(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073875
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】表面粗さ推定システムおよび加工システム
(51)【国際特許分類】
B24B 49/16 20060101AFI20240523BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20240523BHJP
B24B 19/12 20060101ALI20240523BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
B24B49/16
B24B41/06 J
B24B19/12
B24B49/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184837
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 樹安
(72)【発明者】
【氏名】米津 寿宏
【テーマコード(参考)】
3C034
3C049
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034BB77
3C034BB92
3C034CA24
3C034CB20
3C034DD20
3C049AA03
3C049AC02
3C049BA09
3C049CA01
3C049CB01
(57)【要約】
【課題】工作物を研削加工する研削装置において、加工部位の表面粗さの推定の計算負荷を低減して早期に推定結果を取得できる表面粗さ推定システムを提供する。
【解決手段】表面粗さ推定システム3bは、工作物の複数の加工部位のうち高剛性部位の研削加工時の機械状態データから抽出した特徴量を説明変数とするとともに高剛性部位の表面粗さデータを目的変数とする高剛性部位学習済みモデル441と、高剛性部位の研削加工時の機械状態データから抽出した特徴量を説明変数とするとともに低剛性部位の表面粗さデータを目的変数とする低剛性部位学習済みモデル442を記憶している。そして、低剛性部位よりも高剛性部位を優先して研削加工を行う研削装置において、高剛性部位の特徴量を高剛性部位学習済みモデル441に入力して高剛性部位の表面粗さを推定し、高剛性部位の特徴量を低剛性部位学習済みモデル442に入力して低剛性部位の表面粗さを推定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物における複数の加工部位を砥石により研削加工する際に、上記複数の加工部位のうち研削加工時に付与される加工力による上記工作物の撓み量が相対的に小さい高剛性部位の研削加工を、上記撓み量が相対的に大きい低剛性部位の研削加工よりも優先して行う研削装置において、上記複数の加工部位における表面粗さを推定する表面粗さ推定システムであって、
上記高剛性部位を研削加工したときの上記研削装置における機械状態データを取得する機械状態データ取得部と、
取得された上記機械状態データから特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
上記高剛性部位の表面粗さを推定するための高剛性部位学習済みモデルと、上記低剛性部位の表面粗さを推定するための低剛性部位学習済みモデルとが記憶された学習済みモデル記憶部と、
上記特徴量抽出部により抽出された上記高剛性部位における上記特徴量を、上記高剛性部位学習済みモデルに入力して、上記高剛性部位の表面粗さを推定する高剛性部位表面粗さ推定部と、
上記特徴量抽出部により抽出された上記高剛性部位における上記特徴量を、上記低剛性部位学習済みモデルに入力して、上記低剛性部位の表面粗さを推定する低剛性部位表面粗さ推定部と、
を備え、
上記高剛性部位学習済みモデルは、上記高剛性部位を研削加工したときに上記研削装置から取得された機械状態データから抽出した特徴量を説明変数とし、研削加工後に取得された上記高剛性部位の表面粗さデータを目的変数とした機械学習により作成されており、
上記低剛性部位学習済みモデルは、上記高剛性部位を研削加工したときに上記研削装置から取得された機械状態データから抽出した特徴量を説明変数とし、研削加工後に取得された上記低剛性部位の表面粗さデータを目的変数とした機械学習により作成されている、表面粗さ推定システム。
【請求項2】
上記工作物は、1つ又は複数の支持位置で支持されており、
上記高剛性部位と該高剛性部位に最も近い上記支持位置との距離は、上記低剛性部位と該低剛性部位に最も近い上記支持位置との距離よりも小さい、請求項1に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項3】
上記工作物は円柱状又は円筒状をなしており、
上記支持位置は、上記工作物Wにおける第1端部と、該第1端部と反対側に位置する第2端部とを含んでおり、
上記複数の加工部位は、上記第1端部から上記第2端部に向かう方向に配列しており、
上記複数の加工部位のうち、上記配列方向において、少なくとも両端に位置する上記加工部位は上記高剛性部位に含まれる、請求項2に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項4】
上記研削装置は、上記工作物における上記第1端部と上記第2端部の間に位置する中間位置を支持するレスト装置を有しており、
上記複数の加工部位のうち、上記配列方向において、上記レスト装置と隣り合う加工部位は上記高剛性部位に含まれる、請求項3に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項5】
上記機械状態データは、上記研削装置における上記砥石を回転駆動させる駆動装置の動力データであり、
上記特徴量は、上記動力データの最大値又は標準偏差を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項6】
上記機械状態データは、上記研削装置における上記工作物を支持する支持装置の振動データであり、
上記特徴量は、上記振動データの砥石回転周波数の整数倍の振幅を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項7】
上記工作物を研削加工する加工工程は、相対的に研削能率が高い荒加工工程と相対的に研削能率が低い仕上げ加工工程とを含み、
