(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073553
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ベリリウム溶液の製造方法、ベリリウムの製造方法、水酸化ベリリウムの製造方法、酸化ベリリウムの製造方法、溶液の製造装置、ベリリウムの製造システム、及びベリリウム
(51)【国際特許分類】
C22B 1/00 20060101AFI20240522BHJP
C22B 35/00 20060101ALI20240522BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20240522BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240522BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20240522BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240522BHJP
【FI】
C22B1/00 101
C22B35/00
C22B3/26
C22B3/44 101A
C25B1/01 Z
C25B9/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039384
(22)【出願日】2024-03-13
(62)【分割の表示】P 2021542983の分割
【原出願日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2019158618
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中道 勝
(72)【発明者】
【氏名】金 宰煥
(72)【発明者】
【氏名】赤津 孔明
(72)【発明者】
【氏名】中野 優
【テーマコード(参考)】
4K001
4K021
【Fターム(参考)】
4K001AA37
4K001BA04
4K001BA05
4K001BA07
4K001BA08
4K001CA01
4K001CA07
4K001CA08
4K001DB23
4K001DB26
4K001DB27
4K001DB31
4K021AA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ベリリウム溶液を製造する製造方法であって、エネルギー効率が高い新規な製造方法、製造装置、および製造システムを提供する。
【解決手段】ベリリウム溶液の製造方法(M10)は、ベリリウム、ベリリウムを含む物質を出発原料として、上記出発原料を含む酸性溶液を誘電加熱することによって、ベリリウム溶液を生成する主加熱工程(S12)を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベリリウム、ベリリウムを含む金属間化合物、表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、表面に酸化層が形成されているベリリウムを含む金属間化合物のうち少なくとも何れかを出発原料として、
上記出発原料を含む酸性溶液を誘電加熱することによって、ベリリウム溶液を生成する主加熱工程と、
上記主加熱工程の後に実施する第1の不純物除去工程であって、第1の元素を吸着する有機化合物を用いて、上記主加熱工程により得られたベリリウム溶液から上記第1の元素を除去する第1の不純物除去工程と、を含む、
ことを特徴とするベリリウム溶液の製造方法。
【請求項2】
上記第1の不純物除去工程において、
上記有機化合物は、有機溶媒中に溶解しており、
上記ベリリウム溶液は、酸性である、
ことを特徴とする請求項1に記載のベリリウム溶液の製造方法。
【請求項3】
上記主加熱工程の後に実施する第2の不純物除去工程であって、上記主加熱工程により得られたベリリウム溶液の極性を酸性から塩基性に調整することによって、当該ベリリウム溶液から第2の元素を除去する第2の不純物除去工程を更に含む、
ことを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載のベリリウム溶液の製造方法。
【請求項4】
上記主加熱工程は、マイクロ波を印加することによって上記出発原料を含む上記酸性溶液を誘電加熱する、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のベリリウム溶液の製造方法。
【請求項5】
上記ベリリウム溶液は、塩化ベリリウム溶液である、
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のベリリウム溶液の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載のベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、
上記ベリリウム溶液を無水化することによってベリリウム塩を生成する無水化工程と、
上記ベリリウム塩を溶融塩電解することによってベリリウムを生成する電解工程と、を含んでいる、
ことを特徴とするベリリウムの製造方法。
【請求項7】
上記電解工程により生成された前記ベリリウムは、ウランを含有し、且つ、当該ウランの濃度が0.7ppm未満である、
ことを特徴とする請求項6に記載のベリリウムの製造方法。
【請求項8】
上記ベリリウム溶液は、塩化ベリリウム溶液であり、
上記無水化工程は、上記塩化ベリリウム溶液に含まれている塩化ベリリウム水和物を、真空中且つ80℃以上110℃以下の温度で加熱する、
ことを特徴とする請求項6に記載のベリリウムの製造方法。
【請求項9】
請求項1~4の何れか1項に記載のベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、
上記ベリリウム溶液を塩基で中和することによって水酸化ベリリウムを生成する中和工程と、を含んでいる、
ことを特徴とする水酸化ベリリウムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~4の何れか1項に記載のベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、
上記ベリリウム溶液を加熱することによって酸化ベリリウムを生成する第3の加熱工程と、を含んでいる、
ことを特徴とする酸化ベリリウムの製造方法。
【請求項11】
主加熱用容器と、
上記主加熱用容器に酸性溶液を供給する酸性溶液供給部と、
上記主加熱用容器に収容された上記酸性溶液を誘電加熱する主加熱装置と、
第1の不純物除去用容器と、
上記第1の不純物除去用容器に第1の元素を吸着する有機化合物を供給する有機化合物供給部と、を備えている、
ことを特徴とする溶液の製造装置。
【請求項12】
ベリリウム、ベリリウムを含む金属間化合物、表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、表面に酸化層が形成されているベリリウムを含む金属間化合物のうち少なくとも何れかを出発原料として、
上記主加熱用容器及び上記酸性溶液供給部の少なくとも何れかに上記出発原料を供給する原料供給部を更に備えている、
ことを特徴とする請求項11に記載の溶液の製造装置。
【請求項13】
上記主加熱用容器は、上記出発原料を含む酸性溶液を誘電加熱することによって生成したベリリウム溶液を上記第1の不純物除去用容器に向けて排出する排出部を備え、
上記第1の不純物除去用容器は、上記有機化合物及び上記ベリリウム溶液を排出する排出部を備えている、
ことを特徴とする請求項12に記載の溶液の製造装置。
【請求項14】
上記主加熱装置は、マイクロ波を印加することによって上記主加熱用容器に収容された上記酸性溶液を誘電加熱する、
ことを特徴とする請求項11~13の何れか1項に記載の溶液の製造装置。
【請求項15】
上記溶液は、塩化ベリリウム溶液である、
ことを特徴とする請求項11~14の何れか1項に記載の溶液の製造装置。
【請求項16】
請求項15に記載の溶液の製造装置と、
上記塩化ベリリウム溶液を無水化することによって塩化ベリリウムを生成する無水化装置と、
上記塩化ベリリウムを溶融塩電解することによってベリリウムを生成する電解装置と、を備えている、
ことを特徴とするベリリウムの製造システム。
【請求項17】
請求項15に記載の溶液の製造装置と、
上記塩化ベリリウム溶液を塩基で中和することによって水酸化ベリリウムを生成する中和装置と、を備えている、
ことを特徴とする水酸化ベリリウムの製造システム。
【請求項18】
請求項15に記載の溶液の製造装置と、
上記塩化ベリリウム溶液を加熱することによって酸化ベリリウムを生成する第3の加熱装置と、を備えている、
ことを特徴とする酸化ベリリウムの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベリリウム溶液の製造方法に関する。また、本発明は、ベリリウムの製造方法、水酸化ベリリウムの製造方法、酸化ベリリウムの製造方法、溶液の製造装置、ベリリウムの製造システム、及びベリリウムにも関する。
【背景技術】
【0002】
ベリリウムは、Be-Si-O系の鉱石、及び、Be-Si-Al-O系の鉱石に含まれていることが知られている。Be-Si-O系の鉱石の例としては、ベルトランダイト及びフェナサイトが挙げられ、Be-Si-Al-O系の鉱石の例としては、ベリル及びクリソベリルが挙げられる。以下では、これらのようにベリリウムを含有する鉱石をベリリウム鉱石と呼ぶ。また、ベリリウム鉱石は、ベリリウム酸化物の一例である。
【0003】
ベリリウム、ベリリウムを含む化合物、及び、ベリリウムを含む合金の何れかを製造する場合、まず、ベリリウム鉱石を溶媒に溶解させることによりベリリウム鉱石からベリリウムを抽出する。しかしながら、ベリリウム鉱石を溶媒に溶解させることは容易ではない。ベリリウム鉱石を溶かしやすい溶媒としては、硫酸などの酸性溶液が知られているが、ベリリウム鉱石は、酸性溶液に対しても溶解しにくい。
【0004】
そのため、非特許文献1には、ベリリウム鉱石に対して焼結処理又は溶融処理などの前処理を施すことによって、ベリリウム鉱石を溶媒に溶解させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】"Beryllium"、[online]、Wikipedia、[令和1年6月25日検索]、インターネット〈URL:https://en.wikipedia.org/siki/Beryllium〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ベリリウム鉱石を溶媒に溶解させるための前処理には、とても大きなエネルギーを要する。非特許文献1の"Production"の項目によれば、焼結処理を施す場合の温度は、例えば770℃であり、溶融処理を施す場合の温度は、例えば1650℃である。
【0007】
本発明の一態様に係る発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、ベリリウム溶液を製造する製造方法であって、エネルギー効率が高い新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るベリリウム溶液の製造方法は、ベリリウム、ベリリウムを含む金属間化合物、表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、表面に酸化層が形成されているベリリウムを含む金属間化合物のうち少なくとも何れかを出発原料として、上記出発原料を含む酸性溶液を誘電加熱することによって、ベリリウム溶液を生成する主加熱工程を含む。
【0009】
本発明の一態様に係るベリリウムの製造方法は、本発明の一態様に係るベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、上記ベリリウム溶液を無水化することによってベリリウム塩を生成する無水化工程と、上記ベリリウム塩を溶融塩電解することによってベリリウムを生成する電解工程と、を含んでいる。
【0010】
本発明の一態様に係る水酸化ベリリウムの製造方法は、本発明の一態様に係るベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、上記ベリリウム溶液を塩基で中和することによって水酸化ベリリウムを生成する中和工程と、を含んでいる。
【0011】
本発明の一態様に係る酸化ベリリウムの製造方法は、本発明の一態様に係るベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、上記ベリリウム溶液を加熱することによって酸化ベリリウムを生成する第3の加熱工程と、を含んでいる。
【0012】
本発明の一態様に係る溶液の製造装置は、主加熱用容器と、上記主加熱用容器に酸性溶液を供給する酸性溶液供給部と、上記主加熱用容器に収容された上記酸性溶液を誘電加熱する主加熱装置と、を備えている。
【0013】
本発明の一態様に係るベリリウムの製造システムは、本発明の一態様に係る溶液の製造装置と、上記塩化ベリリウム溶液を無水化することによって塩化ベリリウムを生成する無水化装置と、上記塩化ベリリウムを溶融塩電解することによってベリリウムを生成する電解装置と、を備えている。
【0014】
本発明の一態様に係るベリリウムは、ウランの濃度が0.7ppm未満である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、ベリリウム溶液を製造する製造方法であって、エネルギー効率が高い新規な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る塩化ベリリウム溶液の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】(a)~(c)の各々は、それぞれ、本発明の第2~第4の実施形態に係るベリリウムの製造方法、水酸化ベリリウムの製造方法、及び酸化ベリリウムの製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の第5の実施形態に係るチタン及びリチウムの分離方法を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第6の実施形態に係る塩化リチウム溶液の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第7の実施形態に係るベリリウム溶液の製造装置の概略図である。
