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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073696
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】浴槽生体情報計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/318 20210101AFI20240523BHJP
   A61B 5/053 20210101ALI20240523BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
A61B5/318
A61B5/053
A61B5/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184534
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】597139170
【氏名又は名称】学校法人静岡理工科大学
(71)【出願人】
【識別番号】308017722
【氏名又は名称】株式会社ユーシス
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】山越 康弘
(72)【発明者】
【氏名】本井 幸介
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB33
4C038VB35
4C038VC20
4C127AA02
4C127AA06
4C127CC01
4C127FF01
4C127FF02
4C127GG05
4C127GG07
4C127GG11
4C127GG18
4C127LL15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、簡易に設置可能で、入浴者の被監視感や圧迫感を低減すると共に、高い計測精度の生体情報を取得することのできる浴槽生体情報計測装置を提供することにある。
【解決手段】上記目的は、浴槽内壁面に露出しないよう設置可能な、第1の検知電極を備える第1の電極ユニット、第2の検知電極を備える第2の電極ユニット、及び、基準電極を備え、基準電極の電位を基準とした第1の検知電極と第2の検知電極との電位差に基づいて生体情報を計測する浴槽生体情報計測装置において、第1の検知電極と、第2の検知電極との電位差を検知及び増幅する差動増幅ユニットと、差動増幅ユニットによって増幅された電位信号を制御する信号制御ユニットとを備え、第1の電極ユニットと、差動増幅ユニットとの距離が30cm以下であり、かつ、第2の電極ユニットと、差動増幅ユニットとの距離が30cm以下ある、装置により解決される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽内壁面に露出しないよう設置可能な、第1の検知電極を備える第1の電極ユニット、第2の検知電極を備える第2の電極ユニット、及び、基準電極を備え、前記基準電極の電位を基準とした前記第1の検知電極と前記第2の検知電極との電位差に基づいて生体情報を計測する浴槽生体情報計測装置において、
前記第1の検知電極と、前記第2の検知電極との電位差を検知及び増幅する差動増幅ユニットと、前記差動増幅ユニットによって増幅された電位信号を制御する信号制御ユニットとを備え、
前記第1の電極ユニットと、前記差動増幅ユニットとの距離が30cm以下であり、かつ、前記第2の電極ユニットと、前記差動増幅ユニットとの距離が30cm以下ある、浴槽生体情報計測装置。
【請求項2】
前記生体情報が、心電図波形、心拍数、呼吸情報、体動、血圧、血流、体組成、体温及び/又はストレス情報である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の検知電極及び前記第2の検知電極は、それぞれ容量結合型電極である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の検知電極及び前記第2の検知電極のサイズは、それぞれ、直径が60mm~80mmである、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の電極ユニット及び前記第2の電極ユニットは、それぞれ、バッファアンプをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記浴槽が、平面視において略長方形状である場合において、
前記浴槽の短辺側に、前記第1の電極ユニット及び前記第2の電極ユニットがそれぞれ設置され、
