(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073771
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】水中観察ボート、曲肱システム及び動揺病軽減
(51)【国際特許分類】
B63C 11/49 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
B63C11/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184659
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】720009527
【氏名又は名称】中内 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】中内 郁夫
(57)【要約】 (修正有)
【課題】魚影を直視して狙いを定める水中観察釣りを快適に行え、動揺病軽減を図るボートの提供を課題とする。
【解決手段】トランサム3と船内略平床面5との接続部に、透明板体2aを船体中心線上に斜設して水中観察窓2を形成することによって、ユーザは自然と伏臥し曲肱する水中観察窓姿勢を得られ、動揺病軽減が図られるとともに、スリリングな水中観察釣りが快適に楽しめることを特徴とする水中観察ボートである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伏臥し曲肱する水中観察姿勢をとるユーザ15(以下、伏臥ユーザと称する)に使用される水中観察ボートであって、
船体中心線上に位置し、トランサム3と船内略平床面5との接続部に有す開口部へ、透明板体2aを斜設して形成される水中観察窓2と、
を備えることを特徴とする水中観察ボート。
【請求項2】
前記伏臥ユーザの手近範囲とされるスターン部(船体3等分における)に有す前記トランサム、前記略平床面及び側壁部に艤装を配設する曲肱システム本体部であって、
船外導出部
図621と、
手動及び自動リモート制御手段を用いたバウ側アンカーウインチ17の少なくとも制御部と、
船体左右に設けられた車輪付推進機11と、
遠隔刺し餌放出器
図8と、
のうち、いずれか一以上または全部を有す前記曲肱システム本体部と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の水中観察ボート。
【請求項3】
前記曲肱システム本体部を構成する一の、前記船外導出部であって、
前記トランサム、前記略平床面及び前記側壁のいずれかに少なくとも一の船体貫通孔
図5B20a及び船外導出筒20を水密に形成し、該船外導出筒上部開口部の高さを喫水線以上、略船縁高さの範囲内に設けられた船外導出筒と、
該船外導出筒に撒き餌を供給する撒き餌収納箱6と、
それらを接続させ、撒き餌の移動を補助する撒き餌杓誘導蓋21bと、
のうち、船外導出筒に、撒き餌収納箱と撒き餌杓誘導蓋のいずれか片方か全部
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中観察ボート。
【請求項4】
前記曲肱システム本体部を構成する一の、手動式及び電動式の前記遠隔刺し餌放出器であって、
その制御部を伏臥ユーザの手近範囲及び竿部7の、少なくとも一方あるいは双方に
備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水中観察ボート。
【請求項5】
前記船体両舷側部の前後方向に有す前記フロート保持材9は、
前後方向に対向する矩形枠を有し、その外方枠辺が、前記スライドフロート12を挿通した前記連結部13を挟持し、且つ、該連結部は、前記外方枠辺を上下にスライドする手段を有し、
前記フロート保持材内にトリム調整板部10と、
脱着車輪付推進機と、
のいずれか一方、または両方を有す前記曲肱システム舷側部と、
を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の水中観察ボート
【請求項6】
前記伏臥ユーザの手近に配設される手動及び自動リモート制御手段を用いたバウ側アンカーロープウインチの本体部及び制御部の内、少なくとも前記伏臥ユーザの手近に配設されるバウ側アンカーロープウインチの制御部と、
