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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073861
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/00 20060101AFI20240523BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240523BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240523BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20240523BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20240523BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C08L1/00
C08L101/00
C08L23/26
C08L23/10
C08L23/06
C08J5/00 CER
C08J5/00 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184815
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】牧村 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 直也
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA14
4F071AA15
4F071AA20
4F071AD02
4F071AH04
4F071AH05
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4J002AA012
4J002AB011
4J002BB032
4J002BB062
4J002BB112
4J002BB114
4J002BB213
4J002BC022
4J002BE022
4J002BF032
4J002CK022
4J002GG00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】成形性に優れ、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することができ、かつセルロース粉の含有率に優れ、環境負荷を低減することができる樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とセルロース粉とを少なくとも含有し、樹脂組成物の全体に対するセルロース粉の含有量が50質量%超であり、表面性状のアスペクト比(Str)が、0.80以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂とセルロース粉とを少なくとも含有する樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の全体に対する前記セルロース粉の含有量が50質量%超であり、
下記測定手順で決定される表面性状のアスペクト比(Str)が、0.80以上であることを特徴とする樹脂組成物。
(表面性状のアスペクト比(Str)の測定手順)
1.前記樹脂組成物のペレットを150~180℃で射出成形し、100mm×100mm×厚さ3mmのシート状の成形品を得る。
2.前記成形品の100mm×100mmの一の面に、直径2cmの測定円を、前記面から前記測定円がはみ出さず、かつ前記測定円同士が重ならないように、任意に6つ設定する。
3.前記測定円の中心1mm角の範囲において、ISO25178-2:2012に規定される[texture aspect ratio]に従い、前記成形品の面における表面性状のアスペクト比を測定する。
4.前記表面性状のアスペクト比の測定を6回行い、6回分の表面性状のアスペクト比の平均値を算出し、前記成形品の表面性状のアスペクト比(Str)とする。
【請求項2】
前記セルロース紛の平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンがα-オレフィン無水マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
プロピレン系エラストマーを含有し、前記熱可塑性樹脂が低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
プロピレン系エラストマーを含有し、前記熱可塑性樹脂が低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物を用いたことを特徴とする成形体。
