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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007381
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】電波吸収体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
H05K9/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099678
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022106710
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507369914
【氏名又は名称】株式会社リケン環境システム
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】九岡 利文
【テーマコード(参考)】
5E321
【Fターム(参考)】
5E321AA42
5E321BB04
5E321BB34
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】40GHzまでの幅広い広帯域で電波吸収特性に優れる電波吸収体を提供する。
【解決手段】本発明の電波吸収体100は、平板状のベース部10と、ベース部10上に設けられた、四角錐形状を有する複数の上部吸収体20と、を有し、隣り合う上部吸収体の間で露出するベース部の幅W1が4mm以下であり、上部吸収体の頂部22は、曲率半径が2mm以下の曲面をなし、上部吸収体20は中実構造を有し、ベース部10及び上部吸収体20は、フェライトと、無極性樹脂と、炭素繊維とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のベース部と、前記ベース部上に設けられた、四角錐形状を有する複数の上部吸収体と、を有する電波吸収体であって、
隣り合う前記上部吸収体の間で露出する前記ベース部の幅が4mm以下であり、
前記上部吸収体の頂部は、曲率半径が2mm以下の曲面をなし、
前記上部吸収体は中実構造を有し、
前記ベース部及び前記上部吸収体は、フェライトと、無極性樹脂と、炭素繊維とを含むことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記炭素繊維は、繊維長が3mm以下、かつ、繊維径が10μm以上のピッチ系炭素繊維である、請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記炭素繊維は、繊維長が4mm以下、かつ、繊維径が5μm以上のPAN系炭素繊維である、請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記無極性樹脂は、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂の一方又は両方である、請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項5】
前記ベース部及び前記上部吸収体において、前記フェライト100質量部に対して、前記無極性樹脂の含有量が15~30質量部であり、前記炭素繊維の含有量が0.1~1.0質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【請求項6】
前記上部吸収体の底辺の長さが46~50mmであり、
前記上部吸収体の高さが75~90mmであり、
前記上部吸収体の前記頂部がなす前記曲面は、前記上部吸収体の上方から見た幅が2~4mmであり、前記上部吸収体の側面から見た高さが1~2mmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器から発生した電磁波が他の機器に誤動作を生じさせたり、逆に外来電磁波により電子機器が誤動作したりすることがないように、電子機器には電磁環境両立性(EMC:Electro Magnetic Compatibility)が求められている。EMC評価を行うためには、電波暗室と呼ばれる測定用の部屋が必要となる。電波暗室の外壁は、外来電磁波の暗室内への浸入や暗室内の測定装置から発生する電磁波の外部への放射を防止するため、金属板で覆われている。また、不要な電磁波の反射を防止するため、暗室内部には電波吸収体が取り付けられている。
【0003】
