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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007368
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】電波吸収材
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240110BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H05K9/00 M
C01G9/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097890
(22)【出願日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022104890
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小泉 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】末田 学
【テーマコード(参考)】
4G047
5E321
【Fターム(参考)】
4G047AA02
4G047AB02
4G047AC03
4G047AD04
5E321BB33
5E321BB60
5E321GG11
(57)【要約】
【課題】1GHz以上の高周波帯域にて高い誘電率を示し、かつ、マトリックス成分に対する充填率の高い電波吸収材を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛粒子を含む電波吸収材であって、該酸化亜鉛粒子は、走査型電子顕微鏡で撮影した電子顕微鏡写真の250個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを定規で計測し、長径/短径の比を求め、その平均値として測定された真球度が1.00~1.10であり、メジアン径(D50)が1~200μmである、電波吸収材。
【選択図】なし



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛粒子を含む電波吸収材であって、
該酸化亜鉛粒子は、走査型電子顕微鏡で撮影した電子顕微鏡写真の250個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを定規で計測し、長径/短径の比を求め、その平均値として測定された真球度が1.00~1.10であり、メジアン径(D50)が1~200μmである、電波吸収材。
【請求項2】
1GHzにおける誘電率が11以上である、請求項1に記載の電波吸収材。
【請求項3】
更に樹脂を含む、請求項1又は2に記載の電波吸収材。
【請求項4】
前記電波吸収材が成形体である、請求項3に記載の電波吸収材。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の高速度化や車載用レーダー等の用途でGHz帯の電波通信技術の発達に伴い、電磁波のコントロールの重要性も高まり、種々の電波吸収材が開発されている。
電波吸収材は、電波のエネルギーを熱に変換することで吸収する材料であり、誘電損失タイプと磁性損失タイプに大別される。
誘電損失タイプとして、従来カーボン等の導電性フィラー等が使用されている。このような導電性フィラーは、白色以外(特に黒色)が主であるため、意匠性が必要な用途では白色のフィラーが要求されている。
【0003】
酸化亜鉛は、代表的な白色顔料であり、酸素欠損もしくは格子間亜鉛によりn型半導体としての特性を示すことが知られている。
酸化亜鉛を電波吸収材用途に用いる技術に関して、特許文献1には、酸化鉄を主成分とし、珪素、アルミニウムの酸化物を含有する廃棄物及び酸化亜鉛、酸化マンガンを主成分とする廃棄物を混合後、焼成させてなる焼結体であって、焼結体中にソフトフェライトを30%以上含有することを必須とする電磁波吸収部材が開示されている。特許文献2、3にも酸化亜鉛を含む電磁波吸収体等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-89281号公報
【特許文献2】特開2021-158175号公報
【特許文献3】特開2014-127596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、従来、酸化亜鉛を含む電波吸収材について検討されているが、1GHz以上の高周波帯域での誘電率が充分ではなく、また、より優れた電波吸収能を得るためには、フィラー粒子のマトリックス成分に対する充填率を高める必要があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、1GHz以上の高周波帯域にて高い誘電率を示し、かつ、マトリックス成分に対する充填率の高い電波吸収材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、電波吸収材用途に用いられる酸化亜鉛について種々検討したところ、酸化亜鉛粒子の真球度とメジアン径とを所定の範囲とすることにより、空隙が少ない緻密な粒子となり、1GHz以上の高周波帯域における誘電率が高く、かつ、マトリックス成分に対する充填率が高いものとなることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