上記機械状態データ取得部は、上記荒加工工程における上記機械状態データを取得する、請求項1又は2に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項8】
上記工作物は、カムシャフト又はクランクシャフトである、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の上記表面粗さ推定システム及び上記研削装置と、
上記高剛性部位表面粗さ推定部の推定結果と上記低剛性部位表面粗さ推定部の推定結果とに基づいて、上記研削装置における研削条件を調整する研削条件調整部と、を備える、研削加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面粗さ推定システムおよび加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研削装置における工作物の研削品質を向上するために、加工後の工作物の表面粗さが所定値範囲内となるように研削条件を調整することが行われている。例えば、特許文献1に開示の構成では、研削部位に関する実測データと工作物における研削品質(例えば、加工部位の表面粗さ)との関係を機械学習させて作成した学習済みモデルを使用して研削品質を推定することで、研削品質の向上に利用する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の構成では、工作物が複数の加工部位を有する場合、学習済みモデルを用いてすべての加工部位の表面粗さを推定するには計算負荷が高くなり、推定結果が得られるまでに時間がかかる。そして、工作物の研削加工を順次行う際には、次の工作物の研削加工を開始するまでに推定結果が得られず、当該推定結果を次の工作物の研削加工に反映できないことがあり、推定結果に基づいて研削品質の向上を図るには改善の余地がある。また、当該推定結果を次の工作物の加工に反映させるために、次の加工を待つことも考えられるが、この場合は、工作物のサイクルタイムが長くなるため、好ましくない。以上から、加工部位の表面粗さの推定の計算負荷を低減して早期に推定結果を取得できることが望まれる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、工作物を研削加工する研削装置において、加工部位の表面粗さの推定の計算負荷を低減して早期に推定結果を取得できる表面粗さ推定システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、工作物における複数の加工部位を砥石により研削加工する際に、上記複数の加工部位のうち研削加工時に付与される加工力による上記工作物の撓み量が相対的に小さい高剛性部位の研削加工を、上記撓み量が相対的に大きい低剛性部位の研削加工よりも優先して行う研削装置において、上記複数の加工部位における表面粗さを推定する表面粗さ推定システムであって、
上記高剛性部位を研削加工したときの上記研削装置における機械状態データを取得する機械状態データ取得部と、
取得された上記機械状態データから特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
上記高剛性部位の表面粗さを推定するための高剛性部位学習済みモデルと、上記低剛性部位の表面粗さを推定するための低剛性部位学習済みモデルとが記憶された学習済みモデル記憶部と、
上記特徴量抽出部により抽出された上記高剛性部位における上記特徴量を、上記高剛性部位学習済みモデルに入力して、上記高剛性部位の表面粗さを推定する高剛性部位表面粗さ推定部と、
上記特徴量抽出部により抽出された上記高剛性部位における上記特徴量を、上記低剛性部位学習済みモデルに入力して、上記低剛性部位の表面粗さを推定する低剛性部位表面粗さ推定部と、
を備え、
上記高剛性部位学習済みモデルは、上記高剛性部位を研削加工したときに上記研削装置から取得された機械状態データから抽出した特徴量を説明変数とし、研削加工後に取得された上記高剛性部位の表面粗さデータを目的変数とした機械学習により作成されており、
上記低剛性部位学習済みモデルは、上記高剛性部位を研削加工したときに上記研削装置から取得された機械状態データから抽出した特徴量を説明変数とし、研削加工後に取得された上記低剛性部位の表面粗さデータを目的変数とした機械学習により作成されている、表面粗さ推定システムにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、上記研削装置では、工作物の複数の加工部位のうち高剛性部位の研削加工を、低剛性部位の研削加工よりも優先して行う。そのため、高剛性部位の研削加工時の機械状態データは、低剛性部位の研削加工を行う前に取得することができる。そして、低剛性部位の表面粗さを推定するための低剛性部位学習済みモデルは、説明変数として高剛性部位を研削加工したときの機械状態データに基づく特徴量を入力することにより、目的変数である低剛性部位の表面粗さの推定結果を得ることができる。従って、低剛性部位の研削加工時の機械状態データを取得することなく、低剛性部位の表面粗さを推定できる。これにより、低剛性部位の研削加工時の機械状態データの演算処理が不要となるため、計算負荷を大幅に低減でき、早期に推定結果を取得できる。
【0008】
そして、低剛性部位の研削加工の実行中に、既に取得された高剛性部位の研削加工時の機械状態データを、高剛性部位学習済みモデル及び低剛性部位学習済みモデルに入力することにより、高剛性部位及び低剛性部位の加工後の表面粗さの推定を行うこととすれば、工作物の加工を順次行う場合であっても、次回の工作物の加工開始までに今回の工作物における高剛性部位及び低剛性部位の両方における表面粗さの推定結果を得ることができ、今回の加工工程の完了を待つことなく、今回の推定結果を次回の工作物の加工に反映させることができる。その結果、研削加工の品質向上に寄与できる。
【0009】
ここで、研削加工時における工作物の加工部位の剛性は、その工作物上の位置、工作物の形状、工作物の支持態様などに起因して加工部位ごとに異なる。そして、剛性の低い部位では、研削加工が開始して加工力が高まるにつれて工作物が砥石の押し付け方向に撓んで砥石から逃げるように変形するが、研削加工の加工力が低くなったり研削加工を終了するときには、当該撓みが元に戻ろうとして砥石の押し付け方向に逆らって砥石に押し付けられるため、意図しない研削加工が生じたりする流れ込み現象が発生する場合がある。そして、剛性の低い部位では当該流れ込み現象により加工態様が複雑となるため、研削加工時の機械状態データに基づいて表面粗さを高精度に推定することが難しい。一方、剛性の高い部位では、剛性の低い部位比べて流れ込みが生じにくいため、研削加工時の機械状態データに基づいて表面粗さを高精度に推定しやすい。
