(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073595
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】ミトコンドリアゲノムの遺伝子改変
(51)【国際特許分類】
A61K 38/46 20060101AFI20240522BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240522BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20240522BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20240522BHJP
A61K 35/42 20150101ALI20240522BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240522BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240522BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240522BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240522BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240522BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240522BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240522BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240522BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240522BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240522BHJP
C12N 9/22 20060101ALI20240522BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
A61K38/46
A61K31/7088
A61K35/30
A61K35/34
A61K35/42
A61K35/76
A61K47/64
A61K48/00
A61P9/00
A61P11/00
A61P21/00
A61P43/00 111
C12N15/09 100
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N9/22
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024042176
(22)【出願日】2024-03-18
(62)【分割の表示】P 2021500494の分割
【原出願日】2019-03-21
(31)【優先権主張番号】62/646,156
(32)【優先日】2018-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】508241200
【氏名又は名称】サンガモ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】516378426
【氏名又は名称】ザ、チャンセラー、マスターズ、アンド、スカラーズ、オブ、ザ、ユニバーシティー、オブ、ケンブリッジ
(71)【出願人】
【識別番号】520363720
【氏名又は名称】ミンクズク, マイケル
(71)【出願人】
【識別番号】520363731
【氏名又は名称】ガメージ, パヤム エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ミンクズク, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】レイ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ガメージ, パヤム エー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC01
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4C076CC11
4C076CC15
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
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4C084DC22
4C084NA05
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4C084ZA361
4C084ZA362
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4C084ZA592
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC011
4C084ZC012
4C084ZC191
4C084ZC192
4C084ZC541
4C084ZC542
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA94
4C086ZC01
4C086ZC19
4C086ZC54
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
4C087BB47
4C087BB55
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA13
4C087ZA36
4C087ZA59
4C087ZA94
4C087ZC01
4C087ZC19
4C087ZC54
(57)【要約】
【課題】ゲノム工学、特に、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の標的化された遺伝子改変を提供すること。
【解決手段】具体的には、記載されている方法および組成物は、内在性ミトコンドリアゲノム(変異体または野生型)のヌクレアーゼを介したゲノム改変(例えば、1もしくはそれを超える挿入および/または欠失)に関する。標的とされた組織の野生型(例えば、分子的および生化学的表現型)への表現型復帰をもたらす、1またはそれを超える特異的な組織および/または臓器中(例えば、心臓組織中)を含む、ミトコンドリア病を有する被験体中での変異体および野生型mtDNAの比のヌクレアーゼを介したシフトなどによって、ミトコンドリアゲノムは、疾患原因となる変異の標的とされた矯正のために改変され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年3月21日に出願された米国仮出願第62/646,156号の利益を主張し、その開示が全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ゲノム工学、特に、ミトコンドリアゲノム(mtDNA)の標的化された改変の分野にある。
【背景技術】
【0003】
ミトコンドリア病は、遺伝的に多彩な群の遺伝性多系統障害(しばしば、心臓、脳、筋肉および肺など、最も大量のエネルギーを必要とする臓器を冒す)であり、ミトコンドリア病の多くは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異を通じて伝達され、成人5,000人におよそ1人が罹病する。例えば、Gormanら、(2015)Ann Neurol 77:753~759を参照。これまでに性質決定された少なくとも250の病因性mtDNA変異が存在し(Tuppenら、(2010)Biochem Biophys Acta 1797:113~128)、これらの変異は、数種類のヒト疾患において役割を果たしているように見受けられる。ヒトmtDNAは、細胞当たりおよそ100~10,000コピーで存在する小さな、二本鎖の、多コピーゲノムである。疾患状態では、変異したmtDNAは、(卵子を通じた複数のミトコンドリアの母性遺伝から生じる)「ヘテロプラスミー」として知られる現象において、野生型mtDNAとしばしば共存する。変異体mtDNAは、通例、機能的に劣性であるので、変異したmtDNAの存在は野生型ゲノムによって促進され、ヘテロプラスミーmtDNA変異によって引き起こされる状態の疾患重症度は変異荷重と相関する。例えば、Gormanら、(2016)Nat Rev Dis Primers 2:16080参照。症状が現れる前に、>60%の変異体mtDNA荷重を超過しなければならないという閾値効果は、ヘテロプラスミーmtDNA疾患の明確な特徴であり、この閾値より下にヘテロプラスミー比をシフトさせることを試みて、これらの不治の、本質的に処置不可能な障害の処置を目指す数多くの研究が行われてきた。
【0004】
1つこのようなアプローチは、ゲノム工学ツールの中でも特に、ミトコンドリアを標的としたジンクフィンガーヌクレアーゼ(mtZFNs;mitochondrially targeted zinc finger-nucleases)を用いる、mtDNAに向けられた核酸分解を基礎とする。例えば、Srivastavaら、(2001)Hum Mol Genet 10:3093-3099(2001);Bacmanら、(2013)Nat Med 19:1111-1113;Gammageら、(2014)EMBO Mol Med 6:458-466;Reddyら、(2015)Cell 161:459-469;Gammageら、(2016)Nucleic Acids Res 44:7804-7816;Gammageら、(2018)Trends Gene 34(2):101)参照。哺乳動物のミトコンドリアは、効率的なDNA二本鎖切断(DSB)修復経路を欠くので、変異体mtDNA中へのDSBの選択的な導入は、完全には性質が明らかとなっていない機序を通じて、これらの分子の急速な分解をもたらす。mtDNAコピー数は細胞種特異的な定常状態レベルに維持されているので、変異体mtDNAの選択的除去は、残存するmtDNAプールの複製を刺激し、ヘテロプラスミー比のシフトを惹起する。培養された細胞中のミトコンドリアへZFNを送達する方法は、患者由来の細胞培養物の表現型救出をもたらすヘテロプラスミーの大きなシフトを生じ得ることが示されている。例えば、Minczukら、(2006)Proc Natl Acad Sci USA103:19689-19694(2006);Minczukら、(2010)Nat Protoc 5:342-356;Minczukら、(2008)Nucleic Acids Res 36:3926-3938;Gaudeら、(2018)Mol Cell 69:581-593;米国特許第9,139,628号参照。
【0005】
1980年代後半に出現したヒト疾患と関連するmtDNA変異の当初の記載に関わらず(例えば、Holtら(1988)Nature 331:717-719;Wallaceら(1988)Science 242:1427-1430;Wallaceら(1988)Cell 55:601-610参照)、ヘテロプラスミックなミトコンドリア病に対する有効な処置は、この間の数十年には現れていない。ミトコンドリアの補充療法を通じてmtDNA変異の伝達を抑制することが盛んに行われてきたが(例えば、Cravenら、(2010)Nature 465:82-85;Tachibanaら、(2013)Nature 493:627-631;Hyslopら、(2016)Nature 534:383-386;Kangら、(2016)Nature 540:270-275参照)、mtDNAボトルネックの性質(Florosら、(2018)Nat Cell Biol 20:144-151)、ミトコンドリア病の不均一な症状(Vafaiら、(2012)Nature 491:374-383)および新たな症例の大半におけるミトコンドリア病の家族歴のその後の欠如を考えると、ミトコンドリアの補充の有用性は限られたものになり得る。さらに、ミトコンドリア病の処置のための分子経路は、ヘテロプラスミックなミトコンドリア病に対する臨床的に適切な治療を与えてこなかった。例えば、Viscomiら、(2015)Biochim Biophy Acta 1847:544-557;Pfefferら、(2013)Nat Rev Neurol 9:474-481参照。
【0006】
したがって、変異体ミトコンドリア配列の量を低減することによって、多様な遺伝的起源のミトコンドリア病を処置するための普遍的治療法を提供するために、mtDNA遺伝子改変のための、特に、mtDNAのヘテロプラスミーシフトのためのさらなる方法および組成物がなお必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gormanら、(2015)Ann Neurol 77:753~759
【非特許文献2】Tuppenら、(2010)Biochem Biophys Acta 1797:113~128
【非特許文献3】Gormanら、(2016)Nat Rev Dis Primers 2:16080
【非特許文献4】ucleases)を用いる、mtDNAに向けられた核酸分解を基礎とする。例えば、Srivastavaら、(2001)Hum Mol Genet 10:3093-3099(2001)
【非特許文献5】Bacmanら、(2013)Nat Med 19:1111-1113;Gammageら、(2014)EMBO Mol Med 6:458-466
【非特許文献6】Reddyら、(2015)Cell 161:459-469
【非特許文献7】Gammageら、(2016)Nucleic Acids Res 44:7804-7816
【非特許文献8】ammageら、(2018)Trends Gene 34(2):101
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、遺伝子治療およびゲノム工学において使用するための組成物および方法を記載する。具体的には、記載されている方法および組成物は、内在性ミトコンドリアゲノム(変異体または野生型)のヌクレアーゼを介したゲノム改変(例えば、1もしくはそれを超える挿入および/または欠失)に関する。標的とされた組織の野生型(例えば、分子的および生化学的表現型)への表現型復帰をもたらす、1またはそれを超える特異的な組織および/または臓器中(例えば、心臓組織中)を含む、ミトコンドリア病を有する被験体中での変異体および野生型mtDNAの比のヌクレアーゼを介したシフトなどによって、ミトコンドリアゲノムは、疾患原因となる変異の標的とされた矯正のために改変され得る。この復帰は、(ミトコンドリアにおけるように)効率的なDNA修復機構の不存在下で、標的化されたヌクレアーゼによる選択的切断後に疾患と関連するmtDNAである上記変異体が分解されるように変異体配列を切断することによって、変異体mtDNAと野生型mtDNAの比を変化させるヘテロプラスミーを通じて生じる。
【0009】
したがって、ゲノム改変(例えば、ヘテロプラスミーシフト)は、切断に続く切断されたmtDNA配列の分解を含み得、これらの遺伝子改変および/またはこれらの改変を含む細胞は、エクスビボまたはインビボ方法において使用され得る。
【0010】
したがって、ミトコンドリア障害の処置を必要とする被験体においてミトコンドリア障害の処置をするための、左および右ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を含むジンクフィンガーヌクレアーゼの使用(または前記ジンクフィンガーヌクレアーゼを含む医薬組成物)であって、1つのZFNパートナーは、切断ドメインと変異体ミトコンドリアDNA(変異体mtDNA)中の標的部位に結合するジンクフィンガータンパク質(ZFP)とを含み、他方のZFNパートナーは、切断ドメインと、前記被験体中の変異体mtDNAが低減されまたは除去されるように(例えば、野生型対変異体mtDNAのヘテロプラスミー比をシフトさせる)、野生型ミトコンドリアDNA(mtDNA)または変異体mtDNA(変異体mtDNA)のいずれかの中にある標的部位に結合するジンクフィンガータンパク質(ZFP)とを含む、使用(または上記医薬組成物)が本明細書に記載されている。いくつかの実施形態において、右および左ZFPの両方が変異体mtDNA中の標的に結合するのに対して、他の実施形態においては、1つのZFNパートナーが野生型mtDNAに結合し、他方のZFNパートナーが変異体mtDNAに結合する。さらなる実施形態において、野生型mtDNAに結合するZFNは左ZFNであるのに対して、右ZFNは変異体mtDNAに結合し、または右ZFNは野生型mtDNAに結合するのに対して、左ZFNは変異体mtDNAに結合する。本明細書に記載されているZFNを被験体中で発現させることによって、ミトコンドリア障害を処置する必要がある被験体においてミトコンドリア障害を処置する方法も記載されている。本明細書に記載されている使用または方法のいずれにおいても、変異体mtDNAは、以下の変異:5024C>T、1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cおよび/または14709Cの1つまたはそれより多くを含む。ある実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、1またはそれを超えるAAVベクターによって運ばれる1またはそれを超えるポリヌクレオチドを含むがこれに限定されない、1またはそれを超えるポリヌクレオチド(例えば、左および右ZFNをコードする別個のポリヌクレオチドまたは左および右ZFNの両方をコードする同じポリヌクレオチド)によってコードされる。被験体はヒト被験体であり得、mtDNAは被験体の任意の組織中に存在し得る。いくつかの実施形態において、mtDNAは、被験体の脳、肺および/または筋肉中に存在し得る。ZFNおよび/またはポリヌクレオチドは、静脈内注射を含む任意の適切な手段によって投与され得る。変異体mtDNAが5024C>T変異を含む実施形態において、左ZFPは配列番号33内の標的部位に結合し得、および右ZFPは配列番号34内の標的部位に結合し得、左ZFNがWTM1/48960と表記されるZFPを含み、および右ZFNがMTM62/48962、MTM24/51024、MTM25/51025、MTM26/51026、MTM27/51027、MTM28/51028、MTM29/51029、MTM30/51030、MTM32/51032、MTM33/51033、MTM36/51036、MTM37/51037、MTM39/51039、MTM42/51042、MTM43/51043またはMTM45/51045と表記されるZFPを含むZFNが挙げられるが、これに限定されない。
【0011】
左および右ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を含むジンクフィンガーヌクレアーゼであって、左ZFNが切断ドメインと、配列番号33内の野生型ミトコンドリアDNA中の標的部位に結合するジンクフィンガータンパク質(ZFP)とを含み、右ZFNが切断ドメインと、配列番号34または配列番号35内の変異体ミトコンドリアDNA中の標的部位に結合するZFPとを含む、ジンクフィンガーヌクレアーゼも記載されている。ある実施形態において、ZFNは、(例えば、AAVベクターによって運ばれる)1またはそれを超えるポリヌクレオチドによってコードされる。本明細書に記載されているとおりのヌクレアーゼおよび/またはポリヌクレオチドを含む細胞(例えば、心臓、脳、肺および/または筋肉細胞)も記載されており、細胞中の5024位における変異体mtDNAが低減されまたは除去されている細胞ならびにこれらの細胞に由来する細胞、細胞株および部分的にまたは完全に分化した細胞(ZFNまたはZFNをコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る)が含まれる。本明細書に記載されている、1もしくはそれを超えるジンクフィンガーヌクレアーゼ;1もしくはそれを超えるポリヌクレオチドおよび/または細胞を含む医薬組成物も提供される。
【0012】
一態様において、1またはそれを超えるヌクレアーゼを用いたmtDNA遺伝子の標的化された改変のための方法および組成物が本明細書に開示されている。(野生型と変異体ミトコンドリアゲノム間におけるように)ヘテロプラスミーがシフトされ、変異体mtDNAの量が低減されるように、ミトコンドリアゲノム、典型的には変異体ミトコンドリアゲノムにおいてDNAを切断するために、ヌクレアーゼ、例えば、操作されたメガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)(用語「ZFN」は、ZFNの対を含む。)、TALE-ヌクレアーゼ(制限エンドヌクレアーゼからのおよび/またはメガヌクレアーゼからのヌクレアーゼドメインとのTALEエフェクタードメインの融合物を含むTALEN(メガTALEおよびコンパクトTALENなど)(用語「TALEN」は、TALENの対を含む。)、Ttago系および/またはCRISPR/Casヌクレアーゼ系が、使用される。mtDNA中の二重修復経路は非効率であり、したがって、変異体mtDNAの選択的切断(野生型mtDNAは切断されない)は変異体mtDNAの急速な分解および変異体mtDNAに対する野生型mtDNAのヘテロプラスミー比の対応するシフトをもたらすので、標的(例えば、変異体mtDNA)は、切断後に不活化され得る。本明細書に記載されているヌクレアーゼは、標的DNA中の二本鎖(DSB)または一本鎖切断(切れ目)を誘導することができる。いくつかの実施形態において、2つの切れ目を導入することによってDSBを作出するために、2つのニッカーゼが使用される。いくつかの事例において、ニッカーゼはZFNであり、一方、他の事例では、ニッカーゼはTALENまたはCRISPR/Casニッカーゼである。本明細書に記載されているヌクレアーゼのいずれもが(例えば、ZFN、TALEN、CRISPR/Casなど)、例えば、野生型または変異体配列の9~20またはそれを超える(9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれを超える)連続的または非連続的ヌクレオチドを含む標的部位など、例えば、表2に示されている標的配列などの変異体mtDNAを特異的に標的とし得る。m.5024C>Tを含むがこれに限定されない任意の変異体が、DNA結合ドメインによって標的とされ得る。例えば、mtDNA変異と関連する非限定的な一群のヒト疾患としては、カーンズ・セイヤー症候群(KSS;進行性筋症、眼筋麻痺、心筋症);CPEO:慢性進行性外眼筋麻痺;およびピアソン症候群(汎血球減少症、乳酸アシドーシス)が挙げられ、ここで、3つ全てが、ミトコンドリアゲノム中の単一の巨大な欠失(約5kb)と関連している。変異体ミトコンドリアと関連する他のヒト疾患は、TRNL1遺伝子中の3243A>G変異(本明細書において、A3243Gまたは3243Gとも称される。)および/または3271T>C変異(本明細書において、T3271Cまたは3271Cとも称される。)またはND1およびND5中の孤発性変異と関連するMELAS(筋症、脳症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様エピソード);TRNK遺伝子中の8344A>Gおよび/または8356T>C変異(本明細書において、A8344Gまたは8344G/T8356Cまたは8356Cと称される。)と関連するMERRF(赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん、筋症);ATP6遺伝子中の8993T>G変異(本明細書において、T8993Gまたは8993Gと称される。)と関連するNARP(神経障害、運動失調、網膜色素変性);ATP6中の8993T>G/C変異(本明細書において、T8993G、T8993C、8993G、8993Cと称される。)および/または9176T>G/C変異(本明細書において、T9176G、T9176C、9176G、9176Cと称される。)とも関連するMILS(進行性脳幹障害、母性遺伝リー症候群としても知られる。);TRNL1遺伝子中の3243A>G変異(本明細書において、A3243Gまたは3243Gと称される。)と関連するMIDD(糖尿病、聴覚喪失);ND1中の3460G>A変異(本明細書において、G3460Aまたは3460Aとも称される。)、ND4中の11778G>A変異(本明細書において、G11778Aまたは11778Aと称される。)および/またはND6遺伝子中の14484T>C変異(本明細書において、T14484Cまたは14484Cと称される。)と関連するLHON(視神経症);TRNE遺伝子中の14709T>C変異(本明細書において、T14709Cまたは14709Cと称される。)と関連する筋症および糖尿病;RNR1遺伝子中の1555A>G変異(本明細書において、A1555Gまたは1555Gと称される。)およびTRNS1遺伝子中の孤発性変異と関連する感音難聴および聴覚喪失;CYB遺伝子中の孤発性変異と関連する運動不耐性;ならびにND3遺伝子中の10158T>C(T10158Cまたは10158Cと称される。)および/または10191T>C(T10191Cまたは10191Cと称される。)変異および/または10197G>A変異(G10197Aまたは10197Aと称される。)と関連する致死性乳児脳症リー/リー様症候群である。mtDNA中の他の変異としては、ND6遺伝子中の14709T>C変異(T14709Cまたは14709Cと称される。);リー症候群と関連する、ND6遺伝子中の14459G>Aおよび/または14487T>C変異(本明細書において、G14459Aまたは14459AおよびT14487Cまたは14487Cと称される。)および/またはND4遺伝子中の11777C>A変異(C11777Aまたは11777Aと称される。)および/または1624C>T変異(C1624Tまたは1624Tと称される。);ND5遺伝子中の13513G>A変異(G13513Aまたは13513Aと称される。);聴覚喪失および筋症と関連する、7445A>G変異(A7445Gまたは7445Gと称される。)および/または7472における挿入;多系統障害と関連する5545C>T変異(C5545Tまたは5545Tと称される。);ならびに心筋症と関連する4300A>G変異(A4300Gまたは4300Gと称される。)が挙げられる。例えば、Greaves and Taylor(2006)IUBMB Life 58(3):143-151;Taylor and Turnbull(2005)Nat Rev Genet 6(5):389-402;およびTuppenら、(2010)同書)参照 全ての変異は、野生型配列に対して付番されている。
