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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073762
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】樹脂吹付工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
E02D17/20 104B
E02D17/20 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184644
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518004185
【氏名又は名称】株式会社サーフェステクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡之
(72)【発明者】
【氏名】増田 健康
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DC03
(57)【要約】
【課題】吹付層で生じた湧水を、樹脂吹付工を施工するべき吹付層表層部を経由することなく、法尻まで効率的に導水して行うことが出来る樹脂吹付工法の提供。
【解決手段】本発明の樹脂吹付工法は、法面(G)に吹付けられた吹付層(B:保護層或いはモルタル層)の表層部に樹脂を吹き付けて樹脂層(R)を積層する樹脂吹付工法において、前記吹付層(B)を貫通して法面(G)に到達する排水パイプ(1)が配置されており、排水パイプ(1)内にホース(2)と接続されたパッカー(3)を挿入して、パッカー(3)を膨張する工程と、樹脂を吹き付ける工程と、吹き付けられた樹脂が硬化した後、前記パッカー(3)を収縮して、排水パイプ(1)から前記パッカー(3)及び接続されたホース(2)を取り外す工程を有し、前記ホース(2)は、排水パイプ(1)から、樹脂を吹き付けるべき領域よりも法尻側の地点まで延長している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に吹付けられた吹付層の表層部に樹脂を吹き付けて樹脂層を積層する樹脂吹付工法において、
前記吹付層を貫通して法面に到達する排水パイプが配置されており、
排水パイプ内にホースと接続されたパッカーを挿入して、パッカーを膨張する工程と、
樹脂を吹き付ける工程と、
吹き付けられた樹脂が硬化した後、前記パッカーを収縮して、排水パイプから前記パッカー及び接続されたホースを取り外す工程を有し、
前記ホースは、排水パイプから、樹脂を吹き付けるべき領域よりも法尻側の地点まで延長していることを特徴とする樹脂吹付工法。
【請求項2】
修復するべき吹付層の背面地山に風化領域がない場合において、
修復するべき吹付層に剥離部及び/又は貫通ひび割れが存在せず、補修するべき吹付層における表面含水率が所定値未満の場合に請求項1の樹脂吹付工法が実施され、
修復するべき吹付層に剥離部或いは貫通ひび割れが存在するか、或いは、補修するべき吹付層における表面含水率が所定値以上の場合には、繊維を包含する固化材を吹き付けて補修することを特徴とする法面補修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面に吹付けられたモルタルまたはコンクリートからなる保護層に発生する亀裂から雨水等の侵入を防止し、保護層の塩害や中性化等の劣化を抑制し、さらに、保護層が剥落するのを防止するための樹脂吹付工法に関する。
【背景技術】
【0002】
法面に吹付けられたモルタルから成る吹付層(保護層:モルタル層)の表面に樹脂を吹き付けて樹脂層を積層することによって、前記吹付層に発生した亀裂からの雨水等の侵入を防ぎ、前記吹付層の劣化を抑制し、モルタル片の剥落を防止する樹脂吹付工法が提案されている(特許文献1参照)。
樹脂吹付工は低コストで吹付層の補修を行うことが出来る有効な技術である。
【0003】
しかし、吹付層に設置された排水パイプからの排水に対する処理が不適切な場合には、図7で示す様に、吹付層B表面(BS)と吹き付けられた樹脂の層R(樹脂層)との境界に水Wが溜まり、樹脂層Rが膨出してしまう。そして、この様な樹脂層Rの膨出に起因して、広範囲に亘って樹脂層Rが吹付層Bから剥離してしまう恐れがある。
また、吹き付けられた樹脂により構成される樹脂の被膜は、水との親和性が高くないので、吹付層Bの表面における排水パイプからの排水対策が不十分な場合には、吹付により樹脂層Rを積層或いは被覆することが困難である。
【0004】