前記浴槽の長辺側に、前記基準電極が設置される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記基準電極は、前記第1の検知電極及び前記第2の検知電極のサイズの2倍~3倍である、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の電極ユニット及び前記第2の電極ユニットは、それぞれ、筺体状の第1のシールドケースを備え、当該第1のシールドケース内に、前記第1の又は第2の検知電極と、前記第1の又は第2の検知電極上に配置されるアクティブシールドと、前記アクティブシールド上に配置される前記バッファアンプを収容する第2のシールドケースとを収容し、
前記第1のシールドケース及び第2のシールドケースは、フレームグラウンドに電気的に接続され、前記アクティブシールドは、バッファアンプ出力ラインと電気的に接続され、前記差動増幅ユニットと信号制御ユニットは、アースグランドに電気的に接続されておらず、フローティング回路で構成可能であり、さらに循環ポンプ又は排水溝においてアースする、請求項5に記載の装置。
【請求項9】
浴槽用の生体情報計測装置において使用するための電極装置であって、浴槽内壁面に露出しないよう設置可能な、第1の検知電極を備える第1の電極ユニット、第2の検知電極を備える第2の電極ユニット、及び、基準電極と、前記第1の検知電極と、前記第2の検知電極との電位差を検知及び増幅する差動増幅ユニットとを備え、
前記第1の電極ユニットと、前記差動増幅ユニットとの距離が30cm以下であり、かつ、前記第2の電極ユニットと、前記差動増幅ユニットとの距離が30cm以下ある、電極装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴者の生体情報を計測することのできる浴槽生体情報計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会の到来に伴い、家庭内での事故が増加している。特に、入浴中においては、浴槽内における入浴行為の際に温熱や水圧等の負荷を受け、循環器系疾患が誘発されるおそれがあるため、重大な事故につながる。
【0003】
従来、入浴中の事故を防止する方法として、近赤外線や超音波を利用した機器やカメラ等により、入浴者の動作を検知する方法が知られている。
しかし、このような方法は、計測精度が十分ではないうえ、プライバシー侵害の問題を抱えている。
【0004】
また、浴槽の内壁面に複数の電極を設置し、当該電極からの電気信号を処理して心電図波形や心拍数を計測する装置が知られている(特許文献1~4参照)。
しかし、このような装置は、電極が浴槽の内壁面に露出しているため、入浴者に被監視感や圧迫感を与え得るという問題や、外見上、美観に優れないという問題がある。また、接続ケーブルの取り回しが煩雑である上、浴槽本体に穴あけ等の大規模な設備工事が必要になるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-95923号公報
【特許文献2】特開平10-127591号公報
【特許文献3】特開2002-78695号公報
【特許文献4】特開2008-93100号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】BioMed Eng OnLine, DOI:10.1186/s12938-016-0304-9 (2017)
【非特許文献2】Proc 41st Annu.Int . Conf.I E E E E M B S, Paper ID:2893(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、容量結合型電極を用いて非接触で心電図波形を計測することができるシステムが注目を浴びている。このような容量結合型電極から取得される電気信号は、一般に、微小であり、ノイズの影響も強く受けるとされている。
【0008】
本発明者らは、浴槽内壁面に露出せず、外見上全く見えない構成とするため、容量結合型電極を用いて、心電図波形や呼吸情報を得るシステムを開発した(非特許文献1及び2参照)。非特許文献1には、高い計測精度の心電図波形を取得するため、電極の構造や設置位置、信号処理方法について記載されている。
しかし、非特許文献1に記載のシステムによっても、信号の検出感度を高めることや、信号対雑音比の改善を含め、実用化にはさらなる計測精度の向上が必要であった。
【0009】