本発明は、以下の電波吸収材を包含する。
〔1〕酸化亜鉛粒子を含む電波吸収材であって、該酸化亜鉛粒子は、走査型電子顕微鏡で撮影した電子顕微鏡写真の250個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを定規で計測し、長径/短径の比を求め、その平均値として測定された真球度が1.00~1.10であり、メジアン径(D50)が1~200μmである、電波吸収材。
〔2〕1GHzにおける誘電率が11以上である、上記〔1〕に記載の電波吸収材。
〔3〕更に樹脂を含む、上記〔1〕又は〔2〕に記載の電波吸収材。
〔4〕上記電波吸収材が成形体である、上記〔1〕~〔3〕に記載の電波吸収材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電波吸収材は、上述の構成よりなり、1GHz以上の高周波帯域にて高い誘電率を示し、かつ、マトリックス成分に対する充填率が高いため、携帯電話などの通信機器、OA機器、コンピュータ、家電機器、高速道路の自動料金収受システム(ETC)、ミリ波レーダー装置などの自動車電装機器等電子機器の放射ノイズおよびノイズ耐性対策等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得られた酸化亜鉛粒子の走査型電子顕微鏡観察結果を示した図である。
図2】実施例2で得られた酸化亜鉛粒子の走査型電子顕微鏡観察結果を示した図である。
図3】実施例4で得られた酸化亜鉛粒子の走査型電子顕微鏡観察結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0012】
本発明の電波吸収材は、真球度が1.00~1.10であり、メジアン径(D50)が1~200μmである酸化亜鉛粒子を含むものである。
このような酸化亜鉛粒子を含むことにより、本発明の電波吸収材は、1GHz以上の高周波帯域における誘電率が高く、マトリックス成分に対する充填率が高い。
また、酸化亜鉛粒子は白色であるため、本発明の電波吸収材は意匠性にも優れる。
【0013】
上記メジアン径(D50)は、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径をいい、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される値である。
上記酸化亜鉛粒子のメジアン径(D50)として、好ましくは2~150μmであり、より好ましくは5~100μmであり、更に好ましくは10~100μmであり、一層好ましくは15~80μmであり、特に好ましくは20~70μmである。
【0014】
上記真球度として好ましくは1.00~1.08であり、更に好ましくは1.00~1.07である。
上記真球度は、以下のように求める。
走査型電子顕微鏡で撮影した電子顕微鏡写真の250個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを定規で計測し、長径/短径の比を求め、その平均値を真球度とする。
【0015】
上記酸化亜鉛粒子は、粒子中の90%以上の粒子が真球度1.10以下であることが好ましい。真球度が高い粒子が高い割合で存在することにより、フィラーとして使用した際の充填率をより向上させることができる。なお、粒子中の90%以上の粒子が真球度1.10以下であるとは、電子顕微鏡写真において視野中に存在しているすべての粒子の真球度を測定し、このような操作によって合計250個の粒子について真球度を測定した場合に、90%以上の粒子が真球度1.10以下となることをいう。
【0016】
上記酸化亜鉛粒子は、D50/D10が1.70未満であることが好ましい。これにより、酸化亜鉛粒子の粒度分布がよりシャープになり、フィラーとして使用した際の充填率をより向上させることができる。充填率がより高くなることにより、粒子間の空隙がより少なくなり、電波吸収性もより高まる。
【0017】
上記酸化亜鉛粒子は、D90/D50が1.70未満であることが好ましい。これにより、酸化亜鉛粒子の粒度分布がよりシャープになり、フィラーとして使用した際の充填率をより向上させることができる。充填率がより高くなることにより、粒子間の空隙がより少なくなり、電波吸収性もより高まる。
【0018】
上記酸化亜鉛粒子は、D50/D10とD90/D50とがともに1.70未満であることがより好ましい。このような形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記D10、D90はそれぞれ、粒子径の分布を測定することによって得られる値である。D10とは体積基準での10%積算粒径、D90とは体積基準での90%積算粒径であることを意味する。これらの値は、上記メジアン径(D50)と同様の方法によって測定された値である。
【0019】
上記酸化亜鉛粒子は、1GHzにおける誘電率が11以上であることが好ましい。これにより、電波吸収性がより向上する。
【0020】
上記酸化亜鉛粒子は、1GHzにおける誘電性接が11~20であることが好ましい。これにより、電波吸収性がより向上する。
【0021】
上記酸化亜鉛粒子は、安息角が45°以下であることが好ましい。
