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特開2024-73834ゴム補強用複合繊維コードおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073834
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】ゴム補強用複合繊維コードおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/48 20060101AFI20240523BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20240523BHJP
   D02G 3/40 20060101ALI20240523BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20240523BHJP
   D06M 15/39 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
D02G3/48
D02G3/04
D02G3/40
D06M15/693
D06M15/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184756
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 智也
【テーマコード(参考)】
4L033
4L036
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB01
4L033AC11
4L033CA33
4L033CA68
4L036MA05
4L036MA06
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA21
4L036PA26
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】タイヤ製造後において比較的高いコード剛性を示し、かつ良好な耐疲労性を示すゴム補強用複合繊維コードを提供する。
【解決手段】芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維、ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含むゴム補強用複合繊維コードであって、前記複合繊維に含まれる芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が45:55~30:70であり、前記ゴム補強用複合繊維コードは、150℃にて30分間保持した後に測定された2%伸長時の荷重が35N以上かつ5%伸長時の荷重が100N以上であることを特徴とするゴム補強用複合繊維コード。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維、ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含むゴム補強用複合繊維コードであって、前記複合繊維に含まれる芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が45:55~30:70であり、前記ゴム補強用複合繊維コードは、150℃にて30分間保持した後に測定された2%伸長時の荷重が35N以上かつ5%伸長時の荷重が100N以上であることを特徴とする、ゴム補強用複合繊維コード。
【請求項2】
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aの繊度が400~1500dtexであり、低弾性率繊維からなる繊維束Bの繊度が400~2000dtexであり、かつ複合繊維の繊度が3500dtex以下である、請求項1に記載のゴム補強用複合繊維コード。
【請求項3】
複合繊維の繊度が3000dtex以下である、請求項2に記載のゴム補強用複合繊維コード。
【請求項4】
低弾性率繊維が脂肪族ポリアミド繊維またはポリエステル繊維である、請求項1に記載のゴム補強用複合繊維コード。
【請求項5】
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維、ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含むゴム補強用複合繊維コードの製造方法であって、前記複合繊維に含まれる芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が45:55~30:70であり、接着剤を含む処理液に前記複合繊維を含侵させて含浸複合繊維コードとする含浸工程、および前記含浸複合繊維コードを0.4cN/dtex以上の張力下および230~270℃の温度下にて合計1~10分間の熱処理を行う熱処理工程を含むことを特徴とする、ゴム補強用複合繊維コードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用複合繊維コードおよびその製造方法に関し、詳しくは、タイヤ等のゴム製品において補強に用いられるゴム補強用複合繊維コードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムタイヤ、ゴムベルト等のゴム製品の強度や耐久性を向上させるために、補強用繊維コードをゴム内に埋め込むことが広く一般に行われている。従来、この補強用繊維コードを構成する繊維として、ガラス繊維、ビニロン繊維等のポリビニルアルコール繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、アラミド(芳香族ポリアミド)等のポリアミド繊維、カーボン繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキザール繊維等が、広く用いられている。