【0013】
一態様において、mtDNAゲノム中の標的部位に結合する天然に存在しないジンクフィンガータンパク質(ZFP)であって、1またはそれを超える操作されたジンクフィンガー結合ドメインを含むZFPが本明細書に記載されている。一実施形態において、ZFPは、関心対象の標的ゲノム領域を切断するジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)であり、ZFNは1またはそれを超える操作されたジンクフィンガー結合ドメインとヌクレアーゼ切断ドメインまたは切断半ドメインとを含む。切断ドメインおよび切断半ドメインは、例えば、様々な制限エンドヌクレアーゼおよび/またはホーミングエンドヌクレアーゼから取得することができ、野生型であり得、または操作され得る(変異体)。一実施形態において、切断半ドメインは、IIS型制限エンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)に由来する。ある実施形態において、ジンクフィンガードメイン、表1の1行中に示されているとおりに順序付けられた認識ヘリックスドメインを有するジンクフィンガータンパク質。これらのジンクフィンガータンパク質を含むヌクレアーゼは、(例えば、ジンクフィンガータンパク質を切断ドメインに連結する)任意のリンカー配列および任意の切断ドメイン(例えば、ELD変異体などの二量体化変異体;416、422、447、448および/もしくは525の1つもしくはそれより多くに変異を有するFokIドメイン;ならびに/またはニッカーゼ機能性をもたらす触媒性ドメイン変異体)を含み得る。例えば、米国特許第8,703,489号;同第9,200,266号;同第8,623,618号;および同第7,914,796号;ならびに米国特許出願公開第2018/0087072号参照。ある実施形態において、ZFNのZFPは、表2に示されている配列内の9~18またはそれを超えるヌクレオチドの標的部位に結合する。ある実施形態において、ZFNは、ZFNが(野生型mtDNAの切断と比較して)変異体mtDNAを選択的に切断するように、(野生型mtDNAと比較して)変異体mtDNAに選択的に結合する。さらなる実施形態において、ZFNは、以下の変異:1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cまたは14709Cのうちの1つまたはそれより多くを含む変異体mtDNA中の標的部位に選択的に結合し、付番は野生型配列に対して為されており、位置の後のヌクレオチドは変異体配列を示す。本明細書に記載されているZFNのいずれもが、対の1つの構成要素(member)が変異体mtDNAに結合し、対の1つの構成要素が野生型mtDNAに結合するZFNの対(例えば、左および右)を含み得る。または、本明細書に記載されているZFNは、両方のZFNが野生型mtDNAに結合し、または両方のZFNが変異体mtDNAに結合するZFNの対(左および右)を含み得る。
【0014】
別の態様において、mtDNA中の表2中に示されている標的配列の標的部位(例えば、少なくとも9または12の(例えば、9~20またはそれより多くの)ヌクレオチドを含む標的部位に結合するTALエフェクター(TALE(Transcription Activator Like Effector))タンパク質であって、1またはそれを超える操作されたTALE結合ドメインを含むTALエフェクター(TALE)タンパク質が本明細書に記載されている。一実施形態において、TALEは、関心対象の標的ゲノム領域を切断するヌクレアーゼ(TALEN)であって、1またはそれを超える操作されたTALE DNA結合ドメインとヌクレアーゼ切断ドメインまたは切断半ドメインとを含むヌクレアーゼ(TALEN)である。切断ドメインおよび切断半ドメインは、例えば、様々な制限エンドヌクレアーゼおよび/またはホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)から取得することができる。一実施形態において、切断半ドメインは、IIS型制限エンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)に由来する。他の実施形態において、切断ドメインは、メガヌクレアーゼに由来し、メガヌクレアーゼドメインはDNA結合機能も示し得る。ある実施形態において、TALENは、TALENが(野生型mtDNAの切断と比較して)変異体mtDNAを選択的に切断するように、(野生型mtDNAと比較して)変異体mtDNAに選択的に結合する。さらなる実施形態において、TALENは、以下の変異:1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cまたは14709Cを含む標的部位に選択的に結合し、付番は野生型配列に対して為されており、位置の後のヌクレオチドは変異体配列を示す。本明細書に記載されているTALENのいずれもが、対の1つの構成要素が変異体mtDNAに結合し、対の1つの構成要素が野生型mtDNAに結合するTALENの対(例えば、左および右)を含み得る。または、本明細書に記載されているTALENは、両方のTALENが野生型mtDNAに結合し、または両方のTALENが変異体mtDNAに結合するTALENの対(左および右)を含み得る。
【0015】
別の態様において、mtDNA中の標的部位に結合するCRISPR/Cas系であって、1またはそれを超える操作されたシングルガイドRNAまたは機能的等価物およびCas9ヌクレアーゼを含むCRISPR/Cas系が本明細書に記載されている。ある実施形態において、シングルガイドRNA(sgRNA)は、表2に示されている標的部位の9、12またはそれを超える連続的ヌクレオチドを含む配列に結合する。ある実施形態において、CRISPR/Casヌクレアーゼが(野生型mtDNAの切断と比較して)変異体mtDNAを選択的に切断するように、sgRNAは、(野生型mtDNAと比較して)変異体mtDNAに選択的に結合する。さらなる実施形態において、CRISPR/Cas系は、以下の変異:1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cまたは14709Cを含む標的部位に選択的に結合し、付番は野生型配列に対して為されており、位置の後のヌクレオチドは変異体配列を示す。本明細書に記載されているsgRNAのいずれもが、変異体mtDNAまたは野生型mtDNAに選択的に結合し得る。sgRNAの対が使用される場合には、一方または両方の構成要素が野生型または変異体mtDNAに結合し得る。
【0016】
本明細書に記載されているとおりのヌクレアーゼ(例えば、ZFN、CRISPR/Cas系、Ttagoおよび/またはTALEN)は、例えば、リーダー配列、トレーラー配列またはイントロンなどの、mtDNAのコード領域もしくは非コード領域中にある関心対象の領域またはコード領域の上流もしくは下流のいずれかの転写されない領域内にある関心対象の領域に結合し、および/または切断し得る。標的部位は、表2に示されている標的部位またはmtDNA中の1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cもしくは14709Cを包含する標的部位を含む長さ9~18またはそれを超えるヌクレオチドであり得る。ある実施形態において、ヌクレアーゼ(複数可)のDNA結合ドメイン(ZFP、TALE、sgRNAなど)は、(野生型mtDNAの切断と比較して)変異体mtDNAに選択的に結合する。いくつかの実施形態において、ヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、TRNL1、ND1、ND5、TRNK、ATP6、ND4、ND6、TRNE、RNR1、TRNS、CYB、CYTb、12SrRNAおよび/またはND3ミトコンドリア遺伝子中の選択された位置に結合する。
【0017】
別の態様において、1またはそれを超えるヌクレアーゼ(例えば、本明細書に記載されているZFN、CRISPR/Cas系、Ttagoおよび/またはTALEN)をコードする1またはそれを超えるポリヌクレオチドが、本明細書に記載されている。ある実施形態においては、同じポリヌクレオチドが、1つのヌクレアーゼ(例えば、対を成すヌクレアーゼの両方の左および右単量体またはCRISPR/Cas系の全ての成分)をコードするのに対して、他の実施形態においては、ヌクレアーゼの成分に対して別個のポリヌクレオチドが使用される(例えば、対を成すヌクレアーゼの1つの構成要素(例えば、左構成要素/単量体)をコードする第一のヌクレアーゼおよび対を成すヌクレアーゼの他方の構成要素(例えば、右構成要素/単量体)をコードする第二のポリヌクレオチド。ポリヌクレオチドは、AAV、Ad、レトロウイルスベクターなどおよびmRNA、プラスミド、ミニサークルDNAなどを含むがこれらに限定されない、ウイルスまたは非ウイルスベクター中に組み立てられ得る。ある実施形態において、ベクターは、特異的な組織または臓器に標的化される、例えば、AAVベクターは心臓(心臓組織)に標的化される。ある実施形態において、ヌクレアーゼは、AAVベクター組成物として別々に組み立てられて、併せて投与される左および右ZFNを含むZFNである(例えば、両方のAAVベクターを含む単一の医薬組成物として製剤化される)。
【0018】
別の態様において、プロモーターに動作可能に連結された、本明細書に記載されている1またはそれを超えるヌクレアーゼ(例えば、ZFN、CRISPR/Cas系、Ttagoおよび/またはTALEN)をコードするポリヌクレオチドを含む、ZFN、CRISPR/Cas系、Ttagoおよび/またはTALEN発現ベクターが本明細書に記載されている。一実施形態において、発現ベクターはウイルスベクター(例えば、AAVベクター)である。一態様において、ウイルスベクターは組織特異的向性を呈する。
【0019】
別の態様において、1またはそれを超えるヌクレアーゼ(例えば、ZFN、CRISPR/Cas系、Ttagoおよび/またはTALEN)発現ベクターを含む宿主細胞が本明細書に記載されている。
【0020】
別の態様において、本明細書に記載されているとおりの(例えば、1またはそれを超えるヌクレアーゼの1またはそれを超える成分を含む)発現ベクターを含む医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、1を超える発現ベクターを含み得る。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、第一のポリヌクレオチドを含む第一の発現ベクターと、第二のポリヌクレオチドを含む第二の発現ベクターとを含む。いくつかの実施形態において、第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチドは異なる。いくつかの実施形態において、第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチドは実質的に同一である。ある実施形態において、医薬組成物は、ZFN対の左単量体をコードする第一のAAVベクターおよび/またはZFN対の右単量体をコードする第二のAAVベクターを含む。ある実施形態において、医薬組成物(例えば、一方または両方の単量体を含むAAVベクターなどのポリヌクレオチドを含む薬学的)の濃度は、細胞または被験体当たり1×1010~1×1014(またはその間の任意の値)ベクターゲノム(vg)である。いくつかの実施形態において、医薬組成物の濃度は、(例えば、尾静脈注射によって)細胞または被験体当たり1×1012、5×1012または1×1013vgである。医薬組成物は、全身的、腹腔内、静脈内、筋肉内、粘膜もしくは局所送達方法または(of)これらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、被験体への送達に適している。医薬組成物は、ドナー配列(例えば、ミトコンドリア障害などの疾患または障害において欠如または欠失するタンパク質をコードする導入遺伝子)をさらに含み得る。いくつかの実施形態において、ドナー配列は、発現ベクターと関連する。
【0021】
いくつかの実施形態において、DNA結合ドメイン(例えば、ジンクフィンガータンパク質またはTALEまたはsgRNAまたはメガヌクレアーゼ)と野生型または操作された切断ドメインまたは切断半ドメインとを含む融合タンパク質が提供される。
【0022】
別の態様において、DNA結合分子(例えば、ZFP、TALE、sgRNAなど)とヌクレアーゼ(切断)ドメインとを含むヌクレアーゼなど、本明細書に記載されているヌクレアーゼ (例えば、ZFN、TALEN、TtAgoおよび/またはCRISPR/Cas系)の1またはそれより多くを含む組成物が本明細書に記載されている。ある実施形態において、組成物は、薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせて、1またはそれを超えるヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、それぞれの組が異なる特異性を有する、ヌクレアーゼの2つまたはそれを超える組(対)を含む。他の態様において、組成物は、異なる種類のヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態においては、組成物はmtDNA特異的ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み、一方、他の実施形態においては、組成物はmtDNA特異的ヌクレアーゼタンパク質を含む。ある実施形態において、組成物は、全身的送達を介することを含む、被験体への送達に適している。
【0023】
別の態様において、本明細書に記載されている1またはそれを超える、ヌクレアーゼまたはヌクレアーゼ成分(例えば、ZFN、TALEN、TtAgoまたはCRISPR/Cas系のヌクレアーゼドメイン)をコードするポリヌクレオチドが本明細書に記載されている。ポリヌクレオチドは、例えば、mRNAまたはDNAであり得る。いくつかの態様において、mRNAは、化学的に修飾され得る(例えば、Kormannら、(2011)Nature Biotechnology 29(2):154-157参照)。他の態様において、mRNAは、ARCAキャプを含み得る(米国特許第7,074,596号;および同第8,153,773号参照)。さらなる実施形態において、mRNAは、修飾されていないヌクレオチドと修飾されたヌクレオチドの混合物を含み得る(米国特許出願公開第2012/0195936号参照)。別の態様において、プロモーターに動作可能に連結された、本明細書に記載されている1またはそれを超えるヌクレアーゼ、ZFN、TALEN、TtAgoまたはCRISPR/Cas系をコードするポリヌクレオチドを含むヌクレアーゼ発現ベクターが本明細書に記載されている。一実施形態において、発現ベクターはウイルスベクター、例えば、AAVベクターである。
【0024】
別の態様において、1またはそれを超えるヌクレアーゼ、本明細書に記載されているとおりの1またはそれを超えるヌクレアーゼ発現ベクターを含む宿主細胞が本明細書に記載されている。ある実施形態において、宿主細胞は、変異体mtDNAの量が低減されまたは除去されており、それにより、(野生型細胞と比較した場合に)細胞中のmtDNAのヘテロプラスミー比をシフトさせることを含む。ある実施形態において、ヘテロプラスミー比は、少なくとも5%またはそれを超えて、好ましくは少なくとも10%またはそれを超えて、さらにより好ましくは少なくとも20%またはそれを超えて、野生型(非変異体mtDNA)の方にシフトされる。宿主細胞は、1またはそれを超えるヌクレアーゼ発現ベクターで安定に形質転換され得、または一過性に形質移入され得、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。別の態様において、1またはそれを超えるヌクレアーゼ発現ベクターは、宿主細胞中で1またはそれを超えるヌクレアーゼを発現する。別の実施形態において、宿主細胞は、外来性ポリヌクレオチドドナー配列をさらに含み得る。本明細書に記載されている実施形態のいずれにおいても、宿主細胞は、胚細胞、例えば、1またはそれを超えるマウス、ラット、ウサギまたはその他の哺乳動物細胞の胚(例えば、非ヒト霊長類)を含むことができる。いくつかの実施形態において、宿主細胞は組織を含む。mtDNA中に改変(例えば、mtDNAのヘテロプラスミー比)を含む多能性細胞、全能性細胞、複能性細胞または分化した細胞などの、本明細書に記載されている細胞から産生されたまたはこれらの細胞に由来する細胞または細胞株も記載されている。ある実施形態において、本明細書に記載されている改変を含む本明細書に記載されているとおりの分化された細胞であって、本明細書に記載されている幹細胞に由来する分化された細胞が本明細書に記載されている。ある実施形態において、宿主細胞は、心臓細胞または幹細胞、例えば、造血幹細胞または人工多能性幹細胞である。
【0025】
別の態様において、細胞中のmtDNA遺伝子を切断する方法であって、(a)ヌクレアーゼ(複数可)が発現され、mtDNAが切断されるような条件下で、mtDNAを標的とする1またはそれを超えるヌクレアーゼをコードする1またはそれを超えるポリヌクレオチドを細胞中に導入することを含む、方法が本明細書に記載されている。ある実施形態において、変異体mtDNAは、野生型mtDNAと比較して選択的に切断される。これは、変異体mtDNA:野生型mtDNAのヘテロプラスミー比のシフトをもたらす。必要に応じて、これらの方法は、細胞のゲノム中にまたはmtDNA中に組み込まれ得る、ドナー(例えば、治療用タンパク質)を細胞に投与することをさらに含む。1またはそれを超えるドナー分子の組み込みは、相同組換え修復(HDR)を介して、または非相同末端結合(NHEJ)関連修復によって起こる。さらに、ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドおよび/またはドナーは、送達系(例えば、非ウイルスベクター、LNPまたはウイルスベクター)の任意の1つまたは組み合わせを用いて細胞中に導入され得る。ある実施形態において、ある細胞、組織および/または臓器の種類に対して特異的であるベクター、例えば、心臓組織、脳組織、肺組織、筋肉組織などに対して特異的であるAAVベクターが使用される。ある実施形態において、変異体mtDNAの切断は、野生型(例えば、野生型配列への部分的または完全な回復を含む。)配列の方向にヘテロプラスミーをシフトし、これにより、ミトコンドリア病を処置および/または予防することを必要とする被験体において、ミトコンドリア病を処置および/または予防する。ある実施形態において、切断され、野生型に回復された変異体mtDNAは、点変異(例えば、5024C>T)を含む。
【0026】
本明細書に記載されている組成物または方法のいずれにおいても、1またはそれを超えるポリヌクレオチドは、所望の効果を与える任意の濃度(用量)で提供および/または送達することができる。好ましい実施形態において、1またはそれを超えるポリヌクレオチドは、細胞または被験体当たり10,000~1×1014またはそれを超えるベクターゲノム(またはこの間にある任意の値)でアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて送達される。ある実施形態において、1またはそれを超えるポリヌクレオチドは、250~1,000(またはこの間にある任意の値)のMOIでレンチウイルスベクターを用いて送達される。別の実施形態において、1またはそれを超えるポリヌクレオチドは、150~1,500ng/100,000細胞(またはこの間にある任意の値)でプラスミドベクターを用いて送達される。別の実施形態において、1またはそれを超えるポリヌクレオチドは、150~1,500ng/100,000細胞(またはこの間にある任意の値)でmRNAとして送達される。2またはそれを超えるポリヌクレオチドが送達される場合、ベクターは同一のベクターまたは異なるベクターであり得、同一のベクターは、1:1の比率を含むがこれに限定されない任意の比率で送達され得る。ある実施形態において、1×1010~1×1014(またはこの間にある任意の値)を含むがこれに限定されない、任意の単量体当たり濃度で、必要に応じて、5×1012vg/単量体で、対を成すヌクレアーゼの成分(例えば、MTM25単量体およびWTM1単量体を含むZFN)を送達するために、2つのAAVベクターが使用される。ある実施形態において、各単量体の用量、または総用量(両単量体)は、(例えば、尾静脈注射によって)細胞または被験体当たり1×1012、5×1012または1×1013vgである。いくつかの実施形態において、ZFNは、5e12vg/kgの総AAV用量(例えば、2.5e12vg/kgの各AAV-ZFN単量体);1e13vg/kgの総AAV用量(例えば、0.5e13vg/kgの各AAV-ZFN単量体);5e13vg/kgの総AAV用量(例えば、2.5e13vg/kgの各AAV-ZFN単量体);1e14vg/kgの総AAV用量(例えば、0.5e14vg/kgの各AAV-ZFN単量体);5e14vg/kgの総AAV用量(例えば、2.5e14vg/kgの各AAV-ZFN単量体;または1e15vg/kgの総AAV用量(例えば、0.5e15vg/kgの各AAV-ZFN単量体)で与えられる。ある実施形態において、AAVは、静脈内注射によって投与される。
【0027】
さらに別の態様において、遺伝子改変されたmtDNAを含む細胞、例えば、変異体mtDNAに対する野生型mtDNAのヘテロプラスミー比が、細胞中の変異体mtDNAを低減および/または除去することによって改変されている細胞が本明細書に提供されている。ある実施形態において、ミトコンドリア障害を有する被験体から得た細胞と比較して、細胞ヘテロプラスミー比は低減されている。変異体mtDNAは、mtDNAの変異体形態に対して特異的なヌクレアーゼ(例えば、表2に示されているまたは以下の変異:1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cまたは14709Cのうちの1もしくはそれより多くを包含する9~20またはそれを超える塩基対の配列に標的化されるヌクレアーゼによる変異体mtDNAの切断後の分解によって、細胞から低減されおよび/または除去される 分解を引き起こす切断は、標的部位(複数可)および/もしくは切断部位(複数可)内ならびに/または標的配列の9~18もしくはそれを超える塩基対の標的部位の末端の1~50塩基対内であり得る。本明細書に記載されている改変された細胞は単離され得、または被験体、例えば、ミトコンドリア障害を有する被験体内にあり得る。
【0028】
本明細書に記載されている方法および組成物のいずれにおいても、細胞は任意の真核生物細胞であり得る。ある実施形態において、細胞は、分化した細胞、例えば、心臓細胞、脳細胞、肝細胞、腎臓細胞、筋肉細胞、神経細胞、腸の細胞、目の細胞および/または耳の細胞などである。他の実施形態において、細胞は幹細胞である。他の実施形態において、細胞は、患者由来の、例えば、(例えば、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)投与によって、患者中で、骨髄から末梢血中に動員された)自家CD34+(造血)幹細胞である。CD34+細胞は、任意の適切な方法によって、採集し、精製し、培養し、ヌクレアーゼを細胞中に導入することができる。
【0029】
