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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073791
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】機能性自溶合金皮膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/18 20060101AFI20240523BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240523BHJP
   F22B 37/04 20060101ALI20240523BHJP
   F22B 37/10 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C23C4/18
C23C26/00 K
F22B37/04
F22B37/10 602A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184688
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】金澤 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】古吟 孝
(72)【発明者】
【氏名】奥津 賢一郎
【テーマコード(参考)】
4K031
4K044
【Fターム(参考)】
4K031AA04
4K031AB02
4K031AB08
4K031AB11
4K031CB30
4K031FA02
4K031FA07
4K044AA02
4K044BA02
4K044BA06
4K044BA18
4K044BB11
4K044BC02
4K044CA11
4K044CA59
4K044CA62
(57)【要約】
【課題】優れた耐摩耗性および耐食性とともに優れた潤滑性を発揮することができ、灰(クリンカ)の付着・堆積の抑制効果を長期にわたり抑制できる機能性自溶合金皮膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】自溶合金の溶射皮膜を基材の表面に形成する溶射皮膜形成工程と、潤滑剤組成物含浸工程と、前記潤滑剤組成物が含浸された前記溶射皮膜を乾燥して前記溶剤を除去することにより、前記固体潤滑剤粒子を含有する溶射皮膜を形成する乾燥工程と、前記固体潤滑剤粒子を含有する前記溶射皮膜を加熱して、前記自溶合金を再溶融させる自溶合金再溶融工程とを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶合金の溶射皮膜を基材の表面に形成する工程と、
固体潤滑剤粒子および溶剤を含有する潤滑剤組成物を前記溶射皮膜に含浸させる工程と、
前記潤滑剤組成物が含浸された前記溶射皮膜を乾燥して前記溶剤を除去することにより、前記固体潤滑剤粒子を含有する溶射皮膜を形成する工程と、
前記固体潤滑剤粒子を含有する前記溶射皮膜を加熱して、前記自溶合金を再溶融させる工程と、
を含む機能性自溶合金皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記溶射皮膜における前記自溶合金の充填率が65~85%であり、前記固体潤滑剤粒子の平均粒径が10μm以下である請求項1に記載の機能性自溶合金皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記潤滑剤組成物における前記固体潤滑剤粒子の濃度が0.02~10重量%である請求項2に記載の機能性自溶合金皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記基材が燃焼炉用構造体の構成物である請求項1~3の何れかに記載の機能性自溶合金皮膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性自溶合金皮膜の形成方法に関し、更に詳しくは、耐摩耗性および耐食性に優れているとともに、潤滑性(摺動性)にも優れている自溶合金皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物焼却施設等において、廃棄物の燃焼時に発生する灰(クリンカ)が、伝熱管等の配管に付着・堆積して、配管の伝熱効率を経時的に低下させたり、配管の腐食を促進したりするという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、下記特許文