(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073674
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】体組織硬さの表示装置、表示方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
A61B8/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184496
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(71)【出願人】
【識別番号】505000480
【氏名又は名称】フィンガルリンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129986
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】山越 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】名郷根 正昭
(72)【発明者】
【氏名】座間 誠一
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD08
4C601DD19
4C601DD23
4C601DE13
4C601EE09
4C601JB31
4C601JB33
4C601JB43
4C601JB48
4C601JB49
4C601JC16
4C601JC37
(57)【要約】
【課題】偏心型加振器を使った場合であっても生体への押圧の違い等の影響で加振周波数が変化しない、加振周波数変動に強い高精度のせん断波映像再生装置を提供する。
【解決手段】
体組織を正弦波振動させる加振器の加振点を含む各フレームの画像上で、各フレーム画像で共通するフレーム画像内の特定領域(A)を選ぶ特定領域選択ステップと、第1フレームの特定領域Aのせん断波複素振幅を基準複素振幅として取得する基準複素振幅取得ステップと、第一フレームの特定領域Aのせん断波複素振幅を基準複素振幅として、第2~第Nフレームの各画素の特定領域Aの各基準複素振幅を、第一フレームの特定領域Aの基準複素振幅と同じにする等化処理ステップと、第1フレーム画像、及び前記等化処理ステップを経た第2~第Nの各フレーム画像を順に出力する動画表示ステップと、を順に行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物の体表面に加振器を加圧接触させて体組織を正弦波振動させると共に当該体表面近傍から体組織内に超音波信号を送受信し、第1~第Nフレーム画像からなる複数のせん断波画像を連続取得して体組織の筋肉の状態を動画表示する、体組織硬さの表示装置であって、
加振器の加振点を含む各フレームの画像上で、各フレーム画像で共通するフレーム画像内の特定領域を選ぶ特定領域選択ステップと、
第1フレームの特定領域のせん断波の複素振幅を基準複素振幅として取得する基準複素振幅取得ステップと、
第一フレームの特定領域のせん断波複素振幅を基準複素振幅として、第2~第Nフレームの各画素の特定領域の各基準複素振幅を、第一フレームの特定領域の基準複素振幅と同じにする等化処理ステップと、
第1フレーム画像と、前記等化処理ステップを経た第2~第Nの各フレーム画像とを順に出力する動画表示ステップと、を順に行うことで、動画表示におけるS/N比を上げることを特徴とする、体組織硬さの表示装置。
但し、前記特定領域Aは、加振器による生体への加振中心またはその周囲所定範囲内であって、せん断波の振幅が所定値以上の、フレーム画角よりも小さい画素領域として自動設定される。
【請求項2】
超音波ドプラ信号から加振周波数波数を推定する周波数推定ステップをさらに具備し、
前記動画表示ステップは、推定された加振周波数を用いてせん断波映像を得るステップであることを特徴とする。
【請求項3】
前記動画表示ステップは、周波数推定ステップにおいて推定された加振周波数を、前記せん断波映像と共に表示することを特徴とする。
【請求項4】
前記等化処理ステップは、すべてのフレーム画像の特定領域内のせん断波の波形情報の平均値を、初期フレームの特定領域内の波形情報と比較して、波形情報が同一になるように処理して、各フレームの特定領域Aの画素を重ね合わせるステップであり、
前記動画表示ステップは、各フレームの特定領域Aの画素を第一フレーム画像と同一位置に重ね合わせた状態で、前記等化処理ステップ後の各フレーム画像を、第一フレーム画像の全体画角内で連続出力するステップであることを特徴とする、請求項1に記載の、体組織硬さの表示装置。
【請求項5】
前記特定領域の波形情報を、せん断波長の0.1~0.7倍の範囲に設定する、請求項1に記載の、体組織硬さの表示装置。
【請求項6】
前記特定領域を、加振点から一定方向であって第1~第Nフレーム画像においてせん断波の振幅が最大となる複数の隣接点を含み、かつ加振点に最も近接する矩形の画素領域に設定する、請求項1に記載の、体組織硬さの表示装置。
【請求項7】
超音波ドプラ信号からアップ・サンプリングと短時間区間自己相関法を用いて1フレームごとに加振周波数を推定し、開始時刻から終了時刻までの各フレーム画像を、推定した加振周波数へ調整する等化処理を施して、当該加振周波数における一定時間のフレーム画像のグループからなる連続画像グループを所定経過時間おきに断続的に作成、および所定経過時間おきに断続的に送信し、連続画像グループを時系列順に受信及び画像出力することで、せん断波映像をアニメーション再生する、体組織硬さの表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて生体物(人体又は動物)の体組織(筋肉、筋、臓器(肝臓、乳腺、甲状腺などを含む)の硬さを映像化する生体の体組織硬さの表示方法、表示装置に関する。特に、対象箇所の体組織を小型振器で振動させて機械振動波であるせん断波を発生させ、超音波プローブで体組織内を伝わる機械的振動波(横波)の伝播速度を画像化するための体組織(筋及び臓器、肝線、乳腺、甲状腺など)の硬さの表示方法、表示装置であって、医用診断に用いるものに関する。
【背景技術】
【0002】
リハビリテーションにおける理学療法室、マッサージにおける治療室、スポーツ医学におけるトレーニング室等に持ち込んで骨格筋の硬さや変化を定量的に測定しようとする要求がある。つまり従来技術では難しかった骨格筋の硬さを定量的に評価して、その結果をリハビリテーション、マッサージ、トレーニングの効果判定、有効な治療、トレーニング計画の策定等に結び付けたいという要求である。
【0003】
超音波を用いて生体物(人体又は動物)の体組織を映像化する超音波映像方法として、従来、WO2015/151972(特許文献1参照)が開示される。同開示においては、穿刺針を測定部近くの体表に押し当てて穿刺部の生体細胞を振動させた状態で、超音波エコー装置によって体組織内を伝わる機械的振動波(横波)の伝播速度を画像化している。
【0004】
