(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073844
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】電気集塵機の給電構造、及び、電気集塵機
(51)【国際特許分類】
B03C 3/66 20060101AFI20240523BHJP
B03C 3/70 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
B03C3/66
B03C3/70 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184784
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】596032177
【氏名又は名称】住友金属鉱山エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 正裕
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸洋
【テーマコード(参考)】
4D054
【Fターム(参考)】
4D054AA01
4D054AA20
4D054BA01
4D054CA20
(57)【要約】
【課題】電気集塵機本体の稼働中に爆発性雰囲気となる危険範囲の外側に、電気集塵機本体に電気を供給する高圧電源を配置する場合に、当該高圧電源と電気集塵機本体とを結ぶ給電ケーブルの損傷による操業停止等のリスクを低減させること。
【解決手段】電気集塵機本体に電気を供給する給電構造を、高圧電源装置21と、高圧電源装置21から供給される高圧電流を電気集塵機本体に供給する電気供給路23と、を備えてなり、電気供給路23は、並列配置された複数系統の給電ケーブル23A、23Bからなり、高圧電流を、複数系統の給電ケーブル23A、23Bのうち、任意に選択されたのみに供給する一系統の給電ケーブルのみに流すことができるように、高圧電流を流す給電ケーブルを他の系統の給電ケーブルに切り替えることができる給電路切替装置22を有する、給電構造20とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気集塵機の給電構造であって、
高圧電源装置と、
前記高圧電源装置から供給される高圧電流を電気集塵機本体に供給する電気供給路と、
を備えてなり、
前記電気供給路は、並列配置された複数系統の給電ケーブルからなり、
前記高圧電流を、前記複数系統の給電ケーブルのうち、任意に選択された一系統の給電ケーブルのみに流すことができ、且つ、前記高圧電流を流す給電ケーブルを他の系統の給電ケーブルに切り替えることができる、給電路切替装置を有する、
給電構造。
【請求項2】
前記給電ケーブルが、金属導線をオレフィン系樹脂からなる絶縁層で被覆してなるCVケーブルである、
請求項1に記載の給電構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の給電構造と、電気集塵機本体と、を備えてなる、電気集塵機であって、
前記高圧電源装置が、前記電気集塵機本体の稼働中に爆発性雰囲気となる危険範囲の外側に設置されている、
電気集塵機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気集塵機の給電構造、及び、電気集塵機に関する。
【背景技術】
【0002】
電気集塵機用の高圧電源装置を、電気集塵機本体に近接した場所に設置することにより、高圧電源と電気集塵機本体とを直結することができる。ただし、このような配置とする場合には、電気集塵機装置本体周辺に存在する可燃性ガスの電源装置内への侵入に起因する爆発を防ぐための防爆処理が必須である。このような防爆処理を施した高圧電源装置の一例として、着火源となる部分を密封する密封箱を設置した高圧電源装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記のような密閉箱の設置による防爆の処置には、密閉箱の設置に加えて、不活性ガスの封入装置や温度及び圧力を監視制御する装置も必要となり、その分の設置コストが余計に嵩むことが避けられない。
【0004】
これに対して、高圧電源を、可燃性ガスが存在しない電気集塵機本体から離間した場所に配置すれば、上述の防爆処理に係る設置コストを節減することができる。しかしながら、可燃性ガスが存在しない電気集塵機本体から離間した場所に高圧電源を配置する場合には、電源と電気集塵機本体を結ぶ給電ケーブルを形成する高圧ケーブルの絶縁破壊のリスクが問題となる。給電ケーブルにおいて高圧ケーブルの絶縁破壊が生じた場合には電気集塵機の操業を停止せざる事態となる。
【0005】
