(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073723
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】冷却構造
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20240523BHJP
B23K 11/36 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
B23K11/30
B23K11/36 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184583
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】今本 和伸
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、高温部の温度に応じて冷媒の流量を調節できる冷却構造を提供する。
【解決手段】溶接機の高温部に近接された第一管路と、前記第一管路の内部に配置された第二管路とを備え、前記第二管路は、前記第二管路の外周面と前記第一管路の内周面との隙間に冷媒を供給する開口部を備え、前記第二管路における少なくとも前記開口部を含む部分は、前記隙間における前記冷媒の温度に応じて変形する材料によって構成され、前記開口部の開口面積が、前記隙間における前記冷媒の温度に応じて変化する、冷却構造。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接機の高温部に近接された第一管路と、
前記第一管路の内部に配置された第二管路とを備え、
前記第二管路は、前記第二管路の外周面と前記第一管路の内周面との隙間に冷媒を供給する開口部を備え、
前記第二管路における少なくとも前記開口部を含む部分は、前記隙間における前記冷媒の温度に応じて変形する材料によって構成され、
前記開口部の開口面積が、前記隙間における前記冷媒の温度に応じて変化する、
冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接機の高温部を冷却する冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2は、スポット溶接機における電極チップを冷却する冷却構造を開示する。電極チップは、溶接機が使用される際に高温となる高温部である。冷却構造は、電極チップに近接するシャンクと、シャンクの内部に配置される給水管とを備える。給水管の端部からシャンク内に供給された冷却水は、給水管の外周面とシャンクの内周面との隙間を通ってシャンク外に排出される。冷却水は高温部を冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2-133179号公報
【特許文献2】実開平3-70873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接機は通常、複数の高温部を有する。例えばスポット溶接機は、溶接対象を挟み込む二つの電極チップと、電極チップに電力を供給するトランスとを備える。二つの電極チップとトランスは高温部に相当する。これら高温部のそれぞれに冷却構造が配置されている。複数の冷却構造のそれぞれには、冷媒を供給する一つの主管から分岐した複数の分岐路のそれぞれがつながっている。このような構成において、例えば電極チップAの温度が高くなり過ぎると、溶接された箇所の品質が低下する恐れがある。高温の電極チップAの温度を下げるために主管全体の流量を増加させると、電極チップAよりも低温の電極チップBの温度が下がり過ぎる恐れがある。従って、各冷却構造において、高温部の温度に応じて冷媒の流量を調整する構成が望まれている。しかし、電極チップの温度を測定する温度センサを配置して、温度センサの測定結果に基づいて冷媒の流量を調整すると、冷却構造が複雑化し、冷却構造のコストが増加する。
【0005】
本発明の目的の一つは、簡単な構成で、高温部の温度に応じて冷媒の流量を調節できる冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る冷却構造は、
溶接機の高温部に近接された第一管路と、
前記第一管路の内部に配置された第二管路とを備え、
前記第二管路は、前記第二管路の外周面と前記第一管路の内周面との隙間に冷媒を供給する開口部を備え、
前記第二管路における少なくとも前記開口部を含む部分は、前記隙間における前記冷媒の温度に応じて変形する材料によって構成され、
前記開口部の開口面積が、前記隙間における前記冷媒の温度に応じて変化する。
【発明の効果】
【0007】
