(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073640
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】光学物品用重合性組成物、光学物品および眼鏡
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20240522BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20240522BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240522BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20240522BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20240522BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F220/26
B32B27/30 A
G02C7/10
G02C7/00
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044667
(22)【出願日】2024-03-21
(62)【分割の表示】P 2022512661の分割
【原出願日】2021-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2020064621
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020064807
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 強
【テーマコード(参考)】
2H006
4F100
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA04
2H006BE02
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK25E
4F100AK51
4F100AK51D
4F100AK52
4F100AK52D
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA07
4F100CA07C
4F100EJ54
4F100EJ65
4F100EJ65E
4F100EJ85
4F100EJ86
4F100GB76
4F100JA07
4F100JA07B
4F100JK06
4F100JK12
4F100JK12D
4F100JL09
4F100JN01
4F100JN28
4J100AL62Q
4J100AL66P
4J100AL66Q
4J100BA08P
4J100BC12Q
4J100CA04
4J100CA23
4J100JA33
4J127AA03
4J127AA04
4J127BA041
4J127BB031
4J127BB111
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD221
4J127BG141
4J127BG14Y
4J127BG171
4J127BG17Y
4J127CB281
4J127CC021
4J127CC161
4J127DA22
4J127DA61
4J127DA64
4J127EA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、耐候性に優れるフォトクロミック層を形成することができ、かつフォトクロミック化合物の溶解性に優れる光学物品用重合性組成物、および光学物品を提供する。
【解決手段】フォトクロミック化合物と分子量500以上の非環状のメタクリレート(成分A)と環状構造および分岐構造からなる群から選ばれる構造を含む2官能(メタ)アクリレート(成分B)とを含む光学物品用重合性組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック化合物と、
成分A:分子量500以上1000以下の非環状のメタクリレートと、
成分B:環状構造および分岐構造からなる群から選ばれる構造を含む2官能(メタ)アクリレートと、
を含み、
成分Bは、脂環式の2官能(メタ)アクリレートおよび1分子中に1つ以上の分岐構造を含み環状構造を含まない2官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される1種以上であり、かつ少なくとも脂環式の2官能(メタ)アクリレートを含む、光学物品用重合性組成物。
【請求項2】
成分Bは、1分子中に1つ以上の分岐構造を含み環状構造を含まない2官能(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の光学物品用重合性組成物。
【請求項3】
基材と、
請求項1または2に記載の光学物品用重合性組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
を有する光学物品。
【請求項4】
前記基材と、前記フォトクロミック層と、保護層と、をこの順に有する、請求項3に記載の光学物品。
【請求項5】
前記保護層は、紫外線吸収剤を含む、請求項4に記載の光学物品。
【請求項6】
前記保護層は、保護層形成用重合性組成物を硬化させた硬化層であり、
前記保護層形成用重合性組成物は、1種以上の(メタ)アクリレートを含み、かつ(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む、請求項4または5に記載の光学物品。
【請求項7】
前記保護層の厚さは、10~45μmの範囲である、請求項4~6のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項8】
前記基材と、前記フォトクロミック層と、前記保護層と、有機ケイ素系硬化層と、をこの順に有する、請求項4~7のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項9】
前記基材と前記フォトクロミック層との間に、プライマー層を更に有する、請求項3~8のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項10】
前記プライマー層は、プライマー層形成用重合性組成物を硬化させた硬化層であり、
前記プライマー層形成用重合性組成物は、
ポリイソシアネートと、
ヒドロキシ基含有重合性化合物と、
粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物と、
を含む、請求項9に記載の光学物品。
【請求項11】
眼鏡レンズである、請求項3~10のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項12】
ゴーグル用レンズである、請求項3~10のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項13】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項3~10のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項14】
ヘルメットのシールド部材である、請求項3~10のいずれか1項に記載の光学物品。
【請求項15】
請求項11に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品用重合性組成物、光学物品および眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で発色し、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。眼鏡レンズ等の光学物品にフォトクロミック性を付与する方法としては、フォトクロミック化合物と重合性化合物とを含む重合性組成物を用いて基材上にコーティングを設け、このコーティングを硬化させてフォトクロミック性を有する硬化層(フォトクロミック層)を形成する方法が挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなフォトクロミック性を有する光学物品に望まれる性質としては、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高いことおよび耐候性に優れることが挙げられる。また、フォトクロミック層を形成するために使用される重合性組成物が、フォトクロミック化合物の溶解性に優れることも望ましい。
【0005】
本発明の一態様は、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、耐候性に優れるフォトクロミック層を形成することができ、かつフォトクロミック化合物の溶解性に優れる光学物品用重合性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
フォトクロミック化合物と、
成分A:分子量500以上の非環状のメタクリレートと、
成分B:環状構造および分岐構造からなる群から選ばれる構造を含む2官能(メタ)アクリレートと、
を含む、光学物品用重合性組成物(以下、単に「組成物」とも記載する。)、
に関する。
【0007】
