべきことに、3つすべてのEOSPD DAN溶解物は、対照と比較した場合、α-シヌクレインタンパク質のレベルの増加を呈した(図2f、g)。α-シヌクレインの蓄積を検証するために、培地上清と細胞溶解物の両方についてELISAを行った。上清中のα-シヌクレイン濃度は検出限界を下回り、細胞溶解物は罹患株におけるα-シヌクレインタンパク質の有意な増加を裏付けた。iPSCステージにある株からのタンパク質溶解物は、α-シヌクレインの増加を呈さず、蓄積は分化した培養物に特異的であったことが示された。
【0030】
タンパク質の増加がSNCA遺伝子の転写の増加に起因し得るかどうかを判定するために、30日目のDAN培養物についてQPCRを行った(図2h)。これらのデータは、EOSPD株のうちの2つである190iPD及び200iPDは対照株と比較してSNCA発現の増加を呈するが、3つ目の194iPDは呈さないことを示しており、転写の増加だけがα-シヌクレイン蓄積の唯一の原因ではなかったことを示唆している。
【0031】
実施例4
EOSPD DANにおいてリソソームタンパク質が異常調節される
SNCA遺伝子の転写の増加はEOSPDに特異的なα-シヌクレインタンパク質の蓄積を完全には説明できないため、本発明者らは次に、同じ培養ウェルに由来する対になった試料セットのRNAシーケンシング及びプロテオミクスの両方を通して、この効果に寄与し得る他の要因を決定することを試みた。全トランスクリプトームRNAシーケンス(RNA-Seq)によって27384個のユニークな転写産物が検出され、一方でプロテオミクス分析では、再現性閾値を満たす2478個のタンパク質が得られた。ピアソン相関係数は、試料複製間で高い一貫性を示した。
【0032】
プロテオミクス及びRNA-Seqの両方のデータセットに共通するタンパク質及び転写産物の組み合わせ分析により、2つの分析モード間で2437個の一致した遺伝子が得られた(図3a)。一致した遺伝子セットの教師なし主成分分析(PCA)により、トランスクリプトームとプロテオミクスの両方のデータセットからのPC1に沿ったPD細胞と対照との間の明確な線引きが明らかになった(図3b)。RNA-Seqデータセット全体を分析すると、同様のPCAが得られた。この分離に寄与した重要な経路を決定するために、mRNAまたはプロテオミクスの両方のPCA分析からのPC1遺伝子重み付けによって、すべての一致した遺伝子をランク付けした。次に、ランク付けした各リストの個別のGSEA分析をマージして、PD細胞と対照細胞との間で有意に異常調節されている共通経路を明らかにした(図3c)。α-シヌクレイン、ならびにシナプシン(SYP)、シナプス小胞2A(SV2A)、及びSNAP25などのドーパミン放出に関連する他のシナプス小胞遺伝子が、そのターム、ならびにGO_EXOCYTIC_VESICLEなどの一般的なシナプス機構及び機能に関連するタームにおいて有意に濃縮された(図3c)。KEGG_OXIDATIVE_PHOSPHORYLATIONに含まれる代謝遺伝子も、ESOPD株において有意に上方調節されていた。加えて、PD、アルツハイマー病、及びハンチントン病などの神経変性疾患に関連するタームがPD DANにおいて有意に上方調節されており、神経変性の重要な側面が培養系で捕捉されたことが示唆された(図3c)。有意に下方調節されたタームであるGO_LYSOSOMAL_LUMEN及びGO_ENDOPLASMIC_RETICULUM_LUMENは、非罹患対照と比較したタンパク質形成及びリソソームタンパク質分解の欠陥を示した(図3f)。
【0033】
実施例5
α-シヌクレインの分解はPD DANにおいて損なわれる
EOSPD DANにおけるリソソームタンパク質の減少により、α-シヌクレインの蓄積が分解機能の低下の結果であったかどうかを判定するに至った。全体的な分解速度を試験するために、DANにおいてシクロヘキシミド処理を介して転写機能全体を48時間阻害し、α-シヌクレインタンパク質を経時的に定量化した(図4a、b)。対照株02i対照では、α-シヌクレインは48時間の処理の過程で分解され、約10時間の半減期が観察された(図4b)。しかしながら、最も重篤なEOSPD株(190iPD)では、α-シヌクレインはむしろこの処理の期間にわたって蓄積した。この著しい二分により、α-シヌクレインの特異的分解における根本的な欠陥が示唆された。これは、TH(図4a、c)またはシナプトフィジン(図4a、d)などの他のタンパク質の対照細胞とPD細胞との間の同様の分解プロファイルによって裏付けられる。
【0034】
タンパク質分解は、主にプロテアソーム分解経路とオートファジー/リソソーム分解経路とに分けられる。プロテアソーム分解がα-シヌクレインのタンパク質分解の原因であることを判定するために、DaN培養物をプロテアソーム阻害剤MG132で24時間処理したところ、プロテアソーム手段を介して典型的に分解されるタンパク質であるP53が蓄積したが、α-シヌクレインレベルには実質的な変化がなかった(図4e)。この結果は、プロテアソーム分解が、DAN培養物におけるα-シヌクレインの分解の重要な一因ではなかったことを示す。
【0035】
α-シヌクレイン分解におけるリソソームの関与を判定するために、本発明者らは、グルコセレブロシダーゼまたはGCaseの活性及び総LAMP1タンパク質について調査した。本発明者らは、プロテオミクス分析と一致して、3つのEOSPD株すべてでLAMP1の量の減少を観察した(図4f)。GCaseは、一部のPD患者の末梢血において活性の低下が報告されているリソソーム加水分解酵素のクラスである。EOSPD患者からの30日齢のDaNでは、対照と比較してGCase活性の有意な低下が観察された(図4f)。他の研究者らは、iPSC由来のDaNにおけるGCase活性の低下が、酸化ドーパミンの増加によって引き起こされることを見出した。しかしながら、酸化ドーパミンの同様の増加は、本発明者らの30日齢のPD DaNでは見られなかった(図4h)。リソソーム経路タンパク質の有意な下方調節を考慮すると、これらの結果により、EOSPD DANにおけるα-シヌクレイン蓄積の推定原因として、リソソーム分解の機能不全の証拠がもたらされた。
【0036】
実施例6
PKCシグナル伝達の調節によりEOSPD表現型が救済される
本発明者らは、リソソーム特異的経路の活性化を通して本発明者らのEOSPD DANのシヌクレインレベルを低下させ得るかどうかを試験するために、3つのリソソームアゴニストを選択した。本発明者らが選択した化合物は、PKCアゴニストであり、HEP14薬物の構造類似体であるPEP005、PC12細胞モデルでハンチントン及びα-シヌクレイン凝集体を減少させることが示されている小分子TFEBアゴニストであるSMER28、ならびにα-シヌクレインのクリアランスを促進することが示されている別の生体化合物であるトレハロースであった。27日目から、DaNを上記のリソソームアゴニストで3日間処理した。トレハロースではなく、PEP005での処理及びSMER28での処理の両方で、対照株からのDaNにおいてα-シヌクレインタンパク質の量が有意に減少した(図5a)。しかしながら、ESOPD DaNでは、PKCアゴニストPEP005のみが有意にシヌクレインレベルを低下させた。興味深いことに、対照及びPD両方のDaNにおいて、PEP005処理により、存在するTH酵素量の増加も生じた(図5a)。
【0037】
PEP005に応答して対照及びPD両方のDANでシヌクレインレベルを低下させながら同時にTH発現を増加させるという興味深い複合効果により、薬物の作用機序を調査するに至った。PEP005は、確立されたPKCδアゴニストであり、PKCリン酸化の短期バースト、それに続くより長期的なリン酸化されたPKCの強力な減少を生じさせる。この研究の終点で、本発明者らは、未処理の190iPD DaNにおける基礎レベルのPKCαリン酸化の増加を観察し(図5a)、PEP005処理は、このシグナルを対照及びPD両方のDaNにおいて完全に除去した(図5a、c)。
【0038】
190iPD株におけるベースラインのリン酸化PKCaの増加を観察した後、本発明者らは、この観察が複数の株にわたって実証されるかどうかを確かめるために、すべての追加のDANを確認した。本発明者らは、3つのEOSPD株すべてからの30日目のDANにおいてより高いレベルのp-PKCaを見出した(図5b)。本発明者らはまた、3つの追加の新たに誘導したEOSPD株(172iPD、183iPD、192iPD)、3つの追加の対照(0771i対照、1034i対照、1185i対照)、及び通常発症型PD株(78iPD、発症時67歳、PDの家族歴)を、α-シヌクレインの蓄積及びp-PKCaの増加の両方について確認した(図5g)。
【0039】
PKCaのリン酸化の上昇は未分化のiPSCには存在せず、分化したDaNへの特異性を示す個々の患者からの末梢血において明確なパターンはなかった。PKCaのリン酸化の上昇は、すべてのiPSC株からのDaNに1uMのPEP005を3日間添加することにより、明らかに除去される(図5c)。この除去は処理したすべての株におけるシヌクレインの減少と相関するが、LAMP1もLC3も、PD細胞におけるPEP処理に応答しないように見受けられ(図5c)、PD細胞における作用機序がリソソームタンパク質の典型的な上方調節とは異なり得ることが示されている。対照及びPDのDaNにおけるPEP処理のタイムコースは、p-PKCaとα-シヌクレインが両方とも約24時間以内に薬物処理に反応して分解されることを示す(図5d)。この同じタイムコースは、PD細胞に存在する切断されたカスパーゼ3(CC3)の著しい減少も示す。この同じタイムコースに沿った対になった試料からの遺伝子発現データは、SNCAがPEP処理の4時間後に下方調節され(図5e)、THが最初の曝露の約8時間後に上方調節されることを示す(図5f)。
【0040】
実施例7
WTマウスにおけるα-シヌクレインのインビボでの減少
インビボで、PEPはシヌクレインの分解を刺激する。0.3、3、及び30uMのPEPの投与量研究を、WTマウスの脳室に注入した。注射後1及び5日目のマウス線条体におけるシヌクレインの減少及びTHの増加。