ここで、排水パイプから排水がされている吹付層に対して樹脂吹付工法を施工する場合に、排水されている吹付層に対する有効な湧水対策は従来では提案されておらず、現場毎に、施工者が対処しているのが実情であった。すなわち、従来技術では、排水パイプからの排水が生じている吹付層に対して樹脂吹付工法を実施する場合に、有効な湧水対策は提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6425204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、吹付層(モルタル層:保護層)で生じた湧水を、樹脂吹付工を施工するべき吹付層表層部を経由することなく、法尻まで効率的に導水して行うことが出来る樹脂吹付工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂吹付工法は、法面(G)に吹付けられた吹付層(B:保護層或いはモルタル層)の表層部に樹脂を吹き付けて樹脂層(R)を積層する樹脂吹付工法において、
前記吹付層(B)を貫通して法面(G)に到達する排水パイプ(1)が配置されており、
排水パイプ(1)内にホース(2)と接続されたパッカー(3)を挿入して、パッカー(3)を膨張する工程と、
樹脂を吹き付ける工程と、
吹き付けられた樹脂が硬化した後、前記パッカー(3)を収縮して、排水パイプ(1)から前記パッカー(3)及び接続されたホース(2)を取り外す工程を有し、
前記ホース(2)は、排水パイプ(1)から、樹脂を吹き付けるべき領域よりも法尻側の地点まで延長していることを特徴としている。
【0008】
本発明の法面補修工法は、
修復するべき吹付層(B)の背面地山に風化領域がない場合において、
修復するべき吹付層(B)に剥離部及び/又は貫通ひび割れが存在せず、補修するべき吹付層(B)における表面含水率が所定値未満(例えば10%未満)の場合に(請求項1の)樹脂吹付工法が実施され、
修復するべき吹付層(B)に剥離部或いは貫通ひび割れが存在するか、或いは、補修するべき吹付層における表面含水率が所定値以上(例えば10%以上)の場合には、繊維を包含する固化材(例えばモルタル)を吹き付けて補修する(繊維補強固化材吹付工法を実施する)ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上述した構成を有する本発明によれば、
排水パイプ(1)内にホース(2)と接続されたパッカー(3)を挿入して、パッカー(3)を膨張すれば、膨張したパッカー(3)は排水パイプ(1)の内壁面に密着するので、排水パイプ(1)内を流れる水(W)はパッカー(3)により堰き止められ、パッカー(3)はホース(2)に接続されているので、水パイプ(1)内の水(W)はホース(2)内を流れる(矢印WA)。ここでホース(2)は、樹脂を吹き付ける領域よりも法尻側の箇所まで延長しているので、ホース(2)内を流下した水(W)は樹脂を吹き付ける領域には流れず、それよりも法尻側の領域を流れて排水され、或いは法尻に設けられた排水処理施設により処理される。
そのため、地山(G)からの水は、吹付層(B)の表面(BS)における樹脂を吹き付けるべき領域を流れず、吹付層表面(BS)の当該樹脂を吹き付けるべき領域は濡れていない状態に維持される。そのため、吹付層(B)に樹脂吹付を行っても、吹付層表面(BS)と吹き付けられた樹脂の層(R)との境界には水は溜まることはなく、樹脂層(R)が膨出することは防止され、広範囲に亘って樹脂層(R)が吹付層(B)から剥離してしまう恐れもない。
また、吹付層表面(BS)の当該樹脂を吹き付けるべき領域は濡れていない状態に維持されるので、吹き付けられた樹脂により構成される樹脂の被膜が水との親和性が低くても、樹脂層(R)が吹付層(B)から剥離することはない。
【0010】
排水パイプ(1)内を流れる水(W)がパッカー(3)に接続されているホース(2)内を流れ(矢印WA)、樹脂を吹き付ける領域よりも法尻側の箇所で排水される状態は、吹き付けられた樹脂が硬化するまで保持される。
吹き付けられた樹脂が硬化した後、前記パッカー(3)を収縮して排水パイプ(1)から取り外せば、地山(G)からの水は排水パイプ(1)を介して排出され、硬化した樹脂層(R)上を流れるが(矢印GA:図5)、硬化した後の被膜であれば、その表面を水が流れても、吹付層表面(BS)との境界に水を浸透させることは無いので、樹脂層(R)は膨出しない。
そして、排水パイプ(1)からの排水は樹脂層(R)を浸透せず、吹付層(B)には到達しないので、樹脂層(R)が吹付層(B)から剥離することも無い。
【0011】
本発明の補修工法によれば、修復するべき吹付層(B)の背面地山に風化領域がない場合において、
修復するべき吹付層(B)に剥離部及び/又は貫通ひび割れが存在せず、補修するべき吹付層(B)における表面含水率が所定値未満(例えば10%未満)の場合に(請求項1の)樹脂吹付工法が実施され、
修復するべき吹付層(B)に剥離部或いは貫通ひび割れが存在するか、或いは、補修するべき吹付層(B)における表面含水率が所定値以上(例えば10%以上)の場合には、繊維を包含する固化材(例えばモルタル)を吹き付けて補修する(繊維補強固化材吹付工法を実施する)。
