(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073838
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】発酵調味料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/50 20160101AFI20240523BHJP
A23L 27/24 20160101ALI20240523BHJP
【FI】
A23L27/50 B
A23L27/24
A23L27/50 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184766
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】509298012
【氏名又は名称】公立大学法人宮城大学
(71)【出願人】
【識別番号】394027559
【氏名又は名称】三谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金内 誠
(72)【発明者】
【氏名】早坂 創
【テーマコード(参考)】
4B039
4B047
【Fターム(参考)】
4B039LB12
4B039LC06
4B039LC20
4B039LG14
4B039LG18
4B039LG20
4B039LG22
4B039LQ07
4B039LQ13
4B039LR01
4B039LR11
4B047LB07
4B047LG54
4B047LG56
4B047LG59
4B047LP04
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】こくとうまみを強化するとともに魚臭を低減することができる発酵調味料の製造方法を提供する。
【解決手段】発酵調味料の製造方法は、主原料に麹又はタンパク質分解酵素剤と水を加え、主原料を加熱することで、主原料を分解抽出する分解抽出工程と、分解抽出工程において分解抽出された主原料を冷却し、魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母を添加することで、魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母を培養する培養工程と、培養工程において魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母が培養された主原料を攪拌し、主原料の温度をコントロールすることで、主原料を発酵させる発酵工程と、発酵工程において発酵された主原料に、分解抽出工程において分解抽出された主原料をさらに加え、発酵工程において発酵された主原料とさらに加えられた主原料を発酵させる二段階発酵工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小魚又はおきあみを主原料とする発酵調味料の製造方法であって、
前記主原料に麹又はタンパク質分解酵素剤と水を加えることで、前記主原料を分解抽出する分解抽出工程と、
前記分解抽出工程において分解抽出された前記主原料を冷却し、魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母を添加することで、前記魚臭分解乳酸菌及び前記魚臭分解酵母を培養する培養工程と、
前記培養工程において前記魚臭分解乳酸菌及び前記魚臭分解酵母が培養された前記主原料を攪拌し、前記主原料の温度をコントロールすることで、前記主原料を発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程において発酵された前記主原料に、前記分解抽出工程において分解抽出された前記主原料をさらに加え、前記発酵工程において発酵された前記主原料と前記さらに加えられた前記主原料を発酵させる二段階発酵工程と、
を有する、発酵調味料の製造方法。
【請求項2】
前記二段階発酵工程でさらに加える前記主原料は、前記発酵工程において発酵された前記主原料の半分以下の重量である、請求項1に記載の発酵調味料の製造方法。
【請求項3】
前記二段階発酵工程では、前記発酵工程において発酵された前記主原料に含まれるホルモール窒素が0.4%から0.7%となった場合に前記分解抽出工程において分解抽出された前記主原料をさらに加える、請求項1又は2に記載の発酵調味料の製造方法。
【請求項4】
前記二段階発酵工程では、前記発酵工程の開始後20日以上経過した場合に前記分解抽出工程において分解抽出された前記主原料をさらに加える、請求項1又は2に記載の発酵調味料の製造方法。