上記組成物は、フォトクロミック化合物とともに、上記の成分Aおよび成分Bを含む。これにより、この組成物を硬化させて形成されるフォトクロミック層は優れた耐候性を示すことができ、かつこのフォトクロミック層において、光照射を受けたフォトクロミック化合物は高濃度で発色することができる。また、上記の成分Aおよび成分Bを含む上記組成物は、フォトクロミック化合物に対して優れた溶解性を示すこともできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、耐候性に優れるフォトクロミック層を形成することができ、かつフォトクロミック化合物の溶解性に優れる光学物品用重合性組成物を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる光学物品用重合性組成物を硬化させたフォトクロミック層を有する光学物品を提供することができる。一形態では、上記光学物品は眼鏡レンズであることができる。本発明の一態様によれば、かかる眼鏡レンズを備えた眼鏡を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[光学物品用重合性組成物]
以下に、本発明の一態様にかかる光学物品用重合性組成物について、更に詳細に説明する。
【0010】
本発明および本明細書において、重合性組成物とは、重合性化合物を含む組成物をいうものとする。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物である。本発明の一態様にかかる光学物品用重合性組成物は、光学物品の製造のために使用される重合性組成物であって、光学物品用コーティング組成物であることができ、より詳しくは光学物品のフォトクロミック層形成用コーティング組成物であることができる。光学物品用コーティング組成物とは、光学物品の製造のために基材の表面等の被塗布面に塗布される組成物を意味する。光学物品としては、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ等の各種レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることができる。例えば、上記組成物をレンズ基材に塗布して作製される眼鏡レンズは、フォトクロミック層を有する眼鏡レンズとなり、フォトクロミック性を示すことができる。
【0011】
本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレートについて、官能数は、1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。アクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。以下に記載の「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0012】
<重合性化合物>
上記組成物は、重合性化合物として、少なくとも成分Aおよび成分Bを含む。以下に、成分Aおよび成分Bについて説明する。
【0013】
(成分A)
成分Aは、分子量500以上の非環状のメタクリレートである。本発明および本明細書において、「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。非環状のメタクリレートとは、環状構造を含まない単官能以上のメタクリレートをいうものとする。成分Aは、上記組成物から形成されるフォトクロミック層が優れた耐候性を示すことができることに寄与し得ると推察される。
【0014】
成分Aは、単官能または2官能以上のメタクリレートであることができ、2官能または3官能メタクリレートであることが好ましく、2官能メタクリレートであることがより好ましい。成分Aとしては、ポリアルキレングリコールジメタクリレートを挙げることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートは、下記式1:
【化1】
により示すことができ、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。Rで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。nは、2以上であり、例えば30以下、25以下または20以下であることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0015】
成分Aの分子量は、500以上である。分子量が500以上の非環状の2官能メタクリレート(成分A)を、詳細を後述する成分Bとともに含むことが、上記組成物から形成されるフォトクロミック層において、光照射を受けたフォトクロミック化合物が高濃度で発色できることに寄与し得ると推察される。なお本発明および本明細書において、重合体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出した理論分子量を採用している。成分Aの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましく、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。成分Aの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。
【0016】
(成分B)
成分Bは、環状構造および分岐構造からなる群から選ばれる構造を含む2官能(メタ)アクリレートである。上記組成物が成分Bを上記成分Aとともに含むことは、この組成物から形成されるフォトクロミック層において光照射を受けたフォトクロミック化合物が高濃度で発色可能であることに寄与し得ると推察される。また、成分Bは、上記組成物においてフォトクロミック化合物の溶解性を高めることにも寄与し得ると考えられる。成分Bは、一形態では1分子中に1つ以上の環状構造を含み分岐構造を含まず、他の一形態では1分子中に1つ以上の分岐構造を含み環状構造を含まず、また他の一形態では1分子中に1つ以上の環状構造と1つ以上の分岐構造とを含む。1分子中に含まれる環状構造および分岐構造からなる群から選ばれる構造の数は、1つ以上であり、例えば1つ、2つまたは3つであることができ、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。上記分岐構造について、成分Bがメタクリロイル基を有する場合、メタクリロイル基に含まれる分岐構造は考慮されないものとする。
【0017】
1つ以上の環状構造を含む成分Bは、一形態では、脂環式の2官能(メタ)アクリレートであることができる。脂環式の2官能(メタ)アクリレートは、例えば、R1-(L1)n1-Q-(L2)n2-R2で表される構造を有する化合物であることができる。ここでQは二価の脂環式基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立に(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基を表し、L1およびL2はそれぞれ独立に連結基を表し、n1およびn2はそれぞれ独立に0または1を表す。Qで表される二価の脂環式基としては、炭素数3~20の脂環式炭化水素基が好ましく、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、トリシクロデカニレン基、アダマンチレン基等を挙げることができる。L1およびL2で表される連結基としては、例えばアルキレン基を挙げることができる。アルキレン基は、例えば炭素数1~6のアルキレン基であることができる。
【0018】
脂環式の2官能(メタ)アクリレートの具体例としては、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0019】
1つ以上の分岐構造を含む成分Bは、一形態では、分岐アルキレン基を含む2官能(メタ)アクリレートであることができる。分岐アルキレン基の炭素数は、1以上、2以上、3以上または4以上であることができる。また、分岐アルキレン基の炭素数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下または5以下であることができる。一形態では、分岐アルキレン基は、第4級炭素(即ち4つの炭素と結合している炭素)を含むことができる。1つ以上の分岐構造を含む成分Bの具体例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0020】
成分Bの分子量は、特に限定されるものではないが、一形態では、例えば200~400の範囲であることができる。成分Bは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。
【0021】
上記組成物に含まれる(メタ)アクリレートの全量(100質量%)に対して、成分Aの含有率は50.0量%以上であることが好ましく、60.0質量%以上であることがより好ましく、70.0質量%以上であることが更に好ましい。また、成分Aの上記含有率は、例えば、95.0質量%以下であることができ、90.0質量%以下であることもできる。上記組成物は、成分Aを1種のみ含んでもよく、2種以上の成分Aを含むこともできる。2種以上の成分Aが含まれる場合、上記含有率は、それら2種以上の成分Aの合計含有率である。この点は、成分B等の他の成分に関する含有率についても同様である。なお本発明および本明細書において、成分Aおよび成分Bのいずれにも該当する成分は、成分Aとみなすものとする。成分Aは、上記組成物に含まれる(メタ)アクリレートの中で最も多く含まれる成分であることができる。一方、成分Bの含有率は、上記組成物に含まれる(メタ)アクリレートの全量(100質量%)に対して、1.0質量%以上であることができ、5.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることがより好ましい。また、成分Bの上記含有率は、例えば、30.0質量%以下であることができ、25.0質量%以下または20.0質量%以下であることもできる。上記組成物は、成分A、B以外の他の(メタ)アクリレートを含んでもよく、含ままなくてもよい。上記組成物に成分A、B以外の他の(メタ)アクリレートが含まれる場合、その含有率は、上記組成物に含まれる(メタ)アクリレートの全量(100質量%)に対して、10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。一形態では、上記組成物は、(メタ)アクリレートとして、成分Aと成分Bのみを含むこともできる。また、上記組成物は、(メタ)アクリレート以外の重合性化合物を含んでもよく、含まなくてもよい。上記組成物は、(メタ)アクリレートを合計で、この組成物の全量(100質量%)に対して、例えば80.0~99.9質量%の含有率で含むことができる。本発明および本明細書において、含有率に関して、「組成物の全量」とは、溶剤を含む組成物については、溶剤を除く全成分の合計量をいうものとする。上記組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0022】
