(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073748
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物、並びにそれを用いた印刷電極及び電気化学センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20240523BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20240523BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
G01N27/30 B
G01N27/327 353Z
G01N27/416 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184618
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515230372
【氏名又は名称】学校法人智香寺学園埼玉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 千穂
(72)【発明者】
【氏名】高村 直宏
(72)【発明者】
【氏名】竹田 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 修
(57)【要約】
【課題】基材への密着性に優れる電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係る電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物は、カーボン粒子と、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と、水系ウレタン樹脂とを含む。実施形態に係る印刷電極は、該電極印刷用インキ組成物により作製されたものである。実施形態に係る電気化学センサは、該印刷電極を備えるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子と、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と、水系ウレタン樹脂とを含む、電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の含有量が固形分比率で1~40質量%である、請求項1に記載の電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
【請求項3】
前記水系ウレタン樹脂の含有量が固形分比率で1~40質量%である、請求項1に記載の電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
【請求項4】
カーボンナノチューブを更に含み、前記カーボンナノチューブの含有量が固形分比率で0.1~10質量%である、請求項1に記載の電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
【請求項5】
前記カーボン粒子の含有量が固形分比率で50質量%以上である、請求項1に記載の電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電極印刷用インキ組成物により作製された印刷電極。
【請求項7】
請求項6に記載の印刷電極を備える電気化学センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学センサの電極を形成するために用いられる電極印刷用インキ組成物に関し、また、それを用いて作製した印刷電極、及び電気化学センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学センサは、酸化還元電位を利用して状態を電気信号に変換するセンサである。電気化学センサの一例として、例えば、バイオセンサは、酵素や抗体などの生体分子を検知素子として、その優れた分子認識能力を利用して測定対象物質を選択的に計測するセンサであり、電極上に担持された検知素子である生体分子が、測定対象物質を分子認識することにより生じる電気的信号を電極により検出し、これにより測定対象物質の計測がなされる。
【0003】
特許文献1には、絶縁性基板上に設けた電極の表面に、酸化還元酵素を含む酵素層を設け、その上に電子受容体層を設けたバイオセンサが開示されている。特許文献1において、電極は、絶縁性基板上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷し、乾燥することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気化学センサの電極、とりわけ印刷により形成される印刷電極には、電極としての基本性能である導電性だけでなく、樹脂基材のような絶縁性の基材に対する密着性が要求される。しかしながら、従来、電気化学センサの印刷電極を形成するために用いられる電極印刷用インキ組成物は、基材への密着性が劣るという問題があった。
【0006】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑みてなされたものであり、基材への密着性に優れる電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] カーボン粒子と、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と、水系ウレタン樹脂とを含む、電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