従来、電波暗室内で測定される周波数範囲は30MHz~1GHzであった。しかし、携帯電話、RFタグなど通信機器の多様化と共に、測定周波数の上限も拡大している。このため、30MHzから1GHzを超える広い周波数帯域において優れた電波吸収特性を有する電波吸収体が求められている。このような高周波化の流れに伴い、規格に記載されている許容値設定周波数も18GHz以下に改定されている。さらに、大容量高速通信の時代へと変化し、5Gも市場導入されたことにより、電子機器で使用される周波数帯域はミリ波域である28GHzへと変化した。それに伴い、電波吸収体にも18GHz以上で少なくとも40GHzまでの周波数帯域における優れた電波吸収特性が求められてきている。
【0004】
特許文献1には、「フェライトタイルと平板形状または楔形状またはピラミッド形状を持つ上部吸収体を接合したものであり、上部吸収体が周波数1MHz以上において比誘電率4.9以下である汎用樹脂中にフェライト粉を分散させたことを特徴とするところの複合電波吸収体(請求項1)」が記載されている。特許文献1の実施例には、フェライト粉とポリプロピレンを所定の配合比で混練した後、ペレタイザーでペレット化したものを上記のピラミッド形状に射出成形により成形した上部吸収体が記載されている。その形状は、底辺が100mm×100mm、高さが100mmで、肉厚が20mmの中空構造を持つ中空ピラミッド形状である。
【0005】
特許文献2には、フェライトタイルと組み合わせる電波吸収体として、「フェライト及び無極性樹脂を主成分とした電波吸収体において、該電波吸収体中に導電性粉末を分散させたことを特徴とする電波吸収体(請求項1)」が記載されている。導電性粉末をカーボンとし、かつその添加量を0.1~6.0体積%とすることが記載されている。また、特許文献2(図1,2参照)の電波吸収体の形状は、底辺が5cm×5cm、高さが10cmで、肉厚が0.75cmの中空構造を持つ中空ピラミッド形状であり、ピラミッド形状の先端部は平坦にカットされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-188513号公報
【特許文献2】特開2002- 9482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2の技術では、100~400MHzの低い周波数帯域の電磁波をフェライトタイルにより吸収し、400MHz以上の周波数帯域の電磁波をピラミッド形状の電波吸収体により吸収する。しかしながら、特許文献1に記載された複合電波吸収体では、電波暗室用に通常求められる20dB以上の反射減衰量を実現できるのは、フェライト粉の配合比を最適化したとしても高々10GHzまでであり、40GHzまでの広帯域での電波吸収特性は不十分であった。
【0008】
特許文献2に記載されたフェライトタイルと電波吸収体の組み合わせでは、電波吸収体に導電性粉末としてのカーボンを含有させることで、10GHzを超える周波数帯域での電波吸収特性を改善させている。しかしながら、それでも20dB以上の反射減衰量を実現できるのは高々20GHzまでであり、40GHzまでの広帯域での電波吸収特性は不十分であった。
【0009】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、40GHzまでの幅広い広帯域で電波吸収特性に優れる電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本発明者は鋭意研究を行い、以下の知見を得た。すなわち、平板状のベース部と、前記ベース部上に設けられた、四角錐形状を有する複数の上部吸収体と、を有する電波吸収体において、上部吸収体の形状の改良と、電波吸収体の材料の改良とを組み合わせることによって、40GHzまでの幅広い広帯域で電波吸収特性を向上させることができることを見出した。形状の改良としては、(I)隣り合う上部吸収体の間で露出するベース部の幅を4mm以下とすること、(II)上部吸収体の頂部を曲率半径が2mm以下の曲面とすること、及び(III)上部吸収体を中実構造とすることが必要である。材料の改良としては、フェライト及び無極性樹脂に加えて、炭素繊維を含有させることが必要である。
【0011】
上記知見に基づき完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]平板状のベース部と、前記ベース部上に設けられた、四角錐形状を有する複数の上部吸収体と、を有する電波吸収体であって、
隣り合う前記上部吸収体の間で露出する前記ベース部の幅が4mm以下であり、
前記上部吸収体の頂部は、曲率半径が2mm以下の曲面をなし、
前記上部吸収体は中実構造を有し、
前記ベース部及び前記上部吸収体は、フェライトと、無極性樹脂と、炭素繊維とを含むことを特徴とする電波吸収体。
【0012】
[2]前記炭素繊維は、繊維長が3mm以下、かつ、繊維径が10μm以上のピッチ系炭素繊維である、上記[1]に記載の電波吸収体。
【0013】