を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の水中観察ボート。
【請求項7】
船体1の船縁26周囲部へ周設され、着脱可能とする上部構造体
図1281(例、組立式テント)と、
前記水中観察窓の下端辺から船央向き前記略平床面に、連設する第二水中観察窓と、
着脱可能に形成された前記透明板体及び蓋材を介して、多用途性が拡大される(例、水上、地上、氷上用途)前記第二水中観察窓兼用多用途開口部2bを有す前記基礎構造体80(船体1)と、
を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水中観察ボート。
【請求項8】
前記トランサム部と前記略平床面との接続部に有す水中窓用開口部2aへ、
側面部が折り部を介して底面部に接続されるアングル形透明板体2cと、
前記水中窓用開口部へ水密に跨設されて成る前記アングル形水中観察窓部
図13BBと、
を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の水中観察ボート。
【請求項9】
前記船体の水中観察窓開口部に、別個に用意された船体外縁部までの全部を外部から被覆する船体布91へ、前記透明板体2aを装着して構成される前記水中窓部と、
を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の水中観察ボート。
【請求項10】
前記船体を複数分割の枠体にして、例えば、船体分割枠
図9 51、52、53、54を入れ子式に組換えられた船体入れ子収納組立体55であって、バウ側54、スターン側51の少なくとも一方の船縁近傍へ、電動ドライバー収納庫55dを設け、防水フタを船外及び船内向き双方に、
備えることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の水中観察ボート。
【請求項11】
前記船体入れ子収納組立体55において、組立後の三辺寸法の合計が158cmから150cmとされたことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の水中観察ボート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中観察ボート、曲肱システム及び動揺病軽減に関する。
【背景技術】
【0002】
水中窓を有し、水中を覗くことが可能なボートとして、筒状水中窓を設けた海女等漁労用の樽舟があり、現在も観光用途も含めて現存している。また、海中風景を遊覧可能な半潜水艇、水中観光船、グラスボート等と呼ばれ観光船として親しまれている。近年では、ボート全体が透明樹脂からなるミニボート、のぞき窓の付いたインフレータブルボートまで存在している。
【0003】
これらのボートは、船底に設けられた水中窓から魚影を見ながらの釣魚(以下、水中観察釣りと称する)を可能とするが、水中観察釣りの普及には至っていない。
【0004】
快適さを妨げている原因の一つに、動揺病に罹り易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1993-67597号公報 (
図4 グラスボート)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「aist/hql人体寸法・形状データベース2003 統計量 青年男性群」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、魚影を直視して狙いを定める水中観察釣りを快適に行え、動揺病軽減を図るボートの提供を課題とする。
【0008】
特許文献1の
図4では、船底に有する水中窓を、釣人が上方視点から下方向に水中を覗くことにより、魚影やポイントが平面的に見え、魚種、寸法、距離感等、判別し難く釣趣的にやや物足りなかった。船側部に水中窓を設けた水中観光船では、水中遊覧には適しているが構造的に釣魚を想定されていない。また、これら観光船等はポータブルなマイボートには成り得ない。
【0009】
以上の記載したボートでの釣魚は、全て動揺病に罹り易い問題がある。
【0010】
水中観察釣りを快適に行え、動揺病軽減を図るボートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、