尚、旧来は、電気集塵機用途に適した紙絶縁ケーブルを使用することによって、上記のような高圧ケーブルの絶縁破壊に起因する事故のリスクを十分に抑えることもできていたが、近年、上記紙絶縁ケーブルの製造が中止され、汎用的な樹脂絶縁ケーブルを用いることが余儀なくされている状況もあり、電気集塵機を用いる鉱工業設備において、高圧ケーブルの絶縁破壊等に起因する操業停止のリスクを低減させることが喫緊の課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電気集塵機本体の稼働中に爆発性雰囲気となる危険範囲の外側に、電気集塵機本体に電気を供給する高圧電源を配置する場合に、当該高圧電源と電気集塵機本体とを結ぶ給電ケーブルの絶縁破壊等に起因する操業停止等のリスクを低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電気集塵機の給電構造について、高圧電源と電気集塵機本体とを結ぶ電気供給路を並列配置された複数系統の給電ケーブルを備えるものとして、必要に応じて、電気供給路を切り替えることができる構成とすることで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 電気集塵機の給電構造であって、高圧電源装置と、前記高圧電源装置から供給される高圧電流を電気集塵機本体に供給する電気供給路と、を備えてなり、前記電気供給路は、並列配置された複数系統の給電ケーブルからなり、前記高圧電流を、前記複数系統の給電ケーブルのうち、任意に選択された一系統の給電ケーブルのみに流すことができ、且つ、前記高圧電流を流す給電ケーブルを他の系統の給電ケーブルに切り替えることができる、給電路切替装置を有する、給電構造。
【0010】
(1)の電気集塵機の給電構造によれば、本発明は、電気集塵機本体の稼働中に爆発性雰囲気となる危険範囲の外側に、電気集塵機本体に電気を供給する高圧電源を配置する場合に、当該高圧電源と電気集塵機本体とを結ぶ給電ケーブルの損傷による操業停止等のリスクを大幅に低減させることができる。
【0011】
(2) 前記給電ケーブルが金属導線をオレフィン系樹脂からなる絶縁層で被覆してなるCVケーブルである、(1)に記載の給電構造。
【0012】
(2)の電気集塵機の給電構造によれば、(1)の給電構造において、給電ケーブルを形成する高圧ケーブルとして入手容易な汎用的な「CVケーブル」を用いた場合においても、(1)の給電構造の奏する上記効果を十分に享受することができるので、より低コストで上述した電気集塵機における操業停止等のリスクを低減させることができる。
【0013】
(3) (1)又は(2)に記載の給電構造と、電気集塵機本体と、を備えてなる、電気集塵機であって、前記高圧電源装置が、前記電気集塵機本体の稼働中に爆発性雰囲気となる危険範囲の外側に設置されている、電気集塵機。
【0014】
(3)の電気集塵機によれば、(1)又は(2)に記載の給電構造の奏する上記効果を十分に享受して、電気集塵機の設置コストを抑えながら、操業の安全性、安定性を高めることができる。尚、(3)の電気集塵機の採用により、特許文献1に開示されている、密閉箱の設置による防爆の処置を必須とする構成と比較した場合において、給電装置の設置コストを1/10以下に圧縮することできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電気集塵機本体の稼働中に爆発性雰囲気となる危険範囲の外側に、電気集塵機本体に電気を供給する高圧電源を配置する場合に、当該高圧電源と電気集塵機本体とを結ぶ給電ケーブルの損傷による操業停止等のリスクを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の電気集塵機の給電構造及び電気集塵機本体により構成される電気集塵機における給電構造及び電気集塵機本題の配置を模式的に示す図面である。
【
図2】本発明の電気集塵機の給電構造の適用対象となる電気集塵機本体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<電気集塵機>
本発明の好ましい実施形態の一つである電気集塵機100は、電気集塵機本体10(
図2参照)と、本発明による独自の構成からなる給電構造である給電構造20とを含んで構成される、湿式の電気集塵機である。
【0018】
給電構造20は、高圧電源装置21、給電路切替装置22、及び、給電ケーブル23A、23Bによって構成される電気供給路を備えている。これらのうち、少なくとも、高圧電源装置21は、電気集塵機本体10の稼働中に爆発性雰囲気となる危険範囲αの外側の範囲、即ち、非爆発性雰囲気が維持される安全範囲β内に配置される(
図1参照)。
【0019】
本明細書において、危険範囲αとは、電気集塵機本体の稼働中において、可燃性ガスの濃度が爆発下限界以上となる範囲のことを言う。一例としては、一酸化炭素は12.5%、水素は4%以上となる範囲のことを言う。又、安全範囲βとは、上記濃度が常に爆発下限界未満に維持されている範囲のことを言う。
【0020】
[電気集塵機本体]
電気集塵機100の主たる部分を構成する電気集塵機本体10は、
図2に示すように、上部側筺体14、下部側筐体15、及び、集塵板13によって、集塵処理を進行させるための集塵室となる筺体が構成されている。筺体の材料は、導電性のFRP(繊維強化プラスチック:Fiber Reinforced Plastics)とすることが好ましい。
【0021】
筐体の上方には碍子室11A、11Bが設置されており、その内部には、吊りロッド16を支持する支持碍子111A、111Bが、碍子室11A、11Bと集塵室を貫通する態様で配置されている。給電構造20から延設される給電ケーブル23A、23Bは、支持碍子111A、111Bの内部で吊りロッド16に接続されている。そして、給電構造20から供給される負極の直流高電圧(荷電電圧)は、吊りロッド16を通じて筐体の内部に複数垂下されている放電線12に印加される。
【0022】
[給電構造]