<フォトクロミック化合物>
上記組成物は、以上説明した各種成分とともにフォトクロミック化合物を含む。上記組成物に含まれるフォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性を示す公知の化合物を使用することができる。フォトクロミック化合物は、例えば紫外線に対してフォトクロミック性を示すことができる。例えば、フォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等のフォトクロミック性を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用することもできる。上記組成物のフォトクロミック化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~15.0質量%程度であることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0023】
<他の成分>
上記組成物は、以上説明した各種成分に加えて、重合性組成物に通常含まれ得る各種添加剤の1種以上を任意の含有率で含むことができる。上記組成物に含まれ得る添加剤としては、例えば、重合反応を進行させるための重合開始剤を挙げることができる。
【0024】
例えば、重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができ、ラジカル重合開始剤が好ましく、重合開始剤としてラジカル重合開始剤のみを含むことがより好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[(4-フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9、9’-アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリン等が挙げられる。また、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体において、2つのトリアリールイミダゾール部位のアリール基の置換基は、同一で対称な化合物を与えてもよく、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、ジエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸の組み合わせのように、チオキサントン化合物と3級アミンとを組み合わせてもよい。これらの中で、硬化性、透明性および耐熱性の観点から、α-ヒドロキシケトンおよびホスフィンオキシドが好ましい。重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5.0質量%の範囲であることができる。
【0025】
上記組成物には、更に、フォトクロミック化合物を含む組成物に通常添加され得る公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤等の添加剤を任意の量で添加できる。これら添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0026】
上記組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0027】
[光学物品]
本発明の一態様は、基材と、上記組成物を硬化させたフォトクロミック層と、を有する光学物品に関する。
以下、上記光学物品について、更に詳細に説明する。
【0028】
<基材>
上記光学物品は、光学物品の種類に応じて選択した基材上にフォトクロミック層を有することができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。基材表面には、その上に一層以上の層を形成する前に、基材表面の清浄化等のために、アルカリ処理、UVオゾン処理等の公知の前処理の1つ以上を任意に施すことができる。
【0029】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0030】
<フォトクロミック層>
上記光学物品のフォトクロミック層は、上記組成物を硬化させた硬化層である。上記フォトクロミック層は、基材の表面上に直接または一層以上の他の層を介して間接的に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、上記組成物に含まれる各種成分(先に記載した重合性化合物、重合開始剤等)の種類や上記組成物の組成に応じて決定すればよい。こうして形成されるフォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0031】
<プライマー層>
基材とフォトクロミック層との間に位置し得る他の層としては、基材とフォトクロミック層との密着性を向上させるためのプライマー層を挙げることができる。プライマー層は、プライマー層形成用重合性組成物(以下、「プライマー層用組成物」とも記載する。)を硬化させた硬化層であることができる。
【0032】
一形態では、プライマー層用組成物は、ポリイソシアネートと、ヒドロキシ基含有重合性化合物と、粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物と、を含むことができる。基材上にフォトクロミック層を有する光学物品において、基材とフォトクロミック層との間にプライマー層を設けることは、基材とフォトクロミック層との密着性向上のために好ましい。そこで本発明者が、基材とフォトクロミック層との間に設けるプライマー層について検討したところ、プライマー層に起因する光学的均質性の低下が起こり得ることが判明した。そして本発明者は更に鋭意検討を重ねた結果、上記プライマー層用組成物は、上記3種の成分を含むことによって、プライマー層に起因する光学的欠陥の発生を抑制することができ、これにより光学的均質性に優れる光学物品を提供することが可能になることを新たに見出した。また、かかるプライマー層用組成物から形成されるプライマー層は、先に記載した光学物品用重合性組成物から形成されるフォトクロミック層との密着性に優れる点でも好ましい。以下、上記プライマー層用組成物に含まれる各種成分について、更に詳細に説明する。
【0033】
(ポリイソシアネート)
上記プライマー層用組成物は、ポリイソシアネートを含む。ポリイソシアネートとは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートの1分子中に含まれるイソシアネート基の数は、2以上であり、3以上であることが好ましい。また、ポリイソシアネートの1分子中に含まれるイソシアネート基の数は、例えば6以下、5以下または4以下であることができる。ポリイソシアネートの分子量は、例えば100~500の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。ポリイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ジイソシアネート等が挙げられる。また、上記で例示したポリイソシアネートのアロファネート体、アダクト体、ビュウレット体、イソシアヌレート体等を挙げることもできる。ポリイソシアネートの市販品としては、コロネートHX、コロネートHXR、コロネートHXLV、コロネートHK,コロネート2715、コロネートHL、コロネートL,コロネート2037、HDI、TDI、MDI(東ソー社製)、タケネート500、タケネート600、デュラネート24A-100、TPA-100、TKA-100、P301-75E、タケネートD-110N、D-120N、D-127N、D-140N、D-160N、D15N、D-170N、D-170HN、D-172N、D-177N、D-178N、D-101E(三井化学社製)等が挙げられる。
【0034】
(ヒドロキシ基含有重合性化合物)
上記プライマー層用組成物は、ヒドロキシ基含有重合性化合物を含む。ヒドロキシ基含有重合性化合物の1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、1以上であり、2以上であることが好ましい。また、成分Bの1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。ポリイソシアネートが有するイソシアネート基とヒドロキシ基含有重合性化合物が有するヒドロキシ基を反応させることによりウレタン結合を形成することができる。このウレタン結合が、プライマー層が密着性向上のための層として機能し得ることに寄与すると本発明者は推察している。
【0035】
ヒドロキシ基含有重合性化合物は、1分子中に重合性基を1つ以上有することができ、2つ以上有することが好ましい。ヒドロキシ基含有重合性化合物は、一形態では、(メタ)アクリレートであることができる。
【0036】