安息角は、水平面と粉体の山の斜面とのなす角度であり、本明細書においては「JIS R 9301-2-2アルミナ粉末-第2部:物性測定方法-2:安息角」によって得られた値である。
安息角が小さい酸化亜鉛粒子は、粉体としての流動性が向上するため、取り扱い性が向上する。
上記安息角として40°以下であることがより好ましく、35°以下であることが更に好ましい。
【0022】
上記酸化亜鉛粒子の製造方法は特に制限されないが、亜鉛源粒子に有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を混合して造粒する工程、及び、上記造粒工程によって得られた造粒粒子を焼成する工程を行って製造することができる。このような製造方法により、真球度が1.00~1.10であり、メジアン径(D50)が1~200μmである酸化亜鉛粒子を効率的に製造することができる。
【0023】
上記酸化亜鉛粒子の製造方法で用いられる亜鉛源粒子としては、焼成により酸化亜鉛になるものであれば特に制限されないが、例えば、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる。
上記亜鉛源粒子として好ましくは酸化亜鉛である。
上記亜鉛源粒子は、メジアン径(D50)が0.01~1.0μmであることが好ましい。
上記亜鉛源粒子のメジアン径(D50)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0024】
上記酸化亜鉛粒子の製造方法において、原料として使用することができる酸化亜鉛としては特に限定されず、フランス法、アメリカ法等の公知の方法によって製造された酸化亜鉛が挙げられる。中でも、フランス法によって製造された酸化亜鉛が、不純物が少ない点で好ましい。
【0025】
上記有機酸としては、蟻酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、蓚酸、ステアリン酸等が挙げられる。
上記無機酸としては、硝酸、硫酸、過酸化水素、リン酸等が挙げられる。
上記有機塩基としては、ピリジン、ピペラジン、イミダゾール等のアミン化合物等が挙げられる。
上記無機塩基としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア等が挙げられる。
上記塩としては特に制限されないが、例えば、アンモニウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、銅塩、カルシウム塩、ニッケル塩、コバルト塩、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アミン塩、セシウム塩等を挙げることができる。より具体的には、ポリカルボン酸アンモニウム、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸銅、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、硝酸亜鉛、硝酸リチウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、硫酸亜鉛、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等である。
【0026】
上記有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩の混合量は、混合する成分により設定することができるが、例えば、金属塩を使用する場合、亜鉛源粒子の重量に対して酸化物換算で0.1重量%以上、15.0重量%未満であることが、焼成工程で酸化亜鉛が緻密に焼結する点で好ましい。
また、例えば、酢酸を使用する場合、酢酸の混合量は、亜鉛源粒子の重量に対して0.1~10.0重量%であることが、焼成工程で酸化亜鉛が緻密に焼結する点で好ましい。
【0027】
上記有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩は、ハロゲン元素を含まないものが好ましい。これにより、真球度及びメジアン径(D50)をより好適な範囲とすることができる。
ハロゲン元素を含むものとしては、例えば、臭化アンモニウムや塩酸等が挙げられる。
上記有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩がハロゲン元素を含まないものである形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩の中でも好ましくは有機酸であり、より好ましくは酢酸である。
【0028】
上記造粒工程における造粒方法は、特に制限されないが、例えば、上記亜鉛源粒子と有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩を水に分散してスラリーとして、噴霧乾燥を行う方法等を挙げることができる。これにより、真球度及びメジアン径(D50)をより好適な範囲とすることができる。
また、上記亜鉛源粒子に有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩の水溶液を添加し、スパルタンリューザー、スパルタンミキサー、ヘンシェルミキサー、マルメライザー等を用いて混合し造粒する方法等を挙げることができる。
【0029】