別の態様において、本発明の方法および組成物は、例えば、ミトコンドリア病の処置および/または予防において使用するための、本明細書に記載されている組成物(ヌクレアーゼ、医薬組成物、ポリヌクレオチド、発現ベクター、細胞、細胞株および/またはトランスジェニック動物などの動物)の使用を提供する。ある実施形態において、これらの組成物は、
ミトコンドリア障害の処置において使用するための、薬物ライブラリーおよび/または他の治療用組成物(すなわち、抗体、構造RNAなど)のスクリーニングにおいて使用される。このようなスクリーニングは、巧みに操作された細胞株または初代細胞を用いて、細胞レベルで開始することができ、動物個体の処置のレベル(例えば、獣医学的治療またはヒト治療)まで進むことができる。したがって、ある態様において、ミトコンドリア病を処置および/または予防することを必要とする被験体において、ミトコンドリア病を処置および/または予防する方法であって、本明細書に記載されている1またはそれを超えるヌクレアーゼ、ポリヌクレオチドおよび/または細胞を前記被験体に投与することを含む方法が本明細書に記載されている。これらの方法は、エクスビボまたはインビボであり得る。ある実施形態において、本明細書に記載されている細胞が被験体に投与される。本明細書に記載されている方法のいずれにおいても、細胞は、被験体に由来する幹細胞(患者由来の幹細胞)であり得る。
【0030】
本明細書に記載されている組成物および方法のいずれにおいても、ヌクレアーゼは、mRNA形態でおよび/または1もしくはそれを超える非ウイルスベクター(複数可)、LNPベクター(複数可)またはウイルスベクター(複数可)を用いて導入される。ある実施形態において、ヌクレアーゼ(複数可)は、mRNA形態で導入される。別の実施形態において、ヌクレアーゼ(複数可)は、ウイルスベクター、例えば、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAV8.2、AAV9、AAV rh10、AAV2/8、AAV2/5およびAAV2/6を含むアデノ随伴ベクター(AAV)を用いて、またはレンチウイルスベクターもしくは組み込み欠損レンチウイルスベクターを用いて導入される。
【0031】
細胞に送達されると、ヌクレアーゼ(複数可)は転写および/または翻訳され、ヌクレアーゼタンパク質はミトコンドリアによって取り込まれる。したがって、いくつかの実施形態において、ヌクレアーゼ(複数可)は、ミトコンドリア標的化ペプチドを含む(例えば、米国特許第9,139,628号;Omuta(1998)J.Biochem 123(6):1010-6参照)。ある実施形態において、組織または細胞特異的ベクター、例えば、心臓(心臓組織)に対して特異的であるベクターが使用される。
【0032】
細菌、昆虫、酵母、魚、哺乳動物(非ヒト哺乳動物を含む。)および植物細胞などの原核細胞または真核細胞を含むがこれらに限定されない任意の細胞を、本発明の組成物および方法を用いて改変することができる。ある実施形態において、細胞は、心臓細胞、脳細胞、肝細胞、脾臓細胞、腸細胞または免疫細胞、例えば、T細胞(例えば、CD4+、CD3+、CD8+など)、樹状細胞、B細胞などである。他の実施形態において、細胞は、多能性、全能性または複能性幹細胞、例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)、造血幹細胞(例えば、CD34+)、胚性幹細胞などである。本発明の方法および組成物とともに使用され得る具体的な幹細胞の種類としては、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)および造血幹細胞(例えば、CD34+細胞)が挙げられる。iPSCは、患者の試料および/または正常な対照に由来することができ、患者由来のiPSCを関心対象の遺伝子における正常なもしくは野生型遺伝子配列へ変異させることができ、または正常な細胞を関心対象の遺伝子における公知の疾患対立遺伝子へ変化させることができる。同様に、造血幹細胞は、患者からまたはドナーから単離することができる。
【0033】
したがって、mtDNAゲノムを変化させ(変異体mtDNAの選択的切断を含むがこれに限定されない)、(例えば、mtDNAゲノムを変化させることを必要とする被験体の)細胞、臓器および/または組織中の変異体および野生型mtDNAのヘテロプラスミー比を変更し、これにより、ミトコンドリア病を処置および/または予防するための方法および組成物が本明細書に記載されている。該組成物および方法は、インビトロ、インビボまたはエクスビボで用いることができ、mtDNAに標的化されるDNA結合ドメインを含む、人工の転写因子またはヌクレアーゼを投与することを含む。
【0034】
本発明の核酸、ヌクレアーゼおよび/または細胞を含むキットも提供される。キットは、ヌクレアーゼをコードする核酸(例えば、適切な発現ベクター中に含有される遺伝子をコードする、RNA分子またはZFN、TALEN、TtAgoまたはCRISPR/Cas系)または分割量の、ヌクレアーゼタンパク質、ドナー分子、適切な幹細胞性修飾因子、細胞、本発明の方法を実施するための指示などを含み得る。
【0035】
これらのおよびその他の態様は、開示全体に照らせば、当業者にとって自明である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1-1】
図1A~1Gは、ミトコンドリアDNAに標的化されるヌクレアーゼおよびインビボmtDNAヘテロプラスミー改変の設計を図示する。
図1Aは、野生型および変異体ゲノム中のm.5024の上流にある配列に結合した単量体「WTM1」(配列番号1)ならびに標的部位中のC>T変異によって変異させた部位(*によって表されている。)に優先的に結合した変異体特異的単量体「MTM25」(配列番号2)を示す模式図である。絶対ヘテロ二量体FokIドメインの二量体化は、DNA二本鎖切断を生成し、変異体mtDNAの特異的枯渇をもたらした。
図1Bは、マウスmtDNAに標的化されたヌクレアーゼをスクリーニングするために使用されたライブラリーの模式図(左パネル)、およびスクリーニングアッセイの模式図(右パネル)を図示する。スクリーニングのために、骨格が別個のプロモーター(SV40)からmCherryも共発現するように、リボソームスタッタリングT2A部位(「2A」)、WTM1 mtZFN(「WTM1」)およびハンマーヘッド型リボザイム(「HHR」)を含有する骨格中に、MTM(n)mtZFNライブラリー(「MTM(n)」と表記される。)をクローニングした。m.5024C>Tを保有するマウス胎仔線維芽細胞(MEF)中にこれらの構築物を形質移入し、24時間の時点で、形質移入体を蛍光活性化細胞選別(FACS)によって分別し、DNAを抽出し、パイロシークエンシングによって、形質移入された線維芽細胞中のヘテロプラスミーシフトを決定した。
図1Cは、テトラサイクリン感受性HHR7によって促進された、対照または異なる濃度のMTM25/WTM1を形質移入されたMEFからのm.5024C>Tヘテロプラスミーのパイロシークエンシング分析の結果を示す。試験された異なる条件にしたがって、m.5024C>Tヘテロプラスミーの変化(「Δm.5024C>T(%)」)をプロットした。「utZFN」は、マウスmtDNA7中に標的部位を有さないmtZFNである。n=4~8。エラーバーは、標準偏差を示す。統計解析を行った:両側スチューデントのt検定
***p<0.01。
図1Dは、インビボ実験を図示する模式図である。MTM25およびWTM1は、AAV9.45においてキャプシドで囲まれる別個のAAVゲノム中にコードされ、次いで、同時に全身的に(尾静脈)投与された。注射後65日に、動物を屠殺した。
図1Eは、MTM25および/またはWTM1を注射された動物から得た全心臓タンパク質のウェスタンブロット分析を示す。両タンパク質はHAタグを含み、分子量によって区別される。
図1Eは、耳および心臓の全DNAからのm.5024C>Tヘテロプラスミーのパイロシークエンシング分析を示す。これらの間でのm.5024C>Tの変化(Δ)がプロットされている。n=4~20(表S1)。エラーバーは、SEM(平均値の標準誤差)を示す。統計解析を行った:両側スチューデントのt検定。
***p<0.001。
図1Fは、qPCRによるmtDNAコピー数の分析を示す。各四角が、1匹の動物を示す。n=4~8(表S1)。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。統計解析を行った:両側スチューデントのt検定
**p<0.01。
【0037】
【
図2-1】
図2A~2Eは、m.5024C>T mtDNAヘテロプラスミーの低下が生存被験体中での表現型救出をもたらすことを図示する。
図2Aは、m.5024C>T変異によってコードされるmt-tRNA:ALAの図解である。5024C>T変異の故に挿入された変異体「A」の位置は、丸によって示されている。この変異の性質および位置を考えると、変異誤対合を含有する転写されたtRNA分子は、正しく折り畳まれるまたはアミノアシル化される見込みがなく、高レベルのm.5024C>Tヘテロプラスミーにおいて、mt-tRNA:ALAの低下した定常状態レベルをもたらす。
図2Bは、全心臓RNA抽出物のノーザンブロット分析の定量を示す。mt-tRNA存在量は、5SrRNAに対して正規化されている。n=4~6。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。統計解析を行った:両側スチューデントのt検定。
***p<0.001。データは、非処理細胞と比較した、WTM1/MTM25 ZFN対で処理された細胞中での、mt tRNA:CYSに対して正規化されたmt tRNA:ALAの存在の増加を示した。
図2Cは、mt-tRNA
ALA分子表現型救出の生理学的効果を評価するために使用された、中間用量(5e12vg/動物)AAVで処置されたマウスおよび年齢/当初のヘテロプラスミーを合わせた(ビヒクル処理された)対照に対するメタボロームデータの主成分分析(PCA)プロットを図示する。各四角が、1匹の動物を示す(実施例2参照)。
図2Dは、LC/MSによる、中間用量AAV処置されたマウス(右の棒「+AAV」)および年齢/当初のヘテロプラスミーを合わせた対照(左の棒「VEH」)のマウス心臓組織からの総代謝物存在量(左のグラフはホスホエノールピルビン酸;中央のグラフはピルビン酸;右のグラフは乳酸)の測定値を示す。最終解糖系代謝物の化学構造およびこれらをつなぐ反応が、一番上のパネルに図示されている。エラーバーは、平均値の標準誤差を示す。統計解析を行った:片側スチューデントのt検定。
*p<0.05。
図2Eは、マウス心臓組織からの解糖系経路の最初の反応物および生成物の化学構造(一番上のパネル)およびインビボ存在量を示す。処置された動物の心臓中の、減少した下流代謝物存在量(中央のグラフに示されているグルコース-6-リン酸および右のグラフに示されているフルクトース-6-リン酸(phosphase))を伴う上昇したグルコースレベル(左のグラフ)は、対照(左の棒「VEH」)と比較した場合の処置された動物(右の棒「+AAV」)中で観察された、ミトコンドリア代謝の回復および好気的解糖の強化の特性に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
mtDNA中のヘテロプラスミーがシフトされ、野生型への分子的および生物化学的表現型の復帰が達成されるような、変異体mtDNAの選択的切断を含む、mtDNAの標的化された改変のための組成物および方法が本明細書に開示されている。
【0039】
本発明は、任意の遺伝的起源のミトコンドリア病の処置および/または予防を必要とする被験体における、任意の遺伝的起源のミトコンドリア病の処置および/または予防のための、変異体mtDNAの選択的切断を含むがこれらに限定されないmtDNAに対する遺伝的改変を想定する。m.5024C>T、1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cおよび/または14709Cを含むがこれらに限定されない任意の変異体mtDNAが、DNA結合ドメインによって標的とされ得る。
総論
【0040】
方法の実施ならびに本明細書に開示されている組成物の調製および使用は、別段の記述がなければ、本分野の技術に属する、分子生物学、生化学、クロマチン構造および分析、計算化学、細胞培養、組換えDNAおよび関連する分野における慣用技術を利用する。これらの技術は、文献中に完全に説明されている。例えば、Sambrookら、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989 and Third edition,2001;Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley&Sons,New York,1987および定期的な改訂版;シリーズMETHODS IN ENZYMOLOGY,Academic Press,San Diego;Wolffe,CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION,Third edition,Academic Press,San Diego,1998;METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.304,“Chromatin”(P.M.Wassarman and A.P.Wolffe,eds.),Academic Press,San Diego,1999;およびMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,Vol.119,“Chromatin Protocols”(P.B.Becker,ed.)Humana Press,Totowa,1999参照。
定義
【0041】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は互換的に使用され、直鎖または環状立体構造の、一本鎖または二本鎖形態のいずれかのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを表す。本開示において、これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定するものと解釈されるべきではない。これらの用語は、天然のヌクレオチドの公知の類縁体ならびに塩基、糖および/またはホスフェート部分(例えば、ホスホロチオエート骨格)において修飾されているヌクレオチドを包含することができる。一般に、あるヌクレオチドの類縁体は、同じ塩基対合特異性を有する、すなわち、Aの類縁体はTと塩基対を形成する。
【0042】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを表すために互換的に使用される。本用語は、1またはそれを超えるアミノ酸が、対応する天然に存在するアミノ酸の化学的類縁体または修飾された誘導体であるアミノ酸ポリマーにも当てはまる。
【0043】
「結合」は、高分子間での(例えば、タンパク質と核酸間での)配列特異的な非共有相互作用を表す。全体としての相互作用が配列特異的である限り、結合相互作用の全ての成分が配列特異的であることを必要とするわけではない(例えば、DNA骨格中のホスフェート残基との接触)。このような相互作用は、一般的には、10-6M-1またはそれ未満の解離定数(Kd)によって特徴づけられる。「親和性」は、結合の強度を表す、すなわち、増加した結合親和性はより低いKdと相関する。
【0044】
「結合ドメイン」は、別の分子に非共有的に結合することができる分子である。結合分子は、例えば、DNA分子(ジンクフィンガータンパク質またはTALエフェクタードメインタンパク質などのDNA結合タンパク質またはシングルガイドRNA)、RNA分子(RNA結合タンパク質)および/またはタンパク質分子(タンパク質結合タンパク質)に結合することができる。タンパク質結合分子の場合には、タンパク質結合分子は、それ自体に結合することができ(ホモ二量体、ホモ三量体などを形成する)、および/または1もしくは複数の異なるタンパク質の1もしくはそれを超える分子に結合することができる。結合分子は、1種類を超える結合活性を有することができる。例えば、ジンクフィンガータンパク質は、DNA結合活性、RNA結合活性およびタンパク質結合活性を有する。したがって、人工ヌクレアーゼおよび転写因子のDNA結合成分を含むDNA結合分子には、ZFP、TALEおよびsgRNAが含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(または結合ドメイン)は、結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域であってその構造が亜鉛イオンの配位を通じて安定化されている1またはそれを超えるジンクフィンガーを通じて、配列特異的な様式でDNAを結合するタンパク質またはより大きなタンパク質内のドメインである。ジンクフィンガーDNA結合タンパク質という用語は、しばしば、ジンクフィンガータンパク質またはZFPと略称される。人工ヌクレアーゼおよび転写因子は、ZFP DNA結合ドメインおよび機能的ドメインを含むことができる(ZFNに対してはヌクレアーゼドメインまたはZFP-TFに対しては転写制御ドメイン)。「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」という用語には、1つのZFNの他、二量体化して標的遺伝子を切断するZFNの対(左および右ZFNとしても知られる第一および第二のZFNを含む。)も含まれる。
【0046】
「TALE DNA結合ドメイン」または「TALE」は、1またはそれを超えるTALE反復ドメイン/単位を含むポリペプチドである。反復ドメインは、TALEのその同族標的DNA配列への結合に関与する。1つの「反復単位」(「反復」とも称される。)は、典型的には33~35アミノ酸の長さであり、天然に存在するTALEタンパク質内の他のTALE反復配列と少なくともいくらかの配列相同性を示す。例えば、米国特許第8,586,526号参照。人工ヌクレアーゼおよび転写因子は、TALE DNA結合ドメインおよび機能的ドメインを含むことができる(TALENに対してはヌクレアーゼドメインまたはTALEN-TFに対しては転写制御ドメイン)。「TALEN」という用語には、1つのTALENの他、二量体化して標的遺伝子を切断するTALENの対(左および右TALENとしても知られる第一および第二のTALENを含む。)も含まれる。
【0047】
ジンクフィンガーおよびTALE結合ドメインは、例えば、天然に存在するジンクフィンガーまたはTALEタンパク質の認識ヘリックス領域の操作(1またはそれを超えるアミノ酸を変更すること)を介して、所定のヌクレオチド配列に結合するように「操作する」ことができる。したがって、操作されたDNA結合タンパク質(ジンクフィンガーまたはTALE)は、天然に存在しないタンパク質である。DNA結合タンパク質を操作するための方法の非限定的な例は、設計および選択である。設計されたDNA結合タンパク質は、その設計/組成が主に合理的判定基準から生じる天然に存在しないタンパク質である。設計のための合理的判定基準としては、既存のZFPおよび/またはTALEの設計ならびに結合データの情報を保存するデータベース中の情報を処理するための置換規則およびコンピュータ化されたアルゴリズムの適用が挙げられる。例えば、米国特許第6,140,081号;同第6,453,242号;同第6,534,261号;および同第8,585,526号参照;国際公開第98/53058号;同第98/53059号;同第98/53060号;同第02/016536号および同第03/016496号も参照。
【0048】
「選択された」ジンクフィンガータンパク質またはTALEは、その作製がファージディスプレイ、相互作用トラップまたはハイブリッド選択などの実証的過程から主として由来する天然に見出されないタンパク質である。例えば、米国特許第5,789,538号;同第5,925,523号;同第6,007,988号;同第6,013,453号;同第6,200,759号;同第8,586,526号;ならびに国際公開第95/19431号;同第96/06166号;同第98/53057号;同第98/54311号;同第00/27878号;同第01/60970号;同第01/88197号;および同第02/099084号を参照。
【0049】
「TtAgo」は、遺伝子サイレンシングに関与すると考えられている原核生物のアルゴノートタンパク質である。TtAgoは、細菌Thermus thermophilusに由来する。例えば、Swartsら、同書、G.Shengら、(2013)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.111,652)参照。「TtAgo系」は、例えば、TtAgo酵素による切断のためのガイドDNAを含む、必要とされる全ての成分である。
【0050】
「組換え」は、非相同末端結合(NHEJ)および相同組換えによるドナー捕捉を含むがこれに限定されない、2つのポリヌクレオチド間での遺伝情報の交換の過程を表す。本開示の目的のために、「相同組換え(HR)」は、例えば、相同組換え修復機序を介した細胞中での二本鎖切断の修復の間に起こるこのような交換の特殊化された形態を表す。この過程は、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、「標的」分子(すなわち、二本鎖切断を経たもの)のテンプレート修復のための「ドナー」分子を使用し、ドナーから標的への遺伝情報の導入をもたらすので、「非交差遺伝子変換」または「ショートトラクト遺伝子変換」と様々に称されている。いずれかの特定の理論に拘泥することを望むものではないが、このような導入は、切断された標的とドナーとの間で形成するヘテロ二本鎖DNAのミスマッチ修正および/または標的の一部となる遺伝情報を再合成するためにドナーが使用される「合成依存性鎖アニーリング」および/または関連する過程を伴う場合がある。このような特殊化されたHRは、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部または全部が標的ポリヌクレオチド中に取り込まれるように、しばしば、標的分子の配列の変化をもたらす。
【0051】
本開示の方法では、本明細書に記載されている1またはそれを超える標的とされるヌクレアーゼは、所定の部位に、標的配列(例えば、細胞クロマチン)中に二本鎖切断(DSB)を作出する。DSBは、相同組換え修復によってまたは非相同組換え修復機序によって、欠失および/または挿入をもたらし得る。欠失は、任意の数の塩基対を含み得る。同様に、挿入は、例えば、切断の領域中のヌクレオチド配列に対する相同性を必要に応じて有する「ドナー」ポリヌクレオチドの組み込みなど、任意の数の塩基対を含み得る。ドナー配列は、物理的に組み込まれ得、またはドナーポリヌクレオチドは、相同組換えを介した切断の修復のためのテンプレートとして使用され、ドナー中などのヌクレオチド配列の全部または一部の細胞クロマチン中への導入をもたらす。したがって、細胞のクロマチン中の第一の配列は変化させることができ、ある実施形態において、ドナーポリヌクレオチド中に存在する配列へ変換することができる。したがって、「置換する」または「置換」という用語の使用は、あるヌクレオチド配列の別のヌクレオチド配列による置換(すなわち、情報的な意味での配列の置換)を表すと理解することができ、あるポリヌクレオチドの別のポリヌクレオチドによる物理的または化学的置換を必ずしも必要としない。
【0052】
本明細書に記載されている方法のいずれにおいても、細胞内のさらなる標的部位のさらなる二本鎖切断のために、ジンクフィンガータンパク質、TALEN、TtAgoまたはCRISPR/Cas系のさらなる対を使用することができる。
【0053】
本明細書に記載されている方法のいずれも、任意のサイズのドナーの挿入のために、および/または関心対象の遺伝子(複数可)の発現を妨害するドナー配列の標的化された組み込みによる細胞中の1もしくはそれを超える標的配列の部分的なもしくは完全な不活化のために使用することができる。部分的にまたは完全に不活化された遺伝子を有する細胞株も提供される。
【0054】
本明細書に記載されている方法のいずれにおいても、外因性ヌクレオチド配列(「ドナー配列」または「導入遺伝子」)は、関心対象の領域中のゲノム配列に相同であるが同一ではない配列を含有することができ、これにより、関心対象の領域中に非同一配列を挿入するために相同組換えを刺激する。したがって、ある実施形態において、関心対象の領域中の配列に相同であるドナー配列の部分は、置換されるゲノム配列と約80~99%(またはその間にある任意の整数)の配列同一性を示す。他の実施形態において、例えば、ドナーと100を超える連続する塩基対のゲノム配列との間で1つのヌクレオチドのみが異なれば、ドナーとゲノム配列との間の相同性は99%より高い。ある事例では、ドナー配列の非相同部分は、新たな配列が関心対象の領域中に導入されるように、関心対象の領域中に存在しない配列を含有することができる。これらの例では、非相同配列は、一般に、関心対象の領域中の配列と相同または同一である、50~1,000塩基対(またはこの間にある任意の整数値)または1,000より大きい任意の数の塩基対の配列に挟まれている。他の実施形態において、ドナー配列は第一の配列に対して非相同であり、非相同組換え機序によってゲノム中に挿入される。