【
図6】
図5に示したベリリウム溶液の製造装置を用いて主加熱工程を実施した場合における、容器の温度変化を示すグラフである。
【
図7】本発明の第8の実施形態に係るベリリウムの製造システムが備えているベリリウム溶液の製造装置の概略図である。
【
図8】(a)は、本発明の第8の実施形態に係るベリリウムの製造システムが備えている晶析装置、無水化装置、及び電解装置の概略図である。(b)は、(a)に示された晶析装置が備えている晶析処理槽の変形例の概略図である。(c)は、(a)に示された無水化装置が備えている乾燥機の変形例の概略図である。
【
図9】(a)は、本発明の第9の実施形態に係る水酸化リチウムの製造方法のフローチャートを示し、(b)は、本発明の第10の実施形態に係る炭酸リチウムの製造方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1の実施形態〕
(ベリリウム溶液の製造方法M10)
本発明の第1の実施形態に係るベリリウム溶液の製造方法M10について
図1を参照して説明する。
図1は、ベリリウム溶液の製造方法M10のフローチャートである。なお、以下においては、ベリリウム溶液の製造方法M10のことを単に製造方法M10とも称する。本実施形態では、ベリリウムの塩酸塩である塩化ベリリウム(BeCl
2)の水溶液であるBeCl
2溶液の製造方法について説明する。しかし、製造方法M10を用いて製造するベリリウム溶液は、BeCl
2溶液に限定されるものではなく、ベリリウムの硫酸塩である硫酸ベリリウム(BeSO
4)の水溶液であるBeSO
4溶液であってもよいし、ベリリウムの硝酸塩である硝酸ベリリウム(Be(NO
3)
2)の水溶液であるBe(NO
3)
2溶液であってもよいし、ベリリウムのフッ化水素酸塩であるフッ化ベリリウム(BeF
2)の水溶液であるBeF
2水溶液であってもよいし、ベリリウムの臭化水素酸塩である臭化ベリリウム(BeBr
2)の水溶液であるBeBr
2水溶液であってもよいし、ベリリウムのヨウ化水素酸塩であるヨウ化ベリリウム(BeI
2)の水溶液であるBeI
2水溶液であってもよい。
【0018】
図1に示すように、製造方法M10は、取り出し工程S11と、主加熱工程S12と、第1の濾過工程S13と、水酸化ナトリウム添加工程S14と、第2の濾過工程S15と、塩酸添加工程S16と、第1の不純物除去工程S17と、第2の不純物除去工程S18と、を含む。
【0019】
(取り出し工程S11)
取り出し工程S11は、核融合炉のブランケットの内部に充填されているトリチウム増殖材及び中性子増倍材であって、使用済みのトリチウム増殖材及び中性子増倍材を、ブランケットから取り出す工程である。製造方法M10においては、使用済みのトリチウム増殖材及び中性子増倍材を出発原料として用いる。
【0020】
トリチウム増殖材の例としては、リチウム酸化物が挙げられる。具体的には、チタン酸リチウム(Li2TiO3)、酸化リチウム(Li2O)、アルミン酸リチウム(LiAlO2)、及び珪酸リチウム(Li2SiO3及び/又はLi4SiO4)が挙げられる。また、中性子増倍材の例としては、ベリリウム(Be)及びベリリウムを含む金属間化合物(Be12Ti及び/又はBe12V、ベリライドとも称される)が挙げられる。トリチウム増殖材及び中性子増倍材の各々は、何れも、直径が1mm程度の微小な球状に成形されている。そのうえで、ブランケットの内部には、できるだけ均一に混合されたトリチウム増殖材と中性子増倍材とが充填されている。したがって、取り出し工程S11においてブランケットから取り出された出発原料は、トリチウム増殖材と中性子増倍材との混合物である。本実施形態では、トリチウム増殖材の一例としてチタン酸リチウムを用い、中性子増倍材の一例として表面に酸化層が形成されているベリリウムを用いて製造方法M10について説明する。なお、製造方法M10において出発原料として用いるトリチウム増殖材及び中性子増倍材の各々は、チタン酸リチウム及びベリリウムに限定されず、上述した例の中から適宜選択することができる。
【0021】
なお、中性子増倍材として使用済みとなったベリリウムであっても、その大部分(例えば98%程度)は、ベリリウムのままである。したがって、核融合炉の運用コストを抑制するために、高価な元素であるベリリウムをベリリウム溶液にしたうえで再利用する技術の確立が強く求められている。また、使用済みのベリリウムの表面には酸化ベリリウム(BeO)の層が形成されている。したがって、使用済みのベリリウムを酸性溶液中に浸漬するだけでは、使用済みのベリリウムに含まれるベリリウムは、ほとんど溶解しない。
【0022】
以上のように、製造方法M10において用いられる出発原料は、中性子増倍材として機能する、(1)ベリリウム、(2)ベリリウムを含む金属間化合物、(3)表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、(4)表面に酸化層が形成されている金属間化合物であって、ベリリウムを含む金属間化合物のうち少なくとも何れかを含む。また、製造方法M10において用いられる出発原料は、更に、トリチウム増殖材として働くリチウム酸化物を含んでいてもよい。
【0023】
また、製造方法M10において用いられる出発原料は、核融合炉において使用済みとなった中性子増倍材及びトリチウム増殖材に限定されない。該出発原料は、核融合分野以外の原子力分野及び加速器分野において使用済みとなったベリリウム及びその合金であってもよいし、一般産業分野において産業廃棄物として生じるベリリウム及びその合金であってもよい。製造方法M10によれば、(1)核融合炉において生じる使用済みの中性子増倍材及びトリチウム増殖材と、(2)核融合分野以外の原子力分野及び加速器分野から生じる使用済みの中性子反射体や、中性子減速材や、中性子源としてのターゲット材などに含まれるベリリウム及びその合金と、(3)一般産業分野において産業廃棄物として生じるベリリウム及びその合金と、を区別することなく処理し、新たなベリリウムを製造できる。また、製造方法M10によれば、これらの出発原料に不純物として含まれるウランやその他の元素などを除去することができる。
【0024】
(粉砕工程)
また、取り出し工程S11と主加熱工程S12との間に、出発原料を粉砕する粉砕工程を実施してもよい。粉砕工程は、出発原料を粉砕することによって、出発原料の粒径を小さくするとともに、中性子増倍材の表面に酸化層が形成されている場合であっても、その酸化層を機械的に破壊し、酸化層に覆われていたベリリウムを露出させる工程である。出発原料を粉砕するために用いる技術は、限定されるものではなく、既存の技術から適宜選択することができ、例えば、ボールミルが挙げられる。
【0025】
(主加熱工程S12)
主加熱工程S12は、取り出し工程S11の後に、出発原料を含む酸性溶液を誘電加熱する工程である。主加熱工程S12を実施することによって、中性子増倍材であるベリリウムが溶解するとともに、トリチウム増殖材であるチタン酸リチウムに含まれるリチウムの多くが溶解した酸性溶液が生成される。以下においては、この酸性溶液のことを、リチウムを含むベリリウム溶液とも称する。なお、一部のチタン酸リチウム及び酸化チタンは、主加熱工程S12を実施した場合であっても溶解せず、酸性溶液中に固相として存在する。
【0026】
酸性溶液としては、特に限定されないが、酸性の溶質である、塩化水素(HCl)、硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)、フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、及びヨウ化水素(HI)のうち何れかの水溶液を採用することができる。本実施形態では、酸性溶液として、HCl溶液を用いる。なお、HCl溶液におけるHClの濃度は、適宜調整することができるが、pHが1以下となるように調整されていることが好ましい。
【0027】
誘電加熱は、所定の周波数を有する電磁波を対象物に印加することによって対象物を加熱する技術の総称であり、印加する電磁波の帯域に応じて、高周波加熱と呼んだり、マイクロ波加熱と呼んだりする。例えば、高周波加熱は、3MHz以上300MHz未満の帯域に含まれる電磁波(いわゆる短波又は超短波)を対象物に印加し、マイクロ波加熱は、300MHz以上30GHz未満の帯域に含まれる電磁波(いわゆるマイクロ波)を対象物に印加する。家庭にも普及している電子レンジは、マイクロ波加熱を実施可能な装置の一例である。
【0028】
本実施形態では、主加熱工程S12において、リチウムを含むベリリウム溶液に周波数が2.45GHzである電磁波を印加する。なお、リチウムを含むベリリウム溶液に電磁波を印加する装置の構成については、
図5あるいは
図7を参照して後述する。
【0029】
誘電加熱を利用して出発原料を含む酸性溶液を加熱することにより、従来よりも高いエネルギー効率で出発原料を、酸性溶液に溶解させることができる。具体的には、塩化ベリリウム水和物(BeCl2・xH2O)及び塩化リチウム(LiCl)が溶解した塩酸溶液を得ることができる。したがって、製造方法M10は、エネルギー効率が高い新規な製造方法を提供することができる。
【0030】
なお、主加熱工程S12における加熱温度は、適宜設定することができる。ただし、主加熱工程S12における加熱温度は、出発原料を含む酸性溶液を収容する容器(例えば、第7の実施形態に記載の主加熱用容器14)の耐熱温度以下であることが好ましい。例えば、該容器が主加熱用容器14のようにポリテトラフルオロエチレン製である場合、主加熱工程S12における加熱温度は、250℃以下であることが好ましい。容器を構成する材料が酸性溶液に対する耐食性を有し、且つ、耐熱温度が250℃を上回る場合、主加熱工程S12における加熱温度は、250℃を上回ってもよい。主加熱工程S12における加熱温度を高められることによって、主加熱工程S12に要する時間を短縮できる可能性が高い。また、主加熱工程S12における加熱温度は、180℃以上であることが好ましい。加熱温度が180℃以上であることによって、出発原料に含まれるベリリウムおよびリチウムの多くを塩化ベリリウム水和物及び塩化リチウムとして溶液中に溶解させることができる。また、主加熱工程S12における加熱時間も適宜設定することができるが、例えば、60分以上であることが好ましい。
【0031】
(予備加熱工程)
なお、主加熱工程S12を実施するだけではベリリウムが酸性溶液中に溶解する速度が遅い場合、換言すれば、主加熱工程S12を所定の加熱温度で所定の加熱時間実施するだけではベリリウムの溶解度が十分ではない場合、製造方法M10は、主加熱工程S12に先立って実施する予備加熱工程を含んでいてもよい。
【0032】
上述した中性子増倍材の例のうち、表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、表面に酸化層が形成されている金属間化合物であって、ベリリウムを含む金属間化合物において、酸化層の厚さが厚い場合、主加熱工程S12を実施するだけではベリリウムが酸性溶液中に溶解する速度が遅くなる場合がある。このような場合には、主加熱工程S12の前に予備加熱工程を実施することが好ましい。
【0033】
予備加熱工程は、出発原料を含む塩基性溶液を誘電加熱する工程である。塩基性溶液としては、特に限定されないが、塩基性の溶質である、水酸化ナトリウム(NaOH)の水溶液又は水酸化カリウム(KOH)の水溶液を採用することができる。本実施形態では、塩基性溶液として、NaOH溶液を用いる。なお、NaOH溶液におけるNaOHの濃度は、適宜調整することができるが、pHが14以上となるように調整されていることが好ましい。
【0034】
予備加熱工程において実施する誘電加熱は、主加熱工程S12において実施する誘電加熱と同様である。すなわち、本実施形態では、出発原料を含むNaOH溶液に周波数が2.45GHzである電磁波を印加する。
【0035】
主加熱工程S12を実施する前に予備加熱工程を実施することによって、出発原料の表面に複数の表面組織の腐食、溶解、崩落などによる反応部が形成される。
この反応部の形状は、限定されないが、例えば、凹部であってもよい。このように、複数の反応部が形成された出発原料の表面は、予備加熱工程を実施する前の出発原料の表面と比較して、脆弱化する。その結果、予備加熱工程を実施した後の出発原料は、主加熱工程S12を実施することにより酸性溶液に容易に溶解する。このように、製造方法M10が予備加熱工程を含むことにより、主加熱工程S12を単独で実施するだけでは溶解しにくい出発原料を容易に溶解させることができる。したがって、比較的、酸性溶液に溶解しにくい出発原料を用いる場合であっても、予備加熱工程及び主加熱工程S12を実施することによって、リチウムを含むベリリウム溶液を製造することができる。
【0036】
(第1の濾過工程S13)
第1の濾過工程S13は、主加熱工程S12の後に実施する工程である。第1の濾過工程S13は、リチウムを含むベリリウム溶液中に含まれる固相と液相とを、フィルタを用いて分離する工程である。固相には、一部のチタン酸リチウム及び酸化チタンが含まれている。酸性溶液である液相には、塩化ベリリウム水和物及び塩化リチウムが主に含まれている。
【0037】
第1の濾過工程S13を実施することにより、固相に含まれている酸化チタンと、液相に含まれている塩化ベリリウム水和物及び塩化リチウムとを容易に分離することができる。
【0038】
(水酸化ナトリウム添加工程S14)
水酸化ナトリウム添加工程S14は、第1の濾過工程S13の後に実施する工程である。水酸化ナトリウム添加工程S14は、第1の濾過工程S13により分離された酸性溶液であって、液相である塩化ベリリウム水和物及び塩化リチウムを含み、固相である酸化チタンを含まない酸性溶液の極性を酸性から、中性を介して、塩基性に調整する工程である。
【0039】
