(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073815
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】燃料システム、エンジン、及びエンジンの制御方法
(51)【国際特許分類】
F02M 21/02 20060101AFI20240523BHJP
F02B 43/00 20060101ALI20240523BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
F02M21/02 301K
F02B43/00 A
F02M21/02 L
F02M21/02 301G
F02D19/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184725
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 弘
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AB07
3G092BB10
3G092DE11S
3G092FA26
3G092FA31
3G092GA10
3G092HA04Z
3G092HA05Z
3G092HB03Z
3G092HB04Z
3G092HD05Z
(57)【要約】
【課題】エンジン停止後の過度な燃圧上昇を抑制可能な燃料システムを低コストで実現する。
【解決手段】ECU70は、イグニッションスイッチ80によってエンジン1の停止が指示された場合に、ボンベ52の出側に設けられる遮断弁54を閉じる。そして、ECU70は、所定の条件が成立しているとき、エンジン1の停止が指示されてから所定期間エンジン1の作動を継続した後にエンジン1を停止する。所定の条件は、エンジン1の始動時に吸気温度がしきい値T1よりも低い第1の条件と、エンジン1の停止が指示された時にエンジン水温がしきい値T2よりも低い第2の条件とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを燃料とするエンジンの燃料システムであって、
液化ガスを蓄積するボンベと、
前記ボンベの出側に設けられる遮断弁と、
前記ボンベから供給される燃料を減圧するレギュレータと、
前記レギュレータを通過した燃料を前記エンジンに供給する噴射弁と、
前記エンジンの始動及び停止を指示する入力装置と、
前記エンジン及び前記燃料システムを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記入力装置によって前記エンジンの停止が指示された場合に、
前記遮断弁を閉じ、
所定の条件が成立しているとき、前記エンジンの停止が指示されてから所定期間前記エンジンの作動を継続した後に前記エンジンを停止し、
前記所定の条件は、
前記エンジンの始動時に前記エンジンに吸入される空気の温度が第1のしきい値よりも低い第1の条件と、
前記エンジンの停止が指示された時に前記エンジンの水温が第2のしきい値よりも低い第2の条件とを含む、燃料システム。
【請求項2】
前記所定期間は、前記水温が低いほど長くなるように設定される、請求項1に記載の燃料システム。
【請求項3】
前記所定期間は、前記水温が第3のしきい値よりも高くなるまでの期間である、請求項1に記載の燃料システム。
【請求項4】
前記第3のしきい値は、前記第2のしきい値と同値である、請求項3に記載の燃料システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料システムを備えるエンジン。
【請求項6】
液化ガスを燃料とするエンジンの制御方法であって、
前記エンジンの停止が指示された場合に、
液化ガスを蓄積するボンベの出側に設けられる遮断弁を閉じるステップと、
所定の条件が成立しているとき、前記エンジンの停止が指示されてから所定期間前記エンジンの作動を継続するステップと、
前記所定期間の経過後に前記エンジンを停止するステップとを含み、
前記所定の条件は、
前記エンジンの始動時に前記エンジンに吸入される空気の温度が第1のしきい値よりも低い第1の条件と、
前記エンジンの停止が指示された時に前記エンジンの水温が第2のしきい値よりも低い第2の条件とを含む、制御方法。
【請求項7】
前記所定期間は、前記水温が低いほど長くなるように設定される、請求項6に記載の制御方法。
【請求項8】
前記所定期間は、前記水温が第3のしきい値よりも高くなるまでの期間である、請求項6に記載の制御方法。
【請求項9】