そこで、本発明は、簡易に設置可能で、入浴者の被監視感や圧迫感を低減すると共に、高い計測精度の生体情報を取得することのできる浴槽生体情報計測装置を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行う中で、ノイズの影響を限りなく低減し、高い計測精度の心電図波形を取得するため、特に電極の構造や信号処理回路を見直し、試行錯誤を繰り返した。そして、遂に、一般に信号処理回路内に一体に備えられる差動増幅ユニットを電極に近接させ、コネクタやケーブルを一体化させたところ、驚くべきことに、ノイズの影響が低減され、高い計測精度の生体情報を取得することができた。さらに驚くべきことに、このような構成によれば、容量結合型電極だけでなく、一般的な導電性電極にも応用できることがわかった。本発明はこのような成功例や、本発明者らによって初めて見出された知見に基づいて完成するに至った発明である。
【0011】
したがって、本発明によれば、以下のものが提供される:
[1]浴槽内壁面に露出しないよう設置可能な、第1の検知電極を備える第1の電極ユニット、第2の検知電極を備える第2の電極ユニット、及び、基準電極を備え、前記基準電極の電位を基準とした前記第1の検知電極と前記第2の検知電極との電位差に基づいて生体情報を計測する浴槽生体情報計測装置において、
前記第1の検知電極と、前記第2の検知電極との電位差を検知及び増幅する差動増幅ユニットと、前記差動増幅ユニットによって増幅された電位信号を制御する信号制御ユニットとを備え、
前記第1の電極ユニットと、前記差動増幅ユニットとの距離が30cm以下であり、かつ、前記第2の電極ユニットと、前記差動増幅ユニットとの距離が30cm以下ある、浴槽生体情報計測装置。
[2]前記生体情報が、心電図波形、心拍数、呼吸情報、体動、血圧、血流、体組成、体温及び/又はストレス情報である、[1]に記載の装置。
[3]前記第1の検知電極及び前記第2の検知電極は、それぞれ容量結合型電極である、請求項[1]又は[2]に記載の装置。
[4]前記第1の検知電極及び前記第2の検知電極のサイズは、それぞれ、直径が60mm~80mmである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の装置。
[5]前記第1の電極ユニット及び前記第2の電極ユニットは、それぞれ、バッファアンプをさらに備える、[1]~[4]のいずれか1項に記載の装置。
[6]前記浴槽が、平面視において略長方形状である場合において、
前記浴槽の短辺側に、前記第1の電極ユニット及び前記第2の電極ユニットがそれぞれ設置され、
前記浴槽の長辺側に、前記基準電極が設置される、[1]~[5]のいずれか1項に記載の装置。
[7]前記基準電極は、前記第1の検知電極及び前記第2の検知電極のサイズの2倍~3倍である、[4]に記載の装置。
[8]前記第1の電極ユニット及び前記第2の電極ユニットは、それぞれ、筺体状の第1のシールドケースを備え、当該第1のシールドケース内に、前記第1の又は第2の検知電極と、前記第1の又は第2の検知電極上に配置されるアクティブシールドと、前記アクティブシールド上に配置される前記バッファアンプを収容する第2のシールドケースとを収容し、
前記第1のシールドケース及び第2のシールドケースは、フレームグラウンドに電気的に接続され、前記アクティブシールドは、バッファアンプ出力ラインと電気的に接続され 、前記差動増幅ユニットと信号制御ユニットは、アースグランドに電気的に接続されておらず、フローティング回路で構成可能であり、さらに循環ポンプ又は排水溝においてアースする、[5]に記載の装置。
[9]浴槽用の生体情報計測装置において使用するための電極装置であって、浴槽内壁面に露出しないよう設置可能な、第1の検知電極を備える第1の電極ユニット、第2の検知電極を備える第2の電極ユニット、及び、基準電極と、前記第1の検知電極と、前記第2の検知電極との電位差を検知及び増幅する差動増幅ユニットとを備え、
前記第1の電極ユニットと、前記差動増幅ユニットとの距離が30cm以下であり、かつ、前記第2の電極ユニットと、前記差動増幅ユニットとの距離が30cm以下ある、電極装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置によれば、簡易に設置可能で、入浴者の被監視感や圧迫感を低減すると共に、高い計測精度の生体情報を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、浴槽に設置された本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置の構成を示す概略図である。
図2図2は、本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置における電極ユニットの構成を示す断面図である。
図4図4は、本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置の信号制御ユニットにおける一連の信号制御方法の一例を示すフロー図である。