【請求項8】
請求項3に記載の樹脂組成物を用いたことを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース粉を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋プラスチック問題を始め、合成樹脂製品の廃棄物が問題視されている。そのため、合成樹脂製品、特に利用後に廃棄される製品に対し、原材料の少なくとも一部を合成樹脂以外の原材料に転換し、合成樹脂の使用量を削減することが要望されている。
【0003】
この合成樹脂以外の原材料としては、例えば、紙等のセルロース材料が挙げられ、このセルロース材料は安価であり、リサイクル性に優れているため、フィルム等の成形材料である熱可塑性樹脂やエラストマーの補強材として広く使用されている。
【0004】
このようなセルロース材料を含有する樹脂組成物としては、例えば、平均粒径が10~100μmのセルロース紛(微細紙粉)を20~70質量部、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を30~80質量部含有し、セルロース粉及び熱可塑性樹脂の合計が100質量部である樹脂組成物が提案されている。そして、このような樹脂組成物を使用することにより、良好な流動性を有し、成形加工用の素材として良好な樹脂組成物を得ることができると記載されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-6411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記従来のセルロース紛を含有する樹脂組成物においては、樹脂組成物の全体に対してセルロース紛の含有率が50質量%を超える場合、容器包装リサイクル法上の紙として取り扱うことができるが、セルロース分の含有率が増加すると、フィルム等の成形工程において穴あき等が発生し、良好な成形品を得ることができないという問題があった。
【0007】
また、上記従来のセルロース粉を含有する樹脂組成物は、ポリプロピレンが基材となっているため、当該樹脂組成物が硬く、上述の穴あき等の発生を防止するためには、セルロース紛の含有率を下げる必要があるため、合成樹脂使用量の削減効果が薄れるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、成形性に優れ、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することができ、かつセルロース粉の含有率に優れ、環境負荷を低減することができる樹脂組成物及びその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とセルロース粉とを少なくとも含有する樹脂組成物であって、樹脂組成物の全体に対するセルロース粉の含有量が50質量%超であり、下記測定手順で決定される表面性状のアスペクト比(Str)が、0.80以上であることを特徴とする。
【0010】
(表面性状のアスペクト比(Str)の測定手順)
1.樹脂組成物のペレットを150~180℃で射出成形し、100mm×100mm×厚さ3mmのシート状の成形品を得る。
【0011】
2.成形品の100mm×100mmの一の面に、直径2cmの測定円を、面から測定円がはみ出さず、かつ測定円同士が重ならないように、任意に6つ設定する。
【0012】
3.測定円の中心1mm角の範囲において、ISO25178-2:2012に規定される[texture aspect ratio]に従い、成形品の面における表面性状のアスペクト比を測定する。
【0013】
4.表面性状のアスペクト比の測定を6回行い、6回分の表面性状のアスペクト比の平均値を算出し、成形品の表面性状のアスペクト比(Str)とする。
【0014】
また、本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を各種方法(射出、インフレーション、ブロー等)で成形することで得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セルロース粉の含有率に優れ、環境負荷を低減することができる樹脂組成物を提供することができる。また、成形性に優れ、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することができる樹脂組成物を提供することができる。さらに、この樹脂組成物を用いた成形体は、容器リサイクル法上の「紙」として取り扱うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の樹脂組成物の成形品における表面性状のアスペクト比(Str)の測定手順を説明するための模式図(上面図)である。