前記第3のしきい値は、前記第2のしきい値と同値である、請求項8に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料システム、エンジン、及びエンジンの制御方法に関し、特に、液化ガスを燃料とするエンジンの燃料システム、それを備えるエンジン、及び当該エンジンの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実開昭62-180644号公報(特許文献1)には、LPG(Liquefied Petroleum Gas)を燃料とするエンジンの燃料噴射制御装置が記載されている。この燃料噴射制御装置では、イグニッションスイッチがオフになると、燃料噴射弁への燃料循環路を遮断する遮断弁が作動する。そして、遮断された循環路中の燃料圧力が検出され、検出された燃料圧力が所定値以下に低下するまで燃料噴射及び点火が継続する。これにより、燃料循環路から未燃のLPG燃料がなくなり、エンジン停止後に循環路中にLPG燃料が滞留するという好ましくない現象を回避することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の燃料噴射制御装置は、燃料配管中の燃料圧力を検出する燃圧センサが必要であり、燃圧センサのない燃料システムには適用することができない。また、エンジン停止後に燃料配管中に燃料が滞留していても、気密性の高い燃料システム(例えばミキサを廃止してインジェクタのみを用いるシステム等)では、燃料の滞留自体は問題とならず、むしろ、本来気化された燃料が流れる燃料配管(ホース等)に混入した液化燃料がエンジン停止後に気化することによる過度な圧力上昇が問題となり得る。
【0005】
このような問題に対して、上記の燃料噴射制御装置では、過度な燃圧上昇の有無に拘わらず、燃料圧力が所定値以下に低下するまで燃料噴射及び点火が継続するため、エンジン停止後に不必要に燃料噴射及び点火が継続する可能性がある。また、過度な燃圧上昇に対して燃料システムの耐圧性を高めることも一案ではあるが、設備の耐圧性向上はコスト増となる。
【0006】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、エンジン停止後の過度な燃圧上昇を抑制可能な燃料システムを低コストで実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の燃料システムは、液化ガスを燃料とするエンジンの燃料システムであって、液化ガスを蓄積するボンベと、ボンベの出側に設けられる遮断弁と、ボンベから供給される燃料を減圧するレギュレータと、レギュレータを通過した燃料をエンジンに供給する噴射弁と、エンジンの始動及び停止を指示する入力装置と、エンジン及び燃料システムを制御する制御装置とを備える。制御装置は、入力装置によってエンジンの停止が指示された場合に、遮断弁を閉じ、所定の条件が成立しているときに、エンジンの停止が指示されてから所定期間エンジンの作動を継続した後にエンジンを停止する。所定の条件は、エンジンの始動時にエンジンに吸入される空気の温度が第1のしきい値よりも低い第1の条件と、エンジンの停止が指示された時にエンジンの水温が第2のしきい値よりも低い第2の条件とを含む。
【0008】
また、本開示の制御方法は、液化ガスを燃料とするエンジンの制御方法であって、エンジンの停止が指示された場合に、液化ガスを蓄積するボンベの出側に設けられる遮断弁を閉じるステップと、所定の条件が成立しているとき、エンジンの停止が指示されてから所定期間エンジンの作動を継続するステップと、所定期間の経過後にエンジンを停止するステップとを含む。所定の条件は、エンジンの始動時にエンジンに吸入される空気の温度が第1のしきい値よりも低い第1の条件と、エンジンの停止が指示された時にエンジンの水温が第2のしきい値よりも低い第2の条件とを含む。
【0009】
液化ガスを燃料とするエンジンの燃料システムでは、燃料は、レギュレータで気化され、噴射弁に供給される。しかしながら、低温下では、レギュレータで燃圧を落としても燃料が十分に気化せず、燃料の一部が液体のままレギュレータ下流に流れ得る。それでも、エンジンの暖機が完了してエンジン水温が高まっていれば、その熱により燃料の気化が促進されるため、液体燃料がレギュレータ下流に流れることはない。
【0010】
しかしながら、低温下でエンジンが始動し、エンジンの暖機が完了していない状況下では、燃料の一部が液体のままレギュレータ下流に流れる。この状況下でエンジンが停止すると、レギュレータ下流の燃料配管に液体燃料が滞留する。そうすると、その後、気温の上昇とともに、その滞留していた液体燃料が気化し、レギュレータ下流の燃料配管において過度な燃圧上昇が発生する。
