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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073534
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】肥厚した糊粉を有する米穀粒
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/46 20180101AFI20240522BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20240522BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240522BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20240522BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20240522BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20240522BHJP
【FI】
A01H6/46
A01H5/10 ZNA
C12N15/56
C12N15/29
C12N15/82 120Z
C12N15/82 126Z
A01H5/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024038390
(22)【出願日】2024-03-12
(62)【分割の表示】P 2023001127の分割
【原出願日】2016-11-17
(31)【優先権主張番号】2015904754
(32)【優先日】2015-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】317002869
【氏名又は名称】コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼーション
(71)【出願人】
【識別番号】518174891
【氏名又は名称】インスティテュート オブ ボタニー,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド チュン ワイ ユイ
(72)【発明者】
【氏名】クリスピン アレクサンダー ハウィット
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ジョン ラーキン
(72)【発明者】
【氏名】リウ チュン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ-バ ウー
(72)【発明者】
【氏名】リウ チンシン
(57)【要約】
【課題】植物、特に表現型も正常であり且つ、農業上有用であるイネから肥厚した糊粉を有する米穀粒を提供すること。
【解決手段】本発明は肥厚した糊粉を有する米穀粒に関する。また、植物において少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性が減少される少なくとも1つの遺伝的変異を含むイネを提供する。本発明の穀粒、又はその糊粉は、改善された栄養特性を有し、従って特に、ヒト及び動物飼料製品に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネの穀粒であって、前記穀粒が、糊粉、デンプン質胚乳、ROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子、及び(i)対応する野生型イネと比較した場合、植物において少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性を、それぞれ減少させる1つ又は複数の遺伝的変異を含み、及び/又は(ii)前記糊粉が、対応する野生型穀粒由来の糊粉と比較して肥厚される、イネの穀粒。
【請求項2】
(a) 前記ROS1aポリペプチドが、DNAグリコシラーゼ活性を有する;
(b) 前記ROS1aポリペプチドが、それらのアミノ酸配列が異なるという点で対応する野生型ROS1aポリペプチドの変異体である;
(c) 前記ROS1aポリペプチドが、対応する野生型ROS1aポリペプチド及び/又は配列番号2で示される配列を有するアミノ酸であるROS1aポリペプチドのDNAグリコシラーゼ活性のレベルの2%~約60%の間であるDNAグリコシラーゼ活性のレベルを有する;
(d) 対応する野生型穀粒のROS1aポリペプチドのレベルと比較して、2%~約60%の間のROS1aポリペプチドのレベルが、穀粒中に存在する; 及び
(e) 前記肥厚した糊粉が、少なくとも2層、少なくとも3層、少なくとも4層又は少なくとも5層の細胞、約3層、約4層、約5層又は約6層の細胞、又は2~8、2~7、2~6又は2~5層の細胞を含む;
という特徴の1つ又は複数あるいは全てによってさらに特徴付けられる、請求項1に記載の穀粒。
【請求項3】
前記1つ又は複数の遺伝的変異が、それぞれ独立して、
(a) 野生型ROS1aポリペプチド(配列番号2)に対して、減少したDNAグリコシラーゼ活性を有する突然変異体ROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子;
(b) 発現の際、野生型ROS1aポリペプチドの減少したレベルが生じるROS1a遺伝子、例えば、配列番号8として提供されるcDNA配列である野生型ROS1a遺伝子と比べてROS1a遺伝子の発現レベルの低下をもたらすスプライス部位突然変異を含み、又はROS1a遺伝子が、野生型のROS1aに対してROS1aの発現減少をもたらす、そのプロモーターにおいての突然変異を含む;
(c)イネのROS1a遺伝子の発現を減少させるポリヌクレオチドをコードする外因性核酸コンストラクト、好ましくは、核酸コンストラクトが、少なくとも開花時~開花後7日の間の時点でイネの発達中の穀粒において発現されるプロモーターに作動的に接続されたポリヌクレオチドをコードするDNA領域を含む; 及び
(d) 野生型ROS1aポリペプチドに対してトランケート(truncate)されたポリペプチドをコードする遺伝子のように、そのタンパク質コード領域に未熟な翻訳停止コドンを含むROS1a遺伝子、
であり、
ここで、好ましくは、遺伝的変異が、導入された遺伝的変異を含む、請求項1又は2に記載の穀粒。
【請求項4】
(a) 前記イネが、対応する野生型発達中穀粒において、DNAグリコシラーゼ活性のレベルの2%~約60%であるDNAグリコシラーゼ活性のレベルを、その発達中の穀粒中に有する;
(b) 前記イネにおける少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性が、発達中の穀粒の糊粉、果皮、珠心突起(nucellar projection)、子房、種皮及びデンプン質胚乳の1つ又は複数あるいは全てにおいて減少される;
(c) 前記ROS1a遺伝子の活性が、少なくとも開花時期と開花後7日の間、及び/又は開花前の卵細胞中で減少される;
(d) 前記イネが、雄しべ及び雌しべで結実する; 及び
(e) 前記イネが、遅延した穀粒成熟を示す;
という特徴の1つ又は複数あるいは全てによって特徴付けられる、請求項1~3の何れか1項に記載の穀粒。
【請求項5】
(a) 前記穀粒が、対応する野生型穀粒と比較した場合、それぞれの重量に基づき、下記i)~ix)の1つ又は複数あるいは全て含む、
i) より高いミネラル含量、好ましくは、ミネラル含量は、亜鉛、鉄、カリウム、マグネシウム、リン及びイオウの1つ又は複数あるいは全ての含量、
ii) より高い抗酸化物質含量、
iii) より高いフィチン酸含量、
iv) ビタミンB3、B6及びB9の1つ又は複数あるいは全てのより高い含量、
v) より高い食物繊維含量及び/又は不溶性繊維含量、
vi) 対応する野生型穀粒のデンプン質含量に対して重量で約90%~約100%の間であるデンプン質含量、
vii) より高いスクロース含量、
viii) より高い単糖含量、
ix) 対応する野生型穀粒の脂質含量に対して少なくとも90%又は少なくとも100%の脂質含量、
(b) 前記穀粒が、胚を含む;
(c) 前記穀粒が、全穀粒又は砕けた穀粒である;
(d) 前記穀粒が、もはや発芽できないように、好ましくは熱処理によって処理されている;
(e) 前記穀粒が、対応する野生型穀粒の発芽率に対して、約70%~約100%の間の発芽率を有する;
(f) 前記穀粒が、対応する野生型穀粒と比較して、その総デンプン含量においてアミロースの増加した割合を含む; 及び
(g) 前記穀粒が、対応する野生型穀粒と比較して、その総脂肪酸含量において増加したオレイン酸の増加した割合及び/又はパルミチン酸の減少した割合を含む;
という特徴の1つ又は複数によってさらに特徴付けられる、請求項1~4の何れか1項又は複数に記載の穀粒。
【請求項6】
(a) 前記穀粒が、好ましくは1つ又は複数の穀粒の糊粉、種皮及びデンプン質胚乳において、DNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子を含み、ここでDNAグリコシラーゼ活性を有する前記ROS1aポリペプチドが、好ましくは突然変異体ROS1aポリペプチドである;
(b) 前記穀粒が、対応する野生型ROS1aポリペプチドと比較して、前記イネにおいて発現される際に減少したDNAグリコシラーゼ活性を有する突然変異体ROS1aポリペプチドを含み、好ましくは、前記突然変異体ROS1aポリペプチドが、対応するROS1aポリペプチドと比較して、DNAグリコシラーゼ活性を減少させる1つ又は複数のアミノ酸置換、欠失又は挿入を含む;
(c) 前記穀粒が、DNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードする少なくとも1つのROS1a遺伝子を含むならば、前記穀粒は、対応する野生型穀粒と比較して、ROS1aポリペプチドの総量が減少し、好ましくは1つ又は複数の穀粒の糊粉、種皮及びデンプン質胚乳において減少する; 及び
(d)前記遺伝的変異が、イネにおいてROS1a遺伝子の発現を減少させ、好ましくは、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点でイネにおいて減少させる、ポリヌクレオチドをコードする外因性核酸コンストラクトである特徴、ただし、前記穀粒が、DNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードする少なくとも1つのROS1a遺伝子を含むことを条件とする;
という特徴の1つ又は複数あるいは全てによって特徴付けられる、請求項1~5の何れか1項又は複数に記載の穀粒。
【請求項7】
外層が、着色されている、請求項1~6の何れか1項に記載の前記穀粒。
【請求項8】
(a) イネの茶色穀粒又は黒色穀粒であって、前記穀粒が、(i) 少なくとも2細胞層、又は2~7細胞層の厚さを有する糊粉、及び(ii) 対応する野生型イネROS1aポリペプチドと比較した場合、減少したDNAグリコシラーゼ活性が少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点でイネに生じる、DNAグリコシラーゼ活性が減少する1つ又は複数のアミノ酸置換、挿入又は欠失を含むROS1aポリペプチドをコードする突然変異体ROS1a遺伝子を含み、ただし、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点でイネが、野生型イネと比較して、発達中の穀粒においてDNAグリコシラーゼ活性の2%~約60%のレベルを有することを条件とする、イネの茶色穀粒又は黒色穀粒; 又は
(b) イネの茶色穀粒又は黒色穀粒であって、前記穀粒が、(i)少なくとも2細胞層、又は2~7細胞層の厚さを有する糊粉、及び(ii)イネのROS1a遺伝子の発現を減少させるポリヌクレオチドをコードする外因性核酸コンストラクトを含み、ここで外因性核酸コンストラクトは、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点で、イネは野生型イネと比較して発達中の穀粒中にDNAグリコシラーゼ活性の2%~約60%のレベルを有するように、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点でイネの発達中の穀粒にて発現されるプロモーターに作動的に接続されたポリヌクレオチドをコードするDNA領域を含む、イネの茶色穀粒又は黒色穀粒;
である、請求項7に記載の穀粒。
【請求項9】
前記ROS1aポリペプチドが、配列が配列番号2に対して少なくとも95%同一であるアミノ酸を含み、又は前記ROS1aポリペプチドが、その配列が配列番号2に対して少なくとも95%同一であり、対応する野生型ROS1aポリペプチドのアミノ酸配列とは異なるアミノ酸を含む、請求項1~8の何れか1項に記載の穀粒。
【請求項10】
対応する野生型ROS1aポリペプチドと比較した場合、アミノ酸配列が、対応する野生型ROS1aポリペプチドのアミノ酸配列と異なり且つ、DNAグリコシラーゼ活性が減少した、好ましくは無い、精製及び/又は組換えROS1aポリペプチド。
【請求項11】
配列番号2に対して少なくとも95%同一である配列を有するアミノ酸を含む請求項10に記載のポリペプチド。
【請求項12】
請求項10又は11のROS1aポリペプチドをコードする単離及び/又は外因性ポリヌクレオチド。
【請求項13】
イネに存在する場合、前記ROS1a遺伝子の発現を減少させる単離及び/又は外因性ポリヌクレオチド。
【請求項14】
少なくとも開花期と開花後7日の間の時点で、イネの発達中の穀粒においてROS1a遺伝子の発現を減少させるために使用される、請求項13に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
前記核酸コンストラクト又はベクターが、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点で、イネの発達中の穀粒において発現されるプロモーターに作動的に接続されたポリヌクレオチドをコードするDNA領域を含む、請求項12~14の何れか1項に記載のポリヌクレオチドをコードする核酸コンストラクト及び/又はベクター。
【請求項16】
請求項12~14の何れか1項に記載の外因性ポリヌクレオチド、又は請求項15の核酸コンストラクト及び/又はベクターを含む組換え細胞。
【請求項17】
外因性ポリヌクレオチド、核酸コンストラクト又はベクターが、細胞のゲノム、好ましくは核ゲノムに組み込まれる、請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
ROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子及び対応する野生型細胞と比較した場合、細胞中の少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性を減少させる遺伝的変異を含む、イネの細胞。
【請求項19】
糊粉、果皮、珠心突起(nucellar projection)、子房、種皮又はデンプン質胚乳細胞である、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
糊粉細胞である、請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒、請求項10又は11のポリペプチド、請求項12~13の何れか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項15に記載の核酸コンストラクト及び/又はベクターを産生する及び/又は請求項16~20の何れか1項に記載の細胞を含むイネ。
【請求項22】
圃場で栽培される請求項21に記載の少なくとも100固体群のイネ。
【請求項23】
請求項12~14の何れか1項に記載の外因性ポリヌクレオチド、又は請求項15に記載の核酸コンストラクト及び/又はベクターを細胞に、好ましくはイネ細胞に導入する工程を含む、請求項16~20の何れか1項に記載の細胞を産生する方法。
【請求項24】
i) イネ細胞に請求項12~14の何れか1項に記載の外因性ポリヌクレオチド、又は請求項15の核酸コンストラクト及び/又はベクターを導入する工程、
ii) 工程i)から得られた細胞から、トランスジェニックイネを得る工程であって、前記トランスジェニックイネが、外因性ポリヌクレオチド、核酸コンストラクト又はベクターのトランスジェニックである工程、及び
iii) 前記穀粒が、外因性ポリヌクレオチド、核酸コンストラクト又はベクターのトランスジェニックである、工程ii)の前記植物から穀粒を任意で収穫する工程、及び
iv) 子孫植物が、外因性ポリヌクレオチド核酸コンストラクト又はベクターのトランスジェニックである、前記トランスジェニック穀粒からトランスジェニック子孫植物の1つ又は複数の世代を任意で産生する工程、
を含み、それによって前記イネ又はトランスジェニック穀粒を産生する、請求項21に記載のイネ又はそれからトランスジェニック穀粒を産生する方法。
【請求項25】
i) 突然変異ROS1aポリペプチド遺伝子が、請求項9又は10で定義されるROS1aポリペプチドをコードするように、又はROS1aポリペプチドをコードしないように、内在性ROS1a遺伝子の突然変異をイネ細胞に導入する工程、
ii) 工程i)から得られた細胞由来の前記内因性ROS1a遺伝子の突然変異を含むイネを得る工程及び
iii) 前記穀粒が、内因性のROS1a遺伝子の突然変異を含む、工程ii)の植物から穀粒を任意で収穫する工程、及び
iv) 前記子孫植物が、内因性ROS1a遺伝子の突然変異を含む、前記穀粒由来の子孫植物の1つ又は複数の世代を任意で産生する工程を含み、それによって前記イネ又は穀粒を産生する、請求項21のイネ又はそれらの穀粒を産生する方法。
【請求項26】
前記イネ又は穀粒が、DNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードする少なくとも1つのROS1a遺伝子を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
i) 請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒の産生、又はROS1a遺伝子における突然変異の存在、又は請求項1~9の何れか1項に記載の米穀粒の存在について、子孫イネ細胞、穀粒又は植物の突然変異誘発処理から得られたそれぞれのイネ又は穀粒の個体群をスクリーニングする工程、及び
ii) 請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒又は突然変異体ROS1a遺伝子を含む穀粒、又は請求項1~9の何れか1項に記載の米穀粒である工程(i)の米穀粒を産生するイネを工程(i)の個体群から選択する工程を含み、それによってイネ又は穀粒を選択する、請求項21に記載のイネ又は請求項1~9の何れか1項に記載の米穀粒を選択する方法。
【請求項28】
i) 米穀粒から1つ又は複数の子孫植物を得る工程であって、前記米穀粒が2つの親イネの交配に由来している工程、
ii) 請求項1~9の何れか1項に記載の前記穀粒の産生のため、工程i)の1つ又は複数の子孫植物をスクリーニングする工程、
iii) 前記穀粒を産生する子孫植物を選択する工程、
を含み、それによってイネを選択する、請求項21のイネを選択する方法。
【請求項29】
工程ii)が、以下の工程、
i) 遺伝的変異に関し、子孫植物からDNAを含む試料を解析する工程、
ii) 子孫植物から得られた穀粒の糊粉の厚さを解析する工程、
iii) 穀粒又はその一部の栄養成分を解析する工程、
の1つ又は複数あるいは全てを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
工程iii)が、以下の工程、
i) 遺伝的変異に関し、ホモ接合性である子孫植物を選択する工程、ここで前記遺伝的変異が、対応する野生型イネと比較した場合、前記イネにおいてDNAグリコシラーゼ活性が減少する、
ii) 穀粒が、対応する野生型穀粒と比較して、増加した糊粉の厚さを有する子孫植物を選択する工程、
iii) 穀粒又はその一部が、対応する野生型穀粒又はその一部と比較して、改変された栄養成分を有する子孫植物を選択する工程、
の1つ又は複数あるいは全てを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
i) 2つの親イネを交配する工程、好ましくは、一方の親イネが、請求項1~9の何れか1項に記載された穀粒を産生する、又は
ii) 請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒を産生しない第1の親イネとして同じ遺伝子型の植物で工程1からの1つ又は複数の子孫植物と十分な回数戻し交配し、第1の親のイネの遺伝子型の大部分を有するが、請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒を産生する植物を産生する工程、及び
iii) 請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒を産生する子孫植物を選択する、
をさらに含む、請求項28~30の何れか1項に記載の方法。
【請求項32】
請求項27~31の何れか1項に記載の方法を用いて産生されたイネ。
【請求項33】
組換え細胞、トランスジェニックイネ又はトランスジェニック穀粒を産生するための、請求項12~14の何れか1項に記載の外因性ポリヌクレオチド、又は請求項15に記載の核酸コンストラクト及び/又はベクターの使用。
【請求項34】
請求項1~9の何れか1項に記載の米穀粒を産生するために使用される際の請求項33の使用。
【請求項35】
i) イネから核酸試料を得る工程、及び
ii) 対応する野生型イネと比較した場合、イネのROS1a遺伝子の活性が減少する遺伝的変異の存在又は非存在に関し、試料をスクリーニングする工程、
を含む、請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒を産生するイネを同定する方法。
【請求項36】
前記遺伝的変異が、以下、
a) イネに存在する場合にROS1a遺伝子の発現を低下させるポリヌクレオチドを発現する核酸コンストラクト又はそれによってコードされるポリヌクレオチド、及び
b) ROS1aポリペプチド活性が減少した突然変異体ROS1aを発現する遺伝子、又はそれによってコードされるmRNA、
の1つ又は両方である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
対応する遺伝的変異を欠くイネと比較した場合、前記遺伝的変異の存在が、イネの穀粒が肥厚した糊粉を有することを示す、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
i) イネから穀粒を得る工程、及び
ii) 以下a)~c)の1つ又は複数に関し、前記穀粒又はその一部をスクリーニングする工程、
a) 肥厚した糊粉、
b) 前記穀粒中の前記ROS1aポリペプチド及び/又は活性の量、及び
c) 前記穀粒中の前記ROS1a遺伝子によってコードされるmRNAの量、
を含む、請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒を産生するイネを同定する方法。
【請求項39】
請求項21又は31に記載のイネを同定する、請求項35~38の何れか1項に記載の方法。
【請求項40】
a) 請求項21又は32に記載のイネ又は圃場でそのようなイネを少なくとも100固体、栽培する工程、及び
b) イネ又はイネ由来のイネの一部を収穫する工程、
を含む、イネの一部を産生する方法。
【請求項41】
a) 請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒を得る工程、及び
b) 前記穀粒をプロセシングすることで、粉末、糠、全粒粉、モルト、デンプン又はオイルを得る工程、
を含むイネ粉末、糠、全粒粉、モルト(malt)、デンプン又は穀粒から得られるオイルを産生する方法。
【請求項42】
請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒、又は請求項21又は請求項32に記載のイネ、又は前記穀粒又はイネの一部から産生された製品。
【請求項43】
前記ROS1a遺伝子、前記遺伝的変異、前記外因性核酸コンストラクト及び前記肥厚した糊粉の1つ又は複数あるいは全てを含む、請求項42に記載の製品。
【請求項44】
前記一部が、糠である、請求項42又は43に記載の製品。
【請求項45】
前記製品が、食品成分、飲料成分、食品製品又は飲料製品である、請求項42~44の何れか1項に記載の製品。
【請求項46】
i) 前記食品又は飲料成分が、全粒粉、粉末、糠、デンプン、モルト、及びオイルからなる群から選択され、
ii) 前記食品製品が、発酵させて膨らませたパン又は非発酵パン、パスタ、麺、家畜飼料、朝食用シリアル、スナック食品、ケーキ、ペストリー及び粉末を基にしたソースを含む食品からなる群から選択され、
iii) 前記飲料製品が、パックされた飲料又はエタノールを含む飲料である、
請求項45に記載の製品。
【請求項47】
請求項45又は46に記載の食品又は飲料成分を調製する方法であって、前記方法が、請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒、又は穀粒由来の糠、粉末、全粒粉、モルト、デンプン又はオイルをプロセシングして食品又は飲料成分を産生することを含む方法。
【請求項48】
請求項45又は46の食品又は飲料製品を調製する方法であって、前記方法が、請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒、又は穀粒由来の糠、粉末、全粒粉、モルト、デンプン又はオイルを他の食品又は飲料成分と混合することを含む方法。
【請求項49】
請求項1~9の何れか1項に記載の穀粒若しくはその一部、又は請求項21若しくは請求項32に記載のイネ若しくはその一部を、動物飼料又は飼料としての使用、又は動物が摂取するための飼料若しくはヒト摂食用飼料を産生するための使用。
【請求項50】
請求項10又は請求項11に記載の1つ又は複数のポリペプチド、請求項12~14の何れか1項に記載のポリヌクレオチド、請求項15に記載の核酸コンストラクト及び/又はベクター、又は請求項16~20の何れか1項に記載の細胞、及び1つ又は複数の許容される担体を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥厚した糊粉を有する米穀粒に関する。また、植物において少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性を減少させる、少なくとも1つの遺伝的変異を含むイネを提供する。本発明の穀粒、又はそこからの糊粉は、改善された栄養特性を有し、それ故、ヒト及び動物飼料製品のために特に有益である。
【背景技術】
【0002】
世界的にコムギ、イネ、トウモロコシ、及びそれほどではないが、オオムギ、オートムギ、ライムギ等の穀物粒は、穀粒のデンプン含量からのヒトのカロリー摂取量の主要な供給源である。穀物粒はまた、タンパク質、ビタミン、ミネラル及び食物繊維等の他の栄養成分を供給することにおいても重要である。これら栄養成分のために、穀粒の異なる部分が、別々に寄与する。デンプンは、穀物粒のデンプン質胚乳に貯蔵され、一方、他の栄養成分は、胚及び糠により多く濃縮される(Buri et al., 2004)。しかしながら、糠は、食物、特に白米として食べられるイネにおいて、用いられる前に除去される場合が多い。
【0003】
穀物粒は、雌性及び雄性配偶体間の重複受精イベントから発達する。花粉管からの2つの精細胞のうち1つは、卵細胞と融合し、受精卵を産生し、これが胚に発達し、及び他の精子細胞は、雌性配偶体(megagametophyte)の二倍体中央細胞と融合し、一次胚乳核を産生し、そこから遺伝的に三倍体の胚乳が発達する。故に、糊粉を含む胚乳は、雌性ハプロイドゲノムの2つのコピー及び雄性ハプロイドゲノムの1つのコピーを有する三倍体である。双子葉類の種子において、胚乳は、発育中の胚によって消費されるのに対し、イネのような単子葉植物では、成熟穀粒の大部分を作り上げるために、胚乳は消えずに残る。
【0004】
穀類の成熟した胚乳は、異なる特性を有する4つの細胞タイプ、すなわち、デンプン顆粒及び貯蔵タンパク質によって特徴付けられるデンプン質胚乳、最も多くはデンプン質胚乳の大部分を取り囲む、1つの細胞層の厚さである表皮様糊粉、主要雌性脈管構造上の種子の基部での輸送細胞、及び穀粒の発育初期に胚のライニング(lining)を形成するが、後に胚とデンプン質胚乳をつなぐサスペンダーのみを囲み得る、胚周辺細胞の層(Becraft et al., 2001a)、を有する。胚は、デンプン質胚乳の空洞に形成される。従って、穀物糊粉組織は、穀物粒において胚乳の最外層を含み、デンプン質胚乳及び胚の一部を取り囲む。
【0005】
糊粉細胞は、それらの形態、生化学的組成及び遺伝子発現プロファイルによってデンプン質胚乳細胞と区別される(Becraft and Yi, 2011)。糊粉細胞は、一般的にオイル及びタンパク質が豊富であり、種子の発芽の間に内胚乳貯蔵の転流を可能にする酵素を分泌する。各糊粉細胞は、胚乳細胞壁よりも厚く、主にアラビノキシラン及びベータグルカンから様々な比率で構成され、高い自己蛍光性である線維性細胞壁内に封入される。糊粉層は、穀物中でアントシアニンにより時々着色される唯一の層である。
【0006】
穀物糊粉は、コムギ及び野生型トウモロコシにおける1つの細胞層のみの厚さ(Buttrose 1963; Walbot, 1994)、主にイネの胚乳の背部領域において1~最大3つの細胞層(Hoshikawa, 1993)、及び野生型オオムギにおける3つの細胞層である(Jones, 1969)。正常な胚乳において、糊粉は、非常に規則的であり、細胞分裂パターンは高度に組織化されている。野生型成熟糊粉細胞は、タンパク質、脂質及びフィチン又はタンパク質+炭水化物からなる顆粒、小胞、及び封入体を含む高密度の細胞質を有するセクションにおいてほぼ直方体である。成熟した穀物粒において、糊粉は、休眠した乾燥形態ではあるが生きている唯一の胚乳組織である。吸水膨潤を経て、胚は、胚を早期に成長させ実生にする目的で貯蔵化合物を分解し、糖及びアミノ酸を形成するために、アミラーゼの合成を誘導するジベレリン及び貯蔵化合物を分解するためにデンプン質胚乳に放出される糊粉による他の加水分解酵素を、産生する。
【0007】
穀物粒における糊粉発達の制御は、Becraft及びYiによって検討された(2011)。複数レベルの遺伝子制御が、細胞運命、分化及び構成をコントロールし、並びに多くの遺伝子がこのプロセスに含まれており、そのうちのいくつかのみが同定されている。例えば、トウモロコシdefective kernal1 (dek1)機能喪失変異体は、野生型Dek1ポリペプチドが、糊粉として外部細胞層を特定することのために必要であることを示す糊粉層を有さない(Becraft et al., 2002)。Dek1ポリペプチドは、21の膜貫通ドメイン及び活性カルパインプロテアーゼを含む細胞質ドメインを有する大きな内在性膜タンパク質である。トウモロコシの他の遺伝子であるCRINKLY4(CR4)は、糊粉運命の正の制御調節因子として機能する受容体キナーゼをコードし、及びcr4突然変異体は、糊粉を減少させる(Becraft et al., 2001b)。
【0008】
穀物粒突然変異体における肥厚した糊粉のいくつかの例が、文献中で報告されているが、多面効果、又は農業生産及び生産上の問題のために有用であると証明されていない。
【0009】
Shen et al.(2003)では、正常な単一層の代わりに2~3層又は最大7層の糊粉細胞を有するsupernumary aleurone layers1 (sal1)遺伝子におけるトウモロコシの突然変異体の同定を報告した。SALポリペプチドは、クラスE液胞局在タンパク質として同定された。ホモ接合性sal1-1変異体穀粒は、発芽できず、デンプン質胚乳を多く減少した不完全な胚を有した。sal1-2対立遺伝子についてホモ接合性である不完全突然変異体は、2つの細胞層糊粉を示した。しかしながら、突然変異植物は、野生型の30%のみの高さの成長であり、根量が減少し、結実が乏しかった(Shen et al. 2003)。これらの植物は農業上有用ではなかった。
【0010】
Yi et al.(2011)では、トウモロコシにおけるthick aleurone1 (thk1)突然変異体の同定を報告した。突然変異体仁(カーネル(kernals))は、多数の糊粉層を示した。しかしながら、突然変異体カーネルは、完熟胚を欠き、及び播種した際に発芽しなかった。野生型Thk1遺伝子は、トウモロコシにおいて糊粉の発達に要求されるDek1ポリペプチドの下流で働くThk1ポリペプチドをコードする(Becraft et al., 2002)。
【0011】
トウモロコシextra cell layer (Xcl)遺伝子突然変異体は、その葉の形態学上の効果によって同定された。その突然変異体は、二重の糊粉層、並びに多層の葉の表皮を産生した(Kessler et al., 2002)。Xcl突然変異は、トウモロコシにおいて細胞分裂及び分化パターンを妨害し、異常な光沢のある外観を有する厚く且つ、狭い葉を生産する半優性の突然変異体であった。
【0012】
disorgal1及びdisorgal2(dil1及びdil2)遺伝子におけるトウモロコシ突然変異体は、不規則な形状及びサイズの細胞を有する可変数の層を有する糊粉を示した(Lid et al., 2004)。しかしながら、ホモ接合性dil1及びdil2突然変異体の穀粒は、デンプンの蓄積が減少することが原因で収縮し、及び成熟突然変異体の穀粒は、低発芽率であり、生存可能な植物に成長しなかった。
【0013】
オオムギにおいて、elo2突然変異体は、異常な並層細胞分裂の結果として、同様に不規律化された細胞及び不規則な糊粉層を示した(Lewis et al., 2009)。植物はまた、表皮上に膨隆及び歪んだ細胞と共に、葉の表皮における細胞層の増加を示した。重要なことに、ホモ接合性突然変異体植物は、矮小化され、野生型の60%未満の穀粒重量を生じ、穀粒産生に有用ではなかった。
【0014】