【0055】
「切断」は、DNA分子の共有結合骨格の切断を表す。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的加水分解を含むがこれらに限定されない様々な方法によって開始することができる。一本鎖切断と二本鎖切断の両方が可能であり、二本鎖切断は2つの別個の一本鎖切断事象の結果として生じ得る。DNA切断は、平滑末端または粘着末端のいずれかの生成をもたらすことができる。ある実施形態において、標的化された二本鎖DNA切断のために、融合ポリペプチドが使用される。
【0056】
「切断半ドメイン」は、第二のポリペプチド(同一のまたは異なる)とともに、切断活性(好ましくは、二本鎖切断活性)を有する複合体を形成するポリペプチド配列である。用語「第一および第二の切断半ドメイン;」「+および-切断半ドメイン」および「右および左切断半ドメイン」は、二量体化する切断半ドメインの対を表すために互換的に使用される。
【0057】
「操作された切断半ドメイン」は、別の切断半ドメイン(例えば、別の操作された切断半ドメイン)との絶対ヘテロ二量体を形成するように改変された切断半ドメインである。米国特許第8,623,618号;同第7,888,121号;同第7,914,796号;および同第8,034,598号も参照、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
用語「配列」は、DNAまたはRNAであり得、直鎖、環状または分岐であり得、一本鎖または二本鎖のいずれかであり得る任意の長さのヌクレオチド配列を表す。用語「ドナー配列」は、ゲノム中に挿入されるヌクレオチド配列を表す。ドナー配列は、任意の長さ、例えば、2~100,000,000ヌクレオチドの長さ(またはこれらの間またはこれらの上にある任意の整数値)、好ましくは、約100~100,000ヌクレオチドの長さ(またはこれらの間にある任意の整数)、より好ましくは、約2000~20,000ヌクレオチドの長さ(またはこれらの間にある任意の値)、さらに好ましくは約5~15kb(またはこれらの間にある任意の値)であり得る。
【0059】
「クロマチン」は、細胞のゲノムを含む核タンパク質構造物である。細胞のクロマチンは、核酸、主にDNAと、ヒストンおよび非ヒストン染色体タンパク質を含むタンパク質とを含む。真核生物の細胞のクロマチンの大半は、ヌクレオソームの形態で存在し、ヌクレオソームコアは、ヒストンH2A、H2B、H3およびH4のそれぞれ2つを含む八量体と会合したおよそ150塩基対のDNAを含み、(生物に応じた可変の長さの)リンカーDNAが、ヌクレオソームコアの間に広がる。ヒストンH1の分子が、一般に、リンカーDNAと会合する。本開示において、用語「クロマチン」は、原核生物および真核生物の両方のあらゆる種類の細胞の核タンパク質を包含するものとする。細胞のクロマチンには、染色体のクロマチンとエピソームのクロマチンが両方含まれる。
【0060】
「染色体」は、細胞のゲノムの全部または一部を含むクロマチン複合体である。細胞のゲノムは、細胞のゲノムを含むすべての染色体の集合であるその核型によって、しばしば特徴付けられる。細胞のゲノムは、1またはそれを超える染色体を含むことができる。
【0061】
「エピソーム」は、細胞の染色体の核型の一部ではない核酸を含む、複製する核酸、核タンパク質複合体または他の構造物である。エピソームの例としては、プラスミドおよびある種のウイルスのゲノムが挙げられる。
【0062】
「接近可能な領域」は、標的部位を認識する外因性分子によって、核酸中に存在する標的部位を結合することができる、細胞のクロマチン中の部位である。いずれかの特定の理論に拘泥することを望むものではないが、接近可能な領域は、ヌクレオソームの構造へとパッケージされない領域であると考えられる。接近可能な領域の特徴的な構造は、化学的および酵素的プローブ、例えば、ヌクレアーゼに対するその感度によって、しばしば検出することができる。
【0063】
「標的部位」または「標的配列」は、結合が存在するのに十分な条件が与えられれば、結合分子が結合する核酸の部分を規定する核酸配列である。標的部位は、任意の長さ、例えば、9~20またはそれを超えるヌクレオチドであり得、長さおよび結合されるヌクレオチドは連続的または非連続的であり得る。
【0064】
「外因性」分子は、細胞中に通常存在しないが、1またはそれを超える遺伝学的、生化学的またはその他の方法によって細胞中に導入することができる分子である。「細胞中での通常の存在」は、細胞の具体的な発達段階および環境条件に関して決定される。したがって、例えば、筋肉の胚発生の間にのみ存在する分子は、成体の筋肉細胞に関しては外因性分子である。同様に、熱ショックによって誘導される分子は、熱ショックを受けていない細胞に関しては外因性分子である。外因性分子は、例えば、機能しない内在性分子の機能するバージョンまたは正常に機能する内在性分子の機能しないバージョンを含むことができる。
【0065】
外因性分子は、とりわけ、コンビナトリアル化学プロセスによって生成されるような小分子、またはタンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖、上記分子の任意の修飾された誘導体もしくは上記分子の1つまたはそれより多くを含む任意の複合体などの高分子であり得る。核酸は、DNAおよびRNAを含み、一本鎖または二本鎖であり得、直鎖、分岐または環状であり得、任意の長さであり得る。核酸には、二本鎖を形成することができる核酸の他、三本鎖を形成する核酸が含まれる。例えば、米国特許第5,176,996号および同第5,422,251号を参照。タンパク質としては、DNA結合タンパク質、転写因子、クロマチンリモデリング因子、メチル化されたDNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ジャイレースおよびヘリカーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
外因性分子は、内在性分子と同じ種類の分子、例えば、外因性タンパク質または核酸であり得る。例えば、外因性核酸は、細胞中に導入される感染性ウイルスゲノム、プラスミドもしくはエピソームまたは細胞中に通常存在しない染色体を含むことができる。細胞中に外因性分子を導入する方法は当業者に公知であり、脂質によって媒介される導入(すなわち、中性および陽イオン性脂質を含むリポソーム)、電気穿孔、直接注入、細胞融合、微粒子銃、リン酸カルシウム共沈殿、DEAE-デキストランによって媒介される導入およびウイルスベクターによって媒介される導入が含まれるが、これらに限定されない。外因性分子は、内在性分子と同じ種類の分子であるが、細胞が由来する種とは異なる種にも由来し得る。例えば、マウスまたはハムスターから当初得られた細胞株中に、ヒト核酸配列が導入され得る。
【0067】
これに対して、「内在性」分子は、特定の環境条件下において、特定の発達段階で特定の細胞中に通常存在する分子である。例えば、内在性核酸は、染色体、ミトコンドリア葉緑体もしくはその他の細胞小器官のゲノム、または天然に存在するエピソーム性核酸を含むことができる。さらなる内在性分子としては、タンパク質、例えば、転写因子および酵素を挙げることができる。
【0068】
本明細書において使用される「外因性核酸の産物」という用語には、ポリヌクレオチドおよびポリペプチド産物の両方、例えば、転写産物(RNAなどのポリヌクレオチド)および翻訳産物(ポリペプチド)が含まれる。
【0069】
「融合」分子は、2つまたはそれを超えるサブユニット分子が、好ましくは共有結合で、連結されている分子である。サブユニット分子は、同じ化学的種類の分子とすることができ、または異なる化学的種類の分子とすることができる。融合分子の第一の種類の例としては、融合タンパク質(例えば、ZFPまたはTALE DNA結合ドメインと1またはそれを超える活性化ドメインとの間の融合物)および融合核酸(例えば、上記融合タンパク質をコードする核酸)が挙げられるが、これらに限定されない。融合分子の第二の種類の例としては、三本鎖形成核酸とポリペプチドとの間の融合物および副溝結合剤と核酸との間の融合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
細胞中での融合タンパク質の発現は、細胞への融合タンパク質の送達の結果または融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの細胞への送達の結果生じることができ、ここで、ポリヌクレオチドは転写され、転写物は翻訳されて、融合タンパク質を生成する。トランススプライシング、ポリペプチド切断およびポリペプチド連結も、細胞中でのタンパク質の発現に関与することができる。細胞へのポリヌクレオチドおよびポリペプチド送達のための方法は、本開示の他の箇所に提示されている。
【0071】
本開示において「遺伝子」は、遺伝子産物をコードするDNA領域(下記参照)の他、そのような制御配列がコード配列および/または転写された配列に隣接しているか否かを問わず、遺伝子産物の産生を制御するすべてのDNA領域を含む。したがって、遺伝子には、プロモーター配列、ターミネーター、リボソーム結合部位および内部リボソーム進入部位などの翻訳制御配列、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス付着部位および遺伝子座調節領域が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0072】
「遺伝子発現」は、遺伝子中に含有されている情報の、遺伝子産物への変換を表す。遺伝子産物は、遺伝子の直接の転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNAまたは任意の他の種類のRNA)またはmRNAの翻訳によって産生されるタンパク質であり得る。遺伝子産物には、キャップ形成、ポリアデニル化、メチル化および編集などのプロセスによって修飾されたRNA、ならびに、例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADP-リボシル化、ミリスチル化およびグリコシル化によって修飾されたタンパク質も含まれる。
【0073】
遺伝子発現の「モジュレーション」は、遺伝子の活性の変化を表す。発現のモジュレーションとしては、遺伝子活性化および遺伝子抑制を挙げることができるが、これらに限定されない。発現をモジュレートするために、ゲノム編集(例えば、切断、改変、不活化、ランダム変異)を使用することができる。遺伝子不活化は、本明細書に記載されているZFP、TALE、TtAgoまたはCRISPR/Cas系を含まない細胞と比較した、遺伝子発現の任意の低下を表す。したがって、遺伝子不活化は、部分的または完全であり得る。
【0074】
「関心対象の領域」は、外因性分子を結合することが望ましい細胞のクロマチンの任意の領域、例えば、遺伝子または遺伝子内もしくは遺伝子に隣接する非コード配列などである。結合は、標的化されたDNA切断および/または標的化された組換えを目的とすることができる。関心対象の領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官のゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)または感染性ウイルスゲノム中に存在することができる。関心対象の領域は、遺伝子のコード領域内に、転写された非コード領域内に、例えば、リーダー配列、トレーラー配列もしくはイントロンなどの中に、またはコード領域の上流もしくは下流のいずれかにある非転写領域内に存在し得る。関心対象の領域は、単一のヌクレオチド対と同じ小ささであり得、または最大2,000ヌクレオチド対の長さであり得、または任意の整数値のヌクレオチド対であり得る。
【0075】
「真核生物の」細胞としては、真菌細胞(酵母など)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞(例えば、T細胞)が挙げられるがこれらに限定されず、幹細胞(多能性および複能性)が含まれる。
【0076】
「機能的な連結」および「機能的に連結された」(または「動作可能に連結された」)という用語は、両成分が正常に機能し、成分の少なくとも1つが、少なくとも1つの他の成分に対して発揮される機能を媒介することができる可能性を許容するように成分が配置されている2またはそれを超える成分(配列要素など)の並置に関して互換的に使用される。例として、1またはそれを超える転写制御因子の存在または不存在に応答して、転写制御配列がコード配列の転写のレベルを調節すれば、プロモーターなどの転写制御配列はコード配列に機能的に連結されている。転写制御配列は、一般的に、コード配列とシスに機能的に連結されるが、コード配列に直接隣接する必要はない。例えば、エンハンサーは、たとえ連続していなくても、コード配列に機能的に連結される転写制御配列である。
【0077】
融合ポリペプチドに関して、「機能的に連結された」という用語は、成分のそれぞれが他の成分と連結されていない場合と同様に、成分のそれぞれが他の成分と連結されて同じ機能を実行するという事実を表すことができる。例えば、ZFP、TALE、TtAgoもしくはCas DNA結合ドメインが活性化ドメインに融合されている融合ポリペプチドに関して、活性化ドメインが遺伝子発現を上方制御することを可能にしながら、融合ポリペプチド中において、ZFP、TALE、TtAgoまたはCas DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位を結合することが可能であれば、ZFP、TALE、TtAgoまたはCas DNA結合ドメインと活性化ドメインは機能的に連結されている。ZFP、TALE、TtAgoもしくはCas DNA結合ドメインが切断ドメインに融合されている融合ポリペプチドの場合、切断ドメインが標的部位の近傍のDNAを切断することを可能にしながら、融合ポリペプチド中において、ZFP、TALE、TtAgoまたはCas DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位を結合することが可能であれば、ZFP、TALE、TtAgoまたはCas DNA結合ドメインと切断ドメインは機能的に連結されている。
【0078】
タンパク質、ポリペプチドまたは核酸の「機能的断片」は、その配列が完全長のタンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同一ではないが、完全長のタンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同じ機能をなお保持するタンパク質、ポリペプチドまたは核酸である。機能的断片は、対応する天然の分子より多い、より少ないもしくは同じ数の残基を有することができ、および/または1もしくはそれを超えるアミノ酸もしくはヌクレオチド置換を含有することができる。核酸の機能(例えば、コード機能、別の核酸配列とハイブリッドを形成する能力)を決定する方法は、本分野において周知である。同様に、タンパク質機能を決定する方法は周知である。例えば、ポリペプチドのDNA結合機能は、例えば、フィルター結合、電気泳動の移動度シフトまたは免疫沈降アッセイによって決定することができる。DNA切断は、ゲル電気泳動によってアッセイすることができる。Ausubelら、上記を参照。タンパク質が別のタンパク質と相互作用する能力は、例えば、共免疫沈降、ツーハイブリッドアッセイまたは相補性によって、遺伝学的および生化学的の両方で決定することができる。例えば、Fieldsら、(1989)Nature 340:245-246;米国特許第5,585,245号および国際公開第98/44350号を参照。
【0079】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に導入することができる。典型的には、「ベクター構築物」、「発現ベクター」および「遺伝子導入ベクター」は、関心対象の遺伝子の発現を誘導することが可能であり、遺伝子配列を標的細胞に導入することができる任意の核酸構築物を意味する。したがって、本用語は、クローニング、および発現媒体ならびに組み込みベクターを含む。
【0080】
「被験体」および「患者」という用語は互換的に使用され、ヒト患者および非ヒト霊長類などの哺乳動物ならびにウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウスおよびその他の動物などの実験動物を表す。したがって、本明細書において使用される「被験体」または「患者」という用語は、本発明のヌクレアーゼ、ドナーおよび/または遺伝子改変された細胞を投与することができる任意の哺乳動物の患者または被験体を意味する。本発明の被験体には、障害を有する被験体が含まれる。
【0081】
「幹細胞性」は、幹細胞様の様式で行動する任意の細胞の相対的能力、すなわち、任意の特定の幹細胞が有し得る、全能性、多能性または寡能性の程度および拡大したまたは無限の自己再生を表す。
「ACTR」は、外来的に供給された抗体に結合することが可能な操作されたT細胞成分である抗体結合型T細胞受容体(Antibody-coupled T-cell Receptor)である。ACTR成分への抗体の結合は、抗体によって認識される抗原と相互作用するようにT細胞を強化し、抗原に遭遇したときに、ACTRを含むT細胞は、抗原と相互作用するよう誘発される(米国特許出願公開第2015/0139943号参照)。
融合分子
【0082】
細胞中のmtDNA中の選択された標的遺伝子の切断に有用である組成物、例えば、ヌクレアーゼが本明細書に記載されている。
【0083】
ジンクフィンガータンパク質(「ZFP」)またはTALエフェクタードメイン(「TALE」)由来のDNA結合ドメインと、全て標的DNA部位に特異的に結合するように設計されている、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(「ZFN」)、TALEN、CRISPR/Casヌクレアーゼ系およびホーミングエンドヌクレアーゼを含む操作されたヌクレアーゼとを含む組換え転写因子は、内在性遺伝子の遺伝子発現を制御する能力を有しており、ゲノム工学、遺伝子治療およびミトコンドリア障害の処置において有用である。例えば、それらの内容の全体があらゆる目的のために参照により組み込まれる、米国特許第9,394,545号;同第9,150,847号;同第9,206,404号;同第9,045,763号;同第9,005,973号;同第8,956,828号;同第8,936,936号;同第8,945,868号;同第8,871,905号;同第8,586,526号;同第8,563,314号;同第8,329,986号;同第8,399,218号;同第6,534,261号;同第6,599,692号;同第6,503,717号;同第6,689,558号;同第7,067,317号;同第7,262,054号;同第7,888,121号;同第7,972,854号;同第7,914,796号;同第7,951,925号;同第8,110,379号;同第8,409,861号;米国特許出願公開第2003/0232410号;同第2005/0208489号;同第2005/0026157号;同第2005/0064474号;同第2006/0063231号;同第2008/0159996号;同第2010/0218264号;同第2012/0017290号;同第2011/0265198号;同第2013/0137104号;同第2013/0122591号;同第2013/0177983号;同第2013/0177960号;および同第2015/0056705号を参照。さらに、アルゴノート系(例えば、「TtAgo」として知られるT.thermophilusから得られる、Swartsら、(2014)Nature 507(7491):258-261参照)に基づいて、標的化されたヌクレアーゼが開発されており、同じく、ゲノム編集および遺伝子治療において使用できる潜在性を有し得る。
【0084】
ヌクレアーゼによって媒介される遺伝子治療は、(例えば、導入遺伝子挿入を介して、および/または内在性配列の修正を介して)1もしくはそれを超える不活化された遺伝子を有するように、および/またはその細胞中で以前には産生されていなかった産物をその細胞に発現させるように、細胞を遺伝的に操作するために使用することができる。導入遺伝子挿入の使用の例としては、1もしくはそれを超える新規治療用タンパク質をコードする1もしくはそれを超える遺伝子の挿入、細胞中でもしくは個体中で欠如しているタンパク質をコードするコード配列の挿入、変異された遺伝子配列を含有する細胞中での野生型遺伝子の挿入、および/またはshRNAもしくはsiRNAなどの構造核酸をコードする配列の挿入が挙げられる。内在性遺伝子配列の「修正」の有用な応用の例としては、疾患関連遺伝子変異の改変、ヘテロプラスミーのシフト、スプライス部位をコードする配列中の改変、制御配列中の改変およびタンパク質の構造的特徴をコードする配列の標的化された改変が挙げられる。導入遺伝子構築物は、相同組換え修復(HDR)または非相同末端結合(NHEJ)によって駆動されるプロセス中の末端捕捉のいずれかによって挿入することができる。例えば、米国特許第9,045,763号;同第9,005,973号;同第7,888,121号;および同第8,703,489号参照。
【0085】
これらの操作された転写因子およびヌクレアーゼを使用する臨床試験は、これらの分子が、がん、HIVおよび/または血液障害(異常ヘモグロビン症および/または血友病など)を含む様々な状態を処置することが可能であることを示した。例えば、Yuら、(2006)FASEB J.20:479-481;Tebasら、(2014)New Eng J Med 370(10):901参照。したがって、これらのアプローチは、疾患の処置のために使用することができる。
【0086】
ある実施形態において、融合分子の1またはそれを超える成分(例えば、ヌクレアーゼ)は天然に存在する。他の実施形態において、融合分子の成分(例えば、ヌクレアーゼ)の1またはそれより多くは、天然に存在しない、すなわち、DNA結合分子および/または切断ドメイン中において操作されている。例えば、天然に存在するヌクレアーゼのDNA結合部分は、選択された標的部位に結合するように改変され得る(例えば、CRISPR/Cas系のシングルガイドRNAまたは同族結合部位とは異なる部位に結合するように操作されているメガヌクレアーゼ)。他の実施形態において、ヌクレアーゼは、異種のDNA結合ドメインおよび切断ドメイン(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ;TALエフェクタードメインDNA結合タンパク質;異種の切断ドメインを有するメガヌクレアーゼDNA結合ドメイン)を含む。したがって、本発明の実施においては、標的遺伝子を切断し、その切断が標的遺伝子のゲノム改変をもたらす(例えば、切断された遺伝子中への挿入および/または欠失)、少なくとも1つのZFN、TALEN、メガヌクレアーゼ、CRISPR/Casヌクレアーゼなどを含むがこれらに限定されない任意のヌクレアーゼが使用され得る。
【0087】
ヌクレアーゼ複合体の操作された切断半ドメインパートナーの独立した滴定を通じて切断活性の特異性を増加させる方法も本明細書に記載されている。いくつかの実施形態において、2つのパートナー(半切断ドメイン)の比は、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:8、1:9、1:10または1:20の比またはこれらの間にある任意の値で与えられる。他の実施形態において、2つのパートナーの比は、1:30より大きい。他の実施形態において、2つのパートナーは、1:1とは異なるように選択された比で配置される。個別にまたは組み合わせて使用される場合、本発明の方法および組成物は、標的以外の切断活性の低下を介して、標的特異性の驚くべき、予想外の増加を与える。これらの実施形態において使用されるヌクレアーゼは、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas、CRISPR/dCasおよびTtAgoならびにこれらの任意の組み合わせを含み得る。
A.DNA結合分子
【0088】
本明細書に記載されている融合分子は、タンパク質ドメインおよび/またはポリヌクレオチドDNA結合ドメインを含む任意のDNA結合分子(DNA結合ドメインとも称される。)を含むことができる。ある実施形態において、DNA結合ドメインは、9~18またはそれを超えるヌクレオチドの標的部位に結合し、標的部位は1またはそれを超える変異体mtDNAを含む。変異は、点変異、例えば、m.5024C>T変異を含む標的部位であり得る。
【0089】