また、従来の超音波診断装置として特許文献1(キヤノンメディカルシステムズ株式会社 特登-05513976)が開示される。これは超音波プローブと、前記超音波プローブを介して複数の超音波ラスタそれぞれに対して超音波をN回ずつ繰り返し送受信して、エコー信号を発生する超音波送受信部と、前記エコー信号から直交検波処理を介して複素データを生成するエコー処理部と、前記超音波ラスタが同一であって同一深度に関するN個の複素データのセットについて、前記セットごとに前記N個の複素データのいずれかの基準位相に対する位相差を特定し、前記特定した位相差だけ前記セットごとに前記N個の複素データの位相をシフトする位相補正部と、前記位相をシフトされた前記N個の複素データからなる前記セットから補間処理により、隣り合う超音波ラスタ間の補間ラスタに関する複素データからなる補間セットを生成する補間処理部と、前記位相を補正された前記N個の複素データからなる前記セットと前記補間処理により生成された補間セットとから自己相関処理を介して血流又は他の移動体の移動情報に関する画像のデータを発生する画像データ発生部とを具備する。また、前記Nが偶数のとき、前記複素データのセットのうち、N/2番目の複素データに関する位相差と、(N/2)+1番目の複素データに関する位相差との平均を特定する、とされる。
【0005】
他に従来の超音波診断装置、医用画像処理装置、医用画像処理方法、および医用画像処理プログラムとして、特許文献2(キヤノンメディカルシステムズ株式会社 特登-06058295)が開示される。この超音波診断装置において、自己相関演算器は、血流ドプラ成分及び組織ドプラ成分に対して自己相関値を算出する。自己相関演算器は、算出された自己相関値に基づいて、血流および組織の平均速度値、分散値、ドプラ信号の反射強度(パワー)等を算出する。
【0006】
特許文献2の速度/分散/Power演算デバイスは、複数のドプラ信号に基づく血流および組織の平均速度値、分散値、ドプラ信号の反射強度等に基づいて、所定領域の各位置におけるカラードプラデータを発生する。とされる。
【0007】
また、特許文献2の変位量計算部は、プッシュパルスの送信前に自己相関器により得られた組織の変位量(以下、第1変位データと呼ぶ)と、プッシュパルスの送信後に自己相関演算器により得られた組織の変位量(以下、第2変位データと呼ぶ)のうちn回目の超音波送受信終了間際の組織の変位量(n回目、(n-1)回目など)とに基づいて、被検体の体動に関する組織の変位量(体動変位量)を、第2領域における深さごとに近似する。変位量計算部19は、近似された体動変位量を、第1、第2変位データから差分することにより、せん断波の伝搬に伴う組織の変位量(以下、せん断波伝搬データと呼ぶ)を計算する、とされる。
【0008】
またほかに、体組織の硬さを外部から測定する方法として、せん断波を用いた生体硬さの映像法」(WO 2015 /151972、特許文献3)が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特登-05513976公報
【特許文献2】特登-06058295公報
【特許文献3】WO2015/151972A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記各文献記載のようなタブレットエコー装置は、いずれも以下の課題を有するものであった。
【0011】
第一に、超音波映像の各フレームをタブレットまたはPCから指令する超音波診断装置ではタブレットまたはPCの処理能力の制限からフレームレートが時間的に変動して表示ラグ、超音波信号を取得する時間間隔のばらつきによる画像ノイズ混入、画像精度低下が生じてしまう。つまり、1回の超音波送受信信号から再生できるのは、超音波の反射強度を濃淡画像として表すBモード画像と呼ばれている画像であるところ、ここで目的としているせん断波画像では、連続した8-16回の超音波受信信号から1枚の画像を再生する。この再生では、超音波の受信間隔が常に一定であることを仮定しているため、受信間隔がばらついてしまうと、再生画像にノイズが乗ったり、得られる映像の定量性の低下を引き起こしたりしてしまう。
【0012】
第二に、加振器を小型、軽量化するには偏心錘のついたモータを使うことが考えられるが、このような加振器では生体への押圧によりモータの負荷トルクが変わり、その結果、モータの回転数がつまり加振周波数が時間的に変動して表示ラグ、共振動による画像ノイズ混入、画像精度低下が生じてしまう。つまり検査者の押圧力によって、各フレームレートの画像間で、せん断波の加振周波数(、位相、フレーム間隔Δt)が都度かわってしまうという問題があった。周波数変化によって処理画像が変化すると、従来のせん断波映像法では振動時の正しい体組織の硬さをせん断映像化することができない。
【0013】
そこで本発明では、体組織の硬さ映像を得る映像システムの操作性向上として直流モータ等の偏心型加振器を使った場合であっても生体への押圧の違い等の影響で加振周波数が変化しない、加振周波数変動に強い高い精度のせん断波映像再生法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく本発明では以下の手段を講じている。但し以下において構成の名称に続けて記載する数字乃至アルファベットは、図面の理解のために便宜的に付した符号であり、これによって構成の概念ないし形状、構造を限定する趣旨ではない。
【0015】
(1)本発明の体組織硬さの表示方法は、
生体物の体表面に加振器を加圧接触させて体組織を正弦波振動させると共に当該体表面近傍から体組織内に超音波信号を送受信し、第1~第Nフレーム画像からなる複数のせん断波画像を連続取得して体組織の筋肉の状態を動画表示する、体組織硬さの表示装置であって、
加振器の加振点を含む各フレームの画像上で、各フレーム画像で共通するフレーム画像内の特定領域(A)を選ぶ特定領域選択ステップと、
第1フレームの特定領域Aのせん断波振幅及び位相を基準複素振幅(振幅と位相を含めた概念)として取得する基準複素振幅取得ステップと、
第一フレームの特定領域Aのせん断波の複素振幅を基準複素振幅として、第2~第N(最大16まで)フレームの各画素の特定領域Aの各基準複素振幅プを、第一フレームの特定領域Aの基準位相と同じにする等化処理ステップと、
第1フレーム画像と、前記等化処理ステップを経た第2~第N(最大16まで)の各フレーム画像とを順に出力する動画表示ステップと、を順に行うことで、動画表示におけるS/N比を上げることを特徴とする、体組織硬さの表示装置。
【0016】
但し、前記特定領域Aは、加振器による生体への加振中心またはその周囲所定範囲内であって、せん断波の振幅が所定値以上の、フレーム画角よりも小さい画素領域として自動設定される。
【0017】
(2)前記体組織硬さの表示方法においてはさらに、
超音波ドプラ信号から加振周波数波数を推定する周波数推定ステップをさらに具備し、
前記動画表示ステップは、推定された加振周波数を用いてせん断波映像を得るステップであることを特徴とする。
生体組織表面への押圧力が安定しないと加振周波数が変わってしまい、せん断波の連続映像が体組織の硬さ映像を正確に表せなくなる。そこで周波数推定ステップ、動画表示ステップにおいて、生体表面への小型加振器の加振圧力を加振周波数という数値を基準として推定し、せん断波映像を表示させることとした。これにより、安定した加振状態にあるかどうか、すなわち正確な硬さ測定結果を画像表示しているかどうか、測定及び表示中に確認することができる。
