(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073797
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】研磨組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240523BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240523BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20240523BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C09K3/14 550F
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184697
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】313001309
【氏名又は名称】株式会社サイコックス
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】青木 克冬
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB01
3C158CB10
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5F057AA03
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5F057EA27
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5F057EA29
5F057EA30
(57)【要約】
【課題】砥粒の凝集粉の発生を抑え、砥粒の分散性が良く、研磨対象面に研磨スクラッチを発生させずに平滑性の高い平滑面を得ることのできる研磨組成物を提供する。
【解決手段】ダイヤモンド砥粒と、多価アルコールと、純水と、分散剤と、を含有する研磨組成物であって、前記ダイヤモンド砥粒の含有量が0.01~0.4質量%であり、前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径D50が10nm~1μmであり、前記多価アルコールの含有量が1~30質量%であり、前記分散剤は、有機酸塩、無機酸塩、またはオクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の少なくともいずれかである、研磨組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド砥粒と、
多価アルコールと、
純水と、
分散剤と、
を含有する研磨組成物であって、
前記ダイヤモンド砥粒の含有量が0.01~0.4質量%であり、
前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径D50が10nm~1μmであり、
前記多価アルコールの含有量が1~40質量%であり、
前記分散剤は、有機酸塩、無機酸塩、またはオクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の少なくともいずれかである、研磨組成物。
【請求項2】
前記ダイヤモンド砥粒は、単結晶ダイヤモンド砥粒または多結晶ダイヤモンド砥粒のいずれかである、請求項1に記載の研磨組成物。
【請求項3】
前記多価アルコールはエチレングリコールである、請求項1または請求項2に記載の研磨組成物。
【請求項4】
前記分散剤は、ヘキサメタリン酸ナトリウム、またはオクチルフェノキシポリエトキシエタノールの少なくともいずれかである、請求項1または請求項2に記載の研磨組成物。
【請求項5】
前記分散剤が前記有機酸塩および/または前記無機酸塩である場合、前記有機酸塩および/または前記無機酸塩の含有量が0.003~0.1質量%である、請求項4に記載の研磨組成物。
【請求項6】
前記分散剤が前記オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤である場合、前記オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の含有量が0.0025~0.07質量%である、請求項4に記載の研磨組成物。