【0041】
実施例8
考察
本発明者らは、早期発症型孤発性PD患者のiPSCから分化したドーパミン作動性ニューロンにおけるパーキンソニズムの兆候を探すためにこの研究を開始した。本発明者らは、無作為に選択された家族歴のない早期発症PD患者中3人の個体からのPBMCを再プログラムした。結果として得られたiPSC株は、遺伝的に正常であり、既知の単一遺伝子PD変異の多くを欠いていた。これを評価するために使用したゲノムチップアッセイは、神経変性疾患に関連する約260,000個の既知のSNPを網羅する。可能性は非常に低いとしても、PD iPSCを生成するために使用した3人の特発性個体が、NeuroXスクリーンで見逃された未だ知られていない単一遺伝子変異をすべて有することは可能である。いずれにせよ、これらのEOSPD iPSCの背景にある複雑な遺伝的性質により、わずか30日齢のDaNにおいてα-シヌクレインの蓄積が生じた。これは、孤発性パーキンソン病患者に由来するiPSCにおいて最初に特定された表現型である。
【0042】
次に、本発明者らは、トランスクリプトーム及びプロテオミクス両方の技法を使用するこれらの分化した細胞の詳細な分析の完了に移った。トランスクリプトーム分析により、PD細胞における多くのシナプス及びエキソサイトーシス転写産物の発現の増加が明らかになった。これらの転写産物の増加は、翻訳されて、PD DaNにおけるタンパク質レベルの上昇に直接的につながり、これはシナプス機構の過剰を示している。しかしながら、より多くのシナプス機構の存在にもかかわらず、MEA記録もライブカルシウムイメージングも、PD DaNと対照DaNとの間の活性の違いを示さなかった。逆に、プロテオミクスデータは、PD DaNにおけるリソソーム内腔タンパク質の量の減少を示す。この減少は、このシグナル伝達経路の断絶を示す同じ細胞のRNAには反映されなかった。タンパク質は少ないが、細胞はより多く作製するという応答はしない。このリソソームタンパク質の減少は、PD DaNにおけるGCase活性の減少、ウエスタンブロットによるLAMP1タンパク質の減少、及びシクロヘキシミドによる阻害下でのα-シヌクレインの蓄積によってさらに確認され、これらのすべてが、PD DaNにおけるタンパク質分解のなんらかの欠損を指摘する。また、プロテアソーム分解の阻害がα-シヌクレインレベルの変化をもたらさなかったので、この欠損はリソソーム分解経路に特異的であると思われる。
【0043】
本発明者らは次に、この観察された欠損を補正するように、一連のリソソームアゴニストを選択した。試験した3つのアゴニストのうち、PEP005小分子のみが、対照及びPD両方のDaNにおいてα-シヌクレインレベルを低下させた。興味深いことに、PEP処理により、対照及びPD両方のDaNの処理済み培養物に存在するTHの量の増加も生じた。ここで観察された細胞内α-シヌクレインレベルの低下及びTHの増加という二重の効果により、PEP005は、可能性のある治療薬として非常に魅力的な候補となる。
【0044】
PEP005(インゲノール-3-アンゲレート)は、抗白血病活性も有し、かつ潜伏HIVの再活性化に役割を果たし得る、光線性角化症の局所治療用のFDA承認薬である。これは、インゲノール-3-アンゲレート及びインゲノールメブテートとしても知られ、チャボタイゲキ(Euphorbia peplus)植物の樹液から最初に抽出された最も研究されているインゲノール誘導体である。この小分子はナノモル以下の親和性でPKC C1ドメインに結合し、インビトロで個々のPKCアイソフォームに対する選択性を示さないものの、PEP005によって誘導されるPKCアイソフォームの移行及び下方調節のパターンは、ときに細胞株依存的な様式で、異なり得る。本研究では、これを、MTOR経路とは無関係にTFEBアゴニストとして作用する、Li及び同僚によって特定されたHEP14(5β-O-アンゲレート-20-デオキシインゲノール)化合物と同じチャボタイゲキ植物に由来する構造類似体として選択した。
【0045】
PEP005で処理した対照細胞において、本発明者らは、リソソームのマスター調節因子TFEBの活性化と一致するリソソームタンパク質LAMP1の増加を観察したが、この増加は、薬物で処理したPD DaNにおいて再現されるようには見えない。PEPは、アポトーシス促進性PKCδの活性化因子とPKCαの阻害因子の両方として説明される。PEP005は、様々ながん細胞株及び原発性急性骨髄性白血病(AML)細胞の増殖を阻害すると説明されている。白血病細胞株及び原発性AML細胞において、PEP005は、PKCδを活性化し、続いてERK1/2の持続的な活性化を誘導することによって、アポトーシスを誘導する。
【0046】
本発明者らのDaN培養物において、本発明者らは、強力なPKCδシグナルを観察せず、また本発明者らが細胞死を誘発していた場合に予想され得るような薬物治療におけるLDHの増加も見ることはなかった。実際、本発明者らは薬物治療における活性なカスパーゼ3の量の減少を観察したものの、この効果は、初めから切断されたカスパーゼ3のレベルが高いPD DaNにおいて最も容易に観察されたものであった。本発明者らの分化したニューロンは主に有糸分裂後のものであるのに対し、PEPの毒性は高度に増殖性の細胞により特異的である可能性が高い。
【0047】
本発明者らのDaNにおけるPEP005小分子の作用機序を調査すると、本発明者らは、PD DaNにおけるリン酸化PKCαのレベルの増加を観察した。シヌクレインは、TFEB活性化に関与する典型的な14-3-3タンパク質に結合してそれと相同性を共有するだけでなく、PKCαにも結合することが示唆されており、本発明者らの観察したシヌクレイン蓄積、リソソーム生合成、及びPKCアゴニストPEP005の間の関連性が示唆される。PKCは、TFEB転写因子の活性化とZKSCAN3転写抑制因子の不活性化とを、2つの並行したシグナル伝達カスケードを介して繋げる。活性化したPKCは、GSK3を不活性化させて、TFEBのリン酸化、核移行、及び活性化を減少させるが、PKCは、ZKSCAN3をリン酸化して、これを核外への移行により不活性化させる。したがって、PKCの活性化は、凝集タンパク質のクリアランスを含む多くの細胞外キューへのリソソーム適応を媒介し、それにより、本明細書で概説するパーキンソン病の機序などのリソソームネクサスによる疾患及び障害の実行可能な治療選択肢を提供する。
【0048】
α-シヌクレイン分解には議論の余地があるが、ニューロン細胞系における少なくとも単量体WTα-シヌクレインの分解の大部分は、シャペロン媒介オートファジー(CMA)及びマクロオートファジーのリソソーム経路を介して発生するように見える。これらの分解経路の機能異常はPD病因の要因となり得る。本明細書では、PKCのターゲティングは、内因性分解系による過剰なα-シヌクレインのクリアランスの亢進を促進するための戦略の実行可能性を実証し、α-シヌクレインがその機能に与える異常な影響も緩和できるという利点を有し得る。
【0049】
この研究は、早期発症患者からのiPSCにおける孤発性パーキンソン病の分子シグネチャを特定した最初のものである。本発明者らは、これらの細胞がα-シヌクレインを蓄積し、リソソームの生合成及び機能の調節異常を有しており、またより重度にリン酸化されたPKCαを示すことを見出した。これらの3つのバイオマーカーを総合すると、PDの根本的な機序に影響を与え得る新しい治療薬をスクリーニングするためのプラットフォームが得られる。本発明者らは、このシグネチャを排除し、対照及びPD両方の細胞において細胞内α-シヌクレインを減少させる、PDにおける新規薬物の特定に乗り出した。これらの発見は、PDの根本的な機序のうちのいくつかを最終的に治療する機会を提示する特異的かつ新規な創薬可能な経路を示唆する。
【0050】
実施例9
さらなる研究
本発明者らは、PD変異が検出されなかった早期発症型孤発性PD(EOSPD)患者のコホートからの最初のiPSC株を生成した。本発明者らは、驚くべきことに、EOSPD患者のiPSCに由来するドーパミンニューロン培養物の大部分が、α-シヌクレイン及びリン酸化タンパク質キナーゼC-α(p-PKCα)の堅牢な増加、ならびに重要なリソソームタンパク質の減少を示したことを見出した。小分子でこれらの経路をターゲティングすることで、ホルボールエステルがこれらの疾患関連の表現型の多くを逆転させ得ることが明らかになった。本発明者らの発見により、EOSPDには、後にα-シヌクレインのリソソーム分解を損なう、未だ決定されていない遺伝的根拠があることが実証される。特定のホルボールエステルがこの損失を逆転させ得るという事実は、EOSPDの新しい治療法としてのこれらの薬物の可能性を浮き彫りにする。
【0051】
さらなる研究を以下のように企画した。
【0052】
iPSC株生成:iPSC株を、親細胞を非組み込み型oriP/EBNA1プラスミドでヌクレオフェクトすることによって生成し、これに、Cedars-Sinai iPSC Coreとの共同研究で以前に説明されているように、再プログラミング因子をエピソーム発現させた。
【0053】