献1には、燃焼炉用構造体を構成する基材表面に形成される皮膜の形成方法であって、当該皮膜のトップコートの形成工程として、酸化物セラミックスと、層状結晶構造を有する化合物と、シリコーンと、有機溶媒とを含むスラリー状の摺動性材料を塗布又はスプレーし、その後、摺動性材料の塗膜を焼成して成膜する工程を含む方法が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法により形成される皮膜によれば、層状結晶構造を有する化合物(例えば窒化ホウ素)によって発現されるトップコートの潤滑性(摺動性)により、衝突した灰粒子をスリップさせるとともに、付着した灰の脱落性を向上させることにより、灰の付着・堆積を抑制するとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法により形成された皮膜では、潤滑性を発現するトップコートが十分な耐食性および耐摩耗性を有するものでないため、当該トップコートの腐食や磨耗などによって、比較的短時間で灰の付着・堆積の抑制効果が失われてしまう。
【0006】
なお、特許文献1には、耐食性および耐摩耗性が良好なニッケル-クロム合金の溶射皮膜などをベースーコートとし、このベースーコートの表面に摺動性材料を塗布し、摺動性材料の塗膜を焼成してトップコートを積層形成することにより二層構成の皮膜を形成することが開示されているが、耐食性や耐摩耗性の良好な材料でベースーコートを形成しても、トップコートの耐食性および耐摩耗性の向上を図ることはできない。
【0007】
他方、本発明者らは、自溶合金粉末と固体潤滑剤粒子と結着樹脂と溶剤とを含むスラリー状組成物を基材表面に塗布し、溶剤除去後の乾燥塗膜を、高周波誘導加熱装置で1000~1200℃に加熱することによって、結着樹脂を熱分解除去するとともに、自溶合金粉末と固体潤滑剤粒子とを焼結させて機能性自溶合金皮膜を形成する方法を提案している(下記の特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2に記載の形成方法によれば、自溶合金および固体潤滑剤粒子が併存する単一層からなる皮膜を形成することができる。
【0009】
しかしながら、自溶合金粉末と固体潤滑剤粒子とを焼結させる特許文献2に記載の方法によっては緻密な皮膜を形成することができず、形成される皮膜は気孔率の高いポーラス状となる。このため、特許文献2に記載の方法によって形成される皮膜は、十分な強度を有するものとならず、自溶合金を含有させることによって期待した耐食性および耐摩耗性の向上効果を十分に奏することはできない。
【0010】
また、必要な皮膜の厚みを確保するためには、スラリー状組成物の塗布と乾燥を繰り返し行って塗膜の膜厚を確保する必要があり、施工性の観点からも問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6982391号公報
【特許文献2】特許第6351070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、優れた耐摩耗性および耐食性とともに優れた潤滑性(摺動性)を発揮することができ、灰(クリンカ)の付着・堆積の抑制効果を長期にわたり抑制することができる機能性自溶合金皮膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の機能性自溶合金皮膜の形成方法は、自溶合金の溶射皮膜を基材の表面に形成する工程(以下、「溶射皮膜形成工程」という)と、
固体潤滑剤粒子および溶剤を含有する潤滑剤組成物を前記溶射皮膜に含浸させる工程(以下、「潤滑剤組成物含浸工程」という)と、
前記潤滑剤組成物が含浸された前記溶射皮膜を乾燥して前記溶剤を除去することにより、前記固体潤滑剤粒子を含有する溶射皮膜を形成する工程(以下、「乾燥工程」という)と、
前記固体潤滑剤粒子を含有する前記溶射皮膜を加熱して、前記自溶合金を再溶融させる工程(以下、「自溶合金再溶融工程」という)とを含むことを特徴とする。
【0014】
このような形成方法によれば、自溶合金再溶融工程において、固体潤滑剤粒子が含有されている溶射皮膜を加熱して自溶合金を再溶融させることにより、自溶合金と固体潤滑剤粒子とが併存する単一層からなる皮膜を形成することができ、この皮膜は、溶射・再溶融処理により成膜された自溶合金による優れた耐摩耗性および耐食性とともに、固体潤滑剤粒子による優れた潤滑性(摺動性)を発揮することができる。
【0015】
(2)本発明の機能性自溶合金皮膜の形成方法において、前記溶射皮膜における前記自溶合金の充填率が65~85%であり、前記固体潤滑剤粒子の平均粒径が10μm以下であることが好ましい。
