(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073761
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】樹脂吹付工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
E02D17/20 104B
E02D17/20 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184641
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518004185
【氏名又は名称】株式会社サーフェステクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡之
(72)【発明者】
【氏名】増田 健康
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DC03
(57)【要約】
【課題】 湧水を生じている吹付層(モルタル層:保護層)における湧水を樹脂吹付するべき箇所から法尻まで効率的に排水して、吹付工表面と樹脂層との境界に水が溜まる事態を防止し、吹付層の表層側に確実に樹脂層を積層(被覆)することが出来る樹脂吹付工法の提供。
【解決手段】 法面に吹付けられた吹付層の表層部に樹脂を吹き付けて樹脂層を積層する樹脂吹付工法において、吹付層の排水パイプ(W)設置個所或いは湧水箇所(GW)から法尻(SE)に亘って裏面排水材を配置する。及び/又は、吹付層の排水パイプ(W)設置個所或いは湧水箇所(GW)から法尻(SE)に亘って溝(例えばUカット)を形成し、当該溝は吹付層にのみ形成され、法面地山には到達していない。或いは、前記溝は裏面排水材で被覆されておらず、前記溝内に排水ホースを配置しても良い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に吹付けられた吹付層の表層部に樹脂を吹き付けて樹脂層を積層する樹脂吹付工法において、
吹付層の排水パイプ設置個所或いは湧水箇所から法尻に亘って裏面排水材を配置することを特徴とする樹脂吹付工法。
【請求項2】
法面に吹付けられた吹付層の表層部に樹脂を吹き付けて樹脂層を積層する樹脂吹付工法において、
吹付層の排水パイプ設置個所或いは湧水箇所から法尻に亘って溝を形成し、当該溝は吹付層にのみ形成され、法面地山には到達していないことを特徴とする樹脂吹付工法。
【請求項3】
前記溝の開口部は被覆材により被覆されている請求項2の樹脂吹付工法。
【請求項4】
前記被覆材は裏面排水材である請求項3の樹脂吹付工法。
【請求項5】
前記溝の開口部は被覆材によって被覆されておらず、前記溝内に排水ホースを配置する請求項2の樹脂吹付工法。
【請求項6】
修復するべき吹付層の背面地山に風化領域がない場合において、
修復するべき吹付層に剥離部及び幅数cmの貫通ひび割れが存在せず、補修するべき吹付層における表面含水率が10%未満の場合に請求項1~5の何れか1項の樹脂吹付工法が実施され、
修復するべき吹付層に剥離部或いは幅数cmの貫通ひび割れが存在するか、或いは、補修するべき吹付層における表面含水率が10%以上の場合には、繊維を包含する固化材を吹き付けて補修することを特徴とする法面補修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面に吹付けられたモルタルまたはコンクリートからなる保護層に発生する亀裂から雨水等の侵入を防止し、保護層の塩害や中性化等の劣化を抑制し、さらに、保護層が剥落するのを防止するための樹脂吹付工法に関する。
【背景技術】
【0002】
法面に吹付けられたモルタルから成る吹付層(保護層:モルタル層)の表面に樹脂を吹き付けて樹脂層を積層することによって、前記吹付層に発生した亀裂からの雨水等の侵入を防ぎ、前記吹付層の劣化を抑制し、モルタル片の剥落を防止する樹脂吹付工法が提案されている(特許文献1参照)。
樹脂吹付工は低コストで吹付層の補修を行うことが出来る有効な技術である。
【0003】
しかし、(吹付層に設置された排水パイプからの排水を含み)地山側からの湧水に対する処理が不適切な場合には、