【0018】
(3)前記いずれかの体組織硬さの表示方法においてはさらに、
前記動画表示ステップは、周波数推定ステップにおいて推定された加振周波数を、前記せん断波映像と共に表示することを特徴とする。
ここで「せん断波映像と共に表示する」とは、せん断波映像の所定大のフレーム画像の近傍に並表示すること、同フレーム画像と重畳させて重ね表示することのほか、同フレーム画像内の硬さ変化を表す特定部分において透過又は半透過性の特殊表示加工を施して可変表示することが含まれる。また、加振周波数の推定値は数値や記号で表示する方法の他、カラーバーに基づく色分け表示、特定模様の模様種類や模様範囲ないし模様密度の変化による連続模様表示等、各種の表示方法で表示することができる。
【0019】
(4)前記いずれかの体組織硬さの表示方法においてはさらに、
前記等化処理ステップは、すべてのフレーム画像の特定領域A内のせん断波の波形情報(せん断波の位相及び振幅をそれぞれ実部と虚部とする複素振幅)の平均値を、初期フレームの特定領域A内の波形情報(基準の波形情報)と比較して、波形情報(複素振幅の値)が同一になるように(波形が同一になるように時間軸を巻き戻し)処理して、各フレームの特定領域Aの画素を重ね合わせるステップであり、
前記動画表示ステップは、各フレームの特定領域Aの画素を第一フレーム画像と同一位置(画角内の所定ポジション)に重ね合わせた状態で、前記等化処理ステップ後の各フレーム画像を、第一フレーム画像の全体画角内で連続出力するステップであることを特徴とする。
【0020】
(5)前記いずれかの体組織硬さの表示方法においてはさらに、
前記特定領域Aの波形情報である複素振幅の平均値を、せん断波長の0.1~0.71倍の範囲内に設定することを特徴とする。なお、前期に加えて、又は前記の代わりに、特定領域Aの波形情報の波長:せん断波長を、1:(1.5~10)に設定するものでもよい。
【0021】
(6)前記いずれかの体組織硬さの表示方法においてはさらに、
前記特定領域Aを、加振点から一定方向であって第1~第Nフレーム画像においてせん断波の振幅が最大となる複数の隣接点を含み、かつ加振点に最も近接する矩形の画素領域に設定する。
【0022】
(7)前記いずれかの体組織硬さの表示方法においてはさらに、
超音波ドプラ信号からアップ・サンプリングと短時間区間自己相関法を用いて1フレームごとに加振周波数を推定(つまり自動トラッキング)し、開始時刻から終了時刻までの各フレーム画像を、推定した加振周波数へ調整する等化処理を施して、当該加振周波数における一定時間のフレーム画像のグループからなる連続画像グループを所定経過時間おきに断続的に作成、および所定経過時間おきに断続的に送信し、連続画像グループを時系列順に受信及び画像出力することで、せん断波映像をアニメーション再生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって提供される体組織硬さの表示装置、表示方法は、上記のとおり、本発明では偏心錘を有する小型加振器による加振処理を行うと共に、「等化処理ステップ」としてとして、位相等化によるC-SWE法の重複処理の処理により時系列順に連続取得された複数のフレーム画像のせん断波位相を共通させた状態で出力するステップを具備することとした。
【0024】
これにより、体組織の硬さ映像を得る映像システムの操作性向上として直流モータ等の偏心型加振器を使った場合であっても生体への押圧の違い等の影響で加振周波数が変化しない、加振周波数変動に強い高い精度のせん断波映像再生法を提供することができるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1の体組織硬さの表示装置の構成説明図。
【
図2】連続せん断波エラストグラフィの原理を示す説明図。
【
図3】本発明の適応的IQフィルタによるせん断波周波数の推定処理のイメージ図。
【
図4】本発明のせん断波の複素振幅の等化処理の概念図。
【
図5】偏心錘付きモータ内蔵加振器による回転数と押圧力の説明図。
【
図6】本発明のせん断波映像化システム及び方法のフローチャート。
【
図8】電流計測による測定周波数と推定結果による推定加振周波数の相関図の例。
【
図9】生体への押し込み量の変化による加振器の加振周波数の測定例。
【
図10】ファントムによるせん断波映像化実験の概要図。
【
図11】せん断波複素振幅の等価処理前後を比較したせん断波複素振幅の位相表示例。
【
図12】せん断波の複素振幅の等化処理前後を比較したせん断波の再生画像例。
【
図13】従来方法と比較した本発明のせん断伝播速度の測定値例。
【
図14】体組織硬さの映像化例の速度図及び伝搬図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、筋(筋肉)、臓器、乳腺、甲状腺など、生体物の体組織の硬さを非侵襲的に計測、映像化する装置及びその方法であって、比較的小型の加振器を用いて操作性を向上させ得るものである。筋肉の硬さも対象となり得る他、各種の生体組織硬さが対象となり得る。
【0027】
加振周波数が一定の条件の下で生体組織を加振器によって加振し、超音波プローブによって加振状態中の生体組織のせん断波の映像を得る方法がある。この方法においては、生体組織のうち所定の範囲を一定の加振周波数で継続加振しながら、超音波プローブの送受信範囲と合わせてせん断波映像を取得する必要がある。ここでせん断波映像を生体組織の所定範囲に亘って得るためには、所望の部位を一定時間に亘って継続的に加振すべく、加振器を小型化して操作性を上げることが必要となる。
【0028】
ところが、加振器を小型化して操作性を向上させようとすると、生体への押圧の大きさにより加振周波数が10%程度変化してしまうという課題があった。例えば指向性のある小型加振器では、加振周波数が指向方向への押圧の大きさによって変化してしまい、従来法では、せん断波映像を得ることはできない。
【0029】
そこで本発明は、このような比較的小型の加振器を用いて加振周波数が変化してしまう状況においてもせん断波映像を得ることができる装置及び方法を提供する。
【0030】
以下、本発明を実施するための形態例を、実施例として示す各図と共に説明する。
【0031】
本発明の実施例1の体組織硬さの表示装置は基本的に、
図1に示すような以下の構成からなる。
【0032】
・小型加振器(1):振動器と偏芯錘とを内蔵し、部分球体の生体接触部を有してなる。周波数50Hz~200Hz程度の振動を加え、体組織内に機械的振動波(せん断波)を励起させる。
・せん断波の伝播速度の測定部:生体内に励起されたせん断波は、生体内部を伝播する(2)。この時、せん断波の伝播速度が組織の硬さに依存して変わるので、せん断波の伝播速度を測定すれば、素子の弾性が計測・映像化できる。
・超音波プローブ(3):超音波を送受信する。
超音波送受信部(4): 受信した超音波を増幅する。
・直交検波部(5):超音波のドプラ信号を得るための装置.