図2】本発明の樹脂組成物の成形品における表面性状のアスペクト比(Str)の測定手順を説明するための模式図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の樹脂組成物について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、セルロース紛と、熱可塑性樹脂とを少なくとも含有するものである。
【0019】
<セルロース紛>
本発明のセルロース紛は、例えば、精製された高純度のコットンリンター、木材、竹、バガス等を由来とするパルプを使用し、これらのパルプをナイフミル、竪型ローラミル、ジェットミル等の粉砕機で粉砕した粉末パルプを原料とし、目的の平均粒子径となるように分級する方法により製造することができる。
【0020】
また、セルロース粉の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましい。平均粒子径が10μm以下であれば、樹脂組成物の表面が滑らかになるとともに、セルロース紛が均一に分散するため、押出し時にはドローダウンによる穴あき等がなくなり、射出時には微細な構造に対応しやすくなる。従って、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、靭性に優れる。
【0021】
また、セルロース粉の平均粒子径は、5μm以上がより好ましい。平均粒子径が5μm以上であれば、樹脂組成物の剛性が優れる。
【0022】
なお、「平均粒子径」とは、50%粒径(D50)を指し、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製乾式粒度分布計、商品名:MASTER SIZER 3000)等により体積平均粒子径として測定できる。
【0023】
また、セルロース粉は、市販品を使用してもよい。セルロース粉の市販品としては、日本製紙株式会社製のKCフロック、レッテンマイヤージャパン株式会社製のセルロースマイクロファイバ一等が挙げられる。
【0024】
また、樹脂組成物の全体(すなわち、セルロース紛と、ポリエチレン系樹脂と、後述のオレフィン系エラストマーと、後述の無水マレイン酸変性ポリオレフィンとの総質量)に対するセルロース粉の含有量は、樹脂組成物の全体に対して(すなわち、樹脂組成物100質量%のうち)50質量%超である。セルロース粉の含有量が50質量%超であれば、セルロース紛の含有率に優れるため、成形体における合成樹脂の使用量の削減効果に優れ、環境負荷を低減することができるとともに、熱可塑性樹脂の含有割合が少ない場合であっても、十分な剛性を発現することができる。また、成形体を、容器リサイクル法上の「紙」として取り扱うことが可能になる。
【0025】
なお、樹脂組成物の成形性と剛性をより一層向上させるとの観点から、樹脂組成物の全体に対するセルロース粉の含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0026】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂等が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
また、ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、及び超低密度ポリエチレン(ULDPE)等を使用することができ、ポリエチレン系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
なお、セルロース粉と複合した樹脂組成物とした際にも柔軟性を損ないにくく、エラストマーと相溶しやすいとの観点から、ポリエチレン系樹脂として低密度ポリエチレン(密度:0.900~0.930g/cm)を使用することが好ましい。
【0029】
また、ポリエチレン系樹脂として低密度ポリエチレンを使用する場合、セルロース紛100質量部に対する低密度ポリエチレンの含有量は15~50質量部が好ましい。これは、15質量部未満の場合は、樹脂組成物が柔らか過ぎて、離型性が悪くなるため、成形性が低下するためであり、50質量部よりも多い場合は、樹脂組成物が硬い上、脆くもなるため、成形性が低下するためである。
【0030】
なお、低密度ポリエチレンとして、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)やメタロセン触媒により得られた低密度ポリエチレンを用いると、摺動性が向上するため、本発明の樹脂組成物は、頻回に開閉がおこなわれる容器の蓋等のスクリュー形状を有する成形品に、特に適している。
【0031】
<オレフィン系エラストマー>