iPSC維持、mDAニューロン分化、及び薬物処理:iPSCをマトリゲル上のE8培地で維持し、必要に応じてVerseneを使用して、1:6から1:12の分割比で5日ごとに継代した。この研究では、17代から35代までのiPSCのみを使用した。分化のために、iPSCを約80%のコンフルエンスに成長させた。細胞をAccutase(Millipore/Sigma#SCR005)で単一化し(37℃で5分)、5μMのY27632(StemGent)を含むE8培地中で、1cmあたり200,000個の細胞で(完全にコンフルエントな単層の場合)、マトリゲルをコーティングした6ウェルプレート(BD Biosciences)にプレーティングした。プレーティングの24時間後に、培地をステージ1(50%のDMEM/F12、50%のNeurobasal、N2、B27-ビタミンA、LDN-193189(LDN)、SB431542(SB))に交換した。ステージ1の培地を3日間毎日(ウェルあたり3mL)交換した。次に培地をステージ2(50%のDMEM/F12、50%のNeurobasal、N2、B27-ビタミンA、LDN、SB、パルモルファミン(PMN)、CHIR99021(CHIR)、ソニックヘッジホッグ(SHH)、線維芽細胞成長因子8(FGF8))に切り替えた。ステージ2の培地を4日間毎日(ウェルあたり3mL)交換した。その後、培地をステージ3(50%のDMEM/F12、50%のNeurobasal、N2、B27-ビタミンA、LDN、CHIR、オールトランス型レチノイン酸(ATRA))に切り替えた。ステージ3の培地を4日間毎日(ウェルあたり3mL)交換した。最後に、培地をステージ4(50%のDMEM/F12、50%のNeurobasal、N2、B27+ビタミンA、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、ジブチリル環状AMPナトリウム塩(dbCAMP)、L-アスコルビン酸(AA)、γ-セクレターゼ阻害剤(DAPT)、CHIR、形質転換成長因子ベータ-3(TGF β3))に切り替えた。ステージ4の培地を3日間毎日(ウェルあたり3mL)交換した。15日目に、Accutaseを使用して(37℃で20分)細胞を単一細胞に分離し、穏やかに浮遊させた。解離させた細胞を成熟培地(50%のDMEM/F12、50%のNeurobasal、N2、B27+ビタミンA、BDNF、GDNF、dbCAMP、AA、DAPT、TGF3)及び5μMのY27632に再懸濁させ、1mLの全量で200,000/cmで、マトリゲルをコーティングした6ウェルプレートに、または200,000/50μLの液滴で24ウェルプレート中のマトリゲルをコーティングしたLガラスカバースリップに再播種した。細胞を37℃で45分間付着させた後、成熟培地を加えて、6ウェルプレートの場合はウェルあたり3mL、カバーガラス付きの24ウェルプレートの場合はウェルあたり1.5mLの最終量にした。完全培地交換を播種から48時間後に行い、培地を30日目まで3日ごとに交換した。薬物処理のため、示す薬物を含む成熟培地を27日目の細胞に与え、細胞を30日目に分析した。薬物は、PEP005(1μM、Tocris、#4054)、SMER-28(5μM、Tocris、#4297)、トレハロース(25M、Sigma-Aldrich、#T0167)、PMA(10μM、Tocris、#1201)、及びプロストラチン(PRO)(5μM、Tocris、#5739)であった。
【0054】
表1.培地の配合
【0055】
表2.培地の配合
【0056】
分析フローサイトメトリー:6ウェルプレートの30日目の培養物をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1回洗浄し、その後、1mLのAccutaseを各ウェルに加え、37℃で25分間、または細胞が完全に浮遊するまで、インキュベートした。細胞を追加の2mLの成熟培地で洗浄し、大きな塊が見えなくなるまで穏やかに粉砕し、その時点で遠心分離(1500RPMで3分間)により細胞をペレット化した。細胞をPBS中4%のパラホルムアルデヒド(PFA)中に穏やかに再懸濁させ、室温で10~15分間固定させた。固定した単一細胞を、1%のTrition X-100(Sigma-Aldrich)を使用して透過処理し、TH(1:500、Immunostar、22941)、α-シヌクレイン(1:1000、Abcam、ab138501)、及びMAP2ab(1:1000、Sigma-Aldrich、M1406)、または同じ希釈のアイソタイプ対照(Cell Signaling IgG Isotype Controlウサギ#3900S及びマウス#5415S)に対する一次抗体を使用して染色した。二次抗体(Alexa Fluor 488ならびに594ロバ抗マウス及びロバ抗ウサギ、Invitrogen)は1:500で使用した。染色した試料を、BD FACSDivaソフトウェアを使用してLSR Fortessaサイトメーターで定量化した。
【0057】
ドーパミン検出:mDAニューロンの培養物をLガラスカバーガラスにプレーティングし、上記のように成長させた。総ドーパミンについて、培養物を人工脳脊髄液(aCSF)で洗浄し、すぐに200μLの0.2M過塩素酸/0.1mMのEDTAに溶解させた。溶解物をLN2中で瞬間凍結させた。30日目に放出されたドーパミンを検出するために、培地を吸引し、細胞をaCSFで2回洗浄した。洗浄後、200μLのaCSFを各カバースリップの上に慎重にプレーティングし、37℃で15分間インキュベートして、収集した。次に、200μLの高KaCSFを各カバースリップの上に加え、15分間インキュベートし、収集した。収集直後、20μLの10倍の安定化緩衝液(2M過塩素酸/1mMのEDTA)を各試料に加えた。安定化させた試料をLN2中で瞬間凍結させ、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析まで-80℃で保管した。分離は、2.1×100mmの3μm逆相Hypersil ODSカラムで行い、75mMの酢酸ナトリウム、0.75mMのドデカンスルホン酸ナトリウム、2.5%のアセトニトリル、12.5%のメタノール、及び10uMのEDTA(pH=5.5)からなる移動相を0.2ml/分の速度でポンプ注入した。ドーパミンの電気化学的検出を、Ag/AgCl参照電極に対して、0.29Vの電位で保持したガラス状炭素電極で行い、10ulの注入について0.1nMの検出限界を得た。既知の標準濃度のドーパミンに対して試料を三連で分析した。
【0058】
免疫細胞化学及びイメージング:mDAニューロンの培養物をLガラスカバースリップにプレーティングし、上記のように成長させた。30日目のニューロンを、10~15分間室温で4%のPFAに固定した。固定したカバーガラスをPBS中で洗浄し、PBS中1%のTriton X-100中、室温で10分間透過処理した後、以下の抗体により、4℃で一晩、一次抗体溶液(5%の正常ロバ血清、0.125%のTriton-X、PBS)中で染色した:TH(1:5000、Immunostar、#22941)及びα-シヌクレイン(1:500、Abcam、#ab138501)。試料をPBS中で3回洗浄し、室温で2時間、種特異的なAlexa Fluor 488または594共役二次抗体(1:500、Invitrogen)で染色した後、DAPI対比染色を行った。40倍及び20倍の対物レンズを備えたA1顕微鏡(Nikon)を使用して共焦点Zスタック画像を取得し、IMARISソフトウェア(Bitplane)により最大強度投影を使用してレンダリングした。
【0059】
ウエスタンブロット:細胞をプレートからそっと掻き取り、PBSで洗浄し、15000RPMで1分間遠心分離し、乾燥ペレットを-80℃で凍結させた。次に、試料を、ホスファターゼ/プロテアーゼ阻害剤カクテル(MS-SAFE、Sigma-Aldrich)を補充した1倍NETN緩衝液(20mMのTris-HCl(pH 8.0)、100mMのNaCl、0.5mMのEDTA、及び0.5%のNP-40)を使用して解凍し、溶解させた。溶解物を、自動冷浴超音波洗浄器で、20分間、10秒間のパルスと10秒間の休止とを交互に使用して超音波処理した。試料を、15000RPM、4℃で、20分間遠心分離した。総可溶性タンパク質濃度を、Bradfordアッセイ(BIO-RAD)を使用して測定した。4倍Laemmli試料緩衝液(BIO-RAD、161-0774)を、100μgまたは50μgいずれかの総タンパク質抽出物に加え、試料を5分間煮沸した。試料を、4~20%のMini-PROTEAN TGX Precastゲル(BIO-RAD、456-1094)中に泳動させ、Trans-Blot Turbo Transfer System(BIO-RAD)を使用してPVDF膜に転写した。膜をOdyssey遮断緩衝液(LI-COR)で遮断した後、一次抗体と4℃で一晩または室温で3時間インキュベートした。色素標識した二次抗体と室温で2時間インキュベートした後、Odyssey Fcイメージングシステム(LI-COR)を使用してシグナルを可視化した。使用した一次抗体は、ヒトα-シヌクレイン(1:1000、Abcam、#ab138501)、マウスα-シヌクレイン(1:1000、Abcam、#ab212184)、TH(1:2000、ImmunoStar、#22941)、総PKCα(1:1000、Cell Signaling、#2056S)、p-PKCα 1:1000、Cell Signaling、#9375s)、LAMP1(1:1000、Cell Signaling、#9091S)、LCI/II(1:1000、Cell Signaling、#12741S)、切断型カスパーゼ3-CC3(1:1000、Cell Signaling、#9661S)、シナプトフィジン(1:1000、Abcam、ab32127)、P53(1:2000、Santa Cruz、#sc-126)、GAPDH(1:5000、Sigma-Aldrich、G8795)、及びβ-アクチン(1:5000、Sigma-Aldrich、#A5441)であった。二次抗体は、1:5,000希釈でのIRDye 680 RDヤギ抗マウス及びIRDye 800CWヤギ抗ウサギ(それぞれLI-COR 926-68070及び926-32211)であった。α-シヌクレインとp-PKCαとの組み合わせた発現プロットを、最初にバンドをβ-アクチンで正規化し、次に各ブロットに存在する02i対照シグナルで正規化することで計算した。次に、すべての値を、各株の少なくとも3つの独立した分化にわたって比較した。RパッケージROCRを使用してROCプロット及び曲線下面積を決定して、予測確率の割合を決定した。
【0060】
qPCR:全細胞RNAを、TRIzol試薬、続いてDNase処理を施したQiagen RNeasy Miniキットを使用して単離した。PCR用のcDNA合成のためのQuantitate Reverse Transcription Kit(Qiagen)を使用したcDNA合成に、全RNA(1μg)を使用した。リアルタイムPCRは、SYBR Green Supermix(BIO-RAD)を使用して行った。それぞれの遺伝子の発現レベルを、対応するGAPDH値で正規化し、対照試料の値に対する変化の倍率として示した(ΔΔCt法)。