図5図5は、後述の実施例において計測された信号波である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0015】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常使用される意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
【0016】
[浴槽生体情報計測装置]
本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置は、浴槽内壁面に露出しないよう設置可能な、第1の検知電極を備える第1の電極ユニット、第2の検知電極を備える第2の電極ユニット、及び、基準電極を備え、基準電極の電位を基準とした第1の検知電極と第2の検知電極との電位差に基づいて生体情報を計測する浴槽生体情報計測装置において、第1の検知電極と、第2の検知電極との電位差を検知及び増幅する差動増幅ユニットと、差動増幅ユニットによって増幅された電位信号を制御する信号制御ユニットとを備え、第1の電極ユニットと、差動増幅ユニットとの距離が30cm以下であり、かつ、第2の電極ユニットと、差動増幅ユニットとの距離が30cm以下ある。
本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置においては、生体情報が、心電図波形、心拍数、呼吸情報、体動、血圧、血流、体組成、体温及び/又はストレス情報であり得る。
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、浴槽に設置された本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置の構成を示す概略図である。図2は、本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置の構成を示すブロック図である。図3は、本発明の一態様の浴槽生体情報計測装置における電極ユニットの構成を示す断面図である。
【0019】
この浴槽生体情報計測装置(以下、単に「装置」ともいう。)10は、第1の検知電極1aを備える第1の電極ユニット20aと、第2の検知電極1bを備える第2の電極ユニット20bと、基準電極2と、差動増幅ユニット3と、信号制御ユニット4とから構成される。各電極ユニット20及び基準電極2と、差動増幅ユニット3とは、接続ケーブル6aによって電気的に接続され、差動増幅ユニット3と、信号制御ユニット4とは、接続ケーブル6bによって電気的に接続される。接続ケーブル6a、6bは、本装置のような、近接された差動増幅ユニットを用いる形態であれば、通常の電線で構築してもよい。
【0020】
この装置10においては、信号制御ユニット4は、表示ユニット5と、浴槽の循環ポンプ及び/又は排水溝とに接続ケーブル6cによって電気的に接続される。
この装置10においては、基準電極2の電位を基準とした、第1の検知電極1aによって検知される電位信号と、第2の検知電極1bによって検知される電位信号との電位差に基づいて生体情報を計測する。
【0021】
[電極ユニット]
第1の検知電極1aを備える第1の電極ユニット20a及び第2の検知電極1bを備える第2の電極ユニット20bは、浴槽内壁面7aに露出しないよう設置可能である。具体的には、第1の電極ユニット20a及び第2の電極ユニット20bは、それぞれ、浴槽本体7を構成する材料、例えばFRP(Fiber Reinforced Plastics)材の浴槽内壁面7aに対向する面7bに設置可能である。
FRP材は、一般に層厚が5mm~8mm程度である。
【0022】
ここで、第1の検知電極1aを備える第1の電極ユニット20aと、第2の検知電極1bを備える第2の電極ユニット20bとは、同様の構成であるため、以下、「第1の」及び「第2の」等の文言を省略して説明することがある。
【0023】
電極ユニット20は、筺体状の電磁シールドケース15bを備え、この電磁シールドケース15b内に、浴槽本体7の浴槽内壁面7aに対向する面7bに導電性材料によって形成される検知電極1と、この検知電極1上に配置される絶縁シート11aと、この絶縁シート11a上に配置されるアクティブシールド12と、このアクティブシールド12の上に配置される絶縁シート11bと、この絶縁シート11b上に配置される筺体状の電磁シールドケース15aと、この電磁シールドケース15a内の底部に配置されるバッファアンプ基板16a及びバッファアンプIC16bから構成されるバッファアンプ16と、検知電極1の上面に例えば半田によって固定され、絶縁シート11a、アクティブシールド12、絶縁シート11b、電磁シールドケース15aの底部及びバッファアンプ基板16aを貫通する信号ピン14aと、アクティブシールド12とバッファアンプIC16bとを電気的に接続する信号ケーブル14bとを収容する。検知電極1とバッファアンプ16とは、絶縁シート11a、アクティブシールド12、絶縁シート11b及び電磁シールドケース15aの底部を介して、信号ピン14aによって電気的に接続される。アクティブシールド12とバッファアンプ16とは、信号ケーブル14bによってに電気的に接続される。