本実施形態においては、水酸化ナトリウム添加工程S14は、第1の濾過工程S13により分離された酸性溶液に対して、水酸化ナトリウムの水溶液を添加するように定められている。その結果、第1の濾過工程S13により分離された溶液の極性は、酸性から、中性(pH7)を経た後、塩基性となり、該溶液に含まれていた塩化ベリリウム水和物は、水酸化ベリリウム(Be(OH)2)となり、固相として塩基性の溶液中に沈殿する。なお、塩化リチウムは、上記塩基性の溶液中に溶解しており、沈殿しない。すなわち、塩化リチウムは、水酸化ナトリウム添加工程S14を実施した後であっても、水酸化リチウムとして液相中に存在したままである。
【0040】
(第2の濾過工程S15)
第2の濾過工程S15は、水酸化ナトリウム添加工程S14の後に実施する工程である。第2の濾過工程S15は、水酸化ナトリウム添加工程S14により得られた塩基性の溶液中に含まれる固相と液相とを、フィルタを用いて分離する工程である。固相には、水酸化ベリリウムが含まれており、液相には、水酸化リチウムが含まれている。
【0041】
第2の濾過工程S15を実施することにより、固相に含まれている水酸化ベリリウムと、液相に含まれている水酸化リチウムとを容易に分離することができる。
【0042】
(塩酸添加工程S16)
塩酸添加工程S16は、第2の濾過工程S15の後に実施する工程である。塩酸添加工程S16は、第2の濾過工程S15により得られた水酸化ベリリウムにHCl溶液を添加することによって、再び、ベリリウムを塩化ベリリウム水和物の形で酸性溶液中に溶解させる工程である。なお、HCl溶液におけるHClの濃度は、適宜調整することができるが、pHが1以下となるように調整されていることが好ましい。
【0043】
塩酸添加工程S16を実施することにより、塩化ベリリウム水和物が溶解した塩酸溶液(ベリリウム溶液又はBeCl2溶液とも称する)をえることができる。
【0044】
(第1の不純物除去工程S17)
第1の不純物除去工程S17は、塩酸添加工程S16の後に実施する工程である。第1の不純物除去工程S17は、第1の元素を吸着する有機化合物を用いて、塩酸添加工程S16により得られたベリリウム溶液から上記第1の元素を除去する工程である。
【0045】
第1の不純物除去工程S17において除去する第1の元素は、ここで用いる有機化合物によって決まる。第1の不純物除去工程S17において利用可能な有機化合物としては、酸化トリ-n-オクチルホスフィン(TOPO,Tri-n-octylphosphine oxide)、ジ(2エチルヘキシル)リン酸(D2EHPA,Di-(2-ethylhexyl) phosphoric acid)、リン酸トリブチル(TBP,Tri-n-butyl phosphate)、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA,Ethylenediaminetetraacetic acid)が挙げられる。また、第1の不純物除去工程S17において利用可能な有機化合物であって、市販されている有機化合物としては、eichrom technologies社のUTEVA(登録商標)レジンが挙げられる。
【0046】
TOPOは、Al、Au、Co、Cr、Fe、Hf、Re、Ti、UO2
2+、V、Zr、希土類元素、及びアクチノイド元素を吸着することができる。D2EHPAは、Uや、Coや、Niや、Mnなどを吸着することができる。TBPは、Uや、Thなどを吸着することができる。EDTAの類は、Mgや、Caや、Baや、Cuや、Znや、Alや、Mnや、Feなどを吸着することができる。UTEVA(登録商標)レジンは、Uや、Thや、Puや、Amなどを吸着することができる。これらの元素は、第1の元素の例である。
【0047】
これらの有機化合物は、有機溶媒(例えばケロシンや、シクロヘキサンや、ベンゼンなど)に溶解する。塩酸添加工程S16を実施した後のHCl溶液に、これらの有機化合物が溶解した溶液(以下において有機化合物溶液とも称する)を混合し、且つ、撹拌することによって、有機化合物は、第1の元素を吸着する。
【0048】
第1の不純物除去工程S17において、有機化合物溶液を混合するHCl溶液の液性は、酸性であることが好ましく、pHが2以下であることがより好ましい。この構成によれば、有機化合物がベリリウムを吸着することなく、有機化合物が第1の元素を吸着する効率を高めることができる。なお、HCl溶液の液性を中性に近づければ近づけるほど、有機化合物がベリリウムを吸着する効率が高まり、且つ、第1の元素を吸着する効率が低下する。
【0049】
本実施形態においては、第1の不純物除去工程S17において用いる有機化合物及び有機溶媒として、TOPO及びケロシンを採用する。ただし、有機化合物及び有機溶媒の各々は、TOPO及びケロシンに限定されるものではなく、上に例示した組み合わせのなかから適宜選択することができる。
【0050】
塩酸添加工程S16により得られた、水溶液であるベリリウム溶液と、有機化合物溶液とは、しばらくの間放置しておくことによって2層に分離する。したがって、第1の不純物除去工程S17を実施することにより第1の元素の含有量が抑制されたベリリウム溶液と、第1の元素を含有する有機化合物溶液とは、容易に分離することができる。
【0051】
第1の不純物除去工程S17を実施することにより、ベリリウム溶液中に含まれる第1の元素の濃度を低下させることができる。その結果として、出発原料を酸性溶液に溶解させることによってベリリウム溶液を製造する場合に、出発原料に上述したようなベリリウム以外の元素である第1の元素が含まれている場合であっても、ベリリウム溶液から、ベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムの何れかを製造する場合に含まれる第1の元素の濃度を低下させることができる。第1の元素の例としては、ウランやトリウムやプルトニウムやアメリシウムなどが挙げられる。
【0052】
具体的例としては、第1の不純物除去工程S17を含む製造方法M10を用いて製造した塩化ベリリウムを用いてベリリウムを製造した場合、ベリリウム中に含まれるウランの濃度を0.7ppm未満に抑制することができる。ウランの濃度が0.7ppm未満であるベリリウムは、核融合炉において中性子増倍材として使用された場合であっても、使用後におけるウラン濃度が浅地処分することができるか否かを定める閾値を下回る。したがって、本発明の一態様に含まれるベリリウムは、核融合炉において中性子増倍材として使用された場合であっても、そのまま浅地処分することができる。
【0053】
(第2の不純物除去工程S18)
第2の不純物除去工程S18は、第1の不純物除去工程S17の後に実施する工程であって、塩酸添加工程S16により得られたベリリウム溶液の極性を酸性から、中性を介して、塩基性に調整することによって、ベリリウム溶液から第2の元素を除去する工程である。なお、本実施形態においては、塩酸添加工程S16のあとに第1の不純物除去工程S17及び第2の不純物除去工程S18を、この順番で実施するものとして説明しているが、第1の不純物除去工程S17と第2の不純物除去工程S18との順番は、入れ替えることもできる。
【0054】
本実施形態においては、第2の不純物除去工程S18は、塩酸添加工程S16を実施した後のベリリウム溶液に対して、重曹(NaHCO3)を飽和するまで添加する。その結果、該ベリリウム溶液において、中性(pH7)を経た後、ベリリウム以外の元素(例えば、AlやFeなど)が水酸化物(例えば、Al(OH)3やFe(OH)3など)となって該ベリリウム溶液中に沈殿する。なお、重曹が飽和している状態であっても、Be(OH)2は、ベリリウム溶液中に溶解しており、沈殿しない。このように、アルミニウム(Al)及び鉄(Fe)は、第2の元素の例である。
【0055】
第2の不純物除去工程S18を実施することによりベリリウム溶液中に沈殿したベリリウム以外の元素の水酸化物は、ベリリウム溶液を濾過することにより、容易にベリリウム溶液中から除去することができる。
【0056】
なお、第2の不純物除去工程S18を実施することによって第2の元素を除去されたベリリウム溶液には、改めてHClを添加することが好ましい。このように、ベリリウム溶液に改めてHClを添加することによって、Be(OH)2溶液の極性が、中性を介して、酸性に調整され、溶液中には、純度が高い塩化ベリリウム水和物(BeCl2・xH2O)が生成される。
【0057】
このように、第2の不純物除去工程S18を実施することにより、ベリリウム溶液中に含まれる第2の元素の濃度を低下させることができる。その結果として、出発原料を酸性溶液に溶解させることによってベリリウム溶液を製造する場合に、出発原料に上述したようなベリリウム以外の元素である第2の元素が含まれている場合であっても、ベリリウム溶液を用いてベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムの何れかを製造する場合に含まれる第2の元素の濃度を低下させることができる。
【0058】
上述したように、製造方法M10において、主加熱工程S12は、マイクロ波を印加することによってベリリウム酸化物を含む上記酸性溶液を誘電加熱することが好ましい。
【0059】
また、製造方法M10が予備加熱工程を含む場合、予備加熱工程は、主加熱工程S12と同様に、マイクロ波を印加することによってベリリウム酸化物を含む塩基性溶液を誘電加熱することが好ましい。
【0060】
マイクロ波を用いた誘電加熱(すなわちマイクロ波誘電加熱)の技術は、いわゆる電子レンジにおいて利用されている技術であり、広く普及している技術である。したがって、製造方法M10は、実施に要するコストを従来の製造方法よりも削減することができる。
【0061】
上述したように、製造方法M10において、上記ベリリウム溶液は、塩化ベリリウム溶液であることが好ましい。
【0062】
製造方法M10によれば、水酸化ベリリウムを経ることなく塩化ベリリウム溶液を容易に製造することができる。塩化ベリリウム溶液からは、後述するようにベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムを容易に製造することができる。したがって、ベリリウム溶液としては、塩化ベリリウム溶液が好適である。
【0063】
〔第2~第4の実施形態〕
本発明の第2~第4の実施形態の各々に係るベリリウム(Be)の製造方法M20、水酸化ベリリウム(Be(OH)
2)の製造方法M30、及び酸化ベリリウム(BeO)の製造方法M40について、
図2の(a)~(c)を参照して説明する。
図2の(a)~(c)の各々は、それぞれ、ベリリウムの製造方法M20、水酸化ベリリウムの製造方法M30、及び酸化ベリリウムの製造方法M40の各々の主要部を示すフローチャートである。なお、以下においては、ベリリウムの製造方法M20、水酸化ベリリウムの製造方法M30、及び酸化ベリリウムの製造方法M40の各々のことを、それぞれ、単に製造方法M20、製造方法M30、及び製造方法M40とも称する。
【0064】
(ベリリウムの製造方法M20)
図2に示すように、製造方法M20は、
図1に示した製造方法M10が含む取り出し工程S11、主加熱工程S12、第1の濾過工程S13、水酸化ナトリウム添加工程S14、第2の濾過工程S15、第1の不純物除去工程S17、及び第2の不純物除去工程S18の各工程と、無水化工程S21と、電解工程S22と、を含んでいる。以下において、取り出し工程S11、主加熱工程S12、第1の濾過工程S13、水酸化ナトリウム添加工程S14、第2の濾過工程S15、第1の不純物除去工程S17、及び第2の不純物除去工程S18のことを、単に、各工程S11~S18とも称する。
【0065】
製造方法M20が含む、製造方法M10の各工程S11~S18は、第1の実施形態において説明する各工程S11~S18と同様である。したがって、ここでは、各工程S11~S18に関する説明を省略する。すなわち、BeCl2がHCl溶液中に溶解したBeCl2溶液が得られているものとして、製造方法M20については、無水化工程S21と、電解工程S22とについてのみ説明する。
【0066】
無水化工程S21は、製造方法M10の各工程S11~S15により得られたBeCl2溶液に含まれている塩化ベリリウム水和物(BeCl2・xH2O)を無水化することによって、ベリリウム塩の一例であるBeCl2を生成する工程である。
【0067】
無水化工程S21では、塩化ベリリウム水和物に塩化アンモニウムを加え、真空中且つ90℃で、24時間に亘って当該塩化ベリリウム水和物を加熱することにより、含有水分量を限りなく0に近づけることができる。すなわち、塩化ベリリウム水和物を無水化することができる。
【0068】
塩化アンモニウムは、塩化ベリリウム水和物中の水分と反応し、水酸化アンモニウムと塩酸になる。生成した水酸化アンモニウム及び塩酸は、再度反応して、水を放出しながら塩化アンモニウムに戻る。このような過程で塩化ベリリウム水和物から無水化された塩化ベリリウムを得ることができる。
【0069】
なお、無水化工程S21における加熱温度は、90℃に限定されるものではなく、80℃以上110℃以下の温度範囲から適宜選択することができる。ただし、加熱温度が高すぎる場合、塩化ベリリウム水和物の無水化が不十分になりやすい。したがって、当該加熱温度は、80℃以上90℃以下であることが好ましく、90℃であることがより好ましい。
【0070】
なお、無水化工程S21における無水化処理を施す時間は、24時間に限定されるものではなく、適宜定めることができる。
【0071】
電解工程S22は、無水化工程S21により得られたBeCl2を溶融塩電解することによって金属のベリリウムを生成する工程である。
【0072】
以上のように、製造方法M20を実施することにより、出発原料から金属のベリリウムを製造することができる。
【0073】
(水酸化ベリリウムの製造方法M30)
図2に示すように、製造方法M30は、製造方法M10の各工程S11~S15と、中和工程S31と、を含んでいる。製造方法M20の場合と同様に、ここでは、中和工程S31についてのみ説明する。
【0074】
中和工程S31は、製造方法M10の各工程S11~S15により得られたBeCl2溶液に含まれているBeCl2・xH2Oを、塩基で中和することによってBe(OH)2を生成する工程である。
【0075】