【請求項7】
多結晶SiC基板の研磨に用いる研磨組成物である、請求項1または請求項2に記載の研磨組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨組成物に関し、例えば多結晶SiC基板の研磨に用いる研磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化シリコン(SiC)は、2.2~3.3eVの広い禁制帯幅を有するワイドバンドギャップ半導体であり、その優れた物理的、化学的特性から、対環境製半導体材料として研究開発が行われている。特に近年、SiCは、高耐圧・高出力電子デバイス、高周波電子デバイス、青色から紫外にかけての短波長光デバイス向けの材料として注目されており、研究開発は盛んになっている。ところが、SiCは、良質な大口径単結晶の製造が難しく、これまでSiCデバイスの実用化を妨げてきた。このことから、半導体デバイス用途、とくに高耐圧・高出力電子素子用途のSiC基板を安価に提供できる技術の開発が強く望まれていた。
【0003】
そこで、デバイス形成層部のみ品質の良い単結晶SiCを用いて、それを支持基板(デバイス製造工程に耐えうる強度・耐熱性・清浄度をもつ材料:例えば、多結晶SiC)の接合対象面に、接合界面における酸化膜の形成を伴わない接合手法にて固定して接合基板とすることにより、低コスト(支持基板部)と高品質(SiC部)を兼ね備えた半導体基板を製造する技術が提供されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
接合基板を製造する際の、単結晶SiC基板と多結晶SiC基板を接合する接合工程においては、多結晶SiC基板の接合対象面の表面粗さが重要視される。多結晶SiC基板の表面粗さ、つまり表面の微細な凹凸が大きくなると、多結晶SiC基板と単結晶SiC基板が充分に密着せず接合することができないためである。あるいはこれらを接合できたとしても、多結晶SiC基板と単結晶SiC基板の接合界面に微細な隙間が生じ、接合基板において多数の欠陥(接合欠陥)が発生する。
【0005】
多結晶SiC基板は、例えばカーボンなどで形成された下地基材上に、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)によって多結晶SiCを成長させた後、下地基材を除去する手法を用いて形成される。
【0006】
単結晶SiC基板と多結晶SiC基板とを接合する接合工程に用いる多結晶SiC基板の接合対象面の算術表面粗さRaは、0.1~0.5nm程度であることが求められる。このような表面粗さとするために、接合対象面を例えばCMP(化学的機械研磨)してCMP研磨面を得るが、その研磨面の様相は、多結晶SiC基板の特性(結晶構造)によって単結晶SiC基板と異なったものとなる。単結晶SiCは、言い換えれば同一方位を向いた一つの大きな結晶粒であるため、CMPによって単結晶SiC基板の研磨対象面を均一に研磨できることから、多結晶SiC基板と比べて表面粗さの小さい高精度な研磨面を容易に得ることができる。その一方で、多結晶SiCは様々な方位を向いた小さな結晶粒の集合体であるため、CMPした際の研磨対象面の研磨速度は各結晶粒によって異なることから、各結晶粒によって摩耗量が異なっており、結果として研磨対象面は粒界に沿って無数の凹凸が発生しやすく、多結晶SiCの場合は表面粗さの小さい研磨面を得ることが単結晶SiC基板と比べて難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多結晶SiC基板において、高精度の研磨面を得る手法としては、CMPの他に、例えばダイヤモンド微粒子と金属定盤を組み合わせた機械研磨が知られている。多結晶SiC基板は、様々な方位を向いた結晶粒の集合体であるため、研磨機構に化学的作用を含むCMPでは、各多結晶粒間で発生するエッチングレートの差によって面荒れを発生させる場合がある。一方で、化学的作用を含まない機械研磨では、CMPの場合のような多結晶SiC基板特有の面荒れが生じにくい。そのため、機械研磨は、CMPと比べて多結晶SiC基板の研磨面を高精度に仕上げることが可能である。
【0009】