【0003】
ゴムタイヤの構成部位であるカーカスの補強には、比較的剛性が高く、走行中の発熱による剛性の低下が比較的少ないレーヨン繊維からなる補強用繊維コードが一般的に使用されている。
【0004】
しかし、レーヨン繊維を補強用繊維コードに用いた場合、レーヨン繊維自体の強度が低いため、ゴムタイヤの耐久性向上に必要な強力を発現するためにはレーヨン繊維の本数を増やして補強用繊維コードの径を太くする必要がある。この場合、補強用繊維コードの径を太くするに伴い、ゴムタイヤの重量増加とゴム使用量の増加を招くことになる。
【0005】
また、タイヤの補強用繊維コードは、走行中に繰り返し伸長圧縮にさらされる。レーヨン繊維からなる補強用繊維コードは、この繰り返し伸長圧縮に対する耐久性(耐疲労性)が低い。
【0006】
そこで、補強用繊維コードに用いる繊維として、レーヨン繊維に替わる繊維が検討されてきた。例えば特許文献1および特許文献2には、高強度高弾性率でありかつ熱に対する耐久性が高い芳香族ポリアミド繊維と、耐疲労性が高いポリエステル繊維との補強用複合繊維コードが開示されている。
【0007】
これらの技術では、複合繊維コードの繊度が細くかつ繊維コード剛性が比較的高い。しかし、この複合繊維コードを用いてゴムタイヤを製造すると、ゴムタイヤの成型工程中の熱処理によって複合繊維コードのポリエステル繊維が収縮してしまい、複合繊維コードの剛性が低下する。また、複合繊維コードの剛性を高める目的で芳香族ポリアミド繊維の割合を多くしても、耐疲労性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6338291号公報
【特許文献2】特許第6742511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、タイヤ製造後において比較的高いコード剛性を示し、かつ良好な耐疲労性を示すゴム補強用複合繊維コードを提供することにある。さらに、複合繊維コードの繊度が細い場合でも、タイヤ製造後において高いコード剛性を示し、かつ良好な耐疲労性も示すゴム補強用複合繊維コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維、ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含むゴム補強用複合繊維コードであって、前記複合繊維に含まれる芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が45:55~30:70であり、前記ゴム補強用複合繊維コードは、150℃にて30分間保持した後に測定された2%伸長時の荷重が35N以上かつ5%伸長時の荷重が100N以上であることを特徴とするゴム補強用複合繊維コードである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤ製造後において比較的高いコード剛性を示し、かつ良好な耐疲労性を示すゴム補強用複合繊維コードを提供することができる。
本発明によれば、さらに、複合繊維コードの繊度が細い場合でも、タイヤ製造後において高いコード剛性を示し、かつ良好な耐疲労性も示すゴム補強用複合繊維コードを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束A〕
本発明において芳香族ポリアミド繊維の芳香族ポリアミドは、芳香族ホモポリアミドまたは芳香族コポリアミドからなる。
【0013】
芳香族コポリアミドにおける共重合成分の量は、例えば高々20モル%、好ましくは高々10モル%である。芳香族コポリアミドの芳香族基はすべて同一であってもよく、相異なってもよい。芳香族基の水素原子は、ハロゲン原子、低級アルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい。
【0014】
芳香族ポリアミド繊維自体は、従来から知られているものを用いることができ、知られている方法で製造することができる。例えば、特開昭49-100322号公報、特開昭47-10863号公報、特開昭58-144152号公報および特開平4-65513号公報に記載されている方法で製造することができる。
【0015】
芳香族ポリアミド繊維として、耐熱性と強度に優れていることから、好ましくはパラ型芳香族ポリアミド繊維を用いる。このパラ型芳香族ポリアミド繊維は、芳香族ポリアミドのポリマーの延鎖結合が共軸または平行であり、かつ反対方向に向いていることが好ましい。
【0016】