イネにおいて、種子貯蔵タンパク質の発現をコントロールする2つの転写因子もまた、糊粉細胞運命に影響を及ぼす(Kawakatsu et al., 2009)。DOFジンクフィンガー転写因子クラスである、イネプロラミンボックス結合因子(RPBF)ポリペプチドをコードする遺伝子の同時抑制コンストラクトによる発現減少は、大規模な不規則な細胞からなる散発性の多層糊粉をもたらした。種子貯蔵タンパク質の発現及び蓄積の有意な減少もあり、デンプン及び脂質は実質的に減少したレベルで蓄積された。トウモロコシDek1、CR4及びSAL1遺伝子のイネホモログの発現はまた、減少され、RPBF及びRISBZ1因子は、それらの遺伝子と同じ調節経路で作用することを示した。
【0015】
DNAの脱メチル化
植物科学の完全に異なる領域において、DNAの脱メチル化が現在、まとめられている。植物は、ピリミジン環の炭素5で核DNA中のいくつかのシトシンヌクレオチドをメチル化し、5-メチルシトシン(5-meC)を形成する。メチル化シトシンは、それぞれ異なるメチルトランスフェラーゼによって触媒される、すなわち、CG、CHG(ここでH=A、C又はT)及びCHHメチル化の3つの状況の何れかで生じ得る。少なくともシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)及び恐らく、イネを含む大半の植物において(Zemach et al., 2010)、CGメチル化は、メチルトランスフェラーゼ1(Met1)ファミリーにおいて酵素によって触媒され、CHGメチル化は、クロモメチラーゼファミリーにおいてメチラーゼによって触媒され、及びCHHメチル化は、small RNAをガイド配列として使用するドメインリアレンジドメチラーゼ(DRM)(Domains Rearranged Methylases (DRM))によって触媒されるRNA媒介反応を介して起こる。全てのシトシンのわずかな割合で起こるシトシンメチル化は、ヘテロクロマチン性DNA、及び反復DNA及びトランスポゾンが豊富な領域で頻繁に起こり、それらの活性を抑制する。それはまた、遺伝子のプロモーターを含む核DNAの転写領域においても起こり、それによって多くの遺伝子の発現のコントロールに関与する。
【0016】
DNAのシトシンメチル化は、脱メチル化を介して可逆的であり、これは、脱メチル化酵素の活性を介したDNA複製又は活性を介して受動的に起こり得る。植物におけるDNAの能動的脱メチル化のための1つの経路は、DNAグリコシラーゼ酵素を用いる塩基除去修復(BER)( base excision repair (BER))経路によるものである。これらの酵素は、二本鎖DNA骨格から5-meCを除去し、その後、連続したβ-及びδ-脱離反応によって塩基脱落部位でDNA骨格(リアーゼ活性)を切断する。修復は、DNAポリメラーゼ活性による非メチル化シトシンヌクレオチドの挿入によって完了される。
【0017】
シロイヌナズナゲノム中にDemeter (DME)、Demeter-like 2 (DML2)、Demeter-like 3 (DML3)及びRepressor of Silencing (ROS1)と名付けられた4つの5-meC DNAグリコシラーゼ/リアーゼがある。遺伝的及び生化学的解析は、DMEが、主に卵細胞及び胚乳において機能し、別の組織では別に機能することと共に、DNA脱メチル化酵素として4つ全ての機能を示した(Gong et al., 2002; Agius et al., 2006; Morales-Ruiz et al., 2006)。他の植物も同様に多数の脱メチル化酵素を表す(Zemach et al., 2010)。
【0018】
植物、特に表現型も正常であり且つ、農業上有用であるイネから肥厚した糊粉を有する米穀粒が求められる。
【発明の概要】
【0019】
一態様において、本発明は、イネの穀粒を提供し、その穀粒は、糊粉、デンプン質胚乳、ROS1aポリペプチドをコードするROS1a、及び(i)対応する野生型イネと比較した際、植物において少なくとも1つのROS1aの活性がそれぞれ減少する1つ又は複数の遺伝的変異を含み、及び/又は(ii)前記糊粉が、対応する野生型穀粒由来の糊粉と比較して肥厚される。
【0020】
一実施形態において、ROS1aポリペプチドは、DNAグリコシラーゼ活性を有する。一実施形態において、ROS1aポリペプチドは、対応する野生型ROS1aポリペプチド及び/又は配列番号2で示される配列を有するアミノ酸であるROS1aポリペプチドのDNAグリコシラーゼ活性のレベルの2%~約60%であるDNAグリコシラーゼ活性のレベルを有する。
【0021】
他の実施形態において、ROS1aポリペプチドは、それらのアミノ酸配列が異なる点で、対応する野生型ROS1aポリペプチドの変異体である。好ましい実施形態において、米穀粒は、配列番号1として提供されるアミノ酸配列を有するROS1a(Ta2)変異体ポリペプチド、ポリペプチドが、配列番号2として提供されるアミノ酸配列である野生型ROS1aポリペプチドの変異体であることを含む。
【0022】
一実施形態において、穀粒は、対応する野生型穀粒においてROS1aポリペプチドのレベルと比較して穀粒に2%~約60%の間で存在するROS1aポリペプチドのレベルを有する。
【0023】
一実施形態において、肥厚した糊粉は、少なくとも2層、少なくとも3層、少なくとも4層又は少なくとも5層の細胞、約3層、約4層、約5層又は約6層の細胞、又は2~8、2~7、2~6又は2~5層の細胞を含む。一実施形態において、穀粒は、イネ由来であり、肥厚した糊粉は、5~8、5~7、5~6又は2~5の層を含む。一実施形態において、糊粉層は、野生型米穀粒と比較して約100%、又は約150%又は約200%、又は約250%の厚さで増加される。
【0024】
植物において少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性を減少させる遺伝的変異、好ましくは、遺伝的変異の導入は、米穀粒においてROS1aポリペプチドの野生型のレベルの生産を減少する又は妨害する何れかの遺伝的操作であり得る。このような遺伝的変異の例は、限定されないが、以下
(a)野生型ROS1aポリペプチド(配列番号2)に対して減少したDNAグリコシラーゼ活性を有する突然変異ROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子;
(b)発現の際、野生型ROS1aポリペプチドの減少したレベルが生じるROS1a遺伝子、例えば、ROS1a遺伝子の発現レベルの低下をもたらすスプライス部位突然変異を含み、配列番号8として提供されるcDNA配列である野生型ROS1a遺伝子に関連する、又はROS1a遺伝子が、野生型のROS1aに対してROS1aの発現減少をもたらす、そのプロモーターにおいての突然変異を含む;
(c)イネのROS1a遺伝子の発現を減少させるポリヌクレオチドをコードする外因性核酸コンストラクト、好ましくは、核酸コンストラクトは、少なくとも開花時~開花後7日の間の時点でイネの発達中の穀粒において発現されるプロモーターに作動的(operably)に接続されたポリヌクレオチドをコードするDNA領域を含む; 及び
(d) 野生型ROS1aポリペプチドに対してトランケートされたポリペプチドをコードするが、産生してもしなくてもよい、遺伝子のようなタンパク質コード領域に未成熟翻訳停止コドンを含むROS1a遺伝子;
を含む。
【0025】
好ましい実施形態において、米穀粒は、(i)糊粉、(ii)デンプン質胚乳、(iii) 野生型ROS1a遺伝子と比較してイネのROS1a遺伝子の活性を減少させる遺伝子変異を含むROS1a遺伝子を含み、ここで、前記遺伝的変異を含む前記ROS1a遺伝子は、配列番号2に対して変異体ROS1aポリペプチドをコードし、及び糊粉が、対応する野生型米穀粒由来の糊粉と比較して肥厚される。一実施形態において、ROS1a遺伝子の遺伝的変異は、導入された遺伝子改変である。好ましい実施形態において、変異体ROS1aポリペプチドは、配列番号2と比較して少なくとも1つ又は複数のアミノ酸の挿入又は欠失、又はアミノ酸置換によって配列番号2として提供される配列とアミノ酸配列が異なる。さらにより好ましい実施形態において、変異体ROS1aポリペプチドは、例えば、表3に記載の一アミノ酸置換等のように、配列番号2と比較して1つ又は複数のアミノ酸の挿入又は単一アミノ酸の置換によって配列番号2として提供される配列とアミノ酸配列が異なる。米穀粒は、例えば、調理されている等のもはや発芽できないように処理されていてもよく、又は発芽及び成長が可能であるように処理をされていなくてもよく、それによって本発明のイネを提供する。最も好ましい実施形態において、米穀粒の糊粉は、例えば米穀粒が本明細書で定義されるクロマイ(黒米)等で着色される。
【0026】
別の好ましい実施形態において、米穀粒は、(i)糊粉、(ii)デンプン質胚乳、(iii)野生型ROS1a遺伝子と比較して、イネにおいてROS1a遺伝子の活性を減少させる遺伝的変異を含むROS1a遺伝子を含み、ここで前記遺伝的変異を含むROS1a遺伝子は、配列番号2等の野生型ROS1aポリペプチドと同じアミノ酸配列であるROS1aポリペプチドをコードし、ここで前記ROS1a遺伝子は、野生型ROS1a遺伝子と比較して減少したレベルでイネにおいて発現され、ここで糊粉は、対応する野生型米穀粒由来の糊粉と比較して肥厚される。一実施形態において、ROS1a遺伝子における遺伝子変異は、ROS1a遺伝子が減少したレベルで発現されるように導入された遺伝子改変である。一実施形態において、遺伝的変異は、(i)配列番号8として提供されるcDNA配列である野生型ROS1a遺伝子に対して、ROS1a遺伝子の減少したレベルの発現をもたらすスプライス部位突然変異、(ii) 野生型ROS1a遺伝子に対してROS1a遺伝子の減少した発現をもたらすROS1a遺伝子プロモーター突然変異、及び(iii) 好ましくはイネの核ゲノムに組み込まれ、イネのROS1a遺伝子の発現を減少させるRNAポリヌクレオチドをコードする外因性核酸分子、からなる群から選択される。米穀粒は、例えば、調理されている等のもはや発芽できないように処理されていてもよく、又は発芽及び成長が可能であるように処理をされていなくてもよく、それによって本発明のイネを提供する。最も好ましい実施形態において、米穀粒の糊粉は、例えば米穀粒が本明細書で定義されるクロマイ(黒米)等で着色される。
【0027】
一実施形態において、イネは、対応する野生型の発達中の穀粒において、DNAグリコシラーゼ活性のレベルの2%~約60%であるDNAグリコシラーゼ活性のレベルを、その発達中の穀粒中に有する。好ましい実施形態において、イネは、対応する野生型発達中の穀粒においてDNAグリコシラーゼ活性のレベルの2%~50%の間、又は2%~40%の間、又は2%~30%の間、又は2%~20%の間である、その発達中の穀粒中のDNAグリコシラーゼ活性のレベルを有する。
【0028】
一実施形態において、イネにおける少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性は、発達中の穀粒の糊粉、果皮、珠心突起(nucellar projection)、子房、種皮及びデンプン質胚乳の1つ又は複数あるいは全てにおいて減少される。
【0029】
一実施形態において、ROS1a遺伝子の活性は、少なくとも開花時期と開花後7日の間及び/又は開花前の卵細胞中で減少される。一実施形態において、外因性核酸分子は、少なくとも開花時期と開花後7日の間の時点で発現されるプロモーターに作動的に接続されてもよく、コードされたRNAポリヌクレオチドがその時間の間にイネのROS1a遺伝子の発現を減少させるようにする。
【0030】
一実施形態において、イネは雄しべ及び雌しべで結実する。
【0031】
一実施形態において、イネは遅延した穀粒成熟を示す。一実施形態において、穀粒成熟は、野生型イネと比較して2~10日又は2~15日遅延される。
【0032】
一実施形態において、穀粒は、対応する野生型穀粒と比較した場合、それぞれの重量に基づき、以下の1つ又は複数あるいは全てを含む、
i) より高いミネラル含量、好ましくは、ミネラル含量は、亜鉛、鉄、カリウム、マグネシウム、リン及びイオウの1つ又は複数あるいは全ての含量である、
ii) より高い抗酸化物質含量、
iii) より高いフィチン酸含量、
iv) 1つ又は複数あるいは全てのビタミンB3、B6及びB9のより高い含量、
v) より高い食物繊維含量及び/又は不溶性繊維含量、
vi) 対応する野生型穀粒のデンプン質含量に対して重量で約90%~約100%の間であるデンプン質含量、
vii) より高いスクロース含量、
viii) より高い単糖含量、及び
ix)対応する野生型穀粒の脂質含量に対して少なくとも90%又は少なくとも100%の脂質含量。一実施形態において、成分の含有量は、対応する野生型米穀粒の含量に対して10~50%又は好ましくは10~100%増加される。
【0033】
一実施形態において、穀粒は、胚を含む。
【0034】
一実施形態において、穀粒は、全穀粒又は砕けた穀粒である。
【0035】
一実施形態において、穀粒は、もはや発芽できないように、好ましくは熱処理によって処理されている。例えば、穀粒は、100℃の湯で少なくとも5分間調理される。一実施形態において、穀粒は、砕けた穀粒であるか、粉砕された穀粒である。
【0036】
別の実施形態において、穀粒は、対応する穀粒の発芽率に対して約70%~約100%の間の発芽率である。すなわち、少なくとも100穀粒の集合体は、野生型と比較して70~100%の平均発芽率を有する。穀粒が、発芽し生長する際、本発明のイネが、産出される。
【0037】
一実施形態において、穀粒は、好ましくは1つ又は複数の穀粒の糊粉、種皮及びデンプン質胚乳において、DNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子を含み、ここでDNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドは、好ましくは突然変異体ROS1aポリペプチドである。
【0038】
他の実施形態において、穀粒は、対応する野生型ROS1aポリペプチドと比較して、イネにおいて発現される減少したDNAグリコシラーゼ活性を有する突然変異体ROS1aポリペプチドを含み、好ましくは、突然変異体ROS1aポリペプチドは、対応するROS1aポリペプチドと比較してDNAグリコシラーゼ活性を減少させる1つ又は複数のアミノ酸置換、欠失又は挿入を含む。突然変異体ROS1aポリペプチドは、穀粒が、DNAグリコシラーゼ活性を有さなくてもよい、ただし、DNAグリコシラーゼ活性を有する別のROS1aを含むことを条件とする。例えば、ROS1a遺伝子は、選択的スプライシングを介して2つのROS1aポリペプチドをコードすることができ、そのうちの一方は、DNAグリコシラーゼ活性を有し、他方は有さない。好ましい実施形態において、突然変異体ROS1aポリペプチドは、例えば、配列番号1として提供されるアミノ酸配列を有する突然変異体ROS1aポリペプチド等の野生型ROS1aポリペプチドと比較して7個のアミノ酸の挿入を有する。
【0039】
さらなる実施形態において、穀粒は、対応する野生型穀粒と比較して、ROS1aポリペプチドの総量が減少し、好ましくは1つ又は複数の穀粒の糊粉、種皮及びデンプン質胚乳において減少する、ただし、穀粒が、DNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子を含むことを条件とする。ROS1aポリペプチドの総量はまた、イネの花粉において減少し得る。
【0040】
他の実施形態において、好ましくは導入された遺伝的変異である遺伝的変異は、イネにおいてROS1a遺伝子の発現を減少させ、好ましくは、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点でイネにおいて減少させる、ポリヌクレオチドをコードする外因性核酸コンストラクトである、ただし、穀粒が、DNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードする少なくとも1つのROS1a遺伝子を含むことを条件とする。
【0041】
一実施形態において、穀粒は、その外層に着色されており、例えば穀粒は、イネの茶色穀粒又は黒色穀粒であり、穀粒は、(i)少なくとも2細胞層、又は2~7細胞層の厚さを有する糊粉、(ii)対応する野生型イネROS1aポリペプチドと比較した場合、DNAグリコシラーゼ活性が減少した1つ又は複数のアミノ酸置換、挿入又は欠失を含むROS1aポリペプチドをコードする突然変異体ROS1a遺伝子を含み、減少したDNAグリコシラーゼ活性が少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点でイネに生じる、ただし、野生型イネと比較して、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点でイネが、発達中の穀粒においてDNAグリコシラーゼ活性の2%~約60%のレベルを有することを条件とする。
【0042】
一実施形態において、穀粒は、その外層に着色されており、例えば穀粒は、イネの茶色穀粒又は黒色穀粒であり、(i)少なくとも2細胞層、又は2~7細胞層の厚さを有する糊粉、及び(ii)イネのROS1a遺伝子の発現を減少させるポリヌクレオチドをコードする外因性核酸コンストラクトを含み、ここで外因性核酸コンストラクトは、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点でイネの発達中の穀粒にて発現されるプロモーターに作動的に接続されたポリヌクレオチドをコードするDNA領域を含み、そのような少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点で、イネは野生型イネと比較して発達中の穀粒中にDNAグリコシラーゼ活性の2%~約60%のレベルを有する。好ましい実施形態において、プロモーターは、恒常的なプロモーター以外のプロモーター、例えば、発達中の種子の胚乳において発現されるプロモーターである。最も好ましい実施形態において、プロモーターは、LTPプロモーターである。
【0043】
他の実施形態において、ROS1aポリペプチドは、配列が配列番号2と少なくとも95%同一であるアミノ酸を含み、又はROS1aポリペプチドは、配列が、配列番号2に対して少なくとも95%同一、少なくとも97.5%同一、又は少なくとも99%同一であるアミノ酸を含み、及びここで配列が、対応する野生型ROS1aポリペプチドのアミノ酸配列と異なる。
【0044】
一実施形態において、ROS1aポリペプチドは、1つ又は複数あるいは全ての以下のモチーフを含む; DHGSIDLEWLR (配列番号44)、GLGLKSVECVRLLTLHH (配列番号45)、AFPVDTNVGRI (配列番号46)、VRLGWVPLQPLPESLQLHLLE (配列番号47)、ELHYQMITFGKVFCTKSKPNCN (配列番号48)及びHFASAFASARLALP (配列番号49)。
【0045】
本発明はまた、米穀粒の個体群(population)を提供し、そのそれぞれは、同じ遺伝的変異、同じROS1a遺伝子、同じROS1aポリペプチド及び/又は上記実施形態で記載した同じ特性を有する。すなわち、個体群は、遺伝的に及び/又は表現型的に均一である。そのような米穀粒の個体群は、単一祖先のイネ又は穀粒から得られることが出来るか、又は由来することができ、例えば、祖先植物又は穀粒由来の少なくとも2世代、少なくとも3世代又は少なくとも4世代の子孫世代に由来してもよい。
【0046】
本発明者達は、減少したDNAグリコシラーゼ活性を有する変異体ROS1aポリペプチドを同定した。従って、別の態様において、本発明は、対応する野生型ROS1aポリペプチドと比較した場合、アミノ酸配列が、対応する野生型ROS1aポリペプチドのアミノ酸配列と異なり且つ、DNAグリコシラーゼ活性が減少した、好ましくは無い、精製及び/又は組換えROS1aポリペプチドを提供する。
【0047】
一実施形態において、精製及び/又は組換えROS1aポリペプチドは、配列番号2に対し少なくとも95%同一、少なくとも97.5%同一、又は少なくとも99%同一である配列を有するアミノ酸を含む。
【0048】
他の態様において、本発明は、本発明のROS1aポリペプチドをコードする単離及び/又は外因性のポリヌクレオチドを提供する。
【0049】
さらなる態様において、本発明は、イネに存在する場合、ROS1a遺伝子の発現を減少させる単離及び/又は外因性ポリヌクレオチドを提供する。
【0050】
当業者は、標的遺伝子の発現を減少させるために使用され得る異なるタイプのポリヌクレオチド、及びこれらのポリヌクレオチドがどのように設計され得るかを熟知している。例は、限定されないが、アンチセンスポリヌクレオチド、センスポリヌクレオチド、触媒ポリヌクレオチド、microRNA、二本鎖RNA (dsRNA)分子又はその加工されたRNA産物を含む。
【0051】
一実施形態において、ポリヌクレオチドは、配列番号7又は8(チミン(T)がウラシル(U)である)の相補体と少なくとも95%同一であり、又は配列番号1又は2として提供されるアミノ酸配列であるROS1aポリペプチドをコードするmRNA相補体に少なくとも95%同一である、少なくとも19個の連続したヌクレオチドを含む、dsRNA分子、又はその加工されたRNA産物である。
【0052】
他の実施形態において、dsRNA分子はmicroRNA(miRNA)前駆体であり及び/又はここでその加工されたRNA産物が、miRNAである。
【0053】
一実施形態において、ポリヌクレオチドは、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点で、イネの発達中の穀粒においてROS1a遺伝子の発現を減少させるために使用される。
【0054】
さらなる態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドをコードする核酸コンストラクト及び/又はベクターを提供し、ここで、核酸コンストラクト又はベクターは、少なくとも開花時期~開花後7日の間の時点で、イネの発達中の穀粒において発現されるプロモーターに作動的に接続されたポリヌクレオチドをコードするDNA領域を含む。
【0055】
さらなる態様において、本発明は、本発明の外因性ポリヌクレオチド、又は本発明の核酸コンストラクト及び/又はベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0056】
一実施形態において、細胞は、例えば米穀粒の細胞、好ましくはイネ糊粉等のイネの細胞である。
【0057】
一実施形態において、外因性ポリヌクレオチド、核酸コンストラクト又はベクターは、細胞ゲノムに、好ましくは核ゲノムに組み込まれる。
【0058】
対応する野生型細胞と比較した場合、細胞において少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性が減少するROS1aポリペプチド及び遺伝的変異、好ましくは導入された遺伝的変異をコードするROS1a遺伝子を含むイネの細胞もまた、提供される。
【0059】
一実施形態において、細胞は、糊粉、果皮、珠心突起、子房、種皮又はデンプン質胚乳である。
【0060】
他の態様において、本発明は、本発明の穀粒、本発明のポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、本発明の核酸コンストラクト及び/又はベクターを生産する及び/又は本発明の細胞を含む、イネ、又はイネの個体群を提供する。一実施形態において、それぞれイネである。
【0061】
野外で生育する本発明のイネの少なくとも100又は少なくとも1,000の個体群も提供される。好ましい実施形態において、野外でのイネは、本発明の大半(> 50%)、好ましくは全て、本発明のイネである。最も好ましい実施形態において、少なくとも100、少なくとも1,000のイネは、遺伝的に及び/又は表現型的に同じであり、例えば、同じ遺伝的変異を含む。
【0062】
他の態様において、本発明は、本発明の細胞の製造方法であって、前記方法は、本発明の外因性ポリヌクレオチド、又は本発明の核酸コンストラクト及び/又はベクターを細胞に、好ましくはイネ細胞に導入する工程を含む、方法を提供する。
【0063】
さらなる態様において、本発明は、本発明のイネ、又はそれからのトランスジェニック穀粒の製造方法を提供することであって、前記方法は、以下の工程を含み;
i)本発明の外因性ポリヌクレオチド、又は本発明の核酸コンストラクト及び/又はベクターをイネ細胞に導入する工程、
ii)工程i)から得られた細胞から、外因性ポリヌクレオチド、核酸コンストラクト又はベクター又はその一部のトランスジェニックである、トランスジェニックイネを得る工程、及び
iii)穀粒が、外因性ポリヌクレオチド、核酸コンストラクト又はベクターにのトランスジェニックである、工程ii)の植物由来の穀粒を任意で収穫する工程、及び
iv)子孫植物が、外因性ポリヌクレオチド、核酸コンストラクト又はベクターである、トランスジェニック穀粒からトランスジェニック子孫植物の1つ又は複数の世代を任意で産生する工程、
それによってイネ又はトランスジェニック穀粒を産生する。
【0064】
他の態様において、本発明は、本発明のイネ又はその穀粒を産生する方法を提供することであって、前記方法は、以下の工程を含み;
i)本発明のROS1aポリペプチドをコードする、又はROS1aポリペプチドをコードしない、突然変異ROS1a遺伝子等の内因性ROS1a遺伝子の変異をイネ細胞に導入する工程、及び
ii)工程i)から得られた細胞由来の内因性ROS1a遺伝子の突然変異を含むイネを得る工程、及び
iii)穀粒が、内因性ROS1a遺伝子の突然変異を含む、工程ii)の植物から任意で穀粒を収穫する工程、及び
iv)子孫植物が、内因性ROS1a遺伝子の突然変異を含む、穀粒由来の子孫植物の1又はそれ以上の世代を任意で産生する工程、
それによってイネ又は穀粒を産生する。
【0065】
一実施形態において、イネ又は穀粒は、DNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードする少なくとも1つのROS1a遺伝子を含む。
【0066】
さらなる態様において、本発明は、本発明のイネ又は米穀粒を選択する方法であって、前記方法は、以下の工程を含む方法を提供する;
i)本発明の穀粒の産生に関し若しくはROS1a遺伝子の突然変異の存在に関し、又は発明の米穀粒の存在に関し、祖先イネ細胞、穀粒若しくは植物の突然変異誘発処理からそれぞれ得られたイネ若しくは穀粒の個体群をスクリーニングする工程、及び
ii)工程(i)の個体群から、本発明の穀粒を産生する若しくは突然変異ROS1a遺伝子を含むイネ、又は本発明の米穀粒である工程(i)の米穀粒を、選択する工程、
それによってイネ又は穀粒を、選択する。
【0067】
前記方法は、選択されたイネから1つ又は複数の子孫植物又は穀粒、又は少なくとも2世代の子孫植物、及び/又は子孫植物から穀粒を収穫する工程を含み得る。好ましくは、子孫植物は、遺伝的変異に関してホモ接合性である。
【0068】
さらなる態様において、本発明は、本発明のイネを選択する方法であって、前記方法は、以下の工程を含む方法を提供する;
i)米穀粒が2つの親のイネの交配に由来しており、米穀粒から1つ又は複数子孫植物を産生する工程、
ii)本発明の穀粒の生産のため、工程i)の1つ又は複数の子孫植物をスクリーニングする工程、及び
iii)穀粒を産生する子孫植物を選択する工程、
それによって、イネを選択する。好ましい実施形態において、米穀粒は、黒米穀粒である。
【0069】
一実施形態において、スクリーニング工程i)又は工程ii)は、1つ又は複数あるいは全ての以下の工程を含む;
i)遺伝的変異に関し子孫植物由来のDNAを含む試料を解析する工程、
ii)子孫植物から得られた穀粒の糊粉の厚さを解析する工程、
iii)穀粒又はその一部の栄養成分を解析する工程。
【0070】
好ましくは、遺伝的変異は、導入された遺伝的変異である。
【0071】
一実施形態において、工程iii)は、1つ又は複数あるいは全ての以下の工程を含む;
i)遺伝的変異に関してホモ接合性である子孫植物を選択する工程、ここで遺伝的変異が、対応する野生型イネと比較した場合、イネにおいてDNAグリコシラーゼ活性を減少させる、
ii)穀粒が、対応する野生型穀粒と比較して、糊粉の厚さが増加する子孫植物を選択する工程、
iii)対応する野生型穀粒又はその一部と比較して、穀粒又はその一部の栄養含有量が変化している子孫植物を選択する工程。
【0072】
さらなる実施形態において、前記方法はさらに以下を含む;
i)2つの親イネを交配する工程、好ましくはここで、1つの親イネが、本発明の穀粒を産生する、
ii)工程i)からの1つ又は複数の子孫植物と本発明の穀粒を産生しない第1の親として同じ遺伝型の植物を、第1の親のイネ植物の遺伝子型の大部分を有するが、本発明の穀粒を産生する植物を産生するために、十分な回数、戻し交配する工程、及び
iii)本発明の穀粒を産生する子孫植物を選択する工程。
【0073】
本発明の方法を用いて製造されたイネ及び米穀粒、並びにそれからの製品もまた、提供される。
【0074】
組換え細胞、トランスジェニックイネ又はトランスジェニック穀粒を産生するための、本発明の外因性ポリヌクレオチド、又は本発明の核酸コンストラクト及び/又はベクターの使用が、さらに提供される。
【0075】
一実施形態において、使用は、本発明の米穀粒を産生することである。
【0076】
さらなる態様において、本発明は、本発明の穀粒を産生するイネを同定するための方法をであって、前記方法は、以下の工程を含む方法を提供する;
i)イネから核酸試料を得る工程、及び
ii)対応する野生型イネと比較した場合、イネにおいてROS1a遺伝子の活性を減少させる遺伝的変異の存在又は不存在のために試料をスクリーニングする工程。
【0077】
一実施形態において、遺伝的変異は、以下の1つ又は両方を含む、
a)イネに存在する場合にROS1a遺伝子の発現を減少させるポリヌクレオチドを発現する核酸コンストラクト又はそれによってコードされるポリヌクレオチド、及び
b)減少したROS1aポリペプチド活性を有する突然変異ROS1aポリペプチドを発現する遺伝子、又はそれによってコードされるmRNA。
【0078】
一実施形態において、遺伝的変異の存在は、遺伝的変異を有さない対応する植物と比較した場合、植物の穀粒が、肥厚した糊粉を有することを示す。
【0079】
さらに他の態様において、本発明は、本発明の穀粒を産生するイネを同定する方法であって、前記方法は、以下の工程を含む方法を提供する;
i)イネから穀粒を得る工程、及び
ii)以下の1つ又は複数の穀粒又はその一部をスクリーニングする工程、
a)肥厚した糊粉、
b)穀粒中のROS1aポリペプチド及び/又は活性の量、及び
c)穀粒中のROS1a遺伝子によってコードされるmRNAの量。
【0080】
一実施形態において、前記方法は、本発明のイネを同定する。
【0081】
他の態様において、本発明は、イネの一部、好ましくは穀粒を産生する方法であって、前記方法は、以下を含む方法を提供する;
a)本発明のイネを栽培する工程、又は少なくとも100固体のイネを野外で栽培する工程、及び
b)イネ由来のイネの一部又はイネを収穫する工程。
【0082】
さらなる態様において、本発明は、得られた穀粒から、イネ粉末(rice flour)、糠(bran)、全粒粉(wholemeal)、モルト(malt)、デンプン又はオイルを産生する方法であって、前記方法は、以下の工程を含む方法を提供する;
a)本発明の穀粒を得る工程、及び
b)粉末、糠、全粒粉、モルト、デンプン又はオイルを産生するために穀粒をプロセシングする工程。
【0083】
他の態様において、本発明は、本発明の穀粒、又は本発明のイネ、又は前記穀粒若しくはイネの一部から産生された製品を提供する。
【0084】
一実施形態において、製品は、ROS1a遺伝子、遺伝的変異(好ましくは導入された遺伝的変異)、外因性核酸コンストラクト及び肥厚した糊粉の1つ又は複数あるいは全てを含む。
【0085】
一実施形態において、その一部は、イネの糠である。
【0086】
一実施形態において、製品は、食品成分、飲料成分、食品製品又は飲料製品である。例は、限定されないが、以下を含む、
i)食品成分又は飲料成分が、全粒粉、粉末、糠、デンプン、モルト及びオイルからなる群から選択され、
ii)食品製品が、発酵させて膨らませたパン又は非発酵パン、パスタ、麺、家畜飼料、朝食用シリアル、スナック食品、ケーキ、ペストリー及び粉末を基にしたソースを含む食品からなる群から選択され、又は
iii)飲料製品が、パックされた飲料又はエタノールを含む飲料である。
【0087】
さらなる態様において、本発明は、本発明の食品又は飲料製品を調製する方法であって、前記方法は、食品又は飲料成分を産生するための、本発明の穀粒、又は穀粒由来の糠、粉末、全粒粉、モルト、デンプン又はオイルをプロセシングする工程を含む方法を提供する。
【0088】
他の態様において、本発明は、本発明の食品又は飲料製品を調製する方法であって、前記方法は、本発明の穀粒、又は穀粒由来の糠、粉末、全粒粉、モルト、デンプン又はオイルを他の食品又は飲料成分と混合する工程を含む方法を提供する。好ましくは、前記方法で使用される糠、粉末、全粒粉、モルト、デンプン又はオイルの重量は、食品製品に対して重量基準で少なくとも10%である。
【0089】
動物飼料若しくは食品として、本発明の穀粒若しくはその一部、又は本発明のイネ若しくはその一部の使用、又は動物が摂取するための飼料若しくはヒトが摂食するための食品を産生することもまた、提供される。
【0090】
さらなる態様において、本発明は、1つ又は複数の本発明のポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、本発明の核酸コンストラクト及び/又はベクター、又は本発明の細胞、及び1つ又は複数の許容された担体を提供する。
【0091】
本発明書中の任意の実施形態は、別段の記載が無い限り、他の何れかの実施形態について準用するものとする。
【0092】
本発明は、例示のみを目的とする本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。機能的に同等な製品、組成物及び方法は、本明細書に記載されているように、明確に本発明の範囲内である。
【0093】
本発明の明細書を通して、別段の記載が無い限り、又は文脈上別途必要な場合を除き、単一の工程、物質の組成物、工程の群又は物質の組成物の群への言及は、それらの工程、物質の組成物、工程の群又は物質の組成物の1つ及び複数(すなわち、1つ又は複数)を包含するものと解釈されるべきである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0094】
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【0095】