【0061】
酸化ドーパミンのNIRF検出:アッセイを記載のとおりに行った。端的には、ニューロンを冷PBS中でスクラップし、1分間15000RPMで遠心分離した。細胞ペレットを凍結してから解凍し、ホスファターゼ/プロテアーゼ阻害剤カクテルを含む1倍NETN溶解緩衝液で均質化した。溶解物を超音波洗浄器中で10分間超音波処理し、15分間15000RPMで回転させた。上清を除去し、不溶性ペレットを18MΩの脱イオン水に再懸濁させた。全タンパク質をブラッドフォードアッセイを使用して測定し、100μgのタンパク質を20□Lで採取し、Biodyne Nylon Transfer Membrane(Pall、#Pall-60209)に落とした。700チャネルのOdyssey赤外線イメージングシステム(LI-COR)を使用して、膜をスキャンした。Odyssey赤外線イメージングソフトウェア、バージョン3.1を使用して、統合されたスポット強度を取得することにより、試料を定量化した。
【0062】
GCase活性:アッセイを記載のとおりに行った。端的には、試料を上記のように溶解させ、4℃で15分間、15000rpmで遠心分離した。50μgの全タンパク質を、全量200μlの1mMの4-メチルウンベリフェリルβ-グルコピラノシド(4-MU、Sigma-Aldrich、#M3633)を含む1%のウシ血清アルブミン(BSA)中の活性アッセイ緩衝液(0.25%(v/v)のTriton X-100、1mMのEDTA、クエン酸/リン酸緩衝液中、pH5.4)中でインキュベートした。37℃で40分のインキュベーション後、等量の1Mグリシン、pH12.5を加えることにより反応を停止させた。100μlの複製を白色の96ウェルプレート(Corning Assayプレート)にロードし、蛍光(励起=355nm、蛍光=460)を、Molecular Devices SpectraMax i3 Multi-Modeマイクロプレートリーダー及びSoftMax Proソフトウェアにおいて決定した。
【0063】
トランスクリプトミクス:各株の3つのウェルを上記のとおりに分化させ、mRNAシーケンシングまたはプロテオミクス分析のいずれかのために細胞ペレットに分割した。以前に説明されている方法を使用して、mRNAを単離した。端的には、ライブラリーの構築は、Illumina TruSeq Stranded mRNAライブラリー調製キット(Illumina)を使用して、ライブラリーの構築を行った。端的には、全RNA試料を、Qubit蛍光光度計(ThermoFisher)を使用して濃度について、2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を使用して品質について評価した。試料あたり最大1μgの全RNAをポリ-A mRNAの選択に使用した。cDNAを、逆転写酵素(Invitrogen)及びランダムプライマーを使用して、濃縮及び断片化されたRNAから合成した。cDNAをさらに二本鎖DNA(dsDNA)に変換し、結果として得られたdsDNAをライブラリー調製用のPCRで濃縮した。PCRで増幅したライブラリーを、Agencourt AMPure XPビーズ(Beckman Coulter)を使用して精製した。増幅したライブラリーの濃度をQubit蛍光光度計で測定し、ライブラリーのアリコートをBioanalyzerで解像した。試料ライブラリーを多重化し、75bpのシングルエンドシーケンスを使用してNextSeq 500プラットフォーム(Illumina)でシーケンスした。平均して、各試料から約2,000万のリードが生成された。
【0064】
ヒトGENCODEバージョン23(またはMouse GENCODE M8)注釈に基づく全タンパク質コード化及び長い非コード化RNA遺伝子を含む、http://www.gencodegenes.orgからダウンロードしたカスタムヒトGRCh38(またはマウスCRCm38)トランスクリプトーム参照を使用し、STAR(バージョン2.5.0)62/RSEM(バージョン1.2.25)63をデフォルトのパラメータで使用して、RNA-Seqから得た生のリードをトランスクリプトームに整列させた。すべての試料における各遺伝子の発現数(TPM:100万あたりの転写産物)を、シーケンス深度で正規化した。検出された転写産物を決定するために、少なくとも9個の試料における0.1TPM超のフィルターをユニークな転写産物の検出のための閾値として使用した(Cluster 3.0)。PCAを、Cluster 3.0ソフトウェアを使用して、対数変換したデータに対して実施した。この研究からのすべてのトランスクリプトームデータは、GEOリポジトリにおいてGSE120746のもと利用可能である。
【0065】
プロテオミクス:冷凍ペレットを、2%のSDS+10mMのTCEP(トリス2-カルボキシエチルホスフィン)緩衝液を使用して溶解させ、超音波処理した。ビシンコニン酸アッセイ(BCAアッセイ、Pierce、#23225)を使用して、タンパク質濃度を決定し、125μgのタンパク質を、FASP Protein Digestionキット(Expedeon)を使用して消化させた。3.125μgのトリプシン/lysCを使用して、1000rpmで振盪しながら、37℃で一晩、各試料を消化させた。試料を、Oasis MCX μelutionプレートを使用して脱塩し、300μlのメタノール/水酸化アンモニウムで溶出した。試料を、乾燥状態までSpeedVacで乾燥させ、Biognosys iRT溶液に再懸濁させた。試料/iRT溶液(4μg)を、マイクロフローモードで動作する6600 TripleTOF(Sciex)に接続したEksigent 415 LCにロードした。ペプチドを、3分間流速10μL/分でトラップカラム(ChromXP C18CL 10×0.3mm 5μm 120Å)に事前ロードし、温度30℃及び流速5μL/分の分析カラム(ChromXP C18CL 150×0.3mm 3μm 120Å)上で分離させた。DIA試料については、3~30%のAで38分間、30~40%のBで5分間、40~85%のBで2分間、85%で3分間のアイソクラティックホールド、及び3%のAで8分間の再平衡化で構成される線形A-Bグラジエントを使用して、ペプチドを分離させた。データを、MS1スキャン150ミリ秒及び100可変ウィンドウMS2スキャン25ミリ秒で、400~1250m/zを使用して取得した。ソースパラメータを次の値に設定した:ガス1=15、ガス2=20、カーテンガス=25、ソース温度=100、及び電圧=5500V。DDA試料を、3~35%のAで60分間、35~85%のBで2分間、その後3%のAで7分間の再平衡化を伴う85%で5分間のアイソクラティックホールドで構成される線形A-Bグラジエントを使用して泳動させた。DDA取得については、400~1250m/zの質量範囲で250ミリ秒の滞留時間を使用してMS1スキャンを取得し、1秒あたり100カウントの閾値に達する上位50個のイオンを断片化に選択した。転動衝突エネルギー(rolling collision energy)及び5の衝突エネルギー拡散(collision energy spread)を使用して、+2~+5の範囲のイオンについて、25ミリ秒の滞留時間で、動的取得オプションをオンにした高感度モードで、MS2スキャンを取得した。イオンは、15秒の期間で1回発生した後、断片化から除外した。以前に概説したとおり、DIAファイルをOpenSWATHを使用してDDAライブラリーと比較した。MS2正規化遷移レベルデータをMAP DIAソフトウェアに通して、正規化ペプチド及びタンパク質レベルのデータを得た。加えて、タンパク質の差異分析をMAP DIAによって行った。三連の中で変動が大きいあらゆるペプチドを取り除くために、CVフィルターを適用し、各技術的反復内でCVが20%を超えるペプチドを除外した。次に、ペプチドレベルのデータを合計して、タンパク質レベルのデータを得た。その後、このデータを、主成分分析、GSEA、及びSTRINGを含む、下流分析に使用した。質量分析プロテオミクスデータは、データセット識別子PXD011326で、PRIDEパートナーリポジトリを介してProteomeXchange Consortiumに寄託されている。
【0066】
GSEA及びSTRING分析:遺伝子セット濃縮分析(GSEA)を、以前に記載したとおりに実施した68。mRNA-Seq及びプロテオミクスデータの一致分析では、両方のデータセットで見つかった一致する遺伝子をGSEAで個別に分析した。各独立したPCA分析からの事前ランク付けされたPC1遺伝子の重み付けを、GSEAアルゴリズムを使用してGene Ontology(GO)及びKEGGデータベース上で実行した。RNA-Seq及びプロテオミクス分析から得られたランク付けされた経路リストを、Rソフトウェアを使用して一致させ、FDRによって計算した有意性によってランク付けした。MAP DIAからの所定の異なって発現されるタンパク質のリストをSTRINGタンパク質間相互作用オンラインツールとともに使用して、全ゲノムに対する高信頼度タンパク質間相互作用及び濃縮を得た。
【0067】
MEA記録:細胞を、分化15日目に48ウェル微小電極アレイ(MEA)プレート(Axion Biosystems)にプレーティングした。自発的活動を、Maestro MEAプラットフォーム(Axion Biosystems)で5分間毎日測定した。波形事象を、電極ノイズの標準偏差を6に設定した適応スパイク閾値クロッシングを使用して特定し、事象をOffline Sorter v.4(Plexon)を使用してさらにソートした。分析に含めるため、1分あたり最低5つのスパイクを使用した。
【0068】