図7で示す様に、吹付層B表面と吹き付けられた樹脂の層R(樹脂層)との境界に水Hが溜まり、樹脂層Rが膨出してしまう。そして、この様な樹脂層Rの膨出に起因して、広範囲に亘って樹脂層Rが吹付層Bから剥離してしまう恐れがある。
また、吹き付けられた樹脂により構成される樹脂の被膜は、水との親和性が高くないので、吹付層Bの表面における湧水対策が不十分な場合には、吹付により樹脂層Rを積層或いは被覆することが困難である。
【0004】
ここで、漏水が生じている吹付層に対して樹脂吹付工法を施工する場合において、漏水が生じている吹付層に対する有効な湧水対策は、従来では提案されておらず、現場毎に、施工者が対処しているのが実情であった。すなわち、従来技術では、漏水が生じている吹付層に対して樹脂吹付工法を実施する場合に、有効な湧水対策は提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、湧水を生じている吹付層(モルタル層:保護層)における湧水を樹脂吹付するべき箇所から法尻まで効率的に排水(導水)して、吹付工表面と樹脂層との境界に水(湧水)が溜まる事態を防止し、吹付層の表層側に確実に樹脂層を積層(或いは被覆)することが出来る樹脂吹付工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂吹付工法は、法面に吹付けられた吹付層(保護層:モルタル層)の表層部に樹脂を吹き付けて樹脂層を積層する樹脂吹付工法において、
吹付層の排水パイプ(W)設置個所或いは湧水箇所(GW:
図4参照)から法尻(SE:
図4参照)に亘って裏面排水材を配置することを特徴としている。
【0008】
或いは本発明の樹脂吹付工法は、法面に吹付けられた吹付層(保護層:モルタル層)の表層部に樹脂を吹き付けて樹脂層を積層する樹脂吹付工法において、
吹付層の排水パイプ(W)設置個所或いは湧水箇所(GW)から法尻(SE)に亘って、溝(10:例えば断面U字型のUカット)を形成し、当該溝は吹付層にのみ形成され、法面地山には到達していないことを特徴としている。
ここで、前記溝(10)の開口部を被覆材により被覆することが好ましい。
そして、前記被覆材は裏面排水材(20)であるのが好ましい。
本発明において、前記溝(10)の開口部は被覆材(例えば裏面排水材20)によって被覆されておらず、前記溝(10)内に排水ホース(40)を配置することが出来る。
【0009】
本発明の法面補修工法は、
修復するべき吹付層(B)の背面地山に風化領域がない場合において、
修復するべき吹付層(B)に剥離部及び幅数cmの貫通ひび割れが存在せず、補修するべき吹付層における表面含水率が10%未満の場合に(請求項1~5の何れか1項の)樹脂吹付工法が実施され、
修復するべき吹付層(B)に剥離部或いは幅数cmの貫通ひび割れが存在するか、或いは、補修するべき吹付層における表面含水率が10%以上の場合には、例えば繊維を包含する固化材(例えばモルタル)を吹き付けて補修する(繊維補強固化材吹付工法を実施する)ことを特徴としている。
【0010】
本発明において、施工時点において排水パイプ(W)が設置されておらず、或いは、湧水が生じていなくても、事前に水を誘導するため、排水パイプ(W)の設置予定箇所、或いは、湧水を生じる蓋然性が高い箇所に施工することが出来る。
換言すれば、本明細書における「吹付層の排水パイプ(W)設置個所或いは湧水箇所」なる文言は、現実に排水がされており、或いは、現実に湧水が生じている箇所(GW)のみならず、将来において排水パイプ(W)が設置され、或いは、将来において湧水が生じる可能性がある箇所を包含する文言である。
【発明の効果】
【0011】
上述の構成を具備する本発明によれば、吹付層の排水パイプ(W)設置個所或いは湧水箇所(GW:例えばクラック)から法尻(SE)に亘って裏面排水材を配置しているので、排水パイプ(W)の設置個所或いは湧水箇所(GW)から漏れ出る水を裏面排水材(20)内部に流下して、法尻(SE)で排出することが出来る。そのため、補修するべき吹付層(B)の表層部には水が溜まらず、吹付層(B)に樹脂を吹き付けた後、吹付層(B)と吹き付けられた樹脂の層との境界に水が溜まることが防止され、
図7を参照して上述した様に膨出してしまうことが防止される。また、樹脂を吹き付けるべき吹付層(B)の表面が濡れないので、吹き付けられた樹脂が吹付層(B)の表面から剥がれてしまうことが防止される。