本発明は、以下の非限定的な実施例及び添付の図面を参照して以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1】ta2遺伝子のマップベースクローニングの概略図。各線の下の数字は、マーカー及びta2遺伝子との間の組換えを示したマッピング集団における組換え体の数を示す。3行目の実線は、イネ染色体上のコード領域の範囲を示す。4行目の実線は遺伝子中のタンパク質コード領域を示し、介在する線はイントロンを表す(イントロン1は、5'UTRにあり、ここでは示されていない)。アスタリスクは、イネゲノムを参照して、Chr1:6451738の位置でイントロン14におけるta2突然変異の位置を示す。
図2】野生型(WT)遺伝子型及びta2遺伝子型の発達中の穀粒から得られたmRNAに対応するcDNAのヌクレオチド配列。WTにおけるダッシュ及びta2配列のうちの2つは、ヌクレオチドの不存在を示す。大半のta2 mRNAは21個のヌクレオチド挿入を有していた。野生型配列は配列番号10であり、突然変異体配列は配列番号11である。
図3】野生型(上部アミノ酸配列、配列番号12)及びta2(下部アミノ酸配列、配列番号13)の発達中の穀粒から得られたmRNAに対応するcDNAから予測されるアミノ酸配列。WT配列におけるダッシュは、ta2ポリペプチド中の7アミノ酸挿入(CSNVMRQ;配列番号14)とは反対にアミノ酸の欠如を示す。配列下の星は、同じアミノ酸がそれらの位置で野生型及び突然変異ポリペプチドに存在していたことを示す。
図4-1】シロイヌナズナDME(NM001085058.1)、シロイヌナズナROS1a(NM129207.4)及びイネROS1aホモログのアミノ酸配列アライメント。アライメント下のアスタリスクは、3つのポリペプチド全てにおいて保存されているアミノ酸位置を表す。セミコロンは完全に保存的なアミノ酸変化を表す一方、単一ドットは、部分的に保存的なアミノ酸変化を表す。
図4-2】シロイヌナズナDME(NM001085058.1)、シロイヌナズナROS1a(NM129207.4)及びイネROS1aホモログのアミノ酸配列アライメント。アライメント下のアスタリスクは、3つのポリペプチド全てにおいて保存されているアミノ酸位置を表す。セミコロンは完全に保存的なアミノ酸変化を表す一方、単一ドットは、部分的に保存的なアミノ酸変化を表す。
図4-3】シロイヌナズナDME(NM001085058.1)、シロイヌナズナROS1a(NM129207.4)及びイネROS1aホモログのアミノ酸配列アライメント。アライメント下のアスタリスクは、3つのポリペプチド全てにおいて保存されているアミノ酸位置を表す。セミコロンは完全に保存的なアミノ酸変化を表す一方、単一ドットは、部分的に保存的なアミノ酸変化を表す。
図4-4】シロイヌナズナDME(NM001085058.1)、シロイヌナズナROS1a(NM129207.4)及びイネROS1aホモログのアミノ酸配列アライメント。アライメント下のアスタリスクは、3つのポリペプチド全てにおいて保存されているアミノ酸位置を表す。セミコロンは完全に保存的なアミノ酸変化を表す一方、単一ドットは、部分的に保存的なアミノ酸変化を表す。
図5-1】シロイヌナズナROS1a(NM129207.4)及びイネROS1aホモログのアミノ酸配列アライメント。アライメント下のアスタリスクは、3つのポリペプチドの全てにおいて保存されているアミノ酸位置を示す。セミコロンは、完全に保存的なアミノ酸変化を表す一方、単一ドットは部分的に保存的なアミノ酸変化を表す。
図5-2】シロイヌナズナROS1a(NM129207.4)及びイネROS1aホモログのアミノ酸配列アライメント。アライメント下のアスタリスクは、3つのポリペプチドの全てにおいて保存されているアミノ酸位置を示す。セミコロンは、完全に保存的なアミノ酸変化を表す一方、単一ドットは部分的に保存的なアミノ酸変化を表す。
図5-3】シロイヌナズナROS1a(NM129207.4)及びイネROS1aホモログのアミノ酸配列アライメント。アライメント下のアスタリスクは、3つのポリペプチドの全てにおいて保存されているアミノ酸位置を示す。セミコロンは、完全に保存的なアミノ酸変化を表す一方、単一ドットは部分的に保存的なアミノ酸変化を表す。
図6】複数の組織におけるTA2遺伝子の相対発現を示すリアルタイムRT-PCRの結果。
【発明を実施するための形態】
【0097】
シーケンスリストの要点
配列番号1 - イネROS1a突然変異体(Ta2)ポリペプチド。
配列番号2 - 野生型イネROS1aポリペプチド。
配列番号3 - 野生型イネROS1bポリペプチド。
配列番号4 - 野生型イネROS1cポリペプチド。
配列番号5 - 野生型イネROS1dポリペプチド。
配列番号6 - シロイヌナズナDEMETER ポリペプチド。
配列番号7 -イネROS1a突然変異体(Ta2)ポリペプチドをコードする全長cDNA。オープンリーディングフレームは、ヌクレオチド341~6220にわたる。
配列番号8 -イネROS1aポリペプチドをコードする全長cDNA。オープンリーディングフレームは、ヌクレオチド341~6199にわたる。
配列番号9 - イネROS1a遺伝子。プロモーター及び5’UTR: ヌクレオチド1-4726、翻訳開始コドンATG 4727-4729; 翻訳停止コドンTAG 15867-15869; 15870-16484からの3’-UTR、16485-16885からの遺伝子のダウンストリーム。イントロンのヌクレオチドの位置は、イントロン1、7494-7724; 2、7816-7909; 3、9426-9571; 4、9652-10452; 5、10538-10628; 6、10721-10795; 7、10865-10951; 8、10989-11069; 9、11153-11834; 10、12282-12385; 11、12423-12508; 12、12567-12650; 13、12791-13017; 14、13084-13201; 15、13317-14668; 16、14708-15732.-11006である。配列は、遺伝子の一部を形成しない3 '末端に401ヌクレオチドを含む。
配列番号10 -野生型イネROS1a cDNA配列の一部を図2に示す。
配列番号11 -突然変異体(Ta2)イネROS1a cDNA配列の一部を図2に示す。
配列番号12 -野生型イネROS1a タンパク質配列の一部を図3に示す。
配列番号13 -突然変異体(Ta2)イネROS1a タンパク質配列の一部を図3に示す。
配列番号14 -野生型(配列番号2)と比較した場合のROS1a突然変異体(Ta2)ポリペプチド中の追加のアミノ酸。
配列番号15~43 - オリゴヌクレオチドプライマー。
配列番号44~49 -野生型イネROS1aポリペプチドのグリコシラーゼドメイン内の高度に保存されたアミノ酸モチーフ。
配列番号50 -シロイヌナズナROS1aポリヌクレオチド。
【0098】
一般的な技術と定義
特記しない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有すると解釈されるべきである(例えば、細胞培養、分子遺伝学、植物分子生物学、タンパク質化学、及び生化学において)。
【0099】
特に示唆しない限り、本発明において利用される組換えタンパク質、培養細胞及び免疫学的技術は、当業者に周知の標準的な手順である。このような技術は、例えば、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown (編集), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D.M. Glover and B.D. Hames (編集), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)、並びにF.M. Ausubel et al. (編集), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988, 現在までの全ての更新を含む)、Ed Harlow and David Lane (編集) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988)、並びにJ.E. Coligan et al. (編集) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons (現在までの全ての更新を含む) 等の出典の文献を通じて記述され、説明される。
【0100】
用語「及び/又は」、例えば「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」を意味すると理解され、両方の意味又はいずれかの意味を明示的に支持するために用いられる。
【0101】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、逆のことを述べない限り、+/- 10%、より好ましくは、+/- 5%、より好ましくは、+/- 2.5%、さらにより好ましくは、+/- 1%の指定された値を参照する。
【0102】
本明細書を通して、用語「含む」、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」等の変異は、記載された要素、整数(integer)若しくは工程、又は要素の群、整数若しくは工程(複数形)の包含を意味すると理解され得、何れかの要素、整数若しくは工程、又は要素の群、整数若しくは工程(複数形)を除外するものではない。
【0103】
選択された定義
用語「糊粉」及び「糊粉層」は、本明細書において、互換的に使用される。糊粉層は、デンプン質胚乳と異なり、米穀粒の胚乳の最外層であり、デンプン質胚乳及び胚の一部を取り囲んでいる。従って、糊粉層を構成する細胞は、穀粒のデンプン質成分である胚乳の最外層の細胞である。それは、技術的に胚乳の一部であり、外胚乳(peripheral endosperm)と呼ばれることもあるが、糊粉は、糠の果皮及び種皮と共に取り除かれるので、実用的な観点から糠の一部と考慮される。デンプン質胚乳の細胞とは異なり、糊粉細胞は、穀粒登熟時に活動を続ける。糊粉層は、ミネラル、ビタミンA及びビタミンB群等のビタミン、植物性化学物質、及び繊維を含む米穀粒の栄養価の重要な部分である。
【0104】
本発明の実施形態は、本発明の穀粒の何れか1つの横断面点において、横断面内、又は横断面間の何れかの単一点で観察される細胞の層は、ある程度変化し得るため、少なくとも部分的には、範囲内の数の「細胞の層」に関連する。より具体的には、例えば7層の細胞を有する糊粉層は、内部のデンプン質胚乳全体を取り囲む7つの層を有し得ないが、内部のデンプン質胚乳の少なくとも半分を取り囲む7つの層を有する。
【0105】
本発明の穀粒の糊粉に関して使用される場合、用語「肥厚した」は、本発明の穀粒に対応する野生型穀粒と比較する際に使用される相対的な用語である。本発明の穀粒の糊粉は、対応する野生型穀粒の糊粉と比較した場合、細胞数の増加及び/又は細胞層の増加を有する。従って、糊粉は、μmで測定された場合、厚さを増加させる。一実施形態において、厚さは、少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%増加し、及び500%又は600%と同程度増加させることができ、各パーセンテージは、対応する野生型穀粒の糊粉の厚さに関連しており、及び各パーセンテージは、穀粒の腹側、好ましくは穀粒全体にわたる平均の増加であると解する。一実施形態において、糊粉層の厚さは、穀粒の横断面全体にわたって決定される。一実施形態において、糊粉の厚さは、少なくとも穀粒の腹側の解析によって決定される。一実施形態において、本発明の穀粒の肥厚した糊粉は、糊粉が一般的に規則正しく配向した短い細胞を有する対応する野生型穀粒のものと比較して、様々なサイズ及び不規則な配向の細胞を含む。
【0106】
ポリペプチド
本明細書で使用される場合、用語「ROS1ポリペプチド」は、配列番号1~5のアミノ酸配列において関連するDNAグリコシラーゼ関連分子のタンパク質ファミリーのメンバーを指し、それらは配列番号1~5に記載のアミノ酸配列の1つ又は複数と少なくとも95%同一であることを意味する。ROS1ポリペプチドは、野生型イネのROS1a、ROS1b、ROS1c及びROS1dポリペプチド(天然に存在する変異体及びその突然変異体を含む)を含む。ROS1ポリペプチドは、野生型イネに見いだされるようなポリペプチド、並びに、その人工的に産生される又は天然に見出される、例えばインディカ及びジャポニカイネの何れかに見られるような、何れかの変異体を含み、及びDNAグリコシラーゼ活性を有するが対応する野生型ROS1ポリペプチドと比較した場合減少したレベルを有する、ROS1ポリペプチドを含むDNAグリコシラーゼ活性を有するか又は有さないかの何れかである。野生型イネのROS1ポリペプチドの例は、配列番号2~5の1つに記載のアミノ酸配列を有するもの、並びに配列番号2~5に記載された1つ又は複数のアミノ酸配列と少なくとも95%、少なくとも97%、又は少なくとも99%の同一性であるアミノ酸配列を有する変異体ポリペプチド及び自然に見出されるROS1ポリペプチドを含む。本明細書で使用される場合、ROS1ポリペプチドは、配列番号1~5のアミノ酸配列において95%よりもっと少ない、DNAグリコシラーゼ関連ファミリーであるDemeter(DME)ポリペプチドを含まない。
【0107】
本明細書で使用される場合、用語「ROS1aポリペプチド」は、アミノ酸配列が、配列番号2と少なくとも95%同一であり、好ましくは配列番号2と少なくとも97%又はより好ましくは少なくとも99%同一である、DNAグリコシラーゼ関連分子を意味する。配列番号2に対して必要なレベルのアミノ酸配列同一性を有するならば、ROS1aポリペプチドは、人工的に又は自然の何れかで産生され、及びDNAグリコシラーゼ活性を有する又は有さない、野生型イネに見出されるポリペプチド並びにその変異体を含む。例えば、配列が配列番号1として提供されるROS1aポリペプチドは、DNAグリコシラーゼ活性を有さないと考えられ、それは本明細書で定義されるROS1aポリペプチドである。好ましい実施形態において、ROS1aポリペプチドは、いくつかのDNAグリコシラーゼ活性を有するが、アミノ酸配列が配列番号2として提供される野生型ROS1aポリペプチドと比較して減少したレベルである。例えば、表3は、低下したDNAグリコシラーゼ活性を有すると考えられるROS1a突然変異体ポリペプチドを列挙する。
【0108】
当業者は、例えば、in silico系統発生解析又はタンパク質アライメントを用いることで、他のROS1ポリペプチド、具体的にはROS1b、ROS1c及びROS1dポリペプチドなどの他の構造的に関連するタンパク質からROS1aポリペプチドを区別するための既知の技術を容易に使用することが出来る。従って、ROS1aポリペプチドは、構造的特徴のみに基づいてROS1aポリペプチドとして同定することが出来る。例えば、本明細書の図4及び図5参照。本発明のROS1aポリペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する1つ等の野生型ROS1aポリペプチドと比較した場合、DNAグリコシラーゼ活性を有する場合又は有しない場合、又はDNAグリコシラーゼ活性が減少する場合がある。
【0109】
本明細書で使用される場合、用語「配列は、対応する野生型ROS1aポリペプチドのアミノ酸配列と異なる」、又は同様のフレーズは、本発明のROS1aポリペプチドのアミノ酸配列が、それが由来する及び/又は天然に存在する最も密接に関連するタンパク質のアミノ酸配列と異なる比較用語である。一実施形態において、ROS1aポリペプチドのアミノ酸配列は、対応するアミノ酸配列に対して1つ又は複数の挿入、欠失又はアミノ酸置換(又はこれらの組み合わせ)を有する。ROS1aポリペプチドは、対応する野生型ROS1aポリペプチドと比較して、2、3、4、5又は6~10個のアミノ酸置換を有し得る。好ましい実施形態において、ROS1aポリペプチドは、対応する野生型ポリペプチドと比較して、単一の挿入、単一の欠失又は単一のアミノ酸置換のみを有する。これに関連して、「単一挿入」及び「単一欠失」には、複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)の連続したアミノ酸がそれぞれ挿入又は欠失される場合が含まれ、及び「対応する野生型ポリペプチド」は、変異体が由来する野生型ポリペプチド及び/又は変異体が最も密接に関連する天然のポリペプチドを意味する。ROS1aポリペプチドは、例えば、それが由来する野生型ROS1a遺伝子と比較してタンパク質オープンリーディングフレーム中に不成熟翻訳停止コドンを含むROS1a遺伝子等の不完全なポリペプチドであってもよく、又はROS1aポリペプチドは、完全量、すなわち、対応する野生型ROS1aポリペプチドと同じ数のアミノ酸残基を有し得る。天然に存在する(野生型)ROS1aポリペプチドの例は、そのアミノ酸配列が配列番号2として示されているものであり、及び単一の挿入、欠失又はアミノ酸置換のみを有する変異体ROS1aポリペプチドの例を配列番号1及び表3に示す。
【0110】
本明細書で使用される場合、用語「DNAグリコシラーゼ活性」は、塩基切断修復に関与する酵素を指す(EC番号EC 3.2.2に分類される)。酵素は、典型的に、DNAリアーゼ活性も有し、DNAリアーゼ活性において、DNA塩基が切り取られ、骨格DNA鎖が切断される。一実施形態において、本明細書にて使用される「DNAグリコシラーゼ活性」は、5-メチルシトシン残基を切り取り、非メチル化シトシンで置換された活性脱メチル化に関する。好ましい実施形態において、DNAグリコシラーゼ活性を有する本発明のROS1aポリペプチドは、少なくとも5つの同定可能なモチーフを有する。1つは、ヘリックス-ヘアピン-ヘリックス(HhH)モチーフ(例えば、配列番号2のアミノ酸1491~1515又は相同なアミノ酸配列)である。他のものは、保存されたアスパラギン酸(GPD)が続くグリシン/プロリンに富むモチーフ、及び[4Fe-4S]クラスターを適所に保持するための4つの保存されたシステイン残基(配列番号2のアミノ酸1582-1598の領域内)である。リジンリッチドメイン(例えば、配列番号2のアミノ酸87~139又は相同なアミノ酸配列)、も存在する。HhH DNAグリコシラーゼススーパーファミリーメンバーの他のメンバーとは異なり、ROS1aポリペプチドファミリーメンバーは、中央のグリコシラーゼドメインに隣接する2つのさらなる保存ドメイン(ドメインA及びB)を含む。イネROS1aポリペプチド(配列番号2)において、ドメインAはアミノ酸859~965で生じ、グリコシラーゼドメインはアミノ酸1403~1616で生じ、及びドメインBは、アミノ酸1659~1933で生じる。ドメインAは、アミノ酸882-892に反復混合チャージクラスターを含む。DNAグリコシラーゼ活性を、実施例8に記載されるような当技術分野で公知の標準技術を用いて測定することが出来る。
【0111】
野生型イネROS1aポリペプチドのグリコシラーゼドメイン内の高度に保存されたアミノ酸モチーフは、DHGSIDLEWLR (配列番号44、配列番号2中のアミノ酸1467-1477)、GLGLKSVECVRLLTLHH (配列番号45、配列番号2中のアミノ酸1493-1509)、AFPVDTNVGRI (配列番号46、配列番号2中のアミノ酸1511-1521)、VRLGWVPLQPLPESLQLHLLE (配列番号47、配列番号2中のアミノ酸1523-1543)、ELHYQMITFGKVFCTKSKPNCN (配列番号48、配列番号2中のアミノ酸1569-1590)及びHFASAFASARLALP (配列番号49、配列番号2中のアミノ酸1600-1613)を含む。1つ又は2つのアミノ酸置換がこれらのモチーフに存在してもしなくてもよい。他の保存されたアミノ酸は、野生型イネROS1a(配列番号2)のアミノ酸配列をシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のDMEポリペプチド(配列番号6)及び/又はシロイヌナズナROS1aポリペプチドとアライメントすることによって容易に同定することが出来る(図4及び図5参照)。保存されたアミノ酸の同定に関するさらなる指針を、Kapazoglou et al. (2012)から得ることが出来る。
【0112】
本明細書で使用される場合、用語「対応する野生型ROS1aポリペプチドと比較してDNAグリコシラーゼ活性を減少させる」、「対応する野生型ROS1aポリペプチドと比較した場合、DNAグリコシラーゼ活性を減少させた、好ましくは無い」、又は同様のフレーズは、変異体/突然変異体ROS1aポリペプチドのDNAグリコシラーゼ活性が、天然に存在するものに由来する及び/又は最も密接に関連するタンパク質よりも低い想定的な用語である。例えば、当業者が理解し得るように、本明細書に記載のイネTa2突然変異体(配列番号1)は、対応する野生型ROS1aポリペプチド(配列番号2)と比較した場合、DNAグリコシラーゼ活性を減少させた。減少されたDNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドの他の例は、配列番号2のアミノ酸番号156に対応するアミノ酸位置のセリンをフェニルアラニン等の別のアミノ酸で置換すること、配列番号2のアミノ酸番号214に対応するアミノ酸位置のセリンをフェニルアラニン等の別のアミノ酸で置換すること、配列番号2のアミノ酸番号1413に対応するアミノ酸位置のセリンをアスパラギン等の別のアミノ酸で置換すること、配列番号2のアミノ酸番号441に対応するアミノ酸位置のアラニンをバリン等の別のアミノ酸で置換すること、配列番号2のアミノ酸番号1357に対応するアミノ酸位置のセリンをフェニルアラニン等の別のアミノ酸で置換すること、配列番号2のアミノ酸番号501に対応するアミノ酸位置のリシンをセリン等の別のアミノ酸で置換すること、及び配列番号2のアミノ酸番号482に対応するアミノ酸位置のアルギニンをリシン等の別のアミノ酸で置換すること、等の肥厚した糊粉を付与する、表3に記載のアミノ酸に対応する突然変異/変異を含む。特に好ましい実施形態において、卵細胞及び初期の種子発生におけるDNAグリコシラーゼ活性の欠如がイネ植物にとって致死であることを示唆する根拠があるため、穀粒は、少なくともいくらかのDNAグリコシラーゼ活性、好ましくはいくらかのROS1a DNAグリコシラーゼ活性を有する。一実施形態において、穀粒は、穀粒中のDNAグリコシラーゼ活性を減少させる遺伝的変異(好ましくは導入された変異)を欠いている対応する同質遺伝子的植物からの穀粒と比較した場合、約30%~98%の間、又は約40%~98%の間、又は約40%~90%の間、又は約40%~85%の間、又は約40%~80%の間のより少ないDNAグリコシラーゼ活性を有する。
【0113】
「実質的に精製されたポリペプチド」又は「精製されたポリペプチド」とは、脂質、核酸、他のペプチド、及びそれが天然状態で結合している他の混入分子から一般に分離されたポリペプチドを意味する。好ましくは、実質的に精製されたポリペプチドは、それが天然に結合している他の成分を少なくとも90%含まない。一実施形態において、本発明のポリペプチドは、天然に存在するROS1aポリペプチドとは異なるアミノ酸配列、すなわち、上記で定義したアミノ酸配列変異体を有する。
【0114】
本発明の穀粒、植物及び宿主細胞は、本発明のポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドを含み得る。これらの場合、穀粒、植物及び細胞は組換えポリペプチドを産生する。ポリペプチドという観点から、用語「組換え」は、細胞によって産生された場合、ポリヌクレオチドが、例えば形質転換等の組換えDNA又はRNA技術によって細胞に又は前駆細胞に導入されている、外因性ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを指す。典型的に、細胞は、変化した量のポリペプチドを産生させる非内因性遺伝子を含む。一実施形態において、「組換えポリペプチド」は、植物細胞において外因性(組換え)ポリヌクレオチドの発現によって作製されたポリペプチドである。
【0115】
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、一般的に互換的に用いられる。
【0116】
ポリペプチドの%同一性は、ギャップ精製ペナルティ=5、及びギャップ伸長ペナルティ=3を有するGAP(Needleman and Wunsch, 1970)解析(GCGプログラム)によって決定される。クエリー配列は長さが少なくとも1,000アミノ酸であり、GAP解析は少なくとも1,000アミノ酸の範囲にわたって2つの配列をアラインさせる。より好ましくは、クエリー配列は少なくとも1,250アミノ酸長であり、GAP解析は少なくとも1,250アミノ酸の範囲にわたって2つの配列をアラインさせる。より好ましくは、クエリー配列は少なくとも1,500アミノ酸長であり、GAP解析は少なくとも1,500アミノ酸の範囲にわたって2つの配列をアラインさせる。さらにより好ましくは、GAP解析は、その全長にわたって2つの配列をアラインさせ、ROS1aポリペプチドについては約1,800~2,100アミノ酸残基である。
【0117】
定義されたポリペプチドに関しては、上記で提供されたものよりも高い同一性%が好ましい実施形態を包含することが理解されるであろう。故に、適応可能であれば、%同一性の最小の値に関し、ポリペプチドが、関連する指定された配列番号に対し、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.1%、より好ましくは少なくとも99.2%、より好ましくは少なくとも99.3%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、さらにより好ましくは少なくとも99.9%同一性のアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0118】
本明細書で使用される場合、フレーズ「アミノ酸番号に対応する位置で」又はその変異は、周囲のアミノ酸と比較したアミノ酸の相対位置を指す。その際、いくつかの実施形態において本発明のポリペプチドは、例えば配列番号2に対してアラインした際、アミノ酸の相対的な位置を変更する欠失又は置換突然変異を有し得る。2つの密接に関連するタンパク質の間の対応するアミノ酸位置を決定することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0119】
本発明のポリペプチドのアミノ酸配列突然変異体を、本発明の核酸に適切なヌクレオチド変化を導入することによって、又は所望のポリペプチドのin vitro合成によって調製することが出来る。そのような突然変異体は、例えば、アミノ酸配列内の残基の欠失、挿入又は置換を含む。欠失、挿入及び置換の組合せを最終コンストラクトに到達させるために行うことが出来る、ただし、最終的なペプチド産物が、所望の特性を有することを条件とする。好ましいアミノ酸配列突然変異体は、リファレンス野生型ポリペプチドと比べて1、2、3、4又は10未満のアミノ酸変化のみを有する。本発明の突然変異体ポリペプチドは、対応する野生型天然ROS1aポリペプチド(例えば、配列番号2として記載される配列を有するアミノ酸を含むポリペプチド)と比較した場合、「ROS1aポリペプチド活性」が減少されている。
【0120】
突然変異体(変更された)ポリペプチドは、当該分野で公知の任意の技術、例えば、指向性進化(directed evolution)又は合理的設計戦略(rational design strategies)(以下を参照)を用いて調製することが出来る。突然変異/改変DNAに由来する生成物は、配列番号2として提供される配列を有するアミノ酸を含むROS1aポリペプチドの1つ又は複数あるいは全てと比較した場合、本明細書に記載の技術を用いて容易にスクリーニングされ得、減少したDNAグリコシラーゼ活性等のROS1aポリペプチド活性を減少させたかを決定することが出来る。例えば、前記方法は、突然変異/改変DNAを発現するトランスジェニック植物を産生し、i)糊粉の厚さに対する突然変異/改変DNAの効果及びii)ROS1a遺伝子が突然変異/改変されているかどうかを決定することを含むことが出来る。
【0121】
アミノ酸配列突然変異体の設計において、突然変異部位の位置及び突然変異の性質は、改変される特性に依存する。突然変異のための部位を、例えば、(1)非保存的アミノ酸選択で置換すること、(2)標的残基を欠失させること、又は(3)他の残基をその部位に隣接して挿入することによって個々に又は連続で改変することが出来る。
【0122】
アミノ酸配列の欠失は、一般に、約1~15残基、より好ましくは約1~10残基及び典型的には約1~5連続残基の範囲である。
【0123】
置換突然変異体は、ポリペプチド分子中の少なくとも1個のアミノ酸残基が除去され、その代わりに異なる残基が挿入されている。一定の活動を維持すること、又は一定の活動を減らすことが望ましくない場合、特に関連するタンパク質ファミリーにおいて高度に保存されているアミノ酸位置で、非保存的置換を行うことが好ましい。保存的置換の例を表1に示すため、非保存的置換は表1に示されていない置換である。
【0124】
一実施形態において、突然変異体/変異体ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドと比較して、1つ又は2つ又は3つ又は4つのアミノ酸変化を有する。好ましい実施形態において、変化は、本明細書で提供される異なるROS1aポリペプチド間、特に既知の保存された構造ドメイン間で高度に保存されている1つ又は複数のモチーフである。当業者であれば分かるように、そのような変化は、細胞内で発現された場合、ポリペプチドの活性を変化させると合理的に予測され得る。
【0125】
本発明のポリペプチドの一次アミノ酸配列は、密接に関連する酵素、特にDNAグリコシラーゼとの比較に基づいて、その変異体/突然変異体を設計するために使用され得る。当業者が認識するように、密接に関連するタンパク質の中で高度に保存された残基は、特に非保存的置換よりも改変されやすく、保存されていない残基よりも活性が低下する可能性が高い(上記参照)。
【0126】
表1. 保存的置換
【表1】
【0127】
また、合成後に、例えばその活性を調節することができるリン酸化によって、細胞内で翻訳後修飾によって差次的に修飾された本発明のポリペプチドも本発明の範囲内に含まれる。
【0128】
ポリヌクレオチド及び遺伝子
本発明は、種々のポリヌクレオチドに関する。本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」又は「核酸分子」は、DNA又はRNAであり得るヌクレオチドのポリマーを意味し、ゲノムDNA、mRNA、cRNA、dsRNA及びcDNAを含む。これは、例えば、自動合成機上で作製された細胞性、ゲノム性又は合成由来のDNA若しくはRNAであってもよく、及び炭水化物、脂質、タンパク質若しくは他の原料を組み合わされてもよく、蛍光若しくは他の基で標識されてもよく、又は本明細書で定義した特定の活動を実施するため個体支持体に結合されてもよく、当業者に周知の、天然には見出されない1つ又は複数の改変されたヌクレオチドを含んでもよい。ポリマーは、一本鎖、本質的に二本鎖又は部分的に二本鎖であってもよい。本明細書で使用される塩基対形成は、G:U塩基対を含むヌクレオチド間の標準的な塩基対形成を意味する。「相補的」は、2つのポリヌクレオチドが、それらの長さの一部に沿って、又は一方若しくは両方の全長に沿って塩基対形成(ハイブリダイゼーション)することが出来ることを意味する。「ハイブリダイズしたポリヌクレオチド」は、ポリヌクレオチドが実際にその相補体に塩基対形成されていることを意味する。用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書において、用語「核酸」と互換的に用いられる。本発明の好ましいポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードする。
【0129】
「単離されたポリヌクレオチド」とは、ポリヌクレオチドが自然界に存在する場合、その天然状態で結合又は連結しているポリヌクレオチド配列から一般に分離されたポリヌクレオチドを意味する。好ましくは、単離されたポリヌクレオチドは、天然に存在する場合、それが天然に結合している他の成分から少なくとも90%が遊離している。好ましくは、ポリヌクレオチドは、例えば、自然では見られない様式(キメラポリヌクレオチド)で2つのより短いポリヌクレオチド配列を共有結合させることによって、自然に生じない。
【0130】
本発明は、遺伝子活性の減少及びキメラ遺伝子の構築及び使用を含む。本明細書で使用される場合、用語「遺伝子」は、タンパク質コード領域を含む又は翻訳されないが細胞内で転写される何れかのデオキシリボヌクレオチド配列、並びに関連する非コード領域及び調節領域を含む。そのような関連領域は、典型的には、何れかの側で約2kbの距離の5'及び3'末端の両方のコード領域又は転写領域に隣接して位置する。その際、遺伝子は、プロモーター、エンハンサー、一定の遺伝子と自然に連結する終結及び/又はポリアデニル化シグナル等のコントロールシグナル、又は異種のコントロールシグナルを含み得、その場合、遺伝子は、「キメラ遺伝子」と呼ばれる。コード領域の5'に位置し、mRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3'又は下流に位置し、mRNA上に存在する配列は3'非翻訳配列と呼ばれる。用語「遺伝子」は、cDNA及びゲノム形態の遺伝子の両方を包含する。
【0131】
「対立遺伝子」は、細胞、個々の植物又は個体群内の遺伝子配列(遺伝子等)の特定形態の1つ、少なくとも1つの配列において同じ遺伝子の他の形態と異なる特定の形態、及び1つ以上の頻度で遺伝子の配列内の変異体部位、を指す。異なる対立遺伝子間で異なるこれらの変異体部位の配列は、「相違」又は「多型」と呼ばれる。本明細書中で使用される「多型」は、本発明の遺伝子座における対立遺伝子間、植物の異なる種、栽培品種、系統又は個体間のヌクレオチド配列の変異を示す。「多型位置」は、配列相違が生じる遺伝子の配列内の予め選択されたヌクレオチド位置である。いくつかの場合において、遺伝子多型は、遺伝子によってコードされるポリペプチド内のアミノ酸配列変化を引き起こし、従って、多型位置は、ポリペプチドの配列における所定の位置のアミノ酸配列における多型の位置をもたらし得る。他の場合において、多型領域は、遺伝子の非ポリペプチドコード領域、例えばプロモーター領域に存在し得、それによって遺伝子の発現レベルに影響を与え得る。典型的な多型は、欠失、挿入又は置換である。これらは、単一のヌクレオチド(一塩基多型又はSNP)又は2つ以上のヌクレオチドを含み得る。
【0132】