【請求項5】
前記魚臭分解乳酸菌は、ラクトバチルス属の乳酸菌、ペディオコッカス属の乳酸菌、又はテトラジェノコッカス属の乳酸菌の少なくとも一つであり、
前記魚臭分解酵母は、サッカロミセス属の清酒酵母、ワイン酵母、焼酎酵母、ビール酵母、又は、味噌・醤油酵母、いわゆる耐塩性酵母のうちトリメチルアミン分解能をもつ酵母、の少なくとも一つである、請求項1から4のいずれか一項に記載の発酵調味料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発酵調味料の製造方法に関し、特に、小魚又はおきあみを主原料とする発酵調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは、ツノナシオキアミを原料とし、麹と水、食塩を加え、酵素分解する酵素分解工程と、耐塩性酵母と耐塩性乳酸菌を接種して発酵させる発酵工程とを有する発酵調味料の製造方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。かかる発酵調味料の製造方法では、発酵温度が26~36°Cで1ヶ月を目処に発酵する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、1ヶ月程度の短い発酵期間ではこくとうまみが弱く、1ヶ月以上の長い発酵期間では魚臭が増大する恐れがある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、こくとうまみを強化するとともに魚臭を低減することができる発酵調味料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る発酵調味料の製造方法は、
小魚又はおきあみを主原料とする発酵調味料の製造方法であって、
前記主原料に麹又はタンパク質分解酵素剤と水を加えることで、前記主原料を分解抽出する分解抽出工程と、
前記分解抽出工程において分解抽出された前記主原料を冷却し、魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母を添加することで、前記魚臭分解乳酸菌及び前記魚臭分解酵母を培養する培養工程と、
前記培養工程において前記魚臭分解乳酸菌及び前記魚臭分解酵母が培養された前記主原料を攪拌し、前記主原料の温度をコントロールすることで、前記主原料を発酵させる発酵工程と、
前記発酵工程において発酵された前記主原料に、前記分解抽出工程において分解抽出された前記主原料をさらに加え、前記発酵工程において発酵された前記主原料と前記さらに加えられた前記主原料を発酵させる二段階発酵工程と、
を有する。
【0007】
上記(1)の製造方法によれば、魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母が培養された主原料を攪拌し、主原料の温度をコントロールすることで、主原料を発酵させ、発酵された主原料に、分解抽出された主原料をさらに加え、発酵された主原料とさらに加えられた主原料を発酵させるので、こくとうまみを強化するとともに、魚臭を低減することができる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の製造方法において、
前記二段階発酵工程でさらに加える前記主原料は、前記発酵工程において発酵された前記主原料の半分以下の重量である。
【0009】
上記(2)の製造方法によれば、さらに加える主原料が発酵を遅らせるの抑制するとともに、魚臭の増大を抑制することができる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の製造方法において、
前記二段階発酵工程では、前記発酵工程において発酵された前記主原料に含まれるホルモール窒素が0.4%から0.7%となった場合に前記分解抽出工程において分解抽出された前記主原料をさらに加える。
【0011】
上記(3)の製造方法によれば、主原料をさらに加える時期を客観的に特定することができる。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の製造方法において、
前記二段階発酵工程では、前記発酵工程の開始後20日以上経過した場合に前記分解抽出工程において分解抽出された前記主原料をさらに加える。
【0013】
上記(4)の製造方法によれば、主原料を更に加える時期を客観的に特定することができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)から(4)のいずれか一つの製造方法において、