上記冷却構造では、発熱部を冷却した冷媒の温度に応じて、発熱部に冷媒を供給する第二管路の開口端の開口面積が変化する。そのため、発熱部が冷媒によって適切に冷却される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1に記載される溶接機の概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に記載される冷却構造の概略説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に記載される第二管路の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、実施形態2に記載される第二管路の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、実施形態3に記載される第二管路の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の冷却構造の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法を表すものではない。なお、本発明は以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0010】
<実施形態1>
図1に示される溶接機1は、スポット溶接を行う溶接機である。この溶接機1は、二つの電極2,3とトランス4と供給管6と排出管7とを備える。電極2,3の先端には電極チップ20,30が配置されている。電極チップ20,30は、溶接機1の使用時に高温となる高温部10である。トランス4は、電極チップ20,30に電力を供給する。トランス4も溶接機1の使用時に高温となる高温部10の一つである。
図1では供給管6と排出管7は太線矢印で示されている。供給管6は各高温部10に冷媒を供給する。供給管6は、主管60と、主管60から分岐する複数の分岐管61,62,63とを備える。分岐管61と分岐管62と分岐管63はそれぞれ、トランス4と電極2と電極3につながっている。排出管7は、各高温部10を冷却した冷媒を排出する。排出管7は、複数の分岐管71,72,73と、集合管70とを備える。分岐管71と分岐管72と分岐管73はそれぞれ、トランス4と電極2と電極3につながっている。各分岐管71,72,73の冷媒は集合管70に流れ込み、集合管70を通って溶接機1の外部に排出される。主管60と集合管70は図示しない冷却装置につながれている。集合管70から排出された冷媒は、冷却装置によって冷やされ、再び主管60から高温部10に向けて供給される。つまり、冷媒は、溶接機1と冷却装置との間を循環している。
【0011】
溶接機1の構成にもよるが、分岐管61,62,63の長さが大きく異なる場合がある。本例の溶接機1では、電極2に冷媒を供給する分岐管62が、電極3に冷媒を供給する分岐管63よりも長い。そのため、分岐管63よりも分岐管62に冷媒が流れ難い。溶接機1の使用時に電極チップ20,30が高温になったとき、電極チップ20が冷却され難い。従って、本例の溶接機1では、電極チップ20の温度に応じて電極2に供給される冷媒の量を増加させることができる冷却構造5が電極2に適用されている。
【0012】
図2は、冷却構造5を備える電極2の部分断面図である。
図2の左図は、通常時の冷却構造5の状態を示し、右図は電極チップ20が所定温度以上になったときの冷却構造5の状態を示す。
図2に示されるように、冷却構造5は第一管路8と第二管路9とを備える。
【0013】
本例の第一管路8は電極チップ20を支持するシャンクである。第一管路8は、高温部10である電極チップ20によって封止される第一端81を備える。つまり、電極チップ20の一部が、第一管路8の第一端81を封止する封止部82として機能する。本例の第一管路8は直管であるが、曲管であっても良い。
【0014】
第二管路9は、第一管路8の内部に配置される。第二管路9は、封止部82に向き合う開口部91を備える。第二管路9は、
図1の分岐管62につながっている。太破線の矢印で示されるように分岐管62から第二管路9に供給された冷媒は、開口部91から封止部82に向かって供給される。本例の開口部91は、第二管路9の開口端92によって構成されている。冷媒は、封止部82を含む電極チップ20を冷却する。開口部91から供給された冷媒は、太線矢印で示されるように、第二管路9の外周面90と第一管路8の内周面80との隙間50を通って、電極2外に排出される。隙間50は、
図1の分岐管72につながっている。
【0015】
第二管路9における少なくとも開口部91を含む部分は、隙間50における冷媒の温度に応じて変形する材料によって構成されている。本例では第二管路9の全体が、温度が高くなると内径が大きくなり、温度が小さくなると内径が小さくなるように構成されている。
【0016】
第二管路9の具体的な構成の一例を