上記造粒工程において、スラリーとする場合は、分散剤を使用してもよい。また、有機酸塩として脂肪酸塩を使用した場合には、有機酸塩自体が分散剤としての機能を発揮するため、容易にスラリーを得ることができる。
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩(花王社製 ポイズ532A)等を挙げることができる。
【0030】
スラリーの調製方法は特に限定されず、例えば、上記成分を水に添加し、18~30℃で10~30分間、分散させることが好ましい。これにより、亜鉛源粒子の濃度100~1500g/lの均一なスラリーとすることができる。
【0031】
上記噴霧乾燥の方法としては特に限定されず、例えば、上記スラリーを好ましくは150~300℃程度の気流中に、4流体ノズル、2流体ノズル又は回転ディスク等により噴霧し、2~100μm程度の造粒粒子を作る方法が挙げられる。この際、スラリーの粘度が1~3500cpsとなるようにスラリーの濃度を制御することが好ましい。
スラリーの粘度はB型粘度計(東京計器社製)で60rpmのシェアで測定した値である。この気流中にて乾燥された造粒粒子をサブミクロンオーダーのフィルター(バグフィルター)にて捕集する。スラリーの粘度、乾燥温度、気流速度を好ましい範囲とすることにより、造粒粒子に中空が生じたり、くぼんだ形状となることを充分に抑制することができる。
【0032】
上記焼成工程における焼成温度は、特に制限されないが、700~1500℃であることが好ましい。焼成温度を700℃以上とすることにより、粒子内部までより充分に焼結させることができる。また、焼成温度を1500℃以下とすることにより、粒子同士の融着をより充分に抑制することができる。
焼成温度としてより好ましくは900~1200℃である。
【0033】
上記焼成工程における焼成時間としては、1~3時間が好ましい。
また、上記焼成は静置焼成によって行うことが好ましい。上記静置焼成は、ムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢中で行うことができる。
【0034】
上記方法によって製造された酸化亜鉛粒子は、その粒度分布においてシャープなものとなるが、更にシャープなものを得る必要がある場合や、低い割合で含まれている粗大粒子を除去するために、篩による分級を行うものであってもよい。篩による分級方法としては、湿式分級、乾式分級を挙げることができる。
【0035】
上記篩による分級は、80重量%以上の割合で目的とする粒子が得られるような条件で行うことが好ましい。上述したような製造方法によって得られた酸化亜鉛粒子は、粒子同士の融着が抑制されていることから、目的とする酸化亜鉛粒子の収率を高く維持することができる。上記分級は、90重量%以上の割合で目的とする粒子が得られるような条件がより好ましく、95重量%以上であることが更に好ましい。
【0036】
上記方法では、原料である亜鉛源粒子の粒子サイズを変更しても、有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基又はそれらの塩の量、分散剤の量、スラリーの濃度、焼成温度を適切に制御することにより、上記と同様の酸化亜鉛粒子を得ることができる。
また、噴霧乾燥の場合、4流体ノズル又は2流体ノズルについてはスラリーの供給量及びノズルエア流量を、回転ディスクについてはディスクの回転数を変えることにより、粒子サイズを制御することもできる。
また、焼成温度を上げることにより、焼成後の酸化亜鉛粒子の密度を上げることができる。
【0037】
本発明の電波吸収材は、上記酸化亜鉛粒子以外のその他の成分を含んでいてよい。
その他の成分としては、電波吸収性を阻害しない限り特に制限されないが、例えば樹脂、安定剤、離型剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0038】
上記樹脂としては特に制限されず、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよく、例えば、エポキシ樹脂;フェノール樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド、ポリイミド等のポリアミド系又はポリイミド系ポリマー;ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂;フッ素樹脂;ポリメタクリル酸メチル、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)樹脂等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート等のカーボネート系樹脂、ポリウレタン;ポリアセタール;ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等のエーテル系樹脂;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂等のジエン系ポリマー;液晶樹脂(LCP);シリコン樹脂等が挙げられる。中でも好ましくはポリオレフィン系樹脂である。
【0039】
本発明の電波吸収材において、酸化亜鉛粒子の充填率は特に制限されないが、電波吸収材中の不揮発成分100体積%に対して50体積%以上であることが好ましい。より好ましくは62体積%以上であり、更に好ましくは69体積%以上である。また、酸化亜鉛粒子の充填率として好ましくは100体積%以下である。