【0024】
電磁シールドケース15a及び電磁シールドケース15bは、フレームグラウンドに電気的に接続され、アクティブシールド12は、バッファアンプIC16bの信号出力ラインと電気的に接続される。
【0025】
検知電極1は、入浴者の生体状況に起因する電位信号を検知するための容量結合型電極である。より具体的には、検知電極1は、微小な電位信号をアナログの電気信号として検知する。
【0026】
検知電極1は、例えば、銅、銀、ステンレス等の導電性材料によって形成される板状のものである。検知電極1は、例えば、浴槽本体7の浴槽内壁面7aに対向する面7bに導電性材料(ペースト)を塗布することによって形成することができる。
検知電極1のサイズや形状は、適宜設定することができるが、例えば、直径が60mm~80mm、層厚が30μm~60μmの円板状であることが好ましい。
【0027】
アクティブシールド12は、検知電極1面に対する外部からの電磁ノイズを低減するための電極であり、例えば、銅、鉄、ステンレス等の導電性材料によって形成される板状のものである。
アクティブシールド12のサイズや形状は、検知電極1より大きければ特に限定されないが、例えば、直径が70mm~90mm、層厚が0.08mm~0.2mmの円板状であることが好ましい。
また、アクティブシールド12は、公知のものを採用することもでき、例えば非特許文献1(BioMed Eng OnLine, DOI:10.1186/s12938-016-0304-9 (2017);この文献の記載は、ここに特に開示として援用される)に記載のものである。
【0028】
絶縁シート11は、絶縁材料によって形成されるものであれば特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル(PVC)を基材としたシート状のものである。
絶縁シート11a,11bのサイズは、それぞれ検知電極1及びアクティブシールド12より大きければ特に限定されない。
【0029】
バッファアンプ16は、検知電極1からの微小な電位信号を増幅及び安定化するものであり、バッファアンプ基板16aと、バッファアンプIC16bとから構成される。
【0030】
電磁シールドケース15aは、バッファアンプ16を収容する筺体状のものであり、外部からの電磁波ノイズを遮断する機能を有するものであれば特に限定されない。
電磁シールドケース15aのサイズは、絶縁シート11b上に配置することができ、かつ、バッファアンプ16を収容することができれば特に限定されない。
【0031】
電磁シールドケース15bは、検知電極1、アクティブシールド12、絶縁シート11a,11b、及び、バッファアンプ16を収容する電磁シールドケース15aを収容する筺体状のものであり、外部からの電磁波ノイズを遮断する機能を有するものであれば特に限定されない。
電磁シールドケース15bのサイズは、特に限定されないが、例えば、150mm×150mm×45mmである。
【0032】
[基準電極]
基準電極2は、基準電位を取得するための電極である。すなわち、検知電極(1a,1b)は、基準電極2の電位を基準として入浴者の各電位を電位信号(生体信号)として検知する。基準電極2により、計測精度の向上と安定化を図ることができる。
【0033】
基準電極2は、浴槽内壁面7aに露出しないように設置可能である。具体的には、検知電極(1a,1b)と同様に、基準電極2は、浴槽本体7を構成する材料、例えばFRP材の浴槽内壁面7aに対向する面7bに設置可能である。基準電極2の上面には、絶縁シート、シールドケース等を配置してもよい。
【0034】
基準電極2は、例えば、銅、銀、ステンレス等の導電性材料によって形成される板状のものである。基準電極2は、浴槽本体7の浴槽内壁面7aに対向する面7bに、導電性材料を塗布することによって形成することができる。
基準電極2のサイズや形状は、設置位置等によって適宜設定することができるが、例えば、検知電極1のサイズ(接触面積)の2倍~3倍であることが好ましく、具体的には、直径が100mm~160mmの円板状であることが好ましい。層厚は、30μm~60μmであることが好ましい。
【0035】