以上のように、製造方法M30を実施することにより、出発原料からBe(OH)2を製造することができる。
【0076】
(酸化ベリリウムの製造方法M40)
図2の示すように、製造方法M40は、製造方法M10の各工程S11~S15と、加熱工程S41と、を含んでいる。製造方法M20の場合と同様に、ここでは、加熱工程S41についてのみ説明する。
【0077】
加熱工程S41は、製造方法M10の各工程S11~S15により得られたBeCl2溶液を加熱することによってBeOを生成する第3の加熱工程である。この工程により、BeCl2溶液に溶解しているBeCl2・xH2Oは、加水分解され、BeOが生成される。
【0078】
以上のように、製造方法M40を実施することにより、出発原料からBeOを製造することができる。
【0079】
(小括)
これらの製造方法M20,M30,M40の各々によれば、エネルギー効率が高い新規な製造方法を用いてベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムの各々を製造することができる。なお、無水化工程S21、電解工程S22、中和工程S31、及び加熱工程S41の各々は、何れも、既存の技術を利用することによって実施することができる。
【0080】
〔第5の実施形態〕
(チタン及びリチウムの分離方法M50)
本発明の第5の実施形態に係るチタン及びリチウムの分離方法M50について、
図3を参照して説明する。
図3は、チタン及びリチウムの分離方法M50のフローチャートである。なお、以下においては、チタン及びリチウムの分離方法M50のことを単に分離方法M50とも称する。
【0081】
図3に示すように、分離方法M50は、
図1に示した製造方法M10が含む取り出し工程S11、主加熱工程S12、及び第1の濾過工程S13の各工程と、粉砕工程S51と、塩酸浸漬工程S52と、第3の濾過工程S53と、を含んでいる。以下において、取り出し工程S11、主加熱工程S12、及び第1の濾過工程S13のことを、単に、各工程S11~S13とも称する。
【0082】
分離方法M50が含む、製造方法M10の各工程S11~S13は、第1の実施形態において説明する各工程S11~S13と同様である。したがって、ここでは、各工程S11~S13に関する説明を省略する。すなわち、固相に含まれているチタン酸リチウムと、液相に含まれている塩化ベリリウム水和物及び塩化リチウムとが分離されているものとして、分離方法M50については、粉砕工程S51と、塩酸浸漬工程S52と、第3の濾過工程S53とについてのみ説明する。なお、工程S13を実施したあとの固相には、チタン酸リチウムに加えて酸化チタンが含まれていてもよい。
【0083】
粉砕工程S51は、第1の濾過工程S13を実施したあとの固相に含まれているチタン酸リチウムを粉砕することによって、チタン酸リチウムの粒径を小さくする工程である。チタン酸リチウムを粉砕するために用いる技術は、限定されるものではなく、既存の技術から適宜選択することができ、例えば、ボールミルが挙げられる。
【0084】
チタン酸リチウムをより細かく粉砕することができれば、チタン酸リチウムの全体積に対する表面積の割合を大きくすることができるので、後述する塩酸浸漬工程S52において、チタン酸リチウムに含まれるリチウムを溶液中に溶解させるために要する時間を短縮することが期待できる。その一方で、チタン酸リチウムを過度に細かく粉砕しようとした場合、粉砕工程S51に要する時間及びコストが増大する。したがって、粉砕工程S51の実施後に得られるチタン酸リチウムの粒子径は、塩酸浸漬工程S52に要する時間や、粉砕工程S51に要する時間や、粉砕工程S51に要するコストなどを考慮して決めることが好ましい。
【0085】
なお、チタン酸リチウムの粒子径としては、平均径、モード径、及びメジアン径の何れを用いてもよい。チタン酸リチウムの粒子径分布を測定した場合に、平均径は、得られた粒子径分布の平均値となる粒子径であり、モード径は、粒子径分布の最頻度粒子径であり、メジアン径は、粒子径分布における頻度の累積が50%になる粒子径である。
【0086】
本実施形態においては、チタン酸リチウムの平均径が100μmになるように粉砕工程S51を実施する。
【0087】
塩酸浸漬工程S52は、粉砕工程S51の後に実施する工程である。塩酸浸漬工程S52は、粉砕工程S51により粉砕されたチタン酸リチウムを塩酸溶液中に浸漬させる工程である。塩酸浸漬工程S52を実施することにより、チタン酸リチウムに含まれるリチウムは、塩酸溶液中に塩化リチウムの形で溶解し、チタン酸リチウムに含まれるチタンは、酸化チタン(例えばTiO2)の形で塩酸溶液中に残存する。したがって、塩酸浸漬工程S52を実施した後の塩酸溶液中には、固相に含まれている酸化チタンと、液相に含まれている塩化リチウムとが含まれる。
【0088】
なお、チタン酸リチウムに含まれるリチウムをより早く塩酸溶液中に溶解させたい場合には、主加熱工程S12と同様の手法を適用し、チタン酸リチウムを含む塩酸溶液を誘電加熱してもよい。
【0089】
第3の濾過工程S53は、塩酸浸漬工程S52の後に実施する工程である。第3の濾過工程S53は、固相に含まれている酸化チタンと、液相に含まれている塩化リチウムとを、フィルタを用いて分離する工程である。
【0090】
第3の濾過工程S53を実施することにより、固相に含まれている酸化チタンと、液相に含まれている塩化リチウムとを容易に分離することができる。
【0091】
なお、第3の濾過工程S53により分離された塩化リチウムを含む酸性溶液は、第1の濾過工程S13により分離された酸性溶液と同様に、水酸化ナトリウム添加工程S14に戻すことが好ましい。第1の濾過工程S13により分離された固相中に含まれるリチウムを塩化リチウムとして分離し、水酸化ナトリウム添加工程S14に戻すことによって、より効率よくリチウム化合物を回収することができる。言い替えれば、分離方法M50の粉砕工程S51、塩酸浸漬工程S52、及び第3の濾過工程S53は、製造方法M10の一部に含ませることができる。
【0092】
以上のように、分離方法M50を実施することによって、チタン酸リチウムに含まれているチタン及びリチウムの各々を、それぞれ、酸化チタン及び塩化リチウムとして分離することができる。したがって、貴重な資源であるリチウムを、チタンとともに回収し、再利用することができる。
【0093】
〔第6の実施形態〕
(リチウム溶液の製造方法M60)
本発明の第6の実施形態に係るリチウム溶液の製造方法M60について
図4を参照して説明する。
図4は、リチウム溶液の製造方法M60のフローチャートである。なお、以下においては、リチウム溶液の製造方法M60のことを単に製造方法M60とも称する。本実施形態では、リチウムの塩酸塩である塩化リチウム(LiCl)の水溶液であるLiCl溶液の製造方法について説明する。しかし、製造方法M60を用いて製造するリチウム溶液は、LiCl溶液に限定されるものではなく、リチウムの硫酸塩である硫酸リチウム(Li
2SO
4)の水溶液であるLi
2SO
4溶液であってもよいし、リチウムの硝酸塩である硝酸リチウム(LiNO
3)の水溶液であるLiNO
3溶液であってもよいし、リチウムのフッ化水素酸塩であるフッ化リチウム(LiF)であってもよいし、リチウムの臭化水素酸塩である臭化リチウム(LiBr)であってもよいし、リチウムのヨウ化水素酸塩であるヨウ化リチウム(LiI)であってもよい。
【0094】
図4に示すように、製造方法M60は、粉砕工程S61と、予備加熱工程S62と、主加熱工程S63と、第1の不純物除去工程S64と、第2の不純物除去工程S65と、を含む。また、製造方法M60では、リチウム溶液を製造するための出発原料としてリチウム鉱石を用いる。リチウム鉱石は、リチウムを含有する鉱石の総称であり、リチウム酸化物の一例でもある。リチウム鉱石は、結晶性を有する。リチウム鉱石としては、リチア雲母(Lepidolite,K(Al,Li)
2(Si,Al)
4O
10(OH,F)
2)、ペタル石(Petalite,LiAlSi
4O
10)、及びリチア電気石(Elbaite,Na(Li,Al)
3Al
6(BO
3)
3Si
6O
18(OH)
4)が挙げられる。本実施形態では、出発原料の一例としてリチア雲母を用いて製造方法M60について説明する。
【0095】
粉砕工程S61は、塊であるリチア雲母を粒状になるまで粉砕する工程である。リチア雲母を粉砕するために用いる技術は、限定されるものではなく、既存の技術から適宜選択することができ、例えば、ハンマーやボールミルなどが挙げられる。また、リチア雲母を粉砕するために用いる技術として、複数の技術(例えばハンマー及びボールミル)を組み合わせてもよい。この場合、粉砕工程S61の、第1段階としてハンマーを用い、第2段階としてボールミルを用いればよい。
【0096】
リチア雲母をより細かく粉砕することができれば、リチア雲母の全体積に対する表面積の割合を大きくすることができるので、後述する予備加熱工程S62及び主加熱工程S63において、リチア雲母に含まれるリチウムを溶液中に溶解させるために要する時間を短縮することが期待できる。その一方で、リチア雲母を過度に細かく粉砕しようとした場合、粉砕工程S61に要する時間及びコストが増大する。したがって、粉砕工程S61の実施後に得られるリチア雲母の粒子径は、予備加熱工程S62及び主加熱工程S63に要する時間や、粉砕工程S61に要する時間や、粉砕工程S61に要するコストなどを考慮して決めることが好ましい。
【0097】
なお、リチア雲母の粒子径としては、平均径、モード径、及びメジアン径の何れを用いてもよい。リチア雲母の粒子径分布を測定した場合に、平均径は、得られた粒子径分布の平均値となる粒子径であり、モード径は、粒子径分布の最頻度粒子径であり、メジアン径は、粒子径分布における頻度の累積が50%になる粒子径である。
【0098】
本実施形態においては、リチア雲母の平均径が100μmになるように粉砕工程S61を実施する。
【0099】
(予備加熱工程S62)
予備加熱工程S62は、後述する主加熱工程S63の前に実施する工程であって、リチア雲母を含む塩基性溶液を誘電加熱する工程である。塩基性溶液としては、特に限定されないが、塩基性の溶質である、水酸化ナトリウム(NaOH)の水溶液又は水酸化カリウム(KOH)の水溶液を採用することができる。本実施形態では、塩基性溶液として、NaOH溶液を用いる。なお、NaOH溶液におけるNaOHの濃度は、適宜調整することができるが、pHが14以上となるように調整されていることが好ましい。
【0100】
誘電加熱は、所定の周波数を有する電磁波を対象物に印加することによって対象物を加熱する技術の総称であり、印加する電磁波の帯域に応じて、高周波加熱と呼んだり、マイクロ波加熱と呼んだりする。例えば、高周波加熱は、3MHz以上300MHz未満の帯域に含まれる電磁波(いわゆる短波又は超短波)を対象物に印加し、マイクロ波加熱は、300MHz以上30GHz未満の帯域に含まれる電磁波(いわゆるマイクロ波)を対象物に印加する。家庭にも普及している電子レンジは、マイクロ波加熱を実施可能な装置の一例である。
【0101】
本実施形態では、予備加熱工程S62において、リチア雲母を含むNaOH溶液に周波数が2.45GHzである電磁波を印加する。なお、リチア雲母を含むNaOH溶液に電磁波を印加する装置の構成については、
図5及び
図7を参照して後述する。
【0102】
主加熱工程S63を実施する前に予備加熱工程S62を実施することによって、リチア雲母の表面に複数の表面組織の腐食、溶解、崩落などによる反応部が形成される。この反応部の形状は、限定されないが、例えば、凹部であってもよい。このように、複数の反応部が形成されたリチア雲母の表面は、主加熱工程S63を実施する前のリチア雲母の表面と比較して、脆弱化する。その結果、予備加熱工程S62を実施した後のリチア雲母は、後述する主加熱工程S63を実施することにより酸性溶液に溶解する。このように、製造方法M60が予備加熱工程S62を含むことにより、主加熱工程S63を単独で実施するだけでは溶解しにくいリチウム鉱石を溶解させることができる。したがって、製造方法M60が予備加熱工程S62を含むことによって、比較的、酸性溶液に溶解しやすいリチウム鉱石のみならず、酸性溶液に溶解しにくいリチウム鉱石を出発原料として、塩化リチウム溶液を製造することができる。
【0103】
なお、製造方法M60において予備加熱工程S62を省略するか否かは、出発原料となるリチウム鉱石の酸性溶液に対する溶解のしやすさに応じて適宜定めることができる。
【0104】
(主加熱工程S63)
主加熱工程S63は、予備加熱工程S62の後に、リチア雲母を含む酸性溶液を誘電加熱することによって、リチウムが溶解した酸性溶液であるリチウム溶液を生成する工程である。
【0105】
酸性溶液としては、特に限定されないが、酸性の溶質である、塩化水素(HCl)、硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)、フッ化水素(HF)、臭化水素(HBr)、及びヨウ化水素(HI)のうち何れかの水溶液を採用することができる。本実施形態では、酸性溶液として、HCl溶液を用いる。なお、HCl溶液におけるHClの濃度は、適宜調整することができるが、pHが1以下となるように調整されていることが好ましい。
【0106】
予備加熱工程S62を実施したあとのNaOH溶液に適切な量のHCl溶液を加えることによって、リチウムを含む塩基性溶液は、中性を介して、リチウムを含む酸性溶液となる。
【0107】
主加熱工程S63において実施する誘電加熱は、予備加熱工程S62において実施する誘電加熱と同様である。すなわち、本実施形態では、リチウム鉱石を含むHCl溶液に周波数が2.45GHzである電磁波を印加する。
【0108】
誘電加熱を利用してリチウム酸化物を含む酸性溶液を加熱することにより、従来よりも高いエネルギー効率でリチウム酸化物を、酸性溶液に溶解させることができる。具体的には、塩化リチウム(LiCl)が溶解した塩酸溶液を得ることができる。したがって、製造方法M60は、エネルギー効率が高い新規な製造方法を提供することができる。
【0109】
