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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073670
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】燃料電池用の加湿装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20240523BHJP
   H01M 8/04119 20160101ALI20240523BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/04119
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152706
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000151209
【氏名又は名称】マーレジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】野中 敦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大蔵
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AC15
5H127BB02
5H127BB07
5H127BB12
5H127BB34
5H127BB37
5H127EE17
(57)【要約】
【課題】水分交換性能を向上させることができる燃料電池用の加湿装置を提供する。
【解決手段】燃料電池用の加湿装置1は、水分が通過可能であり積層された複数の平膜状部材2kと、隣り合う2つの平膜状部材2k,2k+1同士の間に設けられることで流体の流路を形成するスペーサ3と、を備える。スペーサ3は、2つの平膜状部材2k,2k+1のうち一方に当接する一方側当接部31と、他方に当接する他方側当接部32と、複数の平膜状部材2kの積層方向(Z方向)においてスペーサ3の両側の空間A1,A2を連通させる貫通孔33と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分が通過可能であり積層された複数の平膜状部材と、
隣り合う2つの前記平膜状部材同士の間に設けられることで流体の流路を形成するスペーサと、を備え、
前記スペーサは、2つの前記平膜状部材のうち一方に当接する一方側当接部と、他方に当接する他方側当接部と、前記複数の平膜状部材の積層方向において当該スペーサの両側の空間を連通させる貫通孔と、を有することを特徴とする、燃料電池用の加湿装置。
【請求項2】
前記スペーサにおいて、複数の前記貫通孔が所定の配列方向に沿って並ぶことで貫通孔列を形成するとともに、複数の前記貫通孔列が前記配列方向との直交方向に並んでいることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用の加湿装置。
【請求項3】
前記直交方向は、流体の通過方向であって、
前記貫通孔列において、隣り合う2つの前記貫通孔の間に非貫通部が形成され、
前記配列方向における前記非貫通部の全範囲において、前記非貫通部を通過するとともに前記直交方向に延びる仮想延長線は、少なくとも1つの他の前記貫通孔列において前記貫通孔を通過することを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池用の加湿装置。
【請求項4】
前記直交方向に隣り合う2つの前記貫通孔列において、一方の前記貫通孔列の前記非貫通部の全体が、他方の前記貫通孔列の前記貫通孔と隣り合うことを特徴とする、請求項3に記載の燃料電池用の加湿装置。
【請求項5】