前記魚臭分解乳酸菌は、ラクトバチルス属(Lactobacillus)の乳酸菌、ペディオコッカス属(Pediococcus)の乳酸菌、又はテトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)の乳酸菌の少なくとも一つであり、
前記魚臭分解酵母は、サッカロミセス属(Saccharomyces)の清酒酵母、ワイン酵母、焼酎酵母、ビール酵母、又は、味噌・醤油酵母、いわゆる耐塩性酵母(Zygosaccharomyces)のうちトリメチルアミン分解能をもつ酵母、の少なくとも一つである。
【0015】
上記(5)の製造方法によれば、魚臭を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、こくとうまみを強化するとともに、魚臭を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る発酵調味料の製造方法を示す工程図である。
【
図2】乳酸菌及び酵母の培養日数とトリメチルアミン(魚臭)の残存量との関係を示す図である。
【
図3】発酵期間とホルモール窒素量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0019】
[実施形態に係る発酵調味料の主原料]
実施形態に係る発酵調味料は、小魚又はおきあみを主原料とする。小魚は、例えば、シラス(カタクチイワシの稚魚)であり、おきあみは例えばツノナシオキアミや他のオキアミ類である。小魚又はおきあみは生のものや急速解凍したものであるが、乾燥したものや粉砕したものであってもよい。
【0020】
[実施形態に係る発酵調味料の製造方法]
図1は、実施形態に係る発酵調味料の製造方法を示す工程図である。
図1に示すように、実施形態に係る発酵調味料の製造方法は、分解抽出工程、培養工程、発酵工程、及び二段階発酵工程を有する。
【0021】
[分解抽出工程]
分解抽出工程は、主原料にタンパク質分解酵素含有物(麹又はタンパク質分解酵素剤)と水を加えることで、主原料を分解抽出する工程である。例えば、分解抽出工程では、ツノナシオキアミ類を冷凍のままあるいは乾燥状態もの100重量部に対し25重量部の麹又は0.1重量部のタンパク質分解酵素剤、及び主原料の固形分に対して300~900重量倍となる水を加えることで、分解抽出を行う。尚、分解抽出工程では、主原料にタンパク質分解酵素含有物と水を加えた後、加熱することが好ましいが、加熱は必須ではない。加熱する場合には、例えば、摂氏50度から60度とすることが好ましい。
【0022】
実施形態に係る発酵調味料の製造方法では、タンパク質分解酵素含有物として麹を使用する。麹の原料は、小麦、大麦、これらのフスマ、米又はトウモロコシであり、炒ごうしデンプンが熱変性した後のものを用いる。これに、蒸煮大豆あるいは、エンドウ豆、ソラマメなどの豆類を添加して製麹する。製麹の際、タンパク質分解酵素を産出するように、品温は摂氏35度を超えないように温度推移させ、48時間を目処に出麹とする。通常の麹の添加量は、主原料の固形分に対して100重量に対し10~100重量部を用いる。
【0023】
実施形態に係る発酵調味料の製造方法では、分解抽出工程中にタンパク質分解酵素剤を加えてもよい。例えば、市販のタンパク質分解酵素、パパイン、ブロメライン、フィシン、その他アスペルギルス属、バシルス属が生産した市販の微生物生産酵素を原料全体重量に対し、0.01~0.5重量部となるように添加し、加熱分解させることを好ましい。市販のタンパク質分解酵素剤としてスミチームFP-Gを使用したが、複数の酵素剤を組み合わせることや麹と組み合わせることで分解能が向上することもある。
【0024】
上述したように、水は、主原料の固形分に対して300~900重量倍となるよう添加する。換言すると、できあがりの汁部の全窒素量が0.8重量%から3重量%程度となるように調整する。好ましくは、主原料を100重量部とした場合、最終的に500重量部程度となるように水(仕込み水)を加える。
【0025】
分解抽出工程では、味付けのほか防腐のために食塩を添加してもよい。食塩を添加する場合に、その量は食塩濃度が約1.0~15重量%になるように調整することが好ましい。
【0026】
[培養工程]