【0012】
或いは本発明では、排水パイプ(W)の設置個所或いは湧水箇所(GW)からの湧水或いは漏水は、排水パイプ(W)の設置個所或いは湧水箇所(GW)から法尻(SE)に亘って形成された溝(10)により集水(導水)され、法尻(SE)で排水される。そのため、吹付層(B)の表面に排水或いは漏水が溜まってしまうことはなく、
図7を参照して説明した膨出が防止される。溝(10)による集水の結果、吹付層(B)の表面が濡れることが防止され、吹き付けられた樹脂が吹付層(B)の表面から剥がれてしまうことも防止される。
【0013】
そして本発明において、前記溝(10)の開口部を裏面排水材(20)で被覆すれば、排水パイプ(W)の設置個所或いは湧水箇所(GW)からの排水量或いは湧水量が、裏面排水材(20)の集水量よりも多くても、溝(10)により集水されるので、前記排水或いは湧水が裏面排水材(20)の外部に浸透して、吹付層(B)の表層部(表面)を濡らしてしまうことが防止される。前記排水量或いは湧水量が溝(10)の集水量よりも多い場合も同様に、裏面排水材(20)により集水され、溝(10)を形成した以外の領域を濡らしてしまうことが防止される。
或いは本発明において、前記溝(10)の開口部は被覆材(例えば裏面排水材20)によって被覆されておらず、前記溝(10)内に排水ホース(40)を配置すれば、排水するべき水は、溝(10)のみならず、その内部に配置された排水ホース(40)内を流過して法尻(SE)まで流れるので、排水効率が向上する。それと共に、前記溝(10)の開口部を例えば裏面排水材(20)の様な被覆材で被覆する場合に比較して、吹き付けられた樹脂は排水ホース(40)により遮断されて前記溝(10)内に浸入し難くなる。さらに、前記溝(10)内に吹き付けられた樹脂が浸入して前記溝(10)が樹脂で充填されたとしても、排水ホース(40)を介して、湧水箇所(GW)で生じた水は確実に法尻(SE)まで排出される。そのため、作業者は溝(10)内へ樹脂が浸入することを考慮せずに吹付作業を行うことが出来、吹付作業が容易となる。
【0014】
本発明の補修工法によれば、修復するべき吹付層(B)の背面地山に風化領域がない場合において、
修復するべき吹付層(B)に剥離部及び幅数cmの貫通ひび割れが存在せず、補修するべき吹付層における表面含水率が10%未満の場合に(請求項1~4の何れか1項の樹脂吹付工法が)実施され、
修復するべき吹付層(B)に剥離部或いは幅数cmの貫通ひび割れが存在するか、或いは、補修するべき吹付層における表面含水率が10%以上の場合には、例えば繊維を包含する固化材(例えばモルタル)を吹き付けて補修する(繊維補強固化材吹付工法を実施する)ので、施工現場の状況において必要とされる品質の補修を、余分なコストを費やすことなく施工することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態を施工した状態を示す縦断面図である。
【
図3】
図1、
図2で示す実施形態の施行手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図1~
図3の実施形態の変形例に係る樹脂吹付工法を施工した状態を示す説明断面図である。
【
図6】施工条件により適切な補修工を選択する態様を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
最初に
図1~
図3を参照して、本発明の実施形態を説明する。
図1において、法面G(背面地山)には、例えばモルタルの様な固化材が吹き付けられて積層した吹付層B(保護層:モルタル層)が形成されている。吹付層Bには排水パイプWが設置されており、法面Gの湧水を吹付層B上に排水している。排水パイプWは、その法面側端部(
図1では左端)が吹付層Bと概略面一となる様に配置される。ただし、排水パイプWは、その法面側端部が吹付層Bと面一ではない様に配置される場合も存在する。
【0017】
図1において、吹付層Bの排水パイプW設置個所から法尻SE(
図4参照)に亘って、例えばUカットの様な溝10が形成されている。ここで、溝10は例えばサンダーにより形成される。