[2] 前記カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の含有量が固形分比率で1~40質量%である、[1]に記載の電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
[3] 前記水系ウレタン樹脂の含有量が固形分比率で1~40質量%である、[1]又は[2]に記載の電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
[4] カーボンナノチューブを更に含み、前記カーボンナノチューブの含有量が固形分比率で0.1~10質量%である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
[5] 前記カーボン粒子の含有量が固形分比率で50質量%以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載の電極印刷用インキ組成物により作製された印刷電極。
[7] [6]に記載の印刷電極を備える電気化学センサ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、基材への密着性に優れる電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る電気化学センサの印刷電極を示す平面図
【
図2】一実施形態に係る電気化学センサの断面模式図
【
図3】実施例1のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図4】実施例2のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図5】実施例3のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図6】実施例4のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図7】実施例5のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図8】実施例6のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図9】実施例7のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図10】実施例8のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図11】比較例3のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図12】比較例4のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【
図13】比較例5のサイクリックボルタンメトリー測定の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る電気化学センサ用電極印刷用インキ組成物(以下、単にインキ組成物ということがある。)は、(A)カーボン粒子、(B)カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩、(C)水系ウレタン樹脂、を含む。詳細には、インキ組成物は、(A)カーボン粒子の水系分散体であって、(A)カーボン粒子及び(E)水系媒体とともに、(B)カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と(C)水系ウレタン樹脂を含む、水系インキ組成物である。
【0011】
[(A)カーボン粒子]
カーボン粒子は、インキ組成物において導電材として配合されるものである。カーボン粒子としては、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックが好ましく用いられ、これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの中でも、導電性に優れることから、ケッチェンブラック及び/又はアセチレンブラックを用いることが好ましい。
【0012】
一実施形態において、例えばケッチェンブラック等のカーボン粒子を水系媒体に分散させたカーボン粒子の水系分散体を用いて、当該水系分散体をインキ組成物に配合してもよい。カーボン粒子の水系分散体は、分散剤を用いてカーボン粒子を水系媒体に分散させたものであり、分散剤の種類によりアニオン性の水系分散体と、ノニオン性の水系分散体と、カチオン性の水系分散体がある。これらの中でもアニオン性又はノニオン性が好ましく、インキ組成物の分散安定性の観点及び低粘度化が可能であることから、ノニオン性の水系分散体がより好ましい。
【0013】
[(B)カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩]
カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩(以下、CMCということがある。)は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部又は全部がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つものである。CMCは、インキ組成物中にて水系媒体に溶けて粘度調整剤として機能するとともに、印刷電極の基剤への密着性を向上することができる。