培養工程は、分解抽出工程において分解抽出された主原料を冷却し、魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母を添加することで、魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母を培養する工程である。例えば、培養工程では、トリメチルアミンに由来する魚臭を問題とし、トリメチルアミンを分解する乳酸菌及び酵母を選別した。例えば、乳酸菌では、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus brevisなどを含むLactobacillus属の乳酸菌、Pediococcus属の乳酸菌、醤油用・味噌用の乳酸菌(Tetragenococcus属)の中からトリメチルアミン分解能をもつ株を選抜した。また、例えば、酵母では、発酵性酵母(Saccharomyces属)の清酒酵母、ワイン酵母、焼酎酵母、ビール酵母、また、醤油用・味噌用の酵母(Zygosaccharomyces属)の中からトリメチルアミン分解能をもつ株を選抜した。実施の形態に係る調味料の製造方法では、分解抽出工程において分解抽出された主原料を直ちに摂氏30度まで冷却後、魚臭分解乳酸菌と酵母を培養する。
【0027】
実施形態に係る発酵調味料の製造方法では、トリメチルアミン分解するとして選抜されたLactobacillus plantarum株、及びTetragenococcus rouxii株をどちらか一つ又は両方を培養した。
【0028】
トリメリルアミンの分解率の高い乳酸菌Lactobacillus plantarum株および酵母Zygosaccharomyces rouxii株をどちらか一つあるいは両方を添加することにより効果がある。酵素分解物は、摂氏35度以下に冷却後、直ちに、同時に添加する。
【0029】
[発酵工程]
発酵工程は、培養工程において魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母が培養された主原料を攪拌し、主原料の温度をコントロールすることで、主原料を発酵させる工程である。例えば、発酵工程では、培養工程において培養された主原料を十分攪拌した後、混合物の温度を摂氏26度ないし40度にコントロールを行い発酵させる。
【0030】
実施形態に係る発酵調味料の製造方法では、主原料を急速に酵素分解した後に、乳酸菌、酵母を混合して、充分攪拌した後、発酵基材となるグルコースを加える。例えば、もろみ100重量に対し、グルコースは4重量部加えることを好ましい。
【0031】
これにより、タンパク質が加熱分解された混合物タンクの中で、トリメリルアミンの分解微生物の増殖・発酵が進行する。このときの発酵温度は、摂氏26度ないし36度に調整される。1週間~2週間が経過し発酵が終了とすると、トリメリルアミン、つまり魚臭のない風味よい調味料が得られる。
【0032】
[二段階発酵工程]
二段階発酵工程は、発酵工程において発酵された主原料に、分解抽出工程において分解抽出された主原料をさらに加え、発酵工程において発酵された主原料とさらに加えられた主原料を発酵させる工程である。
【0033】
例えば、発酵工程において発酵された主原料に含まれるホルモール窒素が0.4%から0.7%となった場合に分解抽出工程において分解抽出された主原料をさらに加えるが、これに限定されるものではない。
【0034】
例えば、発酵工程の開始後20日以上経過した場合に分解抽出工程において分解抽出された主原料をさらに加えるものとしてもよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
また、例えば、二段階発酵工程でさらに加える主原料は、発酵工程において発酵された主原料の半分以下の重量である。例えば、最初に用いた100重量部の主原料に対して50重量部の主原料をそのまま、あるいは2倍量の水、13重量部の麹又は0.05重量部のタンパク質分解酵素剤を加える。これにより、酵素によって消化させた消化物を最初に作っておいたもろみに加え、発酵を続ける。
【0036】
実施形態に係る発酵調味料の製造方法では、発酵中期から後期に50重量部の主原料をそのまま、あるいは主原料の酵素消化物を再び添加して、2回目の発酵を行う。長期間での発酵期間では、この間に着色が進み、ヒスタミンなどの生成も促進される。また、最終的なホルモール窒素量が0.8重量%以上を超えるようにする。例えば、摂氏26~36度で2~3か月間を目処に発酵させる。
【0037】
[その他工程]
上述した発酵調味料の製造方法によって製造された発酵調味料は、圧搾・ろ過工程及び加熱殺菌工程を経て製品となり、市場に提供される。
【0038】
[圧搾・ろ過工程]
圧搾・ろ過工程は、二段階発酵工程の終了後に圧搾・ろ過などの手段によって発酵後のもろみから液状部分を採取する工程である。尚、圧搾・ろ過工程は、任意の工程であり、発酵後のもろみをペースト状の調味料(製品)として市場に提供してもよい。
【0039】