【0011】
そこで、本開示の燃料システム及び制御方法では、エンジンの始動時にエンジンに吸入される空気の温度が第1のしきい値よりも低い第1の条件(低温条件)と、エンジンの停止が指示された時にエンジンの水温が第2のしきい値よりも低い第2の条件(暖機未完了条件)とが成立しているときは、エンジンの停止が指示されてから所定期間エンジンの作動を継続した後にエンジンを停止させる。これにより、配管内の残留燃料を消費させ、過度な燃圧上昇が生じるのを抑制することができる。第1の条件(低温条件)及び第2の条件(暖機未完了条件)の少なくとも一方が成立しないときは、エンジン停止後に燃料の一部が液体のまま燃料配管に滞留することはないため、エンジンの停止が指示されてから所定期間エンジンの作動を継続させることなくエンジンが停止する。
【0012】
このように、本開示の燃料システム及び制御方法によれば、燃圧センサを用いることなく、エンジン停止後の過度な燃圧上昇を抑制することができる。また、過度な燃圧上昇に備えて燃料システムの耐圧性を高める必要もない。
【0013】
所定期間は、エンジン水温が低いほど長くなるように設定されてもよい。
【0014】
エンジン水温が低いほど、エンジン停止後に液体のまま配管に滞留する燃料の量が多くなるところ、上記のように所定期間を設定することにより、配管に滞留する燃料を適切に消費させることができる。
【0015】
所定期間は、エンジン水温が第3のしきい値よりも高くなるまでの期間であってもよい。また、第3のしきい値は、第2のしきい値と同値であってもよい。
【0016】
上記のように所定期間を設定することにより、エンジン停止後に液体のまま配管に滞留する燃料の量を低下させることができる。したがって、エンジン停止後の過度な燃圧上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の燃料システム、エンジン、及び制御方法によれば、エンジン停止後の過度な燃圧上昇を抑制可能な燃料システムを低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に従う燃料システムが適用されたエンジンの全体構成図である。
【
図3】ECUにより実行される処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図4】
図3のステップS50における所定期間を説明する図である。
【
図5】変形例におけるECUにより実行される処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
図1は、本開示の実施の形態に従う燃料システムが適用されたエンジンの全体構成図である。
図1において、エンジン1は、液化ガスを燃料とするエンジンであって、以下では、エンジン1は、LPGを燃料として用いるLPGエンジンとする。なお、エンジン1は、LPGエンジンに限定されるものではなく、その他の液化ガスを燃料として用いるエンジンであってもよい。
【0021】
図1を参照して、エンジン1は、エンジン本体10と、吸気管12と、エアクリーナ14と、スロットル装置16と、インジェクタ18と、点火プラグ20と、排気管22と、触媒装置24とを備える。
【0022】
エンジン本体10は、複数の気筒(シリンダ)を含む。この例では、エンジン本体10は、4つの気筒を含むものとするが、気筒の数はこれに限定されるものではない。吸気管12は、エンジン本体10の吸気側に設けられる吸気マニホールド(図示せず)に接続される。
【0023】
エアクリーナ14は、吸気管12に設けられ、吸気口から吸入される空気に含まれる不純物を吸着することによって吸入空気を清浄する。スロットル装置16は、吸気管12においてエアクリーナ14の下流側に設けられ、ECU70からの制御信号に基づいてスロットルバルブを駆動することにより吸気流量を調整する。
【0024】
インジェクタ18は、気筒毎に設けられ、この例では、4つの気筒に対して4つ設けられる。インジェクタ18には、後述の燃料システムによって燃料が供給される。そして、インジェクタ18は、ECU70からの制御信号によって駆動され、各気筒の吸気ポートに燃料を噴射する。
【0025】
点火プラグ20も、気筒毎に設けられ、この例では、4つの気筒に対して4つ設けられる。点火プラグ20は、ECU70からの制御信号によって駆動され、気筒内において吸入空気と燃料との混合気に点火する。これにより、気筒内で混合気が燃焼され、燃焼エネルギが発生する。
【0026】