[3]前記炭素繊維は、繊維長が4mm以下、かつ、繊維径が5μm以上のPAN系炭素繊維である、上記[1]に記載の電波吸収体。
【0014】
[4]前記無極性樹脂は、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂の一方又は両方である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【0015】
[5]前記ベース部及び前記上部吸収体において、前記フェライト100質量部に対して、前記無極性樹脂の含有量が15~30質量部であり、前記炭素繊維の含有量が0.1~1.0質量部である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【0016】
[6]前記上部吸収体の底辺の長さが46~50mmであり、
前記上部吸収体の高さが75~90mmであり、
前記上部吸収体の前記頂部がなす前記曲面は、前記上部吸収体の上方から見た幅が2~4mmであり、前記上部吸収体の側面から見た高さが1~2mmである、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電波吸収体は、40GHzまでの幅広い広帯域で電波吸収特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態による電波吸収体100の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による電波吸収体100の平面図、正面図、及び側面図である。
図3】比較例1~6における、周波数2.6~40GHzでの電波吸収特性を示すグラフである。
図4】発明例1,2における、周波数2.6~40GHzでの電波吸収特性を示すグラフである。
図5】発明例3及び比較例7における、周波数2.6~40GHzでの電波吸収特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態による電波吸収体100を説明する。電波吸収体100は、平板状のベース部10と、ベース部10上に設けられた、四角錐形状を有する複数の上部吸収体20と、を有する。
【0020】
ベース部10は、一対の主表面である上面10A及び下面10Bを有する。ベース部10が有する一対の主表面のうち、上部吸収体20が設けられる側の面を上面10Aとし、その反対側の面を下面10Bとする。ベース部10の上面10A及び下面10Bの形状及び寸法は、互いに等しく、かつ、ベース部10の上面10Aが複数の上部吸収体20の底面を包含できるものであればよい。ベース部10の厚さT1は特に限定されないが、5~20mm程度とすることができる。
【0021】
上部吸収体20は、四角錐形状を有し、ベース部10の上面10A上に設けられる。電磁波は上部吸収体20の頂部22から底面に向かう方向に到来する。上部吸収体20は、このように電磁波の到来方向に垂直な断面(頂部から底面への垂線に垂直な断面)の面積が、電磁波の到来方向に沿って漸増する形状を有する。このため、フェライト及び炭素繊維の量がピラミッド底面にいくほど漸増するため、電波吸収特性における磁性損失と導電損失の効果が高く得られる。四角錐形状は、直錐(すなわち、頂点から底面への垂線が底面の重心を通るもの)であることが好ましい。また、四角錐形状は、長方錐(すなわち、底面が長方形である四角錐)であることが好ましく、中でも方錐(すなわち、底面が正方形である四角錐)であることが特に好ましい。このため、四角錐形状は、図1及び図2に示すように、正四角錐(直錐かつ方錐)であることが最も好ましい。図1及び図2に示すように、複数の上部吸収体20は、互いに同一の底面形状を有することが好ましく、隣り合う上部吸収体20同士は、互いに最も近い底辺26同士が平行になるように位置する。ベース部10の上面10A上に設けられる上部吸収体20の数は複数であれば特に限定されず、例えば、図1及び図2に示すように、2列×4列の8個でもよいし、3列×3列の9個でもよいし、4列×4列の16個でもよい。
【0022】
図1及び図2を参照して、本実施形態では、隣り合う上部吸収体20の間で露出するベース部10の幅W1が4mm以下であることが重要である。幅W1が4mm超えの場合、露出するベース部(平坦面)での電波の反射が起こりやすくなるため、40GHzまでの幅広い広帯域で優れた電波吸収特性を得ることができないからである。幅W1は狭いほど電波吸収特性の観点から好ましいため、下限は特に限定されず、幅W1は0mmであってもよい。
【0023】
図2を参照して、上部吸収体20の底辺26の長さL2は46~50mmであることが好ましく、上部吸収体20の高さH2は75~90mmであることが好ましい。上部吸収体20の寸法をこのように小型にすることで、電波暗室内の有効面積を広く確保できる。
【0024】