ある実施形態において、本明細書に記載されている組成物および方法は、ドナー分子に結合するためにおよび/または細胞のゲノム中の関心対象の領域に結合するために、メガヌクレアーゼ(ホーミングエンドヌクレアーゼ)DNA結合ドメインを利用する。天然に存在するメガヌクレアーゼは、15~40塩基対の切断部位を認識し、一般に、LAGLIDADGファミリー、GIY-YIGファミリー、His-CystボックスファミリーおよびHNHファミリーという4つのファミリーに分けられる。例示的なホーミングエンドヌクレアーゼとしては、I-SceI、I-CeuI、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-CsmI、I-PanI、I-SceII、I-PpoI、I-SceIII、I-CreI、I-TevI、I-TevIIおよびI-TevIIIが挙げられる。これらの認識配列は公知である。米国特許第5,420,032号および同第6,833,252号;Belfortら、(1997)Nucleic Acids Res.25:3379-3388;Dujonら、(1989)Gene 82:115-118;Perlerら、(1994)Nucleic Acids Res.22,1125-1127;Jasin(1996)Trends Genet.12:224‐228;Gimbleら、(1996)J.Mol.Biol.263:163-180;Argastら、(1998)J.Mol.Biol.280:345-353およびNew England Biolabsカタログも参照。さらに、ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼのDNA結合特異性は、非天然標的部位を結合するように操作することができる。例えば、Chevalierら、(2002)Molec.Cell 10:895-905;Epinatら、(2003)Nucleic Acids Res.31:2952-2962;Ashworthら、(2006)Nature 441:656-659;Paquesら、(2007)Current Gene Therapy 7:49-66;および米国特許出願公開第2007/0117128号を参照。ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、ヌクレアーゼ全体との関係で改変され得(すなわち、ヌクレアーゼが、同族切断ドメインを含むように)、または異種の切断ドメインに融合され得る。
【0090】
他の実施形態において、本明細書に記載されている方法および組成物において使用されるヌクレアーゼの1またはそれより多くのDNA結合ドメインは、天然に存在するまたは操作された(天然に存在しない)TALエフェクターDNA結合ドメインを含む。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,586,526号を参照。Xanthomonas属の植物病原性細菌は、重要な農作物に多くの疾患を引き起こすことが知られている。Xanthomonasの病原性は、植物細胞中に25を超える異なるエフェクタータンパク質を注入する保存されたIII型分泌(T3S)系に依存する。これらの注入されるタンパク質としては、植物の転写活性因子を模倣し、植物のトランスクリプトームを巧みに操作する(manipulate)転写活性化因子様(TAL)エフェクターがある(Kayら、(2007)Science 318:648-651参照)。これらのタンパク質は、DNA結合ドメインおよび転写活性化ドメインを含有する。最もよく性質決定されたTALエフェクターの1つは、Xanthomonas campestgris pv.Vesicatoriaから得られるAvrBs3である(Bonasら、(1989)Mol Gen Genet 218:127-136および国際公開第2010/079430号参照)。TALエフェクターは、タンデムリピートの集中型ドメイン(centralized domain)を含有し、各リピートは、これらのタンパク質のDNA結合特異性にとって重要なおよそ34アミノ酸を含有する。さらに、TALエフェクターは、核局在化配列および酸性転写活性化ドメインを含有する(概説として、Schornack ら、(2006)J Plant Physiol 163(3):256‐272を参照)。さらに、植物病原性細菌Ralstonia solanacearumでは、R.solanacearum次亜種1株GMI1000および次亜種4株RS1000において、XanthomonasのAvrBs3ファミリーと相同であるbrg11およびhpx17と命名された2つの遺伝子が見出された(Heuerら、(2007)Appl and Envir Micro 73(13):4379‐4384を参照)。これらの遺伝子は、ヌクレオチド配列において互いと98.9%同一であるが、hpx17の反復ドメインにおける1,575bpの欠失が異なる。しかしながら、両遺伝子産物は、XanthomonasのAvrBs3ファミリータンパク質と40%未満の配列同一性を有する。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,586,526号を参照。
【0091】
これらのTALエフェクターの特異性は、タンデムリピート中に見出される配列に依存する。反復される配列はおよそ102bpを含み、リピートは、典型的には、互いに91~100%相同である(Bonasら、同書)。リピートの多型は、通常、12および13位に位置し、12および13位における超可変二残基(hypervariable diresidues)(RVD)の同一性と、TALエフェクターの標的配列中の連続するヌクレオチドの同一性との間には1対1の対応が存在するとみられる(Moscou and Bogdanove,(2009)Science 326:1501およびBochら(2009)Science 326:1509‐1512を参照)。実験的に、これらのTALエフェクターのDNA認識のための天然のコードが決定されており、12および13位におけるHD配列がシトシン(C)への結合をもたらし、NGがTに結合し、NIがA、C、GまたはTに結合し、NNがAまたはGに結合し、INGがTに結合する。新しい配列と相互作用し、植物細胞中で非内在性レポーター遺伝子の発現を活性化することができる人工の転写因子を作るために、これらのDNA結合リピートは、新しいリピートの組み合わせおよび数を有するタンパク質に組み立てられた(Bochら、同書)。操作されたTALタンパク質をFokI切断半ドメインに連結して、TALエフェクタードメインヌクレアーゼ融合物(TALEN)が得られた。例えば、米国特許第8,586,526号;Christianら、(2010)Genetics epub 10.1534/genetics.110.120717)を参照。ある実施形態において、TALEドメインは、米国特許第8,586,526号に記載されているようなNキャップおよび/またはCキャップを含む。
【0092】
ある実施形態において、細胞のゲノムのインビボ切断および/または標的化切断のために使用されるヌクレアーゼの1またはそれより多くのDNA結合ドメインは、ジンクフィンガータンパク質を含む。好ましくは、ジンクフィンガータンパク質は、選択した標的部位に結合するように操作されている点で天然には存在しない。例えば、全てその全体が参照により本明細書に組み込まれる、Beerliら、(2002)Nature Biotechnol.20:135-141;Paboら、(2001)Ann.Rev.Biochem.70:313-340;Isalanら、(2001)Nature Biotechnol.19:656-660;Segalら、(2001)Curr.Opin.Biotechnol.12:632-637;Chooら、(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:411-416;米国特許第6,453,242号;同第6,534,261号;同第6,599,692号;同第6,503,717号;同第6,689,558号;同第7,030,215号;同第6,794,136号;同第7,067,317号;同第7,262,054号;同第7,070,934号;同第7,361,635号;同第7,253,273号;および米国特許出願公開第2005/0064474号;同第2007/0218528号;同第2005/0267061号を参照。
【0093】
操作されたジンクフィンガー結合ドメインは、天然に存在するジンクフィンガータンパク質と比較して新しい結合特異性を有することができる。操作する方法としては、合理的な設計および様々な種類の選択が挙げられるが、これらに限定されない。合理的な設計としては、例えば、トリプレット(またはクアドルプレット)ヌクレオチド配列および個別の亜鉛フィンガーアミノ酸配列を含み、各トリプレットまたはクアドルプレットヌクレオチド配列が、特定のトリプレットまたはクアドルプレット配列を結合するジンクフィンガーの1またはそれを超えるアミノ酸配列と関連付けられているデータベースを使用することが挙げられる。例えば、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、共有の米国特許第6,453,242号および同第6,534,261号を参照。
【0094】
ファージディスプレイおよびツーハイブリッド系を含む例示的な選択方法が、米国特許第5,789,538号;同第5,925,523号;同第6,007,988号;同第6,013,453号;同第6,410,248号;同第6,140,466号;同第6,200,759号;および同第6,242,568号;ならびに国際公開第98/37186号;同第98/53057号;同第00/27878号;同第01/88197号;および英国特許第2,338,237号に開示されている。さらに、ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の強化が、例えば、共有の国際公開第02/077227号に記載されている。
【0095】
さらに、これらおよび他の参考文献に開示されているように、ジンクフィンガードメインおよび/またはマルチフィンガーのジンクフィンガータンパク質は、例えば、5またはそれを超えるアミノ酸の長さのリンカーを含む任意の適切なリンカー配列を用いて一緒に連結され得る。6またはそれを超えるアミノ酸の長さの例示的なリンカー配列に関しては、米国特許第6,479,626号;同第6,903,185号;および同第7,153,949号も参照されたい。本明細書に記載されているタンパク質は、タンパク質の各ジンクフィンガーの間に適切なリンカーの任意の組み合わせを含み得る。
【0096】
ZFPは、ZFNを形成するために、1またはそれを超えるヌクレアーゼ(切断)ドメインに、動作可能に会合(連結)させることができる。用語「ZFN」は、二量体を形成して標的遺伝子を切断するZFNの対を含む。方法および組成物は、オフターゲット部位として知られる他の意図されない切断部位に比べて、その意図する標的に対するヌクレアーゼ対を含むZFNの特異性を増加させるために使用することもできる(米国特許出願公開第2018/0087072号参照)。したがって、本明細書に記載されているヌクレアーゼは、そのDNA結合ドメイン骨格領域の1もしくはそれより多くの中に変異を含むことができ、および/またはそのヌクレアーゼ切断ドメイン中に1もしくはそれを超える変異を含むことができる。これらのヌクレアーゼは、DNA骨格上のホスフェートと非特異的に相互作用することができるZFP DNA結合ドメイン(「ZFP骨格」)内にアミノ酸に対する変異を含むことができるが、DNA認識ヘリックス中には変化を含まない。したがって、本発明は、ヌクレオチド標的特異性にとって必要とされない、ZFP骨格中の陽イオン性アミノ酸残基の変異を含む。いくつかの実施形態において、ZFP骨格中のこれらの変異は、陽イオン性アミノ酸残基を中性または陰イオン性アミノ酸残基に変異させることを含む。いくつかの実施形態において、ZFP骨格中のこれらの変異は、極性アミノ酸残基を中性または非極性アミノ酸残基に変異させることを含む。好ましい実施形態において、変異は、DNA結合ヘリックスに対して位置(-5)、(-9)および/または位置(-14)に作られる。いくつかの実施形態において、ジンクフィンガーは、(-5)、(-9)および/または(-14)に1またはそれを超える変異を含み得る。さらなる実施形態において、マルチフィンガージンクフィンガータンパク質中の1またはそれを超えるジンクフィンガーは、(-5)、(-9)および/または(-14)に変異を含み得る。いくつかの実施形態において、(-5)、(-9)および/または(-14)におけるアミノ酸(例えば、アルギニン(R)またはリジン(K))は、アラニン(A)、ロイシン(L)、Ser(S)、Asp(N)、Glu(E)、Tyr(Y)および/またはグルタミン(Q)へ変異される。
【0097】
いくつかの態様において、DNA結合ドメイン(例えば、ZFP、TALE、sgRNAなど)は、野生型と比較して、変異体mtDNAを優先的に標的とする。対を成すヌクレアーゼにおいて、1つのDNA結合ドメインは野生型配列を標的とし得、他のDNA結合ドメインは変異体配列を標的とし得る。または、DNA結合ドメインの両方が、野生型または変異体配列を標的とし得る。ある実施形態において、DNA結合ドメインは、表2に示されている変異体mtDNA(例えば、m.5024C>T)中の部位(9~18またはそれを超えるヌクレオチド)を標的とする。他の実施形態において、DNA結合ドメインは、以下の変異:1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cまたは14709Cの1もしくはそれより多くを含む変異体mtDNA中の配列を標的とする。
【0098】
標的部位の選択;ZFPならびに融合タンパク質(およびこれをコードするポリヌクレオチド)の設計および構築の方法は、当業者に公知であり、米国特許第6,140,081号;同第5,789,538号;同第6,453,242号;同第6,534,261号;同第5,925,523号;同第6,007,988号;同第6,013,453号;同第6,200,759号;ならびに国際公開第95/19431号;同第96/06166号;同第98/53057号;同第98/54311号;同第00/27878号;同第01/60970号;同第01/88197号;同第02/099084号;同第98/53058号;同第98/53059号;同第98/53060号;同第02/016536号;および同第03/016496号に詳しく記載されている。
【0099】
さらに、これらおよび他の参考文献に開示されているように、ジンクフィンガードメインおよび/またはマルチフィンガーのジンクフィンガータンパク質は、例えば、5またはそれを超えるアミノ酸の長さのリンカーを含む任意の適切なリンカー配列を用いて一緒に連結され得る。6またはそれを超えるアミノ酸の長さの例示的なリンカー配列に関しては、米国特許第6,479,626号;同第6,903,185号;および同第7,153,949号も参照されたい。本明細書に記載されているタンパク質は、タンパク質の各ジンクフィンガーの間に適切なリンカーの任意の組み合わせを含み得る。
【0100】
ある実施形態において、DNA結合分子は、CRISPR/Casヌクレアーゼ系の一部である。例えば、米国特許第8,697,359号およびに米国特許出願公開第2015/0056705号を参照。系のRNA成分をコードするCRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)遺伝子座、およびタンパク質をコードするcas(CRISPR関連)遺伝子座(Jansenら、(2002)Mol.Microbiol.43:1565-1575;Makarovaら、(2002)Nucleic Acids Res.30:482-496;Makarovaら、(2006)Biol.Direct 1:7;Haftら、(2005)PLoS Comput.Biol.1:e60)は、CRISPR/Casヌクレアーゼ系の遺伝子配列を構成する。微生物宿主中のCRISPR遺伝子座は、CRISPR関連(Cas)遺伝子の組み合わせの他、CRISPRによって媒介される核酸切断の特異性をプログラミングすることが可能な非コードRNA要素を含有する。
【0101】
II型CRISPRは、最もよく性質決定された系の1つであり、4つの連続するステップで、標的化されたDNA二本鎖切断を行う。第一に、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイとtracrRNAが、CRISPR遺伝子座から転写される。第二に、tracrRNAは、プレcrRNAのリピート領域にハイブリッド形成し、各スペーサー配列を含有する成熟crRNAへのプレcrRNAのプロセシングを媒介する。第三に、成熟crRNA:tracrRNA複合体は、crRNA上のスペーサーと標的認識のためにさらに必要なプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣にある標的DNA上のプロトスペーサーとの間でのワトソンクリック塩基対合を介して、標的DNAにCas9を誘導する。最後に、Cas9が、標的DNAの切断を媒介して、プロトスペーサー内に二本鎖切断を作出する。CRISPR/Cas系の活性は、(i)「アダプテーション」と呼ばれるプロセスでの、将来の攻撃を防ぐための、CRISPRアレイ中への外来DNA配列の挿入、(ii)関連するタンパク質の発現ならびにアレイの発現およびプロセシングに続く(iii)RNAによって媒介される外来核酸の干渉という3つのステップから構成される。したがって、細菌の細胞中では、いわゆる「Cas」タンパク質のいくつかは、CRISPR/Cas系の天然の機能に関与し、外来DNAなどの挿入のような機能において役割を果たす。
【0102】
ある実施形態において、Casタンパク質は、天然に存在するCasタンパク質の「機能的誘導体」であり得る。天然配列ポリペプチドの「機能的誘導体」とは、天然配列ポリペプチドと共通する質的な生物学的特性を有する化合物である。「機能的誘導体」としては、天然配列の断片ならびに天然配列ポリペプチドおよびその断片の誘導体が挙げられるが、これらに限定されず、但し、これらは、対応する天然配列ポリペプチドと共通する生物学的活性を有する。本明細書において想定される生物学的活性は、DNA基質を断片へ加水分解する機能的誘導体の能力である。用語「誘導体」は、ポリペプチドのアミノ酸配列バリアント、共有結合的修飾(covalent modifications)およびこれらの融合物のいずれをも包含する。Casポリペプチドまたはその断片の適切な誘導体としては、Casタンパク質またはその断片の変異体、融合物、共有結合的修飾が挙げられるが、これらに限定されない。Casタンパク質またはその断片を含むCasタンパク質、およびCasタンパク質またはその断片の誘導体は、細胞から取得可能であり得、または化学的にもしくはこれら2つの手順の組み合わせによって合成され得る。細胞は、Casタンパク質を天然に産生する細胞であり得、またはCasタンパク質を天然に産生し、より高い発現レベルで内在性Casタンパク質を産生するようにもしくは内在性Casと同じまたは異なるCasをコードする外因性に導入された核酸からCasタンパク質を産生するように遺伝子操作されている細胞であり得る。いくつかの事例において、細胞は、天然にはCasタンパク質を産生せず、Casタンパク質を産生するように遺伝子操作される。いくつかの実施形態において、Casタンパク質は、AAVベクターを介して送達するための小さなCas9オルソログである(Ranら、(2015)Nature 510,p.186)。
【0103】
いくつかの実施形態において、DNA結合分子は、TtAgo系の一部である(Swartsら、同書;Shengら、同書を参照)。真核生物では、遺伝子サイレンシングは、アルゴノート(Ago)ファミリーのタンパク質によって媒介される。このパラダイムでは、Agoは、小さな(19~31ヌクレオチド)RNAに結合される。このタンパク質‐RNAサイレンシング複合体は、小さなRNAと標的との間でのワトソン‐クリック塩基対形成を介して標的RNAを認識し、標的RNAをエンドヌクレアーゼ的に切断する(Vogel(2014)Science 344:972‐973)。これに対して、原核生物のAgoタンパク質は、小さな一本鎖DNA断片に結合し、おそらく、外来の(多くの場合、ウイルスの)DNAを検出し、除去するように機能する(Yuanら、(2005)Mol.Cell 19,405;Olovnikovら(2013)Mol.Cell 51,594;Swartsら、同書)。例示的な原核生物のAgoタンパク質としては、Aquifex aeolicus、Rhodobacter sphaeroidesおよびThermus thermophilusに由来するものが挙げられる。
【0104】
最もよく性質決定された原核生物のAgoタンパク質の1つは、T.thermophilusに由来するものである(TtAgo;Swartsら、同書)。TtAgoは、5’リン酸基を有する15ヌクレオチドまたは13~25ヌクレオチドの一本鎖DNA断片と会合する。TtAgoによって結合されるこの「ガイドDNA」は、タンパク質‐DNA複合体が、サードパーティ分子中のワトソン‐クリック相補的DNA配列を結合するように導く役割を果たす。これらのガイドDNA中の配列情報が標的DNAの特定を可能にすると、TtAgo‐ガイドDNA複合体は標的DNAを切断する。このような機序は、その標的DNAに結合している間のTtAgo‐ガイドDNA複合体の構造によっても支持される(G.Shengら、同書)。Rhodobacter sphaeroides由来のAgo(RsAgo)は、類似の特性を有する(Olivnikovら、同書)。
【0105】
任意のDNA配列の外因性ガイドDNAを、TtAgoタンパク質上にロードすることができる(Swartsら、同書)。TtAgo切断の特異性はガイドDNAによって誘導されるので、研究者が指定した外因性ガイドDNAとともに形成されたTtAgo‐DNA複合体は、したがって、TtAgo標的DNA切断を、研究者が指定した相補的な標的DNAに誘導する。このようにして、標的化された二本鎖切断をDNA中に作出し得る。TtAgo‐ガイドDNA系(または他の生物に由来するオルソロガスなAgo‐ガイドDNA系)を使用することにより、細胞内でのゲノムDNAの標的化切断が可能になる。このような切断は、一本鎖または二本鎖のいずれかであり得る。哺乳動物ゲノムDNAの切断については、哺乳動物細胞中での発現に関してコドン最適化されたバージョンのTtAgoを使用することが好ましいであろう。さらに、TtAgoタンパク質が細胞透過性ペプチドに融合される場合には、インビトロで形成されたTtAgo‐DNA複合体で細胞を処理することが恐らく好ましい。さらに、変異誘発を介して37℃において改善された活性を有するように改変されたバージョンのTtAgoタンパク質を使用することが恐らく好ましい。Ago‐RNA媒介性DNA切断は、DNA切断を活用するための本分野における標準的な技術を用いて、遺伝子ノックアウト、標的化された遺伝子付加、遺伝子修正、標的化された遺伝子欠失を含む多数の結果をもたらすために使用する可能性がある。
【0106】
したがって、ヌクレアーゼは、ドナー(導入遺伝子)をその中に挿入することが所望される任意の遺伝子中の標的部位に特異的に結合する点で、DNA結合分子を含む。
B.切断ドメイン
【0107】
ヌクレアーゼを形成するために、任意の適切な切断ドメインをDNA結合ドメインに機能的に連結することができる。例えば、様々な生物中でゲノム改変において使用するなどのために、その操作された(ZFP)DNA結合ドメインを通じてその意図される核酸標的を認識し、ヌクレアーゼ活性を介してZFP結合部位の近くでDNAが切断されるようにすることができる機能的実体であるZFNを作製するために、ZFP DNA結合ドメインがヌクレアーゼドメインに融合されてきた。例えば、米国特許第7,888,121号;同第8,623,618号;同第7,888,121号;同第7,914,796号;および同第8,034,598号;ならびに米国特許出願公開第2011/0201055号を参照。同様に、TALENを作製するために、TALE DNA結合ドメインがヌクレアーゼドメインに融合されてきた。例えば、米国特許第8,586,526号参照。
【0108】
上記のように、切断ドメインはDNA結合ドメインに対して異種(heterologous)であってもよい、例えば、ジンクフィンガーDNA結合ドメインおよびヌクレアーゼ由来の切断ドメインまたはTALEN DNA結合ドメインおよび切断ドメインまたはメガヌクレアーゼDNA結合ドメインおよび異なるヌクレアーゼ由来の切断ドメインであってもよい。異種の切断ドメインは、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから取得することができる。切断ドメインが由来し得る例示的なエンドヌクレアーゼとしては、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。DNAを切断するさらなる酵素が公知である(例えば、S1ヌクレアーゼ;緑豆ヌクレアーゼ;膵臓DNAアーゼI;小球菌ヌクレアーゼ;酵母HOエンドヌクレアーゼ。切断ドメインおよび切断半ドメインの供給源として、これらの酵素(またはその機能的断片)の1つまたはそれより多くを使用することができる。
【0109】