ヒドロキシ基含有重合性化合物が(メタ)アクリレートである場合、(メタ)アクリレートとしての官能数は、1以上であり(即ち単官能以上)、2以上であることが好ましい。また、上記官能数は、3以下であることが好ましい。成分Bは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、ヒドロキシ基含有重合性化合物は、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基のみを含むことが好ましい。ヒドロキシ基含有重合性化合物の分子量は、例えば300~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。ヒドロキシ基含有重合性化合物の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、Hydroxypropyl(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、2-ヒドロキシ-1-アクリロキシ-3-メタドリロキシプロパン、2-ヒドロキシ 1-3ジメタクリロキシプロパン、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、モノアクリロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイルオキシエチルフタレート、2-(アクリロキシオキシ)エチル 2-ヒドロキシエチルフタレート等を挙げることができる。また、一形態では、ヒドロキシ基含有重合性化合物は、アミド基を有することができる。アミド基を有するヒドロキシ基含有重合性化合物の具体例としては、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド等を挙げることができる。また、ヒドロキシ基含有重合性化合物は、一形態では、エポキシエステル構造を有することができる。エポキシエステル構造とは、エポキシ基とカルボキシ基との反応により生成される構造であり、「-CH(OH)-CH2-O-C(=O)-」で表すことができる。エポキシエステル構造を有するヒドロキシ基含有重合性化合物の市販品としては、例えば、エポキシエステル40EM(共栄社化学製)、エポキシエステル70PA(共栄社化学製)、エポキシエステル80MFA(共栄社化学製)、エポキシエステル200PA(共栄社化学製)、エポキシエステル3002M(N)(共栄社化学製)、エポキシエステル3002A(N)(共栄社化学製)、エポキシエステル3000MK(共栄社化学製)、エポキシエステル3000A(共栄社化学製)等が挙げられる。
【0037】
(粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物)
上記プライマー層用組成物は、粘度100cP(センチポアズ)以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物を含む。このように低粘度の重合性化合物が含まれることが、ポリイソシアネートとヒドロキシ基含有重合性化合物とを含むプライマー層形成用重合性組成物から形成されるプライマー層において、光学的欠陥が発生することを抑制することに寄与すると、本発明者は推察している。本発明および本明細書における「粘度」は、温度25℃の大気雰囲気中で振動式粘度計によって測定される値である。上記重合性化合物の粘度は、100cP以下であり、70cP以下であることが好ましく、50cP以下であることがより好ましい。また、上記重合性化合物の粘度は、例えば、5cP以上または10cP以上であることができる。上記重合性化合物の一形態である(メタ)アクリレートは、単官能~3官能であることができ、単官能~2官能であることが好ましい。また、上記重合性化合物の一形態である(メタ)アクリレートは、アリール基(例えばフェニル基)、アミド基等を含むことができる。本発明および本明細書において、「ビニルエーテル」とは、1分子中に1個以上のビニル基および1個以上のエーテル結合を有する化合物であり、1分子中にビニル基を2個以上有することが好ましく、2~4個有することがより好ましい。また、ビニルエーテルに含まれるエーテル結合の数は、1分子中、2~4個であることが好ましい。上記重合性化合物の分子量は、例えば150~250の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。上記重合性化合物の具体例としては、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化(Ethoxylated)ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールブチルエーテル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、2-プロペノイックアシッド(Propenoic acid),2-[2-(エテニロキシ)エトキシ]エチルエステル、2-(2-エテノキシエトキシ)エチル2-メチルプロプ-2-エノエート等を挙げることができる。
【0038】
上記プライマー層用組成物において、粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の含有率は、かかる重合性化合物とポリイソシアネートとヒドロキシ基含有重合性化合物との合計を100質量%として、30.0質量%以上であることが好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましい。粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の含有率は、かかる重合性化合物とポリイソシアネートとヒドロキシ基含有重合性化合物との合計を100質量%として、例えば、90.0質量%以下、80.0質量%以下または70.0質量%以下であることができる。粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物は、一形態では、かかる重合性化合物、ポリイソシアネートおよびヒドロキシ基含有重合性化合物の中で、上記プライマー層用組成物において最も多く含まれる成分であることが好ましい。
【0039】
上記プライマー層用組成物において、ポリイソシアネートの含有率は、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基含有重合性化合物ならびに粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の合計を100質量%として、70.0質量%以下であることが好ましく、60.0質量%以下であることがより好ましく、50.0質量%以下であることが更に好ましい。ポリイソシアネートの含有率は、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基含有重合性化合物ならびに粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の合計を100質量%として、例えば、10.0質量%以上、20.0質量%以上または30.0質量%以上であることができる。
【0040】
上記プライマー層形成用重合性組成物において、ヒドロキシ基含有重合性化合物の含有率は、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基含有重合性化合物ならびに粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の合計を100質量%として、3.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることがより好ましく、7.0質量%以上であることが更に好ましい。ヒドロキシ基含有重合性化合物の含有率は、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基含有重合性化合物ならびに粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の合計を100質量%として、例えば、30.0質量%以下または20.0質量%以下であることができる。
【0041】
上記プライマー層用組成物は、更に重合開始剤を含むことができる。上記プライマー層用組成物は、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基含有重合性化合物ならびに粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の合計を100質量%として、重合開始剤を、例えば0.01~3.0質量%の範囲の含有率で含むことができる。
【0042】
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができ、ラジカル重合開始剤が好ましく、重合開始剤としてラジカル重合開始剤のみを含むことがより好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤の具体例については、光学物品用重合性組成物に含まれ得る重合開始剤に関する先の記載を参照できる。
【0043】
上記プライマー層用組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を使用することができる。溶剤を含む場合、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基含有重合性化合物ならびに粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の合計を100質量%として、溶剤の含有率は、10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