【0010】
かかる観点から、上記本発明の一態様では、そして、低剛性部位の表面粗さを推定するための学習済みモデルとして、高剛性部位の研削加工時の機械状態データに基づく特徴量を説明変数とする学習済みモデルを用いることにより、低剛性部位の研削加工時の機械状態データは使用しないようにすることで、推定精度の維持と計算負荷の低減との両立が図られている。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、工作物を研削加工する研削装置において、加工部位の表面粗さの推定の計算負荷を低減して早期に推定結果を取得できる表面粗さ推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1の加工システムの構成を示す概念図。
【
図2】実施形態1の工作物が加工装置の支持された状態を示す一部拡大平面図。
【
図3】
図2において、工作物が変形した状態を示す一部拡大平面図。
【
図4】実施形態1の表面粗さ推定システムの構成を示すブロック図。
【
図6】実施形態1の学習済みモデルの作成工程を示すフロー図。
【
図7】実施形態1の学習済みモデルの作成工程の概念図。
【
図8】実施形態1の表面粗さの推定と条件調整のフロー図。
【
図9】実施形態1の表面粗さの推定精度の検証結果を表す図。
【
図10】変形形態1の学習済みモデルの作成工程の概念図。
【
図11】実施形態1の表面粗さの推定精度の検証結果を表す図。
【
図12】変形形態2の加工システムの構成を示す概念図。
【
図13】変形形態2の学習済みモデルの作成工程の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
1.加工システム1の構成
実施形態1における加工システム1の構成について
図1を参照して説明する。加工システム1は、研削加工を行う研削装置を対象とする。加工システム1は、研削装置としての研削盤2と、処理部3とを備える。
【0014】
処理部3は、研削盤2を制御する制御装置3a、および、工作物Wの加工部位W1~9の表面粗さを推定する表面粗さ推定システム3bを備える。制御装置3aは、研削盤2を制御することにより、研削加工を制御することができる。表面粗さ推定システム3bは、研削加工を行う際の研削盤2における機械状態データを入力してシミュレーションを行うことにより、研削加工後の加工部位W1~9の表面粗さを推定する処理を行う。
【0015】
表面粗さ推定システム3bは、研削盤2とは独立したシミュレーション装置として機能させることもできるし、研削盤2と連動して動作するシミュレーション装置として機能させることもできる。前者の場合には、例えば、実際の工作物Wの研削加工を行うことなく、最適な研削加工条件を決定することができる。後者の場合には、表面粗さ推定システム3bは、研削盤2による工作物Wの研削加工と並行して処理することにより、例えば、研削加工条件を補正したり、各種制御に影響を及ぼすように動作したりすることができる。また、表面粗さ推定システム3bは、研削盤2および制御装置3aの組込みシステムとすることもできる。
【0016】
2.研削装置(研削盤)2
研削装置2について、
図1を参照して説明する。本形態においては、研削装置2として研削盤を例に説明する。研削盤2は、中心線Cを中心にして、加工対象である工作物Wを回転させ、回転体である工具(砥石)としての砥石車16を回転させ、かつ、砥石車16を工作物Wに対して工作物Wの軸線に交差する方向に相対的に接近させることにより、工作物Wの外周面または内周面を研削する。研削盤2は、テーブルトラバース型の研削盤、砥石台トラバース型の研削盤などを適用可能である。また、研削盤2は、円筒研削盤、カム研削盤等を適用可能である。
【0017】
本形態においては、工作物Wは、例えば、軸状に形成された部材とし、工作物Wの外周面が加工部位である場合を例にあげる。ただし、工作物Wの形状は、軸状に限られず、内周面を有する筒状など、任意の形状とすることができる。工作物Wが筒状である場合は工作物Wの内周面を加工部位とすることができる。
【0018】
本形態においては、研削盤2は、砥石台トラバース型のカム研削盤を例にあげる。ただし、研削盤2は、テーブルトラバース型を適用することもできる。研削盤2は、主として、ベッド11、主軸台12、心押台13、トラバースベース14、砥石台15、砥石車16、定寸装置17、砥石車修正装置18及びクーラント装置19を備える。
【0019】
ベッド11は、設置面上に固定されている。主軸台12は、ベッド11の上面において、X軸方向の手前側(
図1の下側)且つZ軸方向の一端側(
図1の左側)に設けられている。主軸台12は、工作物Wを、中心線Cを中心としてZ軸回りに回転可能に支持する。工作物Wは、主軸台12に設けられたモータ12aの駆動により回転される。心押台13は、ベッド11の上面において、主軸台12に対してZ軸方向に対向する位置、すなわち、X軸方向の手前側(
図1の下側)且つZ軸方向の他端側(
図1の右側)に設けられている。つまり、主軸台12および心押台13が、工作物Wを回転可能に両端支持する。なお、心押台13には、検出部20として心押台13の振動を検出する振動センサ21が取り付けられている。振動センサ21は加速度センサにより構成できる。
【0020】
図1に示すように、トラバースベース14は、ベッド11の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。トラバースベース14は、ベッド11に設けられたモータ14aの駆動により移動する。砥石台15は、トラバースベース14の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。砥石台15は、トラバースベース14に設けられたモータ15aの駆動により移動する。砥石車16は、砥石台15に回転可能に支持されている。砥石車16は、砥石台15に設けられたモータ16aの駆動により回転する。砥石車16は、複数の砥粒をボンド材により固定されて構成されている。検出部20として、モータ16aの駆動の動力データを検出するセンサ22が設けられている。
【0021】
定寸装置17は、ベッド11の上面に設けられ、工作物Wの寸法(径)を測定する。定寸装置17は、例えば、工作物Wの外周面に接触可能な一対の接触子を備えており、工作物Wへの接触部位における外径寸法を計測する。