排気管22は、エンジン本体10の排気側に設けられる排気マニホールド(図示せず)に接続される。触媒装置24は、排気管22に設けられ、エンジン本体10から排出される排気ガスを触媒により浄化する。
【0027】
エンジン1は、さらに、吸気温センサ26と、吸気圧センサ28と、O2センサ30,32とを備える。吸気温センサ26は、吸気管12に設けられ、吸気管12に吸入された空気の温度(以下「吸気温度」とも称する。)を検出する。吸気温センサ26は、吸気温度の検出値をECU70へ出力する。
【0028】
吸気圧センサ28は、吸気管12においてスロットル装置16の下流に設けられる。吸気圧センサ28は、スロットル装置16の下流において、吸気マニホールド内の吸入空気の圧力(以下「吸気圧」とも称する。)を検出し、その検出値をECU70へ出力する。
【0029】
O2センサ30は、排気管22において触媒装置24の上流に設けられる。O2センサ30は、触媒装置24を通過する前の排気ガス中の酸素濃度を検出し、その検出値をECU70へ出力する。O2センサ32は、排気管22において触媒装置24の下流に設けられる。O2センサ32は、触媒装置24を通過した後の排気ガス中の酸素濃度を検出し、その検出値をECU70へ出力する。なお、O2センサ30,32に代えて、A/Fセンサ(空燃比センサ)を用いてもよい。
【0030】
エンジン1は、さらに、ボンベ52と、遮断弁54と、レギュレータ56と、気相フィルタ58と、燃料配管60,62と、燃圧センサ64,66と、燃温センサ68とを含む。ボンベ52とレギュレータ56とが燃料配管60によって接続され、レギュレータ56とインジェクタ18とが燃料配管62によって接続される。燃料配管60,62は、ボンベ52からインジェクタ18へ燃料を供給するための配管である。
【0031】
ボンベ52は、液化されたLPGを蓄積する耐高圧のボンベである。ボンベ52内の圧力は、例えば1.5MPa程度である。遮断弁54は、燃料配管60に設けられ、ECU70からの制御信号によって駆動される。遮断弁54は、閉弁状態では、ボンベ52からレギュレータ56への燃料供給を遮断する。
【0032】
レギュレータ56は、ボンベ52から供給される、液化された高圧のLPGを大気圧レベルに減圧するための圧力調整装置である。ボンベ52から燃料配管60を通じて供給される、液化された高圧のLPGは、レギュレータ56により減圧されることで基本的に気化し、燃料配管62を通じてインジェクタ18に供給される。
【0033】
したがって、燃料配管60、及び燃料配管60とボンベ52及びレギュレータ56との接続部は、燃料配管60に高圧のLPGが流れるために高耐圧に設計される。燃料配管60は、例えば金属管によって構成される。他方、燃料配管62、及び燃料配管62とレギュレータ56及びインジェクタ18との接続部は、レギュレータ56の上流側のような高耐圧設計とはなっていない。燃料配管62は、例えばホースによって構成される。
【0034】
気相フィルタ58は、燃料配管62に設けられ、レギュレータ56により気化されてインジェクタ18に供給される燃料(LPG)に含まれる不純物を除去する。
【0035】
燃圧センサ64は、燃料配管60において遮断弁54の下流に設けられ、燃料配管60内の燃料の圧力(以下、燃料の圧力を「燃圧」とも称する。)を検出する。燃圧センサ64は、燃料配管60内の燃圧の検出値をECU70へ出力する。
【0036】
燃圧センサ66及び燃温センサ68は、燃料配管62に設けられる。燃圧センサ66は、燃料配管62内の燃圧を検出し、その検出値をECU70へ出力する。燃温センサ68は、燃料配管62内の燃料の温度を検出し、その検出値をECU70へ出力する。
【0037】
なお、本開示の燃圧システムでは、燃圧センサ64,66及び燃温センサ68は、必須の構成要素ではなく、本開示の燃圧システムは、これらのセンサが設けられない燃圧システムにも適用可能である。
【0038】
エンジン1は、さらに、ECU(Electronic Control Unit)70と、イグニッションスイッチ80と、水温センサ82とを備える。イグニッションスイッチ80は、エンジン1の利用者によって操作され、イグニッションスイッチ80がオンにされることによってエンジン1が始動し、イグニッションスイッチ80がオフにされることによってエンジン1が停止する。このイグニッションスイッチ80は、エンジン1の始動及び停止を指示する入力装置に相当する。
【0039】
水温センサ82は、エンジン1の冷却水の温度(以下「エンジン水温」とも称する。)を検出する。例えば、水温センサ82は、エンジン本体10内に設けられる冷却水路内のエンジン水温を検出する。水温センサ82は、エンジン水温の検出値をECU70へ出力する。