上記プライマー層用組成物は、更に、プライマー層形成のための組成物に通常添加され得る公知の添加剤を任意の量で含むことができる。添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。上記プライマー層用組成物は、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基含有重合性化合物ならびに粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物を合計で80.0質量%以上、85.0質量%以上、90.0質量%以上または95.0質量%以上含むことができる。また、上記プライマー層用組成物において、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、ポリイソシアネート、ヒドロキシ基含有重合性化合物ならびに粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物の合計含有率は、例えば、100質量%、100質量%以下、100質量%未満、99.0質量%以下または98.0質量%以下であることができる。
【0045】
上記プライマー層用組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0046】
プライマー層用組成物を基材に塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって、プライマー層用組成物が硬化した硬化層であるプライマー層を基材上に形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、プライマー層用組成物に含まれる各種成分の種類やプライマー層用組成物の組成に応じて決定すればよい。硬化処理後には、必要に応じて、アニール処理(加熱処理)を行うこともできる。アニール処理は、例えば、雰囲気温度90~130℃程度の熱処理炉において行うことができる。
【0047】
プライマー層の厚さは、例えば3μm以上であることができ、5μm以上であることが好ましい。また、プライマー層の厚さは、例えば15μm以下であることができ、10μm以下であることが好ましい。
【0048】
上記フォトクロミック層を有する光学物品は、フォトクロミック層に加えて一層以上の機能性層を有してもよく、有さなくてもよい。機能性層の一例としては、プライマー層を挙げることができ、その詳細は先に記載した通りである。また、機能性層の一例としては、光学物品の耐久性向上のための保護層、一般にハードコート層と呼ばれる硬化層、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の光学物品に含まれ得る各種機能性層を挙げることができる。
【0049】
<保護層>
保護層は、例えば、保護層形成用重合性組成物(以下、「保護層用組成物」とも記載する。)を硬化させた硬化層としてフォトクロミック層上に形成することができる。フォトクロミック層上に保護層を設けることは、フォトクロミック層を有する光学物品の耐久性向上の観点から好ましい。かかる観点からは、保護層には、高い硬度を有することが望まれる。また、保護層が溶剤耐性に優れることも望ましい。光学物品の製造工程においては、通常、層を形成した後、形成された層の表面の清浄化のために溶剤による拭き取り処理が行われる。この拭き取り処理において保護層がダメージを受けてしまうと、光学物品に曇りや光学的欠陥が発生する原因となってしまうからである。硬度および溶剤耐性の観点から好ましい保護層を形成可能な重合性組成物としては、1種以上の(メタ)アクリレートを含み、かつ(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む重合性組成物を挙げることができる。
【0050】
上記保護層用組成物に含まれる脂環式の2官能(メタ)アクリレートの詳細については、上記光学物品用重合性組成物の成分Bの一例としての脂環式の2官能(メタ)アクリレートに関する先の記載を参照できる。上記保護層用組成物は、 (メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む。このことが、上記保護層用組成物から形成される保護層が、高い硬度と優れた溶剤耐性を示すことができる理由であると、本発明者は考えている。より高い硬度とより優れた溶剤耐性を示すことができる保護層を光学物品に設けることを可能とする観点から、上記保護層用組成物は、(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを75.0質量%以上含むことが好ましく、80.0質量%以上含むことがより好ましく、85.0質量%以上含むことが更に好ましく、90.0質量%以上含むことが一層好ましく、95.0質量%以上含むことがより一層好ましい。一形態では、上記保護層用組成物は、(メタ)アクリレートの全量が、脂環式の2官能(メタ)アクリレートであることもできる。
【0051】
上記保護層用組成物は、一形態では、(メタ)アクリレートとして脂環式の2官能(メタ)アクリレートに加えて1種以上の他の(メタ)アクリレートを含むことができ、他の一形態では、(メタ)アクリレートとして脂環式の2官能(メタ)アクリレートのみを含むことができる。前者の形態の場合、脂環式の2官能(メタ)アクリレートとともに含まれる他の(メタ)アクリレートについては、特に制限はなく、各種(メタ)アクリレートの1種または2種以上を使用することができる。他の(メタ)アクリレートとしては、例えば、単官能、2官能、3官能、4官能および5官能(メタ)アクリレートを挙げることができ、非環状であっても環状であってもよい。環状構造を含む(メタ)アクリレートは、環状構造として脂環構造を有するものであってもよく、他の環状構造を有するものであってもよい。脂環構造については、脂環式の2官能(メタ)アクリレートに関する先の記載を参照できる。上記保護層用組成物において、他の(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して、30.0質量%以下、25.0質量%以下、20.0質量%以下、15.0質量%以下であることができる。また、上記保護層用組成物において、他の(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して、0質量%、0質量%以上、0質量%超、1.0質量%以上、5.0質量%以上または10.0質量%以上であることができる。
【0052】
上記保護層用組成物は、重合性化合物として少なくとも1種以上の(メタ)アクリレートを含み、一形態では(メタ)アクリレート以外の他の重合性化合物を1種以上含むことができ、他の一形態では重合性化合物として(メタ)アクリレートのみを含むことができる。他の重合性化合物については、特に制限はなく、公知の重合性化合物の1種以上を使用することができる。上記保護層用組成物は、重合性化合物の全量を100質量%として、(メタ)アクリレートを80.0質量%以上、85.0質量%以上、90.0質量%以上または95.0質量%以上含むことができ、重合性化合物の全量が(メタ)アクリレートであることもできる。
【0053】
一形態では、上記保護層用組成物は、組成物の全量を100質量%として、(メタ)アクリレートの含有率(2種以上の(メタ)アクリレートを含む場合にはそれらの合計含有率)が、80.0質量%以上であることが好ましく、85.0質量%以上であることがより好ましく、90.0質量%以上であることが更に好ましく、95.0質量%以上であることがより好ましい。上記保護層用組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0054】
上記保護層用組成物は、重合性組成物に含まれ得る各種添加剤の1種以上を任意の含有率で含むことができる。かかる添加剤としては、例えば、重合反応を進行させるための重合開始剤、組成物の塗布適性向上のためのレベリング剤等の公知の各種添加剤を挙げることができる。
【0055】
例えば、重合開始剤としては、(メタ)アクリレートに対して重合開始剤として機能することができる公知の重合開始剤を使用することができ、ラジカル重合開始剤が好ましく、重合開始剤としてラジカル重合開始剤のみを含むことがより好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤の具体例については、光学物品用重合性組成物に含まれ得る重合開始剤に関する先の記載を参照できる。重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5.0質量%の範囲であることができる。
【0056】
また、一形態では、上記保護層用組成物は、紫外線吸収剤を含むことができる。紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシフェニル)-s-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-s-トリアジン、2-[2-ヒドロキシ-4-(2-エチルヘキシルオキシ)フェニル]-4,6-ジビフェニル-s-トリアジン、2-[[2-ヒドロキシ-4-[1-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)エチルオキシ]フェニル]]-4,6-ジフェニル-s-トリアジン等のヒドロキシフェニルトリアジン化合物、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール等のベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤等の各種紫外線吸収剤の一種以上を使用することができる。上記保護層用組成物が紫外線吸収剤を含むことは、この組成物から形成される保護層を有する光学物品の耐候性の更なる向上に寄与し得る。上記保護層用組成物が紫外線吸収剤を含む場合、紫外線吸収剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~1.0質量%の範囲であることができる。