同様に、切断半ドメインは、上述のように、切断活性のために二量体化を必要とする任意のヌクレアーゼまたはその一部に由来することができる。一般に、融合タンパク質が切断半ドメインを含む場合には、2つの融合タンパク質が切断のために必要とされる。または、2つの切断半ドメインを含む単一のタンパク質を使用することができる。2つの切断半ドメインは、同一のエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)に由来することができ、または各切断半ドメインは異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)に由来することができる。さらに、好ましくは、2つの融合タンパク質に対する標的部位は、2つの融合タンパク質がそれぞれの標的部位に結合することにより、切断半ドメインが例えば二量体化によって機能的切断ドメインを形成することが可能な互いに対しての空間的方向に切断半ドメインを置くように、互いに関して配置される。したがって、ある実施形態において、標的部位の端部付近は、5~8ヌクレオチドによってまたは15~18ヌクレオチドによって隔てられる。しかしながら、任意の整数のヌクレオチドまたはヌクレオチド対が、2つの標的部位の間に介在することができる(例えば、2~50ヌクレオチド対またはそれを超える)。一般に、切断の部位は標的部位の間に位置する。
【0110】
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は多くの種に存在しており、(認識部位における)DNAへの配列特異的結合および結合の部位またはその近くにおけるDNAの切断が可能である。ある種の制限酵素(例えば、IIS型)は、認識部位から離れた部位においてDNAを切断し、分離可能な結合ドメインと切断ドメインとを有する。例えば、IIS型酵素FokIは、一方の鎖上のその認識部位から9ヌクレオチド、他方の鎖上のその認識部位から13ヌクレオチドにおいて、DNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号;同第5,436,150号;および同第5,487,994号;ならびにLiら、(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4275-4279;Liら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2764-2768;Kimら、(1994a)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:883-887;Kimら、(1994b)J.Biol.Chem.269:31,978-31,982を参照。したがって、一実施形態において、融合タンパク質は、少なくとも1つのIIS型制限酵素からの切断ドメイン(または切断半ドメイン)と1またはそれを超えるジンクフィンガー結合ドメインとを含み、これらは操作されてもよく、操作されなくてもよい。
【0111】
その切断ドメインが結合ドメインから分離可能である例示的なIIS型制限酵素は、FokIである。この特定の酵素は、二量体として活性である。Bitinaiteら、(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA95;10,570-10,575。したがって、本開示において、開示された融合タンパク質中で使用されるFokI酵素の部分は、切断半ドメインと考えられる。したがって、ジンクフィンガー-FokI融合物を使用する標的化された二本鎖切断および/または細胞配列の標的化された置換のために、それぞれがFokI切断半ドメインを含む2つの融合タンパク質を、触媒的に活性を有する切断ドメインを再構成するために使用することができる。または、ジンクフィンガー結合ドメインおよび2つのFokI切断半ドメインを含有する単一のポリペプチド分子も使用することができる。ジンクフィンガー-FokI融合物を用いる標的化された切断および標的化された配列改変のためのパラメータは、本開示の他の箇所に提供されている。
【0112】
切断ドメインまたは切断半ドメインは、切断活性を保持する、または多量体化(例えば、二量体化)して、機能的切断ドメインを形成する能力を保持するタンパク質の任意の部分であり得る。
【0113】
例示的なIIS型制限酵素は、その全体が本明細書に組み込まれる国際公開第07/014275号に記載されている。さらなる制限酵素も分離可能な結合ドメインと切断ドメインを含有し、これらは本開示によって想定される。例えば、Robertsら、(2003)Nucleic Acids Res.31:418-420を参照。
【0114】
ある実施形態において、切断ドメインは、例えば、その全ての開示内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,623,618号;同第7,888,121号;同第7,914,796号;および同第8,034,598号;ならびに米国特許出願公開第2011/0201055号に記載されているように、ホモ二量体化を最小限にするまたは抑止する1またはそれを超える操作された切断半ドメイン(二量体化ドメイン変異体とも称される。)を含む。FokIの446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537および538位のアミノ酸残基は全て、FokI切断半ドメインの二量体化に影響を与えるための標的である。
【0115】
ある実施形態において、操作された切断半ドメインはFokIに由来し、以下に示されているように、野生型FokI切断半ドメイン(完全長FokIの残基394~579)に対して付番されたアミノ酸残基416、422、447、448および/または525の1またはそれより多くの中に1またはそれを超える変異を含む(例えば、米国特許出願公開第2018/0087072号参照)。
野生型FokI切断半ドメイン(配列番号1)
QLVKSELEEKKSELRHKLKYVPHEYIELIEIARNSTQDRILEMKVMEFFMKVYGYRGKHLGGSRKPDGAIYTVGSPIDYGVIVDTKAYSGGYNLPIGQADEMQRYVEENQTRNKHINPNEWWKVYPSSVTEFKFLFVSGHFKGNYKAQLTRLNHITNCNGAVLSVEELLIGGEMIKAGTLTLEEVRRKFNNGEINF
【0116】
これらの変異は、FokIドメインとDNA分子間の非特異的相互作用を減少させる。他の実施形態において、FokIに由来する切断半ドメインは、アミノ酸残基414~426、443~450、467~488、501~502および/または521~531の1つまたはそれより多くの中に変異を含む。これらの変異には、FokIと相同な天然の制限酵素中に見出される残基に対する変異が含まれ得る。ある実施形態において、変異は、置換、例えば、異なるアミノ酸、例えばセリン(S)での野生型残基の置換、例えば、R416SまたはK525Sである。好ましい実施形態において、416、422、447、448および/または525位における変異は、無電荷のアミノ酸または負に帯電したアミノ酸での正に帯電したアミノ酸の置換を含む。別の実施形態において、操作された切断半ドメインは、1またはそれを超えるアミノ酸残基416、422、447、448または525中の変異に加えて、アミノ酸残基499、496および486中に変異を含む。好ましい実施形態において、本発明は、操作された切断半ドメインが、416、422、447、448または525位の1またはそれを超える変異に加えて、486位の野生型Gln(Q)残基がGlu(E)残基で置換されており、499位の野生型Ile(I)残基がLeu(L)残基で置換されており、および496位の野生型Asn(N)残基がAsp(D)またはGlu(E)残基で置換されている(「ELD」または「ELE」)ポリペプチドを含む融合タンパク質を提供する。
【0117】
1を超える変異、例えば、「E490K:I538K」と表記される操作された切断半ドメインを作製するための、1つの切断半ドメイン中における490位(E→K)および538位(I→K)での変異を有する切断ドメインは、「Q486E:I499L」と表記される操作された切断半ドメインを作製するために、別の切断半ドメイン中に486位(Q→E)および499位(I→L)を変異させることによって使用される;486位の野生型Gln(Q)残基をGlu(E)残基で、499位の野生型Iso(I)残基をLeu(L)残基で、および496位の野生型Asn(N)残基をAsp(D)もしくはGlu(E)残基で置換する変異(それぞれ、「ELD」および「ELE」ドメインとも称される。);490、538および537位(野生型FokIに対して付番されている。)に変異、例えば、490位の野生型Glu(E)残基をLys(K)残基で、538位の野生型Iso(I)残基をLys(K)残基で、および537位の野生型His(H)残基をLys(K)残基もしくはArg(R)で置換する変異(それぞれ、「KKK」および「KKR」ドメインとも称される。)を含む操作された切断半ドメイン;ならびに/または操作された切断半ドメインは、490位および537位(野生型FokIに対して付番されている。)を含み、操作された切断半ドメインは、490位および537位(野生型FokIに対して付番されている。)に変異、例えば、490位の野生型Glu(E)残基をLys(K)残基で、および537位の野生型His(H)残基をLys(K)残基もしくはArg(R)残基で置き換える変異(それぞれ、「KIK」および「KIR」ドメインとも称される。)を含む。例えば、それらの開示の全体があらゆる目的のために参照により組み込まれる、米国特許第7,914,796号;同第8,034,598号;および同第8,623,618号を参照。別の実施形態において、操作された切断半ドメインは、「シャーキー」および/または「シャーキー」変異を含む(Guoら、(2010)J.Mol.Biol.400(1):96-107を参照)。
【0118】
または、ヌクレアーゼは、いわゆる、「開裂酵素(split-enzyme)」技術を用いて、核酸標的部位において、インビボで組み立てられ得る(例えば、米国特許出願公開第2009/0068164号参照)。このような開裂酵素の成分は、別個の発現構築物上で発現され得、または、例えば、自己切断2AペプチドまたはIRES配列によって、各成分が隔てられている1つの読み取り枠中に連結することができる。成分は、個別のジンクフィンガードメインであり得、またはメガヌクレアーゼ核酸結合ドメインのドメインであり得る。
【0119】
ヌクレアーゼは、例えば、米国特許第8,563,314号に記載されているような酵母を基礎とする染色体系中で、使用前に、活性に関してスクリーニングすることができる。
【0120】
Cas9関連CRISPR/Cas系は、同一のダイレクトリピート(DR)によって介在されたヌクレアーゼガイド配列(スペーサー)を含有するtracrRNAおよびプレcrRNAアレイという2つのRNA非コード成分を含む。CRISPR/Cas系を使用してゲノム工学を実現するためには、これらのRNAの両方の機能が存在しなければならない(Congら、(2013)Sciencexpress 1/10.1126/science1231143参照)。いくつかの実施形態において、tracrRNAおよびプレcrRNAは、別個の発現構築物を介してまたは別個のRNAとして供給される。他の実施形態において、キメラcrRNA-tracrRNAハイブリッド(シングルガイドRNAとも名付けられる。)を作製するために、操作された成熟crRNA(標的特異性を付与する)がtracrRNA(Cas9との相互作用を供給する)に融合されているキメラRNAが構築される。(Jinekら、(2012)Science 337:816-821;Jinekら、(2013)eLife 2:e00471.DOI:10.7554/eLife.00471 and Cong、同書参照)。
【0121】
いくつかの実施形態において、CRISPR-Cpf1系が使用される。Francisella属種中で同定されたCRISPR-Cpf1系は、ヒト細胞中で強固なDNA干渉を媒介するクラス2CRISPR-Cas系である。機能的に保存されているが、Cpf1およびCas9は、それらのガイドRNAおよび基質特異性など、多くの面で異なる(Fagerlundら、(2015)Genom Bio16:251参照)。Cas9とCpf1タンパク質との主な差異は、Cpf1はtracrRNAを使用せず、したがって、crRNAのみを必要とすることである。FnCpf1 crRNAは、42~44ヌクレオチド(19ヌクレオチドリピートおよび23~25ヌクレオチドスペーサー)であり、二次構造を保持する配列変化を許容する単一ステムループを含有する。さらに、Cpf1 crRNAは、Cas9によって必要とされる約100ヌクレオチドの操作されたsgRNAより有意に短く、FnCpfIのPAM要求性は、置換された鎖上での5’-TTN-3’および5’-CTA-3’である。Cas9およびCpf1はいずれも標的DNA中に二本鎖切断を作るが、Cas9は、ガイドRNAのシード配列内に平滑末端化された切断を作るために、そのRuvC様およびHNH様ドメインを使用するのに対して、Cpf1は、シードの外側に互い違いの切断を生成するために、RuvC様ドメインを使用する。Cpf1は、互い違いの切断を重要なシード領域から離れて作るので、NHEJは標的部位を崩壊させず、したがって、所望のHDR組換え事象が起こるまで、Cpf1は同じ部位を確実に切断し続けることができる。したがって、本明細書に記載されている方法および組成物において、「Cas」という用語は、Cas9およびCpf1タンパク質の両方を含むことが理解される。したがって、本明細書において使用される場合、「CRISPR/Cas系」は、CRISPR/Casおよび/またはCRISPR/Cpf1系の両方を表し、ヌクレアーゼおよび/または転写因子系の両方を含む。
標的部位
【0122】
上に詳しく記載されているように、DNA結合ドメインは、選択した任意の配列に結合するように操作することができる。操作されたDNA結合ドメインは、天然に存在するDNA結合ドメインと比較して新しい結合特異性を有することができる。
【0123】
ヌクレアーゼ(複数可)は、ある実施形態において、任意の野生型または変異体mtDNA配列を標的とすることができ、ヌクレアーゼは、変異体mtDNA、例えば、1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cもしくは14709Cまたは表2に示されている標的部位などの、変異体mtDNA配列を包含する9~25またはそれを超えるヌクレオチドの標的部位(連続または非連続)を選択的に標的とする。
【0124】
本明細書の教示に従ったこのような発現カセットの構築は、分子生物学の分野において周知の方法論を使用する(例えば、AusubelまたはManiatis参照)。トランスジェニック動物を作製するために発現カセットを使用する前に、適切な細胞株(例えば、初代細胞、形質転換された細胞または不死化された細胞株)中に発現カセットを導入することによって、選択された調節要素を伴うストレス誘導因子に対する発現カセットの応答性を試験することができる。
【0125】
さらに、発現のために必要とされないが、外因性配列は、転写または翻訳制御配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、インスレーター、内部リボソーム進入部位、2Aペプチドをコードする配列、ハンマーヘッド型リボザイム、標的化ペプチドおよび/またはポリアデニル化シグナルでもあり得る。さらに、関心対象の遺伝子の調節要素は、キメラ遺伝子(例えば、レポーター発現カセット)を作製するために、レポーター遺伝子に動作可能に連結することができる。
【0126】
非コード核酸配列の標的化された挿入も達成され得る。アンチセンスRNA、RNAi、shRNAおよびマイクロRNA(miRNA)をコードする配列も、標的化された挿入のために使用され得る。
【0127】
さらなる実施形態において、ドナー核酸は、さらなるヌクレアーゼ設計に対する特異的な標的部位である非コード配列を含み得る。引き続いて、元のドナー配列が切断され、関心対象の別のドナー分子の挿入によって改変されるように、さらなるヌクレアーゼを細胞中で発現させ得る。このようにして、ドナー分子の反復組み込みが生成され得、関心対象の特定の遺伝子座におけるまたはセーフハーバー遺伝子座における形質スタッキングを可能にする。
細胞
【0128】
したがって、遺伝子改変されたmtDNA遺伝子を含む遺伝子改変された細胞が本明細書において提供される。ある実施形態において、改変は、ヘテロプラスミー比mtDNAが変更されるような変異体mtDNAの切断を含む。ある実施形態において、変異体mtDNAは、ミトコンドリア障害と関連する障害または症状が処置および/または予防されるように、1またはそれを超えるミトコンドリア障害を有する患者中で切断される。ヌクレアーゼは、任意の変異体mtDNAを差次的に結合および切断し得、m.5024C>Tなどの点変異での結合が含まれるが、これに限定されない。
【0129】
ランダム切断とは異なり、標的化された切断では、例えば、DNA結合ドメインが変異配列に結合し、変異体形態に対して特異性を示すようにヌクレアーゼが設計されている場合に、野生型と比べて、mtDNAの変異体形態が優先的に切断されることが確保される。
【0130】
細胞および細胞株を含むがこれらに限定されない任意の細胞種を、本明細書に記載されているとおりに、遺伝子改変することができる。改変されたmtDNAを含有する細胞の他の非限定的な例としては、心臓細胞、脳細胞、肺細胞、肝細胞、T細胞(例えば、CD4+、CD3+、CD8+など);樹状細胞;B細胞;自家(例えば、患者由来)または異種の多能性、全能性または複能性幹細胞(例えば、CD34+細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞など)が挙げられる。ある実施形態において、本明細書に記載されている細胞は、患者由来のCD34+細胞である。
【0131】
本明細書に記載されている細胞は、例えば、インビボまたはエクスビボ治療によって、障害を有する被験体中のミトコンドリア病を処置および/または予防する上で有用である。エクスビボ治療のために、ヌクレアーゼ改変された細胞を増加させ、次いで、標準的な技術を用いて患者中に再導入することができる。例えば、Tebasら、(2014)New Eng J Med 370(10):901を参照。幹細胞の場合には、被験体中に注入後に、野生型(疾患)細胞と比べて変更されたヘテロプラスミー比を有するmtDNAを発現する細胞へのこれらの前駆体のインビボでの分化が生じる。本明細書に記載されている細胞を含む医薬組成物も提供される。さらに、細胞は、患者への投与前に凍結保存され得る。
【0132】
本明細書に記載されている細胞およびエクスビボ方法は、被験体(例えば、哺乳動物の被験体)中の障害(例えば、ミトコンドリア障害)の処置および/または予防を提供し、継続的な予防的医薬品投与または同種異系間骨髄移植またはガンマレトロウイルスの送達などの危険性のある手法の必要性をなくす。このため、本明細書に記載されている発明は、より安全な、費用対効果が高く、時間的に効率なミトコンドリア障害を処置および/または予防する方法を提供する。
送達
【0133】
ヌクレアーゼ、これらのヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドおよび本明細書に記載されているタンパク質および/またはポリヌクレオチドを含む組成物は、任意の適切な手段によって送達され得る。ある実施形態において、ヌクレアーゼおよび/またはドナーはインビボで送達される。他の実施形態において、ヌクレアーゼおよび/またはドナーは、患者へのエクスビボ送達において有用な改変された細胞を与えるために、単離された細胞(例えば、自家または異種幹細胞)に送達される。
【0134】
本明細書に記載されているヌクレアーゼを送達する方法は、例えば、それらの全ての開示内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,453,242号:同第6,503,717号:同第6,534,261号:同第6,599,692号:同第6,607,882号:同第6,689,558号:同第6,824,978号:同第6,933,113号:同第6,979,539号:同第7,013,219号:および同第7,163,824号に記載されている。
【0135】
本明細書に記載されているヌクレアーゼおよび/またはドナー構築物は、裸のDNAおよび/またはRNA(例えば、mRNA)およびこれらの成分の1またはそれより多くをコードする配列を含有するベクターを含む、任意の核酸送達機構を用いても送達され得る。プラスミドベクター、DNAミニサークル、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター;ヘルペスウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターなどならびにこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない任意のベクター系が使用され得る。それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,534,261号;同第6,607,882号;同第6,824,978号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;および同第7,163,824号ならびに米国特許出願公開第2014/0335063号も参照。さらに、これらの系のいずれもが、処置のために必要とされる配列の1またはそれより多くを含む得ることが自明である。したがって、1またはそれを超えるヌクレアーゼおよびドナー構築物が細胞中に導入される場合には、ヌクレアーゼおよび/またはドナーポリヌクレオチドは、同一の送達系上でまたは異なる送達機構上で運ばれ得る。複数の系が使用される場合には、各送達機構は、1または複数のヌクレアーゼおよび/またはドナー構築物をコードする配列(例えば、1もしくはそれを超えるヌクレアーゼをコードするmRNAおよび/または1もしくはそれを超えるドナー構築物を運ぶmRNAもしくはAAV)を含み得る。
【0136】
細胞(例えば、哺乳動物の細胞)および標的組織中にヌクレアーゼをコードする核酸およびドナー構築物を導入するために、慣用のウイルスおよび非ウイルスをベースとする遺伝子導入法を使用することができる。非ウイルスベクター送達系としては、DNAプラスミド、DNAミニサークル、裸の核酸およびリポソームまたはポロクサマーなどの送達ビヒクルと複合化された核酸が挙げられる。ウイルスベクター送達系としては、細胞への送達後にエピソームまたは取り込まれたゲノムのいずれかを有するDNAおよびRNAウイルスが含まれる。遺伝子治療手順の総説として、Anderson,Science 256:808-813(1992);Nabel&Felgner,TIBTECH 11:211-217(1993);Mitani&Caskey,TIBTECH 11:162-166(1993);Dillon,TIBTECH 11:167-175(1993);Miller,Nature 357:455-460(1992);Van Brunt,Biotechnology 6(10):1149-1154(1988);Vigne,Restorative Neurology and Neuroscience 8:35-36(1995);Kremer&Perricaudet,British Medical Bulletin 51(1):31-44(1995);Haddadaら、in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm(eds.)(1995);およびYuら、Gene Therapy 1:13-26(1994)を参照。
【0137】
核酸の非ウイルス性送達の方法としては、電気穿孔、リポフェクション、微量注入、遺伝子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸抱合体、脂質ナノ粒子(LNP)、裸のDNA、裸のRNA、キャップ付きRNA、人工のビリオンおよび作用物質によって増強されたDNAの取り込み(agent-enhanced uptake of DNA)が挙げられる。核酸の送達のために、例えば、Sonitron 2000システム(Rich-Mar)を用いた音響穿孔も使用することができる。
【0138】
さらなる例示的な核酸送達系としては、Amaxa Biosystems(Cologne,Germany)、Maxcyte,Inc.(Rockville,Maryland)、BTX Molecular Delivery Systems(Holliston,MA)およびCopernicus Therapeutics Inc.によって提供されるものが挙げられる(例えば、米国特許第6,008,336号参照)。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号;同第4,946,787号;および同第4,897,355号)に記載されており、リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適した陽イオン性および中性脂質としては、Felgner、国際公開第91/17424号、国際公開第91/16024号のものが挙げられる。いくつかの態様において、ヌクレアーゼはmRNAとして送達され、導入遺伝子は、ウイルスベクター、ミニサークルDNA、プラスミドDNA、一本鎖DNA、直鎖DNA、リポソーム、ナノ粒子などの他の様式を介して送達される。