排水パイプWから吹付層Bの表面側に排出された水は、溝10を通過して、法尻SEまで排水される。すなわち、排水パイプWから排出される水は溝10で集水され、法尻SEまで排出される。
【0018】
図2で示す様に、溝10は断面U字状に形成されており、いわゆる「Uカット」を構成している。ただし、溝10の断面形状はU字状に限定される訳ではなく、V字状、四角形状、その他のモルタル等の吹付層Bを構成する固化材に切削加工することが出来る形状であれば、特に限定は無い。
図2で示す様に、溝10は吹付層Bにのみ切削され、法面G(背面地山)には到達していない。そのため、溝10に集水された水が地山に吸収されてしまうことは無い。
【0019】
溝10のみでは排水パイプWから排出される水の全量を法尻SEまで排出できない恐れがある場合も考慮して、図示の実施形態では、裏面排水材20により溝10の開口を被覆し、以て、溝10を閉じている。
図1で示す様に、裏面排水材20の上端は、排水パイプWを被覆する様に配置されている。
【0020】
図2において、溝10の開口部(
図2では上方)は、裏面排水材20で被覆されている。周知のように、裏面排水材20には中空部20Iが形成されている。そして、裏面排水材20は、その周囲から毛管現象により吸水し、吸水された水を中空部20に誘導する性質を具備している。溝10のみでは排水パイプWから排出される水の全量を法尻SEまで排出できない場合には、溝10内を流れない水は裏面排水材20の下面側から吸水されて、中空部20I内に集水され、その後、重力の作用により法尻SE側(
図1における下方)に流下する。
或いは、排水パイプWから排出される水の全量を裏面排水材20のみでは吸水出来ない場合には、裏面排水材20で吸水されなかった水は溝10内を流れて、法尻SEまで流下して、排水される。
明示されていないが、法尻SEには排水処理施設(図示設備)が設けられており、溝10及び/又は裏面排水材20の中空部20Iを流れて法尻SEまで流下した水は、当該排水処理施設で排水処理される。なお、溝10の深さ方向寸法については、特に限定要件は存在しない。
【0021】
溝10の開口部を裏面排水材20で被覆するに際して、裏面排水材20が吹付層Bに接触している下面部の長手方向縁部20Eを、所定間隔ごとに一定量域ずつ接着して固着することが出来る。ここで、長手方向とは、
図1において裏面排水材20が延在する方向であり、
図2において紙面と垂直な方向である。
裏面排水材20の長手方向縁部20Eの全域に固着されている訳ではないので、接着されていない領域においては、毛管現象で吸水することが出来る。
【0022】
裏面排水材20で溝10を被覆するに際しては、上述した様に接着して固定することが出来るが、ピンにより裏面排水材20を吹付層Bに固定することが出来る。
ここで、ピンを用いて裏面排水材20を吹付層Bに固定する場合に、ピンの長さが吹付層Bの厚さ以上であると、裏面排水材20を固定した際にピンが吹付層Bを貫通する恐れがある。ピンが吹付層Bを貫通すると吹付層Bを貫通する貫通孔が形成されてしまい、当該貫通孔は法面G(背面地山)の排水を促し、新たな水抜孔として作用するという不都合が生じてしまう。そのため、ピンを用いて裏面排水材20を吹付層Bに固定する場合は、ピンの長さは吹付層Bを貫通しない寸法に設定される。
吹付層Bに溝10を形成し、その開口部(上方)に裏面排水材20を被覆して吹付層Bに固定して、その際にピンの長さは吹付層Bを貫通しない寸法に設定されており、且つ、溝10の深さが吹付層Bの厚さ寸法未満に設定されていれば、ピン及び/又は溝10が吹付層Bを貫通する恐れはない。
【0023】
補修するべき吹付層Bの排水パイプWを設けた個所から法尻SEまで溝10を形成し、裏面排水材20で溝10の開口を被覆したならば、排水パイプWからの排水で吹付層Bの表面が濡れてしまうことが抑制される。その後、吹付層Bの表面に樹脂吹付工を施工して、樹脂の厚さが1mm~2mmとなるまで樹脂吹付を行う。
ここで、樹脂吹付は、吹付層Bの表面が濡れていない場合に実行される。吹付層Bが濡れていないか否かについては、例えば、含水率チェッカーにより吹付層Bにおける含水率を計測し、含水率がしきい値(例えば10%)未満であれば樹脂吹付を実行し、しきい値以上であれば含水率が低下するまで待機する。
含水率をチェックすることに代えて、視認により、
樹脂を吹き付けるべき領域に水の流れが存在するか否か?