給電構造20は、高圧電源装置21から供給される高圧電流を、電気集塵機本体10に供給する電気供給路23が、並列配置された複数系統の給電ケーブル23A、23Bによって、重畳的に構成されていること、及び、これらの複数系統の給電ケーブルのうち、任意に選択された一系統の給電ケーブルのみに電気を供給することができ、尚且つ、高圧電流を流す給電ケーブルを他の系統の給電ケーブルに切り替えることができる給電路切替装置22を有することを主たる特徴とする。
【0023】
(高圧電源装置)
電気集塵機本体10に電気を供給する給電構造20の各部のうち、高圧電源装置21については、従来、電気集塵機の電源として用いられている各種の直流高電圧の電源を特段の限定なく用いることができる。尚、本明細書における「高圧電源装置」とは、電気集塵機本体10への実効印加電圧を少なくとも、50kV以上、好ましくは70kV以上の直流高電圧とすることができる直流高電圧電源のことを言うものとする。
【0024】
又、電気集塵機100においては、高圧電源装置21は、上述の通り、電気集塵機本体10の周辺の危険範囲αの外側の範囲、即ち、非爆発性雰囲気が維持される安全範囲β内に配置される(
図1参照)。
【0025】
(給電路切替装置)
給電構造20は、電気集塵機100の通常状態の稼働中においては、高圧電源装置ヘッド端子221を経由して供給される高圧電流を、電気供給路23を構成する複数系統の給電ケーブル23A、23Bのうち、任意に選択された一系統の給電ケーブルのみ(例えば、給電ケーブル23A)に供給することができるように作動する。又、選択された上記の給電ケーブル(例えば、給電ケーブル23A)に、絶縁破壊等の不具合が生じた場合には、電流を流す給電ケーブルを必要に応じて他の系統の給電ケーブル(例えば、給電ケーブル23B)切り替えるように作動する。
【0026】
給電路切替装置22は、上記各作動を実現するための機構として、給電路切替機構222を有する。給電路切替機構222は、通常は、選択された一系統の給電ケーブルのみに電気を供給し、給電ケーブルの切替後には切替後に選択されている他の系統の給電ケーブルのみに確実に電気を供給できる機構であれば特定の機構には限定されないが、アークの発生等を防止し高圧電流の経路を確実に制御して安全性を確保する観点から、断路器を用いて構成することが好ましい。
【0027】
尚、電気集塵機100においては、給電路切替装置22についても、高圧電源装置21と同様に、電気集塵機本体10の周辺の危険範囲αの外側の範囲、即ち、非爆発性雰囲気が維持される安全範囲β内に配置する。これにより、給電路切替機構222の切り替え時のアーク放電等に起因する発火、爆発を確実に防ぐことができる。
【0028】
(電気供給路)
電気供給路23は、並列配置された複数系統の給電ケーブル23A、23Bによって構成される。
図2では、2系統の給電ケーブル23A、23Bによって電気供給路23が構成されている例を例示しているが、給電ケーブルの系統数は3系統以上の任意の数とすることも可能である。給電ケーブルがn(n≧3)系統である場合も、上記同様、任意に選択された給電ケーブルのみに電流を流し、尚且つ、電流を流す給電ケーブルを必要に応じて他の給電ケーブルに切り替えるように給電路切替装置22を作動させればよい。
【0029】
給電ケーブル23A、23Bは、金属導線をオレフィン系樹脂からなる絶縁層で被覆してなるCVケーブルによって構成することができる。CVケーブルは入手容易な汎用品であるが、上述したような高電圧での稼働に加えて、突発的なスパークの発生等により高圧直流電流の急激な電圧変化も起こり得る電気集塵機への使用においては、架橋ポリエチレン樹脂からなる絶縁層の長期耐久性についての信頼度は万全とは言えない。そこで給電ケーブルとしてCVケーブルを選択するためには、操業中における絶縁破壊のリスクを織り込んで対処する必要がある。本発明の電気集塵機の給電構造によれば、仮に、稼働中のCVケーブルに絶縁破壊が生じた場合に、速やかに、他のCVケーブルに給電路を切り替えることができるので、漏電等の事故の発生を回避して、尚且つ、速やかに、操業を再開し、生産性の低下も回避することができる。
【0030】
尚、電気集塵機の設置例の一例として、グランドレベルから電気集塵機本体の上部までの高さが15m程度であって、電気集塵機本体から安全範囲βまでの水平距離が、概ね15m程度である場合であれば、グランドレベルに設置される給電構造までの各々の給電ケーブルの長さは、30m程度に達する例を挙げることができる。本発明は、このような大型の電気集塵機において、給電ケーブルの長さが30m以上となるときに、特に安全性を確保するための有利な効果を発揮し得る技術となる。
【0031】
<電気集塵機の動作>
電気集塵機100においては、通常の稼働中は、上記において詳細を説明した給電構造20によって任意に選択された一系統の給電ケーブルを通じて電気集塵機本体10に高圧電流を供給する。そして、万一、選択された給電ケーブルに絶縁破壊が生じた場合には、断路器等によって構成される給電路切替装置22によって、高圧電流を流す給電ケーブルを他の系統の給電ケーブルに速やかに切り替え、その後、ケーブルの交換作業等を経ることなく、速やかに、且つ、安全に電気集塵機100を再起動させることができる。
【符号の説明】
【0032】
10 電気集塵機本体
11A、11B 碍子室
111A、111B 支持碍子
12 放電線
13 集塵板
14 上部側筺体
15 下部側筐体
16 吊りロッド
20 給電構造
21 高圧電源装置
22 給電路切替装置
221 高圧電源装置ヘッド端子
222 給電路切替機構
23 電気供給路
23A、23B 給電ケーブル
100 電気集塵機