本明細書で使用される場合、「突然変異」は、植物又はその一部において表現型の変化を生じる多型である。当技術分野で知られているように、いくつかの多型はサイレント(silent)であり、例えば、遺伝子コードの重複が原因でコードされたポリペプチドのアミノ酸配列が変化しないタンパク質コード領域における単一のヌクレオチド変化である。二倍体植物は、典型的には、単一遺伝子の1つ又は2つの異なる対立遺伝子を有するが、遺伝子の両方のコピーが同一である場合には1つのみ、すなわち植物は対立遺伝子に対してホモ接合性である。倍数体植物は、一般に、特定の遺伝子の何れかのホモログを2つ以上有する。例えば、六倍体コムギは、A、B、及びDゲノムと呼ばれる3つのサブゲノム(多くの場合、「ゲノム」と呼ばれる)を有し、従って、A、B及びDゲノムのそれぞれに1つの遺伝子の大部分の3つのホモログを有する。
【0133】
本明細書で使用される場合、用語「ROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子」又は「ROS1a遺伝子」は、本明細書で定義されるROS1aポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を指す。ROS1a遺伝子は、内因性の天然に存在する遺伝子であってもよく、又は本明細書で定義される遺伝子の変異(好ましくは導入された遺伝子変異)を含んでもよい。本発明の穀粒中のROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子は、イントロンを有していても有していなくてもよい。一実施例において、本発明の穀粒はイネ由来であり、ROS1a遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子は、対応する野生型イネ由来のROS1aポリペプチドと比較した場合、減少されたDNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドをコードする(例えば、配列番号2で提供されるようなアミノ酸配列を含むもの等)。減少されたDNAグリコシラーゼ活性を有する、このようなROS1aポリペプチドの例は、イネTa2突然変異体(配列番号1)である。
【0134】
本明細書で使用される場合、フレーズ「又はROS1a遺伝子の不活性化」又は「ROS1a遺伝子の発現の減少」又はその変異は、機能的ROS1aポリペプチドをコードする遺伝子の発現を減少させる(部分的に)又は完全に妨げる何れかの遺伝的変異を指す。そのような遺伝的変異は、転写される遺伝子の転写を減少させる、例えば、ROS1a遺伝子のプロモーターからヌクレオチドを欠失又は置換する遺伝子編集、又はスプライシングの量又は位置を変えてmRNAを形成するイントロンスプライシング突然変異を用いることによる、遺伝子のプロモーター領域における突然変異を含む。
【0135】
転写領域を含む遺伝子のゲノム形態又はクローンは、「イントロン」又は「介在領域」又は「介在配列」と呼ばれる非コード配列で中断されてもよく、これは、遺伝子の「エキソン」に関して相同又は異種の何れかであってもよい。本明細書で使用する場合、「イントロン」は、一次RNA転写物の一部として転写されるが、成熟mRNA分子には存在しない遺伝子のセグメントである。イントロンは、核又は一次転写産物から除去又は「スプライスアウト」される; 従って、イントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)には存在しない。本明細書で用いられる場合、「エキソン」は、RNA分子が翻訳されない場合に、成熟mRNA又は成熟RNA分子中に存在するRNA配列に対応するDNA領域を指す。mRNAは、新生ポリペプチド中のアミノ酸の配列又は順序を特定するために翻訳中に機能する。用語「遺伝子」は、本明細書に記載の発明のタンパク質の全部又は一部及び上記の何れか1つに対して相補的なヌクレオチド配列をコードする合成又は融合分子を含む。遺伝子は、細胞内、又は好ましくは宿主ゲノムへの組み込みのための染色体外の維持のための適切なベクターに導入され得る。
【0136】
本明細書で使用される場合、「キメラ遺伝子」は、自然に結合していることを見出せない共有結合配列を含む何れかの遺伝子を指す。典型的には、キメラ遺伝子は、自然には一緒には見出されない調節及び転写又はタンパク質コード配列を含む。従って、キメラ遺伝子は、異なるソースに由来する調節配列及びコード配列、又は同じソースに由来するが自然界に見られるのとは異なる方法で配置された制御配列及びコード配列を含み得る。一実施形態において、ROS1a遺伝子のタンパク質コード領域は、ROS1a遺伝子に対して異種であるプロモーター又はポリアデニル化/ターミネーター領域に作動的に接続され、それによってキメラ遺伝子を形成する。別の実施形態において、穀粒のROS1aポリペプチドの産生及び/又は活性を下方制御するポリヌクレオチドをコードする遺伝子は、イネの穀粒中に存在する場合、ポリヌクレオチドに対して異種であるプロモーター又はポリアデニル化/ターミネーター領域に作動的に接続され、それによってキメラ遺伝子を形成する。
【0137】
本明細書で使用される場合、用語「内因性」は、試験中の植物と同じ発達段階で未改変の植物中に通常存在するか、又は産生される物質を指すために使用される。「内因性遺伝子」とは、生物のゲノムにおいて自然の位置にある天然の遺伝子を指す。本明細書で使用される場合、「組換え核酸分子」、「組換えポリヌクレオチド」又はそれらの変異は、組換えDNA技術によって構築又は改変された核酸分子を指す。用語「外来ポリヌクレオチド」又は「外因性ポリヌクレオチド」又は「異種ポリヌクレオチド」等は、実験操作によって細胞のゲノムに導入される何れかの核酸を指す。
【0138】
外来遺伝子又は外因性遺伝子は、非天然生物に挿入される遺伝子、天然宿主内の新しい位置に導入される天然遺伝子、又はキメラ遺伝子であり得る。「導入遺伝子」は、形質転換手順によってゲノムに導入された遺伝子である。用語「遺伝子改変」は、形質転換又は形質導入によって細胞に遺伝子を導入すること、細胞中の遺伝子を変異させること、及びこれらの行為が行われた細胞若しくは生物又はそれらの子孫における遺伝子の制御を改変又は調節することを含む。
【0139】
さらに、ポリヌクレオチド(核酸)の観点から、用語「外因性」は、ポリヌクレオチドを天然に含まない細胞中に存在する場合のポリヌクレオチドを指す。細胞は、コードされたポリペプチドの産生量の変化をもたらす非内因性ポリヌクレオチドを含む細胞、例えば、内因性ポリペプチドの発現を増加させる外因性ポリヌクレオチド、又はその天然状態において、ポリペプチドを産生しない細胞であり得る。本発明のポリペプチドの産生の増加は、本明細書では「過剰発現」とも呼ばれる。本発明の外因性ポリヌクレオチドは、トランスジェニック(組換え)細胞の他の成分から分離されていないポリヌクレオチド、又はそれが存在する細胞を含まない発現システム、並びに少なくとも他の成分から精製された、そのような細胞又は細胞システムで産生されたポリヌクレオチド、を含む。外因性ポリヌクレオチド(核酸)は、自然界に存在する連続したヌクレオチドのストレッチ(stretch)であり得るか、又は単一のポリヌクレオチドを形成するように連結された異なるソース(自然に発生及び/又は合成)由来の2以上の連続ストレッチヌクレオチドを含む。典型的には、このようなキメラポリヌクレオチドは、目的の細胞において、オープンリーディングフレームの転写を推進することに適したプロモーターに作動的に接続された本発明のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを少なくとも含む。
【0140】
ポリヌクレオチドの%同一性は、ギャップ精製ペナルティ=5、及びギャップ伸長ペナルティ=3を有するGAP(Needleman and Wunsch, 1970)解析(GCGプログラム)によって決定される。クエリー配列は長さが少なくとも3,000ヌクレオチド、GAP解析は少なくとも3,000ヌクレオチドの範囲にわたって2つの配列をアラインさせる。さらにより好ましくは、クエリー配列は少なくとも3,750ヌクレオチド長であり、GAP解析は少なくとも3,750ヌクレオチドの範囲にわたって2つの配列をアラインさせる。さらにより好ましくは、クエリー配列は少なくとも4,500ヌクレオチド長であり、GAP解析は少なくとも4,500ヌクレオチドの範囲にわたって2つの配列をアラインさせる。さらにより好ましくは、GAP解析は、それらの全長にわたって2つの配列をアラインさせる。
【0141】
定義されたポリヌクレオチドに関して、上記で提供されたものよりも高い%同一性数が、好ましい実施形態を包含することが理解されるであろう。故に、適応可能であれば、最小%同一性数を鑑みて、ポリヌクレオチドが、関連する指定された配列番号に対し、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.1%、より好ましくは少なくとも99.2%、より好ましくは少なくとも99.3%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、さらにより好ましくは少なくとも99.9%同一性のヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0142】
本発明はまた、例えば、本発明のポリヌクレオチドをスクリーニングする方法、又は本発明のポリペプチドをコードする方法における、オリゴヌクレオチドの使用に関する。本明細書で使用される場合、「オリゴヌクレオチド」は、50ヌクレオチド長までのポリヌクレオチドである。このようなオリゴヌクレオチドの最小サイズは、本発明の核酸分子上のオリゴヌクレオチドと相補的配列との間の安定なハイブリッドの形成に必要なサイズである。それらは、RNA、DNA、又はそれらの組み合わせ若しくは誘導体の何れかであり得る。オリゴヌクレオチドは、典型的には、10~30ヌクレオチド、一般的には15~25ヌクレオチド長の比較的短い一本鎖分子である。増幅反応においてプローブ又はプライマーとして使用される場合、このようなオリゴヌクレオチドの最小サイズは、標的核酸分子上のオリゴヌクレオチドと相補的配列との間の安定なハイブリッドの形成に必要なサイズである。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも18ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも19ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも20ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも25ヌクレオチドの長さである。プローブとして使用される本発明のオリゴヌクレオチドは、典型的には、放射性同位体、酵素、ビオチン、蛍光分子又は化学発光分子などの標識とコンジュゲートされる。
【0143】
本発明は、例えば、核酸分子を同定するためのプローブとして、又は核酸分子を作製するためのプライマーとして使用することが出来るオリゴヌクレオチドを含む。プローブ及び/又はプライマーを用いて、本発明のポリヌクレオチドのホモログを他の種からクローン化することが出来る。さらに、当技術分野で公知のハイブリダイゼーション技術を用いて、そのようなホモログのゲノム又はcDNAライブラリーをスクリーニングすることも出来る。
【0144】
本発明のポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドは、ストリンジェント(stringent)な条件下で、配列番号1又は2として提供される配列の1つ又は複数にハイブリダイズするものが含まれる。本明細書で使用される場合、ストリンジェントな条件は、(1)洗浄のために低イオン強度及び高温、例えば0.015M NaCl/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%NaDodSO4を50℃、で使用する; (2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の、例えば、0.1%ウシ血清アルブミンを含む50%(vol/vol)ホルムアミド、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、750mM NaClを含むpH6.5の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、75mMクエン酸ナトリウム(42℃)を使用する; 又は(3) 50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハート液、超音波処理したサケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS及び10%硫酸デキストラン(42℃、0.2×SSC及び0.1%SDS)を使用する、等の変性剤を使用する条件である。
【0145】
本発明のポリヌクレオチドは、天然に存在する分子と比較した場合、ヌクレオチド残基の欠失、挿入又は置換である1つ又は複数の変異を有し得る。突然変異体は、天然に存在し(すなわち、天然のソースから単離される)又は合成され得る(例えば、核酸に部位特異的突然変異誘発を行うことによって)。本発明のポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの変異体は、本明細書で定義したリファレンスポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド分子、好ましくは内因性ROS1a遺伝子のものに近いイネのゲノムのサイズ及び/又はハイブリッド形成可能な分子を含む。例えば、変異体は、依然として標的領域にハイブリダイズする限り、追加のヌクレオチド(例えば、1、2、3、4又はそれ以上)、又はより少ないヌクレオチドを含み得る。さらに、オリゴヌクレオチドが標的領域にハイブリダイズする能力に影響を与えることなく、いくつかのヌクレオチドを置換することが出来る。加えて、本明細書に定義された特異的オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする植物ゲノムの領域近くに、例えば50ヌクレオチド以内にハイブリダイズする変異体を容易に設計することが出来る。特に、これは、同じポリペプチド又はアミノ酸配列をコードするが、遺伝子コードの重複によってヌクレオチド配列が異なるポリヌクレオチドを含む。用語「ポリヌクレオチド変異体」及び「変異体」はまた、天然に存在する対立遺伝子変異体を含む。
【0146】
遺伝的変異
本明細書で使用される場合、用語「遺伝的変異」は、1つ又は複数の穀粒の細胞、好ましくは、少なくとも1つ又は複数あるいは全ての糊粉、果皮、珠心突起、子房、種皮及び発達中の穀粒のデンプン質胚乳における細胞、又はヒトによって導入され得る遺伝子改変を有する本発明の植物又はその一部の植物の細胞、又はイネにおいて天然に存在し得る細胞を指す(例えば、交配して本発明の植物を産生する)。
【0147】
本明細書で使用される場合、用語「1つ又は複数の導入された遺伝的変異」は、1つ又は複数の穀粒の細胞、好ましくは少なくとも1つ又は複数の又は全ての糊粉、果皮、珠心突起、子房、種皮及び発達中の穀粒のデンプン質胚乳における細胞、又はヒトによって導入され得る遺伝子改変を有する本発明の植物又はその一部の植物の細胞を指す。好ましい実施形態において、穀粒又は植物又はその一部における全ての細胞は、導入された遺伝的変異を含む。当業者が理解出来るように、限定されないが、ROS1a遺伝子(例えば、dsRNA分子又はmicroRNA)の発現が減少される外因性ポリヌクレオチドをコードする核酸コンストラクト、対応する野生型ROS1aポリペプチドのアミノ酸配列と異なり且つ、対応する野生型ROS1aポリペプチドと比較した場合、DNAグリコシラーゼ活性が減少される(好ましくはいくらかであるが、ないこともあり得る)アミノ酸配列を有するROS1aポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドをコードする核酸コンストラクト、内因性のROS1a遺伝子の活性を減少させるために遺伝子編集によって操作されたゲノム、及び減少されたROS1aポリペプチドDNAグリコシラーゼ活性を有する穀粒を産生する植物を、TILLINGを用いて変異導入及び選択する、等の多くの異なるタイプの遺伝的改変がなされ得る。
【0148】
本明細書で使用される場合、「1つ又は複数の遺伝的変異」又は「1つ又は複数の導入された遺伝的変異」に関連する用語「少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性の減少」は、対応する野生型イネと比較した場合、遺伝子によって発現されるROS1aポリペプチドの量又は活性の減少をもたらす遺伝的変異を指す。一実施形態において、穀粒は、少なくともいくつかのDNAグリコシラーゼ活性を有するROS1aポリペプチドを含む。
【0149】
一実施形態において、遺伝的変異は、非ROS1aポリペプチドのDNAグリコリアーゼ活性を下方制御しない。例えば、遺伝的変異は、本発明のイネのROS1b、ROS1c及びROS1dポリペプチドのそれぞれのDNAグリコシラーゼ活性を10%又は30%以上減少させない。あるいは、遺伝的変異は、少なくとも1つのROS1b、ROS1c及びROS1dポリペプチドのDNAグリコシラーゼ活性を少なくとも30%低下させる。
【0150】
RNA干渉
RNA干渉(RNAi)は、遺伝子の発現を特異的に減少させるために特に有用であり、その結果、遺伝子がタンパク質をコードする場合、特定のタンパク質の産生が減少する。理論によって制限されることを望まないが、Waterhouse et al. (1998)は、dsRNA(二本鎖RNA)を用いてタンパク質産生を減少させることが出来るメカニズムのモデルを提供した。この技術は、目的の遺伝子又はその一部のmRNAと本質的に同一の配列を含むdsRNA分子の存在に依存する。都合のいいことに、dsRNAは、組換えベクター又は宿主細胞中の単一のプロモーターから産生することができ、ここで、センス及びアンチセンス配列は、センス及びアンチセンス配列がハイブリダイズして、ループ構造を形成する関連しない配列を有するdsRNA分子を形成することが出来る、関連しない配列に隣接している。適切なdsRNA分子の設計及び製造は、特に、Waterhouse et al. (1998)、Smith et al. (2000)、WO 99/32619、WO 99/53050、WO 99/49029及びWO 01/34815を考慮して十分に当業者の能力の範囲内である。
【0151】
一実施例において、ROS1a遺伝子に相同性を有する少なくとも部分的に二本鎖のRNA産物の合成を導くDNAが導入される。従って、DNAは、RNAに転写されたときにハイブリダイズして二本鎖RNA領域を形成し得るセンス配列及びアンチセンス配列の両方を含む。本発明の一実施形態において、センス及びアンチセンス配列は、RNAに転写されるとスプライシングされるイントロンを含むスペーサー領域によって分離される。この配置は、遺伝子サイレンシングのより高い効率をもたらすことが示されている(Smith et al., 2000)。二本鎖領域は、1つ又は2つのDNA領域のいずれかから転写された1つ又は2つのRNA分子を含み得る。二本鎖分子の存在は、二本鎖RNA及び標的遺伝子由来の相同RNA転写物の両方を破壊し、標的遺伝子の活性を効率的に減少又は排除する内因性システムの応答を引き起こすと考えられる。
【0152】
ハイブリダイズするセンス及びアンチセンス配列の長さは、それぞれ少なくとも19個の連続ヌクレオチド、好ましくは少なくとも30個又は少なくとも50個の連続ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも100個又は少なくとも200個の連続したヌクレオチドであることが好ましい。一般的に、標的遺伝子mRNAの領域に対応する100~1000ヌクレオチドの配列が使用される。全遺伝子転写物に対応する全長配列が使用され得る。標的転写物に対するセンス配列の同一性の程度(従って、標的転写物の相補体に対するアンチセンス配列の同一性)は、少なくとも85%、少なくとも90%、又は95~100%であるべきであり、好ましくは標的配列と同一である。当然、RNA分子は、分子を安定化するように機能し得る関連しない配列を含み得る。RNA分子は、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIプロモーターの制御下で発現され得る。後者の例には、tRNA又はsnRNAプロモーターが含まれる。
【0153】
好ましい低分子干渉RNA(「siRNA」)分子は、標的mRNAの約19~25個の連続したヌクレオチドと同一であるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、siRNA配列はジヌクレオチドAAで始まり、約30~70%(好ましくは30~60%、より好ましくは40~60%、より好ましくは約45~55%)のGC含量を含み、導入されるべき生物のゲノム中の標的配列以外の何れかのヌクレオチド配列に対して、例えば標準的なBLAST検索によって決定される、高いパーセンテージ同一性を有さない。
【0154】
本発明に有用なdsRNAは、日常的な手順を用いて容易に産生することが出来る。
【0155】
microRNA
microRNA(略してmiRNA)は、不完全なステムループ構造を形成するより大きな前駆体に由来する、一般に19~25ヌクレオチド(一般に植物中で約20~24ヌクレオチド)の長さを有する非コードRNA分子である。miRNAは、典型的には、その発現が減少される標的mRNAの領域に完全に相補的であるが、完全に相補的である必要はない。
【0156】
miRNAは、標的メッセンジャーRNA転写物(mRNA)上の相補的配列に結合し、通常、翻訳抑制又は標的分解及び遺伝子サイレンシングをもたらす。当技術分野でよく知られているように、人工miRNA(amiRNA)は、目的遺伝子の何れかの発現を減少させるための天然miRNAに基づいて設計され得る。
【0157】
植物細胞において、miRNA前駆体分子は、核内で大部分がプロセシングされると考えられている。pri-miRNA(1つ又は複数の局所二本鎖又は「ヘアピン」領域並びにmRNAの通常の5'「キャップ」及びポリアデニル化テールを含む)は、ステムループ又はフォールドバック構造も含むより短いmiRNA前駆体分子にプロセシングされ、「pre-miRNA」と呼ばれる。植物において、pre-miRNAは、異なるDICER様(DCL)酵素によって切断され、miRNA:miRNA *二本鎖を生じる。核から輸送する前に、これらの二本鎖はメチル化される。
【0158】
細胞質において、miRNAからのmiRNA鎖: miRNA二本鎖は、標的認識のために活性RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に選択的に組み込まれる。RISC-複合体は、配列特異的遺伝子抑制を発揮するArgonauteタンパク質の特定のサブセットを含む(例えば、Millar and Waterhouse, 2005; Pasquinelli et al., 2005; Almeida and Allshire, 2005)。
【0159】
本発明に有用なmicroRNAは、日常的な手順を用いて容易に製造することが出来る。例えば、ROS1a amiRNA(人工microRNA)コンストラクトの設計は、Fahim et al. (2012)によって記載された一般的な方法に基づくものであり得る。WMD3ソフトウェア(www.wmd3.weigelworld.org/)を使用して、ROS1a遺伝子中の適切なamiRNA標的を同定することが出来る。amiRNA標的は、以下の4つの基準に従って選択される: 1)5'末端がATリッチであり、3'末端がGCリッチである配列を用いることによる相対的な5'不安定性; 2)位置1のU及び切断部位のA(位置10と11の間); 位置1~9、及び13~21のそれぞれで最大1及び4のミスマッチ、及びamiRNAが標的RNAにハイブリダイズする場合、予測される自由エネルギー(ΔG)が-30kcal mol-1未満である(Ossowski et. al., 2008)。発現の遺伝子特異的減少のために、候補のamiRNA配列は、OsROS1aの全てのホモログのアライメントに最も低い相同性を示す領域で選択され、故にROS1ホモログ及びホモログの発現のオフターゲットによる減少の可能性を減少する。amiRNA配列の挿入のためのamiRNA骨格として、イネmiR395(Guddeti et al., 2005; Jones-Rhoades and Bartel, 2004; Kawashima et al., 2009)の前駆体を選択することが出来る。コンストラクトを設計及び作製するために、miR395中の5つの内因性miRNA標的を、TA2ノックダウンのための5つのamiRNA標的に置換した。
【0160】
コサプレッション
遺伝子は、相同性依存的遺伝子サイレンシングと呼ばれる現象である、ゲノムに既に存在する関連する内在性遺伝子及び/又は導入遺伝子の発現を抑制することが出来る。相同性依存性遺伝子サイレンシングの大半の例は、導入遺伝子の転写レベルで機能するものと転写後に機能するものとの2つのクラスに分類される。
【0161】
転写後ホモロジー依存性遺伝子サイレンシング(すなわち、コサプレッション)は、トランスジェニック植物における導入遺伝子及び関連する内因性遺伝子又はウイルス遺伝子の発現の消失を説明する。コサプレッションは、導入遺伝子転写物が豊富であり、一般に、mRNAプロセシング、局在化及び/又は分解のレベルで誘発されると考えられている。コサプレッションがどのように機能するかを説明するいくつかのモデルが存在する(Taylor, 1997参照)。
【0162】
コサプレッションは、遺伝子又はその断片の余分なコピーを、その発現のためのプロモーターに関してセンス方向で植物に導入することを含む。センス断片の大きさ、その標的遺伝子領域への対応及びその標的遺伝子に対する配列同一性の程度は、当業者によって決定され得る。場合によっては、遺伝子配列の追加のコピーが標的植物遺伝子の発現を妨害する。コサプレッションアプローチを実施する方法については、WO 97/20936及びEP 0465572が参照される。
【0163】
アンチセンスポリヌクレオチド
用語「アンチセンスポリヌクレオチド」は、内因性ポリペプチドをコードする特異的mRNA分子の少なくとも一部に相補的であり、mRNA翻訳のような転写後イベントを妨害することが出来るDNA又はRNA分子を意味するものとする。アンチセンス法の使用は、当技術分野において周知である(例えば、G. Hartmann and S. Endres, Manual of Antisense Methodology, Kluwer (1999)参照)。植物におけるアンチセンス技術の使用は、Bourque(1995)及びSenior(1998)によってレビューされている。Bourque(1995)は、アンチセンス配列が遺伝子不活性化の方法として植物システムでどのように利用されているかの多数の例を挙げている。Bourqueはまた、部分的阻害がシステムにおいて測定可能な変化をもたらす可能性があるため、酵素活性の100%阻害を達成することは必要ではない可能性があるとも述べている。Senior(1998)は、アンチセンス法が遺伝子発現を操作するためのとてもよく確立された技術であると述べている。
【0164】
一実施形態において、アンチセンスポリヌクレオチドは、生理学的条件下でハイブリダイズする、すなわち、アンチセンスポリヌクレオチド(完全又は部分的に一本鎖である)は、細胞内の正常条件下で内在性ROS1aポリペプチドをコードするmRNAと少なくとも二本鎖ポリヌクレオチドを形成することが出来る。
【0165】
アンチセンス分子は、構造遺伝子に対応する配列又は遺伝子発現又はスプライシングイベントをコントロールする配列を含み得る。例えば、アンチセンス配列は、内在性遺伝子の標的コード領域、又は5'-非翻訳領域(UTR)若しくは3'-UTR若しくはこれらの組み合わせに対応し得る。それは、転写中又は転写後に、好ましくは標的遺伝子のエキソン配列に対してのみスプライシングされ得るイントロン配列に部分的に相補的であり得る。UTRの一般的により大きな相違を考慮して、これらの領域を標的とすることは、遺伝子阻害のより高い特異性を提供する。
【0166】
アンチセンス配列の長さは、少なくとも19の連続したヌクレオチド、好ましくは少なくとも30又は少なくとも50のヌクレオチド、及びより好ましくは少なくとも100、200、500又は1000ヌクレオチドであることが好ましい。全遺伝子転写物に相補的な全長配列を使用することが出来る。その長さは、最も好ましくは100~2000ヌクレオチドである。標的転写物に対するアンチセンス配列の同一性の程度は、少なくとも90%、より好ましくは95~100%、典型的には100%同一であることが好ましい。当然、アンチセンスRNA分子は、分子を安定化するように機能し得る関係ない配列を含むことが出来る。
【0167】
部位特異的ヌクレアーゼを用いたゲノム編集
ゲノム編集は、非特異的DNA切断モジュールに融合された配列特異的DNA結合ドメインから構成される改変ヌクレアーゼを用いる。これらキメラヌクレアーゼは、細胞の内因性細胞DNA修復機構を刺激して誘発された破損を修復する標的化DNA二本鎖切断を誘導することによって、効率的且つ、正確な遺伝子改変を可能にする。そのようなメカニズムは、例えば、エラーが起こりやすい非相同末端結合(error prone non-homologous end joining)(NHEJ)及び相同組換え修復(homology directed repair)(HDR)を含む。
【0168】
延長された相同性アームを有するドナープラスミドの存在下で、HDRは、既存の遺伝子を修正又は置換するための単一又は複数の導入遺伝子の導入を導くことが出来る。ドナープラスミドが存在しない場合、NHEJ媒介性修復は、遺伝子破壊を引き起こす標的の小さな挿入又は欠失突然変異を生じる。
【0169】
本発明の方法において有用な改変ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFNs)、転写アクチベーター様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)及びCRISPR-Cas9タイプ部位特異的ヌクレアーゼを含む。
【0170】
典型的には、ヌクレアーゼでコードされた遺伝子は、プラスミドDNA、ウイルスベクター又はin vitroで転写されたmRNAによって細胞に送達される。蛍光サロゲートレポーターベクター(fluorescent surrogate reporter vectors)の使用はまた、ZFN-、TALEN-又はCRISPR-改変細胞の富化を可能にする。
【0171】
複雑なゲノムは、多くの場合、目的とするDNA標的と同一又は高い相同である配列の複数のコピーを含み、潜在的にオフターゲット活性及び細胞毒性をもたらす。これに対処するために、最適な切断特異性及び減少した毒性を有する改善されたZFN及びTALENヘテロ二量体を生成するために、構造(Miller et al., 2007; Szczepek et al., 2007)及び選択に基づく(Doyon et al., 2011; Guo et al., 2010)アプローチを使用することが出来る。
【0172】
本発明の好ましい実施形態に従い、ZFNによる遺伝子組換え又は突然変異を標的化するために、2つの9bpジンクフィンガーDNA認識配列が宿主DNAにおいて同定されなければならない。これらの認識部位は、互いに対して逆向きであり、約6bpのDNAによって分離される。次いで、ZFNは、標的遺伝子座に特異的にDNAに結合するジンクフィンガーの組み合わせを設計及び産生することによって、次いでジンクフィンガーをDNA切断ドメインに連結することによって生成される。
【0173】
転写アクチベーター様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、TALエフェクターDNA結合ドメイン及びエンドヌクレアーゼドメインを含む。
【0174】
TALエフェクターは、病原体によって植物細胞に注入される植物病原細菌のタンパク質であり、ここでそれらは核に移動し、特定の植物遺伝子を活性化する転写因子として機能する。TALエフェクターの一次アミノ酸配列は、それが結合するヌクレオチド配列を必要とする。従って、標的部位はTALエフェクターのために予測することができ、TALエフェクターは特定のヌクレオチド配列に結合する目的で改変し生成され得る。
【0175】
TALエフェクターをコードする核酸配列に融合されるのは、ヌクレアーゼ又はヌクレアーゼの一部をコードする配列であり、典型的には、FokI(Kim et al., 1996)等のタイプII制限エンドヌクレアーゼ由来の非特異的切断ドメインである。他の有用なエンドヌクレアーゼは、例えば、HhaI、HindIII、Nod、BbvCI、EcoRI、BglI及びAlwIを含み得る。いくつかのエンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)が、二量体としてのみ機能するという事実は、TALエフェクターの標的特異性を高めるために活用することが出来る。例えば、いくつかの場合において、各FokIモノマーは、異なるDNA標的配列を認識するTALエフェクター配列に融合することができ、2つの認識部位が近接している場合にのみ、不活性モノマーが一緒になって機能的酵素を生成する。ヌクレアーゼを活性化するためにDNA結合を必要とすることによって、高度に部位特異的な制限酵素を作製することが出来る。
【0176】
配列特異的TALENは、細胞中に存在する予め選択された標的ヌクレオチド配列内の特定の配列を認識することが出来る。故に、いくつかの実施形態において、標的ヌクレオチド配列をヌクレアーゼ認識部位にういてスキャンすることができ、及び標的配列に基づいて特定のヌクレアーゼを選択することが出来る。他の場合において、TALENは、特定の細胞配列を、標的とするように操作することが出来る。
【0177】
核酸コンストラクト
本発明は、本発明のポリヌクレオチド又は本発明に有用なポリヌクレオチドを含む核酸コンストラクト、並びに、それらの製造及び使用方法を含むベクター及び宿主細胞、及びそれらの使用を含む。
【0178】