そのため、施工現場の状況において必要とされる品質の補修工法を確実に選択して、過剰な品質の補修工法を選択することは無く、施工に際して余分なコストを費やすことが防止される。そして、適正な品質の補修工法を選択して、必要な法面(G)の補修を実行することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態を施工する以前の状態を示す説明断面図である。
図2】排水パイプにホース付きパッカーを挿入した状態を示す説明断面図である。
図3】パッカーを膨張した状態を示す説明断面図である。
図4】樹脂吹付を施工している状態を示す説明図である。
図5】吹き付けられた樹脂が硬化した後の状態を示す説明断面図である。
図6】施工条件により適切な補修工を選択する態様を示すフローチャートである。
図7】従来技術の問題点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1図6を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、補強するべき背面地山Gの法面には、例えばモルタルの様な固化材が吹き付けられて積層した吹付層B(保護層:モルタル層)が形成されている。吹付層B及び地山Gには孔Hが掘削されている。換言すれば、孔Hは地山G側から吹付層Bを貫通して吹付層Bの表面BSに到達している。そして、孔Hに排水パイプ1が、いわゆる締り嵌めの態様で嵌合されて設置されており、地山Gで生じた湧水を吹付層B上に排水している。
排水パイプ1は、その法面側端部(図1では左端)が吹付層Bと概略面一となる様に配置される。ただし、排水パイプ1は、その法面側端部が吹付層Bと面一ではない様に配置することも可能である。
【0014】
図1において、排水パイプ1を経由して排水された地山Gからの水は、吹付層Bの表面BSを流れるので、図1の状態で樹脂吹付を行うと、図7を参照して上述した様に、吹付層Bの表面BSと吹き付けられた樹脂の層R(図4図5図7参照)との境界に水が溜まり、樹脂層Rが膨出し、広範囲に亘って樹脂層Rが吹付層Bから剥離してしまう恐れがある。また、吹き付けられた樹脂により構成される樹脂の被膜は、水との親和性が低いため、樹脂層Rが吹付層Bから剥離してしまう。
【0015】
それに対して図示の実施形態では、図2で示す様に排水パイプ1内にホース2と接続されたパッカー3を挿入している(排水パイプ1内にホース2と接続されたパッカー3を挿入する工程)。パッカー3は図示しない流体供給系統(例えばエアチューブ)と接続され、パッカー3の内部に流体(例えばエア)を充填することにより、図3で示す様にパッカー3が膨張して(パッカー3を膨張する工程)、パッカー3が排水パイプ1の内壁面に密着する。
図3で示す様に、パッカー3が膨張すると排水パイプ1の内壁面に密着するので、排水パイプ1により集水された水Wはパッカー3により堰き止められる。ここで、パッカーPはホース2に接続されており、排水パイプ1内でパッカー3により堰き止められた水Wは、矢印WAで示す様に、ホース2内を流れる。
【0016】
明示されていないが、ホース2は樹脂を吹き付けるべき領域よりも法尻側(図2図3では下方)の箇所まで延長(延在)しており、樹脂を吹き付けるべき領域よりも法尻側の図示しない箇所におけるホース2の端部から排水される。或いは、樹脂を吹き付けるべき領域よりも法尻側の領域で排水された水Wは、法尻側の排水処理施設(図示せず)により処理される。
【0017】
図3で示す様に、排水パイプ1を流れる水Wはパッカー3により堰き止められて全量がホース2を介して、樹脂を吹き付けるべき領域よりも法尻側の箇所まで流れる(矢印WA)ので、吹付層表面BSの樹脂を吹き付けるべき領域に水Wが流れることは無く、樹脂を吹き付けるべき領域は濡れていない状態に維持される。
そのため、吹付層Bの表面BSにおける樹脂を吹き付ける領域は濡れていない状態が維持され(或いは乾燥した状態となり)、樹脂が吹き付けられても、吹付層Bの表面BSと吹き付けられた樹脂の層Rとの境界に水が溜まることはなく、図7で示す様に樹脂層Rが膨出する恐れはない。そして、広範囲に亘って樹脂層Rが吹付層Bから剥離してしまう恐れもない。
また、吹付層表面BSの樹脂を吹き付けるべき領域は濡れていない状態に維持されるので、吹き付けられた樹脂により構成される樹脂の被膜が水との親和性が低くても、樹脂層Rは吹付層Bから剥離することはない。
そして、吹き付けられた樹脂により構成される樹脂の被膜が固化すると、吹付層Bの表面BSに固着される。
【0018】
図4で示す樹脂吹付は、上述した様に、吹付層Bの表面BSが濡れていない場合に実行される。
吹付層表面BSが濡れていないか否かの判断は、例えば、含水率チェッカーにより吹付層表面BSにおける含水率を計測することにより行われる。計測された含水率がしきい値(例えば10%)未満であれば樹脂吹付を実行し、しきい値以上であれば含水率が低下するまで待機する。
なお、吹付層表面BSにおける含水率をチェックすることに代えて、視認により、以下の項目を確認することで、吹付層Bの表面BSが濡れているか否かを判断することが可能である。すなわち、
(1)樹脂を吹き付けるべき領域に水の流れが存在するか否か?