一方で、機械研磨は切削痕や加工歪が残留するため、平滑面を得るのが難しいというデメリットがある。機械研磨において平滑な研磨面を得るには、砥粒の粒径が重要となる。粒径を小さくするほど、被研磨物へのアタックが弱くなり、平滑性の向上と、研磨面スクラッチの抑制を図ることができる。ただし、機械研磨に使う砥粒は液体等の分散媒体に分散させてスラリー化した状態で使用するが、砥粒を液体に分散させる際、砥粒の粒径を小さくするほど砥粒の凝集や沈殿が起きやすくなる傾向があり、これにより生じる凝集粉が研磨面にスクラッチ等のひっかき傷を発生させる要因となり得る。このため、粒径が小さい砥粒を用いているにもかかわらず、砥粒の粒径以上の深さを持つスクラッチが研磨面に生じる場合がある。
【0010】
また、砥粒を分散媒体に分散させるためには、分散剤を添加するのが一般的であるが、分散剤が不足していると砥粒が分散媒体中で十分に分散せずに凝集粉を生じる場合があり、一方で、分散剤が過剰であると分散した砥粒の微粒子が分散媒体の底に沈降しやすくなり、沈降した微粒子が凝集粉となる場合がある。すなわち、分散剤が不足している場合と過剰な場合のいずれにおいても、多結晶SiC基板の研磨面にスクラッチが発生するおそれがある。
【0011】
そこで、上記課題を解決するべく、本発明は、特に多結晶SiCの研磨を意識した研磨組成物であり、砥粒の凝集粉の発生を抑え、砥粒の分散性が良く、研磨対象面に研磨スクラッチを発生させずに平滑性の高い平滑面を得ることのできる研磨組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するべく、本発明の研磨組成物は、ダイヤモンド砥粒と、多価アルコールと、純水と、分散剤と、を含有する研磨組成物であって、前記ダイヤモンド砥粒の含有量が0.01~0.4質量%であり、前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径D50が10nm~1μmであり、前記多価アルコールの含有量が1~40質量%であり、前記分散剤は、有機酸塩、無機酸塩、またはオクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の少なくともいずれかである。
【0013】
前記ダイヤモンド砥粒は、単結晶ダイヤモンド砥粒または多結晶ダイヤモンド砥粒のいずれかであってもよい。
【0014】
前記多価アルコールはエチレングリコールであってもよい。
【0015】
前記分散剤は、ヘキサメタリン酸ナトリウム、またはオクチルフェノキシポリエトキシエタノールの少なくともいずれかであってもよい。
【0016】
前記分散剤が前記有機酸塩および/または前記無機酸塩である場合、前記有機酸塩および/または前記無機酸塩の含有量が0.003~0.1質量%であってもよい。
【0017】
前記分散剤が前記オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤である場合、前記オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の含有量が0.0025~0.07質量%であってもよい。
【0018】
本発明の研磨組成物は、多結晶SiC基板の研磨に用いる研磨組成物であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明であれば、砥粒の凝集粉の発生を抑え、砥粒の分散性が良く、研磨対象面に研磨スクラッチを発生させずに平滑性の高い平滑面を得ることのできる研磨組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の研磨組成物の一実施形態について、詳細に説明する。
【0021】
本発明は、機械研磨に用いられる研磨組成物である。特に、研磨対象物が多結晶SiC基板である場合において、研磨面の平滑性を向上させると共に、研磨対象面に研磨によるスクラッチが発生することの抑制を図ることができる。
【0022】
[研磨組成物]
本発明の研磨組成物は、ダイヤモンド砥粒と、分散媒体である多価アルコール及び純水と、分散剤を含有する。以下、各原料について詳細に説明する。
【0023】
〈ダイヤモンド砥粒〉
ダイヤモンドは、多結晶SiC基板等の難加工材を研磨するにおいて、その高硬度から様々なスラリー組成において切削性を維持しやすいため、砥粒として用いることが好ましい。
【0024】
ダイヤモンド砥粒としては、単結晶ダイヤモンド砥粒または多結晶ダイヤモンド砥粒を用いても良く、これらを併用してもよい。また、ダイヤモンド砥粒として人工ダイヤモンドまたは天然ダイヤモンドからなる砥粒を用いても良く、これらを併用してもよい。