トランサムと船内略平床面との接続部に、透明板体を船体中心線上に斜設して水中観察窓を形成することによって、ユーザは、伏臥曲肱する観察姿勢が得られ、(以下、伏臥ユーザと称する)快適に水中観察ができることを特徴とする水中観察ボートである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水中観察ボートによれば、魚影を直視して狙いを定める水中観察釣りを快適に行え、動揺病軽減を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例の水中観察ボートを示す斜視図である。
【
図2】
図1水中観察ボートに曲肱システム本体部を具備した斜視図である。
【
図3】
図1水中観察ボートに曲肱システム舷側部を具備した斜視図である。
【
図4】動揺病軽減のために水面の表と裏を見る車の運転者と伏臥ユーザの側面図。
【
図5】水中観察窓の正面図、右側面図、平面図、斜視図と伏臥ユーザ曲肱図。
【
図6】曲肱システム本体部の船外導出部とその操作の斜視図。
【
図7】曲肱システム舷側部の船尾トリム各調整艤装と曲肱する伏臥ユーザの斜視図。
【
図8】刺し餌放出システムの電動式及び手動式遠隔刺し餌放出部の仕掛け正面図。
【
図10】ボート4分割し、入れ子式により手荷物形に形成された斜視図。
【
図11】ボート本体へ船体布を被せる方式 斜視図。
【
図12】第二水中観察窓を外し、アンカー地表立設した望遠鏡と専用テント図。
【
図13】斜設水中観察窓及びアングル形観察窓の断面図と斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例の水中観察ボートについて説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施例の水中観察ボートを示す斜視図である。
【0016】
本実施例の1つにおいて、水中観察ボート1は、トランサム3と略平床面5の接続部に透明板体2aを斜設した水中観察窓2を船体中心線上に有する。透明板体の形状や形成手段はこれに特定されるものではない。また、前記水中観察窓の両サイド又は一方に収納スペース
図1SSを備えることで、例えば、バッテリーや撒き餌箱のような比較的重量を有すものの載置が可能で、前記水中観察窓の喫水を好ましく深める効果、曲肱した指枕時の前腕部はトランサム面に平行して納まり、艤装周りの重要なスペースでもある。
【0017】
水中観察窓2の構造を
図14AAに示す。船体1の窓開口部の周縁部に一段低い周縁枠部2a2を設け、透明板体2aでシール材2a4を挟んで嵌め、更におさえ枠材2a1を被せてボルト2a3で締め、透明板体を保持させる。または、固着する、あるいは透明樹脂製ボートのように水中観察窓が船体と一体成形されていても良い。
【0018】
実施例では、船体部をアルミ角パイプによるフレーム構造として、フレーム間に発泡体を注入し、FRPで被覆防水しても良いし、金属、樹脂類で型抜き成形されても良い。
【0019】
ユーザは、上記の水中観察窓位置から水中観察を行うために、
図2のように略平床面に曲肱をなす伏臥姿勢を構える(以下、伏臥ユーザと称する)ことが望ましい。本実施例では、この曲肱をなす伏臥姿勢が最大の特徴となる。なぜなら、移動時を除き、観察姿勢及び伏臥しての釣り姿勢は一般的に稀である。曲肱のスペースを要するので船体は船尾幅を広く、バウ側を狭くする狭小な船体が望ましい。小型ボートは浮力が高く喫水が浅い。浅ければ船体側面の窓から満足できる水中視界を得られない。(船底窓は上記問題を有す)
【0020】
曲肱をなす伏臥姿勢は、この問題の解決のために生まれ、視点を下げるための望ましい選択である。しかし、曲肱姿勢をとれば頭部を肱で支える必要がある。その肱のスペースの確保のために船尾幅を広くし、バウ側を狭くしている。後述する曲肱システムにも繋がる。また、船尾幅を広くすると半面、船尾喫水が浅くなるが、やや重心が船尾寄りとなっているので、イーブントリムまたは、できるだけ船尾トリム化を図ることが望ましい。水中観察窓の喫水を深くして水中観察釣りに必要な視界を広く確保したいからである。
【0021】
水中観察釣りの想定する釣場エリアは、魚影及びポイント