樹脂を吹き付けるべき領域に水でぬれた部分が存在するか否か?
樹脂を吹き付けるべき領域に氷や雪が存在するか否か?
をチェックして、樹脂吹付を行うか否かを判断することが出来る。
さらに、樹脂を吹き付けるべき領域を指触することにより、樹脂吹付を行うか否かを判断することが出来る。
【0024】
排水パイプWの設置個所或いは湧水箇所GW(
図4参照:例えばクラック)からの排水或いは漏水は、法尻SEに亘って裏面排水材20を配置することにより、排水パイプWの設置個所或いは湧水箇所GWから漏れ出る水の全量を裏面排水材20内部に流下され、排出される。そのため、吹付層Bの表面には水が溜まらず、吹付層Bに樹脂を吹き付けた後、吹付層Bと吹き付けられた樹脂の層との境界に水が溜まることが防止され、
図7で示す様に膨出してしまうことが防止される。また、吹付層Bの表面を濡れないので、吹き付けられた樹脂が吹付層Bの表面から剥がれてしまうことを防止することが出来る。
それに加えて、図示の実施形態によれば、排水パイプWの設置個所或いは湧水箇所GW(例えばクラック)からの排水或いは湧水(漏水)は、排水パイプWの設置個所或いは湧水箇所から法尻SEに亘って形成された溝10により集水され、法尻SEで排水される。そのため、吹付層Bの表面に排水或いは漏水が溜まってしまうことはない。
そして図示の実施形態では、溝10の開口部を裏面排水材20で被覆しているので、排水パイプWの設置個所或いは湧水箇所GW(例えばクラック)からの排水量或いは湧水量が、裏面排水材20の集水量よりも多くても、溝10により集水されるので、前記排水或いは湧水が裏面排水材20の外部に浸透して、裏面排水材20外部の吹付層Bの表層部(表面)を濡らしてしまうことが防止される。
前記排水量或いは湧水量が、溝10の集水量よりも多い場合も同様に、裏面排水材20により集水されるので、溝10を形成した以外の領域を濡らしてしまうことが防止される。
【0025】
明確には図示されていないが、排水パイプWの設置箇所ではなく、吹付層Bにおける湧水箇所GWから法尻SE(
図4参照)まで溝10を形成し、裏面排水材20で被覆しても良い。ここで、湧水箇所GWは、地山からの湧水により、吹付層Bの表面から水が漏れ出ている箇所である。湧水箇所GWは、吹付層Bにおけるクラックにより構成される場合もある。
排水パイプWが設けられていない湧水箇所GWにおいても、図示の実施形態は上述と同様な態様で施工される。
【0026】
図示はされていないが、図示の実施形態において、排水パイプWの設置個所或いは湧水箇所GW(例えばクラック)から法尻SEに亘って裏面排水材20を配置するが、溝10は形成しないことが可能である。排水量或いは湧水量が少量であれば、排水或いは湧水は全量が裏面排水材20で集水され、法尻SEで排水することが出来る。
同様に図示はされていないが、排水パイプWの設置個所或いは湧水箇所(GW例えばクラック)から法尻SEに亘って溝10を形成するが、裏面排水材20の設置を省略することが可能である。排水量或いは湧水量が少量であれば、排水或いは湧水の全量を溝10により集水して、法尻SEで排水することが出来る。
すなわち、図示の実施形態に係る樹脂吹付工法では、排水パイプWの設置箇所或いは吹付層Bにおける湧水箇所GWから法尻SEまで、溝10を形成し、及び/又は、裏面排水材20を配置する。
【0027】
溝10を形成し、裏面排水材20を配置すれば、排水パイプWの設置個所の排水或いは湧水箇所GWからの湧水は、溝10及び/又は裏面排水材20により法尻SEまで導水され、水10、裏面排水材20以外の箇所には流れない。その結果、吹付層Bの表面は濡れた状態ではなくなる(例えば含水率10%未満となる)。その様な状態で、公知の態様で吹付層Bに樹脂を吹き付ける。
上述した様に、吹付層Bの表面は濡れた状態ではなく、吹付層B表面と吹き付けられた樹脂の間に水が溜まることは無く、吹き付けられた樹脂が剥がれてしまうことも無い。