本発明は、作動的に接続又は連結された要素を指す。「作動的に接続された(Operably connected)」又は「作動的に連結(operably linked)された」等は、機能的関係におけるポリヌクレオチド要素の連結を指す。典型的には、作動的に接続された核酸配列は、連続的に連結され、必要に応じて2つのタンパク質コード領域を結合するために、連続的且つ、リーディングフレームで連結される。RNAポリメラーゼが2つのコード配列を単一のRNAに転写する場合、コード配列は別のコード配列に「作動的に接続され」され、翻訳された場合、両方のコード配列に由来するアミノ酸を有する単一のポリペプチドに翻訳される。コード配列は、発現された配列が最終的に所望のタンパク質を生成するようにプロセスされる限り、互いに連続している必要はない。
【0179】
本明細書で使用される場合、用語「シス作用配列」、「シス作用要素」又は「シス調節領域」又は「調節領域」又は同様の用語は、何れかのヌクレオチド配列を意味するものと解釈されるべきであり、ここで、発現可能な遺伝子配列に対して適切に配置及び連結される場合、遺伝子配列の発現を少なくとも部分的に調節することが出来る。当業者は、シス調節領域が、転写レベル又は転写後レベルでの遺伝子配列の発現レベル及び/又は細胞タイプ特異性及び/又は発達特異性を活性化、サイレンシング、増強、抑制又はそうでなければ改変することが出来ることを認識するであろう。本発明の好ましい態様において、シス作用配列は、発現可能な遺伝子配列の発現を増強又は刺激する活性化配列である。
【0180】
転写可能なポリヌクレオチドにプロモーター又はエンハンサー要素を「作動的に接続する」とは、転写可能なポリヌクレオチド(例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチド又は他の転写物)をプロモーターの調節コントロール下に置くことを意味し、プロモーターの調節コントロールは、そのポリヌクレオチドの転写をコントロールする。異種プロモーター/構造遺伝子の組合せの構築において、転写可能なポリヌクレオチドの転写開始部位から離れた位置にプロモーター又はその変異体を配置することが一般的に好ましく、これは、その天然のセッティングにおいてコントルールするプロモーター及びタンパク質コード領域とほぼ同じである; すなわち、プロモーターが由来する遺伝子である。当該技術分野で知られているように、機能を損なうことなく、この距離のいくらかの変動を適応させることが出来る。同様に、そのコントロール下に配置される転写可能なポリヌクレオチドに関する調節配列要素(例えば、オペレーター、エンハンサー等)の好ましい配置は、その天然のセッティングにおいて要素の位置付けによって定義される; すなわち、それが由来する遺伝子である。
【0181】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」又は「プロモーター配列」は、目的の細胞における転写の開始及びレベルをコントロールするRNAコード領域の一般的に上流(5')の遺伝子領域を指す。「プロモーター」は、TATAボックス及びCCAATボックス配列等の古典的ゲノム遺伝子の転写制御配列、並びに発達及び/又は環境刺激、又は組織特異的若しくは細胞特異的様式に応答して遺伝子発現を変化させるさらなる調節エレメント(すなわち、上流活性化配列、エンハンサー及びサイレンサー)を含む。プロモーターは通常、必ずしも必要ではないが(例えば、PolIIIプロモーター)、構造遺伝子の上流に位置し、その発現を制御する。さらに、プロモーターを含む調節要素は、通常、遺伝子の転写の開始部位の2kb以内に位置する。プロモーターは、細胞における発現をさらに増強するため、及び/又はそれが作動的に接続される構造遺伝子の発現のタイミング又は誘導性を変更するために、開始部位より遠位に位置するさらなる特異的調節エレメントを含み得る。
【0182】
「構成的プロモーター」とは、植物等の生物の多くの又は全ての組織において作動可能に連結された転写された配列の発現を指示するプロモーターを指す。本明細書で使用される場合、用語「構成的」は、必ずしも全ての細胞タイプにおいて同じレベルで遺伝子が発現されることを示すものではないが、多少のレベルの変動は多くの場合検出可能であるが、遺伝子は、広範囲の細胞タイプで発現される。本明細書で使用される場合、「選択的発現」は、例えば、胚乳、胚、葉、果実、塊茎又は根等の植物の特定の器官における発現をほぼ独占的に指す。好ましい実施形態において、プロモーターは、植物、好ましくはイネの穀粒中に選択的又は優先的に発現される。従って、選択的発現は、植物が経験する条件の大部分又は全ての条件下で、植物の多くの又は全ての組織における発現を指す構成的発現と対比され得る。
【0183】
選択的発現はまた、特定の植物組織、器官又は発生段階における遺伝子発現産物の区画化をもたらし得る。色素体、細胞質ゾル、液胞、又はアポプラスト等の特定の細胞内位置での区画化は、必要とされる細胞コンパートメントへの輸送のための適切なシグナル、例えば、シグナルペプチドの遺伝子産物の構造における包含によって、又は半自立性のオルガネラ(色素体及びミトコンドリア)の場合において、オルガネラゲノムに直接的に適切な制御配列を導入遺伝子と組み込むことによって達成され得る。
【0184】
「組織特異的プロモーター」又は「器官特異的プロモーター」は、多くの他の組織又は器官、好ましくは大部分ではないにしても、例えば植物の他の全ての組織又は器官に対して、1つの組織又は器官において優先的に発現されるプロモーターである。典型的に、プロモーターは、特定の組織又は器官において他の組織又は器官よりも10倍高いレベルで発現される。
【0185】
好適な本発明の種子特異的プロモーターは、アブラナナピン遺伝子プロモーター(US 5,608,152)、Vicia faba USPプロモーター(Baumlein et al., 1991)、シロイヌナズナオレオシンプロモーター(WO 98/45461)、ファセオルスブルガリファゼオリン(Phaseolus vulgaris phaseolin)プロモーター(US 5,504,200)、ブラシカ(Brassica)Bce4 プロモーター(WO 91/13980)又はレグミンB4プロモーター(Baumlein et al., 1992)、及びイネ及び同様のものの種子特異的発現を誘導するプロモーターである。好適な注目すべきプロモーターは、オオムギLPT2又はLPT1遺伝子プロモーター(WO 95/15389及びWO 95/23230)又はWO 99/16890に記載されたプロモーター(オオムギホルデイン遺伝子由来のプロモーター)である。他のプロモーターは、Broun et al. (1998)、Potenza et al. (2004)、US 20070192902及びUS 20030159173による記載を含む。一実施形態において、種子特異的プロモーターは、胚乳等の種子の限定された部分、好ましくは発育中の糊粉において優先的に発現される。さらなる実施形態において、種子が発芽した後、種子特異的プロモーターは、発現されないか、又は低レベルでのみ発現される。
【0186】
一実施形態において、少なくとも開花時~開花後7日の間の時点で活性であり、又はこの期間中は完全に活性である。このようなプロモーターの例は、ROS1a遺伝子プロモーターである。
【0187】
一実施形態において、ROS1a遺伝子の発現を減少させる外因性ポリヌクレオチドに作動的に接続されたプロモーターは、高いMWグルテニンプロモーターではない。
【0188】
本発明によって意図されるプロモーターは、形質転換されるべき宿主植物に天然であってもよく、又は代替のソースに由来してもよく、ここでその領域は、宿主植物において機能的である。他のソースは、ノパリン、オクタピン、マンノピン又は他のオピンプロモーター、組織特異的プロモーター(例えば、US 5,459,252及びWO 91/13992参照)の生合成のための遺伝子のプロモーター等のアグロバクテリウムT-DNA遺伝子; ウイルス由来のプロモーター(宿主特異的ウイルスを含む)、又は部分的に若しくは完全に合成されたプロモーターを含む。カリフラワーモザイクウイルスプロモーター(CaMV 35S、19S)等の植物及びウイルスから単離された様々なプロモーターを含む、単子葉植物及び双子葉植物において機能的である多数のプロモーターは、当技術分野で周知である(例えば、Greve, 1983; Salomon et al., 1984; Garfinkel et al., 1983; Barker et al., 1983参照)。プロモーター活性を評価するための非限定的な方法は、Medberry et al. (1992 and 1993)、Sambrook et al. (1989, supra)及びUS 5,164,316によって開示される。
【0189】
代替的又は追加的に、プロモーターは、例えば植物の適切な成長段階で導入されたポリヌクレオチドの発現を促進することができる誘導性プロモーター又は発達的に調節されたプロモーターであり得る。エンハンサー領域は、当業者に周知であり、ATG翻訳開始コドン及び隣接配列を含むことが出来る。含まれる場合、開始コドンは、外来又は外因性ポリヌクレオチドに関連するコード配列のリーディングフレームと同相であって、それが翻訳される場合には配列全体の翻訳を確実にすべきである。翻訳開始領域は、転写開始領域のソースから、又は外来ポリヌクレオチド又は外因性ポリヌクレオチドから提供され得る。この配列はまた、転写を促進するように選択されたプロモーターのソースに由来し得、及びmRNAの翻訳を増加させるように特異的に改変され得る。
【0190】
本発明の核酸コンストラクトは、転写終結配列を含み得る約50~1,000個のヌクレオチド塩基対からの3'非翻訳配列を含み得る。3'非翻訳配列は、ポリアデニル化シグナル及び何れかのmRNAプロセシングを行うことが出来る他の調節シグナルを含んでも含まなくてもよい転写終結シグナルを含み得る。ポリアデニル化シグナルは、mRNA前駆体の3'末端にポリアデニル酸トラクトを付加するために機能する。ポリアデニル化シグナルは、標準型5 'AATAAA-3'に対する相同性の存在によって一般に認識されるが、変異は珍しくない。ポリアデニル化シグナルを含まない転写終結配列は、4つ又はそれ以上のチミジンの連続を含むPolI又はPolIII RNAポリメラーゼのためのターミネーターが含まれる。適切な3 '非翻訳配列の例は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)(Bevan et al., 1983)のオクトピン合成酵素(ocs)遺伝子又はノパリン合成酵素(nos)遺伝子からのポリアデニル化シグナルを含む3'転写非翻訳領域である。適切な3 '非翻訳配列はまた、当業者に公知の他の3'エレメントも使用することが出来るが、リブロース-1,5-二リン酸カルボキシラーゼ(ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase)(ssRUBISCO)遺伝子等の植物遺伝子に由来され得る。
【0191】
転写開始部位とコード配列の開始点との間に挿入されるDNA配列、すなわち非翻訳5'リーダー配列(5'UTR)は、転写並びに翻訳される場合に、遺伝子発現に影響を及ぼすことができ、特定のリーダー配列を使用することも出来る。適切なリーダー配列は、外来DNA配列又は内在性DNA配列の最適な発現を指示するように選択された配列を含むものを含む。例えば、そのようなリーダー配列は、例えば、Joshi(1987)に記載されているように、mRNA安定性を増加又は維持し、翻訳の不適切な開始を防ぐことが出来る好ましいコンセンサス配列を含む。
【0192】
本発明は、遺伝子コンストラクトの操作又は転移のためのベクターの使用を含む。「キメラベクター」とは、核酸分子、好ましくは、プラスミド、バクテリオファージ、又は植物ウイルス由来のDNA分子であって、その中に核酸配列を挿入又はクローニングすることが出来るDNA分子由来を意味する。ベクターは、好ましくは二本鎖DNAであり、一つ又はそれ以上の特徴的な制限部位を含み、標的細胞又は組織又は前駆細胞又はその組織を含む定義された宿主細胞において自律的複製可能であり得るか、又はクローニングされた配列が、再現可能であるように、定義された宿主ゲノムに組み込まれ得る。従って、ベクターは、自律的に複製するベクター、すなわちその複製が染色体複製とは独立した染色体外実体として存在するベクター、例えば、直鎖又は閉環プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、又は人工染色体であってもよい。ベクターは、自己複製を保証するための何れかの手段を含み得る。あるいは、ベクターは、細胞に導入された場合、レシピエント細胞のゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。ベクターシステムは、宿主細胞のゲノムに導入される全DNA又はトランスポゾンを一緒に含む単一のベクター又はプラスミド、2つ又はそれ以上のベクター又はプラスミドを含み得る。ベクターの選択は、典型的には、ベクターが導入される細胞とのベクターの適合性に依存する。ベクターはまた、抗生物質耐性遺伝子、除草剤耐性遺伝子又は適切な形質転換体の選択に用いることができる他の遺伝子等の選択マーカーを含んでもよい。そのような遺伝子の例は、当業者に周知である。
【0193】
本発明の核酸コンストラクトは、プラスミド等のベクターに導入することが出来る。プラスミドベクターは、通常、原核細胞及び真核細胞における発現カセットの容易な選択、増幅、及び形質転換を提供するさらなる核酸配列を含み、例えば、1つ又は複数のT-DNA領域を含む、pUC由来ベクター、pSK由来ベクター、pGEM由来ベクター、pSP由来ベクター、pBS由来ベクター、又はバイナリーベクターを含む。さらなる核酸配列は、ベクターの自律複製を提供するための複製起点、好ましくは抗生物質若しくは除草剤耐性をコードする選択マーカー遺伝子、核酸コンストラクトにコードされた核酸配列又は遺伝子を挿入するための複数の部位を提供する独自の複数のクローニング部位、並びに原核及び真核(特に植物)細胞の形質転換を増強する配列を含む。
【0194】
「マーカー遺伝子」とは、マーカー遺伝子を発現する細胞に異なる表現型を付与する遺伝子を意味し、そのように形質転換された細胞を、マーカーを有さない細胞と区別することを可能にする。選択マーカー遺伝子は、選択剤に対する耐性に基づいて「選択」することが出来る形質を付与する(例えば、除草剤、抗生物質、放射線、熱又は非形質転換細胞に損傷を与える他の処理)。スクリーニング可能なマーカー遺伝子(またはレポーター遺伝子)は、観察又は試験、すなわち「スクリーニング」によって同定することが出来る形質を付与する(例えば、β-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、GFP又は非形質転換細胞に存在しない他の酵素活性)。マーカー遺伝子及び目的のヌクレオチド配列は、リンクされる必要はない。
【0195】
形質転換体の同定を容易にするために、核酸コンストラクトは、望ましくは、外来又は外因性ポリヌクレオチドとして、又はそれに加えて、選択可能又はスクリーニング可能なマーカー遺伝子を含む。マーカーの実際の選択は、選択された植物細胞と組み合わせて機能的(すなわち、選択的)である限り、重要ではない。例えば、US4,399,216に記載されているように、非連結遺伝子の同時形質転換も植物形質転換における効率的なプロセスであるため、マーカー遺伝子及び目的の外来又は外因性ポリヌクレオチドを連結する必要はない。
【0196】
細菌選択マーカーの例は、アンピシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール又はテトラサイクリン耐性、好ましくはカナマイシン耐性等の抗生物質耐性を付与するマーカーである。植物形質転換の選択のための適したマーカーの例は、限定されないが、ハイグロマイシンB耐性をコードするhyg遺伝子; カナマイシン、パロモマイシン、G418に対する耐性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(nptII)遺伝子; 例えばEP256223に記載されている、ラット肝臓由来のグルタチオン誘導除草剤に対する耐性を付与するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ遺伝子; 例えばWO 87/05327に記載されている、過剰発現時に、ホスフィノトリシン等のグルタミン合成酵素阻害剤に対する耐性を付与するグルタミン合成酵素遺伝子、例えばEP 275957に記載されている、選択剤であるホスフィノトリシンに対する耐性を付与するストレプトミセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)由来のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、例えばHinchee et al. (1988) に記載されている、N-ホスホノメチルグリシンに対する耐性を付与する5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(EPSPS)をコードする遺伝子、例えば、WO91/02071に記載されている、ビアラホスに対する耐性を付与するbar遺伝子; ブロモキシニルに対する耐性を付与するKlebsiella ozaenae由来のbxn等のニトリラーゼ遺伝子(Stalker et al., 1988); メトトレキセートに対する耐性を付与するジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(Thillet et al., 1988); イミダゾリノン、スルホニルウレア又は他のALS阻害性化学物質に対する耐性を付与する、変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子 (ALS) (EP 154,204); 5-メチルトリプトファンに対する耐性を付与する突然変異アントラニル酸合成酵素遺伝子; 又は除草剤に対する耐性を付与する、ダラポンデハロゲナーゼ遺伝子、を含む。
【0197】
好ましいスクリーニング可能なマーカーは、限定されないが、種々の発色基質が知られているβ-グルクロニダーゼ(GUS)酵素をコードするuidA遺伝子、発色基質が知られている酵素をコードするβ-ガラクトシダーゼ遺伝子、カルシウム感受性生物発光検出に使用することが出来るエクオリン遺伝子(Prasher et al., 1985); 緑色蛍光タンパク質遺伝子(Niedz et al., 1995)又はその誘導体、バイオルミネセンス検出を可能にする、ルシフェラーゼ(luc)遺伝子(Ow et al., 1986)、及び当該技術分野で知られている他のもの、が含まれる。本明細書で使用する「レポーター分子」は、その化学的性質により、タンパク質産物を参照することによりプロモーター活性の決定を容易にする解析的に同定可能なシグナルを提供する分子を意味する。
【0198】
好ましくは、核酸コンストラクトは、例えば、本発明の植物又は細胞のゲノムに安定に取り込まれる。従って、核酸は、分子がゲノムに組み込まれることを可能にする適切な要素を含むか、又はコンストラクトが、植物細胞の染色体に組み込むことが出来る適切なベクターに設置される。
【0199】
本発明の一実施形態は、核酸分子を宿主細胞に送達することが出来る何れかのベクターに挿入された、本発明の少なくとも1つのポリヌクレオチド分子を含む組換えベクターを含む。そのようなベクターは、異種核酸配列、すなわち本発明の核酸分子に隣接して天然には見出されず、及び、好ましくは、核酸分子が由来する種以外の種に由来する異種核酸配列を含む。ベクターは、原核生物又は真核生物の何れか、RNA又はDNAの何れかであり得、典型的にはウイルス又はプラスミドである。
【0200】
植物細胞の安定なトランスフェクション又はトランスジェニック植物の確立に適した多くのベクターが、例えば、Pouwels et al., クローニングベクター: ラボラトリーマニュアル、 1985, supp. 1987; Weissbach and Weissbach, 植物分子生物学のための方法、Academic Press, 1989; 及びGelvin et al., 植物分子生物学マニュアル、Kluwer Academic Publishers, 1990において記載されている。典型的に、植物発現ベクターは、例えば、5'及び3'調節配列及び優性選択マーカーの転写制御下の1つ又は複数のクローン化植物遺伝子を含む。このような植物発現ベクターはまた、プロモーター調節領域(例えば、誘導性又は構成的、環境的又は発達的にコントロールする、又は細胞特異的又は組織特異的な発現をコントロールする調節領域)、転写開始部位、リボソーム結合部位、転写終結部位、及び/又はポリアデニル化シグナルを含むことが出来る。
【0201】
ROS1sポリペプチドのレベルは、イネのタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを減少させることによって調節され、糊粉の厚さを増加させる。遺伝子の発現レベルは、例えば、コーディング配列及びそれに作動的に接続され、細胞内で機能的である転写コントロールエレメントを含む合成遺伝子コンストラクトを導入することによって、細胞当たりのコピー数を変更することによって調節され得る。複数の形質転換体を、導入遺伝子組み込み部位の近傍における内因性配列の影響から生じる導入遺伝子の発現の好ましいレベル及び/又は特異性を有するものについて選択及びスクリーニングすることが出来る。導入遺伝子の発現の好ましいレベル及びパターンは、糊粉の増加をもたらすものである。あるいは、突然変異誘発された種子の個体群又は繁殖プログラムからの植物の個体群は、増加した糊粉の厚さを有する個々の系統についてスクリーニングされ得る。
【0202】
組換え細胞
本発明の他の実施形態は、本発明の1つ又は複数の組換え分子又はその子細胞で形質転換された宿主細胞を含む組換え細胞を含む。核酸分子の細胞への形質転換は、核酸分子を細胞に挿入することが出来る何れかの方法によって達成され得る。形質転換技術は、限定されないが、トランスフェクション、エレクトロポレーションマイクロインジェクション、リポフェクション、アブソープション及びアポプラストヒュージョンを含む。組換え細胞は、単細胞のままであってもよく、又は組織、器官又は多細胞生物に成長してもよい。本発明の形質転換された核酸分子は、発現される能力が保持される方法で、形質転換された(すなわち、組み換え)細胞の染色体内の1つ又は複数の部位に組み込むことが出来る。好ましい宿主細胞は植物細胞であり、より好ましくはイネ細胞である。
【0203】
遺伝的変異を持つ植物
本明細書において名詞として使用される用語「植物」は、植物全体を指し、植物界の何れかのメンバーを意味するが、形容詞として使用される場合、例えば、植物器官(例えば、葉、茎、根、花)、単一細胞(例えば、花粉)、種子、植物細胞及び同様のもの等の植物に存在するか、植物から得られるか、又は植物に関連するかの何れかの物質を指す。根及び芽が出現した苗木及び発芽種子も、「植物」の意味に含まれる。本明細書において使用される場合、用語「植物部分」は、植物から得られ、及び植物のゲノムDNAを1つ又は複数の植物組織又は器官を指す。植物の部分は、栄養構造(例えば、葉、茎)、根、花器官/構造、種子(胚、子葉及び種皮を含む)、植物組織(例えば、維管束組織、基本組織等)細胞及びその子孫を含む。本明細書で使用される場合、用語「植物細胞」は、植物又は植物の中から得られた細胞を指し、植物に由来するプロトプラスト又は他の細胞、配偶子産生細胞、及び植物全体に再生する細胞を含む。植物細胞は、培養中の細胞であってもよい。「植物組織」とは、植物における分化組織、又は未成熟又は成熟胚、種子、根、芽、果実、塊茎、花粉、クラウンゴールのような腫瘍組織に由来する未分化組織(「外植片」)、及びカルス等の培養における植物細胞の凝集の様々な形態を含む。種子中又は種子からの例示的な植物組織は、子葉、胚及び胚軸である。従って、本発明は、これらを含む植物及び植物部分及び製品を含む。
【0204】
用語「穀粒」及び「種子」は、本明細書において互換的に使用される。「穀粒」は、植物の成熟した穀粒、植物の発達中の穀粒を指し、又は収穫した穀粒又は粉砕や研磨等のプロセッシングの後の穀粒を指し、ここで、状況に従うと、大半の穀粒は、無傷であるか、又は収穫後又は発芽後に留まる。成熟した穀粒は、通常、約18~20%未満の水分含有量を有する。一実施形態において、本発明の発達中穀粒は、受粉後少なくとも約10日(DAP)である。一実施形態において、本発明の発達中の穀粒は、少なくとも開花時~開花後7日の間に穀粒を含む。
【0205】
本明細書で使用される場合、「トランスジェニック植物」は、同種、変種又は栽培品種の野生型植物には見られない核酸コンストラクトを含む、本明細書で定義される1つ又は複数の遺伝的変異を有する植物を指す。すなわち、トランスジェニック植物(形質転換植物)は、形質転換前に含まれていない遺伝物質(導入遺伝子)を含む。導入遺伝子は、植物細胞から得られた、又は植物細胞から得られた遺伝子配列、又は別の植物細胞、又は非植物ソース、又は合成配列を含むことが出来る。典型的に、導入遺伝子は、例えば形質転換等のヒト操作によって植物に導入されているが、当業者が認識するように、何れかの方法を使用することが出来る。遺伝子材料は、好ましくは植物のゲノムに安定に組み込まれる。導入された遺伝子材料は、例えばアンチセンス配列等の同じ種であるが、再配列された順序、又は異なる要素の配置で天然に起こる配列を含み得る。このような配列を含む植物は、本明細書において「トランスジェニック植物」に含まれる。
【0206】
「非トランスジェニック植物」は、組換えDNA技術による遺伝子材料の導入によって遺伝子改変されていないものである。
【0207】
本明細書で使用される場合、「野生型」は、本発明に従って改変されていない細胞、組織、穀粒又は植物を指す。野生型細胞、組織又は植物は、外因性核酸の発現レベル、又は本明細書に記載のように修飾された細胞、組織、穀粒又は植物による形質修飾の程度及び性質を比較する対照として使用され得る。
【0208】
本明細書で使用される場合、用語「対応する野生型」イネ又は穀粒、又は同様のフレーズは、本発明のイネ又は穀粒の遺伝子型の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも99%、及びさらにより好ましくは少なくとも99.5%を含むイネ又は穀粒を指すが、植物又は穀粒、及び/又は肥厚した糊粉においてROS1a遺伝子の活性がそれぞれで減少する、1つ又は複数の遺伝的変異(例えば、導入された遺伝的変異)を含まない。一実施形態において、本発明の米穀粒又は植物は、1つ又は複数の遺伝的変異(導入された遺伝的変異等)を除き、野生型米穀物又は植物と同質である。好ましくは、対応する野生型植物又は穀粒は、本発明の植物/穀粒の祖先と同じ栽培品種又は変種のもの/由来であり、又は1つ又は複数の遺伝子改変を欠き、及び/又は多くの場合「分離体」と呼ばれる肥厚した糊粉を有さない、兄弟植物系統である。一実施形態において、本発明のイネ又は穀粒は、イネ栽培品種Zhonghua 11(ZH11)の遺伝子型と50%未満の同一性を有する遺伝子型を有する。ZH11は1986年以来市販されている。
【0209】
本発明の観点で定義されるトランスジェニック植物は、組換え技術を用いて遺伝子改変されたイネの子孫を含み、ここで、後代は、目的の導入遺伝子を含む。そのような子孫は、一次トランスジェニック植物の自己受精又はそのような植物を別のイネと交配することによって得ることが出来る。これは、一般に、所望の植物又は植物器官において本明細書で定義される少なくとも1つのタンパク質の産生を調節することである。トランスジェニック植物の部分は、例えば、培養組織、カルス及びプロトプラスト等の導入遺伝子を含む前記植物の全ての部分及び細胞を含む。
【0210】
本明細書で使用される場合、用語「イネ」は、その祖先、並びに他の種との交配により産生される、その子孫を含むオリザ属の何れかの種を指す。植物は、例えば、オリザサティバ(Oryza sativa)の系統又は栽培品種又は変種、又は商業的生産に適した穀粒等の、商業的に栽培されているオリザ種であることが好ましい。
【0211】
本明細書で使用される場合、「玄米(ブラウンライス、brown rice)」は、糠層及び胚(胚芽)を含むイネの穀粒全体を意味するが、通常は収穫中に除去された外皮ではない。すなわち、玄米は、糊粉と胚を取り除くために研磨されていない。「茶色(brown)」は、糠層中に茶色又は黄褐色のピグメントが存在することを意味する。玄米は穀粒全体を考慮される。本明細書で使用される場合、「白米」(精白米)は、糠と胚芽が除去された米穀粒を意味し、すなわち、本質的に米穀粒全体のデンプン質胚乳を意味する。米穀粒のこれらのクラスの両方は、短、中又は長穀粒の形で生じ得る。白米と比較して、玄米は、タンパク質、ミネラル及びビタミンの高い含有量を有し、及びそのタンパク質含量において高いリシン含量を有する。
【0212】
本明細書で使用される場合、「色素米」には、黒米と赤米が含まれ、それぞれにプロアントシアニジン(タンニン)等のピグメントを糊粉層に含む。色素米は、非色素米よりも高いリボフラビン含量を有するが、同様のチミン含量を有する。「黒米」は、アントシアニンによる黒色又はほぼ黒色の糠層を有し、調理時に深紫色に変色することがある。「紫米」(「紫黒米」とも呼ばれる)は、黒米の短穀粒変種であり、ここで定義される黒米に含まれる。調理されていないときは、紫色であり、調理されたときは、濃い紫色である。「赤米」には、シアニジン-3-グルコシド(クリサンテミン)及びペオニジン-3-グルコシド(オキシコキシ-アニン(oxycoccicy-anin))を含む、糠に赤色/栗色の色を与える様々なアントシアニンが含まれる。
【0213】
これらのタイプの米穀粒は、発芽を防ぐために、例えば調理(ボイル)又は乾熱による処理が可能である。白米は典型的には12~18分間調理されるのに対して、茶色及び色素米は典型的には所望の歯ごたえ次第で20~40分間調理される。調理又は加熱は、トリプシンインヒビター、オリザシスタチン及びヘマグルチニン(レクチン)等の米穀粒中の抗栄養因子のレベル(しかし、フィチン酸含有量ではない)を、これらタンパク質の変性によって、減少させる。米穀粒は、当技術分野で知られているように、調理前に水に浸してもよく、又は長時間ゆっくりと調理してもよい。米穀粒はまた、粉砕されてもよく、湯通し又は熱安定化されてもよい。米糠は、安定化させるために、例えば100℃で約6分間蒸気処理することが出来る。
【0214】
一実施形態において、本発明の穀粒は、対応する野生型麦粒と比較した場合、穀粒の成熟を遅延させた。遅延された成熟は、成熟した穀粒段階による種子によって充足された植物の小花の割合を計算することを伴う種子設定率(%)を用いることによって決定することが出来る。
【0215】
一実施形態において、本発明の穀粒は、対応する野生型穀粒と比較した場合、発芽能力が減少する。例えば、穀粒は、グロースチャンバー内で28℃、湿度コントロール無し、12時間明期/12時間暗期サイクル下で培養した場合、約70%~約80%、又は約75%、好ましくは、70%~100%の対応する野生型穀粒の発芽能力を有する。本明細書で使用される場合、用語「発芽」は、幼根が、種皮を通して目に見えるようになったときとして定義される。
【0216】
一実施形態において、本発明の植物は、野生型親品種(配列番号2として提供されるアミノ酸の配列を有するROS1aポリペプチドを含むアイソジェニック植物等)に対して、正常な草丈、受精能(雄及び雌)、穀粒サイズ及び1000穀粒重量の1つ又は複数あるいは全てを有する。一実施形態において、本発明の穀粒は、野生型親品種に対して、正常な草丈、受精能(雄及び雌)、穀粒サイズ及び1000穀粒重量の1つ又は複数あるいは全てを有するイネを産生することが出来る。本明細書で使用される場合、用語「正常」は、本発明の植物と同じ条件下で生育させた野生型親品種において同じ形質を測定することによって決定することが出来る。一実施形態において、本発明の植物が正常であることは、野生型親品種と比較して、定義された特徴の+/-10%、より好ましくは+/-5%、より好ましくは+/-2.5%、さらにより好ましくは+/-1%のレベル/数値等を有する。
【0217】
本発明の観点で定義される、トランスジェニック植物は、所望の植物又は植物器官において本発明の少なくとも1つのポリペプチドの産生を引き起こすための組換え技術を用いて遺伝子改変された植物(同様に前記植物の部分及び細胞)及びそれら子孫を含む。トランスジェニック植物は、当該分野で公知の、例えば、A. Slater et al., 植物バイオテクノロジー・植物の遺伝的操作、Oxford University Press (2003)、及びP. Christou and H. Klee, 植物バイオテクノロジーハンドブック、John Wiley and Sons (2004) 等に記載されている技術を用いて生産され得る。
【0218】
好ましい実施形態において、トランスジェニック植物は、導入された各遺伝子又は核酸コンストラクト(導入遺伝子)についてホモ接合性であり、その子孫が所望の表現型について分離しないようにする。トランスジェニック植物はまた、導入されたトランスジーン(例えば、ハイブリッド種子から増殖されたF1子孫)のヘテロ接合性であり得る。そのような植物は、当技術分野で周知の雑種強勢のような利点を提供し得る。
【0219】
一実施形態において、本発明のイネを選択する方法は、植物からの少なくとも1つの「他の遺伝マーカー」についてのDNA試料を解析することをさらに含む。本明細書で使用される場合、「他の遺伝的マーカー」は、植物の所望の形質に関連する何れかの分子であり得る。そのようなマーカーは、当業者に周知であり、耐病性、収量、植物形態、穀粒品質、休眠形質、穀粒色、種子中のジベレリン酸含量、草丈、粉末の色及び同様のもの等の形質を決定する遺伝子に関する分子マーカーを含む。その遺伝子の例は、半矮性の生育習性を決定するRht遺伝子であり、従って倒伏抵抗性である。
【0220】
遺伝子を細胞に直接送達するための4つの一般的な方法が記載されている: : (1) 化学的方法 (Graham et al., 1973); (2) マイクロインジェクション等の物理的方法(Capecchi, 1980); エレクトロポレーション(例えば、WO 87/06614、US 5,472,869、5,384,253、WO 92/09696及びWO 93/21335参照); 及び遺伝子銃 (例えば、US 4,945,050及びUS 5,141,131参照); (3) ウイルスベクター (Clapp, 1993; Lu et al., 1993; Eglitis et al., 1988); 及び (4) 受容体媒介メカニズム (Curiel et al., 1992; Wagner et al., 1992)。
【0221】