パラ型芳香族ポリアミド繊維として、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、テイジンアラミドB.V.製「トワロン」(登録商標))や、共重合型の芳香族ポリアミド繊維であるコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製「テクノーラ」(登録商標))を例示することができる。
【0017】
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aの繊度は、好ましくは400~2000dtex、さらに好ましくは400~1500dtexである。繊度が400dtex未満であると、ゴム補強用複合繊維コードに必要な強力および剛性が得られず好ましくなく、他方、2000dtexを超えると、結果的にゴム補強用複合繊維コードのコード径全体が太くなるだけでなく、高弾性率繊維を含めたコード全体が太くなるため、同じ曲率半径で屈曲された場合にコードの歪が大きくなり屈曲耐久性が低下し、耐疲労性が低下して好ましくない。
【0018】
〔低弾性率繊維からなる繊維束B〕
本発明において低弾性率繊維は、前記の繊維束Aの芳香族ポリアミド繊維より弾性率が低い繊維である。低弾性率繊維は、好ましくは初期引張抵抗度が100cN/dtex以下である。初期引張抵抗度が100cN/dtexを超えると低弾性率繊維の屈曲耐久性およびゴム補強用複合繊維コード全体の屈曲耐久性が低下し、結果として耐疲労性が低下して好ましくない。
【0019】
低弾性率繊維は、その強度が、好ましくは9cN/dtex以下である。強度が9cN/dtexを超えると、低弾性率繊維の屈曲耐久性およびゴム補強用複合繊維コード全体の屈曲耐久性が低下し、結果として耐疲労性が低下して好ましくない。
【0020】
低弾性率繊維からなる繊維束Bの繊度は、好ましくは400~2000dtexである。繊度が400dtex未満であると、ゴム補強用複合繊維コードに必要な強力および剛性が得られず、また、耐疲労性も低くなり好ましくない。他方、2000dtexを超えると、複合ゴム成型時に発熱による剛性の低下が大きくなり、結果として補強用複合繊維コードに必要な強力および剛性が得られなくなり好ましくない。
【0021】
低弾性率繊維として、ポリウレタン繊維、ナイロン6やナイロン66、ナイロン46で知られる脂肪族ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートで知られるポリエステル繊維、ビニロンとして知られるポリビニリアルコール繊維、レーヨン繊維を例示することができ、好ましくは脂肪族ポリアミド繊維またはポリエステル繊維を用いる。
【0022】
〔複合繊維〕
本発明のゴム補強用複合繊維コードにおいて複合繊維は、前記の芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aと前記の低弾性率繊維からなる繊維束Bとから構成される。それぞれの繊維束の特性を反映させるため、複合繊維において、繊維束Aと繊維束Bは、好ましくは撚り合わされている。
【0023】
撚りの態様は、好ましくは、繊維束Aと繊維束Bとのそれぞれ1本または複数本を引き揃えて、S方向またはZ方向の片側に撚り(片撚り)を施し、繊維束Aの下撚り糸と繊維束Bの下撚り糸を準備し、その後、それぞれの下撚り糸をさらに複数本引き揃えて、片撚りの方向と同じ方向の上撚り(ラング撚り)、または反対方向の上撚り(諸撚り)を施した態様である。さらに好ましくは、繊維束Aの下撚り糸と繊維束Bの下撚り糸を併せる上撚りの方向が反対方向となるように撚りを施した態様である。
【0024】
繊維束Aの下撚り糸と繊維束Bの下撚り糸とを併せて上撚りして複合繊維とすることで、伸長時にまず低弾性率繊維からなる繊維束Bが優先的に伸長されて低い弾性率を示し、その後、途中から繊維束Aの応力負担が大きくなり芳香族ポリアミド繊維の高弾性率を示す、理想的な機械的物性を有する複合繊維を得ることができる。
【0025】
繊維束Aの下撚りの撚り係数(T1)、繊維束Bの下撚りの撚り係数(T2)、繊維束Aおよび繊維束Bの上撚りの撚り係数(T3)は、ゴム製品に要求される引張物性や長時間使用時の耐久性に応じて適宜設定することができきる。
【0026】
撚り係数は、下記の式で算出する。
TM=T×√D/1055
(ただし、TMは撚り係数、Tは撚り数(回/m)、Dは牽切加工糸の総繊度(tex)を表す。)
【0027】
複合繊維の繊度は、好ましくは3500dtex以下、さらに好ましくは3000dtex以下である。繊度が3500dtexを超えると、ゴム補強用複合繊維コードのコード径全体が太くなるため、同じ曲率半径で屈曲された場合にコードの歪が大きくなり屈曲耐久性が低下し、耐疲労性が低下し好ましくない。また、繊度が太くなるに伴いタイヤ重量およびゴム使用量が増加して好ましくない。
【0028】
複合繊維の態様として特に好ましい態様は、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aの繊度が400~1500dtexであり、低弾性率繊維からなる繊維束Bの繊度が400~2000dtexであり、かつ複合繊維の繊度が3500dtex以下である態様である。
【0029】