パッチクランプ:全細胞パッチクランプを、Lガラスカバースリップ上にプレーティングした約30日目の培養物に行った。細胞を、室温のフェノールレッドを含まないbrain phys medium(STEMCELL Technologies、5790)中に置き、取得中最大2時間維持した。先端抵抗が4~5MΩのSutter Instruments P-1000を使用して、ガラス製ピペットを引いた。内部溶液(mM単位)は、112.5のK-グルコン酸塩、4のNaCl、17.5のKCl、0.5のCaCl2、1のMgCl2、5のATP、1のNaGTP、5のEGTA、10のHEPESで構成された。電圧及び電流クランプの記録を、Multiclamp 700B増幅器、Digidata 1300、及びPClamp 10取得ソフトウェア(Molecular Devices)を使用して実行した。アクセス抵抗が30MΩを超えるニューロン、または記録中に抵抗が4MΩを上回って変化したニューロンを除外した。0pAを記録する連続電圧を平均化することにより、電流クランプ中に静止膜電位(RMP)を測定した。電位依存性ナトリウム及びカリウム電流は、-70 mVの保持電圧から測定し、続いて100ミリ秒にわたって10mVの増分で-120mVから40mVに段階的に測定した。誘導された活動電位を電流クランプで測定し、ここで、セル全体で一定の-60mVベースライン電圧を維持するように保持電流を調整し、次いで10pAの増分ステップを500ミリ秒かけて適用した。
【0069】
PKC-PEP005タンパク質複合体のインシリコモデリング:PEP005のPKCへの推定結合を、ホモロジーモデリング、それに続いてドッキング研究を使用して決定した。端的には、12-アセチルホルボールと複合体形成したPKCのC1ドメインをテンプレートとして使用した(PDB:1PTR)69。PKC□のモデル構造を、Rosetta 70を使用したホモロジーモデリングによって開発した。次に、PKCの上位の3次元モデル(5つの予測構造のうち)を使用し、Glide 71を使用したPEP005の結合を評価した。PEP005の最適な結合配向を、Glide XPスコアに基づいて選択した。PEP005の他の推定タンパク質標的は、PKCのC1ドメインの3次元構造に基づいてDALI 72を使用して調査した。
【0070】
PEP005活性のインビボ評価:野生型C57BL/6マウス(Jackson labs)を使用し、すべての動物実験をCedars-Sinai Medical CenterでIACUC 6462に従って行った。PEP005を、0.9%の滅菌生理食塩水中で、10、1、または0.1mMに希釈した。ビヒクル(DMSO)を、0.9%の滅菌生理食塩水で10mMに希釈した。マウスの左線条体に、次の座標で2μlを単回注射した:前項から0.7mm AP及び2.5mm ML、ならびに硬膜から3.5mm DV。注射の3日後に動物を屠殺した。免疫組織化学(IHC)分析のため、マウスを4%のPFA/PBSで灌流し、全脳を摘出し、4℃で一晩、4%のPFA中で事後固定した。次に、脳をPBSですすぎ、30%のスクロース中4℃で保管した。ミクロトームを使用して脳を30μmで切片化し、浮遊部分として収集した。線条体切片を、PBSで5分間3回洗浄し、0.3%のH2O2で30分間クエンチした。切片を、PBS中0.005%のTritonX-100(PBS-T)で5分にわたって3回洗浄し、PBS-T中3%の正常ウマ血清(NHS)及び2%のBSAの溶液中、室温で1時間遮断した後、遮断溶液中のα-シヌクレイン抗体(1:300、Abcam、#ab212184)中、室温で一晩インキュベートした。スライドをPBS-Tで5分にわたって3回洗浄し、遮断溶液中でビオチン化抗ウサギIgG(Vector、BA-1000)とインキュベートした。次に、切片をPBS-Tで10分にわたって3回洗浄し、Avidin Biotin Complex(Vector、VECTASTAIN ABC Kits(HRP)、#AK5000)と45分間インキュベートし、DAB(3,3’-ジアミノベンジジン)(1:500、Vector SK4100)を使用してシグナルを可視化した。ウエスタンブロット分析のために、マウスをPBSで灌流し、左右の線条体を切除した。個々の線条体半球をすぐに均質化し、ホスファターゼ/プロテアーゼ阻害剤カクテルを補充した1倍NETN緩衝液に溶解させた。溶解物を、連続プローブ、続いて超音波洗浄により超音波処理し、15000RPMで20分間、4℃で遠心分離した。各溶解物からの全タンパク質(50μg)を、4~20%のMini-PROTEAN TGX Precastゲルに泳動させ、PVDF膜に転写した。マウス特異的α-シヌクレイン(Abcam、#ab212184)及びβ-アクチン抗体を使用した。タンパク質バンドをLI-CORソフトウェアにより定量化して、注入した側(L)の反対側(R)に対する相対的シヌクレインレベル(α-シヌクレイン/β-アクチン)を示した。
【0071】
実施例10
早期発症型孤発性パーキンソン病患者からのiPSCの生成
本発明者らは、最初に、既知のPDの家族歴のない3人のEOSPD患者(30~39歳)(190iPD、194iPD、200iPD)から末梢血単核細胞を収集した。これらの細胞を、確立された非組み込み型エピソーム技法を使用してiPSCに再プログラムした。iPSC株は多能性マーカーを発現し、核型的に正常であった。NeuroXプラットフォームを用いた分析では、確立されているPD遺伝子EIFG1、PARK2、LRRK2、GBA、SNCA、PINK1、PARK7、VSP35、ATP13A2の原因単一遺伝子変異、または患者株のSNCA遺伝子座の増殖は検出されなかった(データ割愛)。患者の病状には、振戦優位、無動硬直、または混合表現型が含まれ、すべてが、PD診断を確定する線条体DAT取り込みにおける対応する非対称性の欠損を伴う非対称性の発症を有した。また、収集時に神経疾患のない個体の血液または線維芽細胞から3つの対照iPSC株を生成した(02i対照、WP3i対照、00i対照)。
【0072】
実施例11
iPSCからmDA培養物への効率的な分化
EOSPD及び対照両方の患者からのiPSC株を、Kriks et al 31に基づく修正した30日間プロトコルを使用して、中脳ドーパミン作動性(mDA)ニューロン培養物に分化させた。30日目の分化した培養物は、成熟したニューロンマーカー(PAX6、NEFH)、ニューロンマーカー(TUB3及びMAP2)、ならびに重要なことに、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、Nurr1、DAT、及びGIRK231-33を含むドーパミン作動性ニューロンマーカーを発現した。免疫染色により、6株すべてでTH産生が確認された。フローサイトメトリーの定量化により、対照株とEOSPD株との間でTH発現細胞の数が類似していることが示されたが、個々の株を比較すると、EOSPD株の1つである190iPDが、02i対照株と比較して有意に少ないTH陽性ニューロンを生じたことが明らかになった。他の株間の違いは有意ではなかった。EOSPDがドーパミンの含有量及び/または放出を変化させたかどうかを判定するために、mDA培養物の抽出物及び流出物をHPLCにより分析した。TH発現ニューロンの数で正規化すると、すべての株が同様のレベルでドーパミンを産生及び放出した。EOSPD発達中のニューロンの電気生理学的機能を決定するために、パッチクランプ及び多電極アレイ(MEA)の記録を培養中に経時的に行った。MEA記録からの自発的活動が分化の21日目に観察され、30日までに、EOSPD細胞と対照細胞が両方とも活動の同期バーストを生じさせた。活動をすべての株にわたって定量化すると、疾患mDA培養物と対照mDA培養物との間で同様の数の自発的スパイクが観察された。30日目にパッチされたニューロンは、大きな電位依存性ナトリウム及びカリウム電流を伴う自発的活動を呈し、電流注入の際に一連の活動電位を引き出し、これにより成熟したニューロンが示された。まとめると、これらのデータは、EOSPD患者由来のiPSCが機能的なドーパミン作動性ニューロンに効率的に分化し、株を制御する同様のニューロンプロファイルを保有したことを実証し、これらの表現型測定が疾患特異的シグネチャを提供しなかったことが示唆された。
【0073】
実施例12
α-シヌクレインはEOSPD mDA培養物において特異的に蓄積する
α-シヌクレインがEOSPD由来のmDA培養物において異なって発現されたかどうかを判定するために、定量的PCRを行った。対照培養物に比べて、SNCA遺伝子発現はEOSPD mDA培養物では有意に増加しなかった。本発明者らはまた、α-シヌクレインタンパク質の蓄積が類似しているかどうかの確認も試みた。興味深いことに、ウエスタンブロット分析により、EOSPD mDA培養物が、対照と比較してα-シヌクレインタンパク質レベルを有意に増加させたことが示された。細胞溶解物に対するその後のELISAにより、対照と比較して、罹患株におけるα-シヌクレインタンパク質のレベルが有意に増加したことが確認された。iPSCステージにあるEOSPD株からのタンパク質溶解物は、α-シヌクレインの増加を呈さず、蓄積が分化した培養物に特異的であったことが示された。総合すると、これらのデータにより、EOSPD患者由来のmDA培養物におけるα-シヌクレインタンパク質の転写非依存性蓄積の表現型が示される。
【0074】
実施例13
リソソームタンパク質はEOSPD mDA培養物において異常調節される
次に、本発明者らは、同じ培養ウェルに由来する対になった試料セットに対するRNAシーケンスとプロテオミクスの両方を通して、このα-シヌクレインの増加にどのような因子が寄与している可能性があるかを決定しようと試みた。全トランスクリプトームRNAシーケンス(RNA-Seq)により、EOSPD培養物と対照mDA培養物との間に19004個のユニークなトランスクリプトが検出され、データ非依存型取得質量分析(SWATH)プロテオミクス分析では、2478個のユニークなタンパク質が特定された。トランスクリプトーム及びプロテオミクス両方のデータの独立した教師なし主成分分析(PCA)により、主成分1(PC1)に沿ったEOSPD細胞と対照との間の明確な線引きが明らかとなった。
【0075】