前記スペーサは、それぞれ流体の通過方向に沿って延びる前記一方側当接部と前記他方側当接部とが交互に配置されることによって波形状に形成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料電池用の加湿装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の加湿装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両等に搭載される燃料電池において、供給される空気等の流体に適切な量の水分(水蒸気を含む。以下においても、流体に含まれる「水分」は、水蒸気を含むものとする)を含ませるために加湿装置を用いることが知られている。このように2つの流体同士の間で水分を交換させる装置として、複数の平膜状部材が積層された水分交換装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された水分交換装置では、2つの平膜状部材の間に波形状の部材がスペーサとして配置されることによって、流体が通過可能な流路が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6145588号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたように、2つの平膜状部材の間にスペーサを設けて流路を形成する場合、2つの平膜状部材同士の間隔を維持する必要がある。従って、スペーサは、比較的広範囲に亘って2つの平膜状部材の両方に当接するように設けられ、全体として平膜状部材に平行な平面に沿って延びることとなる。
【0005】
上記のようなスペーサは、流体の進行方向に沿って延びる形状を有していれば、流体が進行する際の抵抗にはなりにくい。しかしながら、平膜状部材の両側を通過する流体同士で水分が交換されるため、湿潤側の流体に含まれる水分は平膜状部材に向かって(即ち積層方向に沿って)移動する必要がある。このとき、スペーサは、上記のように全体として平膜状部材に平行に延びており、即ち水分の移動方向と交差するため、水分の移動の妨げとなって水分交換性能が低下してしまう可能性があった。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、水分交換性能を向上させることができる燃料電池用の加湿装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る燃料電池用の加湿装置は、水分が通過可能であり積層された複数の平膜状部材と、隣り合う2つの前記平膜状部材同士の間に設けられることで流体の流路を形成するスペーサと、を備え、前記スペーサは、2つの前記平膜状部材のうち一方に当接する一方側当接部と、他方に当接する他方側当接部と、前記複数の平膜状部材の積層方向において当該スペーサの両側の空間を連通させる貫通孔と、を有することを特徴とする。
【0008】
この態様によれば、スペーサが貫通孔を有していることで、2つの平膜状部材の間に形成される流体の流路において、スペーサを挟んで積層方向の両側の空間同士の間で水分の移動が容易となる。流体に含まれる水分は、流体の進行に伴って徐々に平膜状部材に向かって近づいていくことから、積層方向において平膜状部材から離れた位置を通過する流体に含まれる水分が平膜状部材に到達するためには、流体の進行距離を確保する必要がある。このとき、例えば一方の平膜状部材に近い位置において、水分がこの平膜状部材に向かう移動がスペーサによって妨げられると、水分は他方の平膜状部材においてのみ交換可能となり、他方の平膜状部材に向かう必要がある。この場合、積層方向において水分が移動する距離が長くなり、必要な流体の進行距離も長くなるため、流体の進行距離が充分に確保できない場合、流体に含まれる水分が充分に平膜状部材に到達せず、水分交換性能が低下する可能性がある。
【0009】
これに対し、本態様によれば、スペーサを挟んで積層方向の両側の空間同士の間で水分の移動が容易であることで、流体に含まれる水分は、2つの平膜状部材のうち近い方に向かって移動することができ、水分が平膜状部材に到達しやすく、水分交換性能を向上させることができる。
【0010】
前記スペーサにおいて、複数の前記貫通孔が所定の配列方向に沿って並ぶことで貫通孔列を形成するとともに、複数の前記貫通孔列が前記配列方向との直交方向に並んでいてもよい。この態様によれば、スペーサにおいて貫通孔を点在させることができ、スペーサの全体において水分を移動容易とし、水分交換性能をさらに向上させることができる。
【0011】
前記直交方向は、流体の通過方向であって、前記貫通孔列において、隣り合う2つの前記貫通孔の間に非貫通部が形成され、前記配列方向における前記非貫通部の全範囲において、前記非貫通部を通過するとともに前記直交方向に延びる仮想延長線は、少なくとも1つの他の前記貫通孔列において前記貫通孔を通過してもよい。この態様によれば、非貫通部は水分が移動しにくい部分であるものの、非貫通部を横切る流体は、必ず貫通孔も横切ることとなり、配列方向におけるスペーサの全域(そもそも貫通孔が設けられていない領域は除く)に亘って水分を移動容易とし、水分交換性能をさらに向上させることができる。
