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  • 特開-液浸冷却装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073716
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】液浸冷却装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20240523BHJP
   H05K 7/14 20060101ALI20240523BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
H05K7/20 N
H05K7/14 D
H01L23/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184567
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100088959
【弁理士】
【氏名又は名称】境 廣巳
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】対馬 雅明
(72)【発明者】
【氏名】持田 則彦
(72)【発明者】
【氏名】川崎 公平
【テーマコード(参考)】
5E322
5E348
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA09
5E322AB04
5E322DB01
5E322DB06
5E322EA11
5E348AA11
5E348AA12
5E348AA32
5F136CB01
(57)【要約】
【課題】高い冷却効率および振動絶縁を達成できる小型で信頼性の高い液浸冷却装置を提供する。
【解決手段】電子機器201を冷媒Cにより液浸冷却するための液浸冷却装置10は、冷媒を収容する圧力容器100と、圧力容器の内壁に取り付けられ圧力容器内に配置された電子機器を冷媒に浸漬した状態で支持する弾性支持部材202と、からなる。弾性支持部材202はミリメートル単位の変形を許容する硬さを有し、圧力容器の振動をより低い周波数の振動に変換して電子機器に伝達する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器を冷媒により液浸冷却するための液浸冷却装置であって、
前記冷媒を収容する圧力容器と、
前記圧力容器の内壁に取り付けられ、前記圧力容器内に配置された前記電子機器を前記冷媒に浸漬した状態で支持する弾性支持部材と、
からなることを特徴とする液浸冷却装置。
【請求項2】
前記弾性支持部材が10mm未満の変形を許容する硬さを有することを特徴とする請求項1に記載の液浸冷却装置。
【請求項3】
前記弾性支持部材がばね定数10N/mm以下の硬さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の液浸冷却装置。
【請求項4】
前記弾性支持部材が前記圧力容器の振動をより低い周波数の振動に変換して前記電子機器に伝達することを特徴とする請求項1または2に記載の液浸冷却装置。
【請求項5】
前記弾性部材が高分子材料をベースにした柔軟材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の液浸冷却装置。
【請求項6】
前記冷媒が前記圧力容器内で流動する強制液流生成器を更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の液浸冷却装置。
【請求項7】
前記圧力容器が直方体形状を有し、その底面に前記電子機器が前記弾性支持部材挟んで支持されたことを特徴とする請求項1または2に記載の液浸冷却装置。
【請求項8】
前記圧力容器の天板に前記冷媒の流入口と流出口とが設けられ、前記冷媒が前記電子機器上を流動することを特徴とする請求項7に記載の液浸冷却装置。
【請求項9】
前記圧力容器が円柱形状を有し、前記圧力容器に固定された支持ビームに前記電子機器が前記弾性支持部材により接続されたことを特徴とする請求項1または2に記載の液浸冷却装置。
【請求項10】
前記円柱形状の一方の底面に、あるいは対向する底面のそれぞれに、前記冷媒の流入口と流出口が設けられたことを特徴とする請求項9に記載の液浸冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子機器を内部に収容し液浸冷却するための液浸冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ等の電子装置を冷却する方法として電子装置自体を冷媒槽内に浸して冷却する液浸冷却が注目されている(特許文献1および2を参照)。電子機器は冷媒により取り巻かれているために効率的な冷却が可能となり、さらに冷媒槽および冷媒により外部環境からの効果的な保護が可能となる。
【0003】
他方、このような冷却を必要とする電子機器がロケットに搭載されると、打ち上げ時に強い振動環境に置かれる。このような振動に対する耐性を備えるためには、冷却手段だけでなく防振手段も必要である。この観点から、特許文献3は放熱機能を備えた防振装置を提案している。この防振装置によれば、弾性変形可能な容器に冷媒を満たし、この冷媒に接触した状態で電子部品等の発熱体を配置する。冷媒は容器の変形により流動が促され、発熱体の熱を輸送する。さらに電子部品等への振動衝撃は容器が変形することで緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6720752号公報