【0139】
免疫脂質複合体などの標的化されたリポソームを含む脂質:核酸複合体の調製は、当業者に周知である(例えば、Crystal,Science 270:404-410(1995);Blaeseら、Cancer Gene Ther.2:291-297(1995);Behrら、Bioconjugate Chem.5:382-389(1994);Remyら、Bioconjugate Chem.5:647-654(1994);Gaoら、Gene Therapy 2:710-722(1995);Ahmadら、Cancer Res.52:4817-4820(1992);米国特許第4,186,183号;同第4,217,344号;同第4,235,871号;同第4,261,975号;同第4,485,054号;同第4,501,728号;同第4,774,085号;同第4,837,028号;および同第4,946,787を参照)。
【0140】
さらなる送達の方法としては、EnGeneIC送達ビヒクル(EDV)へと送達されるべき核酸のパッケージングの使用が挙げられる。これらのEDVは、抗体の一方のアームが標的組織に対する特異性を有し、他方がEDVに対する特異性を有する二重特異性抗体を用いて標的組織に特異的に送達される。抗体がEDVを標的細胞表面に運び、次に、エンドサイトーシスによって、EDVが細胞中に運び込まれる。いったん細胞中に入ると、内容物が放出される(MacDiarmidら、(2009)Nature Biotechnology 27(7):643参照)。
【0141】
操作されたCRISPR/Cas系をコードする核酸を送達するためのRNAまたはDNAウイルスをベースとする系の使用は、ウイルスを体内の特異的な細胞に向かわせ、ウイルスペイロードを核に運ぶための高度に進化したプロセスを活用する。ウイルスベクターは、被験体に直接投与することができ(インビボ)、または細胞をインビトロで処置するために使用することができ、改変された細胞が被験体に投与される(エクスビボ)。CRISPR/Cas系を送達するための慣用のウイルスをベースとした系としては、遺伝子導入のための、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスおよび単純ヘルペスウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されない。宿主ゲノム中の組み込みは、レトロウイルス、レンチウイルスおよびアデノ随伴ウイルス遺伝子導入法によって可能であり、しばしば、挿入された導入遺伝子の長期発現をもたらす。さらに、多くの異なる細胞種および標的組織中で、高い形質導入効率が観察されてきた。
【0142】
レトロウイルスの向性は、外来エンベロープタンパク質を取り込むこと、標的細胞の潜在的標的集団を増加させることによって変化させることができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞を形質導入するまたは感染させることが可能であり、典型的には、高いウイルス力価を生成するレトロウイルスベクターである。レトロウイルス遺伝子導入系の選択は、標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、最大6~10kbの外来配列をパッケージングする能力を有するシス作用性末端反復配列から構成される。ベクターの複製およびパッケージングのためには、最小限のシス作用性LTRで十分であり、次いで、ベクターは、標的細胞中に治療用遺伝子を組み込んで永続する導入遺伝子発現を与えるために使用される。広く使用されるレトロウイルスベクターとしては、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびこれらの組み合わせを基礎とするものが挙げられる(例えば、Buchscherら、(1992)J.Virol.66:2731-2739;Johannら、(1992)J.Virol.66:1635-1640;Sommerfeltら、(1990)Virol.176:58-59;Wilsonら、(1989)J.Virol.63:2374-2378;Millerら、(1991)J.Virol.65:2220-2224;国際公開第1994/026877号を参照)。
【0143】
一過性発現が好ましい用途においては、アデノウイルスを基礎とする系を使用することができる。アデノウイルスを基礎とするベクターは、多くの細胞種で極めて高い形質導入効率を可能にし、細胞分裂を必要としない。このようなベクターを用いて、高い力価および高い発現のレベルが得られてきた。このベクターは、比較的単純な系内で大量に作製することができる。例えば、核酸およびペプチドのインビトロでの産生において、ならびにインビボおよびエクスビボ遺伝子治療手法のために、標的核酸を有する細胞を形質導入するために、アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターも使用される(例えば、Westら、Virology 160:38-47(1987);米国特許第4,797,368号;国際公開第93/24641号;Kotin(1994)Human Gene Therapy 5:793-801;Muzyczka,J.Clin.Invest.94:1351(1994)を参照)。組換えAAVベクターの構築は、米国特許第5,173,414号;Tratschinら、Mol.Cell.Biol.5:3251-3260(1985);Tratschin,ら、Mol.Cell.Biol.4:2072-2081(1984);Hermonat&Muzyczka,PNAS 81:6466-6470(1984);およびSamulskiら、J.Virol.63:03822-3828(1989)を含む多数の刊行物中に記載されている。AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6およびAAV8、AAV8.2、AAV9およびAAV rh10ならびにAAV9.45、AAV2/8、AAV2/5およびAAV2/6などの偽型化AAVを含む任意のAAV血清型を使用することができる。
【0144】
臨床試験における遺伝子導入のために、現在、少なくとも6種のウイルスベクターアプローチが利用可能であり、これらは、形質導入因子を生成するために、ヘルパー細胞株中に挿入された遺伝子による欠損ベクターの相補を含むアプローチを利用する。
【0145】
pLASNおよびMFG-Sは、臨床試験において使用されてきたレトロウイルスベクターの例である(Dunbarら、Blood 85:3048-305(1995);Kohnら、Nat.Med.1:1017-102(1995);Malechら、PNAS 94:22 12133-12138(1997))。PA317/pLASNは、遺伝子治療試験において使用された最初の治療用ベクターであった。(Blaeseら、Science 270:475-480(1995))。MFG-Sパッケージされたベクターに対しては、50%またはそれを超える形質導入効率が観察されてきた。(Ellemら、Immunol Immunother.44(1):10-20(1997);Dranoffら、Hum.Gene Ther.1:111-2(1997)。
【0146】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、欠損した非病原性パルボウイルスであるアデノ随伴2型ウイルスを基礎とする有望な別の遺伝子送達系である。全てのベクターは、導入遺伝子発現カセットに隣接するAAV145塩基対(bp)の逆位反復配列のみを保持するプラスミドに由来する。効率的な遺伝子導入および形質導入された細胞のゲノム中への組み込みによる安定な導入遺伝子送達が、このベクターの鍵となる特徴である。(Wagnerら、Lancet351:9117 1702-3(1998)、Kearnsら、Gene Ther.9:748-55(1996))。AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAV8.2、AAV9、AAV9.45およびAAVrh10ならびにAAV2/8、AAV2/5およびAAV2/6などの偽型化AAVを含むその他のAAV血清型も、本発明にしたがって使用することができる。いくつかの実施形態において、心臓(cardiac)、肺、脳および/または筋肉を標的とするAAV血清型が使用され、血液脳関門を横切ることができるAAV血清型が使用されることを含むが、これに限定されない。
【0147】
複製欠損性組換えアデノウイルスベクター(Ad)は、高い力価で産生させることができ、多数の異なる細胞種に容易に感染することができる。多くのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAd E1a、E1bおよび/またはE3遺伝子を置換し、続いて、複製欠損性ベクターが、欠失された遺伝子機能をトランスに供給するヒト293細胞中で増殖するように操作される。Adベクターは、肝臓、腎臓および筋肉中などに見出される細胞などの分裂しない分化した細胞を含む、複数種の組織をインビボで形質導入することができる。慣用のAdベクターは、大きな運搬能力を有する。臨床試験におけるADベクターの使用の一例は、筋肉内注射を用いた抗腫瘍免疫のためのポリヌクレオチド治療を伴った(Stermanら、Hum.Gene Ther.7:1083-9(1998))。臨床試験における遺伝子導入のためのアデノウイルスベクターの使用のさらなる例としては、Roseneckerら、Infection 24:1 5-10(1996);Stermanら、Hum.Gene Ther.9:7 1083-1089(1998);Welshら、Hum.Gene Ther.2:205-18(1995);Alvarezら、Hum.Gene Ther.5:597-613(1997);Topfら、Gene Ther.5:507-513(1998);Stermanら、Hum.Gene Ther.7:1083-1089(1998)が挙げられる。
【0148】
宿主細胞に感染することができるウイルス粒子を形成するために、パッケージング細胞が使用される。このような細胞としては、アデノウイルスをパッケージングする293細胞、およびレトロウイルスをパッケージングするψ2細胞またはPA317細胞が挙げられる。遺伝子治療において使用されるウイルスベクターは、通常、核酸ベクターをウイルス粒子中にパッケージングするプロデューサー細胞株によって生成される。ベクターは、典型的には、パッケージングおよびその後の宿主中への組み込み(該当する場合)のために必要とされる最小限のウイルス配列を含有し、他のウイルス配列は、発現されるべきタンパク質をコードする発現カセットによって置換されている。喪失しているウイルス機能は、パッケージング細胞株によってトランスに供給される。例えば、遺伝子治療において使用されるAAVベクターは、典型的には、パッケージングおよび宿主ゲノム中への組み込みのために必要とされるAAVゲノム由来の末端逆位反復(ITR)配列のみを有する。ウイルスDNAは、他のAAV遺伝子、すなわち、repおよびcapをコードするが、ITR配列を欠如するヘルパープラスミドを含有する細胞株中でパッケージングされる。細胞株は、また、ヘルパーとしてアデノウイルスで感染させられる。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製およびヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列を欠如しているために、有意な量ではパッケージングされない。アデノウイルスの混入は、例えば、アデノウイスがAAVより感受性が高い熱処理によって低減することができる。
【0149】
多くの遺伝子治療用途において、遺伝子治療ベクターは、特定の組織の種類に対して高度の特異性をもって送達されることが望ましい。したがって、ウイルスベクターは、ウイルスの外側表面上のウイルスコートタンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現することによって、所定の細胞種に対して特異性を有するように改変することができる。リガンドは、関心対象の細胞種上に存在することが知られている受容体に対して親和性を有するように選択される。例えば、Hanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA92:9747-9751(1995)は、モロニーマウス白血病ウイルスがgp70に融合されたヒトヘレグリンを発現するように改変することができ、この組換えウイルスがヒト上皮増殖因子受容体を発現するある種のヒト乳がん細胞に感染することを報告した。この原理は、標的細胞が受容体を発現し、ウイルスが細胞表面受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する他のウイルス・標的細胞対に拡張することができる。例えば、繊維状ファージは、実質的に任意の選択された細胞受容体に対して特異的な結合親和性を有する抗体断片(例えば、FABまたはFv)をディスプレイするように操作することができる。上記記載は主にウイルスベクターに当てはまるが、同じ原理を非ウイルスベクターに当てはめることができる。このようなベクターは、特異的な標的細胞による取り込みを好む特異的な取り込み配列を含有するように操作することができる。
【0150】
遺伝子治療ベクターは、個々の被験体への投与によって、典型的には、以下に記載されているような、全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、舌下または頭蓋内注入)局所適用によってまたは肺吸入を介して、インビボで送達することができる。または、ベクターは、個々の患者から外植された細胞(例えば、リンパ球、骨髄吸引物、組織生検)または万能ドナー造血幹細胞など、エクスビボで細胞に送達することができ、その後、通常は、ベクターを取り込んだ細胞に関して選択した後に、患者中への細胞の再移植が続く。
【0151】
ヌクレアーゼおよび/またはドナー構築物を含有するベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)は、インビボでの細胞の形質導入のために、生物に直接投与することもできる。または、裸のDNAを投与することができる。投与は、血液または組織細胞との最終的な接触に分子を導入するために通常使用される任意の経路により、注射、注入、局所適用、吸入および電気穿孔を含むがこれらに限定されない。このような核酸を投与する適切な方法が利用可能であり、当業者に周知であって、特定の組成物を投与するために1を超える経路を使用することができるが、多くの場合、別の経路より、特定の経路がより直ちにより効果的な反応を与えることができる。
【0152】
本明細書に記載されているポリヌクレオチドの導入に適したベクターとしては、組み込み欠損レンチウイルスベクター(IDLV)が含まれる。例えば、Oryら、(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:11382-11388;Dullら、(1998)J.Virol.72:8463-8471;Zufferyら、(1998)J.Virol.72:9873-9880;Follenziら、(2000)Nature Genetics 25:217-222;米国特許第8,936,936号を参照。
【0153】
薬学的に許容され得る担体は、1つには、投与されている具体的な組成物によって、および組成物を投与するために使用される具体的な方法によって決定される。したがって、以下に記載されているとおり、利用可能な医薬組成物の多様な適切な製剤が存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,1989参照)。
【0154】
ヌクレアーゼコード配列およびドナー構築物は、同じ系または異なる系を用いて送達できることが自明である。例えば、ドナーポリヌクレオチドはAAVによって運ぶことができるのに対して、1またはそれを超えるヌクレアーゼはmRNAによって運ぶことができる。さらに、異なる系は、同一の経路または異なる経路(筋肉内注射、尾静脈注射、その他の静脈内注射、腹腔内投与および/または筋肉内注射によって投与することができる。複数のベクターは、同時にまたは任意の逐次的順序で送達することができる。
【0155】
エクスビボおよびインビボの両方の投与のための製剤としては、液体または乳化液体状態の懸濁剤が挙げられる。活性成分は、しばしば、薬学的に許容され得るおよび活性成分と適合的である賦形剤と混合される。適切な賦形剤としては、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびこれらの組み合わせが挙げられる。さらに、組成物は、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、安定化剤または医薬組成物の有効性を増強する他の試薬などの微量の補助物質を含有し得る。
【0156】
ミトコンドリア障害の処置および/または予防のためになど、mtDNAの改変のために投与されるべき有効量は、被験体ごとに、ならびに投与の様式および投与の部位にしたがって変動する。したがって、有効量は、組成物を投与する者によって決定するのが最良であり、適切な投与量は当業者によって容易に決定することができる。ある実施形態において、発現のために十分な時間を置いた後(典型的には、例えば2~15日またはそれを超える)、mtDNA改変に対する血清またはその他の組織レベルの分析および投与前との比較は、投与されている量が少なすぎるか、適切な範囲内にあるか、または多すぎるかどうかを決定する。最初のおよびその後の投与に対する適切な計画も変動し得るが、必要であればその後の投与が後続する最初の投与が典型となる。その後の投与は、毎日から毎年から数年ごとの範囲の、変動可能な間隔で投与され得る。ある実施形態において、AAVなどのウイルスベクターを使用する場合、投与される総用量または成分用量は、1×1010~5×1015vg/mL(またはこの間にある任意の値)、さらに好ましくは、1×1011~1×1014vg/mL(またはこの間にある任意の値)、さらにより好ましくは、1×1012~1×1013vg/mL(またはこの間にある任意の値)であり得る。いくつかの実施形態において、総用量は静脈内に投与され得、5e12vg/kg~1e15vg/kg(またはこの間にある任意の値)、より好ましくは、5e13vg/kg~5e14vg/kg(またはこの間にある任意の値)、さらにより好ましくは5e13vg/kg~1e14vg/kg(またはこの間にある任意の値)であり得る。
用途
【0157】
本明細書に開示されている方法および組成物は、例えば、疾患または障害が処置されおよび/または予防されるように、野生型DNAに対する変異体mtDNAのヘテロプラスミー比を改変することによって、ミトコンドリア病および障害に対する治療を与えるための方法および組成物である。細胞は、インビボで改変され得、またはエクスビボで改変され、続いて、被験体に投与され得る。したがって、これらの方法および組成物は、ミトコンドリア障害の処置および/または予防を提供する。
【0158】
本明細書に記載されている方法および組成物を用いて処置および/または予防することができるミトコンドリア障害の非限定的な例としては、LHON(レーベル遺伝性視神経症)、MM(ミトコンドリア筋症)、AD(アルツハイマー病)、LIMM(致死性乳児ミトコンドリア筋症)、ADPD(アルツハイマー病およびパーキンソン病)、MMC(母性筋症および心筋症)、NARP(神経原性筋力低下、運動失調および網膜色素変性;この遺伝子座での別の表現型は、リー病として報告される)、FICP(致死性乳児心筋症プラス、MELAS関連心筋症)、MELAS(ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様エピソード)、LDYT(レーベル遺伝性視神経症およびジストニア)、MERRF(ミオクローヌスてんかんおよび赤色ぼろ筋線維)、MHCM(母性遺伝肥大型心筋症)、CPEO(慢性進行性外眼筋麻痺)、KSS(カーンズ・セイヤー症候群)、DM(糖尿病)、DMDF(糖尿病+聴覚喪失)、CIPO(筋症および眼筋麻痺を伴う慢性偽性腸閉塞)、DEAF(母性遺伝聴覚喪失またはアミノグリコシド誘発性聴覚喪失)、PEM(進行性脳症)、SNHL(感音難聴)、加齢、脳筋症、FBSN(家族性両側性線条体壊死)、PEOおよびSNE(亜急性壊死性脳症)が挙げられる。
【0159】
ヌクレアーゼによって媒介される切断は、疾患と関連するmtDNA配列(例えば、点変異、置換変異など)を修正するために使用され得る。修正は、例えば、ミトコンドリアにおいて典型的であるように、効率的なDNA修復機構の不存在下での、切断されたmtDNA配列の分解を介し得る。標的とされ得る具体的な変異体ヒトmtDNAとしては、1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cおよび14709Cが挙げられる。
【0160】
非限定的な例として、本明細書に記載されている方法および組成物は、ミトコンドリア筋症;糖尿病および聴覚喪失(DAD);レーベル;視神経および網膜の変性に起因する中心視野の進行性喪失を特徴とし、フィンランドでは5万人に1人が罹患するレーベル遺伝性視神経症(LHON);リー症候群;母性遺伝リー症候群;リー様症候群;神経障害;運動失調、網膜色素変性および眼瞼下垂(NARP);筋神経原性胃腸脳症(MGNIE);赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(MERRF);ミトコンドリア筋症、脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症状(MELAS);mtDNA枯渇ミトコンドリア神経胃腸脳筋症(MNGIE)、心筋症、聴覚喪失、その他を含むがこれらに限定されないミトコンドリア障害の処置および/または予防のために使用することができる。
【0161】
以下の実施例は、ヌクレアーゼがジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を含む本開示の例示的な実施形態に関する。これは、例示のみを目的とすること、他のヌクレアーゼ、例えば、操作されたDNA結合ドメインを有する、TALEN、TtAgoおよびCRISPR/Cas系、ホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)ならびに/または天然に存在するもしくは(of)操作されたホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)DNA結合ドメインと異種切断ドメインとの融合物ならびに/またはメガヌクレアーゼとTALEタンパク質との融合物を使用することができることが理解される。例えば、さらなるヌクレアーゼは本明細書に開示された配列(例えば、表2)の9~12の連続するヌクレオチドを含む配列に結合するように設計され得る。さらに、以下の実施例は、DNA結合ドメイン(ZFP、TALエフェクタードメイン、sgRNAなど)が、(表2に示されているとおりの)5024C>T変異を有するmtDNAに選択的に結合するヌクレアーゼに関する。これは、例示のみを目的とすること、以下の位置:1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cおよび/または14709Cの1つまたはそれより多くにおける1またはそれを超える変異を含むが、これらに限定されないその他の変異体mtDNA配列に結合するヌクレアーゼが想定されることが自明である。
【実施例0162】
[実施例1]mtDNAヌクレアーゼ
本質的に、Gammageら、(2014)EMBO Mol Med.6:458-466;Gammageら、(2016)Methods in Mol.Biol.1351:145-162;米国特許第6,534,261号および同第9,139,628号に記載されているとおりに、mtDNAに標的化されるジンクフィンガータンパク質を設計し、mRNA、プラスミド、AAVまたはアデノウイルスベクター中に取り込ませた。
【0163】
具体的には、変異体mtDNA(m5024C>T)に対して単一ヌクレオチド結合特異性を有するZFPの対を作製した。
図1を参照されたい。マウスmtDNA中のこの部位はZFPに関して困難である(challenging)ので、異なる数のジンクフィンガーモチーフ、スペーサー領域の長さおよび追加のリンカーを用いる標的化戦略の選択を利用した。候補ZFPのアセンブリによって、変異体特異的単量体(MTM)と称される、m.5024C>T部位を標的とする24の特有のZFPのライブラリー(
図1A)および野生型特異的単量体1(WTM1)と称される、反対側鎖上の隣接配列を標的とする単一パートナーZFPが得られた。
【0164】