・加振周波数推定部(6):超音波ドプラ信号から短時間自己相関法でせん断波の周波数を推定する。
・IQ信号適応的フィルタ(7):得られた超音波のドプラ信号の雑音を低減させる。
・せん断波複素振幅等化部(8):適応的フィルタ通過後の信号からせん断波の映像を得るが、まず超音波の連続フレームで同じせん断波の情報を得る。
・せん断波映像再生部(9)(10):せん断波の映像を再生し、再生されたせん断波の映像を表示する装置。
・押圧推定部(11):加振周波数の変化から生体への押圧を推定する装置。
・押圧表示部(12):推定した押圧力を表示する装置。
【0033】
図2は、前記測定用システムによって連続せん断波エラストグラフィを得る構造の説明図である。
【0034】
図2に示すように、小型加振器(1)により励起されたせん断波により超音波の反射体が振動しているとき、位置x、zにある点Pからの受信超音波の複素ドプラ信号R
i(x,z)は(1-1)式のように書ける。
【0035】
【数1】
ここでAはドプラ信号の振幅、f
0は超音波の中心周波数、cは音速、ξ(x,z,t)は反射体の変位、φは反射超音波の位相である。
【0036】
一方、時刻ti-1における複素ドプラ信号は
【0037】
【0038】
反射超音波の位相の影響を除くために複素ドプラ信号Ri(x,z)とRi-1(x,z)の差をとると
【0039】
【0040】
(1-3)式は(1-4)式のように書き下せる。
【0041】
【0042】
ここで、Δtは2つのドプラ信号間の時間差であり、超音波のパルス繰り返し周波数をfPRFとすればΔt=1/fPRFと書ける。
【0043】
今、せん断波による変位変動を正弦的なものと仮定する。
【0044】
【数5】
ここで、ξ
0(x,z)は振動振幅、ω
bは振動角周波数(せん断波周波数)でありω
b=2πf
b、ただし、f
bは振動周波数、φ
bは振動位相である。
【0045】
(1-5)式の時間微分は、
【0046】
【0047】
(1-6)式を(1-4)式に代入すると
【0048】
【0049】
ΔRi(x,z)よりベクトルの位相を求めると
【0050】
【0051】
いま、Δφi(x,z)を角周波数ωbでフーリエ解析を行うと、実部および虚部は
【0052】
【0053】
【0054】
複素表現で表せば、
【0055】
【0056】
(1-11)式を以降、せん断波複素振幅と呼ぶ。
【0057】
〔II. 適応的IQフィルタ (
図1の構成図(7)参照)〕
適応的IQフィルタは、推定した加振周波数に応じて、フィルタの通過帯域を適応的に変化させるような狭帯域フィルタで超音波ドプラ信号に適用することで、ドプラ信号に含まれる雑音成分を有効に低減させることができる。
【0058】
ただしせん断波の伝播により得られる超音波ドプラ信号は、主に、直流分、加振周波数成分、加振周波数の2倍の高調波成分を持つので、これらスペクトラムだけを通過させるように各周波数に対応した3つの通過帯域を有する。この中で、加振周波数により適応的に通過周波数が変わるのは、加振周波数成分、加振周波数の2倍の高調波成分である。
【0059】
適応的IQフィルタは、推定した加振周波数に基づくフーリエ解析と、得られた解析結果を用いてフィルタ後の波形を合成する部分からなる。まず、短時間自己相関法で推定したせん断波周波数をfb,eとすると、フーリエ解析幅Nを次式で決める。
【0060】
【0061】
ここで、PRFは超音波診断装置のパルス繰り返し周波数であり、関数maxは超音波ドプラ信号のデータ幅で定義されるパケット数以下の最も大きな整数値を返す関数である。
適応的IQフィルタは、超音波ドプラ信号のI信号およびQ信号に対して独立にフィルタ処理を行うが、ここではI信号を例に挙げて説明する。
【0062】
フーリエ解析による直流分、せん断波周波数成分、2次高調波数成分の複素スペクトラムは
【0063】
【0064】
ここで、
【0065】
【0066】
である。
【0067】
これらフーリエ解析の結果より、せん断波周波数に自動的にトラッキングする適応的フィルタ後のI信号は、次式で得ることができる。
【0068】
【0069】
図3は適応的IQフィルタの概要を示したものである。
【0070】
[III せん断波の複素振幅の透過処理(
図1の構成図(8)参照)]
得られる超音波ドプラ信号には、超音波信号受信部、増幅部、A/D変換部等から生じる雑音が含まれ、雑音を含む超音波ドプラ信号からせん断波映像を再生しても安定した映像を得ることは難しい。
【0071】
ここでは、フレームレートに時間的な揺らぎが生じている場合でも、その影響を抑え、かつ雑音耐性のあるせん断波映像再生を行う空間差分ベクトル法とフレーム方向の移動平均処理によるせん断波映像再生について述べる。
【0072】
x、z座標で表されるROI全体にわたる第Nフレームのせん断波の複素振幅は、
【0073】
【数16】
ここで、S
RN(x,z)およびS
IN(x,z)は実部と虚部である。
【0074】
いま、せん断波の伝播媒質の粘弾性特性が短時間の間では変化せず、単にせん断波の周波数だけが生体への押圧により、わずかに変化しているとすると、第Nフレームの複素振幅は第1フレームの複素振幅S1,N(x,z)を用いて次式のように近似できる。
【0075】
【0076】
ここで、
【0077】
【0078】
であり、ωb,Nは第Nフレームでのせん断波角周波数、tNは第Nフレームの開始時間である。
【0079】
せん断波の複素振幅の等化処理を行うために、ROI内にその全画素の1/10以下の特定領域Aを規定し、その特定領域内で複素振幅を積分した複素振幅RNを考える。
【0080】
【0081】
複素振幅RNは、(3-2)式を用いると、
【0082】
【0083】
ここで
【0084】
【0085】
せん断波の等価処理を行うために、第Nフレームの複素振幅にRN
*を乗算する。ここで*は複素共役である。
【0086】
【0087】
(2-4)式を用いると、
【0088】
【0089】
よって、