トランスクリプトームシグネチャとタンパク質シグネチャとの間の類似性を考慮して、本発明者らは、PC1に沿った2つのデータセットを比較して、EOSPD mDA培養物におけるα-シヌクレインの蓄積に寄与し得る一致及び不一致両方の細胞経路を特定した。経路の直接比較を可能にするために、2440個の遺伝子、及び両方のデータセットに存在する対応するタンパク質にPCAを繰り返した。この一致したリストからのPC1ランク付けされた遺伝子及びタンパク質を、個別の遺伝子セット濃縮分析(GSEA)において分析し、タームの有意性によって比較した。RNA-Seqデータセット全体に対してGSEAを実行すると、同様の有意なタームが得られた。α-シヌクレイン、ならびにシナプシン(SYP)、シナプス小胞2A(SV2A)、及びSNAP25などのドーパミン放出に関連する他のシナプス小胞遺伝子は、RNAとタンパク質の両方で有意に上方調節されたGo Presynapseタームに含まれた。KEGG酸化的リン酸化に含まれる代謝遺伝子も、mRNAとタンパク質の両方ともEOSPD株で有意に上方調節された。タンパク質データでは、パーキンソン病、アルツハイマー病、及びハンチントン病などの神経変性疾患に関連するタームがEOSPD株において有意に上方調節されており、神経変性の一般的な側面が捕捉されたことが示唆された。
【0076】
Go Endoplasmic Reticulum Lumenタームで見られた転写産物とタンパク質の両方とも有意に下方調節されており、タンパク質形成に関連する遺伝子の不足が示唆された。興味深いことに、Go Lysosomal Lumenタームで見られたリソソームタンパク質は、タンパク質では有意に下方調節されていたが、mRNAデータではそうではなかった。PC1で見られた異常調節された経路がEOSPD株に特異的であることを確認するために、対照株とEOSPD株との間の差次的発現の別個の分析を、プロテオミクスデータを用いて行い、STRING経路分析に入力した。ここでも、リソソームタンパク質はEOSPD株で有意に減少していることが分かった。これらのデータは、EOSPD mDA培養物には、リソソーム機序の正常な転写があったが、対照mDA培養物と比較して、存在する得られたタンパク質が少なかったことを示す。
【0077】
EOSPD mDA培養物におけるリソソームタンパク質の減少により、α-シヌクレインの蓄積が分解障害の結果であり得ることが示唆された。全体的な分解速度を試験するために、培養においてシクロヘキシミド処理を介して転写機能全体を48時間阻害し、タンパク質を経時的に評定及び定量化した。48時間の処理の過程で、02i対照対照株においてα-シヌクレインが分解され、観察された半減期は約10時間であり、以前にPC12細胞で報告された半減期よりもわずかに長かった。まったく対照的に、最も重篤なEOSPD株(190iPD)においては、シクロヘキシミド処理の過程でα-シヌクレインが蓄積した。しかしながら、TH及びシナプトフィジンなどのドーパミンニューロンに関連する他のタンパク質については、罹患株及び対照株が同様のタンパク質分解速度を示し、分解の欠損がα-シヌクレインに特異的であり、タンパク質分解はプロテアソーム分解経路とオートファジー/リソソーム分解経路とに主に分けられ得ることが示唆された。プロテアソーム分解がα-シヌクレインタンパク質分解の原因であるかどうかを判定するために、mDA培養物をプロテアソーム阻害剤MG132で24時間処理した。MG132処理により、プロテアソーム手段を介して正準に分解されたタンパク質であるP53の蓄積が生じた。しかしながら、対照培養物またはEOSPD培養物のいずれにおいてもα-シヌクレインの有意な増加はなく、この状況ではα-シヌクレインの分解がプロテアソームを通して媒介されなかったことが示された。α-シヌクレイン分解へのリソソームの関与の可能性を決定するために36,37、本発明者らは次に、リソソーム関連膜タンパク質1(LAMP1)について調査した。LAMP1の量の有意な減少が3つのEOSPD株すべてで検出され、これはプロテオミクス分析と一致した。GCaseは、一部のPD患者の末梢血で活性が低下していると報告されているリソソーム加水分解酵素である。1mMの4-メチルウンベリフェリルβ-グルコフィラノシドを使用して相対的GCase機能を定量化したところ、本発明者らは、対照と比較してEOSPD mDA培養物における活性の有意な低下を見出した。早期発症型ではない孤発性患者のiPSC株を使用した以前の研究では、分化したニューロン培養物におけるGCase活性の低下は、後の培養時点(60日超)での酸化ドーパミンの増加により生じた42。対照的に、培養30日で、本発明者らは、いずれの酸化ドーパミンの増加も観察しなかった。しかしながら、より長い期間(60日)成長させると、酸化ドーパミンがEOSPD培養物中で蓄積し始めた。これらの結果により、このモデルでは、α-シヌクレインの増加及びリソソーム欠損が酸化ドーパミンの蓄積に先行することが示唆される。これにより、EOSPD mDA培養物におけるα-シヌクレイン蓄積の推定原因としての機能異常のリソソーム分解のさらなる証拠がもたらされる。
【0078】
実施例14
PEP005はEOSPD表現型を調節する
本発明者らは次に、3つのリソソームアゴニストを使用して、リソソーム特異的経路の活性化を通してα-シヌクレインレベルが低下する可能性を試験した43。選択した化合物は、PKCアゴニストであり、HEP14薬物の構造類似体であるPEP005、PC12細胞モデルでハンチンチン及びα-シヌクレイン凝集体を減少させることが示されている小分子オートファジープロモーターであるSMER28、ならびにPC12細胞においてα-シヌクレインのクリアランスを促進することが示されている別の化合物であるトレハロースであった46。対照株02i対照及びEOSPD株190iPDからのmDA培養物を、分化の27日目に開始して3日間、各アゴニストで処理した。興味深いことに、トレハロースではなくPEP005及びSMER28で処理すると、対照培養物中のα-シヌクレインタンパク質の量が減少した。PD mDA培養物では、PEP005及びトレハロースはα-シヌクレインレベルを低下させたが、SMER28はさせなかった。しかしながら、PKCアゴニストPEP005のみが、PD及び対照両方のEOSPD mDA培養中でα-シヌクレインレベルを低下させた。驚くべきさらなる発見は、対照及びEOSPDのmDA培養物において、PEP005処理により、存在するTH酵素の量の増加が生じたことであった。免疫染色により、PEP005で処理した個々のmDA培養物がTHの増強及びα-シヌクレインの減少を示したことが確認された。高密度の免疫染色されたmDA培養物により定量化が妨げられたため、代わりにフローサイトメトリーを使用してTHを定量化した。PEP005で処理した培養物には、実際に、TH発現のレベルが有意に高いニューロンが含まれたが、PEP005では、THニューロンの数の増加は生じなかった。これらのデータにより、PEP005が、すでに酵素を産生しているニューロンのTH発現のレベルを高め、同時に異常に高いレベルのα-シヌクレインの発現を減少させたことが示される。
【0079】
PEP005は、PKCアルファ(PKCα)とデルタ(PKCδ)の両方に対して十分に確立された活性を有する。2つのアイソフォームは互いに拮抗するが、文献では、PEP005による処理は、PKCδリン酸化の短期バースト、それに続くより長期的なリン酸化PKCδの強力な減少を生じさせることが報告されている。本発明者らは、驚くべきことに、30日目に、リン酸化PKC-α(p-PKCα)の基礎レベルが対照と比較して190iPD mDA培養物中で高く、PEP005処理が対照及びEOSPD両方の培養物でこのシグナルを完全に除去できることを発見した。この研究で使用した他のすべての株を評価することで、対照株と比較した場合、3つのEOSPD株すべてからのmDA培養物においてp-PKCαのレベルがより高かったことが確認されたが、総PKCαにおける違いは有意ではなかった。未分化のiPSCではp-PKCαの上昇はなく、個々の患者からの末梢血中で明確なパターンは見られなかったので(データ割愛)、分化したmDA培養物に対する特異性が示された。加えて、この上昇したp-PKCαは、すべてのiPSC株からのmDA培養物に3日間1μMのPEP005を加えることで除去された。この除去には、α-シヌクレインレベルの減少及びLAMP1の増加が伴った。
【0080】
PEP005への反応をさらに評価するために、対照及びEOSPDのmDA培養物における処理のタイムコースを評定すると、p-PKCαとα-シヌクレインが両方とも約24時間以内に薬物処理に応答して分解されたことが示された。同じタイムコースにおいて、EOSPD mDA培養物では切断されたカスパーゼ3(CC3)も著しく減少し、薬物に対する毒性応答がないことが示された。対になった試料からの遺伝子発現データにより、SNCA発現がPEP005処理の4時間後に下方調節され、THが最初の曝露の約8時間後に上方調節されたことが示され、2つのタンパク質の間の拮抗的な関連性が示唆された48~50。
【0081】
実施例15
追加の患者におけるEOSPD表現型の確認
本発明者らは次に、これらの発見をより広い範囲の対照及びEOSPD患者で確認することを望んだ。本発明者らは、追加の2つのEOSPD株(172iPD、192iPD)、及び83歳に達した神経変性または認知低下の兆候のない個体の群であるロージアン出生コホートからの3つの対照株(0771i対照、1034i対照、1185i対照)を導出した51。本発明者らはまた、これらの表現型がPD集団全体で特定され得るかどうかを確かめるために、通常発症型PD株(78iPD、67歳での症状発症及びPDの家族歴)を評価した。すべての新しい株からのiPSCをmDA培養物に分化させ、30日目にα-シヌクレインの蓄積とp-PKCαの増加の両方について調査した。本発明者らの以前の発見を裏付けるように、ロージアン対照からの細胞はα-シヌクレインを蓄積せず、p-PKCαの増加も示さなかったが、2つの新しいEOSPD株のうちの1つ(172iPD)からの細胞は両方の表現型を示した。興味深いことに、通常発症型PD株からのmDA培養物及び新しいEOSPD株のうちの1つからのmDA培養物は、α-シヌクレインの蓄積もp-PKCαの増加も示さなかった。すべての株のウエスタンデータを比較するために、各ブロットにおける発現値を02i対照で正規化した。対照個体からのmDA培養物は同様のα-シヌクレイン及びp-PKCαの発現を明らかにした一方、ほとんどのEOSPD患者は別個のクラスターに分かれた。EOSPDの予測ツールとしてのα-シヌクレイン及びp-PKCα発現検出の可能性を判定するために、本発明者らは、正規化された発現値を受信者動作特性曲線(ROC)にプロットした。曲線下面積に反映された、EOSPDを対照から区別する予測精度は、α-シヌクレイン(赤色)で0.84、LAMP1(青色)で0.93、p-PKCα(オレンジ色)で0.96であり、これらの表現型マーカーが本発明者のコホート中の患者を正確に分別することを示した。