【0014】
CMCとしては、カルボキシ基(-COOH)を有するもの(即ち、カルボキシメチルセルロース)でもよく、カルボン酸塩の形態を持つもの(即ち、カルボキシメチルセルロース塩)でもよく、両者を併用してもよい。
【0015】
カルボキシメチルセルロースの塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩などの有機塩が挙げられる。これらの塩はいずれか1種のみ含まれてもよく、2種以上の塩が含まれてもよい。これらの中でもアルカリ金属塩が好ましく、より好ましくはナトリウム塩である。
【0016】
CMCのエーテル化度(即ち、グルコース残基に存在する3つの水酸基のうちカルボキシメチルエーテル基に置換された割合)は、特に限定されず、例えば0.55~1.00でもよく、0.60~0.85でもよく、0.65~0.80でもよい。本明細書において、CMCのエーテル化度は下記方法により測定される。
【0017】
(エーテル化度)
CMC0.6gを105℃で4時間乾燥する。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化する。灰化物を500mLビーカーに移し、水250mL及び0.05mol/Lの硫酸水溶液35mLを加えて30分間煮沸する。冷却後、過剰の酸を0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定する(指示薬としてフェノールフタレイン使用)。下記式よりエーテル化度を算出する。
式: (エーテル化度)=162×A/(10000-80A)
A=(af-bf1)/乾燥物の質量(g)-アルカリ度(または+酸度)
A:試料(上記乾燥物)1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/Lの硫酸水溶液の量(mL)
a:0.05mol/Lの硫酸水溶液の使用量(mL)
f:0.05mol/Lの硫酸水溶液の力価
b:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(mL)
f1:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の力価
162:無水グルコース(C6H10O5)の化学式量
80:カルボキシメチルナトリウム基-H原子差し引き(CH2COONa-H原子差し引き)の化学式量
アルカリ度は、試料(上記乾燥物)約1gを300mL三角フラスコに精密にはかりとり、水約200mLを加えて溶かす。これに0.05mol/L硫酸5mLをピペットで加え、10分間煮沸したのち冷却して、フェノールフタレイン指示薬を加え、0.1mol/L水酸化カリウムで滴定する(SmL)。同時に空試験を行い(BmL)、次の式によって算出した。
アルカリ度=(B-S)f1/乾燥物の質量(g)
(式中、f1:0.1mol/L水酸化カリウムの力価)
なお、(B-S)f1値が(-)のときにはアルカリ度を酸度と読み変える。
【0018】
[(C)水系ウレタン樹脂]
水系ウレタン樹脂は、水系媒体に分散させたポリウレタン樹脂である。水系ウレタン樹脂を配合することにより、印刷電極の基材への密着性を向上することができるとともに、例えばバイオセンサの印刷電極として用いたときに妨害物質の影響を抑制することができる。
【0019】
水系ウレタン樹脂としては、ノニオン性水系ウレタン樹脂、アニオン性水系ウレタン樹脂、カチオン性水系ウレタン樹脂等が挙げられる。これらはいずれか一種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0020】
ノニオン性水系ウレタン樹脂は、アニオン性基及びカチオン性基を有しない非電荷の水系ウレタン樹脂であり、水系媒体に分散可能なノニオン性ウレタン樹脂である。ノニオン性水系ウレタン樹脂としては、活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物と、有機ポリイソシアネートとを反応させることにより得られるものが挙げられる。例えば、(1)活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物、有機ポリイソシアネート、並びにモノアルコール又は多価アルコールのエチレンオキサイド単独もしくはエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物から、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーを水中に乳化後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、ノニオン性水系ウレタン樹脂の水系分散体が得られる。あるいは、(2)活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物、及び有機ポリイソシアネートからイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーを界面活性剤を用いて水中に乳化後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、ノニオン性水系ウレタン樹脂の水系分散体が得られる。
【0021】