図1及び図2を参照して、本実施形態において上部吸収体20の頂部22は、曲率半径が2mm以下の曲面をなすものであることが重要である。頂部が平坦な場合、高周波の電磁波が頂部で反射してしまい、電波吸収特性が不十分となる。本実施形態のように、上部吸収体20の頂部22を先鋭な曲面とすることによって、高周波の電磁波の反射を抑制することができる。なお、曲面の曲率半径は、頂部22の成型加工の精度の観点から、1mm以上であることが好ましい。
【0025】
図2を参照して、上部吸収体20の頂部22がなす曲面は、上部吸収体20の上方から見た幅W3が2~4mmであり、上部吸収体20の側面24から見た高さH3が1~2mmであることが好ましい。頂部の曲面の寸法をこのようにすることで、頂部22の成型加工が容易となる。
【0026】
上部吸収体20は中実構造を有することが重要である。上部吸収体が中空構造であると、フェライト及び炭素繊維の量が不足するため、40GHzまでの幅広い広帯域で優れた電波吸収特性を得ることができないからである。
【0027】
図1及び図2を参照して、射出成形の型の抜き勾配の都合から、上部吸収体20の側辺部分28は所定の幅を有するようにカットされていてもよい。その際、側辺部分28の幅W4は、1~2mmであることが好ましい。
【0028】
ベース部10及び上部吸収体20は、別体を接着固定する態様でもよいが、一体成型されてなることが好ましい。
【0029】
続いて、ベース部10及び上部吸収体20を構成する材料について説明する。本実施形態において、ベース部10及び上部吸収体20は、フェライトと、無極性樹脂と、炭素繊維とを含むものとし、これらの成分と任意で含まれるその他の添加剤とからなることが好ましい。
【0030】
フェライト材料は特に限定されず、NiO/ZnO系、LiO/ZnO系、NiO/ZnO/CuO系、MnO/ZnO系等からなる群から選択される一種以上を用いることができる。フェライト材料は、本実施形態の電波吸収体100において、主の電波吸収材料である。広帯域で良好な電波吸収特性を得る観点からは、NiO/ZnO系又はLiO/ZnO系を用いることが好ましい。原料段階でのフェライト粉末の粒径は1~150μm程度とすることができる。
【0031】
無極性樹脂とは、電気双極子をもたない分子により構成された樹脂、極性結合をもっていても分子の対称性からその双極子モーメントが打ち消された構造をもつ分子、又はそれに近い極性の低い極性結合を持つ分子により構成された樹脂を意味する。本実施形態において、無極性樹脂は、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、弗素樹脂、テフロン(登録商標)、アリル樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びアセチルセルロース樹脂からなる群から選択される一種以上であることが好ましく、中でも、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂の一方又は両方であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態では、ベース部10及び上部吸収体20が炭素繊維を含むことが重要である。炭素繊維により電波吸収体100に導電性が付与され、高周波での電波吸収特性が向上する。しかも、導電性粉末として一般的なカーボン粉末に替えて、炭素繊維を含有させることで、40GHzまでの幅広い広帯域で優れた電波吸収特性を得ることができる。
【0033】
炭素繊維は、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維など、公知の又は任意の炭素繊維であってよい。特に、繊維長が3mm以下、かつ、繊維径が10μm以上のピッチ系炭素繊維を用いることが好ましい。このように、短く太い炭素繊維を用いることにより、40GHzまでの幅広い広帯域での電波吸収特性の向上をより十分に実現することができる。ピッチ系炭素繊維の繊維長は3mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。ピッチ系炭素繊維の繊維長の下限は特に限定されないが、繊維長は0.1mm以上であり得る。また、ピッチ系炭素繊維の繊維径の上限は特に限定されないが、繊維径は30μm以下であり得る。また、繊維長が4mm以下、かつ、繊維径が5μm以上のPAN系炭素繊維を用いることも好ましい。上記のようなPAN系炭素繊維を用いることによっても、40GHzまでの幅広い広帯域での電波吸収特性の向上を好適に実現することができる。PAN系炭素繊維の繊維長は4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。PAN系炭素繊維の繊維長の下限は特に限定されないが、繊維長は1mm以上であり得る。また、PAN系炭素繊維の繊維径の上限は特に限定されないが、繊維径は20μm以下であり得る。なお、本明細書において、炭素繊維の「繊維長」及び「繊維径」は、メーカー公称値を採用すればよい。