なお、主加熱工程S63における加熱温度は、主加熱工程S12の加熱温度と同様に、適宜設定することができる。すなわち、リチウム酸化物を含む酸性溶液を収容する容器(例えば、第7の実施形態に記載の主加熱用容器14)がポリテトラフルオロエチレン製である場合、主加熱工程S63における加熱温度は、250℃以下であることが好ましい。また、主加熱工程S63における加熱温度は、180℃以上であることが好ましい。また、主加熱工程S63における加熱時間も適宜設定することができるが、例えば、60分以上であることが好ましい。
【0110】
(第1の不純物除去工程S64)
第1の不純物除去工程S64は、主加熱工程S63の後に実施する工程である。第1の不純物除去工程S64は、第1の元素を吸着する有機化合物を用いて、主加熱工程S63により得られたLiCl溶液から上記第1の元素を除去する工程である。
【0111】
第1の不純物除去工程S64において除去する第1の元素は、ここで用いる有機化合物によって決まる。第1の不純物除去工程S64において利用可能な有機化合物としては、酸化トリ-n-オクチルホスフィン(TOPO,Tri-n-octylphosphine oxide)、ジ(2エチルヘキシル)リン酸(D2EHPA,Di-(2-ethylhexyl) phosphoric acid)、リン酸トリブチル(TBP,Tri-n-butyl phosphate)、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA,Ethylenediaminetetraacetic acid)が挙げられる。また、第1の不純物除去工程S64において利用可能な有機化合物であって、市販されている有機化合物としては、eichrom technologies(登録商標)社のUTEVA(登録商標)レジンが挙げられる。
【0112】
TOPOは、Al、Au、Co、Cr、Fe、Hf、Re、Ti、UO2
2+、V、Zr、希土類元素、及びアクチノイド元素を吸着することができる。D2EHPAは、Uや、Coや、Niや、Mnなどを吸着することができる。TBPは、Uや、Thなどを吸着することができる。EDTAの類は、Mgや、Caや、Baや、Cuや、Znや、Alや、Mnや、Feなどを吸着することができる。UTEVA(登録商標)レジンは、Uや、Thや、Puや、Amなどを吸着することができる。これらの元素は、第1の元素の例である。
【0113】
これらの有機化合物は、有機溶媒(例えばケロシン)に溶解する。主加熱工程S63を実施した後のHCl溶液に、これらの有機化合物が溶解した溶液(以下において有機化合物溶液とも称する)を混合し、且つ、撹拌することによって、有機化合物は、第1の元素を吸着する。
【0114】
主加熱工程S63により得られた、水溶液であるLiCl溶液と、有機化合物溶液とは、しばらくの間放置しておくことによって2層に分離する。したがって、第1の不純物除去工程S64を実施することにより第1の元素の含有量が抑制されたLiCl溶液と、第1の元素を含有する有機化合物溶液とは、容易に分離することができる。
【0115】
第1の不純物除去工程S64を実施することにより、リチウム溶液中に含まれる第1の元素の濃度を低下させることができる。その結果として、リチウム鉱石を酸性溶液に溶解させることによってリチウム溶液を製造する場合に、リチウム鉱石に上述したようなリチウム以外の元素である第1の元素が含まれている場合であっても、リチウム溶液から、リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムの何れかを製造する場合に含まれる第1の元素の濃度を低下させることができる。第1の元素の例としては、ウランやトリウムやプルトニウムやアメリシウムなどが挙げられる。
【0116】
(第2の不純物除去工程S65)
第2の不純物除去工程S65は、主加熱工程S63の後に実施する工程であって、主加熱工程S63により得られたLiCl溶液の極性を酸性から、中性を介して、塩基性に調整することによって、LiCl溶液から第2の元素を除去する工程を更に含む。なお、本実施形態においては、主加熱工程S63のあとに第1の不純物除去工程S64及び第2の不純物除去工程S65を、この順番で実施するものとして説明しているが、第1の不純物除去工程S64と第2の不純物除去工程S65との順番は、入れ替えることもできる。
【0117】
本実施形態においては、第2の不純物除去工程S65は、主加熱工程S63を実施した後のリチウム溶液(リチウムを含むHCl溶液)に対して、塩基性の化合物、又は、塩基性の化合物を溶解させた塩基性の水溶液を添加する。塩基性の化合物の一例としては、重曹(NaHCO3)が挙げられ、塩基性の水溶液の一例としては、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液が挙げられる。本実施形態においては、塩基性の水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる。
【0118】
第2の不純物除去工程S65を実施することによって、上記リチウム溶液の極性は、酸性から、中性(pH7)を経て、塩基性になる。この極性の変化に伴い、
上記リチウム溶液に含まれているリチウム以外の元素(例えば、AlやFeなど)は、水酸化物(例えば、Al(OH)3やFe(OH)3など)となって該リチウム溶液中に沈殿する。なお、水酸化ナトリウムを過剰に添加した状態あるいは重曹が飽和している状態であっても、LiOHは、リチウム溶液中に溶解しており、沈殿しない。このように、アルミニウム(Al)及び鉄(Fe)は、第2の元素の例である。
【0119】
第2の不純物除去工程S65を実施することによりリチウム溶液中に沈殿したリチウム以外の元素の水酸化物は、リチウム溶液を濾過することにより、容易にリチウム溶液中から除去することができる。
【0120】
なお、第2の不純物除去工程S65を実施することによって第2の元素を除去されたリチウム溶液には、改めてHClを添加することが好ましい。このように、リチウム溶液に改めてHClを添加することによって、LiOH溶液の極性が、中性を介して、酸性に調整され、溶液中には、純度が高い塩化リチウム(LiCl)が生成される。
【0121】
このように、第2の不純物除去工程S65を実施することにより、リチウム溶液中に含まれる第2の元素の濃度を低下させることができる。その結果として、リチウム鉱石を酸性溶液に溶解させることによってリチウム溶液を製造する場合に、リチウム鉱石に上述したようなリチウム以外の元素である第2の元素が含まれている場合であっても、リチウム溶液を用いてリチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム及び炭酸リチウムの何れかを製造する場合に含まれる第2の元素の濃度を低下させることができる。
【0122】
上述したように、製造方法M60において、予備加熱工程S62は、マイクロ波を印加することによってリチウム酸化物を含む塩基性溶液を誘電加熱し、主加熱工程S63は、マイクロ波を印加することによってリチウム酸化物を含む上記酸性溶液を誘電加熱することが好ましい。
【0123】
マイクロ波を用いた誘電加熱(すなわちマイクロ波誘電加熱)の技術は、いわゆる電子レンジにおいて利用されている技術であり、広く普及している技術である。したがって、製造方法M60は、実施に要するコストを従来の製造方法よりも削減することができる。
【0124】
上述したように、製造方法M60において、上記リチウム溶液は、塩化リチウム溶液であることが好ましい。
【0125】
製造方法M60によれば、塩化リチウム溶液を容易に製造することができる。塩化リチウム溶液からは、後述するようにリチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、及び炭酸リチウムを容易に製造することができる。したがって、リチウム溶液としては、塩化リチウム溶液が好適である。
【0126】
(出発原料のバリエーション)
本実施形態では、リチウム鉱石(より具体的にはリチア雲母)を出発原料として、リチウム溶液の製造方法M60について説明した。しかし、製造方法M60において出発原料は、リチウム鉱石に限定されず、ベリリウム鉱石であってもよいし、1又は複数の種類の金属を含む鉱石又は泥であってもよい。
【0127】
ベリリウム鉱石は、ベリリウムを含む鉱石であり、Be-Si-O系の鉱石、及び、Be-Si-Al-O系の鉱石に分類されることが知られている。Be-Si-O系の鉱石の例としては、ベルトランダイト及びフェナサイトが挙げられ、Be-Si-Al-O系の鉱石の例としては、ベリル及びクリソベリルが挙げられる。Be-Si-O系の鉱石の場合、予備加熱工程S62を省略し、主加熱工程S63を実施するだけでも容易にベリリウムを酸性溶液中に溶解させることができる。一方、Be-Si-Al-O系の鉱石の場合、予備加熱工程S62及び主加熱工程S63を実施することにより、容易にベリリウムを酸性溶液中に溶解させることができる。
【0128】
1又は複数の種類の金属を含む鉱石は、多金属団塊とも呼ばれ、この例としては、海底熱水鉱床や、コバルトリッチクラストや、マンガン団塊などが知られている。
【0129】
海底熱水鉱床は、銅や鉛や亜鉛などのベースメタルに加えて、金や銀などの貴金属、及び、レアメタルを含む。コバルトリッチクラストは、ニッケルやコバルトや白金などのレアメタルを含む。マンガン団塊は、銅などのベースメタル、及び、ニッケルやコバルトなどのレアメタルを含む。
【0130】
また、1又は複数の種類の金属を含む泥としては、レアアース元素を含むレアアース泥が知られている。
【0131】
これらの出発原料を用いて製造方法M60を実施することにより、様々な金属を含む出発原料から各金属が溶解した溶液を製造することができる。
【0132】
〔第7の実施形態〕
本発明の第7の実施形態に係る誘電加熱装置10について、
図5を参照して説明する。誘電加熱装置10は、本発明の一態様に係るベリリウム溶液の製造装置の一例である。
図5は、誘電加熱装置10の概略図である。誘電加熱装置10は、
図1に示した製造方法M10が含む主加熱工程S12、
図3に示した分離方法M50が含む主加熱工程S12、
図4に示した製造方法M60が含む予備加熱工程S62、及び
図4に示した製造方法M60が含む主加熱工程S63の各々を実施する加熱装置である。
【0133】
第1の実施形態において説明したとおり、誘電加熱は、印加する電磁波の帯域に応じて高周波加熱又はマイクロ波加熱の何れかに分類される。誘電加熱装置10は、対象物に対して、高周波加熱及びマイクロ波加熱のうちマイクロ波加熱を実施する装置である。
【0134】
図5に示すように、誘電加熱装置10は、マイクロ波発振部11と、導波管12と、マイクロ波印加部13と、主加熱用容器14と、回転テーブル15と、スターラ16と、温度計17と、を備えている。また、誘電加熱装置10は、
図5に図示していない制御部を更に備えている。
【0135】
マイクロ波発振部11は、所定の周波数を有する電磁波を発振するように構成されている。所定の周波数は、例えば、マイクロ波の帯域内において適宜選択することができるが、本実施形態では、所定の周波数を2.45GHzとする。2.45GHzという周波数は、家庭用の電子レンジにおいて利用されている電磁波と同じ周波数である。
【0136】
導波管12は、金属製の筒状部材であり、一方の端部がマイクロ波発振部11に接続されており、他方の端部がマイクロ波印加部13に接続されている。導波管12は、マイクロ波発振部11が発振した電磁波を一方の端部から他方の端部へ導波し、この電磁波を他方の端部からマイクロ波印加部13の内部空間に放射する。
【0137】
マイクロ波印加部13は、内部空間が中空な、金属製の箱状部材であり、内部空間に主加熱用容器14を収容可能なように構成されている。マイクロ波印加部13は、導波管12の他方の端部から照射された電磁波を、主加熱用容器14及び主加熱用容器14に収容された加熱の対象物に対して印加する。マイクロ波印加部13は、電磁波を内部空間に閉じ込め、外部に漏らしにくいように構成されている。
【0138】
主加熱用容器14は、
図5への図示は省略しているものの、本体と蓋とにより構成された容器である。本体は、筒状の側壁と、側壁の一方の端部を封じる底とにより構成されている。主加熱用容器14は、本体と蓋とを結合させることにより、本体と蓋とにより形成される内部空間を密閉可能なように構成されている。
【0139】
主加熱用容器14は、マイクロ波発振部11が発振する電磁波(本実施形態においては2.45GHz)に対して高い透過率を有する材料により構成されていることが好ましい。本実施形態において、主加熱用容器14は、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系樹脂により構成されている。
【0140】
また、主加熱用容器14は、内部空間の圧力が大気圧よりも高くなった場合であっても耐えられる耐圧性を有することが好ましい。内部空間を密閉可能であり、且つ、所定の圧力に耐えられる耐圧性を有することにより、主加熱用容器14は、電磁波を印加され、内部空間に収容した加熱の対象物の温度が上昇した場合であっても、対象物を内部空間に留めておくことができる。
【0141】
回転テーブル15は、マイクロ波印加部13の内部空間の底面に設けられた試料台であり、主加熱用容器14を上面に載置可能なように構成されている。回転テーブル15は、平面視した場合に円形状であり、その中心軸を回転軸として、所定の速度で回転するように構成されている。この構成によれば、回転テーブル15の上面に載置された主加熱用容器14が周期的に回転するため、対象物をより均一に加熱することができる。
【0142】
スターラ16は、マイクロ波印加部13の内部空間の天井面に設けられた金属製の羽状部材であり。羽状部材の中心に結合された支持棒により、上記天井面に対して回転自在な状態で固定されている。スターラ16は、支持棒を回転軸として、所定の速度で回転することにより、マイクロ波発振部11が発振した電磁波を反射し、マイクロ波印加部13の内部空間に散乱させる。この構成によれば、スターラ16が電磁波を散乱させるため、対象物をより均一に加熱することができる。
【0143】