【0040】
本発明の電波吸収材が樹脂を含む場合、樹脂の含有割合としては特に制限されないが、電波吸収材中の不揮発成分100体積%に対して、0.1~80体積%であることが好ましい。より好ましくは0.5~70体積%であり、更に好ましくは1~60体積%であり、一層好ましくは1~50体積%であり、より一層好ましくは1~40体積%であり、更に一層好ましくは1~35体積%であり、特に好ましくは1~30体積%である。
【0041】
本発明の電波吸収材における酸化亜鉛粒子及び樹脂以外のその他の成分の含有割合としては、特に制限されないが電波吸収材中の不揮発成分100体積%に対して、0~50体積%であることが好ましい。より好ましくは0~45体積%であり、更に好ましくは0~40体積%であり、一層好ましくは0~30体積%であり、より一層好ましくは0~20体積%であり、特に好ましくは0~10体積%である。
【0042】
本発明の電波吸収材が樹脂等のその他の成分を含む場合の形態は、特に制限されないが、成形体であることが好ましい。成形体としては、シート状、ブロック状、フィルム状、繊維状、粒状、棒状、不織布等のいずれの形態であってもよい。これらの中でも、本発明の電波吸収材は、樹脂等のその他の成分を含む場合にシート状の形態であっても押出成形により生産性よく製造できる点を特徴とするため、本発明の電波吸収材がシート状の形態であることは本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、本発明においてシート状の形態とは、一般的にシート、フィルム、膜又は箔等と認識される平面的な広がりのある形態を指す。
【0043】
また、本発明の電波吸収材のシート状の形態における厚みは特に制限されないが、0.01~2mmであることが好ましい。シート状の形態における厚みが、上記範囲のものであると、電子部品の小型化に適した薄い形状でありながら電波吸収材の含有量が多く、電波吸収性能に優れ、かつ、生産性にも優れるという本発明の技術的意義がより十分に発揮される。シート状の形態における厚みとしてより好ましくは、0.02~1.5mmであり、更に好ましくは、0.05~1mmである。本発明の電波吸収材のシート状の形態における厚みが0.01~2mmであることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0044】
また、本発明の電波吸収材は、シート状の形態における厚みが0.8~1.2mmとした場合の電波吸収性(反射減衰量)が平均値として5dB以上であることが好ましい。このような電波吸収特性を有するものであると、電波の透過性が低いものが望まれる近傍界用途で使用される電波吸収シート等の材料としてより好適に用いることができる。より好ましくは電波吸収性の平均値として10dB以上である。
シート形状とした場合の電波吸収材の電波吸収性は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0045】
本発明の電波吸収材と樹脂の複合体(樹脂組成物)の製造方法は特に制限されないが、電波吸収材を得る工程と、得られた電波吸収材と樹脂とを混練して樹脂組成物を得る工程と、混練工程で得られた樹脂組成物を成形する工程とを行って製造することが好ましい。
上記電波吸収材を得る工程の好ましい形態は、酸化亜鉛粒子の製造方法に述べたとおりである。
【0046】
上記電波吸収材と樹脂とを混練する混練工程において、電波吸収材と樹脂とを混練する方法は特に制限されず、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置またはバッチ式混練装置のいずれかの方法を用いることができる。
【0047】
上記成形工程における成形方法は特に制限されず、押出成形、射出成形等のいずれを用いてもよいが、これらの中でも押出成形が好ましい。
【実施例0048】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0049】
<メジアン径(D50)、D10、D90>
酸化亜鉛粒子1.0gを秤量し、0.025%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液100mlに分散させ、その分散液をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-750(堀場製作所社製)の0.025%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液で満たした試料バスに投入し、循環速度:15、超音波強度:7、超音波時間:3分の設定条件下で測定を行った。室温下における酸化亜鉛の屈折率が1.9~2.0、水の屈折率が1.3であることから、相対屈折率は1.5に設定してメジアン径(D50)、D10、D90を求めた。
【0050】
<真球度>
走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で撮影した電子顕微鏡写真の250個の粒子について、粒子の中心を通る長径と短径の長さを定規で計測し、長径/短径の比を求め、その平均値を真球度とした。更に、250個の粒子について、真球度を測定し、真球度が1.10以下のものの個数の割合(%)を算出した。