【0057】
上記保護層用組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0058】
保護層用組成物を基材に塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって、保護層用組成物が硬化した硬化層である保護層をフォトクロミック層上に形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、保護層用組成物に含まれる各種成分の種類や保護層用組成物の組成に応じて決定すればよい。保護層は、フォトクロミック層の表面に直接設けることができ、フォトクロミック層の上に位置する層の表面に設けることもできる。フォトクロミック層と保護層との間に位置し得る層としては、プライマー層等を挙げることができる。保護層の厚さは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましく、25μm以上であることが一層好ましい。また、保護層の厚さは、45μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。保護層は、光学物品の耐久性向上に寄与することができる。また、更なる処理(例えば後述の硬化層の形成)が行われるまでの間、フォトクロミック層を保護してフォトクロミック層に傷が発生することを抑制することもできる。
【0059】
上記光学物品は、「フォトクロミック層/保護層」の層構成を有することができる。層構成に関して、「/」は、他の層を介さずに直接接している形態と、他の層の一層以上を介して設けられている形態とを包含する意味で使用される。また、一形態では、上記光学物品は、「フォトクロミック層/保護層/他の硬化層」の層構成を有することができる。かかる層構成において、他の硬化層は、一般にハードコート層と呼ばれる硬化層であることができる。保護層に加えてハードコート層を設けることにより、光学物品の耐久性をより一層高めることができる。また、一形態では、ハードコート層を設けることにより、光学物品の耐衝撃性を高めることもできる。一形態では、上記の他の硬化層は、上記保護層と他の層を介さずに直接接することができる。
【0060】
上記の他の硬化層の厚さは、例えば1~10μmの範囲であることができ、1~8μmの範囲であることが好ましく、1~5μmの範囲であることがより好ましい。一形態では、上記の他の硬化層は、上記保護層より薄い層であることができる。上記の他の硬化層の一例としては、有機ケイ素系硬化層を挙げることができる。有機ケイ素系硬化層は、一般に耐衝撃性に優れるため好ましい。また、例えば反射防止膜を更に設ける場合、有機ケイ素系硬化層は、一般に反射防止膜との密着性に優れる点からも好ましい。
【0061】
有機ケイ素系硬化層とは、有機ケイ素化合物を含む重合性組成物を硬化した硬化層である。有機ケイ素化合物としては、重合処理が施されることによりシラノール基を生成可能な有機ケイ素化合物、シラノール基と縮合反応するハロゲン原子やアミノ基等の反応性基を有するオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。また、有機ケイ素化合物としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等の重合性基とアルコキシ基等の加水分解性基とを有するシランカップリング剤を挙げることもできる。有機ケイ素化合物を含む重合性組成物には、屈折率の調整等のために、ケイ素酸化物、チタン酸化物等の無機物質の粒子が含まれていてもよい。有機ケイ素化合物を含む重合性組成物の詳細については、ハードコート層として機能し得る有機ケイ素系硬化層に関する公知技術を適用できる。かかる重合性組成物は、組成物に含まれる成分の種類に応じて、光照射および/または加熱処理によって重合反応を進行させて硬化させることができる。
【0062】
上記保護層の上に上記の他の硬化層を設ける前、保護層表面に溶剤による拭き取り処理を施すことにより、上記の他の硬化層を形成するための重合性組成物が塗布される保護層表面の清浄度を高めることができる。このように溶剤による拭き取り処理を行うことは、上記保護層と上記の他の硬化層との間に異物が介在すること防ぐ観点等から好ましい。ただし、保護層が溶剤耐性に劣る場合には、溶剤拭き取り処理によって保護層がダメージを受けてしまう(例えば、面荒れの発生)。そのようなダメージの発生は、この保護層を含む光学物品に曇りや光学的欠陥が発生する原因となってしまう。これに対し、先に記載した組成を有する保護層用組成物から形成された保護層は、優れた溶剤耐性を示すことができる。
【0063】
溶剤による拭き取り処理は、公知の方法によって行うことができる。例えば、溶剤を浸み込ませた布で保護層表面を拭き取ることにより、溶剤による拭き取り処理を行うことができる。溶剤としては、アセトン等のケトン溶剤、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール溶剤を挙げることができる。一形態では、保護層は、光学物品の製造時に拭き取り用の溶剤として汎用されるケトン溶剤に対して高い耐性を有することが好ましい。
【0064】
層構成に関して、上記光学物品は、「基材/(プライマー層)/フォトクロミック層/(保護層/他の硬化層)」の層構成を有することができる。括弧内の層は任意に設けられ得る層であり、これらの層の1層以上が設けられることが好ましい理由は先に記載した通りである。
【0065】
上記光学物品の一形態は、眼鏡レンズである。また、上記光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることがでる。
【0066】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記光学物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて発色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
<光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)の調製>
プラスチック製容器内で、成分Aであるポリエチレングリコールジメタクリレート(上式1中、n=14、Rはエチレン基、分子量736)90質量部、成分Bであるトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(分子量332)10質量部を混合した。
こうして得られた重合性化合物の混合物に、フォトクロミック化合物(米国特許第5645767号明細書に記載の構造式で示されるインデノ縮合ナフトピラン化合物)、光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))、酸化防止剤(エチレンビス (オキシエチレン)ビス-(3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート))、光安定化剤(ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケートとの混合物)を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を調製した。組成物の全量を100質量%とした上記成分の含有率は、上記重合性化合物の混合物は90.0質量%、フォトクロミック化合物は5.7質量%、光ラジカル重合開始剤は0.7質量%、酸化防止剤は2.7質量%、光安定化剤は0.9質量%である。
【0069】
<眼鏡レンズの作製>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名EYAS;中心肉厚2.5mm、半径75mm、S-4.00)を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理した後に純水で洗浄し乾燥させた。その後、このプラスチックレンズ基材の凸面(物体側表面)にプライマー層を形成した。詳しくは、下記構造:
【化2】
を有するヒドロキシ基含有2官能アクリレート(10質量部)を、ポリイソシアネートとして東ソー社製コロネート2715(40質量部)および2-フェノキシエチルアクリレート(粘度:13cP)(50質量部)と混合した。こうして得られた混合物に、混合物の全量100質量%に対して0.02質量%の量で光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして得られたプライマー層形成用重合性組成物を温度25℃相対湿度50%の環境においてプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、プラスチックレンズ基材上に塗布されたプライマー層形成用組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてプライマー層を形成した。形成されたプライマー層の厚さは8μmであった。
上記プライマー層の上に、上記で調製したフォトクロミック層形成用コーティング組成物をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、特開2005-218994号公報に記載の方法により行った。その後、プライマー層上に塗布された上記組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは45μmであった。