温度計17は、主加熱用容器14が放射する赤外線を検出することにより主加熱用容器14の温度を測定する放射温度計である。主加熱用容器14の温度は、所定の温度緩和時間を経たあとに主加熱用容器14の内部空間に収容されている対象物の温度と同程度になる。この温度緩和時間は、主加熱用容器14を構成する材質(本実施形態においてはフッ素系樹脂)及びその厚さ(例えば1mm)に依存する。本実施形態のように、厚さが1mmであるフッ素系樹脂製の主加熱用容器14の場合、温度緩和時間は、3分程度と予想される。したがって、加熱時間が温度緩和時間と比較して十分に長い場合、及び/又は、主加熱用容器14の内部空間に収容されている対象物の温度の変化が十分に緩やかな場合には、主加熱用容器14の内部空間に収容されている対象物の温度と、主加熱用容器14の温度とは、同じであると見做せる。したがって、このような場合、温度計17は、対象物の温度を測定可能であると見做せる。温度計17は、測定した主加熱用容器14あるいは対象物の温度を表す温度信号を制御部に出力する。
【0144】
制御部は、出力が所定の値になるようにマイクロ波発振部11の出力を制御してもよいし、温度計17から受け取った温度信号の温度が予め定められた温度になるように、マイクロ波発振部11の出力を制御してもよい。なお、この予め定められた温度は、時間に対して一定であってもよいし、時間に応じて変化してもよい。本実施形態において、制御部は、出力の値を時間に応じて変化させるようにマイクロ波発振部11の出力を制御する。時間に応じて変化する出力の値の一例としては、30分間かけて0Wから600Wまで変化させ、その後600Wを60分間維持するパターンが挙げられる。
【0145】
製造方法M10を例にすれば、このように構成された誘電加熱装置10を用い、主加熱用容器14の内部空間に、出発原料取り出し工程S11においてブランケットから取り出した出発原料と、酸性溶液とを収容することによって、主加熱工程S12を実施することができる。
【0146】
また、製造方法M60を例にすれば、このように構成された誘電加熱装置10を用い、主加熱用容器14の内部空間に、粉砕工程S61において粉砕されたリチア雲母と塩基性溶液とを収容することによって、予備加熱工程S62を実施することができる。同様に、誘電加熱装置10を用い、主加熱用容器14の内部空間に、予備加熱工程S62を実施したあとのリチア雲母と酸性溶液とを収容することによって、主加熱工程S63を実施することができる。
【0147】
図6は、上述した主加熱工程S12の一例における容器の温度変化を示すグラフである。この例では、誘電加熱装置10の出力の値を、時間に応じて変化させた。具体的には、0Wから600Wまで30分間かけて出力の値を上昇させ、その後、60分間、出力の値を600Wで維持し、その後、出力の値を速やかに0Wに降下させた。
【0148】
上述したパターンにしたがってマイクロ波発振部11の出力の値を変化させた場合、
図6に示すように、主加熱用容器14の温度は、出力の値が600Wに至った後にも上昇を続け最高到達温度は、およそ220℃であった。
【0149】
〔第8の実施形態〕
(ベリリウムの製造システム)
本発明の第8の実施形態に係るベリリウムの製造システム20について、
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は、ベリリウムの製造システム20の一部を構成するベリリウム溶液(BeCl
2溶液)の製造装置20Aの概略図である。
図8の(a)は、は、晶析装置20B、無水化装置20C、及び電解装置20Dの概略図である。
図8の(b)は、
図8の(a)に示された晶析装置20Bが備えている晶析処理槽31の変形例の概略図である。
図8の(c)は、
図8の(a)に示された無水化装置20Cが備えている乾燥機33の変形例の概略図である。晶析装置20B、無水化装置20C、及び電解装置20Dの各々は、それぞれ、ベリリウムの製造システム20一部を構成する。なお、以下において、ベリリウムの製造システム20のことを単に製造システム20とも称し、ベリリウム溶液の製造装置20Aのことを単に製造装置20Aとも称する。
【0150】
図7及び
図8に示すように、製造システム20は、製造装置20A、晶析装置20B、無水化装置20C、及び電解装置20Dを備えており、
図2に示した製造方法M20を実施するための装置である。より詳しくは、製造装置20Aは、
図1に示した製造方法M10の取り出し工程S11を除いた各工程を実施するための装置であり、晶析装置20B、及び無水化装置20Cは、
図2に示した無水化工程S21を実施するための装置であり、電解装置20Dは、
図2に示した電解工程S22を実施するための装置である。
【0151】
なお、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、出発原料としてトリチウム増殖材の一例であるチタン酸リチウム(Li2TiO3)と、中性子増倍材の一例であるベリリウムであって、表面に酸化ベリリウム(BeO)からなる酸化層が形成されているベリリウム(Be)とを用いる。ただし、製造装置20Aにおける出発原料は、第1の実施形態に例示されている出発原料に限定されない。製造装置20Aにおける出発原料は、例えば、ベリリウム鉱石であってもよい。ベリリウム鉱石は、ベリリウムを含有する鉱石の総称である。ベリリウム鉱石としては、Be-Si-O系の鉱石、及び、Be-Si-Al-O系の鉱石が知られている。Be-Si-O系の鉱石の例としては、ベルトランダイト及びフェナサイトが挙げられ、Be-Si-Al-O系の鉱石の例としては、ベリル及びクリソベリルが挙げられる。
【0152】
<ベリリウム溶液の製造装置20A>
図7に示すように、製造装置20Aは、粉砕器21と、フィーダーF1と、バルブV1~V15と、誘電加熱装置22と、フィルタ23,29と、容器24,26,27,28,30と、遠心分離機25と、を備えている。また、製造装置20Aは、
図7に図示していない制御部を備えている。制御部は、フィーダーF1、バルブV1~V15、及び誘電加熱装置22の各々を制御する。
【0153】
粉砕器21は、投入された出発原料であるチタン酸リチウム及び表面に酸化層が形成されたベリリウムを粉砕し、フィーダーF1に供給する。粉砕器21は、既存の粉砕器の中から所望のスペックに応じて適宜選択することができる。したがって、ここでは、粉砕器21に関する詳しい説明を省略する。粉砕器21を用いて出発原料を粉砕することによって、中性子増倍材の一例であるベリリウムの表面に酸化層が形成されている場合であっても、その酸化層を機械的に破壊し、酸化層に覆われていたベリリウムを露出させることができる。したがって、主加熱工程S12においてベリリウムがHCl溶液に溶解する速度を高めることができる。なお、ベリリウムの表面に形成されている酸化層の厚みが薄いなど、後述する誘電加熱装置22により容易に溶解する場合には、粉砕器21を省略することもできる。
【0154】
フィーダーF1は、制御部により制御されており、粉砕器21から供給された出発原料を後述する誘電加熱装置22の主加熱用容器22cに供給する。フィーダーF1は、主加熱用容器22cに出発原料を供給する原料供給部の一例である。
【0155】
誘電加熱装置22は、マイクロ波発振部22aと、導波管22bと、主加熱用容器22cと、撹拌機構と、温度計と、を備えている。誘電加熱装置22は、
図1に示した製造方法M10の主加熱工程S12を実施する。
【0156】
主加熱装置の一例であるマイクロ波発振部22aは、制御部により制御されており、所定の周波数を有する電磁波を発振するように構成されている。所定の周波数は、例えば、マイクロ波の帯域内において適宜選択することができるが、本実施形態では、所定の周波数を2.45GHzとする。2.45GHzという周波数は、家庭用の電子レンジにおいて利用されている電磁波と同じ周波数である。
【0157】
導波管22bは、金属製の筒状部材であり、一方の端部がマイクロ波発振部22aに接続されており、他方の端部が主加熱用容器22cに接続されている。導波管22bは、マイクロ波発振部22aが発振した電磁波を一方の端部から他方の端部へ導波し、この電磁波を他方の端部から主加熱用容器22cの内部空間に放射する。
【0158】
主加熱用容器22cは、内部空間が中空且つ密閉されている、耐酸性を有する箱状部材である。主加熱用容器22cには、フィーダーF1を介して粉砕器21から供給された出発原料が供給され、バルブV1を介してHCl溶液が供給される。このバルブV1を介してHCl溶液を主加熱用容器22cに供給する機構は、出発原料に対して酸性溶液を供給する酸性溶液供給部として機能する。主加熱用容器22cに供給された出発原料及びHCl溶液は、主加熱用容器22cの内部空間において混合される。
【0159】
主加熱用容器22cは、誘電加熱により内部空間に収容された出発原料を含むHCl溶液の温度が上昇することに起因して、内部空間の圧力が大気圧よりも高くなった場合であっても、その高い圧力に耐えられる耐圧性を有することが好ましい。内部空間を密閉可能であり、且つ、所定の圧力に耐えられる耐圧性を有することにより、主加熱用容器22cは、電磁波を印加され、内部空間に収容した加熱の対象物の温度が上昇した場合であっても、対象物を内部空間に留めておくことができる。
【0160】
図7への図示を省略している撹拌機構は、主加熱用容器22cの内部空間において出発原料がHCl溶液中にできるだけ均一に分散するように、出発原料及びHCl溶液を撹拌する。
【0161】
図7への図示を省略している温度計は、主加熱用容器22cの内部空間に収容された出発原料を含むHCl溶液の温度を検出し、その温度を表す温度信号を制御部に出力する。温度計は、放射温度計のような非接触式の温度計であってもよいし、熱電対のような接触式の温度計であってもよい。何れの方式の温度計を採用する場合であっても、温度計は、主加熱用容器22cの内部空間に設けられており、出発原料を含むHCl溶液の温度を直接検出可能なように構成されていることが好ましい。
【0162】
制御部は、出力が所定の値になるようにマイクロ波発振部22aの出力を制御してもよいし、温度計から受け取った温度信号が表す温度が予め定められた温度になるように、マイクロ波発振部22aの出力を制御してもよい。なお、この予め定められた温度は、時間に対して一定であってもよいし、時間に応じて変化してもよい。本実施形態において、制御部は、温度信号が表す温度が時間に応じて所定のプロファイルで変化するようにマイクロ波発振部22aの出力を制御する。温度の所定のプロファイルの一例としては、30分間かけて室温から250℃まで変化させ、その後250℃を60分間維持するパターンが挙げられる。
【0163】
このように構成された誘電加熱装置22は、
図1に示した製造方法M10の主加熱工程S12を実施することにより、固相である酸化チタン及び液相であるリチウムを含むベリリウム溶液(BeCl
2溶液)を生成する。
【0164】
なお、本実施形態においては、製造方法M10の取り出し工程S11と主加熱工程S12との間に実施しえる予備加熱工程を省略している。そのため、製造装置20Aは、主加熱工程S12を実施する誘電加熱装置22のみを備え、予備加熱工程を実施する誘電加熱装置を備えていない。製造方法M10において予備加熱工程を実施する場合、フィーダーF1と、誘電加熱装置22との間に、誘電加熱装置22と同様に構成された誘電加熱装置であって、予備加熱工程を実施する誘電加熱装置を更に配置すればよい。
【0165】
予備加熱工程を実施する誘電加熱装置は、予備加熱用容器と、予備加熱用容器に塩基性溶液(例えばNaOH溶液)を供給する塩基性溶液供給部(バルブV1に対応するバルブ)と、予備加熱用容器及び上記塩基性溶液供給部の少なくとも何れか(本実施形態においては予備加熱用容器)に出発原料を供給する原料供給部と、上記予備加熱用容器に収容された上記塩基性溶液を誘電加熱する予備加熱装置と、上記予備加熱用容器から上記主加熱用容器へ出発原料を含む塩基性溶液を排出する排出部と、を備えていればよい。
【0166】
なお、製造装置20Aにおいて、予備加熱工程を実施する誘電加熱装置を設けるか否かは、出発原料の酸性溶液に対する溶解のしやすさに応じて適宜定めることができる。例えば、ベリリウム鉱石を例にすれば、フェナサイト及びベルトランダイトは、酸性溶液に対して溶解しやすく、ベリル及びクリソベリルは、酸性溶液に対して溶解しにくい。したがって、出発原料としてフェナサイト及びベルトランダイトを用いる場合、製造装置20Aにおいて、予備加熱工程を実施する誘電加熱装置を省略してもよい。一方、出発原料としてベリル及びクリソベリルを用いる場合、製造装置20Aは、予備加熱工程を実施する誘電加熱装置を備えていることが好ましい。
【0167】
バルブV2は、主加熱用容器22cの内部空間と後述するフィルタ23との間の経路を開閉する。制御部は、主加熱工程S12を実施している間は、バルブV2を閉じておき、主加熱工程S12を実施した後にバルブV2を開く。その結果、主加熱工程S12により得られたリチウムを含むベリリウム溶液は、主加熱用容器22cからフィルタ23に供給される。
【0168】
フィルタ23は、リチウムを含むベリリウム溶液のうち、液相(すなわちLiClを含むBeCl2溶液)を通過させ、固相(すなわち酸化チタン)を濾過するように構成されている。すなわち、フィルタ23は、製造方法M10の第1の濾過工程S13を実施する。フィルタ23は、既存のフィルタの中から所望のスペックに応じて適宜選択することができる。したがって、ここでは、フィルタ23に関する詳しい説明を省略する。
【0169】
バルブV3は、フィルタ23と後述する容器24との間の経路を開閉する。制御部は、少なくとも、フィルタ23にリチウムを含むベリリウム溶液が供給されている期間中は、バルブV3を開く。その結果、第1の濾過工程S13により得られたLiClを含むBeCl2溶液は、フィルタ23から容器24に供給される。
【0170】
容器24は、内部空間が中空な耐酸性及び耐塩基性を有する箱状部材である。容器の構成については、後述する容器26,27,28,30の各々は、耐酸性を有する箱状部材である。容器24には、バルブV4を介してNaOH溶液が供給される。このバルブV4を介してNaOH溶液を容器24内のベリリウム溶液に供給する機構は、ベリリウム溶液に対してNaOH溶液を供給するNaOH溶液供給部として機能する。
【0171】