【0025】
ダイヤモンド砥粒の平均粒径(粒度分布計で測定されるD50値、体積基準。粒度分布計の種類、方法、型式は、その粒径を測定するに適したものであれば特に指定しない。)は、10nm~1μmである。機械研磨においてダイヤモンド砥粒を用いて平滑な研磨面を得るには、ダイヤモンド砥粒の粒径が重要となる。ダイヤモンド砥粒の粒径を小さくするほど、研磨の際の被研磨物へのアタックが弱くなり、研磨面の平滑性の向上、および研磨対象面にスクラッチが発生することの抑制を図ることができる。ただし、ダイヤモンド砥粒の粒径が小さすぎると、砥粒が凝集してしまうことで研磨面の平滑性の向上、および研磨対象面にスクラッチが発生することの抑制ができないおそれがあることから、ダイヤモンド砥粒の平均粒径D50の下限は10nmとする。
【0026】
また、本発明の研磨組成物を用いて研磨することにより、多結晶SiC基板の表面の算術表面粗さRaを0.5nm以下に整える必要がある。そのため、ダイヤモンド砥粒の平均粒径D50は1μm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0027】
このような平均粒径D50が10nm~1μmの小粒径のダイヤモンド砥粒を用いることにより、前述のとおり研磨面のスクラッチの発生を抑制し、研磨面の平滑性を向上させることができる。一方で、平均粒径D50が10nm~1μmの範囲の粒径のダイヤモンド砥粒は、1μmより大きい粒子に比べて分散媒体への分散性が極端に悪化する傾向があるため、分散性を満足するよう、研磨組成物中におけるダイヤモンド砥粒と、多価アルコール、純水、分散剤との濃度比率がより重要となる。
【0028】
すなわち、研磨組成物中におけるダイヤモンド砥粒の含有量は、0.01~0.4質量%であり、好ましくは、0.05~0.25質量%である。研磨組成物中におけるダイヤモンド砥粒の含有量は、研磨面の研磨速度やスクラッチの発生に影響する。当該含有量が0.01未満の場合、研磨組成物を用いた研磨面の研磨速度が極端に低下するおそれがあり、研磨効率が低下する要因となる。また、当該含有量が0.4質量%を超えると、ダイヤモンド砥粒の分散性が悪くなるおそれがあり、ダイヤモンド砥粒が凝集して研磨面にスクラッチが発生する原因となる。
【0029】
〈分散媒体〉
分散媒体は、ダイヤモンド砥粒を分散させる媒体であり、具体的には多価アルコールと純水が分散媒体である。
【0030】
(多価アルコール)
多価アルコールは、分子内に水酸基を2個以上有するアルコールであり、炭素数、水酸基数等に特に限定はなく、2価以上の価数のアルコールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン等の常温で液体の多価アルコールを用いることができる。特に、エチレングリコールは、引火性や環境負荷の観点、および水への溶解性が良く、低粘度である点でより好ましい。
【0031】
研磨組成物中における多価アルコールの含有量は、1~40質量%である。好ましくは、5~35質量%であり、より好ましくは、10~30質量%である。
【0032】
研磨組成物中における多価アルコールの含有量が1質量%未満の場合、ダイヤモンド砥粒が分散し難くなるおそれがある。例えば、研磨組成物が多価アルコールを含まず分散媒体が純水のみの場合では、ダイヤモンド砥粒が分散せず凝集が発生する。
【0033】
また、研磨組成物中における多価アルコールの含有量が40質量%を超えると、ダイヤモンド砥粒に起因するダイヤモンド微粒子の沈殿が確認され、分散安定性が低下する場合がある。この沈殿の発生は、ダイヤモンド砥粒の量が過剰な条件では、ダイヤモンド微粒子同士の親和性が上昇し、微粒子同士が再凝集し、沈殿するためである。
【0034】
(純水)
また、分散媒体としては、多価アルコールと相溶する親和性が高いものを使用することであり、本発明では純水を用いる。
【0035】
研磨組成物中における純水の含有量は、ダイヤモンド砥粒、多価アルコール、分散剤の含有量の残量である。これらの各成分の含有量にもよるが、研磨組成物中の純水の含有量は、概ね、59.7~99質量%である。
【0036】
〈分散剤〉
添加剤は、主にダイヤモンド砥粒に対して分散効果のある分散剤を添加する。ダイヤモンド微粒子の砥粒を液体に分散させる際、砥粒径を小さくするほど液体中での凝集や沈殿が起きやすくなる傾向があり、この砥粒の凝集粉が研磨面へのスクラッチの発生などの問題を生じさせる。分散剤を用いずに、ダイヤモンド砥粒と多価アルコールと純粋のみで研磨組成物を構成しようとすると、ダイヤモンド砥粒の凝集が発生する場合がある。そこで、ダイヤモンド砥粒に対して分散効果のある分散剤を添加する。