【0022】
砥石車修正装置18は、砥石車16の形状を修正する。砥石車修正装置18は、砥石車16のツルーイングを行う装置である。砥石車修正装置18は、ツルーイングに加えて、または、ツルーイングに代えて、砥石車16のドレッシングを行う装置としてもよい。さらに、砥石車修正装置18は、砥石車16の寸法(径)を測定する機能も有する。
【0023】
ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削によって砥石車16が摩耗した場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車16を成形する作業、片摩耗によって砥石車16の振れを取り除く作業等である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切れ刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であって、通常ツルーイング後に行われる。
【0024】
クーラント装置19は、クーラントノズルから砥石車16による工作物Wの研削点にクーラントを供給する。クーラント装置19は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。クーラント装置19は、クーラントの流量や供給タイミングの調整が可能となっている。なお、
図1において、符号19はクーラントノズルの位置を図示する。
【0025】
3.工作物W
工作物Wの例について
図2を参照して説明する。
図2に示すように、工作物Wは、Z軸方向に長軸な円柱状をなす軸部30と、軸部30に配置された複数(本形態では9つ)の円板部31~39と、を備える。複数の円板部31~39は、
図2において、軸部30の第1端部30aから反対側の第2端部30bに向かって配列しており、第1端部30a側から順に、第1円板部31、第2円板部32、第3円板部33、第4円板部34、第5円板部35、第6円板部36、第7円板部37、第8円板部38、第9円板部39とする。複数の円板部31~39は同一形状を有しており、軸部30の中心線Cと同軸上に配置されている。
【0026】
複数の円板部31~39において、砥石車16と接触して砥石車16によって研削される部分(外周面)が加工部位となる。
図2においては、第5円板部35の外周面に砥石車16が接触している状態が記載されている。ただし、加工部位の数は限定されず、1つの工作物Wが3個以上の加工部位を備えていればよい。
【0027】
次に、工作物Wにおける複数の円板部31~39のうちの1つの外周面が砥石車16によって研削される場合について
図3を参照して説明する。
図3においては、第5円板部35が研削される場合を図示する。
図3において破線で示すように、工作物Wの第5円板部35は、砥石車16にX軸方向から所定加工力Fで押圧されることにより、X軸方向についてδxだけ撓み変形する。ただし、
図3においては、撓み変形量を強調して記載している。
【0028】
工作物Wは、工作物Wの軸方向において、主軸台12と心押台13とに挟持されており、第1端部30aとその反対側の第2端部30bとが工作物Wの支持位置となる。そのため、工作物Wのうち、支持位置である第1端部30aに近い位置に位置する第1円板部31及び第2円板部32は撓み変形しにくい。同様に支持位置である第2端部30bに近い位置に位置する第8円板部38及び第9円板部39も撓み変形しにくい。一方、第1端部30a及び第2端部30bから遠い位置、すなわち、軸部30の中央寄りの位置に位置する第3~第7円板部33~37は、撓み変形しやすい。換言すると、第1円板部31、第2円板部32、第8円板部38及び第9円板部39の剛性値は、第3~第7円板部33~37の剛性値よりも大きい。剛性値は、対象の円板部を所定加工力Fで押圧した場合に、対象の円板部の撓み量δxである場合において、加工力Fを変形量δxで除した商をいう。つまり、剛性値が大きいほど撓み量δxが小さくなり、剛性値が小さいほど撓み量δxが大きくなる。
【0029】
第1~第9円板部31~39の剛性値は、工作物Wの材質および形状等の影響を受ける。また、第1~第9円板部31~39の剛性値は、工作物Wにおける支持位置の影響を受ける。
図3に示すように、第1円板部31及び第2円板部32は、工作物Wの第1端部30a寄りに位置しており、工作物Wを支持する主軸台12に近いため相対的に剛性値が大きくなる。同様に、第8円板部38及び第9円板部39は、工作物Wの第2端部30b寄りに位置しており、工作物Wを支持する心押台13に近いため相対的に剛性値が大きくなる。一方、第3~第7円板部33~37は、工作物Wの中央寄りに位置しており、主軸台12および心押台13から遠いため、第1円板部31、第2円板部32、第8円板部38及び第9円板部39よりも剛性値が小さくなる。
【0030】
したがって、本実施形態では、第1~第9円板部31~39の剛性値は、例えば、
図5のように例示でき、加工部位としての第1~第9円板部31~39のうち、第1円板部31、第2円板部32、第8円板部38及び第9円板部39は高剛性部位とし、第3~第7円板部33~37は低剛性部位とすることができる。なお、
図5に示すように、第1円板部31に比べて第2円板部32の剛性値が低いことから第2円板部32を低剛性部位に含むこととしてもよい。同様に、第9円板部39に比べて第8円板部38の剛性値が低いことから第8円板部38も低剛性部位に含むこととしてもよい。
【0031】
さらに、第1~第9円板部31~39の剛性値は、工作物Wを支持する構造(センタ、チャックなど)の影響を受ける。さらに、第1~第9円板部31~39の剛性値は、研削盤2の剛性の影響を受ける。研削盤2の剛性としては、主軸台12の剛性、心押台13の剛性、砥石車16の剛性、ベッド11等の剛性の影響を受ける。また、工作物Wに対してレスト(図示せず)を接触させる場合には、レストの剛性の影響も受ける。
【0032】
なお、高剛性部位(第1円板部31、第2円板部32、第8円板部38及び第9円板部39)と、低剛性部位(第3~第7円板部33~37)と、工作物Wの支持位置30a、30bとの位置関係は、高剛性部位(第1円板部31、第2円板部32、第8円板部38及び第9円板部39)は、低剛性部位(第3~第7円板部33~37)に比べて、工作物Wの支持位置に近い位置にあるものとなっている。
【0033】
より詳細には、