容器24に供給されたLiClを含むBeCl2溶液及びNaOH溶液は、容器24の内部空間において混合される。すなわち、容器24の内部空間において、製造方法M10の水酸化ナトリウム添加工程S14が実施される。その結果、容器24の内部では、固相である水酸化ベリリウム(Be(OH)2)が生成し、液相であるLiOHがNaOH溶液に溶解する。
【0172】
なお、
図7には図示していないものの、容器24の内部空間には、LiClを含むBeCl
2溶液及びNaOH溶液を撹拌する撹拌機構が設けられていてもよい。同様に、後述する容器26,27,28,30の内部空間にも撹拌機構が設けられていてもよい。
【0173】
バルブV5は、容器24の内部空間と後述する遠心分離機25との間の経路を開閉する。制御部は、水酸化ナトリウム添加工程S14を実施している間は、バルブV5を閉じておき、水酸化ナトリウム添加工程S14を実施した後にバルブV5を開く。その結果、水酸化ナトリウム添加工程S14により得られたBe(OH)2及びLiOHを含むNaOH溶液は、容器24から遠心分離機25に供給される。
【0174】
遠心分離機25は、Be(OH)2及びLiOHを含むNaOH溶液のうち、液相(すなわちLiOHを含むNaOH溶液)と、固相(すなわちBe(OH)2)とを分離する。すなわち、遠心分離機25は、製造方法M10の第2の濾過工程S15を実施する。遠心分離機25は、既存の遠心分離機の中から所望のスペックに応じて適宜選択することができる。したがって、ここでは、遠心分離機25に関する詳しい説明を省略する。第2の濾過工程S15により得られたBe(OH)2は、後述する容器26の内部空間に投入され、第2の濾過工程S15により得られたLiOHを含むNaOH水溶液は、図示しない回収ラインに回収される。
【0175】
また、Be(OH)2及びLiOHを含むNaOH溶液における液相と固相とを分離するために、遠心分離機25の代わりにフィルタ23のようなフィルタを用いてもよい。
【0176】
容器26には、バルブV6を介してHCl溶液が供給される。容器26に供給されたBe(OH)2及びHCl溶液は、容器26の内部空間において混合される。すなわち、容器26の内部空間において、製造方法M10の塩酸添加工程S16が実施される。その結果、容器26の内部では、生成したBeCl2がHCl溶液に溶解したベリリウム溶液(BeCl2溶液)が生成される。
【0177】
バルブV7は、容器26の内部空間と後述する容器27の内部空間との間の経路を開閉する。制御部は、塩酸添加工程S16を実施している間は、バルブV7を閉じておき、塩酸添加工程S16を実施した後にバルブV7を開く。その結果、塩酸添加工程S16により得られたベリリウム溶液は、容器26から容器27に供給される。
【0178】
容器27には、バルブV8を介して有機化合物溶液が供給される。このバルブV8を介して有機化合物溶液を容器27に供給する機構は、塩化ベリリウム溶液に対して有機化合物溶液を供給する有機化合物溶液供給部として機能する。この有機化合物溶液は、製造方法M10の第1の不純物除去工程S17に記載の有機化合物溶液である。したがって、ここでは、有機化合物溶液に関する説明を省略する。
【0179】
容器27に供給されたベリリウム溶液及び有機化合物溶液は、容器27の内部空間において混合される。すなわち、容器27の内部空間において、第1の不純物除去工程S17が実施される。その結果、容器27の内部では、第1の元素の含有量が抑制されたベリリウム溶液と、第1の元素を含有する有機化合物溶液とが2層に分離する。ベリリウム溶液の比重が有機化合物溶液の比重を上回るため、ベリリウム溶液が有機化合物溶液の下方に位置する。
【0180】
バルブV9は、容器27の内部空間と図示しない回収ラインとの間の経路を開閉する。バルブV10は、容器27の内部空間と後述する容器28の内部空間との間の経路を開閉する。
【0181】
制御部は、第1の不純物除去工程S17を実施している間は、バルブV9,V10を何れも閉じておく。制御部は、第1の不純物除去工程S17を実施した後に、まず、バルブV10のみを開く。これにより、第1の不純物除去工程S17により得られた第1の元素の含有量が抑制されたベリリウム溶液は、容器27から容器28に供給される。その後、制御部は、バルブV10を閉じ、バルブV9を開く。これにより、第1の不純物除去工程S17により得られた第1の元素を含有する有機化合物溶液は、回収ラインに回収される。
【0182】
容器28には、バルブV11を介して重曹が供給される。このバルブV11を介して重曹を容器28に供給する機構は、塩化ベリリウム溶液に対して重曹を供給する重曹供給部として機能する。この重曹は、製造方法M10の第2の不純物除去工程S18に記載の重曹である。したがって、ここでは、重曹に関する説明を省略する。
【0183】
容器28に供給されたベリリウム溶液及び重曹は、容器28の内部空間において混合される。すなわち、容器28の内部空間において、第2の不純物除去工程S18が実施される。その結果、容器28の内部では、第2の元素の水酸化物が沈殿し、水酸化ベリリウム(Be(OH)2)溶液における第2の元素の含有量が抑制される。
【0184】
バルブV12は、容器28の内部空間と後述するフィルタとの間の経路を開閉する。制御部は、第2の不純物除去工程S18を実施している間は、バルブV12を閉じておき、第2の不純物除去工程S18を実施した後にバルブV12を開く。その結果、第2の不純物除去工程S18により得られた水酸化ベリリウム溶液であって、第2の元素の水酸化物を含む水酸化ベリリウム溶液は、容器28からフィルタ29に供給される。
【0185】
フィルタ29は、第2の元素の水酸化物を含む水酸化ベリリウム溶液のうち、液相(すなわち水酸化ベリリウム溶液)を通過させ、固相(すなわち第2の元素の水酸化物)を濾過するように構成されている。フィルタ29は、既存のフィルタの中から所望のスペックに応じて適宜選択することができる。したがって、ここでは、フィルタ29に関する詳しい説明を省略する。
【0186】
バルブV13は、フィルタ29と後述する容器30との間の経路を開閉する。制御部は、少なくとも、フィルタ29に第2の元素の水酸化物を含む水酸化ベリリウム溶液が供給されている期間中は、バルブV13を開く。その結果、第2の不純物除去工程S18により得られた水酸化ベリリウム溶液であって、第2の元素の含有量が抑制された水酸化ベリリウム溶液は、フィルタ29から容器30に供給される。
【0187】
容器30には、バルブV13を介して水酸化ベリリウム溶液が供給され、バルブV14を介してHCl溶液が供給される。容器30に供給されたBe(OH)2溶液及びHCl溶液は、容器30の内部空間において混合される。その結果、容器30の内部では、生成したBeCl2がHCl溶液に溶解したベリリウム溶液(BeCl2溶液)が生成される。
【0188】
バルブV15は、容器30と後述する晶析装置20Bの晶析処理槽31との間の経路を開閉する。制御部は、少なくとも、容器30にHCl溶液が供給されている期間中は、バルブV15を閉じておき、容器30に供給されたBe(OH)2溶液とHCl溶液とが十分に混合された後にバルブV15を開く。その結果、ベリリウム溶液(BeCl2溶液)は、容器30から晶析処理槽31に供給される。
【0189】
<晶析装置20B>
図8に示すように、晶析装置20Bは、晶析処理槽31と、チラーCと、ポンプPと、復水槽と、バルブV16,V17を備えている。また、晶析装置20Bは、
図8に図示していない制御部を備えている。制御部は、晶析処理槽31、チラーC、ポンプP、及びバルブV16,V17の各々を制御する。
【0190】
晶析処理槽31は、内側槽と外側槽とを備えている。外側槽の内部空間には、バルブV16を介して温水が供給される。内側槽の内部空間には、製造装置20Aにより生成されたベリリウム溶液(BeCl2溶液)が供給される。上述した温水は、内側槽に収容されるベリリウム溶液及びHCl溶液を加熱する。温水の利用は、外部加熱方式を採用した加熱手段の一例である。
【0191】
チラーCと、復水槽と、ポンプPは、減圧脱水系を構成する。ポンプPは、内側槽の内部空間を排気する。チラーCは、内側槽の内部空間から排気された気体を冷却する。復水槽は、チラーCにより冷却されることによって液化した復水を蓄える。
【0192】
このように構成された晶析装置20Bは、塩化ベリリウムを晶析することができる。晶析された塩化ベリリウムは、バルブV17を介して晶析処理槽31から後述する遠心分離機32に供給される。
【0193】
なお、晶析処理槽31は、
図8の(b)に示すように、温水を供給するバルブV16の代わりに、マイクロ波発振部31aと、導波管31bとを備えていてもよい。マイクロ波発振部31a及び導波管31bの各々は、それぞれ、
図7に示したマイクロ波発振部22a及び導波管22bと同様に構成されており、誘導加熱装置の一例である。
【0194】
以上のように、晶析装置20Bにおいてベリリウム溶液及びHCl溶液を加熱する加熱手段は、
図8の(a)に示すような外部加熱方式であってもよいし、
図8の(b)に示すように、誘導加熱方式であってもよい。なお、エネルギー効率の観点からは、誘導加熱方式を採用することが好ましい。
【0195】
<無水化装置20C>
図8に示すように、無水化装置20Cは、遠心分離機32と、乾燥機33とを備えている。また、無水化装置20Cは、
図8に図示していない制御部を備えている。制御部は、遠心分離機32及び乾燥機33の各々を制御する。
【0196】
晶析装置20Bにより晶析された塩化ベリリウムは、遠心分離機32を用いて脱水される。脱水された塩化ベリリウムは、乾燥機33を用いて無水化される。乾燥機33としては、熱風を生成する熱風生成機構が例示され、当該熱風生成機構が生成する熱風を利用して塩化ベリリウムを加熱し、無水化させる。すなわち、晶析装置20B及び無水化装置20Cは、特許請求の範囲に記載の無水化装置の一例であり、
図2に示した製造方法M20の無水化工程S21を実施することができる。熱風は、外部加熱方式を採用した加熱手段の一例である。
【0197】
なお、乾燥機33は、熱風を生成する熱風生成機構の代わりに、マイクロ波発振部33aと、導波管33bとを備えていてもよい。マイクロ波発振部33a及び導波管33bの各々は、それぞれ、
図7に示したマイクロ波発振部22a及び導波管22bと同様に構成されており、誘導加熱装置の一例である。
【0198】
以上のように、無水化装置20Cにおいて塩化ベリリウムを加熱する加熱手段は、
図8の(a)に示すような外部加熱方式であってもよいし、
図8の(c)に示すように、誘導加熱方式であってもよい。なお、エネルギー効率の観点からは、誘導加熱方式を採用することが好ましい。
【0199】
<電解装置20D>
図8に示すように、電解装置20Dは、電解炉34aと、電源34bと、陽極34cと、陰極34dと、フィーダーF2を備えている。また、電解炉34aは、
図8に図示していないヒータを備えている。また、電解装置20Dは、
図8に図示していない制御部を備えている。制御部は、電源34b、ヒータ、及びフィーダーF2の各々を制御する。
【0200】
電解炉34aの炉内には、無水化装置20Cにより生成された無水化した塩化ベリリウムが供給される。また、電解炉34aの炉内には、フィーダーF2を介して塩化ナトリウム(NaCl)が供給される。
【0201】
塩化ベリリウム及び塩化ナトリウムを炉内に収容した電解炉34aは、ヒータを用いて加熱される。その結果、塩化ベリリウム及び塩化ナトリウムは、溶融する。なお、電解浴として塩化ベリリウムに塩化ナトリウムを加えた二元浴を用いることによって、電解浴の融点を低下させることができる。加熱した場合の電解炉34aの温度は、上記二元浴の融点を超える範囲内で適宜定めることができる。電解炉34aの温度の例としては、350℃があげられる。
【0202】
陽極34cは、例えば炭素製の電極であり、陰極34dは、例えばニッケル製の電極である。
【0203】
制御部は、上記二元浴が溶融した状態で、電源34bを用いて、陽極34cと陰極34dとの間に電流を流す。その結果、上記二元浴が電気分解され、陰極34dの表面には金属のベリリウムが生成する。
【0204】
以上のように、電解装置20Dは、
図2に示した製造方法M20の電解工程S22を実施することができる。
【0205】
〔その他の実施形態〕
上述した第8の実施形態では、製造装置20Aと、晶析装置20Bと、無水化装置20Cとを用いたベリリウムの製造システム20であって、製造方法M20を実施する製造システム20について説明した。
【0206】
しかし、本発明の範疇には、ベリリウムの製造システム20のみならず、水酸化ベリリウムの製造方法M30を実施する水酸化ベリリウムの製造システム、及び、酸化ベリリウムの製造方法M40を実施する酸化ベリリウムの製造システムの各々も含まれる。
【0207】
水酸化ベリリウムの製造システムは、
図7に示した製造装置20Aと、製造装置20Aが生成した塩化ベリリウム溶液を塩基で中和することによって水酸化ベリリウムを生成する中和装置と、を備えている。中和装置は、例えば、
図7に示した容器24、バルブV4,V5、及び遠心分離機25の各々に対応する各部材により構成することができる。また、中和に用いる塩基として、水酸化ナトリウムの代わりにアンモニアを用いてもよい。
【0208】
酸化ベリリウムの製造システムは、
図7に示した製造装置20Aと、製造装置20Aが生成した塩化ベリリウム溶液を加熱することによって酸化ベリリウムを生成する第3の加熱装置と、を備えている。第3の加熱装置は、限定されるものではないが、例えば電気炉を用いることができる。
【0209】
〔第9の実施形態及び第10の実施形態〕
本発明の第9の実施形態に係る水酸化リチウム(LiOH)の製造方法M70、及び、本発明の第10の実施形態に係る炭酸リチウム(Li
2CO
3)の製造方法M80について、
図9を参照して説明する。
図9の(a)及び(b)の各々は、それぞれ、水酸化リチウムの製造方法M70及び炭酸リチウムの製造方法M80のフローチャートである。
【0210】
水酸化リチウムの製造方法M70及び炭酸リチウムの製造方法M80は、いずれも、第2の濾過工程S15により液相として分離された溶液であって、水酸化リチウムを含む溶液を用いる。また、水酸化リチウムの製造方法M70及び炭酸リチウムの製造方法M80の何れを実施するかは、そのときの優先度に応じて適宜定めることができる。
【0211】
(水酸化リチウムの製造方法M70)