【0090】
【0091】
(3-9)式は、(3-7)式で示されるせん断波複素振幅の等化処理により第N番目のフレームの複素振幅は、最初の第1フレームの複素振幅にSA
*を乗じた複素振幅になることが分かる。
【0092】
ここで、SA
*は、フレーム番号に依存せず、またROI内の位置にも依存しない一定の複素振幅であるので、この処理により、フレーム番号に依存せずに常に同じ複素振幅が得られることになる。これがせん断波の複素振幅の等化処理の原理である。
【0093】
等化処理によりフレーム番号に依存しない同じ複素振幅が得られるので、複素振幅に雑音が含まれるような一般的な場合には、次式のフレーム方向への移動平均処理により複素振幅の雑音を低減させることができる。
【0094】
【数25】
ここでMは移動平均処理を行うフレーム総数である。
【0095】
この時、移動平均処理により得られる複素振幅は、(3-9)式を用いて(3-11)式のように書ける。
【0096】
【0097】
図4はせん断波の複素振幅等化法の概要を示したものである。
【0098】
すべてのフレームでせん断波の複素振幅が同じであるように等化処理することで、せん断波周波数変化に依存しないせん断波映像を再生できる。
【0099】
〔IV 超音波ドプラ信号からの加振周波数推定(
図1の構成図(6)参照)〕
せん断波映像を得るには加振周波数f
bを知る必要があるが、ここでは得られた超音波ドプラ信号からアップ・サンプリングと短時間自己相関法を用いて加振周波数を測定する方法について述べる。
【0100】
今、加振による変位変動をξ(t)とすると、超音波映像装置で得られる超音波ドプラ信号の実部I(t)及び虚部Q(t)は各々、
【0101】
【0102】
ここでm変位変動の周期をTbとすると、
【0103】
【0104】
【0105】
となるので、相関係数γ(τ)
【0106】
【0107】
【数31】
はタイムラグτ=T
bとなるときに最大値を持つ。
【0108】
つまり相関係数が最大になるタイムラグτmaxより
【0109】
【0110】
として加振周波数を推定できる。
【0111】
しかし、相関係数の最大値から加振周波数を推定するこの方法には課題がある。それは周波数分解能が低いことである。
【0112】
今、相関係数を求めるタイムラグがΔTの時間間隔でしか求められないとする。一般に超音波映像系ではΔT=1/fPRFである。ここでfPRFは超音波のパルス繰り返し周波数である。
タイムラグTがT+ΔTに変化したときの周波数差について検討する。f0をタイムラグTのときの推定周波数(f0=1/T)、f1をタイムラグT+ΔTのときの推定周波数とすると
【0113】
【0114】
1/T=f0であることに注意すると、
【0115】
【0116】
よって周波数分解能は、
【0117】
【0118】
(4-9)式を用いて、具体的に周波数分解能を計算してみる。例としてf0=100[Hz]、ΔT=1/1000[sec]を考えるとΔf=10[Hz]となる。連続せん断波映像法により伝播速度の精度5%を得ようとすると、周波数分解能は最低でも5Hzが必要であり、周波数分解能10Hzではせん断波映像を再生するのに十分な周波数分解能ではない。
【0119】
十分な周波数分解能を得るには、元のIQ信号をNU倍にアップ・サンプリングし、アップ・サンプリングした信号に対して自己相関法を適用すればよい。ここでアップ・サンプリング法としては、自己相関のピーク値を求めることが目的であるので、簡便な線形内挿法によるアップ・サンプリングで十分である。
【0120】
アップ・サンプリングした後での周波数分解能は
【0121】
【数36】
となるが、例えばN
U=10とし、ΔT=1/1000[sec]、 f
0=100[Hz]とすると、Δf
up=1 [Hz]となり、せん断波映像を得るのに十分な周波数分解能で、加振周波数を測定できることになる。
【0122】
〔V 加振周波数計測値からの押圧計測 (
図1の構成図(11)参照)〕
図5は、偏心錘付きモータを加振器として使うときの回転数と押圧を示したものである。
【0123】
(検査者の押圧力による周波数変化の問題)
生体物に直接振動子を押し当てて所定周波数の振動を与えてその振動伝搬状態を測定する超音波加振装置においては、検査者の押圧力によって、各フレームレートの画像間で、せん断波の周波数が都度かわってしまうという問題があった。周波数変化によって処理画像が変化すると、一定の位相、フレーム間隔Δtごとの処理画像とはならず、振動時の正しい筋状態を示すことができなかった。
【0124】
(発明の特徴)
本発明では偏心錘を有する小型加振器(1)による加振処理を行うと共に、「等化処理ステップ」として、位相等化によるC-SWE法の重複処理を行い、この処理により時系列順に連続取得された複数のフレーム画像のせん断波位相を共通させた状態で出力するステップを具備することとした。
つまり、等化処理ステップ」として「所定の基準領域A内の画像の位相が同一となるように第Nフレーム(ただしNは2以上の整数)の剪断波位相情報を回転させる」ことで、すべての画像で剪断波位相(実部位相、虚部位相)の平均値を第一フレームと合わせる処理を行った。実施例ではN≦16の整数、すなわち第2フレーム~第16以下のフレームのそれぞれにおいて「等化処理ステップ」を行い、振動時の正しい金状態の連続画像を得ることとした。
【0125】
(等化処理ステップ)
「等化処理ステップ」として、位相等化によるC-SWE法の重複処理を行い、この処理により時系列順に連続取得された複数のフレーム画像のせん断波位相を共通させた状態で出力するようにした。
【0126】
各フレームの画像上の特定領域A(一般にせん断波の振幅が大きな加振器に近い点が選ばれる)のせん断波の複素振幅を基準複素振幅として、第2~第N(最大16まで)フレームの各画素の特定領域Aと第一フレームの特定領域Aの等化処理をする(基準位相と同じにする)。
【0127】