【0037】
分散剤としては、有機酸塩、無機酸塩、またはオクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の少なくともいずれかを用いることができる。
【0038】
有機酸塩としては、例えばクエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられ、無機酸塩としては、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの塩の中でも、リン酸塩類が好ましく、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウムを添加することができる。ヘキサメタリン酸ナトリウムは、特に純水に対するダイヤモンド砥粒及び多価アルコールの親和性を高める効果があり、分散剤として用いることが好ましい。
【0039】
また、分散剤としては、親水基にポリオキシエチレン鎖と、疎水基にオクチルフェノール基を持つ界面活性剤を添加することができる。具体的にはポリオキシエチレン鎖とオクチルフェノール基がエーテル結合で結びついたオクチルフェノールエトキシレート系の界面活性剤が好ましく、例えば、トリトンX-100の通称で知られるポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)を添加することができる。ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルは、特にダイヤモンド砥粒と多価アルコールの親和性を高める効果があり、分散剤として用いることが好ましい。
【0040】
有機酸塩、無機酸塩、オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤は、分散剤としてそれぞれ単独で使用してもよいし、これらを組み合わせて併用してもよい。有機酸塩、無機酸塩、オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤は、それぞれダイヤモンド砥粒、多価アルコール、純水の親和性を高める機構が異なるものであり、両方添加することにより相乗効果が期待されることから、有機酸塩および/または無機酸塩と、オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の両方を使用することができる。例えば、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムまたはオクチルフェノキシポリエトキシエタノールの少なくともいずれかを単独で使用することができ、また、これらを併用してもよい。
【0041】
分散剤として有機酸塩および/または無機酸塩を使用する場合、すなわち有機酸塩を単独、無機酸塩を単独、または有機酸塩と無機酸塩を併用するいずれかの場合、研磨組成物中における有機酸塩および/または無機酸塩の含有量は、0.003~0.15質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.005~0.1質量%である。有機酸塩および/または無機酸塩の含有量が0.003質量%未満の場合、研磨組成物中でダイヤモンド砥粒が凝集するおそれがあり、例えば、全く添加しない場合、ダイヤモンド砥粒の凝集が発生する場合がある。また、有機酸塩および/または無機酸塩の含有量が0.15質量%を超えると、研磨組成物中で分散したダイヤモンド砥粒が再凝集して沈殿が発生するおそれがある。
【0042】
また、分散剤としてオクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤を使用する場合、研磨組成物中におけるオクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の含有量は、0.0025~0.07質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.0025~0.05質量%である。オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の含有量が0.0025質量%未満の場合、研磨組成物中でダイヤモンド砥粒が凝集するおそれがあり、例えば、全く添加しない場合、ダイヤモンド砥粒の砥粒の凝集が発生する場合がある。また、オクチルフェノールエトキシレート系界面活性剤の含有量が0.07質量%を超えると、研磨組成物中で分散したダイヤモンド砥粒が再凝集して沈殿が発生するおそれがある。