図1のように、浴槽本体7が平面視において略長方形状である場合において、浴槽本体7の短辺側に、第1の検知電極1a(第1の電極ユニット20a)及び第2の検知電極1b(第2の電極ユニット20b)がそれぞれ設置され、浴槽本体7の長辺側に、基準電極2が設置される。
なお、第1の検知電極1a(第1の電極ユニット20a)と第2の検知電極1b(第2の電極ユニット20b)との設置高さは、床面から同じ高さであってもよいし、高低差をつけてもよいが、いずれも、湯面の位置よりは低いことが好ましい。すなわち、電極配置は、従来の心電図における双極誘導(第II誘導)を模擬し浴槽本体7に設置することが好ましい。
【0036】
[差動増幅ユニット]
差動増幅ユニット3は、第1の検知電極1aと、第2の検知電極1bのそれぞれの電位差の電圧フォロワを行い、これらの電圧信号を検知及び増幅する。具体的には、差動増幅ユニット3は、第1の電極ユニット20aと、第2の電極ユニット20bとによって検知された微小電圧信号を、デジタル処理が行いやすい電圧レベルに増幅・ノイズ除去して電圧信号を信号制御ユニット4にアナログ出力する。
【0037】
差動増幅ユニット3は、例えば、図2に示すように、差動アンプ部、DCトラッキング手段、増幅部、フィルタ処理部(HPF、LPF、帯域除去フィルタ)等から構成される。例えば、電圧信号の増幅レベルは、5000倍~50万倍であり、HPFは、遮断周波数が1Hzのハイパスフィルタであり、LPFは、遮断周波数が100Hzのローパスフィルタである。
なお、容量結合型電極である検知電極1からの入力インピーダンスは非常に高く、テラΩオーダーであり、電極構造・面積や、それらの設置位置によって、適宜調整されるものである。
【0038】
第1の電極ユニット20aと、差動増幅ユニット3との距離は、30cm以下、好ましくは0cm(一体化)以上30cm以下であり、かつ、第2の電極ユニット20bと、差動増幅ユニット3との距離が30cm以下、好ましくは0cm(一体化)以上30cm以下である。
電極ユニット20(20a,20b)と差動増幅ユニット3との距離が30cm以下である具体的な構成では、差動増幅ユニット3は、電極ユニット20(20a,20b)や基準電極2と同様に、浴槽内壁面7aに対向する面7bあるいはその周辺に設置することができる。すなわち、浴槽本体7の一方側を覆うエプロン内周辺に設置されることが好ましい。
なお、このような構成から、電極ユニット20(20a,20b)と差動増幅ユニット3とは、防水構造を有することが好ましい。
【0039】
[信号制御ユニット]
信号制御ユニット4は、差動増幅ユニット3によって増幅された電位信号を制御して生体情報を取得する。
信号制御ユニット4は、例えば、図2に示すように、レベルシフタ、A/D変換部、CPU(制御部、演算部等)、リレー手段等から構成される。また、信号制御ユニット4はアースグラウンドに電気的に接続される。
【0040】
ここで、装置10は、電磁シールドケース15a及び電磁シールドケース15bは、フレームグラウンドに電気的に接続され、アクティブシールド12は、バッファアンプ出力ラインと電気的に接続され、差動増幅ユニット3と信号制御ユニット4とは、アースグランドに電気的に接続されておらず、フローティング回路で構成可能であり、さらに循環ポンプや排水溝においてアースする。このような構成により、ノイズ抑制や、安全性向上が可能となる。
【0041】
ここで、装置10の信号制御ユニット4における一連の信号制御方法の一例を示す。
信号制御ユニット4では、まず、差動増幅ユニット3によって増幅された電位信号をレベルシフタによって電圧変換した後、A/D変換部において、例えば1kHzのサンプリング周波数で各信号をサンプリング(0.1Hz以上のAC成分を記録)すると共に、各信号を量子化してアナログ信号からデジタル信号に変換する。そして、図4に示すように、このデジタル信号を誘導演算する。具体的には、デジタル信号をデジタルフィルタ(-18dB/oct)により、心電信号(1Hz~60Hz)、呼吸信号(0.1Hz~0.5Hz)及び体動信号(60Hz~100Hz)に分離する。心電信号及び呼吸信号は、体動信号(信号B)の体動判定区間の解析結果に対して消去又は生成し、R波のピークを検出する。このピークの間隔よりRR間隔を算出し、その後RR間隔を1kHzでリサンプリングし、FFT又はMEMで周波数分布を分析し、心拍数、心拍変動性等の情報を取得する。一方、RR間隔に現れる呼吸性の変動からも別途呼吸信号を分離し、これと、前述のフィルタ分離による呼吸信号の両者に、FFT又はMEMで周波数分布を分析し、呼吸数、呼吸変動性等の呼吸情報を取得する。最後に、これらの情報から、血圧、血流、体温及びストレス情報を取得する。
【0042】
なお、アナログ信号の段階で心電図波形のR波がノイズに比べ、S/N=5dB以上の信号があれば、デジタル処理での測定が可能となる。
【0043】