【0016】
このような形成方法によれば、潤滑剤組成物含浸工程において、溶射皮膜の気孔内に固体潤滑剤粒子が捕捉されることなく、潤滑剤組成物を溶射皮膜に効率的に含浸させることができ、固体潤滑剤粒子を溶射皮膜の内部に均一に分散させることができる。これにより、乾燥工程および自溶合金再溶融工程を経て形成される皮膜に、潤滑性を発揮するために十分な量の固体潤滑剤粒子を均一に含有させることができる。
【0017】
(3)本発明の機能性自溶合金皮膜の形成方法において、前記潤滑剤組成物における前記固体潤滑剤粒子の濃度が0.02~10重量%であることが好ましい。
【0018】
このような形成方法によれば、潤滑剤組成物含浸工程において、潤滑剤組成物を更に効率的に含浸させることができる。
【0019】
(4)本発明の機能性自溶合金皮膜の形成方法において、前記基材が燃焼炉用構造体の構成物であること(燃焼炉用構造体の構成物の表面に皮膜を形成すること)が好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の形成方法によれば、自溶合金による優れた耐摩耗性および耐食性とともに、固体潤滑剤粒子による優れた潤滑性(摺動性)を発揮することができる機能性自溶合金皮膜を形成することができ、この機能性自溶合金皮膜によれば、灰(クリンカ)の付着を長期にわたり抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1において低充填率溶射皮膜を使用して金属管外面に形成された機能性自溶合金皮膜の断面を示す写真である。
図2】実施例1において高充填率溶射皮膜を使用して金属管外面に形成された機能性自溶合金皮膜の断面を示す写真である。
図3】循環式水管ボイラの概略構造を示す模式図である。
図4図3に示した循環式水管ボイラの蒸発管の一段目の配管に配置して使用した後のプロテクタの外面を示す写真であり、(a)は、実施例2に係るプロテクタの外面であり、(b)は、比較例1に係るプロテクタの外面である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の機能性自溶合金皮膜の形成方法について詳細に説明する。
本発明の形成方法は、自溶合金の溶射皮膜を基材の表面に形成する溶射皮膜形成工程と、固体潤滑剤粒子および溶剤を含有する潤滑剤組成物を溶射皮膜に含浸させる潤滑剤組成物含浸工程と、潤滑剤組成物が含浸された溶射皮膜を乾燥して溶剤を除去することにより、固体潤滑剤粒子を含有する溶射皮膜を形成する乾燥工程と、固体潤滑剤粒子を含有する溶射皮膜を加熱して自溶合金を再溶融させる自溶合金再溶融工程とを含む。
【0023】
本発明において、機能性自溶合金皮膜を形成する基材(被処理物)としては、鋼材など、燃焼炉用構造体の構成物として使用されている金属材料を挙げることができる。基材の形状としては、特に限定されるものではない。
【0024】
<溶射皮膜形成工程>
溶射皮膜形成工程は、基材の表面に自溶合金粉末を溶射して溶射皮膜を形成する工程である。溶射方法としては、フレーム溶射、高速フレーム溶射、プラズマ溶射などを挙げることができる。
【0025】
基材表面に溶射される自溶合金粉末としては、JIS H 8303(自溶合金溶射)に規定されているものを挙げることができる。
自溶合金粉末の平均粒径としては150μm以下であることが好ましく、更に好ましくは35~125μmとされる。
【0026】
自溶合金粉末を溶射して形成される溶射皮膜は、これを再溶融することにより、耐摩耗性および耐食性に優れた緻密な皮膜を形成することができる。
【0027】
溶射皮膜の厚さは0.5~5mmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~3mmとされる。
【0028】
溶射皮膜における前記自溶合金の充填率は65~85%であることが好ましく、更に好ましくは70~80%とされる。
ここに、「自溶合金の充填率」とは、溶射皮膜において自溶合金の占める体積割合をいい、溶射皮膜のかさ体積をV、自溶合金の重量をW、自溶合金の真密度をρとするとき、W/(V・ρ)で算出することができる。
【0029】
溶射皮膜における前記自溶合金の充填率が65~85%であることにより、最終的に形成される機能性自溶合金皮膜の強度、耐摩耗性および耐食性を十分に確保しながら、後述する潤滑剤組成物含浸工程において、固体潤滑剤粒子を含有する組成物を溶射皮膜に効率的に含浸させて、固体潤滑剤粒子を溶射皮膜の内部に均一に分散させることができ、乾燥工程および自溶合金再溶融工程を経て形成される機能性自溶合金皮膜の内部に、潤滑性(摺動性)を発揮するために十分な量の固体潤滑剤粒子を含有させることができる。