ここで、活性水素基とは、イソシアネート基と反応する活性水素を含む基であり、例えばヒドロキシ基、一級アミノ基(-NH2)、二級アミノ基(-NHR)が挙げられる。
【0022】
上記活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物とは、分子内に活性水素基を2個以上有する化合物であり、ウレタン工業の分野において公知のものを使用することができる。例えば、分子末端又は分子内に2個以上のヒドロキシ基及び/又はアミノ基を有するものが挙げられる。好ましくは、分子末端に2個以上のヒドロキシ基を有するポリオール化合物である。
【0023】
活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ジブロモビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシエチルテレフタレート、ハイドロキノンジヒドロキシエチルエーテル、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール、それらのアルキレンオキサイド付加物、あるいは、該多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物又は多価カルボン酸エステルからのエステル化物、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブタジエンポリオール、ヒマシ油ポリオール、大豆油ポリオール、フッ素ポリオール、シリコンポリオール等のポリオール化合物やその変性体が挙げられる。該具体例としては、また、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン化合物、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン化合物、ピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン化合物、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジドのようなポリヒドラジド化合物等の多価アミン化合物が挙げられる。なお、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。これらの活性水素含有化合物はいずれか1種用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
有機ポリイソシアネートとしては、ウレタン工業の分野において公知のものを使用することができ、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートなどが挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0025】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらのポリイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体、ビュレット体、アロフェネート体、カルボジイミド体などを用いてもよい。また、これらの有機ポリイソシアネートは、いずれか1種用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
鎖伸張剤としての多価アミン化合物としては、上記の脂肪族ポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物、脂環式ポリアミン化合物、ポリヒドラジド化合物などが挙げられる。
【0027】
アニオン性水系ウレタン樹脂は、アニオン性基を有する水系ウレタン樹脂であり、水系媒体に分散可能なアニオン性ウレタン樹脂である。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等、及びこれらの塩が挙げられる。これらのアニオン性基は、いずれか1種又は2種以上組み合わせてもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
【0028】
アニオン性水系ウレタン樹脂としては、活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物と、有機ポリイソシアネートと、活性水素基及びアニオン性基を有する化合物とを反応させることにより得られるものが挙げられる。例えば、活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物、有機ポリイソシアネート、並びに、活性水素基及びアニオン性の塩形成基を有する化合物から、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーに塩形成剤を添加し、水中に乳化後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、アニオン性水系ウレタン樹脂の水系分散体が得られる。
【0029】
活性水素基及びアニオン性基を有する化合物としては、活性水素基とアニオン性の塩形成基を有する化合物として、例えば、グリコール酸、リンゴ酸、グリシン、アミノ安息香酸、アラニン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のヒドロキシ酸、アミノカルボン酸、多価ヒドロキシ酸類などのカルボキシ基を有する化合物、アミノエチルスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸等のアミノスルホン酸、ヒドロキシスルホン酸類等のスルホン酸基を有する化合物が挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。また、それに対応する塩形成剤としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの3級アミン化合物などが挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0030】