本発明において、複合繊維に含まれる芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が45:55~30:70であることが肝要である。低弾性率繊維の重量比率が55重量%未満であると、ゴム補強用複合繊維コードに必要な強力および耐疲労性が得ることができない。他方、低弾性率繊維の重量比率が70重量%を超えると、複合ゴム成型時に発熱による剛性の低下が大きくなり、結果としてゴム補強用複合繊維コードに必要な強力および剛性を得ることができない。
【0030】
〔樹脂接着剤〕
本発明のゴム補強用複合繊維コードは、前記の複合繊維ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含む。すなわち、本発明のゴム補強用複合繊維コードは、樹脂接着剤を含有する。この樹脂接着剤として、例えば、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスを用いることができる。
【0031】
ゴムラテックスとして、例えば、水素添加アクリロニトリルーブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル-ブタジエンラテックス、イソプレンゴムラテックス、ウレタンゴムラテックス、スチレン-ブタジエンゴムラテックス、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンラテックスを用いることができる。これらは、単独で使用しても併用してもよい。
樹脂接着剤の層の強度を高めるために、ゴムラテックスとして、好ましくはビニルピリジン-スチレン-ブタジエンゴムラテックス(VP-SBRラテックス)を用いる。
【0032】
芳香族ポリアミド繊維は、表面が不活性であり、他の物質と接着しづらい。そこで、十分な接着性を得るために、接着処理を行う前の複合繊維コードを、エポキシ化合物が含まれる溶液に浸漬処理することでエポキシ化合物を複合繊維コードに含侵させる表面処理を行うことが好ましい。この表面処理を行うことで、芳香族ポリアミド繊維と、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂との化学的親和性を向上させることができる。
【0033】
表面処理に用いるエポキシ化合物として、具体的には、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシドとの反応生成物、レゾルシン、ピス(4-ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノールと前記ハロゲン含有エポキシドとの反応生成物、過酢酸または過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、すなわち3,4-エポキシシクロヘキセンエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3、4-エポキシ-6-メチル-シクロヘキシルメチル)アジベートを例示することができる。これらのうち、多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物が好ましい。
【0034】
エポキシ化合物として、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物のようなポリエポキシド化合物と硬化剤により生成される化合物も好ましい。
ポリエポキシド化合物を用いる場合、乳化剤、例えばアルキルベンゼンスルフォン酸ソーダ、ジオクチルスルフォサクシネートナトリウム塩を用いて乳化液としてもよい。
【0035】
ポリエポキシド化合物には、アミン系やイミダゾール系の硬化剤、ポリイソシアネートとオキシム、フェノール、カプロラクタムなどのブロック化剤との付加化合物であるブロックドポリイソシアネート、エチレンイミンとの反応化合物であるエチレン尿素を併用してもよい。
【0036】
〔ゴム補強用複合繊維コードの2%伸長時および5%伸長時の荷重〕
本発明のゴム補強用複合繊維コードは、150℃にて30分間保持した後に測定された2%伸長時の荷重が35N以上かつ5%伸長時の荷重が100N以上である。150℃にて30分間保持した後に測定された2%伸長時の荷重が35N未満であるか、150℃にて30分間保持した後に測定された5%伸長時の荷重が100N未満であると、ゴム補強用複合繊維コードに必要な剛性を得られず好ましくない。
【0037】
本発明のゴム補強用複合繊維コードは、2%伸長時の荷重が50N以上かつ5%伸長時の荷重が150N以上であることが好ましい。2%伸長時の荷重が50N未満であるか、5%伸長時の荷重が150N未満であると、ゴムタイヤの成型工程中の熱処理後に、ゴム補強用複合繊維コードに必要な剛性を得られず好ましくない。
【0038】
〔製造方法〕
本発明のゴム補強用複合繊維コードは、芳香族ポリアミド繊維および低弾性率繊維を、それぞれ下撚りし、その下撚り糸同士を合わせて下撚り方向とは逆方向で上撚りすることで複合繊維コードを形成し、この複合繊維コードに樹脂接着剤を付着させることで製造することができる。この樹脂接着剤の付着では、複合繊維コードの表面および内部の少なくとも一部に、樹脂接着剤を含有させることが好ましい。
【0039】
複合繊維コードに樹脂接着剤を付着させることは、樹脂接着剤を含有する処理液に、複合繊維コードを含侵させて、その後、樹脂接着剤の付着した複合繊維コードを0.4cN/dtex以上の張力下で230~270℃の温度にて合計1~10分間の熱処理を行うことで実施することが好ましい。