【0030】
自溶合金の充填率が65%未満である場合には、最終的に形成される機能性自溶合金皮膜が十分な強度を有するものとならないことがある。また、溶射皮膜の形成にあたり施工性が損なわれて歩留りが低下することがある。
他方、自溶合金の充填率が85%を超える場合には、潤滑剤組成物含浸工程において、固体潤滑剤粒子を含有する組成物を溶射皮膜に効率的に含浸させることが困難となる。
【0031】
なお、従来の自溶合金皮膜の形成方法においては、自溶合金粉末の付着効率を高く維持し、最終的に形成される自溶合金皮膜に可能な限り気孔を残存させないという観点から、溶射皮膜における自溶合金の充填率が85%以下になることはなく、通常87~95%程度である。
【0032】
自溶合金の充填率を85%以下にするためには、溶射装置を構成する粉末供給装置の流量や圧力を増加して自溶合金粉末の供給量(吐出量)を通常よりも増加させたり、燃焼ガスや酸素の流量を低下して溶射時の火力を通常よりも低減させたりすることにより調整することができる。
【0033】
<潤滑剤組成物含浸工程>
潤滑剤組成物含浸工程は、溶射皮膜形成工程で形成された溶射皮膜に潤滑剤組成物を含浸させることにより、当該溶射皮膜に固体潤滑剤粒子を含有させる工程である。
【0034】
この工程で使用する潤滑剤組成物は、固体潤滑剤粒子および溶剤を必須成分とする。
【0035】
潤滑剤組成物に含有される固体潤滑剤粒子としては、皮膜の表面に潤滑性(低摩擦係数)を付与できる粒子であれば特に限定されるものではなく、好適なものとして、窒化ホウ素(BN)、二硫化モリブデン(MoS2 )およびグラファイト(C)などの粒子を挙げることができる。
【0036】
固体潤滑剤粒子の平均粒径としては10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは0.02~3μmとされる。
平均粒径が10μm以下である小径の固体潤滑剤粒子は、溶射皮膜の気孔内に捕捉されにくいので、潤滑剤組成物を溶射皮膜に効率的に含浸させる(溶射皮膜の厚さ方向の深部まで浸透させる)ことができ、固体潤滑剤粒子を溶射皮膜の内部に均一に分散させることができる。この結果、後述する乾燥工程および自溶合金再溶融工程を経て形成される皮膜の内部に、潤滑性(摺動性)を発揮するために十分な量の固体潤滑剤粒子を含有させることができる。
【0037】
潤滑剤組成物に含有される溶剤としては、特に限定されるものではなく、有機溶剤であっても水系溶剤であってもよい。
潤滑剤組成物に含有される好適な有機溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールを挙げることができる。
【0038】
潤滑剤組成物における固体潤滑剤粒子の濃度は0.02~10重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.2~2重量%とされる。
【0039】
固体潤滑剤粒子の濃度が0.02重量%未満である場合には、所定量の固体潤滑剤粒子を溶射皮膜に含有させるために多量の組成物(溶剤)が必要となり、生産効率の観点から好ましくない。他方、固体潤滑剤粒子の濃度が10重量%を超える場合には、潤滑剤組成物を溶射皮膜に効率的に含浸させることが困難となることがある。
【0040】
潤滑剤組成物はスラリー状または液状を呈している。
【0041】
平均粒径10μm以下の固体潤滑剤粒子を含有する潤滑剤組成物を溶射皮膜(好ましくは自溶合金の充填率が65~85%である溶射皮膜)の表面に塗布することにより、潤滑剤組成物を当該溶射皮膜に含浸(内部に浸透)させることができる。
溶射皮膜の表面に潤滑剤組成物を塗布する方法としては、スプレー法、浸漬法、刷毛やローラなどの塗布手段を使用する方法など特に限定されるものではない。
【0042】
<乾燥工程>
乾燥工程は、潤滑剤組成物が含浸された溶射皮膜を乾燥して溶剤を除去することにより、固体潤滑剤粒子を含有する溶射皮膜を形成する工程である。
ここに、乾燥温度としては100℃以下とされ、好ましくは10~70℃とされる。
乾燥方法としては、固体潤滑剤粒子を含有する溶射皮膜が形成された基材を大気中に放置するだけでよいが、圧縮空気や熱風を当該溶射皮膜に吹き付けてもよい。
乾燥時間としては、膜形成性組成物中の溶剤の含有割合や乾燥条件などにより異なるが、通常1~10分間とされる。
【0043】
<自溶合金再溶融工程>
自溶合金再溶融工程は、乾燥工程で得られた固体潤滑剤粒子を含有する溶射皮膜を加熱して自溶合金を再溶融させる工程である。