使用され得る促進方法は、例えば、マイクロプロジェクタイルボンバードメント及び同様のものを含む。形質転換核酸分子を植物細胞に送達するための方法の一例は、マイクロプロジェクタイルボンバードメントである。この方法は、Yang et al., 遺伝子導入のための粒子ボンバードメント技術、Oxford Press, Oxford, England (1994) によってレビューされている。非生物学的粒子(微小発射物)は、核酸でコーティングされ、推進力によって細胞に送達され得る。例示的な粒子は、タングステン、金、白金及び同様のものが含まれる。微粒子銃の特有の利点は、単子葉植物を再現性よく形質転換させる有効な手段であることに加えて、プロトプラストの単離も、アグロバクテリウムへの感染感受性も要求されないことである。本発明での使用に適した粒子送達システムは、Bio-Rad Laboratoriesから入手可能なヘリウム加速PDS-1000/He銃である。ボンバードメントのために、未成熟胚又は未成熟胚からのスクテラ(scutella)又はカルス等の誘導された標的細胞を、固体培地上に配置することが出来る。
【0222】
別の代替実施形態において、色素体は安定に形質転換することが出来る。高等植物における色素体形質転換のために開示された方法は、選択マーカーを含むDNAの粒子銃送達及び相同組換えによる色素体ゲノムへのDNAのターゲティングを含む(US 5, 451,513、US 5,545,818、US 5,877,402、US 5,932479及びWO 99/05265)。
【0223】
アグロバクテリウム媒介性トランスファー(transfer)は、DNAを植物全体の組織に導入することができ、プロトプラストから無傷の植物を再生する必要性を回避出来るため、遺伝子を植物細胞に導入するための広く適用可能なシステムである。DNAを植物細胞に導入するためのベクターを組み込んだアグロバクテリウム媒介性植物の使用は、当技術分野で周知である(例えば、US 5,177,010、US 5,104,310、US 5,004,863、US 5,159,135参照)。さらに、T-DNAの組込みは比較的精密なプロセスであり、再配列は大半起こらない。トランスファーされるDNAの領域は境界配列によって定義され、介在するDNAは通常植物ゲノムに挿入される。
【0224】
アグロバクテリウム形質転換法を用いて形成されたトランスジェニック植物は、典型的には、1つの染色体上に単一の遺伝子座を含む。そのようなトランスジェニック植物を、付加された遺伝子に対して半接合性であると称することが出来る。付加された構造遺伝子、すなわち、染色体対の各染色体上の同じ遺伝子座に1つの遺伝子が2つの付加遺伝子を含むトランスジェニック植物についてホモ接合性であるトランスジェニック植物が、より好ましい。ホモ接合性トランスジェニック植物は、単一の付加的遺伝子を含有する独立した分離トランスジェニック植物を性的交配(自家受粉)し、産生された種子の一部を発芽させ、目的の遺伝子について得られた植物を解析することによって得ることが出来る。
【0225】
細胞形質転換の他の方法も使用することができ、限定されないが、花粉へ直接的にDNAをトランスファーすることにより、植物の生殖器官にDNAを直接注入することにより、又は未成熟胚の細胞にDNAを直接注入した後に乾燥した胚に再水和を行うことによる植物へのDNAの導入を含む。
【0226】
単一植物プロトプラスト形質転換体又は種々の形質転換された外植体からの植物の再生、発達及び栽培は当該分野で周知である(Weissbach et al., 植物分子生物学のための方法、Academic Press, San Diego, (1988))。この再生及び成長プロセスは、典型的に、発根した小植物段階を通した胚発達の通常の段階を通して個別化された細胞を培養することである形質転換された細胞の選択の工程を含む。トランスジェニック胚及び種子も同様に再生される。得られたトランスジェニック根茎は、その後、土壌等の適切な植物成長培地に植え付けられる。
【0227】
外来、外因性遺伝子を含む植物の発達又は再生は、当技術分野において周知である。好ましくは、再生された植物は自家受粉され、ホモ接合トランスジェニック植物を提供する。別な方法では、再生された植物から得られた花粉は、農業的に重要な系統の種子栽培植物と交配される。反対に、これらの重要な系統の植物からの花粉は、再生された植物を受粉するために使用される。所望の外因性核酸を含有する本発明のトランスジェニック植物は、当業者に周知の方法を用いて培養される。
【0228】
トランスジェニック細胞及び植物における導入遺伝子の存在を確認するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅又はサザンブロット解析を、当業者に公知の方法を用いて実施することが出来る。導入遺伝子の発現産物は、産物の性質に応じて様々な方法の何れかで検出することができ、ウェスタンブロット及び酵素アッセイが含まれる。タンパク質発現を定量し、異なる植物組織における複製を検出するための1つの特に有用な方法は、GUS等のレポーター遺伝子を使用することである。トランスジェニック植物が得られると、植物組織又は所望の表現型を有する部分を産生するためにそれらを成長させることが出来る。植物組織又は植物部分を収穫してもよく、及び/又は種子を回収してもよい。種子は、所望の特性を有する組織又は部分を有するさらなる植物を栽培するためのソースとして役立ち得る。
【0229】
マーカー支援選抜
マーカー支援選抜は、古典的な育種プログラムにおいて戻し交雑親と戻し交雑する際に必要とされるヘテロ接合性植物を選択するよく知られた方法である。各戻し交配世代における植物の個体群は、戻し交雑集団において通常は1:1の比率で存在する目的の遺伝子についてヘテロ接合性であり得、及び分子マーカーは、遺伝子の2つの対立遺伝子を区別するために用いることが出来る。例えば、若葉からDNAを抽出し、遺伝子移入された所望の形質に対して特定のマーカーを用いて検出することにより、さらなる戻し交配のための植物の早期選択が行われ、エネルギー及び資源はより少ない植物に集中する。戻し交配プログラムをさらに高速化するために、未成熟種子(開花後25日)からの胚を、完全な種子成熟を許容するのではなく、滅菌条件下、栄養培地上で摘出し、育てることが出来る。このプロセスは、「胚レスキュー」と呼ばれ、3つの葉段階でのDNA抽出と組み合わせて、及びROS1a活性を変化させる少なくとも1つの遺伝的変異の解析において使用され、植物に糊粉の厚さを増加させることにより、所望の形質を有する植物を迅速に選択することができ、それは、グリーンハウス又は野外で成熟するまで育てられ、その後、さらに戻し交雑親に戻し交雑することが出来る。
【0230】
当該分野で公知の何れかの分子生物学的技術を、本発明の方法において使用することが出来る。そのような方法は、限定されないが、核酸増幅、核酸配列決定、適切に標識されたプローブとの核酸ハイブリダイゼーション、一本鎖コンフォメーション解析(SSCA)、変性グラジエントゲル電気泳動(DGGE)、ヘテロ二本鎖解析(HET)、化学的切断解析(CCM)、触媒的核酸切断又はそれらの組合せの使用を含む(例えば、Lemieux, 2000; Langridge et al., 2001参照)。本発明はまた、ROS1a活性を変化させ、植物に糊粉の厚さを増加させる(例えば)ROS1a遺伝子の対立遺伝子に関連する多型を検出するための分子マーカー技術の使用を含む。そのような方法は、制限断片長多型(RFLP)、RAPD、増幅断片長多型(AFLP)及びマイクロサテライト(単純配列反復、SSR)多型の検出又は解析が含まれる。密接に関連したマーカーを、当該技術分野において周知の方法、例えば、Langridge et al. (2001)によって概説されたBulked Segregant解析によって容易に得ることが出来る。
【0231】
一実施形態において、マーカー支援選抜のための関連する遺伝子座は、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子から少なくとも1cM、又は0.5cM、又は0.1cM、又は0.01cM以内である。
【0232】
「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)は、「上流」及び「下流」プライマーからなる「プライマーの対」又は「プライマーのセット」、並びにDNAポリメラーゼ等の重合の触媒、並びに典型的には熱に安定なポリメラーゼ酵素を使用して、複製コピーが、標的ポリヌクレオチドから作製される反応である。PCRのための方法は、当技術分野で公知であり、例えば、「PCR」(M.J. McPherson and S.G. Moller(編集者)、BIOS Scientific Publishers Ltd、Oxford、(2000))に教示されている。PCRは、植物の糊粉の厚さを増加させたROS1a遺伝子又は対立遺伝子を発現する植物細胞から単離されたmRNAを逆転写することにより得られたcDNAに対して実施され得る。しかしながら、植物から単離されたゲノムDNAに対してPCRを実施するのが一般に容易である。
【0233】
プライマーは、標的配列に対して配列特異的にハイブリダイズし、PCRの間に伸長することが出来るオリゴヌクレオチド配列である。アンプリコン又はPCR産物又はPCR断片又は増幅産物は、プライマー及び標的配列の新たに合成されたコピーを含む伸長産物である。多重PCRシステムは、1つ以上のアンプリコンの同時生産をもたらす複数のプライマーセットを含む。プライマーは、標的配列と完全に一致していてもよく、又は特定の標的配列に制限酵素又は触媒核酸認識/切断部位の導入をもたらし得る内部ミスマッチ塩基を含んでいてもよい。プライマーはまた、追加の配列を含み得、及び/又はアンプリコンの捕捉又は検出を容易にするための修飾又は標識ヌクレオチドを含み得る。DNAの熱変性、それらの相補的配列へのプライマーのアニーリング、及びポリメラーゼによるアニーリングされたプライマーの伸長の繰り返しサイクルは、標的配列の指数関数的増幅をもたらす。標的又は標的配列又は鋳型という用語は、増幅される核酸配列を指す。
【0234】
ヌクレオチド配列の直接配列決定のための方法は、当業者に周知であり、例えば、Ausubel et al.,(前出)及びSambrook et al.,(前出)において見出され得る。配列決定は、何れかの適切な方法、例えば、ジデオキシ配列決定、化学配列決定又はそれらの変形によって行うことが出来る。直接配列決定は、特定の配列の何れかの塩基対における変異を決定するという利点を有する。
【0235】
TILLING
本発明の植物は、TILLING(ゲノムにおける標的誘導局所損傷)(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)として知られているプロセスを用いて産生され得る。第1の工程において、種子(又は花粉)を化学的突然変異原で処理し、次に突然変異が安定して遺伝する世代に植物を更新することによって、植物の個体群において新規の一塩基対変化等の導入突然変異が誘導される。DNAが抽出され、個体群の全てのメンバーから種子が保存され、時間とともに繰り返しアクセスできるリソースが作成される。
【0236】
TILLING解析のため、PCRプライマーが、目的とする単一の遺伝子標的を特異的に増幅するように設計される。特異性は、標的が遺伝子ファミリーのメンバー又は倍数体ゲノムの一部である場合に特に重要である。次に、色素標識されたプライマーを用いて、複数の個体のプールされたDNAからPCR産物を、増幅することが出来る。これらのPCR産物を変性させ、再アニーリングして、ミスマッチ塩基対の形成を可能にする。ミスマッチ、又はヘテロ二本鎖は、天然に存在する一塩基多型(SNP)(すなわち、個体群からのいくつかの植物は、同じ多型を有する可能性が高い)及び誘導されたSNP(すなわち、まれな個々の植物のみが突然変異を示す可能性が高い)の両方を表す。ヘテロ二本鎖形成後、例えば、CelI等のミスマッチDNAを認識し切断するエンドヌクレアーゼの使用は、TILLING個体群内の新規SNPを発見するための鍵である。
【0237】
このアプローチを使用して、何千もの植物をスクリーニングして、単一の塩基変化並びにゲノムの何れか遺伝子又は特定領域における小さな挿入又は欠失(1~30bp)を有する個体を同定することが出来る。解析されるゲノムフラグメントは、サイズが0.3~1.6kbの範囲であり得る。解析ごとに8倍のプール、1.4kb断片(ノイズのためにSNP検出が問題となる断片の末端を切り捨てる)及び96レーンで、この組み合わせにより、TILLINGをハイスループット技術にする1回の解析につき最大100万塩基対のゲノムDNAをスクリーニングすることを可能にする。
【0238】
TILLINGは、Slade and Knauf (2005)、及びHenikoff et al. (2004)にさらに記載される。
【0239】
ハイスループットTILLING技術は、突然変異の効率的な検出を可能にすることに加えて、天然多型の検出に理想的である。従って、既知の配列へのヘテロ二本鎖によって未知の相同DNAを調べることにより、多型部位の数及び位置が明らかになる。少なくともいくつかの反復数多型を含む、ヌクレオチド変化及び小さな挿入の両方及び欠失が同定される。これはEcotillingと呼ばれている(Comai et al., 2004)。
【0240】
各SNPは、数ヌクレオチド以内のおおよその位置で記録される。従って、各ハプロタイプは、その移動性に基づいてアーカイブされ得る。配列データは、ミスマッチ切断解析に使用される同じ増幅されたDNAのアリコートを使用して、比較的小さな増分努力(incremental effort)で得ることが出来る。単一の反応のための左又は右の配列決定プライマーは、その多型への近接で選択される。シーケエンサーソフトウェアは、それぞれの場合にゲルバンドを確認し、多重アラインメントを行い、塩基変化を検出する。
【0241】
大半のSNP発見に現在使用されている完全配列決定法よりも安価にEcotillingを行うことが出来る。アレイ化された生態型DNAを含むプレートは、突然変異誘発された植物由来のDNAのプールではなく、スクリーニングされ得る。検出が、塩基対に近い分解能を有するゲル上にあり、バックグラウンドパターンは、レーンにわたって均一であるため、同一サイズのバンドをマッチングさせることができ、故に、SNPを一段階で発見し、遺伝子タイピングすることが出来る。このようにして、SNPの最終的な配列決定は、スクリーニングに使用される同じPCR産物のアリコートがDNA配列決定に供され得るという事実により、より単純で効率的である。
【0242】
穀粒プロセッシング
肥厚した糊粉により、本発明の米穀粒、及びそれからの粉末及び糠は、改善された栄養成分を有する。単離された糊粉組織は、低レベルのデンプン及び果皮を含むはずであり、ヒトの栄養のための穀粒の生理学的に有用な物質の主要部分を表す。例えば、本発明の穀粒及び/又はそれから製造される粉末は、対応する野生型穀粒及び/又はそれから製造される粉末と比較した場合、1つ又は複数あるいは全ての以下を、それぞれ重量ベースで含む;
i) 例えば少なくとも20%又は少なくとも25%高い等のより高いミネラル含量、好ましくは、ミネラル含量は、亜鉛(例えば、少なくとも約10%又は少なくとも約15%高い)、鉄(例えば、少なくとも約10%又は少なくとも約15%高い)、カリウム(例えば、少なくとも約20%又は少なくとも約25%高い)、マグネシウム(例えば、少なくとも約18%又は少なくとも約22%高い)、リン(例えば、少なくとも約17%又は少なくとも約21%高い)及びイオウ(例えば、少なくとも約5%又は少なくとも約8%高い)の1つ又は複数あるいは全ての含量であり、
ii) 例えば少なくとも約25%、又は少なくとも約35%、より多くのフェノール性化合物、及び/又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、より親水性の酸化防止剤等のより高い酸化防止剤含量、
iii) 少なくとも約10%又は少なくとも約15%高い等のより高いフィチン酸塩含量、
iv) ビタミンB3、B6及びB9のうちの1つ又は複数あるいは全てのより高い含量、
v) より高い食物繊維含量及び/又は不溶性繊維含量(例えば、全繊維の少なくとも約150%、又は少なくとも約180%高い)、
vi) 対応する野生型穀粒のデンプン含量に対して約90重量%~約100重量%であるデンプン含量、
vii) 高いスクロース含量、
viii) 少なくとも約1.5倍又は少なくとも約2倍高い等の、より高い単糖含量(例えば、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース含量)、
ix) 少なくとも約20%、少なくとも約30%又は少なくとも約50%、又は約50%高い等のより高い脂肪含量、及び
x) 同様の窒素レベル。
【0243】
穀粒のこれらの栄養成分のそれぞれは、実施例1及び5に概説したような日常的な技術を用いて決定することが出来る。
【0244】
一実施形態において、本発明の米穀粒及び/又はそれから製造された粉末は、以下の1つ又は複数あるいは全てを、それぞれ重量ベースで含む;
i) 対応する野生型穀粒/粉末と比較した場合、少なくとも約20%、少なくとも約30%、又は少なくとも約50%、又は約50%多い脂肪、
ii) 少なくとも約11mg/g又は少なくとも約12mg/gの全フィチン酸塩、
iii) 対応する野生型穀粒からの粉末と比較した場合、穀粒から得られる粉末中の少なくとも約20%又は少なくとも約25%多いミネラル含量、
iv) 少なくとも約14mg/kg又は少なくとも約15mg/kgの全亜鉛、
v) 少なくとも約13mg/kg又は少なくとも約13.5mg/kg全鉄、
vi) 対応する野生型穀粒/粉末と比較した場合、少なくとも約150%、又は少なくとも約180%多い全繊維、
vii) 対応する野生型穀粒/粉末のデンプン含量に対して約90重量%~約100重量%であるデンプン含量、
viii) 対応する野生型穀粒/粉末と比較した場合、少なくとも約1.5倍又は少なくとも約2倍高い単糖含量(例えば、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース含量)、及び
ix) 対応する野生型穀粒/粉末と比較した場合、少なくとも約25%、又は少なくとも約35%のフェノール性化合物、及び/又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%のより親水性の酸化防止剤。
【0245】
一実施形態において、穀粒は、対応する野生型穀物と比較して、全デンプン含量においてアミロースの割合が増加する。そのような穀粒を産生する方法は、例えば、WO 2002/037955、WO 2003/094600、WO 2005/040381、WO 2005/001098、WO 2011/011833及びWO 2012/103594に記載される。
【0246】
一実施形態において、本発明の穀粒は、対応する野生型穀粒と比較して、その全脂肪含量におけるオレイン酸の増加した割合及び/又はパルミチン酸の減少した割合を含む。そのような穀粒を産生する方法は、例えば、WO 2008/006171及びWO 2013/159149に記載される。
【0247】
本発明の穀粒/種子、又は本発明の他の植物の部分は、当該分野で公知の何れかの技術を使用して食品成分、食品又は非食品を産生するためにプロセスされ得る。
【0248】
本明細書で使用される場合、用語「他の食品又は飲料成分」は、食品又は飲料の一部として提供される場合、動物による消費に適した何れかの物質、好ましくはヒトによる消費に適した何れかの物質を指す。例には、限定されないが、他の植物種由来の穀粒、砂糖等が含まれるが、水を含まない。
【0249】
一実施形態において、製品は、例えば、超微細粉砕された全穀粒粉末、又は穀粒の約100%から作られた粉末等の全穀粒粉末である。全穀粒粉末は、精製された粉末構成成分(精製された粉末又は精製された粉末)及び粗画分(超微粉砕された粗画分)を含む。
【0250】
精製された粉末は、例えば、洗浄された穀粒を粉砕及びボルティング(bolting)することによって、調製される粉末であり得る。精製された粉末の粒のサイズは、「212マイクロメートル(U.S.A.ワイヤー70)」と指定された織りワイヤークロスの開口よりも大きくない開口部を有する布を98%以上通過する粉末として記載される。粗い画分は、糠及び胚芽の少なくとも1つを含む。例えば、胚芽は穀粒のカーネル内にある植物の胚である。胚芽は、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル及び植物栄養素(フラボノイド等)を含む。糠はいくつかの細胞層を含み、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル及びフラボノイド等の植物栄養素の有意な量を有する。さらに、粗画分は、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル及びフラボノイド等の植物栄養素も含む糊粉層を含み得る。糊粉層は、技術的に胚乳の一部と考えられているが、糠と同じ特徴の多くを示すため、典型的には、粉砕プロセス中に糠及び胚芽とともに除去される。糊粉層は、タンパク質、ビタミン及びフェルラ酸等の植物栄養素を含む。
【0251】
さらに、粗画分は、精製した粉末と混合され得る。粗画分は、精製された粉末と混合され得、全穀粒粉末を形成することができ、故に精製された粉末と比較して、栄養価、繊維含量及び抗酸化能力が向上した全穀粒粉末を提供する。例えば、粗画分又は全穀粒粉末は、焼成製品、スナック製品、及び食品製品において精製された又は全穀粒粉末を置き換えることで、様々な量で使用され得る。本発明の全穀粒粉末(すなわち、超微粉砕全穀粒粉末)は、それら自家製の焼成製品に使用するために消費者に直接販売されてもよい。例示的な実施形態において、全穀粒粉末の造粒プロファイルは、全穀粒粉末の重量で98%の粒子が、212マイクロメートル未満であるようなものである。
【0252】
さらなる実施形態において、全穀粒粉末及び/又は粗画分の糠及び胚芽中に見出される酵素は、全穀粒粉末及び/又は粗画分を安定化させるために不活性化される。安定化は、水蒸気、熱、放射線、又は他の処理を用いて糠及び胚芽層に見出される酵素を不活性化するプロセスである。安定化された粉末は、その調理特性を保持し、及び長い貯蔵寿命を有する。
【0253】
さらなる実施形態において、全穀粒粉末、粗画分、又は精製された粉末は、食品の構成要素(成分)であってもよく、食品を産生するために使用されてもよい。例えば、食品製品は、ベーグル、ビスケット、ブレッド、バン、クロワッサン、餃子、イングリッシュマフィン、マフィン、ピタブレッド、クイックブレッド、冷凍/冷凍生地製品、生地、焼いた豆、ブリトー、チリ、タコ、タマレ、トルティーヤ、ポットパイ、食べられる状態になっているシリアル(ready to eat cereal)、食べられる状態になっている食事(ready to eat meal)、詰め物、電子レンジ食品、ブラウニー、ケーキ、チーズケーキ、コーヒーケーキ、クッキー、デザート、ペストリー、スイートロール、キャンディーバー、パイクラスト、パイフィリングベビーフード、ベーキングミックス、バター、パン粉、グレービーミックス、肉エクステンダー(meat extender)、肉代用品、シーズニングミックス、スープミックス、グレービー、ルー、サラダドレッシング、スープ、サワークリーム、ヌードル、パスタ、ラーメン、チョウメイヌードル、ローメインヌードル、アイスクリーム含有物、アイスクリームバー、アイスクリームコーン、アイスクリームサンドイッチ、クラッカー、クルトン、ドーナツ、エッグロール、押出スナック、果物及び穀粒バー、電子レンジ用スナック製品、栄養バー、パンケーキ、パーベイクベーカリー製品、プレッツェル、プリン、グラノーラベースの製品、スナックチップ、スナック食品、スナックミックス、ワッフル、ピザクラスト、動物用食品又はペットフードであり得る。
【0254】
別の実施形態において、全穀粒粉末、精製された粉末、又は粗画分は、栄養補助食品の構成成分であり得る。例えば、栄養補助食品は、1つ又は複数の追加成分を含む食物に添加される製品であってもよく、典型的に、ビタミン、ミネラル、ハーブ、アミノ酸、酵素、抗酸化物質、ハーブ、スパイス、プロバイオティクス、抽出物、プレバイオティックス及び繊維を含む。本発明の全穀粒粉末、精製された粉末、又は粗画分は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素、及び繊維を含む。例えば、粗画分は、健康に良い食事に不可欠なB-ビタミン類、セレン、クロム、マンガン、マグネシウム、酸化防止剤等の必須栄養素のみならず高濃度の食物繊維を含む。例えば、22gの本発明の粗画分は、個人の一日当たりの繊維推奨消費量の33%を供給する。栄養補助食品は、個人の全体的な健康を助ける既知の栄養成分が含まれていてもよく、例は、限定されないが、ビタミン、ミネラル、他の繊維成分、脂肪酸、抗酸化物質、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ルテイン、リボース、オメガ-3脂肪酸、及び/又は他の栄養成分を含む。栄養補助剤は、限定されないが、以下の形態で供給され得る: インスタント飲料ミックス、飲める状態になっている飲料(ready-to-drink beverages)、栄養バー、ウエハース、クッキー、クラッカー、ジェルショット、カプセル、チューズ、チュアブルタブレット、及び丸剤。一実施形態は、風味の付いたシェイク又はモルトタイプ飲料の形態で繊維栄養補助剤を供給し、この実施形態は、子供のための繊維補助剤として特に魅力的であり得る。
【0255】
さらなる実施形態において、粉砕プロセスを使用して、複数の穀粒の粉末又は複数の穀粒の粗画分を作製することが出来る。例えば、穀粒の1つのタイプ由来の糠及び胚芽は、粉砕されてもよく、及び他のタイプの穀物の粉砕された胚乳又は全穀粒穀物粉末とブレンドされてもよい。あるいは、穀粒の1つの種類の糠及び胚芽を粉砕してもよく、及び他のタイプの穀粒の粉砕された胚乳又は全穀粒粉末とブレンドされてもよい。本発明は、1つ又は複数の糠、胚芽、胚乳、及び1つ又は複数の穀粒の全穀粒粉末の何れかの組合せを混合することを包含することが意図される。この複数の穀粒アプローチは、特別注文の粉末を作製し、複数のタイプの穀物粒の品質及び栄養成分を利用することで、1つの粉末を作製することが出来る。
【0256】
本発明の全穀粒粉末、粗画分及び/又は穀粒製品は、当該技術分野で知られている何れかの粉砕方法によって製造され得ると考えられる。例示的な実施形態は、穀粒の胚乳、糠及び胚芽を別々の流れに分離することなく、単一の流れで穀粒を粉砕することを含む。洗浄及びテンパー(temper)された穀粒は、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、インパクトミル、ディスクミル、エアアトリションミル、ギャップミル、及び同様のもの等の第1の通過グラインダーに運ばれる。粉砕後、穀粒は排出され、シフターに運ばれる。さらに、本発明の全穀粒粉末、粗画分及び/又は穀粒製品は、発酵、インスタント化、押出し、カプセル化、トースト、焙煎、又は同様のもの等の多数の他のプロセスによって、改変又は増強され得ることが意図される。
【実施例0257】
実施例1. 一般的な材料と方法
【0258】
スーダンレッド溶液での染色による糊粉の観察
90℃で1時間インキュベートした50mlのポリエチレングリコール溶液(平均分子量400、Sigma、Cat. No. 202398) に1gのスーダンレッドIVを添加し、等容量の90%グリセロールと混合することによって染色溶液を調製した。各穀粒の果皮(内花頴及び外花頴)を除去した後、成熟した米穀粒を蒸留水中で5時間インキュベートした後、カミソリ刃を用いて横方向又は縦方向に切断した。切片をスーダンレッド溶液で室温24~72時間染色した。次いで、切片を室温20分間ルゴール染色溶液(Sigma、32922)で対比染色し、解剖顕微鏡下で観察した(Sreenivasulu、2010)。
【0259】
エバンスブルー(Evans Blue)による糊粉の染色
エバンスブルー染色溶液は、100mlの蒸留水に0.1gのエバンスブルー(Sigma、E2129)を溶解することによって調製した。それぞれの穀粒の果皮(内花頴及び外花頴)を取り除いた後、成熟した米穀粒子をカミソリ刃で横方向に切断した。切片を室温30分間蒸留水中でインキュベートし、染色を加え、室温で2分間静置した。次いで、染色液を捨て、切片を蒸留水で2回洗浄し、解剖顕微鏡下で観察した。
【0260】
イネ胚乳の光学顕微鏡観察
米穀粒を、ホルマリン-酢酸-アルコール(FAA)溶液(60%エタノール、5%氷酢酸及び2%ホルムアルデヒド)中で固定し、1時間脱気し、70%、80%、95%及び100%エタノールを含有する一連のアルコール溶液中で脱水し、LR白色樹脂(Electron Microscopy Sciences、14380)を浸透させ、及び60℃で24時間重合させた。ミクロトーム切片化は、ライカUC7ミクロトームを用いて行った。切片を室温で2分間、0.1%トルイジンブルー溶液(Sigma、T3260)で染色し、次いで蒸留水で2回洗浄し、光学顕微鏡で検査した。あるいは、切片を0.01%カルコフロール(Calcofluor)ホワイト溶液(Sigma、18909)中、室温で2分間染色し、光学顕微鏡で検査した。
【0261】
PAS及びクマシーブルー(Commassie blue)による染色
スライド上の固定切片を、予め熱した0.4%過ヨウ素酸(Sigma、375810)中、57℃で30分間インキュベートし、次いで蒸留水で3回すすいだ。シッフ試薬(Sigma、3952016)を塗布し、スライドを室温で15分間インキュベートし、次いで蒸留水で3回すすいだ。次いで、切片を1%クマシーブルー(R-250、ThermoScientific、20278)中、室温で2分間インキュベートし、蒸留水で3回すすいだ。30%、50%、60%、75%、85%、95%~100%のエタノールを有する一連のアルコール溶液を用いて切片の脱水が成し遂げられ、その後、50%キシレン及び100%キシレン溶液(Sigma、534056)中、各2分間、各スライドをクリアリングした。次いで、カバースリップをEukitt(登録商標)quick hardening mounting medium(Fluka、03989)でマウントし、切片を光学顕微鏡下で観察した。
【0262】
DNA抽出及びPCR条件
Huang(2009)から改変された、純度が低いDNAサンプルを提供する迅速DNA抽出法及び純度が高いDNAのための広範なDNA抽出法の2つの方法が植物葉試料からのDNA抽出のため用いられた。第1の方法において、直径2mmの4つのガラスビーズ(Sigma、273627)、1~2mgのイネ葉組織及び150μlの抽出緩衝液(10mM Tris、pH9.5、0.5mM EDTA、100mM KCl)を、96ウェルPCRプレートの各ウェルに加えた。プレートを密封し、混合物をMini-Beadbeater-96 mixer(GlenMills、1001)を用いて1分間ホモジナイズした。3000rpmで5分間遠心分離した後、抽出されたDNAを含む上清をPCR反応に用いた。
【0263】
第2の方法において、直径2mmの2つのガラスビーズ及び0.2gの葉を、1.5mlエッペンドルフチューブに入れ、液体窒素中、10分間冷却した。次いで、サンプルをMini-Beadbeater-96中で1分間ホモジナイズし、次いで、600μlのDNA抽出緩衝液(2%SDS、0.4M NaCl、2mM EDTA、10mM Tris-HCl、pH8.0)を、各チューブに加え、及び混合物を65℃、1時間インキュベートした。混合物を冷却した後、450μlの6M NaClを添加し、混合し、12000rpmで20分間遠心分離した。各上清を新しいチューブに移し、等容積の2-プロパノールを用いて-20℃で1時間、DNAを沈殿させた。2400rpm、4℃、20分間の遠心分離によってDNAを回収し、ペレットを75%エタノールで2回洗浄した。ペレットを室温で風乾し、それぞれ10ng /μlのRNAse(ThermoScientific、EN0201)を含む600μlの蒸留水に再懸濁し、PCR反応に使用した。
【0264】
PCR反応は、Taqポリメラーゼ(ThermoScientific、K0171)、5'及び3'オリゴヌクレオチドプライマー及び1μlのDNAサンプルを含む5μlの2xPCR緩衝液を、総量10μlで使用した。増幅は、94℃30秒間、55℃30秒間、72℃30秒間の35サイクルを用いて実施した。増幅産物を、3%アガロースゲルを用いたゲル電気泳動によって分析した。コントロールPCR反応は、ホモ接合性Zhonghua11(ZH11)(野生型ジャポニカイネ)、ホモ接合性NJ6(野生型インディカイネ)、及びZH11とNJ6の混合物からのDNA調製物を使用した。
【0265】
ta2対立遺伝子の遺伝子マッピングのために、遺伝子マーカーのPCR増幅は、以下のプライマー対(5'-3'配列)を使用した: INDEL 127 (染色体1上の6,343,260位)、フォワードプライマーTGAGTAGTTGCGTTGTTCT (配列番号15)、リバースプライマーTCTTAGTGAGCCGTTTCT (配列番号16); INDEL 129 (染色体1上の6,560,681位)、フォワードプライマーCCTTCTGTGCTATGGGTT (配列番号17)、リバースプライマーCATGCCAAGACACCACTT (配列番号18); INDEL 128 (染色体1上の6,470,027位)、フォワードプライマーTGGCTTTGGAAACGGTAG (配列番号19)、リバースプライマーTTTAGAGGGATGTGCGTCA (配列番号20); INDEL 149 (染色体1上の6,427,144位)、フォワードプライマーAAACAACGATCCAGCAAA (配列番号21)、リバースプライマーTTGGCACCGTATTACTTTC (配列番号22)。
【0266】
TILLING解析
TILLING解析で使用されたプライマーは、以下のヌクレオチド配列を有していた:
TA2-1F: ACGCATTCTTCATTGACTGTATGT (配列番号23)
TA2-1R: GCCCTTTCAATACAATGACTAGGT (配列番号24)
TA2-2F: GAACATTTGAATCATGTTCCTCAC (配列番号25)
TA2-2R: ACTATCCTTTGATGCAAGTTCTCC (配列番号26)
TA2-3F: GTTGGAAGAGCAGTTAAAGCAAAT (配列番号27)
TA2-3R: CTTCGGCAGTGAAATTTAGTAACA (配列番号28)
TA2-4F: TACAGAACTTCTACGAATGCAGGA (配列番号29)
TA2-4R: GCAACATGAATTGCTAAAGATGAG (配列番号30).