図4D44を直視可能な明るい水底の浅場に限定される方が良い。近年増加の一途をたどるレジャーボート等による遭難や事故、密漁や地元漁業者との摩擦等の問題は増加傾向にある。この問題の解決にも、浅場エリアは、自然観察や各種ボランティアの使用用途も含むことからも有望である。
【0022】
潮や波風の影響に対して、有効なボートの掛かり釣りを主として、以下、説明する。この場合、伏臥ユーザは、水中観察窓から潮下斜め下方向のポイント
図4D44及び魚影を直視または間接視野内の中心に置いていることが望ましい。
【0023】
伏臥ユーザの視野は、上方に水中水光(後述)、下方に水中観察窓直下の水底までを、概ね人間の上下120°と言われる間接視野角度を、斜設水中観察窓によってカバーができる。所望する魚影、ポイントを一望するには、その斜設水中観察窓をトランサムと略平床面との接続部の船体中心線上に形成することが望ましい。
【0024】
伏臥姿勢での使用時に一人乗りに限定される狭小船体は、より船体中心線上に身体重心を載せやすく、座位その他の姿勢に比べ略平床面への身体密着面積が広く、船体との一体感を有し、安定した低重心性が水中観察釣り及び動揺病軽減に対し条件的に望ましい。
【0025】
動揺病軽減に対する一実施例では、成人男性が伏臥姿勢を取り、水中観察窓を覗くとき、ユーザの視点及び身体重心点における略平床面上の高さが、略同じ高さ8cm (個人差有、船底からは10cm)である実施例の事実と、また、その視点は、内耳及び脳とともに頭部の重心に略位置すること、同時に脳は、視覚情報と内部平衡感覚のターミナルとして、上記の二点である視点及び身体重心点と相関できることを本実施例で見出した。
【0026】
伏臥ユーザを乗せた船体が、平水面に対して平行と仮定し、上記、重心がわずかに喫水下にあるとき、視点及び身体重心点の二点間に仮想直線(視線に重なる)を付し、この仮想直線が水中観察窓から外方へ水平延伸して、例えば、直線上の20m範囲内の水面下を探ったとき、水平を識別するライン(水中水光ライン
図1WL、4DWL、水中色調ライン
図4D48後述)と称する疑似水平線を見つけ、動揺病軽減を図る際の水平基準とすることが望ましい。
【0027】
水中水光ラインとは、水平線を見るのに、水面より低い位置から水面を見ることである。陽光が水面に反射する輝きを水光と呼び、この水光の輝きを水中から見て水中水光、または水中水光ラインと称して、動揺病軽減を図る際の水平基準とすることが望ましい。
【0028】
ボート釣りにおいて、やや船酔いした釣人は、回復するために波の立つ水面
図4D4bから視線を遠方景色に移し体を休めている。しかし、その波の立つボート近傍の水面も、水中から見ると重力によって、水面下の波形
図4D4aはとても穏やかな平面に近く、表波の頂部の乱反射を発するような波形はそこに無い。よって、横方向に拡がって見える水中水光のラインを疑似水平線とすることが望ましい。遠方景色を代替する動揺病軽減の水面下のマーカとして利用できる。
【0029】
水中色調ライン
図4D48 例えば、浅場の水深2mと3m地点の岩礁域で、天地を二分できそうな色調の変化を利用する。植物性プランクトンの層は白く見え(
図4D43最上部白色帯)、動物性プランクトンは透明に近いので暗く見えたりして確認できる。ポイントの岩礁
図4D44には、水中色調ライン
図4D48が掛かり、岩礁上部は明るく見え、近隣の水平方向のポイントにも均等に光が掛かっている。見做し水平線として用いる。魚の集まるかけあがり斜面で見分ければ、空間識失調に陥らなくて済む手がかりである。
【0030】
これらを伏臥ユーザが、実見または間接視野に入れて、視覚情報と内部平衡感覚の情報ズレを再配向して動揺病軽減が図られることが望ましい。
【0031】
以上を要約すると、水中水光ライン、視点、身体重心点は、内耳や脳と相関して直線上に並ぶ。この条件は、ローリング回転揺れに対し、水中水光ラインに視線を投じていれば、各点重心は直線上に有していることから、ローリング揺れの中心線と重なり枢動する。重心は外力の及びにくい一番の箇所であることからローリングにブレーキとして働く。それに比べ、一般船釣りでの、船体重心から遠く離れた釣り座で受ける大きなローリング揺れに比べれば、はるかに動揺病軽減が図られて望ましい。
【0032】