【0040】
ECU70は、上述した各種センサの検出値を取得し、その取得した検出値を用いてエンジン1の各種制御を実行する。ECU70の構成及びECU70によって実行される制御については、後ほど詳しく説明する。
【0041】
LPGエンジンにおいては、液化されたLPGをボンベに蓄え、ボンベから供給される液化された高圧のLPGをレギュレータにより降圧し気化してエンジン本体に供給する。しかしながら、低温下(例えば0℃以下)で、かつ、エンジンが暖機されていない状況下では、レギュレータで燃圧を落としても燃料が十分に気化せず、レギュレータの下流において燃料の一部が液化した状態となる。この液化状態の燃料が気化すると、レギュレータ下流において、燃料配管の耐圧を超える過度な燃圧上昇が生じ得る。
【0042】
エンジンが作動しているときは、インジェクタから燃料噴射が行われるので、上記のような過度な燃圧上昇は生じない。上記のような過度な燃圧上昇は、エンジンの停止後に発生し得る。それでもエンジンの暖機が完了してエンジン水温が高まっていれば、燃料の気化が促進され、レギュレータにおいて燃料がほぼ気化されるため、エンジン停止後に上記のような過度な燃圧上昇は生じない。
【0043】
すなわち、低温下でエンジンが始動し、かつ、エンジンの暖機が完了していない状態でエンジンが停止すると、レギュレータの下流において燃料の一部が液体のまま滞留する。そうすると、その後、気温の上昇とともに、その滞留していた液体の燃料が気化し、レギュレータ下流の燃料配管において過度な燃圧上昇が発生する。
【0044】
そこで、本実施の形態では、上記のような過度な燃圧上昇が発生する条件が成立しているときは、エンジン1の停止が指示されてから所定期間エンジン1の作動を継続した後にエンジン1を停止させる。これにより、レギュレータ下流の燃料配管62内の残留燃料を消費させ、過度な燃圧上昇が生じるのを抑制することができる。上記の条件は、エンジン1の始動時に吸気温度が第1しきい値(例えば0℃)よりも低い第1の条件(低温条件)と、エンジン1の停止が指示された時にエンジン水温が第2しきい値(例えば30℃)よりも低い第2の条件(暖機未完了条件)とを含む。
【0045】
第1の条件(低温条件)及び第2の条件(暖機未完了条件)の少なくとも一方が成立しないときは、エンジン停止後に燃料の一部が液体のまま燃料配管62に滞留することはないため、エンジン1の停止が指示されてから所定期間エンジン1の作動を継続させることなくエンジン1が停止する。
【0046】
本実施の形態によれば、上記のようなエンジン停止後に燃料配管62に生じ得る過度な燃圧上昇に対して、燃料システムの耐圧性を高めることなく対処することができる。また、廉価なエンジンにおいては、燃圧センサが設けられない場合もあるところ、本実施の形態によれば、燃圧センサを用いることなく、エンジン停止後の過度な燃圧上昇を抑制することができる。
【0047】
図2は、
図1に示したECU70の構成図である。
図2を参照して、ECU70は、CPU(Central Processing Unit)72と、RAM(Random Access Memory)74と、ROM(Read Only Memory)76とを含んで構成される。ROM76には、CPU72により実行される処理プログラムが記憶されており、CPU72は、ROM76に格納されている処理プログラムをRAM74に展開して実行する。
【0048】
ECU70は、吸気温センサ26の検出値と、水温センサ82の検出値を受ける。また、エンジン1には、その他にも上述した各種センサが設けられており、それらの各種センサからも検出値を受ける(図示せず)。また、ECU70は、イグニッションスイッチ80の状態(オン/オフ)を示す信号をイグニッションスイッチ80から受ける。
【0049】
そして、ECU70は、イグニッションスイッチ80がオンになると、ボンベ52の出側の遮断弁54を開けるとともに、各種センサの検出値に基づいてインジェクタ18及び点火プラグ20を駆動する(エンジン1運転状態)。
【0050】
また、ECU70は、イグニッションスイッチ80がオフになると、遮断弁54を閉じる。そして、ECU70は、上述した第1の条件(低温条件)及び第2の条件(暖機未完了条件)が成立しているか否かを判定し、双方の条件が成立している場合には、所定期間が経過するまでエンジン1の作動を継続する(インジェクタ18及び点火プラグ20の駆動を継続)。他方、第1及び第2の条件の少なくとも一方が成立していないときは、エンジン1を直ちに停止する(インジェクタ18及び点火プラグ20を停止)。
【0051】