【0082】
実施例16
追加のホルボールエステルは、mDA培養物におけるα-シヌクレイン及びTHレベルを変化させる
PEP005とα-シヌクレインとの間の相互作用の機序をさらに調査するために、本発明者らは、PEP005と同様の化学構造を有する2つの追加のPKCアゴニストである13-酢酸12-ミリスチン酸ホルボール(PMA)及びプロストラチン(PRO)を試験した。追加のホルボールエステル化合物であるPMAとPROが両方とも、PEP005と同様の活性を呈し、mDA培養物の処理によりp-PKCα及びα-シヌクレインが減少し、それに対応してTHが増加した。
【0083】
実施例17
PEP005はp-PKCαとは無関係にα-シヌクレインを調節する
最適な効力を決定するために、本発明者らは、PEP005及びPROの両方に応答したp-PKCα及びα-シヌクレインの発現を検査する一連の用量応答研究を実施した。PEP005で処理したmDA培養物を評価すると、薬物の直接的な標的p-PKCαの明確な用量応答関係が明らかになった。しかしながら、p-PKCαレベルを変化させなかった低用量PEP005で、α-シヌクレインの堅牢な減少が観察された。これは、α-シヌクレインの減少におけるPEP005の作用様式がp-PKCαとは無関係であり得ることを示唆する。PROは、p-PKCαとα-シヌクレインの両方を用量依存様式で低減させたが、α-シヌクレインレベルの低減においてはPEP005ほど効率的ではなく、α-シヌクレイン調節経路との相互作用の親和性がより低いことを示唆する。
【0084】
低用量でのPEP005に対するα-シヌクレインとp-PKCαとの応答の違い、及びさらなる掘り下げがPEP005処理と同様の効果を有したという事実を考慮して、本発明者らは、可能性のあるPEP005結合部位のインシリコモデリングを実行して、新しい薬物結合パートナーを特定した。予想どおり、本発明者らは、PEP005がPKCαに結合するためのいくつかの同様の親和性標的部位を確認したが、興味深いことに、複数の追加のタンパク質上の結合部位も見出した。3次元モデルに基づくより興味深い発見のうちの1つは、PKCαと同様の親和性でのGTPase RASへの結合であった。RASは、mTORC経路を介した細胞増殖(MAPK経路)及びリソソーム生合成に直接影響する。
【0085】
実施例18
PEP005はインビボでα-シヌクレインレベルを低下させる
最後に、本発明者らは、PEP005がインビボでα-シヌクレインレベルも低下させることができるかどうかを評価したいと考えた。これを行うため、成体の野生型C57BL/6マウスの片側線条体にPEP005(2.15ng、21.5ng、または215ng)を注射した。処置後3日目のマウス線条体のウエスタンブロット及び免疫組織化学的評価の両方で、215ng用量のPEP005により、反対側に比べてα-シヌクレインのレベルが有意に低下したことが示された。これらの結果は、PEP005活性がインビボでα-シヌクレインレベルを低下させることを実証する。
【0086】
実施例19
考察
PDの原因は、遺伝的、環境的、またはこの2つのなんらかの組み合わせのいずれかであると提案されており、ほとんどすべての場合、α-シヌクレインの異常な蓄積が関与している。本発明者らは、早期発症型孤発性患者(米国のPD人工の3~10%)に焦点を当て、ここに、この研究中5人の患者のうち4人からのiPSC由来mDA培養物において信頼できる分子シグネチャを特定した。iPSC変換はほとんどのエピジェニックメモリーを一掃するので、この分子シグネチャは、ある数の未だ知られていない病原遺伝子及び修飾遺伝子の関与が推定される、EOSPDへの強力な遺伝的寄与が存在するはずであることを意味する。α-シヌクレインの蓄積は、現在の研究の成人発症型患者でも、以前の成人発症型孤発性PD研究でも観察されなかった。成人発症型PD細胞がEOSPD表現型を再現できないことは、これらのインビトロ表現型を顕出するにはさらに培養時間が必要であるか、または代替的に、EOSPDの加速された性質により、インビトロで容易に再現できるα-シヌクレインの取扱いに欠陥のあるPDの異なる亜集団が提供されることを示す。
【0087】
孤発性患者の大規模コホートに対する全ゲノム関連研究(GWAS)により、タンパク質分解に関連する対立遺伝子変異体が特定され、リソソーム分解経路を疾患病因に関係させた。本発明者らの結果は、本研究、及びPDの主要な原因としてリソソーム機能異常を指摘するこれまでの多くの研究を支持する。EOSPD患者はリソソームリスク変異体を担持しないか、または転写レベルでのリソソーム遺伝子発現の変化を示さないものの、リソソームタンパク質は有意に下方調節されていた。小胞体内腔に見られるような、タンパク質処理に関連する経路の下方調節と、リソソームタンパク質の下方調節との組み合わせは、リソソームタンパク質の生合成及び/または安定性がEOSPDに特異的なα-シヌクレインの蓄積に寄与し得ることを示唆している。リソソーム経路を直接刺激することにより、本発明者らは、細胞内α-シヌクレインタンパク質の減少をもたらすことができた。しかしながら、ホルボールエステル化合物による処理では、α-シヌクレインレベルの減少が誘導されただけでなく、対照及びPD両方の起源のmDA培養物に存在するTHの量の増加が生じた。他の研究では、α-シヌクレインとTH発現との間の拮抗的関連が示唆されているが、THの増加はPEP処理に特異的であったため、相互作用は単純な直接関連よりも複雑であり得る。SMER-28低分子で処理した対照mDA培養物及びトレハロースで処理したPD mDA培養物は、α-シヌクレインタンパク質の量の減少を示したが、ホルボールエステルとは異なり、いずれの減少もTH酵素の増加をもたらさなかった。これらの相違する結果は、2つの経路が共通の標的の周りに集中し得るが、それ以外は独立していることを示唆する。
【0088】
ここで観察された細胞内α-シヌクレインレベルの低下及びTHの増加という二重の効果により、PEP005は、可能性のある治療薬として非常に魅力的な候補となる。PEP005は、抗白血病活性も有し、かつ潜伏HIVの再活性化に役割を果たし得る、光線性角化症の局所治療用のFDA承認薬である。本研究では、これを、mTORC経路とは無関係に、TFEBアゴニストとして作用するHEP14化合物と同じ植物に由来する構造類似体として選択した。PEP005で処理した対照細胞及びPD細胞において、本発明者らは、リソソームマスター調節因子TFEBの活性化と一致するリソソームタンパク質LAMP1の増加を観察した。プロテオミクスデータのネットワーク分析により、TFEBがEOSPD mDA培養物におけるリソソーム経路の下方調節の中心となることも示唆された。しかしながら、インビトロ及びインビボ両方でのPEP005処理後のα-シヌクレインの急速な減少は、新しいリソソームタンパク質の転写が最初はα-シヌクレインの即時の減少の原因ではないことを示唆し得る。
【0089】
PEP005小分子の作用機序を調査すると、EOSPD mDA培養物に特異的なp-PKCαのレベルの上昇が明らかになった。これは、ある特定のがんに関連しているものの、PDの文献では新規のシグナルであり、本発明者らは、このシグナルを、EOSPD mDA培養物で観察されるα-シヌクレイン蓄積のバイオマーカー及び可能性のある原因として追及した。本発明者らが試験した3つのPKCアゴニスト(3つのホルボールエステル)はすべて、p-PKCαの減少をもたらし、これには、α-シヌクレインの減少及びTHレベルの上昇が付随した。加えて、用量応答研究は、PEP005がp-PKCαに実質的に影響を与えることなくα-シヌクレインレベルを変化させることができることを示す。これらの結果により、ホルボールエステル化合物の構造に特異的ななんらかの相互作用が、α-シヌクレインの減少を駆動し、p-PKCαの減少を駆動しないことが示唆され得る。
【0090】
このモデルの内在的な患者特異性は、EOSPD診断及び治療法開発の機会を提示する。EOSPD診断を支援するためにこのアプローチの予測精度を完全に評価するには、より多くの患者株が必要になる。本モデルはほとんどのEOSPD患者を正確に区別したが、1人の患者は正しく識別されなかった。このインビトロでの表現型の欠如は、固有の臨床的特徴、すなわち、非振戦優位症状と一致した。この患者の多様な臨床的特徴及びインビトロの結果により、EOSPDバイオマーカーのタイミングまたは取得を変化させ得る代替の病因論または固有の修飾遺伝子のセットが示唆される。
【0091】
この研究は、早期発症型患者からのiPSCにおける孤発性パーキンソン病の分子シグネチャを特定した最初のものである。これらの細胞は、α-シヌクレインを蓄積し、リソソーム生合成及び機能の異常調節を有し、p-PKCαの増加も示すので、運動症状を提示している若年患者がEOSPDを有するかどうかの予測を可能にし得るバイオマーカーを提供し、したがって、臨床医のための新しい診断ツールとなる。また、このシステムにより、EOSPDの根本的な機序に影響を与え得る新しい治療薬をスクリーニングするためのプラットフォームが提示される。例えば、本発明者らは、このシグネチャを標的とし、対照及びPD両方の細胞において細胞内α-シヌクレインを減少させる新規薬物のセットをすでに特定した。これらのホルボールエステル薬、特にPEP005は、EOSPDの根本的な原因を治療する可能性があり、他の神経変性疾患と共通の原理を明らかにし得る。