上記フォトクロミック層の上に、以下のように調製した保護層形成用重合性組成物をスピンコート法により塗布して塗布層を形成した。この塗布層の表面に向かって窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この塗布層を硬化させて保護層を形成した。形成された保護層の厚さは15μmであった。
上記保護層の表面に、アセトンによる拭き取り処理を施した後、以下のように調製したハードコーティング液をディップコート法(引き上げ速度20cm/分)でコーティングした。その後、炉内温度100℃の熱処理炉内で60分加熱硬化することにより、厚さ3μmのハードコート層(有機ケイ素系硬化層)を保護層上に形成した。
【0070】
(保護層形成用重合性組成物の調製)
プラスチック製容器内で、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)99.0質量部およびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819)1.0質量部を、混合して十分に撹拌した後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして保護層形成用重合性組成物を調製した。
上記保護層形成用重合性組成物では、(メタ)アクリレートは脂環式の2官能(メタ)アクリレートのみであるため、脂環式の2官能(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して100質量%である。
【0071】
(ハードコーティング液(ハードコート層形成用重合性組成物)の調製)
マグネティックスターラーを備えたガラス製の容器にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン17質量部、メタノール30質量部、および水分散コロイダルシリカ(固形分40質量%、平均粒子径15nm)28質量部を加え十分に混合し、5℃で24時間撹拌を行った。次に、プロピレングリコールモノメチルエーテル15質量部、シリコ-ン系界面活性剤0.05質量部、および硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネ-トを1.5質量部加え、十分に撹拌した後、ろ過を行ってハードコーティング液(ハードコート層形成用重合性組成物)を調製した。
【0072】
以上により、基材、プライマー層、フォトクロミック層、保護層およびハードコート層(有機ケイ素系硬化層)をこの順に有する眼鏡レンズを得た。
【0073】
[実施例2]
成分Aであるポリエチレングリコールジメタクリレート(上式1中、n=14、Rはエチレン基、分子量736)80質量部、成分Bであるトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(分子量332)20質量部を混合した点以外は実施例1と同様にして光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を調製した。
こうして調製された光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)した点以外は実施例1と同様にして眼鏡レンズを得た。
【0074】
[比較例1]
成分Bに代えて2-フェノキシエチルアクリレート(単官能アクリレート)10質量部を混合した点以外は実施例1と同様にして光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を調製した。
こうして調製された光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)した点以外は実施例1と同様にして眼鏡レンズを得た。
【0075】
[比較例2]
成分Bに代えて1,9-ノナンジオールジアクリレート(直鎖構造の2官能アクリレート)20質量部を混合した点以外は実施例2と同様にして光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を調製した。
こうして調製された光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)した点以外は実施例1と同様にして眼鏡レンズを得た。
【0076】
[発色濃度の評価]
JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって発色濃度の評価を行った。
実施例および比較例の各眼鏡レンズの物体側表面に対し、キセノンランプを使用してエアロマスフィルターを介して15分間(900秒)光照射し、フォトクロミック層中のフォトクロミック化合物を発色させた。この発色時の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子工業社製分光光度計により測定した。上記光照射は、JIS T7333:2005に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表1に示す値となるように行った。
【0077】
【0078】
上記で測定される透過率(以下、「発色時透過率」と記載する。)の値が小さいほどフォトクロミック化合物が高濃度に発色していることを意味する。
【0079】
[溶解性の評価]
実施例および比較例について、それぞれ調製した光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を目視で観察し、フォトクロミック化合物の溶け残りが確認されなかった場合、溶解性を「A」と評価し、溶け残りが観察された場合、溶解性を「B」と評価した。
【0080】
以上の結果を表2に示す。
【0081】
【0082】
表1に示す結果から、フォトクロミック化合物とともに成分Aおよび成分Bを含む光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)は、フォトクロミック化合物の溶解性に優れることおよび光照射を受けて発色した際の発色濃度が高いフォトクロミック層の形成が可能であることが確認できる。
【0083】
[実施例3]
成分Bとしてネオペンチルグルコールジメタクリレート(分子量240)10質量部を混合した点以外は実施例1と同様にして光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を調製した。この組成物を目視で観察したところ、溶け残りは観察されなかった。
こうして調製された光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)した点以外は実施例1と同様にして眼鏡レンズを得た。
得られた眼鏡レンズについて、上記と同様に発色濃度の評価を行ったところ、19%未満の発色時透過率の値が得られ、実施例1、2と同様に発色濃度が高いことが確認された。
【0084】
[比較例3]
成分Aに代えてポリエチレングリコールジアクリレート(分子量708)90質量部、成分Bとしてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(分子量304、非環状のアクリレート)10質量部を混合した点以外は実施例1と同様にして光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を調製した。
こうして調製された光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)した点以外は実施例1と同様にして眼鏡レンズを得た。
【0085】
[耐候性の評価]
比較例3の眼鏡レンズについて、上記と同様に発色時透過率を求めた。
その後、QUV紫外線蛍光管式促進耐候試験機(Q-Lab社製)において、眼鏡レンズの物体側表面に向けて0.2W/m2の照射条件で紫外線を1週間照射した。
上記紫外線照射後の眼鏡レンズについて、一旦暗室に置きフォトクロミック化合物を退色させた後に上記と同様に発色時透過率を求めた。紫外線照射前に対して紫外線照射後の発色時透過率の上昇が小さいほど、フォトクロミック層の耐候性に優れると評価することができる。比較例3については、「(紫外線照射後の発色時透過率)-(紫外線照射前の発色時透過率)」の値は43.55%であった。これに対し、実施例1の眼鏡レンズについても同様の評価を行ったところ、「(紫外線照射後の発色時透過率)-(紫外線照射前の発色時透過率)」の値は1.49%であった。
以上の実施例1と比較例3との対比から、成分A(分子量500以上の非環状のメタクリレート)がフォトクロミック層の耐候性向上に寄与することが確認できる。
【0086】
[密着性の評価]
実施例1~実施例3について、それぞれJIS K5600-5-6:1999にしたがい、眼鏡レンズの物体側表面においてクロスカット法によって密着性を評価した。評価結果は、「残存マス目数/総マス目数」=「100/100」であり、実施例1~3の眼鏡レンズが、フォトクロミック層と隣接層(プライマー層、保護層)との密着性に優れることが確認された。
【0087】
[実施例4]
保護層形成用重合性組成物に、組成物の全量を100質量%として、0.3質量%の紫外線吸収剤(ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、商品名Tinubin479(BASF社製))を添加した点以外、実施例1と同様に、基材、プライマー層、フォトクロミック層、保護層およびハードコート層をこの順に有する眼鏡レンズを作製した。
【0088】
実施例1の眼鏡レンズと実施例4の眼鏡レンズについて、先に記載の方法によって発色濃度の評価を行った。
その後、QUV紫外線蛍光管式促進耐候試験機(Q-Lab社製)において、眼鏡レンズの物体側表面に向けて0.2W/m2の照射条件で紫外線を1週間照射した。
上記紫外線照射後の眼鏡レンズについて、一旦暗室に置きフォトクロミック化合物を退色させた後に上記と同様に発色時透過率を求めた。実施例4の眼鏡レンズについて、「(紫外線照射後の発色時透過率)-(紫外線照射前の発色時透過率)」の値は0.3%であった。