【0044】
この工程における加熱温度は、通常900℃以上、好ましくは950~1100℃とされ、この温度が保持される加熱時間は、例えば5~200秒間とされる。
加熱処理は高周波誘導加熱によって好適に行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0045】
この自溶合金再溶融工程によって、固体潤滑剤粒子を含有(包含)する緻密な皮膜(機能性自溶合金皮膜)が基材の表面に形成され、当該皮膜は、自溶合金による優れた耐摩耗性および耐食性とともに、固体潤滑剤粒子による優れた潤滑性(摺動性)を発揮することができる。
ここに、本発明の形成方法により形成される機能性自溶合金皮膜の膜厚としては、通常0.45~4.5mmとされ、好ましくは0.7~2.7mmとされる。
また、本発明の方法により形成された機能性自溶合金皮膜は、強固で基材に対する密着性も良好であり、また、緻密性も良好である。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではな
い。
【0047】
以下の実施例1において、基材としては、外径38.1mm、肉厚3.5mm、長さ600mmの金属管〔機械構造用炭素鋼鋼管(STKM13A)〕を使用した。
また、以下の実施例2および比較例1において、基材としては、外径60.5mm、肉厚5.5mm、長さ1000mmの金属管(SUS316L)を使用した。
また、自溶合金粉末材料としては、JIS H 8303 2.14Aに相当する、粒径35~125μmの自溶合金粉末を使用した。
【0048】
<実施例1>
(1)溶射皮膜形成工程:
(1-1)低充填率溶射皮膜の形成:
粉末吐出量=20~21Lbs/Hr、アセチレンガス流量=18flow%、酸素ガス流量=30flow%および周速=40m/min、ピッチ=5mm/sの条件で金属管の外面(両端100mmを除いた400mmの施工範囲)に自溶合金粉末をフレーム溶射することにより、厚さ2.0mmの溶射皮膜を形成した。
形成された溶射皮膜のかさ体積、自溶合金の重量(溶射前後の試験材の重量変化)、自溶合金の真密度から算出した溶射皮膜における自溶合金の充填率は70.0%(気孔率=30.0%)であった。
【0049】
(1-2)高充填率溶射皮膜の形成:
上記条件のうち、アセチレンガス流量を28flow%に変更し、酸素ガス流量を40flow%に変更したこと以外は、上記(1-1)と同様にして自溶合金粉末をフレーム溶射することにより、厚さ2.0mmの溶射皮膜を形成した。形成された溶射皮膜における自溶合金の充填率は88.1%(気孔率=11.9%)であった。
【0050】
(2)潤滑剤組成物含浸工程:
(2-1)潤滑剤組成物の準備・調製:
潤滑剤組成物として、平均粒径0.05μmの窒化ホウ素粒子をIPAに分散含有してなるスラリー「LSL-170-20-IPA」(株式会社MARUKA製,窒化ホウ素粒子の濃度=19.87重量%)を準備した。これを「潤滑剤組成物(L100 )」とする。
【0051】
また、上記のスラリー「LSL-170-20-IPA」を、エタノールにより、重量比で2倍に希釈して潤滑剤組成物(L50)を調製し、10倍に希釈して潤滑剤組成物(L10)を調製し、20倍に希釈して潤滑剤組成物(L5 )を調製し、100倍に希釈して潤滑剤組成物(L1 )を調製した。
【0052】
(2-2)潤滑剤組成物含浸工程:
上記溶射皮膜形成工程で形成された低充填率溶射皮膜および高充填率溶射皮膜の各々の表面に、潤滑剤組成物(L100 )、潤滑剤組成物(L50)、潤滑剤組成物(L10)、潤滑剤組成物(L5 )および潤滑剤組成物(L1 )をそれぞれ刷毛を使用して塗布する(塗布範囲=50mm)ことにより、各々の溶射皮膜に潤滑剤組成物を含浸させた。
【0053】
(3)乾燥工程:
上記の潤滑剤組成物含浸工程により潤滑剤組成物の各々が含浸された溶射皮膜(低充填率溶射皮膜および高充填率溶射皮膜)を有する金属管を大気中に5分間放置することにより、潤滑剤組成物を構成する溶剤を完全に除去した。
【0054】
(4)自溶合金再溶融工程:
上記の乾燥工程を経て、金属管の外面に形成された窒化ホウ素粒子を含有する溶射皮膜(低充填率溶射皮膜および高充填率溶射皮膜)の各々を、高周波誘導加熱装置を用いて、約100℃/秒の昇温速度で1050℃まで昇温させ、この温度で20秒間にわたり加熱することにより、自溶合金を再溶融させた。
その後、30分間かけて室温まで冷却することにより、金属管の外面に厚さ1.7mm程度の機能性(潤滑性)自溶合金皮膜を形成した。
【0055】
<機能性自溶合金皮膜における窒化ホウ素粒子の分散性>