5’EcoRIと3’BamHI制限部位の間、FokI(+)の上流にMTM ZFPドメインを挿入することによって、MTM(n)_T2A_WTM1m.5024C>T候補ライブラリーをクローニングした。次いで、T2A配列および3’XhoI部位も取り込みながら、5’ApaI部位を含め、3’停止コドンを除去するために、この生成物をPCR増幅した。次いで、ApaI/XhoI部位を用いて、pcmCherry(Addgene 62803)中にこの断片をクローニングした。5’EcoRIおよび3’BamHI部位を用いて、3’ハンマーヘッド型リボザイム(HHR)を取り込んでいるpcmCherry_3k19ベクター(Addgene104499)中のFokI(-)の上流にWTM1 ZFPを別個にクローニングし、5’XhoIおよび3’AflII部位を含めるために得られた生成物をPCR増幅して、MTM(n)バリアントの下流のクローニングを可能にした。
【0165】
Gammageら、(2016)Methods in Mol.Biol.1351:145-162に以前に記載されたとおりに、MTM25(+)およびWTM1(-)単量体も別個のpcmCherryおよびpTracerベクター中にクローニングした。AAV産生を目的としたmtZTNのベクター構築は、5’EagIおよび3’BglII部位を取り込む、MTM25(+)_HHRおよびWTM1(-)_HHR導入遺伝子のPCR増幅によって達成した。
【0166】
次いで、5’EagIおよび3’BamHI部位の間に、これらの生成物をrAAV2-CMV中にクローニングした。PCRによって、WTM1(-)のFLAGエピトープタグをヘマグルチニン(HA)タグで置き換えた。UNC Gene Therapy Center、Vector Core Facility(Chapel Hill,NC)において、組換えAAV2/9.45ーCMV-MTM25およびAAV2/9.45ーCMV-WTM1ウイルス粒子を生成するために、得られたプラスミドを使用した。発現レベルを制限しながら、CMVからの導入遺伝子の遍在的な発現を可能にするために、3K19ハンマーヘッド型リボザイム(HHR)配列(Beilsteinら、(2015)ACS Synth Biol 4:526-534)をmtZFN-AAV9,45構築物中に取り込んで、大きなmtDNAコピー数の枯渇を誘導することなく、標的化された組織中での細胞の効果的な共形質導入を確保するために必要とされる高いウイルス力価の投与を可能にした。
【0167】
表1は、例示的なmtDNA ZFP DNA結合ドメインのDNA結合ドメイン内の認識ヘリックスおよびこれらのZFPに対する標的部位を示す(DNA標的部位は大文字で示されており、接触されないヌクレオチドは小文字で示されている。)。ZFP認識ヘリックスによって接触される標的部位中のヌクレオチドは、大文字で示されており、接触されないヌクレオチドは、小文字で示されている。本分野において公知の方法にしたがって、表2に示されている配列(例えば、表2に示されている標的部位の、9~20またはそれを超える(9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21またはそれより多くを含む。)ヌクレオチド(連続または非連続)を含む標的部位に対して、TALENおよび/またはsgRNAも設計した。例えば、(TALENに対してカノニカルまたは非カノニカルRVDを使用する)米国特許第8,586,526号および米国特許出願公開第2015/0056705号を参照。
表1:mtDNAジンクフィンガータンパク質認識ヘリックス設計
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
表2:ジンクフィンガータンパク質の標的部位
【表2】
【0168】
全てのZFNの対の組み合わせを切断活性に関して試験した。2mM L-グルタミン、110mg/Lピルビン酸ナトリウム(Life Technologies)および10%FCS(PAA Laboratories)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で、野生型およびm.5024C>Tマウス胎仔線維芽細胞(MEF)細胞株を培養した。MEF1キットおよびT20プログラムを使用し、NucleofectorII装置(Lonza)を用いて、電気穿孔によって細胞を形質移入した。Gammageら、(2016)Methods Mol Biol 1352:145-162に記載されているとおりに、蛍光活性化細胞選別(FACS)を実施した。全細胞タンパク質抽出がどのようにして実行されたかも記載するGammageら、(2016)Nucleic Acids Res 44:7804中に以前に記載されたとおりにHHR自己触媒の速度を調節しながら、培地中へのテトラサイクリンの滴定を通じて、mtZFN発現の調節を達成した。SDS-PAGE 4~12%ビス-トリスBoltゲル上で20~100μgの抽出されたタンパク質を分離することによって、ウェスタンブロッティングによるタンパク質の検出を達成した。iBlot2 transfer cell(Life Technologies)を用いて、これらをニトロセルロースに転写した。本研究でウェスタンブロッティングに対して使用された抗体:ラット抗HA(Roche,1:500)、ヤギ抗ラットHRP(Santa Cruz,1:1000)。Coomassie Brilliant Blue(Life Technologies)を用いて、ローディングのためにゲルを染色した。全ての対が活性を示すことが見出された。
【0169】
ヘテロプラスミーシフト活性を評価するために、構築物を、約65%のm.5024C>Tを有するマウス胎仔線維芽細胞(MEF)中での数回のスクリーニングにも供した。
図1に示されているように、これらのスクリーニングは、MTM25/WTM1対の一貫した特異的活性を同定し、パイロシークエンシングによって決定すると、MEF細胞株中で65%から45%m.5024C>Tへ、約20%のシフトをもたらした。簡潔に述べると、パイロシークエンシングによって、m.5024C>T mtDNAヘテロプラスミーの評価を行った。以下のプライマーと100ngテンプレートDNAとを用いる40サイクルに対して、KOD DNAポリメラーゼ(Takara)を用いて、パイロシークエンシングのためのPCR反応物を調製した。
m.4,962-4,986 フォワード
5’ATACTAGTCCGCGAGCCTTCAAAG3’(配列番号36)
m.5,360-m.5,383リバース
5’ [Btn]GAGGGTTCCGATATCTTTGTGATT3’(配列番号37)
m.5003-m.5022 配列決定プライマー
5’AAGTTTAACTTCTGATAAGG3’(配列番号38)
【0170】
さらに、Minczukら、(2010)Methods Mol Biol 649:257-270に記載されているとおりに、固定されたMEF細胞中の免疫蛍光によって、ミトコンドリアの局在を確認した。MTM25およびWTM1は専らミトコンドリア中に局在化しており、さらなるインビボ実験のために、この対を選択した。
【0171】
これらの設計は、米国特許第9,394,531号に記載されているような、(フィンガー間の)カノニカルもしくは非カノニカルリンカーおよび/またはZFPと切断ドメインとの間のリンカーを含むがこれらに限定されない任意のリンカーを、フィンガーモジュールのいずれかの間および/またはZFPと切断ドメインとの間に含み得ることが自明である。米国特許第8,772,453号および米国特許出願公開第2015/0064789号も参照。
【0172】
さらに、CRISPR/Casヌクレアーゼ、TALEN などを含む、ZFN以外のヌクレアーゼを、上に示されている9~18またはそれを超えるヌクレオチドの標的部位に対して設計することができる。ヌクレアーゼのいずれも(ZFN、CRISPR/Cas系およびTALEN)が、操作された切断ドメイン、例えば、米国特許第8,623,618号(例えば、ELDおよびKKR操作された切断ドメイン)に開示されているヘテロ二量体ならびに/または、米国特許出願公開第2018/0087072号に記載されているように、416位、422位、447位、448位および/または525位に1もしくはそれを超える(more or more)変異を有する切断ドメインを含むことができる。これらの変異体は、本明細書に記載されている例示的なZFP DNA結合ドメインとともに使用された。
[実施例2] インビボヌクレアーゼ活性
【0173】
マウス中で、インビボにおいてもヌクレアーゼ活性を試験した。本研究で使用されたC57BL/6j-tRNAALAマウスは、12時間の明暗周期および60%の相対湿度の温度調節された(21℃)部屋の中で、ケージ当たり1~4匹で飼育した。
【0174】
MTM25およびWTM1 mtZFN単量体は別個のウイルスゲノム中にコードされ、心臓向性の操作されたAAV9.45血清型内にキャプシドで囲まれた(
図1D)。Pulicheriaら、(2011)Mol Ther 19:1070-1078を参照。SDS-PAGE 4~12%ビス-トリスBoltゲル上で20~100μgの抽出されたタンパク質を分離することによって、ウェスタンブロッティングによるタンパク質の検出を達成した。iBlot2 transfer cell(Life Technologies)を用いて、これらをニトロセルロースに転写した。本研究でウェスタンブロッティングに対して使用された抗体:ラット抗HA(Roche,11867431001,1:500)、ヤギ抗ラットHRP(Santa Cruz,SC2065,1:1000)。Coomassie Brilliant Blue(Life Technologies)を用いて、ローディングのためにゲルを染色した。
【0175】
図1Eに示されているように、マウス当たり単量体当たり5×10
12ウイルスゲノム(vg)の全身(尾静脈)投与後に、全マウス心臓組織中でのMTM25およびWTM1のロバストな発現がウェスタンブロッティングによって検出された。
【0176】
さらなるインビボ実験を以下のとおり実施した。44%~81%のm.5024C>Tヘテロプラスミーを有する2~8月齢の雄のマウス(ビヒクル20、単一の単量体7、mtZFN-AAV9.45投与量当たり4)を、以下に示されている群で処置した。
【表3】
【0177】
ビヒクル(1×PBS、350mM NaCl、5% w/v D-ソルビトール)およびAAVの処置を、尾静脈注射によって全身的に投与した。
【0178】
マウス心臓組織に関しては、gentleMACS分離機(Miltenyi)を用いて、RIPA緩衝液(150mM NaCl、50mM Tris pH8、1%(v/v)Triton X-100、0.5%(v/v)デオキシコレート、0.1%(v/v)SDS)中で50mgをホモジナイズした。4℃で10分間、10,000×gで、得られたホモジネートを遠心分離し、次いで、上清を回収し、4℃で10分間、10,000×gで遠心分離した。細胞および組織タンパク質抽出物の両方の濃度を、BCAアッセイ(Pierce)によって決定した。
【0179】
パイロシークエンシングによるmtDNAヘテロプラスミーの評価を行い、2週齢(実験的介入前)で決定された耳穿孔遺伝子型と死後の心臓遺伝子型間の変化(Δ)として表した。簡潔に記載すると、製造業者のプロトコールにしたがってPowerUp SYBR Green Master Mix(Applied Biosystems)を用いて、qPCRによって、マウス心臓試料のミトコンドリアDNAコピー数を決定した。7900HT Fast Real-Time PCR System(Thermo Fisher)を用いて、試料を分析した。以下のプライマーを使用した。
MT-COI フォワード
5’TGCTAGCCGCAGGCATTACT3’(配列番号39)
MT-COI リバース
5’CGGGATCAAAGAAAGTTGTGTTT3’(配列番号40)
RNアーゼP フォワード
5’GCCTACACTGGAGTCCGTGCTACT3’(配列番号41)
RNアーゼP リバース
5’CTGACCACACACGAGCTGGTAGAA3’(配列番号42)
【0180】
それぞれ、C57BL/6jマウス核およびミトコンドリアゲノムに対するNCBI参照配列GRCm38.p6およびNC_005089.1を用いて、パイロシークエンシングおよびqPCRのための全てのプライマーを設計した。
【0181】
図1Fおよび1Gに示されているように、注射の65日後における注射された動物は、mtZFN処置されたマウス中での、m.5024C>T変異体mtDNAの特異的な除去を示したが、ビヒクルまたは単一の単量体を注射された対照中では除去を示さなかった。mtZFN処置によってヘテロプラスミーが改変された程度は、二相性のAAV用量依存性傾向をたどり、中間用量(5×10
12vg)は、m.5024C>T変異体mtDNAを除去する上で最も効率的であった。最低の(1×10
12vg)用量は、おそらくは、mtZFNの不十分な濃度および/またはAAVによって標的化された組織のモザイク状形質導入のために、ヘテロプラスミーシフトをもたらさなかった。最高の用量(1×10
13vg)は、おそらくは、より低用量を投与したときには観察されない部分的なmtDNAコピー数枯渇をもたらすオフターゲット効果のために、中間用量(5×10
12vg)と比べて、減弱したヘテロプラスミーシフト活性を示した(
図1G)。後者の結果は本発明者らの過去の観察と合致しており、効率的なmtDNAヘテロプラスミー改変のためにミトコンドリア中のmtZFNレベルを微調整することの重要性を明確に示す。
【0182】
m.5024C>Tヘテロプラスミーのロバストなシフトがインビボで達成される条件を確定したので、本発明者らは、次に、ミトコンドリア病の動物モデル中での疾病関連表現型の修正に取り組んだ(Kauppilaら、(2016)Cell Rep 16:2980-2990参照。tRNAALAマウスモデル中で繰り返された、ミトコンドリア病におけるmt-tRNA変異の共通する特徴は、変異体ロードに比例するmt-tRNA分子の不安定さである。
図2A;Yarhamら、(2010)Wiley Inderdiscip Rev RNA 1:304-324参照。
【0183】
投与量範囲にわたってmtZFNで処置された動物の心臓中でのmt-tRNAALAの安定性に対するmtZFN処置の効果を評価するために、Pearceら、(2017)Elife 6,デジタルオブジェクト識別子:10-7554/eLife.27596中に本質的に記載されているとおりに、ノーザンブロッティングを行った。簡潔に記載すると、gentleMACS分離機(Miltenyi)を用いたホモジネーションによって、Trizol(Ambion)を用いて、25mgのマウス心臓組織から全RNAを抽出した。特に、8M尿素を含有する10%ポリアクリルアミドゲル上で、5μgの全RNAを分離した。正に帯電したナイロン膜(Hybond-N+)上にゲルを乾燥ブロットし、254nmUV光への曝露、120mJ/cm2によって、得られた膜を架橋した。tRNAプローブについては、マウスmtDNAの適切な領域に対応するPCR断片から転写された放射性標識されたRNAプローブT7と、架橋された膜をハイブリダイズした。相補的なα[32P]末端標識されたDNAオリゴを用いて、5S rRNAをプローブした。ストレージフォスファスクリーンに膜を曝露し、Typhoon蛍光体画像システム(GE Healthcare)を用いて走査した。信号は、Fijiソフトウェアを用いて定量した。オリゴ配列は、以下のとおりであった。
MT-TA フォワード
5’TAATACGACTCACTATAGGGAGACTAAGGACTGTAAGACTTCATC3’(配列番号43)
MT-TA リバース(配列番号44)
5’GAGGTCTTAGCTTAATTAAAG3’
MT-TC フォワード(配列番号45)
5’TAATACGACTCACTATAGGGAGACAAGTCTTAGTAGAGATTTCTC3’
MT-TC リバース(配列番号46)
5’GGTCTTAAGGTGATATTCATG3
5S rRNA オリゴ:
5’AAGCCTACAGCACCCGGTATTCCCAGGCGGTCTCCCATCCAAGTACTAACCA3’(配列番号47)
【0184】
それぞれ、C57BL/6jマウス核およびミトコンドリアゲノムに対するNCBI参照配列GRCm38.p6およびNC_005089.1を用いて、ノーザンブロッティングのための全てのプライマーを設計した。
【0185】
図2Bに示されているように、これらのマウスで検出されたヘテロプラスミーシフトに比例した、mt-tRNAALA定常状態レベルの有意な増加が存在した(
図1F)。高ウイルス用量の投与と関連するmtDNAコピー数の枯渇(
図1G)は、ヘテロプラスミーシフト後のmt-tRNAALA定常状態レベルの回復に影響を与えるように見受けられなかったが、これは、重度のmtDNA枯渇でさえも、ミトコンドリアRNA定常状態レベルの比例的な変化として現れないという以前に公表されたデータと合致する。Jazayeriら、(2003)J.Biol.Chem.278:9823-9830参照。
【0186】
mt-tRNAALA分子表現型救出の生理学的効果を評価するために、さらなる実験を行った。特に、中間ウイルス力価(5×1012vg)で処置されたマウスから得た心臓組織中の定常状態代謝物の存在量を評価した。簡潔に述べると、瞬間凍結された組織試料を切断し、セラミックビーズを予め詰めたPrecellysチューブ(Stretton Scientific Ltd.,Derbyshire,UK)中に秤量した。正確な容量の抽出溶液(30%アセトニトリル、50%メタノールおよび20%水)を加えて、1mLの抽出溶液当たり40mgの試料を得た。Precellys24ホモジナイザー(Stretton Scientific Ltd.,Derbyshire,UK)を用いて、組織試料を溶解した。懸濁液を混合し、Thermomixer(Eppendorf,Germany)中にて、4℃で15分間インキュベートした後、遠心分離した(16,000g、4℃で15分)。上清を集めて、オートサンプラーガラスバイアル中に移し、さらなる分析まで、-80℃で保存した。機械の変動によるバイアスを避けるために、試料を無作為化し、盲検で処理した。Dionex U3000 UHPLCシステム(Thermo)に連結されたQExactive Orbitrap質量分析計を用いて、LC-MS分析を実施した。液体クロマトグラフィーシステムにMerck Millipore(Germany)のSequant ZIC-pHILICカラム(150mm×2.1mm)およびガードカラム(20mm×2.1mm)を取り付け、温度を40℃で維持した。移動相は、水中の、20mM炭酸アンモニウムおよび0.1%水酸化アンモニウム(溶媒A)ならびにアセトニトリル(溶媒B)から構成された。Mackayら、(2015)Methods Enzymol 561:171-196に以前に記載されているとおりのグラジエントを用いて、流速を200μL/分に設定した。質量分析計は、フルMSおよび極性スイッチングモードで動作した。XCalibur Qual BrowserおよびXCalibur Quan Browserソフトウェア(Thermo Scientific)を用いて、獲得されたスペクトルを分析した。
【0187】
図2C~2Eに示されているように、この分析はmtZFN処置されたマウス中において、改変された代謝シグネチャを明らかにし(
図2C)、対照と比較して、より低い乳酸レベルを伴った、上昇したホスホエノールピルビン酸およびピルビン酸レベルを実証した(
図2D)。さらに、処置された動物は、より高いグルコースレベルを示したが、より低いグルコースー6-リン酸およびフルクトースー6-リン酸レベルを示した(
図2E)。
【0188】
このように、ヌクレアーゼを用いたm.5024C>Tヘテロプラスミーシフトに際してミトコンドリア機能の回復が達成された。
【0189】
要約すると、データは、変異体ミトコンドリアDNA配列を標的とするヌクレアーゼは、マウスmtDNA中のヘテロプラスミー変異を巧みに操作し、心臓組織中の疾患表現型の分子的および生理学的救出をもたらすために、インビトロ、インビボで使用することができることを実証する。
【0190】
本明細書に挙げられている全ての特許、特許出願および刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0191】
理解を明確にするために、例示および実施例によって、いくぶん詳しく開示を提供してきたが、様々な変更および修正が本開示の精神または範囲から逸脱することなく実施できることが当業者に自明である。したがって、先述の記載および実施例は、限定するものとして解釈すべきでない。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
ミトコンドリア障害の処置を必要とする被験体におけるミトコンドリア障害の処置のための、第一および第二のジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を含むジンクフィンガーヌクレアーゼの使用であって、前記第一のZFNが、切断ドメインと野生型ミトコンドリアDNA(mtDNA)中の標的部位に結合するジンクフィンガータンパク質(ZFP)とを含み、前記第二のZFNが、切断ドメインと、前記被験体中の変異体mtDNAが低減されまたは除去されるように変異体mtDNA中の標的部位に結合するZFPとを含む、使用。
(項目2)
前記第一のZFNが左ZFNであり、前記第二のZFNが右ZFNである、項目1に記載の使用。
(項目3)
前記ジンクフィンガーヌクレアーゼが、1またはそれを超えるポリヌクレオチドによってコードされる、項目1に記載の使用。
(項目4)
前記ポリヌクレオチドが、1またはそれを超えるAAVベクターによって運ばれる、項目1または項目2または項目3に記載の使用。
(項目5)
被験体がヒト被験体である、項目1~4のいずれかに記載の使用。
(項目6)
前記mtDNAが、前記被験体の心臓、脳、肺および/または筋肉中にある、項目1~5のいずれかに記載の使用。
(項目7)
前記変異体mtDNAが、以下の変異:m.5024C>T、1555G、1624T、3243G、3460A、3271C、4300G、5545T、7445G、7472無作為挿入、8344G、8356C 8993G、9176G/C、10158C、10191C、10197A、11777A、11778A、13513A、14459A、14484C、14487Cおよび/または14709Cを含む、項目1~6のいずれかに記載の使用。
(項目8)
前記変異体mtDNAが、前記5024C>T変異を含み、前記左ZFPが配列番号33内の標的部位に結合し、前記右ZFPが配列番号34内の標的部位に結合する、項目1~7のいずれかに記載の使用。
(項目9)
前記左ZFNがWTM1/48960と表記されるZFPを含み、かつ前記右ZFNがMTM62/48962、MTM24/51024、MTM25/51025、MTM26/51026、MTM27/51027、MTM28/51028、MTM29/51029、MTM30/51030、MTM32/51032、MTM33/51033、MTM36/51036、MTM37/51037、MTM39/51039、MTM42/51042、MTM43/51043またはMTM45/51045と表記されるZFPを含む、項目2に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼ、項目8に記載の使用。
(項目10)
被験体中のミトコンドリア病を処置する方法であって、ミトコンドリア病を処置することを必要とする被験体中で、前記被験体中の変異体mtDNAが低減または除去されるように、項目1~9のいずれかに記載のZFNを発現させることを含む、方法。
(項目11)
左および右ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を含むジンクフィンガーヌクレアーゼであって、前記左ZFNが切断ドメインと、配列番号33内の野生型ミトコンドリアDNA中の標的部位に結合するジンクフィンガータンパク質(ZFP)とを含み、前記右ZFNが切断ドメインと、配列番号34または配列番号35内の変異体ミトコンドリアDNA中の標的部位に結合するZFPとを含む、ジンクフィンガーヌクレアーゼ。
(項目12)
1またはそれを超えるポリヌクレオチドであって、必要に応じて1またはそれを超えるAAVベクターによって運ばれる、項目11に記載のヌクレアーゼをコードする、ポリヌクレオチド。
(項目13)
項目10に記載のヌクレアーゼまたは項目12に記載の1もしくはそれを超えるポリヌクレオチドを含む細胞、必要に応じて、心臓、脳、肺および/または筋肉の細胞。
(項目14)
前記細胞中の5024位の変異体mtDNAが低減されまたは除去されている、項目13に記載の細胞。
(項目15)
項目13もしくは項目14に記載の細胞から産生されたまたは該細胞に由来する細胞または細胞株。
(項目16)
項目11に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼ、項目12に記載のポリヌクレオチドおよび/または項目13~15のいずれかに記載の細胞を含む医薬組成物。
(項目17)
項目11に記載のヌクレアーゼ、項目12に記載のポリヌクレオチド、項目13~15のいずれかに記載の細胞および/または項目16に記載の医薬組成物を含むキット。