また、信号制御ユニット4における信号制御方法は、公知の方法を採用することもでき、例えば、非特許文献1(BioMed Eng OnLine, DOI:10.1186/s12938-016-0304-9 (2017);この文献の記載は、ここに特に開示として援用される)や、非特許文献2(Proc 41st Annu.Int . Conf.I E E E E M B S, Paper ID:2893(2019);この文献の記載は、ここに特に開示として援用される)に記載の方法が挙げられる。
【0044】
信号制御ユニット4において計測された生体情報は、表示ユニット5に表示される。
また、信号制御ユニット4は、計測された生体情報が、適宜設定された閾値を超えた場合に、浴槽内の湯を排水するように循環ポンプや排水溝を制御する。
【0045】
以上のような装置10によれば、検知電極1を備える電極ユニット20及び基準電極2が浴槽内壁面7aに露出しないよう設置可能であることから、入浴者の被監視感や圧迫感を低減することができ、また、外見上美観にも優れる。さらに、大規模な設備工事を必要としないことから、簡易に設置可能で、かつ、後付けも容易である。その上、検知電極1からの微小な電位信号を、近接した差動増幅ユニット3において増幅及び安定化することにより、ノイズの影響が限りなく低減された状態で、信号制御ユニット4へ出力することができるので、高い計測精度の生体情報を取得することができる。
【0046】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、基準電極は、浴槽内の排水溝金属や循環金具で置き換えることもできる。
また例えば、検知電極は、少なくとも2個あればよいが、3個以上としてもよい。
また例えば、後述の実施例にも示した通り、検知電極が容量結合型電極である場合に、各電極ユニットと差動増幅ユニットとの距離が30cm以下であれば、ノイズの影響を限りなく低減できることを確認しているが、この構成は、検知電極が導電性電極である場合にも適用することができる。
また例えば、微細気泡の噴出下においても、測定可能である。
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0048】
〔実験例1〕
図1図3に示す構成の装置を作製し、検知電極1(1a,1b)を備える電極ユニット20(20a,20b)と、差動増幅ユニット3との距離を30cmとして、試験用浴槽に設置した。
【0049】
健康な成人男性(40代)に湯温41℃にて10分間入浴してもらい、生体からの筋電等の影響を受けないよう、安静状態で、検知電極からの電位信号を検知した。結果を図5に示す。なお、図5に示す結果は、いわゆるデジタル処理前の生信号(アナログ信号)の結果である。また、S/N=10dB~12dBであった。
【0050】
〔実験例2〕
検知電極1(1a,1b)を備える電極ユニット20(20a,20b)と、差動増幅ユニット3との距離を100cmにしたこと以外は実験例1と同様に実験を行なった。結果を図5に示す。なお、図5に示す結果は、いわゆるデジタル処理前の生信号の結果である。また、S/N=7dB~8dBであった。
【0051】
図5によれば、検知電極を備える電極ユニットと差動増幅ユニットとの距離が30cmである実験例1は、実験例2に比べノイズが少ないことが示された。すなわち、この生信号の結果が、ノイズの影響が低減されたものであれば、この生信号を用いて信号制御ユニットでデジタル処理・制御し、取得される生体情報についても、ノイズの影響が低減され高い精度のものとなるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の装置は、簡易に設置可能で、入浴者の被監視感や圧迫感を低減すると共に、高い計測精度の生体情報を計測することのできるので、医療やヘルスケア等の分野において、健康維持及び疾病予防(未病予測)等を目的として自己管理するシステムとして極めて有用である。また、取得された生体情報に基づいて、浴槽内の湯を排水するよう循環ポンプや排水溝を制御することができるので、水没事故等を防止するための監視システムとして極めて有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 検知電極
2 基準電極
3 差動増幅ユニット
4 信号制御ユニット
5 表示ユニット
6 接続ケーブル
7 浴槽本体
7a 内壁面
7b 対向する面
10 浴槽生体情報計測装置
11 絶縁シート
12 アクティブシールド
14a 信号ピン
14b 信号ケーブル
15 電磁シールドケース
16 バッファアンプ
16a バッファアンプ基板16a
16b バッファアンプIC16b
20 電極ユニット

図1
図2
図3
図4
図5