なお、アニオン性水系ウレタン樹脂の合成に用いられる、活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物、有機ポリイソシアネート、及び多価アミン化合物の詳細及び具体例については、ノニオン性水系ウレタン樹脂において上述したとおりである。
【0031】
カチオン性水系ウレタン樹脂は、カチオン性基を有する水系ウレタン樹脂であり、水系媒体に分散可能なカチオン性ウレタン樹脂である。カチオン性基としては、第四級アンモニウム基等が挙げられる。
【0032】
カチオン性水系ウレタン樹脂としては、活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物と、有機ポリイソシアネートと、活性水素基及びカチオン性基を有する化合物とを反応させることにより得られるものが挙げられる。例えば、活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物、有機ポリイソシアネート、並びに、活性水素基及びカチオン性の塩形成基を有する化合物から、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該プレポリマーに塩形成剤を添加し、水中に乳化後、多価アミン化合物や水で鎖伸長することにより、カチオン性水系ウレタン樹脂の水系分散体が得られる。
【0033】
活性水素基及びカチオン性基を有する化合物としては、活性水素基とカチオン性の塩形成基を有する化合物として、例えば、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミンなどのN-アルキルジアルカノールアミンなどが挙げられる。これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。また、それに対応する塩形成剤としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、アジピン酸、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、メチルクロライド、ベンジルクロライドなどの有機酸類、ギ酸、塩酸、燐酸、硝酸などの無機酸類、反応性ハロゲン原子を有する化合物が挙げられる。
【0034】
なお、カチオン性水系ウレタン樹脂の合成に用いられる、活性水素基数が2以上の活性水素含有化合物、有機ポリイソシアネート、及び多価アミン化合物の詳細及び具体例については、ノニオン性水系ウレタン樹脂において上述したとおりである。
【0035】
水系ウレタン樹脂としては、ノニオン性水系ウレタン樹脂及び/又はアニオン性水系ウレタン樹脂を用いることが好ましく、インキ組成物の分散安定性の観点から、より好ましくはノニオン性水系ウレタン樹脂を用いることである。一実施形態において、水系ウレタン樹脂としては、ポリオール(例えば、ポリエステルポリオールを含むポリオール)と、脂肪族及び/又は脂環式ポリイソシアネートとを反応させて得られるものであって、分子内に親水基としてポリオキシエチレン鎖を有するノニオン性水系ウレタン樹脂を用いてもよい。
【0036】
[(D)カーボンナノチューブ]
実施形態に係るインキ組成物には、上記の(A)カーボン粒子、(B)カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩、及び(C)水系ウレタン樹脂に加え、更に、カーボンナノチューブを配合してもよい。カーボンナノチューブを配合することにより、印刷電極の表面固有抵抗値を更に低減することができる。なお、カーボンナノチューブはアスペクトの大きい細長い材料であるため、(A)成分のカーボン粒子には含まれない。
【0037】
カーボンナノチューブは、炭素によって構成される六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層又は多層の同軸管状になった物質である。カーボンナノチューブとしては、単層の構造を持つ単層カーボンナノチューブ(SMCNT:シングルウォールカーボンナノチューブ)、多層の構造を持つ多層カーボンナノチューブ(MWCNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)が挙げられ、多層のうち特に2層のものを二層カーボンナノチューブ(DWCNT:ダブルウォールカーボンナノチューブ)といい、これらをいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0038】
カーボンナノチューブの製造方法としては、特に限定されず、例えば、触媒を用いる熱分解法、アーク放電法、レーザー蒸発法、及びHiPco法、CoMoCAT法等のCVD法等、公知の種々の製造方法により得られる。
【0039】
カーボンナノチューブの平均直径(繊維径)は、特に限定されず、例えば0.4~100nmでもよく、0.5~50nmでもよく、1~20nmでもよい。カーボンナノチューブの平均長さは、特に限定されず、例えば50nm~10mmでもよく、500nm~100μmでもよく、1~50μmでもよい。カーボンナノチューブのアスペクト比(即ち、平均直径に対する平均長さの比)は、例えば10以上でもよく、100以上でもよく、500以上でもよい。