【0040】
以上の製造方法によって、複合繊維コードの低弾性率繊維が十分に熱延伸および熱セットされ、ゴム補強用複合繊維コードに必要な強力および剛性が得ることができ、複合ゴム成型時に発熱による剛性の低下を抑制することができる。
【0041】
本発明によれば、以下の製造方法が提供される。
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維、ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含むゴム補強用複合繊維コードの製造方法であって、前記複合繊維に含まれる芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が45:55~30:70であり、接着剤を含む処理液に前記複合繊維を含侵させて含浸複合繊維コードとする含浸工程、および前記含浸複合繊維コードを0.4cN/dtex以上の張力下および230~270℃の温度下にて合計1~10分間の熱処理を行う熱処理工程を含むことを特徴とするゴム補強用複合繊維コードの製造方法。
【実施例0042】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。評価は以下の方法で行った。
(1)繊度
JIS L1017に準じて繊度(重量)を測定した。樹脂接着剤が付着している場合は、樹脂接着剤を含めた繊度(重量)を測定した。
【0043】
(2)樹脂接着剤の付着率
JIS L1017のディップピックアップ(質量法)に準じて測定して算出した。
【0044】
(3)引張強力
ASTM D885に準じてゴム補強用複合繊維コードの引張試験を実施した。引張試験により得られた荷重-伸長曲線から、破断時の強力を読み取った。引張試験は10回行い、破断時の強力をそれぞれの回で読み取った。10回の平均値を算出して引張強力とした。
【0045】
(4)2%伸長時の荷重および5%伸長時の荷重
上記(3)の測定にて得られた荷重-伸長曲線から、2%伸度時の荷重および5%伸度時の荷重を読み取った。その後、10回測定の平均値を算出した。この値をゴム補強複合繊維コードにおける剛性の指標とした。
【0046】
(5)熱処理後の2%伸長時の荷重および熱処理後の5%伸長時の荷重
複合繊維コードを、無荷重、150℃、30分間の条件下にて熱処理を行い、室温環境下で30分間以上コードを放冷した。その後、上記(3)および(4)と同様の手順により、2%伸度時の荷重および5%伸度時の荷重を算出した。この値を複合ゴム成型後のゴム補強用複合繊維コードにおける剛性の指標とした。
【0047】
(6)耐疲労性
複合繊維コードに対してゴムを加硫して補強ゴム試験片を製造した後、JIS L1017に準じてディスク疲労試験機を用いて6時間にわたり2500rpmにて補強ゴム試験片の全長に対して+10%の伸長および-10%の圧縮を前記の補強ゴム試験片にかける疲労試験を行った。
この疲労試験の前後の補強ゴム試験片について、ASTM D885に準じて引張試験を行い、その引張強力を測定した。耐疲労性を、以下の式により算出した。
耐疲労性(%)=疲労試験後の引張強力/疲労試験前の引張強力×100
【0048】
〔実施例1〕
芳香族ポリアミド繊維としてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製トワロン(登録商標)T1000 1100dtex)を用い、リング撚糸処理において450t/mのZ方向の撚糸(撚り係数T1=4.7)を施して、下撚り糸(繊維束A)とした。
【0049】
また、低弾性率繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維(帝人株式会社製テトロン(登録商標)BHT 1670T384 P952NL 1670dtex)を用い、リング撚糸処理において、リング撚糸処理において450t/mのZ方向の撚糸(撚り係数T2=5.7)を施して、下撚り糸(繊維束B)とした。
【0050】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の下撚り糸1本とポリエチレンテレフタレート繊維の下撚り糸1本を用いて、450t/m(撚り係数TM=7.4)のS方向の撚糸を施して、上撚り糸である複合繊維とした。このとき、芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が40:60となるようした。
【0051】
この複合繊維を用いて以下の処理を行った。一浴目の処理液として、ピペラジン0.5gを水978.5gに分散させ、ネオコールSW-30(ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、第一工業製薬株式会社製)1g(固形成分濃度:30重量%)を添加し、次いでポリエポキシド化合物(デナコールEX314、ナガセケムテックス株式会社製)20gを分散させた処理液(固形成分2重量%)を用意した。
【0052】
この一浴目の処理液に前記複合繊維を浸漬させ、その後処理液から出し、0.5cN/dtexの張力下において温度150℃で90秒間乾燥させ、その後、さらに240℃で2分間熱処理を行い、一浴処理後の複合繊維とした。
【0053】