そして、吹き付けられた樹脂が固化すれば、固化した樹脂の層により、吹付層Bは補修される。
【0028】
次に主として
図3を参照して、
図1、
図2をも参照して、図示の実施形態の施行手順を説明する。
図3のステップS1では、樹脂塗装するべき吹付層Bにおいて排水パイプWを設置した個所、或いは、湧水が生じている箇所GW(
図4参照)を特定する。そしてステップS2に進む。
ステップS2では、排水パイプWを設置した個所、或いは、湧水が生じている箇所GWから法尻SE(
図4参照)まで、溝10(
図2参照)を形成する。そしてステップS3に進む。
【0029】
ステップS3では、溝10の開口を被覆する様に(
図2参照)、裏面排水材20を設置する。裏面排水材20は、排水パイプWを設置した個所、或いは、湧水が生じている箇所GWから法尻SEまで設置される。
排水パイプWからの排水量或いは湧水箇所GWからの湧水量が少ない場合には、ステップS2を省略して、ステップS3のみを実行する(裏面排水材20を設置して、溝10の切削は省略する)ことが可能である。
又は、その逆で、ステップS2のみを実行して、ステップS3を省略する(溝10の切削のみを行い、裏面排水材20を設置しない)ことも可能である。
【0030】
図1~
図3を参照して説明した実施形態の変形例に係る樹脂吹付工法を施工した状態が、
図4、
図5に示されている。
図4において、符号GWで示す湧水箇所から、
図4における下方の法尻SEに亘って、溝10(Uカット)が形成されている。溝10内には中空の排水ホース40が配置されており、排水ホース40も湧水箇所GWから法尻SEまで延在している。中空の排水ホース40の内部空間は、
図5において符号40Iで示されている。溝10の開口部(
図5の上方の部分)は裏面排水材20により被覆されてはおらず、吹き付けられた樹脂層Rにより被覆されている。
図5において、排水ホース40の外周と溝10或いは樹脂層Rとの間には、比較的大きな空間が存在するのは、図示の簡略化のためである。排水ホース40の外周と溝10或いは樹脂層Rとの隙間の寸法は極めて小さい場合がある。
【0031】
Uカット10内に排水ホース40を設けることにより、湧水箇所GWで生じた水は排水ホース40の内部空間40Iを介して、確実に法尻SEまで排出される。
また、排水ホース40がUカット10内に配置されているので、Uカット10の開口部が裏面排水材20で被覆されていなくても、吹き付けられた樹脂はUカット10内に浸入し難くなる。仮に、Uカット10内に浸入してUカット10の内部が樹脂で充填されたとしても、排水ホース40の内部空間40Iを経由して、湧水箇所GWで生じた水は確実に法尻SEまで排出される。そのため、作業者はUカット10内へ樹脂が浸入することを考慮せずに吹付作業を行うことが出来る。
その結果、吹付作業の効率が向上する。
【0032】
フローチャートでは示されていないが、
図4、
図5の変形例を施行するに際しては、
図3で示すのと同様に、先ず、樹脂塗装するべき吹付層Bにおいて排水パイプWを設置した個所、或いは、湧水が生じている箇所GWを特定する。そして、排水パイプWを設置した個所、或いは、湧水が生じている箇所GWから法尻SEまでUカット10を形成して、Uカット10内に排水ホース40を設置する。
Uカット10内に排水ホース40を設置したならば樹脂吹付を行う。
図4、
図5で示す変形例のその他の構成及び作用効果は、
図1~
図3で示す実施形態と同様である。
【0033】
上述した様に、樹脂吹付工は低コストで吹付層Bの補修を行うことが出来る技術である。
吹付層Bの補修を行う技術としては、例えば繊維補強固化材吹付工(繊維補強モルタル吹付工)が存在するが、樹脂吹付工法の方が低コストで施工することが出来る。
但し、吹付層Bに生じたクラックが大きい施工現場では、樹脂吹付工法よりも繊維補強固化材吹付工の方が補修に適している。
図6は、施工条件に従って、適切な補修工を選択するための手法をフローチャートで表現している。