【0040】
カーボンナノチューブの平均直径及び平均長さは、原子間力顕微鏡画像において、無作為に選択された50個のカーボンナノチューブの寸法を測定し、その相加平均をとることにより求めることができる。原子間力顕微鏡により測定できないmmオーダーの長さについてはマイクロスコープによる画像を用いて測定すればよい。
【0041】
[(E)水系媒体]
水系媒体とは、水を含む媒体であり、任意で水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールのほか、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、ピロリジン、2-ピロリドン、ジメチルアセトアミドなどの水と混和する有機溶剤が挙げられ、これらをいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0042】
水系媒体は、水単独、又は水を主成分とすることが好ましく、水系媒体100質量%に対する水の量は80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0043】
実施形態に係るインキ組成物は、上記の(A)~(C)成分又は(A)~(D)成分を、(E)成分の水系媒体とともに混合し、攪拌することにより調製することができる。(A)~(D)成分は、それぞれ予め水等の水系媒体に分散又は溶解させた水系分散体又は水溶液としておいてもよく、これら水系分散体又は水溶液を混合し、必要に応じて更に水系媒体を加えて濃度を調整することにより、実施形態に係る水系インキ組成物を調製してもよい。
【0044】
実施形態に係るインキ組成物において、(A)成分のカーボン粒子の含有量は、印刷電極の導電性を高める観点から、固形分比率で50質量%以上であることが好ましい。すなわち、インキ組成物の固形分を100質量%として、該固形分中のカーボン粒子の量が50質量%以上であることが好ましい。カーボン粒子の含有量は、より好ましくは60~98質量%であり、より好ましくは70~96質量%であり、更に好ましくは73~95質量%である。
【0045】
実施形態に係るインキ組成物において、(B)成分のCMCの含有量は、インキ組成物の粘度調整効果及び基材への密着性向上効果を高める観点から、固形分比率で1~40質量%であることが好ましい。CMCの含有量は、より好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは1.5~20質量%であり、更に好ましくは2~15質量%である。
【0046】
実施形態に係るインキ組成物において、(C)成分の水系ウレタン樹脂の含有量は、基材への密着性向上効果及び妨害物質の影響抑制効果を高める観点から、固形分比率で1~40質量%であることが好ましい。水系ウレタン樹脂の含有量は、より好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは1.5~20質量%であり、更に好ましくは2~15質量%である。
【0047】
実施形態に係るインキ組成物において、(D)成分のカーボンナノチューブを配合する場合、カーボンナノチューブの含有量は、印刷電極の表面固有抵抗値の低減効果を高める観点から、固形分比率で0.1~10質量%であることが好ましい。カーボンナノチューブの含有量は、より好ましくは0.3~5質量%であり、更に好ましくは0.5~3質量%である。
【0048】
ここで、固形分とは、インキ組成物の成分から水系媒体等の揮発する成分を除いたものをいい、不揮発分とも称される。そのため、固形分比率は、インキ組成物の固形分(不揮発分)100質量%のうち、(A)~(D)の各成分の固形分(不揮発分)が占める比率である。
【0049】
実施形態に係るインキ組成物の粘度は、特に限定されず、例えば、25℃での粘度が1~500Pa・sでもよく、2~400Pa・sでもよく、3~300Pa・sでもよい。
【0050】
実施形態に係るインキ組成物には、上記成分の他、例えば、分散剤、粘度調整剤、レベリング剤、乾燥防止剤、防腐剤、防カビ剤等の添加剤を、本実施形態の目的を損なわない範囲で加えてもよい。
【0051】
実施形態に係るインキ組成物は、電気化学センサの電極を印刷により形成するために用いられる。電気化学センサとは、酸化還元電位を利用して状態を電気信号に変換するセンサであり、バイオセンサ、化学センサ等が挙げられる。
【0052】
バイオセンサは、酵素や抗体などの生体分子を検知素子として、該生体分子の分子認識能力を利用して測定対象物質(目的物質)を選択的に計測するセンサである。電気化学的原理を用いたバイオセンサでは、電極上に担持された検知素子である生体分子が、測定対象物質を分子認識することにより生じる電気的信号(例えば酵素反応によって生じる電流)を電極により検出し、これにより測定対象物質の計測を行う。
【0053】
バイオセンサの測定対象物質としては、特に限定されず、例えば、体液を検体とする場合、体液中に存在するグルコース、乳酸、アセトン、イソプロパノール、エタノール、アセトアルデヒド、アンモニア、ノネナール、メチルメルカプタン、ニコチン等が挙げられる。ここで、体液とは、動物の体内に存在する液体である血液、リンパ液、組織液などの狭義の体液だけでなく、唾液、汗、尿などの体外に分泌される分泌液も含む広義の体液である。
【0054】