【0089】
実施例1の眼鏡レンズと実施例4の眼鏡レンズについて、株式会社村上色彩技術研究所製分光透過率測定器DOT-3を用いてJIS K 7373:2006に規定されているYI値を測定した。YI値は着色の程度を示す指標であり、値が小さいほど着色が少ないことを示す。
その後、QUV紫外線蛍光管式促進耐候試験機(Q-Lab社製)において、眼鏡レンズの物体側表面に向けて0.2W/m2の照射条件で紫外線を1週間照射した。
上記紫外線照射後の眼鏡レンズについて、上記と同様にYI値を求めた。紫外線照射前に対して紫外線照射後のYI値の上昇が小さいほど、耐候性に優れると評価することができる。実施例4の眼鏡レンズについて算出された「(紫外線照射後のYI値)-(紫外線照射前のYI値)」の値は、実施例1の眼鏡レンズについて算出された値より小さく、実施例1の眼鏡レンズについて算出された値の約1/2の値であった。
【0090】
[参考例:プライマー層に関する検討]
以下において、実施例1において調製したプライマー層形成用重合性組成物を「プライマー層形成用重合性組成物A」と呼ぶ。
「プライマー層形成用重合性組成物B」として、先に示した構造を有するヒドロキシ基含有2官能アクリレート(27.5質量部)を、ポリイソシアネートとして東ソー社製コロネート2715(25.0質量部)および2-フェノキシエチルアクリレート(粘度:13cP)を使用せず代わりにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(27.5質量部)と混合した点以外はプライマー層形成用重合性組成物Aの調製と同様にしてプライマー層形成用重合性組成物を調製した。
プライマー層形成用重合性組成物A、Bをそれぞれ用いて、その他の条件は同様にして、基材上にプライマー層(厚さ8μm)とフォトクロミック層とをこの順に有する眼鏡レンズを作製した。作製した各眼鏡レンズを、暗室内でジルコンランプによる高輝度光の照射下で光学顕微鏡によって観察した。プライマー層形成用重合性組成物Bを用いて形成されたプライマー層を有する眼鏡レンズでは数十μm程度の光学的欠陥が複数確認されたのに対し、プライマー層形成用重合性組成物Aを用いて形成されたプライマー層を有する眼鏡レンズにはそのような光学的欠陥は見られなかった。即ち、プライマー層形成用重合性組成物Aを用いて形成されたプライマー層を有する眼鏡レンズは、プライマー層形成用重合性組成物Bを用いて形成されたプライマー層を有する眼鏡レンズよりも光学的均質性に優れていた。
【0091】
[参考例:保護層に関する検討]
以下において、実施例1において調製した保護層形成用重合性組成物を「保護層形成用重合性組成物A」と呼ぶ。
以下の方法によって調製された保護層形成用重合性組成物を、「保護層形成用重合性組成物B」と呼ぶ。
プラスチック製容器内で、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)86.7質量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート4.3質量部、イソボルニルアクリレート8.7質量部、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819)0.3質量部を、混合して十分に撹拌した後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、保護層形成用重合性組成物Bを調製した。保護層形成用重合性組成物Bにおいて、脂環式の2官能(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して87.0質量%である。
以下の方法によって調製された保護層形成用重合性組成物を、「保護層形成用重合性組成物C」と呼ぶ。
プラスチック製容器内で、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(脂環式の2官能(メタ)アクリレート)68.0質量部、ネオペンチルグリコールジメタクリレート20.0質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート12.0質量部およびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819)0.3質量部を、混合して十分に撹拌した後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、保護層形成用重合性組成物Cを調製した。保護層形成用重合性組成物Cにおいて、脂環式の2官能(メタ)アクリレートの含有率は、(メタ)アクリレートの全量に対して68.0質量%である。
保護層形成用重合性組成物A~Cをそれぞれ用いて、その他の条件は同様にして、基材上にプライマー層、フォトクロミック層および保護層(厚さ15μm)をこの順に有する眼鏡レンズを作製した。作製した各眼鏡レンズについて、エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT-2100を用いて、保護層の表面に荷重100mgfをかけて圧子を押し込んだ。このときに圧子の侵入した表面積を押し込み深さから測定し、「荷重/圧子の侵入した表面積」としてマルテンス硬さを求めた。マルテンス硬さは、荷重Fをかけて圧子を所定の押し込み量hまで押し込んだときに、荷重Fを圧子の侵入した表面積で除した値と定義される。試験荷重が負荷された状態で測定される硬さであり、負荷増加時の荷重-押し込み深さ曲線の値から求められる。保護層形成用重合性組成物AまたはBを用いて形成された保護層を有する眼鏡レンズは、保護層形成用重合性組成物Cを用いて形成された保護層を有する眼鏡レンズと比べて、1.5~2.0倍のマルテンス硬さを示した。また、作製した各眼鏡レンズの保護層の表面を、アセトンを染み込ませた布で拭き取った。拭き取り後の保護層の表面を目視で観察し、以下の基準で評価したところ、保護層形成用重合性組成物AまたはBを用いて形成された保護層を有する眼鏡レンズの評価結果は「Good」、保護層形成用重合性組成物Cを用いて形成された保護層を有する眼鏡レンズの評価結果は「Damaged」であった。
Good:面粗れなし
Damaged:面粗れが認められる。
【0092】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0093】
一態様によれば、フォトクロミック化合物と、成分A(分子量500以上の非環状のメタクリレート)と、成分B(環状構造および分岐構造からなる群から選ばれる構造を含む2官能(メタ)アクリレート)と、を含む光学物品用重合性組成物が提供される。
【0094】
上記光学物品用重合性組成物によれば、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、耐候性に優れるフォトクロミック層を形成することができる。また、上記光学物品用重合性組成物は、フォトクロミック化合物の溶解性に優れる組成物であることができる。
【0095】
一形態では、成分Bは、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0096】
一形態では、成分Bは、分岐構造を有する2官能(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0097】
一形態では、上記光学物品用重合性組成物は、組成物に含まれる(メタ)アクリレートの全量に対して、成分Aを50.0質量%以上含むことができる。
【0098】
一態様によれば、基材と、上記光学物品用重合性組成物を硬化させたフォトクロミック層と、を有する光学物品が提供される。
【0099】
一形態では、上記光学物品は、上記基材と、上記フォトクロミック層と、保護層と、をこの順に有することができる。
【0100】
一形態では、上記保護層は、紫外線吸収剤を含むことができる。
【0101】
一形態では、上記保護層は、保護層形成用重合性組成物を硬化させた硬化層であることができ、上記保護層形成用重合性組成物は、1種以上の(メタ)アクリレートを含み、かつ(メタ)アクリレートの全量に対して、脂環式の2官能(メタ)アクリレートを70.0質量%以上含む重合性組成物であることができる。
【0102】
一形態では、上記保護層の厚さは、10~45μmの範囲であることができる。
【0103】
一形態では、上記光学物品は、上記基材と、上記フォトクロミック層と、上記保護層と、有機ケイ素系硬化層と、をこの順に有することができる。
【0104】
一形態では、上記光学物品は、上記基材と上記フォトクロミック層との間に、プライマー層を更に有することができる。
【0105】
一形態では、上記プライマー層は、プライマー層形成用重合性組成物を硬化させた硬化層であることができ、上記プライマー層形成用重合性組成物は、ポリイソシアネートと、ヒドロキシ基含有重合性化合物と、粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物と、を含むことができる。
【0106】
一形態では、上記光学物品は、眼鏡レンズであることができる。
【0107】
一形態では、上記光学物品は、ゴーグル用レンズであることができる。
【0108】
一形態では、上記光学物品は、サンバイザーのバイザー部分であることができる。
【0109】
一形態では、上記光学物品は、ヘルメットのシールド部材であることができる。
【0110】
一態様によれば、上眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0111】
本明細書に記載の各種態様および形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0112】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。