本発明の樹脂組成物は、オレフィン系エラストマーを含有してもよい。本発明で使用するオレフィン系エラストマーとしては、炭素数3以上のオレフィンを主成分とした共重合体又は単独重合体、並びにエチレンを主成分とした炭素数3以上のオレフィンとの共重合体等が挙げられる。
【0032】
より具体的には、プロピレン-エチレン共重合、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体等が挙げられる。なお、オレフィン系エラストマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、オレフィン系エラストマーは、一般的に力学的性質などの基本物性を支配するハードセグメントと、ゴム的な性質である伸縮性を支配するソフトセグメントによって構成される。オレフィン系エラストマーのハードセグメントがポリプロピレンからなるものをプロピレン系エラストマーといい、ハードセグメントがポリエチレンからなるものをエチレン系エラストマーという。オレフィン系エラストマーのソフトセグメントとしては、EPDM、EPM、EBM、IIR、水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)、NBR、アクリルゴム(ACM)が挙げられる。
【0034】
また、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、靭性に優れるとの点から、プロピレンを主成分とした共重合体(例えば、上述の「プロピレン-エチレン共重合体」)またはプロピレンの単独重合体であるプロピレン系エラストマーが好ましい。
【0035】
また、プロピレン系エラストマーの場合、全単位に対するプロピレン単位含有率は、70質量%~95質量%が好ましく、80質量%~90質量%がより好ましい。ハードセグメントであるプロピレン単位含有率が70質量%以上であれば、強度が向上するため、優れた成形性が得られ、95質量%以下であれば、ソフトセグメントの弾性により、優れた伸縮性が得られる。
【0036】
また、オレフィン系エラストマーとしてプロピレン系エラストマーを使用する場合、セルロース紛100質量部に対するプロピレン系エラストマーの含有量は25~65質量部が好ましい。これは、25質量部未満の場合は、樹脂組成物が硬い上、脆くもなるため、成形性が低下するためであり、65質量部よりも多い場合は、樹脂組成物が柔らか過ぎて、離型性が悪くなるため、成形性が低下するためである。
【0037】
また、プロピレン系エラストマーのメルトマスフローレート(MFR)は、15~200g/10minであることが好ましい。プロピレン系エラストマーのMFRが15g/10min以上であれば、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、樹脂組成物の剛性に優れ、200g/10min以下であれば、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、靭性に優れる。
【0038】
なお、後述の実施例のごとく、2種類のプロピレン系エラストマーを併用して使用する場合、プロピレン系エラストマー(すなわち、2種類のプロピレン系エラストマーの混合物)のMFRは、下記式(1)により求めることができる。
【0039】
[数1]
Z=X×Y(1-a) (1)
【0040】
ここで、Zは、プロピレン系エラストマー(すなわち、2種類のプロピレン系エラストマーの混合物)のMFRであり、Xは、1種類目のプロピレン系エラストマーのMFRであり、Yは、2種類目のプロピレン系エラストマーのMFRであり、aは、2種類のプロピレン系エラストマーの混合物における1種類目のプロピレン系エラストマーの含有割合(質量比率)であり、(1-a)は、2種類のプロピレン系エラストマーの混合物における2種類目のプロピレン系エラストマーの含有割合(質量比率)である。
【0041】
なお、この式(1)は、複数種類の成分を併用した混合物のMFRを求める際に用いられる経験式(logZ=a×logX+(1-a)×logY)を変形したものであり、複数種類の成分を併用した場合のMFR値の対数は、各成分の質量比率およびMFR値の対数の積の和によって与えられることは、当業界において日常的に使われており、よく知られている。
【0042】
また、樹脂組成物の成形性を向上させるとの観点から、樹脂組成物における低密度ポリエチレンとプロピレン系エラストマーとの質量比は、低密度ポリエチレンの質量:プロピレン系エラストマーの質量=1:0.7~1:2.8であることが好ましい。
【0043】
また、プロピレン系エラストマーの融点は、50~160℃が好ましく、50~80℃がより好ましい。プロピレン系エラストマーの融点が50℃以上であれば、樹脂組成物の靭性がより優れ、160℃以下であれば、樹脂組成物の剛性がより優れる。
【0044】
なお、「融点」とは、示差走査熱量計(DSC)におけるDSCチャートの融解開始温度のことを意味する。