【0092】
実施例20
治療及び投与
本発明者らは、複数の動物モデル(ラット、ウサギ、ミニブタ、及びヒト)におけるインビトロの血漿結合研究が、PEP005及び追加のホルボール化合物の非常に効率的な血漿結合を示すことに注目する。これはIV送達を複雑にし得る。
【0093】
複数のIVボーラス投薬研究において、次のことが観察された。ラットの呼吸への影響-最大10ug/kgの用量では、生物学的に関連のある応答は観察されなかった。ミニブタの心臓血管への影響-最大5ug/kg(試験した最高量)の用量は、有害な臨床的または行動的影響を生じさせず、また顕著な心血管変化を生じさせなかった。
【0094】
ラット及びミニブタにおける用量決定研究について。7日間の反復投与は、ラットでは15ug/kg/日、ブタでは5ug/kgで認容された。
【0095】
ラットにおける反復投薬毒性研究-動物に、最大10ug/kg/日をIV尾静脈注射により7日間与えた。すべての用量は忍容性が良好であった。ミニブタでの反復投薬毒性研究-動物に、最大5ug/kg/日をIVで週に約1回与えた。5ug/kg用量での処理により、翌日の食物摂取量が低下したが、その後、摂取量は回復した。
【0096】
マウスでのPEPのPKプロファイルを決定する研究-10及び50ug/kgをIV尾静脈注射によって投与した。試験の1時間後に血清濃度が検出限界を下回り、非常に高いクリアランス(肝臓を通る血流を超える)が示された。これも、IV送達には問題となる可能性がある。
【0097】
上記の結果を総合して、本発明者らは、脳シヌクレインレベルに測定可能な影響を生成できるかどうかを確認するために、10ug/kgの用量範囲での尾静脈IV投与を直接試験することにする。しかしながら、高い結合力と非常に速いクリアランス/代謝速度を考慮すると、IV投与が効率的な送達経路である可能性は低いと思われる。本発明者らが検討し得る他の送達経路は、脳への直接注入である。
【0098】
本発明者らは、今後の動物研究のための投薬計画を決定するには、PEPの単回投与の効果がどのくらい持続するかを知ることが必要であった。この研究により、PEP005の24時間単回投与の作用期間が示される。シヌクレインレベルは168時間低下したままであり、pPKCaレベルは投与後240時間が経過した後でも依然として低下していた。したがって、本発明者らは、週に約1回の動物への投薬を検討している。
【0099】
上記の種々の方法及び手法は、本発明を実施する多数の手段を提供する。当然、記載の目的または利点の必ずしもすべてが、本明細書に記載の任意の特定の実施形態に従って達成されるわけではないことを理解すべきである。したがって、例えば、方法が、本明細書で教示または示唆され得るように、他の目的または利点を必ずしも達成することなく、本明細書に教示の1つの利点または利点群を達成または最適化する仕方で実施することができることを、当業者らは認識するであろう。様々な有利及び不利な代替物が、本明細書で述べられる。好ましい実施形態の一部が、1つの、別の、またはいくつかの有利な特徴を具体的に含む一方、他のものは、1つの、別の、またはいくつかの不利な特徴を具体的に除外するが、さらに他のものは、1つの、別の、またはいくつかの有利な特徴を含むことにより、本不利な特徴を具体的に軽減することが理解されるべきである。
【0100】
さらに、当業者は、異なる実施形態の種々の特徴の適用性を認識するであろう。同様に、上述した種々の要素、特徴、及びステップ、ならびにそのような要素、特徴、またはステップそれぞれのための他の既知の等価物は、本明細書に記載の原理に従って方法を実施するために、当該技術分野の当業者が組み合わせ、一致させることができる。多様な実施形態では、種々の要素、特徴、及びステップ中に、一部が具体的に含まれ、残りのものが具体的に除外されるであろう。
【0101】
本発明は、特定の実施形態及び実施例の文脈で開示されているが、本発明の実施形態が、具体的に開示された実施形態を超えて、他の代替実施形態及び/または使用ならびにその修正及び等価物にまで及ぶことは、当業者らに理解されるであろう。
【0102】
本発明の実施形態では、多くの変形及び代替要素が開示されている。さらに別の変形及び代替要素は、当業者には明らかであろう。これらの変形には、限定されないが、人工多能性幹細胞(iPSC)に関連する組成物及び方法、中脳ニューロン、底板ニューロン、ドーパミン作動性ニューロンを含む分化したiPSC、技法及び組成物ならびにそれに使用される溶液の使用、ならびに本発明の教示により作製される生成物の特定の使用がある。本発明の種々の実施形態は、これらの変形または要素のいずれかを具体的に含むか、または除外し得る。
【0103】
一部の実施形態では、本発明の特定の実施形態を説明及び特許請求するために使用される成分の量、濃度などの特性、反応条件などの特性を表す数字は、一部の場合、「約」という用語で修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、一部の実施形態では、書面による説明及び添付の特許請求の範囲に記載の数値パラメータは、特定の実施形態により得られることが求められる所望の特性に応じて変動し得る近似値である。一部の実施形態では、数値パラメータは、報告された有効桁数の数を考慮してかつ通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。本発明の一部の実施形態の広い範囲について記載する数値範囲及びパラメータは、近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載されている数値は、実行可能な限り正確に報告される。本発明の一部の実施形態で提示されている数値は、それぞれの試験測定値に見出される標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含み得る。
【0104】
一部の実施形態では、本発明の特定の実施形態を説明する文脈で(特に、以下の特許請求の範囲の特定の文脈で)使用される「a」及び「an」及び「the」という用語ならびに類似の指示対象は、単数形及び複数形の両方を網羅すると解釈することができる。本明細書の値の範囲の列挙は単に、範囲内に入るそれぞれの別々の値を個々に指す簡単な方法として役立つことが意図される。本明細書で別途指示のない限り、各個別値は、本明細書で個別に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書で別途指示のない限り、または別途文脈により明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書で特定の実施形態に関して提供される任意の及びすべての例の使用、または例示的な言語(例えば、「など」)は、本発明をより適切に表すことが意図され、別途特許請求される本発明の範囲に制限を課さない。本明細書の言語は、本発明の実施に必須の、特許請求されていない任意の要素を示すと解釈されるべきではない。
【0105】
本明細書に開示されている本発明の代替要素または実施形態のグループ化は、制限として解釈されるべきではない。各グループメンバーは、個別に、またはグループの他のメンバーもしくは本明細書に見られる他の要素と任意の組み合わせで、参照して、特許請求することができる。グループの1つ以上のメンバーは、便宜上の及び/または特許性の理由により、グループに含まれるか、またはグループから削除され得る。そのような任意の包含または削除が生じた場合、本明細書は、本明細書にこのように修正されたグループを含有するとみなされ、添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのMarkushグループの書面による説明を満たす。
【0106】
本発明を実施するための本発明者に既知の最良の形態を含む、本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載されている。それらの好ましい実施形態の変形は、上述の説明を読むと当業者らに明らかになるであろう。当業者らが、必要に応じて、そのような変形を用い得ることが企図され、本発明は、本明細書に具体的に記載されているもの以外で実施することができる。したがって、本発明の多くの実施形態は、適用法により許可されるように、本明細書に添付された特許請求の範囲に列挙された主題のすべての修正及び同等物を含む。さらに、そのすべての可能な変形における上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書に別途指示のない限り、または文脈により明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【0107】
さらに、本明細書を通して、特許及び印刷された出版物に対して、多数の参照がなされている。上記で引用された参考文献及び印刷された刊行物のそれぞれは、全体が参照により本明細書に個々に組み込まれる。
【0108】
最後に、本明細書に開示の本発明の実施形態は、本発明の原理の例示であることを理解すべきである。用いることができる他の修正は、本発明の範囲内であり得る。したがって、限定ではなく例として、本発明の代替構成を、本明細書の教示に従って利用することができる。したがって、本発明の実施形態は、厳密に示され記載されているものに限定されない。
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
【手続補正書】
【提出日】2024-04-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療方法であって、
治療上有効な薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物をパーキンソン病に罹患している対象に投与し、それにより前記対象を治療することを含む、前記方法。