図9の(a)に示すように、水酸化リチウムの製造方法M70は、乾燥工程S71を含んでいる。乾燥工程S71は、第2の濾過工程S15により分離された溶液を蒸発させ、且つ、析出する水酸化リチウムを乾燥させる工程である。水酸化リチウムの製造方法M70を実施することにより、固体の水酸化リチウムを得ることができる。
【0212】
(炭酸リチウムの製造方法M80)
図9の(b)に示すように、炭酸リチウムの製造方法M80は、炭酸ガス導入工程S81と、第4の濾過工程S82と、乾燥工程S83と、を含んでいる。
【0213】
炭酸ガス導入工程S81は、第2の濾過工程S15により分離された溶液に炭酸ガスを導入することによって、溶液中に炭酸リチウムを沈殿させる工程である。
【0214】
第4の濾過工程S82は、炭酸ガス導入工程S81の後に実施する工程である。第4の濾過工程S82は、溶液中に沈殿している炭酸リチウムを、フィルタを用いて、溶液から分離する工程である。
【0215】
乾燥工程S83は、第4の濾過工程S82の後に実施する工程である。乾燥工程S83は、第4の濾過工程S82により分離された炭酸リチウムを乾燥させる工程である。
【0216】
炭酸リチウムの製造方法M80を実施することにより、固体の炭酸リチウムを得ることが出来る。
【0217】
(小括)
以上のように、第2の濾過工程S15により液相として分離された水酸化リチウムを含む溶液を用いて、水酸化リチウムの製造方法M70又は炭酸リチウムの製造方法M80を実施することにより、固体の水酸化リチウム又は炭酸リチウムを製造することができる。したがって、第2の濾過工程S15により液相として分離された水酸化リチウムを資源として無駄にすることなく回収することができる。
【0218】
なお、水酸化リチウムの製造方法M70及び炭酸リチウムの製造方法M80の各々は、分離方法M50と同様に、製造方法M10の一部に含ませることができる。
【0219】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るベリリウム溶液の製造方法は、ベリリウム、ベリリウムを含む金属間化合物、表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、表面に酸化層が形成されているベリリウムを含む金属間化合物のうち少なくとも何れかを出発原料として、上記出発原料を含む酸性溶液を誘電加熱することによって、ベリリウム溶液を生成する主加熱工程を含む。
【0220】
誘電加熱を利用してベリリウム、ベリリウムを含む金属間化合物、表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、表面に酸化層が形成されているベリリウムを含む金属間化合物のうち少なくとも何れかを含む酸性溶液を加熱することにより、高いエネルギー効率で出発原料を酸性溶液に溶解させることができる。したがって、本製造方法は、エネルギー効率が高い新規なベリリウム溶液の製造方法を提供することができる。
【0221】
本発明の第2の態様に係るベリリウム溶液の製造方法は、上記第1の態様において、上記主加熱工程の前に実施する予備加熱工程であって、上記出発原料を含む塩基性溶液を誘電加熱する予備加熱工程を更に含む。
【0222】
主加熱工程を実施する前に予備加熱工程を実施することによって、主加熱工程を単独で実施するだけでは溶解しにくい出発原料を溶解させることができる。したがって、より幅広い物質を出発原料として、溶液を製造することができる。
【0223】
本発明の第3の態様に係るベリリウム溶液の製造方法は、上記第1の態様又は上記第2の態様において、上記主加熱工程の後に実施する第1の不純物除去工程であって、第1の元素を吸着する有機化合物を用いて、上記主加熱工程により得られたベリリウム溶液から上記第1の元素を除去する第1の不純物除去工程を更に含む。
【0224】
第1の不純物除去工程を実施することにより、ベリリウム溶液中に含まれる第1の元素の濃度を低下させることができる。その結果として、ベリリウム溶液を用いてベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムの何れかを製造する場合に含まれる第1の元素の濃度を低下させることができる。第1の元素の例としては、ウランやトリウムやプルトニウムやアメリシウムなどが挙げられる。
【0225】
本発明の第4の態様に係るベリリウム溶液の製造方法は、上記第3の態様において、上記第1の不純物除去工程において、上記有機化合物は、有機溶媒中に溶解しており、上記ベリリウム溶液は、酸性である、構成を採用している。
【0226】
この構成によれば、有機化合物が第1の元素を吸着する効率を高めることができる。
【0227】
本発明の第5の態様に係るベリリウム溶液の製造方法は、上記第1の態様~上記第4の態様の何れかにおいて、上記主加熱工程の後に実施する第2の不純物除去工程であって、上記主加熱工程により得られたベリリウム溶液の極性を酸性から塩基性に調整することによって、当該ベリリウム溶液から第2の元素を除去する第2の不純物除去工程を更に含む。
【0228】
第2の不純物除去工程を実施することにより、ベリリウム溶液中に含まれる第2の元素の濃度を低下させることができる。その結果として、ベリリウム溶液を用いてベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムの何れかを製造する場合に含まれる第2の元素の濃度を低下させることができる。第2の元素の例としては、アルミニウムや鉄などが挙げられる。
【0229】
本発明の第6の態様に係るベリリウム溶液の製造方法は、上記第1の態様~上記第5の態様の何れかにおいて、上記主加熱工程は、マイクロ波を印加することによって上記出発原料を含む上記酸性溶液を誘電加熱する、ように定められている。
【0230】
マイクロ波を用いた誘電加熱(すなわちマイクロ波誘電加熱)の技術は、いわゆる電子レンジにおいて利用されている技術であり、広く普及している技術である。したがって、本製造方法は、実施に要するコストを従来の製造方法よりも削減することができる。
【0231】
本発明の第7の態様に係るベリリウム溶液の製造方法は、上記第1の態様~上記第6の態様の何れかにおいて、上記ベリリウム溶液は、塩化ベリリウム溶液である、ように定められている。
【0232】
本製造方法によれば、水酸化ベリリウムを経ることなく塩化ベリリウム溶液を容易に製造することができる。塩化ベリリウム溶液からは、後述するようにベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムを容易に製造することができる。したがって、溶液としては、塩化ベリリウム溶液が好適である。
【0233】
本発明の第8の態様に係るベリリウムの製造方法は、上記第1の態様~第6の態様の何れかに係るベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、上記ベリリウム溶液を無水化することによってベリリウム塩を生成する無水化工程と、上記ベリリウム塩を溶融塩電解することによってベリリウムを生成する電解工程と、を含んでいる。
【0234】
本発明の第10の態様に係る水酸化ベリリウムの製造方法は、上記第1の態様~第6の態様の何れかに係るベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、上記ベリリウム溶液を塩基で中和することによって水酸化ベリリウムを生成する中和工程と、を含んでいる。
【0235】
本発明の第11の態様に係る酸化ベリリウムの製造方法は、上記第1の態様~第6の態様の何れかに係るベリリウム溶液の製造方法に含まれる各工程と、上記ベリリウム溶液を加熱することによって酸化ベリリウムを生成する第3の加熱工程と、を含んでいる。
【0236】
これらの製造方法によれば、エネルギー効率が高い新規な製造方法を用いてベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムを製造することができる。
【0237】
本発明の第9の態様に係るベリリウムの製造方法は、上記第8の態様において、上記ベリリウム溶液は、塩化ベリリウム溶液であり、上記無水化工程は、上記塩化ベリリウム溶液に含まれている塩化ベリリウム水和物を、真空中且つ80℃以上110℃以下の温度で加熱する、ように構成されている。
【0238】
この構成によれば、ベリリウム溶液が塩化ベリリウム溶液である場合に、塩化ベリリウム水和物に対して確実に無水化処理を施すことができる。
【0239】
本発明の第12の態様に係る溶液の製造装置は、主加熱用容器と、上記主加熱用容器に酸性溶液を供給する酸性溶液供給部と、上記主加熱用容器に収容された上記酸性溶液を誘電加熱する主加熱装置と、を備えている。
【0240】
主加熱用容器に収容された酸性溶液を、誘電加熱を利用して加熱することにより、酸性溶液に出発原料となる溶質が含まれている場合に、高いエネルギー効率で出発原料を酸性溶液に溶解させることができる。したがって、本製造装置は、エネルギー効率が高い新規な溶液の製造装置を提供することができる。
【0241】
本発明の第13の態様に係る溶液の製造装置は、上記第12の態様において、ベリリウム、ベリリウムを含む金属間化合物、表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、表面に酸化層が形成されているベリリウムを含む金属間化合物のうち少なくとも何れかを出発原料として、上記主加熱用容器及び上記酸性溶液供給部の少なくとも何れかに上記出発原料を供給する原料供給部を更に備えている。
【0242】
誘電加熱を利用してベリリウム、ベリリウムを含む金属間化合物、表面に酸化層が形成されているベリリウム、及び、表面に酸化層が形成されているベリリウムを含む金属間化合物のうち少なくとも何れかを含む酸性溶液を加熱することにより、高いエネルギー効率で出発原料を酸性溶液に溶解させることができる。したがって、本製造装置は、エネルギー効率が高い新規なベリリウム溶液の製造装置を提供することができる。
【0243】
本発明の第14の態様に係る溶液の製造装置は、上記第12の態様において、予備加熱用容器と、上記予備加熱用容器に塩基性溶液を供給する塩基性溶液供給部と、上記予備加熱用容器及び上記塩基性溶液供給部の少なくとも何れかに出発原料を供給する原料供給部と、上記予備加熱用容器に収容された上記塩基性溶液を誘電加熱する予備加熱装置と、上記予備加熱用容器から上記主加熱用容器へ出発原料を含む塩基性溶液を排出する排出部と、を更に備えている。
【0244】
ベリリウム酸化物の中には、酸性溶液中において誘電加熱しただけでは溶解しにくいものがある。酸性溶液中において誘電加熱する前に、塩基性溶液中において誘電加熱しておくことによって、溶解しにくいベリリウム酸化物であっても、酸性溶液中において誘電加熱することにより溶解させることができる。
【0245】
上記の構成によれば、予備加熱容器に収容されたベリリウム酸化物を含む塩基性溶液を誘電加熱したうえで、誘電加熱されたベリリウム酸化物を含む塩基性溶液を主加熱用容器へ排出することができる。したがって、酸性溶液中において誘電加熱しただけでは溶解しにくいベリリウム酸化物を出発原料とした場合であっても、出発原料を酸性溶液に溶解させることができる。
【0246】
本発明の第15の態様に係る溶液の製造装置は、上記第12の態様~上記第14の態様の何れかにおいて、上記主加熱装置は、マイクロ波を印加することによって上記主加熱用容器に収容された上記酸性溶液を誘電加熱する、ように構成されている。
【0247】
上記の構成によれば、上記第5の態様に係るベリリウム溶液の製造方法と同様の効果を奏する。
【0248】
本発明の第16の態様に係る溶液の製造装置は、上記第12の態様~上記第15の態様の何れかにおいて、上記溶液は、塩化ベリリウム溶液である、ように構成されている。
【0249】
上記の構成によれば、上記第6の態様に係るベリリウム溶液の製造方法と同様の効果を奏する。
【0250】
本発明の第17の態様に係るベリリウムの製造システムは、上記第16の態様に係る溶液の製造装置と、上記塩化ベリリウム溶液を無水化することによって塩化ベリリウムを生成する無水化装置と、上記塩化ベリリウムを溶融塩電解することによってベリリウムを生成する電解装置と、を備えている。
【0251】
本発明の第18の態様に係る水酸化ベリリウムの製造システムは、上記第16の態様に係る溶液の製造装置と、上記塩化ベリリウム溶液を塩基で中和することによって水酸化ベリリウムを生成する中和装置と、を備えている。
【0252】
本発明第19の態様に係る酸化ベリリウムの製造システムは、上記第16の態様に係る溶液の製造装置と、上記塩化ベリリウム溶液を加熱することによって酸化ベリリウムを生成する第3の加熱装置と、を備えている。
【0253】
上記の構成によれば、上記第7の態様~上記第9の態様に係る発明と同様の効果を奏する。
【0254】
本発明の第20の態様に係るベリリウムは、ウランの濃度が0.7ppm未満である。
【0255】
ウランの濃度が0.7ppm未満であるベリリウムは、核融合炉において中性子増倍材として使用された場合であっても、使用後におけるウラン濃度が浅地処分することができるか否かを定める閾値を下回る。したがって、本ベリリウムは、核融合炉において中性子増倍材として使用された場合であっても、そのまま浅地処分することができる。
【0256】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0257】
M10 製造方法(ベリリウム溶液の製造方法、BeCl2溶液の製造方法)
S12 主加熱工程
S17,S18 第1,第2の不純物除去工程
M20,M30,M40 ベリリウム、水酸化ベリリウム、及び酸化ベリリウムの製造方法
S21 無水化工程
S22 電解工程
S31 中和工程
S41 加熱工程
M60 製造方法(リチウム溶液の製造方法、LiCl溶液の製造方法)
S62 予備加熱工程
S63 主加熱工程
S64,S65 第1,第2の不純物除去工程
20A 製造装置(ベリリウム溶液の製造装置、BeCl2溶液の製造装置)
22a マイクロ波発振部(主加熱装置)
22c 主加熱用容器
F1 フィーダー(原料供給部)
V1 バルブ(酸性溶液供給部の一部)
20B 晶析装置
20C 無水化装置
20D 電解装置