【0045】
また、プロピレン系エラストマーの曲げ弾性率は、5~50MPaが好ましく、5~10MPaがより好ましい。プロピレン系エラストマーの曲げ弾性率が5~50MPaであれば、樹脂組成物の曲げ弾性率が、後述する好ましい範囲内となりやすい。
【0046】
<無水マレイン酸変性ポリオレフィン>
本発明の樹脂組成物は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(以下、「MA-PO」という場合がある。)を含有してもよい。MA-POは、相溶化剤として機能するものであり、樹脂組成物がMA-POを含有することにより、樹脂組成物において、セルロース粉が分散しやすくなる。
【0047】
MA-POとしては、α-オレフィン-無水マレイン酸共重合体、α-オレフィン重合体と無水マレイン酸との混合物、α-オレフィンとα-オレフィン-無水マレイン酸共重合体と無水マレイン酸との混合物等が挙げられる。また、α-オレフィンとしては、エチレンやプロピレン等が挙げられる。
【0048】
また、セルロース紛100質量部に対するMA-POの含有量は4~18質量部であることが好ましい。これは、4質量部未満の場合は、樹脂組成物内のセルロース粉の分散性が低下し、成形性が低下するためであり、18質量部よりも多い場合は、MA-PO成分同士が凝集してしまうため、MA-POの含有率が4質量部未満の場合と同様に、樹脂組成物内のセルロース粉の分散性が低下し、成形性が低下するためである。
【0049】
MA-POの溶融粘度は、100~15000mPa・sが好ましく、200~5000mPa・sがより好ましい。MA-POの溶融粘度が100mPa・s以上であれば、樹脂組成物の成形性に優れるとともに、靭性に優れ、15000mPa・s以下であれば、樹脂組成物の剛性がより優れる。
【0050】
なお「溶融粘度」は、キャピラリーレオメータにより測定される粘度のことを言う。
【0051】
MA-POの酸価は、5~150mgKOH/gが好ましく、30~100mgKOH/gがより好ましい。MA-POの酸価が5mgKOH/g以上であれば、樹脂組成物の成形性に優れ、150mgKOH/g以下であれば、樹脂組成物の外観がより優れる。
【0052】
なお、「酸価」は、中和滴定により測定される値のことを言う。
【0053】
<他の成分>
樹脂組成物は、必要に応じて、上述のセルロース紛、熱可塑性樹脂、オレフィン系エラストマー、及び無水マレイン酸変性ポリオレフィン以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、安定剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。
【0054】
なお、樹脂組成物の全体に対する他の成分の含有量は、0質量%以上5質量%未満が好ましく、0質量%以上2質量%未満がより好ましい。
【0055】
<表面性状のアスペクト比(Str)>
ここで、本発明の樹脂組成物における表面性状のアスペクト比(Str)は、0.80以上である。表面性状のアスペクト比(Str)が0.80以上であれば、樹脂組成物(成形品)の表面の粗さが方向に依存せず、樹脂組成物における表面性状の等方性が向上するため、成形時に樹脂組成物が適度に流動することになる。従って、成形性に優れ、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することができる樹脂組成物を提供することができる。
【0056】
なお、「表面性状のアスペクト比(Str)」は、以下の方法(測定手順1~4)により求められる。
【0057】
(表面性状のアスペクト比(Str)の測定手順)
1.本発明の樹脂組成物のペレットを150~180℃で射出成形し、図1図2に示すように、100mm×100mm×厚さ3mmのシート状の成形品1を得る。
【0058】
2.図1に示すように、成形品1の100mm×100mmの一の面1aに、直径2cmの測定円2を、面1aから測定円2がはみ出さず、かつ測定円2同士が重ならないように、任意に6つ設定する。
【0059】
3.図2に示す、成形品1の上方に配置した測定器(形状解析レーザー顕微鏡装置(株式会社キーエンス製 商品名:VK-X1050)4を用いて、図1図2に示す、測定円2の中心1mm角の範囲(測定範囲)3において、ISO25178-2:2012に規定される[texture aspect ratio]に従い、成形品1の面1aにおける表面性状のアスペクト比を測定する。
【0060】
なお、図1において、測定円2の中心1mm角の範囲(測定範囲)3は、模式的に図示されている(実際のサイズより大きく表記されている)。
【0061】
4.表面性状のアスペクト比の測定を6回行い(すなわち、6つの各測定円2の中心1mm角の範囲3において、表面性状のアスペクト比の測定を行い)、6回分の表面性状のアスペクト比の平均値を算出し、成形品1(すなわち、本発明の樹脂組成物)の表面性状のアスペクト比(Str)とする。