次いで、二浴目の処理液を調製した。まずは、苛性ソーダ水溶液に、レゾルシン・ホルマリン初期縮合物、スミカノールS700(住友化学株式会社製、65重量%水溶液)を添加して十分に攪拌して分散させた。これにホルマリンをR/F比が1/0.5(モル比)になるように添加して均一に混合し、温度25℃で6時間熟成させた。次に、ニッポール2518FS(日本ゼオン株式会社製、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス)およびニッポールLX-111A(日本ゼオン株式会社製、ポリブタジエンゴムラテックス)を混合したもの(ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス/ポリブタジエンゴムラテックス=75/25(重量比))を、前記レゾルシン・ホルマリン初期縮合物分散液と固形分比率(RF/L比)で1/9の重量割合(処理液濃度10重量%)で混合し、温度25℃で24時間熟成した。得られた処理液を二浴目の処理液とした。
【0054】
この二浴目の処理液に、一浴処理後の複合繊維を浸漬させ(含浸工程)、0.5cN/dtexの張力下において温度150℃で90秒間乾燥させた後、245℃で2分間熱処理(熱処理工程)を行い、ゴム補強用複合繊維コードを得た。評価結果を表1に示す。
【0055】
〔実施例2〕
芳香族ポリアミド繊維としてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製トワロン(登録商標)T1000 1100dtex)を用い、リング撚糸処理において500t/mのZ方向の撚糸(撚り係数T1=5.2)を施して、下撚り糸(繊維束A)とした。
【0056】
また、低弾性率繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維(帝人株式会社製テトロン(登録商標)BHT 1670T384 P952NL 1670dtex)を用い、リング撚糸処理において、リング撚糸処理において500t/mのZ方向の撚糸を施して、下撚り糸(繊維束B)とした。
【0057】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の下撚り糸1本とポリエチレンテレフタレート繊維の下撚り糸1本を用いて、500t/m(撚り係数TM=8.2)のS方向の撚糸を施して、上撚り糸(複合繊維)とした。このとき、芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が40:60となるようした。
【0058】
一浴目の処理液に複合繊維を浸漬させ、1.0cN/dtexの張力下において150℃で90秒間乾燥させた後、240℃で2分間熱処理を行い、一浴処理後の複合繊維とした。二浴目の処理液に、一浴処理後の複合繊維を浸漬させ(含浸工程)、1.0cN/dtexの張力下において150℃で90秒間乾燥させた後、245℃で2分間熱処理(熱処理工程)を行い、これ以外は実施例1と同様にしてゴム補強用複合繊維コードを得た。評価結果を表1に示す。
【0059】
〔比較例1〕
芳香族ポリアミド繊維としてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製トワロン(登録商標)T1000 1680dtex)を用い、リング撚糸処理において400t/mのZ方向の撚糸(撚り係数T1=5.1)を施して、下撚り糸(繊維束A)とした。
【0060】
また、低弾性率繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維(帝人株式会社製テトロン(登録商標)BHT 1670T384 P952NL 1670dtex)を用い、リング撚糸処理において400t/mのZ方向の撚糸(撚り係数T2=5.1)を施して、下撚り糸(繊維束B)とした。
【0061】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の下撚り糸1本とポリエチレンテレフタレート繊維の下撚り糸1本を用いて、400t/m(撚り係数TM=7.2)のS方向の撚糸を施して、上撚り糸(複合繊維)とした。このとき、芳香族ポリアミド繊維と低弾性率繊維との重量比率が50:50となるようした。他は実施例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表1に示す。
【0062】
〔比較例2〕
一浴目の処理液に複合繊維を浸漬させ、0.2cN/dtexの張力下において150℃で90秒間乾燥させた後、240℃で2分間熱処理を行い、一浴処理後の複合繊維とした。二浴目の処理液に、一浴処理後の複合繊維を浸漬させ、0.2cN/dtexの張力下において150℃で90秒間乾燥させた後、245℃で2分間熱処理を行い、ゴム補強用複合繊維コードを得た。評価結果を表1に示す。他は比較例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のゴム補強用複合繊維コードは、ゴムの補強に用いることができ、特にゴムタイヤの補強に用いることができる。本発明のゴム補強用複合繊維コードをゴムタイヤの補強に用いた場合、優れたタイヤ特性を有しながら、他のゴム補強用コードよりもそのゴム層の厚みを薄くすることができ、燃費の向上等に貢献することができる。