実施例1により形成された自溶合金皮膜の断面を目視により観察し、窒化ホウ素粒子の分散状態を観察した。評価基準は下記のとおりである。
結果を図1図2および下記表1に示す。
【0056】
(評価基準)
「◎」:窒化ホウ素粒子が自溶合金皮膜全体に均一に分散している。
「○」:窒化ホウ素粒子が自溶合金皮膜全体に分散しているが、やや偏りがある。
「△」:窒化ホウ素粒子が部分的にしか観察されず、その量も少ない。
「×」:窒化ホウ素粒子がほとんど観察されない。
【0057】
ここに、図1は、潤滑剤組成物含浸工程において低充填率溶射皮膜(自溶合金の充填率=70.0%)を使用して形成された皮膜の断面であり、図2は高充填率溶射皮膜(自溶合金の充填率=88.1%)を使用して形成された皮膜の断面である。
また、図1および図2において、(a)は、潤滑剤組成物含浸工程において潤滑剤組成物(L100 )を含浸して形成された皮膜、(b)は、潤滑剤組成物(L50)を含浸して形成された皮膜、(c)は、潤滑剤組成物(L10)を含浸して形成された皮膜、(d)は、潤滑剤組成物(L5 )を含浸して形成された皮膜、(e)は、潤滑剤組成物(L1 )を含浸して形成された皮膜である。
図1および図2において、皮膜内で白く見えている部分が窒化ホウ素粒子である。
【0058】
【表1】
【0059】
図1に示すように、低充填率溶射皮膜を使用して形成された皮膜には、窒化ホウ素粒子が分散含有されていることが目視によって認めることができる。
図2に示すように、高充填率溶射皮膜を使用して形成された皮膜には、窒化ホウ素粒子が分散含有されていることが目視によって認めることができなかったものの、電子顕微鏡で観察することにより、窒化ホウ素粒子が含有されていることが確認された。
【0060】
<実施例2>
(1)溶射皮膜形成工程:
金属管(SUS316L)に自溶合金粉末をフレーム溶射することにより、厚さ1.5mm、自溶合金の充填率70.0%の溶射皮膜(低充填率溶射皮膜)を形成した。
【0061】
(2)潤滑剤組成物含浸工程:
窒化ホウ素粒子をIPAに分散含有してなるスラリー「LSL-170-20-IPA」をエタノールにより100倍に希釈して潤滑剤組成物を調製し、上記の溶射皮膜形成工程で形成された溶射皮膜の表面に塗布する(塗布範囲=500mm)ことにより、当該溶射皮膜に潤滑剤組成物の各々を含浸させた。
【0062】
(3)乾燥工程:
上記の潤滑剤組成物含浸工程により潤滑剤組成物が含浸された溶射皮膜を有する金属管を大気中に5分間放置することにより、潤滑剤組成物を構成する溶剤を完全に除去した。
【0063】
(4)自溶合金再溶融工程:
上記の乾燥工程を経て、金属管の外面に形成された窒化ホウ素粒子を含有する溶射皮膜を、高周波誘導加熱装置を用いて、約100℃/秒の昇温速度で1050℃まで昇温させ、この温度で20秒間にわたり加熱することにより、自溶合金を再溶融させた。その後、60分間かけて室温まで冷却することにより、金属管の外面に厚さ1.2mm程度の機能性自溶合金皮膜を形成した。
【0064】
<比較例1>
金属管(SUS316L)に自溶合金粉末をフレーム溶射することにより、厚さ1.5mm、自溶合金の充填率88.1%の溶射皮膜(高充填率溶射皮膜)を形成した。その後、実施例2(4)と同様にして、形成された溶射皮膜を加熱して自溶合金を再溶融させることにより、金属管の外面に厚さ1.2mm程度の自溶合金皮膜を形成した。
【0065】
<灰(クリンカ)の付着・堆積の抑制効果>
実施例2および比較例1によって自溶合金皮膜を形成した金属管の各々を、レーザ切断機を用いて縦割りすることにより半割金属管とし、図3に示すような循環式水管ボイラの蒸発管を保護するためのプロテクタとして設置した。
図3において、1はドラム、3は循環ポンプ、5は蒸発管であり、7は、蒸発管5の第1段目に設置されたプロテクタ(実施例2または比較例1において自溶合金皮膜を形成した金属管を縦割りして作製した前記半割金属管)である。
燃焼ガスにより第1段目における雰囲気温度は800~1000℃となる。
【0066】
実施例2および比較例1に係るプロテクタの各々を設置した循環式水管ボイラを6か月間にわたり連続的に稼働させた後、プロテクタを回収して自溶合金皮膜が形成された外面を観察した。結果を図4に示す。
図4において、白く見えているものが灰(クリンカ)である。
図4(a)に示すように、実施例2に係るプロテクタの外面には、クリンカが殆ど付着していない。これに対して、図4(b)に示すように、比較例1に係るプロテクタの外面には、クリンカの堆積が顕著に認められる。
【符号の説明】
【0067】
1 ドラム
3 循環ポンプ
5 蒸発管
7 プロテクタ
図1
図2
図3
図4