【0267】
ExTaqを用いたPCR増幅は、以下の反応条件で行った:95℃で2分間; 94℃で20秒、68℃で30秒(1サイクルあたり1℃の減少)、及び1kbのアンプリコン長ごとに72℃で60秒の8サイクル、その後94℃20秒、60℃30秒、及び1kbのアンプリコン長ごとに72℃で60秒の35サイクル、並びに72℃5分の最終伸長。野生型及び試験試料からのPCR産物を混合し、以下の条件下で完全な変性-低速アニーリングプログラムに供してヘテロ二本鎖を形成した: 99℃で10分間変性させた後、70℃で20秒ずつ、1サイクルあたり0.3℃の減少で70サイクルのデクレメントを行い、次いで15℃で保持して変性PCR産物を再アニールしてヘテロ二本鎖を形成させた。アニールしたPCR産物のCelI消化を、CelI緩衝液(10mM HEPES、pH7.5、10mM KCl, 10mM MgSO4、0.002% Triton X-100、及び0.2μg/mLウシ血清アルブミン(BSA)、4μLのPCR産物、及びPCR産物がEx Taqによって重合された場合、1ユニットのCelI (10ユニット/μL)又はPCR産物がKODによって重合された場合、20ユニットのCelI)を含む15μLの反応混合物中、45℃で15分間行った後、0.5M EDTA(pH8.0)3μLを加えて反応を停止させた。あるいは、消化を、4μLのPCR産物及びMBN緩衝液(20mM Bis-Tris, pH6.5、10mM MgSO4、0.2mM ZnSO4、0.002 % Triton X-100、及び0.2μg/mL BSA)中、2ユニットのマングビーンヌクレアーゼ(MBN、10ユニット/μL, Cat. No. M0250S; New England Biolabs, USA)を含む、15μLの反応混合物中、60℃で30分間実施した後、2μLの0.2%SDS溶液を加えて反応を停止させた。
【0268】
96ウェルPCRプレート中のCelI消化PCR産物を脱イオン水で100μLに希釈し、キャピラリー電気泳動を、9kV、30秒のプレラン、15秒の1 ng/μLの分子量マーカー75及び15kb又は50及び3kbのdsDNA (Fermentas, Canada),注入、45秒のサンプル注入、及び40分のAdvanCE(標章)FS96装置(Advanced Analytical Technologies, USA)での試料分離を実施した。ゲル画像を収集し、キャピラリー電気泳動のためにPROSizeソフトウェア(Advanced Analytical Technologies、USA)を用いて解析した。
【0269】
DNAグリコシラーゼ(DME)酵素解析
デメテル(DME)は、5-メチルシトシン基質に対する活性を有する二機能性のDNAグリコシラーゼ/リアーゼである。植物は、3つの配列の状況において5-メチルシトシンを有する: CpG、CpNpG、及びCpNpN、及びDMEは、これらの各配列の状況において5-メチルシトシンに対して活性を有する。in vitroで実施される酵素解析において、メチル化シトシンの5 '側のホスホジエステル結合の切断が検出され、δ除去産物が得られた。ゲル電気泳動の前にDNA反応生成物を強塩基(NaOH)で処理すると、予測された位置でのδ除去プロセスが確認された。
【0270】
酵素アッセイにおいて基質として使用される合成オリゴヌクレオチドを、以下に示すように、括弧内に示すヌクレオチド修飾を用いて以下のように合成した:
MEA-1.6F, 5’-CTATACCTCCTCAACTCCGGTCACCGTCTCCGGCG (配列番号31)
MEA-1.6F18meC, 5’-CTATACCTCCTCAACTC(5-meC)GGTCACCGTCTCCGGCG (配列番号32)
MEA-1.6F17meC, 5’-CTATACCTCCTCAACT(5-meC)CGGTCACCGTCTCCGGCG (配列番号33)
MEA-1.6F22meC, 5’-CTATACCTCCTCAACTCCGGT(5-meC)ACCGTCTCCGGCG (配列番号34)
MEA-1.6F18AP, 5’-CTATACCTCCTCAACTC(塩基脱落)GGTCACCGTCTCCGGCG (配列番号35)
MEA-1.6F17AP, 5’-CTATACCTCCTCAACT(塩基脱落)CGGTCACCGTCTCCGGCG (配列番号36)
MEA-1.6F15AP, 5’-CTATACCTCCTCAA(塩基脱落)TCCGGTCACCGTCTCCGGCG (配列番号37)
MEA-1;6F12AP, 5’-CTATACCTCCT(塩基脱落)AACTCCGGTCACCGTCTCCGGCG (配列番号38)
MEA-1.6F18T, 5’-CTATACCTCCTCAACTCTGGTCACCGTCTCCGGCG (配列番号39)
MEA-1.6R, 5’-CGCCGGAGACGGTGACCGGAGTTGAGGAGGTATAG (配列番号40)
MEA-1.6R17meC, 5’-CGCCGGAGACGGTGAC(5-meC)GGAGTTGAGGAGGTATAG (配列番号41)。
【0271】
30μCiの(γ-32P)-ATP(6000Ci/mmol、Perkin Elmer Life Sciences)の存在下で、20単位のT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、各オリゴヌクレオチド20pmolを、50μLの反応、37℃で1分間、エンド標識(end-labelled)した。各標識されたオリゴヌクレオチドを、Qiaquick Nucleotide Removal Kit(Qiagen)を用いて製造者の説明に従って精製した。標識されたオリゴヌクレオチドを、10mM Tris-HCl(pH8.0)、1mM EDTA及び0.1M NaCl中、適切な相補的オリゴヌクレオチドにアニーリングした。各混合物を100℃で10分間加熱し、次いで室温まで一晩ゆっくりと冷却した。MspI又はHpaII制限エンドヌクレアーゼ消化に続いてゲル電気泳動を用いてアニーリングの効率を決定した。グリコシラーゼ活性解析において、90%を超える二本鎖の基質のみを使用した。
【0272】
5'-標識オリゴヌクレオチド基質(13.3nM)を、40mMのHEPES-KOH(pH8.0)、0.1MのKCl、0.1mMのEDTA、0.5mMのジチオスレイトール及び200mg/mlのKClを含む15mlの反応液中で、DMEタンパク質(250nM)、及び200mg/mlのBSAと共に、37℃1時間インキュベートした。15mlの95%ホルムアミド、20mM EDTA、0.05%ブロモフェノールブルー、0.05%キシレンシアノールFFで反応を停止させ、5分間煮沸した。除去を誘導するために、NaOHを最終濃度0.1Mで加え、反応液を7分間沸騰させた。生成物を、7.5M尿素および1xTBEを含む15%ポリアクリルアミドゲル上で分画した。電気泳動は、Hoefer SQ3ゲル装置を用いて1000Vで4時間行った。ゲルを、-80℃でKodak BioMax MRフィルムに曝露した。
【0273】
解析方法
穀粒中の近似物及び他の主要成分、食品成分及び食品試料を、例えば下記のような標準的な方法を用いて決定した。
【0274】
穀粒含水率は、(公認分析化学者協会)AOAC法925.10に従って測定した。簡単に説明すると、穀粒試料(~2g)をオーブン内で130℃約1時間一定重量まで乾燥させた。
【0275】
灰分含量を、AOAC法923.03に従って測定した。水分測定に使用した試料を、マッフル炉で520℃15時間で灰化した。
【0276】
穀粒、食品成分及び食品試料のタンパク質含量
タンパク質含量を、AOAC法992.23に従って測定した。簡単に説明すると、全窒素を、自動窒素解析器(Elementar Rapid N cube, Elementar Analysensysteme GmbH, Hanau, Germany)を用いたDumas燃焼法によって解析した。穀物又は食品試料(g/100g)のタンパク質含量を、窒素含量に6.25を掛けて推定した。
【0277】
糖、デンプン及び他の多糖類
総デンプン含量を、McCleary et al. (1997)の酵素法を用いるAOAC法996.11に従って測定した。
【0278】
糖の量を、AOAC Method 982.14に従って測定した。簡単に説明すると、単糖を、単純な糖類を水性エタノール(80%エタノール)で抽出し、移動相としてアセトニトリル:水(75:25 v/v)および蒸発光散乱検出器を使用して、ポリアミン結合高分子ゲルカラムを使用するHPLCによって定量した。
【0279】
総中性非デンプン多糖類(NNSP)を、1M硫酸で2時間加水分解した後に遠心分離する、という手順にわずかな改変を加えたTheander et al. (1995)のガスクロマトグラフィー手順によって測定した。
【0280】
フルクタン(フルクトオリゴ糖)を、AOAC法999.03に詳述された方法で解析した。簡単に説明すると、フルクトオリゴ糖を水中に抽出し、続いてスクラーゼ/マルターゼ/インベルターゼ混合物で消化した。次いで、得られた遊離糖類を水素化ホウ素ナトリウムで還元し、フルクタナーゼ(fructanose)でフルクトース/グルコースに消化した。放出されたフルクトース/グルコースを、p-ヒドロキシベンジオ酸ヒドラジン(PAHBAH)を用いて測定した。
【0281】
繊維含有量
総食物繊維(TDF)をAOAC法985.29及びに従って測定し、並びに可溶性及び不溶性食物繊維(SIF)をAOAC法991.43に従って測定した。簡単に説明すると、TDFは、AOAC法985.29に詳細が記されているように、Prosky et al. (1985)の重量測定法によって決定され、及びSIFは、AOAC991.43に記されているように、重量測定法によって決定された。
【0282】
総脂質
5gの粉末試料を1%クララーゼ(Clarase) 40000(Southern Biological、MC23.31)と共に45℃で1時間インキュベートした。脂質を、試料から複数の抽出によってクロロホルム/メタノールに抽出した。遠心分離して相を分離した後、クロロホルム/メタノール画分を取り出し、101℃で30分間乾燥させて脂質を回収した。残渣の大部分は、試料中の総脂質を表す(AOAC法983.23)。
【0283】
脂質の脂肪酸プロファイル
AOAC法983.23に従って、粉砕した粉末から脂質をクロロホルムに抽出した。内部標準としてヘプタデカン酸のアリコートを加えた後、脂質を含むクロロホルム画分の一部を窒素気流下で蒸発させた。残渣をドライメタノール、1%硫酸中に懸濁し、混合物を50℃で16時間加熱した。混合物を水で希釈し、ヘキサンで2回抽出した。合わせたヘキサン溶液をフロリジルの小カラムに充填し、カラムをヘキサンで洗浄し、次いで脂肪酸メチルエステルをヘキサン中10%エーテルで溶出した。溶出液を蒸発乾燥させ、残渣をイソオクタンに溶解してGCに注入した。脂肪酸メチルエステルを、標準脂肪酸の混合物に対して定量した。GC条件:カラムSGE BPX70 30m×0.32mm×0.25um; 注入0.5μL; インジェクタ250℃; 15:1スプリット; 流量1.723ml/分の一定流量; オーブン150℃0.5分、10℃/分~180℃、1.5℃/分~220℃、30℃/分~260℃(全実行時間33分); 検出器FID280℃。
【0284】
抗酸化活性(ORAC-H)
親水性抗酸化活性(ORAC-H)を、Wolbang et al. (2010)に記載された改変を用いHuang (2002a 及び2002b)の方法に従い決定した。試料を、親油性抗酸化物質のために抽出し、続いて親水性抗酸化物質を以下のように抽出した:100mgのサンプルを3回2mLのマイクロチューブ内で秤量した。次いで、1mLヘキサン:ジクロロメタン(50:50)を加え、2分間激しく混合し、13,000rpmで10℃、2分間遠心分離した。上清をガラスバイアルに移し、ペレットをさらに2mLのヘキサン:ジクロロメタン混合物で再抽出した。次いで、混合及び遠心分離工程を繰り返し、上清を同じガラスバイアルに移した。穏やかな窒素気流下で、ペレットからの残留溶媒を蒸発させた。1mLのアセトン:水:酢酸混合物(70:29.5:0.5)を加え、次いで2分間激しく混合した。その後、混合物を前述のように遠心分離し、上清をORAC-Hプレート解析に用いた。リン酸緩衝液で必要に応じて試料を希釈した。曲線下面積(AUC)を計算し、Trolox標準のAUC値と比較した。ORAC値は、試料のuMTrolox当量/gとして報告される。
【0285】
フェノール類
総フェノール含量並びに遊離、コンジュゲート及び結合状態のフェノール含量を、by Li et al. (2008)に記載された方法をわずかに改変した方法に従い抽出し、測定した。簡単に説明すると、ガラスバイアル(8mL容量)中で10分間超音波処理して80%メタノール2mLに抽出した後、遊離フェノール類を100mgサンプル中で測定した。上清を第2のガラスバイアルに移し、残渣の抽出を繰り返した。合わせた上清を窒素下で蒸発乾燥させた。2mLの酢酸(2%)を添加してpHを約2に調整し、次いで3mLの酢酸エチルを加えてフェノール類を2分間振とうしながら抽出した。バイアルを2000×g5分間、10℃で遠心分離した。上清をきれいなガラスバイアルに移し、抽出をさらに2回繰り返した。合わせた上清を窒素下、37℃で蒸発させた。残渣を2mLの80%メタノールに溶解し、冷蔵した。
【0286】
共役フェノール試料を、最初の80%メタノール抽出のための遊離フェノール解析と同様に処理した。この時点で、2.5mL(2M)水酸化ナトリウム及びマグネチックバーを、ガラスバイアル中の蒸発した上清に加え、次いでこれを窒素で満たし、しっかりと蓋をした。バイアルを混合し、撹拌しながら110℃で1時間加熱した。試料を氷上で冷却した後、3mlの酢酸エチルで抽出し、2分間振盪した。バイアルを2000×g、5分間10℃で遠心分離した。上清を捨て、12M HClを用い、pHを約2に調整した。フェノール類は、遊離フェノール類について記載したように、3×3mLの酢酸エチルのアリコートを用いて抽出した。上清を合わせ、37℃の窒素下で蒸発乾燥させ、残渣を2mLの80%メタノールに溶解し、冷蔵した。
【0287】
遊離フェノール類のメタノール抽出後の残渣から結合フェノール類を測定した。残渣に2.5mL(2M)の水酸化ナトリウム及びマグネチックバーを加え、バイアルに窒素を充填し、密封した。バイアルを混合し、撹拌しながら110℃で1時間加熱した。試料を、氷上で冷却し、3mLの酢酸エチルで抽出した後、2分間振盪した。バイアルを2000×g、5分間10℃で遠心分離した。上清を捨て、12M HClを用い、pHを約2に調整した。遊離フェノールについて記載したように、3x3mLの酢酸エチルのアリコートでフェノール類を抽出した。上清を合わせ、37℃の窒素下で蒸発乾燥させ、残渣を2mLの80%メタノールに溶解し、冷蔵した。
【0288】
加水分解の前に試料を湿潤させるために200μLの80%メタノールを加えることによって、100mgの試料を用いて総フェノール類を測定した。2.5mL(2M)水酸化ナトリウム及びマグネチックバーを加え、バイアルに窒素を充填し、しっかりと蓋をした。バイアルを混合し、攪拌しながら110℃で1時間加熱した。試料を氷上で冷却し、3mLの酢酸エチルで抽出した後、2分間振盪した。バイアルを2000×g、5分間10℃で遠心分離した。上清を捨て、12M HClを用いpHを約2に調製した。遊離フェノールについて記載したように、3x3mLの酢酸エチルのアリコートでフェノール類を抽出した。上清を合わせ、37℃の窒素下で蒸発乾燥させ、残渣を4mLの80%メタノールに溶解し、冷蔵した。
【0289】
フェノール類の測定のため、Folin Ciocalteuの解析を用いて、処理/抽出された試料中のフェノール類の量を測定した。0、1.56、3.13、6.25、12.5及び25μg/mLのガリウム酸標準液を用いて標準曲線を作成した。1mLの標準液を4mLのガラス管に加えた。試験試料の場合、完全に混合されたサンプルの100μLアリコートを、4mLのガラス管内の900μLの水に加えた。次に100mLのFolin Ciocalteu試薬を、各チューブに加え、これを直ちにボルテックスした。700μLの重炭酸ナトリウム溶液(1M)を2分後に加え、次いでボルテックスにより混合した。各溶液を室温、暗所で1時間インキュベートし、次いで吸光度を765nmで読み取った。結果を、μgガリウム酸当量/g試料で表した。
【0290】
フィチン酸
粉末試料のフィチン酸含量の測定は、AOAC公式の解析方法(1990)に記載されたように、Harland及びOberleasの方法に基づいていた。簡単に説明すると、0.5gの粉末試料を秤量し、室温で1時間、回転ホイール(30rpm)を用いて2.4%HClで抽出した。次いで、混合物を2000×gで10分間遠心分離し、上清を抽出し、milli-Q水で20倍に希釈した。陰イオン交換カラム(500mg Agilent Technologies)を、真空マニホールド上に置き、製造業者の使用指示に従って調整した。次いで、希釈された上清をカラムに充填し、0.05M HClで洗浄することにより非フィチン酸化学種を除去した。次いで、フィチン酸を2M HClで溶出した。回収した溶出液を、加熱ブロックを用いて消化した。試料を冷却し、容量をmilli-Q水で10mLとした。640nmでの吸光度測定値を有するモリブデン酸塩、スルホン酸着色法を使用して、分光光度計によりリンのレベルを測定した。フィチン酸を、以下の式を用いて計算した:
【0291】
フィチン酸(mg/g) = P conc*V1*V2/(1000*試料重量*0.282)
(式中、
P concは、分光光度法で測定したリンの濃度(μg/mL)であり、V1は最終溶液の体積、V2は抽出されたフィチン酸溶液の体積であり、及び0.282は、リンとフィチン酸の転換比率である。)
【0292】
総ミネラル含有量測定
試料の総ミネラル含量を、AOAC方法923.03及び930.22を用いて、灰解析によって測定した。約2gの粉末を540℃で15時間加熱し、次いで灰分の質量を秤量した。0.5gの全粉末試料を、8M硝酸を用いたチューブブロック消化を使用して、140℃で8時間消化した。亜鉛、鉄、カリウム、マグネシウム、リン及びイオウ含量を、Zarcinas (1983a及び1983b)に記載の方法に従い、誘導結合プラズマ原子発光分光分析(ICP-AES)を用いて解析した。
【0293】
ミネラルを、CSIRO、Urbrae、南オーストラリアのアデレードで、Waite Analytical Service(University of Adelaide、Waite、南オーストラリア)で、及びDairy Technical Services(DTS、North Melbourne、Victoria)で解析した。成分は、硝酸溶液(CSIRO)で消化した後、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)又は稀硝酸及び過酸化水素(DTS) によって、又は硝酸/過塩素酸溶液で消化した後、誘導結合プラズマ原子発光分光分析(ICP-AES)によって測定した。
【0294】
ビタミン類
ビタミンB1(ナイアシン)、B3(ピリドキシン)及び総葉酸解析は、DTS並びに国立測定研究所(NMI)によって実施された。ナイアシンを、Lahey et al.(1999)に従い、AOAC方法第13版(1980)43.045によって測定した。ピリドキシンを、Mann et al.(2001)に従い、測定した。この方法は、ピリドキシン(ピリドキサロール)にリン酸化及び遊離ビタミンB6形態のプレカラム変換を組み入れた。酸性フォスファターゼ加水分解を、脱リン酸化、続いてFe2+の存在下でグリオキシル酸との脱アミノ化に用いて、ピリドキサミンをピリドキサールに変換した。次いで、ピリドキサールを水素化ホウ素ナトリウムによりピリドキシンに還元した。
【0295】
葉酸を、VitaFast葉酸キットを用いて製造者の説明に従っ、又はAOAC方法2004.05に従って測定した。
【0296】
実施例2. 肥厚した糊粉(ta)突然変異体の単離及び特徴付け
【0297】
突然変異させたイネ個体群の確立及び栽培
野生型イネ品種Zhonghua11(ZH11)由来の約8000穀粒(M0穀粒と呼ぶ)を、標準条件を用いて60mMエチルメタンスルホネート(EMS)で処理することによって突然変異誘発した。変異誘発された穀粒を圃場に播種し、得られた植物を栽培してM1穀粒を産生した。M1穀粒を収穫し、圃場に播種してM1植物を作製した。1327固体のM1植物から8925固体の穂を収穫した。これらの植物から、36,420個のM2穀粒がスクリーニングされ、各穂から少なくとも4つの穀粒が得られた。
【0298】
半穀粒の染色による突然変異スクリーニング
M2米穀粒の果皮(内花頴及び外花頴)を除去した。36,420個の穀粒のそれぞれを、横方向に二等分した。胚を含む半分をその後の発芽のために96ウェルプレートに保存し、胚のない各半分の穀粒をEvans Blueで染色し、解剖顕微鏡下で観察して、野生型に対して肥厚した糊粉を有する突然変異穀粒を検出した。この染色は、エバンスブルーが、デンプン質胚乳の細胞等の生育不能細胞にのみ浸透して染色することができ、生育可能な糊粉層に色の変化は観察されないという原則に準じる。最初のエバンスブルー染色及び組織学的解析から、糊粉の厚さの有意な増加を示す個々の穀粒並びに種子の腹側の糊粉において有意な肥厚を示す穀粒が観察された。他の穀粒は、糊粉の厚さの増加を示したが、程度は低い。各種子の腹側の染色されていない領域を、特に糊粉層の厚さについて検査した。穀粒の背側の糊粉層の厚さの増加を伴う変異体も観察された。さらなる解析のために、横断面全体にわたって糊粉層の厚さを有意に増加させた変異体のみを選択した。
【0299】
野生型半穀粒と比較して、エバンスブルーによりより厚い非染色領域を有する半穀粒を選択した。検査した36,420穀粒のうち、糊粉の厚さに差がある219穀粒(0.60%)が同定され、選択された。これらは、140固体のM1植物由来の162個の穂から得られたものであり、その大半が独立した突然変異体であった。1つの突然変異体穀粒は、特に、厚い糊粉2(ta2)( thick-aleurone 2)と命名された突然変異を有する、下記のように同定され、さらに特徴付けられた。従って、対応する野生型遺伝子はTa2と命名された; その命名が本明細書で使用される。
【0300】
推定上の突然変異系統を維持するために、それぞれ対応する有胚の半穀粒を、半分の強度のMS塩培地(Murashige and Skoog,1962)を含む1%のBacto agar(Bacto,214030)で固化した培地上で発芽させ、強度1500~2000Luxの光、16時間明期/8時間暗期のサイクル下、25℃で培養した。小植物は、2~3枚の小葉段階で土壌に移され、得られた植物は成熟するまで生育した。対応する有胚の半穀粒の発芽及び培養の際に、115種子(52.5%生存)を栽培し、成熟及び結実能力のある植物を得た。
【0301】
野生型親品種に対して通常の草丈、結実性(雄しべ及び雌しべの結実性)、穀粒サイズ及び1000穀粒重量等の一般農業的特性に大半又は全く欠陥を示さない、並びに肥厚した糊粉特性の安定した遺伝を示す候補突然変異植物が、同定され、選択され及びさらに解析された。それらの中で、6~7細胞層のより極端な複数の糊粉の表現型を示すta2と命名された突然変異体を選択し、詳細に解析した。野生型穀粒は予想どおり1つの細胞層の糊粉を示した。
【0302】
ta2突然変異穀粒の組織学的解析
野生型ZH11及びta2変異体植物由来の穀粒の発達を調査し、受粉後1~30日(DAP)の形態変化について比較した。米穀粒の登熟段階には、乳熟段階(milk grain stage)、糊熟段階(dough grain stage)及び完熟段階(mature grain stage)の3つの段階を有すると言える。糊熟段階において、野生型の穂の穀粒は、茎と穎果を結ぶ多孔質組織(vesicular tissue)が徐々に破壊され、緑色から黄色に変化し始める。ta2の穂の穀粒は、色の変化が遅れた。米穀粒の横断面の顕微鏡検査においても、ta2突然変異穀粒の乳白色度(chalkiness)(不透明度)の増加が示された。次いで、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、デンプン質胚乳の中間部分におけるデンプン顆粒組織の構造を調査した。野生型穀粒において、デンプン顆粒は、しっかりと詰まっており、滑らかな表面及び規則的な形状を示したが、ta2穀粒では、不規則な形状のデンプン顆粒が、緩く詰まっていることが観察された。要約すると、ta2突然変異を有する植物及び穀粒において、穀粒成熟の遅延、穀粒の乳白色度及びデンプン顆粒構造の増加の少なくとも3つの変化が観察された。
【0303】
6、7、8、9、10、12、15、18、21、24、27及び30 DAPでの突然変異体及び野生型穀粒の発達を、エバンスブルーで染色し、糊粉層を光学顕微鏡で検査した。野生型とta2突然変異体の間の発達中の糊粉層の厚さは、10 DAPまでの間に有意差は観察されなかった。10 DAP後、ta2突然変異体の糊粉層は野生型穀粒よりも厚く、その差は約20 DAPで最大に達した。これらの結果は、スーダンレッド染色によるものと一致した。
【0304】
野生型及びta2突然変異体穀粒(30DAP)を、切片化(1μm)、染色及び光学顕微鏡によって組織学的差異についてさらに検査した。核酸を青及び多糖を紫に染色する0.1%トルイジンブルーで染色した後、野生型穀粒において、大きい、規則的に配向された、長方形細胞の単一層が観察された。対照的に、ta2突然変異体穀粒の切片は、6~8個の細胞層の糊粉層を有し、その細胞もまた、様々なサイズ及び不規則な配向を有していた。これら観察は、ta2穀粒における肥厚した糊粉が、主に個々の糊粉細胞の増加よりむしろ細胞数の増加によって引き起こされることを示した。
【0305】
蛍光細胞壁染色である0.01%Calcoflour Whiteによるさらなる染色は、野生型及びta2突然変異体穀粒の間の細胞壁厚の差異を示さなかった。糊粉細胞の細胞壁は、野生型及びta2穀粒の両方について、デンプン質胚乳の細胞壁よりも厚かった。
【0306】
ta2突然変異体植物及び穀粒の農学的特性の解析
野生型(ZH11)植物に圃場にて3世代にわたって戻し交配し、BC3F3世代を得た後、それによって、突然変異誘発処理から生じた可能性がある付加的な、関連しない突然変異を除くことで、ta2突然変異植物を、いくつかの農業形質について解析した。ta2突然変異体及び穀粒は、野生型植物及び穀粒と比較して、草丈、1000穀粒重量、穀粒サイズ(長さ、幅及び厚さ)及び穎果の形態に有意な差はなかった(表2)。対照的に、野生型植物は98.9%の結実度を示したが、ta2変異体植物は73.4%で結実度の低下を示した。結実度は、成熟した穀粒段階での種子で満たされた植物の小花の割合として計算した。さらに、28℃、12時間明期/12時間暗期サイクル、湿度コントロール無しのグロースチャンバーで培養した場合、野生型穀粒は97.3%の発芽能力であるのに対し、ta2突然変異体穀粒は、75.1%の減少した発芽能力を示した。発芽は、幼根が、種皮を通して目に見えるようになったときとして定義された。
【0307】
実施例3. ta2突然変異体の遺伝的解析
【0308】
生育中の植物の糊粉及び胚乳組織の材料の起源に基づいて、厚い糊粉表現型が母系的に決定されたか否かを決めるために、2つの遺伝学的実験を行った。最初に、母系のta2(突然変異体)植物と父系の野生型植物との間で試験交配を行い、F2子孫穀粒を得た。F2穀粒のうち、49.4%(n = 634)は、F2集団の優性遺伝子のメンデル遺伝について予測された3:1(野生型:突然変異体)比から大きく逸脱した、肥厚した糊粉表現型を示した。2番目に、ta2植物と野生型植物との間で相互交配を行った。全てのF1種子(100%; n = 589)は、肥厚した糊粉の表現型を示したが、野生型を母系とする相互交配において、F1種子(n = 197)は全て野生型表現型を生じた。これらの交配は、糊粉表現型が母系植物遺伝子型によって決定されたことを示した。
【0309】
表2. 農業形質に関する野生型(ZH11)及びta2突然変異体植物の比較。
【表2】
【0310】
母系の効果が配偶体の又は胞子体の遺伝子型によって決定されたかどうかを確認するために、ホモ接合性Ta2/Ta2植物とホモ接合性ta2/ta2植物との間の交雑から得られたヘテロ接合性Ta2/ta2であるF1植物を、ta2ホモ接合体(ta2/ta2)又は野生型植物のいずれかとの相互交配に使用した。母系のヘテロ接合性と父系の野生型との間の相互交配において、F1穀粒の47.3%(n = 188)がta2突然変異体の表現型を示したが、母系のta2植物と父系のヘテロ接合性の相互交差では99.3% (n = 425)のF1個体がta2突然変異体の表現型を示した。これらの結果から、TA2遺伝子は、配偶体性の母系の遺伝様式によって表現型を付与したと結論付けられた。
【0311】
上記の遺伝的解析により、配偶体性の母系の遺伝様式に従って、ta2遺伝のモデルを提案することが出来る。母系配偶体の遺伝子型がta2である場合、胚乳の表現型は突然変異体ta2(肥厚した糊粉)であり、父系の遺伝子型から独立している。従って、厚い糊粉の表現型は、三倍体デンプン質胚乳及び糊粉の発達中の母系配偶体の遺伝子型によってのみ決定され、母系のヘテロ接合性が、父系の遺伝子型とは独立して、厚い糊粉の表現型を有する子孫の50%をもたらし、母系のta2/ta2ホモ接合性が、厚い糊粉の表現型を有する子孫の100%をもたらした。TA2の配偶体母系効果が、三倍体胚乳において母系遺伝子の付加的なコピーの存在又は母系配偶子による遺伝子インプリティングの影響によって父系TA2遺伝子の発現を抑制することによって引き起こされるかどうかを試験するため、さらなる実験が必要である。
【0312】
実施例4. 遺伝子マッピング及び配列解析によるTa2遺伝子の同定
【0313】
遺伝子マッピングのためのSSR及びINDELマーカーの同定及び使用
遺伝子マッピングのために、ZH11(ジャポニカ品種)の遺伝的バックグラウンドにおけるta2変異を含む植物とインディカ品種NJ6の植物との間の遺伝的交雑から植物のF2個体群を作製した。ZH11とNJ6との間で多型であり、遺伝子マッピングに使用できる遺伝子マーカーを同定するために、ホモ接合性ZH11植物、ホモ接合性NJ6植物由来の葉DNA試料及びDNAの1:1混合物について一連のPCR実験を行った。ゲル電気泳動によるPCR産物の解析により、多型マーカーを同定するためのZH11、NJ6及び混合物由来の産物の比較が可能になった。別個のZH11及びNJ6 DNAを用いた増幅が個別の異なる増幅産物を示し、混合DNAが両方の産物の組合せを示した場合にのみ、プライマー対を遺伝子マッピングのために選択した。それにより、54の挿入-欠失多型(INDEL)及び70の短い配列反復(SSR)多型を含む計124のプライマー対が選択された。これらの遺伝的マーカーは、イネゲノムに沿って約3~4Mbpの間隔で分布し、遺伝子マッピングのための良好なカバレージを提供した。
【0314】
ta2対立遺伝子の遺伝子マッピングのために、F2集団由来の143個の植物を、124個の多型マーカーで採点した。糊粉の表現型のマッピング個体群における個々のF2植物のホモ接合性を、各F2植物から得られたF3子孫穀粒の表現型によって注意深く評価した。葉DNAを実施例1に記載のように抽出した。PCR増幅を実施例1に記載のように行い、生成物を3%アガロースによるゲル電気泳動により分離した。結果から、ta2遺伝子座は、約217kbの物理的距離に対応するイネのゲノム配列からの第1染色体上のINDEL 127とINDEL 129マーカーの間に位置することが結論付けられた(図1、最上線)。
【0315】
別の5000個のF2植物をこの一対のマーカーでスクリーニングした。INDEL 127とINDEL 129との間の組換えを示した362個の個体が同定され、選択された。これらの組換え植物を表現型決定する場合、ta2遺伝子座はINDEL149マーカーとINDEL128マーカーの間にある42.8kbの領域にマッピングされた(図1、2行目)。
【0316】
ta2突然変異体植物中のこの領域のヌクレオチド配列を得て、それを野生型と比較し、それによってta2に対応する突然変異を同定するために、ゲノム領域に隣接するプライマーを設計し、DNA配列決定を行った。ゲノムDNA配列の比較は、LOC_01g11900として注釈付けされた遺伝子の両方において、配列決定された領域内の2つの一塩基多型(SNP)を同定した。第1は、第1染色体の遺伝子LOC_01g11900のエキソン14及びエキソン15との間のイントロン14(図1のアスタリスク)に位置し、ジャポニカ品種のイネゲノム配列を参照する、ヌクレオチド位置Chr1: 6451738での単一ヌクレオチドG(野生型)からA(ta2)多型であった。第2の多型は、第1染色体の遺伝子LOC_01g11900のエキソン15とエキソン16との間のイントロン領域(イントロン15)に位置する、ヌクレオチド位置Chr1: 6452308でのG(野生型)からA(ta2)への多型であった。
【0317】