【0012】
前記直交方向に隣り合う2つの前記貫通孔列において、一方の前記貫通孔列の前記非貫通部の全体が、他方の前記貫通孔列の前記貫通孔と隣り合っていてもよい。この態様によれば、非貫通部を横切る流体がその前後において貫通孔を横切ることとなり、流体が進行する際に水分が移動しにくい領域が連続することを抑制することができる。
【0013】
前記スペーサは、それぞれ流体の通過方向に沿って延びる前記一方側当接部と前記他方側当接部とが交互に配置されることによって波形状に形成されていてもよい。この態様によれば、一方側当接部及び他方側当接部が流体の抵抗となることを抑制し、広範囲に亘って平膜状部材同士の間隔を維持しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るの燃料電池用の加湿装置によれば、スペーサが貫通孔を有することで、水分交換性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る加湿装置を示す分解斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る加湿装置の1つの流路を示す断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る加湿装置の1つの流路を示す斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る加湿装置のスペーサを示す平面図である。
図5】本発明の実施形態に係る加湿装置の1つの流路における水分の移動態様を示す断面図である。
図6】本発明の変形例1に係る加湿装置のスペーサを示す平面図である。
図7】本発明の変形例2に係る加湿装置のスペーサを示す平面図である。
図8】本発明の変形例3に係る加湿装置のスペーサを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係る燃料電池用の加湿装置1は、水分が通過可能であり積層された複数の平膜状部材2kと、隣り合う2つの平膜状部材2k,2k+1同士の間に設けられることで流体の流路を形成するスペーサ3と、を備える。スペーサ3は、2つの平膜状部材2k,2k+1のうち一方に当接する一方側当接部31と、他方に当接する他方側当接部32と、複数の平膜状部材2kの積層方向(Z方向)においてスペーサ3の両側の空間A1,A2を連通させる貫通孔33と、を有する。
【0017】
加湿装置1は、例えば車載された燃料電池において水を電気分解するFCスタックに対して送り込まれる空気を加湿するものであって、複数の平膜状部材2kとスペーサ3とを備えた加湿部本体10が例えばケースに収容され、このケースに対して湿潤流体及び乾燥流体(湿潤流体よりも水分が少ない流体)のそれぞれが通過する流路部が接続される。燃料電池では、エアクリーナによって不純物やゴミ等が除去された空気が、エアコンプレッサによってFCスタックに送り込まれ、水分を含んだ空気がFCスタックから排出される。加湿装置1は、FCスタックから排出される空気を湿潤流体とし、FCスタックに送り込む空気を乾燥流体として、湿潤流体から乾燥流体に水分を移動させる(水分を交換する)ものである。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る加湿装置1を示す分解斜視図であり、図2は、加湿装置1の1つの流路を示す断面図であり、図3は、加湿装置1の1つの流路を示す斜視図である。加湿装置1は、図1に示すように直方体状(好ましくは立方体状)の加湿部本体10を備える。以下では、図1における加湿部本体10の高さ方向をZ方向とし、幅方向をX方向とし、奥行方向をY方向とする。
【0019】
複数の平膜状部材2kは、XY平面に沿って延在するとともに、Z方向を積層方向として、所定の間隔をあけつつ積層されている。複数(n枚)の平膜状部材2kのそれぞれを、Z方向の一方側(図1における上側)から順に21,22,23,24,…,2n(k=1~n)とし、平膜状部材2kに対してZ方向の他方側(図1における下側)に配置される平膜状部材を2k+1とする。平膜状部材2kは、水分を含む流体から実質的に水分のみを選択的に透過させる性質を有する膜によって形成される。平膜状部材2kは、例えばポリテトラフルオロエチレン等の水蒸気透過性材料により形成された膜を積層させたり、水蒸気透過性材料を含浸させた膜を用いたりすることによって形成される。