【0043】
[研磨組成物の製造方法]
研磨組成物の製造方法は、研磨面にスクラッチが発生しない程度にダイヤモンド砥粒が分散できる方法であれば、特に限定されない。例えば、ダイヤモンド砥粒、多価アルコールおよび分散剤を少量ずつ混ぜ合わせてなじませたのち、純水を加えてダイヤモンド砥粒の濃度を所望の濃度に調整することで、研磨組成物を製造することができる。ダイヤモンド砥粒を分散させる処理は撹拌すればよく、必要に応じて自公転ミキサー等を用いて分散してもよい。
【実施例0044】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
ダイヤモンド砥粒として平均粒径D50が5nm~1μmのダイヤモンド微粒子を入手し、それぞれ表1に示す含有濃度にてダイヤモンド微粒子、エチレングリコール、ヘキサメタリン酸ナトリウム、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、純水を混合してダイヤモンド微粒子を十分に撹拌して分散させ、実施例と比較例の研磨組成物を製造した。
【0046】
[分散性の評価]
研磨組成物中の分散剤の含有濃度が不足していると、ダイヤモンド微粒子が分散せず、凝集粉として容器の底に残留する現象が発生する。そこで、研磨組成物におけるダイヤモンド砥粒の分散性を評価するため、研磨組成物を製造後1時間静置した後、研磨組成物に生じた上澄み液を少しずつ別の容器に移し替え、研磨組成物を入れていた容器の底に凝集物が残留しているか否かによって、分散性を評価した。表1~3において、凝集物が目視で確認できない場合を○、目視で見える粒子が液中に浮いている場合を△、凝集物が容器の底に多量に残留している場合を×と評価した結果を示す。
【0047】
[分散安定性の評価]
研磨組成物中の分散剤の含有濃度が過剰であると、ダイヤモンド微粒子は分散するものの、その分散状態は不安定な状態であり、研磨組成物を製造後から徐々に沈降して容器の底に沈殿する現象が発生する。そこで、研磨組成物におけるダイヤモンド砥粒の分散安定性を評価した。具体的には、上記の分散性の評価において分散性が○、あるいは△であった研磨組成物について、上澄み液と元の残留物をもとの容器に戻して再び混合して研磨剤組成物とし、その後にそれらの研磨剤組成物を透明容器に移し替え、24時間静置した。そして、24時間静置後のダイヤモンド微粒子の沈殿物の有無によって分散安定性を評価した。表1~3において、研磨組成物において沈殿物が目視で確認できない場合を○、液中粒子の濃淡が見られる場合を△、明らかに沈殿物が確認される場合を×と評価した結果を示す。
【0048】
[分散性および分散安定性の評価の結果]
比較例1、2および実施例1~4では、ダイヤモンド砥粒の平均粒径D50を50nmで一定とし、また、ダイヤモンド砥粒とエチレングリコールの含有量を一定にして、分散剤の種類や含有量を変更した場合の分散性と分散安定性を評価した。結果として、分散剤を含有しない比較例1ではダイヤモンド砥粒の分散性が悪く、多くの凝集物が確認された。次に、1種類の分散剤のみを含有した実施例1、2では比較例1と比べて分散性が改善され、多少の凝集物は確認されるものの、多結晶SiC基板の研磨には供せるものであった。そして、2種類の分散剤を含有した実施例3ではさらに分散性が改善され、凝集物は目視では全く確認できなかった。さらに、実施例3では分散安定性も良好であり、24時間静置した後も沈殿物は確認されなかった。また、実施例4および比較例2では2種類の分散剤を含有し、さらに分散剤の含有量を実施例4から比較例2では倍に高めた例であるが、分散剤の濃度が高すぎるとダイヤモンド微粒子が沈降しやすくなり、比較例2では分散安定性が悪化することを確認した。特に、分散剤含有濃度が過剰である比較例2では明らかに沈殿物が確認され、分散安定性は不良であった。
【0049】