図2に示すように、例えば、高剛性部位である第1円板部31と第1円板部31に最も近い支持位置である第1端部30aとの距離Laは、低剛性部位である第3円板部33と第3円板部33に最も近い支持位置である第1端部30aとの距離Lbよりも短くなっている。また、同様に、高剛性部位である第9円板部39と第9円板部39に最も近い支持位置である第2端部30bとの距離Lcは、低剛性部位である第7円板部37と第7円板部37に最も近い支持位置である第2端部30bとの距離Ldよりも短くなっている。このような位置関係は、すべての高剛性部位(第1円板部31、第2円板部32、第8円板部38及び第9円板部39)とすべての低剛性部位(第3~第7円板部33~37)との間で成立する。
【0034】
4.制御装置3aの構成
制御装置3aは、加工制御を実行するCNC(Computer Numerical Control)装置およびPLC(Programmable Logic Controller)装置である。つまり、制御装置3aは、研削加工プログラムおよび定寸装置17による計測結果に基づいて、移動装置としてのベッド11に設けられたモータ14a及びトラバースベース14に設けられたモータ15aを駆動して、トラバースベース14の位置制御を行う。つまり、制御装置3aは、トラバースベース14の位置制御を行うことで、工作物Wと砥石車16とを相対的に接近および離間させる。さらに、制御装置3aは、主軸台12に設けられたモータ12a及び砥石台15に設けられたモータ16aを駆動して、工作物Wの回転制御および砥石車16の回転制御を行う。
【0035】
制御装置3aは予め設定された加工条件に基づいた加工工程を実施して工作物Wの研削加工を行う。工作物Wの加工工程は、荒加工工程と仕上げ加工工程とを含むことができる。荒加工工程は、相対的に研削盤2の砥石車16による研削能率が高く設定された工程であり、仕上げ加工工程は荒加工工程よりも研削能率が低く設定された工程である。荒加工工程の実施後に仕上げ加工工程を実施する。なお、仕上げ加工工程は、研削能率の異なる複数の工程を含んでいてもよく、また、研削加工により工作物Wに生じた撓みを開放するために実質的に研削能率がゼロであるスパークアウト工程を含んでいてもよい。
【0036】
本実施形態では、工作物Wにおける高剛性部位31、32、38、39の加工工程(荒加工工程及び仕上げ加工工程)の実施後に、低剛性部位33~37の加工工程を実施する。高剛性部位31、32、38、39における加工順は限定されないが、工作物Wの第1端部30aに近い側から順に、高剛性部位31、高剛性部位32、高剛性部位38、高剛性部位39の順に行うことができる。また、低剛性部位33~37における加工順も限定されないが、工作物Wの第1端部30aに近い側から順に行うことができる。
【0037】
5.表面粗さ推定システム3bの構成
表面粗さ推定システム3bの構成について
図4を参照して説明する。表面粗さ推定システム3bは、所定のプログラムを実施可能な図示しない演算装置と記憶装置とにより構成される。表面粗さ推定システム3bは、学習処理装置4と推定処理装置5を備える。
【0038】
6.学習処理装置4の構成
学習処理装置4は、高剛性部位学習済みモデル441及び低剛性部位学習済みモデル442を作成する。学習処理装置4は、訓練データ取得部41、表面粗さ取得部42、特徴量抽出部43、モデル作成部44を備える。本実施形態では、訓練データ取得部41は、加工部位である第1~第9円板部31~39の表面粗さが判明している複数の学習用の工作物Wについて、訓練データとして研削盤2で加工部位を研削加工したときの機械状態データを取得する。機械状態データは、砥石を回転駆動させるモータ16aの動力データである砥石軸動力データ、工作物を支持する支持装置の振動データ、AEセンサやマイクロフォンで取得した研削盤2における音データ、熱流センサで取得した工作物Wの熱データなどを例示できる。本実施形態では、訓練データ取得部41は、機械状態データとして砥石軸動力データを取得する。
【0039】
訓練データ取得部41は、工作物Wの加工部位のうち高剛性部位の訓練データのみを取得する。本実施形態では、
図7(b)に示す連続データであるセンサ出力から、
図7(c)に示すように、高剛性部位である第1円板部31、第2円板部32、第8円板部38及び第9円板部39に対応する動力データを切り出して取得する。これを複数の学習用の工作物Wにおいて繰り返し行い、高剛性部位ごとに対応する動力データを蓄積する。
【0040】
表面粗さ取得部42は、高剛性部位及び低剛性部位を含む全ての加工部位の表面粗さを取得する。当該表面粗さは実測値であってもよいし、実測値に替えて加工部位の加工前後の画像を取得し画像処理により算出した値であってもよいし、定寸装置17の検出データに基づいて算出した表面粗さの値であってもよい。また、その他の手法で取得した予測値を訓練データとして用いてもよい。なお、訓練データとして予測値を用いる場合は、学習済みモデルの信頼を担保するために十分に信頼性の高い予測値であることが好ましい。
【0041】
特徴量抽出部43は訓練データ取得部41で取得した訓練データと表面粗さ取得部42で取得した表面粗さとから特徴量を抽出する。説明変数としての特徴量は、砥石軸動力データの最大値や標準偏差、振動データの砥石回転周波数のN倍の振幅とすることができ、目的変数としての特徴量は表面粗さとする。
【0042】
モデル作成部44は、特徴量抽出部43により抽出された特徴量に基づいて機械学習をし、学習済みモデルを作製する。学習済みモデルは、加工部位ごとに作成する。すなわち、
図7(a)~(e)に示すように、第1~第9学習済みモデルM1~M9が作成される。第1~第9学習済みモデルM1~M9の作成については後に詳述する。作成された第1~第9学習済みモデルM1~M9は、後述する学習済みモデル記憶部53に記憶される。
【0043】
6.学習済みモデルの作成
学習済みモデルの作成について、
図6を用いて説明する。まず、
図6に示すステップS1において、モデル作成用の工作物Wを開始し、訓練データ取得部41により高剛性部位31、32、38、39における機械状態データを取得する。本実施形態では、
図7(a)~(c)に示すように、工作物Wの高剛性部位31、32、38、39の砥石軸動力データを取得する。そして、
図6に示すステップS2において、表面粗さ取得部42により、加工終了後の工作物Wのすべての加工部位31~39の表面粗さを取得する。
【0044】
その後、ステップS3において、特徴量抽出部43により、訓練データ取得部41により特徴量を抽出する(
図7(d)参照)。本実施形態では、荒加工における砥石軸動力データの最大値とする。