等化処理とは、連続した複数フレームで記録したせん断波複素振幅を画像内の特定領域Aの複素振幅に着目して同一のものにする処理である。この等化処理によりフレーム方向に対して、せん断波複素振幅の平均化処理が行えるので、等化処理とそれに続く平均化処理により最終的なせん断波映像のS/N比を向上させることができる。
【0128】
加振による体組織硬さの周波数検査処理においては、検査者の押圧力によって、各フレームレートの画像間で、せん断波の周波数(、位相、フレーム間隔Δt)が都度かわってしまうという課題があった。また第一高調波領域~第二高調波領域の間の周波数ノイズを消すことができないという課題があった。これに対し本発明は、位相差分ではなく位相等化C-SWE法で重複処理を行うこととした。
【0129】
具体的には、「所定の基準領域A内の画像の位相が同一となるように第Nフレームの剪断波位相情報を回転させる」ことで、すべての画像で剪断波位相(実部位相、虚部位相)の平均値を第一フレームと合わせる処理を行った。これにより周波数変化による処理画像変化がなくなる。
【0130】
位相差分ではなく、位相等化によるC-SWE法の重複処理を行うため、周波数変化による処理画像変化がなくなる。また、フレーム変動と加振周波数変動に強いシステムとなった。さらに超音波装置のS/Nが十分であるという条件付きで、せん断波映像の再生レートの高速化が可能となった。
【0131】
加振周波数が変動することは、(この変動量が10%程度とわずかであれば)、連続した各フレームでせん断波の位相が変化することに相当する。せん断波映像では再生画像のS/N向上のために、連続するフレーム間で「可算平均化処理」を行うことが必要になるが、上記のように位相が変化してしまうと可算平均処理が行えない。
【0132】
等化処理は、処理画像に含まれる特定画素領域内の平均位相の等位相化処理と言い換えることもできる。つまり、各フレーム内に存在する共通の画素領域の基準範囲として、縦と横の所定座標で定義づけられる特定領域を規定し、各フレームにおける特定領域内の画素単位の位相の値を取得して、特定領域に含まれる画素単位で平均の位相の値を算出する。そして、各フレームにおける平均位相が最初のフレームの平均位相に一致する様に、せん断波位相の回転処理(位相等化処理)を行う。この処理により、せん断波の周波数が変化しても、可算平均処理により最終的なせん断波映像のS/Nを向上できるので、特にタブレットエコーベースのせん断波映像システムのように雑音が多いことが予想されるシステムでは必須の技術になる。
【0133】
(平均化処理を行う複素振幅の概念)
本発明の等価処理における、せん断波の複素振幅は、位相のより一般化したもので、位相と振幅の両方を指す。つまり本実施例の等価処理ステップにおけるせん断波の複素振幅は、位相と振幅の両方を含む概念であって、
「せん断波位相」、「せん断波複素振幅」両方をまとめて平均化処理を行う。本発明の等化処理ステップにおいては、位相だけでなく振幅を含めたせん断波の平均化処理を行うこととなる。等しくするときに、「位相」だけでなく「振幅」も等しくしないと平均化処理が行えないためである。
【0134】
但し、他の形態として、せん断波の少なくとも「位相」のみを抽出して平均化処理を行うものであってもよい。けだし、透過処理他の形態例としてせん断波の複素振幅は、「位相」の寄与度が比較的大きく「振幅」の寄与度は比較的小さいからである。求められるスペックに応じて複素振幅の平均化処理の対象を簡素化して処理することで精度と映像化速度とを共に確保することができる。
【0135】
(画素の重ね合わせステップ)
すべての画の特定領域A内のせん断波の波形情報(平均位相、すなわち位相及び振幅>実部と虚部からなる複素振幅の平均値)を、初期フレームの特定領域A内の波形情報(基準の波形情報)と比較して、波形情報(複素振幅の値)が同一になるように(波形が同一になるように時間軸を巻き戻し)処理して、各フレームの画素を重ね合わせる。これにより、フレームレートが時間的に変動しても、同一のせん断波映像が再生できる。
【0136】
(特定領域Aの設定)
等化処理ステップの平均化処理に当たり、どのようにして特定領域Aを設定するのかについて以下に説明する。特定領域の設定では、せん断波の位相の平滑化を避けるために特定領域Aの横及び深さ方向の幅並びに位置を、せん断波の波長に対する所定の倍率範囲の波長・位置条件に設定する。例えば、せん断波の波長の1/5から1/10の値に設定する。また領域Aの位置は、せん断波の振幅が大きい部分を選択するために、加振器に一番近い端を含む領域に設定する。
【0137】
特定領域Aの画素内のせん断波長の大きさを、せん断波長の1倍未満、例えば1/5から1/10の範囲内の所定値に設定するのは、これより小さすぎるとノイズ過大になってしまい、せん断波の波長よりも大きすぎると画像全体が平均化されて0になってしまうからである。前記のように画素内の平均せん断波長を所定範囲に設定することで適切なノイズ除去画像を連続的に出力することができる。
【0138】
(移動平均処理)
連続したフレームで同一のせん断波位相像が得られるので、連続フレームに対して移動平均処理を行うことでせん断波再生映像の雑音を低減させる。
【0139】
(加振周波数の推定)
超音波ドプラ信号からアップ・サンプリングと短時間区間自己相関法を用いて1フレームごとに加振周波数を推定(自動トラッキング)し、推定した加振周波数を用いて、せん断波映像を再生する。
【0140】
正弦波で加振動させているため、直流分、基本波成分、2次高調波プラス3次の周波数成分のみのデータ取得でよい。それ以外はノイズとして処理される。ただし、基本波成分、2次高調波プラス3次の周波数成分は推定周波数処理を行い、処理で算出された推定周波数で行う必要がある。
【0141】
(押圧量の表示)
加振周波数の時間的変動から「生体への振動押圧」(課題:ただし、周波数が押圧力によって変動してしまう)を推定し「押圧量」を表示する機構を追加してもよい。
【0142】
(ノイズ処理の問題)