【0051】
<最大フィラー充填率>
(i)EEA樹脂(日本ポリエチレン社製 レクスパールA1150)及び実施例1~3の酸化亜鉛粒子、(ii)EEA樹脂及び比較例3、4、6の酸化亜鉛粒子を最大フィラー充填率(体積%)の割合で配合した。最大フィラー充填率(体積%)は、EEA樹脂の比重を0.945、酸化亜鉛粒子の比重を5.55と仮定して求めたものである。酸化亜鉛粒子の重量をa(g)、酸化亜鉛粒子の比重をA、EEA樹脂の重量をb(g)、EEA樹脂の比重をBとしたとき、次式により最大フィラー充填率(体積%)を算出した。
最大フィラー充填率(体積%)=(a/A)/(a/A+b/B)×100
最大フィラー充填率を超えた充填率で酸化亜鉛粒子と樹脂を混練した場合、酸化亜鉛粒子と樹脂とを充分均一に混練することができず、混練後のシートの表面に酸化亜鉛粒子が一部残ってしまう。このように、酸化亜鉛粒子が樹脂と充分に混練されずに一部残ってしまうような状態にならない最大の充填率のことを、本明細書において最大フィラー充填率という。
【0052】
<安息角>
JIS R 9301-2-2アルミナ粉末-第2部:物性測定方法-2:安息角に従って安息角を測定した。
【0053】
<比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)>
酸化亜鉛粒子の比誘電率(Dk,εr)及び誘電正接(Df,tanδ)を、以下のようにして求めた。粉体用空洞共振器(エーイーティー社製)をベクトル・ネットワーク・アナライザP9373B(キーサイト社製)に接続した測定装置を用いて、酸化亜鉛粒子を石英管(内径7mm)に充填し、25℃、相対湿度50%、1GHzの条件において、比誘電率及び誘電正接を求めた。また、実施例4、比較例7、8で得たシートについては、細長い短冊状(幅3mm、厚み1mm、長さ80mm)に切断し、樹脂用空洞共振器(エーイーティ社製)にて、25℃、相対湿度50%、10GHzの条件において、比誘電率及び誘電正接を求めた。
【0054】
<実施例1>
微細酸化亜鉛(堺化学工業社製 メジアン径(D50)0.2μm)600gを水にリパルプし、微細酸化亜鉛の重量に対し分散剤(花王社製 ポイズ532A)2.50%を混合し、酢酸0.61%を混合して濃度が100g/lとなるスラリーを調製する。次に、このスラリーをラボスプレードライヤー DCR型(坂本技研社製)で噴霧乾燥することにより造粒粒子を得る。これをムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢に入れ1200℃で3時間静置焼成した。これを冷却後、1.0リットルの水に分散後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を通過させ、通過したスラリーをろ過、乾燥することにより、粒子同士の融着が殆ど無く、球状かつメジアン径(D50)が22.7μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。また、得られた酸化亜鉛粒子について、安息角を測定したところ、43°であった。また、得られた酸化亜鉛粒子の最大フィラー充填率は、69.2体積%であった。
【0055】
<実施例2>
分散剤の添加量を微細酸化亜鉛の重量に対し3.50%とし、スラリー濃度600g/lのスラリーを調製したこと、及び、焼成温度を1150℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、球状かつメジアン径(D50)が33.1μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。また、得られた酸化亜鉛粒子について、安息角を測定したところ、32°であった。また、得られた酸化亜鉛粒子の最大フィラー充填率は、72.0体積%であった。
【0056】
<実施例3>
酢酸の添加量を微細酸化亜鉛の重量に対し0.80%とし、分散剤の添加量を微細酸化亜鉛の重量に対し6.50%とし、スラリー濃度1000g/lのスラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様にして、球状かつメジアン径(D50)が50.0μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。得られた酸化亜鉛粒子について、安息角を測定したところ、29°であった。また、得られた酸化亜鉛粒子の最大フィラー充填率は、75.0体積%であった。
【0057】
<比較例1>
酸化亜鉛1種(堺化学工業社製、メジアン径(D50)0.6μm)1200gと臭化アンモニウム12g(酸化亜鉛1種の重量に対し1.00%)を30秒間乾式混合し、混合粉をムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢に入れ、700℃で2時間焼成した。
これを冷却後、3.5リットルの水に分散後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を通過させ、通過したスラリーをろ過、乾燥することにより、メジアン径(D50)が2.7μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。また、得られた酸化亜鉛粒子の最大フィラー充填率は、68.0体積%であった。