第1及び第2の条件の双方が成立している場合にエンジン1の作動を継続させる所定期間は、エンジン停止時のエンジン水温に応じて設定される。本実施の形態では、エンジン水温が低いほど、所定期間が長くなるように設定される。エンジン水温が低いほど、燃料配管62に滞留している液化状態の燃料量が多くなり、その滞留している燃料が消費されるのにも時間がかかるため、エンジン水温が低いほど、エンジン1の作動を継続させる期間を長くすることにしたものである。
【0052】
図3は、ECU70により実行される処理の流れを説明するフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、イグニッションスイッチ80がオンになると開始される。
図3を参照して、イグニッションスイッチ80がオンになると、ECU70は、エンジン1を始動する(ステップS10)。具体的には、ECU70は、ボンベ52の出側の遮断弁54を開け、所望の運転状態となるようにインジェクタ18及び点火プラグ20を駆動する。さらに、ECU70は、エンジン始動時の吸気温度を吸気温センサ26から取得し、取得した吸気温度を記憶する(ステップS15)。
【0053】
次いで、ECU70は、イグニッションスイッチ80がオフされたか否かを判定する(ステップS20)。そして、イグニッションスイッチ80がオフされたと判定されると(ステップS20においてYES)、ECU70は、遮断弁54を閉にする(ステップS25)。これにより、ボンベ52からの燃料供給が停止する。さらに、ECU70は、エンジン水温の検出値を水温センサ82から取得する(ステップS30)。
【0054】
次いで、ECU70は、ステップS15において取得し記憶したエンジン始動時の吸気温度がしきい値T1よりも低いか否かを判定する(ステップS35)。この判定処理は、上述した低温条件に相当し、しきい値T1は、例えば0℃である。
【0055】
ステップS35においてエンジン始動時の吸気温度がしきい値T1よりも低いと判定されると(ステップS35においてYES)、ECU70は、さらに、ステップS30において取得したエンジン水温がしきい値T2よりも低いか否かを判定する(ステップS40)。この判定処理は、上述した暖機未完了条件に相当し、しきい値T2は、例えば30℃である。
【0056】
ステップS40においてエンジン水温がしきい値T2よりも低いと判定されると(ステップS40においてYES)、ECU70は、エンジン1を停止することなくその作動を継続する(ステップS45)。すなわち、ECU70は、インジェクタ18の燃料噴射及び点火プラグ20の点火を継続する。そして、ECU70は、所定期間が経過したか否かを判定する(ステップS50)。
【0057】
図4は、ステップS50における所定期間を説明する図である。
図4を参照して、横軸は、
図3のステップS30で取得されたエンジン水温を示し、縦軸は所定期間を示す。図示のように、この実施の形態では、ステップS30で取得されたエンジン水温が低いほど、イグニッションスイッチ80のオフ後にエンジン1の作動を継続させる期間が長くなるように、
図3のステップS50における所定期間が設定される。これにより、燃料配管62に滞留している液体の燃料の量に応じて、エンジン1の作動継続期間を適切にすることができる。
【0058】
なお、このようなエンジン水温と所定期間との関係は、事前の評価試験等により予め求められ、マップ化されてROM76に記憶されている。
【0059】
再び
図3を参照して、ステップS50において所定期間が経過するまでは(ステップS50においてNO)、ステップS45に処理が戻され、エンジン1の作動が継続する。そして、ステップS50において所定期間が経過したと判定されると(ステップS50においてYES)、ECU70は、エンジン1を停止する(ステップS55)。すなわち、ECU70は、インジェクタ18の燃料噴射及び点火プラグ20の点火を停止する。
【0060】
なお、ステップS35においてエンジン始動時の吸気温度がしきい値T1以上であると判定された場合(ステップS35においてNO)、又はステップS40においてエンジン水温がしきい値T2以上であると判定された場合(ステップS40においてNO)、ECU70は、ステップS45,S50の処理を実行せずにステップS55へ処理を移行し、エンジン1を停止する。すなわち、エンジン始動時の低温条件が成立し(ステップS35においてYES)、かつ、エンジン停止操作時の暖機未完了条件が成立する(ステップS40においてYES)場合に限り、イグニッションスイッチ80のオフ後にエンジン1の作動が所定期間継続する。
【0061】