図6において、吹付層Bの背面に空洞が存在せず、地山(背面地山)の風化領域が小さい(例えば0.5m未満)である場合に、ステップS1において、吹付層Bの補強工について仕様を検討する。そしてステップS2に進む。
【0034】
ステップS2では、背面地山(法面G)に風化領域が存在するか否かを検討する。風化領域が存在する場合(ステップS2がYes)にはステップS3に進み、風化領域が存在しない場合(ステップS2がNo)にはステップS4に進む。
ステップS3(ステップS2で風化領域が存在する場合)では、繊維補強固化材吹付工が選択される。
ステップS4(ステップS2で風化領域が存在しない場合)では、吹付層Bにおいて、剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れが存在するか否かを検討する。剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れが存在する(ステップS4がYes)場合には、ステップS6に進む。
ステップS6では、剥離部の落下の対応及び/又は導水処理が困難であるか否かを判断する。換言すれば、ステップS6では、吹付層Bに剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れが存在する場合であっても、対応が可能であるか否かを判断する。
ステップS6で、剥離部の落下の対応及び/又は導水処理が困難な場合(ステップS6がYes)、ステップS3に進み、繊維補強固化材吹付工が選択される。一方、ステップS6で、剥離部の落下の対応及び/又は導水処理が困難ではない場合(ステップS6がNo)、ステップS5に進み、樹脂吹付工が選択される。
ステップS4(ステップS2で風化領域が存在しない場合)において、剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れが存在しない場合には(ステップS4がNo)、ステップS5に進み、樹脂吹付工が選択される。すなわち、背面地山に風化領域が存在せず、吹付層Bに剥離部が存在せず且つ貫通ひび割れが存在しない場合、或いは、剥離部の落下の対応及び/又は導水処理が困難ではない場合に、樹脂吹付が選択される。そして図示の実施形態では、
図1~
図3或いは
図4、
図5を参照して説明された工法が実施される。
【0035】
図6において、ステップS5で樹脂吹付工が選択された場合であっても、何らかの理由で補修するべき吹付層の表層が湿っている場合(例えば含水率10%以上である場合)には、樹脂吹付工法ではなく、繊維補強固化材吹付工が選択される。
換言すれば、
図6において、背面地山Gに風化領域がなく、吹付層Bに剥離部及び/又は貫通ひび割れが存在せず、或いは、剥離部の落下の対応及び/又は導水処理が困難ではなく、補修するべき吹付層Bが濡れていない場合(例えば、表面含水率が10%未満の場合)に、
図1~
図3或いは
図4、
図5を参照して説明した樹脂吹付工法が実施される。
【0036】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、図示の実施形態では、施工の際に排水パイプWが設置されており、或いは、湧水が生じている箇所GWについて示されているが、施工時点において排水パイプWが設置されておらず、或いは、湧水が生じていなくても、事前に水を誘導するため、排水パイプWの設置予定箇所、或いは、湧水を生じる蓋然性が高い箇所に実施する場合かある。すなわち、「吹付層の排水パイプ設置個所或いは湧水箇所」なる文言は、将来において排水パイプWが設置され或いは湧水が生じる可能性がある箇所を包含する意味で使用されている。
【符号の説明】
【0037】
G・・・法面(背面地山)
B・・・吹付層(保護層:モルタル層)
W・・・排水パイプ
SE・・・法尻
GW・・・湧水箇所
10・・・溝(Uカット)
20・・・裏面排水材
20I・・・裏面排水材の中空部
20E・・・裏面排水材の下面部の長手方向縁部