比較例3および実施例5~9では、分散剤の含有濃度を一定とし、ダイヤモンド砥粒の平均粒径D50を変更した場合の分散性と分散安定性を評価した。結果として、粒径が5nmの比較例3では、多くの凝集粉が確認され、分散剤を含有させたとしても、充分な分散性が得られないことが確認できた。実施例5~9はダイヤモンド砥粒の平均粒径D50を徐々に大きくした例であるが、分散性は実施例5で△の評価であり、実施例6~9では分散性は良好であったものの、分散安定性はダイヤモンド砥粒の平均粒径D50が大きくなるにつれて悪化する傾向が確認できた。
【0050】
ダイヤモンド砥粒の平均粒径D50が大きくなったことにより、分散安定性がやや低下し△の評価となった実施例9を基に、分散剤2種類の含有濃度をそれぞれ1/5に減少させ、実施例10の研磨組成物を作製した。結果として分散剤を減少させることにより分散安定性が向上し、実施例9の研磨組成物は24時間静置した後も沈殿物は見られなくなった。
【0051】
【0052】
表2に示すように、実施例3の研磨組成物をもとに、ダイヤモンド砥粒の含有量、およびエチレングリコールの含有量を変更した研磨組成物(実施例11~13、比較例4~6)を作製し、それらの分散性および分散安定性の変化を確認した。
【0053】
実施例3、実施例11、12、比較例4では、研磨組成物中のダイヤモンド砥粒の含有量の変更による分散性、分散安定性の変化を確認した。実施例11のようにダイヤモンド砥粒の含有量を実施例3の場合から低減させる場合には、分散性および分散安定性のいずれについても問題は発生しないが、実施例12、比較例4のように研磨組成物中のダイヤモンド砥粒の含有量を増加させる場合には、その濃度の増加に伴って、分散性および分散安定性が低下する傾向が確認できた。
【0054】
実施例3、実施例13、比較例5、6では、研磨組成物中のエチレングリコールの含有量の変更による分散性、分散安定性の変化を確認した。実施例13のようにエチレングリコールの含有量を実施例3の場合から多少低減した条件では、分散性がやや低下するものの、顕著な凝集粉の残留は確認できず、分散安定性は良好であった。しかし、比較例5のようにエチレングリコールを全く含有しない場合では、ダイヤモンド微粒子はほとんど分散しないことが確認され、分散性不良の評価となった。また、比較例6のようにエチレングリコールの含有量が過剰な場合には、ダイヤモンド砥粒の分散性は良好であるものの、ダイヤモンド砥粒の沈殿が確認され、分散安定性が低下することが確認された。
【0055】
【0056】
比較例1、2、および実施例1~4の研磨組成物を用いて、研磨実験を行った。具体的には、金属定盤を用いて研磨組成物で多結晶SiC基板の研磨対象面を機械研磨した際に、研磨面にスクラッチが生じるかを評価した。いずれの例も機械研磨の条件は、研磨組成物が異なる他は同じである。スクラッチが発生しなかった場合を○、スクラッチは発生するものの発生数が数本の場合は△、スクラッチが無数に発生した場合を×と評価した。実験結果を表3に示す。
【0057】
分散性が悪かった比較例1の研磨組成物を使って研磨実験を行った場合、無数の研磨面スクラッチが発生した。比較例1の研磨組成物には無数の凝集粒子が存在するため、この凝集粒子が研磨面スクラッチを発生させた原因である。
【0058】
比較例1と比べて分散性が改善した実施例1、2の研磨組成物を使った場合、研磨面スクラッチが発生したものの、その発生数はわずかであり、接合基板の製造において多結晶SiC基板の表面の機械研磨に供せるレベルのものであった。このように研磨特性が向上したのは、比較例1の研磨組成物と比べて凝集粒子数が減少したことにより、研磨面スクラッチも軽減したためである。
【0059】
そして、分散性が良好である実施例3、4の研磨組成物を使った場合、研磨面スクラッチは発生しなかった。
【0060】
また比較例2は分散剤の含有量が過剰であることによりダイヤモンド砥粒の沈殿粒子が存在する研磨組成物であるが、これを使った場合、数本の研磨面スクラッチが発生した。ダイヤモンド砥粒に起因する容器底に沈殿した粒子が再凝集し、これが研磨面スクラッチを与えたためである。
【0061】
表3に示す結果から導かれる傾向から、分散剤の不足により起きるダイヤモンド砥粒の分散性の低下、および、分散剤の過剰により起きるダイヤモンド砥粒の分散安定性の低下のいずれの場合も研磨面スクラッチが発生する原因となるため、分散性、分散安定性ともに良好な研磨組成物を供する必要があることが分かる。
【0062】
【0063】
以上より、本発明であれば、砥粒の凝集粉の発生を抑え、砥粒の分散性が良く、研磨対象面に研磨スクラッチを発生させずに平滑性の高い平滑面を得ることのできる研磨組成物を提供することができるため、産業上有用である。