次にピッチングに対しても、直線上に相関関係を有す。水中観察窓を介して、視点と水中水光ラインが上下方向に不整合しているので、直線上から外れた距離分の頭部修正が必要で、直線内に戻すよう頭部を移動する。本実施例では、例え僅かな移動しかスペース的に取れなくとも、その僅かな頭部修正の認識情報が脳に送られることにより、視覚情報と内部平衡感覚のズレを軽減させることができ、このようにして動揺病軽減を図ることが望ましい。
【0033】
この原理を平易に言えば、車の助手席者が左折時に左へ体を傾けるように自ら仕向けて、詳しくは移動量の少ないところに頭部を移動させることによって、その加減が適当であっても情報は脳に伝達されて動揺病軽減に十分な効果が得られている。
【0034】
下顎先端部を略着床した伏臥ユーザの視点高さは、略平床面から約8cm(成人男性実測値)であり、立位の身体重心は臍部に在ることが知られているので、伏臥ユーザの身体重心点を再計算し床上約8cmとした。この根拠は、非特許文献1の成人男性公表データの立位姿勢での腹部厚径207mmの中心に対し、約四割を重心高さとした。これはユーザの伏臥姿勢にかかる内臓や四肢の下垂による誤差を考慮した再計算値である。
【0035】
また、実施例で、満載時の船体総重量約110kg、略平床面積1m
2により、喫水深さは11cm(船底厚2cm含む)であり、このことから、船体総重量の約8割を占めているユーザ着衣体重約85kgの身体重心点の床上約8cmの影響が強く反映される。このことから満載時の船体重心点
図147も同程度と推定される。しかし、以下は除外する。
【0036】
伏臥ユーザは、水中観察窓から潮下方向を間接視野(周辺視野、成人概ね上下120°左右200°の角度内)で、同角度上方に有す水中水光ラインから水中観察窓直下の水底までの範囲を一望しており、その中間の釣魚ポイントに通常は中心視野を置く。
【0037】
水中水光ラインを、直視している場合と間接視野内に入れている場合との動揺病軽減の効果の違いは、慣れによる条件をクリアできれば、違いはあまり無いと考えられる。例として野球では、リードをとる1塁走者に対する右ピッチャーのけん制時の視線は、間接視野で捉えているが問題なくけん制可能である。
【0038】
次に、ピッチングへの対処は、慣れを除外するならば、前記の能動的頭部動作が必要になるので、水中水光ラインが船体の上下揺れによって水中観察窓枠内の下方に見えていれば、同調して頭部を下げる。逆に上がって見えれば頭部を上げることでズレに対処する。
【0039】
この原理は、前記した車の助手席者の例と同じである。左折時は左に体を傾けるように自ら仕向けて、詳しくは移動量の少ないところに頭部を移動させることによって、その加減が適当であっても情報は脳に伝達されて動揺病軽減に十分な効果が得られる。
【0040】
しかしながら、本実施例と助手席者の両者は同じではない。伏臥姿勢から小さな水中観察窓を通して上記効果を得ようとする本実施例と、助手席者の視線が通るフロントガラス
図4A41の大きな視野や広い車室内では状況が違う。本実施例は直線上での許容度の低い頭部動作スペースの中で、狭いなりの情報を把握し利用することで、身体重心点から視点、水中水光ラインへと直線上に有している重心が左右回転の抗力となって、ローリング揺れからの影響を減衰させ、ピッチングに対しては、対処動作が小さくても認識情報を脳へ送ることにより動揺病軽減を図っている。視覚情報と内部平衡感覚のズレに対する再配向の効果を有す点のみ同じでも、その構成の相関性やユーザ姿勢及び方法に相違点がある。
【0041】
好ましくは、さらに上記課題(水中観察釣りを快適に行え、動揺病軽減を図ること)を解決するための第二の発明を構成しても良い。
それは曲肱システムであり、曲肱システム本体部
図2が構成される。後述する曲肱システム舷側部を含めても良い。第一発明は、船体の基本構成に工夫を図り、視点や重心点を直線上に相関させてローリングに対処し、ピッチングでは水中観察窓を通して水中水光ラインを視野に捉え、頭部の能動的動作を伴い認識情報を再配向して動揺病軽減を図っていた。
【0042】
曲肱システム本体部は、それにプラスして動揺病の原因となる艤装とその作業を実見せずに操作を図る。視線は水中水光ラインを視野に入れたまま艤装類を操作することによる動揺病軽減の他、上肢の不自由さをカバーする効果を有すことが望ましい。
【0043】