(2)樹脂を吹き付けるべき領域に水でぬれた部分が存在するか否か?
(3)樹脂を吹き付けるべき領域に氷や雪が存在するか否か?
係る項目(1)~(3)をチェックして、吹付層表面BSが濡れていないか否かの確認を行い、樹脂吹付を行うか否かを判断することが可能である。
或いは、樹脂を吹き付けるべき領域を指触することにより、吹付層表面BSが濡れていないか否かの確認を行い、樹脂吹付を行うか否かを判断することが出来る。
【0019】
図4において、吹付層Bの表面BSに向かって、吹付ノズル4から樹脂を噴射して(矢印4A)、樹脂吹付を行う(樹脂を吹き付ける工程)。樹脂吹付は、樹脂を吹き付けるべき領域全体に亘って、吹き付けられた樹脂の厚さが均一になる様に実施される。
図4では上方から樹脂吹付を行っており、樹脂吹付が行われた領域は樹脂層Rが積層されている。
樹脂吹付を行っている間も、排水パイプ1内の水Wは、ホース2内を流下し(矢印WA)、樹脂を吹き付ける領域よりも法尻側の箇所で排水されるので、吹付層Bの表面BSを流れてしまうことは無い。
樹脂を吹き付けるべき領域全体に亘って樹脂吹付が完了した後、吹き付けられた樹脂の層Rが固化(或いは硬化)するまで、パッカー3が膨張した状態を維持し以て排水パイプ1内に集水された水がホース2を流れる状態(図4)を維持する。
【0020】
図4では明示されていないが、樹脂吹付に際して、樹脂を吹き付ける吹付ノズル4と吹付層Bの間の空間にホース2が延在することがない様に、ホース2は吹付層Bから離隔する様に配置されている。
吹き付けられた樹脂がホース2に当たり、吹付層Bに吹き付けられず、樹脂の厚さが不均一になることを防止するためである。
【0021】
図4で示す樹脂吹付が完了し、時間経過により樹脂の層Rが硬化(固化)したら、パッカー3を収縮し、図5で示す様に、排水パイプ1からパッカーP及び接続されたホース2を取り外す(吹付樹脂が硬化した後、パッカー3を収縮して、排水パイプ1からパッカー3及び接続されたホース2を取り外す工程)。
図5で示す工程の際には、吹付層Bの表面BSの樹脂を吹き付けるべき領域には、既に、均一に樹脂層Rが積層されている。
吹付層Bの表面BSを被覆している樹脂層Rは既に硬化しているので、地山Gからの水が排水パイプ1の吹付層表面側端部(図5の左端)から排水されても、硬化した樹脂層Rの表面を流れる(矢印GA)のみであり、吹付層Bの表面BSと吹き付けられた樹脂の層Rとの境界に水が溜まることは無く、当該境界に水が浸透することは無い。そのため、樹脂層Rは膨出せず、樹脂層Rが吹付層Bから剥離することも無い。
そして、樹脂層Rにより吹付層Bは補修される。
【0022】
上述した様に、樹脂吹付工は低コストで吹付層Bの補修を行うことが出来る技術である。
ここで、吹付層Bの補修を行うその他の技術としては、例えば繊維補強固化材吹付工(繊維補強モルタル吹付工)が存在するが、樹脂吹付工法の方が低コストで施工することが出来る。
但し、吹付層Bに生じた大きなクラックが生じている施工現場では、樹脂吹付工法よりも繊維補強固化材吹付工の方が補修に適している。
図6は、施工条件に従って、適切な補修工を選択するための手法をフローチャートで表現している。
図6のフローチャートでは、補修するべき吹付層Bの背面に空洞が存在せず、地山G(背面地山)の風化領域が小さい(例えば0.5m未満)場合に、ステップS1において、吹付層Bの補強工について仕様を検討する。そしてステップS2に進む。
補修するべき吹付層Bの背面に空洞が存在する場合、或いは風化領域が大きい(例えば0.5m以上である)場合は、図6のフローチャートで示す補修工選択の手法の対象外と判断して、樹脂吹付工法は採用せず、繊維補強固化材吹付工或いはその他の工法の採用が検討される。換言すれば、補修するべき吹付層Bの背面に空洞が存在する場合、或いは風化領域が大きい(例えば0.5m以上である)場合は、ステップS1の検討を行うことなく、繊維補強固化材吹付工或いはその他の補修工が検討される。
【0023】
ステップS2では、補修するべき吹付層Bの背面地山(法面G)に風化領域(この場合、例えば0.5m未満の小さい風化領域)が存在するか否かを検討する。上述した様に、例えば0.5m以上の風化領域が存在する場合には、図6で示す選択手法の対象外と判断して、繊維補強固化材吹付工或いはその他の補修工が検討され、ステップS1、S2は実行されない。