【0034】
ベース部10及び上部吸収体20において、フェライト100質量部に対して、無極性樹脂の含有量が15~30質量部であることが好ましく、20~25質量部であることがより好ましい。フェライト100質量部に対する無極性樹脂の含有量が15質量部未満であると、無極性樹脂が過少かつフェライトが過多となるため、射出成形が困難となり、30質量部超えであると、フェライトが過少かつ無極性樹脂が過多となるため、目標とする電波吸収特性を得ることが困難となるからである。
【0035】
ベース部10及び上部吸収体20において、フェライト100質量部に対して、炭素繊維の含有量が0.1~1.0質量部であることが好ましく、0.3~0.7質量部であることがより好ましい。フェライト100質量部に対する無極性樹脂の含有量が0.1質量部未満であると、炭素繊維が過少であるため、40GHzまでの幅広い広帯域での電波吸収特性の向上効果を十分に得ることができず、1.0質量部超えであると、炭素繊維が過多であり、MHz帯域において電波の反射が起こり、良好な電波吸収特性が得られないからである。
【0036】
ベース部10及び上部吸収体20は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び光安定剤など、その他の添加剤を含んでもよい。ただし、電波吸収特性を阻害しない観点から、その他の添加剤の含有量は、フェライト100質量部に対して合計で1質量部以下とすることが好ましい。
【0037】
本実施形態の電波吸収体100は、フェライト焼結体であるフェライトタイルと組み合わせて複合電波吸収体とすることによって、30~400MHzの低い周波数帯域から40GHzまでの幅広い広帯域で優れた電波吸収特性を得ることができる。具体的には、電波吸収体100のベース部10の下面10B上にフェライトタイルを設ける。フェライトタイルをベース部に固定する方法は、定法に従えばよい。
【0038】
本発明の実施形態による電波吸収体100は、例えば、原料としてのフェライト粉と、無極性樹脂と、炭素繊維と、任意のその他の添加剤を混合、撹拌した後、所定形状に射出成形することにより、製造することができる。
【実施例0039】
表1に示す比較例配合1,2及び発明例配合1~3の組成物を混合、撹拌した後、表2に示す比較例形状又は発明例形状に射出成形して、表3に示す比較例1~7及び発明例1~3の電波吸収体を作製した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
[電波吸収特性の測定]
比較例1~7及び発明例1~3の電波吸収体を各々18体用意して、ベース部のサイズを600mm×600mm、上部吸収体の数を12列×12列の144個とし、ベース部の下面にフェライトタイル(600mm×600mm×5.2mm)を固定して、複合電波吸収体とし、2.6~40GHzの周波数帯域で電波吸収特性の測定を行った。測定は、誘電帯レンズを使用した反射量測定装置により行った。結果を図3~5に示す。
【0044】
比較例1では、10~40GHzの周波数帯域において、20dB以上の反射減衰量を実現できない周波数が多かった。比較例3,4,7のように材料の改良のみを行った場合や、比較例5のように形状の改良のみを行った場合でも、10~40GHzの周波数帯域において、20dB以上の反射減衰量を実現できない周波数が多かった。比較例2,6のように、導電性材料として通常のカーボン粉末(ケッチェンブラック)を用いても、10~40GHzの周波数帯域において、20dB以上の反射減衰量を実現できない周波数が存在した。これに対して、材料の改良と形状の改良の両方を行った発明例1~3においては、1~40GHzの全体域において20dB以上の反射減衰量を実現することができた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の電波吸収体は、40GHzまでの幅広い広帯域で電波吸収特性に優れる。そのため、この電波吸収体は、電波暗室に取り付けて、40GHzまでの幅広い広帯域でEMC評価を行うのに好適である。
【符号の説明】
【0046】
100 電波吸収体
10 ベース部
10A ベース部の上面
10B ベース部の下面
20 上部吸収体
22 上部吸収体の頂部(曲面)
24 上部吸収体の側面
26 上部吸収体の底辺
28 上部吸収体の側辺部分
W1 隣り合う上部吸収体の間で露出するベース部の幅
T1 ベース部の厚さ
L2 上部吸収体の底辺の長さ
H2 上部吸収体の高さ
W3 上部吸収体の頂部がなす曲面の、上部吸収体の上方から見た幅
H3 上部吸収体の頂部がなす曲面の、上部吸収体の側面から見た高さ
W4 上部吸収体の側辺部分の幅
図1
図2
図3
図4
図5