曲肱システム本体部は、伏臥ユーザの手近範囲とされるスターン部(船体3等分における)に有すトランサム面、略平床面、側壁面及び船縁26上面に配設される下記艤装であって少なくとも一以上を配設していることが望ましく、これにより艤装を実見せず曲肱使用が図れる分だけ、動揺病軽減が望ましい。
【0044】
第一の艤装は、撒き餌システムである。船外導出筒20と、撒き餌収納箱6と、撒き餌杓誘導蓋21と、を有すシステムの船外導出部
図6であり、その船外導出筒の上方開口部が水面高さを越え、風による飛散防止のために船縁より低位置に配設されることが望ましい。また、これらが一体化及び一部一体化が成されても良い。
【0045】
この船外導出部の使い方は、撒き餌収納箱6の撒き餌を撒き餌杓23を用いて掬い、連接する撒き餌杓誘導蓋21のスリット部内に撒き餌杓シャフト部を通し、均し部21aで杓カップの余分な撒き餌を削ぎ落し、左右こぼれ防止ガイド壁21cに誘導されて、連設する船外導出筒20へ挿入し、筒内の水面下で杓カップから撒き餌を振り落として放出する構成を有すことから、一連の撒き餌船外放出に関して、実見は不要であることが望ましい。
【0046】
船外導出筒20を逆流する外部侵入水は、スリット蓋により船内への浸水を制限し、少量の侵入水は撒き餌収納箱6が受け皿となる。また、撒き餌収納箱は図の通り、バウ側に向かって箱上部面が傾斜しているが、これは前腕部が接触するので傾斜面とした。
【0047】
尚、船外導出筒は前述した配設箇所によっては、着脱の有無及び形状大きさはさまざまである。従って、設計自由度を高めるため、水中カメラや水中清掃用具及び地域規則を遵守した水棲生物等の採捕具をこの船外導出筒の開口部を利用して水中使用が可能である。
【0048】
第二の艤装は、手動及び自動リモート制御手段を用いたバウ側17及びスターン側アンカーウインチ18の内、少なくともバウ側アンカーウインチの制御部を、伏臥ユーザの手近範囲とされるスターン部(船体3等分における)に有すトランサム3、略平床面5及び側壁4のいずれかに配設されることが望ましい。これにより艤装を実見せずポイントを縦横無尽に船体の移動ができ、水中観察釣りを快適にすることが望ましい。
【0049】
第三の艤装は、刺し餌放出システムであり、狙った魚の近傍で動作可能な刺し餌放出のシステム
図8であり、竿立具を介して船体に保持または載置される釣竿7の、道糸部遠方端へ連結される刺し餌放出器つき仕掛けであって、手動式
図8右図(例、ジャークなど掛止解除により掛止羽根79の掛止部77aから解放)の遠隔刺し餌放出手段、及び電動式
図8左図(例、ソレノイド式係止ピン74の出入により、バネ72に係止された刺し餌収納体76の開閉を、信号73を受信部73aで受け制御する無線式・一部有線式)の、遠隔刺し餌放出手段の一方あるいは双方を有する。上記の制御部を伏臥ユーザの手近範囲及び竿部の、一方あるいは双方(有線式・無線式)に有して配設された刺し餌放出システムであり、これにより、煩わしい刺し餌の付替え及び艤装実見が減少することで、艤装操作快適性向上と動揺病軽減が望ましい。
【0050】
第四には、
図3、
図7 船体左右のトランサム左右枠部パイプの上部船縁側にハンドル11a、船底側に車輪付推進機11を連結、軸通して配設される車輪付推進機。(曲肱システム舷側部への配設も可能
図7)左右端のハンドル部はハンドル連結部11bにより、左右ハンドルを片側操作のみ及び個別に操作可能である。この車輪付推進機のメリットは、パイプ内を垂直方向に軸通するので、船体重量を車輪部が効率よく受けるので強度を有する。これにより、この艤装を実見しないことで、操作快適性向上と動揺病軽減が望ましい。
【0051】
上記四艤装の少なくとも一以上を有す曲肱システム本体部を備えることにより、艤装を実見せず曲肱使用が図れ、艤装操作快適性向上と動揺病軽減が望ましい。
【0052】
さらに曲肱システム舷側部
図3、
図7を有しても良い。船体の左右両側にフロート保持材9を介してスライド式フロート部12、トリム調整板部10、及び車輪付推進機11(ハンドル部を含む)のいずれか一以上を設ける構成が望ましい。これにより艤装を実見せず曲肱使用が図れ、操作快適性向上と動揺病軽減が望ましい。
【0053】
フロート保持材に有すスライド式フロート、トリム調整板部は、船尾トリムを調整可能な艤装である。伏臥姿勢の肩部に軸支された曲肱した肱部がアーチを描き、船縁