【0045】
そして、
図6に示すステップS4において、モデル作成部44により、
図7(e)に示す高剛性部位学習済みモデル441と低剛性部位学習済みモデル442を機械学習により作成する。高剛性部位学習済みモデル441は、加工部位のうち高剛性部位31、32、38、39における学習済みモデルM1、M2、M8、M9を含む。第1円板部31における第1学習済みモデルM1は、第1円板部31における動力データの特徴量を説明変数とし、第1円板部31の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。
【0046】
同様に、他の高剛性部位である第2円板部32における第2学習済みモデルM2は、第2円板部32における動力データの特徴量を説明変数とし、第2円板部32の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。また、高剛性部位である第8円板部38における第8学習済みモデルM8は、第8円板部38における動力データの特徴量を説明変数とし、第8円板部38の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。また、高剛性部位である第9円板部39における第9学習済みモデルM9は、第9円板部39における動力データの特徴量を説明変数とし、第9円板部39の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。
【0047】
次に、低剛性部位学習済みモデル442は、低剛性部位33、34、35、36、37における学習済みモデルM3、M4、M5、M6、M7を含む。
図7(e)に示すように、第3円板部33における第3学習済みモデルM3は、第2円板部32における動力データの特徴量を説明変数とし、第3円板部33の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。また、低剛性部位である第4円板部34における第4学習済みモデルM4は、第2円板部32における動力データの特徴量を説明変数とし、第4円板部34の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。すなわち、第2、第3及び第4学習済みモデルM2、M3、M4はいずれも第2円板部32における動力データの特徴量を共通の説明変数としている。
【0048】
一方、低剛性部位である第5円板部35における第5学習済みモデルM5は、第8円板部38における動力データの特徴量を説明変数とし、第5円板部35の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。また、低剛性部位である第6円板部36における第6学習済みモデルM6は、第8円板部38における動力データの特徴量を説明変数とし、第6円板部36の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。また、低剛性部位である第7円板部37における第7学習済みモデルM7は、第8円板部38における動力データの特徴量を説明変数とし、第7円板部37の表面粗さを目的変数とする学習モデルである。すなわち、第5、第6、第7及び第8学習済みモデルM5、M6、M7、M8はいずれも第8円板部38における動力データの特徴量を共通の説明変数としている。
【0049】
そして、
図6に示すステップS5において、高剛性部位学習済みモデル441と低剛性部位学習済みモデル442を、
図4に示す後述する学習済みモデル記憶部53に格納する。
【0050】
7.推定処理装置5の構成
推定処理装置5は、
図4に示すように、機械状態データ取得部51、特徴量抽出部52、学習済みモデル記憶部53、高剛性部位表面粗さ推定部54、低剛性部位表面粗さ推定部55、推定結果表示部56、研削条件調整部57を備える。
【0051】
機械状態データ取得部51は、工作物Wの加工部位のうち高剛性部位31、32、38、39の機械状態データを取得する。機械状態データは、上述の訓練データ取得部41の取得する機械状態データと同一である。
【0052】
特徴量抽出部52は、機械状態データ取得部51により取得された機械状態データから特徴量を抽出する。特徴量抽出部52により抽出する特徴量は、学習処理装置4において、機械状態データから抽出した特徴量と同種のものとする。学習済みモデル記憶部53は、上述の高剛性部位学習済みモデル441と低剛性部位学習済みモデル442を記憶する。
【0053】
高剛性部位表面粗さ推定部54は、後に詳述するように、特徴量抽出部52により抽出された高剛性部位31、32、38、39における特徴量を説明変数として、高剛性部位学習済みモデル441(M1、M2、M8、M9)を用いて目的変数としての高剛性部位31、32、38、39の表面粗さを推定する。
【0054】
低剛性部位表面粗さ推定部55は、後に詳述するように、特徴量抽出部52により抽出された高剛性部位31、32、38、39における特徴量を説明変数として、低剛性部位学習済みモデル442(M3~M7)を用いて目的変数としての低剛性部位33~37の表面粗さを推定する。
【0055】
推定結果表示部56は、高剛性部位表面粗さ推定部54及び低剛性部位表面粗さ推定部55の推定結果を表示する。研削条件調整部57は、高剛性部位表面粗さ推定部54及び低剛性部位表面粗さ推定部55の推定結果に基づいて、次回以降の工作物Wの加工条件を調整する。
【0056】
8.表面粗さの推定
以下に、工作物Wの加工部位31~39における研削加工後の表面粗さの推定について、
図8を参照して説明する。まず、
図8に示すステップS11において、工作物Wの高剛性部位31、32、38、39の研削加工を行う。そして、ステップS12において、機械状態データ取得部51により、高剛性部位31、32、38、39の荒加工工程における機械状態データを取得する。本実施形態では、上述の通り、機械状態データは砥石軸動力データである。その後、ステップS13において、特徴量抽出部52により、特徴量として機械状態データ取得部51が取得した砥石軸動力データの最大値を抽出する。
【0057】