【0020】
スペーサ3は、例えば樹脂等によって板状に形成され、波形状を有している。スペーサ3は、例えば射出成型や真空成型、樹脂シート熱プレス成型(例えばポリエチレンやポリエチレンテレフタレート、その他の樹脂のフィルムシートを用いた成型)等によって成形されればよく、その材質は、製造方法や、通過する流体の想定される温度等に応じて適宜に選択されればよい。尚、スペーサ3は、製造された状態において所定の剛性を有することで後述するような流路S1,S2を確保することができればよく、製造前の材料は変形容易なものであってもよい。2つの平膜状部材2k,2k+1の間に配置されたスペーサ3は、図2,3に示すように、一方の平膜状部材2kに向かって凸状であるとともに平膜状部材2kに当接する一方側当接部31と、他方の平膜状部材2k+1に向かって凸状であるとともに平膜状部材2k+1に当接する他方側当接部32と、を交互に有する。
【0021】
平膜状部材2k,2k+1の間に配置されたスペーサ3においては、一方側当接部31及び他方側当接部32は、それぞれX方向に沿って延びるとともに、Y方向を並設方向として交互に配置されている。これにより、平膜状部材2k,2k+1の間には、X方向を通過方向として流体が通過可能な第1流路S1が形成されている。
【0022】
平膜状部材2k+1,2k+2の間に配置されたスペーサ3においては、一方側当接部31及び他方側当接部32は、それぞれY方向に沿って延びるとともに、X方向を並設方向として交互に配置されている。これにより、平膜状部材2k+1,2k+2の間には、Y方向を通過方向として流体が通過可能な第2流路S2が形成されている。尚、図2,3における各符号の括弧内は、平膜状部材2k+1,2k+2の間に第2流路S2が形成される場合に対応したものである。
【0023】
湿潤流体が第1流路S1を通過し、乾燥流体が第2流路S2を通過するものとする。このように、平膜状部材2k及びスペーサ3を備えた加湿部本体10においては、Z方向において第1流路S1と第2流路S2とが交互に並ぶとともに、第1流路S1と第2流路S2とが互いに直交するように延びている。即ち、加湿部本体10のうちYZ平面に沿った面11,12が、湿潤流体が出入りする面となり、加湿部本体10のうちZX平面に沿った面13,14が、乾燥流体が出入りする面となる。
【0024】
加湿部本体10は、スペーサ3のうち一方側当接部31と他方側当接部32とが並ぶ方向の両端部に設けられた封止部4を備える。封止部4は、平膜状部材2k,2k+1とスペーサ3とのそれぞれの間を封止することにより、2つの平膜状部材2k,2k+1の間を封止する。これにより、面11,12から第2流路S2に湿潤流体が進入しないようになっている。同様に、封止部4が2つの平膜状部材2k+1,2k+2の間を封止することにより、面13,14から第1流路S1に乾燥流体が進入しないようになっている。封止部4は、例えば接着材等であればよい。
【0025】
ここで、平膜状部材2k,2k+1の間に配置されて第1流路S1を形成するスペーサ3の詳細について図4を参照しつつ説明する。尚、平膜状部材2k+1,2k+2の間に配置されて第2流路S2を形成するスペーサ3も同様の形状を有しており、加湿部本体10において配置される向きのみが異なっているものとする。図4はスペーサ3を示す平面図である。尚、図1~3においては説明の都合上、貫通孔33の図示を省略しているが、実際には図4に示されたような貫通孔33が形成されているものとする。
【0026】
スペーサ3は、複数の貫通孔33を有する。第1流路S1において、スペーサ3のZ方向の一方側の空間を第1空間A1とし、他方側の空間を第2空間A2とする。貫通孔33は、スペーサ3をZ方向に貫通することにより、第1空間A1と第2空間A2とを連通させる。
【0027】
貫通孔33は、X方向及びY方向のそれぞれに平行な辺を有して長方形状(好ましくは正方形状)に形成されている。複数の貫通孔33によって、複数の貫通孔列L1~L5が形成されている。各々の貫通孔列L1~L5は、それぞれ複数の貫通孔33がY方向に並ぶことで形成されている。複数の貫通孔列L1~L5は、X方向に並んでいる。
【0028】
各々の貫通孔列L1~L5において、隣り合う2つの貫通孔の間に非貫通部34が形成されている。貫通孔列L2における非貫通部34は、隣り合う貫通孔列L1,L3の貫通孔33のY方向中央部と、X方向に隣り合うように配置されている。他の隣り合う貫通孔列同士においても貫通孔33と非貫通部34との関係は同様である。即ち、隣り合う貫通孔列における貫通孔33同士のY方向位置は、貫通孔33のY方向寸法の半分だけずれている。