ステップS2において、(例えば0.5m未満の小さい)風化領域が存在する場合(ステップS2が「Yes」)にはステップS3に進み、風化領域が存在しない場合(ステップS2が「No」)にはステップS4に進む。
ステップS3(ステップS2で風化領域が存在する場合)では、繊維補強固化材吹付工(繊維を包含する固化材(例えばモルタル)を吹き付けて補修する工法)が選択される。
ステップS4(ステップS2で風化領域が存在しない場合)では、補修するべき吹付層Bにおいて、剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れ(例えば幅数cmの貫通ひび割れが)が存在するか否かを検討する。
ステップS4において、剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れが存在する場合(ステップS4が「Yes」)にはステップS6に進む。
一方、ステップS4において剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れ(例えば幅数cmの貫通ひび割れが)が存在しない場合(ステップS4が「No」)は、ステップS5に進む。
ステップS6では、剥離部の落下の対応が必要及び/又は導水処理が困難であるか否かを判断する。換言すれば、ステップS6では、吹付層Bに剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れが存在する場合であっても、対応が可能であるか否かを判断する。
ステップS6で、剥離部の落下の対応が困難であり、及び/又は、導水処理が困難な場合(ステップS6がYes)、ステップS3に進み、繊維補強固化材吹付工が選択される。一方、ステップS6で、剥離部の落下の対応が可能であり、及び/又は導水処理が可能な場合は(ステップS6がNo)、ステップS5に進み、樹脂吹付工が選択される。
ここで、ステップS4(ステップS2で風化領域が存在しない場合)で剥離部及び/又は背面地山に到達する貫通ひび割れ(例えば幅数cmの貫通ひび割れが)が存在しない場合(ステップS4が「No」)、或いは、ステップS6で、剥離部の落下の対応が可能であり、及び/又は導水処理が可能な場合は(ステップS6がNo)には、ステップS5で樹脂吹付工が選択され、図1図5で説明した樹脂吹付工が実施される。すなわち、背面地山Gに風化領域が存在せず、吹付層Bに剥離部が存在せず且つ貫通ひび割れが存在しない場合、或いは、剥離部の落下の対応が可能であり、及び/又は導水処理が可能な場合に樹脂吹付工が選択され、図1図5を参照して説明された工法が実施される。
【0024】
図6において、ステップS5で樹脂吹付工が選択された場合であっても、何らかの理由で補修するべき吹付層の表層が湿っている場合(例えば含水率10%以上である場合)の場合には、樹脂吹付工法ではなく、繊維補強固化材吹付工が選択される。
換言すれば、図6において、背面地山Gに空洞及び/又は風化領域が存在しない場合であって、且つ、吹付層Bに剥離部及び/又は貫通ひび割れが存在せず或いは剥離部の落下の対応及び/又は導水処理が困難ではない場合において、補修するべき吹付層Bが濡れていない場合(例えば、表面含水率が10%未満の場合)に、図1図5で示す樹脂吹付工法が実施される。
図6のフローチャートにより適切な補修工を選択することにより、過剰な品質の補修工法を選択することなく、施工現場の状況において必要とされる品質の補修工法を確実に選択することが出来る。そのため、施工に際して余分なコストを費やすことを防止しつつ、適正な品質の法面補修を実行することが出来る。
【0025】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0026】
1・・・排水パイプ
2・・・ホース
3・・・パッカー
B・・・吹付層(保護層:モルタル層)
G・・・法面(地山)
R・・・樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7