RNA抽出、ta2対立遺伝子に対応するcDNAの逆転写及び配列決定の際に、Chr1:6451738での最初のGからAの多型は、予測されるアミノ酸配列における7アミノ酸のインフレーム挿入に対応するエキソン14とエキソン15との間に21bp(図2)の挿入と関連することが観察された(図3)。対照的に、Chr1: 6452308位置座で第2の多型に対応する、エキソン15及び16の間の突然変異のcDNA配列に変化はなかった。これらのデータから、イントロン14の最初の多型が、変化に起因する、すなわち、その穀粒中のta2突然変異であると結論付けられた。この結論は、以下の実施例において確認された。この突然変異はまた、野生型Ta2遺伝子と比較してta2遺伝子のRNA転写物のスプライシングパターンの変化をもたらし、それによってta2表現型を引き起こすと結論した。21ヌクレオチド挿入を有するcDNAの数と挿入を欠くcDNAの数との比から、ta2(突然変異)遺伝子由来のRNA転写物の約80%が新たに作製されたスプライス部位でスプライシングされたと推定された。7アミノ酸挿入を有する突然変異ポリペプチドが不活性であったと仮定することで、突然変異体ta2遺伝子は野生型に対して約20%の活性を保持していると結論した。
【0318】
イネゲノムの第1染色体のLOC_01g11900位置の遺伝子は、二機能性DNAグリコシラーゼ/リアーゼをコードするArabidopsis thaliana Demeter遺伝子(AtDME)のホモログであるイネROS1a遺伝子(OsROS1a)として注釈付けされている。シロイヌナズナDME酵素はDNAデメチラーゼとして作用し、DNA中のC残基のメチル化を減少させる。従って、Ta2遺伝子は、OsROS1a遺伝子及びArabidopsis DME遺伝子のホモログと同義である。
【0319】
イネROS1a遺伝子のヌクレオチド配列は、4726ヌクレオチドのプロモーター及び5-UTR(非翻訳領域)、16イントロンを含む4727~15869のヌクレオチドからのタンパク質コード領域、及び615ヌクレオチドの3'UTRを含む、配列番号9に示される。16個のイントロンのヌクレオチド位置は、配列番号9の説明文に示される。配列番号9はまた、その3 '末端に、OsROS1遺伝子の一部ではないと考えられる401ヌクレオチドの下流領域を含む。野生型OsROS1遺伝子に対応するcDNAのヌクレオチド配列は、配列番号8で提供され、1952アミノ酸でコードされたポリペプチドは、配列番号2として提供される。
【0320】
イネは、OsROS1a、OsROS1b (LOC_Os02g29230)、OsROS1c (LOC_Os05g3735)及びOsROS1d (LOC_Os05g37410)と名付けられたポリペプチドをコードする4つのROS1遺伝子を有する。イネはまた、DNAグリコシラーゼ、すなわちDemeter-like-2(DML2)及びDemeter-like-3(DML3)をコードすると考えられる2つの他のDemeterホモログを有する。
【0321】
野生型イネTA2ポリペプチドの構造的特徴の説明
イネTA2遺伝子がOsROS1aと同じであることを見出した後、OsTA2(OsROS1)ポリペプチドのアミノ酸配列を調べた。幾つかの典型的なDNAグリコシラーゼ構造特徴が同定された。ROS1タンパク質のグリコシラーゼドメインは、認識可能であるために十分に保存されている、少なくとも3つの同定されたモチーフを有する:ヘリックス-ヘアピン-ヘリックス(HhH)モチーフ(例えば、OsTA2中のアミノ酸1491-1515によって表される)、保存されたアスパラギン酸(GPD)が続くグリシン/プロリンに富むモチーフ、及び[4Fe-4S]クラスターを所定の位置に保持するための4つの保存されたシステイン残基(例えば、アミノ酸1582~1598の領域にいて)。リジンに富むドメイン(例えば、OsTA2中のアミノ酸87-139で表される)も存在した。HhH DNAグリコシラーゼスーパーファミリーの他のメンバーとは異なり、ROS1ファミリーのメンバーは、中央のグリコシラーゼドメインに隣接する2つのさらなる保存ドメイン(ドメインA及びB)を含む(Mok et al., 2010)。イネTA2ポリペプチド(配列番号2)において、ドメインAはアミノ酸859~965に存在し、グリコシラーゼドメインは、アミノ酸1403~1616に存在し、ドメインBは、アミノ酸1659~1933に存在する。ドメインAは、アミノ酸882-892に反復混合電荷クラスターを含む。突然変異誘発解析(Mok et al., 2010)に示されるように、AtDMEの保存されたDNAグリコシラーゼドメイン及び隣接するドメインA及びBは、DNAグリコシラーゼ/リアーゼ酵素活性に必要且つ、十分であることが報告されている。
【0322】
実施例5. ta2突然変異体穀粒中の栄養成分解析
【0323】
突然変異体穀粒の成分、特に、栄養学的に重要な成分を測定するために、ZH11及びta2植物を、圃場で同じ時間及び同じ条件下で生育させた。全穀粒粉末試料は、植物から収穫した穀粒から調製し、成分解析に用いた。粉末の近似解析の結果(二重測定の手段)を表3に示す。
【0324】
表3. 米穀粒の成分解析(穀粒g/100g中)
【表3】
【0325】
近似解析は、ta2突然変異体粉末中の総脂質含有量の約50%の増加を示した。総窒素解析は、ta2突然変異体及び野生型穀粒の間でタンパク質レベルに有意な差を示さなかった。除湿された粉末試料の燃焼後に残された材料の量を測定した灰分試験は、野生型に対してta2穀粒で26%の増加を示した。総繊維レベルは、ta2穀粒中で約200%増加した。デンプン含量は、野生型に対してta2穀粒中で8.6%減少した。これらのデータは、ta2突然変異体中の糊粉層の厚さの増加が、種子のサイズを変えることなく、脂質、ミネラル及び繊維等の糊粉に富む栄養素のレベルを増加させることを実証した。これらの変化及び他の変化をより詳細に理解するために、より広範な解析が以下のように行われた。
【0326】
ミネラル
ミネラル含有量を測定するために、誘導結合プラズマ(ICP)と原子発光分光分析(AES)技術とを組み合わせたICP-AESを使用した。これは、ミネラル含有量を測定するための標準的な方法であり、1回の分析で多数の元素を高感度且つ、ハイスループットで定量することが出来る。分析から得られたデータは、突然変異体穀粒が、野生型穀粒に対して重量基準で約15%増加された亜鉛及び鉄のレベルを有することを示した。亜鉛レベルは13.9mg/kgから16.0mg/kgに増加し、鉄は12.4mg/kgから14.2mg/kgに増加した。
【0327】
カリウム、マグネシウム、リン及びイオウの増加も観察され、それぞれ約28%、23%、22%及び9%増加した。これらの結果は、大部分がミネラルを測定する、ta2穀粒中の灰分含量の増加と一致していた。
【0328】
抗酸化物質
抗酸化物質は、炎症、心臓血管疾患、癌及び廊下関連疾患等の酸化ストレス関連疾患から保護するために、動物組織における参加の負の効果を相殺することが出来る生体分子である(Huang, 2005)。
【0329】
ta突然変異体及び野生型米穀粒から得られた粉末中の抗酸化能を、実施例1に記載したように酸素ラジカル吸光能(ORAC)解析によって測定した。ORAC解析において、抗酸化能は、AAPH(2,2'-アゾビス(2-アミジノ-プロパン)ジヒドロクロリド)によって生成された合成フリーラジカルに対して、内因性ラジカル消去生体分子と酸化可能な分子蛍光プローブフルオレセインとの間の拮抗動力学によって表される。能力を、Trolox標準(Prior, 2005)によって生成されたAUCと、穀粒の分子プローブフルオレセインの蛍光分解動力学を表す動力学曲線下面積(AUC)を比較することによって計算した。抗酸化能を定量化するための別のアプローチは、Folin-Ciocalteau試薬(FCR)の使用によるものである; これは、食品試料中の総フェノール性化合物の還元能力を測定することにより抗酸化能を表す。FCR解析は、比較的簡単で便利で再現性がある。しかしながら、より時間を要するORAC解析は、より生物学的に関連する活性を測定する。酸化防止剤には幅広いポリフェノール、還元剤及び求核剤が含まれているため、FCRとORACの両方による測定は、より良いカバレッジと全酸化防止能力のより包括的な表し方を提供する。Prior(2005)によって報告されたように、FCR解析及びORAC測定の結果は、通常一貫している。
【0330】
FCR及びORAC解析の両方は、野生型、ZH11全穀粒粉末に対して、ta2突然変異体全穀粒粉末由来の粉末の抗酸化能の増加を示した。FCRは、ta2突然変異体中の総フェノール化合物の約35%の増加を示した。ta2突然変異体からの粉末中の親水性抗酸化物質含量も83%増加した。
【0331】
フィチン酸
適切なリンを含む条件下で培養すると、米穀粒中の全リン含有量の約70%が、フィチン酸又はフィチン酸(ミオ-イノスチオール-1,2,3,4,5,6-ヘキサキスホスフェート)の形態である。食物中のフィチン酸は、強力な抗酸化物質として健康に有益な役割を果たし得る(Schlemmer, 2009)。総フィチン酸解析は、野生型と比較してta2のフィチン酸含量が約19%増加し、約10.8mg/g~約12.7mg/g増加することを示した。
【0332】
Bビタミン類
ta2粉末中のビタミンB3、B6及びB9のレベルは、野生型粉末において、それぞれ約19%、63%及び58%高かった。解析を4回の反復で繰り返した場合、平均増加は、それぞれ約20%、33%及び38%であった。糊粉は、胚乳よりもビタミンB3、B6及びB9が豊富であることが知られており(Calhoun, 1960)、そのため、ta突然変異体の糊粉の厚さの増加は、ビタミンB3、B6及びB9の含有量の増加に関与すると結論づけられた。
【0333】
食物繊維
実施例1に記載したように、測定された総食物繊維は、約70%増加することが観察された。不溶性繊維は、約55%増加した。
【0334】
炭水化物
重量基準でta2穀粒のデンプン含量が9%減少した。対照的に、スクロースレベルは、突然変異体穀粒で2.5倍増加し、単糖類(アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース)は野生型に対して31%から118%に増加した。
【0335】
結論
栄養解析は、圃場で生育したta2穀粒から生産された全穀粒粉末が、脂質及び繊維等の多量栄養素、ミネラル(鉄、亜鉛、カリウム、マグネシウム、リン、イオウ)等の微量栄養素、B3、B6及びB9等のBビタミン類、抗酸化物質、及びフェノール化合物及びフィチン酸等の糊粉関連生体分子を含む糊粉に富む栄養素の大部分において野生型に対して有意に増加されたことを示した。遊離スクロース及び単糖も相当に増加した。これらの栄養素及び微量栄養素の増加と並行して、ta2突然変異体中のデンプン含量の相対的な減少率は、わずかであった。
【0336】
実施例6. Ta2遺伝子において、さらなる突然変異体対立遺伝子のスクリーニング
【0337】
ZH11遺伝的背景(実施例2)におけるイネの突然変異誘発された個体群を、Ta2遺伝子の更なる多型を同定するために、実施例1に記載のTILLING解析よってスクリーニングし、肥厚した糊粉の表現型について試験することができた。この方法は、本質的にJiang et al. (2013)に記載されたように、エンドヌクレアーゼCelIによる消化と共に標識された野生型RNA及び候補突然変異体RNAのヘテロ二重鎖化を使用した。TA2遺伝子の5'領域を最初にスクリーニングするために選択したが、遺伝子の何れかの領域を選択することが出来た。
【0338】
多数の一塩基多型が、TILLING解析によってTa2遺伝子の5'領域において同定された。多型を有する植物からの穀粒を、最初のta2突然変異体と同様に、肥厚した糊粉及び他の穀粒表現型について調べた。いくつかの穀粒は、肥厚した糊粉を示した。突然変異表現型を示す穀粒を選択し、それらから得られた子孫植物を選択した。それぞれのTa2遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、突然変異の存在を確認した。各突然変異体におけるTa2遺伝子の変化したヌクレオチドが同定された。他の3つの厚い糊粉突然変異体もまた、配列決定されている。多型を含むが、肥厚した糊粉を示さなかった他の穀粒も、比較のために同定及び維持された。同定された突然変異体及び他の多型系統、並びにそれらの糊粉表現型を表4に要約する。肥厚した糊粉を有する突然変異体は、++大幅に肥厚した糊粉; +弱く肥厚した糊粉; -変化していない糊粉表現型として表す。様々な突然変異及び結果として生じる表現型が得られたことは明らかであった。
【0339】
野生型ZH11穀粒中の糊粉は、1つの細胞層の厚さを示した。特定の突然変異体において対照的に、V441A突然変異を含む突然変異体の糊粉は、約5~6細胞層を含む背側で肥厚していた。突然変異体S1357F穀粒中の糊粉は厚さ約4~5細胞層であり、穀粒は収縮したのに対し、突然変異体R482K穀粒の糊粉は2~3細胞層の厚さであり、穀粒は収縮しなかった。突然変異体S156F及びS1413Nの穀粒と同様に、突然変異体S214F穀粒中の糊粉は2~4個の細胞層を含み、穀粒は収縮した。対照的に、K501S穀粒の糊粉は2~3の細胞層を有し、その穀粒は収縮しなかった。従って、Ta2遺伝子において、様々な突然変異体及び表現型が、容易に得られた。
【0340】
表4. イネTa2遺伝子で同定された突然変異。
【表4】
【0341】
TA2遺伝子に多型を有する60の新たに同定された系統のうち、予測されたポリペプチド産物において、19系統が、アミノ酸変化(置換)を有していた。これらのうち、少なくとも7系統は、肥厚した糊粉の表現型を示した。S1413N及びD1425N突然変異は、グリコシラーゼドメイン内に位置する。他の同定された突然変異はグリコシダーゼドメインの外側にある。最初のスプライス部位変異体とは別に、同定された突然変異の全てはアミノ酸置換であった。欠失又は停止コドンはなく、発明者はOsROS1のヌル変異が致死的である可能性があると結論づけた。シロイヌナズナにおいて、母系のdme突然変異が種子の発達を中断させたことが報告されている(Choi et al., 2002及び2004)。イネにおいて、母系のヌル対立遺伝子の存在は、父系遺伝子型にかかわらず、早期胚乳発育不良を引き起こした(Ono et al., 2012)。
【0342】
それぞれ穀粒中の肥厚した糊粉層を有するTA2(OsROS1a)遺伝子の10個の新しい独立した突然変異対立遺伝子の回復は、この遺伝子の突然変異が厚い糊粉の表現型を引き起こしたことを確証的に示した。さらに、これらの新しい突然変異は全て、第1のta2突然変異に対する遺伝子の異なる領域にあり、厚い糊粉の表現型を達成するために遺伝子が、全長遺伝子に沿って様々な位置で変更され得ることを示している。
【0343】
厚い糊粉を示す突然変異体由来のta2遺伝子のいくつかをクローニングし、コードされたポリペプチドを発現させ、DNAグリコシラーゼ/リアーゼ活性について試験した。これは、ポリペプチドが、野生型ポリペプチドと比較してDNAグリコシラーゼ/リアーゼ活性を低下させたことを確認する。
【0344】
実施例7. ta2突然変異体の相補解析
【0345】
Ta2(OsROS1a)遺伝子の突然変異が、肥厚した糊粉及び関連する表現型の原因であるという結論を強化する目的で、相補実験を、野生型遺伝子のコピーを形質転換によって突然変異系統に導入することによって実施した。相補実験のための形質転換プラスミドを構築するために、野生型イネゲノムからTa2遺伝子を含む16,882塩基対のDNA断片(配列番号9で示される塩基配列)を単離した。この断片は、順番に、遺伝子のプロモーターを含むと考慮される4726bp上流配列、イントロンの全てを含むOsTA2タンパク質コード領域全体、615ヌクレオチド3'-UTR及び401bp下流領域を含む。一連のオリゴヌクレオチドプライマーを使用してZH11ゲノムDNAから増幅し、組み立て、次いでKpnI及びSalIで消化し、バイナリーベクターpCAMBIA1300に連結した。そのベクターはまた、選択マーカー遺伝子として、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含んだ。形質転換のためのプラスミドおよびコントロールプラスミド(空のベクター)をアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)EHA105株にそれぞれ導入し、Nishimura et al.(2006)に記載された方法を用いてイネレシピエント細胞を形質転換するために用いた。野生型Ta2遺伝子による形質転換から合計32のT0トランスジェニック植物を再生した。これらの植物は土壌に移され、グロースチャンバー内で成熟するまで成長した。ハイグロマイシン耐性遺伝子の存在を試験するためにPCRを使用した場合、ハイグロマイシン遺伝子を有する20の形質転換系統が同定、選択された。これらは、成熟するまで育てられ、穀粒(T1種子)を、それぞれの植物から収穫した。これらの植物の各々は、PCR解析によって示されるように、野生型Ta2遺伝子を含むベクター由来のT-DNAを含有していた。
【0346】
これらの植物から収穫された穀粒を、エバンスブルーで染色することによってその糊粉表現型について検査した。少なくとも3系統の形質転換植物が、野生型のような正常な糊粉を産生し、これは導入遺伝子のポジティブ発現、従って、ta2突然変異の相補性を示した。これは、Ta2遺伝子の突然変異が突然変異表現型を引き起こしたことを、確証的に証明した。
【0347】
Ta2遺伝子は、以下、ROS1aと呼ばれ、これらの用語は、互換性がある。
【0348】
実施例8. 組換え発現されたTA2及びta2タンパク質のin vitro酵素活性解析
【0349】
上記の実施例4に記載されているように、イネのTa2遺伝子は、Demeterとして名付けられたArabidopsis thaliana DNAデメチラーゼ/グリコシラーゼ(DME; Gehring et al., 2006)とのホモログであるOsROS1a遺伝子と同じであった。DMEは、ヘミメチル化DNA基質中の5-メチルシトシン残基の3'側のホスホジエステル結合を切断する。
【0350】
従って、組換え発現されたイネTa2及びta2タンパク質からの酵素活性は、標識されたヘミメチル化DNA基質に対するそれらの活性を測定することによって試験され、Gehring et al. (2006)によって記載されているように、β-脱離生成物の予測位置で変性ポリアクリルアミドゲル上を移動する末端標識DNAを生成する。
【0351】
Ta2及びta2ポリペプチドを組換え発現及び精製するために、野生型及び突然変異体ta2植物由来の全長ROS1a cDNAを、それぞれ、XbaI及びSalIの制限酵素部位を増幅されたDNA断片の末端に付加する、オリゴヌクレオチドJH021 (5’-TTAATCTAGAATGCAGAGCATTATGGACTCG-3’; 配列番号42)及びJH017 (5’-CGGTCGACTTAGGTTTTGTTGTTCTTCAATTTGC-3’; 配列番号43)とのPCR反応における鋳型として使用する。PCR産物を、XbaI及びSalIで消化し、pMAL-c2xベクター(NEB)にクローニングして、c2x-ROS1a遺伝子コンストラクトを作製する。遺伝子コンストラクトを、大腸菌(E.coli)Rosetta細胞(Novagen)に形質転換する。ポリペプチドを産生するために、0.2%グルコース、100μg/mLアンピシリン及び50μg/mLクロラムフェニコールを補充したLB中で、OD600が0.4に達するまで28℃で形質転換細胞を増殖させる。ROS1a-Mal融合タンパク質の発現を10μMのIPTGを用いて18℃で1時間誘導する。培養物を6,500rpm、15分間、4℃で遠心分離し、ペレットを30mLの4℃カラム緩衝液(20mM Tris-HCl、pH7.4,200mM NaCl、1mM EDTA)に再懸濁する。細胞を氷上で2分間、Branson Sonifier 250を用いて4の出力パワーで超音波処理する。溶解物を9,000rpm、25分間、4℃で遠心分離し、上清を回収し、重力カラム精製にかける。ROS1a-Mal融合タンパク質は、製造業者のプロトコール(New England Biolabs)に従って、アミロース樹脂を介して精製される。溶出されたタンパク質は、50%グリセロールに対するSlide-A-Lyzer透析カセット(10,000 MWCO; Pierce)中、4℃で一晩透析する。タンパク質濃度は、タンパク質解析キット(Bio-Rad Laboratories)を用いたブラッドフォード法により決定し、タンパク質を、その後の使用まで-20℃で保存した。
【0352】
ROS1a-Mal融合タンパク質を、実施例1に記載のヘミメチル化二本鎖DNA基質に対するDNAグリコシラーゼ活性について解析する(Gehring et al., 2006)。
【0353】
コントロールとして、ROS1aを非メチル化DNAオリゴヌクレオチドと共にインキュベートする場合、又はヘミメチル化DNA基質を酵素の非存在下でインキュベートする場合、リアーゼ活性又は共有結合トラッピング(trapping)は検出されない。
【0354】
実施例9. イネのROS1a遺伝子のホモログ
【0355】
DNA脱メチル化を媒介するDNAグリコシラーゼをコードする植物遺伝子は、主にシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)において特徴付けられている(Chan et al., 2005; Law and Jacobsen, 2010; Zhu, 2009)。それらは、Demeter (DME, Choi et al., 2002; Gehring et al., 2006)、ROS1 (Gong et al., 2002; Agius et al., 2006)、Demeter-like 2 (DML2)及びDemeter-like 3遺伝子(DML3, Choi et al., 2002; Ortega-Galisteo et al., 2008)を、含む。これらの遺伝子(およびコードされたポリペプチド)のうち最大のものであるDMEは、受精前の雌性配偶体のホモ二倍体中央細胞において最も強く発現され、ここで、母系の対立遺伝子特異的な包括的な低メチル化及び胚乳を含むインプリティングされた遺伝子の発現を促進する。対照的に、ROS1、DML2及びDML3は、栄養組織において発現される(Gong et al., 2002; Penterman et al., 2007)。ROS1と比較して、DML2及びDML3遺伝子の発現レベルは低かった(Mathieu et al., 2007)。さらに、ros1、dml2及びdml3のホモ接合性突然変異は、明白な形態学的表現型をもたらさなかったが、母親のdme突然変異は種子、すなわち胚を致死にさせ、子孫に伝達しなかった(Choi et al., 2002 and 2004)。その低い発現レベルにもかかわらず、ROS1、DML2及びDML3ポリペプチドは、依然としてDNAグリコシラーゼ/リアーゼとして機能する(Gong et al., 2002; Morales-Ruiz et al., 2006; Penterman et al., 2007)。このデータから、ROS1突然変異が、肥厚した糊粉の表現型を引き起こすとは予想していなかった。
【0356】
系統学的な解析により、イネゲノムは、ROS1オーソログ(OsROS1a、OsROS1b、OsROS1c、OsROS1d)と2つの明白なDML3オーソログ(Zemach et al., 2010)であると思われる4つを含む、シトシン脱メチル化のための6つの推定上のDNAグリコシラーゼをコードすることが明らかにされた。おそらくROS1a野生型DNAグリコシラーゼは、雄及び雌の配偶体発達の両方において不可欠であるため(Ono et al., 2012)、OsROS1aのヌル突然変異は同定されたが、突然変異を含む雄又は雌植物から子孫に伝達されなかった。本発明者らは、OsROS1aにおける部分的突然変異の公表された報告の何れかを認識していない。
【0357】
DNAグリコシダーゼドメイン、すなわちヘリックス-ヘアピン-ヘリックス(HhH)モチーフ、保存されたアスパラギン酸(GPD)に続くグリシン/プロリンリッチモチーフ、及び4つの保存されたシステイン残基(実施例4)の3つの同定されたモチーフは、 Demeterファミリーの各メンバーに存在する。グリコシラーゼドメイン構造は、ヒト8-オキソグアニンDNAグリコシラーゼ(hOGG1)、大腸菌アデニンDNAグリコシラーゼ(MutY)、及びエンドヌクレアーゼIII(Endo III)においても見出された(Bruner et al. 2000; Guan et al. 1998; Mok et al., 2010)。HhH DNAグリコシラーゼスーパーファミリーの他のメンバーとは異なり、DMEファミリーメンバーは、中央のグリコシダーゼドメインに隣接する2つのさらなる保存ドメイン(ドメインA及びドメインB)を含有した(Mok et al., 2010)。
【0358】
ホモログ遺伝子のタンパク質コード領域のヌクレオチド配列を、ClustalWによってアラインさせた(www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/)。イネROS1aタンパク質コード領域と他の種のホモログ遺伝子の対応する領域との配列同一性の程度を表5に示す。
【0359】
本発明者らは、これらの解析から、イネは複数のROS1遺伝子ホモログを有するがDME遺伝子は有さないと結論付けた。イネにおいて、シロイヌナズナに関して、ROS1は、配列同一性の程度の点から同種のホモログDML2及びDML3とは明らかに区別された。
【0360】
表5. イネOsROS1a又はTaROS1a-5Bのコード領域に対するヌクレオチド配列同一性。
【表5】
【0361】
実施例10. イネのROS1a遺伝子の発現
【0362】
発達中の穀粒の一部を含む異なるイネ組織におけるTA2遺伝子の発現を解析するための実験を行った。最初の実験において、TA2 mRNAは、Brewer et al. (2006)によって記載されているように、in situハイブリダイゼーションによってイネ組織切片中に検出された(2006)。簡単に説明すると、様々なイネ組織を、真空浸潤後、4℃で8時間FAA固定剤により固定し、段階的エタノールシリーズを用いて、その後キシレンシリーズを用いて脱水し、Paraplast Plus(Sigma-Aldrich)に包埋した。ミクロトーム切片(8μm)をProbe-On Plus顕微鏡スライド(Fisher)に載せた。
【0363】
ハイブリダイゼーションシグナルから、TA2は、果皮、種皮、及び糊粉の組織並びにデンプン質胚乳に発現するが、維管束には発現しないと結論付けられた。
【0364】
リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて、異なる植物組織における相対発現レベルを解析した。驚くべきことに、この結果は、花粉において最も高い相対発現を示し、続いて葯、若い穂及び糊粉組織が続いた(図6)。葯におけるOsROS1aの特異的発現は、雄の配偶体においてトランスポゾンの抑制に関与していると考えられた。シロイヌナズナの三細胞性の花粉において、活性型DNA脱メチル化は、雄性配偶子、すなわち2つの精子細胞におけるトランスポゾンのRNA依存性DNAメチル化(RdDM)を強化するためのsiRNAを産生するように、栄養細胞核におけるトランスポゾンの基礎的発現を維持する上で重要である(Zhu, 2009; Zhu et al., 2007)。
【0365】
発達中の種子において、ROS1aの発現は、開花の10日後に増加し、その後、減少した。デンプン質胚乳及び糊粉組織の両方で強い発現が観察された。種子発達の早期における発現パターンは、種子発達の胚乳の細胞化前に、肥厚した糊粉の形成と一致していた。本発明者達は、開花時~開花後7日(受粉)(0-7DAP)までの期間におけるROS1aの発現の減少は、厚い糊粉の形成にとって重要であると結論付けた。
【0366】
実施例11. イネにおける遺伝子メチル化のパターン
【0367】
イネ遺伝子のメチル化のパターンを決定するために、まとめて、野生型TA2植物と比較してta2突然変異体植物において、DNAを胚乳及び胚から単離し、非メチル化シトシンと反応する重亜硫酸塩で処理し、続いてイルミナ配列決定を行った。胚乳は、ta2及び野生型(ZH11)植物の発達中の米穀粒から10DAPで単離し、穀粒発達の同じ段階で野生型植物から胚を単離した。重亜硫酸塩処理後の配列決定のために、アダプターが重亜硫酸塩変換から生き残るように、シトシンを5-メチルシトシンに置き換えたカスタムイルミナアダプターを合成した。各分子を両端から配列決定することが出来るペアエンド(PE)アダプターを合成し、それによりゲノム足場配列へのその後のアライメントを容易にした。野生型及びta2植物並びに野生型胚のそれぞれから切開した胚乳から約0.5~1μgのゲノムDNAを単離した。単離されたDNA調製物は、100~500bpの断片へ超音波処理によって剪断された。アダプターを、イルミナプロトコールに従って剪断した断片に連結した。DNAを、その後、Qiagen EpiTectキットを用いてメチル化されていないシトシン(C)をウリジン(U)に変換する重亜硫酸ナトリウムで2回処理し、及び鋳型鎖のウリジンを許容する校正酵素であるPfuTurboCx DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いて18サイクルのPCRで増幅した。このPCR増幅により、各末端に異なるアダプターを有するDNA断片のライブラリーが得られたので、「フォワード」イルミナ配列決定プライマーは、「元の」ゲノムDNA由来鎖(ここでCはメチル化Cに対応し、Tは非メチル化Cに対応し、ここで、Cはゲノム配列に存在した)のヌクレオチド配列を得、及び「リバース」イルミナ配列決定プライマーは、相補鎖(ここで、Gは反対鎖上のメチル化Cに対応し、Aは非メチル化Cに対応し、ここでCはゲノム配列中に存在した)からヌクレオチド配列を生成した。
【0368】
ta2胚乳から得られたDNA中のCG及びCHGメチル化の程度は、コントロールZH11内胚乳から得られたDNAよりも大きかった。これは、TA2(OsROS1a)の突然変異がイネ胚乳中の脱メチル化の過程を減少させたことを示した。一方、ta2胚乳中のCHHメチル化の程度は、野生型ZH11胚乳中のものと有意差はなかった。
【0369】
実施例12. ta2突然変異体穀粒中の栄養成分のさらなる解析
【0370】
圃場で同じ条件下で同じ時間生育した対応する野生型穀粒(ZH11)と比較して、突然変異体穀粒の栄養成分を測定するためにさらなる解析を行った。全穀粒粉末試料を、植物から収穫した穀粒を用い調製し、実施例5に記載の組成解析に使用した。オーストラリアで栽培された穀粒の粉末の近似解析の結果を表6に表す。中国で栽培された穀粒の結果を表7に示す。
【0371】
近接解析は、ta2突然変異体粉末の総脂質含有量の約50%の増加を示した。全窒素解析は、中国ではta2変異体と野生型穀粒との間のタンパク質レベルに有意な変化を示したが、異なる窒素肥料レジーム(regime)に起因する可能性があるオーストラリアではそうではなかった。総繊維レベルはta2穀粒で約66%又は91%増加した。澱粉含量は野生型と比較してta2穀物で9%減少した。これらのデータは、ta2突然変異体中の糊粉層の厚さの増加が、種子の大きさを変えることなく、脂質、ミネラル及び繊維等の糊粉に富む栄養素のレベルを有意に増加させることを確認した。2つの成長環境において絶対数が異なっていても、ta2穀粒の相対的な増加は無理なく一貫していた。
【0372】
表6. 野生型と比較したros1a突然変異体米穀粒(オーストラリア)の組成
【表6】
【0373】
表7. 野生型と比較してros1a突然変異体米穀粒(中国)の組成
【表7】
【0374】
当業者であれば、広範に記載された本発明の本質又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示すように本発明に対して多数の変形及び/又は修正を行うことが出来ることが理解されよう。従って、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0375】
本出願は、2015年11月18日に出願されたAU 2015904754の優先権を主張し、その全内容を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0376】
本明細書において議論及び/又は参照される全ての刊行物は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0377】
本明細書に含まれる文書、行為、材料、装置、物品等の議論は、単に本発明の背景を提供することを目的とするものである。これらの事項の何れか又は全てが先行技術拠点の一部を形成するか、又は本出願の各請求の優先権の日以前に存在していた本発明に関連する分野において一般的な知識であることを認めるものではない。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
【配列表】
2024073534000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネの穀粒であって、前記穀粒が、糊粉、デンプン質胚乳、ROS1aポリペプチドをコードするROS1a遺伝子、及び(i)対応する野生型イネと比較した場合、植物において少なくとも1つのROS1a遺伝子の活性を、それぞれ減少させる1つ又は複数の遺伝的変異を含み、及び/又は(ii)前記糊粉が、対応する野生型穀粒由来の糊粉と比較して肥厚される、イネの穀粒。
【外国語明細書】