【0062】
<曲げ弾性率>
樹脂組成物の曲げ弾性率は、150~1000MPaが好ましく、300~600MPaがより好ましい。曲げ弾性率が150MPa以上であれば、樹脂組成物の剛性がより優れ、1000MPa以下であれば、樹脂組成物の靭性がより優れる。
【0063】
なお、「曲げ弾性率」は、JIS K 7171に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/min±20%の条件で測定される。
【0064】
<引張降伏応力>
樹脂組成物の引張降伏応力は、4~10MPaが好ましく、4.9~7.2MPaがより好ましい。引張降伏応力が4MPa以上であれば、樹脂組成物の成形性と靭性がより優れ、10MPa以下であれば、樹脂組成物の剛性がより優れる。
【0065】
なお、「引張降伏応力」は、JIS K 7161-1に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度50mm/min±10%の条件で測定される。
【0066】
<最大延伸倍率>
樹脂組成物の最大延伸倍率は、200~1100%が好ましく、350~1080%がより好ましい。樹脂組成物の最大延伸倍率が200%以上であれば、樹脂組成物の靭性がより優れ、1100%以下であれば、樹脂組成物の成形性がより優れる。
【0067】
なお、「最大延伸倍率」は、JIS K 7199の規定に準拠し、以下の方法により求められる。
【0068】
1.出口にダイが設置されたシリンダー内に樹脂組成物のペレットを充填し、170℃に加熱して溶融させる。
【0069】
2.シリンダーの入口からピストンを10mm/min(一定)の速度で下降させ、直径1mmのダイ出口から溶融物を10mm/minの速度で押し出す。
【0070】
3.ダイから押し出されたストランド状の溶融物を滑車に通し、引取ロールに挟む。
【0071】
4.引取ロールの速度を1m/minからスタートし、徐々に増加させる。この際、引取速度の加速度は0.1m/minとする。
【0072】
5.ダイ出口の溶融物が破断した時の引取速度を記録する。
【0073】
6.上記1~5の操作を合計で3回繰り返し(N=3)、記録した引取速度の最小値を最大引取速度とし、下記式(2)により最大延伸倍率を算出する。
【0074】
[数2]
最大延伸倍率=最大引取速度(mm/min)/押出速度(mm/min) (2)
【0075】
例えば、最大引取速度が2m/min(2×10mm/min)の場合、最大延伸倍率=2×10/10=200となる。
【0076】
<成形品の製造方法>
次に、本発明の樹脂組成物を用いた成形品の製造方法の一例について説明する。
【0077】
まず、セルロース粉とMA-POとを所定の配合比率で混合した後、得られた混合物と熱可塑性樹脂とオレフィン系エラストマーとを所定の配合比率で混合し、ストランドダイを備えた同方二軸押出機にて溶融混錬してストランド状に押し出し、押し出された混練物をカットして、樹脂組成物のペレットを得る。
【0078】
なお、混合方法としては、スーパーミキサ、ヘンシェルミキサ等で乾式混合する方法が挙げられる。
【0079】
そして、このペレットを成形することにより、本発明の樹脂組成物を用いた成形品が製造される。
【0080】
例えば、成形方法として、射出成形を使用する場合は、樹脂組成物のペレットを所定の温度で射出成形することにより、本発明の樹脂組成物を用いた成形品(例えば、クリーム状の化粧品用の容器、コップ、皿、フォーク、及びスプーンなどの食器等)が製造される。
【0081】
また、例えば、成形方法として、インフレーション成形を使用する場合は、樹脂組成物のペレットを、円形ダイを備えた二軸押出機にて所定の温度で溶融押し出しによりフィルム状に成形し、当該フィルムを巻取りロールで巻き取ることにより、本発明の樹脂組成物を用いた成形品(例えば、おむつなどの衛生用品を梱包する外袋、レジ袋等)が製造される。
【0082】
また、例えば、成形方法として、ブロー成形を使用する場合は、樹脂組成物のペレットを用いて、押出機にて所定の温度で溶融押し出しにより円筒状のパリソンを成形し、該パリソンをブロー成型用金型で挟み込んだ後、空気を吹き込み、中空体を成形することにより、本発明の樹脂組成物を用いた成形品(例えば、液体や流動性の高いものを収容する、医薬品や化粧品用の容器等)が製造される。
【0083】
そして、本発明の樹脂組成物においては、樹脂組成物の全体に対するセルロース粉の含有量が50質量%超であるため、環境負荷を低減することができるとともに、成形体を、容器リサイクル法上の「紙」として取り扱うことが可能になる。また、本発明の樹脂組成物においては、上述の測定手順1~4で決定される表面性状のアスペクト比(Str)が、0.80以上であるため、成形性に優れ、後述の実施例のごとく、各種の成形方法、特に、射出成形とインフレーション成形の双方に対応することが可能になる。