【0058】
<比較例2>
比較例1において、焼成温度を800℃、焼成時間を3時間に変えた以外は同様にして、メジアン径(D50)が6.9μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。
【0059】
<比較例3>
酸化亜鉛1種(堺化学工業社製 メジアン径(D50)0.6μm)1200gと臭化アンモニウム12g(酸化亜鉛1種の重量に対し1.00重量%)を30秒間乾式混合し、混合粉をムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢に入れ、1150℃で3時間焼成した。
これを冷却後、3.5リットルの水に分散後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を通過させ、通過したスラリーをろ過、乾燥することにより、メジアン径(D50)が10.2μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。得られた酸化亜鉛粒子について、安息角を測定したところ、49°であった。また、得られた酸化亜鉛粒子の最大フィラー充填率は66.7体積%であった。
【0060】
<比較例4>
比較例3の酸化亜鉛粒子(堺化学工業社製、メジアン径(D50)10.2μm)240gと酸化亜鉛1種(堺化学工業社製 メジアン径(D50)0.6μm)960gと臭化アンモニウム60g(比較例3の酸化亜鉛粒子と酸化亜鉛1種の総重量に対し5.00重量%)を30秒間乾式混合し、混合粉をムライト製、ムライト・コージライト製等の匣鉢に入れ、1150℃で3時間焼成した。
これを冷却後、3.5リットルの水に分散後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を通過させ、通過したスラリーをろ過、乾燥することにより、メジアン径(D50)が23.8μmの酸化亜鉛粒子を得た。得られた酸化亜鉛粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡JSM-5400(日本電子社製)で観察した。得られた酸化亜鉛粒子について、安息角を測定したところ、54°であった。また、得られた酸化亜鉛粒子の最大フィラー充填率は68.6体積%であった。
【0061】
<比較例5>
酸化亜鉛1種(堺化学工業社製、メジアン径(D50)0.6μm)を比較例5の酸化亜鉛粒子として用いた。
【0062】
<比較例6>
微細酸化亜鉛(堺化学工業社製、メジアン径(D50)0.1μm)を比較例6の酸化亜鉛粒子として用いた。微細酸化亜鉛の最大フィラー充填率は54.6体積%であった。
【0063】
実施例1~3及び比較例1~6で得られた酸化亜鉛粒子の各種物性を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
<実施例4>
実施例2で得られた酸化亜鉛80%(100g)と、ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製、製品名プライムポリプロ J-452HP)20%(25g)とを3.5インチの二本ロール(西村マシナリー社製、製品名NS-90E)を用いて170℃で3分間溶融混練しロールシートを作製した。このロールシートを、プレス機(ゴンノ油圧機製作所社製、15tプレス機)を用い、温度:175℃、加圧条件:10MPa×3分にてプレスした後、室温まで冷却することで、1.0mm厚、大きさ15cm×15cmのシートである樹脂成形体(1)を得た。この樹脂成形体(1)の10GHzにおける誘電率は6.3、誘電正接は0.26であった。
【0066】
<比較例7>
実施例2で得られた酸化亜鉛に代えて、比較例3で得られた酸化亜鉛を用いた以外は実施例4と同様にして、樹脂成形体(2)を作製した。この樹脂成形体(2)の10GHzにおける誘電率は4.1、誘電正接は0.13であった。
【0067】
<比較例8>
酸化亜鉛を用いない以外は実施例4と同様にして、樹脂成形体(3)を作製した。この樹脂成形体(3)の10GHzにおける誘電率は2.2、誘電正接は0.0003であった。
【0068】
<シート(成形体)の電波吸収性>
実施例4、比較例7、8で作製したシート状の樹脂成形体について、ネットワークアナライザと誘電体レンズつきホーンアンテナを用い、フリースペース法にて電波吸収性(反射減衰量)を評価した。5Gの無線通信に利用する26.5GHzから40GHzの(平均)吸収量を以下の基準で評価した。結果を表2に示した。
○:10dB以上(良)
△:5dB以上、10dB未満(実用上問題なし)
×:5dB未満(実用上問題あり)
【0069】
【表2】
【0070】
表1の評価結果から、真球度が1.00~1.10であって、メジアン径(D50)が1~200μmである酸化亜鉛粒子は、1GHzにおける誘電率が高く、かつ、マトリックス成分に対する充填率(最大フィラー充填率)が高いため、電波吸収材として好適に用いることができることが明らかとなった。
また、表2の評価結果から、上記酸化亜鉛粒子を含有した樹脂成形体は、10GHzにおける誘電率が高く、かつ、5Gの無線通信に用いる26.5~40GHzの帯域において、5dB以上の電波吸収性を有しており、電波吸収材として好適に用いることができることが明らかとなった。
図1
図2
図3