次いで、ステップS14において、特徴量抽出部52により抽出した特徴量を説明変数として高剛性部位学習済みモデル441(M1、M2、M8、M9)に入力して目的変数である高剛性部位31、32、38、39の表面粗さを推定する。より詳細には、第1円板部31の機械状態データに基づく特徴量を第1学習済みモデルM1に入力して、第1円板部31の表面粗さの推定結果を得る。また、同様に第2円板部32の機械状態データに基づく特徴量を第2学習済みモデルM2に入力して、第2円板部32の表面粗さの推定結果を得る。また、同様に第8円板部38の機械状態データに基づく特徴量を第8学習済みモデルM8に入力して、第8円板部38の表面粗さの推定結果を得る。また、同様に第9円板部39の機械状態データに基づく特徴量を第9学習済みモデルM9に入力して、第9円板部39の表面粗さの推定結果を得る。
【0058】
また、上記ステップS14と並行してステップS15において、特徴量抽出部52により抽出した特徴量を説明変数として低剛性部位学習済みモデル442(M3~M7)に入力して目的変数である低剛性部位33~37の表面粗さを推定する。より詳細には、第2円板部32の機械状態データに基づく特徴量を第3学習済みモデルM3に入力して、第3円板部33の表面粗さの推定結果を得る。また、同様に第2円板部32の機械状態データに基づく特徴量を第4学習済みモデルM4に入力して、第4円板部34の表面粗さの推定結果を得る。
【0059】
さらに、第8円板部38の機械状態データに基づく特徴量を第5学習済みモデルM5に入力して、第5円板部35の表面粗さの推定結果を得る。また、同様に第8円板部38の機械状態データに基づく特徴量を第6学習済みモデルM6に入力して、第6円板部36の表面粗さの推定結果を得る。また、同様に第8円板部38の機械状態データに基づく特徴量を第7学習済みモデルM7に入力して、第7円板部37の表面粗さの推定結果を得る。
【0060】
その後、ステップS16において、ステップS14及びステップS15で得られた第1~第9円板部31~39の表面粗さの推定結果を推定結果表示部56に出力して表示する。さらに、ステップS17において、研削条件調整部57により当該推定結果に基づいて研削条件の調整を行う。そして、当該表面粗さの推定及び研削条件の調整のフローを終了する。
【0061】
9.推定結果の検証
本実施形態1の表面粗さの推定結果と、表面粗さの実測値とを比較して推定精度の検証を行い、その結果を
図9に示した。なお、比較形態として、低剛性部位学習済みモデル442(M3~M7)についても、高剛性部位学習済みモデル441(M1、M2、M8、M9)と同様に、当該低剛性部位33~37の機械情報データから抽出したそれぞれの特徴量を用いて、それぞれの低剛性部位学習済みモデルM3~M7を作成して表面粗さの推定を行い、実測値と比較して推定精度を算出した。
【0062】
なお、当該検証において、実測値と推定結果の相関係数(0~1良い)を推定精度として評価する。なお、高剛性部位31、32、38、39については、実施形態1と比較形態とは同一の学習済みモデルに基づいた推定結果であるため、推定精度は同一となっている。
【0063】
図9に示すように、低剛性部位33、34において実施形態1の推定精度は比較形態に対して向上しており、低剛性部位35~37においても実施形態1の推定精度は比較形態と同等か若干向上していた。そのため、実施形態1の推定精度は、比較形態に比べて同程度以上であることが検証できた。
【0064】
10.実施形態1における作用効果
本実施形態1によれば、研削盤2では、工作物Wの複数の加工部位31~39のうち高剛性部位31、32、38、39の研削加工を、低剛性部位33~37の研削加工よりも優先して行う。そのため、高剛性部位31、32、38、39の研削加工時の機械状態データは、低剛性部位33~37の研削加工を行う前に取得することができる。そして、低剛性部位33~37の表面粗さを推定するための低剛性部位学習済みモデル442は、説明変数として高剛性部位31、32、38、39を研削加工したときの機械状態データに基づく特徴量を入力することにより、目的変数である低剛性部位33~37の表面粗さの推定結果を得ることができる。従って、低剛性部位33~37の研削加工時の機械状態データを取得することなく、低剛性部位33~37の表面粗さを推定できる。これにより、低剛性部位33~37の研削加工時の機械状態データの演算処理が不要となるため、計算負荷を大幅に低減でき、早期に推定結果を取得できる。
【0065】
そして、低剛性部位33~37の研削加工の実行中に、既に取得された高剛性部位31、32、38、39の研削加工時の機械状態データを、高剛性部位学習済みモデル441及び低剛性部位学習済みモデル442に入力することにより、高剛性部位31、32、38、39及び低剛性部位33~37の加工後の表面粗さの推定を行うことにより、工作物Wの加工を順次行う場合に、次回の工作物Wの加工開始までに今回の工作物Wにおける高剛性部位31、32、38、39及び低剛性部位33~37の両方における表面粗さの推定結果を得ることができ、今回の加工工程の完了を待つことなく、今回の推定結果を次回の工作物Wの加工に反映させることができる。その結果、研削加工の品質向上に寄与できる。
【0066】
さらに、加工部位31~39のうち、高剛性部位31、32、38、39は相対的に剛性が高いため、研削加工中に生じる撓みに起因する流れ込み現象が生じにくい。そのため、研削加工時の機械状態データに基づいて表面粗さを高精度に推定しやすい。そして、低剛性部位33~37の表面粗さを推定するための学習済みモデルM3~M7として、高剛性部位31、32、38、39の研削加工時の機械状態データに基づく特徴量を説明変数とする学習済みモデルを用いることにより、低剛性部位33~37の研削加工時の機械状態データは使用しないようにすることで、推定精度の維持と計算負荷の低減との両立が図られている。
【0067】
また、本実施形態1では、工作物Wは、1つ又は複数の支持位置で支持されており、高剛性部位31、32、38、39とこれに最も近い支持位置30a、30bとの距離は、低剛性部位33~37とこれに最も近い支持位置30a、30bとの距離よりも短い。これにより、すべての高剛性部位31、32、38、39が、すべての低剛性部位33~37よりも少なくとも一つの支持位置30a、30bに近い位置あり、高剛性部位31、32、38、39は低剛性部位33~37よりも剛性が高いこととなる。
【0068】
また、本実施形態1では、工作物Wは円柱状又は円筒状をなしており、工作物Wの支持位置は、工作物Wにおける第1端部30aと、第1端部30aと反対側に位置する第2端部30bとを含んでいる。そして、複数の加工部位31~39は、第1端部30aから第2端部30bに向かう方向に配列しており、複数の加工部位31~39のうち、配列方向において、少なくとも両端に位置する第1加工部位31及び第9加工部位39は高剛性部位に含まれる。当該第1加工部位31及び第9加工部位39は、工作物Wの支持位置30a、30bに十分近いため、複数の加工部位31~39の中で相対的に高い剛性を有することとなる。