【実施例0084】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0085】
本実施例で使用した材料を以下に示す。
(1)LDPE(低密度ポリエチレン、密度:0.921g/cm、MFR:5g/10min、住友化学社製、商品名:スミカセン、F412-1)
(2)プロピレン系エラストマー1(プロピレン-エチレン共重合体、エチレン単位含有率:16質量%、MFR:3g/10min、融点:55℃、ExxonMobil社製、商品名:Vistamaxx(登録商標)6102FL)
(3)プロピレン系エラストマー2(プロピレン-エチレン共重合体、エチレン単位含有率:6質量%、MFR:10,000g/10min、融点:97℃、ExxonMobil社製、商品名:Vistamaxx(登録商標)8880)
(4)MA-PO(オレフィン系ワックス、α-オレフィン-無水マレイン酸共重合体:66.8質量%、α-オレフィン系重合体:32.9質量%、無水マレイン酸:0.3質量%、融点:70~76℃、溶融粘度:140~210mPa・s、酸価95~110mgKOH/g、三菱ケミカル社製、商品名:ダイヤカルナ30M)
(5)セルロース紛1(平均粒子径:10μm、レッテンマイヤージャパン株式会社製、商品名:ARBOCEL UFC100)
(6)セルロース紛2(平均粒子径:28μm、日本製紙株式会社製、商品名:KCフロック W-300F)
【0086】
なお、各セルロース紛の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製乾式粒度分布計、商品名:MASTER SIZER 3000)を用いて測定した。
【0087】
(実施例1~2、比較例1~5)
<樹脂組成物の調製>
表1に示す配合に従って、以下の手順で樹脂組成物を調製した。
【0088】
まず、セルロース粉とMA-POとをスーパーミキサで混合して混合物を得た。次いで、得られた混合物と、残りの原料(LDPE、プロピレン系エラストマー)とを、同方向二軸押出機にて、成形温度150~210℃、スクリュー回転数40~120rpmの条件で溶融混練し、直径2~4mmのストランド状に押し出し、押し出された混錬物をカットして樹脂組成物のペレットを得た。
【0089】
<成形性評価>
作製した樹脂組成物のペレットの成形性(射出成形、インフレーション成形)を評価した。
【0090】
より具体的には、射出成形については、樹脂組成物のペレットを150~180℃で射出成形し、100mm×100mm×厚さ3mmのシート状の成形品を得た。そして、この成形品について、問題なく成形できたものを〇(成形可)、成形はできたがエジェクタピンの形が顕著に残るものを△(成型できたが、成形品に問題あり)、金型から離れる際に形が崩れたもの、または脆いために亀裂が入ったものを×(成型不可)とした。以上の結果を表1に示す。
【0091】
また、インフレーション成形については、樹脂組成物のペレットを、円形ダイを備えた二軸押出機にて、150~210℃の成形温度の条件で溶融混錬し、円形ダイに導いてフィルム成形した後、空冷により冷却固化させ、巻取りロールで巻き取ることにより、フィルム状の成形品を得た。なお、フィルムの厚みは、0.2mm±0.05mmとした。そして、成形品について、問題なく成形できたものを〇(成形可)、延伸せず、規定の厚みにならなかったもの、途中で穴あきが発生したもの、または成形品が脆いものを×(成型不可)とした。以上の結果を表1に示す。
【0092】
<表面性状のアスペクト比(Str)の測定>
樹脂組成物のペレットを150~180℃で射出成形し、100mm×100mm×厚さ3mmのシート状の成形品を得た後、成形品の100mm×100mmの一の面に、直径2cmの測定円を、面から測定円がはみ出さず、かつ測定円同士が重ならないように、任意に6つ設定した。次に、測定円の中心1mm角の範囲において、ISO25178-2:2012に規定される[texture aspect ratio]により、成形品の面における表面性状のアスペクト比を測定した。そして、上記表面性状のアスペクト比の測定を6回行い、6回分の表面性状のアスペクト比の平均値を算出し、成形品の表面性状のアスペクト比(Str)とした。以上の結果を表1に示す。なお、射出成形評価が×となった比較例1~4における測定は、形が崩れた場所等を避けて表面が平滑な部分から測定点を抽出するようにした。
【0093】
また、測定した6回の表面性状のアスペクト比(Str)を使用して、標準偏差σを算出した。より具体的には、測定した6回の表面粗さを、Str,Str,Str,Str,Str,Strとし、下記式(3)を使用して求めた。以上の結果を表1に示す。
【0094】
【数3】