【0029】
上記のような貫通孔33及び非貫通部34の配置により、Y方向における非貫通部34の全範囲において、非貫通部34を通過するとともにX方向に延びる仮想延長線LNは、他の貫通孔列(特に隣り合う貫通孔列)における貫通孔33を通過する。非貫通部34は水分Wが移動しにくい部分であるものの、非貫通部34を横切る湿潤流体Fは、必ず貫通孔33を横切ることとなり、スペーサ3のうち端部を除くY方向全域において、いずれの位置を通過する湿潤流体Fも貫通孔33を横切る。
【0030】
また、X方向に隣り合う2つの貫通孔列において、一方の貫通孔列の非貫通部34の全体が、他方の貫通孔列の貫通孔33と隣り合う。また、各々の貫通孔列における貫通孔33のうち非貫通部34との境界となる端縁部331をX方向に延長すると、隣り合う貫通孔列における貫通孔33を通過する。
【0031】
また、各貫通孔列L1~L5において、複数の貫通孔33はY方向において等間隔で配置されており、複数の貫通孔列L1~L5は、X方向において等間隔で配置されている。尚、各貫通孔列において複数の貫通孔が等間隔に配置されていなくてもよく、複数の貫通孔列同士の間隔が等間隔でなくてもよい。スペーサ3において複数の貫通孔33は、スペーサ3のX方向中央部を通過してY方向に延びる仮想線と、スペーサ3のY方向中央部を通過してX方向に延びる仮想線と、の両方に関して線対称な配置となっている。
【0032】
次に、上記のようなスペーサ3が設けられた第1流路S1における湿潤流体の流れの詳細について、図5を参照しつつ説明する。図5は、加湿装置1の1つの流路S1における水分の移動態様を示す断面図である。
【0033】
まず、湿潤流体Fは、X方向に沿って第1流路S1を通過する。このとき、湿潤流体に含まれる水分Wは、湿潤流体Fの進行に伴って徐々に平膜状部材2k,2k+1に向かって近づいていく。従って、平膜状部材2k,2k+1に近い位置を通過する湿潤流体Fに含まれる水分Wは、比較的上流側において平膜状部材2k,2k+1に到達し、平膜状部材2k,2k+1から遠い位置を通過する湿潤流体Fに含まれる水分Wは、比較的下流側において平膜状部材2k,2k+1に到達する。
【0034】
図5に示す断面は、一方側当接部31を通過するものである。このとき、平膜状部材2kに向かって移動する水分Wは、貫通孔33を通過することで平膜状部材2kに到達することができる。これに対し、貫通孔33が形成されていない構成では、水分Wがスペーサを通過することができず、平膜状部材2kに到達することができないため、平膜状部材2k+1に向かう必要がある(一点鎖線で図示)。即ち、貫通孔33が形成されていない構成では、水分Wの最大移動距離は、一方側当接部31から平膜状部材2k+1(又は他方側当接部32から平膜状部材2k)までの距離となる。
【0035】
一方、貫通孔33が形成されたスペーサ3を用いる場合には、水分Wの最大移動距離は、平膜状部材2k,2k+1の間隔の半分となる。従って、湿潤流体Fに含まれる全ての水分Wが平膜状部材2k,2k+1に到達するために必要な湿潤流体Fの進行距離を小さくすることができる。
【0036】
このように、本発明の実施形態に係る加湿装置1によれば、スペーサ3が貫通孔33を有していることで、第1流路S1においてスペーサ3のZ方向両側の空間A1,A2同士の間で水分の移動が容易となり、湿潤流体Fに含まれる水分Wは、2つの平膜状部材2k,2k+1のうち近い方に向かって移動することができ、水分Wが平膜状部材2k,2k+1に到達しやすく、水分交換性能を向上させることができる。
【0037】
また、スペーサ3に複数の貫通孔列L1~L5が形成されていることで、スペーサ3において貫通孔33を点在するように配置することができ、スペーサ3の全体において水分を移動容易とし、水分交換性能をさらに向上させることができる。
【0038】
また、Y方向における非貫通部34の全範囲において、非貫通部34を通過するとともにX方向に延びる仮想延長線LNが他の貫通孔列における貫通孔33を通過することで、スペーサ3のY方向全域(貫通孔33が形成されない端部は除く)に亘って水分を移動容易とし、水分交換性能をさらに向上させることができる。
【0039】
また、X方向に隣り合う2つの貫通孔列において、一方の貫通孔列の非貫通部34の全体が、他方の貫通孔列の貫通孔33と隣り合うことで、非貫通部34を横切る湿潤流体Fがその前後において貫通孔33を横切ることとなり、湿潤流体Fが進行する際に水分Wが移動しにくい領域が連続することを抑制することができる。