【特許文献2】米国特許第9750159B2号明細書
【特許文献3】特開2000-349214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に開示された液浸冷却装置は地上での通常使用を前提とした冷却方式であり、ロケットで打ち上げる時の大きな振動環境を想定していない。このために大きな振動環境下では電子機器の基板の歪みや損傷が生じる可能性が高くなり、信頼性が低下する。
【0006】
また特許文献3に開示された防振装置では、冷媒を満たす容器自体が弾性変形可能な材料で形成される必要がある。このために、温度、圧力、振動等が通常範囲外の過酷な環境の場合、電子機器を保護するための耐環境性強化(ラギダイズ)対策を別途考慮する必要がある。さらに容器の膨張変形を考慮したスペースを確保する必要もあるために装置の小型化が困難となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高い冷却効率および振動絶縁を達成できる小型で信頼性の高い液浸冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、電子機器を冷媒により液浸冷却するための液浸冷却装置であって、前記冷媒を収容する圧力容器と、前記圧力容器の内壁に取り付けられ、前記圧力容器内に配置された前記電子機器を前記冷媒に浸漬した状態で支持する弾性支持部材と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い冷却効率および振動絶縁を達成できる小型で信頼性の高い液浸冷却装置を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の第1実施形態による液浸冷却装置の一例を示す模式的な分解斜視図である。
図2図2図1に示す液浸冷却装置の概略的構成を例示する側面断面図である。
図3図3は第1実施形態による液浸冷却装置の振動絶縁を説明するための振動伝達率を示すグラフである。
図4図4は本発明の第2実施形態による液浸冷却装置の一例を示す模式的な断面構成図である。
図5図5図4に示す液浸冷却装置のI-I線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態の概要>
本発明の一実施形態によれば、圧力容器内の冷媒に浸漬した電子機器が圧力容器の内壁に取り付けられた弾性支持部材により支持される。冷媒により高い冷却効率が得られ、かつ弾性支持部材により振動絶縁および耐振性を達成できるので、液浸冷却装置の構造を簡略化でき、小型化および高い信頼性を達成できる。特に宇宙機に搭載される場合、打ち上げ時の振動環境(正弦波振動、ランダム振動、衝撃振動)に耐えることが可能となる。
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素、その形状、寸法および寸法の比率、並びに配置は本実施形態を説明するための例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0013】
1.第1実施形態
図1および図2に例示するように、液浸冷却装置10は搭載パネル20に固定される。搭載パネル20はたとえば宇宙機本体の放熱板に熱的に結合されている。本実施形態による液浸冷却装置10は箱形状を有する圧力容器100を有し、圧力容器100は底面に底板101を有し、上端部に取付フランジ102を有する。圧力容器100は例えばアルミニウム等の堅牢な材料により構成される。圧力容器100内には内部搭載機器200が絶縁性のある液体(冷媒C)に浸漬した状態で搭載される。圧力容器100の側面にはハーメチック端子103が設けられ、ハーメチック端子103が図示しない配線機構により内部搭載機器200と電気的に接続されている。
【0014】
ただし、内部搭載機器200は複数個配置されてもよい。たとえば複数の電子機器、冷媒を強制循環させる流動生成器などの搭載も可能である。ここでは簡略化のために電子機器として1つの内部搭載機器200が図示されている。また冷媒Cは圧力容器100内に満たされてもよいし、空間を残して充填されてもよい。
【0015】
圧力容器100の取り付けフランジ102にはOリング104を介して天板300が固定ネジ301により密着固定される。天板300には冷媒Cを流入あるいは流出させるための開閉口302および303が設けられている。なお、冷媒Cを循環させる場合には、開閉口ではなく冷媒流入口302および流出口303であってもよい。
【0016】
内部搭載機器200は、電子機器が構成された回路基板201と、回路基板201を支持する複数の弾性支持部材202と、各弾性支持部材202の底面に設けられた取付部203と、含む。取付部203は固定ネジ204によって圧力容器100の底板101に固定される。これにより回路基板201は弾性支持部材202を介して圧力容器100の底板101に取り付けられる。
【0017】
回路基板201からの熱は冷媒Cにより外部へ熱輸送されるので、回路基板201を支持する支持体は熱輸送を考慮する必要がない。本実施形態では、弾性支持部材202が高分子材料をベースに形成され得る。たとえばシリコンゴムやウレタンゴムを弾性支持部材202の材料として採用できる。弾性支持部材202はミリメートル単位の変形を許容する硬さ、形状およびサイズを有する。ここで、ミリメートル単位の変形とは10mm未満の変形であり、硬さはばね定数として10N/mm以下のオーダである。