図726を跨いで上記艤装の調整及び制御を直接素手で行える。これは手のひらが海水に浸かるということであり、座位の場合は転覆の危険性があるが、伏臥姿勢なら安心である。
【0054】
曲肱による舷側部へのアプローチによって、船内の曲肱スペースを2倍以上船外に拡張させた。しかし、顎下に両手指を絡めた指枕を組むとき、体側部へ伸ばした左右両肱よりも、船幅の方が狭くなる。それは船体が小さく取れ、喫水は深くなり、水中水光ラインを実見するにも都合が良く、望ましい。
【0055】
曲肱システムは、上記の通り、曲肱システム本体部で四艤装、曲肱システム舷側部で三艤装、またこれに加減が可能である。手近範囲に有して、各部少なくとも一以上の艤装選択が望ましい。また、これら使用時の視線は、第一の実施例の水平識別ライン(水中水光ライン、水中色調ライン)を視野にすることは変わらず、基にしており、それに補完されるものである。
【0056】
一般船上での動揺病は、これらの艤装や作業を実見することによって誘発されることから、実見せずに作業が可能なことは動揺病軽減の他、作業効率の効果も高いことが望ましい。
【0057】
一般船上での視覚情報と内部平衡感覚とのズレに対する再配向は、視線を遠くの景色に置きながら、釣りや作業を中止し休めての再配向となる。第一の実施例では、釣魚の最中も実見または間接視野に水平識別ラインを捉え、釣魚を続けられていることが望ましい。
【0058】
ところで、一般的に乗り物の運転席、コクピットも、手近範囲に制御部を置いている。それらと、曲肱システムの手近範囲との違いは、前者の運転席は腰部を座席に固定され、頭部や上体は自由動作でき、手近な制御部は安全性、操作性をベースに設計されている割合が高い。
【0059】
一方、後者の本実施例では、伏臥姿勢下で肩部が床面に略固定され(
図5a、
図7)、指枕をすれば、もっと動作空間を狭くする。しかし、この悪条件であっても、許容される頭部の僅かな能動的動作が確保され、頭部修正の認識動作情報を脳に送ることができれば、視覚情報と内部平衡感覚のズレは軽減され、従って、動揺病軽減を図ることができる。水中水光ライン、視点、身体重心点が一直線上に関連付けされている構成が望ましい。
【0060】
図9は、実施例により、船体を4等分した図である。バウ部に向かって狭くなり、フラットボトム形をしている。図中のA図は船体分割枠51、52、53、54の連結部を示す上面図である。2組の凹凸部61,62は、B図ボルト留めによる密着部分であり、凹部溝内にはシール材が挿着される。ボルト63は六角穴付ボルトであり、ボールポイント六角ビットを使用して窮屈な部位の斜め方向からの螺合を可能とする。また、船内作業中に電動ドライバーを誤って落とした場合に、角の丸いビットはやや安全である。図中の2bは第二水中観察窓を表し、分割に関係しない。
【0061】
図10は船体収納組立体55である。上記4分割枠を入れ子式に組立てた船体の収納形態を有し、バウ部枠54に、持ち運び可能とするための持ち手60及び電動ドライバー収納庫55dを備え、防水フタ部55cを船外及び船内向き双方に備えて、電動ドライバーが船外、船内のどちらからでも取り出せる仕組みとなっている。つまり、手荷物にまとめた組立体状態において、持ち手側の同面上の蓋から電動ドライバーを取り出して、ボートの組立分解にスピーディーに対応可能なことが望ましい。
【0062】
図10は船体収納組立体55である。上記4分割枠を入れ子式に組立てた収納部であり、持ち運び可能とするための持ち手60を有す。52、53、54とは干渉せず収納できる。三辺寸法(56、57、58)の合計が158cmから150cmが望ましい。これは乗用車の助手席シート上に載せられる最大寸法である。旅客機の国際線受託手荷物で奨励される最大寸法である。最大寸法はケース付、最低寸法はケース無しであることが望ましい。
【0063】
図11は、
図1の船体に対し、防水布により船縁高さまで袋状に形成した船体布91を、着脱可能に船体に被せられるようにしたものである。船体布側に樹脂製透明板体を融着、あるいは接着した水中観察窓92とされ、船体側の透明板体は無くとも良い。できるだけ船体外形に忠実な船体布形成が求められる。船体との二重防水に効果が有る。
【0064】