【0095】
<曲げ弾性率の測定>
樹脂組成物のペレットを温度150~180℃で射出成形し、厚さ3mmのシートを得た後、幅25±0.5mm×長さ60±3mmに切り出して試験片を得た。そして、得られた試験片について、JIS K 7171に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/min±20%の条件で曲げ弾性率を求めた。以上の結果を表1に示す。
【0096】
<引張降伏応力の測定>
樹脂組成物のペレットを温度150~180℃で射出成形し、厚さ3mmのシートを得た後、JIS K 7161-2に準拠し、1B形試験片を切り出した。そして、得られた試験片について、JIS K 7161-1に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度50mm/min±10%の条件で引張降伏応力を求めた。以上の結果を表1に示す。
【0097】
<最大延伸倍率の測定>
樹脂組成物のペレットについて、JIS K 7199に準拠し、(株)東洋精機製作所キャピログラフ(キャピラリーレオメーター)を用い、以下の手順で最大延伸倍率を求めた。
【0098】
1.出口にダイが設置されたシリンダー内に樹脂組成物のペレットを充填し、170℃に加熱して溶融させた。
【0099】
2.シリンダーの入口からピストンを10mm/min(一定)の速度で下降させ、直径1mmのダイ出口から溶融物を10mm/minの速度で押し出した。
【0100】
3.ダイから押し出されたストランド状の溶融物を滑車に通し、引取ロールに挟んだ。
【0101】
4.引取ロールの速度を1m/minからスタートし、徐々に増加させた。この際、引取速度の加速度は0.1m/minとした。
【0102】
5.ダイ出口の溶融物が破断した時の引取速度を記録した。
【0103】
6.上記1~5の操作を合計で3回繰り返し(N=3)、記録した引取速度の最小値を最大引取速度とし、上記式(2)により最大延伸倍率を算出した。以上の結果を表1に示す。なお、引取速度が計測不能であったものは「測定不可」とした。
【0104】
<引張破壊時呼び歪の測定>
樹脂組成物のペレットを温度150~180℃で射出成形し、厚さ3mmのシートを得た後、JIS K 7161-2に準拠し、1B形試験片を切り出した。そして、得られた試験片について、JIS K 7161-1に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度50mm/min±10%の条件で引張破壊時呼び歪を求めた。以上の結果を表1に示す。
【0105】
<曲げ応力の測定>
樹脂組成物のペレットを温度150~180℃で射出成形し、厚さ3mmのシートを得た後、幅25±0.5mm×長さ60±3mmに切り出して試験片を得た。そして、得られた試験片について、JIS K 7171に準拠し、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/min±20%の条件で曲げ応力を求めた。以上の結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示すように、実施例1~2の樹脂組成物においては、表面性状のアスペクト比(Str)が、0.80以上であるため、樹脂組成物の全体に対するセルロース粉の含有量が50質量%超の場合であっても、射出成形、及びインフレーション成形のいずれにも対応することができ、優れた成形性を有していることが分かる。
【0108】
一方、表1に示すように、比較例1~5の樹脂組成物においては、表面性状のアスペクト比(Str)が、0.80未満であるため、樹脂組成物(成形品)の表面の粗さが方向に依存し、樹脂組成物における表面性状の等方性が低下する(すなわち、異方性が向上する)ため、成形時に樹脂組成物の流動性が低下してセルロース紛が凝集してしまい、成形性に乏しいことが分かる。
【0109】
なお、比較例2,4においては、ストランドが脆く、滑車にかけると折れてしまい、最大延伸倍率を測定することができなかった。
【0110】
また、比較例5においては、セルロース紛の平均粒子径が10μmよりも大きい(28μmである)ため、同一方向(押出し方向)にセルロース紛が配列し易くなり、樹脂組成物(成形品)の表面の粗さが方向に依存し、樹脂組成物における表面性状の等方性が低下するため、フィルムのように薄く成形した際には表面が粗くなり、穴あきの原因となるため、特に、インフレーション成形における成形性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上説明したように、本発明は、セルロース粉を含有する樹脂組成物及びその成形体に適している。
【符号の説明】
【0112】
1 成形品
1a 成型品の一の面
2 測定円
3 測定円の中心1mm角の範囲
4 測定器
図1
図2