検知素子としての生体分子は、測定対象物質に対して分子認識能力を持つ物質であり、例えば、酵素、抗体などのタンパク質が挙げられ、測定対象物質に応じて選択し使用される。
【0055】
妨害物質としては、例えば、体液を検体とする場合、測定対象物質とともに体液中に含まれて、測定を阻害する物質が挙げられ、例えば、アスコルビン酸、尿酸などが挙げられる。
【0056】
実施形態に係るインキ組成物は基材上に印刷され、これにより印刷電極が形成される。基材としては、電気絶縁性の基材を用いることができ、例えば、樹脂基材、紙製の基材、ガラス製の基材等が挙げられる。基材の電気絶縁性は、印刷電極が形成される表面が電気絶縁性であればよく、必ずしも基材の全体が電気絶縁性であることを要しない。基材の形状は、特に限定されず、例えばフィルム状、板状等が挙げられる。樹脂基材の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が挙げられる。
【0057】
印刷方法としては、基材上に所定の形状(パターン)を持つ電極を形成することができれば特に限定されず、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、オフセット印刷等が挙げられる。インキ組成物を基材上に印刷し、乾燥することにより印刷電極が得られる。
【0058】
印刷電極の厚さは、特に限定されず、例えば1~100μmでもよく、5~50μmでもよい。
【0059】
基材上に形成される電極としては、電気化学センサの作用電極と対電極の組合せ、又は、作用電極と対電極と参照電極の組合せが挙げられ、これらが印刷によって所定のパターンに形成される。
【0060】
バイオセンサの場合、作用電極上に検知素子としての生体分子を含む検知素子層が形成されてもよい。生体分子として酵素を用いる場合、検知素子層には酵素とともに、キノン誘導体等の電子伝達物質(電子受容体、メディエータ)が含まれてもよい。生体分子や電子伝達物質は既知の方法で作用電極上に固定化してもよく、担体結合法、包括法、架橋法などを用いることができる。例えば、血清アルブミンとグルタルアルデヒドの混合物の架橋により生体分子と電子伝達物質を作用電極上に固定化することができる。
【0061】
図1は、一実施形態に係る電気化学センサであるバイオセンサ10の印刷電極を示す平面図であり、
図2は該バイオセンサ10の断面模式図である。基板12上には、印刷電極として作用電極14、対電極16及び参照電極18が所定のパターンにより形成されている。この例では、対電極16と参照電極18の間に作用電極14が配置されている。作用電極14、対電極16及び参照電極18には、電気化学測定装置に接続するための端子部14A,16A,18Aがそれぞれ設けられている。作用電極14上には、検知素子としての生体分子を含む検知素子層20が設けられている。
【0062】
一実施形態に係るバイオセンサにおいて、検体として血液を用いて血液中のグルコースを検出する場合(グルコースセンサの場合)、検知素子としての生体分子としてはグルコースに作用する酸化酵素又は脱水素酵素(すなわち、グルコースオキシダーゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼ)が用いられる。この場合、本実施形態に係るインキ組成物により形成した印刷電極であると、血液中に含まれる妨害物質であるアスコルビン酸や尿酸による影響を抑制しながら、目的物質であるグルコースを計測することができる。このようなバイオセンサは、糖尿病の検査に利用することができる。
【0063】
一実施形態に係るバイオセンサにおいて、検体として血液や汗を用いてこれら体液中の乳酸を検出する場合、検知素子としての生体分子としては乳酸に作用する酸化酵素又は脱水素酵素(すなわち、ラクテートオキシダーゼ又はラクテートデヒドロゲナーゼ)が用いられる。この場合、本実施形態に係るインキ組成物により形成した印刷電極であると、血液や汗に含まれる妨害物質であるアスコルビン酸や尿素による影響を抑制しながら、目的物質である乳酸を計測することができる。このようなバイオセンサは、脂肪の燃焼などの運動効果の測定に利用することができる。
【実施例0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されない。
【0065】
実施例及び比較例において使用した材料は以下のとおりである。
(カーボン粒子水分散体)
・CB-1:ライオンペーストW-310A(商品名)、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、固形分17.5質量%のケッチェンブラック水分散体、アニオン性。
・CB-2:ライオンペーストW-376R(商品名)、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、固形分12.5質量%のケッチェンブラック水分散体、ノニオン性。
【0066】
(CNT水分散体)
・CNT-1:TUBALL BATT SWCNT(商品名)、OCSiAl社製、固形分0.4質量%の単層カーボンナノチューブ水分散体、平均直径=1.6nm、平均長さ=5μm。
・CNT-2:MWCNT、TPR社製、固形分0.4質量%の多層カーボンナノチューブ水分散体、繊維径=5~12nm、長さ=2mm以下。
【0067】
(カルボキシメチルセルロースナトリウム)
・CMC-1:セロゲン7A(商品名)、第一工業製薬株式会社製、エーテル化度=0.75。
・CMC-2:セロゲンBSH-6(商品名)、第一工業製薬株式会社製、エーテル化度=0.70。
【0068】