[加熱殺菌工程]
加熱殺菌工程は、圧搾・ろ過された液状部分を加熱殺菌する工程である。加熱殺菌工程では、着色しないように摂氏70度から85度で加熱殺菌することが好ましい。尚、加熱・殺菌工程は、任意の工程であり、非加熱のまま調味料(製品)として市場に提供してもよい。
【0040】
[効果]
上述した実施形態に係る発酵調味料の製造方法によって得られる発酵調味料は、公知の魚醤や魚肉由来のうまみ調味料と風味、香り、外観及び性状などにおいて異なり、うまみが強化され、魚臭(主にトリメチルアミン)を低減されている。よって、実施形態に係る発酵調味料の製造方法によれば、うまみが強化され魚臭が低減された発酵調味料を提供することができる。
【実施例0041】
[主原料]
実施例に係る発酵調味料の製造方法では、乾燥ツノナシオキアミを主原料とする。
[麹]
実施例に係る発酵調味料の製造方法では、分解抽出工程で加える麹に醤油麹(蒸煮大豆―炒ごう小麦麹)を用いる。
【0042】
表1は、乾燥ツノナシオキアミと醤油麹(蒸煮大豆―炒ごう小麦麹)のタンパク質含量を示している。タンパク質含量の測定は、定法に従い、硫酸で分解後、強アルカリ条件下で、水蒸気蒸留するケルダール法による。
【0043】
【0044】
表1に示すように、乾燥ツノナシオキアミのタンパク質量は42重量%であり、醤油麹は19重量%である。この結果を元に仕込み配合は液部の全窒素量が0.7から2.0重量%程度となるように調整した。尚、生のツノナシオキアミを主原料とする場合は、水分が多いため、汲み水量の調整が必要である。
【0045】
[魚臭分解乳酸菌及び魚臭分解酵母]
魚臭分解乳酸菌に研究室保存菌株、乳酸菌Lactobacillus plantarum株を採用し、魚臭分解酵母にZygosaccharomyces rouxii株を採用する。ここでは、10(mg/L)トリメチルアミンを含むグルコース・酵母エキス・ペプトン培地に、研究室保存菌株、乳酸菌Lactobacillus plantarum株、酵母Zygosaccharomyces rouxii株を接種し、そのトリメチルアミンを比較する。尚、トリメチルアミンの残存量は、残存%で示す。
【0046】
図2に示すように、トリメチルアミン分解乳酸菌は1日目より減少し、5日目で残存率14%まで減少し、8日に検出限界外となった。また、トリメチルアミン分解酵母では5日で残存率28重量%、8日目で10重量%となり、培養・発酵期間は7日間以上である。
【0047】
[一段階仕込みと二段階仕込み]
1回だけ原料を投入する一段階仕込みと、原料の発酵中にもう1回原料を投入する二段階仕込みとを行い、一段階仕込みによる発酵調味料と二段階仕込みによる発酵調味料を評価する。尚、既存の魚醤油は一段階仕込みである。
【0048】
[一段階仕込み]
一段階仕込みでは、乾燥ツノナシオキアミ480グラムに、醤油麹240グラムとタンパク質分解酵素剤0.72グラム、食塩260グラムに仕込み水2400ミリリットルを添加する。そして、これを12時間、50°Cで加温分解させる。その後、35°C以下に冷却する。このときの食塩濃度は、約10重量%限度に抑えることが好ましい。その後、予め培養した乳酸菌と耐塩性酵母を1ミリリットル当たり10の6乗細胞となるように添加し、30°Cで45日を目処に発酵させる。
【0049】
自然界より分離した乳酸菌Lactobacillus plantarum株は、トリメチルアミン分解力が高いが、食塩が10重量%を超える条件では、生育が弱まる。この株を用いる場合の初期の食塩濃度は、10重量%を超えないことが好ましい。尚、トリメチルアミン分解力はやや弱いが耐塩性酵母を用いる場合は、この限りではない。
【0050】
[二段階仕込み]
二段階仕込みでは、乾燥ツノナシオキアミ480グラムに、醤油麹240グラムとタンパク質分解酵素剤0.72グラム、食塩360グラムに仕込み水2400ミリリットルを添加する。そして、これを12時間、50°Cで加温分解させる。その後、35°C以下に冷却する。その後、予め培養した耐塩性乳酸菌と耐塩性酵母を1ミリリットル当たり10の6乗細胞となるように添加し、30°Cで1か月をめどに発酵させた。発酵中期~後期となる21日目に乾燥ツノナシオキアミ240グラムを再投入して、引き続き添加し、30°Cで60日目処に発酵させる。そして、経時的にサンプリングし、ホルモール窒素を測定した。発酵後、搾汁し、80°Cで30分間殺菌した。商品の品質保持などを考慮し、最終的な食塩濃度が15%となるように調整する。清澄な液部は約1.5リットル得られる。
図3には、仕込み中のホルモール窒素の推移を示している。
【0051】