本発明の加振動による超音波装置は、体組織を正弦波で加振動させているため、超音波の送受信号は本来、直流分、基本波成分、及び、2次高調波及び3次の周波数成分のみのデータ取得でよく、それ以外はノイズとして処理されるべきである。この考えに基づいて、基本波成分、2次高調波プラス3次の周波数成分は推定周波数処理を行い、処理で算出された推定周波数で行うこととした。第1フレーム~Nフレーム(ここで、Nは18以下の正の整数を意味する。)の連続した周波数画像グループにおいて、画角内の一部である特定領域Aの画素周波数を、前記算出された所定の推定周波数に統一して重ね合わせ、連続出力することで、S/N比の高い連続画像を得ることができる。
【0143】
(発明の効果のまとめ)
実施例による発明の効果以下のようにまとめられる。
・フレームレートが時間的に変動しても、同一のせん断波映像が再生できる。
・連続したフレームで同一のせん断波位相像が得られるので、連続フレームに対して移動平均処理を行うことでせん断波再生映像の雑音を低減させる。
【0144】
図5に示すように、偏心錘付きモータを加振器として使い、この加振器が生体表面に押圧Δpで押し付けられているとする。押圧の増加は、モータの回転質量mが増えたことに相当するので、押圧Δpとモータに加わる回転トルク変化ΔTの間には次の関係が成り立つ。
【0145】
【数37】
ここでAはモータの特性で決まる比例定数である。
【0146】
比例係数Aは振動を与える振動ヘッド部形状に依存し、理論的に推定することは難しいが、あらかじめ既知の押圧に対してΔpとΔTとの関係を測定することでその比例定数としてAを求めることができる。
【0147】
一般にモータのトルクTと回転数Nの間には次式の関係がある。
【0148】
【数38】
ここでk
0、k
1はモータ特性により決まる定数である。
【0149】
今、トルクがTからT+ΔTだけ変化したときにモータの回転数がNからN-ΔNになったとすると
【0150】
【0151】
つまり(5-1)式を代入すると
【0152】
【0153】
これより押圧Δpは
【0154】
【0155】
図6は、これらのせん断波映像システムの処理をまとめたフローチャートである。
【0156】
〔実施形態例〕
今回の方法を用いて、せん断波映像再生を行った実施形態例を示す。
【0157】
図7は実験で用いた偏心錘付きモータを内蔵する小型加振器(1)の2つの形態例であり、左はスティック型タイプの例であって、軸棒を内蔵するとともに内部の偏芯位置に、ディスク型の錘(破線で表記)を軸棒支持状態で内蔵する。右はボール型タイプの例であって、周方向に沿って内部形成された収容溝内に複数の球型の錘を偏芯収容してなる。従来のムービングコイル型加振器に比べて、ほぼ同一の振幅にもかかわらず体積を1/7に小型化できる。写真の小型加振器はいずれも、内部の偏心錘付きモータの重さは5.5g、偏心錘は1.5gと非常に軽量である。
【0158】
図8は、アップ・サンプリングと短時間自己相関を用いた超音波ドプラ信号からの加振周波数推定(モータへの電流波形計測からの加振周波数推定との比較)図である。
図8は
図7に示す加振器を用いて、短時間自己相関法を用いて超音波ドプラ信号から加振周波数推定を行った推定図の例(縦軸)である。縦軸は超音波度プラ信号からの推定周波数、横軸はモータの電流波形を約0.5秒間計測し、その脈動波形のスペクトラムピークから測定したモータの回転数である。図中に示す電圧値はモータへの印加電圧を表す。
【0159】
本発明の提案法では、0.1秒程度の超音波ドプラ信号から測定しているにもかかわらず、それより長い時間幅で計測した電流波形からの計測値と良い一致を示している。また今回の方法は、超音波ドプラ信号から測定するために外部に測定用回路が一切必要ないという特徴も持つ。
【0160】
図9は、生体への押し込み量の変化による加振器の加振周波数の変化グラフである。
図7で示す小型加振器を使い、生体の特定表面である外側広筋への押し込み量を中程度、大程度でそれぞれ接触させたときに加振周波数の変化を確認した。その結果、を中程度からに変えたとき、加振周波数の変化は、大程度の押し込み量で接触させたときのほうが、中程度の押し込み量のときと比べて加振周波数が2~10Hzほど低下する傾向にあることが確認された。測定部位は外側広筋で加振器は手で保持している。生体への押し込み量が増えると一般に加振周波数が低減すること、また加振器を手で保持しているために生体への押し込み量が実験ごとに変化し、加振周波数が変化している様子が分かる。
【0161】
図10は、疑似生体ファントムによるせん断波映像化実験の様子を示した概要図である。今回の開発法の有効性を確認するためにこんにゃくを疑似生体ファントムとして実験した。
【0162】
図11に、せん断波複素振幅の等価処理の結果(上:等価処理前、下;等価処理後)の結果を示す。図の下の番号はフレーム番号を示す。等価処理によりフレームに拠らずせん断波の複素振幅が同じになり、その結果、図に示すせん断波の位相表示でも同じせん断波の位相が表示されており、せん断波の等化処理の効果が分かる。
【0163】
図12に、せん断波の複素振幅の等化処理の効果として、せん断波の再生画像の比較画像を示す。上図は等化処理を行わずに16フレームの移動平均処理を行った結果であり、下図は等化処理を行った後に16フレームの移動系筋処理を行った結果である。等化処理を行うことにより移動平均処理が可能になり、このために再生画像のS/Nが向上していることが分かる。
【0164】
図13は、今回の方法により測定したアルギン酸Caファントムのせん断伝播速度 (SWEと従来法との比較図である。グレー色左グラフの(せん断波エラストグラフィ)が従来法による伝搬速度、暗色右グラフのC-SWEが本発明の方法による伝搬速度である。硬さの異なる2種類のアルギン酸Csファントム(アルギン酸Ca1.0、アルギン酸Ca1.3)に対して、市販されているせん断波エラストグラフィ(SWE)で測定したせん断波の伝播速度と、提案法で測定したせん断波の伝播速度の比較を示す。両者はよい一致を示しており、この結果は提案法でせん断波の伝播速度が精度良く定量的に測定できることを示している。