(水系ウレタン樹脂)
・PU-1:スーパーフレックス500M(商品名)、第一工業製薬株式会社製、不揮発分45質量%のノニオン性ウレタン樹脂の水分散体。
【0069】
(SBR水分散体)
・SBR-1:BM-451B(商品名)、日本ゼオン株式会社製、固形分40質量%のスチレンブタジエンゴム水分散体。
【0070】
[実施例1~8,比較例1~5]
(検体の調製)
測定対象物質であるグルコース、妨害物質であるL-アスコルビン酸を、下記表1の濃度になるようにダルベッコリン酸緩衝生理食塩水に溶解し、検体1~6を作製した。
【表1】
【0071】
(インキ組成物の調製)
下記表2に示す配合に従い、所定の材料を混合してディスパーで分散することにより、インキ組成物を得た。なお、表2中の「水」としては純水を用いた。表2中の「固形分比率」は、インキ組成物の固形分100質量%における各成分の固形分の比率である。
【0072】
(粘度)
上記で調製したインキ組成物について、E型粘度計を用いて温度25℃、1rpmでインキ組成物を1mL使用して粘度を測定した。
【0073】
(基材への密着性)
基材として、PETフィルム、アクリル樹脂フィルム、TACフィルムを用いた。上記で調製したインキ組成物を基材に50μm厚で塗布し、80℃で10分間乾燥させることにより基材上に塗膜を形成した。塗膜に対してカッターナイフを用いて2mm間隔で素地まで達する縦横6本の格子状の切り込み(合計25マス)を入れ、セロハンテープを強く圧着させてから引き剥がし、塗膜の脱落の程度を目視で判定し、下記基準で評価した。
○:脱落が5マス未満
△:脱落が5マス以上
×:乾燥後、セロハンテープを圧着する前に、基材からの塗膜の浮き、剥がれ、脱落いずれかが発生した。
【0074】
(表面固有抵抗値)
上記で調製したインキ組成物を、PETフィルムに50μm厚で塗布し、80℃で10分間乾燥させることによりPETフィルム上に塗膜を形成した。該塗膜に対して、三菱化学株式会社製の抵抗率計「ロレスタGP」用いて、表面固有抵抗値(Ω/□)を測定した。なお、比較例1,2については、基材からの塗膜の剥離が大きく表面固有抵抗値を測定できなかった。
【0075】
(グルコースセンサの作製)
上記で調製したインキ組成物を、スクリーン印刷機でPET製基板に塗工し、80℃で10分間乾燥させて、厚さ10μmの作用電極、対電極、及び参照電極からなる印刷電極を得た。得られた印刷電極のうちの作用電極上に、0.5mg/mLグルコース脱水素酵素(富士フィルム和光純薬株式会社)と0.5mol/m31,2-ナフトキノンを1:1(質量比)にて混合した溶液を10μL滴下し、25℃で1時間乾燥させた。さらに、該酵素を付与した作用電極上に、10mg/mL牛血清アルブミンに0.2質量%グルタルアルデヒドを1:1(質量比)で混合した溶液を6μL滴下し、30℃で1時間乾燥させた。
【0076】
(サイクリックボルタンメトリー測定)
上記で作製したグルコースセンサを、表1に示す各検体1~6にそれぞれ浸漬させた。開始電圧を-0.3V、折り返し電圧を+0.8V、終了電圧を-0.3Vとし、0.01V/sの走査速度でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。酸化電流の変曲点の値を表2に示す。また、実施例1~8及び比較例3~5についてのサイクリックボルタンメトリー測定におけるグルコース濃度と酸化電流の変曲点との関係を
図3~13に示す。なお、比較例1,2については、基材からの塗膜の剥離が大きくサイクリックボルタンメトリー測定はできなかった。
【0077】
【0078】
表2に示すように、インキ組成物として単なるケッチェンブラック水分散体であるペーストを用いた比較例1では、基材への密着性に劣っていた。比較例2では、カーボン粒子に水系ウレタン樹脂を配合したが、水系ウレタン樹脂のみでは密着性の改善は認められなかった。カーボン粒子にCMCを配合した比較例3,4では、基材への密着性の改善が認められたが、その改善効果は不十分であった。また、表2及び
図11,12に示すように、比較例3,4では、検体が妨害物質であるアスコルビン酸を含む場合(妨害物質あり)、妨害物質なしの場合に比べて酸化電流の変曲点が高く、妨害物質の影響が大きかった。
【0079】
これに対し、カーボン粒子にCMCと水系ウレタン樹脂を配合した実施例1~8であると、PETフィルム、アクリル樹脂フィルム及びTACフィルムのいずれの基材に対しても良好な密着性が得られた。また、表2及び
図3~10に示すように、実施例1~8であると、グルコース濃度と酸化電流の変曲点が比例関係にあり、妨害物質の有無による違いはほとんど見られなかった。すなわち、妨害物質なしの場合と妨害物質ありの場合の線がほぼ一致していた。そのため、妨害物質であるアスコルビン酸の影響を抑制することができ、グルコースの正確な計測が可能であった。また、実施例7,8では、カーボンナノチューブを更に配合したことにより、実施例1~6に対して表面固有抵抗値を低減することができた。
【0080】
一方、水系ウレタン樹脂の代わりにSBR水分散体を用いた比較例5では、実施例1~8に比べて、基材に密着性に劣っていた。また、表2及び
図13に示すように、比較例5では、検体が妨害物質であるアスコルビン酸を含む場合、妨害物質なしの場合に比べて酸化電流の変曲点が高く、妨害物質の影響が大きかった。
【0081】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0082】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。