なお、上記において、ステップS10とステップS15の処理の順序は問わない。また、ステップS25とステップS30の処理の順序も問わず、ステップ35とステップS40の処理の順序も問わない。
【0062】
以上のように、この実施の形態においては、エンジン始動時の低温条件、及びエンジン停止操作時の暖機未完了条件が成立する場合に、イグニッションスイッチ80のオフ後、エンジン1の作動を所定期間継続した後にエンジン1を停止させる。これにより、燃料配管62内の残留する液化状態の燃料を消費させ、燃料配管62において過度な燃圧上昇が生じるのを抑制することができる。低温条件及び暖機未完了条件の少なくとも一方が成立しないときは、エンジン停止後に燃料の一部が液体のまま燃料配管62に滞留することはないため、エンジン1の停止が指示されてから所定期間エンジン1の作動を継続させることなくエンジン1が停止する。
【0063】
このように、この実施の形態によれば、エンジン停止後に生じ得る過度な燃圧上昇に対して、燃料システムの耐圧性を高めることなく対処することができる。また、燃圧センサが設けられていない燃料システムにおいても、エンジン停止後の過度な燃圧上昇を抑制することができる。
【0064】
また、この実施の形態によれば、エンジン水温が低いほど、エンジン1の停止が指示されてからエンジン1の作動を継続させる期間が長いので、燃料配管62に滞留する燃料を適切に消費させることができる。
【0065】
[変形例]
上記の実施の形態では、低温条件及び暖機未完了条件が成立する場合に、イグニッションスイッチ80のオフ後にエンジン1の作動を継続させる期間(所定期間)を、
図4に示される関係に従って設定するものとした。この変形例では、低温条件及び暖機未完了条件が成立する場合に、イグニッションスイッチ80のオフ後、エンジン水温が所定のしきい値に達するまでエンジン1の作動を継続させる。
【0066】
図5は、この変形例におけるECU70により実行される処理の流れを説明するフローチャートである。このフローチャートは、上記の実施の形態で説明した
図3のフローチャートに対応するものである。
【0067】
図5を参照して、ステップS110~S145,S155は、それぞれ
図3のフローチャートのステップS10~S45,S55と同じである。このフローチャートでは、ステップS140において、ステップS130で取得されたエンジン水温がしきい値T2よりも低いと判定され(ステップS140においてYES)、エンジン1の作動を継続させた後(ステップS145)、ECU70は、エンジン水温の検出値を水温センサ82から再び取得する(ステップS150)。
【0068】
そして、ECU70は、ステップS150において取得されたエンジン水温がしきい値T3よりも高いか否かを判定する(ステップS152)。エンジン水温がしきい値T3以下であるときは(ステップS152においてNO)、ステップS145に処理が戻され、エンジン1の作動が継続する。
【0069】
他方、ステップS152においてエンジン水温がしきい値T3よりも高いと判定されると(ステップS152においてYES)、ECU70は、エンジン1を停止する(ステップS155)。すなわち、ECU70は、インジェクタ18の燃料噴射及び点火プラグ20の点火を停止する。
【0070】
しきい値T3は、ステップS140のしきい値T2と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、しきい値T3は、しきい値T2よりも少しだけ高い温度に設定されてもよい。
【0071】
以上のように、この変形例によれば、エンジン始動時の低温条件、及びエンジン停止操作時の暖機未完了条件が成立する場合に、イグニッションスイッチ80のオフ後、エンジン水温がしきい値T3に達するまでエンジン1の作動を継続させるので、エンジン1の作動継続期間を適切にすることができる。
【0072】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示により示される技術的範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1 エンジン、10 エンジン本体、12 吸気管、14 エアクリーナ、16 スロットル装置、18 インジェクタ、20 点火プラグ、22 排気管、24 触媒装置、26 吸気温センサ、28 吸気圧センサ、30,32 O2センサ、52 ボンベ、54 遮断弁、56 レギュレータ、58 気相フィルタ、60,62 燃料配管、64,66 燃圧センサ、68 燃温センサ、70 ECU、72 CPU、74 RAM、76 ROM、80 イグニッションスイッチ、82 水温センサ。