【0040】
また、スペーサ3が波形状に形成されていることで、流体を通過しやすくすることができるとともに、広範囲に亘って平膜状部材2k,2k+1同士の間隔を維持しやすくすることができる。
【0041】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、上記の本発明の実施形態では、貫通孔33が長方形状(好ましくは正方形状)であるものとしたが、貫通孔の形状は特に限定されず、図6~8に示すような変形例1~3のような形状であってもよい。
【0042】
図6に示す変形例1では、スペーサ3には、Y方向を長辺方向とする長方形状の貫通孔35が形成されている。変形例1においても、上記の実施形態同様に貫通孔列が形成されており、貫通孔列同士の貫通孔35の位置関係は同様である。
【0043】
図7に示す変形例2では、スペーサ3には、オーバル形状の貫通孔36が形成されている。貫通孔36は、Y方向に沿って延びる一対の辺と、一対の辺の端部同士を接続する一対の円弧状部分と、を有している。変形例2においても、上記の実施形態同様に貫通孔列が形成されており、貫通孔列同士の貫通孔36の位置関係は同様である。
【0044】
図8に示す変形例3では、スペーサ3には、円状の貫通孔37が形成されている。変形例3においても、上記の実施形態同様に貫通孔列が形成されており、貫通孔列同士の貫通孔37の位置関係は同様である。
【0045】
また、1つのスペーサに形成される複数の貫通孔の形状及び寸法は同一でなくてもよく、形状又は寸法が異なる複数の貫通孔が組み合わされていてもよい。また、貫通孔の形状は上記の実施形態及び変形例1~3に限定されない。
【0046】
また、上記の本発明の実施形態では、隣り合う貫通孔列において貫通孔33同士のY方向位置が貫通孔33のY方向寸法の半分だけずれているものとしたが、貫通孔の配置はこれに限定されない。例えば、X方向に隣り合う2つの貫通孔列において、一方の貫通孔列の非貫通部の全体が、他方の貫通孔列の貫通孔と隣り合っていなくてもよい。即ち、貫通孔のY方向位置が等しい2つの貫通孔列がX方向に並んでペアを形成し、この貫通孔列のペアにおける非貫通部の全体が、このペアに隣り合う他の貫通孔列の貫通孔と隣り合うような構成としてもよい。
【0047】
また、Y方向における非貫通部の所定の範囲において、非貫通部を通過するとともにX方向に延びる仮想延長線が他の貫通孔列における貫通孔を通過しなくても(即ち、非貫通部のみを通過する仮想延長線が存在しても)よい。例えば、貫通孔がX方向に沿って並んでいてもよい。湿潤流体がX方向に進行する際、湿潤流体に含まれる水分は、Z方向だけでなくY方向にも移動可能である。Y方向における所定の範囲において、X方向に延びる仮想延長線が非貫通部のみを通過し貫通孔を通過しない場合であっても、この範囲が、水分がY方向に移動可能な距離と比較して充分に小さい場合には、水分交換性能に影響を与えにくい。
【0048】
また、上記の本発明の実施形態では、スペーサ3に複数の貫通孔列L1~L5が形成されているものとしたが、複数の貫通孔が列を形成せずに点在していたり、ランダムに配置されていたりしてもよい。また、スペーサに1つの貫通孔のみが形成されていてもよい。
【0049】
また、上記の本発明の実施形態では、スペーサ3が波形状に形成されているものとしたが、スペーサの形状は特に限定されず、隣り合う2つの平膜状部材のそれぞれに対して当接可能な部位を所定範囲に亘って有していればよい。例えば、スペーサは、平膜状部材と平行に延びる板状部分と、板状部分から平膜状部材に向かって突出する部分(一方側当接部及び他方側当接部)と、を有し、板状部分に貫通孔が形成される構成であってもよい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に係る燃料電池用の加湿装置に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0051】
1…加湿装置、2k…平膜状部材、3…スペーサ、31…一方側当接部、32…他方側当接部、33…貫通孔、34…非貫通部、S1…第1流路、S2…第2流路、A1…第1空間、A2…第2空間、L1~L5…貫通孔列、LN…仮想延長線
図1
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図8