【0069】
また、本実施形態1では、機械状態データは、研削盤2における砥石車16を回転駆動させる駆動装置の動力データであり、特徴量は、当該動力データの最大値を含む。動力データの最大値は加工状態と密接に関係しており、表面粗さへの影響が大きいため、これを特徴量として抽出することで、表面粗さの推定精度の向上を図ることができる。
【0070】
また、本実施形態1では、工作物Wを研削加工する加工工程は、相対的に研削能率が高い荒加工工程と相対的に研削能率が低い仕上げ加工工程とを含む。そして、機械状態データ取得部51は、荒加工工程における機械状態データを取得する。加工部位31~39の表面粗さは研削能率の高い荒加工工程での研削加工の影響が受けやすいため、荒加工工程における機械状態データを用いることにより、表面粗さの推定精度の向上を図ることができる。
【0071】
また、本実施形態1では、工作物Wは、カムシャフトであるが、クランクシャフトとしてもよい。いずれの場合も本実施形態1の表面粗さ推定システム3bにより加工部位31~39の表面粗さを高精度に推定できる。
【0072】
また、本実施形態1の加工システム1は、表面粗さ推定システム3b及び研削盤2と、高剛性部位表面粗さ推定部54の推定結果と低剛性部位表面粗さ推定部55の推定結果とに基づいて、研削盤2における研削条件を調整する研削条件調整部57とを備える。これにより、加工部位31~39の表面粗さが良好となるように、研削盤2における研削条件を調整することができる。
【0073】
なお、本実施形態1では、一方の支持位置30aに近い側から2つの円板部31、32と、他方の支持位置30bに近い側から2つの円板部38、39を高剛性部位とし、その他の円板部33~37を低剛性部位としたが、これに限定されず、演算負荷と表面粗さの推定精度とのバランスを考慮して高剛性部位及び低剛性部位を設定することができる。例えば、演算負荷をより低減したい場合は、一方の支持位置30aに最も近い円板部31と、他方の支持位置30bに最も近い円板部39を高剛性部位とし、その他の円板部32~38を低剛性部位としてもよい。
【0074】
(変形形態1)
なお、本実施形態1では、機械状態データとして砥石軸動力データを取得することとしたが、これに替えて、振動センサ21により取得した振動データを用いてもよい。この変形形態1の場合、学習済みモデルの作成において、
図10(a)に示すように、振動センサ21に近い支持位置である第2端部30bに最も近い加工部位である第9円板部39のみを高剛性部位とし、その他の加工部位を低剛性部位31~38としている。
【0075】
そして、
図10(b)~(e)に示すように、機械状態データである振動データから第9円板部39の研削加工に対応したデータを切り出し、特徴量を抽出し、
図10(e)に示すように、すべての加工部位において、説明変数を第9円板部39の研削加工時の機械状態データに基づく特徴量とし、目的変数を各加工部位31~39の表面粗さとした第1~第9学習済みモデルM1~M9を作成する。なお、当該変形形態では、特徴量は、振動データの砥石回転周波数の整数倍(5~100倍、好ましくは8~20倍)としている。そして、当該変形形態では、高剛性部位学習済みモデル441には第9学習済みモデルM9が含まれ、低剛性部位学習済みモデル442には第1~第8学習済みモデルM1~M8が含まれる。
【0076】
当該変形形態1での表面粗さの推定結果と、表面粗さの実測値とを比較して推定精度の検証を行い、その結果を
図11に示した。なお、比較形態は実施形態1の場合の検証と同様とし、推定精度も同様の方法で算出した。当該変形形態1においても比較形態の場合に比べて、同等の推定精度が得られることが検証できた。そして、当該変形形態1においても実施形態1の場合と同等の作用効果を奏する。
【0077】
(変形形態2)
本実施形態1の場合に替えて、
図12に示す変形形態2では、研削盤2がレスト装置6を備えている。レスト装置6は、工作物Wの中央位置にある第5円板部35における砥石車16と反対側部に接して工作物Wを滑り支持するように、研削盤2のベッド11に設けられている。レスト装置6は、工作物Wが加工の際に砥石車16から離れるように変形することを防止する。
【0078】
レスト装置6により工作物Wが支持されることで、工作物Wの両端30a、30bに加え、第5円板部35の位置も支持位置となる。そのため、
図13(a)に示すように第5円板部35は工作物Wにおいて高剛性部位となる。この変形形態2の場合、学習済みモデルの作成において、
図13(a)~(e)に示すように、第3学習済みモデルM3は、実施形態1の場合と同様に、第2加工部位32の機械状態データに基づく特徴量を説明変数とする学習モデルとし、第7学習済みモデルM7も、実施形態1の場合と同様に、第8加工部位38の機械状態データに基づく特徴量を説明変数とする学習モデルとする。
【0079】
一方、第5学習済みモデルM5は、実施形態1の場合に替えて、第5学習済みモデルM5を第5加工部位35の機械状態データに基づく特徴量を説明変数とする学習モデルとし、第4加工部位34及び第6加工部位36の学習済みモデルM4、M6も第5加工部位35の機械状態データに基づく特徴量を説明変数とする学習モデルとする。その他の構成は実施形態1の場合と同様である。
【0080】
そして、
図12に示すレスト装置6を備える変形形態2の場合であっても、実施形態1の場合と同等の作用効果を奏することができる。
【0081】
以上のごとく、上記実施態様1及び変形形態1、2によれば、工作物Wを研削加工する研削装置2において、加工部位31~39の表面粗さの推定の計算負荷を低減して早期に推定結果を取得できる表面粗さ推定システム3bを提供することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 加工システム
2 研削装置(研削盤)
3b 推定システム
6 レスト装置
16 砥石車
20 検出部
21 振動センサ
22 センサ
30a 第1端部(支持位置)
30b 第2端部(支持位置)
31、32、38、39 高剛性部位
33~37 低剛性部位
441 高剛性部位学習済みモデル
442 低剛性部位学習済みモデル
51 機械状態データ取得部
52 特徴量抽出部
53 モデル記憶部
54 高剛性部位表面粗さ推定部
55 低剛性部位表面粗さ推定部
57 研削条件調整部