図3に示すように、ホルモール窒素量は、加温分解終了後も増加し続け、20日で0.7重量%となり、半量の原料を再投入することで、60日間の発酵の後にホルモール窒素は0.1%を超え、最大となった。これ以上の発酵・熟成期間では、色調の件化や香味が劣化するので、この時点を発酵終了とした。
【0052】
[発酵調味料の分析]
一段階仕込み及び二段階仕込みによって得られた発酵調味料を「しょうゆ試験法」(日本醤油研究所しょうゆ試験法編集委員会編 1985年)によって分析した。しょうゆ試験法によれば、酸度I及び酸度II、食塩濃度、並びに全窒素成分が測定される。色に関して色彩色差計CR-200(ミノルタカメラ(株)製)を用いて測定した。比較サンプルは、鮭魚醤(佐藤水産(株))、いしる(ヤマサ(株))、あみえび醤油(新栄水産(有))、濃口醤油(トモエ(株))である。結果は下記の表2と表3に示す通りである。
【0053】
【0054】
【0055】
表2に示す酸度Iは、乳酸やコハク酸、及び酸性アミノ酸を示し、酸味の指標となり、表2に示す酸度IIは中性・塩基性のアミノ酸を示し、うま味やコク味(オシ味)の指標となる。発酵調味料(一段階仕込み)の酸度Iは、7.2ミリリットルで、酸度IIは11.4ミリリットルであった。これは、いしるやあみえび醤油より酸味が少なく、旨みやコク味などは一般の醤油と同程度であり旨みが強いことを示している。いしるやあみえび醤油で酸が多いのは、様々な細菌による酸生成によるものと考える。
【0056】
表3に示すL値は明度、つまり明るさを示し、a値は高いほど赤みが強く、低いほど緑が強いことを示している。b値は高いほど黄色みが強く、低いほど青が強いことを示している。表3に示すように、海産物を一段階仕込みした発酵調味料あるいは発酵中期に海産物を加えた二段階仕込みした発酵調味料ともに、従来の魚醤製法によるいしるとはa値およびb値が異なった。発酵調味料は糖分とアミノ酸が反応してできる醤油独特の赤みは少ないが、黄色みが強く、醤油とは異なった色調である。
【0057】
[アミノ酸分析]
一段階仕込み及び二段階仕込みによって得られた発酵調味料、鮭魚醤、ナンプラー、あみえび醤油、濃口醤油の遊離アミノ酸をアミノ酸分析装置(日立L-8800)によって測定した。結果は下記の表4-1及び表4-2に示す通りである。
【0058】
表4-1及び表4-2に示すように、発酵調味料は、市販の魚醤、鮭醤油、いしる、及び、あみえび醤油に比べて甘いアミノ酸であるアラニン(Ala)、グリシン(Gly)が多い。さらに、醤油のうま味を示すグルタミン酸量は濃口醤油と比較し、同等以上であることが示され、この製法によって作られた発酵調味料は、市販濃口醤油と同等のうま味成分を含む。さらに二段階で原料を加えることで、全体的にアミノ酸が増える傾向があり、うま味の濃い発酵調味料が得られる。
【0059】
【0060】
【0061】
[甲殻類アレルギー]
一段階仕込み及び二段階仕込みによって得られた発酵調味料について、アレルギー試験を行った。アレルギー試験は、甲殻類アレルギーキット(エライザ法)による。一段階仕込み及び二段階仕込みによって得られた発酵調味料では、甲殻類アレルギー成分が検出されなかった。免疫学的分析法によっても甲殻類アレルギー患者に対して供試できるものであることを確認した。尚、ツノナシオキアミは、アレルギー性タンパク質を持つ甲殻類とは分類的にも異なり特定原材料の表示義務はない。
【0062】
[官能評価]
よく訓練されたパネラー10名により、官能評価を行った。その結果、うま味は濃口醤油と同等あるいはそれ以上であるとの評価であった。一段階仕込みによって得られた発酵調味料より発酵中期に主原料を加えた二段階仕込みによって得られた発酵調味料は独特の生臭みがなく、うま味だけが濃縮した発酵調味料であった。市販のあみえびが原料のあみえび醤油は独特の臭みがあり、それが不快との評価コメントであった。発酵調味料はあみえび醤油に比べ心地よいエビ風味があり、魚醤の味深いところと、濃口醤油の旨みが多いところの両者の良いところを兼ね備えたものであるとのコメントもあった。従来の魚醤の不快臭が全くない優れた品質の発酵調味料であるとの評価を受けた。
【0063】
[総合評価]
上記の結果から明らかなように、二段階仕込みによって得られた発酵調味料は、うま味が強く風味の良いものである。このことは、成分分析値及び色差分析値、並びに官能評価によっても、裏づけられた。また、甲殻類アレルギー患者でも、エビ風味が強く、うま味が強調された製品を供試できることを包括するために、免疫法による測定も行ったところ、まったく検出されなかった。ゆえに、二段階仕込みによって得られた発酵調味料は、うま味を強調した発酵調味料で、万人に供試できるものである。