図12、本実施例の水中観察ボート船体1は、水上で使用する構造体であるが、氷上、地上、というように、使用場所の状況を拡大して考慮するならば、構造体は多用途で利便性の高い船体の発展形となる。構造物の基礎部分として船体を用途拡大して基礎構造体とするものである。例えば、第一水中観察窓に連接する船体直下の水底を観察する脱着可能な第二水中観察窓兼用多用途開口部
図92bを設け、そこから更なる発展の形態を有すために、透明板体を外した使用を考える。テント張設81などの上部構造体を接続する基礎構造体80として称する。水上、氷上、地上に使い分け、開口部2bを氷上の釣魚及び観察用とするワカサギ釣りに利用でき望ましい。
【0065】
次に地上用途では、開口部を望遠鏡支持柱85aの地中への打ち込み手段を用いて、機材やテントに非接触な開口部として利用する。いずれも、テント81張設などの上部構造体を基礎構造体に接続する形態での使用率が自然と高くなる。以下は、上記二形態を詳述するにあたり、ともに透明板体を外して、窓枠口を貫通口として用い、水中観察ボート船体1を基礎構造体として使用する。
【0066】
一つ目の発展形態は、
図12に示すように望遠鏡83など観察機材の使用時において、望遠鏡の三脚を含め、ブレの影響となる振動を極力抑えるために、機材に対し、基礎構造体やテントが全く接触しない形態をとることができる。芯棒式アンカー84を複数用意し、台座孔85bに通して地中に打込み、アンカーの胴部拡張機構を作動させて地中に拡張変形する横方向圧力を与え、地中へ強固に固定されることにより、望遠鏡支持柱85aを地表面に固定し、機材やテントに無接触の状態を造り機材のブレを抑止することが望ましい。
【0067】
一般テントと違い、ボート船体をテント基礎構造体として用いているため、船縁上面に孔部を複数設けて、テント柱82、テント枠82aを挿設し、テント枠体を形成する。船縁近傍に接続手段を用いてテント布81を被覆接続する。ロープで張設される一般テントに比べ、テント布裾部の地面上のたるみが無く、テント基礎構造体の床面積が狭小にも関わらず、内部は広く有効に、しかも壁として存在するので機能性が高い。このテント基礎構造体は使用者が体を仰臥したいとき、そのまま、後方に体を倒せて使用でき、床部は強度と断熱性を有しているので快適である。船体を分割式
図9としてもよい。
【0068】
二つ目の発展形態は、ワカサギ釣りで選択される平均的な直径15cm程の氷上穴に、透明板体を外した状態の窓枠口をあてがい、テント内と水中が導通する貫通口を有すテント基礎構造体として、ワカサギ釣りに使用する。効果は上記と同じく機能性が高い。図示せず。
【0069】
図13は、斜設された水中観察窓の変形例を示す。アングル形水中観察窓 2cは、アングル形の透明板体を斜設形に代替して設けたものであって、トランサム部と前記船内床部との接続部に有す水中窓用開口部に、側面部が折り部を介して底面部に接続されるアングル形透明板体を前記水中窓用開口部へ水密に跨設されて成る前記水中観察窓部である。
【0070】
斜設に比べコスト面は安いが、アングル二面には、別々の像が映り実用的に劣る。補強のためにアングル角部にフレーム枠が入ってもよい。その場合、底面部は独立した透明板体となるので、
図12に示すテント基礎構造体として、発展形になる点が新たに生まれることは良い。また、
図11のように船体外縁部までを外部から被覆する船体布91に、前記アングル形透明板体を接着や融着手段を用いて装着した船体布側水中観察窓としてもよい。その場合、船体側の透明板体の有無はどちらであっても良い。
【符号の説明】
【0071】
1 船体
2 水中観察窓
2a 透明板体
2b 第二水中観察窓兼用多用途開口部
2c アングル形透明板体
3 トランサム部
4 側壁部
5 略平床面
6 撒き餌収納箱
7 竿部
WL 水中水光ライン
GL 仮想直線
GB 身体重心点
GBa視点高さ(床上)
SS 収納スペース
EP 視点
Epi間接視野角度
図8 遠隔刺し餌放出器
9 フロート保持材
10 トリム調整板部
11 車輪付推進機
12 スライドフロート
13 連結部
図14BB アングル形水中観察窓部
14 喫水線
15 伏臥ユーザ
16 陽光
17 バウ側アンカーロープウインチ
19 アンカー
20 船外導出筒
20a船体貫通孔
21 船外導出部
21b撒き餌杓誘導蓋
26 船縁
47 満載時の船体重心点(推定)
55 船体収納組立体
55d電動ドライバー収納庫
55c電動ドライバー取り出し口蓋部
91 船体布