図3に示す。第二管路9は、柔軟性を有する管状部材95と、編目構造を有する筒状の骨格部材96とを備える。管状部材95は例えばソフトビニル系樹脂によって構成されている。骨格部材96は例えば形状記憶合金によって構成されている。本例の骨格部材96の形状はステント形状である。骨格部材96の形状は金網形状でも良い。骨格部材96は、管状部材95の外周に接着しており、隙間50の冷媒に接触し易い。そのため、隙間50の冷媒の温度に応じて、第二管路9の内径が大きくなり易い。本例とは異なり、骨格部材96は、管状部材95の内周に接着していても良いし、管状部材95の内部に埋め込まれていても良い。
【0017】
形状記憶合金からなる骨格部材96は、例えば60℃以上の温度で骨格部材96の内径が大きくなるように変形する。
図2の左図に示されるように、第二管路9の外周面90は、電極チップ20によって温められた冷媒に接触している。その冷媒の温度が形状記憶合金の変形温度に達したとき、
図2の右図に示されるように、第二管路9の外径および内径が大きくなる。第二管路9の内径の変化に伴い、第二管路9の開口部91の開口面積が大きくなる。その結果、開口部91から隙間50への冷媒の供給量が増加し、電極チップ20が効果的に冷却される。本例では、第二管路9の端部を斜めにカットすることで開口部91が形成されている。そのため、第二管路9の内径の変化量に比べて、開口部91の開口面積の変化量が大きい。
【0018】
冷媒の温度が形状記憶合金の変形温度を下回ると、骨格部材96は変形前の形状に戻る。その結果、
図2の左図に示されるように、第二管路9の外径および内径が小さくなり、開口部91の開口面積も小さくなる。その結果、隙間50への冷媒の供給量が減少し、電極チップ20が過剰に冷却されることが抑制される。
【0019】
形状記憶合金は二方向性を有していても良い。二方向性を有する形状記憶合金は、高温時の形状と低温時の形状の二つの形状を記憶する形状記憶合金である。この場合、基準温度範囲よりも冷媒が高温になったときに、第二管路9の外径および内径が、基準温度範囲における第二管路9の外径および内径よりも大きくなる。基準温度範囲よりも冷媒が低温になったときに、第二管路9の外径および内径が、基準温度範囲における第二管路9の外径および内径よりも小さくなる。冷媒の温度に応じて隙間50に供給される冷媒の量を微調整し易い。
【0020】
本例の冷却構造5では、冷媒の温度を測定する温度センサも、温度センサの測定結果に基づいて電極2における冷媒の流量を局所的に増減する機構も必要としない。また、本例の冷却構造5の構成によれば、既存の冷却構造の第二管路を、本例の第二管路9に置換することで、本例の冷却構造5と同様の効果を得られる可能性がある。
【0021】
<実施形態2>
実施形態2では、実施形態1と異なる第二管路9の開口部91の構成を
図4に基づいて説明する。
【0022】
図4は、第二管路9の端部の拡大図である。本例の第二管路9は、開口端92と複数のスリット93とで構成される開口部91を備える。スリット93は、第二管路9に周面に形成されている。各スリット93は、開口端92から第二管路9の長さに沿って延びている。複数のスリット93は、第二管路9の軸の回りに並列に配置されている。第二管路9の外径および内径が大きくなると、開口端92が大きくなると共に、スリット93の幅が開く。その際、第二管路9の開口端92がラッパ状に広がる。その結果、開口部91の開口面積が増加する。スリット93は、冷媒の温度が低いとき、閉じていても良い。
【0023】
<実施形態3>
実施形態3では、実施形態1,2と異なる第二管路9の開口部91の構成を
図5に基づいて説明する。
【0024】
図5は、第二管路9の端部の拡大図である。本例の第二管路9は、開口端92と複数の開口孔94とで構成される開口部91を備える。開口孔94は、第二管路9の周面における開口端92の近傍に形成されている。第二管路9の外径および内径が大きくなると、開口端92および開口孔94が大きくなる。その結果、開口部91の開口面積が増加する。
【0025】
本例とは異なり、開口部91は開口孔94のみで構成されていても良い。その場合、第二管路9の端部は壁部によって封止される。壁部にさらに開口孔94が形成されていても良い。
【0026】
<その他の実施形態>
本例の冷却構造5は、トランス4を冷却することにも利用できる。例えばトランス4の外周面に沿うように第一管路8を配置しても良い。その場合、高温部10であるトランス4の外周面に第一管路8の外周面が近接される。
【0027】
本例の冷却構造5が適用される溶接機は、スポット溶接機に限定されない。例えば、溶接機はアーク溶接機でも良い。この場合、本例の冷却構造は例えば、アーク溶接機のノズルに設けられる。
【符号の説明】
【0028】
1 溶接機
10 高温部
2,3 電極
20,30 電極チップ
4 トランス
5 冷却構造
50 隙間
6 供給管
60 主管、61,62,63 分岐管
7 排出管
70 集合管、71,72,73 分岐管
8 第一管路
80 内周面、81 第一端、82 封止部
9 第二管路
90 外周面、91 開口部、92 開口端、93 スリット
94 開口孔、95 管状部材、96 骨格部材