【0165】
図14は今回の方法を生体の弾性映像化に適用した結果の例である。測定部位は外側広筋である。上2図は、適応的IQフィルタを適用しない結果であり、下2図は適用的IQフィルタを適用した後で再生された結果である。この結果は、
図6のフローチャートに示した、せん断波の周波数推定、せん断波の複素振幅の等化処理(移動平均フレーム数16)を含む、本発明のすべての方法を適用した後の結果である。この結果は、適用的IQフィルタによる効果に限らない。本発明により、高い質のせん断波映像が得られていることが分かる。
【0166】
一般に、1回の超音波送受信信号から再生できるのは、超音波の反射強度を濃淡画像として表すBモード画像と呼ばれている画像である。ここで目的としているせん断波画像では、連続した8-16回の超音波受信信号から1枚の画像を再生する。この再生では、超音波の受信間隔が常に一定であることを仮定しているため、受信間隔がばらついてしまうと、再生画像にノイズが乗ったり、或いは得られる映像の定量性の低下を引き起こしたりしてしまう。
【0167】
この課題に対し、本発明は以下の要点1~3によってこのノイズ発生や定量性の低下を解消せしめている。
【0168】
(本発明の要点1)
本発明の要点は、生体への押圧で加振周波数が変動しても、今回新規に開発した「せん断波複素振幅の等化処理」により周波数変動に拠らないせん断波映像を得る機構を有する点にある。この処理は、連続した複数フレームで記録したせん断波複素振幅を画像内の特定領域Aの複素振幅に着目して同一のものにする処理であり、これによりフレーム方向の平均化処理を行うことで最終的なせん断波映像のS/Nを向上させる手法である。
【0169】
具体的には、生体への押圧で加振周波数が変動しても、せん断波の位相等化処理により周波数の変動に拠らないせん断波映像を得る機構を有することを特徴とする。
【0170】
加振器を小型、軽量化するには偏心錘のついた直流モータを使うことが考えられるが、このような加振器では生体への押圧によりモータへの負荷トルクが変わり、その結果、モータの回転数がつまり加振周波数が時間的に変動する。このような加振周波数が時間的に変動する場合に対して、連続した複数フレームでせん断波の位相等化処理を導入することで、せん断波の周波数変動に影響せず、せん断波映像の再生を行う。
【0171】
(発明の要点2)
また本発明の他の要点は、超音波ドプラ信号から加振周波数波数を推定し推定された加振周波数を用いてせん断波映像を得る機構を有する点にある。
【0172】
特別なセンサを付加させることなく得られた超音波ドプラ信号から短時間自己相関法で、生体への押圧により時間的に変化する加振周波数を推定し、この加振周波数の推定値を用いて適応的にせん断波映像を再生する方法である。
【0173】
(発明の要点3)
また本発明の他の要点は、加振周波数の時間的変動から生体への押圧を推定し、推定した押圧が適切な範囲内にあるか否かを画面に色分け表示する機構を有する点にもある。
【0174】
生体への押圧が高すぎると、体組織が硬くなるため体組織自体の硬さ測定できないし、逆に押圧が小さすぎることは、加振器先端(加振ヘッド)が体表に正しく押し当てられていないことになるので、せん断波を生体内に導入できない。このため、生体への押圧を常にモニタリングして適切な範囲内に収めることが必要になるが、偏芯振動モータなどの小型加振器を用いて使いやすさを確保しながら、加振周波数の値から生体への推定押圧が適切な範囲内にあるかどうかを、せん断波画像とともに画面内に色分け表示することで、生体への適切な押圧力を維持しながら体組織の硬さ測定を行うことが可能となる。
【0175】
上記のほか、各振動子で受信した超音波信号をスペクトル分析し、学習を経た多層ニューラルネット解析によって、異物オブジェクトを大きさ又は硬さの異なる複数種類のオブジェクトスペクトルモデルのいずれかに判別し、判別したオブジェクトスペクトルモデルに1対1対応した色又は形状でマップ上に表示して検出面に合わせたマップ表示を行うことができる。二次元配列された複数の各受信子と隣接する受信子とが重複して信号検出することで、異物オブジェクトの概形、厚さ(深度)が明瞭に認識できる。
【0176】
(生体硬さの測定用デバイス)
また、本発明の生体硬さの測定用デバイスは、非接触で探触データを取得する上記いずれかの生体硬さの測定用デバイスと、取得された探触データを分析する分析装置とを具備してなる。この生体硬さの測定用デバイス方法における生体硬さの測定用デバイスは、筋肉の片さ試験のほか、内蔵の腫瘍又は硬化部の検出に用いられる。
【0177】
癌、肝硬変など疾病の進行とともに体組織の硬さが変化することはよく知られているが、本発明によって加振器を小型軽量化し、英沿いを得るときの操作性を改善しつつも体組織の硬さを非侵襲的に測定・映像化できることは、運動器領域では筋腱等の機能評価が可能となる。これにより、消化器領域では肝臓等の組織の硬さが、乳腺では癌の早期発見等に役立つことが期待できる。
【0178】
本発明の測定装置は内蔵や甲状腺、乳腺などにも適用可能である。例えば肝臓では、従来、大病院のエコー室でしか使えなかった慢性肝炎、肝硬変、非アルコール性脂肪肝による肝臓の硬さの変化の測定を小規模な診療所レベルの医療施設でも実施できる方法になるものと期待される。また乳腺については、現在使われているX線によるマンモグラフィは、乳腺内密度が高い若年層では悪性腫瘍の発見が難しいこと、またX線被ばくの問題があることが指摘されている。また通常のエコー診断では悪性腫瘍は一般にエコー強度が低い部分として描出され、読影が難しい例もあり検査者の経験が必要であることが指摘されている。
【0179】
上記の他、本発明は、悪性腫瘍による生体組織の硬さを直観的に画像視認できるため、従来法と併用することで悪性腫瘍の発見を容易にすることが期待できる。