【0018】
弾性支持部材202の形状は、たとえば円柱形状あるいは円錐台形状等の柱形状であり、所定の断面面積および高さを有する。弾性支持部材202の上面は回路基板201に固定され、底面は取付部203が固定されている。ここでは、矩形の回路基板201の四隅がそれそれ円錐台形状の弾性支持部材202により安定的且つ柔軟に支持されている。回路基板201は所定の高さを有する弾性支持部材202に支持されることで、圧力容器100の底板101の内面から所定距離だけ離れた位置に配置される。これにより冷媒Cが回路基板201の両サイドを流動しやすくなり、冷却効果を向上させる。なお、回路基板201上に放熱フィンを設けてもよい。
【0019】
弾性支持部材202が弾性変形することにより圧力容器100の振動(すなわち搭載パネル20の振動)が減衰および長周期化して内部搭載機器200に伝達し、以下に述べるように振動絶縁効果が得られる。
【0020】
図3に示すように、一般に、防振効果を得るには振動数比f/fに対する振動伝達率が1未満になる必要がある。すなわち防振効果領域400で示すように、振動数比f/f>√2であることが必要であり、振動数比f/fが大きいほど防振効果が高い。ここで、fは搭載パネル20の振動数(振動源の振動数)、fは弾性支持部材202で支持された内部搭載機器200の共振振動数である。なお振動環境としては、正弦波振動が5~100HZとして、、ランダム振動が20~2000Hz、衝撃振動が100~4000Hzにそれぞれ規定される。
【0021】
図3において、振動数比f/fが大きいほど防振効果が高いので、共振周波数fを低い周波数に移行させることにより防振効果領域400を広げることができる。共振周波数fを低い周波数へ移行するには、弾性支持部材202の硬度、すなわちバネ定数を支持部材として機能する程度に小さくすればよい。また、内部搭載機器200が冷媒Cに浸されることで、回路基板201が冷媒Cの抵抗により変形しにくくなり、結果的に基板の銅箔パターンや実装電子部品に対するストレスを低減できる。このように柔軟な弾性支持部材202により回路基板101を支持することで、たとえば100Hz以上の高周波振動帯で発生する回路基板101の微小振動を長周期の振動に変換することができ、振動環境を緩和できる。
【0022】
以上述べたように、冷媒Cおよび内部搭載機器200を収容した圧力容器100は密閉され、電子機器を形成する回路基板201は柔軟な弾性支持部材202により冷媒Cに浸漬した状態で支持される。弾性支持部材202が介在することで共振周波数を低い周波数へ移行することができ振動絶縁および耐振性を達成できる。また回路基板201は圧力容器100の内壁から弾性支持部材202の高さ分だけ離れた状態で配置されるために、冷媒Cによる冷却効率を向上させることができる。
【0023】
液浸冷却装置10を宇宙機に搭載する場合であっても、弾性支持部材202を設けることで、打ち上げ時の振動を絶縁することができ、液浸冷却装置の簡略化および小型化だけでなく、高い信頼性を達成できる。
【0024】
2.第2実施形態
本発明は上記第1実施形態に限定されるものではなく、以下に述べるように冷媒Cを流動させる手段を設けることもできる。冷媒を強制流動させることで、無重力環境であっても電子機器の効率的冷却が可能となる。
【0025】
図4および図5に例示するように、本発明の第2実施形態による液浸冷却装置11は円筒形状を有する圧力容器401を有する。圧力容器401の一方の底面には冷媒出口402と冷媒入口403とが設けられ、冷媒出口402および冷媒入口403が凝縮部404に接続されている。凝縮部404は圧力容器401から流出した冷媒Cを熱交換し、放熱された冷媒Cを圧力容器401へ強制的に流入させることができる。
【0026】
圧力容器401の内部空間には、対抗側面の間で直径方向に2本のビーム411が設けられ、その上に上述した弾性支持部材202を介して電子機器が取り付けられている。電子機器は、上述したように回路基板上に構成された半導体回路からなり、特に発熱源となるCPU等を含む。冷媒Cは、冷媒入口403から圧力容器401に流入し、電子機器の周囲を流動して冷媒出口402から流出する。
【0027】
圧力容器401は取付台412により搭載パネル20に固定されている。したがって搭載パネル20の振動は圧力容器401およびビーム411を通して弾性支持部材202に伝達される。伝達した振動は、上述したように弾性支持部材202の弾性変形により減衰し長周期の振動に変換される。
【0028】
なお、冷媒出口402と冷媒入口403とは圧力容器401の対向する底面にそれぞれ設けられてもよい。また冷媒Cを強制的に流動させる凝縮部404を設置せずに、圧力容器401内に水中ファン等の強制流動生成器を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は宇宙機搭載用の液浸冷却装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
10、11 液浸冷却装置
100 圧力容器
101 底板
102 取付フランジ
103 ハーメチック端子
104 Oリング
200 内部搭載機器
201 回路基板
202 弾性支持部材
203 取付部
300 天板
302、303 注入口
401 圧力容器
402 冷媒流出口
403 冷媒流入口
404 凝縮部
411 支持ビーム

図1
図2
図3
図4
図5